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特開2024-108829液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108829
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20240805BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20240805BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
C08L101/02
C08K5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013425
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】安池 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 達哉
(72)【発明者】
【氏名】大野 龍蔵
(72)【発明者】
【氏名】中西 恵
(72)【発明者】
【氏名】勝井 宏充
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
【テーマコード(参考)】
2H290
4J002
【Fターム(参考)】
2H290AA03
2H290BA42
2H290BF13
2H290DA01
2H290DA03
4J002AA031
4J002CF001
4J002CH001
4J002CM041
4J002EC006
4J002EL046
4J002EL056
4J002EL106
4J002EN006
4J002ER006
4J002EV026
4J002FD206
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】ラビング耐性が高く、低プレチルト角特性が良好な液晶配向膜を得ることができるとともに、液晶の応答速度が速く、駆動電圧が低く、かつ透過率の高い液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】式(1)の構造における環部分から1個以上の水素原子を除いて構成される部分構造を有する重合体(P)と、オキシラニル基、オキセタニル基、環状カーボネート基、ヒドロキシ基、保護されたヒドロキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソチオシアネート基及び重合性炭素-炭素不飽和結合基よりなる群から選択される少なくとも1種を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物(A)とを液晶配向剤に含有させる。Ar及びArは2価の芳香環基である。Xは単結合、酸素原子、-NR-等である。Xは-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造(ただし、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基中のフルオレン環を除く。)における環部分から1個以上の水素原子を除いて構成される部分構造を有する重合体(P)と、
オキシラニル基、オキセタニル基、環状カーボネート基、ヒドロキシ基、保護されたヒドロキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基及び重合性炭素-炭素不飽和結合基よりなる群から選択される少なくとも1種を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物(A)と、
を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar及びArは、互いに独立して2価の芳香環基である。Xは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。Xは、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。Rは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基である。)
【請求項2】
前記重合体(P)は、下記式(1-1)で表される部分構造及び下記式(1-2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(1-1)及び式(1-2)中、Ar、Ar及びXは、上記式(1)と同義である。Yは、窒素原子であるか、又は炭素原子に対し水素原子、メチル基若しくは水酸基が結合した3価の基である。「*」は結合手を表す。)
【請求項3】
前記重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエステル及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であり、下記式(1-1A)で表される部分構造及び下記式(1-2A)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(1-1A)及び式(1-2A)中、A及びAは、Aが(n1+1)価の芳香環基であってAが(n2+1)価の芳香環基であるか、又は、A及びAのそれぞれが芳香環を有し、それら芳香環が単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基により互いに連結されて構成される縮合環構造を表す。Aは(n3+1)価の芳香環基である。Yは、窒素原子であるか、又は炭素原子に対し水素原子、メチル基若しくは水酸基が結合した3価の基である。n1、n2及びn3は、互いに独立して1又は2である。Ar、Ar、R及びXは上記式(1)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【請求項5】
前記重合体(P)は、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するジアミン及び上記式(1-2A)で表される部分構造を有するジアミンよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を含む、請求項4に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体(P)は、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含む、請求項4に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記重合体(P)は、脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含む、請求項4に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記重合体(P)は付加重合体であり、下記式(1-1B)で表される部分構造及び下記式(1-2B)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化4】
(式(1-1B)及び式(1-2B)中、Ar、Ar及びXは上記式(1)と同義である。Yは、窒素原子であるか、又は炭素原子に対し水素原子、メチル基若しくは水酸基が結合した3価の基である。Aは、単結合、-CO-、-COO-、-CONH-、2価の芳香環基、又は2価の芳香環基と-CO-、-COO-若しくは-CONH-とが結合してなる2価の基である。「*」は、重合体の主鎖を構成する炭素原子との結合手を表す。)
【請求項9】
前記重合体(P)はポリエーテルであり、下記式(1-1C)で表される部分構造を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化5】
(式(1-1C)中、A及びAは、互いに独立して2価の芳香環基であるか、又は、A及びAのそれぞれが芳香環を有し、それら芳香環が単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基により互いに連結されて構成される縮合環構造を表す。Ar、Ar、R及びXは上記式(1)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【請求項10】
前記重合体(P)はポリエステルであり、下記式(1-1C)で表される部分構造を有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化6】
(式(1-1C)中、A及びAは、互いに独立して2価の芳香環基であるか、又は、A及びAのそれぞれが芳香環を有し、それら芳香環が単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基により互いに連結されて構成される縮合環構造を表す。Ar、Ar、R及びXは上記式(1)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【請求項11】
上記式(1)で表される構造の環部分から1個以上の水素原子を除いて構成される部分構造を有する構造単位を、前記重合体(P)を構成する全構造単位に対して30モル%以上含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項12】
前記重合体(P)とは異なる重合体を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項13】
前記化合物(A)は、下記式(2)で表される、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化7】
(式(2)中、Bは、オキシラニル基、オキセタニル基、環状カーボネート基、ヒドロキシ基、保護されたヒドロキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基又は重合性炭素-炭素不飽和結合基である。Rは、鎖状構造、脂環式構造、脂肪族複素環構造又はこれらのうち2つ以上の組み合わせからなるm価の基である。mは2~10の整数である。式中の複数のBは互いに同一又は異なる。)
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にラビング処理を施して液晶配向能を付与する工程と、
を含む、液晶配向膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項16】
請求項15に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【請求項17】
一対の基板を備え、
前記一対の基板のうち一方の基板に、請求項1~13のいずれか一項に記載の液晶配向剤により液晶配向膜が形成されており、他方の基板に、前記重合体(P)を含有しない液晶配向剤により液晶配向膜が形成されている、請求項16に記載の液晶素子。
【請求項18】
一対の基板を備え、
前記一対の基板のそれぞれに、請求項1~13のいずれか一項に記載の液晶配向剤により液晶配向膜が形成されている、請求項16に記載の液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶分子の配向を制御することにより、要求される機能を発現する基本構成として幅広い用途において使用されている。こうした液晶素子では、基板上に形成された液晶配向膜によって液晶セル中の液晶分子の配向が制御されている。液晶配向規制力を有する有機膜を得る方法としては、従来、重合体組成物を用いて形成した有機膜をラビング処理する方法、酸化ケイ素を斜方蒸着する方法、長鎖アルキル基を有する単分子膜を形成する方法、感光性の有機膜に光照射する方法(光配向法)等が知られている。
【0003】
ラビング法は、簡便であって、液晶分子の配向性が良好であることから、現在においても工業的に広く使用されている。その一方で、ラビング法は、ラビング処理時に膜表面の削れや傷の発生が生じやすく、膜表面の削れや傷の発生に起因して液晶素子の性能を低下させることが懸念される。そこで従来、ラビング処理時における膜表面の削れや傷の発生が少ない(ラビング耐性に優れた)液晶配向膜を得るべく種々の検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ウレア結合を有するジアミンを用いて得られるポリイミド前駆体又はポリイミドを含む液晶配向剤が開示されている。また、力学的強度の高い液晶配向膜を得るために、重合体成分とともに架橋剤を液晶配向剤に配合することが行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/53128号
【特許文献2】国際公開第2010/074269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
視野角特性を改善する観点から、近年では、従来よりも低いプレチルト角により液晶分子を配向させる特性(以下、「低プレチルト角特性」ともいう)が求められることがある。しかしながら、低プレチルト角特性とラビング耐性とはトレードオフの関係にあり、液晶配向剤を用いて得られる有機膜のラビング耐性を高めるために液晶配向剤に架橋剤を配合して膜の力学的強度を高めようとした場合、プレチルト角が高くなる傾向がある。
【0006】
また、液晶素子の用途拡大等に伴い、液晶素子に対する高品質化の要求は従来よりも高まっている。その1つとして液晶の応答速度を更に速くすることにより性能の改善を図ることが行われている。しかしながら、液晶配向規制力に優れた液晶配向膜は、液晶駆動時に液晶に作用する抵抗を向上させることに繋がり、液晶の応答速度の高速化に伴い、液晶素子の駆動電圧が高くなることが懸念される。さらに、液晶素子に透明性が要求される用途では、液晶素子の透過率が高いことも求められる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ラビング耐性が高く、低プレチルト角特性が良好な液晶配向膜を得ることができるとともに、液晶の応答速度が速く、駆動電圧が低く、かつ透過率の高い液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1] (1)で表される構造(ただし、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基中のフルオレン環を除く。)における環部分から1個以上の水素原子を除いて構成される部分構造を有する重合体(P)と、オキシラニル基、オキセタニル基、環状カーボネート基、ヒドロキシ基、保護されたヒドロキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基及び重合性炭素-炭素不飽和結合基よりなる群から選択される少なくとも1種を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物(A)と、を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar及びArは、互いに独立して2価の芳香環基である。Xは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。Xは、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。Rは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基である。)
【0009】
[2] 上記[1]に記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜にラビング処理を施して液晶配向能を付与する工程と、を含む、液晶配向膜の製造方法。
[3] 上記[1]に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
[4] 上記[3]に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤によれば、ラビング耐性が高く、低プレチルト角特性が良好な液晶配向膜を得ることができる。また、液晶の応答速度が速く、駆動電圧が低く、かつ透過率の高い液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、特定の芳香族縮合環構造を有する重合体(P)と、架橋性を示す特定の官能基を1分子内に合計2個以上有する化合物(A)と、を含有する。また、本開示の液晶配向剤は、重合体(P)及び化合物(A)とは異なる成分を任意に含んでいてもよい。以下、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び任意に配合される成分(以下、「その他の成分」ともいう)について説明する。
【0012】
ここで、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「芳香環」は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0013】
重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。例えば、「特定構造を主鎖に有する」とは、その特定構造が主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」の部分から分岐した部分をいう。「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを包含する用語であり、「(メタ)アクリロ」は、アクリロ及びメタクリロを包含する用語である。「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを包含する用語である。
【0014】
<重合体(P)>
重合体(P)は、下記式(1)で表される構造(ただし、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基中のフルオレン環を除く。)における環部分から1個以上の水素原子を除いて構成される部分構造(以下、「部分構造(X)」ともいう。)を有する。
【化2】
(式(1)中、Ar及びArは、互いに独立して2価の芳香環基である。Xは、単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。Xは、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。Rは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基である。)
【0015】
重合体(P)を含む膜をラビング処理することにより得られた液晶配向膜は、液晶分子の配向方向がラビング方向に対して直交する方向となり、これによりプレチルト角は0度以上0.3度未満程度の小さい値となる。なお、部分構造(X)を有しないポリアミック酸からなる液晶配向膜は一般に、ラビング方向と同じ方向に液晶分子が配向し、プレチルト角は1度以上となる。
【0016】
上記式(1)において、Ar又はArで表される2価の芳香環基は、置換又は無置換の芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基である。当該芳香環は、芳香族炭化水素環であってもよく芳香族複素環であってもよい。芳香族炭化水素環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。芳香族複素環としては、窒素含有芳香族複素環、酸素含有芳香族複素環、硫黄含有芳香族複素環等が挙げられる。これらの具体例としては、窒素含有芳香族複素環として、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環等を;酸素含有芳香族複素環としてフラン環等を;硫黄含有芳香族複素環としてチオフェン環等を、それぞれ挙げることができる。芳香環基が環部分に置換基を有する場合、当該置換基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~13のアラルキル基、ハロゲン原子、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0017】
本組成物により得られる液晶配向膜の液晶配向性をより良好にできる点や、液晶配向膜の透過率を高く維持しながら、液晶配向膜の高屈折率化を図ることができる点、重合体(P)の製造容易性の点において、Ar及びArは、置換又は無置換のベンゼン環又はナフタレン環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基であることが好ましく、置換又は無置換のベンゼン環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基であることがより好ましい。
【0018】
なお、液晶セルは一般に、電極(例えばITO電極)、液晶配向膜及び液晶層の3層が積層された構成を備えており、これら3層の各界面において光の反射が生じることによって液晶セルの透過率低下を招くことが考えられる。また、部分構造(X)を有しないポリアミック酸からなる液晶配向膜の屈折率は一般に、液晶に近しい屈折率(1.5~1.6)であり、ITO電極の屈折率(2±0.2程度)との間で屈折率差が比較的大きい。この点、本組成物によれば、液晶配向膜の高屈折率化を図ることができ、液晶配向膜の屈折率をITO電極の屈折率(2±0.2程度)から液晶の屈折率(1.5±0.1程度)の範囲内において、部分構造(X)を有しないポリアミック酸からなる液晶配向膜との対比でITO電極の屈折率側に近付けることができる。更には、液晶配向膜の透過率を高く維持しながら、液晶配向膜の高屈折率化を図ることによって、液晶セルの更なる高透過率を実現可能である。
【0019】
又はXが-NR-であって、Rが熱脱離性基である場合、Rは、熱付与により脱離して水素原子に置き換わる1価の基である。熱による脱離性が高い点で、Rで表される熱脱離性基はtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が好ましい。
【0020】
上記式(1)で表される構造の具体例としては、下記式(r1-1)~式(r1-12)のそれぞれで表される構造、これらの構造に置換基が導入された構造等が挙げられる。
【化3】
【0021】
部分構造(X)は、上記式(1)で表される構造の環部分から任意の水素原子を取り除いた基である。当該環部分から取り除かれる水素原子の位置及び数は特に限定されない。部分構造(X)の好ましい具体例としては、下記式(1-1)又は式(1-2)で表される部分構造が挙げられる。重合体(P)は、部分構造(X)として、下記式(1-1)で表される部分構造及び下記式(1-2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【化4】
(式(1-1)及び式(1-2)中、Ar、Ar及びXは、上記式(1)と同義である。Yは、窒素原子であるか、又は炭素原子に対し水素原子、メチル基若しくは水酸基が結合した3価の基である。「*」は結合手を表す。)
【0022】
上記式(1-1)で表される部分構造の具体例としては、下記式(1-1-1)~式(1-1-6)のそれぞれで表される部分構造、これらの部分構造に置換基が導入された部分構造が挙げられる。上記式(1-2)で表される部分構造の具体例としては、下記式(1-2-1)~式(1-2-14)のそれぞれで表される部分構造が挙げられる。
【化5】
【化6】
【0023】
なお、部分構造(X)は、膜形成時の加熱によっては脱離せず、液晶配向膜の形成後において重合体(P)に結合したままの状態で残存する。液晶セルの透過率を高めることができ、また低プレチルト角特性及び良好な液晶配向性を示す液晶セルとしながら、液晶配向膜と液晶層との界面に存在する液晶分子の配向を拘束する力(アンカリング力ともいう)が、部分構造(X)を有する重合体を用いない場合との対比で十分に弱まるようにする観点から、重合体(P)が有する部分構造(X)は、200℃以下では脱離しないことが好ましく、230℃以下では脱離しないことがより好ましい。
【0024】
重合体(P)は、部分構造(X)を有する構造単位を、重合体(P)を構成する全構造単位に対して15モル%以上含むことが好ましい。このような重合体(P)によれば、液晶セルの透過率を高める効果を得つつ、液晶素子の低プレチルト角特性及び液晶配向性を良好にすることができるとともに、液晶配向膜と液晶層との界面に存在する液晶分子のアンカリング力が弱まるように(すなわち、弱アンカリング力となるように)することができる。このような観点から、重合体(P)における部分構造(X)を有する構造単位の含有割合は、重合体(P)を構成する全構造単位に対して20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることが更に好ましく、40モル%以上であることがより更に好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。なお、本明細書において「構造単位」とは、主鎖構造を主として構成する単位であって、少なくとも主鎖構造中に2個以上含まれる化学構造の構成単位をいう。
【0025】
ここで、「弱アンカリング力」と「強アンカリング力」との違いは、液晶分子の配向方向を拘束する配向拘束力が異なる点である。すなわち、液晶セルにおいて、強アンカリング力により配向膜近傍の液晶分子の配向が制御される場合、電場が印加されたときには、液晶層と液晶配向膜との界面における液晶分子は液晶配向膜による配向拘束力を受けたまま、電場の印加前の配向方向を維持する。これに対し、弱アンカリング力により配向膜近傍の液晶分子の配向が制御される場合には、液晶層と液晶配向膜との界面における液晶分子の配向拘束力が弱く、電場が印加されることによって液晶分子の配向方向が変化しやすい。なお、液晶配向膜の弱アンカリング化により、その液晶配向膜においては、水平方向だけでなく垂直方向における液晶分子の配向拘束力も低下する。部分構造(X)を有する重合体(すなわち重合体(P))を用いて形成された液晶配向膜は、部分構造(X)を有する重合体を含まない液晶配向膜との対比で、アンカリング力が弱い液晶配向膜が得られる。これにより、重合体(P)を用いて形成された液晶配向膜を備える液晶セルでは、液晶分子を駆動させる際の低電圧化を図ることができると考えられる。
【0026】
重合体(P)の主鎖は特に限定されない。液晶配向性や透過率特性に優れた液晶配向膜を得る観点から、重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエステル及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。重合体(P)は、部分構造(X)を主鎖に有していてもよいし、側鎖に有していてもよい。以下、各重合体について説明する。
【0027】
(ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミド)
重合体(P)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、重合体(P)は、下記式(1-1A)で表される部分構造及び下記式(1-2A)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【化7】
(式(1-1A)及び式(1-2A)中、A及びAは、Aが(n1+1)価の芳香環基であってAが(n2+1)価の芳香環基であるか、又は、A及びAのそれぞれが芳香環を有し、それら芳香環が単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基により互いに連結されて構成される縮合環構造を表す。Aは(n3+1)価の芳香環基である。Yは、窒素原子であるか、又は炭素原子に対し水素原子、メチル基若しくは水酸基が結合した3価の基である。n1、n2及びn3は、互いに独立して1又は2である。Ar、Ar、R及びXは上記式(1)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【0028】
上記式(1-1A)において、A又はAが芳香環基である場合、当該芳香環基を構成する芳香環は、単環でもよく縮合環でもよい。A又はAが有する芳香環は芳香族炭化水素環が好ましく、例えばベンゼン環、ナフタレン環、インデン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらのうち、A及びAを構成する芳香環は、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
又はAで表される芳香環基は、芳香環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、Ar又はArで表される2価の芳香環基が環部分に有していてもよい置換基として例示したものと同様の基が挙げられる。
及びAのそれぞれが芳香環を有し、それら芳香環が単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基により互いに連結されて構成される縮合環構造としては、フルオレン環構造、テトラヒドロアントラセン環構造、キサンテン環構造、チオキサンテン環構造等が挙げられる。これらのうち、フルオレン環構造又はキサンテン環構造であることが好ましい。
【0029】
n1及びn2はそれぞれ、1又は2である。なお、n1が1の場合、Aは2価の基であり、n1が2の場合、Aは3価の基である。また同様に、n2が1の場合、Aは2価の基であり、n2が2の場合、Aは3価の基である。
Ar、Ar及びXの具体例及び好ましい例については、上記式(1)の説明が適用される。
【0030】
上記式(1-2A)において、Aで表される芳香環基に含まれる芳香環は、単環でもよく縮合環でもよい。Aが有する芳香環の具体例及び好ましい例については、A及びAを構成する芳香環の説明が適用される。また、Ar、Ar及びXの具体例及び好ましい例については、上記式(1)の説明が適用される。
【0031】
重合体(P)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、重合体(P)は、〔I〕部分構造(X)を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、「特定酸二無水物」ともいう)を用いる方法、〔II〕部分構造(X)を有するジアミン(以下、「特定ジアミン」ともいう)を用いる方法、又は方法〔I〕と方法〔II〕とを組み合わせる方法により得ることができる。
【0032】
(ポリアミック酸)
重合体(P)としてのポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0033】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸(P)の合成に際し使用することができる特定酸二無水物としては、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するテトラカルボン酸二無水物を好ましく使用することができる。なお、特定酸二無水物として上記式(1-1A)で表される部分構造を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることにより、重合体(P)として、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含む重合体を得ることができる。
【0034】
特定酸二無水物の好ましい具体例としては、上記式(1-1A)中のn1及びn2が1である化合物として下記式(T1)で表される化合物を挙げることができ、上記式(1-1A)中のn1及びn2が2である化合物として式(T2)で表される化合物を挙げることができる。
【化8】
(式(T1)及び式(T2)中、Ar、Ar、X、A及びAは、上記式(1-1A)及び式(1-2A)と同義である。X及びXは、互いに独立して、単結合、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR20-、-CO-NR20-、-NR20-CO-O-、-NR20-CO-NR21-、-CO-NR20-NR21-、-SO-O-、-SO-、炭素数1~6のアルカンジイル基、又は炭素数2~6のアルカンジイル基における一部のメチレン基が-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR20-、-CO-NR20-、-NR20-CO-O-、-NR20-CO-NR21-、-CO-NR20-NR21-、-SO-O-若しくは-SO-で置き換えられた2価の基である。R20及びR21は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。)
【0035】
特定酸二無水物の更なる具体例としては、下記式(t-1)~式(t-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化9】
【0036】
ポリアミック酸(P)の合成に際しては、部分構造(X)を有しないテトラカルボン酸二無水物(以下、「その他の酸二無水物」ともいう)を単独で又は特定酸二無水物と共に使用してもよい。その他の酸二無水物としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む。
【0037】
鎖状テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0038】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビフタル酸二無水物等が挙げられる。また、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、上記の他、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物等を用いることができる。
【0039】
重合体(P)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、重合体(P)の溶解性の観点及びラビング耐性に優れた有機膜を形成する観点から、重合体(P)の合成に際しては、合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一部が脂肪族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。
【0040】
ポリアミック酸(P)の合成に際し、特定酸二無水物を使用する場合、特定酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、5モル%以上とすることが好ましく、20モル%以上とすることがより好ましく、40モル%以上とすることが更に好ましい。なお、ポリアミック酸(P)の合成に際し、テトラカルボン酸二無水物としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合体の合成に使用するモノマーの配合比と、得られる重合体を構成するモノマー単位の比率とは同等である。
【0041】
また、脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、5モル%以上とすることが好ましく、10モル%以上とすることがより好ましく、20モル%以上とすることが更に好ましい。なお、重合体(P)の合成に際し、モノマーとして脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いることにより、重合体(P)として脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含む重合体を得ることができる。
【0042】
・ジアミン化合物
ポリアミック酸(P)の合成に際し使用することができる特定ジアミンとしては、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するジアミン及び上記式(1-2A)で表される部分構造を有するジアミンよりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。なお、特定ジアミンとして、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するジアミン及び上記式(1-2A)で表される部分構造を有するジアミンよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることにより、重合体(P)として、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するジアミン及び上記式(1-2A)で表される部分構造を有するジアミンよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を含む重合体を得ることができる。
【0043】
特定ジアミンの好ましい具体例としては、上記式(1-1A)中のn1及びn2が1である化合物及び上記式(1-2A)中のn3が1である化合物を挙げることができる。上記式(1-1A)中のn1及びn2が1である化合物の好ましい具体例としては、下記式(D1)で表される化合物を挙げることができ、上記式(1-2A)中のn1及びn2が1である化合物の好ましい具体例としては、下記式(D2)で表される化合物を挙げることができる。
【化10】
(式(D1)及び式(D2)中、Ar、Ar、X、A、A及びYは、上記式(1-1A)及び式(1-2A)と同義である。X及びXは、互いに独立して、単結合、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR22-、-CO-NR22-、-NR22-CO-O-、-NR22-CO-NR23-、-CO-NR22-NR23-、-SO-O-、-SO-、炭素数1~6のアルカンジイル基、又は炭素数2~6のアルカンジイル基における一部のメチレン基が-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NR22-、-CO-NR22-、-NR22-CO-O-、-NR22-CO-NR23-、-CO-NR22-NR23-、-SO-O-若しくは-SO-で置き換えられた2価の基である。R22及びR23は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基である。Ar及びArは、互いに独立して、単結合又は2価の芳香環基である。)
【0044】
特定ジアミンの更なる具体例としては、下記式(d-1)~式(d-23)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化11】
【化12】
【化13】
【0045】
ポリアミック酸(P)の合成に際しては、部分構造(X)を有しないジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)を単独で又は特定ジアミンと共に使用してもよい。その他のジアミンとしては公知のジアミンを使用でき、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。脂肪族ジアミンは、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む。
【0046】
その他のジアミンの具体例としては、鎖状ジアミンとして、例えばm-キシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等を;脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、例えばドデカノキシジアミノベンゼン、テトラデカノキシジアミノベンゼン、ペンタデカノキシジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシジアミノベンゼン、オクタデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、コレステリルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、N-(2,4-ジアミノフェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)ベンズアミド、下記式(E-1)
【化14】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル基側との結合手を表す)である。Rは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物などの配向性基含有ジアミン:
パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、N,N’-ジ(5-アミノ-2-ピリジル)-N,N’-ジ(tert-ブトキシカルボニル)エチレンジアミン、4,4’-(2,2’-オキシビス(エタン-2,1-ジイル)ビス(オキシ))ジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,5-ジアミノ安息香酸、1-(4-アミノフェノキシ)-2-(4-(4’-アミノフェニル)フェノキシ)エタン、3,5-ジアミノ-N,N-ビス(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド等を;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。ポリアミック酸(A)の合成に使用するその他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0047】
上記式(E-1)における「-X-(R-XII-」で表される2価の基としては、炭素数1~3のアルカンジイル基、*-O-、*-COO-又は*-O-C-O-(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。RIIIで表される基は直鎖状であることが好ましい。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4-位又は3,5-位にあることが好ましい。
【0048】
上記式(E-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【化15】
【0049】
ポリアミック酸(P)の合成に際し特定ジアミンを使用する場合、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対し、5モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。特定ジアミンの使用割合が上記範囲であると、高い透過率、低プレチルト角特性及び良好な液晶配向性を発現する液晶セルを得つつ、液晶配向膜と液晶層との界面における液晶分子の弱アンカリング力化の効果を十分に得ることができる。また、ポリアミック酸(P)の合成に際し特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対し、100モル%以下であればよい。その他のジアミンの使用により所望の特性を付与する場合、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対して、例えば95モル%以下であり、90モル%以下であってもよい。
【0050】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸(P)は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによって得ることができる。ポリアミック酸(P)の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましく、0.3~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0051】
分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水イタコン酸等の酸一無水物;アニリン、シクロヘキシルアミン及びn-ブチルアミン等のモノアミン化合物;フェニルイソシアネート及びナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0052】
ポリアミック酸(P)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、-20℃~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。また、反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0053】
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第1群の有機溶媒)から選択される1種以上、又は、第1群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第2群の有機溶媒)から選択される1種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第2群の有機溶媒の使用割合は、第1群の有機溶媒及び第2群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0054】
特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と他の有機溶媒との混合物を、上記割合の範囲で使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(x)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計量(y)が、反応溶液の全量(x+y)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0055】
以上のようにして、ポリアミック酸(P)を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸(P)を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸(P)を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸(P)を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸(P)の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0056】
(ポリアミック酸エステル)
重合体(P)としてのポリアミック酸エステルは、例えば、〔I〕上記合成反応により得られたポリアミック酸(P)とエステル化剤とを反応させる方法、〔II〕テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、〔III〕テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。
【0057】
なお、本明細書において「テトラカルボン酸ジエステル」とは、テトラカルボン酸が有する4個のカルボキシ基のうち2個がエステル化され、残りの2個がカルボキシ基である化合物を意味する。「テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物」とは、テトラカルボン酸が有する4個のカルボキシ基のうち2個がエステル化され、残りの2個がハロゲン化された化合物を意味する。
【0058】
方法〔I〕で使用するエステル化剤としては、水酸基含有化合物、アセタール系化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等が挙げられる。これらの具体例としては、水酸基含有化合物として、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、フェノール、クレゾール等のフェノール類等を;アセタール系化合物として、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジエチルホルムアミドジエチルアセタール等を;ハロゲン化物として、臭化メチル、臭化エチル、臭化ステアリル、塩化メチル、塩化ステアリル、1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン等を;エポキシ基含有化合物として、プロピレンオキシド等を、それぞれ挙げることができる。
【0059】
方法〔II〕で使用するテトラカルボン酸ジエステルは、例えばポリアミック酸(A)の合成の説明において例示したテトラカルボン酸二無水物を、メタノールやエタノール等のアルコール類を用いて開環することにより得ることができる。なお、方法[II]で使用するテトラカルボン酸誘導体はテトラカルボン酸ジエステルのみであってもよいが、テトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。ジアミン化合物については、ポリアミック酸(P)の合成の説明で例示した特定ジアミンを単独で使用してもよいし、その他のジアミンを併用してもよい。合成に際し特定酸二無水物を使用する場合には、その他のジアミンを単独で使用してもよい。
【0060】
方法〔III〕の反応は、有機溶媒中、適当な脱水触媒の存在下で行うことが好ましい。有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水触媒としては、例えば4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムハライド、カルボニルイミダゾール、リン系縮合剤等が挙げられる。このときの反応温度は、-20~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0061】
方法〔III〕で使用するテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物は、例えば、上記の如くして得たテトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。なお、方法〔III〕で使用するテトラカルボン酸誘導体はテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物のみであってもよいが、テトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。また、ジアミン化合物については、ポリアミック酸(P)の合成の説明において例示した特定ジアミンを単独で使用してもよいし、その他のジアミンを併用してもよい。合成に際し特定酸二無水物を使用する場合には、その他のジアミンを単独で使用してもよい。
【0062】
方法〔III〕の反応は、有機溶媒中、適当な塩基の存在下で行うことが好ましい。有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。塩基としては、例えばピリジン、トリエチルアミン等の3級アミン;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類等を好ましく使用することができる。このときの反応温度は、-20~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0063】
液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸エステルを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸エステルの単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0064】
(ポリイミド)
重合体(P)としてのポリイミドは、例えば、上記の如くして合成されたポリアミック酸(A)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0065】
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。反応に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20%以上であることが好ましく、30~99%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0066】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0067】
ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン、1-メチルピペリジン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃であり、より好ましくは10~150℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。
【0068】
このようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。その他、ポリイミドは、ポリアミック酸エステルのイミド化によって得ることもできる。
【0069】
以上のようにして得られる重合体(P)としてのポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドは、これを濃度15質量%の溶液としたときに、20~1,800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、50~1,500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、重合体の溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度15質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0070】
重合体(P)としてのポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、重合体(P)としてのポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドにつき、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは8以下であり、より好ましくは7以下である。重合体(P)としてのポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドのMw及びMw/Mnが上記範囲にあることで、液晶素子の良好な液晶配向性を確保することができる。
【0071】
(付加重合体)
重合体(P)としての付加重合体(以下、「付加重合体(P)」ともいう)は、下記式(1-1B)で表される部分構造及び下記式(1-2B)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【化16】
(式(1-1B)及び式(1-2B)中、Ar、Ar及びXは上記式(1)と同義である。Yは、窒素原子であるか、又は炭素原子に対し水素原子、メチル基若しくは水酸基が結合した3価の基である。Aは、単結合、-CO-、-COO-、-CONH-、2価の芳香環基、又は2価の芳香環基と-CO-、-COO-若しくは-CONH-とが結合してなる2価の基である。「*」は、重合体の主鎖を構成する炭素原子との結合手を表す。)
【0072】
上記式(1-1B)及び式(1-2B)において、Ar、Ar及びXの具体例及び好ましい例については、上記式(1)中のAr、Ar及びXの説明がそれぞれ適用される。
で表される2価の芳香環基の具体例及び好ましい例については、上記式(1)中のAr及びArで表される2価の芳香環基の説明において例示したものと同様の基が挙げられる。
【0073】
付加重合体(P)は、例えば、重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体であって、上記式(1-1B)又は式(1-2B)で表される部分構造を有する単量体(以下、「特定不飽和単量体」ともいう)を含む単量体を重合することにより得ることができる。特定不飽和単量体の具体例としては、下記式(v-1)~式(v-7)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化17】
(式(v-1)~式(v-5)中、Rは水素原子又はメチル基である。)
【0074】
付加重合体(P)の合成に際しては、部分構造(X)を有しない単量体(以下、「その他の不飽和単量体」ともいう)を併用してもよい。その他の不飽和単量体としては、(メタ)アクリル化合物、スチレン化合物、共役ジエン化合物、マレイミド化合物等が挙げられる。
【0075】
その他の不飽和単量体の具体例としては、(メタ)アクリル化合物として、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル等)、(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルグリシジルエーテル、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、及び3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
【0076】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン、4-ヒドロキシメチルスチレン、p-スチリルトリメトキシシラン、4-(グリシジルオキシメチル)スチレン、及びビニル安息香酸等が挙げられる。共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン及び2-メチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。マレイミド化合物としては、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(4-グリシジルオキシフェニル)マレイミド、N-グリシジルマレイミド等が挙げられる。
【0077】
また、その他の不飽和単量体として、炭素数4~30のアルキル基、炭素数4~30のハロゲン化アルキル基、炭素数4~30のアルコキシ基、炭素数4~30のハロゲン化アルコキシ基、ベンゼン環及びシクロヘキサン環のうち1種以上の環が単結合又は連結基を介して2個以上連結した構造、又はステロイド骨格を有する基を有する不飽和単量体であって上記以外の化合物を使用してもよい。付加重合体(P)の合成に際し、その他の不飽和単量体としては1種を単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0078】
その他の不飽和単量体としては、化合物(A)が有する架橋性基(後述する架橋性基F1)と反応して共有結合を形成し得る官能基を有する化合物を好ましく用いることができる。中でも、カルボキシ基を有する不飽和単量体及びアミノ基を有する不飽和単量体よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【0079】
付加重合体(P)の合成に際し、特定不飽和単量体の使用割合は、付加重合体(P)の合成に使用するモノマーの合計量に対し、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることが更に好ましく、40モル%以上であることがより更に好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。特定不飽和単量体の使用割合が上記範囲であると、高い透過率、低プレチルト角特性及び良好な液晶配向性を発現する液晶セルを得つつ、液晶配向膜と液晶層との界面における液晶分子の弱アンカリング力化を十分に図ることができる。また、付加重合体(P)の合成に際し、特定不飽和単量体の使用割合は、付加重合体(P)の合成に使用するモノマーの合計量に対して、100モル%以下であればよい。その他の不飽和単量体の使用により所望の特性を付与する場合、特定不飽和単量体の使用割合は、付加重合体(P)の合成に使用するモノマーの合計量に対して、例えば95モル%以下であり、90モル%以下であってもよい。
【0080】
付加重合体(P)の合成方法は特に限定されず、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法等といった公知の重合法により製造することができる。例えば、ラジカル重合法により付加重合体(P)を製造する場合、付加重合体(P)は、ラジカル重合開始剤の存在下で単量体を重合することにより得ることができる。
【0081】
ラジカル重合法により付加重合体(P)を製造する場合、ラジカル重合開始剤としては、ラジカル重合法において一般に用いられる公知の化合物を適宜用いることができる。使用するラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全単量体100質量部に対して、0.01~30質量部とすることが好ましい。
【0082】
重合反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。反応に使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素化合物等が挙げられ、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が好ましい。反応温度は30℃~120℃とすることが好ましく、反応時間は、1~36時間とすることが好ましい。有機溶媒の使用量は、反応に使用する単量体の合計量が、反応溶液の全体量に対して0.1~60質量%になる量とすることが好ましい。なお、付加重合体(P)は、エポキシ基を側鎖に有する付加重合体を合成し、次いで、得られたエポキシ基含有付加重合体と、部分構造(X)を有するカルボン酸とを反応させる方法により得ることもできる。
【0083】
付加重合体(P)につき、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、250~500,000であることが好ましく、500~100,000であることがより好ましい。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下である。
【0084】
(ポリエーテル)
重合体(P)としてのポリエーテル(以下、「ポリエーテル(P)」ともいう)は、部分構造(X)として下記式(1-1C)で表される部分構造を有することが好ましい。
【化18】
(式(1-1C)中、A及びAは、互いに独立して2価の芳香環基であるか、又は、A及びAのそれぞれが芳香環を有し、それら芳香環が単結合、酸素原子、硫黄原子、-NR-又は炭素数1~3のアルカンジイル基により互いに連結されて構成される縮合環構造を表す。Ar、Ar、R及びXは上記式(1)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【0085】
上記式(1-1C)において、Ar、Ar及びXの具体例及び好ましい例については、上記式(1)中のAr、Ar及びXの説明がそれぞれ適用される。
又はAで表される2価の芳香環基の具体例及び好ましい例については、上記式(1)中のAr及びArで表される2価の芳香環基の説明において例示したものと同様の基が挙げられる。
【0086】
ポリエーテル(P)は、ジオール化合物とジハロゲン化物とを反応させることにより得ることができる。ポリエーテル(P)の製造に際しては、モノマーとして、上記式(1-1C)で表される部分構造を有するジオール化合物及び上記式(1-1C)で表される部分構造を有するジハロゲン化物よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく用いることができる。これらのうち、モノマーの入手容易性や重合体の合成容易性の観点から、上記式(1-1C)で表される部分構造を有するジオール化合物(以下、「特定ジオール」ともいう)を用いることが好ましい。特定ジオールとしては、例えば、上記式(D1)で表される化合物及び上記式(D2)で表される化合物における2個の1級アミノ基をヒドロキシ基に置き換えた化合物等が挙げられる。
【0087】
特定ジオールの更なる具体例としては、下記式(oh-1)~式(oh-22)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化19】
【化20】
【化21】
【0088】
ポリエーテル(P)の合成に際しては、部分構造(X)を有しないジオール化合物(以下、「その他のジオール」ともいう)を併用してもよい。その他のジオールとしては、脂肪族ジオール(鎖状ジオール及び脂環式ジオールを含む)、同一又は異なる芳香環に2個のヒドロキシ基が結合したジオール化合物(以下、「芳香族ジオール」という)等が挙げられる。ポリエーテル(P)は、耐熱性及びラビング耐性に優れ、かつ良好な液晶配向性を発現する有機膜を得る観点から、反応生成物のガラス転移温度が高くなる設計がよく、芳香族ジオールを好ましく用いることができる。芳香族ジオールの具体例としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ビフェノール、3,3’-ビフェノール等のジヒドロキシアレーン類;ビフェノール、ビスフェノールA、2,2-ビス(2-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)吉草酸、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等のビスフェノール類等が挙げられる。
【0089】
また、その他のジオールとしては、化合物(A)が有する架橋性基(後述する架橋性基F1)と反応して共有結合を形成し得る官能基を有する化合物を好ましく用いることができる。中でも、カルボキシ基を有するジオール化合物を好ましく用いることができる。
【0090】
ポリエーテル(P)の合成に際し、特定ジオールの使用割合は、ポリエーテル(P)の合成に使用するジオール化合物の合計量に対し、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましく、30モル%以上であることがより更に好ましい。特定ジオールの使用割合を上記範囲とすることにより、液晶セルの透過率を高くし、低プレチルト角特性及び液晶配向性を良好にしつつ、液晶配向膜と液晶層との界面における液晶分子の弱アンカリング力化を十分に図ることができる。また、ポリエーテル(P)の合成に際し、特定ジオールの使用割合は、ポリエーテル(P)の合成に使用するジオール化合物の合計量に対して、100モル%以下であればよい。その他のジオールの使用により所望の特性を付与する場合、特定ジオールの使用割合は、ポリエーテル(P)の合成に使用するジオール化合物の合計量に対して、例えば95モル%以下であり、90モル%以下であってもよい。
【0091】
ポリエーテル(P)の合成に際し、ジハロゲン化物としては、耐熱性及びラビング耐性に優れ、かつ良好な液晶配向性を発現する有機膜を得る観点から、反応生成物のガラス転移温度が高くなる設計がよく、同一又は異なる芳香環に2個のハロ基が結合したジハロゲン化合物(以下、「芳香族ジハロゲン化物」という)を好ましく使用することができる。芳香族ジハロゲン化物の具体例としては、2,6-ジフルオロベンゾニトリル、2,5-ジフルオロベンゾニトリル、2,4-ジフルオロベンゾニトリル、2,6-ジクロロベンゾニトリル、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、2,4’-ジフルオロベンゾフェノン、2,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、2,2’-ジフルオロベンゾフェノン、3,3’-ジニトロ-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン等が挙げられる。また、その他のジハロゲン化合物としては、化合物(A)が有する架橋性基(後述する架橋性基F1)と反応して共有結合を形成し得る官能基を有する化合物を好ましく用いることができる。
【0092】
ポリエーテル(P)は、ジオール化合物とジハロゲン化物とを、好ましくは塩基の存在下、有機溶媒中で反応させることにより得ることができる。合成反応に供するジオール化合物とジハロゲン化物との使用割合は、ジオール化合物の水酸基1当量に対して、ジハロゲン化物のハロゲン原子が0.2~2当量となる割合が好ましく、0.8~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0093】
有機溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等を好ましく使用することができる。有機溶媒の使用量は、モノマーの合計量100質量部に対して、400~900質量部とすることが好ましく、500~700質量部とすることがより好ましい。
【0094】
塩基としては、例えばピリジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、N-エチル-N,N-ジイソプロピルアミン、ジアザビシクロウンデセン等の3級アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムジイソプロピルアミド、ナトリウムジイソプロピルアミド、カリウムジイソプロピルアミド、t-ブチルリチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属類;を好ましく使用することができる。塩基の使用量は、ジオール化合物1モルに対して、2~4モルとすることが好ましく、2~3モルとすることがより好ましい。
【0095】
上記反応に際し、反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。ポリエーテル(P)を溶解してなる反応溶液は、例えば反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで得られる析出物を減圧下乾燥する方法、反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法等の公知の単離方法を用いて、反応溶液中に含まれるポリエーテル(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供するとよい。
【0096】
ポリエーテル(P)のGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~300,000であり、より好ましくは2,000~100,000である。ポリエーテル(P)において、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは5以下であり、より好ましくは4以下である。なお、液晶配向剤の調製に使用するポリエーテル(P)は、1種のみでもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0097】
(ポリエステル)
重合体(P)としてのポリエステル(以下、「ポリエステル(P)」ともいう)は、部分構造(X)として上記式(1-1C)で表される部分構造を有することが好ましい。このようなポリエステル(P)は、ジオール化合物とジカルボン酸とを反応させることにより得ることができる。ポリエステル(P)の製造に際しては、モノマーとして、上記式(1-1C)で表される部分構造を有するジオール化合物及び上記式(1-1C)で表される部分構造を有するジカルボン酸ハロゲン化物よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく用いることができる。これらのうち、モノマーの入手容易性や重合体の合成容易性の観点から、上記式(1-1C)で表される部分構造を有するジオール化合物(すなわち特定ジオール)を用いることが好ましい。特定ジオールの具体例としては、上記式(oh-1)~式(oh-15)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【0098】
ジカルボン酸は特に制限されないが、例えばシュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、フマル酸、ムコン酸などの鎖状ジカルボン酸;シクロブタンジカルボン酸、1-シクロブテンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式構造を有するジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルプロパンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4-カルボキシ桂皮酸、p-フェニレンジアクリル酸、3,3’-[4,4’-(メチレンジ-p-フェニレン)]ジプロピオン酸、4,4’-[4,4’-(オキシジ-p-フェニレン)]二酪酸、3,4-ジフェニル-1,2-シクロブタンジカルボン酸、アゾベンゼン-4,4’-ジカルボン酸等の芳香族環を有するジカルボン酸;等を挙げることができる。ポリエステル(P)の合成に際し、ジカルボン酸としては1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ジカルボン酸は、例えば塩化チオニル等の適当な塩素化剤を用いて酸クロリド化した後にジオール化合物と反応させることが好ましい。
【0099】
ジオール化合物とジカルボン酸ジハロゲン化物との反応は、好ましくは塩基の存在下、有機溶媒中において行われる。上記反応におけるジカルボン酸ジハロゲン化物とジオール化合物との使用割合は、ジオール化合物の水酸基1当量に対して、ジカルボン酸ジハロゲン化物の基「-COX(Xはハロゲン原子)」が0.2~2当量となる割合が好ましい。このときの反応温度は、0℃~200℃とすることが好ましく、反応時間は0.5~48時間とすることが好ましい。反応に使用する有機溶媒及び塩基は、ポリエーテル(P)の合成で使用することができる化合物と同様のものが挙げられる。なお、ポリエステル(P)を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリエステル(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に用いてもよい。
【0100】
ポリエステル(P)の溶液粘度は、これを濃度10質量%の溶液としたときに、5~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、10~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、ポリエステル(P)の溶液粘度(mPa・s)は、ポリエステル(P)の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。ポリエステル(P)につき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。
【0101】
本開示の液晶配向剤における重合体(P)の含有量は、液晶配向剤に含まれる固形分(液晶配向剤の溶媒以外の成分)100質量部に対して、15質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上が更に好ましい。
また、重合体(P)の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上が更に好ましい。なお、重合体(P)としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0102】
<化合物(A)>
化合物(A)は、オキシラニル基、オキセタニル基、環状カーボネート基、ヒドロキシ基、保護されたヒドロキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基及び重合性炭素-炭素不飽和結合基よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「架橋性基F1」ともいう)を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物である。化合物(A)は、重合体(P)が有する官能基と反応して、又は化合物(A)同士が反応することにより、液晶配向膜の力学的強度を高めることに有効である。これにより、ラビング耐性が高い有機膜を形成することができる。また、本開示の液晶配向膜を用いて得られる液晶配向膜は低プレチルト角特性が良好であり、また高い透過性を示す液晶素子を得ることができる。
【0103】
架橋性基F1について、保護されたヒドロキシ基及び保護されたメルカルト基は、酸素原子又は硫黄原子に結合する脱離性基を有する。当該脱離性基は、熱により脱離して水素原子に置き換わる1価の基(すなわち熱脱離性基)であることが好ましい。酸素原子又は硫黄原子に結合する熱脱離性基は、液晶配向剤の保存安定性及び塗布性を良好にする観点から、室温(25℃)では脱離しないことが好ましい。更に詳細には、熱脱離性基は、80℃以下では脱離しない基であることが好ましく、110℃以下では脱離しない基であることがより好ましく、130℃以下では脱離しない基であることが更に好ましい。
【0104】
酸素原子又は硫黄原子に結合する脱離性基としては、例えば、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、トリチル基等のエーテル系脱離性基;メトキシメチル基、エトキシエチル基、2-テトラヒドロピラニル基等のアセタール系脱離性基;アセチル基、ピバロイル基、トリクロロアセチル基等のアシル系脱離性基;アリル基、メタリル基等のアリル系脱離性基;tert-ブトキシカルボニル基等のカルバメート系脱離性基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のシリルエーテル系脱離性基が挙げられる。熱による脱離しやすさと保存安定性との両立を図る観点から、酸素原子又は硫黄原子に結合する脱離性基は、エーテル系脱離性基、アセタール系脱離性基、カルバメート系脱離性基又はアセチル基が好ましく、炭素数4~7のアルキル基、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル、tert-ブトキシカルボニル基又はアセチル基(以下、「Ac」と略記することがある)がより好ましく、2-テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル又はアセチル基が更に好ましい。
【0105】
ヒドロキシ基及び保護されたヒドロキシ基は、アルキル鎖に結合していることが好ましい。架橋性基F1としてのヒドロキシ基及び保護されたヒドロキシ基は、反応性が高い点で中でも、ヒドロキシアルキルアミド基又は保護されたヒドロキシアルキルアミド基を構成するヒドロキシ基又は保護されたヒドロキシ基として化合物(A)に導入されていることが好ましい。
【0106】
架橋性基F1としてのアミノ基としては、1級アミノ基(-NH)、2級アミノ基(-NH-)及び-CO-NH-NH中の-NHが挙げられる。アミノ基は鎖状構造に結合していてもよく、環の一部を構成していてもよい。保護されたアミノ基は、上述したアミノ基における1個又は2個の水素原子が脱離性基に置き換えられてなる基であることが好ましい。
【0107】
保護されたアミノ基は、窒素原子に結合する脱離性基として熱脱離性基を有することが好ましい。当該脱離性基についても同じく、室温では脱離しないことが好ましく、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは130℃以下では脱離しない基であることが好ましい窒素原子に結合する熱脱離性基の具体例としては、カルバメート系脱離性基、アミド系脱離性基、イミド系脱離性基、スルホンアミド系脱離性基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点で、カルバメート系脱離性基が好ましく、その具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-シアノエチルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱保護した構造に由来する化合物の膜中における残存量を少なくできる点で、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)が特に好ましい。
【0108】
保護されたイソシアネート基は、熱脱離性基によって保護されていることが好ましい。保護されたイソシアネート基を得るための試薬(ブロック剤)としては公知のものを使用できる。ブロック剤の具体例としては、例えば、アルコール類、フェノール類、活性メチレン類、メルカプタン類、酸アミド類、酸イミド類、イミダゾール系類、ピラゾール類、尿素類、オキシム類、アミン類、イミン類、ピリジン類等が挙げられる。膜形成時の加熱によって脱離した基に由来する成分が膜中に残存することを抑制する観点から、熱脱離性基の炭素数は1~10が好ましく、1~6がより好ましい。
【0109】
重合性炭素-炭素不飽和結合基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、3-メチレンテトラヒドロフラン-2(3H)-オン-5-イル基等が挙げられる。これらのうち、架橋性基F1としての重合性炭素-炭素不飽和結合基は、反応性が高い点で(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0110】
化合物(A)が有する架橋性基F1の数は、ラビング耐性及び低プレチルト角特性に優れた液晶配向膜を形成する観点から、3個以上が好ましく、4個以上がより好ましい。また、液晶素子の液晶配向性や透過性の低下を抑制する観点から、化合物(A)が有する架橋性基F1の数は、10個以下が好ましく、8個以下がより好ましい。
化合物(A)の分子量は、1,000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下が更に好ましい。
【0111】
化合物(A)は分子内に芳香環を有しない。すなわち、化合物(A)は、鎖状構造のみからなる化合物(すなわち鎖状化合物)であるか、又は環構造としては非芳香族環のみを有する環状化合物である。環状化合物は、環構造と共に鎖状構造を有していてもよい。
【0112】
化合物(A)の好ましい具体例としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化22】
(式(2)中、Bは、オキシラニル基、オキセタニル基、環状カーボネート基、ヒドロキシ基、保護されたヒドロキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基又は重合性炭素-炭素不飽和結合基である。Rは、鎖状構造、脂環式構造、脂肪族複素環構造又はこれらのうち2つ以上の組み合わせからなるm価の基である。mは2~10の整数である。式中の複数のBは互いに同一又は異なる。)
【0113】
が鎖状構造を有する場合、当該鎖状構造としては、炭素数1~30のm価の飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、当該鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、窒素原子、-CO-、-COO-、-NR10-、-CO-NR10-、-NR10-CO-O-、-NR10-CO-NR11-又は-CO-NR10-NR11-を含むm価の基(ただし、R10及びR11は、互いに独立して、水素原子又は1価の有機基である。以下同じ。)が挙げられる。
【0114】
が脂環式構造を有する場合、当該脂環式構造としては、炭素数3~20の単環の飽和脂環式炭化水素、単環の不飽和脂環式炭化水素又は脂環式多環炭化水素から任意の水素原子を除いた基が挙げられる。これら脂環式炭化水素の具体例としては、単環の飽和脂環式炭化水素として、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロオクタン等を;単環の不飽和脂環式炭化水素として、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びシクロデセン等を;多環の脂環式炭化水素として、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナン)、ビシクロ[2.2.2]オクタン、トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン(アダマンタン)、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカン等を、それぞれ挙げることができる。これらの環は置換基を有していてもよい。当該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アセチル基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0115】
が脂肪族複素環構造を有する場合、当該脂肪族複素環構造としては、脂環式構造として例示した炭素数3~20の単環の飽和脂環式炭化水素、単環の不飽和脂環式炭化水素又は脂環式多環炭化水素の炭素-炭素結合間に-O-、-S-、窒素原子、-CO-、-COO-、-NR10-、-CO-NR10-、-NR10-CO-O-、-NR10-CO-NR11-、-CO-NR10-NR11-又はシロキサン結合を含む基が挙げられる。その具体例としては、例えば、ピペリジン構造、ピペラジン構造、ヘキサメチレンイミン構造、モルホリン構造、イソシアヌル酸構造、環状シロキサン構造、環状ウレア構造等が挙げられる。これらの環は置換基(例えば、脂環式構造の説明において例示した基)を有していてもよい。
【0116】
上記式(2)において、Bの各基の具体例及び好ましい例については、上述した架橋性基F1として説明した基が挙げられる。
mは、2~10であり、2~8が好ましく、3~8がより好ましい。
【0117】
化合物(A)の具体例としては、オキシラニル基又はオキセタニル基を有する化合物として、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-シクロヘキシルアミン、下記式(a1-1)又は式(a1-2)で表される化合物等を;
環状カーボネート基を有する化合物として、下記式(a2-1)~式(a2-3)のそれぞれで表される化合物等を;
ヒドロキシ基又は保護されたヒドロキシ基を有する化合物として、下記式(a3-1)~式(a3-15)のそれぞれで表される化合物等を;
メルカプト基又は保護されたメルカプト基を有する化合物として、下記式(a4-1)~式(a4-2)のそれぞれで表される化合物等を;
アミノ基又は保護されたアミノ基を有する化合物として、下記式(a5-1)~式(a5-15)のそれぞれで表される化合物等を;
保護されたイソシアネート基を有する化合物として、下記式(a6-1)~式(a6-5)のそれぞれで表される化合物等を;
重合性炭素-炭素不飽和結合基を有する化合物として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、下記式(a7-1)~式(a7-8)のそれぞれで表される化合物等を、挙げることができる。
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
(式(a6-1)及び式(a6-2)中、R23は、tert-ブトキシ基である。)
【化32】
【化33】
【0118】
化合物(A)の含有量は、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることが更に好ましい。化合物(A)の含有量を上記範囲とすることにより、液晶配向膜の力学的強度を十分に高くでき、ラビング処理による膜の削れを抑制でき、輝点発生や配向不良の発生を抑制できる点で好適である。また、化合物(A)の含有量は、過剰量の添加による液晶配向膜の力学的強度の低下を抑制する観点から、液晶配向剤に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。なお、化合物(A)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0119】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、必要に応じて、重合体(P)及び化合物(A)以外の成分(その他の成分)を更に含有していてもよい。その他の成分としては、重合体(P)とは異なる重合体(以下、「その他の重合体」ともいう)、溶剤等が挙げられる。
【0120】
(その他の重合体)
その他の重合体は、部分構造(X)を有しない重合体であればよく、その主骨格は特に限定されない。その他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリアセタール、付加重合体、ポリエーテル等が挙げられる。付加重合体としては、例えば、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。重合体(B)は、これらのうち、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエステル及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種とすることが好ましい。その他の重合体を構成する単量体としては、公知の単量体を使用でき、例えば、上述した単量体のうち部分構造(X)を有しない単量体が挙げられる。
【0121】
その他の重合体を液晶配向剤に含有させる場合、その他の重合体の含有量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分(すなわち、重合体(P)とその他の重合体との合計量)100質量部に対して、95質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下が更に好ましく、60質量部以下がより更に好ましい。なお、その他の重合体としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0122】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)及び化合物(A)、並びに必要に応じて任意に配合される成分が、好ましくは溶剤に溶解された液状の組成物として調製される。溶剤は有機溶媒が好ましく、例えば、非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。
【0123】
使用する有機溶媒の具体例としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ダイアセトンアルコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、3-メトキシ-1-ブタノール等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0124】
その他の重合体及び溶剤以外のその他の成分の具体例としては、官能性シラン化合物(例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等)、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。これらの成分の含有量は、本開示の効果を損なわない範囲内において各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0125】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択され得る。液晶配向剤の固形分濃度は、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜を得ることができる傾向がある。また、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、また、液晶配向剤の粘性を適度に高くでき、塗布性を良好にできる傾向がある。
【0126】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を有する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されない。動作モードとしては、例えば、TN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等が挙げられる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0127】
<工程1:塗膜の形成>
工程1は、本開示の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程である。製造効率や均一性の高い膜を形成する観点から、工程1では、基板上に液晶配向剤を塗布し、塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成することが好ましい。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等の樹脂からなる透明基板を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極(櫛歯状電極)が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。なお、FFS型の場合には、櫛歯状電極と共に面電極が設けられている基板を用いる。透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜等を用いることができる。基板への液晶配向剤の塗布は、基板面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0128】
工程1において、一対の基板における各基板に塗布する液晶配向剤は、基板間で同一組成であってもよく、異なる組成であってもよい。例えば、第1基板及び第2基板により構成される一対の基板につき、第1基板及び第2基板の両方に本開示の液晶配向剤(すなわち、重合体(P)及び化合物(A)を含有する液晶配向剤)を塗布して塗膜を形成してもよい。あるいは、第1基板及び第2基板のうち一方の基板に本開示の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成し、他方の基板に、重合体(P)を含有しない液晶配向剤を塗布して塗膜を形成してもよい。これらのうち、一対の基板のそれぞれに対し本開示の液晶配向剤により液晶配向膜を形成することにより、駆動電圧がより低く、かつ透過率がより高い液晶素子を得ることができる。また、一対の基板のうち一方の基板に対し、本開示の液晶配向剤により液晶配向膜を形成し、他方の基板に対し、重合体(P)を含有しない液晶配向剤により液晶配向膜を形成することにより、液晶の応答速度がより速い液晶素子を得ることができる。
【0129】
したがって、液晶素子に対する電圧印加時の液晶の応答速度と、電圧印加状態から電圧印加の解除に切り替えた際の液晶の応答速度との両方が速いことが要求される液晶素子では、一対の基板のうち片側の基板に形成する液晶配向膜を本開示の液晶配向剤により形成することが好ましい。また、液晶分子を基板に対し垂直に配向させて表示を行う液晶素子(TN型、VA型等)では、液晶の初期配向方位を安定させるために、一対の基板のうち片側の基板に形成する液晶配向膜を本開示の液晶配向剤により形成することが好ましい。一対の基板における片側にのみ本開示の液晶配向剤を適用することで、異常ドメイン等の発生を抑制しながら、液晶の応答速度が速く、かつより低電圧で駆動する液晶素子を実現することができる。
【0130】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、塗布した液晶配向剤中の溶剤を除去すること等を目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~250℃であり、より好ましくは80~200℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の厚みは、好ましくは0.001~1μmである。
【0131】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記の工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理や、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等を用いることができる。一方、垂直配向(VA)型の液晶素子を製造する場合には、工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜はPSA型の液晶素子にも好適である。本開示の液晶配向剤により形成される有機膜は力学的強度が高く、ラビング処理を行った場合にも膜の削れ等の発生が少ない。そのため、工程2では、工程1で形成した塗膜にラビング処理を施して液晶配向能を付与することが好ましい。すなわち、本開示の液晶配向剤はラビング配向膜形成用の重合体組成物として特に好適である。
【0132】
<工程3:液晶セルの構築>
続く工程3では、上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、2枚の基板間に液晶配向膜に隣接して液晶が配置されるように液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、2枚の基板間に液晶と共に光重合性化合物を配置することにより液晶セルを構築し、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0133】
上記のようにして製造された液晶セルに対しては、必要に応じて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせてもよい。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板、又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0134】
本開示の液晶素子は、要求する機能を液晶の特性により実現する各種用途のデバイスに有効に適用することができる。具体的には、例えば、液晶テレビ、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、ホログラム表示装置、各種モニター、インフォメーションディスプレイ等の各種の液晶表示装置や、電子ペーパー、調光ガラス、調光フィルム、位相差フィルム、液晶レンズ、液晶アンテナ、液晶シャッター等に適用することができる。
【0135】
以上説明した本開示によれば、次の手段が提供される。
〔手段1〕上記式(1)で表される構造(ただし、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基中のフルオレン環を除く。)における環部分から1個以上の水素原子を除いて構成される部分構造を有する重合体(P)と、オキシラニル基、オキセタニル基、環状カーボネート基、ヒドロキシ基、保護されたヒドロキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、アミノ基、保護されたアミノ基、保護されたイソシアネート基及び重合性炭素-炭素不飽和結合基よりなる群から選択される少なくとも1種を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物(A)と、を含有する、液晶配向剤。
〔手段2〕 前記重合体(P)は、上記式(1-1)で表される部分構造及び上記式(1-2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、〔手段1〕に記載の液晶配向剤。
〔手段3〕 前記重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエステル及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段4〕 前記重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であり、上記式(1-1A)で表される部分構造及び上記式(1-2A)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、〔手段1〕~〔手段3〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段5〕 前記重合体(P)は、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するジアミン及び上記式(1-2A)で表される部分構造を有するジアミンよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を含む、〔手段4〕に記載の液晶配向剤。
〔手段6〕 前記重合体(P)は、上記式(1-1A)で表される部分構造を有するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含む、〔手段4〕又は〔手段5〕に記載の液晶配向剤。
〔手段7〕 前記重合体(P)は、脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含む、〔手段4〕~〔手段6〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段8〕 前記重合体(P)は付加重合体であり、上記式(1-1B)で表される部分構造及び上記式(1-2B)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段9〕
前記重合体(P)はポリエーテルであり、上記式(1-1C)で表される部分構造を有する、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段10〕 前記重合体(P)はポリエステルであり、上記式(1-1C)で表される部分構造を有する、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段11〕 上記式(1)で表される構造の環部分から1個以上の水素原子を除いて構成される部分構造を有する構造単位を、前記重合体(P)を構成する全構造単位に対して30モル%以上含む、〔手段1〕~〔手段10〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段12〕 前記重合体(P)とは異なる重合体を更に含有する、〔手段1〕~〔手段11〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段13〕 前記化合物(A)は、上記式(2)で表される、〔手段1〕~〔手段12〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段14〕 〔手段1〕~〔手段13〕のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜にラビング処理を施して液晶配向能を付与する工程と、を含む、液晶配向膜の製造方法。
〔手段15〕 〔手段1〕~〔手段13〕のいずれかに記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
〔手段16〕 〔手段15〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
〔手段17〕 一対の基板を備え、前記一対の基板のうち一方の基板に、〔手段1〕~〔手段13〕のいずれかに記載の液晶配向剤により液晶配向膜が形成されており、他方の基板に、前記重合体(P)を含有しない液晶配向剤により液晶配向膜が形成されている、〔手段16〕に記載の液晶素子。
〔手段18〕 一対の基板を備え、前記一対の基板のそれぞれに、〔手段1〕~〔手段13〕のいずれかに記載の液晶配向剤により液晶配向膜が形成されている、〔手段16〕に記載の液晶素子。
【実施例0136】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0137】
以下の例において、重合体の溶液粘度、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)、並びにポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。
<重合体の溶液粘度>
重合体の溶液粘度は、E型粘度計を用いて25℃において測定した。
<重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でMw及びMnを測定した。分子量分布(Mw/Mn)は、得られたMw及びMnより算出した。
装置:昭和電工(株)の「GPC-101」
GPCカラム:(株)島津ジーエルシー製の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を結合
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
<ポリイミドのイミド化率>
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(β/(β×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、βは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、βはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0138】
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示すことがある。式中の「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基を表す。
【0139】
<テトラカルボン酸二無水物>
【化34】
【化35】
【0140】
<ジアミン化合物>
【化36】
【化37】
【化38】
【0141】
<重合性不飽和結合を有する単量体>
【化39】
【0142】
<ジオール化合物>
【化40】
【0143】
<添加剤>
【化41】
【化42】
【0144】
<重合体の合成>
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1-1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TB-3)100モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-1)100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸(これを重合体(PI-1)とする)を20質量%含有する溶液を得た。
【0145】
[合成例1-4~1-25]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表1に記載のとおり変更した以外は合成例1-1と同様の操作を行い、ポリアミック酸(重合体(PI-4)~(PI-25)を得た。なお、表1中、テトラカルボン酸二無水物の数値は、重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル比)を表す。ジアミン化合物の数値は、重合体の合成に使用したジアミン化合物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル比)を表す。
【0146】
2.ポリイミドの合成
[合成例1-2]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TB-1)50モル部及び化合物(TB-3)50モル部、並びにジアミン化合物として化合物(DA-2)80モル部及び化合物(DB-2)20モル部をNMPに溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して80℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約50%のポリイミド(これを重合体(PI-2)とする)を15質量%含有する溶液を得た。
【0147】
[合成例1-3、1-26]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表1に記載のとおり変更した以外は合成例1-2と同様の操作を行い、ポリイミド(重合体(PI-3)、重合体(PI-26))を得た。
【0148】
【表1】
【0149】
3.付加重合体の合成
[合成例2-1]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーの合計100モル部に対し、化合物(M-1)85モル部、化合物(M-5)7.5モル部及び化合物(M-6)7.5モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を重合モノマーの合計量100質量部に対して10質量部、並びに溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を重合モノマーの合計量100質量部に対して400質量部を加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで、目的の付加重合体(これを重合体(PM-1)とする)を得た。
【0150】
[合成例2-2~2-5]
使用する重合モノマーの種類及び量を表2に記載のとおり変更した以外は合成例2-1と同様の操作を行い、付加重合体(重合体(PM-2)~(PM-5))を得た。
【0151】
【表2】
【0152】
4.ポリエステルの合成
[合成例3-1]
撹拌装置を付した500mLの三ツ口フラスコに、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン(化合物(E-1))3.0g、水酸化ナトリウム0.7g、テトラブチルアンモニウムブロミド1.0g及び水100mLを入れ、室温で30分撹拌した。ここに二塩化アジポイル1.56gの1,2-ジクロロエタン30mL溶液を投入し、15分間激しく撹拌した。撹拌を緩め、ヘプタン100mLを加えてポリマーを析出させ、ろ過により液体成分を除去した。次に、得られた固体成分をビーカーに移して水100mLを加え、撹拌・洗浄した後ろ過して乾燥することで、目的のポリエステル(これを重合体(PS-1)とする)を得た(収量3.9g)。
【0153】
5.ポリエーテルの合成
[合成例4-1]
3Lの4つ口フラスコに、2,6-ジフルオロベンゾニトリル35.12g(0.253mol)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(化合物(E-1))87.60g(0.250mol)、炭酸カリウム41.46g(0.300mol)、N,N-ジメチルアセトアミド443g、及びトルエン111gを添加した。続いて、4つ口フラスコに温度計、撹拌機、窒素導入管付き三方コック、Dean-Stark管及び冷却管を取り付けた。次いで、フラスコ内を窒素置換した後、得られた溶液を140℃で3時間反応させ、生成する水をDean-Stark管から随時取り除いた。水の生成が認められなくなったところで、徐々に温度を160℃まで上昇させ、そのままの温度で6時間反応させた。室温(25℃)まで冷却後、生成した塩をろ紙で除去し、ろ液をメタノールに投じて再沈殿させ、ろ別によりろ物(残渣)を単離した。得られたろ物を60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末(これを重合体(PE-1)とする)を得た(収量95.67g、収率95%)。
【0154】
[合成例4-2~4-4]
使用するモノマーの種類及び量を表3に記載のとおり変更した以外は合成例4-1と同様の操作を行い、ポリエーテル(重合体(PE-2)~(PE-4))を得た。なお、表3中、「F-1」は2,6-ジフルオロベンゾニトリルを表す。表3中、ジオール化合物の数値は、重合体の合成に使用したジオール化合物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル比)を表す。ジハロゲン化物の数値は、重合体の合成に使用したジハロゲン化物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル比)を表す。
【0155】
【表3】
【0156】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1]
1.液晶配向剤の調製
合成例1-1で得た重合体(PI-1)100質量部を含む溶液に、化合物(AD-1)10質量部を加え、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びブチルセロソルブ(BC)により希釈し、溶剤組成がNMP/BC=70/30(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0157】
2.ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にポジ型液晶を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方向が反平行となるようにした。
【0158】
3.低プレチルト角特性の評価
上記2.で製造した液晶セルにつき、非特許文献「T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo. 19, p. 2013(1980)」に記載の方法に準拠して、He-Neレーザー光を用いる結晶回転法により液晶分子の基板面からの傾き角の値を測定し、これをプレチルト角とした。プレチルト角の測定値が0.3度未満の場合に「良好(○)」、0.3度以上0.5度未満の場合に「可(△)」、0.5度以上の場合に「不可(×)」とした。その結果、この実施例の低プレチルト角特性の評価は「良好(○)」であった。
【0159】
4.ラビング耐性の評価
上記1.で調製した液晶配向剤(AL-1)をガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成し、ヘイズメーター(hazemeter)を用いて塗膜のヘイズ値を測定した。次いで、この塗膜に対し、コットン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を5回実施した。その後、ヘイズメーターを用いて液晶配向膜のヘイズ値を測定し、下記数式(3)によりラビング処理前のヘイズ値との差(ヘイズ変化値)を計算した。
ヘイズ変化値(%)=〔ラビング処理後の膜のヘイズ値(%)〕-〔ラビング処理前の膜のヘイズ値(%)〕 …(3)
液晶配向膜のラビング耐性につき、ヘイズ変化値が0.5未満であった場合を「優良(◎)」、ヘイズ変化値が0.5以上0.8未満であった場合を「良好(○)」、ヘイズ変化値が0.8以上1.0未満であった場合を「可(△)」、ヘイズ変化値が1.0以上であった場合を「不良(×)」と評価した。ヘイズ変化値が1.0未満(より好ましくは0.5未満)であれば膜強度が十分に高く、ラビング耐性に優れているといえる。その結果、この実施例ではラビング耐性「優良(◎)」であった。
【0160】
5.駆動閾値電圧及び輝度最大電圧の評価
光軸が合うように白色LEDバックライトと輝度計をセットした。白色LEDバックライトと輝度計との間に、輝度が最も小さくなるように偏光板を取り付けた液晶セル(液晶表示素子)をセットし、1V間隔で6Vまで電圧を印加し、印加電圧に対する輝度を測定することでV-Tカーブを得た。得られたV-Tカーブから、駆動閾値電圧と、輝度が最大になる電圧(輝度最大電圧)の値を見積もった。
駆動閾値電圧については、最大輝度に対して5%の輝度を発現する電圧が1.3V未満であった場合を「良好(○)」、1.3V以上1.5V未満であった場合を「可(△)」、1.5V以上であった場合を「不良(×)」とした。また、輝度最大電圧については、4.5V未満であった場合を「良好(○)」、4.5V以上5.0V未満であった場合を「可(△)」、5.0V以上であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では、駆動閾値電圧及び輝度最大電圧は共に「良好(○)」と判断された。
【0161】
6.セル透過率の測定
(1)液晶セルの作製
上記2.の「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」で用いた製造方法において、第1基板、第2基板を共に、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板に変更した以外は同様の方法により液晶セルを作製した。
(2)透過率測定
上記(1)で作製した液晶セルについて、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、品名「V-670」)を用いて、紫外・可視光領域の吸収スペクトルを測定した。なお、液晶セルへの入射角は0°とした。波長380~800nmにおける透過率の平均値が89%以上であった場合を「良好(○)」、88%以上89%未満であった場合を「可(△)」、88%未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では、セル透過率「良好(○)」と判断された。
【0162】
7.液晶配向性の評価
上記2.で製造した液晶セルにつき、電圧をオン・オフ(印加・解除)したときの明暗の変化により異常ドメインの有無を顕微鏡(倍率50倍)で観察し、液晶配向性を評価した。このとき、異常ドメインが観察されない場合を「良好(○)」、異常ドメインが観察される場合を「不可(×)」とした。その結果、この実施例では、液晶配向性「良好(○)」と判断された。
【0163】
8.液晶の応答速度の評価
上記2.の「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」において製造した各液晶セルを、クロスニコル状態に配置した2枚の偏光板で挟持した後、ファンクションジェネレーターに接続した。ファンクションジェネレーターに接続した液晶セルをバックライト上に配置し、先ず、電圧を印加せず液晶セルを透過した光の輝度をフォトマルチメーターにて測定し、この値を相対透過率0%とした。次に、液晶セルの電極間にファンクションジェネレーターを用いて振幅±5Vの矩形波を5秒間印加したときの透過率を上記と同様にして測定し、この値を相対透過率100%とした。さらに、各液晶セルに対してファンクションジェネレーターを用いて、振幅±5Vの矩形波を印加したときに、相対透過率が10%から90%に移行するまでの時間を測定し、この時間をON状態(電圧印加時)の液晶の応答速度と定義した。また、矩形波の印加を停止し0V印加の状態に切り替えた際に、相対透過率が90%から10%に移行するまでの時間を測定し、この時間をOFF状態(電圧印加解除時)の応答速度と定義した。ON状態の応答速度及びOFF状態の応答速度のそれぞれについて、応答速度が20ms未満であった場合を「良好(○)」、20ms以上25ms未満であった場合を「可(△)」、25ms以上であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では、ON状態の応答速度及びOFF状態の応答速度は共に「良好(○)」と判断された。
【0164】
[実施例2~29、比較例1~6]
液晶配向剤の組成を表4に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL-2)~(AL-29)、(AR-1)~(AR-6)を調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。なお、部分構造(X)を有する重合体を含む液晶配向膜では、ラビング方向に対して直交する方向に液晶分子が配向する一方、部分構造(X)を有する重合体を含まない液晶配向膜では、ラビング方向に沿って液晶分子が配向する。したがって、部分構造(X)を有する重合体を用いていない比較例1~3,6では、実施例1の上記2.「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」において実施したラビング方向に対し直交する方向にラビング方向を変更して液晶セルを作製した。なお、比較例4,5では、実施例1の上記2.「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」におけるラビング方向と同じ方向をラビング方向としてラビング処理を実施し、液晶セルを製造した。
【0165】
実施例1~29及び比較例1~6の評価結果を表4に示す。なお、表4中、配向剤組成における各成分の括弧内の数値は配合量(質量部)を表す。表4中、重合体欄の略称「PM-6」は、ポリ(9-ビニルカルバゾール)(Aldrich社製、Mw=1,100,000、Tg=200℃)を表す。比較例5では、重合体(PM-6)をN-メチル-2-ピロリドン/エチレングリコールモノブチルエーテル混合溶媒(容量比1/1)に溶解し、ポリマー濃度3%の溶液として用いた。空欄部分は、その化合物を使用しなかったことを表す。
【0166】
【表4】
【0167】
表4に示すように、重合体(P)及び化合物(A)を含む液晶配向剤を用いた実施例1~29では、低プレチルト角特性、ラビング耐性、駆動電圧閾値、輝度最大電圧、セル透過率、液晶配向性及び液晶の応答速度評価のいずれも、「優良(◎)」又は「良好(○)」であり、各種特性をバランス良く改善することができた。これに対し、重合体(P)及び化合物(A)のいずれか一方又は両方を含有しない液晶配向剤を用いた比較例1~6では、不良(×)が1個以上あり、実施例1~29よりも劣る結果であった。
【0168】
[実施例30]
実施例1の上記2.「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」において、第1基板には液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、第2基板には液晶配向剤(AR-3)をスピンナーにより塗布して液晶配向膜をそれぞれ形成した点以外は同様の方法により液晶セルを作製した。なお、第2基板のラビング方向は、実施例1の上記2「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」における第2基板のラビング方向に対し直交する方向とした。また、一対の基板を重ね合わせる際には、第1基板のラビング方向に対し第2基板のラビング方向が直交するように回転させ、液晶セルを作製した。作製した液晶セルを用いて、実施例1と同様の方法により、駆動閾値電圧、輝度最大電圧、セル透過率、液晶配向性及び液晶の応答速度の評価を行った。それらの結果を表6に示す。
【0169】
[実施例31~33]
液晶配向剤の組成を表5に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ溶剤組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AR-7)、(AR-8)を調製した。また、第1基板と第2基板に製膜する液晶配向剤の組み合わせを表6に示すとおり変更した点以外は、実施例30と同様の操作を行い、評価を行った。それらの結果を表6に示す。
【0170】
[実施例34]
実施例1の上記2.「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」において、第1基板には液晶配向剤(AR-8)をスピンナーにより塗布し、第2基板には液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布して液晶配向膜をそれぞれ形成した点以外は同様の方法により液晶セルを作製した。なお、第1基板のラビング方向は、実施例1の上記2「ラビング法を用いたFFS型液晶セルの製造」における第1基板のラビング方向に対し直交する方向とした。また、一対の基板を重ね合わせる際には、第1基板のラビング方向に対し第2基板のラビング方向が直交するように回転させ、液晶セルを作製した。作製した液晶セルを用いて、実施例1と同様の方法により、駆動閾値電圧、輝度最大電圧、セル透過率、液晶配向性及び液晶の応答速度の評価を行った。それらの結果を表6に示す。
【0171】
【表5】
【0172】
【表6】
【0173】
表6に示すように、重合体(P)及び化合物(A)を含む液晶配向剤を用いた実施例30~34では、駆動電圧閾値、輝度最大電圧、セル透過率、液晶配向性及び液晶の応答速度評価のいずれも「良好(○)」又は「可(△)」であり、各種特性をバランス良く改善することができた。
【0174】
以上の結果から、重合体(P)及び化合物(A)を含む液晶配向剤によれば、ラビング耐性が高く、低プレチルト角特性が良好な液晶配向膜を得ることができるとともに、液晶の応答速度が速く、駆動電圧が低く、かつ透過率の高い液晶素子を得ることができることが明らかとなった。