(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109007
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】アルミニウム電池に適用される負極構造
(51)【国際特許分類】
H01M 4/46 20060101AFI20240805BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H01M4/46
H01M12/06 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023128255
(22)【出願日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】112103273
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】522466326
【氏名又は名称】亞福儲能股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】APh ePower Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】呉 瑞軒
(72)【発明者】
【氏名】蔡 施柏達
(72)【発明者】
【氏名】楊 竣傑
(72)【発明者】
【氏名】陳 韋安
【テーマコード(参考)】
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H032AA02
5H032AS01
5H032BB04
5H032HH04
5H050AA08
5H050BA11
5H050BA20
5H050CB11
5H050FA02
5H050HA04
(57)【要約】
【目的】アルミニウム電池に適用される負極構造を提供する。
【解決手段】負極構造は、第1金属層および第2金属層を含む。第1金属層は、第1還元能力を有する。第2金属層は、第2還元能力を有する。第2金属層は、第1金属層上に配置され、第1還元能力は、第2還元能力よりも高いため、アルミニウム電池の中で第2金属層が腐食および溶解する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム電池に適用される負極構造であって、
第1還元能力を有する第1金属層と、
第2還元能力を有する第2金属層と、
を含み、前記第2金属層が、前記第1金属層上に配置され、前記第1還元能力が、前記第2還元能力よりも高いため、前記アルミニウム電池の中で前記第2金属層が腐食および溶解する負極構造。
【請求項2】
塩化アルミニウムイオン液体における前記第1金属層の反応電位が、前記第2金属層の酸化電位よりも少なくとも0.5ボルト高い請求項1に記載の負極構造。
【請求項3】
塩化アルミニウムイオン液体における前記第1金属層の酸化電位範囲が、0.5ボルト~1ボルトの間である請求項1に記載の負極構造。
【請求項4】
塩化アルミニウムイオン液体における前記第2金属層の酸化電位範囲が、-0.1ボルト~0.1ボルトの間である請求項1に記載の負極構造。
【請求項5】
前記第1金属層が、亜鉛、銅、ニッケル、またはチタンを含む請求項1に記載の負極構造。
【請求項6】
前記第2金属層が、アルミニウムを含む請求項1に記載の負極構造。
【請求項7】
前記第1金属層の厚さ範囲が、10μm~100μmの間である請求項1に記載の負極構造。
【請求項8】
前記第2金属層の厚さ範囲が、0.5μm~50μmの間である請求項1に記載の負極構造。
【請求項9】
前記第1金属層が、前記第2金属層に直接接触している請求項1に記載の負極構造。
【請求項10】
前記第1金属層と前記第2金属層の間の接触面において、電子移動が発生する請求項1に記載の負極構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極構造に関するものであり、特に、アルミニウム電池に適用される負極構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電池は、金属箔を負極とする電気化学エネルギー貯蔵素子であり、好ましい安全性や低コストなどの利点がある。さらに、アルミニウム電池の負極は、充放電過程において電解質(例えば、クロロアルミン酸イオン性液体)と電気化学的に反応するため、負極上で金属堆積や金属溶解などが起こる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
放電容量のメカニズムは、金属溶解反応の速度に依存する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、金属溶解反応の速度を効果的に向上させることができ、それにより、アルミニウム電池のエネルギー密度を増やすことのできるアルミニウム電池に適用される負極構造を提供する。
【0005】
本発明のアルミニウム電池に適用される負極構造は、第1金属層および第2金属層を含む。第1金属層は、第1還元能力を有する。第2金属層は、第2還元能力を有する。第2金属層は、第1金属層上に配置され、第1還元能力は、第2還元能力よりも高いため、アルミニウム電池の中で第2金属層が腐食および溶解する。
【0006】
本発明の1つの実施形態において、クロロアルミン酸イオン性液体における第1金属層の反応電位は、第2金属層の酸化電位よりも少なくとも0.5ボルト高い。
【0007】
本発明の1つの実施形態において、クロロアルミン酸イオン性液体における第1金属層の酸化電位範囲は、0.5ボルト~1ボルトの間である。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、クロロアルミン酸イオン性液体における第2金属層の酸化電位範囲は、-0.1ボルト~0.1ボルトの間である。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、第1金属層は、亜鉛、銅、ニッケル、またはチタンを含む。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、第2金属層は、アルミニウムを含む。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、第1金属層の厚さ範囲は、10マイクロメートル(μm)~100μmの間である。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、第2金属層の厚さ範囲は、0.5μm~50μmの間である。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、第1金属層は、第2金属層に直接接触している。
【0014】
本発明の1つの実施形態において、第1金属層と第2金属層の間の接触面において、電子移動が発生する。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のアルミニウム電池に適用される負極構造は、互いに積み重ねられた2つの金属層の設計を有する。このようにして、ガルバニック腐食(galvanic corrosion)メカニズムを使用して、金属溶解反応の速度を効果的に向上させることができ、それにより、アルミニウム電池のエネルギー密度を増やすことができる。
【0016】
本発明の特徴および利点をより理解しやすくするために、以下の具体的な実施形態について図面と併せて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の1つの実施形態に係るアルミニウム電池に適用される負極構造の部分的概略図である。
【
図2】金属反応電位を測定するための電気化学セルの部分的概略図である。
【
図3】実施例および比較例のクロロアルミン酸イオン性液体におけるアルミニウム溶解のピーク電流結果を比較した概略図である。
【
図4】ニッケル箔およびチタン箔のクロロアルミン酸イオン性液体におけるアルミニウム溶解のピーク電流結果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の内容をより理解しやすくするために、本発明を実際に実施できる例として、以下の具体的な実施形態を提供する。明確にするため、以下の説明において、多くの実用的な詳細を説明する。しかしながら、理解すべきこととして、実用的な詳細をもって本発明を限定すべきではない。言い換えれば、本発明のいくつかの実施形態において、実用的な詳細は、不要である。
【0019】
実施形態の図面を参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は、さまざまな形態で実施することができるため、ここで説明する実施形態に限定されるべきではない。図中の層または領域の厚さ、サイズ、または大きさは、明確さのために誇張されている場合がある。同じ、または類似する参照番号は、同じ、または類似する要素を表し、以下の段落では、1つずつ繰り返し説明しない。
【0020】
特に記載がない限り、ここで使用される全ての用語(技術および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。
【0021】
特に記載がない限り、本明細書において値の範囲を定義するために使用される「間(between)」という用語は、記載された端点値と等しく、かつそれらの間の範囲をカバーすることを意図している。例えば、第1値と第2値の間のサイズの範囲は、そのサイズの範囲が第1値、第2値、および第1値と第2値の間の任意の値をカバーすることを意味する。
【0022】
図1は、本発明の1つの実施形態に係るアルミニウム電池に適用される負極構造の部分的概略図である。
図2は、金属反応電位を測定するための電気化学セルの部分的概略図である。
図3は、実施例および比較例のクロロアルミン酸イオン性液体におけるアルミニウム溶解のピーク電流結果を比較する概略図である。
図4は、ニッケル箔およびチタン箔のクロロアルミン酸イオン性液体におけるアルミニウム溶解のピーク電流結果を示す概略図である。
【0023】
図1を参照すると、本実施形態において、アルミニウム電池101に適用される負極構造100は、第1金属層110および第2金属層120を含み、第2金属層120は、第1金属層110上に配置される。また、第1金属層110は、第1還元能力を有し、第2金属層120は、第2還元能力を有し、第1還元能力は、第2還元能力よりも高いため、アルミニウム電池101の中で第2金属層120が腐食および溶解する。したがって、本実施形態のアルミニウム電池101に適用される負極構造100は、互いに積み重ねられた2つの金属層の設計を有する。このようにして、ガルバニック腐食メカニズムを利用して、金属溶解反応の速度を効果的に向上させることができ、アルミニウム電池のエネルギー密度を増やすことができる。ここで、還元能力とは、電子を得るための能力を指す。したがって、還元能力の低い金属は、酸化される電子を失いやすい可能性がある。このようにして、第1金属層110と第2金属層120の間の接触面において、電子移動が自然に発生する(
図1に示すように、第2金属層120は、電子(e
-)を失い、電子は、第2金属層120から第1金属層110へ移動するため、第2金属層120が腐食および溶解して、金属イオンが放出される)。ここで、第1金属層110は、第2金属層120に直接接触している。
【0024】
さらに、本実施形態において、材料の選択により、溶解される金属がアノード(すなわち、第2金属層120)として使用され、還元能力が高い金属がカソード(すなわち、第1金属層110)として選択されるため、ガルバニック腐食メカニズムによって第2金属層120が腐食および溶解し(2つの金属の異なる還元反応性は、電位差を形成するため、比較すると、アノード金属は腐食するが、カソード金属は腐食しにくい)、それにより、負極構造100の金属溶解反応の速度が効果的に向上する。他の電池(例えば、リチウム電池)の負極は、電気化学反応を起こさないため、金属溶解は必要なく、代わりに、電極を腐食から保護する必要がある。したがって、他の電池(例えば、リチウム電池)の負極が2つの金属層の積層構造を有していても、ガルバニック腐食メカニズムによって、信頼性は、依然として低下する。しかしながら、本実施形態において、上述した設定およびメカニズムにより、アルミニウム電池101のエネルギー密度を増やすことができ、それにより、アルミニウム電池101の性能を向上させることができる。
【0025】
注意すべきこととして、
図1のアルミニウム電池101は、明確にするために、負極構造100を概略的に示したものであり、アルミニウム電池101内部の実際の構成を示したものではない。また、アルミニウム電池101内部には、電解質(例えば、クロロアルミニウムイオン液体であり、l-エチル-3-メチルイミダゾール塩化物(l-ethyl-3-methylimidazole chloride, EMIC)またはl-ブチル-3-メチルイミダゾール塩化物(l-butyl-3-methylimidazole chloride, BMIC)であってもよい)の存在もある。
【0026】
いくつかの本実施形態において、クロロアルミニウムイオン液体における第1金属層110の酸化電位は、第2金属層120の反応電位よりも少なくとも0.5ボルト高く、クロロアルミニウムイオン液体における第1金属層110の酸化電位範囲は、0.5ボルト~1ボルトの間であってもよく、クロロアルミニウムイオン液体における第2金属層120の反応電位範囲は、-0.1ボルト~0.1ボルトの間であってもよい。
【0027】
例えば、第1金属層110は、亜鉛、銅、ニッケル、またはチタンを含み、第2金属層120は、アルミニウムを含む。還元能力は、反応電位によって測定され、本発明にあるように酸化電位を測定することによって得られる。金属層の酸化電位が高いほど、金属自体が酸化される可能性が低いため、還元されやすくなる(高い還元能力)。表1に示すように、チタン箔の酸化電位がアルミニウム箔の酸化電位よりも約0.8ボルト(V)高いとき、チタン箔がアルミニウム箔よりも回復しやすいことを意味する。積層体において接触腐食機構が形成されるため、アルミニウム箔が酸化されて電子を放出し、アルミニウム箔を溶解させる。したがって、クロロアルミニウムイオン液体中の異なる金属箔の酸化電位の差により、高い還元能力を有する金属が電流集電体として選択される。溶解される金属(例えば、アルミニウム)は、電気めっきによって高い酸化電位を有する電流集電体金属箔(例えば、亜鉛、銅、ニッケル、またはチタン)上に堆積される。接触腐食反応によって、負極構造100のアルミニウムの溶解速度およびアルミニウムの溶解量が増加するため、それにより、負極構造100のアルミニウム溶解反応が強化されるが、本発明はこれに限定されない。表1は、アルミニウム箔、亜鉛箔、銅箔、ニッケル箔、およびチタン箔などの金属箔の酸化電位をターフェル外挿法(Tafel extrapolation)によって測定したものである。反応電位は、
図2の電気化学セル(基準電極10、補助電極12、作業電極14(被試金属)、および電解質20(AlCl
3
-EMIC)を含む)によって得ることができる。
【0028】
【0029】
さらに、電流密度が50mA/cm
2の表面を有するクロロアルミン酸イオン性液体(AlCl
3
-EMIC)を使用して、高還元能力を有する厚さ50μmの金属(ニッケル、チタン)に厚さ1.5μmのアルミニウム層をコーティングした。三極電気化学セルにおいてサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)を行い、10mV/sの走査速度で測定した。電解質中の厚さ合計が51.5μmのニッケル箔めっきアルミニウム負極(実施例1)と、厚さ合計が51.5μmのチタン箔めっきアルミニウム負極(実施例2)と、厚さ合計が50μmのアルミニウム箔(比較例1)との間の違いを同じ走査速度で比較し、詳しい結果を
図3に示す。また、上記の分析方法に基づいて、ニッケル箔およびチタン箔も測定した。
図4に示すように、同じ電気化学窓において、アルミニウム溶解反応の電流は生成されないことがわかった(電流密度0の位置に位置する)。ここで、
図3および
図4のX軸の電位は、Al/Al
3+と比較することによって得られたものである。
【0030】
図3および
図4の結果から、以下の結論を導くことができる。実施例1および実施例2のアルミニウム溶解のピーク電流は、比較例1と比較して、300%以上増加している。すなわち、ニッケル箔めっきアルミニウム負極およびチタン箔めっきアルミニウム負極は、アルミニウム溶解反応の量を効果的に増加させることができ、同じ走査速度でアルミニウム溶解速度を増加させることもできる。この場合、負極をアルミニウム電池に配置したとき、エネルギー密度を効果的に増やすことができる。
図3と
図4を比較すると、アルミニウム溶解反応の量と速度が高いニッケル箔めっきアルミニウム負極およびチタン箔めっきアルミニウム負極は、確かにガルバニック腐食メカニズムの影響を受けるため、それにより、アルミニウム溶解反応性が改善される。
【0031】
また、現在、アルミニウム電池の負極として金属アルミニウム箔がよく使用されており、金属アルミニウム箔は、酸化しやすく、表面に密なアルミナを生成することができる。このようにして、もともと放電プロセス中にアルミニウム溶解反応が起こることが期待されるAlCl4
-は、酸化層を選択的に腐食させることで、アルミニウム溶解反応の速度を下げ、アルミニウム溶解量を少なくするため、アルミニウム電池のエネルギー密度を効果的に増やすことができない。したがって、2つの金属層が互いに積み重ねられた本実施形態の設計は、酸化層の形成前にアルミニウム溶解量を増やすことができ、それにより、アルミニウム電池のエネルギー密度を効果的に増やすことができるが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
いくつかの本実施形態において、クロロアルミン酸イオン性液体を使用して、還元能力の高い金属(例えば、亜鉛、銅、ニッケル、またはチタン)の表面に還元能力の低い金属(例えば、アルミニウム)を電気めっきすることができる。このようにして、コーティングを均一に制御することができ、プロセスを簡易化して、大量生産を容易にするが、本発明はこれに限定されない。ここで、選択されたイオン液体に対応する適切な電気めっきメカニズムが存在する可能性があるが、ここでは繰り返し説明しない。
【0033】
いくつかの本実施形態において、第1金属層110の厚さD1の範囲は、10μm~100μmの間であり、第2金属層120の厚さD2の範囲は、0.5μm~50μmの間であるが、本発明はこれに限定されない。第1金属層110の厚さD1および第2金属層120の厚さD2は、実際の設計要件に応じて決定することができる。
【0034】
上記の内容において、他の説明していないアルミニウム電池の組成(例えば、正極および/またはセパレータ)および構成は、添付されたクレームに含まれる精神および範囲をカバーする任意の内容に基づいて、本発明の技術分野において通常の技能を有する者によって得られるべきであるため、ここでは繰り返し説明しない。
【0035】
以上のように、本発明のアルミニウム電池に適用される負極構造は、互いに積み重ねられた2つの金属層の設計を有する。このようにして、ガルバニック腐食メカニズムを使用して、金属溶解反応の速度を効果的に向上させることができ、それにより、アルミニウム電池のエネルギー密度を増やすことができる。
【0036】
上記の実施形態において本発明を開示したが、これらの実施形態は、本発明を限定する意図はない。当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、いくつかの変更および修正を行うことができる。したがって、本発明の保護範囲は、添付された請求項によって定義されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の負極構造は、アルミニウム電池に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 基準電極
12 補助電極
14 作業電極
20 電解質
101 アルミニウム電池
100 負極構造
110 第1金属層
120 第2金属層
D1、D2 厚さ
【外国語明細書】