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特開2024-10887金属部材の表面処理方法、および表面処理が施された金属部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010887
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】金属部材の表面処理方法、および表面処理が施された金属部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20240118BHJP
   F24C 15/10 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C23C28/00 B
F24C15/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112454
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111970
【弁理士】
【氏名又は名称】三林 大介
(72)【発明者】
【氏名】宮田 充
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA03
4K044AB10
4K044BA02
4K044BA06
4K044BA19
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】金属部材に形成される耐熱性焼結被膜の膜厚の均一化を図ることで、耐テンパーカラー性を向上させる。
【解決手段】加熱調理機器における熱源によって直接的に加熱される光沢面を有する金属部材に、ケイ素化合物を主成分とするコーティング液を塗布するコーティング工程と、金属部材に塗布されたコーティング液の被膜を乾燥させる乾燥工程と、金属部材の乾燥後の被膜を所定温度に加熱して焼結させる焼結工程とを順に行うことで、金属部材に透明な耐熱性焼結被膜を形成する。ただし、コーティング工程は、金属部材の角であるエッジ部分に化学反応を伴う化学的処理によって丸みを付ける下地工程(メッキ工程)を実行した後に行う。こうすれば、下地工程の化学的処理によって金属部材のエッジ部分が丸みを帯びることにより、その後の工程で耐熱性焼結被膜がエッジ部分にも均一な膜厚で形成され易くなり、耐テンパーカラー性を向上させることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理機器における熱源によって直接的に加熱される光沢面を有する金属部材の表面処理方法であって、
ケイ素化合物を主成分とするコーティング液を前記金属部材に塗布するコーティング工程と、
前記金属部材に塗布された前記コーティング液の被膜を乾燥させる乾燥工程と、
前記金属部材の乾燥後の前記被膜を所定温度に加熱して焼結させる焼結工程と
を順に行うことで、前記金属部材に透明な耐熱性焼結被膜を形成し、
前記コーティング工程は、前記金属部材の角であるエッジ部分に化学反応を伴う化学的処理によって丸みを付ける下地工程を実行した後に行われる
ことを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理方法であって、
前記化学的処理は、前記金属部材の表面を金属メッキ膜で覆うメッキ処理である
ことを特徴とする表面処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の表面処理方法であって、
前記メッキ処理によって前記金属部材の表面を覆う前記金属メッキ膜の膜厚は、1μm以上5μm以下である
ことを特徴とする表面処理方法。
【請求項4】
加熱調理機器における熱源によって直接的に加熱される光沢面を有し、表面処理が施された金属部材であって、
メッキ処理によって前記金属部材の表面を覆うと共に、該金属部材の角であるエッジ部分に丸みを付ける金属メッキ膜層と、
前記金属メッキ膜層の外側に、ケイ素化合物を主成分とするコーティング液を焼結させて形成された透明な耐熱性焼結被膜層と
を備えることを特徴とする金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理機器における熱源によって直接的に加熱される光沢面を有する金属部材の表面処理方法、および表面処理を施された金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱調理機器の一例としてガスコンロでは、調理容器が載置される五徳などを、光沢面を有する金属部材で構成することにより、意匠性(見栄え)の向上が図られている。但し、五徳は、熱源であるバーナの火炎に直接的に当たることから、金属部材の光沢面に酸化膜が生じて着色(変色)することがある。このような着色は、テンパーカラーと呼ばれており、光沢面を有する金属部材の意匠性がテンパーカラーによって損なわれてしまう。
【0003】
そこで、光沢面を有する金属部材に表面処理を施すことにより、テンパーカラーを抑制する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、ポリシラザンを主成分とするコーティング液を金属部材に塗布し、乾燥後に焼結させることにより、金属部材に透明な耐熱性焼結被膜を形成するようになっている。こうした焼結被膜によって金属部材の酸化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-108565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1のように耐熱性焼結被膜を金属部材に形成しても、酸化の抑制には焼結被膜に適度な厚みが必要であるため、膜厚にばらつきがあると、膜厚の薄い部分では耐テンパーカラー性を十分に得られないという問題があった。特に、金属部材を板金で作製すると、抜きバリなどがエッジ部分に生じることがあり、こうしたエッジ部分では、平面部分に対して焼結被膜の膜厚がばらつく傾向にあるので、膜厚が薄くなることでテンパーカラーが発生したり、逆に膜厚が厚くなることで黒ずみ(透明性の低下)が発生したりし易い。
【0006】
この発明は、従来の技術における上述した課題に対応してなされたものであり、金属部材に形成される耐熱性焼結被膜の膜厚の均一化を図ることで、耐テンパーカラー性を向上させることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の金属部材の表面処理方法は次の構成を採用した。すなわち、
加熱調理機器における熱源によって直接的に加熱される光沢面を有する金属部材の表面処理方法であって、
ケイ素化合物を主成分とするコーティング液を前記金属部材に塗布するコーティング工程と、
前記金属部材に塗布された前記コーティング液の被膜を乾燥させる乾燥工程と、
前記金属部材の乾燥後の前記被膜を所定温度に加熱して焼結させる焼結工程と
を順に行うことで、前記金属部材に透明な耐熱性焼結被膜を形成し、
前記コーティング工程は、前記金属部材の角であるエッジ部分に化学反応を伴う化学的処理によって丸みを付ける下地工程を実行した後に行われる
ことを特徴とする。
【0008】
このような本発明の金属部材の表面処理方法では、下地工程の化学的処理で金属部材のエッジ部分が丸みを帯びることにより、下地工程の実行後にコーティング工程を行うと、エッジ部分に対するコーティング液の付着が改善される。その結果、エッジ部分にも耐熱性焼結被膜が均一な膜厚で形成され易くなり、エッジ部分の耐テンパーカラー性を向上させることが可能となると共に、黒ずみを抑制する効果も得られる。また、化学的処理により、やすりがけ等のエッジ部分の細かな面取り作業が不要となるので、低コスト化を図ることができる。
【0009】
上述した本発明の金属部材の表面処理方法では、化学的処理を、金属部材の表面を金属メッキ膜で覆うメッキ処理としてもよい。
【0010】
このようにすれば、金属部材のエッジ部分では、平面部分に比べてメッキ処理によって金属メッキが析出し易く丸みを帯びるので、その後の工程で耐熱性焼結被膜がエッジ部分にも均一な膜厚で形成され易くなり、耐テンパーカラー性を向上させることができると共に、黒ずみを抑制する効果も得られる。
【0011】
また、上述した本発明の金属部材の表面処理方法では、メッキ処理によって金属部材の表面を覆う金属メッキ膜の膜厚を、1μm以上5μm以下としてもよい。
【0012】
熱源によって直接的に加熱される金属部材では、表面を覆う金属メッキ膜が厚くなると、ヒートショックによって金属メッキ膜にひび割れが生じることがあり、こうしたひび割れが透明な耐熱性焼結被膜を通して見えてしまうことで、意匠性(見栄え)が損なわれる。そこで、金属メッキ膜の膜厚を1μm以上5μm以下にすることで、エッジ部分に十分な丸みを付けて耐熱性焼結被膜の膜厚の均一化を図りながら、金属メッキ膜自体のひび割れを抑制することが可能となる。
【0013】
また、前述した課題を解決するために、本発明の表面処理が施された金属部材は次の構成を採用した。すなわち、
加熱調理機器における熱源によって直接的に加熱される光沢面を有し、表面処理が施された金属部材であって、
メッキ処理によって前記金属部材の表面を覆うと共に、該金属部材の角であるエッジ部分に丸みを付ける金属メッキ膜層と、
前記金属メッキ膜層の外側に、ケイ素化合物を主成分とするコーティング液を焼結させて形成された透明な耐熱性焼結被膜層と
を備えることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、金属部材のメッキ処理によってエッジ部分が金属メッキ膜に覆われて丸みを帯び、その外側に耐熱性焼結被膜が形成されることにより、エッジ部分にも均一な膜厚で耐熱性焼結被膜が形成され易いので、エッジ部分の耐テンパーカラー性が向上した金属部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】加熱調理機器の一例としてガスコンロ1の外観を示した斜視図である。
図2】本実施例の五徳6の表面処理方法を大まかに示したフローチャートである。
図3】コーティング工程の実行前にメッキ工程を行わなかった場合と、メッキ工程を行った場合とで、五徳6の爪部6bにおける表層断面の比較を示した断面図である。
図4】メッキ工程におけるクロムメッキ膜の厚さを異ならせたサンプルA,B,Cの意匠性を比較して示した説明図である。
図5】焼結被膜の層数を異ならせたサンプルA,D,Eの意匠性を比較して示した説明図である。
図6】乾燥工程における乾燥時間を異ならせたサンプルA,F,G,Hの意匠性を比較して示した説明図である。
図7】コーティング液に含有される添加物の量を異ならせたサンプルA,I,J,Kの意匠性を比較して示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、加熱調理機器の一例としてガスコンロ1の外観を示した斜視図である。例示したガスコンロ1は、図示しないシステムキッチンのカウンタートップに開口した収容空間に嵌め込んで設置されるビルトインタイプであり、収容空間に収容される箱形状のコンロ本体2と、コンロ本体2の開口した上面を覆って設置される天板3とを備えている。
【0017】
コンロ本体2には、燃料ガスを燃焼させるコンロバーナ5が3つ配置されており、天板3に形成された挿通孔からコンロバーナ5の上部が突出している。3つのコンロバーナ5のうち、手前側の左右に配置された2つコンロバーナ5は、共に強火力の大バーナであり、形状や大きさ(外径)が同一になっている。一方、奥側に配置された1つのコンロバーナ5は、手前側の2つのコンロバーナ5に比べて一回り小さい小バーナとなっている。尚、本実施例のコンロバーナ5は、本発明の「熱源」に相当している。
【0018】
また、天板3上には、コンロバーナ5の上方に鍋などの調理容器を置くための五徳6が各コンロバーナ5を囲んで設置されている。図示されるように五徳6は、コンロバーナ5を囲んで天板3上に据えられる円環状の枠部6aによって複数(本実施例では6本)の爪部6bが放射状に支持されており、これら爪部6bの上面に調理容器を載せるようになっている。尚、本実施例の五徳6は、本発明の「金属部材」に相当している。
【0019】
加えて、コンロ本体2には、グリルが内蔵されており(図示省略)、ガスコンロ1の前面に設けられたグリル扉7によって、グリルの前側を開閉可能となっている。グリル扉7の右方には、3つのコンロバーナ5の各々に対応して、使用者が点火時や消火時、あるいは火力調節時などに操作するコンロ操作ボタン8が設けられている。一方、グリル扉7の左方には、グリルの点火時や消火時、あるいは火力調節時などに使用者が操作するグリル操作ボタン9が設けられている。
【0020】
このようなガスコンロ1では、天板3上で使用者の目を引き易い五徳6などを、光沢面を有する金属部材で構成することにより、意匠性(見栄え)の向上が図られている。但し、五徳6のように、熱源であるコンロバーナ5の火炎が直接的に当たる金属部材では、光沢面に酸化膜が生じて着色(変色)することがある。こうした着色は、テンパーカラーと呼ばれており、せっかく光沢面を有するのに金属部材の意匠性がテンパーカラーによって損なわれてしまう。そこで、本実施例の五徳6では、以下のような表面処理を施しておくことにより、テンパーカラーを抑制している。
【0021】
図2は、本実施例の五徳6の表面処理方法を大まかに示したフローチャートである。図示されるように本実施例の表面処理方法では、洗浄工程、メッキ工程、コーティング工程、乾燥工程、焼結工程が順に行われる。本実施例の五徳6は、ステンレス鋼製の板金から打ち抜き加工で形成された爪部6bを枠部6aに溶接して作製されており、表面処理によって透明な耐熱性焼結被膜を形成するようになっている。
【0022】
まず、洗浄工程では、五徳6の素地金属(ステンレス鋼)の表面から汚れを除去し、後のメッキ工程に適した清浄な状態にするための前処理を行う。例えば、素地金属の表面に付着した油脂類を除去するために有機溶剤やアルカリ水溶液などに浸漬する脱脂や、脱脂液中の素地金属に通電して表面にガスを発生させることで細かな汚れを取り除く電解脱脂や、素地金属の表面を活性化させてメッキを付き易くするために酸性溶液に浸漬する酸活性などの周知の処理を行い、処理と処理との間では十分な水洗を行う。
【0023】
次に、メッキ工程では、電解メッキによって五徳6の素地金属の表面をクロムメッキ膜で覆う。電解メッキは周知の方法で行うことができ、無水クロム酸を主成分として微量の硫酸を添加したメッキ浴中で、五徳6を陰極側とし、鉛合金を陽極側として通電することにより、五徳6の素地金属の表面にクロムメッキが析出する。クロムメッキ膜の厚さは、通電する電流値および時間によって制御することが可能であり、1μm以上5μm以下の膜厚が好ましく、さらに好ましくは2μm以上3μm以下の範囲である。こうして五徳6に電解メッキを行うと、十分に水洗した後に乾燥させる。本実施例のメッキ工程は、本発明の「下地工程」に相当している。
【0024】
尚、五徳6にメッキする金属は、光沢を有するものであれば、クロムに限られず、ニッケルであってもよい。また、メッキ工程は、電解メッキに限られず、無電解メッキであってもよい。一般に、無電解メッキでは、薄く均一なメッキ膜が形成される傾向にある。これに対して、電解メッキでは、比較的に安価であると共に、メッキ膜の再現性がよい傾向にある。
【0025】
続いて、コーティング工程では、上記のメッキ工程で五徳6の表面を覆ったクロムメッキ膜層の外側に、ケイ素化合物を主成分とするコーティング液を塗布する。本実施例のコーティング液は、ケイ素化合物としてポリシラザンを、金属カルボン酸塩と反応させて以下のように調製している。ポリシラザンは、化1に示す一般式(I)で表される単位からなる主骨格を有する数平均分子量が100以上5万以下の化合物である。
【化1】
【0026】
一般式(I)のR1,R2,R3は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外でケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表わす。ただし、R1,R2,R3のうち少なくとも1つは水素原子である。すなわち、用いるポリシラザンは、分子内に少なくともSi-H結合、あるいはN-H結合を有するポリシラザンであればよく、ポリシラザン単独は勿論のこと、ポリシラザンと他のポリマーとの共重合体やポリシラザンと他の化合物との混合物でも利用できる。また、ポリシラザンには、鎖状、環状、あるいは架橋構造を有するものや、分子内にこれら複数の構造を同時に有するものがあり、これらを単独でも混合物でも利用できる。
【0027】
加えて、用いるポリシラザンは、上記の一般式(I)で表わされる単位からなる主骨格を有しており、一般式(I)で表わされる単位は、上記のように環状化することがあるため、その場合には環状部分が末端基となるのに対し、環状化がされない場合には、R1,R2,R3と同様の基又は水素が主骨格の末端となり得る。さらに、ポリシラザンの分子量に特に制約はなく、入手可能なものを用いることができるものの、金属カルボン酸塩との反応性の点で、一般式(I)におけるR1,R2、R3は立体障害の小さい基が好ましい。すなわち、R1,R2,R3としては、水素原子およびC1~C5のアルキル基が好ましく、水素原子およびC1~C2のアルキル基がさらに好ましい。
【0028】
一方、金属カルボン酸塩は、式(RCOO)nMで表される化合物である。式中のRは脂肪族基または脂環基であり、炭素数が1~22のものを表す。また、式中のMは、ニッケル、チタン、白金、ロジウム、コバルト、鉄、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、イリジウム、アルミニウムの群から選択される少なくとも1種の金属を表し、式中のnは、金属Mの原子価である。尚、金属カルボン酸塩は、無水物でも水和物でもよい。
【0029】
ポリシラザンと金属カルボン酸塩との混合比は、金属カルボン酸塩/ポリシラザン重量比が0.000001から2になるように、好ましくは0.001から1になるように、さらに好ましくは0.01から0.5になるようにポリシラザンに対して金属カルボン酸塩を添加する。金属カルボン酸塩の添加量をこれより増やすと、金属カルボン酸塩とポリシラザンとの反応物の分子量が上がり過ぎてゲル化し、また、少ないと金属カルボン酸塩の添加による効果が十分に得られない。
【0030】
反応は、無溶媒で行うこともできるが、有機溶媒を使用する場合に比べて、反応制御が難しく、ゲル状物質が生成することもあるので、一般に有機溶媒中で行われる。溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル類、芳香族アミン類が使用できる。好ましい溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、n-ヘキサン、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ピリジン、メチルピリジン等があり、特に好ましい溶媒としては、キシレン、ピリジン、メチルピリジン等が挙げられる。また、反応に対して不活性な雰囲気、例えば、窒素、アルゴン等の雰囲気中で反応を行うことが好ましいが、空気中のような酸化性雰囲気中でも可能である。
【0031】
反応温度は、広い範囲にわたって変更することができ、例えば、有機溶媒を使用する場合には、その有機溶媒の沸点以下の温度に加熱してもよいが、数平均分子量の大きい反応物を得るには、引き続き有機溶媒の沸点以上に加熱して有機溶媒を留去させて反応を行うこともできる。反応温度は、一般に150℃以下にするのが好ましい。反応時間は、特に重要ではないが、通常、1~50時間程度である。また、反応は、一般に常圧付近で行うのが好ましい。
【0032】
以上のようにポリシラザンと金属カルボン酸塩とを反応させることにより、金属カルボン酸塩/ポリシラザン重量比が0.000001以上2以下の範囲内、かつ数平均分子量が200以上50万以下の金属カルボン酸塩付加ポリシラザンを得ることができる。そして、金属カルボン酸塩付加ポリシラザンを含有するコーティング液を調製するには、通常、反応物を溶剤に溶解させればよい。
【0033】
溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素の炭化水素溶媒、ハロゲン化メタン、ハロゲン化エタン、ハロゲン化ベンゼン等のハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。好ましい溶媒は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ブチルエーテル、1,2-ジオキシエタン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、メチルペンタン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素等である。
【0034】
これらの溶剤を使用する場合、金属カルボン酸塩とポリシラザンの反応物の溶解度や溶剤の蒸発速度を調節するために、2種類以上の溶剤を混合してもよい。溶剤の使用量(割合)は、採用するコーティング方法により作業性がよくなるように選択され、また、金属カルボン酸塩とポリシラザンとの反応物の平均分子量、分子量分布、その構造によって異なるので、コーティング液中の溶剤は90質量%程度まで混合することができ、好ましくは10~50質量%の範囲で混合することができる。
【0035】
また、コーティング液には、添加物(充填剤)としてアルミナなどの金属酸化物およびシリカなどのケイ酸塩化合物の少なくとも1種以上よりなる混合物を含有させる。金属酸化物およびケイ酸塩化合物は、何れか一方でもよく両方用いてもよい。これらの粒径は、大きすぎると、後述の焼結被膜の透明性を低下させる虞があると共に、コーティング液中における分散性が低下して取り扱いが困難となる虞があるため、1μm以下とする。0.7μm程度以下であると、コーティング液中における分散性が極めて高く好ましい。
【0036】
後述の焼結被膜は、五徳6のクロムメッキ膜層の外側に透明な層として存在することになるから、焼結被膜自体が光の干渉により干渉縞を形成し、テンパーカラーと同様に着色することが考えられる。そこで、コーティング液に充填剤として金属酸化物およびケイ酸塩化合物の少なくとも1種以上よりなる混合物を添加することにより、干渉縞を抑制する。その含有量は、0.5質量%未満であると十分な効果を発揮できず、かつ、コーティング液の安定性が不十分になることから、0.5質量%以上とし、1.5質量%を超えると、光沢面の質感が損なわれるため、1.5質量%以下とする。
【0037】
さらに、コーティング液には、必要に応じて各種顔料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散剤、表面改質剤、可塑剤、乾燥促進剤、流れ止め剤などを加えてもよい。
【0038】
こうして調製されたコーティング液に、クロムメッキが施された五徳6を浸漬し、所定の速度で引き揚げることで、五徳6のクロムメッキ膜層の外側にコーティング液を塗布する。引揚速度としては、1mm/秒以上3mm/秒以下程度が好ましい。尚、コーティング液を塗布する方法は、ディップコーティングに限られず、コーティング液を吹き付けるスプレーコーティングであってもよい。
【0039】
コーティング工程に続いて行われる乾燥工程では、コーティング工程で五徳6に塗布されたコーティング液の被膜を乾燥させる。乾燥工程は、被膜を次の焼結工程に供することが可能な程度に硬化させることができれば、特に限定されるものではない。室温で乾燥させる場合、十分な硬化状態とするため、ディップコーティング後に60分以上乾燥させることが好ましく、製造効率の面から80分以下とすることが好ましい。尚、乾燥時間は、これに限られず、一昼夜程度の時間をかけて乾燥させることも可能である。
【0040】
乾燥させた被膜が十分な厚さに達していない場合には、コーティング工程と乾燥工程とを複数回繰り返す。ディップコーティングによる被膜の厚さは、五徳6のクロムメッキ膜とコーティング液との親和性によって異なるため、1回のコーティング工程および乾燥工程では、膜厚が不足して十分な耐久性を発揮できない場合がある。そこで、コーティング工程および乾燥工程を複数回行うことによって、被膜の膜厚を十分な耐久性を発揮する適切な厚さに調整する。後述の焼結工程による焼結後の焼結被膜の膜厚が0.3μm以上2μm以下となるのが好ましい。
【0041】
コーティング工程および乾燥工程を終了すると、最後の焼結工程では、五徳6の乾燥後の被膜を加熱して焼結させる。加熱手段は、一般的な恒温槽やヒーター等を用いることができる。焼結温度は、十分な焼結状態とするために、200℃以上とし、焼結工程中における五徳6への影響を抑制するために、800℃以下とする。また、焼結時間は、焼結温度によって異なるが、30分以上60分以下程度とすることができる。この焼結工程によって、コーティング液の被膜が焼結してケイ素-窒素-酸素-金属元素系またはケイ素-窒素-酸素-炭素-金属元素系セラミックスからなる耐熱性焼結被膜を形成させることができる。
【0042】
すなわち、焼結によって金属カルボン酸塩とポリシラザンとの反応物は、架橋、縮合、あるいは焼結雰囲気によっては酸化、加水分解して硬化し、強靱な焼結被覆を形成する。上記焼結条件は金属カルボン酸塩とポリシラザンとの反応物の分子量や構造によって異なる。昇温速度は特に限定しないが、0.5~1.0℃/分の緩やかな昇温速度が好ましい。好ましい焼結温度は200℃~800℃であり、さらに好ましくは250℃~350℃の範囲である。焼結雰囲気は酸素中、空気中および不活性ガス中等の何れであってもよいが、空気中がより好ましい。空気中での焼結により金属カルボン酸塩とポリシラザンとの反応物の酸化、あるいは空気中に共存する水蒸気による加水分解が進行し、上記のような低い焼結温度でSi-O結合あるいはSi-N結合を主体とする強靱な焼結被膜の形成が可能となる。強靭な焼結被膜が酸素を通さないため、五徳6の酸化を防ぐことができる。
【0043】
また、焼結被膜の焼結時あるいは使用時にクラック(微細なひび割れ)が生じたとしても、クラックの成長は焼結被膜中のシリカおよびアルミナの少なくとも一方を基端、あるいは終端として停止するので、焼結被膜は大きく損傷せず、焼結被膜の内側(五徳6のクロムメッキ膜)にまで酸素を通してしまうことに起因して干渉縞やテンパーカラーが発生するのを抑制することができる。
【0044】
加えて、前述のようにコーティング工程および乾燥工程を複数回繰り返して行うと、被膜が複数層にわたって形成されることになる。このため、焼結後の各焼結被膜の界面で干渉縞が相殺されて減少したり、焼結被膜に含有されるシリカおよびアルミナの少なくとも一方で乱反射したりすることによって干渉縞の発生を抑制することができる。
【0045】
さらに、前述したようにコーティング工程を、メッキ工程を実行した後に行うことにより、最終的に焼結工程で形成される焼結被膜の膜厚の均一化を図ることができ、その結果、五徳6の耐テンパーカラー性が向上する。
【0046】
図3は、コーティング工程の実行前にメッキ工程を行わなかった場合と、メッキ工程を行った場合とで、五徳6の爪部6bにおける表層断面の比較を示した断面図である。まず、図3(a)には、メッキ工程を行わなかった五徳6の爪部6bにおける表層断面が示されている。図示されるように爪部6bの素地金属(ステンレス鋼)の表面には、直接的に焼結被膜層が形成されている。ただし、焼結被膜の膜厚は必ずしも均一ではなく、爪部6bの角のとがったエッジ部分では、図3(a)のように、平面部分に比べてディップコーティングでコーティング液が付着し難く、結果として、焼結後の焼結被膜の膜厚が薄くなってしまう。また、図示は省略するが、エッジ部分にバリが生じていると、平面部分に比べてディップコーティングでコーティング液が付着し易く、結果として、焼結後の焼結膜の膜厚が厚くなってしまう。そして、素地金属の表面の酸化を抑制するには焼結被膜に適度な厚みが必要であるため、焼結被膜の膜厚が薄いエッジ部分では、耐テンパーカラー性を十分に得られないことがあり、逆に、焼結被膜の膜厚が厚いバリの周辺では、黒ずみ(透明性の低下)が発生することがある。特に、爪部6bをステンレス鋼製の板金から打ち抜き加工で形成すると、エッジ部分ではテンパーカラーや黒ずみによる意匠性の低下が発生し易い。
【0047】
一方、図3(b)には、メッキ工程を行った五徳6の爪部6bにおける表層断面が示されている。図示されるように爪部6bの素地金属(ステンレス鋼)の表面は、金属(クロム)メッキ膜に覆われている。そして、爪部6bのエッジ部分では、平面部分に比べて金属メッキが析出し易く丸みを帯びるので、メッキ工程の後にコーティング工程を行うと、エッジ部分に対するディップコーティングでのコーティング液の付着が改善される。その結果、焼結後の焼結被膜がエッジ部分にも略均一な膜厚で形成され易くなり、エッジ部分の耐テンパーカラー性を向上させることができると共に、黒ずみを抑制する効果も得られる。
【0048】
また、メッキ工程を付加することにより、爪部6bを板金の打ち抜き加工で形成する場合でも、簡単なバリ取りを行うだけでよく、細かな面取り作業を省略することができる。さらに、クロムメッキ膜自体が光沢を有すると共に、耐熱性や耐食性を備えていることから、素地金属をステンレス鋼から安価な鉄鋼に変更することにより、五徳6の光沢面(クロムメッキ膜)による意匠性を確保しながら、製造コストを低減することが可能となる。
【0049】
以下では、五徳6の表面処理方法の各種条件を異ならせて製造した複数のサンプルについて、耐テンパーカラー性を主として意匠性を比較した例について説明する。まず、代表的な実施例であるサンプルAは、洗浄工程で五徳6の素地金属(ステンレス鋼)の表面を清浄な状態とした後、メッキ工程で五徳6の表面を覆うクロムメッキ膜の膜厚が3μmとなるように通電を行った。
【0050】
また、コーティング液の調製は、種々の製品として上市されているものを用いることができ、例えば、特開平06-299118号公報や特許文献1に記載の方法に準じて行うことができる。サンプルAについては、ポリシラザンの4.4%ピリジン溶液に、金属カルボン酸塩として白金-ロジウムの酢酸塩を0.01g(金属カルボン酸塩/ポリシラザン重量比として0.000001以上2以下)添加し、窒素雰囲気中の20℃で2時間撹拌しながら反応を行った。溶媒を留去した後にキシレンで希釈し、10%キシレン溶液としたものに、金属酸化物およびケイ酸塩化合物の少なくとも1種類以上よりなる混合物(平均粒径0.7μm)を0.5質量%となるように添加してコーティング液を調製した。
【0051】
コーティング工程では、こうして調製されたコーティング液に、クロムメッキが施された五徳6を窒素雰囲気中の20℃で浸漬し、1.2mm/秒の速度で引き揚げることで、五徳6のクロムメッキ膜層の外側にコーティング液を塗布した。続いて、乾燥工程では、五徳6に塗布されたコーティング液の被膜を、室温(15℃)にて60分乾燥させた。さらに、サンプルAでは、コーティング工程および乾燥工程をもう一度繰り返し、合計で2回行った。
【0052】
そして、最後の焼結工程で五徳6の乾燥後の被膜を300℃で1時間加熱することで焼結させた。こうして得られたサンプルAの五徳6は、約1200℃の火炎に15分×30回晒してもテンパーカラーが発生しない優れた耐熱性焼結被膜を備えていた。
【0053】
以上のようなサンプルAの表面処理方法のうち、メッキ工程における通電時間を変更してクロムメッキ膜の厚さを異ならせたサンプルB,Cを製造した。サンプルBは、クロムメッキ膜の膜厚が0.5μmとなるように通電し、サンプルCは、クロムメッキ膜の膜厚が6μmとなるように通電したものであり、その他の条件はサンプルAと同様である。これらのサンプルA,B,Cについて、約1200℃の火炎に15分×30回晒す耐火炎試験を行い、五徳6におけるテンパーカラーの発生の有無を主として意匠性(見栄え)を目視によって評価し、結果を比較した。
【0054】
図4は、メッキ工程におけるクロムメッキ膜の厚さを異ならせたサンプルA,B,Cの意匠性を比較して示した説明図である。意匠性の評価は、製品の五徳6として明らかに意匠性に問題があるものを×とし、問題のない良好なものを○とした。図示されるように、クロムメッキ膜の膜厚を3μmとしたサンプルAでは、五徳6の爪部6bにおけるエッジ部分にもテンパーカラーや黒ずみが発生することなく、意匠性は良好であった。
【0055】
これに対して、クロムメッキ膜の膜厚を0.5μmとしたサンプルBでは、五徳6の爪部6bにおけるエッジ部分にテンパーカラーが発生することがあり、意匠性が低下した。爪部6bのエッジ部分に十分な丸みを付けるにはクロムメッキ膜の膜厚が不足しており、結果としてエッジ部分では、メッキ膜層の外側に形成される焼結被膜の膜厚が平面部分に比べて薄くなるため、耐テンパーカラー性を十分に得られない。また、クロムメッキ膜の膜厚を6μmとしたサンプルCでは、テンパーカラーは発生しないものの、ヒートショックよってクロムメッキ膜にひび割れが生じることがあり、こうしたひび割れが透明な焼結被膜を通して見えてしまうことで、意匠性が低下する。従って、爪部6bのエッジ部分にメッキで丸みを付けて焼結被膜の膜厚を均一にすることによって耐テンパーカラー性を向上させながら、クロムメッキ膜自体のひび割れを抑制するには、クロムメッキ膜の膜厚が1μm以上5μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは2μm以上3μm以下の範囲である。
【0056】
次に、サンプルAとはコーティング工程および乾燥工程の繰り返し回数を変更して焼結被膜の層数を異ならせたサンプルD,Eを製造した。前述したようにサンプルAは、コーティング工程および乾燥工程を2回繰り返して焼結被膜が2層である。これに対して、サンプルDは、コーティング工程および乾燥工程を1回だけ行って焼結被膜を1層とし、サンプルEは、コーティング工程および乾燥工程を3回繰り返して焼結被膜を3層としたものであり、その他の条件はサンプルAと同様である。これらのサンプルA,D,Eについて、耐火炎試験を行い、五徳6の意匠性(見栄え)を目視によって評価し、結果を比較した。
【0057】
図5は、焼結被膜の層数を異ならせたサンプルA,D,Eの意匠性を比較して示した説明図である。尚、断面のX線観察によって判明した焼結被膜の厚さは、サンプルAが0.7μm程度であり、サンプルDが0.3μm程度であり、サンプルEが2.2μm程度であった。図示されるように、焼結被膜の厚さ(層数)は、薄すぎても厚すぎても意匠性が低下する結果となった。サンプルDでは、焼結被膜の膜厚が薄すぎて、十分な耐テンパーカラー性を発揮できず、しかも耐火炎試験によらず干渉縞が発生する場合がある。また、サンプルEでは、焼結被膜の膜厚が厚すぎて透明性が低下することにより、五徳6の光沢が損なわれてしまう場合がある。従って、焼結被膜の膜厚は0.3μm以上2μm以下が好ましく、より好ましくは0,5μm以上1μm以下である。
【0058】
続いて、サンプルAとは乾燥工程における乾燥時間を変更してサンプルF,G,Hを製造した。乾燥時間を60分としたサンプルAに対して、サンプルFは乾燥時間を75分とし、サンプルGは乾燥時間を30分とし、サンプルHは乾燥時間を15分としたものであり、その他の条件はサンプルAと同様である。これらのサンプルA,F,G,Hについて、耐火炎試験を行い、五徳6の意匠性(見栄え)を目視によって評価し、結果を比較した。
【0059】
図6は、乾燥工程における乾燥時間を異ならせたサンプルA,F,G,Hの意匠性を比較して示した説明図である。図示されるように、乾燥工程における乾燥時間は、短すぎると十分な耐テンパーカラー性が得られず、意匠性が低下した。サンプルG,Hでは、乾燥が不十分な状態で焼結したことにより、被膜が緻密に焼結されていないものと推定される。従って、乾燥工程における被膜の硬化状態を十分なものとするため、ディップコーティング後に60分以上乾燥させることが好ましく、製造効率の面から80分以下とすることが好ましい。
【0060】
さらに、サンプルAとはコーティング液に含有される添加物(金属酸化物およびケイ酸塩化合物の少なくとも1種以上よりなる混合物)の量を変更してサンプルI,J,Kを製造した。コーティング液に含有される添加物の量を0.5質量%としたサンプルAに対して、サンプルIは添加物の量を1質量%とし、サンプルJは添加物の量を3質量%とし、サンプルKは添加物の量を5質量%としたものであり、その他の条件はサンプルAと同様である。これらのサンプルA,I,J,Kについて、耐火炎試験を行い、五徳6の意匠性(見栄え)を目視によって評価し、結果を比較した。
【0061】
図7は、コーティング液に含有される添加物の量を異ならせたサンプルA,I,J,Kの意匠性を比較して示した説明図である。図示されるように、サンプルJ,Kでは、添加物の含有量を増やし過ぎたことにより、五徳6の光沢面の質感が損なわれ、意匠性が低下した。そのため、コーティング液における添加物の含有量は、1.5質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。また、添加物の含有量は、0.5質量%未満であると、十分な耐テンパーカラー性を発揮できず、かつ、コーティング液の安定性が不十分になることから、0.5質量%以上とすることが好ましい。
【0062】
以上、本実施例の五徳6の表面処理方法、および表面処理が施された五徳6について説明したが、本発明は上記の実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0063】
例えば、前述した実施例では、コーティング工程を行う前に、下地工程としてメッキ工程を行うようになっていた。しかし、コーティング工程の前に行う下地工程は、五徳6(爪部6b)の角であるエッジ部分に化学反応を伴う処理で丸みを付けることができれば、メッキ工程に限られず、五徳6を強酸水溶液に浸漬してエッジ部分を溶かす処理であってもよい。この場合、五徳6のエッジ部分が丸みを帯びる程度に素地金属を溶かすために、素地金属の表面を活性化させるだけの酸活性などに比べて、強い酸性条件で処理する必要がある。
【0064】
また、前述した実施例では、ポリシラザンを主成分とするコーティング液を調製していた。しかし、コーティング液の主成分は、ケイ素化合物であって焼結によって透明な耐熱性焼結被膜を形成するものであればよく、ポリシラザンに限られない。例えば、シリコンアルコキシドを酸等で加水分解したゾル状溶液であってもよいし、シランカップリング剤であってもよい。
【0065】
また、前述した実施例では、金属部材として五徳6を例に説明した。しかし、金属部材は、ガス、電気を問わず加熱調理機器の熱源によって直接的に加熱されるものであれば、五徳6に限られない。例えば、ガスコンロ1の天板3や、コンロバーナ5の上部を構成するバーナヘッド、あるいはヒーターのフレームなどでもよく、本発明を好適に適用して、耐テンパーカラー性を向上させることができる。尚、前述したように爪部6bを枠部6aに溶接して作製する五徳6では、溶接した後の状態でメッキ工程を行えばよく、溶接する前の状態における爪部6bのエッジ部分への細かな面取り作業を省略できるので、製造の効率化を図り、製造コストを低減することが可能となる。
【0066】
また、前述した実施例では、五徳6の素地金属としてステンレス鋼を用いていた。しかし、素地金属はステンレス鋼に限られず、鉄鋼であってもよい。尚、ステンレス鋼は、光沢面や耐食性が必要とされる金属部材に適した素材であるものの、例えば、金属部材に溶接箇所がある場合には、メッキ工程によって、溶接箇所をメッキ膜で覆って耐食性を向上させつつ、エッジ部分に丸みを付けて焼結被膜による耐テンパーカラー性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…ガスコンロ、 2…コンロ本体、 3…天板、
5…コンロバーナ、 6…五徳、 6a…枠部、
6b…爪部、 7…グリル扉、 8…コンロ操作ボタン、
9…グリル操作ボタン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7