(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108943
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】画像形成用前処理液およびインクセット、並びに画像形成方法
(51)【国際特許分類】
D06P 5/00 20060101AFI20240805BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240805BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240805BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240805BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240805BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20240805BHJP
D06P 5/30 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
D06P5/00 102
C09D11/322
C09D11/54
D06P5/00 104
D06P5/00 103
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41J2/01 123
B41J2/21
B41J2/01 501
D06P5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013615
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池戸 花
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EE18
2C056FA10
2C056FB03
2C056FC01
2C056HA42
2H186AB02
2H186AB12
2H186AB35
2H186AB41
2H186AB55
2H186AB60
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB56
4H157AA02
4H157BA15
4H157BA27
4H157CA12
4H157CA15
4H157CA29
4H157CB08
4H157CB13
4H157CB14
4H157CB16
4H157CB18
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA17
4H157DA34
4H157GA04
4H157GA06
4J039BA35
4J039BE01
4J039EA16
4J039EA18
4J039EA48
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 インクジェット方式により吸収性基材である布材に対して、白色顔料を用いた白インクにより画像を形成する際に、より粒径の小さい白色顔料を用いても、画像の白色度の低下および画像の割れを有効に回避または抑制可能とする前処理液およびこれを含むインクセット、並びに画像形成方法を提供する。
【解決手段】 画像形成用前処理液は、吸収性基材である布材にインクにより画像を形成する前に、当該布材に塗布される。インクとして、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクが少なくとも用いられる。画像形成用前処理液は、カチオン性ポリマー、または、0.5質量%以上8質量%以下の有機酸を含有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収性基材である布材にインクにより画像を形成する前に、前記布材に塗布される前処理液であって、
前記インクとして、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクが少なくとも用いられ、
前記前処理液は、カチオン性ポリマー、または、0.5質量%以上8質量%以下の有機酸を含有することを特徴とする、
画像形成用前処理液。
【請求項2】
前記前処理液における前記有機酸の含有量の下限は、0.7質量%以上であり、
前記前処理液における前記カチオン性ポリマーの含有量は、不揮発分換算で2質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載の画像形成用前処理液。
【請求項3】
前記前処理液は、前記カチオン性ポリマーとともに第四級アンモニウム塩を含有する、
請求項1または2に記載の画像形成用前処理液。
【請求項4】
前記第四級アンモニウム塩の含有量は、0.5質量%超5質量%以下である、
請求項3に記載の画像形成用前処理液。
【請求項5】
前記カチオン性ポリマーは、窒素原子にアリル基(IUPAC名:2-プロペニル基)が結合した含窒素構造がモノマー単位に含まれる、
請求項1に記載の画像形成用前処理液。
【請求項6】
前記含窒素構造は、第一級アンモニウム塩、第二級アンモニウム塩、第三級アンモニウム塩、または第四級アンモニウム塩であり、かつ、窒素原子に結合するアルキル基の少なくとも1つが前記アリル基である構造である、
請求項5に記載の画像形成用前処理液。
【請求項7】
前記含窒素構造は、前記窒素原子に2つの前記アリル基が結合した構造である、
請求項6に記載の画像形成用前処理液。
【請求項8】
前記有機酸は、ギ酸、飽和脂肪酸、ヒドロキシ酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸の少なくともいずれかである、
請求項1に記載の画像形成用前処理液。
【請求項9】
前記有機酸は、分子中の炭素数が1~8の範囲内である、
請求項1または8に記載の画像形成用前処理液。
【請求項10】
前記有機酸は、分子中の炭素数が1~3の範囲内である、
請求項9に記載の画像形成用前処理液。
【請求項11】
請求項1または2に記載の画像形成用前処理液と、
平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクと、
を含むことを特徴とする、
インクセット。
【請求項12】
前記酸化チタン粒子の平均粒子径が50nm以上である、
請求項11に記載のインクセット。
【請求項13】
吸収性基材である布材にインクにより画像を形成する画像形成工程と、
前記画像形成工程の前に、前記布材に前処理液を塗布する前処理液塗布工程と、を含み、
前記前処理液として、カチオン性ポリマー、または、0.5質量%以上8質量%以下の有機酸を含有するものが用いられること特徴とする、
画像形成方法。
【請求項14】
前記画像形成工程には、インクとして、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクを用いた画像形成が含まれる、
請求項13に記載の画像形成方法。
【請求項15】
前記前処理液塗布工程では、前記布材に対して30mg/cm2 以上の量で前記前処理液が塗布されるものである、
請求項13または14に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式により吸収性基材に画像を形成する際に用いられる前処理液と、当該前処理液を含むインクセットと、これらを用いた画像形成方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、布材等の吸収性基材に対してインクジェット方式により画像を形成する方法が検討されている。代表的には、例えば、衣類(garment)に対してインクジェット方式により直接画像を形成する画像形成装置であるガーメントプリンタ、あるいは、DTG(Direct To Garment)等と呼ばれる画像形成方法が知られている。
【0003】
インクジェット方式による多くの画像形成方法は、基材として紙を想定しているが、基材が布材であっても、画像形成原理そのものには大きな違いは見られない。ただし、基材が布材あるいは紙であっても吸収性の高いもの(吸収性基材)であれば、画像形成時にインクジェット方式により吐出されたインクは、通常、吸収性基材の厚み方向に浸透する。そのため、当該吸収性基材に画像形成する前に、前処理液を吸収性基材に塗布すること、すなわち前処理工程を実施することが行われている。
【0004】
ところで、前記画像形成方法の中には、白色顔料インクを用いる画像形成方法も知られている。例えば、特許文献1では、顔料、定着用樹脂、および水を含有し、定着用樹脂として所定温度での弾性率が異なる2種類の樹脂を用いる、インクジェット捺染用白インク組成物が開示されている。
【0005】
特許文献1では、前処理液として、多価金属塩を含有する前処理液を用いている。この前処理液は、白色顔料および2種類の定着用樹脂を凝集させる。
【0006】
特許文献1では、白インクの顔料(白色顔料)として、金属酸化物、金属硫酸塩、金属炭酸塩が例示されており、中でも特に好ましい白色顔料として二酸化チタン(酸化チタン)の粒子が挙げられている。また、白色顔料の粒径としては、平均一次粒径として、100nm以上500nm以下の範囲が挙げられており、特に好ましい範囲として、200nm以上300nm以下が挙げられている。ただし、実施例で例示される白色顔料は、平均一次粒子径が250nmの市販の酸化チタンのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
白色顔料はその素材の屈折率が大きいほど散乱強度が大きく、印刷物に優れた白色度を与えることが知られている。酸化チタンは数ある白色顔料の中でも非常に屈折率が大きく、さらに安全性も高いため、さまざまな分野で白色顔料として採用されている。しかしながら、酸化チタンには比重が大きく沈降しやすいという課題がある。そこで、沈降を抑制するために、粒径の小さい酸化チタンを白インクとして用いることが検討されている。
【0009】
ここで、白色顔料である酸化チタン粒子の粒径をより小さくすると、形成される白色画像の品質が低下する傾向にあることが分かった。具体的には、後述するように、平均粒子径が200nm以下の白色顔料を用いた白インクで画像を形成すると、白色画像が薄く青味を帯びて視認されるとともに、白色画像に割れが生じやすくなる傾向にある。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、吸収性基材である布材に対して、白色顔料を用いた白インクにより画像を形成する際に、より粒径の小さい白色顔料を用いても、画像の白色度の低下および画像の割れを有効に回避または抑制可能とする前処理液およびこれを含むインクセット、並びに画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る画像形成用前処理液は、前記の課題を解決するために、吸収性基材である布材にインクにより画像を形成する前に、前記布材に塗布される前処理液であって、前記インクとして、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクが少なくとも用いられ、前記前処理液は、カチオン性ポリマー、または、0.5質量%以上8質量%以下の有機酸を含有する構成である。
【0012】
前記構成によれば、白インクの白色顔料として、従来よりも粒径が相対的に小さい酸化チタン粒子を用いて、当該白インクにより画像形成する前に、前記吸収性基材に塗布される前処理液が、カチオン性ポリマー、または、所定範囲の濃度の有機酸を含有している。これにより、前処理液が塗布された後に形成される白色画像において、割れの発生を有効に抑制または回避することができる。その結果、吸収性基材である布材上に形成された白色画像において良好な白色度を実現することができる。
【0013】
前記構成の画像形成用前処理液においては、前記前処理液における前記有機酸の含有量の下限は、0.7質量%以上であり、前記前処理液における前記カチオン性ポリマーの含有量は、不揮発分換算で2質量%以上10質量%以下である構成であってもよい。
【0014】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記前処理液は、前記カチオン性ポリマーとともに第四級アンモニウム塩を含有する構成であってもよい。
【0015】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記第四級アンモニウム塩の含有量は、0.5質量%超5質量%以下である構成であってもよい。
【0016】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記カチオン性ポリマーは、窒素原子にアリル基(IUPAC名:2-プロペニル基)が結合した含窒素構造がモノマー単位に含まれる構成であってもよい。
【0017】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記含窒素構造は、第一級アンモニウム塩、第二級アンモニウム塩、第三級アンモニウム塩、または第四級アンモニウム塩であり、かつ、窒素原子に結合するアルキル基の少なくとも1つが前記アリル基である構造である構成であってもよい。
【0018】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記含窒素構造は、前記窒素原子に2つの前記アリル基が結合した構造である構成であってもよい。
【0019】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記有機酸は、ギ酸、飽和脂肪酸、ヒドロキシ酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸の少なくともいずれかである構成であってもよい。
【0020】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記有機酸は、分子中の炭素数が1~8の範囲内である構成であってもよい。
【0021】
また、前記構成の画像形成用前処理液においては、前記有機酸は、分子中の炭素数が1~3の範囲内である構成であってもよい。
【0022】
本開示に係るインクセットは、前記構成の画像形成用前処理液と、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクと、を含む構成である。
【0023】
前記構成のインクセットにおいては、前記酸化チタン粒子の平均粒子径が50nm以上である構成であってもよい。
【0024】
本開示に係る画像形成方法は、吸収性基材である布材にインクにより画像を形成する画像形成工程と、前記画像形成工程の前に、前記布材に前処理液を塗布する前処理液塗布工程と、を含み、前記前処理液として、カチオン性ポリマー、または、0.5質量%以上8質量%以下の有機酸を含有するものが用いられる構成である。
【0025】
前記構成の画像形成方法においては、前記画像形成工程には、インクとして、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクを用いた画像形成が含まれる構成であってもよい。
【0026】
また、前記構成の画像形成方法においては、前記前処理液塗布工程では、前記布材に対して30mg/cm2 以上の量で前記前処理液が塗布されるものである構成であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、以上の構成により、インクジェット方式により吸収性基材である布材に対して、白色顔料を用いた白インクにより画像を形成する際に、粒径の小さな白色顔料を用いることで当該白色顔料の沈降を抑制することが可能となる。さらに、粒径の小さな白色顔料を使用した際に発生しやすい画像の白色度の低下および画像の割れを有効に回避または抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本開示の代表的な実施の形態に係るインクセットが用いられる、インクジェット方式の画像形成装置の概略構成を示す模式的平面図である。
【
図2】
図1に示す画像形成装置のキャリッジに搭載された吐出ヘッドの概略構成を示す模式的平面図である。
【
図3】(A)~(C)は、
図1に示す画像形成装置による画像形成前に、前処理液を塗布する構成例を示す模式的平面図である。
【
図4】本開示において白インクにより形成された白色画像に生じ得る割れの有無とその評価例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0030】
[インクジェット方式による画像形成例]
本開示に係る画像形成用前処理液およびインクセットが用いられるインクジェット方式の画像形成装置の具体的な構成は特に限定されない。代表的な画像形成装置の一例として、
図1に示すインクジェット方式のガーメントプリンタを挙げて、インクジェット方式による画像形成について説明する。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態に係るインクジェット方式のガーメントプリンタ10は、少なくともインクを基材である布材に対して吐出するものであって、貯留タンク11、キャリッジ12、吐出ヘッド13、一対の搬送ローラ14、一対のガイドレール15、およびサブタンク16を備えている。なお、ガーメントプリンタ10におけるプラテン(図略)上に画像形成(印刷)の対象である基材(被印刷媒体)として布材30が配置される。
【0032】
キャリッジ12には
図1では破線で示す吐出ヘッド13が搭載されている。キャリッジ12は、布材30の搬送方向Dfに直交する移動方向Dsに延在する一対のガイドレール15に支持され、当該ガイドレール15に沿って移動方向Dsに往復動する。これにより、吐出ヘッド13は移動方向Dsに往復動する。
【0033】
ガーメントプリンタ10が備える制御装置は、吐出ヘッド13にインク滴を吐出させながらキャリッジ12を所定速度により移動させる。また、キャリッジ12には、複数のサブタンク16が搭載されている。各サブタンク16はチューブ(インク流路)を介して対応する貯留タンク11にそれぞれ接続されている。なお、
図1では図示の便宜上、サブタンク16は模式的に単一構造体として図示している。
【0034】
一対の搬送ローラ14は移動方向Dsに沿って互いに平行に配置されている。搬送ローラ14は搬送モータの駆動により回転し、これによりプラテン上の布材30が搬送方向Dfに搬送される。
【0035】
貯留タンク11にはインクが貯留されている。貯留タンク11は、サブタンク16およびチューブを介して吐出ヘッド13に接続されている。また、貯留タンク11は、インクの種類ごとに設けられている。
図1では図示の便宜上、サブタンク16と同様に、貯留タンク11は模式的に単一構造体として図示しているが、本実施の形態では、貯留タンク11は、例えば5つ存在する。具体的には、白インク、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの各色のインクをそれぞれ貯留する5つのタンクが存在している。
【0036】
本実施の形態では、例えば
図2に示すように、キャリッジ12には2つの吐出ヘッド13A,13Bが搭載されている。吐出ヘッド13Aおよび吐出ヘッド13Bは搬送方向Dfに沿って並んでいる。吐出ヘッド13Bは吐出ヘッド13Aの例えば前方に配置されている。画像形成処理における1走査目にはキャリッジ12は移動方向Dsの右方(または移動方向Dsの他方向Ds2)に移動する。
【0037】
これにより、画像形成処理時において吐出ヘッド13A,13Bは右方に移動する。この場合、吐出ヘッド13は移動方向Dsの右方に移動しつつ布材30にインク滴を吐出する。画像形成処理においては、布材30を搬送方向Dfに搬送する動作と、これに伴って吐出ヘッドを移動させつつインク滴を吐出させる動作とが、交互に繰り返される。
【0038】
吐出ヘッド13Aは、白インク(W)のインク滴を吐出する。吐出ヘッド13Aには、白インクのインク滴を吐出するノズル列NLが搬送方向Dfに沿って形成されている。また、
図2に示す例では、吐出ヘッド13Aには、白インクのインク滴を吐出する4列のノズル列NLが、移動方向Dsに一定間隔で形成されている。なお、白インクのインク滴を吐出するノズル列NLは特に限定されず、例えば2列であってもよいし1列であってもよい。
【0039】
一方、吐出ヘッド13Bは、カラーインクと総称されることがあるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびブラック(K)の各色のインク滴を吐出する。吐出ヘッド13Bには、これら各インク滴を吐出するノズル列NLが搬送方向Dfに沿って形成されている。各ノズル列NLは移動方向Dsに一定間隔でそれぞれ形成されている。
【0040】
図2に示す例では、吐出ヘッド13Bにおける各ノズル列NLの移動方向Dsにおける配置順序は、移動方向Dsの他方向Ds2に向けてイエローのインク滴を吐出するノズル列NL、マゼンタのインク滴を吐出するノズル列NL、シアンのインク滴を吐出するノズル列NL、およびブラックのインク滴を吐出するノズル列NLであるが、これに限定されない。
【0041】
本実施の形態では、これら5色のインク滴が布材30に吐出されることで当該布材30にカラー画像が印刷される。特に本開示では、布材30に対してカラー画像を印刷する際には、当該布材30の色や布材30の材質への影響を低減するために、下地インクとして白インク滴が先に吐出され、白色画像が先に形成される。カラーインクのインク滴は、布材30上に形成された白色画像上に吐出される。
【0042】
本開示では、画像形成に際して、後述するように、基材である布材30に対して白色画像を形成する前に、本開示に係る画像形成用前処理液(以下、単に「前処理液」と略す。)を塗布する。布材30の画像形成面(印刷面)に前処理液を塗布することにより、布材30に白インクまたはカラーインクが滲みこんだり、布材30の目地等にこれらインクが入り込んだりする等の現象を防止、回避または抑制して、布材30に良好な画像を形成することができる。
【0043】
本実施の形態では、布材30に前処理液を塗布する具体的な構成は特に限定されない。例えば、
図3(A)に示すように、ガーメントプリンタ10Aおよび前処理液塗布装置20からなる構成を挙げることができる。
【0044】
ガーメントプリンタ10Aは、
図1に例示するガーメントプリンタ10と同様の構成を有し、
図3(A)では、模式的に、キャリッジ12、吐出ヘッド13、およびガイドレール15のみを図示する。また、
図3(A)では、布材30の搬送方向Dfを黒ブロック矢印で示す。ガーメントプリンタ10Aから見て、搬送方向Dfの上流に、当該ガーメントプリンタ10Aとは独立した構成として、前処理液塗布装置20が位置する。
【0045】
図3(A)では、布材30を破線で図示しており、布材30は搬送方向Dfに沿って先に前処理液塗布装置20に搬送され、当該布材30の画像形成面に前処理液が塗布される。その後、布材30はさらに搬送方向Dfに沿って搬送されて、ガーメントプリンタ10Aに搬送され、前処理液が塗布された画像形成面上にさらに白インクが塗布されて白色画像が形成され、さらにその後、カラーインクが塗布されることにより所望の画像が布材30上に形成される。
【0046】
なお、
図3(A)は飽くまでも模式図である。前記の例では、前処理液塗布装置20とガーメントプリンタ10Aとは、同一の搬送経路上に位置し、布材30に対して前処理液の塗布と白インク等の塗布とが連続的に行われるが、本開示はこれに限定されない。例えば、前処理液塗布装置20とガーメントプリンタ10Aがそれぞれ独立した液体塗布装置として存在してもよい。例えば、前処理液塗布装置20による前処理液の塗布工程と、ガーメントプリンタ10Aによる白インクの塗布工程とは、前記の通り搬送経路を共通化して連続している構成であってもよいし、互いに独立した工程として実施されてもよい。
【0047】
前処理液塗布装置20の具体的な構成も特に限定されず、公知の塗布方法を好適に用いることができる。具体的な塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、浸漬加工法(布材30を前処理液に浸漬した後にマングルロールで絞る方法)等を挙げることができる。前処理液の塗布工程と白インクまたはカラーインクの塗布工程とを連続的に実施する観点では、インクジェット法を採用することもできる。
【0048】
また、前処理液塗布装置20による前処理液の塗布は、布材30の画像形成面全体に行われてもよい。あるいは、形成画像の大きさまたは形状、布材30の形状または種類等の諸条件によっては、布材30において画像を形成する領域(カラーインクが塗布される領域)のみに前処理液を塗布してもよい。前者の場合には、スプレーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、浸漬加工法等を好適に採用することができる。後者の場合には、インクジェット法を好適に採用することができる。
【0049】
図3(A)に示す構成例では、ガーメントプリンタ10Aと前処理液塗布装置20とがそれぞれ独立した構成となっているが、本開示はこれに限定されず、これらが一体化された構成であってもよい。
【0050】
例えば、
図3(B)に示すように、ガーメントプリンタ10Bは、
図1に示すガーメントプリンタ10(あるいは
図3(A)に示すガーメントプリンタ10A)と同様に、インクジェット方式の画像形成部(貯留タンク11、キャリッジ12、吐出ヘッド13、ガイドレール15等)を備えているが、さらに前処理液塗布部17を備えている。
【0051】
前処理液塗布部17は、キャリッジ12、吐出ヘッド13およびガイドレール15等(画像形成部)から見て、布材30(図中破線)の搬送方向Df(図中黒ブロック矢印)の上流に位置しており、ガーメントプリンタ10Bの筐体内に収容されている。したがって、ガーメントプリンタ10Bでは、インクジェット方式の画像形成部(インク塗布工程)と前処理液塗布部17(前処理液塗布工程)とが一体化されている。
【0052】
前処理液塗布部17の具体的な構成は特に限定されず、前述した前処理液塗布装置20と同様に、スプレーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、浸漬加工法等の公知の塗布方法を実施できる構成であればよい。例えば、前処理液塗布装置20がインクジェット方式であれば、搬送方向Dfの上流に前処理液を塗布するためのインクジェット方式の前処理液塗布部17が位置し、搬送方向Dfの下流に、白インクおよびカラーインクを塗布するためのインクジェット方式の画像形成部が位置することになる。
【0053】
前処理液塗布工程がインクジェット法により行われるのであれば、
図3(C)に示すように、ガーメントプリンタ10Cは、キャリッジ12に、インク塗布用の吐出ヘッド13と、前処理液塗布用の吐出ヘッド18とを備える構成であってもよい。この場合、インク用の貯留タンク11、サブタンク16、これらをつなぐチューブ等に加えて、前処理液用の貯留タンク11、サブタンク16、チューブ等を備えていればよい。あるいは、例えば、吐出ヘッド18がない場合、
図2に示す吐出ヘッド13Aが有する複数の白インク用のノズル列NLの一部を前処理液吐出用のノズル列NLに置き換えてもよい。
【0054】
本開示では、画像形成に際して、後述するように、前処理液が塗布された部分を含む布材を圧縮しながら加熱する(ヒートプレスする)ことにより、布材30の画像形成面に前処理液を定着してもよい(前処理液定着処理)。そのため、
図3(A)に示す前処理液塗布装置20、
図3(B)に示す前処理液塗布部17またはガーメントプリンタ10B、もしくは、
図3(C)に示すガーメントプリンタ10Cは、いずれも布材30に対して前処理液定着処理を行う構成(定着処理部)を備えてもよい。あるいは、前処理液定着処理を行う圧縮加熱装置を別途用いてもよい。
【0055】
なお、画像形成に際して、前処理液が塗布された部分を含む布材をヒートプレスする場合には、例えば次のような利点がある。まず、布材30をプレスすることで、当該布材30の繊維間の空隙がつぶされて浸透しにくくなる。これにより、前処理液または白インクを、媒体である布材30上(画像形成面)に残存しやすくできる。
【0056】
また、布材30をプレスすることで、画像の割れやすさに影響する凹凸を低減することができる。なお、この凹凸は布材のシワまたは毛羽立ちによって発生する。布材30上の凹凸のうち、特に凸部にインクが塗布されると、重力によりインクが当該凸部に表面に沿って凹部に向かって「落下」していく可能性がある。これにより、凸部では凹部に比べてインクの濃度が小さくなる。そのため、布材30に凹凸が多ければ、インクの濃度にムラが生じる。さらに、布材30に塗布されたインクは、インク膜を形成するが、このインク膜を加熱すると収縮が生じる。ここで、インクの濃度にムラが生じていると、インク膜の位置によって収縮度が異なる。それゆえ、インク膜すなわち画像に割れが生じやすくなる。
【0057】
また、
図1もしくは
図3(A)~
図3(C)には具体的に示さないが、ガーメントプリンタ10、10A~10Cには、布材30に画像を形成する分野において公知の後処理を行う構成を備えてもよい。あるいは、
図3(A)に示すガーメントプリンタ10Aおよび前処理液塗布装置20の組合せと同様に、後処理を行う独立した構成(後処理装置)を併用してもよい。
【0058】
[画像形成用前処理液]
本開示では、前記の通り、布材30に白インクによる白色画像を形成(印刷)する前に、当該布材30の画像形成面(印刷面)に、本開示に係る前処理液を塗布する。本開示で用いられる前処理液の具体的な構成は特に限定されず、白インクに用いられる色材である酸化チタン(TiO2 )粒子を凝集させて布材30に固定化させる作用を少なくとも有する化合物を含有する水性の液体であればよい。本実施の形態では、このような化合物を便宜上「凝集剤」と称する。
【0059】
酸化チタン粒子は、微細な粉末(微粒子)であって一般的な溶媒には溶解しない。したがって、白インクは、溶媒中に酸化チタン粒子が分散した分散液または懸濁液の状態にある。このような白インクを布材30に固定化させるためには、白インクの色材である酸化チタン粒子を凝集させる必要がある。そのため、前処理液は、酸化チタン粒子を凝集させる作用を有する化合物(凝集剤)を少なくとも含有する。
【0060】
酸化チタン粒子を凝集させる作用を有する化合物としては、一般的には、公知の酸、カチオン性ポリマー、金属塩等を挙げることができる。特に本開示においては、凝集剤としては、カチオン性ポリマーまたは有機酸が好適に用いられる。
【0061】
本開示に係る前処理液に用いられるカチオン性ポリマーは、カチオン(陽イオン)を分子構造中に含有するものであればよい。本開示において使用可能なカチオン性ポリマーとしては、公知の様々な分野、例えば、繊維加工分野、製紙加工分野、水処理分野、塗料またはインキ分野、香粧品分野、金属分野等で公知の化合物を好適に用いることができる。
【0062】
より具体的なカチオン性ポリマーとしては、天然物由来ポリマーと合成ポリマーとが挙げられる。天然物由来ポリマーとしては、例えば、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガム等を挙げることができる。なお、ここでいう天然物由来ポリマーは、キトサンのような実質的な天然物であってもよいし(キトサンはキチンを加水分解して得られる)、キトサン誘導体、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガムのように天然物を化学修飾して得られる高分子化合物であってもよい。
【0063】
合成ポリマーとしては、アミンを構造に有するポリマーが酸と反応して得られる塩、あるいはポリエチレンイミン等を挙げることができる。前者のポリマーの例としては、ポリアリルアミン、N-トリメチルアミノメチルポリスチレン、テトラエチレンペンタミン、ポリビニルアミン、アミン-エピクロロヒドリン共重合体等を挙げることができる。
【0064】
前記のアミンを構造に有するポリマーと塩を形成する酸としては、ギ酸、飽和脂肪酸、ヒドロキシ酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸等の有機酸;硫酸、硝酸、塩酸、亜硫酸、亜硝酸、チオ硫酸、リン酸、炭酸、チオシアン酸等の無機酸;等を挙げることができる。有機酸としては、ギ酸の他に、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸等のように相対的に低分子量のものが好適に用いられる。
【0065】
本開示に係る前処理液では、代表的なカチオン性ポリマーとして、特にポリアリルアミン誘導体のカチオンを好適に用いることができる。より具体的なポリアリルアミン誘導体のポリマー構造としては、例えば、窒素原子にアリル基(IUPAC名:2-プロペニル基)が結合した含窒素構造がモノマー単位に含まれるポリマーを挙げることができる。
【0066】
このようなポリアリルアミン誘導体のポリマー構造に含まれる含窒素構造は、具体的には特に限定されないが、第一級アンモニウム、第二級アンモニウム、第三級アンモニウム、または第四級アンモニウムであり、かつ、窒素原子に結合するアルキル基の少なくとも1つがアリル基である構造を挙げることができる。このような含窒素構造のより代表的な一例としては、当該含窒素構造が有する窒素原子に2つのアリル基が結合した構造を挙げることができる。また、このようなポリアリルアミン誘導体が酸と反応して得られる塩は、例えば酢酸塩または塩酸塩であってもよい。
【0067】
後述する実施例では、カチオン性ポリマーとしては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ(株)製、製品名:ユニセンスFPA100LU)、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体(ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-M-1A)、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-92A)を用いている。これら市販品のカチオン性ポリマーは、前述した含窒素構造を有するポリアリルアミンまたはその誘導体の酢酸塩または塩酸塩である。
【0068】
カチオン性ポリマーの分子量は特に限定されず、前述した公知の分野で用いられているカチオン性ポリマーと同程度の分子量であればよい。代表的には、カチオン性ポリマーの重量平均分子量Mwの下限は、500以上を挙げることができ、700以上であってもよく、800以上であってもよく、900以上であってもよい。また、カチオン性ポリマーのMwの上限は、20万以下を挙げることができ、15万以下であってもよく、12万以下であってもよく、10万以下であってもよい。後述する実施例では、Mwが2000以上2万以下のカチオン性ポリマーを用いている。
【0069】
なお、カチオン性ポリマーの分子量の測定方法は特に限定されない。一般的には、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いてPEG(ポリエチレングリコール)換算により測定すればよい。
【0070】
本開示に係る前処理液に用いられる有機酸としては特に限定されないが、具体的には、例えば、ギ酸;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の飽和脂肪酸;乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシ酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸等の芳香族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸等のジカルボン酸;グルクロン酸、ガラクツロン酸、イズロン酸等のウロン酸;アスコルビン酸;
メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の有機スルホン酸;等を挙げることができるが特に限定されない。代表的な有機酸としては、ギ酸、飽和脂肪酸、ヒドロキシ酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸の少なくともいずれかを挙げることができる。
【0071】
これら有機酸は、カチオンが金属イオンではない塩(例えばアンモニウム塩またはアミン塩等)であってもよい。このような有機酸の非金属塩は、100%の塩ではなく部分中和塩であってもよい。
【0072】
特に代表的な有機酸としては、例えば、分子中の炭素数が1~8の範囲内である、相対的に低分子量の有機酸を挙げることができ、さらには、分子中の炭素数が1~3の範囲内である有機酸を挙げることもできる。具体的な化合物としては、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸等を挙げることができる。このような炭素数8以下、好ましくは炭素数3以下の有機酸であれば、前処理液が塗布された布材を印刷後に加熱乾燥する際に、蒸発等により布材に残存させないようにすることができる。後述する実施例では、有機酸として、ギ酸、酢酸、または乳酸を用いている。
【0073】
本開示では、後述する実施例に示すように、凝集剤としてカチオン性ポリマーとともに第四級アンモニウム塩を併用することができる。
【0074】
本開示で用いられる第四級アンモニウム塩は、(NR1 R2 R3 R4 )+ X- の一般式で表されるものであればよい。当該一般式におけるR1 ~R4 は、互いに独立して炭素数1~30の炭化水素基であればよい。したがって、R1 ~R4 はいずれも同一の炭化水素基であってもよいし、いずれも異なる炭化水素基であってもよいし、一部が同じ炭化水素基(例えばR1 およびR2 が同じ炭化水素基でR3 およびR4 が異なる炭化水素基)であってもよい。
【0075】
具体的な炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基等を挙げることができるが特に限定されない。また、当該一般式におけるX- はアニオンである。このアニオンは、単原子イオンであってもよいし分子イオン(多原子イオン)であってもよい。したがって、(NR1 R2 R3 R4 )+ がカチオンである。
【0076】
本開示における代表的な第四級アンモニウム塩としては、前記一般式において、R1 ~R3 が炭素数1~5のアルキル基であり、R4 が炭素数6~30のアルキル基である構造を挙げることができる。これらアルキル基は直鎖であってもよいし分岐鎖であってもよい。これらアルキル基は、一部の水素が、例えばハロゲン原子または他の置換基により置換された構造であってもよい。
【0077】
炭素数1~5のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基等を挙げることができるが、特に限定されない。また、炭素数6~30のアルキル基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基(ドデシル基)、テトラデシル基、セチル基(ヘキサデシル基)等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0078】
前記一般式におけるアニオンも特に限定されないが、例えば、硫酸イオン、硝酸イオン、塩酸イオン等の無機酸イオン;ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン等のモノカルボン酸イオン;メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等のアルキル硫酸イオン;リンゴ酸、イタコン酸等のジカルボン酸イオン;クエン酸、プロパントリカルボン酸等のトリカルボン酸イオン;水酸化物イオン;ハロゲン化物イオン等を挙げることができる。なお、ジカルボン酸またはトリカルボン酸等の多価酸からプロトンが乖離して生成する多価のアニオンについては、1か所のカルボキシラートイオンについて1つの第四級アンモニウムカチオンが対応して塩を形成する。
【0079】
より具体的な第四級アンモニウム塩としては、テトラアルキル四級アンモニウム塩が挙げられ、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルアルキルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウム硫酸塩等を挙げることができるが、特に限定されない。後述する実施例では、テトラアルキル四級アンモニウム塩を用いている。
【0080】
市販の第四級アンモニウム塩としては、具体的には、例えば、東京化成工業(株)製の塩化ベンザルコニウム、第一工業製薬(株)製の製品名:カチオーゲン(登録商標)TML、カチオーゲン(登録商標)TMP、カチオーゲン(登録商標)ES-O等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0081】
なお、本開示においては、後述する実施例から明らかなように、凝集剤として第四級アンモニウム塩のみを用いることは好ましくない。第四級アンモニウム塩のみを含有する前処理液では、得られる白色画像における白色度を十分に向上できない場合がある(比較例3または比較例4)。
【0082】
本開示に係る前処理液では、凝集剤として用いられるカチオン性ポリマー、有機酸、または第四級アンモニウム塩は、1種類のみが用いられてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。ここでいう2種類以上とは、凝集剤として、有機酸およびカチオン性ポリマーの組合せ、あるいは、カチオン性ポリマーおよび第四級アンモニウム塩の組合せ等のように、異なる種類の化合物同士を組み合わせて用いる場合だけでなく、例えば2種類以上の有機酸の組合せ、あるいは、2種類以上のカチオン性ポリマーを組み合わせて用いる場合も含む。
【0083】
本開示で用いられる前処理液は水性であるため、溶媒としては少なくとも水が用いられる。溶媒としての水は、相対的に純度が高いものであればよい。一般的には、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等を挙げることができる。これら純度の高い水は、いわゆる純水(25℃における電気比抵抗が0.1~1.5MΩ・cm程度)、あるいは、いわゆる超純水(25℃における電気比抵抗が10MΩ・cm以上)であってもよい。
【0084】
本開示に係る前処理液では、凝集剤の含有量は特に限定されないが、凝集剤の代表的な含有量の範囲は、凝集剤の種類に応じて異なる。例えば、凝集剤として作用する化合物がカチオン性ポリマーであれば、前処理液におけるカチオン性ポリマーの含有量は特に限定されないものの、前処理液全量を100質量%としたときに、カチオン性ポリマーを含有する組成物中における当該カチオン性ポリマーの不揮発分として換算したときに、下限が2重量%以上であり上限が10重量%以下であることが好ましい。
【0085】
なお、ここでいう不揮発分換算(あるいは固形分換算)とは、カチオン性ポリマーを含有する組成物全量から揮発分を除去した残部の質量を意味する。前記の通り、カチオン性ポリマーとしては、市販品を用いることができるが、市販品のカチオン性ポリマーは、ポリマー成分を溶媒に溶解または分散したポリマー組成物として調製されている。あるいは、市販品でなくても、カチオン性ポリマーを主溶媒(水)に分散または溶解させる観点では、当該カチオン性ポリマーは、予め溶媒に溶解したポリマー組成物として用いることが好ましい。
【0086】
凝集剤として作用する化合物が有機酸であれば、前処理液における有機酸の含有量は、前処理液全量を100質量%としたときに、下限が0.5重量%以上であり上限が8重量%以下である。有機酸の含有量の下限は0.7重量%以上であってもよい。
【0087】
凝集剤として作用する化合物が第四級アンモニウム塩であれば、カチオン性ポリマーまたは有機酸との併用となるが、前処理液における第四級アンモニウム塩の含有量は、特に限定されないものの、前処理液全量を100質量%としたときに、下限が0.5重量%超であり上限が5重量%以下であればよい。
【0088】
これら凝集剤の含有量が前記の範囲内であれば、後述する実施例に示すように、得られる白色画像において良好な品質を維持することができる。なお、これら凝集剤の含有量は、前記の代表的な範囲内に限定されない。なお、後述する実施例では、水の含有量は他の成分の残部としている。
【0089】
また、本開示に係る前処理液は、主溶媒である水および凝集剤として作用する化合物以外に、他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、前処理液またはインクジェット方式で用いられるインクで公知の各種の添加剤を挙げることができる。代表的な添加剤については、後述する白インクにおいて具体的に説明する。
【0090】
[白インク]
本開示では、画像形成に際して、前記の通り、布材30の画像形成面(印刷面)に、本開示に係る前処理液を塗布して当該前処理液を布材30に定着させ、その後、白インクによる白色画像を形成(印刷)する。本開示で用いられる白インクの具体的な構成は特に限定されず、色材として酸化チタン(TiO2 )粒子を含有する水性インクであればよい。
【0091】
酸化チタン粒子の平均粒子径(平均一次粒径)は特に限定されないが、その下限は10nm以上であればよく、20nm以上であってもよいし、50nm以上であってもよい。一方、酸化チタン粒子の平均粒子径の上限値は200nm以下であればよく、200nm未満であってもよいし、180nm以下であってもよいし、150nm以下であってもよい。
【0092】
酸化チタン粒子の平均粒子径が10nm以下であれば、沈降性の改善が期待できるが、粒子径が可視光の波長よりも非常に小さくなることからミー散乱は殆ど生じなくなる。そのため、分散液の状態で殆ど無色であり、形成される白色画像の白色度も大幅に低下すると考えられる。一方、酸化チタン粒子の平均粒子径が200nm以上であれば、沈降速度が速いため、より一層沈降しやすくなる。
【0093】
酸化チタン粒子の平均粒子径の測定方法は特に限定されず、ナノレベルの微粒子の平均粒子径を測定する公知の方法を好適に用いることができるが、本開示では、後述する実施例に記載するように、動的散乱式粒度分布測定装置により散乱光強度を測定し、これを基準として光子相関法により平均粒子径を算出する方法を用いている。
【0094】
ここで、本発明者らの鋭意検討の結果、前述したように酸化チタン粒子の平均粒子径が200nm以下であると、形成される白色画像の白色度が低下する傾向にあることが明らかとなった。具体的には、より小さい粒径の酸化チタン粒子を用いた白インクで白色画像を形成すると、白色画像が薄く青味を帯びて視認されるとともに、白色画像に割れが生じやすくなる傾向にあることが明らかとなった。
【0095】
白色画像が薄く青味を帯びる理由は、酸化チタン粒子の平均粒子径がより小さくなることによって、当該白色画像における光の散乱の傾向が変わるためであると考えられる。
【0096】
一般的に、光の散乱により粒子が白く視認されるためには、光の散乱の主体がミー散乱である必要がある。ミー散乱は、粒子の粒径が光の波長域と同程度であるときに生じる散乱の種類であり、光の波長に依存せず、全ての波長の光が同様に散乱するため白く視認される。
【0097】
粒子の粒径が可視光の波長域よりも小さくなると、ミー散乱よりもレイリー散乱が優勢になることが知られている。レイリー散乱は、粒子の粒径が光の波長よりも十分に小さいときに生じる散乱である。ミー散乱は、前記の通り、光の波長に依存せずに散乱が生じる。これに対して、レイリー散乱は、光の波長の影響を受ける。短波長の光は当該粒子に当たりやすくなり強く散乱されるが、長波長の光は当該粒子に当たりにくくなり散乱は弱くなる。
【0098】
酸化チタン粒子の粒子が小さくなると、ミー散乱よりもレイリー散乱の寄与が大きくなるため、可視光のうち長波長の光(赤系の色)の散乱量が少なくなり、短波長の光(紫から青系の色)の散乱が優位になる。それゆえ粒径の小さい酸化チタン粒子を用いた白インクで白色画像を形成すると、当該白色画像では、レイリー散乱に起因する短波長の光すなわち青系の色の散乱が増加し、その結果、白色画像に青味を帯びやすくなると考えられる。
【0099】
ここで、酸化チタン粒子においては、ミー散乱の強度が最大となる平均粒子径(一次粒子径)は300nm前後となっている。したがって、平均粒子径が300nmよりも小さくなるほどミー散乱の影響が低下してレイリー散乱の影響が強くなると考えられる。それゆえ、諸条件にもよるが、酸化チタン粒子の平均粒子径が200nm以下である白色顔料では、レイリー散乱の影響が視認できる程度に大きくなる状況が発生し、これにより、白色画像が青味を帯びると考えられる。特に酸化チタン粒子の平均粒子径が100nm以下となれば、白色画像に青味をより帯びやすい傾向にある。
【0100】
白色画像に割れが生じやすくなる理由は、酸化チタン粒子の平均粒子径がより小さくなることによって、白インクにより布材上に形成された塗膜(白色画像)における酸化チタン粒子の流動性が高くなるためであると考えられる。塗膜における酸化チタン粒子の流動性が高くなると、白インクの溶媒である水等の蒸発成分が蒸発することに伴って、塗膜において凝集に伴う収縮が生じやすくなり、この収縮によって塗膜に変形または破壊が生じやすくなる。その結果、白色画像に割れが生じやすくなると考えられる。
【0101】
一方、酸化チタン粒子の平均粒子径を小さくすることは、白インク中における酸化チタン粒子の沈降を有効に抑制できるという利点がある。それゆえ、白インクに用いられる白色顔料として、前述したように、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を用いることが特に好ましい。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、前処理液には、カチオン性ポリマー、または、0.5質量%以上8質量%以下の有機酸を含有する前処理液を含有させることによって、後述するように、白色画像において青味および割れの発生が有効に抑制または回避される。
【0102】
本開示で用いられる白インクは、必要に応じて酸化チタン粒子以外の色材、例えば他の白色顔料を含有してもよい。一般的に酸化チタン粒子は高い屈折率を有するため、他の白色顔料に比較して良好な白色性を実現できる。ただし、布材30の画像形成面に、下地層として好適な白色画像を形成する観点では、酸化チタン粒子に対して他の白色顔料をある程度配合してもよい。他の白色顔料としては、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化亜鉛、硫酸バリウム、無水ケイ酸カルシウム、タルク、チョーク、アルミナホワイト、シリカ等を挙げることができる。
【0103】
本開示で用いられる白インクの溶媒は、前述した前処理液と同様に水であればよい。溶媒としての水は、前述した通り、相対的に純度が高いものであればよく、一般的には、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等を挙げることができる。これら純度の高い水は、前述した通り、いわゆる純水、あるいは、いわゆる超純水であってもよい。
【0104】
本開示で用いられる白インクでは、酸化チタン粒子の含有量は特に限定されないが、代表的な含有量としては、酸化チタン粒子および水を含む白インク全量を100質量%としたときに、酸化チタン粒子の含有量の下限が5.0質量%以上であればよく、7.0質量%以上であってもよいし、8.0質量%以上であってもよい。また、酸化チタン粒子の含有量の上限は、20.0質量%以下であればよく、15.0質量%以下であってもよいし、13.0質量%以下であってもよい。
【0105】
酸化チタン粒子の含有量が5.0質量%未満であれば、白インクが薄くなりすぎて、前処理液を塗布した上に白インクを塗布しても良好な白色画像を形成できない傾向にある。一方、酸化チタン粒子の含有量が20.0質量%を超えると、白インクが濃くなりすぎて、必要以上に高粘度化したり、吐出ヘッド13からの吐出安定性が低下したりするおそれがある。前処理液が含有する凝集剤の量と比較して酸化チタン粒子が多くなりすぎて良好な凝集が実現できず白色画像の品質に影響を及ぼすおそれもある。
【0106】
本開示で用いられる白インクは、酸化チタン粒子および水以外に他の成分を含有してもよい。具体的には、インクジェット方式で用いられるインクで公知の各種の添加剤を挙げることができる。当該添加剤としては、具体的には、例えば、湿潤剤、樹脂成分、浸透剤、界面活性剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤等を挙げることができるが、特に限定されない。これら他の成分の含有量も特に限定されず、インクジェット用インクの分野で一般的な含有量を採用することができる。
【0107】
本開示で用いられる白インクは、添加剤として湿潤剤を含有してもよい。湿潤剤を含有することにより、白インクの湿潤性をより良好なものとすることができる。具体的な湿潤剤としては、水溶性有機溶媒を挙げることができる。
【0108】
具体的な水溶性有機溶媒としては、例えば、エタノール、1-プロパノール(n-プロピルアルコール)、2-プロパノール(イソプロピルアルコール、IPA)、1-ブタノール(n-ブチルアルコール)、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)等の低級アルコール;グリセロール(グリセリン)、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコールまたはポリエーテル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI);等を挙げることができるが特に限定されない。これら水溶性有機溶媒は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。後述する実施例では、湿潤剤としてプロピレングリコールを用いている。
【0109】
白インクにおける湿潤剤(水溶性有機溶媒)の含有量は特に限定されない。代表的な含有量としては、白インク全量を100質量%としたときに、湿潤剤の含有量の下限が5質量%以上であればよく、10質量%以上であってもよいし、15質量%以上であってもよい。また、湿潤剤の含有量の上限は、40質量%以下であればよく、30質量%以下であってもよいし、20質量%以下であってもよい。
【0110】
湿潤剤の含有量が5質量%未満であれば、諸条件にもよるが、湿潤剤を配合することによる作用効果を十分に得られないおそれがある。一方、湿潤剤の含有量が40質量%を超えれば、配合量(含有量)に見合った作用効果が得られなくなるおそれがあるとともに、主溶媒である水に対して湿潤剤の含有量が多くなりすぎて、白インクの諸物性に影響を及ぼすおそれもある。
【0111】
本開示で用いられる白インクは、添加剤として樹脂成分を含有してもよい。白インクが樹脂成分を含有することにより、形成される白色画像において物理的強度の向上を図る(例えば耐擦性を付与等)ことができる。この樹脂成分の具体的な構成は特に限定されないが、白インクがインクジェット方式で布材に塗布されるのであれば、当該樹脂成分としては、例えば樹脂粒子を採用することができる。
【0112】
したがって、本開示では、白インクは、樹脂成分として例えば樹脂粒子を含有する場合には、酸化チタン粒子と樹脂粒子との双方が水を主成分とする水系溶媒に分散している組成であればよい。なお、後述するように樹脂粒子が水溶性樹脂からなる場合には、水系溶媒に溶解してもよい。
【0113】
白インクに含有される樹脂成分の具体的な材質は特に限定されず、一般的なインクジェット用インクにおいて使用可能な公知の樹脂を挙げることができる。このような樹脂成分を配合することで、白インクを布材30に塗布したときに、例えば良好な定着性を付与することができる。
【0114】
樹脂粒子として用いられる具体的な樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂;ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィンワックス等のポリオレフィン系樹脂;ロジン変性樹脂、テルペン樹脂等の天然由来樹脂;各種ウレタン樹脂、アクリルウレタン共重合体等のウレタン系樹脂;ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の縮合系樹脂;各種エポキシ樹脂;塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル樹脂等のビニル系樹脂;等を挙げることができるが特に限定されない。これら樹脂はフルオレン構造を含有してもよい。これら樹脂は1種類のみを樹脂成分として用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて樹脂成分として用いてもよい。
【0115】
また、本開示では、白インクが含有する樹脂成分の形態は特に限定されないが、代表的には、前記の通り、樹脂粒子を挙げることができる。このとき、樹脂粒子の具体的な構成も特に限定されない。例えば、樹脂粒子は、前述した公知の樹脂が1種類のみ用いられて構成されてもよいし、前述した樹脂を2種類以上組み合わせて構成されてもよい。ここで、2種類以上の樹脂を組み合わせて樹脂粒子が構成されるとは、2種類以上の樹脂をポリマーブレンドまたはポリマーアロイとして樹脂粒子が構成される場合、2種類以上の樹脂が複数層を形成して樹脂粒子が構成される場合等を含む。また、樹脂成分としては、1種類の樹脂粒子を用いてもよいし、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0116】
より具体的な樹脂成分の材質としてはウレタン樹脂(ポリウレタンまたはその誘導体もしくは共重合体)を挙げることができる。ウレタン樹脂は、例えば分散液として基材に塗布すると一般的に柔軟で強靭な膜構造を形成できるため、特に本開示における白インクの成分として好適に用いることができる。後述する実施例では、市販のウレタン樹脂(三井化学(株)製、製品名:タケラックW6061)製の樹脂粒子、あるいはアクリルウレタン高重合体(ジャパンコーティングレジン(株)製、製品名:モビニール6763)製の樹脂粒子を用いている。
【0117】
本開示において、樹脂成分が樹脂粒子である場合には、当該樹脂粒子の具合的な粒子径については特に限定されず、諸条件に応じて適宜選択することができる。樹脂粒子の分散液または懸濁液として一般的な粒子径としては、例えば、粒度分析装置(マイクロトラック・ベル(株)製のマイクロトラックシリーズ等)を用いて測定した体積平均粒子径MVを挙げることができる。樹脂粒子の体積平均粒子径における代表的な範囲としては、例えば下限であれば10nm以上であればよく20nm以上であってもよい。上限であれば500nm以下であればよく200nm以下であってもよく100nm以下であってもよく50nm以下であってもよい。
【0118】
本開示では、白インクにおける樹脂成分の含有は必須ではなく、樹脂成分を含有する場合には、その含有量は特に限定されない。代表的な含有量としては、白インク全量を100質量%としたときに、樹脂成分の含有量の下限が1.0質量%以上であればよく、5.0質量%以上であってもよい。また、樹脂成分の含有量の上限は、30.0質量%以下であればよく、20.0質量%以下であってもよいし、12.0質量%以下であってもよい。
【0119】
樹脂成分の含有量が1.0質量%未満であれば、諸条件にもよるが、樹脂成分を配合することによる作用効果を十分に得られないおそれがある。一方、樹脂成分の含有量が30.0質量%を超えれば、配合量(含有量)に見合った作用効果が得られなくなるおそれがあるとともに、樹脂成分の含有量が多くなりすぎて、白インクの粘度が上昇により吐出ヘッド13からの吐出に影響を及ぼしたりするおそれがある。
【0120】
本開示で用いられる白インクは、添加剤として浸透剤を含有してもよい。浸透剤を含有することにより、白インクの吸収性基材(布材)に対する浸透性をより良好なものとすることができる。具体的な浸透剤としては、グリコールエーテル類を挙げることができる。
【0121】
具体的なグリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコール系エーテル;プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコール系エーテル等を挙げることができるが特に限定されない。これらグリコールエーテルは1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。後述する実施例では、浸透剤としてトリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いている。
【0122】
白インクにおける浸透剤(グリコールエーテル類)の含有量は特に限定されない。白インクは浸透剤を含有しなくてもよいが、浸透剤を含有する場合には、その代表的な含有量としては、白インク全量を100質量%としたときに、浸透剤の含有量の下限が0質量%超であればよく、0.5質量%以上であってもよいし、1質量%以上であってもよい。また、浸透剤の含有量の上限は、20質量%以下であればよく、10質量%以下であってもよいし、5質量%以下であってもよい。
【0123】
白インクにおける浸透剤の含有量が20質量%を超えれば、配合量(含有量)に見合った作用効果が得られなくなるおそれがあるとともに、主溶媒である水に対して浸透剤の含有量が多くなりすぎて、白インクの諸物性に影響を及ぼすおそれもある。
【0124】
本開示で用いられる白インクは、添加剤として界面活性剤を含有してもよい。具体的な界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤を挙げることができる。アセチレングリコール系界面活性剤は、分子構造の中央にアセチレン基が位置し、当該アセチレン基を中心に左右対称の構造をした非イオン性界面活性剤である。
【0125】
具体的なアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば市販のものを挙げることができる。例えば、エボニックインダストリーズ社製の製品名:サーフィノール(登録商標)440、製品名:サーフィノール(登録商標)465、製品名:サーフィノール(登録商標)485等のサーフィノール(登録商標)シリーズ;日信化学工業(株)製の製品名:オルフィン(登録商標)E1004、製品名:オルフィン(登録商標)E1008、製品名:オルフィン(登録商標)E1010等のオルフィン(登録商標)シリーズ;川研ファインケミカル(株)製の製品名:アセチレノール(登録商標)E40、製品名:アセチレノール(登録商標)E100等のアセチレノール(登録商標)シリーズ;等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0126】
白インクにおける界面活性剤の含有量は特に限定されない。白インクは界面活性剤を含有しなくてもよいが、界面活性剤を含有する場合には、その代表的な含有量としては、白インク全量を100質量%としたときに、界面活性剤の含有量の下限が0質量%超であればよい。また、界面活性剤の含有量の上限は、4質量%以下であればよく、2質量%以下であってもよいし、1質量%以下であってもよい。
【0127】
白インクにおける界面活性剤の含有量が4質量%を超えれば、配合量(含有量)に見合った作用効果が得られなくなるおそれがあるとともに、主溶媒である水に対して界面活性剤の含有量が多くなりすぎて、白インクの諸物性に影響を及ぼすおそれもある。
【0128】
本開示で用いられる白インクは、添加剤として、さらにpH調整剤を含有してもよい。具体的なpH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム等のリン酸水素金属塩;水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸金属塩;アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアンモニアまたはアミン化合物;等を挙げることができるが、特に限定されない。これらpH調整剤は、1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0129】
本開示では、白インクにおけるpH調整剤の含有は必須ではなく、pH調整剤を含有する場合には、その含有量は特に限定されない。代表的な含有量も特に限定されず、白インクにおいて所望のpHを実現でき、かつ、白インクの物性を損なわない範囲でpH調整剤を配合すればよい。
【0130】
本開示で用いられる白インクは、添加剤として、さらに防腐剤または防カビ剤を含有してもよい。具体的な防腐剤または防カビ剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンジソチアゾリン-3-オン等を挙げることができる。市販の防腐剤または防カビ剤としては、例えば、SCジョンソン社製の製品名:プロキセル(登録商標)XL2、製品名:プロキセル(登録商標)GXL等のプロキセル(登録商標)シリーズ;ナガセケムテックス(株)製、製品名:デニサイドCSA、製品名:NS-500W等;を挙げることができるが、特に限定されない。
【0131】
本開示では、白インクにおける防腐剤または防カビ剤の含有は必須ではなく、防腐剤または防カビ剤を含有する場合には、その含有量は特に限定されない。代表的な含有量も特に限定されず、白インクにおいて所望の防腐性または防カビ性を実現でき、かつ、白インクの物性を損なわない範囲で防腐剤または防カビ剤を配合すればよい。
【0132】
本開示で用いられる白インクは、添加剤として、さらに防サビ剤を含有してもよい。具体的な防サビ剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等を挙げることができるが、特に限定されない。本開示では、白インクにおける防サビ剤の含有は必須ではなく、防サビ剤を含有する場合には、その含有量は特に限定されない。代表的な含有量も特に限定されず、白インクにおいて所望の防サビ性を実現でき、かつ、白インクの物性を損なわない範囲で防サビ剤を配合すればよい。
【0133】
本開示で用いられる白インクは、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、増粘剤等の添加剤として配合した有機溶媒以外の有機溶媒を含有してもよい。このような有機溶媒は、主溶媒である水に対して「副溶媒」として位置付けることができる。具体的な有機溶媒としては、例えば、エタノール等を挙げることができるが、特に限定されない。また、副溶媒としての有機溶媒の含有量も特に限定されない。
【0134】
本開示で用いられる白インクの製造方法は特に限定されず、前述した前処理液と同様に、必須成分である酸化チタン粒子および水、並びに好適な成分である有機溶媒および分散樹脂を所定比率で配合して公知の方法で攪拌混合すればよい。
【0135】
ただし、酸化チタン粒子は水に溶解しないため、白インクは、前記の通り、水中に酸化チタン粒子の微粒子が分散した分散液または懸濁液の状態にある。そのため、後述する実施例でも白インクの沈降性を評価しているように、白インクを静置すると酸化チタン粒子は沈降しやすい状態にある。そのため、白インクの製造方法においては、沈降した酸化チタン粒子を良好に再分散可能とするように、当該酸化チタン粒子を水中でより一層良好に分散させるような製造方法が好適に採用される。
【0136】
具体的には、例えば、酸化チタン粒子および水、必要に応じて他の成分を公知の方法で混合して十分に攪拌することにより、ミルベースを調製し、当該ミルベースを、ペイントシェイカー、ボールミル、ビーズミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波分散機、撹拌羽撹拌機、マグネチックスターラー等を用いることにより更に分散させる方法を挙げることができる。この製造過程においては、得られた分散液において酸化チタン粒子が良好に分散しているか否かを、例えばレーザ回折散乱法により確認してもよいし、十分に分散しきれていない二次粒子等の残存を考慮して、得られた分散液を濾過してもよい。
【0137】
[基材および画像形成]
本開示では、画像形成の対象となる基材は、前記の通り布材であり、当該布材の具体的な種類は特に限定されないが、代表的には、編物(ニット)および織物(布帛)を挙げることができる。編物の具体的な種類は特に限定されず、例えば、天竺編、ワッフル編、フライス編、鹿の子編、ハニカムメッシュ、ポリエステルメッシュ(ポリエステル素材を用いたメッシュ)等の代表的な編物を挙げることができる。織物の具体的な種類も特に限定されず、例えば、平織、綾織、朱子織等の代表的な織物を挙げることができる。
【0138】
布材に用いられる繊維の具体的な種類も特に限定されないが、本開示では、後述するように、少なくとも白色画像を布材に定着させるために加熱するので、好適な繊維としては、綿、絹、麻、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、これらの混合素材を挙げることができる。後述する実施例では、布材としては、市販Tシャツに用いられるポリエステル製編物を用いている。
【0139】
インクジェット方式による布材への画像形成方法は、その工程に応じて、Wet on Dry法とWet on Wet法とに区分することができる。Wet on Dry法は、基材である布材に前処理液を塗布し、次いで布材を十分に乾燥し、次いで前処理液が塗布された領域上に白インクを塗布して白色画像を形成し、布材を加熱乾燥して白色画像を布材に定着させる。一方、Wet on Wet法では、基材である布材に前処理液を塗布し、次いで布材を十分に乾燥することなく(Wet on Dry法における布材の乾燥状態と比較して、同程度まで乾燥させない状態として)前処理液が塗布された領域上に白インクを塗布して白色画像を形成し、布材を加熱乾燥して白色画像および前処理液を布材に定着させる。
【0140】
Wet on Dry法およびWet on Wet法のいずれにも互いに異なる特徴があり、布材の種類、布材の形状、形成画像の種類、インクの種類等の諸条件に応じていずれかの方法を適宜選択することができる。本開示では、Wet on Wet法が採用される。
【0141】
本開示に係る前処理液を用いて実行される画像形成方法では、吸収性基材である布材に画像を形成する際に、布材に水性の前処理液を塗布する前処理液塗布工程と、塗布された前処理液を加熱する加熱工程と、加熱工程後に、布材にインクをインクジェット方式により吐出して画像を形成する画像形成工程と、を含む。インクとしては、前記の通り、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を白色顔料として含有する白インクが少なくとも用いられる。
【0142】
このような白インクでは、色材(顔料)である酸化チタン粒子の比重が大きいため沈降速度が速くなる。そこで、酸化チタン粒子の平均粒子径を小さくするとその沈降速度を遅くすることができる。ただし、前記の通り、酸化チタン粒子の粒径をより小さくすると、形成される白色画像の白色度が低下する傾向にある。
【0143】
インクジェット方式に用いられる白インクでは、一般的には、平均粒子径が300nm程度の酸化チタン粒子が用いられることが多い。ストークスの定理からして、沈降速度は粒子サイズの二乗に比例するため、粒径が大きいほど沈降しやすくなる。なお、300nm程度の粒径の酸化チタン粒子は、沈降しやすい傾向にある。そこで、平均粒子径が10nm超200nm以下の範囲内にある酸化チタン粒子を用いることにより、白色度を維持しつつ酸化チタン粒子の沈降を抑制することが可能になる。
【0144】
ところが、白インクの塗布対象(画像形成対象または印刷対象)である基材が布材であると、酸化チタン粒子の平均粒子径が小さいほど布材の厚み方向に浸透しやすくなる傾向にある。特に、酸化チタン粒子の平均粒子径が10nm超200nm以下の範囲内にあれば、より浸透しやすくなる。酸化チタン粒子は、基材上で好適に凝集することにより、良好な白色度を有する白色画像を形成することができる。そのため、酸化チタン粒子が布材に浸透すると、良好な白色画像を形成することができなくなる。
【0145】
さらに、基材が布材であって、かつ、酸化チタン粒子の平均粒子径が200nmを下回ると、
図4に示すように、形成される白色画像に割れ40(黒い部分)が生じやすくなることも明らかとなった。割れ40の発生が多くなれば、白色画像の画像品質を大幅に低下させることになり、これにより白色画像の上に形成されるカラー画像の画像品質も低下することになる。そのため、
図4において「評価C」で示すように、目視で多くの割れ40が確認されるような状態は回避されるべきであり、少なくとも、
図4において「評価B」で示すように、目視で割れ40が確認されるものの割れが過多ではない状態を実現すべき必要がある。なお、
図4における「評価A」では割れは生じていない。
図4に示す具体的な評価については後述する実施例において説明する。
【0146】
基材上に形成されたインクの画像、すなわちインクの塗膜に割れが発生するということは、前記した割れ発生の理由から、通常は、定着時の加熱乾燥に由来することが想定される。そのため、白色画像の割れを回避または抑制するためには、白インクが急激に乾燥しないように、加熱乾燥の条件を調節するか、もしくは、急激な乾燥が進まないように白インクの組成を変更することが考えられる。
【0147】
しかしながら、本発明者らの鋭意検討の結果、白インクの組成ではなく前処理液の組成に着目し、前処理液として、カチオン性ポリマー、または、0.5重量%以上8重量%以下の有機酸を含有するものを用いることを独自に見出した。これにより、白インクに用いられる白色顔料が、その平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子であっても、形成される白色画像において、青味および割れの発生を有効に抑制または回避することができる。その結果、吸収性基材である布材上に形成された白色画像において良好な白色度を実現することができる。
【0148】
しかも、前処理液がカチオン性ポリマーとともに第四級アンモニウム塩を含有することにより、後述する実施例に示すように、布材に形成された白色画像が過剰に固くなることが抑制されるとともに、白色画像が帯びる青味を抑制できることも明らかとなった。それゆえ、本開示に係る前処理液を用いて白色画像を形成すれば、白色画像が形成された布材において良好な張り感を実現することができるとともに、白色画像の青味発生を改善することもできる。
【0149】
なお、前述したように、カチオン性ポリマーまたは所定量の有機酸は、平均粒子径が200nm未満の酸化チタン粒子に対して良好な凝集剤として作用すると考えられる。これら化合物により酸化チタン粒子を良好に凝集させることで、形成された白色画像においては、レイリー散乱の寄与が小さくなりミー散乱の寄与が大きくなるため、白色画像における青味の発生を有効に抑制または回避できるものと考えられる。
【0150】
また、これら化合物が酸化チタン粒子を良好に凝集させることで、白インクの塗膜における酸化チタン粒子の過剰な高密度化が抑制または回避され、白インクの乾燥時に塗膜に収縮が生じにくくなり、白色画像における割れの発生を有効に抑制または回避できるものと考えられる。
【0151】
加えて、後述する実施例に示すように、本開示では、前処理液にカチオン性ポリマーまたは有機酸を含有させているが、前処理液に第四級アンモニウム塩のみを含有させ、カチオン性ポリマーまたは有機酸を含有させない場合(比較例3、4)と比較すると、白色画像において良好な白色度を実現できることがわかる。また、前処理液に多価金属塩を含有させた場合(比較例5~7)と比較すると、白色画像において割れの発生を良好に抑制できることがわかる。
【0152】
本開示には、前記構成の画像形成用前処理液と、当該前処理液を用いたインクセットが含まれるが、さらに本開示には、前記構成の前処理液を用いた画像形成方法も含まれる。
【0153】
すなわち、本開示に係る画像形成方法は、吸収性基材である布材にインクにより画像を形成する画像形成工程と、当該画像形成工程の前に、布材に前処理液を塗布する前処理液塗布工程とを含み、前処理液として、カチオン性ポリマー、または、0.5重量%以上8重量%以下の有機酸を含有するものが用いられる構成であればよい。
【0154】
また、本開示に係る画像形成方法では、画像形成工程には、インクとして、平均粒子径が10nm超200nm以下の酸化チタン粒子を含有する白インクを用いた画像形成(すなわち白色画像の形成)が含まれる。さらに、画像形成工程には、カラーインクを用いた白色画像上の画像形成が含まれてもよい。
【0155】
さらに本開示においては、前処理液塗布工程では、布材に対して30mg/cm2 以上の量で前処理液が塗布されるものであってもよい。前処理液の塗布量が30mg/cm2 以上であれば、画像形成工程において白色画像を形成する際に、吸収性基材である布材上にカチオン性ポリマーまたは有機酸が十分な量で残存する。そのため、形成される白色画像において、青味および割れの発生を有効に抑制または回避し、当該白色画像の品質を向上できるとともに、布材においてより一層良好な張り感を実現することもできる。
【実施例0156】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本開示の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0157】
なお、以下の実施例または比較例における前処理液、白インクの組成、並びに、塗布条件、および、画像形成に伴う評価は次に示すようにして行った。
【0158】
(前処理液および白インクの成分)
各実施例または比較例における前処理液および白インクの具体的な成分について、表1にまとめた。特に前処理液に用いられる凝集剤のうちカチオン性ポリマーおよび第4級アンモニウムについては、表1に示す略号を用いる。同様に、白インクに用いられる樹脂粒子についても表1に示す略号を用いる。
【0159】
【0160】
(白インク用顔料の平均粒子径)
白インクに用いた酸化チタン(TiO2 )粒子の平均粒子径は、当該顔料の濃度が0.1質量%となるように希釈して、動的散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、製品名LB-550)により散乱光強度を測定し、これを基準として光子相関法により平均粒子径を算出した。
【0161】
(白インクの顔料沈降性)
各実施例または各比較例で調製した白インクを、内径15mmのサンプルチューブに10mL分注し、25℃で1週間保存した後に、沈降傾向を目視評価した。目視で沈降が認められない場合を「AA」、沈降が僅かに認められる場合を「A」、沈降がはっきりとわかる場合を「B」、沈降が非常に多い場合を「C」とした。
【0162】
(前処理液または白インクの塗布量)
各実施例または各比較例において、前処理液または白インクを塗布する前の布材(ポリエステルニット)の質量を測定して基準値M0とし、前処理液または白インクを塗布した後、もしくは、前処理液を塗布した後で白インクを塗布する前の布材の質量を測定して測定値M1とし、測定値M1から基準値M0を減算した減算値M2(M2=M1-M0)を、布材の面積Saで除算する(M2/Sa)ことにより、前処理液または白インクの塗布量を評価した。
【0163】
(白色画像の白色度)
各実施例または各比較例で布材に形成した白色画像を、分光測色計(X-Rite社製、製品名eXact)により、測定視野10°、白色基準Abs(絶対白色)、光源D65の条件で明度L* を測定した。
【0164】
L* が85以上(L* ≧85)であれば「A+」、L* が80以上85未満(80≦L* <85)であれば「A」、L* が70以上80未満(70≦L* <80)であれば「B」、L* が60以上70未満(60≦L* <70)であれば「C」、L* が50以上60未満(50≦L* <60)であれば「D」、L* が50未満(50<L*)であれば「E」として、白色画像の白色度を評価した。
【0165】
(白色画像の青味)
各実施例または各比較例で布材に形成した白色画像を、分光測色計(X-Rite社製、製品名eXact)により、測定視野10°、白色基準Abs(絶対白色)、光源D65の条件でb* を測定した。
【0166】
b* が-5以上(b* ≧-5)であれば「A」、b* が-10以上-5未満(-10≦b* <-5)であれば「B」、b* が-10未満(-10<b*)であれば「C」として、白色画像の青味を評価した。
【0167】
(白色画像の割れ)
各実施例または各比較例で布材に形成した白色画像の割れについては、顕微鏡を用いて当該白色画像を目視観察することにより官能検査で評価した。
図4に代表的な白色画像の状態を例示している。各実施例または比較例では、後述するように黒地の無地の布材に白色画像を形成しているため、割れ40は矢印で示す黒い部分として観察される。
図4に示すように、白色画像に割れ40(黒い部分)が確認されない(割れなし)状態を「A」、白色画像の一部に割れ40(黒い部分)が確認された(割れあり)状態を「B」、白色画像に全体にわたって著しい割れ40(黒い部分)が確認された(割れ過多)状態を「C」として、白色画像の割れを評価した。
【0168】
(布材の固さ)
各実施例または各比較例で白色画像を形成した後の布材を、水平に対して斜め約+45°になるように手で把持し、その状態で布材のしなり具合を官能評価した。
【0169】
白色画像を形成しない(前処理液も塗布しない)元の布材(ブランク)と同様にしなる場合を「A」、全くしならない場合を「C」、「A」および「C」の中間でしなる場合を「B」として、布材の固さを評価した。
【0170】
(実施例1)
表2に示す組成となるように、凝集剤(ギ酸)および水を配合して混合することにより、実施例1に係る前処理液を調製した。また、表2に示すように、平均粒子径120nmの酸化チタン(TiO2 )粒子、表1に示す略号PU(製品名タケラックW6061)の樹脂粒子、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、および水を配合して混合することにより、実施例1に係る白インクを調製した。当該白インクにおける酸化チタン粒子の沈降性を前述した手法による評価した。その結果を表2に示す。なお、実施例1だけでなく、表2における略号PUの樹脂粒子の含有量は、いずれも固形分換算である。
【0171】
布材として、市販の黒地で無地のポリエステル製Tシャツ(製品名glimmer 300ACT,トムス(株)製)をカットした布材を用いた。
【0172】
布材をガラス上に置き、表2に示す塗布量となるように前処理液を塗布して静置することにより、実施例1に係る評価サンプルを作製した。
【0173】
その後、実施例1に係る評価サンプルに対して、インクジェットプリンターによる塗布を模擬するかたちで、スプレーにより白インクを表2に示す塗布量となるように塗布して、100℃で15分間の加熱により定着させた。なお、表2において括弧書きで示すように、前処理液と白インクとの塗布量の比は4:1である。当該評価サンプルの白色画像について、前述した手法により、白色度、青味、割れおよび布材の固さについて評価した。その結果を表1に示す。
【0174】
(実施例2~6)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例2~6に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、凝集剤であるギ酸の含有量を0.7~8質量部に変化させた点を除いて実施例1と同様にして、実施例2~6に係る前処理液を調製した。
【0175】
これら実施例2~6に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例2~6に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0176】
(実施例7、8)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例7または実施例8に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、実施例7または実施例8に係る前処理液を調製した。実施例7では、凝集剤として、酢酸1.5質量部を用い、実施例8では、凝集剤として、乳酸1.5質量部を用いた。
【0177】
これら実施例7または実施例8に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例7または実施例8に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0178】
(実施例9~11)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例9~11に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、実施例9~11に係る前処理液を調製した。実施例9では、凝集剤として、表1に示す略号PAM1(製品名ユニセンスFPA100LU)のカチオン性ポリマーを用い、表2に示すように、その含有量を2質量部とした。実施例10では、凝集剤として、略号PAM1の含有量を5質量部とした。実施例11では、凝集剤として、略号PAM1の含有量を10質量部とした。なお、実施例9~11だけでなく、表2に示す略号PAM1の凝集剤の含有量は、いずれも固形分換算である。
【0179】
これら実施例9~11に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例9~11に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0180】
(実施例12、13)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例12または実施例13に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、実施例12または実施例13に係る前処理液を調製した。実施例12では、凝集剤として、表1に示す略号PAM2(製品名PAS-M-1A)のカチオン性ポリマーを用い、表2に示すように、その含有量を2質量部とした。実施例13では、凝集剤として、略号PAM2の含有量を5質量部とした。なお、実施例12、13だけでなく、表2に示す略号PAM2の凝集剤の含有量は、いずれも固形分換算である。
【0181】
これら実施例12または実施例13に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例12または実施例13に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0182】
(実施例14~16)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例14~16に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、実施例14~16に係る前処理液を調製した。実施例14では、凝集剤として、ギ酸を1.5質量部に、表1に示す略号4AM(製品名アンテックスSAG-25)の第四級アンモニウム塩を2質量部併用した。実施例15では、凝集剤として、ギ酸を1.5質量部、略号PAM1のカチオン性ポリマーを5質量部併用した。実施例16では、凝集剤として、ギ酸を1.5質量部、略号PAM2のカチオン性ポリマーを5質量部併用した。
【0183】
これら実施例14~16に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例14~16に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0184】
(実施例17)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例17に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、凝集剤として、略号4AMの第四級アンモニウム塩を0.5質量部、略号PAM1のカチオン性ポリマーを5質量部で併用した点を除いて実施例1と同様にして、実施例17に係る前処理液を調製した。
【0185】
この実施例17に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例17に係る評価サンプルを作製した。この評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0186】
(実施例18~20)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例18~20に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、次の点を除いて実施例17と同様にして、実施例18~20に係る前処理液を調製した。実施例18では、凝集剤として、略号PAM1のカチオン性ポリマーを5質量部、略号4AMの第四級アンモニウム塩を1質量部併用した。実施例19では、凝集剤として、略号PAM1のカチオン性ポリマー5質量部、略号4AMの第四級アンモニウム塩を2質量部併用した。実施例20では、凝集剤として、略号PAM1のカチオン性ポリマーを5質量部、略号4AMの第四級アンモニウム塩を5質量部併用した。
【0187】
これら実施例18~20に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例17と同様にして、実施例18~20に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0188】
(実施例21)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例21に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、凝集剤として、略号4AMの第四級アンモニウム塩を2質量部、略号PAM2のポリマーを5質量部併用した点を除いて実施例19と同様にして、実施例21に係る前処理液を調製した。
【0189】
この実施例21に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例19と同様にして、実施例21に係る評価サンプルを作製した。この評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0190】
(実施例22、23)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例22または実施例23に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、次の点を除いて実施例14と同様にして、実施例22または実施例23に係る前処理液を調製した。実施例22では、凝集剤として、ギ酸を1.5質量部および略号4AMの第四級アンモニウム塩を2質量部、略号PAM1のカチオン性ポリマーを5質量部併用した。実施例23では、凝集剤として、ギ酸を1.5質量部および略号4AMの第四級アンモニウム塩を2質量部、略号PAM2のカチオン性ポリマーを5質量部併用した。
【0191】
これら実施例22または実施例23に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例14と同様にして、実施例22または実施例23に係る評価サンプルを作製した。この評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0192】
(実施例24、25)
表2に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、実施例24または実施例25に係る白インクを調製した。実施例24では、酸化チタン粒子として、平均粒子径50nmのものを用いた。実施例25は、酸化チタン粒子として、平均粒子径200nmのものを用いた。これら白インクの沈降性を、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、実施例19と同様にして(略号PAM1のカチオン性ポリマーを5質量部、および、略号4AMの第四級アンモニウム塩を2質量部併用して)、実施例24または実施例25に係る前処理液を調製した。
【0193】
これら実施例24または実施例25に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例19と同様にして、実施例24または実施例25に係る評価サンプルを作製した。この評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0194】
(実施例26)
表2に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、実施例26に係る白インクを調製した。実施例26では、白インクにおける酸化チタン粒子の含有量を7.0質量部とした。この白インクの沈降性を、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、実施例19と同様にして、実施例26に係る前処理液を調製した。
【0195】
この実施例26に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例19と同様にして、実施例26に係る評価サンプルを作製した。この評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0196】
(実施例27)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例27に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。実施例19と同様にして、実施例27に係る評価サンプルを作製した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、次の点を除いて実施例19と同様にして、実施例27に係る前処理液を調製した。実施例27では、凝集剤として、略号4AMの第四級アンモニウム塩を2質量部、表1に示す略号PAM3(製品名PAS-92A)のカチオン性ポリマーを5質量部(固形分換算)で併用するとともに、インク中の樹脂粒子として、表1に示す略号PAc(製品名モビニール6763)10質量部(固形分換算)を用いた。
【0197】
この実施例27に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、実施例19と同様にして、実施例27に係る評価サンプルを作製した。この評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0198】
(実施例28)
表2に示すように、実施例1と同様にして、実施例28に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表2に示す。また、表2に示すように、実施例19と同様にして、実施例28に係る前処理液を調製した。
【0199】
この実施例28に係る前処理液および白インクを用いて、表2に示すように、次の点を除いて実施例19と同様にして、実施例28に係る評価サンプルを作製した。実施例28では、前処理液の塗布量を30mg/cm2 として、前処理液と白インクとの塗布量の比を2:1とした。この評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表2に示す。
【0200】
【0201】
(比較例1、2)
表3に示すように、次の点を除いて実施例19と同様にして、比較例1または比較例2に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。比較例1では、酸化チタン粒子として、平均粒子径300nmのものを用いた。比較例2では、平均粒子径10nmのものを用いた。その結果を表3に示す。また、表3に示すように、実施例19と同様にして、比較例1または比較例2に係る前処理液を調製した。
【0202】
これら比較例1または比較例2に係る前処理液および白インクを用いて、表3に示すように、実施例19と同様にして、比較例1または比較例2に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表3に示す。
【0203】
(比較例3、4)
表3に示すように、実施例1と同様にして、比較例3または比較例4に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表3に示す。また、表3に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、比較例3または比較例4に係る前処理液を調製した。比較例3では、凝集剤として、略号4AMの第四級アンモニウム塩のみを2質量部用いた。比較例4では、凝集剤として、略号4AMの第四級アンモニウム塩のみを5質量部用いた。
【0204】
また、これら比較例3または比較例4に係る白インクを用いて、表3に示すように、比較例3または比較例4に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表3に示す。
【0205】
(比較例5~7)
表3に示すように、実施例1と同様にして、比較例5~7に係る白インクを調製して、前述した手法により沈降性を評価した。その結果を表3に示す。また、表3に示すように、次の点を除いて実施例1と同様にして、比較例5~7に係る前処理液を調製した。比較例5では、凝集剤として、有機酸またはカチオン性ポリマーではなく、多価金属塩である硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3 )2・4H2 O,表3では「CNT」と略記)を9.6質量部の含有量で用いた。比較例6では、凝集剤として、塩化カルシウム(CaCl2 )を0.83質量部の含有量で用いた。比較例7では、凝集剤として、塩化カルシウム(CaCl2 )を4.5質量部(比較例7)の含有量で用いた。
【0206】
また、これら比較例5~7に係る白インクを用いて、表3に示すように、実施例1と同様にして、比較例5~7に係る評価サンプルを作製した。これら評価サンプルにおける白色画像の白色度、青味、割れおよび布材の固さを、前述した手法により評価した。その結果を表3に示す。
【0207】
【0208】
(実施例および比較例の対比)
実施例1~28に示すように、本開示に係る前処理液であれば、平均粒子径が10nm超200nm以下の範囲内にある酸化チタン粒子を用いて白インクを調製しても、良好な顔料沈降性(酸化チタン粒子が沈降しにくい性質、前記評価でA以上)を実現できる。また、本開示に係る前処理液であれば、形成される白色画像において青味を抑制して(前記評価でC以上)良好な白色度を実現できる(前記評価でD以上)。さらには、本開示に係る前処理液であれば、白色画像における割れの発生も有効に抑制できる(前記評価でB以上)とともに、白色画像が形成された布材も、良好になる柔軟性を有し、固さを抑制できる(前記評価でC以上)ものとなる。
【0209】
特に、前処理液が含有する凝集剤の含有量を変化させても(実施例1~6)、白色画像において良好な白色度を実現できる(前記評価でC以上)。また、凝集剤の含有量を変化させても、白色画像の青味を良好に抑制できる(前記評価でC以上)とともに、白色画像の割れも有効に抑制できる(前記評価でA)。また、凝集剤の含有量を変化させても、白色画像が形成された布材の固さを抑制し良好な柔軟性を実現できる(前記評価でA)。
【0210】
また、凝集剤として用いられる有機酸の種類を変えても(実施例3,7,8)、いずれも良好な結果を実現できる。すなわち、この条件でも、白色画像において青味を抑制して(前記評価でB)良好な白色度を実現できる(前記評価でA)。また、この条件でも、白色画像の割れを有効に抑制できる(前記評価でA)とともに、白色画像が形成された布材の固さを抑制し良好な柔軟性を実現できる(前記評価でC以上)。
【0211】
同様に、凝集剤として、PAM1またはPAM2のカチオン性ポリマーを用いて含有量を変化させても(実施例9~13)、いずれも良好な結果を実現できる。すなわち、この条件でも、カチオン性ポリマーの含有量が相対的に少なくても良好な白色度を実現できる(前記評価でD以上)。また、この条件でも、白色画像において青味を良好に抑制できる(前記評価でC以上)。また、この条件でも、白色画像が形成された布材の固さを抑制し良好な柔軟性を実現できる(前記評価でCまたはB)。
【0212】
また、凝集剤として、第四級アンモニウム塩(4AM)と有機酸またはカチオン性ポリマーとを併用した場合にも(実施例14~21)、いずれも良好な結果を実現できる。すなわち、この条件でも、白色画像において良好な白色度を実現できる(前記評価でB以上)とともに、白色画像の青味も良好に抑制できる(前記評価でC以上)。また、この条件でも、白色画像の割れを抑制でき(前記評価でB以上)、白色画像が形成された布材の固さを抑制し良好な柔軟性を実現できる(前記評価でB以上)。特に第四級アンモニウム塩とカチオン性ポリマーとの組合せを好適化することで(実施例18~21)、白色度をより一層良好にできる(前記評価でAA)とともに、これ以外の評価もいずれも良好にできる(前記評価でA)。
【0213】
同様に、凝集剤として、第四級アンモニウム塩、有機酸、およびカチオン性ポリマーの3種類を併用した場合にも(実施例22および実施例23)、いずれも良好な結果を実現できる。すなわち、この条件でも、白色画像において良好な白色度を実現できる(前記評価でA以上)とともに、白色画像の青味も良好に抑制できる(前記評価でB)。また、これら以外の評価もいずれも良好にできる(前記評価でA)。
【0214】
また、第四級アンモニウム塩とカチオン性ポリマーとの併用を基準として(実施例19)、酸化チタン粒子の平均粒子径を変化させたり含有量を変化させたりしても(実施例24~26)、いずれも良好な結果を実現できる。すなわち、この条件でも、白色画像において良好な白色度を実現できる(前記評価でBまたはAA)とともに、白色画像の青味も良好に抑制できる(前記評価でB以上)。また、これら以外の評価もいずれも良好にできる(前記評価でA)。なお、酸化チタン粒子の平均粒子径が大きくなると顔料沈降性に影響が生じる(実施例25)。
【0215】
さらに、第四級アンモニウム塩とカチオン性ポリマーとの併用を基準として(実施例19)、カチオン性ポリマーおよび樹脂粒子の種類を変えても(実施例27)、いずれも良好な結果を実現できる。すなわち、この条件でも、白色画像において良好な白色度を実現できる(前記評価でAA)とともに、これ以外の評価もいずれも良好にできる(前記評価でA)。また、また白インクに対する前処理液の塗布量を低減しても(実施例28)、良好な結果を実現できる。すなわち、この条件でも、白色画像において良好な白色度を実現できる(前記評価でD)とともに、白色画像の青味を良好に抑制できる(前記評価でB)。また、この条件でも、白色画像の割れを有効に抑制できる(前記評価でB)とともに、白色画像が形成された布材の固さを抑制し良好な柔軟性を実現できる(前記評価でB)。
【0216】
これに対して、第四級アンモニウム塩とカチオン性ポリマーとの併用を基準として(実施例19)、酸化チタン粒子の平均粒子径を大きくしすぎると(比較例1)、顔料沈降性以外の評価を良好にできる(前記評価でAまたはAA)が、顔料沈降性が低下する(前記評価でC)。また、酸化チタン粒子の平均粒子径を小さくしすぎると(比較例2)、白色度以外の評価を良好にできる(前記評価でA)が、白色度が低下する(前記評価でE)。
【0217】
さらに、凝集剤として第四級アンモニウム塩のみを用いると(比較例3および比較例4)、第四級アンモニウム塩の含有量を増やしても白色度が低下する(前記評価でE)。また、凝集剤として多価金属塩を用いると(比較例5~7)、割れ以外の評価は良好にできる(前記評価でA)が、割れの評価が低下する(前記評価でC)。
【0218】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。