(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108868
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】熱処理システム
(51)【国際特許分類】
C21D 1/62 20060101AFI20240805BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20240805BHJP
C21D 1/58 20060101ALI20240805BHJP
C21D 11/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C21D1/62
C21D1/00 121
C21D1/58
C21D11/00 104
C21D1/00 B
C21D1/00 123Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013480
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 剛士
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐馬
(72)【発明者】
【氏名】石井 久貴
【テーマコード(参考)】
4K034
4K038
【Fターム(参考)】
4K034AA01
4K034AA19
4K034CA05
4K034CA06
4K034DA08
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB05
4K034DB06
4K034EA01
4K034FA06
4K034FB03
4K034FB11
4K034GA11
4K034GA15
4K038BA02
4K038CA01
4K038CA03
4K038DA04
4K038EA04
(57)【要約】
【課題】焼入れ終了後の冷却性能を向上する熱処理システムを提供する。
【解決手段】鋼部材Wを内部に配置した状態のまま、鋼部材Wに対して少なくとも焼入れ処理から焼戻し処理までを行う共通油槽11と、共通油槽11の内部を減圧する真空ポンプ15と、真空ポンプ15により共通油槽11の内部が減圧されることで、共通油槽11の内部の鋼部材Wに油を供給する供給部12と、共通油槽11の内部における油の蒸気圧を計測する圧力計13と、油に関する温度と蒸気圧との相関関係を記憶する記憶部18と、焼入れ終了後に、真空ポンプ15の動作制御を行い共通油槽11の内部に油を供給することで、鋼部材Wの冷却を行う制御部19と、を備え、制御部19は、鋼部材Wの冷却を行う際に、相関関係に基づいて、圧力計13が計測する油の蒸気圧が、油の温度が予め設定された鋼部材Wの目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、真空ポンプ15の動作制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部材を内部に配置した状態のまま、当該鋼部材に対して少なくとも焼入れ処理から焼戻し処理までを行う第一油槽と、
前記第一油槽の内部を減圧する真空ポンプと、
前記真空ポンプにより前記第一油槽の内部が減圧されることで、当該第一油槽の内部の前記鋼部材に油を供給する供給部と、
前記第一油槽の内部における前記油の蒸気圧を計測する圧力計と、
前記油に関する温度と蒸気圧との相関関係を記憶する記憶部と、
前記焼入れ終了後に、前記真空ポンプの動作制御を行い前記第一油槽の内部に前記油を供給することで、前記鋼部材の冷却を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記鋼部材の冷却を行う際に、前記相関関係に基づいて、前記圧力計が計測する前記油の前記蒸気圧が、当該油の温度が予め設定された当該鋼部材の目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、前記真空ポンプの動作制御を行うことを特徴とする熱処理システム。
【請求項2】
前記記憶部は、複数種類の前記油毎に前記相関関係を記憶し、
前記供給部から前記第一油槽の内部に供給する前記油の種類の入力を受け付ける入力部を更に備え、
前記制御部は、前記鋼部材の冷却を行う際に、前記入力部が受け付けた前記油の種類、及び、当該油の種類についての前記相関関係に基づいて、前記圧力計が計測する前記油の蒸気圧が、当該油の温度が予め設定された当該鋼部材の目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、前記真空ポンプの動作制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項3】
前記供給部は、
内部に前記油を貯留する第二油槽と、
前記真空ポンプにより前記第一油槽が減圧されることで、前記第二油槽に貯留された前記油を前記第一油槽に供給する第二油槽用経路と、
前記第二油槽用経路に設置され、前記制御部によって開閉制御される制御弁と、
を備え、
前記制御部は、前記鋼部材の冷却を行う際に、前記第一油槽の内部に前記油が供給されるように、前記真空ポンプ及び前記制御弁の動作制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理システム。
【請求項4】
前記第一油槽には前記第二油槽用経路の一端が接続され、
前記一端には、前記鋼部材に対して前記油をシャワー状に噴射することができる複数の孔が形成されることを特徴とする請求項3に記載の熱処理システム。
【請求項5】
前記油はノルマルパラフィンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部材に対して熱処理を行う熱処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼部材に対して浸炭処理後の焼入れや焼戻し等の熱処理を行う技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、浸炭処理後の鋼部材を焼入れ処理用の油槽に浸漬させて焼入れ処理を行い、焼入れ処理後の鋼部材を焼戻し処理用の油槽に浸漬させて焼戻し処理を行う技術が開示されている。
尚、上記熱処理を既知のインライン装置(処理の開始から終了まで鋼部材を系外に出さずに行う装置)で行う技術も周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記熱処理をインライン装置で行う場合、焼入れ直後に焼戻し工程に移行するため、特許文献1のような技術では、残留するオーステナイトが増える傾向にあった。
【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、焼入れ終了後における冷却性能を向上する熱処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の熱処理システムは、鋼部材を内部に配置した状態のまま、当該鋼部材に対して少なくとも焼入れ処理から焼戻し処理までを行う第一油槽と、前記第一油槽の内部を減圧する真空ポンプと、前記真空ポンプにより前記第一油槽の内部が減圧されることで、当該第一油槽の内部の前記鋼部材に油を供給する供給部と、前記第一油槽の内部における前記油の蒸気圧を計測する圧力計と、前記油に関する温度と蒸気圧との相関関係を記憶する記憶部と、前記焼入れ終了後に、前記真空ポンプの動作制御を行い前記第一油槽の内部に前記油を供給することで、前記鋼部材の冷却を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記鋼部材の冷却を行う際に、前記相関関係に基づいて、前記圧力計が計測する前記油の前記蒸気圧が、当該油の温度が予め設定された当該鋼部材の目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、前記真空ポンプの動作制御を行う。
【0007】
また、前記記憶部は、複数種類の前記油毎に前記相関関係を記憶し、前記供給部から前記第一油槽の内部に供給する前記油の種類の入力を受け付ける入力部を更に備え、前記制御部は、前記鋼部材の冷却を行う際に、前記入力部が受け付けた前記油の種類、及び、当該油の種類についての前記相関関係に基づいて、前記圧力計が計測する前記油の蒸気圧が、当該油の温度が予め設定された当該鋼部材の目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、前記真空ポンプの動作制御を行う。
【0008】
また、前記供給部は、内部に前記油を貯留する第二油槽と、前記真空ポンプにより前記第一油槽が減圧されることで、前記第二油槽に貯留された前記油を前記第一油槽に供給する第二油槽用経路と、前記第二油槽用経路に設置され、前記制御部によって開閉制御される制御弁と、を備え、前記制御部は、前記鋼部材の冷却を行う際に、前記第一油槽の内部に前記油が供給されるように、前記真空ポンプ及び前記制御弁の動作制御を行う。
【0009】
また、前記第一油槽には前記第二油槽用経路の一端が接続され、
前記一端には、前記鋼部材に対して前記油をシャワー状に噴射することができる複数の孔が形成される。
【0010】
また、前記油はノルマルパラフィンを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る熱処理システムによれば、焼入れ終了後における冷却性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱処理システムの全体の概略構成を示す回路図である。
【
図3】
図1に示す熱処理制御装置のハードウェア構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図4】
図1に示す熱処理制御装置の機能的構成の一例を、圧力計、真空ポンプ、温度測定部、制御弁とともに概略的に示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る熱処理油における温度と蒸気圧との相関関係、すなわち蒸気圧特性の一例を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る熱処理の各処理工程における鋼部材の温度変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては極力同一の符号を付して、重複する説明は適宜省略する。
【0014】
===実施形態===
≪装置構成≫
図1は、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と呼称)に係る熱処理システム1の全体の概略構成を示す回路図である。
【0015】
熱処理システム1は、鋼部材Wに対して熱処理を行うインライン装置である。この熱処理には、浸炭処理、浸炭処理後の焼入れ処理、残留オーステナイト低減処理、焼戻し処理、及び、洗浄処理等を含む。
【0016】
熱処理システム1は、共通油槽11(第一油槽)と、貯留油槽20と、真空ポンプ15と、給排経路30と、熱交換器41,42,43,44と、熱交換経路51,52,53,54と、蒸留器60と、熱処理制御装置14とを主要部として備えている。
【0017】
また、図示していないが、熱処理システム1は、浸炭処理を行う浸炭室、及び、浸炭処理と焼入れ処理との間において、鋼部材Wを加熱保持する降温均熱室を含んでいるが、
図1を簡略化するため、各処理室、各処理を行うための構成は省略して示している。
【0018】
共通油槽11(第一油槽)は、鋼部材Wを内部に配置した状態のまま、熱処理油が供給又は排出(給排)されることで、鋼部材Wに対して焼入れ処理を含む焼入れ処理以降の処理(少なくとも焼入れ処理から焼戻し処理まで)を行う油槽である。
【0019】
共通油槽11には、熱処理油として、例えば、焼入れ処理用の焼入油、焼戻し処理用の焼戻油、残留オーステナイト低減処理用の低温洗浄油、洗浄処理用の洗浄油等が、入れ替え可能に充填される。
【0020】
鋼部材Wは、例えばコンベア等の搬送装置(図示略)によって共通油槽11内に搬送され、配置される。熱処理油は、貯留油槽20から共通油槽11への供給によって、共通油槽11内に鋼部材Wが浸漬あるいはシャワーするようにして充填される。
【0021】
貯留油槽20は、内部に熱処理油を貯留する油槽であって、焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、低温洗浄油槽24(第二油槽)、及び、再生洗浄油槽25を含む。
【0022】
焼入油槽21は、内部に焼入油を貯留する油槽である。焼入油槽21内の焼入油は、例えば120℃程度の設定温度とされている。
【0023】
焼戻油槽22は、その内部において焼戻油を加熱するとともに貯留する油槽である。焼戻油槽22には、例えば熱源であるヒータHが設けられている。焼戻油槽22内の焼戻油は、このヒータHによって加熱されており、例えば200℃程度の設定温度とされている。なお、焼戻油槽22内の焼戻油は、ヒータHによる加熱に限らず、例えば浸炭室等の放熱を熱源として利用して加熱されてもよい。
【0024】
洗浄油槽23は、内部に洗浄油を貯留する油槽である。洗浄油槽23内の洗浄油は、例えば110℃程度の設定温度とされている。
【0025】
低温洗浄油槽24(第二油槽)は、内部に低温洗浄油を貯留する油槽である。低温洗浄油槽24内の低温洗浄油は、常温、例えば30℃程度の温度とされている。
【0026】
再生洗浄油槽25は、洗浄油槽23内の洗浄油が蒸留器60により蒸留されることによって生成された再生洗浄油を、内部に貯留する油槽である。再生洗浄油槽25の内部の再生洗浄油は、常温、例えば30℃程度の設定温度とされている。
【0027】
真空ポンプ15は、共通油槽11、焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、低温洗浄油槽24、再生洗浄油槽25、及び、後述のオーバーフロータンクFTに対して、排気経路15Aによって並列的に接続されており、共通油槽11、焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、低温洗浄油槽24、及び、再生洗浄油槽25のそれぞれの内部を減圧(真空排気)することが可能である。
【0028】
なお、排気経路15Aは配管等によって構成され、所定位置に制御弁が設けられている。これにより、共通油槽11、焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、低温洗浄油槽24、及び、再生洗浄油槽25の圧力を、それぞれ真空ポンプ15にて個別に制御することができる。
【0029】
また、共通油槽11、焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、低温洗浄油槽24、及び、再生洗浄油槽25のそれぞれには、窒素ガスタンク(図示略)が接続されており、当該窒素ガスタンクから窒素ガスが供給可能とされている(
図1におけるN2)。
【0030】
さらに、共通油槽11と、焼入油槽21、焼戻油槽22、洗浄油槽23、及び、低温洗浄油槽24との間では、減圧(真空排気)及び窒素ガス加圧によって生じる差圧を利用して、熱処理油を給排することができる。また、熱処理油の給排の際、熱処理油を供給する側又は排出する側の油槽に適宜窒素ガスを供給することにより、熱処理油を圧送することもできる。
【0031】
また、共通油槽11及び各貯留油槽20のそれぞれには、例えば、熱処理油の液量を測定するレベルセンサ(図示略)等が設けられている。
【0032】
給排経路30は、共通油槽11と各貯留油槽20との間で熱処理油を給排する経路であって、配管等によって構成されている。給排経路30は、焼入油経路31と、焼戻油経路32と、洗浄油経路33と、低温洗浄油経路34(第二油槽用経路)と、を含む。
【0033】
焼入油経路31は、焼入油槽21と共通油槽11との間で焼入油を給排(供給及び排出)する。焼入油経路31は、焼入油槽21から共通油槽11に焼入油を供給する供給経路と、共通油槽11から焼入油槽21に焼入油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路は、例えば経路f1,f2,f3,f4により構成されており、この排出経路は、例えば経路f5,f6により構成されている。
【0034】
なお、焼入油経路31の排出経路を構成する経路f6には、オーバーフロータンクFTが配置されており、共通油槽11から焼入油が排出される際には、このオーバーフロータンクFTを経由して焼入油が排出される。
【0035】
また、オーバーフロータンクFTは、経路f6とは異なる経路f30によって窒素ガスタンク(図示略)から窒素の供給を行うことができる(
図1中のN2)。なお、経路f30には制御弁が設けられている。さらに、オーバーフロータンクFTは排気経路15Aによって真空排気を行うことができる。
【0036】
焼戻油経路32は、焼戻油槽22と共通油槽11との間で焼戻油を給排する。焼戻油経路32は、焼戻油槽22から共通油槽11に焼戻油を供給する供給経路と、共通油槽11から焼戻油槽22に焼戻油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路及び排出経路は、それぞれ、例えば経路f7,f8,f2,f3,f4により構成されている。すなわち、経路f7,f8,f2,f3,f4が、焼戻油の供給時と排出時とで兼用されている。また、焼戻油経路32は、焼戻油の供給時において共通油槽11に供給した焼戻油を焼戻油槽22に戻して循環させるための循環経路や、共通油槽11に供給した焼戻油を焼戻油槽22に戻さずに迂回させて共通油槽11に戻す迂回経路と、を含む。この循環経路は、例えば経路f5,f9,f10,f11,f7,f8,f2,f3,f4により構成されており、この迂回経路は、例えば経路f5,f9,f12,f13,f14,f8,f2,f3,f4により構成されている。
【0037】
洗浄油経路33は、洗浄油槽23と共通油槽11との間で洗浄油を給排する。洗浄油経路33は、洗浄油槽23から共通油槽11に洗浄油を供給する供給経路と、共通油槽11から洗浄油槽23に洗浄油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路は、例えば経路f15,f16により構成されており、この排出経路は、例えば経路f4,f3,f17により構成されている。
【0038】
低温洗浄油経路34(第二油槽用経路)は、低温洗浄油槽24と共通油槽11との間で低温洗浄油を給排する。低温洗浄油経路34は、低温洗浄油槽24に貯留された低温洗浄油を共通油槽11の内部に供給する供給経路と、共通油槽11から低温洗浄油槽24に低温洗浄油を排出する排出経路と、を含む。この供給経路及び排出経路は、それぞれ、例えば経路f18,f4を含んで構成されている。すなわち、経路f18,f4が、低温洗浄油の供給時と排出時とで兼用されている。
【0039】
特に、低温洗浄油経路34は、残留オーステナイト低減処理工程において、真空ポンプ15により共通油槽11が減圧されることで、低温洗浄油槽24に貯留された低温洗浄油を共通油槽11に供給するものである。
【0040】
熱交換器41~44は、例えば直径の異なる2つのチューブを外側と内側の2重に組み合わせた二重管式熱交換器である。熱交換器41~44は、異なる温度の熱処理油を内部に流すことにより、相対的に高い温度の熱処理油から相対的に低い温度の熱処理油へと伝熱させる。
【0041】
熱交換器41は、焼戻油槽22内の焼戻油と焼入油槽21内の焼入油との間で熱交換を行う。熱交換器41は、熱交換経路51に配置されている。熱交換経路51を流れる焼戻油と焼入油とが熱交換器41の内部を流れることによって、当該焼戻油と当該焼入油との間で熱交換が行われる。
【0042】
熱交換器42は、焼入油槽21内の焼入油と洗浄油槽23内の洗浄油との間で熱交換を行う。熱交換器42は、熱交換経路52に配置されている。熱交換経路52を流れる焼入油と洗浄油とが熱交換器42の内部を流れることによって、当該焼入油と当該洗浄油との間で熱交換が行われる。
【0043】
熱交換器43は、焼入油槽21内の焼入油と蒸留器60内の洗浄油との間で熱交換を行う。熱交換器43は、熱交換経路53に配置されている。熱交換経路53を流れる焼入油と洗浄油とが熱交換器43の内部を流れることによって、当該焼入れ油と当該洗浄油との間で熱交換が行われる。
【0044】
熱交換器44は、低温洗浄油槽24内の低温洗浄油と再生洗浄油槽25内の再生洗浄油との間で熱交換を行う。熱交換器44は、熱交換経路54に配置されている。熱交換経路54を流れる低温洗浄油と再生洗浄油とが熱交換器44の内部を流れることによって、当該低温洗浄油と当該再生洗浄油との間で熱交換が行われる。
【0045】
熱交換経路51~54は、熱処理油を循環させながら熱交換を行う経路であって、配管等によって構成されている。熱交換経路51~54には、熱交換器41~44が配置されている。熱交換経路51~54では、熱処理油が循環しながら熱交換器41~44によって熱交換される。
【0046】
熱交換経路51は、焼戻油槽22内の焼戻油を、熱交換器41を経由して焼戻油槽22内に循環させるとともに、焼入油槽21内の焼入油を、熱交換器41を経由して焼入油槽21内に循環させる。具体的には、熱交換経路51は、焼戻油を焼戻油槽22から排出して熱交換器41を経由して焼戻油槽22に戻す循環経路51aと、焼入油を焼入油槽21から排出して熱交換器41を経由して焼入油槽21に戻す循環経路51bと、を含む。循環経路51aは、例えば、熱交換器41を通る経路f20と、焼戻油槽22から経路f20の一端までを接続する経路f19,f13と、経路f20の他端から焼戻油槽22までを接続する経路f11と、により構成されている。また、循環経路51bは、例えば、焼入油槽21から出て熱交換器41を通り焼入油槽21に戻る一つの経路として構成されている。
【0047】
熱交換経路52は、焼入油槽21内の焼入油を、熱交換器42を経由して焼入油槽21内に循環させるとともに、洗浄油槽23内の洗浄油を、熱交換器42を経由して洗浄油槽23内に循環させる。具体的には、熱交換経路52は、焼入油を焼入油槽21から排出して熱交換器42を経由して焼入油槽21に戻す循環経路52aと、洗浄油を洗浄油槽23から排出して熱交換器42を経由して洗浄油槽23に戻す循環経路52bと、を含む。循環経路52aは、例えば、熱交換器42を通る経路f22と、焼入油槽21から経路f22の一端までを接続する経路f21と、経路f22の他端から焼入油槽21までを接続する経路f23と、により構成されている。また、循環経路52bは、洗浄油槽23から出て熱交換器42を通り洗浄油槽23に戻る一つの経路として構成されている。
【0048】
熱交換経路53は、焼入油槽21内の焼入油を、熱交換器43を経由して焼入油槽21内に循環させるとともに、蒸留器60内の洗浄油を、熱交換器43を経由して蒸留器60内に循環させる。具体的には、熱交換経路53は、焼入油を焼入油槽21から排出して熱交換器43を経由して焼入油槽21に戻す循環経路53aと、洗浄油を蒸留器60から排出して熱交換器43を経由して蒸留器60に戻す循環経路53bと、を含む。循環経路53aは、熱交換器43を通る経路f24と、焼入油槽21から経路f24の一端までを接続する経路f21と、経路f24の他端から焼入油槽21までを接続する経路f23と、により構成されている。なお、
図1においては、熱交換器43を通る経路f24の途中部の図示を省略し「A」及び「B」の丸印を付しているが、実際の経路f24は、図示中の「A」の丸印同士と「B」の丸印同士が接続されてなる。また、循環経路53bは、例えば、蒸留器60から出て熱交換器43を通り蒸留器60に戻る一つの経路として構成されている。
【0049】
熱交換経路54は、低温洗浄油槽24内の焼入油を、熱交換器44を経由して低温洗浄油槽24内に循環させるとともに、再生洗浄油槽25内の洗浄油を、熱交換器44を経由して再生洗浄油槽25内に循環させる。具体的には、熱交換経路54は、低温洗浄油を低温洗浄油槽24から排出して熱交換器44を経由して低温洗浄油槽24に戻す循環経路54aと、再生洗浄油を再生洗浄油槽25から排出して熱交換器44を経由して再生洗浄油槽25に戻す循環経路54bと、を含む。循環経路54aは、例えば、低温洗浄油槽24から出て熱交換器44を通り低温洗浄油槽24に戻る一つの経路として構成されている。また、循環経路54bは、例えば、再生洗浄油槽25から出て熱交換器44を通り再生洗浄油槽25に戻る一つの経路として構成されている。
【0050】
蒸留器60は、洗浄油槽23内の洗浄油を蒸留することによって、再生洗浄油を生成する。蒸留器60には、洗浄油槽23内の洗浄油が経路f25を通って供給される。蒸留器60は、供給された洗浄油を蒸留し、再生洗浄油を生成する。生成された再生洗浄油は、経路f26を通って再生洗浄油槽25に供給される。再生洗浄油槽25内に貯留された再生洗浄油は、経路f27,f15を通って洗浄油槽23に供給される。なお、蒸留器60には、洗浄油の蒸留の際に生じた廃油を貯留する廃油タンク61が接続されている。
【0051】
給排経路30や熱交換経路51~54を含む各経路を構成する配管には、所定の位置において制御弁が設けられている。すなわち、給排経路30や熱交換経路51~54の所定位置には、それぞれ制御弁が配置されている。
【0052】
なお、
図1においては、経路f18に配置された制御弁を第一制御弁VAとし、経路f4に配置された制御弁を第二制御弁VBとしている。図面を簡略化して理解を容易にするため、その他の制御弁については符号の図示を省略する。各制御弁は、後述する制御部19によって開閉制御される。
【0053】
また、各制御弁の開閉制御によって、給排経路30や熱交換経路51~54において熱処理油を通すか通さないかが制御される。制御弁は、例えばエアオペレート弁(空圧駆動弁)である。また、経路f13,f21における所定の位置には、ポンプが配置されている。制御部19による当該ポンプの制御によって、熱交換経路51~54における熱処理油の循環が行われる。
【0054】
供給部12は、真空ポンプ15により共通油槽11の内部が減圧されることで、共通油槽11の内部の鋼部材Wに低温洗浄油を供給する構成を指している。すなわち、供給部12は、低温洗浄油槽24と、低温洗浄油経路34と、第一制御弁VAと、第二制御弁VBと、を含むものである。
【0055】
図2は、内部に鋼部材Wが配置された、
図1の共通油槽11の斜視図である。
図2に示すように、共通油槽11には低温洗浄油経路34の一端34Aが接続されている。なお、この一端34Aは二本に分岐しており、共通油槽11の内側の面のうち、互いに対向する二つの面にそれぞれ固定されている。
【0056】
また、この一端34Aには、鋼部材Wに対して低温洗浄油をシャワー状に噴射することができる複数の孔34Bが形成される。なお、
図2では、孔34Bの一部しか表しておらず、実際には、鋼部材Wの下方から上方まで均一に低温洗浄油がシャワーされるように、一端34Aの、共通油槽11の下方から上方にかけての広範囲に、孔34Bが形成されている。
【0057】
図1に戻り、圧力計13は、例えばピラニ真空計であり、共通油槽11の排気側、すなわち、排気経路15Aの経路f40に設置され、共通油槽11の内部における低温洗浄油(熱処理油)の蒸気圧を計測する。
【0058】
図3は、
図1の熱処理制御装置14のハードウェア構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図3に示すように、熱処理制御装置14は、記憶装置2と、制御装置3と、通信装置4と、を主に備えて主要部が構成されている。
【0059】
記憶装置2は、熱処理制御装置14の内部に配置されたハードディスク等によって構成される補助記憶装置である。この記憶装置2は、制御装置3における処理の実行に必要な各種プログラム、各種の情報、及び、処理結果の情報を記憶する。
【0060】
制御装置3は、CPU(Central Processing Unit)5、及び、メモリ(主記憶装置)6を主に備えて主要部が構成される。CPU5は、熱処理制御装置14の各種構成を動作制御する。メモリ6は、例えば熱処理制御装置14における処理の実行に必要な各種プログラム等を記憶する。
【0061】
また、制御装置3は、CPU5が記憶装置2あるいはメモリ6等に格納された所定のプログラムを実行することにより、各種の機能構成として機能する。この機能構成の詳細については後述する。当該プログラムは、記憶装置2に記憶されてもよく、熱処理制御装置14の外部の記憶装置等に記憶されてもよい。また、当該プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよく、インターネット等のネットワーク経由でインストールする形式で提供してもよい。
【0062】
通信装置4は、外部の装置と通信するための通信インターフェース等で構成される。通信装置4は、例えば、圧力計13、真空ポンプ15、各ポンプ、各制御弁、ヒータH、熱電対、レベルセンサ、及び、その他各種センサとの間で通信を行う。
【0063】
なお、熱処理制御装置14は、専用又は汎用のコンピュータ等を用いて実現することができる。また、
図3は熱処理制御装置14が有する主要なハードウェア構成の一部を示しているに過ぎず、熱処理制御装置14は、コンピュータが一般的に備える他の構成を備えることができる。
【0064】
図4は、
図1の熱処理制御装置14の機能的構成の一例を、圧力計13、真空ポンプ15、温度測定部16、及び、制御弁VA,VBとともに概略的に示すブロック図である。なお、温度測定部16は、
図1,2においては省略したが、鋼部材Wの温度を測定するものであり、例えば熱電対などである。
【0065】
図4に示すように、熱処理制御装置14は、取得部17と、入力部19Aと、記憶部18と、制御部19と、を主要部として備えている。
【0066】
取得部17は、圧力計13により計測した、共通油槽11における低温洗浄油の蒸気圧のデータを取得するとともに、温度測定部16により測定した、鋼部材Wの温度のデータを取得する。
【0067】
入力部19Aは、ユーザによる、使用する低温洗浄油(すなわち熱処理油)の種類、及び、オーステナイト低減処理における鋼部材Wの目標温度の入力を受け付ける。なお、本実施形態では、オーステナイト低減処理工程以外の各処理工程における設定温度においても、ユーザが設定することができるものとしてもよく、その場合にも入力部19Aにて受け付ける。
【0068】
記憶部18は、低温洗浄油(熱処理油)に関する温度と蒸気圧との相関関係、すなわち蒸気圧特性を記憶する。さらに、記憶部18は、複数種類の低温洗浄油(熱処理油)毎にこの相関関係を記憶する。
【0069】
制御部19は、真空ポンプ15の動作制御、その他各ポンプの動作制御、及び、第一制御弁VA、第二制御弁VBの開閉動作制御、その他各制御弁の開閉動作制御、及び、ヒータHの動作制御等を行うものである。
【0070】
特に制御部19は、焼入れ終了後の残留オーステナイト低減処理工程において、第一制御弁VA及び第二制御弁VBを開状態とするとともに、真空ポンプ15の動作制御を行い、共通油槽11の内部に低温洗浄油を供給することで、鋼部材Wの冷却を行う。
【0071】
ここで、残留オーステナイト低減処理工程における、制御部19による真空ポンプ15の動作制御について具体的に説明する。
制御部19は、鋼部材Wの冷却を行う際に、入力部19Aが受け付けた低温洗浄油の種類、及び、(記憶部18に記憶された)当該種類についての相関関係に基づいて、圧力計13が計測する低温洗浄油の蒸気圧(取得部17が取得するデータ)が、低温洗浄油の温度が予め設定された鋼部材Wの目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、真空ポンプ15の動作制御を行う。この目標温度はユーザが入力部19Aにて設定する。
【0072】
ここで、
図5は、
図4の記憶部18に記憶された低温洗浄油(熱処理油)における温度と蒸気圧との相関関係すなわち蒸気圧特性の一例を示すグラフである。当該グラフは、横軸が低温洗浄油(熱処理油)の温度[℃]、縦軸が低温洗浄油(熱処理油)の蒸気圧[KPa]となっている(ただし、縦軸は対数表示されている)。
【0073】
図5の各曲線は、低温洗浄油(熱処理油)が沸騰(突沸)する条件を示している。例えば、低温洗浄油(熱処理油)の種類がNSクリーン200である場合、低温洗浄油は、蒸気圧1600Paであれば温度80℃で沸騰することになる。
【0074】
そこで、制御部19は、入力部19Aにて入力された低温洗浄油(熱処理油)の種類がNSクリーン200であり、同じく入力された鋼部材Wの目標温度を80℃とした場合、記憶部18に記憶された
図5の相関関係に基づいて、圧力計13が計測するNSクリーン200の蒸気圧が、NSクリーン200の温度が上記目標温度と等しい80℃の場合の蒸気圧1600Paとなるように、真空ポンプ15の動作制御を行う。
【0075】
上記動作制御によって、焼入れ終了直後には上記目標温度80℃よりも高温である鋼部材Wに対して低温洗浄油を供給することで、鋼部材Wに接触した低温洗浄油が突沸する。この突沸により鋼部材Wの熱を奪うので、冷却機能が向上し、目標温度80℃までの到達時間を短縮することができる。また、例えばタップ穴が形成された鋼部材Wであっても、突沸した低温洗浄油がタップ穴の内部にまで侵入するため、均一に冷却することができる。なお、温度測定部16により計測した鋼部材Wの温度(取得部17が取得するデータ)が目標温度80℃となって時点で、残留オーステナイト低減処理を終了する。
【0076】
また、低温洗浄油(熱処理油)にはノルマルパラフィンを含むものを用いるのが好ましい。
図5に示したNSクリーン200、ダフニークリーナSD3、テクリーンN20、エクソールD80、及び、ダフニークリーナNHは、全てこのノルマルパラフィンを含んでいる。特に、NSクリーン200を用いるのが好ましい。
【0077】
≪各工程における鋼部材Wの温度変化≫
次に、
図6を参照して、熱処理の各処理工程の流れと鋼部材Wの温度変化について説明する。
図6は、熱処理の各処理工程における鋼部材Wの温度変化の一例を示すグラフである。
図6の横軸は時間を示し、
図6の縦軸は鋼部材Wの温度を示す。ここで、熱処理前の鋼部材Wの受け入れ時には、鋼部材Wの温度は常温であって例えば30℃程度であると仮定する。なお、熱処理の各工程の流れは、
図6に示す例に限定されず、例えば後洗浄処理が省略されてもよい。
【0078】
共通油槽11内における前洗浄処理工程においては、共通油槽11内の鋼部材Wの温度は、30℃程度の常温状態から83~110℃程度に上昇させる。続いて、浸炭室における浸炭処理工程においては、鋼部材Wの目標温度は930℃程度とする。続いて、浸炭処理後の鋼部材Wを降温均熱室において加熱保持し、共通油槽11内に搬入される際の鋼部材Wの目標温度は850℃程度とする。続いて、共通油槽11内における焼入れ処理工程においては、鋼部材Wの目標温度は120℃程度とする。続いて、共通油槽11内における残留オーステナイト低減処理工程においては、鋼部材Wの目標温度は80℃程度とする。続いて、共通油槽11内における後洗浄処理工程においては、鋼部材Wの目標温度は83~110℃程度とする。続いて、共通油槽11内における焼戻し処理工程においては、鋼部材Wの温度は200℃程度とする。続いて、共通油槽11内における後洗浄処理工程においては、鋼部材Wの目標温度は83~110℃程度とする。その後、常温の30℃程度になった状態で、熱処理後の鋼部材Wが払い出される。
【0079】
≪低温洗浄油の流れ≫
以下では、オーステナイト低減処理工程における低温洗浄油の流れについて説明する。
【0080】
残留オーステナイト低減処理工程においては、制御部19が、低温洗浄油槽24が共通油槽11よりも高圧となるように、真空ポンプ15の動作制御による共通油槽11の減圧(真空排気)や、低温洗浄油槽24への窒素ガス供給の制御を行うとともに、低温洗浄油経路34における供給経路に配置された第一制御弁VA及び第二制御弁VBを開状態とする。
【0081】
これにより、
図1に破線矢印で示すように、低温洗浄油槽24内の低温洗浄油は、低温洗浄油経路34における経路f18,f4を通過して、共通油槽11に供給される。低温洗浄油は、鋼部材Wに対してシャワー状に吹き付けられるようにして供給される。
【0082】
共通油槽11内では、供給された低温洗浄油が突沸することにより鋼部材Wが冷却される。これにより、鋼部材Wに残留したオーステナイトが低減される。
【0083】
≪作用効果≫
本実施形態に係る熱処理システム1は、鋼部材Wを内部に配置した状態のまま、鋼部材Wに対して少なくとも焼入れ処理から焼戻し処理までを行う共通油槽11(第一油槽)と、共通油槽11の内部を減圧する真空ポンプ15と、真空ポンプ15により共通油槽11の内部が減圧されることで、共通油槽11の内部の鋼部材Wに油を供給する供給部12と、共通油槽11の内部における油の蒸気圧を計測する圧力計13と、油に関する温度と蒸気圧との相関関係を記憶する記憶部18と、焼入れ終了後に、真空ポンプ15の動作制御を行い共通油槽11の内部に油を供給することで、鋼部材Wの冷却を行う制御部19と、を備え、制御部19は、鋼部材Wの冷却を行う際に、相関関係に基づいて、圧力計13が計測する油の蒸気圧が、油の温度が予め設定された鋼部材Wの目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、真空ポンプ15の動作制御を行う。
これにより、本実施形態に係る熱処理システム1は、焼入れ終了後の鋼部材Wに油を供給することで、従来のインライン装置に比べて冷却性能を向上することができ、冷却時間を短縮することができる。また、鋼部材Wが目標温度に冷却されるまで、鋼部材Wに供給された油が突沸するので、より冷却性能が向上する。
【0084】
また、記憶部18は、複数種類の油毎に相関関係を記憶し、供給部12から共通油槽11の内部に供給する油の種類の入力を受け付ける入力部19Aを更に備え、制御部19は、鋼部材Wの冷却を行う際に、入力部19Aが受け付けた油の種類、及び、油の種類についての相関関係に基づいて、圧力計13が計測する油の蒸気圧が、油の温度が予め設定された鋼部材Wの目標温度と等しい場合の蒸気圧となるように、真空ポンプ15の動作制御を行う。
これにより、本実施形態に係る熱処理システム1は、複数種類の油に対応することができる。
【0085】
また、供給部12は、内部に油を貯留する低温洗浄油槽24(第二油槽)と、真空ポンプ15により共通油槽11が減圧されることで、低温洗浄油槽24に貯留された油を共通油槽11に供給する低温洗浄油経路34(第二油槽用経路)と、低温洗浄油経路34に設置され、制御部19によって開閉制御される制御弁VA,VBと、を備え、制御部19は、鋼部材Wの冷却を行う際に、共通油槽11の内部に油が供給されるように、真空ポンプ15及び制御弁VA,VBの動作制御を行う。
これにより、本実施形態に係る熱処理システム1は、共通油槽11と低温洗浄油槽24との差圧を利用して、鋼部材Wに簡便に油を供給することができる。
【0086】
また、共通油槽11には低温洗浄油経路34の一端34Aが接続され、一端34Aには、鋼部材Wに対して油をシャワー状に噴射することができる複数の孔34Bが形成される。
これにより、本実施形態に係る熱処理システム1は、鋼部材Wに対し満遍なく油をかけることができるので、例えばタップ穴が形成されるなどの複雑な形状の鋼部材Wにおいても、均一に冷却することができる。
【0087】
また、低温洗浄油(熱処理油)はノルマルパラフィンを含む。
これにより、比較的高い蒸気圧で突沸が発生するので、冷却性能がより向上する。
【0088】
===変形例===
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上述した具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び下記変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0089】
例えば、給排経路30や熱交換経路51~54は、上記実施形態で説明した構成に限定されず、例えば図に示した経路以外の他の経路等を含んで構成されていてもよい。また、上記実施形態では、熱交換経路51~54で熱処理油を循環させながら熱交換器41~44による熱処理油の熱交換を行う例について説明したが、熱交換経路51~54で熱処理油を循環させずに、熱交換器を介して各貯留油槽20同士を接続すること等によって熱処理油の熱交換を行ってもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、熱処理システム1が、一つの共通油槽11を備える例について説明したが、熱処理システム1が複数の共通油槽11を備えていてもよい。熱処理システム1は、複数の共通油槽11のそれぞれにおいて、異なる鋼部材Wの熱処理を同時に又は並行して行ってもよい。
【符号の説明】
【0091】
1:熱処理システム、11:共通油槽(第一油槽)、12:供給部、13:圧力計、15:真空ポンプ、18:記憶部、19:制御部、19A:入力部、24:低温洗浄油槽(第二油槽)、34:低温洗浄油経路(第二油槽用経路)、34A:一端、34B:孔、VA:第一制御弁,VB:第二制御弁、W:鋼部材