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特開2024-108854液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、及び革の表面処理層の分離方法
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  • 特開-液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、及び革の表面処理層の分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108854
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、及び革の表面処理層の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C05G 5/20 20200101AFI20240805BHJP
   C08J 11/06 20060101ALI20240805BHJP
   C05F 11/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C05G5/20
C08J11/06 ZAB
C05F11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013464
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】516351991
【氏名又は名称】ミドリオートレザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野崎 未紗
(72)【発明者】
【氏名】小池 晃広
【テーマコード(参考)】
4F401
4H061
【Fターム(参考)】
4F401AA26
4F401AD02
4F401BA20
4F401CA25
4F401CA32
4F401CA51
4F401CB01
4F401CB10
4F401EA07
4F401EA08
4F401FA01Z
4H061AA02
4H061BB01
4H061FF01
4H061GG18
4H061GG23
4H061GG29
4H061GG43
4H061GG52
4H061KK09
4H061LL02
4H061LL05
4H061LL26
(57)【要約】
【課題】革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去することが可能な、液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、及び革の表面処理層の分離方法を提供すること。
【解決手段】樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする液体肥料の製造方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする液体肥料の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液の温度が80℃以上100℃以下である、請求項1に記載の液体肥料の製造方法。
【請求項3】
前記革溶解アルカリ液の調製が、前記樹脂を含有する表面処理層を有する革と攪拌子とが接触しないようにして攪拌することにより行われる、請求項1に記載の液体肥料の製造方法。
【請求項4】
前記革溶解アルカリ液中で前記表面処理層が分解されずに存在する、請求項1に記載の液体肥料の製造方法。
【請求項5】
前記表面処理層除去工程後に前記中和工程を行う、請求項1に記載の液体肥料の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂がウレタン樹脂を含む、請求項1に記載の液体肥料の製造方法。
【請求項7】
樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする革溶解液の製造方法。
【請求項8】
樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする革の表面処理層の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、及び革の表面処理層の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済の廃棄革のリサイクル・アップサイクルが検討されている。ウレタン樹脂塗装等の表面処理が施された革のアップサイクル手法としては、革パーツの裁断後端材を利用する方法が広く行われている。しかしながら、傷や工程上の不具合で利用できない塗装済みの革端材や、製品として使用済の廃棄革のリサイクル・アップサイクル手法は多くない。
【0003】
皮革産業における廃棄革を加水分解して肥料化することが検討されている(特許文献1及び特許文献2)。しかしながら、製品化後の革、特に自動車用の座席、家具やカバン類に用いられる革の廃棄物は、厚い表面処理が施されているために、処理が困難であり、実際には、原皮やシェービング粉、鞣し直後の皮革屑を対象とした処理にとどまり、市場に出回る状態まで加工された革や、使用後の廃棄物としての革についてはほとんど用いられてこなかった。
【0004】
農林水産省が令和3年に策定した「みどりの食料システム戦略」では、「2050年までに輸入燃料や化学燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減する」という目標を掲げている。これまで窒素供給源として利用できなかった塗膜塗装革を使用することができれば、環境負荷の軽減及び循環型社会に貢献することが可能となる。
【0005】
また、大規模な農法において、液体肥料をドローン等の無人機で散布することや、点滴灌水で供給することが提案されており、液体肥料の需要が高まっている。
【0006】
特許文献1には、なめし皮革の加工処理片等の動物性硬質有機物に含燐アルカリ成分及び水を添加した後、濃硫酸を加えて上記動物性硬質有機物を分解すると共に上記配置物中のアルカリ成分にて酸成分を中和せしめることを特徴とする含窒素燐酸肥料の製造方法が開示されている。
特許文献2には、皮革廃材を、水酸化カリウム溶液を用いて加水分解処理し、中和処理した後、金属の塩を添加することにより得られるペプチドキレート化合物含有肥料が開示されている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2には、革の表面に施された表面処理層の分離については記載されていない。
【0007】
特許文献3には、家畜の肉皮や家畜原皮を粉砕して、アルカリ溶液と加熱し、加水分解後に中和して、アミノ酸肥料を得る方法が開示されている。
特許文献4には、粉砕後の廃棄物皮をリン酸の酸溶液を用いて加水分解し、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸含有中和アクリル酸溶液を添加し、燐酸肥料徐放性機能を有する農業用保水剤を調製する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献3及び特許文献4は、処理物を粉砕処理した後に加水分解処理を行っており、革の表面に施された表面処理層の分離については記載されていない。
【0008】
したがって、表面処理層を効率良く分離除去することが可能な液体肥料の製造方法が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50-057861号公報
【特許文献2】特開2010-132524号公報
【特許文献3】中国特許出願公開第112321334号
【特許文献4】中国特許出願公開第1084242604号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車用の座席、家具、カバン類に用いられる革は、耐久性、耐摩擦性、防汚性、防水性、難燃性などの目的で、塗膜層とも呼ばれる複数の表面処理層が施されている。自動車の座席用の革を例にとると、国際公開第2012/046878号パンフレットによれば、ベースコート層の膜厚は10~50μm(段落0015)であり、カラーコート層の膜厚は5~25μm(段落0016)であり、さらに、トップコート層が施されることが開示されている。トップコート層は、国際公開番号WO2012/075438号パンフレットによれば、3~10μmであり、ベースコート層、カラーコート層、トップコート層などの表面処理層の総膜厚は、通常50~60μmにも及ぶ。
【0011】
発明者らの検討によると、自動車用の座席、家具、カバン類に用いられる革は、厚い表面処理層が施されているために、これらの廃棄物から液体肥料を作成した場合に、下記の課題があることが判明した。
(1)表面処理層と革の分離が極めて困難である。(革の一部が溶解しても、表面処理層に革の成分の多くが残留する。)
(2)表面処理層を過粉砕した結果生じた細い残渣と脂肪分が混合した夾雑物が生じ、分離が極めて困難である。前記夾雑物は分離に処理コストがかかるだけでなく、残留して、液体肥料として用いると、ウレタン等の表面処理層に起因するマイクロプラスチックが土壌中に流出、蓄積することにつながる。
【0012】
換言すると、表面処理層が綺麗に分離されれば、結果的に表面処理層の過粉砕物の発生が少ない処理が可能であり、さらには、製造した液体肥料の窒素含有率を最大化できる。それ故、(2)は(1)に付随する課題とも言えるが、夾雑物の発生と混入を完全には抑止することは困難で、夾雑物の混じった状態の脂肪分を効率良く除去・分離することが必要である。
【0013】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、自動車用の座席、家具、カバン類に用いられる革などの、厚い表面処理層が施された革の廃棄物から液体肥料(又は革溶解液:中間体処理液)を効率良く製造することであり、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し(表面処理層を必要以上に破壊しないことで、容易に分離・除去が可能となり、液体肥料の窒素含有率を高める(最大化する))、表面処理層及び(表面処理層の細い残渣と脂肪分が混合した)夾雑物を効率良く分離除去することが可能な、液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、及び革の表面処理層の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含む方法により、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去することが可能な液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、又は表面処理層の分離方法を提供できることを知見した。
【0015】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下のとおりである。即ち、
<1> 樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする液体肥料の製造方法である。
<2> 樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする革溶解液の製造方法である。
<3> 樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする革の表面処理層の分離方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去することが可能な、液体肥料の製造方法、革溶解液の製造方法、及び革の表面処理層の分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の液体肥料の製造方法、本発明の革溶解液の製造方法、又は本発明の革の表面処理層の分離方法のフローチャートの一例を示す図である。
図2図2は、本発明の液体肥料の製造方法、本発明の革溶解液の製造方法、又は本発明の革の表面処理層の分離方法のフローチャートの他の例を示す図である。
図3A図3Aは、実施例1における、除去して乾燥した表面処理層の全体写真を示す図である。
図3B図3Bは、実施例1における、除去して乾燥した表面処理層の拡大写真を示す図である。
図4図4は、実施例1における、遠心分離後に除去した沈殿物の写真を示す図である。
図5図5は、実施例1における、遠心分離後に得られた上清を金属ふるいに通すことで除去した、金属ふるい上の夾雑物(脂肪分)の写真を示す図である。
図6A図6Aは、比較例1における、除去して乾燥した表面処理層の全体写真を示す図である。
図6B図6Bは、比較例1における、除去して乾燥した表面処理層の拡大写真を示す図(その1)である。
図6C図6Cは、比較例1における、除去して乾燥した表面処理層の拡大写真を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(液体肥料の製造方法)
前記液体肥料の製造方法は、革溶解アルカリ液調製工程、表面処理層除去工程、再加熱工程、中和工程、及び粗脂肪分及び夾雑物除去工程を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
前記革溶解アルカリ液調製工程、前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、前記中和工程、及び前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程の順序としては、図1に示した、1番目に前記革溶解アルカリ液調製工程を行い、2番目に前記表面処理層除去工程を行い、3番目に前記再加熱工程を行い、4番目に前記中和工程を行い、5番目に前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程を行う順序と、図2に示した、1番目に前記革溶解アルカリ液調製工程を行い、2番目に前記中和工程を行い、3番目に前記表面処理層除去工程を行い、4番目に前記再加熱工程を行い、5番目に前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程を行う順序と、のいずれかであってもよい。これらの中でも、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、1番目に前記革溶解アルカリ液調製工程を行い、2番目に前記表面処理層除去工程を行い、3番目に前記再加熱工程を行い、4番目に前記中和工程を行い、5番目に前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程を行う順序(前記表面処理層除去工程後に前記中和工程を行う)が好ましい。
【0019】
<革溶解アルカリ液調製工程>
前記革溶解アルカリ液調製工程は、樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する工程である。
前記樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液と接触させることで、革を構成するタンパク質を低分子量化させて溶解し、不溶解物である表面処理層の樹脂等を除去することができる。前記不溶解物は、液体肥料には不要な成分であり、液体肥料の製造プラントに不具合をきたす恐れもある。
【0020】
<<樹脂を含有する表面処理層を有する革>>
前記樹脂を含有する表面処理層を有する革としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、効率よく液体肥料を製造する点、及び表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、樹脂を含有する表面処理層と革とが積層されたものが好ましい。
前記革としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、効率よく液体肥料を製造する点、及び表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、天然由来の革が好ましい。
【0021】
前記天然由来の革としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、牛、豚、馬、羊、山羊、象、鹿、水牛、猫、センザンコウ、アザラシ、ラクダ、トナカイ等の哺乳類由来の革、鰐、蛇、トカゲ等の爬虫類由来皮革、ダチョウ、エミュー等の鳥類由来の革、サメ、エイ等の魚類由来の革などが挙げられる。
【0022】
前記表面処理層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベースコート層、カラーコート層、トップコート層、オーバーコート層等のコーティング層(塗膜層)などが挙げられる。これらの中でも、ベースコート層、及びトップコート層を含むものが好ましく、ベースコート層、カラーコート層、及びトップコート層を含むものが好ましい。
【0023】
前記ベースコート層は、コーティング層(塗膜層)の最下層にあたり、皮革の表面にある凹凸を平らにし、安定して上部に層を形成させるための層である。
前記ベースコート層は、樹脂、顔料、助剤、架橋剤、触感剤から選択される少なくとも1つの成分及び水を含む組成物を塗布することで形成できる。
【0024】
前記カラーコート層は、コーティング層(塗膜層)の中間層にあたり、皮革を着色するための顔料及び染料を存在させるための層であり、ベースコート層上に設けることができる。
前記カラーコート層は、樹脂、顔料、助剤、架橋剤、触感剤から選択される少なくとも1つの成分及び水を含む組成物を塗布することで形成できる。
【0025】
前記トップコート層は、耐摩耗性、耐光性を備えさせるための層であり、前記カラーコート層上、又はカラーコート層を設けない場合はベースコート層上に設けることができる。
前記トップコート層は、樹脂、架橋剤、触感剤及び水を含む組成物を塗布することで形成できる。
【0026】
前記オーバーコート層は、防汚性、触感、滑り性、グリップ性、軋み音回避などの性能を付加する目的で、前記トップコート層上に設けることができる。
前記オーバーコート層は、樹脂、架橋剤、触感剤及び水を含む組成物を塗布することで形成できる。
【0027】
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル-酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ブタジエン-(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ウレタン樹脂を含むものが好ましい。前記樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記樹脂を含有する表面処理層を有する革としては、市販品、又は前記市販品の廃棄物を使用することができる。
前記樹脂を含有する表面処理層を有する革の市販品としては、例えば、Stahl Easy White Tan(登録商標)の技術を適用した革などが挙げられる。
【0029】
前記樹脂を含有する表面処理層を有する革の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる、例えば、短冊状、台形状、円形状、楕円形状、多角形形状などが挙げられる。これらの中でも、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、短冊状が好ましい。
【0030】
<<60℃以上100℃以下のアルカリ溶液>>
前記60℃以上100℃以下のアルカリ溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、65℃以上100℃以下のアルカリ溶液が好ましく、70℃以上100℃以下のアルカリ溶液がより好ましく、75℃以上100℃以下のアルカリ溶液がさらに好ましく、80℃以上100℃以下のアルカリ溶液が特に好ましく、85℃以上100℃以下のアルカリ溶液が最も好ましい。
前記60℃以上100℃以下のアルカリ溶液の温度は、オイルバス等の加熱機器を用いて制御することができる。
【0031】
前記アルカリ溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水酸化物を含む溶液が好ましい。
前記水酸化物としては、水酸化カリウム、又は水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。
【0032】
前記アルカリ溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、0.01モル/L以上10モル/L以下が好ましく、0.1モル/L以上10モル/L以下がより好ましく、0.1モル/L以上5モル/L以下がさらに好ましく、0.5モル/L以上5モル/L以下が特に好ましく、1モル/L以上3モル/L以下が最も好ましい。
【0033】
前記アルカリ溶液の質量及び前記樹脂を含有する表面処理層を有する革の質量の合計に対する、前記樹脂を含有する表面処理層を有する革の質量(皮革仕込み)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、1質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、1質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、5質量%以上25質量%以下が特に好ましく、10質量%以上20質量%以下が最も好ましい。
【0034】
前記60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、10分間以上240分間以下が好ましく、30分間以上240分間以下がより好ましく、30分間以上180分間以下がさらに好ましく、60分間以上120分間以下が特に好ましく、60分間以上100分間以下が最も好ましい。
【0035】
<<革溶解アルカリ液>>
前記革溶解アルカリ液は、前記樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させることで調製することができる。
【0036】
前記革溶解アルカリ液の調整としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、前記樹脂を含有する表面処理層を有する革と攪拌子とが接触しないようにして攪拌することにより行われることが好ましい。
【0037】
前記樹脂を含有する表面処理層を有する革と攪拌子とが接触しないようにして攪拌する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、攪拌子を有しない攪拌手段を用いた方法、攪拌子を有する攪拌手段であって、前記攪拌子と処理物が接触しない攪拌手段を用いた方法などが挙げられる。これらの中でも、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、攪拌子を有しない攪拌手段を用いた方法が好ましい。
前記攪拌子を有しない攪拌手段としては、ロータリーエバポレーターや、容器回転型の混合器、例えば、ターブラーミキサー等が挙げられる。
前記攪拌子と処理物が接触しない攪拌手段としては、例えば、攪拌子と処理物の対流層の間にメッシュ等を設けた攪拌手段などが挙げられる。
【0038】
前記革溶解アルカリ液中における前記表面処理層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、前記革溶解アルカリ液中で前記表面処理層が分解されずに存在することが好ましい。具体的には、前記表面処理層の膜構造(層構造)が破壊されることなく存在することが好ましい。前記表面処理層が、ベースコート層、カラーコート層、及びトップコート層を含む場合は、いずれか一部ではなく、全ての層を含む状態で存在することが好ましい。
また、前記革溶解アルカリ液中における前記表面処理層には、革由来の繊維等が付着していないことが好ましい。
前記表面処理層の溶解が十分でないときは、前記表面処理層が破壊されない程度に、繰り返し、撹拌することができる。
【0039】
<表面処理層除去工程>
前記表面処理層除去工程は、前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する工程である。
【0040】
前記表面処理層を除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、ふるいを用いて除去する方法が好ましく、クロス(メッシュ/フィルター)及びふるいを用いて除去する方法がより好ましく、クロス(メッシュ/フィルター)を用いて前記革溶解アルカリ液を絞り出し、絞り出した溶液をふるいに通す方法がさらに好ましく、クロス(メッシュ/フィルター)を用いて前記革溶解アルカリ液を絞り出し、絞り出した溶液を2段階ふるいに通す方法が特に好ましい。
【0041】
前記クロス(メッシュ/フィルター)の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、ナイロン又はポリエステルが好ましい。
前記クロス(メッシュ/フィルター)の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、布状が好ましい。
【0042】
前記ふるいの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、金属ふるいが好ましい。
【0043】
前記クロスの網目としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、10μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上250μm以下がより好ましく、50μm以上200μm以下がさらに好ましく、50μm以上150μm以下が特に好ましく、80μm以上120μm以下が最も好ましい。
【0044】
前記ふるいの網目としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、10μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上300μm以下がより好ましく、50μm以上300μm以下がさらに好ましく、50μm以上250μm以下が特に好ましく、80μm以上220μm以下が最も好ましい。
【0045】
前記2段階ふるいを用いる場合の、1段階目のふるいの網目としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、10μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上400μm以下がより好ましく100μm以上300μm以下がさらに好ましく、150μm以上250μm以下が特に好ましく、180μm以上220μm以下が最も好ましい。
【0046】
前記2段階ふるいを用いる場合の、2段階目のふるいの網目としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、10μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上250μm以下がより好ましく、50μm以上200μm以下がさらに好ましく、50μm以上150μm以下が特に好ましく、80μm以上120μm以下が最も好ましい。
【0047】
<<再加熱工程>>
前記再加熱工程は、前記革溶解アルカリ液調製工程後に得られた前記革溶解アルカリ液を再度加熱する工程である。
前記再加熱工程は、前記表面処理層除去工程の後に行うことが好ましい。
【0048】
前記再加熱の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、60℃以上100℃以下が好ましく、65℃以上100℃以下がより好ましく、70℃以上100℃以下がさらに好ましく、75℃以上100℃以下がよりさらに好ましく、80℃以上100℃以下が特に好ましく、85℃以上100℃以下が最も好ましい。
【0049】
前記再加熱の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、1分間以上240分間以下が好ましく、10分間以上240分間以下がより好ましく、30分間以上240分間以下がさらに好ましく、60分間以上180分間以下が特に好ましく、90分間以上150分間以下が最も好ましい。
【0050】
<中和工程>
前記中和工程は、前記革溶解アルカリ液を中和する工程である。
中和後のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH6以上pH8以下が好ましく、pH6.5以上pH8以下がより好ましく、pH7以上pH7.5以下がさらに好ましく、pH7.1以上pH7.3以下が特に好ましい。
【0051】
前記中和としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸溶液を添加する方法などが挙げられる。
前記酸溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塩酸、硫酸、リン酸が好ましく、塩酸がより好ましい。
【0052】
前記酸溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
前記酸溶液の添加としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、算出により求めた量を添加してもよいし、pHメータを用いてpHを測定しながら添加してもよい。
【0054】
中和するときの前記革溶解アルカリ液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10℃以上50℃以下が好ましく、10℃以上40℃以下がより好ましく、10℃以上30℃以下がさらに好ましい。
【0055】
<粗脂肪分及び夾雑物除去工程>
前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程は、前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で冷却して除去する工程である。
【0056】
前記冷却の温度としては、0℃以上15℃以下である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、0℃以上12℃以下が好ましく、0℃以上10℃以下がより好ましい。
【0057】
前記冷却の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、1分間以上240分間以下が好ましく、1分間以上120分間以下がより好ましく、5分間以上60分間以下がさらに好ましく、5分間以上30分間以下が特に好ましく、10分間以上20分間以下が最も好ましい。
【0058】
前記冷却としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、冷却遠心(冷却遠心分離)が好ましい。
【0059】
前記冷却遠心の遠心速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、1,000G以上50,000G以下が好ましく、2,000G以上40,000G以下がより好ましく、3,000G以上30,000G以下がさらに好ましく、4,000G以上20,000G以下が特に好ましく、5,000G以上20,000G以下が最も好ましい。
【0060】
前記冷却遠心して液体肥料を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、遠心直後に、前記冷却遠心で得られた上清をふるいに通して脂肪分(油分)を除去する方法が好ましい。
前記ふるいとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、金属ふるいが好ましい。
【0061】
前記ふるいの網目としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、10μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上300μm以下がより好ましく、10μm以上200μm以下がさらに好ましく、50μm以上100μm以下が特に好ましく、70μm以上80μm以下が最も好ましい。
【0062】
<<液体肥料>>
前記液体肥料は、前記液体肥料の製造方法により製造できる。
【0063】
前記液体肥料の窒素含量は、ケルダール法で測定、算出する。
【0064】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、革溶解アルカリ液調製工程前に革を切断する工程、粗脂肪分及び夾雑物除去工程後の加圧ろ過工程、液体肥料調製工程後の濃縮工程などが挙げられる。
【0065】
<<革溶解アルカリ液調製工程前に革を切断する工程>>
前記革溶解アルカリ液調製工程前に革を切断する工程は、前記革溶解アルカリ液調製工程前に、前記樹脂を含有する表面処理層を有する革を切断する工程である。
【0066】
切断後の前記樹脂を含有する表面処理層を有する革の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層及び夾雑物を効率良く分離除去する点から、1cm以上10000cm以下が好ましく、1cm以上1000cm以下がより好ましく、1cm以上100cm以下がさらに好ましく、10cm以上80cm以下が特に好ましく、30cm以上70cm以下が最も好ましい。
【0067】
<<粗脂肪分及び夾雑物除去工程後の加圧ろ過工程>>
前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程後の加圧ろ過工程は、前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程後に得られた革溶解液を加圧ろ過する工程である。
前記加圧ろ過の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、加圧式フィルターを用いた方法が好ましく、2段階の加圧式フィルターを用いた方法がより好ましい。
【0068】
前記加圧式フィルターの孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、0.1μm以上100μm以下が好ましく、0.1μm以上75μm以下がより好ましく、0.1μm以上50μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上25μm以下が特に好ましく、0.5μm以上10μm以下が最も好ましい。
【0069】
前記2段階の加圧式フィルターを用いる場合の、1段階目の加圧式フィルターの孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、0.1μm以上100μm以下が好ましく、0.1μm以上75μm以下がより好ましく、1μm以上50μm以下がさらに好ましく、2μm以上25μm以下が特に好ましく、2μm以上10μm以下が最も好ましい。
【0070】
前記2段階の加圧式フィルターを用いる場合の、2段階目の加圧式フィルターの孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、夾雑物を効率良く分離除去する点から、0.1μm以上50μm以下が好ましく、0.1μm以上25μm以下がより好ましく、0.1μm以上10μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上5μm以下が特に好ましく、0.5μm以上1μm以下が最も好ましい。
【0071】
<<液体肥料調製工程後の濃縮工程>>
前記液体肥料調製工程後の濃縮工程は、前記液体肥料調製工程後に得られた液体肥料を必要に応じて濃縮する工程である。
【0072】
(革溶解液の製造方法)
前記革溶解液の製造方法は、革溶解アルカリ液調製工程、表面処理層除去工程、再加熱工程、中和工程、及び粗脂肪分及び夾雑物除去工程を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
【0073】
前記革溶解アルカリ液調製工程、前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、前記中和工程、前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程、及び前記その他の工程は、上述の(液体肥料の製造方法)に記載のとおりである。
【0074】
(革の表面処理層の分離方法)
前記革の表面処理層の分離方法は、革溶解アルカリ液調製工程、表面処理層除去工程、再加熱工程、中和工程、及び粗脂肪分及び夾雑物除去工程を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
【0075】
前記革溶解アルカリ液調製工程、前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、前記中和工程、前記粗脂肪分及び夾雑物除去工程、及び前記その他の工程は、上述の(液体肥料の製造方法)に記載のとおりである。
【実施例0076】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
500mLのナス型フラスコに、短冊状に裁断したCrフリー革(樹脂を含有する表面処理層を有する革)44g程度を入れた。次に、2.3モル/L KOHを250g加えた(皮革仕込み約15wt%)。
ロータリーエバポレーターと、90℃に設定したオイルバスを用いて、上記混合物を85℃で80分間加熱して、革溶解アルカリ液を調製した。
【0078】
前記ナス型フラスコ中の、前記革溶解アルカリ液の不溶解物をポリエステルメッシュ(100μm網目)を用いて取り除いた(溶液を絞った)。次に、金属ふるい(200μm及び100μm網目)を用いた2段階ふるいで前記革溶解アルカリ液から表面処理層(塗膜、残渣:固形分)を完全に取り除いた。表面処理層(塗膜、残渣:固形分)を完全に取り除いた革溶解アルカリ液を85℃で120分間再度加熱して、その後、大気環境下で徐冷した。
除去して乾燥させた表面処理層の全体写真を図3Aに示し、除去して乾燥させた表面処理層の拡大写真を図3Bに示した。
下記の<<表面処理層の除去>>に記載のとおり、表面処理層の除去について評価した。結果を表1に示した。
【0079】
徐冷した革溶解アルカリ液に、攪拌しながらHClを滴下し、pHを7.2付近に調整した。
【0080】
中和処理して得られた革溶解液を10℃に冷却しながら10,000Gで15分間遠心分離した。
遠心分離で得られた上清を、遠心沈降直後に金属ふるい(75μm網目)に通し、浮いている脂肪分(油分)を除去した。
遠心分離後に除去した沈殿物の写真を図4に示した。
遠心分離で得られた上清を金属ふるいに通すことで除去した金属ふるい上の脂肪分(油分)の写真を図5に示した。
加圧式フィルター(5μm及び0.8μm孔径:ADVANTEC製)を用いて夾雑物を除去して、液体肥料を製造した。
下記の<<脂肪分、夾雑物の除去>>に記載のとおり、脂肪分、夾雑物の除去について評価した。結果を表1に示した。
下記の<<窒素含有率の測定>>に記載のとおり、液体肥料の窒素含有率を測定した。結果を表1に示した。
【0081】
<<表面処理層の除去>>
下記の指標により、表面処理層の除去について評価した。
A:ほぼ表面処理層のみからなる、縮れたシート状の膜が得られた。
B:ほぼ表面処理層のみからなる、縮れたシート状の膜が得られたが、発生する残渣の量がAより多かった。
C:裏面に皮革繊維が付着している、シート状の膜が得られ、革溶解アルカリ液中にコラーゲンの未溶解物が浮遊していた。
【0082】
<<脂肪分、夾雑物の除去>>
下記の指標により、脂肪分、夾雑物の除去について評価した。
A:脂肪分、夾雑物が分離できた。
B:脂肪分、夾雑物が分離出来たものの、後の加圧式フィルター(5μm及び0.8μmで目詰まりが発生し、ろ過できなかった。
C:液体表面にわずかに油膜が確認できたのみであり、脂肪分の除去は困難であった。
【0083】
<<窒素含有率の測定>>
前記液体肥料の窒素含量は、ケルダール法で測定、算出した。
【0084】
【表1】
【0085】
<実施例2>
中和処理して得られた革溶解液を5℃に冷却しながら遠心分離した以外は実施例1と同様にして、液体肥料を製造し、表面処理層の除去、及び脂肪分、夾雑物の除去を評価し、窒素含有率の測定を行った。結果を表1に示した。
【0086】
<実施例3>
中和処理して得られた革溶解液を15℃に冷却しながら遠心分離した以外は実施例1と同様にして、液体肥料を製造し、表面処理層の除去、及び脂肪分、夾雑物の除去を評価した。結果を表1に示した。
【0087】
<実施例4>
103℃に設定したオイルバスを用いて、混合物を98℃で加熱し、再加熱も98℃で行った以外は実施例1と同様にして、液体肥料を製造し、表面処理層の除去、及び脂肪分、夾雑物の除去を評価し、窒素含有率の測定を行った。結果を表1に示した。
【0088】
<実施例5>
65℃に設定したオイルバスを用いて、混合物を60℃で加熱し、再加熱も60℃で行った以外は実施例1と同様にして、液体肥料を製造し、表面処理層の除去、及び脂肪分、夾雑物の除去を評価し、窒素含有率の測定を行った。結果を表1に示した。
【0089】
<比較例1>
500mLのナス型フラスコに、短冊状に裁断したCrフリー革44g程度を入れた。次に、2.3モル/L KOHを250g加えた(皮革仕込み約15wt%)。
ロータリーエバポレーターと、55℃に設定したオイルバスを用いて、上記混合物を50℃で80分間加熱して、革溶解アルカリ液を調製した。
【0090】
前記ナス型フラスコ中の、前記革溶解アルカリ液の不溶解物をポリエステルメッシュ(100μm網目)を用いて取り除いた(溶液を絞った)。次に、金属ふるい(200μm及び100μm網目)を用いた2段階ふるいで前記革溶解アルカリ液から表面処理層(塗膜、残渣:固形分)を完全に取り除いた。表面処理層(塗膜、残渣:固形分)を完全に取り除いた革溶解アルカリ液を50℃で120分間再度加熱して、その後、大気環境下で徐冷した。
除去して乾燥させた表面処理層の全体写真を図6Aに示し、除去して乾燥させた表面処理層の拡大写真を図6B及び図6Cに示した。
実施例1と同様にして、表面処理層の除去を評価し、窒素含有率の測定を行った。結果を表1に示した。
【0091】
<比較例2>
中和処理して得られた革溶解液を冷却、及び遠心分離しなかった以外は実施例1と同様にして、液体肥料を製造し、表面処理層の除去、及び脂肪分、夾雑物の除去を評価した。結果を表1に示した。
【0092】
表1、並びに図3及び図4の結果より、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製し、表面処理層の除去及び中和を行い、さらに、得られた革溶解液を冷却することにより、革の成分が表面処理層に残留することを抑止し、表面処理層の夾雑物を効率良く分離除去できることが分かった。
【0093】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする液体肥料の製造方法である。
<2> 前記アルカリ溶液の温度が80℃以上100℃以下である、前記<1>に記載の液体肥料の製造方法である。
<3> 前記革溶解アルカリ液の調製が、前記樹脂を含有する表面処理層を有する革と攪拌子とが接触しないようにして攪拌することにより行われる、前記<1>に記載の液体肥料の製造方法である。
<4> 前記革溶解アルカリ液中で前記表面処理層が分解されずに存在する、前記<1>に記載の液体肥料の製造方法である。
<5> 前記表面処理層除去工程後に前記中和工程を行う、前記<1>に記載の液体肥料の製造方法である。
<6> 前記樹脂がウレタン樹脂を含む、前記<1>に記載の液体肥料の製造方法である。
<7> 樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする革溶解液の製造方法である。
<8> 樹脂を含有する表面処理層を有する革を、60℃以上100℃以下のアルカリ溶液で溶解させて革溶解アルカリ液を調製する革溶解アルカリ液調製工程と、
前記革溶解アルカリ液中に存在する前記表面処理層を除去する表面処理層除去工程と、
前記革溶解アルカリ液を再加熱する再加熱工程と、
前記革溶解アルカリ液を中和する中和工程と、
前記表面処理層除去工程、前記再加熱工程、及び前記中和工程の後、前記表面処理層が除去され、前記革溶解アルカリ液が再加熱され、前記革溶解アルカリ液が中和されて得られた革溶解液中の粗脂肪分及び夾雑物を0℃以上15℃以下の条件で除去する粗脂肪分及び夾雑物除去工程と、を含むことを特徴とする革の表面処理層の分離方法である。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C