(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108877
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/14 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
F02D41/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013498
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】阿比野 政則
(72)【発明者】
【氏名】正田 勝博
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA01
3G301HA13
3G301JA21
3G301LB01
3G301MA11
3G301PD15Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関に付帯するEGR装置の作動の如何によらず燃料噴射量を適正化して空燃比を良好に制御する。
【解決手段】排気通路を吸気通路に連通させるEGR通路、及びEGR通路を開閉するEGRバルブを有する排気ガス再循環装置が付帯した内燃機関を制御するものであって、燃料噴射量を決定するにあたり、気筒に吸入される空気量に比例する基本噴射量に、排気通路を流れるガスの空燃比を目標空燃比に追従させるフィードバック制御による補正を加え、さらに、EGRバルブを開いているか閉じているかに応じて異なる補正を加える内燃機関の制御装置を構成した。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路を吸気通路に連通させるEGR通路、及びEGR通路を開閉するEGRバルブを有する排気ガス再循環装置が付帯した内燃機関を制御するものであって、
燃料噴射量を決定するにあたり、気筒に吸入される空気量に比例する基本噴射量に、排気通路を流れるガスの空燃比を目標空燃比に追従させるフィードバック制御による補正を加え、さらに、EGRバルブを開いているか閉じているかに応じて異なる補正を加える内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関の排気通路には、排ガス中に含まれる有害物質HC、CO、NOxを酸化/還元して無害化する三元触媒を装着している。HC、CO、NOxの全てを効率よく浄化するには、ガスの空燃比をウィンドウと称する理論空燃比近傍の一定範囲内に収める必要がある。
【0003】
そのために、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設置し、空燃比センサの出力信号を参照するフィードバックループを構築して、ガスの空燃比をフィードバック制御することが行われる。内燃機関の運転制御を司る電子制御装置(Electronic Control Unit)は、気筒に吸入される空気(新気)の量に応じた基本噴射量に、排気通路を流れるガスの空燃比とその目標値との偏差を縮小するフィードバック補正係数を乗じて、インジェクタから噴射する燃料の量を決定する。
【0004】
内燃機関には、排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置が付帯していることが多い。EGR装置は、内燃機関の排気通路と吸気通路とをEGR通路を介して接続し、排ガスの一部をEGR通路経由で吸気通路に還流させ吸入空気に混交するものである。EGR通路上には、これを開閉するEGRバルブを配設し、EGRバルブの開度操作を通じてEGRガスの還流量を調節する。EGRにより、気筒の燃焼室内での混合気の燃焼温度が低下してNOxの生成量が減少する。また、ポンピングロスの軽減にも繋がる(以上、例えば下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関100の複数の気筒から排出されるガスはそれぞれ、幾何的に異なる経路で排気通路4を流れる。よって、
図7に模式的に示すように、ある気筒からの排ガスE1は空燃比センサ43、44(特に、触媒41の下流のセンサ44)に多く接触する一方で、他の気筒からの排ガスE2は空燃比センサ43、44に接触する量が相対的に少ないといったことが起こる。しかも、EGRバルブを開いている(排気通路からEGR通路にガスが流入する)ときと閉じている(排気通路からEGR通路にガスが流入しない)ときとで、ガスE1、E2の流れの経路は変化し得る。
【0007】
空燃比センサに接触する量の多いガスの空燃比がリーンで、空燃比センサに接触する量の少ないガスの空燃比がリーンでない(あるいは、リッチである)場合、ECUはリーン寄りの空燃比を目標値に近づけようと燃料噴射量を増量補正する。逆に、空燃比センサへの接触が多いガスの空燃比がリッチで、空燃比センサへの接触が少ないガスの空燃比がリッチでない(あるいは、リーンである)場合、ECUはリッチ寄りの空燃比を目標値に近づけようと燃料噴射量を減量補正する。このように、単純に空燃比フィードバック制御を実施するのみでは、内燃機関総体として空燃比が目標値から逸脱し、有害物質の排出増を招く懸念がある。
【0008】
本発明は、内燃機関に付帯するEGR装置の作動の如何によらず燃料噴射量を適正化して空燃比を良好に制御することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、排気通路を吸気通路に連通させるEGR通路、及びEGR通路を開閉するEGRバルブを有する排気ガス再循環装置が付帯した内燃機関を制御するものであって、燃料噴射量を決定するにあたり、気筒に吸入される空気量に比例する基本噴射量に、排気通路を流れるガスの空燃比を目標空燃比に追従させるフィードバック制御による補正を加え、さらに、EGRバルブを開いているか閉じているかに応じて異なる補正を加える内燃機関の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内燃機関に付帯するEGR装置の作動の如何によらず燃料噴射量を適正化して空燃比を良好に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同制御装置が実施する空燃比フィードバック制御による補正量FAFの推移を示すタイミング図。
【
図3】同制御装置が実施する空燃比フィードバック制御における補正量FACFと遅延時間TDR、TDLとの関係を例示する図。
【
図4】同制御装置が実施する空燃比フィードバック制御による補正量FACFの推移を示すタイミング図。
【
図5】同制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図6】同制御装置が設定する補正量Xの推移を例示するタイミング図。
【
図7】内燃機関の各気筒から排出され排気通路を流通するガスの流れを模式的に表現した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関100の概要を示す。本内燃機関100は、火花点火式の4ストロークレシプロエンジンであり、複数の気筒1(例えば、直列三気筒エンジン。
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気バルブよりも上流、各気筒1に連なる吸気ポートの近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を起こすものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0013】
吸気を気筒1に供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、吸気絞り弁である電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順に配設している。
【0014】
排気を気筒1から排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させたことで発生するガスを各気筒1の排気ポートから外部へと導く。排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配設している。触媒41は、有害物質であるHC、CO及びNOxの酸化/還元反応を惹起してこれらを無害化する。
【0015】
排気通路4における触媒41の上流及び下流には、排気通路4を流通するガスの空燃比を検出するための空燃比センサ43、44を設置する。空燃比センサ43、44はそれぞれ、排ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよく、排ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよいが、本実施形態では、触媒41の上流の空燃比センサ43及び下流の空燃比センサ44として何れもO2センサを想定している。O2センサ43、44の出力電圧は、理論空燃比近傍の一定範囲では空燃比に対する出力の変化率が大きく急峻な傾きを示し、それよりも空燃比がリッチであると高位飽和値に漸近し、それよりも空燃比がリーンであると低位飽和値に漸近する、いわゆるZ特性曲線を描く。O2センサ43、44には、これを加温し活性化を早めるためのヒータが付随することがある。
【0016】
EGR装置2は、排気通路4と吸気通路3とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における触媒41の下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、特にサージタンク33若しくは吸気マニホルド34に接続している。
【0017】
本実施形態の内燃機関100の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECUまたはコントローラが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
【0018】
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関100のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、車両の運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率またはエンジントルク)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関100の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号d、吸気通路3特にサージタンク33若しくは吸気マニホルド34内の吸気温及び吸気圧を検出するセンサから出力される吸気温・吸気圧信号e、排気通路4における触媒41の上流のガスの空燃比を検出する空燃比センサ43から出力される空燃比信号f、触媒41の下流のガスの空燃比を検出する空燃比センサ44から出力される空燃比信号g、大気圧を検出する大気圧センサから出力される大気圧信号h等が入力される。
【0019】
ECU0の出力インタフェースからは、点火プラグ12に付随するイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、電子スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
【0020】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関100の運転を制御する。ECU0は、内燃機関100の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、気筒1に吸入される空気量に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する火花点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0021】
インジェクタ11から噴射する燃料の量を決定するに際して、ECU0は、まず、気筒1に吸入される空気(新気)の量を求め、その吸入空気量に比例する(吸入空気量に応じて理論空燃比またはその近傍の目標空燃比を実現できような)燃料噴射量の基本量TPを決定する。吸入空気量は、現在のエンジン回転数及び(サージタンク33若しくは吸気マニホルド34内の)吸気圧等を基に推算する。吸入空気量の推算値に、現在の吸気温や大気圧等に応じた補正を加えてもよい。推算の手法は、公知のものである。
【0022】
次いで、この基本噴射量TPを、触媒41に流入するガスの空燃比とその目標値との偏差に応じたフィードバック補正係数FAFや、環境条件その他に基づいて定まる各種補正係数K、さらには後述するEGRに応じた補正係数Xにより補正する。フィードバック補正係数FAF、K、Xはそれぞれ、1を中心に増減する正数である。しかして、インジェクタ11を開弁しても燃料が噴出しない無効噴射時間TAUVを加味して、最終的な燃料噴射時間T、即ちインジェクタ11を開弁する時間を算定する。燃料噴射時間Tは、
T=TP×FAF×X×K+TAUV
となる。ECU0は、燃料噴射時間Tだけインジェクタ11に対して信号jを入力し、インジェクタ11を開弁して燃料を噴射させる。
【0023】
空燃比フィードバック制御は、気筒1に充填される混合気の空燃比、ひいては気筒1から排出され触媒41へと導かれる排ガスの空燃比を所望の目標空燃比に収束させ、以て触媒41における有害物質の浄化能率を最大化するものである。空燃比フィードバック補正係数FAFは、触媒41の上流の空燃比センサ43の出力信号fに基づいて定める。
図2に示すように、ECU0は、空燃比センサ43の出力電圧fを、目標空燃比に相当する判定電圧値と比較して、その判定電圧値よりも高ければリッチ、判定電圧値よりも低ければリーンと判定する。そして、ECU0は、触媒41の上流のガスの空燃比の判定結果に基づき、フィードバック補正係数FAFを増減調整する。
【0024】
具体的には、触媒41の上流のガスの空燃比の判定結果がリッチからリーンに反転した(下記の遅延時間TDLが経過した)時点で、フィードバック補正係数FAFをスキップ値RSPだけ増加させる。加えて、空燃比がリーンであると判定している間、フィードバック補正係数FAFを演算サイクル(制御サイクル)あたりリッチ積分値KIPだけ逓増させる。演算サイクルの周期は、内燃機関100の個々の気筒1が新たなサイクル(吸気行程-圧縮行程-膨脹行程-排気行程の一連)を迎える周期に等しい。なお、リッチ積分値KIPの絶対値を、判定電圧値と空燃比センサ43の出力電圧値fとの差分または比の絶対値が大きいほど大きくすることも考えられる。
【0025】
他方、触媒41の上流のガスの空燃比の判定結果がリーンからリッチに反転した(下記の遅延時間TDRが経過した)時点で、フィードバック補正係数FAFをスキップ値RSMだけ減少させる。加えて、空燃比がリッチであると判定している間、フィードバック補正係数FAFを演算サイクルあたりリーン積分値KIMだけ逓減させる。なお、リーン積分値KIMの絶対値を、空燃比センサ43の出力電圧値fと判定電圧値との差分または比の絶対値が大きいほど大きくすることも考えられる。
【0026】
基本噴射量TPに乗ずるフィードバック補正係数FAFが増加すると、インジェクタ11による燃料噴射量が上積みされて、混合気の空燃比がリッチへと向かう。フィードバック補正係数FAFが減少すると、インジェクタ11による燃料噴射量が絞られて、混合気の空燃比がリーンへと向かう。
【0027】
但し、空燃比センサ43の出力電圧fが判定電圧値を跨ぐように変動したときには、即時に触媒41の上流のガスの空燃比の判定結果を反転させるのではなく、遅延時間TDL、TDRの経過を待ってから判定結果を反転させる。即ち、空燃比センサ43の出力電圧fがリッチからリーンに切り替わった(判定電圧値を下回った)ときには、リーン判定遅延時間TDLの経過の後、空燃比がリッチからリーンに反転したと判断する。並びに、空燃比センサ43の出力電圧fがリーンからリッチに切り替わった(判定電圧値を上回った)ときには、リッチ判定遅延時間TDRの経過の後、空燃比がリーンからリッチに反転したと判断する。
【0028】
リーン判定遅延時間TDL及びリッチ判定遅延時間TDRを設けているのは、空燃比センサ43の出力信号fにノイズが混入した場合に、空燃比のリーン/リッチの判定結果が短期間に複数回反転して燃料噴射量が振動するように増減するチャタリングを起こすことを予防する意図である。
【0029】
遅延時間TDL、TDRは、補正量FACFに応じて増減する。
図3に、補正量FACFと遅延時間TDL、TDRとの関係を例示する。
図3中、リーン判定遅延時間TDLを破線で表し、リッチ判定遅延時間TDRを実線で表している。補正量FACFが大きくなるほど、リーン判定遅延時間TDLは短縮され、リッチ判定遅延時間TDRは延長される。さすれば、フィードバック補正係数FAFが増加から減少に転じる時期が遅れ、減少から増加に転じる時期が早まる。結果、燃料噴射量が平均的に増すこととなり、空燃比フィードバック制御により収束させるべき触媒41に流入するガスの空燃比の目標がリッチ側に変位する。
【0030】
逆に、補正量FACFが小さくなるほど、リーン判定遅延時間TDLは延長され、リッチ判定遅延時間TDRは短縮される。さすれば、フィードバック補正係数FAFが増加から減少に転じる時期が早まり、減少から増加に転じる時期が遅れる。結果、燃料噴射量が平均的に減ることとなり、触媒41に流入するガスの空燃比の目標がリーン側に変位する。
【0031】
ECU0は、空燃比フィードバック制御中、上記の補正量FACFをも算出する。
図4に示すように、ECU0は、補正量FACFを算定するにあたり、触媒41の下流のガスの空燃比を検出する空燃比センサ44の出力電圧gを、理論空燃比またはその近傍の目標空燃比に相当する判定電圧値と比較して、その判定電圧値よりも高ければリッチ、判定電圧値よりも低ければリーンと判定する。この判定電圧値は、空燃比センサ43の出力信号fと比較される判定電圧値とは必ずしも一致しない。そして、触媒41の下流のガスの空燃比の判定結果に基づき、補正量FACFを増減調整する。
【0032】
具体的には、触媒41の下流のガスの空燃比がリッチであると判定している間、補正量FACFを演算サイクルあたりリーン積分値FACFKIMだけ逓減させる一方、空燃比がリーンであると判定している間は、補正量FACFを演算サイクルあたりリッチ積分値FACFKIPだけ逓増させる。なお、リーン積分値FACFKIMの絶対値を、空燃比センサ44の出力電圧値gと判定電圧値との差分または比の絶対値が大きいほど大きくしてもよく、リッチ積分値FACFKIPの絶対値を、判定電圧値と空燃比センサ44の出力電圧gとの差分または比の絶対値が大きいほど大きくしてもよい。既に述べた通り、補正量FACFが減少すると、触媒41に流入するガスの目標空燃比がリーンへと向かい、補正量FACFが増加すると、触媒41に流入するガスの目標空燃比がリッチへと向かう。
【0033】
ところで、実際の内燃機関100の排気系では、
図7に模式的に示しているように、ある特定の気筒1から排出されるガスE1の流れが空燃比センサ43、44(特に、触媒41の下流のセンサ44)に多く接触する一方、他の気筒1から排出されるガスE2の流れは空燃比センサ43、44に接触する量が少ない、といったことが起こる。しかも、各気筒1からの排ガスの流れE1、E2は、EGRバルブ23を開弁している(排気通路4からEGR通路21にガスを流入させる)か閉弁している(排気通路4からEGR通路21にガスを流入させない)かによって変化し得る。EGRバルブ23の開度如何により、各気筒1から流出するガスE1、E2が空燃比センサ43、44に接触する量は変動するであろう。EGRバルブ23を閉じているとガスE1がガスE2よりも多く空燃比センサ43、44に当たるが、EGRバルブ23を開くとガスE2がガスE1よりも多く空燃比センサ43、44に当たる、ということもあるかもしれない。
【0034】
空燃比センサ43、44に接触する量の多いガスE1(または、E2)の空燃比は、フィードバック制御による燃料噴射量の補正量FAF、FACFに大きな影響を与える。翻って、空燃比センサ43、44に接触する量の少ないガスE2(または、E1)の空燃比は、補正量FAF、FACFに与える影響が相対的に小さい。仮に、前者のガスE1の空燃比がリーンであるが後者のガスE2の空燃比はリーンでない(あるいは、リッチである)場合、空燃比フィードバック制御では、補正量FAF、FACFを増加させて燃料噴射量を増量しようとする。だが、内燃機関100総体としては、空燃比が本来あるべき目標よりもリッチに偏るおそれがある。逆に、前者のガスE1の空燃比がリッチであるが後者のガスE2の空燃比はリッチでない(あるいは、リーンである)場合、補正量FAF、FACFを減少させて燃料噴射量を減量しようとするが、内燃機関100総体としては、空燃比が本来あるべき目標よりもリーンに偏るおそれがある。
【0035】
燃料噴射量Tを算出する際に加味する補正係数Xは、各気筒1から排出され排気通路4を流通するガスのそれぞれの流れの経路の差異を考慮し、空燃比センサ43、44に接触する流量の多いガスの空燃比による過剰な影響を緩和ないし抑制する目的の補正量である。補正係数Xは、
・各気筒1毎に異なる値を設定する
・現在EGRバルブ23を開弁している(EGRを行っている)か閉弁している(EGRを行っていない)かによって変更する
・現在の内燃機関100の運転領域[エンジン回転数,エンジン負荷率(または、アクセル開度、吸気圧、吸気量、燃料噴射量、エンジントルク)]に応じて変更する
ものとする。
【0036】
ECU0のメモリには予め、内燃機関100が包有する複数の気筒1の各々について、内燃機関100の運転領域[エンジン回転数,エンジン負荷率]と補正量Xとの関係を規定したマップデータが格納されている。三気筒エンジンであれば、三つの気筒1のそれぞれに対応する三つのマップデータが存在している。さらには、EGRバルブ23を開弁してEGRを実行しているときのマップデータと、EGRバルブ23を閉弁しEGRを実行していないときのマップデータとが、別個に並存している。総じて、六つのマップデータがあり、その時々で参照するマップデータを選択することになる。
【0037】
図6に示すように、ECU0は、現在の内燃機関100の行程に応じて、即ち現演算サイクルにてFAF、FACFを演算するにあたり何れの気筒1から排出されたガスが排気通路4を流れているか(空燃比センサ43、44に接していると考えられるか)に応じて、参照するマップデータを選択する(ステップS0)。例えば、現在第二気筒1から排出されたガスが排気通路4を流れているのであれば、第二気筒1に対応するマップデータを選択することになる(ステップS5またはS6)。
【0038】
その上で、ECU0は、現在EGRバルブ23を開弁してEGRを実行しているか否かに応じて、参照するマップデータを選択する(ステップS1、S4またはS7)。例えば、現在第二気筒1から排出されたガスが排気通路4を流れ、かつEGRを実行中であるならば、第二気筒1に対応したEGR実行時のマップデータを選択する(ステップS5)。EGRを実行中でないならば、第二気筒1に対応したEGR非実行時のマップデータを選択する(ステップS6)。
【0039】
しかして、ECU0は、現在の内燃機関100の運転領域[エンジン回転数,エンジン負荷率]のパラメータをキーとして当該マップデータを検索し、現在の条件に合致する補正量Xを知得して(ステップS2、S3、S5、S6、S8またはS9)、これを用いて燃料噴射時間Tを算定する。
【0040】
排出されるガスが空燃比センサ43、44に当たりやすく、空燃比フィードバック制御に及ぼす影響が比較的大きい気筒1に対応するマップデータに記述される補正係数Xは、
|1-FAF|>|1-FAF×X|
となるように、つまりは(FAF×X)をFAFよりも1に近づけ空燃比フィードバック制御による燃料噴射時間Tの補正を弱めるように設定する。または、排出されるガスが空燃比センサ43、44に当たりにくく、空燃比フィードバック制御に及ぼす影響が比較的小さい気筒1に対応するマップデータに記述される補正係数Xを、
|1-FAF|>|1-FAF×X|
となるように、つまりは(FAF×X)をFAFよりも1から遠ざけ空燃比フィードバック制御による燃料噴射時間Tの補正を強めるように設定することも考えられる。
【0041】
補正係数Xは、空燃比フィードバック補正係数FAFが1以上に大きいか(センサ43を介して実測した空燃比がリーンであるか)1未満であるか(センサ43を介して実測した空燃比がリッチであるか)によって異なる値をとることがある。
【0042】
また、補正係数Xは、現在のEGRバルブ23の開度の大きさによって異なる値をとることがある。この場合において、(各気筒1毎の)EGR実行時のマップデータに記述されたEGRバルブ23開度に依存しない補正係数をXB、EGRバルブ23開度に応じた補正係数をγとおくと、燃料噴射時間Tの算出式に代入するべき補正係数Xは、
X=XB×γ
となる。ECU0のメモリには予め、EGRバルブ23の開度と補正量γとの関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在のEGRバルブ23開度をキーとして当該マップデータを検索し、現在の条件に合致する補正量γを知得して、これを用いて燃料噴射時間Tを算定する。
【0043】
燃料噴射時間Tの算定に用いる補正係数Xは、ステップ的に急変させず、徐変させることが好ましい。例えば、
図6に示すように、時点t
1にて、マップデータを参照して知得される補正係数XがX
0からX
1に変化した場合、燃料噴射時間Tの算出式に補正係数Xとして代入する値をt
1時点で直ちにX
0からX
1に変更するのではなく、t
1時点以降X
0からX
1に向けて徐々に変化させるようにする。同様に、時点t
2にて、マップデータを参照して知得される補正係数XがX
1からX
2に変化した場合にも、補正係数Xの値をX
1からX
2に向けて徐々に変化させるようにする。
【0044】
本実施形態では、排気通路4を吸気通路3に連通させるEGR通路21、及びEGR通路21を開閉するEGRバルブ23を有するEGR装置2が付帯した内燃機関100を制御するものであって、燃料噴射量Tを決定するにあたり、気筒1に吸入される空気量に比例する基本噴射量TPに、排気通路4を流れるガスの空燃比を目標空燃比に追従させるフィードバック制御による補正FAFを加え、さらに、EGRバルブ23を開いているか閉じているかに応じて異なる補正Xを加える内燃機関100の制御装置0を構成した。本実施形態によれば、EGR装置2の作動の如何によらず、燃料噴射量Tを適正化して空燃比を良好に制御することができ、有害物質の排出量の一層の削減に寄与し得る。
【0045】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態には限定されない。各部の具体的な構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0046】
100…内燃機関
0…制御装置(ECU)
1…気筒
11…インジェクタ
2…排気ガス再循環(EGR)装置
23…EGRバルブ
3…吸気通路
4…排気通路
43、44…空燃比センサ
b…クランク角信号
c…アクセル開度信号
f、g…空燃比信号
j…燃料噴射信号
k…スロットルバルブ開度操作信号
l…EGRバルブ開度操作信号