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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108862
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】有機性排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20230101AFI20240805BHJP
   C02F 3/30 20230101ALI20240805BHJP
   B01D 53/52 20060101ALI20240805BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20240805BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20240805BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C02F3/28 Z ZAB
C02F3/30 Z
B01D53/52 200
B01D53/78
B01D53/52
B01D53/82
B01D53/14 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013473
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】592059622
【氏名又は名称】株式会社エイブル
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸雄
(72)【発明者】
【氏名】吉村 敏機
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4D040
【Fターム(参考)】
4D002AA03
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA03
4D002BA04
4D002CA04
4D002CA07
4D002DA11
4D002DA21
4D002DA22
4D002DA23
4D002DA59
4D002EA02
4D002GA02
4D002GA03
4D002GB01
4D002GB02
4D020AA04
4D020BA30
4D020BB03
4D020CB34
4D020DA01
4D020DA02
4D020DB01
4D020DB03
4D040AA26
4D040AA31
4D040BB51
(57)【要約】
【課題】メタン発酵槽と好気性微生物処理槽を有する有機性排水処理装置において、硫化水素濃度が低減されたメタンガスを得ることができる硫化水素除去機構を有する処理装置を提供する。
【解決手段】有機性排水をメタン発酵槽で処理し、メタン発酵槽の処理水を好気性微生物処理槽でさらに処理する有機性排水処理装置において、メタン発酵槽から発生する硫化水素およびメタンを含むバイオガスを接触液に接触させることにより、硫化水素を溶解させた吸収液および硫化水素濃度が低下した処理ガスを得るための気液接触塔と、硫化水素吸着材が充填された乾式硫化水素吸着塔とが設けられ、接触液を供給するための供給ポンプを付設した供給管と、バイオガスを導入するためのガス導入管と、吸収液を好気性微生物処理槽に戻すための返送管と、処理ガスを前記乾式硫化水素吸着塔に供給するための連通管が、それぞれ気液接触塔に接続されている有機性排水処理装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水をメタン発酵槽で処理し、メタン発酵槽の処理水を好気性微生物処理槽でさらに処理する有機性排水処理装置において、
メタン発酵槽から発生する硫化水素およびメタンを含むバイオガスを、前記好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水からなる接触液に接触させることにより、硫化水素を溶解させた吸収液および硫化水素濃度が低下した処理ガスを得るための気液接触塔と、硫化水素吸着材が充填された乾式硫化水素吸着塔とが設けられ、
前記接触液を供給するための供給ポンプを付設した供給管と、前記バイオガスを導入するためのガス導入管と、前記吸収液を前記好気性微生物処理槽に戻すための返送管と、前記処理ガスを前記乾式硫化水素吸着塔に供給するための連通管が、それぞれ前記気液接触塔に接続されていることを特徴とする有機性排水処理装置。
【請求項2】
前記連通管に硫化水素濃度計を付設するとともに、当該硫化水素濃度計からの信号を受けて前記供給ポンプの流量を増減させるための制御装置を付設した請求項1に記載された有機性排水処理装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記連通管内の処理ガス中の硫化水素濃度が予め定められた目標値となるように、前記供給ポンプの流量を増減させるためのPID制御機構を有する請求項2に記載された有機性排水処理装置。
【請求項4】
前記気液接触塔は、液膜発生装置を塔内に複数段設け、塔内の下方部に前記ガス導入管の導入口および前記返送管の導出口を設けるとともに、塔内の上方部に前記連通管を設け、前記液膜発生装置に前記供給管を接続したものである請求項1~3のいずれか1項記載の有機性排水処理装置。
【請求項5】
前記乾式硫化水素吸着塔を複数塔設けるとともに、1塔毎に単独で運転可能とし得る切換え弁を各塔に設けた請求項1に記載された有機性排水処理装置。
【請求項6】
前記硫化水素吸着材が酸化鉄系吸着材である請求項1に記載された有機性排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水をメタン発酵槽で処理し、メタン発酵槽の処理水を好気性微生物処理槽でさらに処理して放流可能な処理液を得るとともに、発生する少なくとも硫化水素およびメタンを含むバイオガスから硫化水素を除去する機構を有した有機性排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から糖類、でんぷん、アミノ酸、アルコール類、その他の溶解性有機物を含む排水を浄化処理するに際して、メタン発酵槽とその後段に設置される好気性微生物処理槽からなる有機性排水処理装置が採用されている。
【0003】
メタン発酵槽は、有機物をメタン生成菌によって分解して浄化するとともに、蒸気や熱水を発生させるボイラーの熱源や電力に変換できるメタンを含むバイオガスを発生させるものであり、エネルギー的に非常に有利な処理装置である。
【0004】
また近年になってメタン生成菌を0.5~4mm径のグラニュールと呼ばれるペレット状の塊としてメタン発酵槽内に保持してメタン発酵させることによって、性能に優れかつ設置面積を大幅に減少し得るUASBメタン発酵槽が用いられている。
【0005】
メタン発酵槽の処理水の有機物濃度は処理する前の排水と比較すると大幅に減少してはいるが、そのまま放流できる有機物濃度にはなっていないので、前述した通りメタン発酵槽の処理水を好気性微生物処理槽でさらに処理し、有機物濃度を放流可能な値までに低下させる。
【0006】
ところでメタン発酵槽の被処理水である排水中に硫酸イオンが存在すると、メタン発酵槽で生成されるバイオガス中には硫化水素が含まれることになる。これはメタン発酵菌と共存する硫酸還元菌によるものであり、処理対象となる排水によってはバイオガス中に含まれる硫化水素濃度は5,000~20,000ppmに達する場合がある。
【0007】
このようにバイオガス中に含まれる硫化水素量は排水中に存する硫酸イオン量によって増減するため、バイオガス中の硫化水素濃度は常に一定ではない。
【0008】
バイオガス中に含まれる硫化水素は、利用時に燃焼を伴うため酸素と反応し、排気中に亜硫酸ガスが含まれることになる。
S+3O→HO+SO
【0009】
亜硫酸ガスは燃焼装置を劣化させてしまう原因となるし、さらに大気汚染防止の観点からその排出量が規制されている。
【0010】
上述した理由により、バイオガスをボイラーや温水機で燃焼させる場合や発電機を廻すためのエンジン燃料として利用するに際し、バイオガス中の硫化水素濃度を実用的には0ppm、最大でも10ppm以下にすることが求められている。
【0011】
従来からバイオガス中の硫化水素を除去するために、バイオガスを水や苛性ソーダ液に接触させて硫化水素を吸収させる装置(スクラバー方式)、アルカリ含浸炭や酸化鉄系の充填材にバイオガスを通して硫化水素を吸着させる装置(乾式吸着塔方式)がある。
【0012】
スクラバー方式の内、吸着液として水を用いる場合は大量に必要となり、一方苛性ソーダ液を使用する場合は使用する液量は少ないが苛性ソーダが消耗され、両者ともに硫化水素を吸収した水あるいは苛性ソーダ液の処理がさらに必要となり、処理費が高くなるという問題がある。
【0013】
乾式吸着塔方式は、充填材にバイオガスを通過させるだけで硫化水素を充填材に吸着させることができ、かつ硫化水素濃度が10ppm以下のバイオガスを得ることができるが、充填剤を使い捨てにするものであるからバイオガス中の硫化水素量が多量の場合は、充填剤の使用量が多くなり処理費が高くなるという問題がある。
【0014】
処理費の削減を目的として、特許文献1には、気液接触塔を用いてバイオガスを好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水からなる接触液に接触させ、バイオガス中の硫化水素を溶解した吸収液を気液接触塔の下部から排出し、硫化水素濃度が低下した処理ガスを気液接触塔の上部から放出するとともに、排出した吸収液を好気性微生物処理槽に戻して吸収液中の硫化水素を好気性微生物で硫酸イオンに酸化し、好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水を前記接触水として循環して使用する装置が開示されている。
【0015】
また特許文献2には、多孔板からなる多段のトレイを配した気液接触部を下段に有し、硫化水素を吸着し得る充填材を充填した吸着部を上段に有した2段式の気液接触塔を用い、下段の気液接触部でバイオガスを好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水からなる接触液に接触させ、バイオガス中の硫化水素を溶解した吸収液を気液接触塔の下部から排出し、硫化水素濃度が低下した処理ガスを上段の吸着部に通過させて、硫化水素濃度をさらに低下させた処理ガスを気液接触塔の上部から放出するとともに、排出した吸収液を好気性微生物処理槽に戻して吸収液中の硫化水素を好気性微生物で硫酸イオンに酸化し、好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水を前記接触水として循環して使用する装置が開示されている。
【0016】
両公報に記載された装置は、いずれもメタン発酵槽の後段に設置される好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水に硫化水素を溶解させ、硫化水素が溶解した吸収液を好気性微生物処理槽に戻して吸収液中の硫化水素を好気性微生物によって硫酸イオンに酸化するものであるから、処理費用は比較的安価である。
【0017】
しかしながら特許文献1に記載された装置によってバイオガス中の硫化水素濃度を10ppm以下にするためには、極めて大量の接触液にバイオガスを接触させねばならず、動力費が嵩み、かつ大量の接触液を循環させる必要があるため好気性微生物処理槽の運転に支障が生じる恐れがあり、実用的な装置とは言い難い。
【0018】
一方特許文献2に記載された装置は、下段の気液接触部で大部分の硫化水素を除去した後、残留する硫化水素を上段の吸着部で除去するものであるから、それ程大量の接触液に接触させなくとも、バイオガス中の硫化水素を10ppm以下にすることも可能である。しかしながら硫化水素の吸着量が飽和に達した充填材を交換する際には装置の運転を中断せねばならず、そのため装置を中断している間に処理すべきバイオガスを貯留するためのガスホルダーが必要となり、余分な設置コストが発生するという問題がある。
【0019】
また接触液である好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水には、懸濁固形分が含まれているため、多孔板からなる多段のトレイに当該懸濁固形分が目詰まりを起こし、気液接触に障害が生じる恐れがある。
【0020】
さらに両公報に記載された装置は、バイオガス中の硫化水素の濃度の変動に対して追随することができず、処理ガス中の硫化水素濃度が変動するという問題や、必要以上の吸収液を使用することにより運転コストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平5-68849号公報
【特許文献2】特開平8-24570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明はメタン発酵槽と好気性微生物処理槽を有する有機性排水処理装置において、硫化水素濃度が10ppm以下のメタンガスを得ることができる硫化水素除去機構を有する処理装置を提供することを目的とする。
【0023】
また余分なガスホルダーを設置する必要がない有機性排水処理装置を提供することを目的とする。
【0024】
さらに前記硫化水素除去機構は、バイオガス中の硫化水素濃度が変動しても、その変動に対応して常に最適な運転条件で運転でき、運転コストを大幅に削減することができる有機性排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明に係る有機性排水処理装置は、有機性排水をメタン発酵槽で処理し、メタン発酵槽の処理水を好気性微生物処理槽でさらに処理する有機性排水処理装置において、
メタン発酵槽から発生する硫化水素およびメタンを含むバイオガスを、前記好気性微生物処理槽の槽内反応水または処理水からなる接触液に接触させることにより、硫化水素を溶解させた吸収液および硫化水素濃度が低下した処理ガスを得るための気液接触塔と、硫化水素吸着材が充填された乾式硫化水素吸着塔とが設けられ、
前記接触液を供給するための供給ポンプを付設した供給管と、前記バイオガスを導入するためのガス導入管と、前記吸収液を前記好気性微生物処理槽に戻すための返送管と、前記処理ガスを前記乾式硫化水素吸着塔に供給するための連通管が、それぞれ前記気液接触塔に接続されていることを特徴とするものからなる。
【0026】
このような本発明の有機性排水処理装置によれば、硫化水素吸着材を充填した乾式硫化水素吸着塔を用い、乾式硫化水素吸着塔の前段でバイオガス中の硫化水素の大部分を気液接触塔で除去するので、硫化水素濃度が10ppm以下のメタンガスを得ながら硫化水素吸着材の交換費用を低減することができる。
【0027】
本発明の有機性排水処理装置において、前記連通管に硫化水素濃度計を付設するとともに、当該硫化水素濃度計からの信号を受けて前記供給ポンプの流量を増減させるための制御装置を付設することが好ましい。前記制御装置は、前記連通管内の処理ガス中の硫化水素濃度が予め定められた目標値となるように、前記供給ポンプの流量を増減させるためのPID制御機構を有するように構成可能である。このような制御装置を用いることにより、乾式硫化水素吸着塔に供給される処理ガス中の硫化水素濃度を安定させて、乾式硫化水素吸着塔の負荷を低減することができる。
【0028】
本発明の有機性排水処理装置において、前記気液接触塔は、液膜発生装置を塔内に複数段設け、塔内の下方部に前記ガス導入管の導入口および前記返送管の導出口を設けるとともに、塔内の上方部に前記連通管を設け、前記液膜発生装置に前記供給管を接続したものであることが好ましい。気液接触塔には充填材を充填しても良いが、充填材を使用しない水滴落下式スクラバーを用いれば、懸濁物質(SS)が充填材を閉塞させる恐れを未然に回避することができる。
【0029】
本発明の有機性排水処理装置において、前記乾式硫化水素吸着塔を複数塔設けるとともに、1塔毎に単独で運転可能とし得る切換え弁を各塔に設けることが好ましい。乾式硫化水素吸着塔をそれぞれ独立して運転できるように構成することで、吸着材の交換等のメンテナンス作業が容易となる。
【0030】
本発明の有機性排水処理装置において、前記硫化水素吸着材が酸化鉄系吸着材であることが好ましい。酸化鉄系吸着材は他の硫化水素吸着材に比べて、硫化水素の吸着能力に優れ、かつ入手が容易で保管が安易である。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る有機性排水処理装置によれば、硫化水素吸着材を充填した乾式硫化水素吸着塔を用いているので、硫化水素濃度が10ppm以下のメタンガスを得ることができる。さらに乾式硫化水素吸着塔の前段でバイオガス中の硫化水素の大部分を気液接触塔で除去するので、硫化水素吸着材の寿命が格段に伸び、硫化水素吸着材の交換費用を大幅に低減できる。
【0032】
また乾式硫化水素吸着塔と気液接触塔とを別々に設けているので、乾式硫化水素吸着塔内の硫化水素吸着材の交換が容易であり、余分なガスホルダーを設置する必要がない。
【0033】
本発明に用いる気液接触塔はバイオガス中の硫化水素の変動に対して追随できる制御機構を有しているので、気液接触塔に接触液を送給するポンプの動力費を大幅に削減できる。
【0034】
このように本発明は従来装置にはない種々の利点を有しており、バイオガス中の硫化水素を除去するにあたり、そのランニングコストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施態様に係る有機性排水処理装置の概略フロー図である。
図2】本発明の他の実施態様に係る有機性排水処理装置で使用する気液接触塔の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は本発明の有機性排水処理装置100の実施態様の一例を示す説明図であり、1はメタン発酵槽、2は好気性微生物処理槽、3は気液接触塔、4は乾式硫化水素吸着塔である。メタン発酵槽1には被処理液である有機性排水を流入する流入管5および処理液を好気性微生物処理槽2に送給する接続管6が付設され、また好気性微生物処理槽2に処理水流出管7が接続されており、好気性微生物処理槽2の下部にはブロワー8からの空気を放出させるための散気管9が設置されている。気液接触塔3の下方部にはメタン発酵槽1から発生するバイオガスを導入するためのガス導入管10が接続されており、また気液接触塔3の上方部には好気性微生物処理槽2の槽内反応水を供給するための供給管11が接続されている。
【0037】
気液接触塔3内において好気性微生物処理槽2の槽内反応水である接触液が散水管12からシャワー状に落下し、バイオガス中の硫化水素を吸収し、硫化水素を吸収した吸収液は返送管13によって好気性微生物処理槽2に戻されるようになっている。
【0038】
気液接触塔3の上方部には連通管14の一端が接続され、その他端は乾式硫化水素吸着塔4aおよび4bに接続されている。また乾式硫化水素吸着塔4aおよび4bの流入側と流出側にはそれぞれ切換え弁15が付設されている。なお連通管14には硫化水素濃度計16が付設されており、当該硫化水素濃度計16からの信号を受けて供給管11に付設した供給ポンプ17に信号を送る制御装置18が設置されている。
【0039】
次に本発明の有機性排水処理装置の操作を説明する。
溶解性有機物および油分、たんぱく質、その他の有機物を含む排水は図示していない調整槽、酸発酵槽を経て、流入管5を介してメタン発酵槽1に流入される。
【0040】
なお酸発酵槽は処理すべき排水中の高分子状の有機物を通性嫌気性下で滞留させることにより低分子化して種々の有機酸等に変化させるものであり、メタン発酵槽1の前段に設置されることが多い。
【0041】
メタン発酵槽1内のメタン生成菌によって排水中の有機酸等からなる有機物は分解され、有機物濃度が低下した処理水は接続管6を介して好気性微生物槽2に供給される。
【0042】
メタン生成菌で有機物が分解されることによりメタンを含むバイオガスが発生するが、排水中に硫酸イオンが存在するとその存在量に応じて硫化水素もバイオガス中に含まれる。
【0043】
当該バイオガスはガス導入管10を介して気液接触塔3の下方に導入され、好気性微生物処理装置2の槽内混合水からなる接触液が気液接触塔3の上方から供給され、当該接触液にバイオガスを接触されることにより硫化水素を溶解させ、硫化水素を溶解させた吸収液は返送管13によって好気性微生物処理槽2に戻される。
【0044】
一方硫化水素濃度が低下した処理ガスは連通管14を介して乾式硫化水素吸着塔4に送られ、処理ガス中に残留する硫化水素は当該吸着塔4内の硫化水素吸着材によって吸着され、硫化水素濃度が10ppm以下になった精製ガスは精製ガス管19によって図示していないガスホルダーに送給される。
【0045】
返送管13によって戻される吸収液中には硫化水素が含まれているが、当該硫化水素は好気性微生物によって酸化されることにより硫酸に変化し、当該硫酸は好気性微生物処理槽2の槽内反応水中の炭酸水素イオンによって中和され、硫酸イオンと炭酸ガスとなる。
【0046】
バイオガス中には硫化水素の他に炭酸ガスも含まれており、当該炭酸ガスも接触液に吸収されるが、当該炭酸ガスは前述した中和によって生成された炭酸ガスとともに、散気管9から供給される空気によって曝気され、大気中に放散される。
【0047】
このように気液接触塔3で得られる処理ガスは、硫化水素および炭酸ガスも除去されているので、乾式硫化水素吸着塔4から得られる精製ガスは高純度のメタンガスとなる。
なお上述した実施態様において、好気性微生物処理装置2は曝気型の標準活性汚泥装置を示しているが、本発明に用いられる好気性微生物処理装置は、好気性微生物を担持した接触酸化槽、流動床装置等、好気性微生物を用いて有機物を処理し得る装置あれば、いかなる装置も用いることができる。
【0048】
次に本発明における硫化水素濃度計16と制御装置18と供給ポンプ17の機能を説明する。
連通管14内に通流する処理ガス中の硫化水素濃度を硫化水素濃度計16で計測し、その計測値を信号伝達ライン20によって制御装置18に伝達し、制御装置18は予め組み込まれた制御手順に沿って前記計測値に応じて供給ポンプ17の流量を増減させる信号を供給ポンプ17に伝達する。
【0049】
具体的には目標となる硫化水素濃度(目標値)を制御装置に記憶させ、計測した硫化水素濃度(実測値)が目標値より大きい場合は、供給ポンプの流量を増大させ、計測した硫化水素濃度(実測値)が目標値より小さい場合は、供給ポンプの流量を減少させる。
【0050】
より具体的な供給ポンプの増減は、目標値と実測値との偏差の大きさに比例した操作P(比例制御)と、目標値と実測値の偏差を無くすような操作I(積分制御)と、実測値の変化に対してそれを抑えるような操作D(微分制御)を組み合わせた、いわゆるPID制御によって達成される。
【0051】
なお本発明において、目標値はメタン発酵槽1で発生するバイオガスの硫化水素濃度の20%前後の値に設定することが好ましい。
【0052】
たとえばメタン発酵槽1で発生するバイオガスの硫化水素濃度が5,000ppmの場合は、目標値は1、000ppm前後となる。換言すれば、メタン発酵槽で発生するバイオガス中の硫化水素の80%前後を気液接触塔3で除去するように設定することになる。
【0053】
目標値をこのような値に設定することにより、供給ポンプ17の動力費を削減でき、さらに乾式硫化水素吸着塔に充填する硫化水素吸着材の負荷を小さくすることができる。
次に本発明で用いる気液接触塔3について説明する。
【0054】
好気性微生物処理槽2の槽内反応水や処理水には懸濁固形分が含まれており、気液接触塔3内に気液接触を促進させるための充填材や複数の多孔板等を設けると、これらの充填材や多孔板に懸濁固形分が目詰まりを起こし、気液接触の障害が生じる恐れがある。
【0055】
したがって図1に示したように、充填材や多孔板等を設置していない空塔である気液接触塔に、接触液を散水管12からシャワー状に落下させるようにしているが、バイオガス中の硫化水素を効果的に吸収する装置として、接触液を液膜状に広げ当該液膜にバイオガスを通過させる装置を用いると気液接触が効果的に達成できる。
【0056】
図2は本発明で使用する気液接触塔の他の実施態様の説明図である。
気液接触塔3内に、ノズル21とノズル21の直下に設けた衝突板22とを一対とした液膜発生装置23を縦方向に4段設け、塔内の下方部にガス導入管10の導入口24および返送管13を設けるとともに、塔内の上方部に連通管14を設け、前記ノズ21のそれぞれに供給管11を接続したものである。
【0057】
ノズル21から衝突板22に向かって接触液を噴出することにより、衝突板を中心にして接触液は液膜25となって塔内に広がる。
【0058】
図2に示した気液接触塔3は4段に形成された液膜25に対して直角に下からバイオガスが通過するのでバイオガス中の硫化水素がより効果的に接触液に吸収させることができる。
【0059】
なお本実施態様では、ノズル21の下部に衝突板22を設けているが、衝突板22の下にノズル21を設けてもよく、ノズルと衝突板を用いて液膜を形成できるものであれば、いかなる形状の液膜発生装置でもよい。
【0060】
また図2に示した実施態様では液膜発生装置を塔内に4段縦方向に設けているが、塔内に設ける液膜発生装置の段数は4段に限らず、適宜に複数段設ければよい。
【0061】
図1に示した乾式硫化水素吸着塔4は、4aと4bの2塔を設置し、図1では切換え弁15の操作によって、乾式硫化水素吸着塔4aを稼働させ、乾式硫化水素吸着塔4bを待機させている状態を示している。
【0062】
乾式硫化水素吸着塔4a内に充填されている硫化水素吸着材が飽和に達した場合は、切換え弁15を操作して乾式硫化水素吸着塔4bを稼働し、乾式硫化水素吸着塔4aを運転から切り離し、当該吸着塔4a内の硫化水素吸着材を交換した後、次の切換えのために待機させる。
【0063】
なお切換え弁の操作により1塔毎に単独で運転できるものであれば、設置する乾式硫化水素吸着塔は2塔以上設置してもよいし、また配管との接合部の工夫によって極短時間で乾式硫化水素吸着塔を取り外し、別の乾式硫化水素吸着塔を取りつけ可能なカートリッジ構造となっている場合は、使用する乾式硫化水素吸着塔は1塔でもよい。
【0064】
次に本発明で用いる硫化水素吸着材は、アルカリ含侵炭、酸化亜鉛系、酸化銅系、酸化鉄系等の種々の吸着材を用いることができるが、硫化水素の吸着能力に優れ、かつ入手が容易で保管が安易な点で酸化鉄系吸着材が最も好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る有機性排水処理装置は、糖類、でんぷん、アミノ酸、アルコール類、その他の溶解性有機物を含む排水を浄化処理するために広く利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 メタン発酵槽
2 好気性微生物処理装置
3 気液接触塔
4 乾式硫化水素吸着塔
5 流入管
6 接続管
7 処理水流出管
8 ブロワー
9 散気管
10 ガス導入管
11 供給管
12 散水管
13 返送管
14 連通管
15 切換え弁
16 硫化水素濃度計
17 供給ポンプ
18 制御装置
19 精製ガス管
20 信号伝達ライン
21 ノズル
22 衝突板
23 液膜発生装置
24 導入口
25 液膜
100 有機性排水処理装置
図1
図2