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特開2024-108930動物病院の評価システム及び動物病院の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108930
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】動物病院の評価システム及び動物病院の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20240805BHJP
   A01K 29/00 20060101ALI20240805BHJP
   G06Q 40/00 20230101ALI20240805BHJP
   G16H 40/00 20180101ALI20240805BHJP
【FI】
G06Q50/10
A01K29/00 Z
G06Q40/00
G16H40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013592
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】514235307
【氏名又は名称】アニコム ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】井家 雄大
(72)【発明者】
【氏名】木村 尚志
(72)【発明者】
【氏名】大石 紘夢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奈津代
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐幸
(72)【発明者】
【氏名】徳永 繁郎
【テーマコード(参考)】
5L040
5L049
5L050
5L055
5L099
【Fターム(参考)】
5L040BB61
5L049CC11
5L050CC11
5L055BB61
5L099AA01
(57)【要約】
【課題】飼い主が、動物病院を選択する際に参考となる情報を提供できるような、動物病院を評価できるシステムや方法を提供する。
【解決手段】所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データと評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較する比較部とを備える、動物病院の評価システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データと評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較する比較部とを備える、
動物病院の評価システム。
【請求項2】
前記モデル保険請求データが、標準的な診療を行った場合の動物病院からの保険請求回数に関するデータである請求項1記載の動物病院の評価システム。
【請求項3】
前記保険請求回数に関するデータが、所定の傷病の治療開始から治療終了までの間の保険請求回数に関するデータである請求項2記載の動物病院の評価システム。
【請求項4】
前記保険請求回数に関するデータが、標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータである請求項2記載の動物病院の評価システム。
【請求項5】
前記複数の動物病院が、所定の傷病について年間でのべ5頭以上の診療実績を有する動物病院である請求項4記載の動物病院の評価システム。
【請求項6】
前記実際の保険請求データと、前記モデル保険請求データとの乖離が大きい場合に、不正な保険請求をしている疑いがある旨のアラートを発するアラート部をさらに備える請求項1~5のいずれか一項記載の動物病院の評価システム。
【請求項7】
コンピュータを用いて、
所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データと、
評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較する工程を備える、
動物病院の評価方法。
【請求項8】
前記モデル保険請求データが、標準的な診療を行った場合の動物病院からの保険請求回数に関するデータである請求項7記載の動物病院の評価方法。
【請求項9】
前記保険請求回数に関するデータが、所定の傷病の治療開始から治療終了までの間の保険請求回数に関するデータである請求項8記載の動物病院の評価方法。
【請求項10】
前記保険請求回数に関するデータが、標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータである請求項8記載の動物病院の評価方法。
【請求項11】
前記複数の動物病院が、所定の傷病について年間でのべ5頭以上の診療実績を有する動物病院である請求項10記載の動物病院の評価方法。
【請求項12】
前記実際の保険請求データと、前記モデル保険請求データとの乖離が大きい場合に、不正な保険請求をしている疑いがある旨のアラートを発する工程をさらに備える請求項7~11のいずれか一項記載の動物病院の評価方法。
【請求項13】
前記モデル保険請求データが、所定の傷病について標準的な診療を行った場合の病院からの保険請求額に関するデータである請求項7記載の動物病院の評価方法。
【請求項14】
前記保険請求額に関するデータが、所定の傷病について治療開始から治療終了までの保険請求額の合計に関するデータである請求項13記載の動物病院の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物病院の評価システム及び動物病院の評価方法に関し、詳しくは、保険請求に関するデータを用いた、動物病院の評価システム及び動物病院の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫、ウサギを始めとする愛玩動物、牛や豚を始めとする家畜は、人間にとってかけがえのない存在である。
【0003】
愛玩動物がケガや病気にかかった場合、動物病院において獣医師の診療を受けることになる。人間については、公的な健康保険制度(医療保険)が確立されており、特に日本では国民健康保険を始めとする皆保険制度が取られていることから、治療費のうち一部は自己負担となるものの、大部分は公的な健康保険から支払われる保険金によって賄われる。また、公的な健康保険の対象となる治療は、治療行為や薬ごとに標準的な料金が定められており、基本的にはどの病院を受診しても治療費が大きく異なることはない。
【0004】
一方、動物については、公的な健康保険制度は確立されていないから、動物病院における診療は自由診療のみであり、動物病院において診療を受けた場合、その費用は原則として全額自己負担となる。そこで、動物病院における診療費用をカバーするペット保険が数社から提供されている。
【0005】
動物病院における診療は、犬、猫、ウサギ、ハムスターなどの哺乳類に加えて、鳥類、爬虫類、両生類など、対象となる動物の種が多岐にわたり、また、全科診療が基本であって動物病院や獣医師が外科、内科、泌尿器科などというように専門化していることは希である。したがって、動物病院における医療は、人の医療と比較すると、診療範囲が広大であり、その全てを高いレベルでカバーすることは一般的に困難である。
【0006】
また、動物病院で採用されている自由診療は、診療の多様性と獣医師の幅広い裁量を産み出し、これまでのどうぶつ医療の発展に多大な貢献をしてきた一方で、この多様性、広い裁量により、各動物病院で診療方法に差が生じたり、インフォームドコンセントが十分になされなかったりする場合が少なからずあった。
【0007】
各動物病院で診療方法に差が生じるということは、治療結果に差が出る可能性があるだけではなく、同じような疾患であってもどの動物病院にかかるかによって飼い主の金銭的負担が大きく異なることにつながる。そして、飼い主の金銭的負担が、動物病院によって大きく異なるということは、飼い主の費用負担について予測可能性が低く、飼い主が治療を躊躇するということにもなりかねない。
【0008】
飼い主は、動物病院を選択するにあたって、近隣の動物病院についての噂や、口コミサイトにおける評価を参考にすることがあるが、いずれも客観性や信頼性という点で問題があると考えられる。
【0009】
特許文献1には、診察待ち時間を含む評価項目によって、評価対象となる複数の動物病院又は獣医師を評価する評価部を備える動物患者用待ち時間提供システムが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されているのは、動物患者用待ち時間提供システムであって、飼い主が知ることができるのは動物病院の待ち時間にすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2022-31407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、飼い主が、動物病院を選択する際に参考となる情報を提供できるような、動物病院を評価できるシステムや方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
動物を対象とする健康保険、いわゆるペット保険を運営する保険会社には、日々、動物病院から、診察内容に応じた保険金の支払請求(本発明において「保険請求」ということがある)が送付されている。本発明の発明者等は、同じような疾患であっても動物病院によって、保険金の支払請求の様相が異なること、及び、動物病院からの保険請求に関するデータによって動物病院を評価し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の[1]~[14]である。
[1]所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データと、評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較する比較部とを備える、動物病院の評価システム。
[2]前記モデル保険請求データが、標準的な診療を行った場合の動物病院からの保険請求回数に関するデータである[1]の動物病院の評価システム。
[3]前記保険請求回数に関するデータが、所定の傷病の治療開始から治療終了までの間の保険請求回数に関するデータである[2]の動物病院の評価システム。
[4]前記保険請求回数に関するデータが、標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータである[2]の動物病院の評価システム。
[5]前記複数の動物病院が、所定の傷病について年間でのべ5頭以上の診療実績を有する動物病院である[4]の動物病院の評価システム。
[6]前記実際の保険請求データと、前記モデル保険請求データとの乖離が大きい場合に、不正な保険請求をしている疑いがある旨のアラートを発するアラート部をさらに備える[1]~[5]のいずれかの動物病院の評価システム。
[7]コンピュータを用いて、所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データと、評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較する工程を備える、動物病院の評価方法。
[8]前記モデル保険請求データが、標準的な診療を行った場合の動物病院からの保険請求回数に関するデータである[7]の動物病院の評価方法。
[9]前記保険請求回数に関するデータが、所定の傷病の治療開始から治療終了までの間の保険請求回数に関するデータである[8]の動物病院の評価方法。
[10]前記保険請求回数に関するデータが、標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータである[8]の動物病院の評価方法。
[11]前記複数の動物病院が、所定の傷病について年間でのべ5頭以上の診療実績を有する動物病院である[10]の動物病院の評価方法。
[12]前記実際の保険請求データと、前記モデル保険請求データとの乖離が大きい場合に、不正な保険請求をしている疑いがある旨のアラートを発する工程をさらに備える[7]~[11]のいずれかの動物病院の評価方法。
[13]前記モデル保険請求データが、所定の傷病について標準的な診療を行った場合の病院からの保険請求額に関するデータである[7]の動物病院の評価方法。
[14]前記保険請求額に関するデータが、所定の傷病について治療開始から治療終了までの保険請求額の合計に関するデータである[13]の動物病院の評価方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、飼い主が、動物病院を選択する際に参考となる情報を提供できるような、動物病院を評価できるシステムや方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の動物病院の評価システムを含むネットワークの構成図である。
図2】本発明の動物病院の評価システムを含むネットワークの構成図である。
図3】本発明の動物病院の評価システムの一実施態様を表す構成概略図である。
図4】本発明の動物病院の評価システムによる動物病院の評価の流れの一例を表すフローチャート図である。
図5】本発明の動物病院の評価システムによる動物病院の評価の流れの一例を表すフローチャート図である。
図6】動物病院からの保険請求の回数の分布の例を示すグラフ図である。
図7】犬の膀胱炎に関する動物病院からの保険請求の回数の分布を示すグラフ図である。
図8】犬の外耳炎に関する動物病院からの保険請求の回数の分布を示すグラフ図である。
図9】犬の外耳炎に関する動物病院からの保険請求の回数の分布を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<動物病院の評価システム>
本発明の動物病院の評価システムは、所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データを記憶する記憶部と、前記モデル保険請求データと評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較する比較部とを備えるものである。当該システムは一つの装置から構成されていてもよく、ネットワーク等で接続された複数の装置から構成されていてもよい。また、本発明の動物病院の評価システムは、他の装置やシステムとインターネットやイントラネットなどのネットワークによって接続されていてもよい。
【0018】
[傷病]
傷病とは、正常な身体機能や形態が内因または外力によって損なわれた状態であり、負傷、病気、疾患、体調不良、状態不良等を指す。本発明の傷病とは、動物病院の診察を受ける動物の傷病をいう。傷病の種類については、獣医師の診断を基準とすることが好ましい。保険金の支払請求は、獣医師が診断した傷病名をもとにしてペット保険会社に請求がなされるからである。傷病としては、慢性疾患が好ましい。慢性疾患は、ある程度長期に渡る治療が必要であり、保険請求も複数回なされ、ある程度高額な請求がなされることから、モデル保険請求データに用いるデータを蓄積しやすいからである。
動物としては、犬、猫、ウサギ、フェレット等の哺乳類、鳥類、爬虫類、愛玩動物が挙げられ、哺乳類が好ましく、犬及び猫がより好ましい。
【0019】
[医療行為]
医療行為とは、獣医師が傷病に対して行う行為又は傷病の予防、検査、診断のために行う行為であり、例えば、手術、検査、注射、予防接種、点滴、診察、問診、相談などが挙げられる。
【0020】
[モデル保険請求データ]
モデル保険請求データとは、傷病又は医療行為の種類ごとに設定される保険請求の標準モデルである。保険請求の態様についてモデルを設定するが、保険請求の態様としてはいずれであってもよく、例えば、1回あたりの保険金の請求額、一つの傷病の治療に関する保険金の請求額の合計額、保険金支払いの請求の回数、請求頻度、一つの傷病の治療に関する保険請求の請求期間などが挙げられる。また、データとしては、数値、分布、分散、偏差、平均値、中央値、最頻値などいずれであってもよい。1回あたりの保険金の請求額について、モデル保険請求データを設定する場合、傷病の種類ごとに設定するよりも、医療行為ごとに設定する方が好ましい。ある傷病を治療するためには、様々な医療行為がなされるからである。
【0021】
モデル保険請求データは、ある傷病に対して標準的な診療を行った場合の動物病院からの保険請求回数に関するデータであることが好ましい。これは、すなわち、ある傷病について標準的な治療を行った場合、治療開始から終了までに何回保険金の支払請求がなされるかに関するデータである。
標準的な診療としては、ある傷病に対して一般的に広く行われている診療のほか、科学的根拠に基づいた観点で現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患畜に行われることが推奨される治療が挙げられる。標準的な診療としては、ヒトでいう「標準治療」に相当するものであってもよい。
標準的な診療は、自らが設定してもよく、標準治療のように既に確立されているものを採用してもよい。自らが設定する場合、例えば、ある傷病に対して動物病院で平均的に行われている治療行為の種類や回数を参考にして設定することができる。
出願人らは、獣医師の知見や文献・論文、および出願人らが保有する膨大な保険請求データを組み合わせて、動物診療の標準化すなわち標準的な診療のメニューの策定を推進している。このように、既に策定されたものを標準的な治療として取り込んでもよい。
【0022】
モデル保険請求データは、所定の傷病の治療開始から治療終了までの間の保険請求回数に関するデータであることがより好ましい。
また、保険請求回数に関するデータは、標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータであることがさらに好ましい。この場合の複数の動物病院とは、所定の傷病について年間でのべ5頭以上の診療実績を有する動物病院であることが好ましい。これにより、外れ値を除外できることが期待できる。更に好ましくは、所定の傷病について年間でのべ10頭以上の診療実績を有する動物病院である。より好ましくは、所定の傷病について年間でのべ20頭以上の診療実績を有する動物病院である。
標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータとは、標準的な診療を行っている動物病院において、ある傷病に関して、保険金の支払請求が何回なされるかの分布に関するデータである。この場合、同じ傷病であっても、個体やケースによって重症度などが異なるから、保険請求回数も自ずと異なる場合があると推測される。そのため、病院ごとに一例だけでなく、その病院の一定期間中、例えば1年間における全ての症例を集計することが好ましい。具体的には、ある病院では、犬の前足の単純骨折の症例が1年間で30例あり、保険請求回数は、3回のケースが5例、4回のケースが8例、5回のケースが12例、6回のケースが4例、7回のケースが1例であったとすると、これらの請求回数の分布をモデル保険請求データの設定に使用することができる。標準的な治療を行っている他の動物病院からも同様のデータを集計することにより、標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータを設定することができる。
なお、どの動物病院が標準的な診療を行っている動物病院であるかは、動物病院やその利用者へのアンケートやペット保険会社にて集約される保険請求やそれに付随するデータなどから判断することができる。
また、治療の開始と終了は、獣医師の診断に基づいて判断してもよいし、一定期間、同一の傷病に関して保険請求がなされていないことに基づいて判断してもよい。具体的には、犬の前足の単純骨折の症例において、最後の保険請求から3ヶ月間請求がなされなかった場合には自動的に治療終了と判定することができる。
【0023】
[記憶部]
本発明のモデル保険請求データは、記憶部に記憶されていてもよい。記憶部は、所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データを記憶するものである。例えば、記憶部は、記憶装置やデータサーバから構成される。記憶部と比較部が同一の装置内に備えられていてもよいし、別の装置やサーバに振り分けられ、ネットワークなどで接続される構成であってもよい。記憶部は、データベースであってもよい。データベースは、データベースサーバの形で管理してもよく、クラウドサーバ上で管理してもよく、分散データベースとしてもよい。
【0024】
[評価対象の動物病院]
評価対象の動物病院としては、動物を診療の対象としている動物病院であれば特に限定されず、総合病院、単科病院、大学の付属病院、診療所などいずれの形態であってもよい。
【0025】
[実際の保険請求データ]
実際の保険請求データとは、評価対象の動物病院から、例えばペット保険会社に対して請求された保険金支払に関するデータである。実際の保険請求データは、モデル保険請求データと同じ種類又は対応するデータであることが好ましい。例えば、モデル保険請求データが、保険請求の回数に関するデータであれば、実際の保険請求データも、保険請求の回数に関するデータであることが好ましい。
実際の保険請求データは、1回のみの請求ではなく、所定期間、例えば1年間における評価対象の動物病院からなされた全ての保険請求に関するデータであることが好ましい。
【0026】
[比較部]
本発明の比較部は、モデル保険請求データと評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較するものである。比較部は、例えば、演算装置から構成され、ソフトウェア、アプリケーション、数値モデル、アルゴリズム等を呼び出して比較を行う。
比較の方法は特に限定されない。例えば、モデル保険請求データと実際の保険請求データがともに数値であった場合、数値同士を比較する。また、モデル保険請求データが、標準的な診療を行っている複数の動物病院の保険請求回数を集計して得られた保険請求回数の分布に関するデータである場合、当該分布に関するデータの分布曲線やヒストグラムを作成し、当該分布曲線やヒストグラムと、実際の保険請求データに関する分布曲線やヒストグラムを比較するという構成であってもよい。分布曲線やヒストグラムによって比較をする場合、分布曲線やヒストグラムの重なり具合(面積)などを用いて比較を行うこともできる。重なりが大きいほど、モデル保険請求データとの乖離が小さいということができる。
【0027】
比較部は、モデル保険請求データと評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとの比較のみならず、比較に基づく評価をするという構成であってもよい。評価については、モデル保険請求データとの乖離が小さいほど評価が高いとすることが好ましい。モデル保険請求データとの乖離が大きいと、評価対象の病院において、設定された標準から外れた異常な保険請求がなされていることが推測されるからである。
また、評価にあたっては、データの重み付けを行ってもよい。例えば、モデル保険請求データと実際の保険請求データが、ともに、保険請求の回数に関するデータである場合、請求回数が低頻度である場合の乖離よりも、高頻度である場合の乖離の方が重み付けを重くすることが挙げられる。保険請求の回数が、標準よりも、高頻度である場合、本来必要のない請求がなされていることや、不正な請求がなされていることが推測されるからである。逆に、標準よりも低頻度側で乖離する場合は、早く治療が終了するか、飼い主側が通院を止めるなど、評価対象の病院側には問題がないことが多い。
【0028】
比較部による比較結果や評価結果の出力方法や出力の形式は特に限定されない。例えば、評価対象の動物病院について、「通常」、「標準に準拠している」、「標準とのズレがあるが許容範囲」、「要注意」、「不正請求の疑いあり」といったキーワードや文章によって結果を表示することや、モデル保険請求データとの乖離度合いを数値や○×△といったもので表すことでもよい。
本発明の動物病院の評価システムは、比較部から比較結果や評価結果を受信し、当該比較結果や評価結果を出力する出力手段を別途有していてもよい。
【0029】
また、本発明の動物病院の評価システムは、評価結果を点数化することなどによって、当該点数に基づく動物病院のランキングを作成するランキング機能や、点数の高い動物病院を利用者にレコメンドするレコメンド機能を有していてもよい。
【0030】
[アラート部]
本発明の動物病院の評価システムは、実際の保険請求データと、モデル保険請求データとの乖離が大きい場合に、不正な保険請求をしている疑いがある旨のアラートを発するアラート部を備えることが好ましい。アラート部は、当該乖離が、予め設定されている閾値を超えた場合にアラートを発する構成であることがより好ましい。例えば、保険請求の回数を例にとると、実際の保険請求データが、モデル保険請求データよりも、回数にして1.5倍を超えた請求回数である場合、アラートを発するという構成が挙げられる。また、分布曲線やヒストグラムの重なり具合(面積など)によって比較をする場合、モデル保険請求データと、実際の保険請求データの重なっている部分の面積が所定値以下となった場合、アラートを発するという構成が挙げられる。
アラート部を備えることにより、動物病院の利用を検討している飼い主や、ペット保険会社に適時に警告を発することが可能となる。
【0031】
[受付手段]
本発明の動物病院の評価システムは、受付手段を備えていてもよい。本発明の受付手段は、例えば、ペット保険会社から、評価対象の動物病院から受けた保険請求のデータを受け取る。受付手段は、動物病院から送信されたレセプトから、保険請求データを抽出するという機能を有していてもよい。
【0032】
<動物病院の評価方法>
本発明の動物病院の評価方法は、コンピュータを用いて、所定の傷病に関して、傷病又は医療行為ごとに設定されたモデル保険請求データと、評価対象の動物病院からの実際の保険請求データとを比較する工程を備えるものである。
傷病、モデル保険請求データ、評価対象の動物病院、実際の保険請求データなどは、上記の動物病院の評価システムと同様である。
【0033】
(実施形態1)
図1は、本発明の動物病院の評価システムの実施形態の1例を示す図である。図1で示される実施形態では、本発明の動物病院の評価システム10は、一つの装置ないしサーバにおいて構成され、ネットワークを介して、動物病院端末2、ユーザー端末3、保険会社端末4と接続されている。ネットワークは、例えば、公衆電話回線網、携帯電話回線網、無線通信網、イーサネット(登録商標)などにより構築される。本構成は一例であり、ある構成が他の構成を兼ね備えていたり、他の構成が含まれていたりしてもよい。サーバは、例えば、ワークステーションまたはパーソナルコンピュータのような汎用コンピュータとしてもよく、クラウドコンピューティングによって構成されていてもよい。
また、サーバ、動物病院端末2、ユーザー端末3、保険会社端末4を含むネットワークシステム全体で、動物病院の評価システム1と称してもよい。
【0034】
動物病院端末2は、各動物病院に設置されているコンピュータ端末である。好ましくは、ペット保険を提供している保険会社が提供する保険請求ネットワークやレセプト送信システムに接続された端末である。
【0035】
ユーザー端末3は、動物の飼い主が利用する端末である。動物の飼い主としては、例えば、近隣の動物病院の評価を知りたい飼い主である。評価システム10をユーザー端末3と接続することで、ユーザーが、動物病院の評価システム10が出力した比較結果や評価結果などの情報を入手することができる。ユーザー端末3に接続せずに、保険会社内部で、動物病院の評価をするためのシステムとして構成してもよい。ユーザー端末3は、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットコンピュータまたはパーソナルコンピュータ等であり得る。ユーザー端末3は、動物病院端末2や保険会社端末4とネットワークで接続されているとしても、保険請求ネットワークやレセプト送信システムにはアクセスできない構成とすることが好ましい。
【0036】
保険会社端末4は、ペット保険を提供する保険会社に設置される端末又はサーバである。好ましくは、ペット保険を提供している保険会社が提供する保険請求ネットワークやレセプト送信システムに接続された端末又はサーバである。
【0037】
サーバは、コンピュータ等により実現され、ハードウェア構成例としては、一般的なものでよく、例えば、制御部(演算装置)、メモリ、ストレージ、通信部、入出力部を備え、これらは、バスを通じて相互に接続される。
【0038】
図1では、本発明の動物病院の評価システムが、独立したサーバとして、ネットワークに接続される実施態様を示すが、図2のように、本発明の動物病院の評価システムが、保険会社内に設置され、保険会社端末4とイントラネット等によって接続される構成や、保険会社端末と一体として構成されていてもよい。動物病院の評価や、不正な請求をしている動物病院のアラートについて、ユーザーに示さずに、ペット保険会社向けにそのような情報を提供する場合もある。
【0039】
図3は、本発明の動物病院の評価システムが、一つの装置ないしサーバにおいて構成される実施態様の一例の構成図であり、図1又は図2の評価システム10の機能ブロック構成図である。この例に係る評価システム10は、記憶部110と比較部116、インターフェース部113を備える。
【0040】
記憶部110は、比較部の機能を実行するための比較用プログラム、モデル保険請求データ等を記憶するものである。記憶部110は、例えば、RAM、ROM等から構成される。モデル保険請求データを格納したデータベースを、外部サーバなどの形態により評価システム10外に設置してもよい。また、記憶部110は、各動物病院の過去数年分の実際の保険請求データをデータベースとして記憶していてもよい。
【0041】
インターフェース部113は、ネットワークを介して、ユーザー端末3や保険会社端末4などとの間で通信を行うための通信インタフェースであり、例えばTCP/IP等の通信規約により通信が行われる。受付手段114は、実際の保険請求データなどを受け付ける手段であり、出力手段115は、比較部による比較結果や評価結果を出力する手段である。
【0042】
比較部116は、制御部(演算装置)であり、記憶部110に記憶されている比較用プログラムを実行することにより、モデル保険請求データと実際の保険請求データとの比較を行うものであり、CPU又はGPU等から構成される。
【0043】
本発明の動物病院の評価システムの一実施態様に基づく動物病院の評価のフローチャートを図4に示す。動物病院の評価システムが、例えば、保険会社端末から、評価対象の動物病院の実際の保険請求データを取得する(ステップS1)。比較部は、比較用プログラムを実行し、実際の保険請求データと、モデル保険請求データとを比較する(ステップS2)。評価システムは、導き出された比較結果を出力、送信し、利用者に提示する(ステップS3)。
【0044】
本発明の動物病院の評価システムの別の一実施態様に基づく動物病院の評価のフローチャートを図5に示す。動物病院の評価システムが、ネットワークで接続されたユーザー端末から、評価してほしい動物病院のリクエストを取得する(ステップS1)。動物病院の評価システムは、システム内又は外部サーバに予め記憶されている当該動物病院の過去数年間分の実際の保険請求データを取得する(ステップS2)。比較部は、比較用プログラムを実行し、実際の保険請求データと、モデル保険請求データとを比較する(ステップS3)。比較部の比較結果に基づき、モデル保険請求データとの乖離が大きい場合は、動物病院を低く評価し、乖離が小さい場合は、動物病院を高く評価する(ステップS4)。導き出された評価結果を出力、送信し、ユーザーに提示する(ステップS5)。
【0045】
(実施形態2)
本発明の動物病院の評価システムの実施形態の1例として、モデル保険請求データ及び実際の保険請求データが、保険請求回数の分布である場合を、膿皮症の例(図6)を用いて説明する。なお、図6乃至9において、診療回数と、保険請求回数は同義である。
図6中、「保険請求回数の多い病院」の部分は、治療終了までに要する保険請求回数が多い39病院の保険請求回数を集計して作成されたグラフである。
一方、図6中、「一般的な病院」の部分は、モデル保険請求データに該当し、前記39病院以外の5537病院の1年間の保険請求回数を集計して作成されたグラフである。なお、5576病院(一般的な病院と保険請求回数の多い病院の合計)の1年間の保険請求回数を集計して作成されたグラフを、モデル保険請求データに用いることもできる。
また、本実施形態においては、膿皮症についての保険請求が延べ25回に満たなかった病院については集計の対象にはしていない。保険請求が延べ25回に満たない病院には、新設された病院が含まれていることがあり、そのような病院を除いた方が適切に評価できると考えられるためである。
この実施形態では、比較部が、記憶部に記憶されているモデル保険請求データを呼び出し、また、外部サーバや本発明の評価システム内に記憶されているか、或いは、保険会社端末からネットワーク等を通じて受領した評価対象の動物病院の実際の保険請求データ「保険請求回数の多い病院」を呼び出し、両者を比較する。この例では、両者のグラフを比較し、両者のグラフが重なっている部分の比率(%)を計算することで両者の重なり具合を評価する。重なっている部分の比率が高い場合、評価対象の動物病院の評価は高くなる。一方、重なっている部分の比率が低い場合、評価対象の動物病院の評価は低くなる。
また、この例では、保険請求回数の多い部分(例えば、8回以上)の重み付けを重くし、保険請求回数の少ない部分(例えば、3回以下)の重み付けを小さくすることで、より精緻な比較をすることもできる。
この例では、保険請求回数の多い部分での重なりが小さいことから、評価対象の動物病院の評価は低くなる。
【0046】
(実施形態3)
膀胱炎の事例を、図7を使って説明する。
図7中、「保険請求回数の多い病院」の部分は、治療終了までに要する保険請求回数が多い28病院の保険請求回数を集計して作成されたグラフである。
一方、図7中、「一般的な病院」の部分は、モデル保険請求データに該当し、前記28病院以外の577病院の1年間の保険請求回数を集計して作成されたグラフである。なお、膀胱炎についての保険請求が延べ5回に満たなかった病院については集計の対象にはしていない。
図7によれば、保険請求回数の多い部分(例えば4回以上)での重なりが小さいことから、膀胱炎についても動物病院を評価することができることがわかる。
【0047】
(実施形態4)
外耳炎の事例を、図8を使って説明する。
図8中、「保険請求回数の多い病院」の部分は、治療終了までに要する保険請求回数が多い32病院の保険請求回数を集計して作成されたグラフである。
一方、図8中、「一般的な病院」の部分は、モデル保険請求データに該当し、前記32病院以外の1719病院の1年間の保険請求回数を集計して作成されたグラフである。なお、膀胱炎についての保険請求が延べ15回に満たなかった病院については集計の対象にはしていない。
図8によれば、保険請求回数の多い部分(例えば6回以上)での重なりが小さいことから、外耳炎についても動物病院を評価できることがわかる。
【0048】
(実施形態5)
病院を個別に評価する事例を、図9を使って説明する。
図9中、「病院A」の部分は、外耳炎の保険請求回数が多い病院Aの保険請求回数を集計して作成されたグラフであり、実際の保険請求データに相当する。
一方、図9中、「一般的な病院」の部分は、モデル保険請求データに該当し、図8と同様に1719病院の1年間の保険請求回数を集計して作成されたグラフである。
図9によれば、保険請求回数の多い部分(例えば6回以上)での重なりが小さいことから、この病院Aの評価は低いものとなる。このように、本件発明のシステムは、個々の動物病院ごとに評価が可能である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9