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  • 特開-冷却水制御用サーモバルブ 図1
  • 特開-冷却水制御用サーモバルブ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108916
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】冷却水制御用サーモバルブ
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
F01P7/16 502E
F01P7/16 502B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013565
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】徳岡 真吾
(57)【要約】
【課題】インレットハウジングとシリンダヘッドとで挟み固定されるサーモバルブにおいて、組付けに際してのインレットハウジングへの仮保持を、コストを抑制した状態で実現する。
【解決手段】サーモバルブを構成するフランジ13にガスケット12が装着されている。ガスケット12は、インレットハウジング3に設けた環状段部24に嵌入するシール部22と、インレットハウジング3の内周面に弾性的に当接するボス部23とで構成されている。ボス部23が摩擦を持ってインレットハウジング3に当接しているため、サーモバルブ8をインレットハウジング3に仮保持できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水通路を有するインレットハウジング及びシリンダヘッドに固定されるバルブ本体と、冷却水の温度変化によって移動するように前記バルブ本体に設けた可動弁体と、を有して、
前記バルブ本体は、ガスケットを介して前記インレットハウジングと前記シリンダヘッドとの内周部で挟み固定されるフランジを有している冷却水用サーモバルブであって、
前記ガスケットは、前記フランジを表裏両側から抱持して前記インレットハウジング及び前記シリンダヘッド間で挟まれるシール部と、前記インレットハウジングにおける冷却水通路の内周面に弾性的に当接するボス部とを有している、
冷却水制御用サーモバルブ。
【請求項2】
前記ボス部の外周面に、前記シール部に至る切欠きを形成している、
請求項1に記載した冷却水制御用サーモバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水冷式エンジンに使用する冷却水制御用サーモバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水冷式のエンジンでは、冷却水をその温度に応じてラジエータに送ったりウォータポンプに戻したりして流れを制御しているが、その流れの制御には、一般に、冷却水の温度変化によって膨張収縮する感温部材を備えたサーモバルブが使用されている。すなわち、サーモバルブは、ハウジングに固定されるバルブ本体と、冷却水の温度変化によって移動する可動弁体とを備えており、バルブ本体に設けたフランジが、ガスケットを介してインレットハウジングとシリンダヘッドとの挟持部で挟み固定されている。
【0003】
さて、サーモバルブは、インレットハウジングとシリンダヘッドとで挟み固定されているが、サーモバルブの組み付けに当たっては、まずサーモバルブをインレットハウジングに取り付けておいてから(仮保持しておいてから)、インレットハウジングをシリンダヘッドに重ねてボルトで固定しているが、この組み付け工程でサーモバルブがインレットハウジングから脱落しないように保持する必要がある。
【0004】
この点について特許文献1には、インレットハウジングの内周面に係止凹部を形成しておく一方、バルブ本体には、弾性変形によって係止凹部に嵌入する係止舌片を設けておき、係止凹部に対する係止舌片の引っ掛かり作用によってサーモバルブの脱落を阻止した技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-332779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、サーモバルブの脱落防止の効果は有するが、インレットハウジングに係止凹部を加工せねばならないためコストが嵩む問題や、バルブ本体に新たな部材として係止舌片を設けなければならないため更にコストが嵩む問題、及び、係止舌片が冷却水の流れに対する抵抗として作用するため、圧損増大による燃費悪化の問題などが懸念される。
【0007】
この点についは、インレットハウジングのインレットポートに外側から挿入される治具を使用して、組み付け工程では、治具でサーモバルブをインレットハウジングに引き付けておけばよいと云えるが、インレットポートがサーモバルブの軸心に対して傾斜姿勢になっていると、治具によってサーモバルブの先端をクランプすることができないため、治具を使用した取り付けは困難になる。従って、サーモバルブに何らかの工夫を加える必要性が生じる。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、
「冷却水通路を有するインレットハウジング及びシリンダヘッドに固定されるバルブ本体と、冷却水の温度変化によって移動するように前記バルブ本体に設けた可動弁体と、を有して、
前記バルブ本体は、ガスケットを介して前記インレットハウジングと前記シリンダヘッドとの内周部で挟み固定されるフランジを有している」
という構成の冷却水用サーモバルブにおいて、
「前記ガスケットは、前記フランジを表裏両側から抱持して前記インレットハウジング及び前記シリンダヘッド間で挟まれるシール部と、前記インレットハウジングにおける冷却水通路の内周面に弾性的に当接するボス部とを有している」
という特徴を有している。
【0010】
本願発明は様々に具体化できる。その好適な具体例として請求項2では、
「前記ボス部の外周面に、前記シール部に至る切欠きを形成している」
という構成を採用している。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では、ガスケットに設けたボス部がインレットハウジングの内周面に弾性的に突っ張ることにより、組み付け工程でサーモバルブをインレットハウジングに取り付けた状態を保持できる。
【0012】
そして、シール手段として必須の部材であるガスケットにボス部を付加する簡単な対応であり、インレットハウジングに加工を施したりサーモバルブに新たな部材を追加したりする必要はないため、コストの上昇を大きく抑制できる。また、ボス部はインレットハウジングの内周に沿って配置されるため、冷却水の流れに対して抵抗になったり流れを乱ししたりすることはなく、従って、圧損増大による燃費悪化の問題も生じない。
【0013】
請求項2のようにガスケットのボス部に切欠きを設けると、インレットハウジングをシリンダヘッドに対してボルトで締結するにおいて、インレットハウジングによる押圧力をガスケットのシール部に均等に作用させることができる。従って、ガスケットによる高いシール性を確実化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態を示す図で、(A)は平断面図、(B)は(A)の部分拡大図である。
図2】(A)はサーモバルブの斜視図、(B)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車両用水冷式エンジンの冷却水制御装置に適用している。
【0016】
(1).基本構造
図1(A)に示すように、シリンダヘッド1に冷却水の戻り中継室2が形成されており、シリンダヘッド1の外面に、戻り中継室2を覆うようにインレットハウジング3もしくはアウトレットハウジングが複数本のボルト(図示せず)で重ね固定されている。
【0017】
戻り中継室2は、例えばシリンダヘッド1のうちタイミングチェーンと反対側の後端部に一体に形成されている。或いは、シリンダヘッドの後端に固定されたブロック体で戻り中継室2を構成することも可能である。更に、シリンダブロックに戻り中継室2を形成することも可能である。
【0018】
シリンダヘッド1の戻り中継室2は空洞状になっており、戻り中継室2に、ヒータ戻り通路4とリーク通路5とが連通している。また、図示していないが、ウォータポンプに送水する送りポートも戻り中継室2に連通している。戻り中継室2は、請求項に記載した冷却水通路の一例である。
【0019】
インレットハウジング3には、冷却水通路として、戻り中継室2に連通した拡大室6と、拡大室6に連通したラジエータ戻りポート7とが形成されている。ラジエータ戻りポート7は、戻り中継室2及び拡大室6の軸線に対して平面視である程度の角度θだけ傾斜している。ラジエータ戻りポート7にはホース7aが接続される。
【0020】
シリンダヘッド1の戻り中継室2とインレットハウジング3の拡大室6とに跨がった状態でサーモバルブ8が配置されている。サーモバルブ8は、シリンダヘッド1の後端部に配置する場合は、シリンダヘッドの後端面と直交した姿勢に配置されている(従って、クランク軸線及びカム軸線と平行に配置されている)。
【0021】
サーモバルブ8は、リーク通路5まで入り込んだ中心軸9を有しており、この中心軸9に、大径のスライダー10と、リーク通路5を塞ぐリーク弁板11とが摺動自在に装着されている。スライダー10は、感温作動体11aに外側から嵌っており、感温作動体11aに内蔵した感温部材の膨張・収縮によってスライダー10が軸方向に移動する。
【0022】
サーモバルブ8は、ガスケット12を介してインレットハウジング3とシリンダヘッド1とで挟み固定されたリング状のフランジ(バルブシート)13を備えており、フランジ13に、インレットハウジング3の拡大室6に配置されたアーム14が固定されており、アーム14の先端のキャップ15によって中心軸9の先端が掴持されている。従って、中心軸9は移動不能に保持されている。フランジ13は外向きの筒部を備えており、断面L形になっている。フランジ13で囲われた内部が冷却水通路になっている。
【0023】
更に、スライダー10には、フランジ13に対して戻り中継室2の側から重なる可動弁体16が一体的に取り付けられており、スライダー10と一緒に可動弁体16が移動することにより、可動弁体16がフランジ13に対して遠近移動して、冷却水がインレットハウジング3からシリンダヘッド1に流れたり、流れが遮断されたりする。
【0024】
フランジ13には、シリンダヘッド1の戻り中継室2に入り込んだケージ17が固定されており、ケージ17の先端に、スライダー10がスライドするばね受けリング18が形成されている。そして、ばね受けリング18と可動弁体16との間に第1ばね19を配置している。従って、可動弁体16は、第1ばね19によって閉じ方向に付勢されている。
【0025】
冷却水の温度が所定温度未満の場合は、感温部材は収縮した状態のままで、可動弁体16は第1ばね19によって閉じ状態に保持されている。従って、冷却水がラジエータに通水することはない。他方、冷却水の温度が所定温度に至ると、感温部材が膨張を開始して、スライダー10がインレットハウジング3と反対側に移動し始める。すると、スライダー10に一体に取り付けられた可動弁体16は、第1ばね19に抗して戻り中継室2の内部に向けて移動し、これにより、インレットハウジング3からシリンダヘッド1への通水が始まる。
【0026】
冷却水の昇温に比例して可動弁体16の移動量が増大して、ラジエータに循環する冷却水の量も増大していく。冷却水の温度が所定温度まで上昇すると可動弁体16は移動しきって、冷却水の略全量がラジエータに循環する。
【0027】
スライダー10の後端とリーク弁板11との間には、円錐ばね状の第2ばね20が介挿されている。冷却水が所定温度よりも低くて可動弁体16が閉じている状態では、シリンダヘッドのジャケットを流れてきた冷却水の大部分は、リーク弁板11を押し移動させて戻り中継室2に流入し、図示しない送りポートからウォータポンプに流入する。なお、シリンダヘッドのジャケットを流れてきた冷却水の一部は、車両のヒータコアに送られて、ヒータコアから戻った冷却水は、戻り中継室2から送りポートを経由してウォータポンプに流入する。
【0028】
本実施形態では、中心軸9とフランジ13とアーム14とケージ17とでバルブ本体が構成されている。
【0029】
(2).ガスケット
ガスケット12はエラストマー系合成樹脂のような軟質材から成っており、図1(B)に明示するように、フランジ13を表裏両側から挟持するシール部22と、シール部22の表面側と一体に繋がってインレットハウジング3の内周に弾性的に当接するボス部23とで構成されている。シール部22はフランジ13を挟持しているため、断面はU字形又はコ字形になっている。
【0030】
また、インレットハウジング3の開口縁に、シール部22が入り込む環状段部24を形成している。なお、環状段部24は、シリンダヘッド1の開口縁のみに形成してもよいし、インレットハウジング3とシリンダヘッド1との両方に形成してもよい。
【0031】
ボス部23は、スライダー10の表面部から内向きに張り出した部位と、シール部22よりも外側にはみ出た部分とを有しており、シール部22からの突出寸法はシール部22の全体の厚さと略同じ程度の寸法になっている。そして、ボス部23の内周面に、シール部22の外面まで至る切欠き(環状溝、溝条)25が形成されている。従って、ボス部23は、シール部22と反対側に位置した突条23aがインレットハウジング3の内周面に当接している。
【0032】
図1(B)に、シール部22とボス部23との自由状態での形状を点線で表示している。従って、点線で表示した部分は圧縮代22a,23bになっている。このように、インレットハウジング3をシリンダヘッド1に固定することに伴ってシール部22が潰れることにより、高いシール性を確実化できる。
【0033】
また、サーモバルブ8を組み込むに際しては、ガスケット12を予めインレットハウジング3に装着しておき、次いで,インレットハウジング3をシリンダヘッド1に重ねてボルトで締結するが、シール部22のボス部23がインレットハウジング3に内周面に弾性的に当接しているため、サーモバルブ8は、ボス部23とインレットハウジング3との間に生じた摩擦によって、インレットハウジング3に仮保持されている。
【0034】
従って、インレットハウジング3への追加加工やサーモバルブ8への別部材の追加を要することなく、サーモバルブ8をインレットハウジング3に仮保持できる。また、ラジエータ戻りポート7から差し込む治具は不要であるため、実施形態のようにインレットハウジング3のラジエータ戻りポート7がサーモバルブ8の軸線に対して傾斜していても、サーモバルブ8をインレットハウジング3に問題なく仮保持できる(ラジエータ戻りポート7がサーモバルブ8の軸心に対して傾斜していると、ラジエータ戻りポート7から治具を挿入しても、サーモバルブ8のキャップ15を掴持できない。従って、治具を使用してサーモバルブ8を仮保持することはできない。)。
【0035】
冷却水はフランジ13の内部を流れるが、ボス部23はフランジ13の開口よりも外側に位置してインレットハウジング3の内周面に密着しており、かつ、ボス部23の突出量は大きくないため、冷却水がインレットハウジング3からシリンダヘッド1に流れるに際して、ボス部23が冷却水の流れに対して抵抗になったり、流れを乱したりすることはない。従って、圧損を増大させることなく冷却水をスムースに通水できる。
【0036】
実施形態のように、ボス部23の外周面にシール部22まで至る切欠き25を形成すると、インレットハウジング3をシリンダヘッド1に重ねて固定するにおいて、インレットハウジング3の押圧力がボス部23に作用することはないため、シール部22を均等に圧縮して高いシール性を確実化できる。
【0037】
図2に示すように、フランジ13の一部にはエア抜きのためのジグルピン(ジグルバルブ)26を設けている。ジグルピン26は、エア抜きの機能から、鉛直方向の上端に配置される。すなわち、サーモバルブ8をシリンダヘッド1に取り付けるに当たっては、ジグルピン26が上端に位置するようにサーモバルブ8の姿勢を設定する必要がある。
【0038】
そこで、ボス部23に切除部27を設けてジグルピン26を露出させることにより、ジグルピン26の視認性を高めている。ボス部23に切除部27を形成すると、それ自体によってサーモバルブ8の姿勢を視認できるため、サーモバルブ8の取り付け姿勢を正確に把握できる。なお、キャップ15及び中心軸9の軸心O2は、フランジ13の軸心O1に対して若干の寸法Eだけジグルピン26と反対側(下方)にずれている。
【0039】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、実施形態ではインレットハウジングにラジエータからの戻り冷却水が流入していたが、インレットハウジングにラジエータ送りポートを設けることも可能である。実施形態では、ボス部は切除部を除いて一連に延びていたが、ボス部を複数に分断することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本願発明はサーモバルブに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 シリンダヘッド
2 戻り中継室(冷却水通路)
3 インレットハウジング
5 リーク通路(冷却水通路)
6 インレットハウジングの拡大室(冷却水通路)
7 ラジエータ戻りポート
8 サーモバルブ
9 バルブ本体を構成する中心軸
10 スライダー
11 リーク弁板
12 ガスケット
13 バルブ本体を構成するフランジ(バルブシート)
14 バルブ本体を構成するアーム
15 バルブ本体を構成するキャップ
16 可動弁体
17 バルブ本体を構成するケージ
19,20 ばね
22 シール部
23 ボス部
24 環状段部
25 切欠き
26 ジグルピン
27 切除部
図1
図2