(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109021
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240805BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023169726
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023013077
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋尾 崇
(72)【発明者】
【氏名】坂口 貴俊
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
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4F100AA01B
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4F100JD04
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】耐水性及び密着性に優れた積層フィルム及びその製造方法の提供。
【解決手段】積層フィルムは、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成された第一層と、この第一層に積層する第二層と、を備えている。基材層の材質は、熱可塑性樹脂である。第一層の材質は、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂である。第二層の主成分は、金属又は無機酸化物である。積層フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布剤を準備すること、この塗布剤を、熱可塑性樹脂からなる基材層の少なくとも一方の面に塗布して、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂からなる第一層を形成すること、及び、この第一層上に金属又は無機酸化物を蒸着させて第二層を形成すること、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成された第一層と、この第一層に積層する第二層と、を備えており、
上記基材層の材質が、熱可塑性樹脂であり、
上記第一層の材質が、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂であり、
上記第二層の主成分が金属又は無機酸化物である、積層フィルム。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂がポリエチレン系樹脂である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項4】
上記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項5】
上記ポリビニルアルコール系架橋樹脂が、カルボニル基含有ポリビニルアルコールと架橋剤との反応生成物を含む、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項6】
上記カルボニル基含有ポリビニルアルコールが、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールである、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
上記架橋剤が、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物である、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項8】
上記金属がアルミニウムであり、
上記無機酸化物が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含む、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項9】
上記第一層がエチレン変性ポリビニルアルコールをさらに含む、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項10】
上記第一層が無機層状化合物を含まない、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項11】
上記第一層が無機層状化合物をさらに含み、この無機層状化合物の含有量が、上記第一層全体に対し、0質量%を超えて30質量%以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項12】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布剤を準備すること、
上記塗布剤を、熱可塑性樹脂を材質とする基材層の少なくとも一方の面に塗布して、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂を含有する第一層を形成すること、
及び
上記第一層上に、金属又は無機酸化物を蒸着させて第二層を形成すること、
を含む、請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項13】
上記塗布剤が、架橋剤をさらに含み、
上記塗布剤中、上記架橋剤の含有量が、上記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上30質量部以下である、請求項12に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項14】
上記ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボニル基含有ポリビニルアルコールであり、
上記架橋剤が、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物である、請求項13に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項15】
上記ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボニル基含有ポリビニルアルコールとエチレン変性ポリビニルアルコールとの混合物である、請求項12に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項16】
上記塗布剤が無機層状化合物をさらに含み、この無機層状化合物の含有量が、上記塗布剤全体に対し、0質量%を超えて30質量%以下である、請求項12に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項17】
上記塗布剤を上記基材層に塗布した後、温度80℃以上140℃以下で加熱処理する、請求項12に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項18】
上記塗布剤が、水性溶媒をさらに含む、請求項12に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項19】
上記水性溶媒が、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒である、請求項18に記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層フィルムに関する。詳細には、本開示は、ガスバリア用積層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材となるフィルム上に、ガスバリア性を有する積層膜を形成して、酸素、水蒸気等の透過を防止する技術が知られている。このような積層膜として、例えば、アルミナ、シリカ等の無機酸化物蒸着膜や、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の樹脂層が用いられている。
【0003】
酸素及び水蒸気による内容物の劣化を抑制するガスバリアフィルムは、食品、医薬品、電子機器等の種々の分野における包装材料として利用されている。当該分野の包装用フィルムの基材には、耐水性、透明性等の特性を有する延伸フィルムが多く用いられる。その中で、OPPフィルムには、蒸着膜や他の樹脂層との密着性に劣るという課題がある。
【0004】
特開2021-024136号公報(特許文献1)には、蒸着膜との密着性に優れた基材として、延伸処理がなされたポリプロピレン樹脂層と、極性基を有する樹脂材料をコート層とを備えた多層基材が開示されている。
【0005】
特許第4346714号(特許文献2)には、耐水性を有するガスバリアフィルムとして、熱可塑性樹脂フィルムにジアセトンアクリルアミド単位を3.4-15モル%含有する脂肪酸ビニルエステル共重合体のけん化物100重量部に対して架橋剤0.1-20重量部を反応させて得られる架橋被膜を有する積層フィルムが開示されている。
【0006】
特開2005-288948号公報(特許文献3)には、基材フィルムとの密着性が高く、耐水性を有するガスバリアフィルムとして、基材フィルムと、バリア層とで構成された積層フィルムが開示されている。このバリア層は、カルボニル基を有するビニルアルコール系重合体と、複数のヒドラジノ基を有する架橋剤と、無機層状化合物とで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-024136号公報
【特許文献2】特許第4346714号
【特許文献3】特開2005-288948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、食品包装用途では、100℃以上の蒸気や加圧熱水により殺菌するレトルト処理がなされる場合がある。酸素及び水蒸気の遮蔽性に優れ、レトルト処理のような高温高湿度下での使用が可能であり、しかも、高い層間接着性を有する積層フィルムは、未だ提案されていない。
【0009】
本開示の目的は、ガスバリア性に優れ、かつ、耐水性及び密着性が改善された積層フィルム及びその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る積層フィルムは、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成された第一層と、この第一層に積層する第二層と、を備えている。基材層の材質は、熱可塑性樹脂である。第一層の材質は、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂である。第二層の主成分は、金属又は無機酸化物である。
【0011】
本開示に係る積層フィルムの製造方法は、
(1)ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布剤を準備すること、
(2)塗布剤を、熱可塑性樹脂を材質とする基材層の少なくとも一方の面に塗布して、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂を含有する第一層を形成すること、
及び
(3)第一層上に、金属又は無機酸化物を蒸着させて第二層を形成すること、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、耐水性及び層間密着性に優れたガスバリア用積層フィルムを得ることができる。この積層フィルムによれば、高湿度下でも、安定して、酸素及び水蒸気の透過を遮断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態の一例を具体的に説明する。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0014】
なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」の意味である。また、特に注釈のない限り、試験温度は全て室温(20℃±5℃)である。
【0015】
[積層フィルム]
本開示の積層フィルムは、基材層、第一層及び第二層を含んで構成される。第一層は、この基材層の少なくとも一方の面に形成されている。第二層は、第一層に積層している。基材層の材質は、熱可塑性樹脂である。第一層の材質は、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂(以下、「PVA系架橋樹脂」と称する場合がある)である。第二層の主成分は金属又は無機酸化物である。第一層が、PVA系架橋樹脂以外の樹脂成分を含んでもよく、接着剤等既知の添加剤を含んでもよい。本開示の効果が得られる範囲で、積層フィルムが、他の層をさらに含んでもよい。
【0016】
本開示の積層フィルムでは、熱可塑性樹脂を材質とする基材層に、第一層及び第二層を積層することにより、高いガスバリア性が達成される。さらに、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂を材質とする第一層は、基材層をなす熱可塑性樹脂と強く密着する。この第一層は、金属又は無機酸化物を主成分とする第二層とも強く密着する。この第一層が、基材層と第二層との間に配置された本開示の積層フィルムは、層間密着性に優れている。また、ポリビニルアルコール系架橋樹脂の高い耐水性によって、本開示の積層フィルムでは、高湿度下においても、優れた層間密着性及びガスバリア性が維持される。
【0017】
(基材層)
基材層の材質は、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン-6、ナイロン-66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)が例示される。これら熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性、耐油性、耐薬品性、強度、剛性等に優れている。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってよく、プロピレンと他の単量体との共重合体であってよい。他の単量体としては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、3-メチルペンテン、4-メチルペンテン等のα-オレフィンが挙げられる。2種以上を組み合わせた共重合体であってよい。共重合体の場合、好ましくは、単量体成分として、ポリプロピレンを80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上含む。プロピレンの単独重合体において、本開示の効果がより顕著に得られる。
【0019】
また、ポリプロピレン系樹脂はアタクチック構造であってよく、アイソタクチック構造であってよく、シンジオタクチック構造であってよく、メタロセン構造であってよい。
【0020】
好ましい実施態様において、基材層が、ポリプロピレン系樹脂から構成されたポリプロピレン系樹脂フィルムであってよい。このフィルムは、一軸延伸フィルムであってよく、二軸延伸フィルムであってよく、未延伸フィルムであってよい。また、基材層が、単層のフィルムから構成されてもよく、2以上の複数のフィルムの積層体であってもよい。
【0021】
本開示の効果が阻害されない範囲で、基材層が、酸化防止剤、耐候安定剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤、アンチブロッキング剤等既知の添加剤を含んでもよい。例えば、基材層の水蒸気バリア性を向上させる目的で、石油樹脂又はテルペン樹脂から選択された1種以上の樹脂を配合してもよい。基材層における石油樹脂又はテルペン樹脂の含有量は、合計で、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよく、また、15質量%以下でであってよく、10質量%以下であってよい。
【0022】
また、基材層と第一層との密着性を向上させる目的で、基材層の表面に、コロナ放電処理、プラズマ処理等をおこなってもよい。必要に応じて、非コート面側にコロナ放電処理やプラズマ処理を施しても構わない。
【0023】
基材層の厚みは特に限定されず、得られる積層フィルムの用途に応じて適宜変更されてよい。例えば基材層の厚みは、5μm以上であってよく、10μm以上であってよく、15μm以上であってよく、また、100μm以下であってよく、90μm以下であってよく、80μm以下であってよい。
【0024】
(第一層)
第一層は、基材層に積層して形成されている。第一層は、基材層の少なくとも一方の面に形成されてよく、両方の面に形成されてもよい。基材層のコロナ放電処理又はプラズマ処理された面に、第一層が形成されてもよい。
【0025】
第一層の主たる材質は、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂である。ここで、「架橋樹脂」とは、高分子鎖により形成された架橋構造を有する樹脂を意味する。詳細には、架橋樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる複数の高分子鎖が、架橋結合して形成されたネットワーク構造を含む。本開示において、この架橋結合がヒドラゾン結合であってよい。第一層が、架橋構造を含んで形成されることにより、第一層の耐水性、耐熱性及び強度が向上する。本開示の効果が得られる範囲で、第一層が未架橋のポリビニルアルコール系樹脂を含んでもよい。
【0026】
第一層をなすポリビニルアルコール系架橋樹脂が有する架橋構造は、架橋剤を用いた化学架橋によって得られてもよく、電子線、放射線等の照射架橋(物理架橋)によって得られてもよい。化学架橋又は照射架橋によって、ヒドラゾン結合を含む架橋構造が形成されてもよい。
【0027】
化学架橋の場合、架橋剤との化学反応により、反応性官能基を有するポリビニルアルコール系樹脂に架橋結合を形成することにより、架橋構造を有する第一層が得られる。本開示の効果が得られやすいとの観点から、好ましい反応性官能基は、カルボニル基である。換言すれば、第一層の主成分は、カルボニル基含有ポリビニルアルコール(以下、「変性PVA」と称する場合がある)と架橋剤との反応生成物であってよい。換言すれば、第一層をなすポリビニルアルコール系架橋樹脂が、この変性PVAの架橋体であってよい。この実施態様では、変性PVAの分子内に存在するカルボニル基が、架橋剤と反応することにより、ヒドラゾン結合を含む架橋構造が形成される。この反応生成物を主成分としてなる第一層は、特に耐水性、耐熱性に優れる。なお、本開示において、「主成分」とは、当該成分を80質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含有することを意味する。本開示の効果が阻害されない範囲で、第一層が、接着剤、酸化防止剤、着色剤、熱安定剤等既知の添加剤を含んでもよい。
【0028】
カルボニル基含有ポリビニルアルコールとしては、架橋構造を形成しうる活性カルボニル基を有していればよく、その物性及び構造には特に限定はない。架橋剤との反応によって、ヒドラゾン結合を形成することができるカルボニル基が好ましい。このようなカルボニル基としては、ビニルケトン類等のカルボニル基、セチルアセトナト基等のジケト基、ジアセトンアクリルアミド基等のジアセトン基であってよい。ジアセトン基を含む変性ポリビニルアルコールが好ましく、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールがより好ましい。カルボニル基含有ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール系重合体を変性することにより得られてもよく、カルボニル基を有する単量体の共重合によって得られてもよい。
【0029】
本開示の効果が得られる限り、カルボニル基含有ポリビニルアルコール中のカルボニル基の含有量は特に限定されない。例えば、カルボニル基を有する構成単位の含有量として、0.01モル%以上であってよく、0.05モル%以上であってよく、0.1モル%以上であってよく、1.0モル%以上であってよく、また、25モル%以下であってよく、20モル%以下であってよく、15モル%以下であってよい。例えば、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールの場合、「カルボニル基を有する構成単位の含有量」とは、ジアセトンアクリルアミド単位としての含有量を意味する。
【0030】
カルボニル基含有ポリビニルアルコールの重合度は、200以上であってよく、250以上であってよく、300以上であってよく、また、5000以下であってよく、4000以下であってよく、3000以下であってよい。重合度が低すぎると、第一層の耐水性、被膜強度等が低くなる場合がある。重合度が高すぎると、後述する塗布剤の安定性が低下する場合がある。変性PVAのけん化度は、90モル%以上であってよく、95モル%以上であってよい。
【0031】
本開示の効果が阻害されない範囲で、第一層が、他のビニルアルコール系樹脂を含んでもよい。他のビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコールであってよく、エチレン-ビニルアルコール共重合体であってよく、カルボニル基含有ポリビニルアルコール以外の変性ポリビニルアルコールであってよい。他のビニルアルコール系樹脂の重合度は、200以上であってよく、250以上であってよく、300以上であってよく、また、5000以下であってよく、4000以下であってよく、3000以下であってよい。重合度が低すぎると、第一層の耐水性、被膜強度等が低くなる場合がある。重合度が高すぎると、後述する塗布剤の安定性が低下する場合がある。他のビニルアルコール系樹脂のけん化度は、90モル%以上であってよく、95モル%以上であってよい。耐水性の観点からエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「エチレン変性ポリビニルアルコール」と称する)が好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体の場合、エチレン含有量は、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよく、また、10質量%以下であってよく、8質量%以下であってよい。
【0032】
カルボニル基含有ポリビニルアルコール以外の変性ポリビニルアルコールとしては、アミノ基、カルボキシル基、シラノール基等を含有するポリビニルアルコールが挙げられる。
【0033】
カルボニル基含有ポリビニルアルコールとエチレン変性ポリビニルアルコールとを併用することにより、優れた層間密着性を維持しつつ、さらに、耐水性、特に熱水に対する安定性を改善することができる。換言すれば、本開示のより好ましい実施態様では、第一層が、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂であるカルボニル基含有ポリビニルアルコールの架橋体と、エチレン変性ポリビニルアルコールとを含む。この実施態様において、熱水安定性向上の観点から、カルボニル基含有ポリビニルアルコールと、エチレン変性ポリビニルアルコールとの合計量に対して、エチレン変性ポリビニルアルコールの含有量は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、また、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0034】
架橋剤は、カルボニル基との反応性を有する官能基を含む化合物であればよい。このような官能基として、例えば、ヒドラジド基、アミノ基が例示される。一分子中に2以上の官能基を含む化合物が好ましい。
【0035】
例えば、複数のヒドラジド基を含む架橋剤として、ヒドラジン、ヒドラジンヒドラート、カルボヒドラジド、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物、ポリ(メタ)アクリル酸ヒドラジド等が挙げられる。これらの化合物に、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を反応させた誘導体であってもよい。
【0036】
本開示において、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物が好適に用いられる。多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物としては、二塩基酸ジヒドラジドであってよく、多価カルボン酸ポリヒドラジドであってよい。二塩基酸ジヒドラジドとしては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ヘキサデカン酸ジヒドラジド等C2-20アルカンジカルボン酸ジヒドラジド;シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド等のC4-10のシクロアルカンジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ナフトエ酸ジヒドラジド等のC8-16アレーンジカルボン酸ジヒドラジド;ピリジンジカルボン酸ジヒドラジド等の複素環式ジカルボン酸ジヒドラジド;リンゴ酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド等の二塩基オキシ酸ジヒドラジド;イミノジ酢酸ジヒドラジド等が例示される。多価カルボン酸ポリヒドラジドとしては、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ベンゼントリカルボン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド、クエン酸等の多塩基オキシ酸ヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド等が例示される。架橋剤として2種以上を併用してもよい。環境負荷が低いとの観点から、水溶性又は水分散性の架橋剤が好ましい。水溶性又は水分散性の架橋剤として、C4-7アルカンジカルボン酸ジヒドラジドが例示される。中でも、変性PVAとの反応性の観点から、アジピン酸ジヒドラジドが好適に用いられる。
【0037】
第一層における架橋剤の含有量は、本開示の効果が得られる範囲で変更することができる。架橋剤の含有量が増加することにより、第一層をなすポリビニルアルコール系架橋樹脂の架橋密度が高くなる。架橋密度の高い第一層の介在により、基材層と第二層との層間密着性が向上して、ラミネート強度に優れた積層フィルムが得られうる。密着性向上の観点から、第一層中の架橋剤の含量は、4.5質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、又、20.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以下がより好ましい。
【0038】
第一層の厚みとしては、0.2μm以上であってよく、0.3μm以上であってよく、0.4μm以上であってよく、また、5.0μm以下であってよく、4.5μm以下であってよい。第一層の厚みは、後述する塗布剤の濃度及び塗布量により調整することができる。ガスバリア性向上の観点から、第一層の厚みは0.1μm以上であることが好ましい。
【0039】
本開示の積層フィルムでは、第一層は無機層状化合物を含んでもよいし、含まなくてもよい。しかしながら、本開示者らは、さらに検討の結果、第一層が無機層状化合物を含まない態様では、後述する第二層との密着性が向上することを見出した。即ち、本開示の好ましい実施態様の一つは、第一層が実質的に無機層状化合物を含まない。換言すれば、この実施態様の第一層では、無機層状化合物の含有量が0質量%であってよい。ここで、無機層状化合物とは、単位結晶層が積層して層状構造を形成した化合物を意味する。
【0040】
無機層状化合物は、膨潤性層状無機化合物であることが好ましい。膨潤性層状無機化合物とは、単位結晶層が積層した構造を有し、層間に溶媒(特に水)を配位又は吸収することにより膨潤又はヘキ開する性質を示す無機化合物を意味する。このような無機化合物としては、膨潤性の含水ケイ酸塩、例えば、スメクタイト群粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイトなど)、バーミキュライト群粘土鉱物(バーミキュライト等)、カオリン型鉱物(ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト等)、フィロケイ酸塩(タルク、パイロフィライト、マイカ、マーガライト、白雲母、金雲母、テトラシリリックマイカ、テニオライト等)、ジャモン石群鉱物(アンチゴライト等)、緑泥石群鉱物(クロライト、クックアイト、ナンタイト等)などが例示できる。これらの膨潤性層状無機化合物は、天然物であってもよく、合成物であってもよい。これらの膨潤性層状無機化合物は、単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの膨潤性層状無機化合物のうち、スメクタイト群粘土鉱物が好ましく、特にモンモリロナイトが好ましい。
【0041】
膨潤性層状無機化合物は、ガスバリア性と密着性とを両立させる点から、微粒子化処理されているのが好ましい。微粒子化処理された膨潤性層状無機化合物は、通常、板状又は扁平状である。その平面形状は特に制限されず、無定形状等であってもよい。微粒子化処理された膨潤性層状無機化合物の平均粒子径(平面形状の平均粒子径)は、例えば、0.01~5μm、好ましくは0.1~3μm、さらに好ましくは0.5~2μm程度である。
【0042】
微粒子化処理する場合、膨潤性層状無機化合物を溶液中で高圧分散処理することが好ましい。溶媒としては、水又は水溶性溶媒(メタノールやエタノール等の低級アルコールやアセトン等)が例示できる。通常は、水が使用される。高圧分散処理における処理圧力は、例えば、20MPa(約200kgf/cm2)以上(例えば、20~100MPa)、好ましくは20~80MPa程度、さらに好ましくは40~60MPa程度である。処理方法としては、例えば、膨潤性層状無機化合物を溶媒に膨潤させた後、高圧ホモジナイザーにより前述した圧力で攪拌することにより、高圧分散する方法が挙げられる。このような高圧分散処理は、複数回(例えば、2~10回)、好ましくは2~7回、さらに好ましくは2~5回程度おこなう。
【0043】
さらに本開示者らは、第一層の水に対する安定性が乏しい場合、第二層にひずみやクラックが生じる場合があるが、第一層が特定量の無機層状化合物を含むことにより、第二層との優れた密着性を維持しつつ、水分に対する安定性が向上することを見出した。即ち、本開示の他の好ましい実施態様は、第一層が無機層状化合物を含み、第一層中の無機層状化合物の含有量が30質量%以下である。当該範囲の無機層状化合物を含む第一層を備えた積層フィルムは、製造直後に高いラミネート強度を有する。この観点から、第一層中の無機層状化合物の含有量は、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、3.0質量%以上が特に好ましく、また20質量%以下がより好ましく、15.0質量%以下がさらに好ましく、10.0質量%以下がよりさらに好ましく、7.0質量%以下が特に好ましい。
【0044】
(第二層)
第二層は、第一層に積層して形成されている。必要に応じて、第二層にさらに他の層を積層してもよい。
【0045】
第二層の主成分は、金属又は無機酸化物である。金属としては、アルミニウムが好ましい。無機酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化スズ等が例示される。酸化アルミニウム及び酸化ケイ素が好ましい。第二層をなす無機酸化物が、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素からなる群から選択される1種又は2種であってよい。本開示において、酸化アルミニウムはAlOx(0<x≦1.5)であってよく、酸化ケイ素はSiOx(0<x≦2.0)であってよい。本開示の効果が阻害されない範囲で、第二層が、アルミニウム及びケイ素以外の他の元素を含んでもよい。
【0046】
第二層の厚みとしては、3nm以上であってよく、10nm以上であってよく、30nm以上であってよく、また、300nm以下であってよく、100nm以下であってよい。第二層の厚みは、後述する蒸着条件により適宜調整することができる。
【0047】
金属又は無機酸化物を主成分とする第二層は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れている。基材層に、第一層及び第二層を順次積層して得られる積層フィルムの酸素透過度は、例えば、温度20℃、相対湿度0%RH雰囲気下で、150(ml/m2・day・MPa)未満であってよく、100(ml/m2・day・MPa)以下であってよく、10(ml/m2・day・MPa)以下であってよい。また、水蒸気透過度は、温度40℃、相対湿度90%RH雰囲気下で、5(g/m2・day)未満であってよく、3(g/m2・day)以下であってよく、1.5(g/m2・day)以下であってよい。なお、酸素透過度及び水蒸気透過度の測定方法については、実施例にて後述する。
【0048】
本開示の積層フィルムは、基材層と第一層との層間密着性が良好である。しかしながら、必要に応じてさらに密着性を向上させるため、基材層と第一層との間にアンカーコート層を形成してもよい。アンカーコート層は、アンカーコート剤を基剤層に塗布することにより形成することができる。アンカーコート剤としては、基剤層と第一層とを接着する材料であればよく、例えば、イソシアネート基含有ポリマー等のウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン等のイミノ基含有ポリマー、ポリエステル系樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂、ゴム系接着剤、カップリング剤等既知の接着材料を適宜選択して使用することができる。2種以上の接着材料を併用してもよい。
【0049】
また、アンカーコート剤として前述した各種接着材料を、第一層の構成成分として配合することもできる。接着材料を第一層の構成成分として配合する場合、その添加量は、カルボニル基含有ポリビニルアルコール100質量部に対して、1質量部以上であってよく、10質量部以上であってよく、また、20質量部以下であってよく、15質量部以下であってよい。
【0050】
アンカーコート層の厚みも特に限定されない。例えば、その厚みは、0.01μm以上であってよく、0.02μm以上であってよく、また、3.0μm以下であってよく、2.5μm以下であってよい。
【0051】
[積層フィルムの製造方法]
本開示の積層フィルムは、(1)ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布剤を準備し、(2)この塗布剤を、熱可塑性樹脂を材質とする基材層の少なくとも一方の面に塗布して、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂を含有する第一層を形成し、(3)この第一層上に、金属又は無機酸化物を蒸着させて第二層を形成することにより製造される。必要に応じて、基材層の少なくとも一方の面を、コロナ放電処理又はプラズマ処理してもよい。また、コロナ放電処理又はプラズマ処理した面に、塗布剤を塗布する前に、アンカーコート剤を塗布して、アンカーコート層を形成してもよい。
【0052】
(塗布剤の調製)
本開示の塗布剤は、少なくともポリビニルアルコール系樹脂を含む。積層フィルムについて前述したポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。好ましいポリビニルアルコール系樹脂は、カルボニル基含有ポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボニル基含有ポリビニルアルコールと、エチレン変性ポリビニルアルコールとの混合物であってよい。エチレン変性ポリビニルアルコールを併用する場合、架橋構造形成の観点から、カルボニル基含有ポリビニルアルコール(A)とエチレン変性ポリビニルアルコール(B)との混合比率(A:B)は、質量比で、90:10~40:60であってよく、80:20~50:50であってよく、80:20~60:40であってよい。
【0053】
塗布剤が、さらに架橋剤を含んでもよい。積層フィルムについて前述した架橋剤を用いることができる。好ましい架橋剤は、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物である。
【0054】
好ましい実施態様では、ポリビニルアルコール系樹脂と、架橋剤とを混合することにより、塗布剤が得られる。ポリビニルアルコール系樹脂及び架橋剤を混合する方法は特に限定されず、既知の混合機を適宜選択して使用することができる。
【0055】
得られる第一層の耐水性及び強度の観点から、塗布剤中の架橋剤の含有量は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上であってよく、0.5質量部以上であってよく、1.0質量部以上であってよく、3.0質量部以上であってよく、5.0質量部以上であってよく、また、30質量部以下であってよく、20質量部以下であってよく、15質量部以下であってよく、10質量部以下であってよい。
【0056】
他の好ましい実施態様では、塗布剤に無機層状化合物を添加してもよい。積層フィルムについて前述した無機層状化合物を用いることができる。塗布剤に無機層状化合物を添加する場合、塗布剤中の無機層状化合物添加量は、固形分換算で、0質量%を超えてよく、1.0質量%以上であってよく、2.0質量%以上であってよく、3.0質量%以上であってよい。また、無機層状化合物の添加量は、塗布剤全量に対して、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、7.0質量%以下であってよい。
【0057】
塗布剤が、さらに、水性溶媒を含んでもよい。ポリビニルアルコール系樹脂を溶解できる溶媒であれば、その種類は特に限定されない。ポリビニルアルコール系樹脂及び架橋剤を溶解できる溶媒がより好ましい。例えば、水性溶媒は、水であってよく、水と水性有機溶媒との混合溶媒であってよい。水性有機溶媒とは、水溶性又は水分散性の有機溶媒を意味する。水性有機溶媒の具体例としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、メチルセロソルブ等のセロソルブ類、カルビトール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。また、塗布剤の安定性を高めるために、塗布剤がアンモニア、アミン類、ケトン類等をさらに含んでもよい。本開示の効果が阻害されない範囲で、塗布剤が、接着剤、酸化防止剤、着色剤、熱安定剤等既知の添加剤を含んでもよい。
【0058】
塗布剤中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、基剤層への塗布性及びガスバリア性の観点から、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、また、100質量%未満であってよく、99質量%以下であってよく、95質量%以下であってよい。
【0059】
(第一層の形成)
前述した塗布剤を、基材層の少なくとも一方の面に塗布することにより、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂を含有する第一層が形成される。基材層の材質は、熱可塑性樹脂である。積層フィルムについて前述した熱可塑性樹脂が、適宜選択して用いられる。ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。
【0060】
塗布剤の塗布量は、塗布剤の種類、基材層のサイズ、所望する第一層の厚み等に応じて選択することができる。例えば、塗布量は、0.05g/m2以上であってよく、0.3g/m2以上であってよく、また、5g/m2以下であってよく、1g/m2以下であってよい。
【0061】
基材層に塗布剤を塗布する方法は特に限定はなく、例えば、グラビアコーティング、リバースコーティング、ドクターコーティング、バーコーティング、ディップコーティング等既知の方法及び装置を利用することができる。
【0062】
基材に塗布剤を塗布した後、塗布剤を上記基材層に塗布した後、加熱処理して乾燥することにより、第一層を形成してもよい。加熱処理の温度は、例えば、80℃以上であってよく、100℃以上であってよく、また、140℃以下であってよく、120℃以下であってよい。加熱処理の時間は、塗布量及び温度に応じて変更することができる。
【0063】
塗布剤を塗布し、必要に応じて熱処理した後、エージング処理してもよい。エージング処理の温度は、40℃以上であってよく、50℃以上であってよく、また、60℃以下であってよい。エージング処理の時間は、例えば1日以上であってよい。
【0064】
(第二層の形成)
基材層に第一層を形成した後、この第一層の表面に、金属又は無機酸化物を蒸着させることにより、第二層が形成される。積層フィルムについて前述した金属及び無機酸化物を使用することができる。好ましい金属は、アルミニウムである。好ましい無機酸化物は、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素である。酸化アルミニウムと酸化ケイ素とを二元蒸着してもよい。蒸着方法は特に限定されず、既知の方法及び装置を使用することができる。物理蒸着法(PVD)であってもよく、化学蒸着法(CVD)であってもよい。物理蒸着法としては、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法等が挙げられる。化学蒸着法としては、プラズマCVD法、レーザーCVD法等が挙げられる。蒸着条件は、所望の厚みの第二層が得られるように適宜選択されてよい。
【0065】
ガスバリア性向上、クラック防止等の目的で、第二層表面にさらに保護層を形成してもよい。保護層としては、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコンアルコキシドの加水分解物、水溶性高分子とシリコンアルコキシドの加水分解物との混合物等を使用することができる。特にガスバリア性の観点から水溶性高分子とシリコンアルコキシドの加水分解物との混合物が好ましい。
【0066】
本開示の製造方法によれば、酸素及び水蒸気のバリア性に優れ、かつ、層間密着性が高く、さらには高湿度下においてもそのガスバリア性及び層間密着性が維持される積層フィルムが得られる。この積層フィルムを包装材料とすることで、酸素及び水蒸気による内容物の劣化が抑制される。この積層フィルム及び製造方法は、特に、レトルト処理等が必要な食品包装用途に好適に用いられる。
【0067】
本開示の積層フィルムは、耐水性が高いため、水分等揮発成分の含有量を低くできるため、蒸着加工時のアウトガスが少ない安定した蒸着加工が可能となる。
【実施例0068】
以下、実施例によって本開示の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるべきではない。
【0069】
[塗布剤の調製]
下表1に示される化合物及び配合に従って塗布剤A-Gを調製した。具体的な調製方法は、以下の通りである。
【0070】
[塗布剤A]
5質量部のジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製の商品名「Dポリマー DF-05」)を蒸留水95質量部に添加し、90℃で1時間撹拌して溶解した。この溶解液に、0.25質量部のアジピン酸ジヒドラジド(日本ファインケム社製)を添加して混合することにより、塗布剤Aを得た。
【0071】
[塗布剤B]
モンモリロナイト(クニミネ工業社製の商品名「クニピア-G」)を蒸留水に添加して、圧力500~550kg/cm2で高圧分散させて、濃度3.5質量%の水分散液を調製した。この水分散液に、下表1の組成となるように、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(前述の「DF-05」)と、エチレン変性ポリビニルアルコール(クラレ社製の商品名「エクセバール AQ-4104」)と、を添加して、固形分濃度が5質量%となるように蒸留水で希釈後、90℃で1時間撹拌することにより、混合分散液を得た。この混合分散液に、下表1の組成となるように前述のアジピン酸ジヒドラジドを添加して混合することにより、塗布剤Bを調製した。
【0072】
[塗布剤C-V]
化合物及び組成を下表1-4に示されるものに変更した以外は、塗布剤A又はBと同様にして、塗布剤C-Vを調製した。具体的には、無機層状化合物(モンモリロナイト)を添加しない場合は、塗布剤Aと同様にして調製し、無機層状化合物(モンモリロナイト)を添加しない場合は、塗布剤Bと同様にして調製した。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
なお、表1-4中「pts」は、質量部を意味する。また、表1-4に示された化合物の詳細は、以下の通りである。
DF-05:日本酢ビ・ポバール社製のジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール、けん化度98~99(mol%)、4%粘度6±2(mPa/s)
AQ-4104:クラレ社製のエチレン変性ポリビニルアルコール、けん化度98~99(mol%)、4%粘度3.5~4.5(mPa/s)、重合度400
3-98:クラレ社製の完全けん化ポリビニルアルコール、けん化度98~99(mol%)、4%粘度3.2~3.8(mPa/s)、重合度300
無機層状化合物:クニミネ工業社性のモンモリロナイト、商品名「クニピア-G」
ADH:日本ファインケム社製のアジピン酸ジヒドラジド
【0078】
[積層フィルムの製造]
[実施例1]
基材層として、コロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルム(厚み20μm)を準備した。この基材層のコロナ放電処理された面に、塗布剤Aを、乾燥後に0.5g/m2となる量で塗布して、100℃で1分間乾燥することにより、第一層を形成した。次に、第一層の表面に、酸化アルミニウム(AlOx)を物理蒸着法(PVD法)により蒸着して、第二層(厚み40nm)を形成することにより、実施例1の積層フィルムを得た。
【0079】
[比較例1]
基材層として、前述の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを準備した。この基材層のコロナ放電処理された面に、第一層を形成することなく、酸化アルミニウム(AlOx)を物理蒸着法(PVD法)により蒸着することにより、比較例1の積層フィルムを得た。
【0080】
[実施例3及び7-21並びに比較例2及び7]
塗布剤を下表5-9に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3及び7-21並びに比較例2及び7の積層フィルムを得た。
【0081】
[実施例2及び4並びに比較例4-6]
前述した基材層のコロナ放電処理された面に、アンカーコート剤(三井化学社製の「A310/A-3」)を、乾燥後に0.2g/m2となる量で塗布して乾燥させることにより、アンカーコート層を形成した。このアンカーコート層の上に、下表2に示された塗布剤を塗布して、実施例1と同様にして第一層を形成した後、酸化アルミニウムを蒸着することにより、実施例2及び4並びに比較例4-6の積層フィルムを得た。
【0082】
[実施例5-6]
蒸着膜の種類を下表5に示された通りとして、第二層を形成した他は実施例1と同様にして、実施例5及び6の積層フィルムを得た。
【0083】
[比較例3]
ポリエチレンイミン系接着剤(日本触媒社製)を3質量%となる量で添加した塗布剤Dを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の積層フィルムを得た。
【0084】
[ガスバリア性(酸素透過度)]
基材層、第一層及び第二層からなる積層フィルムについて、ガスバリア性(酸素透過度)を評価した。詳細には、JIS K7126-2に従って、酸素透過率測定装置(モコン(MOCON)社製、商品名「OX-TRA N2/20」)を用いて、酸素透過度(単位:ml/m2・day・MPa)を測定した。測定条件は、20℃、相対湿度0%RHとした。下記規準に基づいて、積層フィルムのガスバリア性を評価した。得られた結果が、「酸素透過度」として、下表5-9に示されている。
◎:酸素透過度10未満
○:酸素透過度10以上50未満
△:酸素透過度50以上150未満
×:酸素透過度150以上
【0085】
[ガスバリア性(水蒸気透過度)]
基材層、第一層及び第二層からなる積層フィルムについて、ガスバリア性(水蒸気透過度)を評価した。詳細には、JIS K7129-2に従って、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN)を用いて、水蒸気透過度(単位:g/m2・day)を測定した。測定条件は、40℃、相対湿度90%RHとした。下記規準に基づいて、積層フィルムのガスバリア性を評価した。得られた結果が、「水蒸気透過度」として、下表5-9に示されている。
◎:水蒸気透過度1.5未満
○:水蒸気透過度1.5以上3未満
△:水蒸気透過度3以上5未満
×:水蒸気透過度5以上
【0086】
[ラミネート強度]
得られた積層フィルムについて、第二層の表面に接着剤(三井化学社製「A310/A-3」)を塗布した後、無延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製「FRTK-G」、厚み70μm)とドライラミネートした。得られたラミネートフィルムを40℃で3日間エージングした後、15mm幅にカットして、積層フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとの剥離強度を、温度23℃、相対湿度50%RHの条件で、引張試験機(ORIENTEC社製「RTC-1210」)を用いて測定した。測定は、T字剥離法にておこなった。得られた結果が、下表5-9に「ラミネート強度」として示されている。ラミネート強度が1N/15mm以上のものを合格とした。
【0087】
[耐水性1]
得られた積層フィルムについて、第二層の表面に接着剤(三井化学製「A310/A-3」)を塗布し、無延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製「FRTK-G」、厚み70μm)とドライラミネートした。得られたラミネートフィルムを40℃で3日間エージングした後、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で1週間保管した。保管後のラミネートフィルムを15mm幅にカットし、積層フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとの剥離強度を、温度23℃、相対湿度50%RHの条件で、引張試験機(ORIENTEC社製「RTC-1210」)を用いて測定した。測定は、T字剥離法にておこなった。得られた結果が、下表5-9に、「40℃90%保管後のラミネート強度」として示されている。ラミネート強度が1N/15mm以上のものを合格とした。
【0088】
[耐水性2]
得られた積層フィルムについて、第二層の表面に接着剤(三井化学製「A310/A-3」)を塗布し、無延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製「FRTK-G」、厚み70μm)とドライラミネートした。得られたラミネートフィルムを40℃で3日間エージングした後、温度95℃で30分間煮沸処理した。煮沸後、放冷したラミネートフィルムを15mm幅にカットし、積層フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとの剥離強度を、温度23℃、相対湿度50%RHの条件で、引張試験機(ORIENTEC社製「RTC-1210」)を用いて測定した。測定は、T字剥離法にておこなった。得られた結果が、下表5-9に、「ボイル後のラミネート強度」として示されている。
【0089】
[高湿度保管安定性]
第一層の表面に、第二層として金属アルミニウムを蒸着した以外は実施例1-21及び比較例1-7と同様にして、積層フィルムを準備した。得られた積層フィルムを温度40℃、相対湿度90%RHの条件で1週間保管した。保管後の積層フィルムについて、目視で、蒸着膜の外観変化を観察し、下記規準に基づいて積層フィルムの保管安定性を評価した。得られた結果が「高湿度保管時の安定性」として下表5-9に示されている。
○:外観変化が認められない。
△:一部外観変化
×:全面外観変化
【0090】
[レトルト適性]
実施例1の積層フィルムを、レトルト処理器(平山製作所製、「HP-15/AS-15」)を用いて、121℃で30分処理した後、前述の[ガスバリア性(酸素透過度)]と同様にして、酸素透過度(単位:ml/m2・day・MPa)を測定した。得られた結果が、下表5に「レトルト処理後の酸素透過度」として示されている。なお、比較例3についても同条件でレトルト処理をおこなったところ、デラミネーションが生じたため酸素透過度を測定することができなかった。その結果が、下表9に「測定不可」と記されている。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
表5-9中、「OPP」は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの意味であり、「PEI」は、ポリエチレンイミン系接着剤(日本触媒社製)の意味であり、「AlOx」は酸化アルミニウム蒸着膜の意味であり、「SiOx」は酸化ケイ素蒸着膜の意味であり、「Al」はアルミニウム蒸着膜の意味である。
【0097】
表5-9に示されるように、実施例の積層フィルムは、比較例に比べて評価が高い。詳細には、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂を含んで形成された第一層を備えた実施例の積層フィルムは、製造後のラミネート強度が顕著に向上し、かつ、温度40℃、相対湿度90%RHで保管後にもラミネート強度が維持された。さらに、特定量の無機層状化合物を配合した実施例7-12及び第一層にエチレン変性ポリビニルアルコールを併用した実施例13-15では、蒸着膜の外観変化が抑制された。また、塗布剤中の架橋剤を増量した実施例16-21では、ラミネート強度がさらに向上した。この評価結果から、本開示の優位性は明らかである。
【0098】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0099】
[項目1]
基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成された第一層と、この第一層に積層する第二層と、を備えており、
上記基材層の材質が、熱可塑性樹脂であり、
上記第一層の材質が、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂であり、
上記第二層の主成分が金属又は無機酸化物である、積層フィルム。
【0100】
[項目2]
上記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である、項目1に記載の積層フィルム。
【0101】
[項目3]
上記熱可塑性樹脂がポリエチレン系樹脂である、項目1又は2に記載の積層フィルム。
【0102】
[項目4]
上記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂である、項目1又は2に記載の積層フィルム。
【0103】
[項目5]
上記ポリビニルアルコール系架橋樹脂が、カルボニル基含有ポリビニルアルコールと架橋剤との反応生成物を含む、項目1から4のいずれかに記載の積層フィルム。
【0104】
[項目6]
上記カルボニル基含有ポリビニルアルコールが、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールである、項目5に記載の積層フィルム。
【0105】
[項目7]
上記架橋剤が、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物である、項目5又は6に記載の積層フィルム。
【0106】
[項目8]
上記金属がアルミニウムであり、
上記無機酸化物が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含む、項目1から7のいずれかに記載の積層フィルム。
【0107】
[項目9]
上記第一層がエチレン変性ポリビニルアルコールをさらに含む、項目1から7のいずれかに記載の積層フィルム。
【0108】
[項目10]
上記第一層が無機層状化合物を含まない、項目1から9のいずれかに記載の積層フィルム。
【0109】
[項目11]
上記第一層が無機層状化合物をさらに含み、この無機層状化合物の含有量が、上記第一層全体に対し、0質量%を超えて30質量%以下である、項目1から9のいずれかに記載の積層フィルム。
【0110】
[項目12]
ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布剤を準備すること、
上記塗布剤を、熱可塑性樹脂を材質とする基材層の少なくとも一方の面に塗布して、ヒドラゾン結合を含むポリビニルアルコール系架橋樹脂を含有する第一層を形成すること、
及び
上記第一層上に、金属又は無機酸化物を蒸着させて第二層を形成すること、
を含む、項目1に記載の積層フィルムの製造方法。
【0111】
[項目13]
上記塗布剤が、架橋剤をさらに含み、
上記塗布剤中、上記架橋剤の含有量が、上記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対し、0.1質量部以上30質量部以下である、項目12に記載の積層フィルムの製造方法。
【0112】
[項目14]
上記ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボニル基含有ポリビニルアルコールであり、
上記架橋剤が、多価カルボン酸ポリヒドラジド化合物である、項目13に記載の積層フィルムの製造方法。
【0113】
[項目15]
上記ポリビニルアルコール系樹脂が、カルボニル基含有ポリビニルアルコールとエチレン変性ポリビニルアルコールとの混合物である、項目12から14のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【0114】
[項目16]
上記塗布剤が無機層状化合物をさらに含み、この無機層状化合物の含有量が、上記塗布剤全体に対し、0質量%を超えて30質量%以下である、項目12から15のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【0115】
[項目17]
上記塗布剤を上記基材層に塗布した後、温度80℃以上140℃以下で加熱処理する、項目12から16のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【0116】
[項目18]
上記塗布剤が、水性溶媒をさらに含む、項目12から17のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【0117】
[項目19]
上記水性溶媒が、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒である、項目18に記載の積層フィルムの製造方法。