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特開2024-108879抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108879
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20240805BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20240805BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240805BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20240805BHJP
   B23K 35/02 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B23K11/30 320
B23K11/16 311
C22C9/00
C22C32/00 B
B23K35/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013501
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 千智
(72)【発明者】
【氏名】横山 卓史
(72)【発明者】
【氏名】竹田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】桑山 卓也
(57)【要約】
【課題】溶接部の表面におけるLME割れの発生が抑制される抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法を提供する。
【解決手段】被溶接材の抵抗溶接を行う場合に被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を準備する工程と、抵抗溶接用電極の接触部を、Znを含むめっきが施された被溶接材に接触させて抵抗溶接を行う工程と、を含む抵抗溶接方法。成分分析により接触部のSi含有量が0.010質量%以下であることを確認し、電極を交換する際、接触部のSi含有量が0.010質量%以下である電極を用いるように管理してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接材の抵抗溶接を行うときに前記被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を準備する工程と、
前記抵抗溶接用電極の前記接触部を、Znを含むめっきが施された被溶接材に接触させて抵抗溶接を行う工程と、
を含む抵抗溶接方法。
【請求項2】
被溶接材の抵抗溶接を行うときに前記被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とする金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を準備する工程と、
前記抵抗溶接用電極の前記接触部の成分分析を行う工程と、
前記成分分析により前記接触部のSi含有量が0.010質量%以下であることが確認された抵抗溶接用電極を用い、前記抵抗溶接用電極の前記接触部を、Znを含むめっきが施された被溶接材に接触させて抵抗溶接を行う工程と、
を含む抵抗溶接方法。
【請求項3】
抵抗溶接機に抵抗溶接用電極を取り付け、Znを含むめっきが施された被溶接材に前記抵抗溶接用電極を接触させて抵抗溶接を繰り返し行う工程と、
前記抵抗溶接用電極に代えて新たな抵抗溶接用電極を前記抵抗溶接機に取り付け、前記抵抗溶接を繰り返し行う工程と、
前記抵抗溶接機に取り付ける抵抗溶接用電極として、前記被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を用いるように管理する工程と、
を含む、抵抗溶接の管理方法。
【請求項4】
前記抵抗溶接用電極の前記接触部が、下記A群及びB群からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
[A群]質量%で、
Cr:3.0%以下、
Zr:0.5%以下、
W:20.0%以下、
Ag:0.5%以下、
Be:2.0%以下、
Co:3.0%以下、
Ni:3.0%以下、及び
Fe:1.0%以下、
からなる群から選択される1種又は2種以上の元素
[B群]質量%で、
Al:3.0%以下、
WC:12.0%以下、
ZrO:5.5%以下、及び
MgO:2.7%以下、
からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気抵抗溶接として、例えば抵抗スポット溶接を行う場合、複数枚の金属板を重ねて板組を一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら通電を行う。通電部において金属板がそれぞれ溶融した後、固化することで板組が接合される。
このようなスポット溶接に用いる電極材料として、一般的に銅合金が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、抵抗溶接では液体金属脆化(LME:Liquid Metal Embrittlement)が問題となることがある。鋼板表面のZn系めっきと鋼板が抵抗溶接によって、熱、ひずみ、応力が加わることで液体金属脆化が生じ、溶接部に亀裂(LME割れ)が生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-62656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、溶接部の表面におけるLME割れの発生が抑制される抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本開示の要旨は次の通りである。
<1> 被溶接材の抵抗溶接を行うときに前記被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を準備する工程と、
前記抵抗溶接用電極の前記接触部を、Znを含むめっきが施された被溶接材に接触させて抵抗溶接を行う工程と、
を含む抵抗溶接方法。
<2> 被溶接材の抵抗溶接を行うときに前記被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とする金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を準備する工程と、
前記抵抗溶接用電極の前記接触部の成分分析を行う工程と、
前記成分分析により前記接触部のSi含有量が0.010質量%以下であることが確認された抵抗溶接用電極を用い、前記抵抗溶接用電極の前記接触部を、Znを含むめっきが施された被溶接材に接触させて抵抗溶接を行う工程と、
を含む抵抗溶接方法。
<3> 抵抗溶接機に抵抗溶接用電極を取り付け、Znを含むめっきが施された被溶接材に前記抵抗溶接用電極を接触させて抵抗溶接を繰り返し行う工程と、
前記抵抗溶接用電極に代えて新たな抵抗溶接用電極を前記抵抗溶接機に取り付け、前記抵抗溶接を繰り返し行う工程と、
前記抵抗溶接機に取り付ける抵抗溶接用電極として、前記被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を用いるように管理する工程と、
を含む、抵抗溶接の管理方法。
<4> 前記抵抗溶接用電極の前記接触部が、下記A群及びB群からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の方法。
[A群]質量%で、
Cr:3.0%以下、
Zr:0.5%以下、
W:20.0%以下、
Ag:0.5%以下、
Be:2.0%以下、
Co:3.0%以下、
Ni:3.0%以下、及び
Fe:1.0%以下、
からなる群から選択される1種又は2種以上の元素
[B群]質量%で、
Al:3.0%以下、
WC:12.0%以下、
ZrO:5.5%以下、及び
MgO:2.7%以下、
からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、溶接部の表面におけるLME割れの発生が抑制される抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】スポット溶接部の断面の一例を示す図である。
図2図1においてAで示す部分に生じたLME割れを拡大して示す図である。
図3】Cr-Cu電極を用いたスポット溶接後の肩部~肩外付近のめっき組成をSEM-EDSで分析したCu濃度を示す図である。
図4】Al分散Cu電極を用いたスポット溶接後の肩部~肩外付近のめっき組成をSEM-EDSで分析したCu濃度を示す図である。
図5】CMAによる亀裂部の観察結果を示す図である。
図6】亀裂部のZn濃度プロファイルを示す図である。
図7】抵抗スポット溶接の一例を示す概略図である。
図8】シーム溶接の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本開示において、元素又は化合物の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。また、本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値又は上限値として含まない範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値、あるいは、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値、あるいは、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0010】
スポット溶接を行う場合、電極材料が被溶接材に移行する。そのため、液体金属脆化は、鋼板のめっき層を構成する材料だけでなく、電極材料も影響すると考えられる。それゆえ、LME割れの原因となる微量元素を極力低減した電極材料とすることで、電極による液体金属脆化の促進が抑制されると考えられる。
【0011】
電極材料に含まれる微量元素の影響を確認するため、スポット溶接用電極として、被溶接材との接触部が下記表1に示す化学組成を有するCr-Cu電極及びAl分散Cu電極を準備した。表1に示す各成分の含有量は、電極先端部における高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(IPC発光分光分析法)による分析値である。電極の形状は、径が16φで先端が40Rの6φであるドームラジアス形状とした。
【0012】
【表1】

【0013】
溶融亜鉛めっき980MPa級鋼板(板厚1.6mm、引張強さ1024MPa)を供試材(被溶接材)とし、上記の各電極を用いてスポット溶接を行い、電流値と亀裂の発生の関係について溶接評価を行った。溶接機はエア加圧式直流電源溶接機を用いて、スクイズ50cycles,通電は5段通電(10cyc通電-2cycクール×5回)、溶接電流は5kAから0.5kA刻みで増加させ、散り発生+3kAまで溶接した。なお、ホールドは10cycles、電極による加圧力は4kNとした。なお、本明細書において時間の単位を、50Hzにおけるcycle数で表す場合がある。
サンプルは評価材の2枚重ねとし、150mmx50mmのサイズとした。なお、評価点は中央とし、あらかじめ150mmの両端部より30mmの位置に2点溶接点を置いた。さらに、溶接サンプルは固定台に置き、溶接ガンによって移動しないように固定した。なお、溶接ガンは、Cガンとした。
【0014】
スポット溶接後、マイクロスコープによる外観観察によって溶接部の表面に生じている亀裂が深い方向で断面を取り、亀裂長さを測定した。さらに、発生した亀裂部の観察をCMA(電子エネルギー分析システム)、SEM-EDS(分析型走査電子顕微鏡)によって行った。図1はスポット溶接部の断面の一例を示し、図2は、図1においてAで示す部分に生じたLME割れを拡大して示している。
【0015】
LME割れを、電極先端、電極肩部と接触していた位置から外側(「肩外」と称呼)、電極肩部と接触していた位置(「肩部」と称呼)に分類し、それぞれの位置における最大亀裂をプロットした。100μm以上の亀裂有無(最大亀裂長さ:μm)、散り発生について、表2に結果を示す。
【0016】
【表2】

【0017】
表2に示すように、Al分散Cu電極を用いた場合よりもCr-Cu電極の方がLME割れを生じやすい傾向がある。特に、チリ開始電流値付近での肩部における割れの長さの差異が顕著であった。
【0018】
本開示の発明者らは、このような割れの原因として電極材料が影響している可能性があると考え、まず、電極の主成分であるCuの溶接部における混入について検証を行った。
Cuの混入によってLME割れを助長するという報告(例えば、“抵抗溶接の基礎と実際”産報出版)があることを踏まえ、Cu濃度の比較を行った。互いに近い電流値にて、ほぼ同じ溶接部厚みとなっている箇所について、Cr-Cu電極を用いて13.0kAの電流値でスポット溶接を行った場合と、Al分散Cu電極を用いて13.5kAの電流値でスポット溶接を行った場合のそれぞれの溶接後における肩部~肩外付近のめっき組成をSEM-EDSによって分析した。その結果をそれぞれ図3図4に示す。両者とも最大Cu濃度はあまり差がない。他の電流値のサンプルの観察結果も、電極材質によるめっき組成のCu濃度差はほぼ無かった。ゆえに、これらの電極は材質に違いがあるものの、めっきへのCu移行の差異は実質的にないと考えられる。
【0019】
次に、CMAにより亀裂部の観察を行った。亀裂深さが比較的大きい電流値のサンプルに対して観察を行った。図5に観察結果を示す。Cr-Cu電極を用いた溶接箇所では亀裂部から母材(鋼板)のSi濃度よりも高いSi濃度が検出された。一方、Al分散Cu電極を用いた溶接箇所の亀裂部ではSiは検出されなかった。また、いずれの電極を用いた場合でもCrは亀裂部への混入はCMAでは検出されなかった。ゆえに、電極成分として、Cr-Cu電極は不純物としてSiを微量に含んでおり、これがLME割れに影響した可能性が考えられる。
【0020】
次に、CMAのデータによるZn濃度プロファイルからZnが液相化したと考えられる濃度を測定した。結果を図6に示す。1はCr-Cu電極でのチリ限(チリが発生する最低電流)+2kAの肩部割れ先端、2はCr-Cu電極でのチリ限の肩部、3はAl分散Cuの肩部亀裂先端、4は亀裂の途中(500μm程度)の位置でそれぞれ採取したサンプルに対する測定結果である。亀裂発生位置は若干異なるものの条件の近い、1と3の比較より、Al分散Cu電極を用いた場合(3)に比べ、Cr-Cu電極を用いた場合(1)の方が液相化Zn濃度が低くなっている。また、2と4がほぼ同じ位置に発生した割れの比較となる。4は、表層から内部に行くほど温度が高かったと考えられるため、2の割れの先端位置に相当する距離でのプロファイルを取った。これらの比較からもCr-Cu電極を用いた場合が最も低いZn濃度となっていた。
【0021】
これらの結果から、本開示の発明者らは、抵抗溶接用電極に不純物として含まれるSi含有量を極力低減することで電極材料(Si)に起因するLME割れを効果的に抑制することができることを見出し、本開示に係る発明の完成に至った。
【0022】
[抵抗溶接用電極]
まず、本開示に係る抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法(本開示において、まとめて「本開示に係る方法」と称する場合がある。)において使用する抵抗溶接用電極について説明する。
本開示に係る方法で使用する抵抗溶接用電極は、被溶接材の抵抗溶接を行うときに被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とする金属材料で形成されており、接触部のSi含有量が0.010質量%以下に低減されている。
Cuを主成分とするとは、電極を構成する元素のうちCuの含有量(質量%)が最も高いこと意味する。導電性、製造コストなどの観点から、接触部におけるCu含有量は70%以上であることが好ましい。一方、抵抗溶接用電極としての硬さ(抵抗溶接時の加圧による変形抑制)の観点から、接触部におけるCu含有量は99質量%以下であることが好ましい。以下、抵抗溶接用電極を単に「電極」と記す場合がある。
【0023】
Si:0.010%以下
本開示における抵抗溶接用電極は、被溶接材との接触部におけるSi含有量が0.010質量%以下である。接触部に含まれるSi含有量を0.010質量%以下に抑えることで、抵抗溶接において電極材料(Si)に起因する溶接部表面(電極と接触した側)のLME割れを抑制することができる。かかる観点から、電極の接触部のSi含有量は0.008質量%以下であることが好ましく、0.006質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
本開示における抵抗溶接用電極は、抵抗溶接用電極としての導電率、硬さの向上などの観点から、Cu以外の合金元素を含んでもよい。本開示における抵抗溶接用電極は、例えば、[A群]Cr、Zr、W、Ag、Be、Co、Ni及びFeの1種又は2種以上を含んでもよい。以下、本開示における抵抗溶接用電極が含み得る任意元素の含有量について説明する。
【0025】
Cr:0~3.0%
Crは添加による導電率の低下が少なく、かつ硬さを上昇させることができる。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Crを3.0%以下で含んでもよく、2.0%以下で含んでもよい。Crの添加による効果を得る場合、Cr含有量は0.4%以上であることが好ましい。
【0026】
Zr:0~0.5%
Zrは添加による導電率の低下が少なく、かつ硬さを上昇させることができる。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Zrを0.5%以下で含んでもよく、0.4%以下で含んでもよい。Zrの添加による効果を得る場合、Zr含有量は0.1%以上であることが好ましい。
【0027】
W:0~20.0%
Wは、添加による導電率の低下が少なく、かつ硬さを上昇させることができる。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Wを20.0%以下で含んでもよく、15.0%以下で含んでもよい。Wの添加による効果を得る場合、W含有量は3.0%以上であることが好ましい。
【0028】
Ag:0~0.5%
Agは、添加による導電率の低下が少なく、かつ硬さを上昇させることができる。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Agを0.5%以下で含んでもよく、0.3%以下で含んでもよい。Agの添加による効果を得る場合、Ag含有量は0.1%以上であることが好ましい。
【0029】
Be:0~2.0%
Beは、添加による導電率の低下がみられるものの、硬さを大きく上昇させることができる。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Beを2.0%以下で含んでもよく、1.5%以下で含んでもよい。Beの添加による効果を得る場合、Be含有量は0.1%以上であることが好ましい。
【0030】
Co:0~3.0%
Coは、添加による導電率の低下がみられるものの、硬さを大きく上昇させることができる。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Coを3.0%以下で含んでもよく、1.0%以下で含んでもよい。Coの添加による効果を得る場合、Co含有量は0.1%以上であることが好ましい。
【0031】
Ni:0~3.0%
Niは、添加による導電率の低下がみられるものの、硬さを大きく上昇させることができる。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Niを3.0%以下で含んでもよく、1.0%以下で含んでもよい。Niの添加による効果を得る場合、Ni含有量は0.1%以上であることが好ましい。
【0032】
Fe:0~1.0%
Feは、不純物として混入するものの、大きな機械特性及び導電率の劣化は1.0%までは見られない。そのため、本開示における抵抗溶接用電極は、Feを1.0%以下で含んでもよい。
【0033】
本開示における抵抗溶接用電極は、硬さを向上させる化合物を含んでもよく、具体的には、[B群]Al、ZrO、WC、及びMgOの1種又は2種以上の化合物を下記範囲内の含有量で含んでもよい。
Al:0~3.0%
WC:0~12.0%
ZrO:0~5.5%
MgO:0~2.7%
本開示における抵抗溶接用電極がこれらの化合物を1種又は2種以上を含む場合、分散強化によって、特に室温~400℃での硬さを上昇させることができる。
なお、[B群]として含み得るWC、ZrOをそれぞれ構成するW、Zrは、[A群]として含み得るW、Zrには含まれない。
【0034】
なお、本開示における抵抗溶接用電極が上記化合物の粒子を含む場合、粒子径と分散量によって強化能力が変化するが、粒子径は限定しないがサブミクロン~数μm程度を中心とした粒度分布が、強化能力が発揮されやすい。
【0035】
以下、本開示における抵抗溶接用電極を構成する電極材料の具体例について説明するが、本開示における抵抗溶接用電極の構成材料は以下の材料に限定されるものではない。
【0036】
CrCuZr(クロムジルコニウム銅)
CrCuZrは、優れた導電性-溶接回路のインピーダンスが最小限に抑えられ、優れた溶接品質が得られる。高温機械的特性-高温溶接環境での電極材料の性能と寿命を保証する高い軟化温度を有する。
CrCuZrは、摩耗し難く、寿命を延ばし、コストを削減することができる。
また、CrCuZrは、高い硬度と強度を有し、電極先端が特定の圧力下で容易に変形したり、粉砕されない。
【0037】
BeCu(ベリリウム銅)
クロムジルコニウム銅と比較して、ベリリウム銅(BeCu)電極材料は、より高い硬度(最大HRB95~104)、強度(最大600~700MPa/N/mm)および軟化温度(最大650°C)を有する。
ベリリウム銅(BeCu)電極材料は、より大きな圧力でプレート部品を溶接し、シーム溶接ホイールなどのより硬い材料を溶接するのに適している。
【0038】
CuAl(アルミナ銅)
アルミナ銅は分散強化銅とも呼ばれる。クロムジルコニウム銅と比較して、優れた高温機械的特性(900°Cまでの軟化温度)およびより高い強度(最大460~580MPa/N/mm)を有し、良好な電気伝導性(80~85IACS%)、優れた耐摩耗性および長寿命を有する。
アルミナ銅は、その強度、軟化温度および良好な電気伝導度にかかわらず、優れた性能を有する電極材料の一種であり、亜鉛めっき板(電解板)の溶接に特に顕著である。
アルミナ銅電極は、亜鉛めっきシート、熱間成形鋼、高強度鋼、アルミニウム製品、高炭素鋼板、ステンレス鋼板などの溶接に好適である。
【0039】
その他の電極材料として、タングステン-銅合金、ニッケル-銅などが挙げられる。
【0040】
<電極形状>
本開示における抵抗溶接用電極の電極形状は特に限定されず、抵抗溶接用電極として公知の形状を採用してもよい。例えば、フラット(F)、ラジアス(R)、ドーム(D)、ドームラジアス(DR)、コーンフラット(CF)、コーンラジアス(CR)、オフセット(E)が挙げられる。
また、本開示における抵抗溶接用電極の構造も限定されず、一体型でもよいし、キャップ型でもよい。
【0041】
<抵抗溶接用電極の製造方法>
本開示における抵抗溶接用電極を製造する方法は、接触部がCuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下に抑えられていれば特に限定されない。
例えば、Si含有量を0.010%以下に低減したCuを主成分とする棒材を作製した後、電極形状に切削加工する方法が挙げられる。
なお、Cuを主成分とする棒材を作製する際、原料やその他の要因により不純物としてSiが混入する。そのため、Si含有量が極力少ない原料及び切削工具を用いる、不純物として混入したSiを除去する、などの方法により棒材中のSi含有量を極力低下させる。Cu合金からSiを除去する方法としては、例えば、黄銅鉱を粗銅とするために酸素を吹き込み加熱することで、スラグとしてFeおよびSiなどの酸化物を排出する工程において、スラグの浮遊、除去をより丁寧に行うことなどが挙げられる。
【0042】
Si含有量を極力低減した目的の成分の棒材を必要に応じて熱処理し、所望の電極形状に切削加工する。
【0043】
(電極の成分分析)
電極形状に切削加工した後、被溶接材との接触部についてSi含有量等の成分分析を行う。接触部における化学組成は実質的に均一であるため、電極先端部の一部に対して成分分析を行えばよい。例えば、表層から1mm程度を削り、採取した切粉を使用して分析すればよい。
成分分析方法についてはICP分析による化学分析方法とする。なお、上記のように目的の成分の棒材を必要に応じて熱処理し、切削加工することによって電極を製造する場合、同じ棒材から製造された電極に対しては、全ての電極について成分分析する必要はなく、1つの電極について分析すればよい。
成分分析により接触部のSi含有量が0.010%以下に抑えられていれば、本開示における抵抗溶接用電極として抵抗溶接に用いることができる。
【0044】
[抵抗溶接方法]
本開示に係る抵抗溶接方法は、前述した本開示における抵抗溶接用電極を用いて被溶接材の抵抗溶接を行う工程を含む。
【0045】
すなわち、本開示に係る抵抗溶接方法は、例えば、被溶接材の抵抗溶接を行うときに被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を準備する工程と、抵抗溶接用電極の接触部を、Znを含むめっきが施された被溶接材に接触させて抵抗溶接を行う工程と、を含む方法である。
【0046】
また、本開示に係る抵抗溶接方法は、被溶接材の抵抗溶接を行うときに被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とする金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を準備する工程と、抵抗溶接用電極の接触部の成分分析を行う工程と、成分分析により接触部のSi含有量が0.010質量%以下であることが確認された抵抗溶接用電極を用い、抵抗溶接用電極の接触部を、Znを含むめっきが施された被溶接材に接触させて抵抗溶接を行う工程と、を含む方法でもよい。
【0047】
被溶接材は特に限定されず、例えば、鋼板又は鋼板を加工した部材、具体的には、引張強さが780MPa以上である高張力鋼板、あるいは、鋼板をホットスタンプによって自動車等の部品の形状に成形されるとともに接合する部分が780MPa以上に高張力化されたホットスタンプ部材が挙げられる。特にLME割れが生じ易いZnを含むめっきが施された被溶接材を抵抗溶接する場合に本開示における抵抗溶接用電極を用いることでLME割れを効果的に抑制することができる。
また、抵抗溶接の種類も特に限定されず、例えばスポット溶接でもよいし、シーム溶接でもよい。
【0048】
(スポット溶接)
図7は、2枚の鋼板を重ねた板組に対してスポット溶接を行った場合の溶接部(接合部)の断面の一例を概略的に示している。図7に示すように、鋼板1A,1Bを重ね合わせた板組を板厚方向に挟み込むように電極2A、2Bを押し当てて板厚方向に加圧しながら電極2Aと電極2Bの間で通電を行う。これにより鋼板1Aと鋼板1Bとの通電部にはナゲット13及び熱影響部(いわゆるHAZ)14が形成され、両鋼板が接合される。電極2A,2Bとして本開示における抵抗溶接用電極を用いることで、溶接部の表面におけるLME割れの発生を抑制することができる。
【0049】
(シーム溶接)
図8は、抵抗溶接としてシーム溶接の一例を示す概略図である。図8に示すように、鋼板10,20を2枚重ねた板組をローラ電極50,60で挟み、板組に圧力を加えてローラ電極50,60を方向Rに回転させながら通電することで、電気抵抗による加熱により板組が連続的に接合される。ローラ電極50,60として本開示における抵抗溶接用電極を用いることで、溶接部の表面におけるLME割れの発生を抑制することができる。
【0050】
[抵抗溶接の管理方法]
次に、本開示に係る抵抗溶接の管理方法について説明する。
本開示に係る抵抗溶接の管理方法は、抵抗溶接機に抵抗溶接用電極を取り付け、Znを含むめっきが施された被溶接材に抵抗溶接用電極を接触させて抵抗溶接を繰り返し行う工程と、
抵抗溶接用電極に代えて新たな抵抗溶接用電極を抵抗溶接機に取り付け、抵抗溶接を繰り返し行う工程と、
抵抗溶接機に取り付ける抵抗溶接用電極として、被溶接材と接触する接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を用いるように管理する工程と、
を含む、方法である。
【0051】
抵抗溶接機により抵抗溶接を繰り返し行うと、電極は、摩耗、変形、酸化、被溶接部材の材料の付着などにより劣化する。電極がある程度劣化した場合、新しい電極に交換して抵抗溶接を行うが、電極の種類によってSi含有量が異なる。そこで、同じ抵抗溶接機において電極を交換する際、接触部が、Cuを主成分とし、Si含有量が0.010質量%以下である金属材料で形成されている抵抗溶接用電極を用いるように管理することで、その抵抗溶接機を用いて抵抗溶接を行う工程では、溶接部の表面におけるLME割れの発生を継続的に抑制することができる。
【0052】
なお、管理工程は特に限定されないが、例えば、準備したCu電極の接触部におけるSi含有量の成分分析を行い、Si含有量が0.010質量%以下であれば、同じロットの電極もSi含有量が0.010質量%以下であると判断し、交換用電極として管理しておく方法が挙げられる。
【0053】
以上、本開示に係る抵抗溶接方法及び抵抗溶接の管理方法について説明したが、本開示に係る方法は、他の工程を含んでもよい。
例えば、抵抗溶接の繰り返しにより電極が劣化した場合、接触部(電極先端)をドレッシングする工程を含んでもよい。ドレッシングにより、電極を交換せずに、初期的状態に近い状態にすることができる。
【実施例0054】
以下、実施例によって本開示に係る抵抗溶接方法について説明する。なお、本開示に係る抵抗溶接方法はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例>
表3に示す化学組成を有する抵抗溶接用電極を準備した。各組成は、被溶接材との接触部をICP発光分光分析法により分析した値である。Cu、Si、Fe及び意図的に添加されている元素又は化合物のみ記載し、残部は不純物である。下線は本開示の範囲外であることを意味する。
【0056】
【表3】

【0057】
電極の形状は、径が16φ、先端径が6φ40Rのドームラジアス形状とした。これらの電極を用いてスポット溶接による評価を行った。
被溶接材は1.2mmtの980MPa級の亜鉛めっき鋼板とし、2枚重ねの溶接とした。
溶接にはC型スポット溶接ガンを有する直流電源サーボ加圧型定置スポット溶接機を用いた。溶接条件は、スクイズ時間が0.5s、通電時間が0.5s、ホールド時間0.1sとし、電流値はナゲット形成からチリ発生+2点目まで0.5kAずつ上昇させた。
上記条件のスポット溶接により得られたサンプルの溶接部の外観をマイクロスコープで観察し、亀裂があれば最も大きい亀裂を含むように板厚方向に切断した断面をSEMで観察することによって亀裂長さを特定した。なお、亀裂発生位置は、電極と接触する鋼板の最表層にのみ限定し、板の界面に生じた割れは考慮しないこととした。亀裂最大長さが300μmを超える場合にはNG、300μm未満の場合はOKとした。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
接触部におけるSi含有量が0.010%を超えるNo.1、2、12の電極を用いた場合は、最大亀裂長さが300μmを超えたのに対し、Si含有量が0.010%以下である他の電極はを用いた場合は、最大亀裂長さが300μm以下であった。
【符号の説明】
【0060】
1A、1B 鋼板
2A、2B 電極
13 ナゲット
14 熱影響部(HAZ)
10、20 鋼板
50,60 ローラ電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8