(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108831
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】金属表面処理剤、金属材料の表面処理方法及び表面処理金属材料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20240805BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240805BHJP
C09D 7/47 20180101ALI20240805BHJP
C09D 133/26 20060101ALI20240805BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20240805BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240805BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240805BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240805BHJP
F28F 1/12 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C09D201/02
C23C26/00 A
C09D7/47
C09D133/26
C09D129/04
C09D7/63
B32B15/08 G
B05D7/24 301C
F28F1/12 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013427
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村川 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】本澤 正博
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 良輔
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB24Z
4D075BB92Z
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4F100AB00B
4F100AB10B
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4J038CE022
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4K044BB01
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC05
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】親水持続性、耐汚染性及び成形加工性に優れる表面処理層を形成することができる金属表面処理剤を提供する。
【解決手段】水溶性ポリマー(A)と、界面活性剤(B)と、を含む金属表面処理剤であって、前記水溶性ポリマー(A)が、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットとスルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットとを含む共重合体であり、酸価が200~500mgKOH/gであり、前記共重合体中の全モノマーユニットに対する、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットのモル分率が20mol%以上50mol%以下、スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットのモル分率が50mol%以上80mol%以下であり、前記界面活性剤(B)が、アニオン性界面活性剤及びHLBが13以上のノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも一種を含む、金属表面処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマー(A)と、界面活性剤(B)と、を含む金属表面処理剤であって、
前記水溶性ポリマー(A)が、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットとスルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットとを含む共重合体であり、酸価が200~500mgKOH/gであり、前記共重合体中の全モノマーユニットに対する、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットのモル分率が20mol%以上50mol%以下、スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットのモル分率が50mol%以上80mol%以下であり、
前記界面活性剤(B)が、アニオン性界面活性剤及びHLBが13以上のノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも一種を含む、
金属表面処理剤。
【請求項2】
前記水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量が14,000~300,000であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である多分散度(Mw/Mn)が1.5~5.0である、請求項1に記載の金属表面処理剤。
【請求項3】
さらに、ポリビニルアルコール及びポリアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種の水溶性ポリマー(C)を含み、前記水溶性ポリマー(A)と前記水溶性ポリマー(C)の含有量の質量比(A/C)が、0.1~10である、請求項1に記載の金属表面処理剤。
【請求項4】
前記水溶性ポリマー(A)中の前記スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基(a)と前記水溶性ポリマー(C)の含有量の質量比(a/C)が、0.01~3.0である、請求項3に記載の金属表面処理剤。
【請求項5】
さらに、HLBが13未満のアルキレンオキシド付加物(D)を含有する、請求項1に記載の金属表面処理剤。
【請求項6】
前記水溶性ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(C)の合計含有量に対する前記界面活性剤(B)の含有量の質量比(B/(A+C))が、0.002~0.25である、請求項3に記載の金属表面処理剤。
【請求項7】
(i)請求項1~6のいずれか一項に記載の金属表面処理剤を金属材料の表面に接触させる工程と、
(ii)前記工程(i)の後に、前記金属表面処理剤を接触させた金属材料を乾燥して表面処理層を形成する工程と、
を含む、金属材料の表面処理方法。
【請求項8】
(iii)前記工程(i)の前に、下地防錆処理剤を金属材料の表面に接触させる工程と、
(iv)前記工程(iii)の後であって、前記工程(i)の前に、前記下地防錆処理剤を接触させた金属材料を乾燥し、下地防錆処理層を形成する工程と、
を含む、請求項7に記載の金属材料の表面処理方法。
【請求項9】
前記下地防錆処理剤がアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種のポリマーであって、酸価が5~50mgKOH/gであるポリマー、並びに、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する架橋剤を含む、請求項8に記載の金属材料の表面処理方法。
【請求項10】
請求項7に記載の金属材料の表面処理方法によって形成された前記表面処理層を有する表面処理金属材料であって、前記表面処理層の皮膜量が0.05g/m2以上20g/m2以下である、表面処理金属材料。
【請求項11】
請求項8に記載の金属材料の表面処理方法によって形成された前記下地防錆処理層及び前記表面処理層を有する表面処理金属材料であって、前記下地防錆処理層の皮膜量が0.5g/m2以上5.0g/m2以下、前記表面処理層の皮膜量が0.05g/m2以上20g/m2以下、である表面処理金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面処理剤、金属材料の表面処理方法及び表面処理金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調機や自動車用のエアコンディショナーに用いられる熱交換器は、アルミニウム含有金属材料で形成されることが多い。プレートフィン式やフィンアンドチューブ式の熱交換器は、熱交換効率を高めるため通風する部位の金属材料(一般にフィンと呼ばれる)間の間隔を非常に狭く設計している。このため、エアコンディショナーを稼動(冷却)した際に露点以下となった空気中の水分が結露水としてフィン上に付着し、フィン間を閉塞させる。フィン間が閉塞すると、通風抵抗の増大により熱交換効率が低下し、エアコンディショナー本来の性能が得られなくなることもある。
【0003】
また、熱交換器の通風部に用いられるフィンは、アルミニウム薄板から成形されることが多い。この成形は張出し、絞り、しごき、打ち抜き、穴拡げ、曲げ、コルゲート加工、ルーバー加工などが組み合わさったもので非常に高度の成形性を要する。
【0004】
これらの問題を解消する方法として、フィン表面に親水性の表面処理層を形成し、付着した結露水を薄い水膜として流下させ、結露水による通風抵抗の増大を抑制する方法が提案、実施されている。従来、様々な親水性表面処理が提案されており、たとえば、水ガラスやコロイダルシリカ等を含む無機系、またはアクリル系樹脂やセルロース系樹脂などの親水性高分子を含む有機系の表面処理層が挙げられる。また、フィン材の成形時の金型摩耗を防ぐため、親水性表面処理層の上層には、潤滑層の被覆やプレス油の塗油が提案、実施される。
【0005】
上記親水性表面処理層を形成したフィン材を用いた熱交換器であっても、エアコンディショナーの稼働に伴って、建材、食物、生活用品等から揮発、飛散した浮遊物に由来する油性成分を主成分とする汚染物質がフィンの表面に付着し、フィン材の親水性が劣化することもある。エアコンディショナー本来の性能を維持するために、親水性を持続させることが必要である。
【0006】
フィン材表面に形成される親水性表面処理層に様々な付加機能が提案されている。たとえば、特許文献1、2では耐汚染性に優れる表面処理剤に関する技術が提案されている。具体的には、特許文献1には、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板材と、該板材上に形成されたポリビニルアルコールを含む水系塗料からなる焼付耐食層と、該焼付耐食層上に形成された親水性焼付塗膜とを具備し、該親水性焼付塗膜が、アルミナゾルに含まれるアルミナ粒子とスルホン酸を含む水溶性アクリル樹脂とポリエチレングリコールを含み、水に可溶な硫黄成分が0.5mg/m2以下であり、塗膜量が0.3~0.8g/m2であり、前記焼付耐食層の塗膜量が0.2g/m2以上であり、前記焼付耐食層に着色用の顔料が含まれていることを特徴とする親水性焼付塗膜が記載されている。特許文献2には、アルミニウム板と、前記アルミニウム板上に形成された親水性皮膜層と、をこの順に備え、前記親水性皮膜層は、重合体又は共重合体である樹脂Aと、Zr系架橋剤と、を含む樹脂組成物からなり、前記樹脂Aの重合体又は共重合体は、少なくとも、スルホン酸基、スルホン酸のアルカリ金属塩基、及びスルホン酸のアンモニウム塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の基を有する単量体から構成される、アルミニウム製フィン材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-113251号公報
【特許文献2】特開2021-96037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では硬度の高い無機成分を含む親水性焼付塗膜が使用される。このため、フィン材の成形時の金型摩耗を抑制するため、親水性焼付塗膜を潤滑層で被覆する必要があった。また、特許文献2に記載の親水性皮膜層は有機系であるが、親水持続性、耐汚染性の観点で改善の余地があった。
上記事情に鑑み、本発明は一実施形態において、親水持続性、耐汚染性及び成形加工性に優れる表面処理層を形成することができる金属表面処理剤を提供することを目的とする。本発明は別の一実施形態において、当該金属表面処理剤を用いた金属材料の表面処理方法を提供することを目的とする。本発明は更に別の一実施形態において、当該表面処理方法によって得られる表面処理金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットと、スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットを同一分子内に有する水溶性樹脂を、所定の界面活性剤と共に配合した金属表面処理剤が、親水持続性、耐汚染性及び成形加工性に優れた表面処理層を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に例示される。
[1]
水溶性ポリマー(A)と、界面活性剤(B)と、を含む金属表面処理剤であって、
前記水溶性ポリマー(A)が、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットとスルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットとを含む共重合体であり、酸価が200~500mgKOH/gであり、前記共重合体中の全モノマーユニットに対する、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットのモル分率が20mol%以上50mol%以下、スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットのモル分率が50mol%以上80mol%以下であり、
前記界面活性剤(B)が、アニオン性界面活性剤及びHLBが13以上のノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも一種を含む、
金属表面処理剤。
[2]
前記水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量が14,000~300,000であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である多分散度(Mw/Mn)が1.5~5.0である、前記[1]に記載の金属表面処理剤。
[3]
さらに、ポリビニルアルコール及びポリアクリルアミドから選ばれる少なくとも1種の水溶性ポリマー(C)を含み、前記水溶性ポリマー(A)と前記水溶性ポリマー(C)の含有量の質量比(A/C)が、0.1~10である、前記[1]又は[2]に記載の金属表面処理剤。
[4]
前記水溶性ポリマー(A)中の前記スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基(a)と前記水溶性ポリマー(C)の含有量の質量比(a/C)が、0.01~3.0である、前記[3]に記載の金属表面処理剤。
[5]
さらに、HLBが13未満のアルキレンオキシド付加物(D)を含有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載の金属表面処理剤。
[6]
前記水溶性ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(C)の合計含有量に対する前記界面活性剤(B)の含有量の質量比(B/(A+C))が、0.002~0.25である、前記[3]若しくは[4]に記載の金属表面処理剤、又は、[3]に従属する前記[5]に記載の金属表面処理剤。
[7]
(i)前記[1]~[6]のいずれかに記載の金属表面処理剤を金属材料の表面に接触させる工程と、
(ii)前記工程(i)の後に、前記金属表面処理剤を接触させた金属材料を乾燥して表面処理層を形成する工程と、
を含む、金属材料の表面処理方法。
[8]
(iii)前記工程(i)の前に、下地防錆処理剤を金属材料の表面に接触させる工程と、
(iv)前記工程(iii)の後であって、前記工程(i)の前に、前記下地防錆処理剤を接触させた金属材料を乾燥し、下地防錆処理層を形成する工程と、
を含む、前記[7]に記載の金属材料の表面処理方法。
[9]
前記下地防錆処理剤がアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種のポリマーであって、酸価が5~50mgKOH/gであるポリマー、並びに、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する架橋剤を含む、前記[8]に記載の金属材料の表面処理方法。
[10]
前記[7]に記載の金属材料の表面処理方法によって形成された前記表面処理層を有する表面処理金属材料であって、前記表面処理層の皮膜量が0.05g/m2以上20g/m2以下である、表面処理金属材料。
[11]
前記[8]又は[9]に記載の金属材料の表面処理方法によって形成された、前記下地防錆処理層及び前記表面処理層を有する表面処理金属材料であって、前記下地防錆処理層の皮膜量が0.5g/m2以上5.0g/m2以下、前記表面処理層の皮膜量が0.05g/m2以上20g/m2以下、である表面処理金属材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、親水持続性、耐汚染性及び成形加工性に優れた表面処理層を形成可能な金属表面処理剤を提供することができる。本発明の別の一実施形態によれば、当該金属表面処理剤を用いた金属材料の表面処理方法を提供することができる。本発明の更に別の一実施形態によれば、当該表面処理方法によって得られる表面処理金属材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、金属表面処理剤及び表面処理金属材料を含む本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、その本発明の趣旨から逸脱しない範囲で任意に変更可能であり、下記の実施形態に限定されない。尚、本明細書にて数値範囲を示す「~」は上限値及び下限値も包含する。例えば、「X~Y」はX以上Y以下であることを意味する。
【0013】
<1.金属表面処理剤>
本発明の一実施形態に係る金属表面処理剤には、水溶性ポリマー(A)と、界面活性剤(B)と、が含まれる。
【0014】
[1-1.水溶性ポリマー(A)]
水溶性ポリマー(A)は、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットとスルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットとを含む共重合体である。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、一分子中に、両方の官能基を有することで、耐汚染性及び親水持続性の向上に有意に寄与すると考えられる。
水溶性ポリマー(A)は、公知の製法に従って製造することができ、特に制限はない。一般には、スルホ基又はその塩を有するモノマーとスルホ基及びその塩以外のアニオン性の官能基を有するモノマーとを共重合することで、水溶性ポリマー(A)を製造可能である。スルホ基又はその塩を有するモノマーとして、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、N-メチレンスルホン酸アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩などの化合物が例示される。スルホ基及びその塩以外のアニオン性の官能基としては、例えば、カルボキシル基、ホスホン酸基、リン酸基及びこれらの塩が挙げられる。スルホ基及びその塩以外のアニオン性の官能基を有するモノマーには、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メタクリル酸2-(ホスホノオキシ)エチル、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸等の不飽和酸類又はその塩などの化合物が例示される。水溶性ポリマー(A)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
水溶性ポリマー(A)の酸価は200~500mgKOH/gであることが好ましく、200~400mgKOH/gであることがより好ましく、200~300mgKOH/gであることが更により好ましい。水溶性ポリマー(A)の酸価は、例えばスルホ基又はスルホ基以外の酸を部分中和することによって調整可能である。酸価はJIS K0070-1992に準拠して測定される。
【0016】
水溶性ポリマー(A)中の全モノマーユニットに対する、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットのモル分率(A1)は20~50mol%が好ましく、30~50mol%がより好ましく、30~40mol%が更により好ましい。スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットのモル分率(A2)は50~80mol%が好ましく、50~70mol%がより好ましく、60~70mol%が更により好ましい。前記モル分率は、水溶性ポリマー(A)の核磁気共鳴分析装置(NMR)による1H-NMRの測定結果から、以下のように算出される。下記の測定条件と同等の測定条件で測定してもよい。
1H-NMRの測定条件
測定機:JNM-ECX400(日本電子株式会社製)
プローブ:40TH5AT/FG2D-5mm(Broadband Gradient
Tunable Probe)
測定各種:1H
測定溶媒:重水
積算回数:16回
得られたスペクトル中の各ピークは、以下のように帰属する。
・1.5~2.9ppmの範囲における全ピークの積分値=x+y:スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニット中のスルホ基及び/又はその塩に隣接しないメチレンプロトン及びメチンプロトン(x)、並びにスルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットのメチレンプロトン及びメチンプロトン(y)
・3.0~4.5ppmの範囲における全ピークの積分値=z:スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニット中のスルホ基及び/又はその塩に隣接するメチレンプロトン及びメチンプロトン(z)
尚、x及びyのケミカルシフトは重複する為、スルホ基及び/又はその塩を有するモノマーユニットの構造に基づきzの積分値からxを算出し、スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットのyを求める。x、y及びzから、各モノマーユニットのモル分率を算出する。例えば、ポリマー(A)が2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とアクリル酸の共重合体である場合は以下のように各モノマーユニットのモル分率が算出可能である。
xは水溶性ポリマー(A)において2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸に由来するモノマーユニットの、スルホ基に隣接しないメチレンプロトン及びメチンプロトンに由来するピークの積分値である。
yは水溶性ポリマー(A)においてアクリル酸に由来するモノマーユニットのメチレンプロトン及びメチンプロトンに由来するピークの積分値である。
zは水溶性ポリマー(A)において2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸に由来するモノマーユニットの、スルホ基に隣接するメチレンプロトン及びメチンプロトンに由来するピークの積分値である。
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の分子構造上、プロトン数を考慮すると、x/4=z/2なので、水溶性ポリマー(A)一分子中の全モノマーユニットの数に対する2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸に由来するユニットのモル分率は、一分子中のプロトン数を考慮すると、(z/2)÷(x/4+y/4)=2z/(x+y)×100(%)で表される。水溶性ポリマーA一分子中の全モノマーユニットの数に対するアクリル酸に由来するユニットのモル分率は、1-2z/(x+y)×100(%)で表される。
【0017】
水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量Mwは14,000~300,000、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの多分散度Mw/Mnは1.5~5.0が好ましい。水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量Mwは100,000~300,000、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの多分散度Mw/Mnは1.5~3.0がより好ましい。水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量Mwは100,000~200,000、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの多分散度Mw/Mnは2.0~3.0が更により好ましい。
【0018】
水溶性ポリマー(A)の重量平均分子量及び数平均分子量はGPC法により測定される。実施例における重量平均分子量の測定は以下の条件で行った。
【0019】
高速GPC装置(HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)を用いて測定し、SECカラム及びガードカラムの組み合わせにて重量平均分子量及び数平均分子量を求めた。測定は以下の条件で行った。
SECカラム:OHpak SB-804HQ(SHODEX製)
ガードカラム:OHpak SB-G 6B(SHODEX製)
検出器:RI(HLC-8320GPC内蔵検出器)
標準試料:ポリエチレングリコール
試料注入量:0.1M 塩化ナトリウム水溶液30μL
流速:0.5mL/min
溶離液:0.1M 塩化ナトリウム水溶液
【0020】
[1-2.界面活性剤(B)]
界面活性剤(B)は、アニオン性界面活性剤及びHLBが13以上のノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも一種を含む。界面活性剤(B)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。アニオン性界面活性剤及びHLBが13以上のノニオン性界面活性剤の何れも、親水性を向上するのに寄与するが、ノニオン性界面活性剤を使用することは特に成形加工性を向上させるのに有利である。
ノニオン性界面活性剤は、HLBが13以上であれば特に制限されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレン鎖(-[CH2CH2O]n-)、及び/又は、ポリオキシプロピレン鎖(-[CH2CH2CH2O]n-)等から成るアルキレンオキシド鎖と、アルキル基(CnH2n+1)とのエーテル結合で構成されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル類から選ばれることが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類から選ばれることがより好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシアルキレンイソデシルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル等が挙げられ、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしてはポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤のHLBは、典型的には13~20とすることができ、より典型的には13~16とすることができる。本明細書において、HLBはグリフィン法に基づく値を指す。
【0021】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル型、リン酸エステル型、カルボン酸型、スルホン酸型の界面活性剤が挙げられる。特に、スルホン酸型アニオン性界面活性剤から選ばれることが好ましい。スルホン酸型アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルグリセリルエーテルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0022】
[1-3.水溶性ポリマー(C)]
本発明の一実施形態に係る金属表面処理剤は、水溶性ポリマー(A)及び界面活性剤(B)に加えて、ポリビニルアルコール及びポリアクリルアミドから選ばれる少なくとも一種の水溶性ポリマー(C)を含むことができる。水溶性ポリマー(C)は、親水性の向上に寄与する。
ポリビニルアルコールは、(-CH2CH(OH)-)の繰り返し単位を含んでいる重合体を表し、公知の製法に従って製造することができ、特に制限はない。ポリビニルアルコールは、例えば、ビニルエステルをモノマーとしてラジカル重合させたポリビニルエステルの部分けん化物及び完全けん化物、ビニルエステルと他のコモノマーとのコポリマーの部分けん化物及び完全けん化物、並びにポリビニルアルコールの変性物が例示される。ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、及びカプロン酸ビニル等が例示される。これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。水溶性ポリマー(C)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
ビニルエステルと共重合されるコモノマーには、格別の限定はないが、例えば、エチレンやプロピレン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類、及びそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和酸類、その塩、そのモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類;メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;エチレンオキサイドモノアリルエーテルなどのアリル化合物類などが共重合されていてもよい。これらのコモノマーは単独で使用しても良いし、二種以上を組み合わせても良い。コポリマーを製造する際、ビニルエステルモノマー:コモノマー=95:5以下のモル比で重合することが好ましく、90:10~10:90のモル比で重合することがより好ましく、85:15~15:85のモル比で重合することが更により好ましい。
【0024】
ポリビニルアルコールのケン化度は、90mol%以上であることが好ましく、95mol%以上であることがより好ましく、特に上限は設定されず、100mol%でもよい。ポリビニルアルコールのケン化度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。
【0025】
ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、表面処理層の耐久性を高める点で5,000~200,000であることが好ましく、更には5,000~100,000であることがより好ましい。特に、ポリビニルアルコールから選ばれる1種以上で、且つけん化度が90mol%以上であるものの場合、重量平均分子量が10,000~50,000であることが更に好適である。
【0026】
ポリアクリルアミドとしては、アクリルアミド化合物のホモポリマー及びアクリルアミド化合物のコポリマーが挙げられる。アクリルアミド化合物のコポリマーには、アクリルアミドモノマーの1種以上と他のコモノマーの1種以上の共重合体が包含される。ここで用いられるコモノマーは、アクリルアミドと重合可能なアニオン性、ノニオン性、カチオン性の付加重合モノマーから選ばれ、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、N-メチレンスルホン酸アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート又はこれらの塩等のアニオン性不飽和モノマー;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、アクロイルモルホリン、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートアルキルフェニルエーテル等のノニオン性の不飽和モノマー;並びにアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N-ヒドロキシプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチルアミノエチルメタクリレート、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、N,N-ジアリルアミン、N,N-ジアリル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド等のカチオン性不飽和モノマー等から選ぶことができる。
【0027】
ポリアクリルアミドの重量平均分子量は、皮膜の耐久性を高める観点で、5,000~2,000,000であることが好ましく、更には10,000~200,000であることがより好ましく、50,000~200,000であることが更により好ましい。
【0028】
水溶性ポリマー(C)の重量平均分子量はGPC法により測定される。実施例における重量平均分子量の測定は以下の条件で行った。
【0029】
高速GPC装置(HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)を用いて測定し、SECカラム及びガードカラムの組み合わせにて重量平均分子量を求めた。測定は以下の条件で行った。
SECカラム:TSKgel SuperAWM-H(東ソー株式会社製)
ガードカラム:TSKgurdcolumn SuperAW-H(東ソー株式会社製)
検出器:RI(HLC-8320GPC内蔵検出器)
標準試料:ポリスチレン
試料注入量:0.06%DMF溶液30μL
流速:0.5mL/min
溶離液:DMF/100mM LiBr/60mM H3PO4
【0030】
[1-4.アルキレンオキシド付加物(D)]
本発明の一実施形態に係る金属表面処理剤は、水溶性ポリマー(A)及び界面活性剤(B)に加えて、HLBが13未満のアルキレンオキシド付加物(D)を含むことができる。この際、水溶性ポリマー(C)を併用してもよいし、しなくてもよい。アルキレンオキシド付加物(D)は、特に成形加工性の向上に寄与する。
アルキレンオキシド付加物(D)として、例えば、多価アルコール、高級アルコール、高級アミン又は高級脂肪酸から誘導されるものが挙げられる。具体的には、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンひまし油、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレン脂肪酸アミドなどが挙げられる。アルキレンオキシド付加物(D)としては特に、ポリオキシアルキレンひまし油及びポリオキシアルキレン硬化ひまし油に代表されるひまし油のアルキレンオキシド付加物が好ましい。アルキレンオキシド付加物は、ひまし油やグリセリン脂肪酸エステルなどの水酸基にアルキレンオキシドが付加した化合物である。アルキレンオキシドは通常2つ以上が付加した状態で結合している。アルキレンオキシドのアルキレン基の炭素数は2~4程度であり、好ましくはエチレンオキシド、プロピレンオキシドであり、特に好ましくはエチレンオキシドである。アルキレンオキシドの付加モル数は、アルキレンオキシドが付加される化合物1モルあたり、5~100の範囲が好ましく、特に好ましくは10~60の範囲である。アルキレンオキシド付加物(D)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
アルキレンオキシド付加物(D)のHLBは、例えば0以上13未満とすることができ、典型的には8以上13未満とすることができ、より典型的には10以上13未満とすることができる。先述したように、本明細書において、HLBはグリフィン法に基づく値を指す。
【0031】
[1-5.配合割合]
前記金属表面処理剤が水溶性ポリマー(C)を含む場合、水溶性ポリマー(A)と水溶性ポリマー(C)の質量比(A/C)は、0.1~10であることが好ましく、1.0~5.0であることがより好ましく、2.0~4.0であることが更により好ましい。
【0032】
前記金属表面処理剤において、水溶性ポリマー(A)中のスルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基(a)と水溶性ポリマー(C)の含有量の質量比(a/C)は、0.01~3.0であることが好ましく、0.1~1.5であることがより好ましく、0.5~1.5であることが更により好ましい。水溶性ポリマー(A)中のスルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基(a)の質量は、水溶性ポリマー(A)の質量、酸価、KOHの分子量、及びアニオン性官能基の式量に基づき算出可能である。
【0033】
前記金属表面処理剤において、水溶性ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(C)の合計含有量に対する前記界面活性剤(B)の含有量の質量比(B/(A+C))は、0.002~0.25であることが好ましく、0.01~0.1であることがより好ましく、0.01~0.07であることが更により好ましい。
【0034】
前記金属表面処理剤のHLBが13未満のアルキレンオキシド付加物(D)を含む場合、水溶性ポリマー(A)とアルキレンオキシド付加物(D)の質量比(D/A)は、0.001~1.0であることが好ましく、0.01~1.0であることがより好ましく、0.01~0.1であることが更により好ましい。
【0035】
なお、上述においては、溶媒以外の、ポリマー(A)と、界面活性剤(B)と、水溶性ポリマー(C)と、アルキレンオキシド付加物(D)の配合割合について説明したが、該金属表面処理剤によって形成される表面処理層に各種性能を付与するために、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、防錆剤、抗菌剤、抗かび剤、抗菌抗かび剤、着色剤等を本発明の趣旨、及び表面処理層の性能を損なわない限り、任意の割合でさらに配合してもよい。
【0036】
[1-6.製法]
前記金属表面処理剤は、例えば、上記の各成分を所望の割合で混合し、混合物に対して所要量の溶媒を添加し、撹拌することで調製可能である。
【0037】
金属表面処理剤に用いられる溶媒(液体媒体)は、水を主成分(例えば、全溶媒の質量を基準として水が70質量%以上)とするのが通常である。但し、塗布後の焼き付け速度の調整や、塗装状態の改善のために、メタノール、エタノール等の水溶性アルコール、アセトン等の水溶性ケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ等の水溶性溶剤の一種又は二種以上を本発明の趣旨、及び、表面処理層の性能を損なわない範囲で任意の割合で併用してもよい。
【0038】
[2.表面処理方法及び表面処理金属材料]
本発明の一実施形態に係る表面処理金属材料は、上記金属表面処理剤を用いて、金属表面に表面処理層を形成することにより得る事ができる。
【0039】
表面処理層の形成方法は一実施形態において、
(i)上記金属表面処理剤を金属材料の表面に接触させる工程と、
(ii)工程(i)の後に、該金属表面処理剤を接触させた金属材料を乾燥させる工程を含む。上記工程を含む方法であれば表面処理層の形成方法は特に制限されるものではない。上記金属表面処理剤を金属材料の表面に接触させる工程の前に、脱脂処理を行なう工程、下地防錆処理層を形成する工程等が含まれていてもよい。
【0040】
[2-1.金属材料]
上記表面処理剤を適用可能な金属材料としては、特に制限はないが、アルミニウム、鉄鋼、ステンレス、チタン、及びこれらの合金が挙げられる。上記表面処理剤は、特にアルミニウム含有金属材料に好適に適用可能である。アルミニウム含有金属材料を構成する材料は、純アルミニウムであってもよいが、アルミニウム合金であってもよい。また、上記表面処理剤は、熱交換器の材料(例えば、フィン)として使用される金属材料に対して好適に適用可能である。上記表面処理剤が適用された金属材料を用いた熱交換器は、親水性に優れているのでフィン間に水滴が滞留することがなく、熱交換効率の低下を抑制でき、延いてはエネルギー効率の改善が図れる点で有用である。
【0041】
[2-2.洗浄工程]
上記金属材料の表面は予め酸性又はアルカリ性洗浄剤で洗浄することが好ましい。使用する酸性洗浄剤の例としては、硝酸、硫酸、及びフッ酸の少なくとも一種を含有する酸性水溶液が挙げられる。アルカリ性洗浄剤の例としては、水酸化ナトリウム、珪酸ナトリウム、及びリン酸ナトリウムの少なくとも一種を含有するアルカリ水溶液を挙げることができる。洗浄性を高めるため、アルカリ水溶液に界面活性剤を添加してもよい。金属材料の洗浄方法としては、例えば、浸漬法及びスプレー法が挙げられる。
【0042】
[2-3.下地防錆処理]
洗浄工程の後に下地防錆処理を行ってもよい。下地防錆処理としては特に限定されないが、化成処理及び/又は有機防錆剤による処理などが挙げられる。このうち化成処理に使用する化成処理剤としては、例えば、従来公知のクロム酸クロメート処理剤、リン酸クロメート処理剤又はノンクロム処理剤が挙げられる。有機防錆剤としては、例えば、従来公知の樹脂プライマーが挙げられる。好適な樹脂プライマーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一種のポリマーであって、酸価が5~50mgKOH/gであるポリマーと、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する架橋剤を含む樹脂プライマーが挙げられる。エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する架橋剤としては、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド樹脂等が挙げられる。
下地防錆処理の方法は一実施形態において、
(iii)前記工程(i)の前に、下地防錆処理剤を金属材料の表面に接触させる工程と、
(iv)前記工程(iii)の後であって、前記工程(i)の前に、前記下地防錆処理剤を接触させた金属材料を乾燥し、下地防錆処理層を形成する工程と、を含む。
下地防錆処理剤を金属材料の表面に接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、浸漬法及びスプレー法が挙げられる。
下地防錆処理層の皮膜量は、0.5g/m2以上5.0g/m2以下とするのが好ましく、1.0g/m2以上3.0g/m2以下とするのがより好ましく、1.0g/m2以上2.0g/m2以下とするが更により好ましい。
【0043】
[2-4.接触工程]
上記金属表面処理剤を金属材料の表面に接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。このときの表面処理剤温度は例えば10~50℃程度とすることができる。接触時間は例えば3秒~5分程度とすることができる。
【0044】
[2-5.乾燥工程]
上記金属表面処理剤を接触させた金属材料を乾燥させる方法としては、該金属表面処理剤中の溶媒(主に水)が蒸発すれば特に制限されない。例示的には、公知の乾燥機器、例えば、オーブン、バッチ式の乾燥炉、連続式の熱風循環式乾燥炉、コンベアー式の熱風乾燥炉、IHヒーターを用いた電磁誘導加熱炉等を用いた乾燥方法等が挙げられる。乾燥温度は例えば150~250℃とすることができる。乾燥時間は例えば10秒~60分間とすることができる。
【0045】
[2-6.表面処理層の質量]
上記表面処理層を有する表面処理金属材料における該表面処理層の皮膜量は、金属材料表面における表面処理層の均一性、並びに作業性及び生産性の観点から、0.05g/m2以上20g/m2以下とすることが好ましく、0.1g/m2以上2.0g/m2以下とすることがより好ましく、0.5g/m2以上1.5g/m2以下とすることが更により好ましい。
【0046】
[2-7.後処理工程]
本発明の一実施形態に係る表面処理金属材料は、成形加工性に優れるため、後処理工程として、潤滑油接触工程又は潤滑層形成工程を必要としないが、上記表面処理層を形成後に後処理工程を実施してもよい。後工程は具体的には、金属材料の表面に有する表面処理層の上に、潤滑油を接触させたり、潤滑剤を接触させて潤滑層を形成させたりする工程である。このようにして、上記表面処理層の上に、潤滑油を接触させた、又は潤滑層を形成させた、複数の表面処理層を有する金属材料を得ることができる。なお、潤滑油や潤滑剤の接触方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ロールコート法、スプレー法、及び浸漬法等が挙げられる。
【0047】
潤滑油としては、成形加工時に使用される公知のものを用いることができる。また、潤滑層を形成するための潤滑剤としては、例えば、水溶性ポリエーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテルなどの公知の潤滑剤を用いることができる。
【0048】
以上のように、本発明の一実施形態に係る金属表面処理剤を用いて金属材料表面に表面処理層を形成することにより、親水持続性、耐汚染性、及び成型加工性を兼ね備えた表面処理材を得る事ができる。また、本発明に係る表面処理層の形成方法により、該表面処理層の上層に潤滑層を形成することなく、親水持続性と成型加工性に優れた表面処理金属材料を製造することができるので、例えば、熱交換器用プレコートフィン材の製造を効率よく行なう事が可能となる。
【実施例0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0050】
<水溶性ポリマー(A)の製造>
[合成例A1]
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた四つ口フラスコに、水150gを仕込み80℃まで昇温した。次いで、撹拌下に、水50g、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩65g及びアクリル酸35gから成る混合物と、30質量%過硫酸ナトリウム水溶液10gとを、それぞれ、3時間にわたって定量ポンプで連続的に滴下供給し、80℃で重合反応を行った。滴下終了後、更に系を80℃に保ったまま1時間熟成し、重合反応を完了した。反応液の酸価が300mgKOH/gとなるように32質量%水酸化ナトリウム水溶液で調整し、ポリマーA1を得た。先述した条件でポリマーA1の各モノマーユニットのモル分率、酸価、重量平均分子量及び多分散度を測定した(表1参照)。
【0051】
[合成例A2~19]
スルホ基含有モノマー、並びに、スルホ基及びその塩以外のアニオン性官能基を有するモノマーユニットの種類及び使用量、重合時間と酸価を変更した以外は、合成例A1と同様の操作を行い、ポリマーA2~19を得た。先述した条件でポリマーA2~19の重量平均分子量及び多分散度を測定した(表1参照)。なお、表1中のA5、A7、A17において、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が「重合前部分中和」されていると記載されているが、これは、重合前に部分的に水酸化ナトリウム水溶液で中和したことを意味する。また、表1中のA4、A16、A18において、アクリル酸が「重合後部分中和」されていると記載されているが、これは重合後に部分的に水酸化ナトリウム水溶液で中和したことを意味する。
【0052】
[合成例A20]
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた四つ口フラスコに、水150gを仕込み80℃まで昇温した。次いで、撹拌下に、水50g、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸100gと、30質量%過硫酸ナトリウム水溶液10gとを、それぞれ、3時間にわたって定量ポンプで連続的に滴下供給し、80℃で重合反応を行った。滴下終了後、更に系を80℃に保ったまま1時間熟成し、重合反応を完了した。反応液の酸価が300mgKOH/gとなるように32質量%水酸化ナトリウム水溶液で調整し、ポリマーA20を得た。先述した条件でポリマーA20の各モノマーユニットのモル分率、酸価、重量平均分子量及び多分散度を測定した(表1参照)。
【0053】
[合成例A21]
撹拌機、温度計及び還流冷却管を備えた四つ口フラスコに、水150gを仕込み80℃まで昇温した。次いで、撹拌下に、水50g、アクリル酸100gと、30質量%過硫酸ナトリウム水溶液10gとを、それぞれ、3時間にわたって定量ポンプで連続的に滴下供給し、80℃で重合反応を行った。滴下終了後、更に系を80℃に保ったまま1時間熟成し、重合反応を完了した。反応液の酸価が300mgKOH/gとなるように32質量%水酸化ナトリウム水溶液で調整し、ポリマーA21を得た。先述した条件でポリマーA21の各モノマーユニットのモル分率、酸価、重量平均分子量及び多分散度を測定した(表1参照)。
【0054】
【0055】
<界面活性剤(B)>
表2に示す界面活性剤を用意した。尚、ノニオン性界面活性剤のHLBはグリフィン法より求めた。
【0056】
【0057】
<水溶性ポリマー(C)の製造>
[合成例C1]
還流冷却器、原料投入口、温度計、加圧ガス導入口及び撹拌翼を備えた2Lオートクレーブ反応器に、加圧ガスとして窒素ガスを導入しながら酢酸ビニル50g及びメタノール80gを投入し、開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の2質量%メタノール溶液30mLを少量ずつ添加した。メタノール溶液を全量添加し終えた後、60℃に加温して重合反応を開始した。反応開始から5時間経過後に未反応の酢酸ビニルを減圧除去し酢酸ビニル樹脂メタノール溶液を調製した。得られた酢酸ビニル樹脂メタノール溶液に10質量%水酸化ナトリウム水溶液を、原料として用いた酢酸ビニル(50g)に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01になるように加え、50℃で1時間けん化した。次いで、メタノールを減圧留去し、遠心分離にて水を除き、乾燥することでけん化度98モル%のポリビニルアルコール(ポリマーC1)を得た。先述した条件で重量平均分子量を測定した(表3参照)。
【0058】
[合成例C2]
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、アクリルアミド234.6g、及びイオン交換水960gを仕込み、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。系内を40℃にし撹拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25g及び亜硫酸水素ナトリウム0.15gを投入した。90℃まで昇温し、重合反応を行った。系を90℃に保ったまま、2時間熟成し、重合反応を完了し、ポリアクリルアミド(ポリマーC2)を得た。先述した条件で重量平均分子量を測定した(表3参照)。
【0059】
【0060】
<アルキレンオキシド付加物(D)の用意>
表4に示すアルキレンオキシド付加物を用意した。D1、D2の付加モル数は、分子構造から算出可能であり、一分子中に付加されたエチレンオキシド単位(-C2H4O-)の合計数に等しい。
【0061】
【0062】
<表面処理剤の調製>
各実施例、比較例の表面処理剤X1~36は、上記で用意したポリマー(A)と、界面活性剤(B)と、水溶性ポリマー(C)と、アルキレンオキシド付加物(D)とを、表5に示す固形分の質量配合比となるように混合し、次いで、得られた混合物の固形分量100gに対し、全量が1000gとなるように脱イオン水を配合し、撹拌することにより調製した。ここでいう「固形分量」はJIS K6828-1に準拠して測定される不揮発分を指す(サンプル重量:1.0g、乾燥温度110℃×2時間乾燥)。
【0063】
【0064】
[試験板の作製]
以下に本発明を、実施例及び比較例を用いて、具体的に説明する。これらの実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0065】
<試験材の用意>
JIS H 4000:2014で規定されるA1050の組成をもつ、板厚0.1mmのアルミニウム材(株式会社UACJ製)を用意した。
【0066】
<表面処理層の形成>
アルカリ脱脂剤「ファインクリーナーFC-4477」(日本パーカライジング株式会社製)を濃度20g/L、浴温度60℃に調整し、15秒間スプレー処理し、表面に付着しているゴミや油を除去した後、表面に残存しているアルカリ分を脱イオン水により洗浄した。その後、水切りし、表面を乾燥させたものを試験材として使用した。
【0067】
<単層処理の試験板(実施例1~32、比較例1~8)>
前記洗浄された試験材に、表5の各金属表面処理剤をバーコーターで塗布し、熱風循環式乾燥炉で乾燥し、表6に示す実施例、比較例に係る試験板を作製した。尚、各表面処理層はバーコーターの種類と金属表面処理剤の濃度により、皮膜量を表6に示す通りに調整した。乾燥温度は、オーブン中の雰囲気温度とオーブンに入れている時間とで調節し、試験板表面の到達温度(PMT)が200℃となるように設定した。
【0068】
<複層処理の試験板(実施例33~37)>
(下層)
前記洗浄された試験材に、酸価5~50mgKOH/gのアクリル樹脂エマルションとメラミン樹脂を含む下地防錆処理剤をバーコーターで塗布し、熱風循環式乾燥炉内でPMT200℃となるように乾燥し、表6に示す皮膜量の下地防錆処理層を形成させた。
【0069】
<複層処理の試験板(実施例38~40)>
(下層)
前記洗浄された試験材に、リン酸クロメート処理剤「アルクロムK702」(日本パーカライジング株式会社製)の4質量%水溶液を、50℃で5秒間スプレーした後、水洗して80℃で1分間乾燥し、表6に示す皮膜量のリン酸クロメート処理層を形成させた。
【0070】
(上層)
次いで、下地防錆処理層の上に、表5の各金属表面処理剤(液温:25℃)をバーコーターで塗布し、熱風循環式乾燥炉内でPMT200℃となるように乾燥し、表6に示す皮膜量の表面処理層を有する試験板を作製した。
【0071】
【0072】
<親水性評価方法>
上記で作製した試験板上に1μLの脱イオン水を滴下し、形成された水滴の接触角を接触角計(協和界面科学株式会社製:DM-501)により測定した。表面処理後に室温まで冷却した試験板の接触角を初期親水性とし、脱イオン水に240時間流水浸漬し、50℃に調整した送風乾燥機内で1時間乾燥させ室温まで冷却した後の試験板の接触角を親水持続性とした。本発明の目的である初期親水性は4点以上、親水持続性は3点以上を合格とした(表7参照)。
<親水性の評価基準>
5点:10°未満
4点:10°以上20°未満
3点:20°以上30°未満
2点:30°以上40°未満
1点:40°以上
【0073】
<耐汚染性評価方法>
表面処理後に室温まで冷却した試験板を流量0.5L/分の脱イオン水に16時間浸漬した。次に、パルミチン酸を4g入れた10Lの密閉容器に、試験板を封入した。次いで、密閉容器を100℃で8時間加熱する工程を1サイクルとして、計5サイクル行うことで、パルミチン酸を表面に付着させた。その後、試験板を室温に戻して、その表面に1μLの脱イオン水を滴下し、接触角測定器(協和界面科学株式会社製:DM-501)を用いて測定した。表面処理層表面へのパルミチン酸の付着に伴う接触角の劣化を以下に示す基準で評価した。本発明の目的である耐汚染性は3点以上を合格とした(表7参照)。
<耐汚染性の評価基準>
5点:接触角20°未満
4点:20°以上30°未満
3点:30°以上40°未満
2点:40°以上50°未満
1点:50°以上
【0074】
<成形加工性評価方法>
表面処理後に室温まで冷却した試験板表面の動摩擦係数を測定し、成形加工性を評価した。尚、動摩擦係数は表面性測定器(新東科学株式会社製:HEYDON TYPE:14FW)を用いて測定した。得られた動摩擦係数を以下に示す基準で評価した。本発明の目的である成形加工性は3点以上を合格とした(表7参照)。
<試験条件>
荷重:200g、鋼球:3mmφ、ストローク:10mm、摺動速度:10mm/sec、摺動回数:10往復
<評価基準>
5点:0.2未満
4点:0.2以上0.3未満
3点:0.3以上0.4未満
2点:0.4以上0.5未満
1点:0.5以上
【0075】
<塗膜密着性評価方法>
表面処理後に室温まで冷却した試験板に、1mm間隔で碁盤目状(10×10=100個)にカット傷を施した。碁盤目状のカット傷に対して、付着性試験(JIS K5600-5-6)で用いられるテープ(IEC 60454-2規格)を貼り付けた後、テープを剥がし、試験板から剥離しなかった該1mm角の塗膜の数を計測した。以下に示す基準で塗膜密着性を評価した。本発明の目的である塗膜密着性は3点以上を合格とした(表7参照)。
<評価基準>
5点:剥離しなかった塗膜数が100個
4点:剥離しなかった塗膜数が90個以上
3点:剥離しなかった塗膜数が70個以上90個未満
2点:剥離しなかった塗膜数が50個以上70個未満
1点:剥離しなかった塗膜数が50個未満
【0076】