(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108822
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材
(51)【国際特許分類】
A61L 27/24 20060101AFI20240805BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20240805BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20240805BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240805BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240805BHJP
【FI】
A61L27/24
A61L27/36 100
A61L27/04
A61L27/38 110
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013412
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】葛巻 徹
(72)【発明者】
【氏名】住吉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 豊
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA24
4B065CA46
4B065CA60
4C081AB18
4C081BA12
4C081BC01
4C081CD14
4C081CD34
4C081CG01
4C081DA03
(57)【要約】
【課題】腱や靱帯と類似した構造を有する腱様組織構造体を製造でき、大スケールでの製造が可能で、治療等に広く応用が可能な腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材を提供する。
【解決手段】幹細胞が積層された細胞積層体を準備し、前記細胞積層体に張力を印加し、前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層を形成させて、腱様組織構造体とする、腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材である。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞が積層された細胞積層体を準備し、
前記細胞積層体に張力を印加し、
前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層を形成させて、腱様組織構造体とする、腱様組織構造体の製造方法。
【請求項2】
前記幹細胞は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を用いる、請求項1に記載の腱様組織構造体の製造方法。
【請求項3】
前記張力の印加は、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位の前記保持した際の距離に対して2~40%/日の速度で離間させることにより行う、請求項1または2に記載の腱様組織構造体の製造方法。
【請求項4】
前記張力の印加は、前記細胞積層体に張力を印加する張力印加期間と、前記細胞積層体に張力を印加しない養生期間とを含む腱様組織形成期間において行い、
前記腱様組織形成期間は4~8週間である、請求項1または2に記載の腱様組織構造体の製造方法。
【請求項5】
前記細胞積層体は、筒状に形成し、
前記張力の印加は、前記細胞積層体の前記筒状の円周上の2以上の部位を保持した部材を前記筒状の径方向に離間させることにより行う、請求項1または2に記載の腱様組織構造体の製造方法。
【請求項6】
幹細胞が積層された細胞積層体と、
前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層と、
を備えた腱様組織構造体であって、
前記コラーゲン層は、前記細胞積層体に張力を印加して形成されたものである、腱様組織構造体。
【請求項7】
前記幹細胞は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞である、請求項6に記載の腱様組織構造体。
【請求項8】
前記張力の印加は、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位の前記保持した際の距離に対して2~40%/日の速度で離間させたものである、請求項6または7に記載の腱様組織構造体。
【請求項9】
前記張力の印加は、前記細胞積層体に張力を印加する張力印加期間と、前記細胞積層体に張力を印加しない養生期間とを含む腱様組織形成期間において行ったものであり、
前記腱様組織形成期間は4~8週間である、請求項6または7に記載の腱様組織構造体。
【請求項10】
前記細胞積層体は、筒状に形成され、
前記張力の印加は、前記細胞積層体の前記筒状の円周上の2以上の部位を保持した部材を前記筒状の径方向に離間させたものである、請求項6または7に記載の腱様組織構造体。
【請求項11】
細胞積層体に張力を印加するための腱様組織構造体の製造用部材であって、
前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位を互いに離間可能なように構成されてなる離間用部材と、を備える腱様組織構造体の製造用部材。
【請求項12】
前記細胞積層体は筒状に形成され、
前記離間用部材は、細胞積層体の前記筒状の円周内に設置可能で、
前記離間用部材は、前記筒状の径方向に互いに離間可能なように構成されてなる、請求項11に記載の腱様組織構造体の製造用部材。
【請求項13】
前記離間用部材は長尺状部材であり、前記長尺状部材の長尺方向が前記筒状の高さ方向となるよう設けられてなり、
前記離間用部材の少なくとも1つは、他の離間用部材と離間可能なように構成されてなる、請求項12に記載の腱様組織構造体の製造用部材。
【請求項14】
可撓性を有する筒状の保持用部材をさらに備え、
前記保持用部材は、前記保持用部材の筒状の内周側に前記離間用部材を備え、
前記保持用部材は、前記保持用部材の筒状の外周側に前記細胞積層体を保持可能に形成されてなる、請求項11または12に記載の腱様組織構造体の製造用部材。
【請求項15】
前記保持用部材は、金属を構成素材とし網目状に形成されてなる、請求項14に記載の腱様組織構造体の製造用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの腱や靭帯に類似した人工組織である腱様組織構造体およびその製造方法、製造用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腱は筋肉と骨をつなぐ結合組織であり、靭帯は骨と骨をつなぐ結合組織である。一般的に、腱が断裂等の損傷を受けた場合、多量のエネルギーを代謝する筋肉に栄養を供給するための血管が近傍にあるため、比較的再生しやすいが、靭帯が損傷を受けた場合は血管が近傍に無いため再生しにくい。また、肘・膝の関節液に満たされた部位においては断裂した靭帯は互いに接触することが困難であり自己修復は期待できない。
【0003】
腱や靭帯の損傷やそれを伴う傷病は、一般の人々の日常でも多く生じえるものであり、例えば、前十字靭帯損傷は日本では約2万人/年(平成20年度厚労省)、米国では約18万人/年(WernerBC,(2016))、変形性膝関節症は2000~3000万人(平成20年度厚労省)とされている。
特に、近年、プロスポーツ等で活躍しているスーパーアスリートらが肘や膝関節に係る過大な負荷によって靭帯を損傷し、移植による再建手術を余儀無くされるケースが増えている。
この場合、前述の靭帯の再生のしにくさから、術後の回復を含めリハビリにより競技復帰には通常一年程度の長期間を要する。その際、前述したように比較的再生しやすい正常な腱組織を、損傷した部位に自家移植する治療が考えられる。しかし、腱組織の自家移植は、患部以外の健常な部位への侵襲が大きくなる問題がある。また、その侵襲部位の回復および移植部位の生着には時間を要し、その予後を含めて回復具合がアスリートのパフォーマンスに大きな影響を与える問題がある。
【0004】
一方、腱・靭帯の他家移植は、臓器移植における他家移植とは異なり、移植された腱・靭帯を異物と認識し、抗原抗体反応によって強い炎症反応や生着不全を起こす可能性は低い。したがって、患者自身の腱生体組織をもとに培養した組織、または、他の生物由来の腱生体組織から、移植に用いることのできる人工腱・人工靭帯様の組織を作製することができれば、その恩恵は極めて大きなものとなる。
【0005】
筋肉組織、特に腱や靭帯の組織の生成や再生の機構を解析することで、損傷したこれらの組織の治療に役立ち、また、人工的にこれらの組織または類似した組織を製造するための知見が得られるとして、研究が進められている。
【0006】
本発明者らによる特許文献1では、動物(ヒトを除く)の生体内において、断裂した腱の、腱鞘を切開または切除していない端部をフィルムで挟むことによってフィルム上に展開されるテンドンゲルを所定の期間、生体内で保持して成熟させた後、そこに含まれる結合組織を除去してリガメントゲルとすること、または断裂した腱の端部の腱鞘を切開または切除し、内部のコラーゲン線維束をフィルムで挟むことによってフィルム上に展開されるリガメントゲルを所定の期間、生体内で保持して成熟させることを含む、リガメントゲルの産生方法、ならびに、動物の生体外において、リガメントゲルに張力をかけるステップを含むことを特徴とする、人工靭帯の作製方法を開示している。
【0007】
ここでテンドンゲルは、腱断片への上記フィルムモデル内に形成される、結合組織を比較的多く含むゲル状のコラーゲン線維前駆体組織で、腱由来であることからテンドンゲルと呼称する。テンドンゲルを生体外に摘出し、外部応力場を印加すると、人工的にコラーゲン線維が架橋配向した組織を形成する。また、生体内温存7日目のテンドンゲルでは、張力印加により即座にコラーゲン架橋配向組織が形成され、荷重の大きさに比例してコラーゲン線維束が太く成長する。
【0008】
靱帯は腱と同様のコラーゲン線維配向組織を成していることから、靱帯でも同様の現象が起こるか、断裂した側副靱帯の片端にフィルムモデルを形成して検証している。その結果、フィルム内に、結合組織をほとんど含まないゲル状コラーゲン線維前駆体組織(リガメントゲル)が形成されること、また、靱帯表面を覆っている滑膜を除去したフィルムモデルで形成されたリガメントゲルは、テンドンゲルと同様張力印加によってコラーゲン線維の架橋配向組織を形成できることが判明している。形成されたコラーゲン架橋配向組織は靱帯のそれと類似した組織を形成していたことから、生体由来組織リガメントゲルを用いた人工靱帯形成法としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、上述したテンドンゲル・リガメントゲルを用いて、生体への親和性、生着性が高く、かつ十分な強度を有する組織を製造することができる。上述したテンドンゲル・リガメントゲルを生体材料として実用的な人工腱・靱帯を形成するため、また治療用に安定して供給するには、これらゲル状組織の粗大化(スケールアップ)技術の開発が不可欠である。しかしながら、特許文献1の技術を含め、コラーゲン線維前駆体組織の形成は、腱や靱帯の断面積が影響すること、また生体内に埋め戻し温存可能なフィルムサイズに制約があるため、通常生成される組織は数ミリ角程度のサイズにとどまる。フィルムモデルを施した腱・靱帯組織を生体外で培養しテンドンゲル・リガメントゲルを粗大化するには、生体組織の適切な培養条件やゲル状組織形成のための成長因子の特定等、実用サイズのテンドンゲル・リガメントゲルの製造には課題が多い。
【0011】
本発明者らは、テンドンゲルおよびリガメントゲルの組成をもとに、腱・靱帯様組織をスケールアップしつつ培養する手法について検証した。すなわち、テンドンゲル、およびリガメントゲルはコラーゲン線維前駆体組織であり、これらはコラーゲン産生細胞によって形成されていると考えられる。コラーゲン産生細胞は細胞同士の間にコラーゲン線維を中心とする細胞外マトリクスを形成し構造体となることから、細胞集団の初期段階では、個々の細胞間にミクロスケールのコラーゲン線維前駆体組織が形成されていると考えられる。そこで、コラーゲン産生細胞塊(スフェロイド)を三次元的に積層した構造体を形成し、細胞の成熟過程で構造体に張力を印加しながら培養すれば増殖した細胞間に形成されるコラーゲン線維前駆体組織から、コラーゲン線維を一方向に架橋配向させた腱・靱帯様組織を形成できると着想した。
【0012】
しかしながら、細胞の種類や培養条件によっては、有効にコラーゲン線維を形成することができなかった。例えば、幼児皮膚線維芽細胞スフェロイドを用いて、1~2週間の牽引培養実験を行った場合、牽引を行わなくてもすでにコラーゲン線維が形成されており、ここにさらに牽引を加えても、コラーゲン線維を一方向に架橋配向させた組織は得られなかった。また、細胞の種類によっては、培養に長時間(8週間以上)を要する場合、細胞を積層させた構造体の物理的性質の弱さから取り扱いが困難であることもあった。
本発明者らは、これらの知見を踏まえて、細胞の選択、細胞の培養、張力の印加やその他の取り扱いを含めて、コラーゲン線維を一方向に架橋配向させた組織を含む腱・靱帯様組織を製造する方法について研究を進めていった。
【0013】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、腱や靱帯と類似した構造を有する腱様組織構造体を製造でき、大スケールでの製造が可能で、治療等に広く応用が可能な腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
本発明の態様1は、
幹細胞が積層された細胞積層体を準備し、
前記細胞積層体に張力を印加し、
前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層を形成させて、腱様組織構造体とする、腱様組織構造体の製造方法である。
【0015】
本実施形態の態様2は、前記第1の態様の腱様組織構造体の製造方法において、前記幹細胞は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を用いる。
【0016】
本実施形態の態様3は、前記第1または2の態様の腱様組織構造体の製造方法において、前記張力の印加は、張力の印加は、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位の前記保持した際の距離に対して2~40%/日の速度で離間させることにより行う。
【0017】
本実施形態の態様4は、前記第1から3のいずれか1の態様の腱様組織構造体の製造方法において、前記張力の印加は、前記細胞積層体に張力を印加する張力印加期間と、前記細胞積層体に張力を印加しない養生期間とを含む腱様組織形成期間において行い、前記腱様組織形成期間は4~8週間である。
【0018】
本実施形態の態様5は、前記第1から4のいずれか1の態様の腱様組織構造体の製造方法において、
前記細胞積層体は、筒状に形成し、
前記張力の印加は、前記細胞積層体の前記筒状の円周上の2以上の部位を保持した部材を前記筒状の径方向に離間させることにより行う。
【0019】
本実施形態の態様6は、
幹細胞が積層された細胞積層体と、
前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層と、
を備えた腱様組織構造体であって、
前記コラーゲン層は、前記細胞積層体に張力を印加して形成されたものである、腱様組織構造体である。
【0020】
本実施形態の態様7は、前記態様6の腱様組織構造体において、前記幹細胞は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞である。
【0021】
本実施形態の態様8は、前記態様6または7の腱様組織構造体において、前記張力の印加は、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位の前記保持した際の距離に対して2~40%/日の速度で離間させたものである。
【0022】
本実施形態の態様9は、前記態様6から8のいずれか1の腱様組織構造体において、前記張力の印加は、前記細胞積層体に張力を印加する張力印加期間と、前記細胞積層体に張力を印加しない養生期間とを含む腱様組織形成期間において行ったものであり、前記腱様組織形成期間は4~8週間である。
【0023】
本実施形態の態様10は、前記態様6から9のいずれか1の腱様組織構造体において、
前記細胞積層体は、筒状に形成され、
前記張力の印加は、前記細胞積層体の前記筒状の円周上の2以上の部位を保持した部材を前記筒状の径方向に離間させたものである。
【0024】
本実施形態の態様11は、
細胞積層体に張力を印加するための腱様組織構造体の製造用部材であって、
前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位を互いに離間可能なように構成されてなる離間用部材と、を備える。
【0025】
本実施形態の態様12は、前記態様11の腱様組織構造体の製造用部材において、
前記細胞積層体は筒状に形成され、
前記離間用部材は、細胞積層体の前記筒状の円周内に設置可能で、
前記離間用部材は、前記筒状の径方向に互いに離間可能なように構成されてなる。
【0026】
本実施形態の態様13は、前記態様12の腱様組織構造体の製造部材において、
前記離間用部材は長尺状部材であり、前記長尺状部材の長尺方向が前記筒状の高さ方向となるよう設けられてなり、
前記離間用部材の少なくとも1つは、他の離間用部材と離間可能なように構成されてなる。
【0027】
本実施形態の態様14は、前記態様11から12のいずれか1の腱様組織構造体の製造部材において、
可撓性を有する筒状の保持用部材をさらに備え、
前記保持用部材は、前記保持用部材の筒状の内周側に前記離間用部材を備え、
前記保持用部材は、前記保持用部材の筒状の外周側に前記細胞積層体を保持可能に形成されてなる。
【0028】
本実施形態の態様15は、前記態様11から14のいずれか1の腱様組織構造体の製造部材において、前記保持用部材は、金属を構成素材とし網目状に形成されてなる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、腱や靱帯と類似した構造を有する腱様組織構造体を製造でき、腱様組織構造体内のコラーゲン線維の含有量を製造条件によって調節でき、大スケールでの製造が可能で、治療等に広く応用が可能な腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本実施形態の腱様組織構造体の製造用部材の概略斜視図である。
【
図2】
図1の腱様組織構造体の製造用部材の概略側面図である。
【
図3】
図1の腱様組織構造体の製造用部材に細胞積層体を保持した状態を示す概略側面図である。
【
図4】
図3の腱様組織構造体の製造用部材において細胞積層体の培養を行う状態を示す概略図である。
【
図5】
図4の腱様組織構造体の製造用部材において細胞積層体の培養を継続した状態を示す概略側面図である。
【
図6】本実施形態により製造された腱様組織構造体を示す概略斜視図である。
【
図7】本実施例のヒト骨髄由来間葉系幹細胞の牽引培養前後のHE染色及びTEM画像の写真図である。
【
図8】本実施例のヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を円周面に沿って高さ方向に切断したHE染色およびSR染色の写真図である。
【
図9】本実施例のヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を平面に沿って径方向に切断したHE染色およびSR染色の写真図である。
【
図10】本実施例の張力を印加せず同条件で培養した腱様組織構造体を円周面に沿って高さ方向に切断したHE染色およびSR染色の写真図である。
【
図11】本実施例の張力を印加せず同条件で培養した腱様組織構造体を平面に沿って径方向に切断したHE染色およびSR染色の写真図である。
【
図13】本実施例の別の試験例のヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を円周面に沿って高さ方向に切断したHE染色およびSR染色の写真図である。
【
図14】本実施例の別の試験例のヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を平面に沿って径方向に切断したHE染色およびSR染色の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
(腱様組織構造体の製造方法)
本実施形態の腱様組織構造体の製造方法は、幹細胞が積層された細胞積層体を準備し、前記細胞積層体に張力を印加し、前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層を形成させて、腱様組織構造体とする。
【0033】
ここで、本実施形態の腱様組織構造体とは、生物の腱または靭帯に類似した生物組織を含む構造体である。具体的には、腱様組織構造体は細胞とコラーゲンを含む。
生物の腱または靭帯は、該腱または靭帯の端部に集合している腱細胞と、テンドンゲルまたはリガメントゲルからなっている。腱細胞はコラーゲン産生能を有し、テンドンゲルまたはリガメントゲルは腱細胞の産生するコラーゲンから構成されている。テンドンゲルは腱に含まれ、コラーゲン線維束に腱鞘その他の結合組織を含む。リガメントゲルは靭帯に含まれ、コラーゲン線維束に結合組織をほとんど含んでいない。リガメントゲルには、遊走性腱細胞が含まれている場合がある。
本実施形態の腱様組織構造体は、細胞およびコラーゲンを、前記した生物の腱または靭帯に似た態様で含有する構造体を広く含むものとする。
【0034】
本実施形態の腱様組織構造体は、細胞積層体とコラーゲン層とを含む。
細胞積層体は、細胞が積層された構造であり、本実施形態では該細胞は幹細胞である。幹細胞としては、分化能を持つ細胞から広く選択できるが、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞などを使用することができる。本実施形態では、特に間葉系幹細胞を用いることができる。間葉系幹細胞は、目的とする腱様組織構造体の性質や製造方法によって広く選択でき、また、様々な組織由来の間葉系幹細胞を使用することができる。由来とする組織としては、脂肪由来、皮膚由来などが挙げられ、性質が異なるが、本実施形態の製造に使用できるものであれば、適宜選択できる。
間葉系幹細胞を使用することで、成熟していない細胞を使用することでその後の操作によってコラーゲン層を形成することができる効果がある。ここで、すでに成熟した細胞、例えば線維芽細胞などを用いると、コラーゲン層の形成におけるコラーゲン線維の増加や配列を有効に行うことができない場合がある。
【0035】
間葉系幹細胞は、例えば、脂肪由来間葉系幹細胞であることが好ましい。脂肪由来間葉系幹細胞は、細胞積層体を構成した際に、該細胞積層体の弾力性が高いため、培養の過程、組織製造の過程、また使用の過程などで扱いやすい。
間葉系幹細胞は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞であることがさらに好ましい。ヒト脂肪由来間葉系幹細胞は、供給において有利であり、またヒトの腱や靭帯の損傷の処置に好適に使用することができる。
【0036】
コラーゲン層は、前記積層体に隣接し、架橋配向したコラーゲンを有する。ここで架橋配向しているとは、コラーゲンから構成される線維状構造すなわちコラーゲン線維がほぼ一方向に配列し、また、それらの線維が相互に架橋している構造も有することを指す。
【0037】
本実施形態の腱様組織構造体は、細胞積層体にコラーゲン層が隣接している。具体的には、細胞積層体の層状の表面にコラーゲン層が形成されている構造などを指す。
また、後述するように細胞積層体の層と、コラーゲンの層が交互に積層した構造が、2回以上繰り返された構造であることも好ましい。
【0038】
ついで、この腱様組織構造体の製造の各工程について説明する。
本実施形態の腱様組織構造体の製造方法は、まず、間葉系幹細胞が積層された細胞積層体を準備する。具体的には、間葉系幹細胞を培養することで細胞積層体とする。細胞積層体は、シート状、長尺状、環状、円筒状など適宜選択できる。本実施形態では、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を、特定の治具を用いて培養することで、環状(長さの短い筒状)に形成している。
【0039】
例えば、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞の細胞凝集塊(スフェロイド)を、針状体に仮固定しつつ培養することで、該細胞による環状または長い筒状の構造体を得ることができる。
このような培養の方法および治具については、例えば、特許4547125号、特許7126732号などに記載された技術を用いることができる。
本実施形態では、基板と、基板上に円周状に立設された針状体とを備える(針状体が円筒状となるよう基板上に配置された)、細胞凝集塊の培養治具(特に図示せず)を使用している。
この治具を用いて細胞を培養することにより、細胞が凝集してできた細胞凝集塊(スフェロイド)同士が融合することにより形成された、空洞を有する略円柱状の組織を形成することができる。
なお、細胞凝集塊同士が融合する構造を製造するためには、適宜他の方法を用いることができる。例えば、細胞を適切な距離に離間して配置し培養することで、シート状、長尺状、環状、円筒状などの形状の細胞積層体を製造することができる。
【0040】
培養のその他の条件、例えば培養液の組成や培養時間、温度、雰囲気等については、培養する細胞の種類や細胞積層体の構成によって、従来知られてものとから選択してよい。
【0041】
ついで、前記細胞積層体に張力を印加する。張力を印加するとは、細胞積層体に引張方向の力を加えることを指す。
張力を印加する手段としては、例えば前記細胞積層体に機械的な引張の力を加えることによってもよい。機械的な引張の力を加える手段としては、前記細胞積層体の2以上の部位を保持して引張の力を加える手段を用いてもよい。
【0042】
前記張力を印加する手段としては、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、該部位を離間させることにより、前記2以上の部位に引張の力を加えて行ってもよい。具体的には、例えばシート状の細胞積層体であれば、端部の2か所をチャック(掴む)し張力を加える(前記2か所を離間させる)ことで、細胞積層体に張力を加える方法をとることができる。また、円筒形などの細胞積層体の場合は、ピンなどで保持して張力を加える方法をとることができる。
【0043】
前記離間させる速度としては、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位の前記保持した際の距離に対して2~40%/日の速度で離間させることにより行うことが好ましい。
ここで、例えば細胞積層体を筒状に形成し、前記細胞積層体の前記筒状の円周上の2以上の部位を保持した部材を前記筒状の径方向に離間させる場合は、前記2以上の部位の前記保持した際の距離とは、筒状の直径である。この場合、筒状の直径に対して2~40%/日の速度となるよう、離間させることにより行うことができる。
また、離間させる速度は、前記2以上の部位の前記保持した際の距離に対して10~20%/日の速度で離間させることにより行うことがより好ましい。
【0044】
また、張力を加えはじめた当初は速度を低くし、次第に速度を上げることも好ましい。細胞積層体に張力を加えた直後よりも、張力を加え続けて培養された細胞やコラーゲン層が形成された後の方が、細胞積層体の構造が強くなり、より強い張力に耐えられるため、速度を上げることが可能となる。速度を上げることで、製造期間が早くなる利点がある。
【0045】
最終的に離間させる距離としては、前記2以上の部位の前記保持した際の距離に対して、120%~400%となるように離間させることが好ましい。より好ましくは、150~200%である。
【0046】
さらに具体的には、前記細胞積層体上の前記2以上の部位の距離が、張力を印加する前におよそ1.0~5.0mmであれば、0.1~1.0mm/日で離間させることにより行ってもよい。また、0.2~0.5mm/日で離間させることが好ましい。
この速度は細胞積層体の大きさ(前記2以上の部位の距離)、すなわち、細胞1つあたりにかかる張力によっても決まってくるが、前記範囲であれば、細胞に張力を印加した状態を維持したまま培養することができ、後述するコラーゲン層の形成を行うことができる。
【0047】
前記張力を印加する時間については、以下に述べる腱様組織形成期間において行うことが好ましい。
腱様組織形成期間は、前記細胞積層体に張力を印加する張力印加期間と、前記細胞積層体に張力を印加しない養生期間とを含む、腱様組織形成期間を含んでいる。
【0048】
すなわち、細胞積層体は、継続して大きな張力を与えると損傷するおそれや、細胞組織構造体の構造が弱くなるおそれがある。そのため、張力を印加してコラーゲン層を形成させて構造的に張力に強くする張力印加期間と、張力を加えない養生期間を置くことが好ましい。
【0049】
腱様組織形成期間のうち、張力印加期間と養生期間のそれぞれの期間と回数は、適宜選択することができる。例えば、張力を印加する際は、連続的に行ってもよく(張力印加期間を長くしてもよく)また断続的に行っても(養生期間を挟んでも)良い。
腱様組織形成期間は、好ましくは28~56日(4~8週間)、より好ましくは28~42日(4~6週間)である。
腱様組織形成期間を前記した下限時間よりも長くすることで、細胞の活動の速度の点から、コラーゲン線維の生成が充分に行われ、またコラーゲン線維の架橋配向が強くなり、腱や靭帯組織に近い腱様組織構造体が得られる。一方で、張力を印加する時間、および培養するトータルの時間を前記した上限時間よりも短くすることで、コンタミの発生のおそれが小さく、製造期間が短くなりコスト等の面より有利となる。
【0050】
張力印加期間と養生期間のそれぞれの期間と回数は、適宜選択することができる。例えば、張力印加期間と養生期間を数日ごと、それぞれ交互に行うことができる。
より具体的な例として、例として、1週間のうち最初の1~4日、好ましくは3~4日間を張力を印加する張力印加期間とし、残りを養生期間とする1週間のサイクルを設定し、この操作を4~6サイクル(4~6週間)程度続けて行ってもよい。
また、この1週間のサイクル内の張力印加期間、養生期間はそれぞれ連続的でも、断続的に配置してもよい。
【0051】
養生中には細胞積層体が緩和されて荷重が低下するので、養生と張力を加える操作を数日ずつ交互に行う。例えば、細胞積層体にかかる荷重を測定しつつ行い、まず数日間張力を加え、ついで数日間の養生を行い、張力を加えた際の荷重が養生期間中に荷重が低下した後は、ふたたび張力を加えた際の荷重に戻るまで張力を加え続ける作業を、4~6週間(28~42日間)になるまで行ってもよい。
目安として、前記細胞積層構上の前記2以上の部位の距離が、張力を印加する前におよそ1.0~2.0mmである場合、1mm/分の牽引速度で3mm以上連続して離間(変位)を継続すると細胞が部分破断するおそれが大きくなるので、これ未満の牽引速度、または連続して離間させる距離はこれ未満であることが好ましい。
【0052】
細胞積層体に張力を印加する際には、細胞を培養し細胞積層体を得た際の部材においてそのまま行ってもよい。
また、細胞積層体を、張力を印加するための腱様組織構造体の製造用部材に移し替え、保持させた上で行ってもよい。腱様組織構造体の製造用部材の構成については後述する。
【0053】
細胞積層体を腱様組織構造体の製造用部材に保持させる際には、細胞積層体が隙間を有するように配置することが好ましい。隙間を有するとは、例えば、長尺状の複数の細胞積層体が離間して隣接している構造を指す。また、一の細胞積層体がその構造を貫通する隙間を1以上有している状態を指す。隙間を有しているとは、任意の形状の窓、孔、スリット等を有している構造や、一の細胞積層体が網目や格子状の構造を有している形状を指す。
本実施形態では、前述の環状(短い筒状)の細胞積層体を複数、隙間を開けて隣接するよう他の筒状の部材に保持させることで、細胞積層体が隙間を有するように配置するようにしている。
前記隙間の大きさは、細胞積層体の大きさ、例えば細胞積層体が相互に対面している部位の長尺状の大きさの、2~12倍が好ましく、3~8倍がさらに好ましい。例えば、細胞積層体が筒状である場合、前記細胞積層体が相互に対面している部位の長尺状の大きさは、前記筒状の直径である。例えば、細胞積層体の筒の直径が0.4mmの場合、隙間の大きさは1.0~5.0mm、好ましくは1.5~2.5mmである。
【0054】
細胞積層体を隙間を有して配置することの効果として、細胞増殖は、細胞積層体の構造体の周辺部において特に活性であるため、周辺部が大きく(表面積が大きく)、細胞増殖が起こりやすい。また、後述するように、細胞積層体に張力を印加した際に、細胞積層体の表面にコラーゲン層が形成されるので、細胞積層体を隙間を有して配置することで隙間にコラーゲン層が形成され、細胞とコラーゲンが混合して配置された構造を、一定の構造を設計した上で得ることができる。
【0055】
前記張力の印加は、前記細胞積層体の前記筒状の円周上の2以上の部位を保持した部材を前記筒状の径方向に離間させることにより行うことも好ましい。
ここで、2以上の部位を保持した部材について、保持する手段はいかなるものであってもよい。例えば、前記2以上の部位の細胞を直接に挟む等によって保持するものであってもよい。また、前記筒状の細胞積層体の筒の内側に前記保持した部材が設けられていてもよい。
前記保持した部材を直接離間させて、前記保持した部材における前記2以上の部位を互いに離間させてもよい。また、他の部材を離間させることにより間接的に、前記保持した部材における前記2以上の部位を互いに離間させてもよい。
【0056】
本実施形態では、後述するように可撓性を有する筒状の保持用部材を前記筒状の細胞積層体の筒の内周側に設けている。さらに、前記保持用部材の筒状の内周側の対向する2つの部位に離間用部材を備えている。離間用部材を互いに離間させることで、前記保持用部材の前記2つの部位を離間させるように構成されてなる。
【0057】
なお、前記した間葉系幹細胞を細胞積層体とする際の培養、または張力を印加しつつ培養する際には、細胞成長因子を添加してもよい。具体的には、培養液にIGF-1、TGF-β等を加えることによっても行うことができる。
【0058】
本実施形態では、前記細胞積層体に張力を印加することで、前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層を形成させる。
この操作によって、幹細胞の培養により増殖した幹細胞が張力作用によって初期腱細胞化し、産生されたマイクロコラーゲン前駆体への張力印加が架橋配向したコラーゲン線維組織を形成する。
【0059】
(腱様組織構造体)
本実施形態の腱様組織構造体は、間葉系幹細胞が積層された細胞積層体と、前記細胞積層体に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層と、を備えた腱様組織構造体であって、前記コラーゲン層は、前記細胞積層体に張力を印加して形成されたものである。
【0060】
本実施形態の腱様組織構造体の構成、および腱様組織構造体を形成するための方法は、上述の腱様組織構造体の製造方法に記載したものから選択できる。
【0061】
本実施形態の腱様組織構造体は、細胞積層体の層と、コラーゲン層が交互に積層した構造が、2回以上繰り返された構造であることも好ましい。細胞積層体の層とコラーゲン層の厚みや大きさ、繰り返しの回数などは適宜選択できる。
細胞積層体の層と、コラーゲン層が交互に積層した構造が、2回以上繰り返された構造は、例えば、後述する腱様組織構造体の製造用部材を用いることで製造できる。腱様組織構造体の製造用部材を用いて製造した腱様組織構造体は、短い円筒状(環状)の細胞積層体の層を2以上用いているので、多段リング状構造体とも呼ぶことができる。
【0062】
生体内では、腱を構成するコラーゲン線維束の平均引張強度は、約25MPaと考えられ、本実施形態の腱様組織構造体は、同様の力をかけることが可能であることが好ましい。腱の伸びに対しては、コラーゲン線維束の界面剥離と滑りが影響すると考えられる。
【0063】
また、腱様組織構造体は、前述する細胞積層体を用いて製造される円筒のままとしてもよく、円筒状を切断して得られる平板状の腱様組織構造体としてもよい。
【0064】
本実施形態の腱様組織構造体の使用方法としては、ヒトその他の動物における人工腱または人工靭帯として、または人工腱または人工靭帯の製造用に使用することができる。
また、ヒトその他の動物における腱または靭帯を補うために使用することができる。例えば、腱様組織構造体をヒトその他の動物の体内に腱または靭帯と共に配置し補強するために使用することができる。
また、ヒトその他の動物の体内の腱または靭帯の各種の損傷に対して、治療のために使用することができる。ここで治療は、損傷の治療、予防などを含むものとする。具体的には、損傷した腱または靭帯を補うように、または一部または全部にかえて配置して治療に用いることができる。
具体的には、断裂などの損傷に対しては、腱や靭帯の欠損部に投与し縫合する治療が考えられる。また、腱や靭帯の慢性的な障害に対しては、腱や靭帯の変性部を切除し、そのスペースに本手法で製造した腱様組織構造体し縫合するなどの治療に用いることができる。
【0065】
(腱様組織構造体の製造用部材)
本実施形態の腱様組織構造体の製造用部材は、細胞積層体に張力を印加するための腱様組織構造体の製造用部材であって、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位を互いに離間可能なように構成されてなる。本実施形態の図に示した例では、前記細胞積層体は筒状に形成され、前記離間用部材は、細胞積層体の前記筒状の円周内に設置可能で、前記離間用部材は、前記筒状の径方向に互いに離間可能なように構成されてなる。
【0066】
図1は、本実施形態の腱様組織構造体の製造用部材100の概略斜視図であり、
図2は、
図1の腱様組織構造体の製造用部材100の概略側面図である。
図に示すように、本実施形態の腱様組織構造体の製造用部材100は、離間用部材20aおよび20bを備えてなる。また、後述する保持用部材30も備えている。
【0067】
離間用部材は、細胞積層体の筒状の円周内に設置可能なように構成されてなる。図に示した例では、後述するように略円筒状の保持用部材30が筒状の細胞積層体40a等を外側に保持できるよう構成されてなり、離間用部材20aおよび20bは、保持用部材30の筒状の内側に配置されてなるため、細胞積層体の筒状の円周内に設置可能である。
【0068】
離間用部材は、2以上備えられてなる。図に示した例では、離間用部材20aおよび20bの2つの離間用部材を備えてなる。2つの離間用部材20aおよび20bは、細胞積層体の筒状、すなわち保持用部材30の略円筒状の円周内の、対向する円周上に備えられている。
なお、別の実施形態としては離間用部材は3以上備えられていてもよく、保持用部材30の略円筒状の円周内の別の部位に備えられていてもよい。
【0069】
本実施形態では、離間用部材20a、20bは長尺状部材であることも好ましい。長尺状部材はいずれの形態であってもよく、円柱状、円筒状や直方体であってもよいが、少なくとも一部が曲面状であることがより好ましい。一部が曲面状であれば、離間させる操作において細胞積層体や保持用部材に負担がかかりにくい。
離間用部材20a、20bの構成素材は金属、樹脂等のいずれであってもよい。
図に示した例では、離間用部材20a、20bは金属を構成素材とし、円柱状に構成されている。
【0070】
離間用部材20a、20bは長尺状部材であって、前記長尺状部材の長尺方向が前記筒状の高さ方向となるよう設けられてなることも好ましい。図に示した例では、円柱状の離間用部材20a、20bは、円筒状の保持用部材30の筒の高さ方向に沿うように前記保持用部材の内側に設けられ、換言すれば、前記保持用部材30の内側に立てるように配置されている。
【0071】
離間用部材は、前記筒状の径方向に互いに離間可能なように構成されてなる。
離間可能な構成としては、具体的には、離間用部材の少なくとも1つは、他の離間用部材と離間可能なように構成されてなることが好ましい。
図に示した例では、離間用部材20aおよび20bは、それぞれが前記筒状の外周方向(後述する
図4の方向D1およびD2)に移動可能に構成されてなることで、離間用部材20aおよび20bが筒状の径方向に離間可能に構成されてなる。
なお、別の実施形態としては離間用部材20aおよび20bのいずれか片方が筒状の外周方向に移動可能に構成されていてもよい。いずれか片方が移動可能でも、離間用部材が互いに離間可能である。
【0072】
また、図に示した例では、離間用部材20a、20bは前記移動を可能とする駆動装置(図示せず)に接続され、前記駆動装置は、離間用部材の時間あたりの移動距離を制御可能な制御装置(図示せず)に接続されている。
【0073】
本実施形態の腱様組織構造体の製造用部材100は、可撓性を有する筒状の保持用部材30をさらに備えている。保持用部材30は、保持用部材30の筒状の内周側に前記離間用部材20a、20bを備えている。
また、保持用部材30は、保持用部材30の筒状の外周側に細胞積層体を保持可能に形成されてなる。本実施形態では、後述するように細胞積層体40a等は円筒状、または環状に構成されてなるので、細胞積層体40a等を製造する際の大きさに合わせて、細胞積層体40a等を保持用部材30の筒状の外周側に保持可能なように、保持用部材30の筒状の径の大きさを設計する。図に示した例では、保持用部材30の直径はおよそ2.5mmである。
【0074】
保持用部材30のその他の構造および構成素材は、適宜使用しやすいものを選択できる。例えば、保持用部材30が全体として可撓性を有していれば構成素材は金属、樹脂等のいずれでもよい。また、可撓性を有するように網目状等の構造を有していてもよい。例えば、医療用ステントでは、形状記憶合金を構成素材とする網目(メッシュ)状のものを用いることができる。形状記憶合金を構成素材とするメッシュ状のステントは、後述する離間用部材を離間させて張力を加え変形する操作において、操作前後の形状の調整が容易であるため、好適に使用することができる。
本実施形態では、保持用部材30は、金属を構成素材とし網目状に形成されてなる。具体的には、金属メッシュより構成された医療用のステントを円筒状にして使用している。
【0075】
次に、腱様組織構造体の製造用部材100の使用方法について図に示して説明する。
図3は、
図1、
図2の腱様組織構造体の製造用部材100に細胞積層体40a、40b、40cを保持した状態を示す概略側面図である。
図に示す例では、短い円筒状(環状)の細胞積層体40a、40b、40cはそれぞれ、保持用部材30の筒状の外周側に保持されている。
細胞積層体40a、40b、40cは、上述したようにヒト脂肪由来間葉系幹細胞の細胞凝集塊(スフェロイド)を、針状体に仮固定して培養し、短い円筒状としたものである。細胞凝集塊(スフェロイド)を製造する際は、前述したように特許4547125号、特許7126732号などに記載された技術を用い、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞の細胞凝集塊(スフェロイド)を、針状体の培養治具に仮固定しつつ培養することで、該細胞による環状または長い筒状の構造体を得たものを用いたことができる。この培養治具から本実施形態の保持用部材30に細胞凝集塊を移動させる際に細胞凝集塊の形状を保持させるよう、細胞凝集塊に隣接して支持体となる部材が設けられていてもよく、この支持体となる部材を共に保持用部材30に移動させてもよい(図示せず)。
細胞積層体40a、40b、40cは、互いに隙間gを設けられて保持されてなる。
なお、図に示した例では細胞積層体は40a、40b、40cの3つを保持しているが、3以上であってもよい。保持用部材30および離間用部材20a、20bの高さ方向をさらに伸ばすことで、さらに多くの細胞積層体を保持できるよう適宜構成することができる。
【0076】
図4は、
図3の腱様組織構造体の製造用部材100において細胞積層体40a、40b、40cの培養を行う状態を示す概略図であり、
図4(a)は側面図、
図4(b)は平面図である。
図に示したように、腱様組織構造体の製造用部材100において、離間用部材20a、20bを互いに離間させる。離間させる手段としては、離間用部材20a、20bを保持用部材30および細胞積層体40a、40b、40cの径方向D1、D2にそれぞれ移動させる。移動させる速度は、離間用部材20a、20bの移動距離の合計が、0.1~1.0mm/日である。
【0077】
離間用部材20a、20bを互いに離間させることで、可撓性を有する保持用部材30および保持用部材30に保持された細胞積層体40a、40b、40cは、略円筒状から方向D1、D2に伸長し、
図4(b)に示すように略楕円筒状となる。この過程で、細胞積層体40a、40b、40cには方向D1、D2に対応する径方向の張力が印加される。
【0078】
図5は、
図4の腱様組織構造体の製造用部材100において細胞積層体40a、40b、40cの培養を継続した状態を示す概略側面図である。
図に示すように、細胞積層体40a、40b、40cが張力が加わりつつ培養されると、表面の多くの面積に接する、空隙g(
図3、
図4(a))の部位には張力方向に配向し互いに架橋したコラーゲンが充填され、コラーゲン層50a、50bが形成される。
【0079】
図6は、本実施形態により製造された腱様組織構造体200を示す概略斜視図である。腱様組織構造体200は、
図5の腱様組織構造体の製造用部材100から、細胞積層体40a、40b、40cと、その相互の間に形成されたコラーゲン層50a、50bを含む部位を取り外されたもので、円筒状に構成されてなる。
腱様組織構造体200は、細胞積層体40a、40b、40cと、その相互の間に形成されたコラーゲン層50a、50bを備えてなる。すなわち、細胞積層体と、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層が交互に積層された腱様組織構造体200となっている。
【0080】
なお、このように得られた腱様組織構造体200は、前記円筒状の円周上の一か所以上を高さ方向に沿って切断することで、板状の腱様組織構造体を得ることもできる。
【0081】
他の実施形態として、腱様組織構造体200を製造するスケールが少ない場合、例えば細胞積層体40a等の数が少ない場合などは、前述の腱様組織構造体の製造用部材100を簡略化したものとして、保持用部材30を省略し、離間用部材20a、20bが細胞積層体を保持する部材を兼ねていてもよい。この場合、離間用部材20a、20bに直接細胞積層体40a等を保持させてもよい。すなわち、細胞積層体40a等の円筒状の内周面に離間用部材20a、20bを配置してもよい。
【0082】
本実施形態の腱様組織構造体の製造用部材100によれば、幹細胞が積層された細胞積層体40a等と、前記細胞積層体40a等に隣接する、架橋配向したコラーゲンを有するコラーゲン層50a等とを備えた腱様組織構造体200であって、前記コラーゲン層50a等は、前記細胞積層体40a等に張力を印加して形成されたものである腱様組織構造体200を好適に製造することができる。
【0083】
また他の実施形態として、前記細胞積層体の2以上の部位を保持し、前記2以上の部位を互いに離間可能なように構成されてなる腱様組織構造体の製造用部材は、他の形状の細胞積層体の2以上の部位を保持する構造を備えていてもよい。例えば、シート状の細胞積層体について、クリップ等で2以上の部位を保持し、その保持した部材を互いに離間させる構造をとっていてもよい。このとき前記2以上の部位は、シート状の略両端であることが好ましい。
【0084】
(本実施形態の他の側面)
本実施形態の他の側面は、前記した腱様組織構造体を用いた、腱または靭帯の損傷の治療方法である。
本実施形態のさらに他の側面は、腱または靭帯の損傷の治療または予防における使用のための、前記した腱様組織構造体である。
本実施形態のさらに他の側面は、腱または靭帯の損傷の治療または予防用組成物を製造するための、前記した腱様組織構造体の使用である。
本実施形態のさらに他の側面は、腱または靭帯の損傷の治療または予防用組成物を製造するための、前記した腱様組織構造体の製造方法である。
本実施形態のさらに他の側面は、腱または靭帯の損傷の治療または予防用組成物を製造するための、前記した腱様組織構造体の製造用部材である。
【0085】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、腱や靱帯と類似した構造を有する腱様組織構造体を製造でき、大スケールでの製造が可能で、治療等に広く応用が可能な腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材を提供することができる。
【0086】
本発明者らは、細胞増殖活性が高く幼若な細胞組織に対する牽引による力学的効果は、細胞増殖活性が低い組織とは異なり、同一の細胞積層体、同一の力学環境にあっても細胞増殖活性の高い組織は幹細胞から初期腱細胞への分化と、その細胞から産生されたマイクロスケールのコラーゲン線維前駆体でのコラーゲン線維架橋配向反応が促進されることを見出した。さらに、本原理を基盤として、幹細胞構造体に対して細胞増殖活性度の違いを利用した牽引培養によって、細胞増殖が活性な組織ではコラーゲン線維リッチな組織を、細胞増殖が不活性な組織では幹細胞リッチな組織が層状構造になった組織を特徴とする靱帯様組織を形成する方法を開発した。
【0087】
本実施形態で製造される構造体は、ヒトの靱帯や腱と類似した層状構造を特徴とする組織であり、臨床的には人工靱帯としての応用はもちろん、腱板断裂やアキレス腱断裂の欠損部に直接投与し縫合する、または膝蓋腱症や上腕骨外側浄顆炎など慢性腱障害に対し、腱の変性部を切除してそのスペースに本手法で製造した層状構造体充填し縫合するなどの利用が想定される。
【0088】
従来技術における腱、靭帯の損傷の処置(治療)方法は主に、PRP(多血小板血漿)法、幹細胞移植法、靭帯の自家移植による再建法などが行われている。それに対し、本実施形態では、自家・他家由来の脂肪由来間葉系幹細胞が出発素材である。本実施形態の腱・靭帯様組織は、部分断裂や欠損部に適用可能である。また、ヒトだけでなく他の動物、筋肉の治療・処置が重要となる競走馬等への応用も可能であり、応用範囲が広い。
【実施例0089】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0090】
(試験例1)
(ヒト骨髄由来幹細胞を利用した三次元細胞積層体の牽引培養)
本発明者らは、コラーゲン産生細胞塊(スフェロイド)を三次元的に積層した構造体を形成し、細胞の成熟過程で構造体に張力を印加しながら培養すれば増殖した細胞間に形成されるコラーゲン線維前駆体組織から、コラーゲン線維を一方向に架橋配向させた腱・靱帯様組織を形成できると着想した。しかしながら、幼児皮膚線維芽細胞スフェロイドを用いて、1~2週間の牽引培養実験を行った場合、牽引を行わなくてもすでにコラーゲン線維が形成されており、ここにさらに牽引を加えても、コラーゲン線維を一方向に架橋配向させた組織は得られなかった(図示せず)。
【0091】
そこで本発明者らは、より未成熟な細胞として幹細胞に着目し、ヒト骨髄由来幹細胞を用いて牽引(張力の印加)によるコラーゲンの産生を検証した。3Dバイオプリンタで作製したヒト骨髄由来間葉系幹細胞積層構造体に対して、培養過程で幹細胞積層体に牽引の力学作用を負荷することによって幹細胞から幼若な腱細胞へと分化誘導させ、コラーゲン産生能を獲得した腱細胞から産生されたミクロなコラーゲン線維前駆体組織への張力印加によるコラーゲン線維架橋配向組織を形成しようと試みた。
【0092】
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞のスフェロイドを、3Dバイオプリンタによって円筒型配列の剣山上に配置した。
円筒型配列の剣山は、ポリカーボネート樹脂の基板と、基板上に円周状に立設された長さ5cmのステンレス針を0.4ミリの等間隔で備えるものを用いた。この試作例では、ステンレス針は36個で円を保持できるよう加工した。
【0093】
1週間の静置培養でスフェロイドを融合させ、チューブ(円筒)状の細胞積層体を形成した。スフェロイドは市販の皮膚線維芽細胞を10日培養することにより作製し、得られたスフェロイドを上記治具に配置した。1本の針状体あたりスフェロイドを100個用いた。この治具を36枚配列させて、37℃、5%CO2雰囲気下で7日培養することにより、針状体に配置したスフェロイド同士を融合させ、細胞積層体を得た。
【0094】
この細胞積層体を7日間静置培養した後、上述の腱様組織構造体の製造用部材100から保持用部材30を省いた製造用部材に移し替えた。すなわち、製造用部材上の、一定時間で一定距離を離間可能なクランプ状部材に設置した離間用部材20a、20bに、円筒状の細胞積層体を直接保持させた。離間用部材20a、20bの距離を、2.5mmから0.25mm/日で2週間離間させつつ培養し、最終的に離間用部材20a、20bの距離は6mmとした。
【0095】
図7に、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の牽引培養前後の写真図を示す。
図7(a)は、牽引培養前のHE染色、
図7(b)は牽引培養前のTEM画像、
図7(c)は牽引培養後のHE染色、
図7(d)は牽引培養後のTEM画像である。
特に
図7(d)より、細胞組織の間に、牽引方向(図における左右方向)に配向し、互いに架橋したコラーゲン線維が認められた。すなわち、短期の牽引培養において、幼若なコラーゲン線維が外周部において牽引方向に配列しつつあることが示された。
【0096】
(試験例2)
(ヒト脂肪由来間葉系幹細胞積層構造体を利用した三次元細胞積層体の牽引培養)
ヒト脂肪由来間葉系幹細胞は、前述したスフェロイドを培養した細胞積層体を作成した場合に、骨髄由来幹細胞積層構造体よりも弾力性が高い構造が得られる。そのため、より製造装置での取り扱いに向き、スケールアップも行いやすい間葉系幹細胞として、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞を用いた腱様組織構造体の形成について検証を行った。
【0097】
試験例1と同様の手法を用いて、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞のスフェロイドを、3Dバイオプリンタによって円筒型配列の剣山上に配置した。1週間の静置培養でスフェロイドを融合させ、チューブ(円筒)状の細胞積層体を形成した。この細胞積層体を1週間静置培養した後、上述の腱様組織構造体の製造用部材100から保持用部材30を省いた製造用部材を用いて、一定時間で一定距離を離間可能なクランプ状部材に設置した離間用部材20a、20bに、円筒状の細胞積層体を保持させた。離間用部材20a、20bの距離を、2.5mmから0.5mm/日で3日間牽引してから、3日の養生機関をあけて、5週間の牽引を行った。
【0098】
図8は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を円周面に沿って高さ方向に切断した(縦方向切断)図である。(a)はHE染色、(b)はHE染色の一部拡大図、(c)はSR染色、(d)はSR染色の一部拡大図を示す。
図9は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を平面に沿って径方向に切断した(横方向切断)図である。(a)はHE染色、(b)はHE染色の一部拡大図、(c)はSR染色、(d)はSR染色の一部拡大図を示す。
【0099】
図10は、張力を印加せず同条件で培養した腱様組織構造体を円周面に沿って高さ方向に切断した(縦方向切断)図である。(a)はHE染色、(b)はHE染色の一部拡大図、(c)はSR染色、(d)はSR染色の一部拡大図を示す。
図11は、張力を印加せず同条件で培養した腱様組織構造体を平面に沿って径方向に切断した(横方向切断)図である。(a)はHE染色、(b)はHE染色の一部拡大図、(c)はSR染色、(d)はSR染色の一部拡大図を示す。
【0100】
ここで、
図8(a)のHE染色の一部拡大図を
図12(a)に、そのさらに部分拡大図に相当する部位のSR染色を
図12(b)および
図12(c)に示す。
図8~9の結果からは、特に
図12(a)に示すように、組織観察の結果、細胞積層体中心部では両牽引条件とも腱細胞への分化は認められず、形成されたコラーゲン線維組織は幹細胞培養のみのそれと同様であった。一方、
図12(b)、
図12(c)に示すように、細胞積層体の外周部では張力印加方向へのコラーゲン線維の架橋配向組織が顕著に認められた。また、
図12(a)のコラーゲン線維架橋配向領域や
図12(b)に示すように、コラーゲン線維が架橋配向した部分では張力印加方向に紡錘形の細胞が観察された。
幹細胞の細胞積層体の外周部は細胞が細胞積層体の外側へと増殖しやすい環境にある。増殖した幹細胞が張力作用によって初期腱細胞化し、産生されたマイクロコラーゲン前駆体への張力印加が架橋配向したコラーゲン線維組織を形成したと考えられる。
【0101】
一方、
図10、
図11に示すように、張力を加えていない比較例においては、コラーゲン層が形成されていないことがわかる。
【0102】
(試験例3)
試験例2と同様に細胞積層体を形成し、約1mm/minの牽引速度で1mmの変位を与えて5日間養生させ、その後に同じ牽引速度で3mmの変位を一度に与えて約2週間養生した他は、試験例2と同様の牽引試験を行った。
【0103】
図13は、試験例3について、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を円周面に沿って高さ方向に切断した(縦方向切断)図である。(a)はHE染色、(b)はHE染色の一部拡大図、(c)はSR染色、(d)はSR染色の一部拡大図を示す。
図14は、試験例3について、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞より得られた腱様組織構造体を平面に沿って径方向に切断した(横方向切断)図である。(a)はHE染色、(b)はHE染色の一部拡大図、(c)はSR染色、(d)はSR染色の一部拡大図を示す。
【0104】
試験例3は、前記した試験例2に比べて印加荷重を一時的に増加させたため、1mmの変位の時点では問題はなかったが、3mmの変位を与えた時点で、細胞積層体の一部に断裂が認められた。その一方で、図に示すように、コラーゲン線維の架橋配向組織は表面近傍に強く表れているのが認められた。すなわち、大きな変位を与え強い張力を印加すると、コラーゲン線維の架橋配向組織は発達するが、組織の一部が荷重にたえられず損傷が生じる場合もある。
これらの結果から、架橋配向構造の発達したコラーゲン線維を得る目的と、製造する組織構造体の歩留まり等の目的に応じて、印加荷重や時間を調整することができると考えられる。
【0105】
以上の実験実施例から、細胞増殖活性が高く幼若な細胞組織に対する牽引などの力学的効果は、幹細胞から初期腱細胞への分化と、その細胞から産生されたマイクロスケールのコラーゲン線維前駆体でのコラーゲン線維架橋配向反応が促進されることが示された。
本発明によれば、腱や靱帯と類似した構造を有する腱様組織構造体を製造でき、大スケールでの製造が可能で、治療等に広く応用が可能な腱様組織構造体の製造方法、腱様組織構造体およびその製造用部材が得られる。