(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108917
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】サーモバルブ用ハウジング
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20240805BHJP
F16K 27/00 20060101ALI20240805BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
F01P7/16 502E
F16K27/00 D
F16K31/68 Q
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013566
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】徳岡 真吾
【テーマコード(参考)】
3H051
3H057
【Fターム(参考)】
3H051AA01
3H051BB05
3H051CC11
3H051CC12
3H051FF03
3H057AA02
3H057BB15
3H057CC13
3H057DD03
3H057EE02
3H057FA02
3H057FA24
3H057FB02
3H057FB06
3H057FC05
3H057HH03
3H057HH17
(57)【要約】
【課題】空気抜き用のジグルピンを備えたサーモバルブが正確に取り付けられるハウジングを提供する。
【解決手段】サーモバルブ9は、外周部にガスケット14が装着されたフランジ15と、フランジ15に固定されたヘッド部9aとを有しており、ヘッド部9aには、一部のみにアーム16が固定されて、アーム16の先端に設けたキャップ17で中心軸10の先端を掴持している。フランジ15の上端にはエア抜き用のジグルピン28を設けている。サーモバルブ9が装着されるインレットハウジング2のメイン冷却水通路4に、サーモバルブ9のアーム16を位置決めする上下一対の位置決めリブ29が形成されている。位置決めリブ29は、他のポート26の一部である内向きボス部27にも繋がっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモバルブのヘッド部が入り込むメイン冷却水通路を有するサーモバルブ用ハウジングであって、
前記サーモバルブのヘッド部は、当該サーモバルブの軸心と直交した方向にはみ出た張り出し部を有しており、
前記メイン冷却水通路の内面に冷却水の流れ方向に延びる一対の位置決めリブが形成されて、前記サーモバルブを適正な姿勢で挿入した状態でのみ前記張り出し部が前記一対の位置決めリブの間に入り込むように設定されており、
前記メイン冷却水通路及びサーモバルブの軸心方向から見て、前記位置決めリブの延長線は前記メイン冷却水通路の軸心を挟んだ両側に位置している、
サーモバルブ用ハウジング。
【請求項2】
更に、前記メイン冷却水通路と交差した姿勢で前記メイン冷却水通路に隣接した他のポートを有して、前記他のポートを構成する筒部が前記メイン冷却水通路に部分的に入り込んでボス部が形成されており、
前記位置決めリブは、前記ボス部を横切る姿勢で形成されている、
請求項1に記載したサーモバルブ用ハウジング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水冷式エンジンに使用する冷却水制御用サーモバルブが取り付くハウジングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水冷式のエンジンでは、冷却水をその温度に応じてラジエータに送ったりウォータポンプに戻したりして流れを制御しているが、その流れの制御には、一般に、冷却水の温度変化によって膨張収縮する感温部材を備えたサーモバルブが使用されている。サーモバルブは、ハウジングに固定されるバルブ本体と、冷却水の温度変化によって移動する可動弁体とを備えており、バルブ本体に設けたフランジが、ガスケットを介してインレットハウジングとシリンダヘッドとの挟持部で挟み固定されている。
【0003】
さて、サーモバルブは、インレットハウジングとシリンダヘッドとで挟み固定されているが、サーモバルブの組み付けに当たっては、まずサーモバルブをインレットハウジングに取り付けておいてから(仮保持しておいてから)、インレットハウジングをシリンダヘッドに重ねてボルトで固定している。
【0004】
また、サーモバルブはエア抜きのためのジグルピン(ジグルバルブ)を設けており、ジグルピンのエア抜き機能を確保するためには、サーモバルブはジグルピンが上端に位置するように姿勢を設定する必要がある。そこで特許文献1には、ハウジング(ウォータインレット)の内面に、冷却水の流れ方向に延びる一対の位置決めリブを設けて、サーモバルブにおけるヘッド部の一部を一対の位置決めリブの間の空間に挿入することにより、サーモバルブをジグルバルブが上に位置した姿勢に保持している。
【0005】
すなわち、特許文献1では、ジグルバルブを上にした姿勢でのみサーモバルブをハウジングに取り付け可能であり、他の姿勢ではサーモバルブをハウジングに取り付けできないため、サーモバルブの誤組み付けを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1はサーモバルブの誤組み付けは確実に防止できるが、位置決めリブは冷却水通路の一部に偏った状態で形成されているため、ハウジングに流入した冷却水がサーモバルブをスムースに通過し難くなることが懸念される。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、サーモバルブのヘッド部が入り込むメイン冷却水通路を有するサーモバルブ用ハウジングであって、前記サーモバルブのヘッド部は、当該サーモバルブの軸心と直交した方向にはみ出た張り出し部を有している。
【0010】
そして、ハウジングは、
「前記メイン冷却水通路の内面に冷却水の流れ方向に延びる一対の位置決めリブが形成されて、前記サーモバルブを適正な姿勢で挿入した状態でのみ前記張り出し部が前記一対の位置決めリブの間に入り込むように設定されており、
前記メイン冷却水通路及びサーモバルブの軸心方向から見て、前記位置決めリブの延長線は前記メイン冷却水通路の軸心を挟んだ両側に位置している」
という構成になっている。
【0011】
本願発明は様々に具体化できる。その例として請求項2では、
「更に、前記メイン冷却水通路と交差した姿勢で前記メイン冷却水通路に隣接した他のポートを有して、前記他のポートを構成する筒部が前記メイン冷却水通路に部分的に入り込んでボス部が形成されており、
前記位置決めリブは、前記ボス部を横切る姿勢で形成されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、メイン冷却水通路及びサーモバルブの軸心方向から見て、一対の位置決めリブの延長線はメイン冷却水通路の軸心を挟んだ両側に位置しているため、サーモバルブの軸心をメイン冷却水通路の軸心に寄せることができる。このため、ハウジングに流入した冷却水の弁穴にスムースにガイドして、冷却水の流れをスムース化できる。
【0013】
請求項2の構成を採用すると、他のポートの一部であるボス部に位置決めリブが接続されているため、他のポートの剛性を向上できる。従って、他のポートにホースを接続するに際しての他のポートの破損変形を防止できると共に、エンジンの振動や車両の振動によってホースの荷重が他のポートに負荷として繰り返し作用しても、破損や変形を防止して耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】(A)は破断斜視図、(B)は位置決めリブを前から見た斜視図である。
【
図3】(A)はサーモバルブの後面図、(B)は
図1のIIIB-IIIB 視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車両用水冷式エンジンの冷却水制御装置に適用している。以下では、方向を特定するため前後・左右や上下の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向(カム軸線方向)であり、タイミングチェーンが配置されている側を前、ミッションが配置されている側を後ろとしている。左右方向はクランク軸線と直交した水平方向(エンジンの幅方向)、上下方向は鉛直方向である。
【0016】
(1).基本構造
図1に示すように、冷却水制御装置はシリンダヘッド1とこれに後ろから重なったインレットハウジング2とを備えている。シリンダヘッド1に冷却水の戻り中継室3が形成されており、インレットハウジング2には、メイン冷却水通路4とこれに連通したラジエータ戻りポート5とが形成されている。
【0017】
ラジエータ戻りポート5は、戻り中継室3及びメイン冷却水通路4の軸線に対して、平面視である程度の角度θだけ傾斜している。ラジエータ戻りポート5にはホース6が接続される。インレットハウジング2は請求項に記載したハウジングであり、複数本のボルト(図示せず)がシリンダヘッド1に固定されている。
【0018】
戻り中継室3は、例えばシリンダヘッド1の後端部に一体に形成されている。或いは、シリンダヘッドの後面に固定されたブロック体で戻り中継室3を構成することも可能である。更に、シリンダブロックに戻り中継室3を形成することも可能である。
【0019】
シリンダヘッド1の戻り中継室3は空洞状になっており、戻り中継室3に、左右方向に向いたヒータ戻り通路7と、シリンダヘッドのジャケットに向けて開口したリーク通路8とが連通している。また、図示していないが、ウォータポンプに送水する送りポートも戻り中継室3に連通している。
【0020】
シリンダヘッド1の戻り中継室3とインレットハウジング2のメイン冷却水通路4とに跨がった状態でサーモバルブ9が配置されている。サーモバルブ9は、シリンダヘッドの後端部に配置する場合は、シリンダヘッドの後端面と直交した姿勢(クランク軸線及びカム軸線と平行な姿勢)に配置されている。
【0021】
(2).サーモバルブ
サーモバルブ9は、リーク通路8まで入り込んだ中心軸10を有しており、この中心軸10に、大径のスライダー11と、リーク通路8を塞ぐリーク弁板12とが摺動自在に装着されている。スライダー11は、感温作動体13に外側から嵌っており、感温作動体13に内蔵した感温部材の膨張・収縮によってスライダー11が軸方向に移動する。
【0022】
サーモバルブ9は、ガスケット14を介してインレットハウジング2とシリンダヘッド1とで挟み固定されたリング状のフランジ(バルブシート)15を備えており、フランジ15のうち左右方向の一側部に、インレットハウジング2のメイン冷却水通路4に配置されたアーム16が固定されており、アーム16の先端に設けたキャップ17によって中心軸10の先端が掴持されている。従って、中心軸10は移動不能に保持されている。
【0023】
請求項との関係では、フランジ15を挟んでメイン冷却水通路4の内部に位置した部位がヘッド部9aを構成しており、アーム16が張り出し部に該当する。フランジ15は外向きの筒部を備えており、断面L形になっている。フランジ15で囲われた内部が弁穴になっている。
【0024】
更に、スライダー11には、フランジ15に対して戻り中継室3の側から重なる可動弁体18が一体的に取り付けられており、スライダー11と一緒に可動弁体18が移動することにより、可動弁体18がフランジ15に対して遠近移動して、冷却水がインレットハウジング2からシリンダヘッド1に流れたり、流れが遮断されたりする。
【0025】
フランジ15には、シリンダヘッド1の戻り中継室3に入り込んだケージ19が固定されており、ケージ19の先端に、スライダー11がスライドするばね受けリング20が形成されている。そして、ばね受けリング20と可動弁体18との間に第1ばね21を配置している。従って、可動弁体18は、第1ばね21によって閉じ方向に付勢されている。
【0026】
冷却水の温度が所定温度未満の場合は、感温部材は収縮した状態のままで、可動弁体18は第1ばね21によって閉じ状態に保持されている。従って、冷却水がラジエータに通水することはない。他方、冷却水の温度が所定温度に至ると、感温部材が膨張を開始して、スライダー11がインレットハウジング2と反対側に移動し始める。すると、スライダー11に一体に取り付けられた可動弁体18は、第1ばね21に抗して戻り中継室3の内部に向けて移動し、これにより、インレットハウジング2からシリンダヘッド1への通水が始まる。
【0027】
冷却水の昇温に比例して可動弁体18の移動量が増大して、ラジエータに循環する冷却水の量も増大していく。冷却水の温度が所定温度まで上昇すると可動弁体18は移動しきって、冷却水の略全量がラジエータに循環する。
【0028】
スライダー11の後端とリーク弁板12との間には、円錐ばね状の第2ばね22が介挿されている。冷却水が所定温度よりも低くて可動弁体18が閉じている状態では、シリンダヘッドのジャケットを流れてきた冷却水の大部分は、リーク弁板12を押し移動させて戻り中継室3に流入し、図示しない送りポートからウォータポンプに還流する。なお、シリンダヘッドのジャケットを流れてきた冷却水の一部は、車両のヒータコアに送られて、ヒータコアから戻った冷却水は、戻り中継室3から送りポートを経由してウォータポンプに流入する。
【0029】
本実施形態では、中心軸10とフランジ15とアーム16とケージ19とでバルブ本体が構成されている。ガスケット14は、インレットハウジング2の内周縁に形成した環状段部23に嵌まっている。
【0030】
(3).インレットハウジングの詳細
図2(B)においてインレットハウジング2の全体を表示している。この図のとおり、インレットハウジング2は、正面視で概ね三角形に近い形態であり、各頂点部にボルト挿通穴24を設けている。
【0031】
また、メイン冷却水通路4はインレットハウジング2の大きな面積を占めており、メイン冷却水通路4の斜め下方の部位に前向きに開口した中間通路25(例えばヒータ戻りホースが取り付く他のポート26と連通した通路で、ヒータ戻り通路7と連通する)を開口している。また、メイン冷却水通路4の外側の部位でかつラジエータ戻りポート5と反対側の部位に、前記した他のポート26がメイン冷却水通路4に近接して一体に設けられている。
【0032】
他のポート26は、その一部を構成する筒部がメイン冷却水通路4に入り込んでいる。このため、メイン冷却水通路4の内部には、他のポート26の一部と認定しうる内向きボス部27がメイン冷却水通路4の内部に露出している。従って、メイン冷却水通路4の内周面は、ラジエータ戻りポート5と反対側の部位において段違い状に形成されている。
【0033】
そして、
図3に示すように、サーモバルブ9におけるフランジ15の上端にエア抜き用のジグルピン(ジグルバルブ)28を設けており、ジグルピン28を上向きにした姿勢でアーム16がメイン冷却水通路4のうち内向きボス部27を設けている部位に向くように設定しているが、メイン冷却水通路4の内周面のうち内向きボス部27が配置されている部位に、サーモバルブ9のアーム16が遊嵌する上下一対の位置決めリブ29が、冷却水の流れ方向に長い姿勢(メイン冷却水通路4及びサーモバルブ9の軸心方向に長い姿勢)で、内向きに突設されている。
【0034】
図3に示すように、中心軸10の軸心O2は、フランジ15の軸心O1に対して若干の寸法Eだけジグルピン28と反対側(下方)にずれている。従って、アーム16も、フランジ15及びメイン冷却水通路4の軸心O1に対して下方にずれている。
【0035】
アーム16がフランジ15及びメイン冷却水通路4の軸心O1に対して下方にずれていることにより、上下の位置決めリブ29はフランジ15及びメイン冷却水通路4の軸心O1から下方にずれているが、
図3(B)に示すように、サーモバルブ9及びメイン冷却水通路4の軸心方向から見て、上下の位置決めリブ29の延長線30の間にサーモバルブ9及びメイン冷却水通路4の軸心O1が位置している。
【0036】
また、ガスケット14はメイン冷却水通路4の内周面に当接する内向き筒部14aを有しているが、ジグルピン28の箇所で内向き筒部14aを切除している。すなわち、内向き筒部14aに切除部31を設けることによってジグルピン28を露出させている。なお、ガスケット14に内向き筒部14aを設けると、内向き筒部14aがメイン冷却水通路4の内周面に弾性的に当接するため、エンジンの組み立てに際して、サーモバルブ9をインレットハウジング2に仮保持できる。
【0037】
サーモバルブ9のアーム16は左右方向の片側だけまたは両側に形成されており、かつ、メイン冷却水通路4の軸心O1に対して下方にずれているため、サーモバルブ9は、ジグルピン28を上にした姿勢でないとメイン冷却水通路4に嵌め込むことはできない。このため、誤った姿勢で組み付けることを防止できる。
【0038】
また、位置決めリブ29は冷却水の流れ方向に長い姿勢であるため、冷却水の流れに対して抵抗にはならず、また、冷却水の流れを乱すことはなくて、冷却水をシリンダヘッド1に向けてスムースに流すことができる。
【0039】
実施形態では、ラジエータ戻りポート5が位置決めリブ29から遠ざかる方向に傾斜しているため、冷却水は位置決めリブ29に向かう傾向を呈するが、位置決めリブ29が整流作用を果たして、冷却水のスムースな流れを助長できるといえる。
【0040】
更に、本実施形態では、外部冷却水ポート26の一部を構成する内向きボス部27に位置決めリブ29が接続されているため、他のポート26は,その付け根部が位置決めリブ29によって補強された状態になっている。このため、外部冷却水ポート26の剛性を向上させて、他のポート26にホースを差し込むに際して他のポート26に曲げ力が作用しても破損や変形を防止できると共に、エンジンの振動や車体の振動によってホースを介して曲げ力が作用しても、高い耐久性を確保できる。
【0041】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、実施形態ではインレットハウジングに冷却水の戻りポートを設けたが、インレットハウジングにラジエータ等への送りポートを設けることも可能である。アーム等の張り出し部は、上向きに形成したり下向きに形成したりすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明はサーモバルブ用のハウジングに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 シリンダヘッド
2 インレットハウジング
3 戻り中継室(冷却水通路)
4 メイン冷却水通路
5 ラジエータ戻りポート
8 リーク通路
9 サーモバルブ
9a ヘッド部
10 バルブ本体を構成する中心軸
11 スライダー
12 リーク弁板
14 ガスケット
15 バルブ本体を構成するフランジ(バルブシート)
16 アーム(張り出し部)
18 可動弁体
19 バルブ本体を構成するケージ
21,22 ばね
26 他のポート
27 ボス部
28 ジグルピン(ジグルバルブ)
29 位置決めリブ