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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108981
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ドラフト装置及び紡績機
(51)【国際特許分類】
   D01H 5/58 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
D01H5/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013686
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】窪田 勇一
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056BC02
4L056BC04
4L056BG04
4L056BG38
4L056DA12
4L056DA26
4L056DA28
(57)【要約】
【課題】エプロンベルトを円滑にトラバースさせる。
【解決手段】ドラフト装置は、フロントボトムローラ51と、第1支持部61と、ミドルボトムローラ52と、第2支持部62と、テンサバー56と、ボトムエプロンベルト57と、エプロントラバース装置84と、を備える。第1支持部61は、フロントボトムローラ51を回転可能に支持する。第2支持部62は、ミドルボトムローラ52を回転可能に支持する。ボトムエプロンベルト57は、テンサバー56とミドルボトムローラ52に巻き掛けられる。エプロントラバース装置84は、ボトムエプロンベルト57をトラバースする。エプロントラバース装置84は、トラバース方向を案内するために、2つの支点部材87からなるスライド案内部を備える。スライド案内部が、第1支持部61又は第2支持部62に取り付けられている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ニップローラとの間で繊維束を挟み込む第1ローラと、
前記第1ローラを回転可能に支持する第1支持部と、
前記第1ローラよりも繊維走行方向の上流側に配置される第2ローラと、
前記第2ローラを回転可能に支持する第2支持部と、
ベルト案内部材と、
前記ベルト案内部材と前記第2ローラに巻き掛けられ、ニップエプロンベルトとの間で繊維束を挟み込むエプロンベルトと、
前記エプロンベルトをトラバースするエプロントラバース装置と、
を備え、
前記エプロントラバース装置は、トラバース方向を案内するスライド案内部を備え、
前記スライド案内部が、前記第1支持部又は第2支持部に固定されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドラフト装置であって、
前記第2ローラよりも繊維走行方向の上流側に配置され、第3ニップローラとの間で繊維束を挟み込む第3ローラと、
前記第3ローラよりも繊維走行方向の上流側に配置され、第4ニップローラとの間で繊維束を挟み込む第4ローラと、
ベース部材と、
を備え、
前記スライド案内部が固定されている前記第1支持部又は前記第2支持部は、前記ベース部材に固定的に設けられ、
前記第3ローラ及び前記第4ローラは、前記ベース部材に対してドラフト方向に位置調整可能であることを特徴とするドラフト装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のドラフト装置であって、
前記エプロントラバース装置は、
前記エプロンベルトを移動させる作用部が設けられたアーム部材と、
前記アーム部材を前記トラバース方向に駆動する駆動部と、
を備え、
前記スライド案内部は、前記アーム部材の前記トラバース方向を案内し、
前記スライド案内部が前記第2支持部に固定されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項4】
請求項3に記載のドラフト装置であって、
前記スライド案内部は、2つの支点部材を含み、
2つの前記支点部材のそれぞれが、前記アーム部材に形成された長孔に配置されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項5】
請求項4に記載のドラフト装置であって、
前記エプロントラバース装置は、回転カムを備え、
前記回転カムの回転軸と、前記長孔は、同じ高さ領域に設けられていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項6】
請求項3に記載のドラフト装置であって、
ベース部材と、
前記駆動部を前記ベース部材に対して固定するブラケットと、
を備え、
前記ブラケットは、
前記駆動部が固定される固定部と、
前記駆動部よりも前記ベース部材に近い側に位置する基部と、
を備え、
前記基部には、3つの孔が前記トラバース方向に沿う方向に並んで形成されており、
前記スライド案内部が固定されている前記第1支持部又は前記第2支持部は、前記ベース部材に固定的に設けられ、
前記基部に形成された3つの孔のうち2つの孔には、前記ベース部材に固定された位置決め突起が挿入され、残りの1つの孔には固定部材が挿入されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項7】
請求項3又は6に記載のドラフト装置であって、
繊維束が走行可能な繊維束経路が2つ形成され、
2つの繊維束経路それぞれの繊維束をドラフトするために、前記第1ローラ、前記第2ローラ、及び前記エプロンベルトをそれぞれ2つ備え、
前記ドラフト装置は、前記アーム部材を2つ備え、
前記エプロントラバース装置は、2つの前記アーム部材の連結及び分離を可能とする連結部を備えることを特徴とするドラフト装置。
【請求項8】
請求項7に記載のドラフト装置であって、
前記連結部は、磁石、ネジ、フック、及びクリップのうち少なくとも何れかであることを特徴とするドラフト装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のドラフト装置であって、
前記連結部の連結力が、前記トラバース方向に直交する方向であって、ドラフト方向に沿う方向を向くことを特徴とするドラフト装置。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載のドラフト装置であって、
前記トラバースが行われているか否かを検出する検出部と、
前記トラバースが行われていないことが前記検出部により検出された場合に、アラームを出力する出力部と、
を備えることを特徴とするドラフト装置。
【請求項11】
請求項1から10までの何れか一項に記載のドラフト装置であって、
前記第1ニップローラ及び前記ニップエプロンベルトを支持するドラフトクレードルを備えることを特徴とするドラフト装置。
【請求項12】
請求項1から11までの何れか一項に記載のドラフト装置と、
前記ドラフト装置によってドラフトされた繊維束を紡績する空気紡績装置と、
前記空気紡績装置により紡績された糸を引き出す引出装置と、
前記引出装置により引き出された糸を巻き取る巻取装置と、
を備えることを特徴とする紡績機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、繊維束をドラフトするドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の空気紡績装置を備え、それぞれの空気紡績装置に対応してドラフトローラ対が配置された紡績機が知られている。特許文献1は、この種の紡績機を開示する。
【0003】
特許文献1の紡績機は、ドラフト部においてエプロンベルトが取り付けられている。エプロンベルトは、繊維束との接触に伴って摩耗し易い。特許文献1の紡績機は、トラバース装置を用いてエプロンベルトをトラバースさせることで、エプロンベルトの交換周期を延ばしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-066820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1において、エプロンベルトをトラバースさせるための支持部は、1対の規制部を介して、往復移動可能に支持される。規制部の取付位置の精度が低い場合、支持部の往復移動に対する抵抗等が生じ、トラバース動作の円滑さが低下する。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、エプロンベルトを円滑にトラバースさせることにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のドラフト装置が提供される。即ち、ドラフト装置は、第1ローラと、第1支持部と、第2ローラと、第2支持部と、ベルト案内部材と、エプロンベルトと、エプロントラバース装置と、を備える。前記第1ローラは、第1ニップローラとの間で繊維束を挟み込む。前記第1支持部は、前記第1ローラを回転可能に支持する。前記第2ローラは、前記第1ローラよりも繊維走行方向の上流側に配置される。前記第2支持部は、前記第2ローラを回転可能に支持する。前記エプロンベルトは、前記ベルト案内部材と前記第2ローラに巻き掛けられ、ニップエプロンベルトとの間で繊維束を挟み込む。前記エプロントラバース装置は、前記エプロンベルトをトラバースする。前記エプロントラバース装置は、トラバース方向を案内するスライド案内部を備える。前記スライド案内部が、前記第1支持部又は第2支持部に固定されている。
【0008】
これにより、エプロンベルトをトラバースさせるために往復移動する部材の位置を、第1支持部又は第2支持部を基準として定めることができる。従って、トラバースの位置精度が向上するので、円滑なトラバース動作を実現することができる。また、トラバース中にエプロンベルトがエプロントラバース装置から外れることを防止できる。
【0009】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、ドラフト装置は、第3ローラと、第4ローラと、ベース部材と、を備える。前記第3ローラは、前記第2ローラよりも繊維走行方向の上流側に配置され、第3ニップローラとの間で繊維束を挟み込む。前記第4ローラは、前記第3ローラよりも繊維走行方向の上流側に配置され、第4ニップローラとの間で繊維束を挟み込む。前記スライド案内部が固定されている前記第1支持部又は前記第2支持部は、前記ベース部材に固定的に設けられる。前記第3ローラ及び前記第4ローラは、前記ベース部材に対してドラフト方向に位置調整可能である。
【0010】
これにより、固定的に配置される第1支持部又は第2支持部を基準として、エプロンベルトをトラバースさせるために往復移動する部材の位置が定められる。従って、往復移動する部材の位置精度を向上させることができる。
【0011】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記エプロントラバース装置は、アーム部材と、駆動部と、を備える。前記アーム部材には、前記エプロンベルトを移動させる作用部が設けられる。前記駆動部は、前記アーム部材を前記トラバース方向に駆動する。前記スライド案内部は、前記アーム部材の前記トラバース方向を案内する。前記スライド案内部が前記第2支持部に固定されている。
【0012】
これにより、第2支持部を基準としてアーム部材が2点支持されるので、簡単な構成により、第2支持部に対するアーム部材の位置精度を向上させることができる。
【0013】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記スライド案内部は、2つの支点部材を含む。2つの支点部材のそれぞれが、前記アーム部材に形成された長孔に配置されている。
【0014】
これにより、長孔を用いた簡単な構成により、アーム部材のトラバース方向を案内することができる。
【0015】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記エプロントラバース装置は、回転カムを備える。前記回転カムの回転軸と、前記長孔は、同じ高さ領域に設けられている。
【0016】
これにより、力が回転カムからアーム部材に効率的に伝達されるので、アーム部材を円滑に往復移動させることができる。
【0017】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、ドラフト装置は、ベース部材と、ブラケットと、を備える。前記ブラケットは、前記駆動部を前記ベース部材に対して固定する。前記ブラケットは、固定部と、基部と、を備える。前記固定部には、前記駆動部が固定される。前記基部は、前記駆動部よりも前記ベース部材に近い側に位置する。前記基部には、3つの孔が前記トラバース方向に沿う方向に並んで形成されている。前記スライド案内部が固定されている前記第1支持部又は前記第2支持部は、前記ベース部材に固定的に設けられる。前記基部に形成された3つの孔のうち2つの孔には、前記ベース部材に固定された位置決め突起が挿入され、残りの1つの孔には固定部材が挿入されている。
【0018】
これにより、1つの固定部材だけによって駆動部をベース部材に対して位置決めしつつ固定することができるので、作業効率に優れる。
【0019】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このドラフト装置には、繊維束が走行可能な繊維束経路が2つ形成される。2つの繊維束経路それぞれの繊維束をドラフトするために、前記第1ローラ、前記第2ローラ、及び前記エプロンベルトをそれぞれ2つ備える。前記ドラフト装置は、前記アーム部材を2つ備える。前記エプロントラバース装置は、2つの前記アーム部材の連結及び分離を可能とする連結部を備える。
【0020】
これにより、連結部を用いて2つのアーム部材を連結することにより、1つの駆動部により2つのエプロンベルトをトラバースさせることができる。必要に応じて2つのアーム部材を互いに分離することができるので、製造及びメンテナンス作業の効率を向上させることができる。
【0021】
前記のドラフト装置においては、前記連結部は、磁石、ネジ、フック、及びクリップのうち少なくとも何れかであることが好ましい。
【0022】
これにより、簡単な構成により、2つのアーム部材の連結及び分離を実現することができる。
【0023】
前記のドラフト装置においては、前記連結部の連結力が、前記トラバース方向に直交する方向であって、ドラフト方向に沿う方向を向くことが好ましい。
【0024】
これにより、コンパクトな構成により、2つのアーム部材を安定的に連結することができる。
【0025】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、ドラフト装置は、検出部と、出力部と、を備える。前記検出部は、前記トラバースが行われているか否かを検出する。前記出力部は、前記トラバースが行われていないことが前記検出部により検出された場合に、アラームを出力する。
【0026】
これにより、例えば駆動部の異常によってトラバースが行われていない状況に、作業者が早期に気付いて対処することができる。
【0027】
前記のドラフト装置においては、前記第1ニップローラ及び前記ニップエプロンベルトを支持するドラフトクレードルを備えることが好ましい。
【0028】
これにより、簡素な構成により、ドラフトローラ対により繊維束を挟み込んでドラフトすることができる。
【0029】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の紡績機が提供される。即ち、紡績機は、ドラフト装置と、空気紡績装置と、引出装置と、巻取装置と、を備える。前記空気紡績装置は、前記ドラフト装置によってドラフトされた繊維束を紡績する。前記引出装置は、前記空気紡績装置により紡績された糸を引き出す。前記巻取装置は、前記引出装置により引き出された糸を巻き取る。
【0030】
これにより、エプロンベルトのトラバースを確実に行いながら繊維束をドラフトし、ドラフトされた繊維束を紡績して糸を生成することができる。その結果、生成される糸の品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の正面図。
図2】紡績ユニットの側面図。
図3】ドラフト装置を模式的に示す側面図。
図4】ドラフト装置の斜視図。
図5】ドラフト装置の斜視図。
図6】ドラフト装置の斜視図。
図7】エプロントラバース装置の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の一実施形態に係るドラフト装置5を備える紡績機1について、図面を参照して説明する。図1に示す紡績機1は、並設された複数の紡績ユニット2と、フレーム3と、糸継台車30と、を備える。
【0033】
図2に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、繊維束ガイド4と、ドラフト装置5と、空気紡績装置6と、糸監視装置7と、糸貯留装置(引出装置)8と、巻取装置9と、を備える。紡績ユニット2が備える各装置は、フレーム3によって支持されている。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での繊維束及び糸の走行方向における上流及び下流を意味する。
【0034】
繊維束ガイド4は、図略のスライバケースから供給される繊維束10をガイドする。繊維束ガイド4がガイドした繊維束10は、ドラフト装置5に供給される。
【0035】
ドラフト装置5は、繊維束10をドラフトする。ドラフト装置5は、ドラフトを行うための部材として、ドラフトボトムローラ群5aと、ドラフトトップローラ群5bと、を備える。ドラフトボトムローラ群5aは、複数のドラフトボトムローラを備える。ドラフトボトムローラは、図示しないモータにより回転駆動される。ドラフトトップローラ群5bは、複数のドラフトトップローラを有する。ドラフトボトムローラとドラフトトップローラは対向するように配置されている。ドラフトボトムローラとドラフトトップローラとの間に繊維束10を挟み込んで搬送することにより、繊維束10を引き延ばすことができる。ドラフト装置5の詳細については後述する。
【0036】
空気紡績装置6は、内部に旋回空気流を発生させて、空気紡績を行うことができる。空気紡績装置6は、ドラフト装置5から供給された繊維束10に対して旋回空気流により撚りを加えて紡績することにより、糸15を生成する。なお、空気紡績装置6に代えて、リング紡績を行う装置を用いてもよい。
【0037】
空気紡績装置6により生成された糸15は、糸監視装置7を通過する。糸監視装置7は、走行する糸15の太さを、図略の光学式のセンサによって監視する。糸監視装置7は、糸15の糸欠陥(例えば糸15の太さ等に異常がある箇所)を検出した場合に、糸欠陥検出信号をユニット制御部26へ送信する。ユニット制御部26は、糸欠陥検出信号を受信した場合、糸15を切断する。ユニット制御部26は、空気紡績装置6を停止させて糸15を切断してもよいし、カッタを駆動して糸15を切断してもよい。なお、糸監視装置7は光学式のセンサに限らず、例えば静電容量式のセンサにより糸15の太さを監視してもよい。また、糸欠陥として、糸15に含まれる異物、及び/又は糸15のテンションの異常を監視してもよい。
【0038】
糸監視装置7を通過した糸15は、巻取装置9によってボビン17に巻き取られる。巻取装置9は、糸15を巻き取ってパッケージ18を形成する。巻取装置9は、クレードルアーム19と、巻取ドラム20と、トラバース装置21と、を備える。
【0039】
クレードルアーム19は、糸15を巻き取るためのボビン17を回転可能に支持する。巻取ドラム20は、前記ボビン17の外周面又は前記パッケージ18の外周面に接触して回転駆動されることにより、前記ボビン17(又はパッケージ18)を従動回転させる。トラバース装置21は、トラバースガイド22を備える。トラバースガイド22は、糸15に係合してボビン17の巻幅方向に駆動される。これにより、ボビン17に巻き取られる糸15をトラバースすることができる。
【0040】
以上の構成の紡績ユニット2により、繊維束10から糸15を生成して、ボビン17に巻き取ることができる。
【0041】
本実施形態の紡績機1では、糸監視装置7と巻取装置9の間に、糸貯留装置8が配置されている。糸貯留装置8は、図2に示すように、糸貯留ローラ23と、当該糸貯留ローラ23を回転駆動する電動モータ25と、を備える。
【0042】
電動モータ25が糸貯留ローラ23を回転駆動することにより、糸貯留装置8が空気紡績装置6から糸15を引き出す。糸貯留ローラ23は、引き出した糸15を外周面に巻き付けて一時的に貯留できる。このように糸15を一時的に貯留するので、糸貯留装置8は一種のバッファとして機能する。これにより、空気紡績装置6における紡績速度と、巻取装置9における巻取速度と、が何らかの理由により一致しない場合の不具合(例えば糸15の弛みなど)を解消することができる。
【0043】
それぞれの紡績ユニット2は、ユニット制御部26を備える。ユニット制御部26は、紡績ユニット2が備える各構成を制御する。1つのユニット制御部26が、2以上の所定数の紡績ユニット2を制御するように構成されてもよい。
【0044】
糸継台車30は、図1及び図2に示すように、糸継装置31と、サクションパイプ32と、サクションマウス33と、を備える。
【0045】
糸継装置31は、糸端同士を接合するための装置である。糸継装置31の構成は特に限定されないが、例えば旋回空気流によって糸端同士を撚り合わせる空気式のスプライサを採用できる。糸継装置31は、糸端同士を機械的に結ぶノッターであってもよい。前記サクションパイプ32は、空気紡績装置6から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉して、糸継装置31へ案内する。サクションマウス33は、巻取装置9に支持されたパッケージ18から糸端を吸引しつつ捕捉して、糸継装置31へ案内する。
【0046】
糸継装置31は、サクションパイプ32及びサクションマウス33によって案内された糸端同士の接合を行う。これにより、切断された糸15が、空気紡績装置6と巻取装置9の間で再び連続状態になる。
【0047】
次に、図3を参照して、ドラフト装置5について説明する。
【0048】
図3に示すように、ドラフト装置5は、ドラフトベース(ベース部材)50を備える。ドラフトベース50は、フレーム状又はブロック状の部材である。ドラフトベース50は、適宜の手段によってフレーム3に固定される。
【0049】
ドラフトベース50には、ドラフトボトムローラ群5aと、空気紡績装置6と、が取り付けられている。ドラフトベース50は、ドラフトボトムローラ群5aと、空気紡績装置6と、を支持する。図3に示すように、ドラフトボトムローラ群5aは、繊維走行方向の下流から上流に向かって順に並べられた、フロントボトムローラ(第1ローラ)51と、ミドルボトムローラ(第2ローラ)52と、サードボトムローラ(第3ローラ)53と、バックボトムローラ(第4ローラ)54と、から構成される。ミドルボトムローラ52よりも繊維走行方向の下流側には、テンサバー(ベルト案内部材)56が配置されている。ミドルボトムローラ52及びテンサバー56には、ボトムエプロンベルト(エプロンベルト)57が巻き掛けられている。ドラフト装置5において繊維束10は繊維走行方向にドラフトされるので、ドラフト方向は繊維走行方向と平行である。
【0050】
ドラフト装置5は、図示しない複数のモータを備える。それぞれのモータは、フロントボトムローラ51、ミドルボトムローラ52、サードボトムローラ53及びバックボトムローラ54をそれぞれ回転駆動することができる。
【0051】
図3に示すように、ドラフト装置5は、ドラフトクレードル70を備える。ドラフトクレードル70にはドラフトトップローラ群5bが取り付けられており、ドラフトクレードル70はドラフトトップローラ群5bを支持する。ドラフトクレードル70は、ドラフトベース50に対して開閉可能である。ドラフトクレードル70を閉じることにより、ドラフトトップローラ群5bがドラフトボトムローラ群5aに接触又は近接する。図3に示すように、ドラフトトップローラ群5bは、繊維走行方向の下流から上流に向かって順に並べられた、フロントトップローラ(第1ニップローラ)71と、ミドルトップローラ72と、サードトップローラ(第3ニップローラ)73と、バックトップローラ(第4ニップローラ)74と、から構成される。また、ミドルトップローラ72には、トップエプロンベルト(ニップエプロンベルト)77が巻き掛けられている。
【0052】
図4に示すように、本実施形態では、1つのドラフトベース50に対し、2つのドラフトボトムローラ群5a及び2つの空気紡績装置6が並べて配置されている。言い換えれば、本実施形態では、1つのドラフトベース50に対して2つの繊維束経路が並べて配置される。1つのドラフトベース50における2つのドラフトボトムローラ群5a及び2つの空気紡績装置6のそれぞれの並列方向は、ドラフトボトムローラ群5aを構成する各ドラフトローラの軸方向と平行である。以下、ドラフトボトムローラ群5aの各ドラフトローラの軸方向に平行な方向を、ローラ軸方向と呼ぶことがある。2つのドラフトボトムローラ群5a及びその支持構造は対称線L1に関して対称な構造であるため、まとめて説明する。対称線L1は、2つの繊維束経路の中間位置に配置されている。
【0053】
2つの繊維束経路に平行な平面へ、ドラフトベース50及び2つの繊維束経路が、平面に垂直な向きに投影された投影面を考える。この投影面において、ドラフトベース50は、2つの繊維束経路の間に配置されている。詳細には、ローラ軸方向及び繊維走行方向の両方に直交する方向で見たときに、投影面において、2つのドラフトボトムローラ群5aの間を含む位置にドラフトベース50が配置されている。これにより、2つのドラフトボトムローラ群5aに対して1つのドラフトベース50を設けることができる。ドラフトベース50は、前述の対称線L1に関して実質的に対称に形成されている。
【0054】
図4に示すように、ドラフト装置5は、第1支持部61と、第2支持部62と、第3支持部63と、第4支持部64と、を備える。第1支持部61、第2支持部62、第3支持部63、及び第4支持部64のそれぞれは、ドラフトベース50に一体的に形成され、又は、ドラフトベース50に直接的に又は間接的に取り付けられている。
【0055】
第1支持部61は、フロントボトムローラ51を片持ちで支持する。第2支持部62は、ミドルボトムローラ52を片持ちで支持する。第3支持部63は、サードボトムローラ53を両持ちで支持する。第4支持部64は、バックボトムローラ54を両持ちで支持する。
【0056】
第1支持部61は、1つのフロントボトムローラ51に対して1つ設けられている。第1支持部61は、フロントボトムローラ51の端部のうち、対称線L1に近い側の端部を支持する。第2支持部62は、1つのミドルボトムローラ52に対して1つ設けられている。第2支持部62は、ミドルボトムローラ52の端部のうち、対称線L1に近い側の端部を支持する。
【0057】
第1支持部61は、ドラフトベース50から上方へ突出するように、ドラフトベース50と一体的に形成されている。第2支持部62は、ドラフトベース50に、図示しない固定部材(例えば、ネジ)によって固定されている。
【0058】
第2支持部62の上部には、固定用アーム58が固定されている。固定用アーム58は、対称線L1から離れる向きに第2支持部62から突出するように延びており、その端部にテンサバー56が固定されている。テンサバー56は、フロントボトムローラ51とミドルボトムローラ52の間に配置されている。
【0059】
第3支持部63は、2つのサードボトムローラ53に対して1つ設けられ、2つのサードボトムローラ53の間を繋ぐように配置されている。第4支持部64は、2つのバックボトムローラ54に対して1つ設けられ、2つのバックボトムローラ54の間を繋ぐように配置されている。ドラフトベース50には、1対の長孔81が形成されている。それぞれの長孔81は、繊維走行方向に沿って細長く形成されている。第3支持部63及び第4支持部64のそれぞれは、固定部材としての1対のネジ82により、長孔81に固定されている。ネジ82を緩めることにより、第3支持部63及び/又は第4支持部64を長孔81に沿って移動させ、所望の位置においてネジ82を締め付けて固定することができる。1対の長孔81と1対のネジ82を有する調整機構83により、サードボトムローラ53とバックボトムローラ54の繊維走行方向の位置を個別に調整することができる。
【0060】
次に、ボトムエプロンベルト57を所定のストロークでトラバースさせるエプロントラバース装置84について説明する。
【0061】
エプロントラバース装置84は、ドラフトベース50に配置される。エプロントラバース装置84は、アーム部材85と、モータ(駆動部)86と、を備える。
【0062】
アーム部材85は、1つのボトムエプロンベルト57に対して1つ設けられている。アーム部材85は、ローラ軸方向に細長い板状の部材である。アーム部材85は、鉄等の金属で形成されている。第1支持部61と第2支持部62との間には、ローラ軸方向に細長い隙間が形成されている。アーム部材85は、その厚み方向を繊維走行方向に向けた状態で、この隙間に差し込まれて配置される。アーム部材85は、ローラ軸方向にスライド移動可能に、第2支持部62に支持されている。
【0063】
1つの第2支持部62には、2つの支点部材87が並べて配置される。2つの支点部材87は、ボトムエプロンベルト57のトラバース方向を案内するスライド案内部を構成する。以下では、ボトムエプロンベルト57のトラバース方向をエプロントラバース方向と呼ぶ場合がある。それぞれの支点部材87は、外周にリング溝が形成された短い円柱状の部材である。リング溝の幅は、アーム部材85の厚みにほぼ等しい。それぞれの支点部材87は、第2支持部62に対して回転可能に支持される。2つの支点部材87が並べられる方向はローラ軸方向と一致している。2つの支点部材87に対応して、アーム部材85には、2つの長孔88が形成されている。それぞれの長孔88は、ローラ軸方向に細長く形成されている。長孔88の幅は、前記リング溝の部分における支点部材87の直径とほぼ等しい。それぞれの支点部材87のリング溝の部分が、長孔88に差し込まれる。これにより、支点部材87は、アーム部材85の移動方向がローラ軸方向に沿うように案内することができる。
【0064】
支点部材87の大径部分は、適宜の機構によって、リング溝の部分に対して分離可能に構成されている。これにより、アーム部材85の長孔88の部分を、支点部材87のリング溝に挿入することができる。
【0065】
アーム部材85は、対称線L1から離れる向きに第2支持部62から突出する。この突出部分は、テンサバー56よりも下方に位置している。アーム部材85の前記突出部分に、作用部89が形成されている。作用部89は、上方を開放させた凹部である。凹部の幅は、ボトムエプロンベルト57の幅に対応している。ミドルボトムローラ52とテンサバー56に巻き掛けられたボトムエプロンベルト57は、凹部を通過する。
【0066】
アーム部材85をローラ軸方向に往復移動させることにより、作用部89を介して、ボトムエプロンベルト57をローラ軸方向に往復移動させることができる。これにより、繊維束経路に対してボトムエプロンベルト57を周期的に移動させることができる。この結果、ボトムエプロンベルト57の摩耗を軽減できるので、ボトムエプロンベルト57の交換等のメンテナンス作業の頻度を減らすことができる。
【0067】
モータ86は、2つのアーム部材85に対して1つ設けられている。以下、2つのアーム部材85のうち正面(空気紡績装置6側、繊維走行方向の下流側)から見て左側に位置するアーム部材を左アーム部材85Lと呼び、右側に位置するアーム部材を右アーム部材85Rと呼ぶことがある。
【0068】
モータ86は、1対で配置された第2支持部62の間に配置されている。モータ86は、例えばステッピングモータとして構成されるが、これに限定されない。モータ86のハウジングは、側面視においてL字状に形成されたモータブラケット(ブラケット)65を介して、ドラフトベース50に固定されている。
【0069】
モータ86の出力軸は繊維走行方向とほぼ平行に配置されている。モータ86の出力軸には偏心カム(回転カム)90が固定されている。偏心カム90に近接して、従動部91が配置されている。従動部91には、偏心カム90を差し込むことが可能な、図5の上下方向に細長いカム孔92が形成されている。2つのアーム部材85は、従動部91を介して連結される。モータ86が駆動すると偏心カム90が回転する。この回転運動は、カム孔92を介して、従動部91のローラ軸方向の往復運動に変換される。従って、従動部91に固定されている2つのアーム部材85を介して、2つのボトムエプロンベルト57をトラバースさせることができる。
【0070】
従動部91は、第1従動部材91a及び第2従動部材91bから構成されている。第1従動部材91a及び第2従動部材91bは何れも、矩形の板状に形成されている。第1従動部材91a及び第2従動部材91bは何れも、例えば合成樹脂により構成することができる。第1従動部材91a及び第2従動部材91bのそれぞれには、カム孔92が形成されている。
【0071】
第1従動部材91aは、左アーム部材85Lにネジ止めにより固定されている。第1従動部材91aにおいて、左アーム部材85Lにネジ止めされている部分と、カム孔92を挟んで反対側には、磁石(連結部)93aが固定されている。この磁石93aは、繊維走行方向とほぼ平行な向きに吸着力を生じさせる。この磁石93aを右アーム部材85Rの端部に近づけることにより、右アーム部材85Rを、磁力によって第1従動部材91aに固定することができる。
【0072】
第2従動部材91bは、右アーム部材85Rにネジ止めにより固定されている。第2従動部材91bは、左アーム部材85L及び右アーム部材85Rそれぞれの対称線L1に近い側の端部を挟んで、第1従動部材91aとは反対側に配置される。第2従動部材91bにおいて、右アーム部材85Rにネジ止めされている部分と、カム孔92を挟んで反対側には、第2従動部材91bと同様に磁石(連結部)93bが固定されている。この磁石93bは、繊維走行方向とほぼ平行な向きに吸着力を生じさせる。この磁石93bを左アーム部材85Lの端部に近づけることにより、左アーム部材85Lを、磁力によって第2従動部材91bに固定することができる。
【0073】
このように、2つの磁石93a,93bによって、2つのアーム部材85(左アーム部材85Lと右アーム部材85R)を実質的に連結することができる。磁石93a,93bの吸着力を上回るように力を加えることによって、2つのアーム部材85を容易に分離することができる。例えば、2つのアーム部材85を一時的に分離状態とすることによって、左アーム部材85Lを1つのドラフトボトムローラ群5aと組み合わせた形でモジュールとして組み立て、これとは別に、右アーム部材85Rを1つのドラフトボトムローラ群5aと組み合わせた形でモジュールとして組み立てることができる。その後、2つのアーム部材85が連結される。このようなモジュール的な取扱いにより、組立作業及びメンテナンス作業の効率を向上させることができる。
【0074】
カム孔92は、第1従動部材91a及び第2従動部材91bのそれぞれに形成されている。2つのカム孔92は、互いに位置及び形状が対応するように形成されている。2つのアーム部材85が連結された状態では、2つのカム孔92が接続されて実質的に1つのカム孔92となる。ドラフト装置5に形成される2つの繊維束経路のうち、一方のみに故障が生じた場合を考える。この場合、異常が生じた繊維束経路に対応するアーム部材85だけを取り外し、正常な繊維束経路に対応するアーム部材85だけを、モータ86により往復駆動することができる。従って、紡績ユニット2の稼動効率の低下を抑えることができる。
【0075】
2つのアーム部材85が連結された状態で、第1従動部材91a及び第2従動部材91bのそれぞれは、アーム部材85に隣接して位置する。2つのアーム部材85は、互いに対向した状態で、第1従動部材91a及び第2従動部材91bの間に厚み方向で挟み込まれる。板状に形成された第1従動部材91a及び第2従動部材91bによって、左アーム部材85Lの面の位置と右アーム部材85Rの面の位置が実質的に揃えられる。このため、連結された状態の左アーム部材85L及び右アーム部材85Rの位置は、厚み方向で、言い換えれば繊維走行方向で、互いに一致する。
【0076】
連結された状態の2つのアーム部材85は、実質的に4つの支点部材87により支持されながら一体的に往復移動する。仮に4つの支点部材87のうち1つでも位置ズレが生じていると、抵抗が生じて、円滑な往復移動が妨げられてしまう。これは、モータ86の脱調、省エネルギー性の低下等の原因となる。また、ボトムエプロンベルト57は図6に示すように、アーム部材85の作用部89に対して斜めに走行している。アーム部材85に位置ズレ(特に、ドラフト方向の位置ズレ)が仮に生じると、ボトムエプロンベルト57が作用部89から外れてしまう等の異常が生じ易い。
【0077】
この点、本実施形態においては、4つの支点部材87は何れも第2支持部62に固定されている。第2支持部62において支点部材87が取り付けられる部分は、ドラフトベース50に対して一体的に形成された第1支持部61に固定されており、位置の調整は想定されていない。このように、支点部材87は、調整機構83を介してドラフトベース50に取り付けられるような第3支持部63及び第4支持部64ではなく、ドラフトベース50に対して不動である第2支持部62に固定される。従って、第2支持部62,ひいてはドラフトベース50に対する支点部材87の位置精度が向上するので、アーム部材85の往復移動を正確かつ円滑に行うことができる。従って、ボトムエプロンベルト57が作用部89から抜けてしまう等の異常を減らすことができる。
【0078】
図面においては省略されているが、エプロントラバース方向に対して垂直な向きの凸部又は凹部が、2つのアーム部材85及び2つの従動部91のそれぞれに設けられている。凸部と凹部は、互いに対応する位置に設けられている。凸部を凹部に挿入することで、2つのアーム部材85を機械的に連結することができる。モータ86を駆動して2つのボトムエプロンベルト57を移動させる際に、磁石93a,93bの吸着力だけでは、2つのアーム部材85の相互連結状態を維持できない場合がある。凸部を凹部に挿入することにより、ボトムエプロンベルト57のトラバース時に負荷が生じても、2つのアーム部材85の連結を確実に維持することができる。また、凸部と凹部により、第1従動部材91aと第2従動部材91bの位置決めを行うことができる。この位置決め機構により、2つのカム孔92の位置を正確に合わせることができる。
【0079】
第1従動部材91aには、検出用ブラケット66を介して、検出用磁石67が配置されている。これに対応して、モータブラケット65には磁気センサ(検出部)68が固定されている。磁気センサ68は、例えばホールICとして構成することができるが、これに限定されない。磁気センサ68は、ユニット制御部26に電気的に接続されている。
【0080】
従動部91が往復移動するのに伴い、検出用磁石67が従動部91と一体的に移動し、固定的に設けられている磁気センサ68に対して変位する。従って、磁気センサ68が検出する磁力の強さが増減を周期的に繰り返していれば、2つのアーム部材85がボトムエプロンベルト57のトラバースを行っていると判定することができる。
【0081】
ユニット制御部26は、磁気センサ68の検出結果を監視する。ユニット制御部26は、モータ86を駆動しているにもかかわらず磁気センサ68が検出する磁力の強さが適切に変化しない場合、適宜の出力部によりアラームを出力する。出力部は、例えば、ブザー、ランプ、警告表示可能なディスプレイ等とすることができるが、上記に限定されない。例えばランプを点滅又は点灯する場合、ランプが出力部として機能する。これにより、ボトムエプロンベルト57のトラバースに関する異常を、例えば周囲にいる作業者に知らせることができる。
【0082】
モータブラケット65は、側面視でL字状に形成された板状の部材である。図7に示すように、モータブラケット65は、ドラフトベース50の上面に取り付けられる基部65aと、基部65aから上方へ延びる固定部65bと、を備える。固定部65bには、モータ86のハウジングが固定される。基部65aは、モータ86よりも下方、言い換えればモータ86よりもドラフトベース50に近い側に位置する。
【0083】
モータブラケット65の基部65aを取り付けるために、ドラフトベース50の上面には、2つの位置決めピン(位置決め突起)46と、1つのネジ孔47と、が形成されている。位置決めピン46は、ローラ軸方向に適宜の間隔をあけて配置されている。ネジ孔47は、2つの位置決めピン46の中間の位置に配置されている。これに対応して、モータブラケット65の基部65aには3つの貫通孔(孔)48が1組として形成されている。3つの貫通孔48のうち2つの孔には、位置決めピン46を差し込むことができる。残りの1つの孔には、取付ネジ(固定部材)49を差し込んで、ネジ孔47にネジ止めすることができる。これにより、1つの取付ネジ49により、ドラフトベース50に対してモータ86をガタツキなく固定することができる。従って、作業性が良好である。
【0084】
3つの貫通孔48が1組であり、2組が繊維走行方向に並べて配置されるように、モータブラケット65に6つの貫通孔48が形成されている。これにより、ドラフトベース50に対するモータブラケット65の取付位置を2段階で変更することができる。モータブラケット65の取付位置を3段階以上で変更できるように、より多くの貫通孔48が形成されても良い。あるいは、1組の貫通孔48のみが形成されていても良い。
【0085】
以上に説明したように、本実施形態のドラフト装置5は、フロントボトムローラ51と、第1支持部61と、ミドルボトムローラ52と、第2支持部62と、テンサバー56と、ボトムエプロンベルト57と、エプロントラバース装置84と、を備える。フロントボトムローラ51は、フロントトップローラ71との間で繊維束10を挟み込む。第1支持部61は、フロントボトムローラ51を回転可能に支持する。ミドルボトムローラ52は、フロントボトムローラ51よりも繊維走行方向の上流側に配置される。第2支持部62は、ミドルボトムローラ52を回転可能に支持する。ボトムエプロンベルト57は、テンサバー56とミドルボトムローラ52に巻き掛けられ、トップエプロンベルト77との間で繊維束10を挟み込む。エプロントラバース装置84は、ボトムエプロンベルト57をトラバースする。エプロントラバース装置84は、トラバース方向を案内するために、2つの支点部材87からなるスライド案内部を備える。スライド案内部が、第2支持部62に取り付けられている。
【0086】
これにより、ボトムエプロンベルト57をトラバースさせるために往復移動するアーム部材85の位置を、第2支持部62を基準として定めることができる。従って、トラバースの位置精度が向上するので、円滑なトラバース動作を実現することができる。また、トラバース中にボトムエプロンベルト57がエプロントラバース装置84から外れることを防止できる。
【0087】
本実施形態のドラフト装置5は、サードボトムローラ53と、バックボトムローラ54と、ドラフトベース50と、を備える。サードボトムローラ53は、ミドルボトムローラ52よりも繊維走行方向の上流側に配置され、サードトップローラ73との間で繊維束10を挟み込む。バックボトムローラ54は、サードボトムローラ53よりも繊維走行方向の上流側に配置され、バックトップローラ74との間で繊維束10を挟み込む。スライド案内部が取り付けられている第2支持部62は、ドラフトベース50に固定される。サードボトムローラ53及びバックボトムローラ54は、ドラフトベース50に対してドラフト方向に位置調整可能である。
【0088】
これにより、固定的に配置される第2支持部62を基準として、ボトムエプロンベルト57をトラバースさせるために往復移動するアーム部材85の位置が定められる。従って、アーム部材85の位置精度を向上させることができる。
【0089】
本実施形態のドラフト装置5において、エプロントラバース装置84は、アーム部材85と、モータ86と、を備える。アーム部材85には、ボトムエプロンベルト57を移動させる作用部89が設けられる。モータ86は、アーム部材85をトラバース方向に駆動する。2つの支点部材87からなるスライド案内部は、アーム部材85のトラバース方向を案内する。スライド案内部が第2支持部62に固定されている。
【0090】
これにより、第2支持部62を基準としてアーム部材85が2点支持されるので、簡単な構成により、第2支持部62に対するアーム部材85の位置精度を向上させることができる。
【0091】
本実施形態のドラフト装置5において、スライド案内部は、2つの支点部材87を含む。2つの支点部材87のそれぞれが、アーム部材85に形成された長孔88に配置されている。
【0092】
これにより、長孔88を用いた簡単な構成により、アーム部材85のトラバース方向を案内することができる。
【0093】
本実施形態のドラフト装置5において、エプロントラバース装置84は、偏心カム90を備える。偏心カム90の回転軸と、長孔88は、同じ高さ領域に設けられている。
【0094】
これにより、力が偏心カム90からアーム部材85に効率的に伝達されるので、アーム部材85を円滑に往復移動させることができる。
【0095】
本実施形態のドラフト装置5は、ドラフトベース50と、モータブラケット65と、を備える。モータブラケット65は、モータ86をドラフトベース50に対して固定する。モータブラケット65は、固定部65bと、基部65aと、を備える。固定部65bには、モータ86が固定される。基部65aは、モータ86よりもドラフトベース50に近い側に位置する。基部65aには、3つの貫通孔48がトラバース方向に沿う方向に並んで形成されている。スライド案内部(即ち、2つの支点部材87)が固定されている第2支持部62は、ドラフトベース50に固定される。基部65aに形成された3つの貫通孔48のうち2つの貫通孔48には、ドラフトベース50に固定された位置決めピン46が挿入され、残りの1つの貫通孔48には取付ネジ49が挿入されている。
【0096】
これにより、1つの取付ネジ49だけによってモータ86をドラフトベース50に対して位置決めしつつ固定することができるので、作業効率に優れる。
【0097】
本実施形態のドラフト装置5において、繊維束10が走行可能である繊維束経路が2つ形成される。2つの繊維束経路それぞれの繊維束10をドラフトするために、ドラフト装置5は、フロントボトムローラ51、ミドルボトムローラ52、及びボトムエプロンベルト57をそれぞれ2つ備える。ドラフト装置5は、2つのアーム部材85の連結及び分離を可能とする磁石93a,93bを備える。
【0098】
これにより、磁石93a,93bを用いて2つのアーム部材85を連結することにより、1つのモータ86により2つのボトムエプロンベルト57をトラバースさせることができる。必要に応じてアーム部材85を分離することができるので、製造及びメンテナンス作業の効率を向上させることができる。
【0099】
本実施形態のドラフト装置5において、磁石93a,93bにより、2つのアーム部材85の連結及び分離が可能である。ただし、2つのアーム部材85を連結及び分離可能な状態で連結する連結部として、磁石93a,93b以外の方法、例えば、ネジ、フック、及びクリップのうち少なくとも何れかを用いても良い。
【0100】
これにより、簡単な構成により、2つのアーム部材85の連結及び分離を実現することができる。
【0101】
本実施形態のドラフト装置5において、磁石93a,93bの連結力は、トラバース方向に直交する方向であって、ドラフト方向に沿う方向を向いている。
【0102】
これにより、コンパクトな構成により、2つのアーム部材85を連結することができる。
【0103】
本実施形態のドラフト装置5は、磁気センサ68と、出力部(例えば、ランプ)と、を備える。磁気センサ68は、ボトムエプロンベルト57のトラバースが行われているか否かを検出する。トラバースが行われていないことが磁気センサ68により検出された場合に、ランプは、点滅又は点灯することによってアラームを出力する。
【0104】
これにより、例えばモータ86の異常によってトラバースが行われていない状況に、作業者が早期に気付いて対処することができる。
【0105】
本実施形態のドラフト装置5は、フロントトップローラ71及びトップエプロンベルト77を支持するドラフトクレードル70を備える。
【0106】
これにより、簡素な構成により、ドラフトローラ対により繊維束10を挟み込んでドラフトすることができる。
【0107】
本実施形態の紡績機1は、ドラフト装置5と、空気紡績装置6と、糸貯留装置8と、巻取装置9と、を備える。空気紡績装置6は、ドラフト装置5によってドラフトされた繊維束10を紡績する。糸貯留装置8は、空気紡績装置6により紡績された糸15を引き出す。巻取装置9は、糸貯留装置8により引き出された糸15を巻き取る。
【0108】
これにより、ボトムエプロンベルト57のトラバースを確実に行いながら、繊維束10を紡績して糸15を生成することができる。その結果、生成される糸15の品質を向上することができる。
【0109】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。変更は単独で行われても良いし、複数の変更が任意に組み合わせて行われても良い。
【0110】
支点部材87は、第2支持部62に代えて第1支持部61に取り付けられても良い。
【0111】
ボトムエプロンベルト57の張力調整等のために、第2支持部62のうち、ミドルボトムローラ52を支持している一部がドラフトベース50に対して移動可能に構成されても良い。この場合、支点部材87は、第2支持部62のうち移動しない部分に取り付けられることが好ましい。
【0112】
2つの支点部材87の代わりに、例えば1つのリニアガイドによってアーム部材85をスライド移動可能に支持しても良い。
【0113】
2つの支点部材87がそれぞれの長孔88に配置される代わりに、2つの支点部材87が1つの共通の長孔88に配置されても良い。
【0114】
第3支持部63及び第4支持部64の位置を調整する調整機構83が省略されても良い。
【0115】
支点部材87が、偏心カム90の回転軸と異なる高さに配置されても良い。
【0116】
2つのアーム部材85の往復移動は、偏心カム90によるカム機構に代えて、例えばラックアンドピニオン機構によって実現されても良い。所定角度範囲内で往復移動する回転アームの先端を従動部91に連結することにより、アーム部材85の往復移動が実現されても良い。
【0117】
アーム部材85と従動部91は、別部材ではなく、1つの部材として一体的に構成されていても良い。
【0118】
モータブラケット65の基部65aは、2つ以上の取付ネジ49によってドラフトベース50に固定されても良い。モータブラケット65のドラフトベース50に対する取付位置が調整不能であっても良い。
【0119】
1つのドラフトベース50について、1つだけのドラフトボトムローラ群5aが配置されても良い。この場合、ドラフトベース50に支持されるアーム部材85も1つだけとなる。
【0120】
従動部91において、磁石93a,93bの吸着力が例えばトラバース方向に沿うように、磁石93a,93bが配置される向きを変更することができる。
【0121】
検出用ブラケット66、検出用磁石67、及び磁気センサ68は、省略しても良い。
【0122】
アーム部材85は、アーム状に代えて、例えばブロック状に構成することができる。
【0123】
左アーム部材85L及び右アーム部材85Rのうち少なくとも一方が、複数の板状部材から構成されていても良い。また、左アーム部材85L及び右アーム部材85Rのうち少なくとも一方において、作用部89が変形可能に構成されていても良い。例えば、アーム部材85の長手方向に沿う軸を有する蝶番を介して作用部89が折れ曲がるように、左アーム部材85L及び右アーム部材85Rを構成することができる。この構成では、メンテナンス作業時に作用部89の部分が折れ曲がった状態とすることで、ボトムエプロンベルト57の交換を容易に行うことができる。この場合、作用部89が折れ曲がらないように保持するための補強部が左アーム部材85L及び右アーム部材85Rの端部に設けられても良い。補強部は、例えば、磁石とすることができる。
【0124】
引出装置としてのデリベリローラ及びニップローラを、紡績ユニット2が糸貯留装置8の代わりに備えても良い。空気紡績装置6から排出された糸15をデリベリローラ対の間に挟んでデリベリローラ対を回転駆動させることにより、糸15を空気紡績装置6から引き出して巻取装置9側へ送ることができる。この場合、デリベリローラ対よりも下流に、糸貯留ローラ23と、機械式のコンペンセータと、吸引式のスラックチューブとの少なくとも何れかを配置してもよい。
【0125】
上記実施形態では、機台高さ方向において、上側から供給された糸15が下側において巻き取られるように各装置が配置されていた。しかし、下側から供給された糸15が上側において巻き取られるように各装置が配置されていてもよい。ドラフト装置5が紡績ユニット2に取り付けられる向きも任意であり、例えば、ドラフトベース50が、2つの繊維束経路、アーム部材85及びモータ86等よりも高い位置となるように配置することもできる。
【0126】
上記実施形態では、紡績機1が糸継台車30を備えているが、糸継ぎに関連する装置の少なくとも1つが各紡績ユニット2に設けられていてもよい。また、糸継ぎ方法も、糸継装置31に限定されず、紡績機1はピーシングにより糸継ぎを行ってもよい。
【符号の説明】
【0127】
1 紡績機
5 ドラフト装置
6 空気紡績装置
8 糸貯留装置(引出装置)
9 巻取装置
10 繊維束
15 糸
46 位置決めピン(位置決め突起)
48 貫通孔(孔)
49 取付ネジ(固定部材)
50 ドラフトベース(ベース部材)
51 フロントボトムローラ(第1ローラ)
52 ミドルボトムローラ(第2ローラ)
53 サードボトムローラ(第3ローラ)
54 バックボトムローラ(第4ローラ)
56 テンサバー(ベルト案内部材)
57 ボトムエプロンベルト(エプロンベルト)
61 第1支持部
62 第2支持部
65 モータブラケット(ブラケット)
65a 基部
65b 固定部
68 磁気センサ(検出部)
70 ドラフトクレードル
71 フロントトップローラ(第1ニップローラ)
73 サードトップローラ(第3ニップローラ)
74 バックトップローラ(第4ニップローラ)
77 トップエプロンベルト(ニップエプロンベルト)
81 長孔
82 ネジ(固定部材)
84 エプロントラバース装置
85 アーム部材
86 モータ(駆動部)
87,87 支点部材(スライド案内部)
88 長孔
89 作用部
90 偏心カム(回転カム)
93a,93b 磁石(連結部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7