(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108832
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】放熱シート及び放熱シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240805BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013429
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】関口 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】池田 智一
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC07
5F136DA25
5F136FA14
5F136FA15
5F136FA16
5F136FA17
5F136FA18
5F136FA19
5F136FA51
5F136FA52
5F136FA53
5F136FA54
5F136FA55
5F136FA63
5F136GA37
(57)【要約】
【課題】放熱特性を向上させた放熱シート及び放熱シートの製造方法を提供する。
【解決手段】放熱シート10は、熱伝導性フィラー1と、樹脂層2と、を含む。放熱シート10は、放熱シート10の表面及び裏面の少なくとも一方のクルトシス(Sku)が3.0以下である。クルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることで、放熱シート10の放熱特性を向上させることができる。また、熱伝導性フィラー1は、鱗片状であって、放熱シート10の厚み方向に熱伝導性フィラー1の長手方向が配向されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性フィラーと、樹脂層と、を含む放熱シートであって、
前記放熱シートの表面及び裏面の少なくとも一方のクルトシス(Sku)が3.0以下であることを特徴とする放熱シート。
【請求項2】
前記熱伝導性フィラーは、鱗片状であって、前記放熱シートの厚み方向に前記熱伝導性フィラーの長手方向が配向されていることを特徴とする請求項1に記載の放熱シート。
【請求項3】
熱伝導性フィラーと樹脂層とを含む基材シートを準備する基材準備工程と、
前記基材シートの表面及び裏面の少なくとも一方をプラズマ処理するプラズマ処理工程と、を行い、
前記基材シートの表面及び裏面の少なくとも一方のクルトシス(Sku)を3.0以下とする放熱シートの製造方法。
【請求項4】
前記プラズマ処理工程では、ガス種としてN2ガス、O2ガス又はArガスを用いてプラズマ処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーは、鱗片状であって、前記放熱シートの厚み方向に前記熱伝導性フィラーの長手方向が配向されており、
前記熱伝導性フィラーの長手方向における先端部は、前記樹脂層によって覆われており、
前記プラズマ処理工程では、前記熱伝導性フィラーの前記先端部を覆う前記樹脂層を削ることを特徴とする請求項3又は4に記載の放熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱シート及び放熱シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、部品から発生した熱の処理としては、熱を基板側からヒートシンクなどの冷却器へ伝えて放熱する基板放熱型が主流になってきている。放熱シートは、発熱源と冷却器の間に介在する伝熱部材で、サーマル・インターフェース・マテリアル(TIM)と呼ばれる放熱材料の一種である。発熱源や冷却器の表面には微少な凹凸があるため、直接組み付けると空気層が介在し放熱性能が低下してしまう。
【0003】
TIMを導入することで発熱源と冷却器界面への空気層の形成を抑制し、接触界面の熱抵抗を下げて放熱効率をあげることができる。ただし、TIMの介在は、熱の移動距離を長くするといった阻害要因にもなり得るため、TIM自身の熱伝導率を向上させることが重要であり、多くの取り組みがなされている。
【0004】
一般に、放熱シートは、発熱源と冷却器の間との間に挟み込んだ際に放熱シートにかかる圧力(挟持圧力)が比較的低い状態で使用されることがある。挟持圧力が低いと、熱源と放熱シートの接触面積が小さくなり、効率良く伝熱させることができない。
そこで、比較的低い挟持圧力においても、高い放熱特性を有する放熱シートが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、樹脂及び粒子状炭素材料を含み、シート表面における表面粗さ(Sz)を所定以下とした放熱シートが記載されている。特許文献1では、樹脂及び粒子状炭素材料を含む樹脂組成物を積層して、当該積層体をスライスすることで、放熱シートを製造している。
また、特許文献2には、シリコーン組成物層及び熱伝導性充填材を含み、シート表面における十点平均粗さ(Rz)を所定範囲とした放熱シートが記載されている。
特許文献1及び特許文献2では、無機フィラーの含有量を調整してシート表面における粗さを所定範囲としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-119606号公報
【特許文献2】国際公開第2018/061447号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機フィラーの含有量を多くすると、樹脂組成物の積層体をスライスしてシート状にした際に、シート表面が粗面化し易くなり、熱源と放熱シートの接触面積が小さくなってしまう。
また、無機フィラーの含有量を少なくして、表面粗さ(Sz)や十点平均粗さ(Rz)を調整することで、表面の平坦性を実現しようとすると、放熱シートの内部性能が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、放熱特性を向上させた放熱シート及び放熱シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明の放熱シートによれば、熱伝導性フィラーと、樹脂層と、を含む放熱シートであって、前記放熱シートの表面及び裏面の少なくとも一方のクルトシス(Sku)が3.0以下であること、により解決される。
【0010】
放熱シートの放熱特性は、表面粗さのパラメータのうち、特にクルトシス(Sku)が放熱特性と相関していることと推定される。本実施形態では、放熱シートの表面をプラズマ処理などで(樹脂を選択的に)削るなどして、クルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることで、放熱特性を向上させた放熱シートとすることができる。
【0011】
クルトシス(Sku)の上限は3.0以下が好ましい。クルトシス(Sku)が3.0よりも大きい場合は、熱源と放熱シートとの接触面積が少なくなり、放熱シートの放熱特性が低下する場合がある。
このように、クルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることで、放熱シートの放熱特性を向上させることができる。
【0012】
このとき、前記熱伝導性フィラーは、鱗片状であって、前記放熱シートの厚み方向に前記熱伝導性フィラーの長手方向が配向されていると良い。
上記構成によれば、鱗片状を有するフィラーを放熱シート中で厚さ方向に配向させることにより、フィラーの含有量を高めることなく、放熱シートの厚さ方向の熱伝導率を向上させることができる。
【0013】
前記課題は、熱伝導性フィラーと樹脂層とを含む基材シートを準備する基材準備工程と、前記基材シートの表面及び裏面の少なくとも一方をプラズマ処理するプラズマ処理工程と、を行い、前記基材シートの表面及び裏面の少なくとも一方のクルトシス(Sku)を3.0以下とすること、により解決される。
上記構成によれば、放熱シートの表面をプラズマ処理することでクルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることができ、放熱シートの放熱特性を向上させることができる。
【0014】
このとき、前記プラズマ処理工程では、ガス種としてN2ガス、O2ガス又はArガスを用いてプラズマ処理を行うと良い。
上記構成によれば、プラズマを安定して発生させつつ、効率良くクルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることができ、放熱シートの放熱特性を向上できる。
【0015】
このとき、前記熱伝導性フィラーは、鱗片状であって、前記放熱シートの厚み方向に前記熱伝導性フィラーの長手方向が配向されており、前記熱伝導性フィラーの長手方向における先端部は、前記樹脂層によって覆われており、前記プラズマ処理工程では、前記熱伝導性フィラーの前記先端部を覆う前記樹脂層を削ると良い。
鱗片状を有するフィラーを放熱シート中で厚さ方向に配向させた場合は、クルトシス(Sku)が大きくなり易い。上記構成によれば、厚さ方向に配向する鱗片状のフィラーの先端部における樹脂層をプラズマ処理で削ることにより、フィラーの含有量を高めることなく、放熱シートの厚さ方向の熱伝導率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の放熱シート及び放熱シートの製造方法によれば、放熱シートの放熱特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る放熱シートの製造方法を示す模式的断面図である。
【
図1B】変形例1に係る放熱シートの製造方法を示す模式的断面図である。
【
図1C】変形例2に係る放熱シートの製造方法を示す模式的断面図である。
【
図1D】変形例3に係る放熱シートの製造方法を示す模式的断面図である。
【
図2】放熱シートの製造方法を示すフロー図である。
【
図3A】実施例1-1の放熱シートの表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図3B】実施例1-2の放熱シートの表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図4A】実施例2-1の放熱シートの表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図4B】実施例2-2の放熱シートの表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図5A】実施例3-1の放熱シートの表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図5B】実施例3-2の放熱シートの表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図6】比較例の放熱シートの表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図7】放熱シートの表面温度の測定装置を示す図である。
【
図8】温度差ΔTとクルトシス(Sku)の関係を示す図である。
【
図9】温度差ΔTと表面粗さ(Sa)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る放熱シート(機能性シート)及び放熱シートの製造方法について
図1A~
図9を参照して説明する。
【0019】
<放熱シート>
本実施形態の放熱シート10(機能性シート)は、ICチップ等の発熱源とヒートシンク等の冷却器の間に配置し、一方の面を発熱源に接触させ、他方の面を冷却器に接触させて使用される。
放熱シート10は、熱伝導性フィラー1と、樹脂層2と、を有している。熱伝導性フィラー1は、放熱シート10の厚み方向に熱伝導性フィラー1の長手方向がほぼ配向された状態で、樹脂層2に含まれる。
【0020】
熱伝導性フィラー1は、放熱シート10をICチップとヒートシンクとの間に配置した際の短絡等の電気トラブルを抑制するために、絶縁性フィラーを用いることが好ましい。
絶縁性を有する熱伝導性フィラー1の材質として、窒化ホウ素(BN)、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
これらのなかでは、放熱シート10の厚さ方向に配向させやすく、厚さ方向の熱伝導性を向上できる点から、六方晶窒化ホウ素(h-BN)が好ましい。
【0021】
熱伝導性フィラー1は、放熱シート10の厚さ方向に長尺な形状、かつ、厚さ方向に配向させやすい形状とすることが好ましい。熱伝導性フィラー1の形状は、例えば、鱗片状、板状、膜状、円柱状、角柱状、楕円状、扁平形状、球状等が挙げられる。これらのなかでは、高い熱伝導率を持ちつつ、比較的低いフィラー充填率とすることができる点から、鱗片状が好ましい。
【0022】
放熱シート10における熱伝導性フィラー1の含有率は、20~80体積%以上であると好ましい。より好ましくは30~70体積%であり、さらに好ましくは40~60体積%である。熱伝導性フィラー1の含有量が20体積%未満では、充分な熱伝導性を確保することができない。一方、熱伝導性フィラー1の含有量が80体積%を超えると、放熱シート10を製造する際に加工が困難になる。
【0023】
樹脂層2は、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂等を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン-エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマー、スチレン- ブタジエンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。耐熱性及び絶縁性の点から、シロキサン結合による主骨格を持つ高分子化合物であるシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
図1Aにおける上図は、プラズマ処理を行っていない基材シートSを示す断面模式図である。基材シートSは、無機フィラー及び樹脂を含む樹脂組成物を成形し、シート状にスライス加工することで形成される。基材シートSにおいて、熱伝導性フィラー1は、基材シートSの厚さ方向にほぼ配向した状態で、樹脂層2に含まれる。
【0025】
基材シートSは、熱伝導性フィラー1及び樹脂層2を含む樹脂組成物がスライス加工されることでシート状に形成されるため、基材シートSの両面がスライス時の負荷により粗面化し易い。
具体的には、基材シートSにおいて、熱伝導性フィラー1の長手方向におけるフィラー先端部1aは、樹脂層2における平坦な面から外側に向かって突出することで粗面となる。また、フィラー先端部1aを覆う樹脂先端部2aも、樹脂層2における平坦な面から外側に向かって突出した状態(熱伝導性フィラー1及び樹脂層2が尖ってシート表面に露出した状態)となる。
すなわち、フィラー先端部1a及び樹脂先端部2aによってシート表面が粗面化し、クルトシス(Sku)が高くなっているため、熱源と放熱シート10との接触面積が小さくなるおそれがある。
【0026】
図1Aにおける下図は、基材シートSにプラズマ処理を行って製造された放熱シート10を示す。放熱シート10は、基材シートSをプラズマ処理して、シート表面のクルトシス(Sku)が調整されたシートである。
具体的には、放熱シート10は、熱伝導性フィラー1のフィラー先端部1aを覆う樹脂先端部2aがプラズマ処理によって削られることで、樹脂平坦部2bが形成される。すなわち、樹脂平坦部2bによってクルトシス(Sku)が低くなるため、熱源と放熱シート10との接触面積を大きくすることができる。なお、プラズマ処理によって、樹脂層2だけではなく熱伝導性フィラー1が削られていても良い。
【0027】
図1Bにおける下図は、基材シートSにプラズマ処理を行って製造された変形例1の放熱シート100を示す。放熱シート100は、プラズマ処理によって、フィラー先端部101a及び樹脂先端部102aが削られることによって、フィラー平坦部101b及び樹脂平坦部102bが形成される。
この場合にも、フィラー平坦部101b及び樹脂平坦部102bによってクルトシス(Sku)が低くなるため、熱源と放熱シート100との接触面積を大きくすることができる。
【0028】
図1Cにおける下図は、基材シートSにプラズマ処理を行って製造された変形例2の放熱シート110を示す。放熱シート110は、鱗片状の熱伝導性フィラー111と、樹脂層112と、球状の熱伝導性フィラー113と、を有している。鱗片状の熱伝導性フィラー111は、放熱シート110の厚み方向に鱗片状の熱伝導性フィラー111の長手方向がほぼ配向された状態で、樹脂層2に含まれる。放熱シート110は、プラズマ処理によって、樹脂先端部112aが削られることによって、樹脂平坦部112bが形成される。
この場合にも、樹脂平坦部112bによってクルトシス(Sku)が低くなるため、熱源と放熱シート110との接触面積を大きくすることができる。
【0029】
図1Dにおける下図は、基材シートSにプラズマ処理を行って製造された変形例3の放熱シート120を示す。放熱シート120は、球状の熱伝導性フィラー121と、樹脂層122と、を有している。放熱シート120は、プラズマ処理によって、樹脂先端部122aが削られることによって、樹脂平坦部122bが形成される。
この場合にも、樹脂平坦部122bによってクルトシス(Sku)が低くなるため、熱源と放熱シート110との接触面積を大きくすることができる。
【0030】
放熱シート10は、プラズマ処理によって、クルトシス(Sku)が2.6以上3.0以下に調整される。
クルトシス(Sku)が3.0よりも大きい場合は、熱源と放熱シート10との接触面積が少なくなり、放熱シートの放熱特性が低下する場合がある。
【0031】
このように、放熱シート10は、プラズマ処理を行い、クルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることで、放熱特性を向上させることができる。
なお、
図1A~
図1Dでは、基材シートSの一方の面(表面)のみにプラズマ処理を行ってクルトシス(Sku)を調整しているが、これに限定されず、基材シートSの両面にプラズマ処理を行うことで、基材シートSの両面のクルトシス(Sku)を調整しても良い。
【0032】
<放熱シートの製造方法>
本実施形態の放熱シート10(機能性シート)は、
図2に示すように、以下の放熱シート10の製造方法によって形成される。具体的には、放熱シート10の製造方法は、熱伝導性フィラー1を含む樹脂層2からなる基材シートSを準備する基材準備工程(ステップS1)と、基材シートSの表面及び裏面の少なくとも一方をプラズマ処理するプラズマ処理工程(ステップS2)と、を含む。
【0033】
プラズマ処理工程(ステップS2)では、基材シートSの表面及び裏面の少なくとも一方にプラズマ処理を行い、フィラー先端部1aを覆う樹脂層2(樹脂先端部2a)を削る。
プラズマ処理では、ガス種として、例えば、アルゴン(Arガス)、ヘリウムのような希ガス、窒素(N2ガス)、酸素(O2ガス)、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、エタン又はこれらの混合ガス等、を用いることができる。
このように、基材シートSにプラズマ処理を行うことで、放熱シート10のクルトシス(Sku)を2.6以上3.0以下に調整することができる。
【0034】
プラズマ処理は表面に対して、垂直方向に優先的にエッチング、すなわち樹脂の選択的除去が可能であり、樹脂の脱落を抑制する方法が可能である。
表面研磨でも、樹脂層2の削り取りは可能であるが、研磨粉の発生や研磨による横応力のため、熱伝導性フィラー1が取れてしまう懸念もあることから、良好な手法とはいえない。あるいは化学的に溶液で樹脂成分を選択的に除去することも可能であるが、この場合も熱伝導性フィラー1の下部の樹脂を除去してしまう可能性が高く、熱伝導性フィラー1の脱落の可能性が高くなる。また、樹脂を溶解するような液は、洗浄しても樹脂内にとどまりやすく、時間によって樹脂の劣化に繋がる。
【0035】
このように、放熱シート10は、プラズマ処理を行い、クルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることで、放熱特性を向上させることができる。
特に、熱伝導性フィラー1が配向されている樹脂組成物をスライス加工してシート状にする場合に、好適である。具体的には、鱗片状の窒化ホウ素とシリコーン樹脂を含む樹脂組成物をスライス加工してシート状に形成した基材シートSに対して、プラズマ処理を行い、クルトシス(Sku)を3.0以下に調整すると良い。
【0036】
<利用分野>
本実施形態に係る機能性シートの一例である放熱シート10は、高周波、高電流での利用が今後広がっていく、パワー半導体用冷却材料として利用することができる。また、本実施形態に係る放熱シート10の利用分野としては、車用コントロールユニット、再生エネルギー用パワーユニット、高周波通信に関わるハイエンドサーバー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
上記の実施形態では、機能性シートとして放熱シートを例として説明をした。機能性シートは、放熱シートに限定されるものではなく、放熱シートの技術的思想は他の機能性シートにも応用可能である。
【0038】
本実施形態では、主として本発明に係る放熱シート及び放熱シートの製造方法について説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例では、鱗片状の窒化ホウ素とシリコーン樹脂を含む樹脂組成物をスライス加工してシート状に形成したシート基材を、ソーダガラスの支持基板に貼り付けて、後述する製造条件により、プラズマ処理を行った。なお、シート基材は、以下の方法にて作製した。
【0040】
シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF-96-30KCS)200重量部、ビニル基含有シリコーンコンパウンド(東レ・ダウコーニング株式会社製MR-53)5.25重量部、架橋剤として有機過酸化物(東レ・ダウコーニング株式会社製、RC-4 50P FD:過酸化物含有量50重量%)2.25重量部、白金化合物を含むビニル基含有ポリジメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製ME400-FR)10重量部、窒化ホウ素(デンカ株式会社製XGP、粒子径30μm、アスペクト比9)664重量部、及び、窒化ホウ素(昭和電工株式会社製UHP-1K、鱗片状、粒子径8μm、アスペクト比4)60.4重量部を2本ロールで練り込み、幅約100mmで、厚さ約1mmのリボン状のシート(シリコーン系組成物)を作製し、ゴム用短軸押出機にて垂直配向金型を用いて、厚さ10mmのシートを作製した。そして、160℃で40分間の架橋処理を施した後、得られたシートを厚さ方向に垂直な方向にスライス加工し、厚さ200μmのシートを作製した。更に、縦×横の寸法が40mm×40mmになるように厚さ方向に沿って裁断して基材シートを作製した。作製したシート基材の熱伝導性充填材の含有割合は30体積%以上であった。
【0041】
各実施例では、異なるガス種及び処理時間にてプラズマ処理を行い、それぞれクルトシス(Sku)を調製した放熱シートを作製した。
【0042】
<<製造条件>>
・成膜装置:φ800下飛ばしスパッタリング装置
・到達真空度:1.20E-3Pa
・排気時間:40mim
・ターゲット-基板間距離(T-S距離):2750mm
・プラズマガス圧:1.1Pa
・ガス種:Arガス、O2ガス、N2ガス
・処理時間:5min、15min
・ガス流量:200cc(Arガス)、100cc(O2ガス、N2ガス)
・CV開度:7%(Arガス)、3%(O2ガス、N2ガス)
・入力電力:RF、0.2kW
・基板温度:無加熱
【0043】
実施例1-1では、Arガスを用いて、処理時間を5minとしてプラズマ処理を行った放熱シートを試料とした。
実施例1-2では、Arガスを用いて、処理時間を15minとしてプラズマ処理を行った放熱シートを試料とした。
実施例2-1では、O2ガスを用いて、処理時間を5minとしてプラズマ処理を行った放熱シートを試料とした。
実施例2-2では、O2ガスを用いて、処理時間を15minとしてプラズマ処理を行った放熱シートを試料とした。
実施例3-1では、N2ガスを用いて、処理時間を5minとしてプラズマ処理を行った放熱シートを試料とした。
実施例3-2では、N2ガスを用いて、処理時間を15minとしてプラズマ処理を行った放熱シートを試料とした。
比較例として、プラズマ処理を行わなかったシート基材を試料とした。
【0044】
<放熱シートのSEM分析>
SEM分析では、株式会社日立ハイテク社製の走査電子顕微鏡SU7000を用いて、実施例1-1~3-2、比較例の各試料について、下記条件にて表面観察を行った。
図3A~
図6は、それぞれ実施例1-1~3-2、比較例の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
なお、
図3A~
図6における各上図は、100倍に拡大した電子顕微鏡写真であり、
図3A~
図6における各下図は、1000倍に拡大した電子顕微鏡写真である。
【0045】
<<SEM分析条件>>
・導電性コーティング:Pt-Pd約2nm
・加速電圧(kV):1、5
・W.D.(mm):6
・試料傾斜角度:0°、90°
【0046】
<放熱シートの温度差ΔT測定方法>
本実施形態の放熱シート10について、
図7に示すように、熱抵抗測定装置20及び表示計器30を用いて、表面温度の温度差ΔTを測定した。具体的な測定方法を、以下説明する。
【0047】
まず、測定対象の放熱シート10の両面に薄膜熱電対21を配置する。放熱シート10の下面(裏面)には、高温側薄膜熱電対21aを配置し、放熱シート10の上面(表面)には、低温側薄膜熱電対21bを配置する。
次に、熱伝導性と耐熱性に優れたアルミニウム製板状のコンタクトプレート22によって、薄膜熱電対21が配置された放熱シート10を挟み込む。下側の高温プレート22aは、ヒータ23に接続されており、ヒータ23によって放熱シート10の下面が加熱される。上側の低温プレート22bは、冷却部材24に接続されており、冷却部材24によって放熱シート10の上面が冷却される。なお、ヒータ23は、グラスウールからなる断熱材25の上に載置されるため、効率的に高温プレート22aへ熱を伝達する。
そして、上部の加重ねじ26を回し、押し付け圧力を調整する。なお、ロードセル27によってコンタクトプレート22の挟持圧力を管理することができる。
【0048】
続いて、コンタクトプレート22によって放熱シート10を挟持した状態で、ヒータ23と冷却部材24の電源を入れて、測定を開始する。
そして、薄膜熱電対21に接続された表示計器30によって、高温側薄膜熱電対21aと低温側薄膜熱電対21bの温度を読み取ることで、温度差ΔTを測定することができる。
【0049】
<放熱シートの表面粗さ測定方法>
実施例1-1~実施例3-2及び比較例の試料における、放熱シートの表面粗さについて、走査型白色干渉顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、VertScan2.0型式「R5300GL-M100」)を用いて、下記の条件で測定を実施した。なお、クルトシス(Sku)は、ISO25178に基づき、ソフトウェアを用いて下記式(1)により算出した。
<<測定条件>>
・カメラ:SONY社製1/3型CCD「XC-HR50」
・鏡筒・ズームレンズ:1×
・波長フィルター:530White
・測定モード:Focus
・対物レンズ:10.0×干渉対物レンズ
・測定領域:467.06(μm)×350.36(μm)
【0050】
各試料の表面における放熱シートの温度差ΔT、クルトシス(Sku)、表面粗さ(Sa)を表1に示す。
また、温度差ΔTとクルトシス(Sku)の関係を
図8に示し、温度差ΔTと表面粗さ(Sa)の関係を
図9に示す。
【0051】
【0052】
図8に示すように、温度差ΔT及びクルトシス(Sku)には相関関係があり、クルトシス(Sku)が小さくなるほど、温度差ΔTが低くなった。つまり、放熱シートはクルトシス(Sku)が小さくなるほど、熱伝導率が高くなることが明らかになった。
なお、
図9に示すように、温度差ΔT及び表面粗さ(Sa)には相関関係が見られなかった。
【0053】
表1、
図8に示すように、実施例1-1~実施例3-2は、比較例よりもクルトシス(Sku)が低く、温度差ΔTが低くなった。具体的には、実施例1-1~実施例3-2では、クルトシス(Sku)が3.0以下で、温度差ΔTが0.9℃から1.2℃であったのに対し、比較例では、クルトシス(Sku)が3.1で、温度差ΔTが1.4℃と高かった。
したがって、放熱シート(基材シート)にプラズマ処理を行い、クルトシス(Sku)を3.0以下とすることで、放熱シートの放熱特性を向上させることができることが明らかになった。
【0054】
また、表1に示すように、プラズマ処理に用いるガス種として、O2ガス、N2ガス、Arガスを用いると、クルトシス(Sku)を低くすることができた。特に、プラズマ処理として、処理時間を15分としてO2ガス及びN2ガスを用いた場合に、クルトシス(Sku)は2.8以下、温度差ΔTは1.1℃以下であった。
【0055】
以上の結果から、放熱シートの表面をプラズマ処理等で削るなどして、クルトシス(Sku)を所定の数値範囲とすることで、高い放熱特性を有する放熱シートとなることが明らかになった。