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特開2024-109045時計ムーブメント用のヒゲゼンマイをスタッドにピン止めしかつその有効長を調整する装置及び有効長を設定する方法
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  • 特開-時計ムーブメント用のヒゲゼンマイをスタッドにピン止めしかつその有効長を調整する装置及び有効長を設定する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109045
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用のヒゲゼンマイをスタッドにピン止めしかつその有効長を調整する装置及び有効長を設定する方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 18/02 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
G04B18/02
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023214961
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】23154309.1
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】クリスタン、 ジュリアン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】時計ムーブメントのヒゲゼンマイのスタッドへのピン止め及びその有効長の設定の両方のための、より簡単かつより経済的な装置を提供する。
【解決手段】時計ムーブメント用のヒゲゼンマイ2をスタッドにピン止めし、かつその有効長を設定するための装置1にであって、ヒゲゼンマイ2は、所定の長さに沿ってコイル状に配置され、装置1は、ヒゲゼンマイ2の長さの位置においてヒゲゼンマイ2を機械的に保持するように配置される押しボタン6を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメント用のヒゲゼンマイ(2)をスタッドにピン止めし、かつ前記ヒゲゼンマイ(2)の有効長を設定するための装置(1)において、
前記ヒゲゼンマイ(2)は、所定の長さに沿ってコイル状に配置され、
前記装置(1)は、前記ヒゲゼンマイ(2)の前記長さの位置において前記ヒゲゼンマイ(2)を機械的に保持するように配置される押しボタン(6)を備える、装置(1)。
【請求項2】
前記押しボタン(6)は、ボタン(8)及びチューブ(10)から構成され、
前記ボタン(8)は、スライド可能であり、前記ボタン(8)は、弾性機関(12)によって弾性的にロック位置に戻され、前記ボタン(8)は、動作位置において、前記ボタン(8)と前記チューブ(10)との間に前記ヒゲゼンマイ(2)の一部を挿入することによって前記ロック位置から離れて維持され、それにより前記ヒゲゼンマイ(2)の機械的な保持が確保されることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記ボタン(8)は、ヘッド(14)とフット(16)との間に延び、
少なくとも部分的に前記フット(16)の周りに延びる溝(18)が配置され、前記押しボタン(6)が前記ヒゲゼンマイ(2)に保持トルクを伝達することが可能なように、前記ボタン(8)の前記フット(16)と前記チューブ(10)に面する端部との間で2つの異なる点に沿って把持することにより、前記ヒゲゼンマイ(2)を停止させようとする位置で、前記ヒゲゼンマイ(2)の一部に係合し、それにより、前記ヒゲゼンマイ(2)は時計の寿命にわたってその締結点の周りで回転又はスライドしないことを特徴とする、請求項2に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記溝(18)は、前記ボタン(8)の全外周に沿って延びることを特徴とする、請求項3に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記弾性機関(12)は、バネであることを特徴とする、請求項2に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記バネは、弾性ストリップであることを特徴とする、請求項5に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記ボタン(8)には、溝(18)が設けられており、前記ヒゲゼンマイ(2)の一部に係合し、それにより前記ボタン(8)を動作位置に保持することを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項8】
前記押しボタン(6)は、前記時計ムーブメントのテンプ受け(20)に締結されることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記スタッドにピン止めし、かつ前記ヒゲゼンマイ(2)の有効長を設定するための装置(1)は、前記押しボタン(6)を支持する押し要素支持体(22)を備え、前記押し要素支持体(22)は、前記時計ムーブメントのヒゲゼンマイ組立体(26)の回転軸(D)の周りを回転可能に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項10】
前記押し要素支持体(22)は、支持体上に回転可能に取り付けられることを特徴とする、請求項8に記載の装置(1)。
【請求項11】
前記支持体は、テンプ受け(20)であるか、又は前記受けによって支持される軸受であることを特徴とする、請求項10に記載の装置(1)。
【請求項12】
前記軸受は、衝撃吸収軸受(30)であることを特徴とする、請求項11に記載の装置(1)。
【請求項13】
各々が前記時計ムーブメントの進み又は遅れ時間量に対応する複数の目盛りを備えるスケール(40)が、前記時計ムーブメントのプレートの受け(20)に又は前記プレートに取り付けられることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項14】
時計ムーブメント用の所定の長さの螺旋ストリップから形成されるヒゲゼンマイ(2)において、前記ストリップの少なくとも一部には、各々が前記時計ムーブメントの進み又は遅れ時間量に対応する複数の目盛りを備えるスケール(40)が設けられる、ヒゲゼンマイ(2)。
【請求項15】
前記スケール(40)は、各々が0.1秒を表す目盛りを備えることを特徴とする、請求項14に記載のヒゲゼンマイ(2)。
【請求項16】
請求項1に記載の装置(1)によって時計ムーブメントのヒゲゼンマイ(2)の有効長を設定する方法において、
前記ヒゲゼンマイ(2)の有効長を調整するために、前記ヒゲゼンマイ(2)は、前記押しボタン(6)を押すことにより一時的に解放され、
次に、前記ヒゲゼンマイ(2)によってビートが与えられるテンプ(24)が所望の角度だけ回転され、
次に、前記ヒゲゼンマイ(2)を再び停止させるために前記押しボタン(6)への圧力が解放され、
前記テンプ(24)を回転させることは、ガイドマークの移動を引き起こし、これは続いて前記装置(1)を回転させることにより再整列されることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメント用のヒゲゼンマイをスタッドにピン止めしかつその有効長を調整する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、慣例的に、「構成要素」という用語は、本発明によるヒゲゼンマイをスタッドにピン止めしかつその有効長を調整するための装置の構成に使用される予備部品を指し、「部品」は、2つ以上の「構成要素」の組立体を指す。
【0003】
機械式ムーブメントを備えた時計において、設定機関は脱進機を備えたヒゲゼンマイ組立体からなる。これらの異なる要素は、バレルゼンマイによって供給される機械的エネルギーのおかげで動作し、カウント及び時間の秒への分割を実行する。したがって、ヒゲゼンマイ組立体の機能の設定の精度は、機械式ムーブメントを備えた時計によって供給される時間表示の精度に依存することが理解される。
【0004】
ヒゲゼンマイ組立体のレートの精度を確保するための第1の公知の技術は、例えばテンプ外縁に調整可能に締結された複数の慣性ブロックをテンプに設けることである。これらの慣性ブロックの位置を調整することにより、テンプの慣性が影響を受け、ヒゲゼンマイ組立体の回転振動数が変更される。
【0005】
ヒゲゼンマイ組立体のレートの精度を保証するための別の公知の技術は、このヒゲゼンマイ組立体に、少なくとも1つのインデックスと、インデックスによって支持され、かつヒゲゼンマイが取り付けられるスロットを備えたインデックスキーとを含むインデックス組立体を備えることからなる。インデックスキーは、それ自体で回転させることができ、一方、インデックスは、ヒゲゼンマイ組立体の回転軸の周り、受けの肩部の上、又は衝撃吸収軸受の周りを回転させることができる。
【0006】
ヒゲゼンマイの内側最終コイルの自由端によって規定される、インデックスキーからこのヒゲゼンマイの中心まで延びるヒゲゼンマイの部分が、ヒゲゼンマイの有効長を決定する。
【0007】
ヒゲゼンマイの外側最終コイルの自由端が締結されているヒゲゼンマイスタッドとインデックスキーとの間に延びているヒゲゼンマイの部分は、機械的に剛性と見なされ、テンプの振動には影響を与えない。
【0008】
インデックスキーの位置は、いわゆるカウント点を規定する。このカウント点の位置は、インデックスを回転させることによって変更され得る。カウント点の位置を変更すると、ヒゲゼンマイの使用可能な長さが変更され、したがって、ヒゲゼンマイ組立体のビートの振動数が変更される。インデックスキーをそれ自体で回転させると、このインデックスキーに配置されるスロット内のヒゲゼンマイの移動が制限されるが、もちろん、このヒゲゼンマイが完全にロックされないように留意される。これは、ヒゲゼンマイ組立体のビート振動数の設定の精度を向上させ、したがって、この組立体のレート精度を向上させる効果がある。
【0009】
上記から理解されるように、時計の多くの機械式ムーブメントにおいて、ヒゲゼンマイ組立体にその振動数を設定する手段を備えるには、相当数の構成要素(ヒゲゼンマイの外側最終コイルの自由端をスタッドにピン止めするためのヒゲゼンマイスタッド、任意選択的にスタッド支持体、インデックス、インデックステール、及びインデックスの位置を微調整するための偏心ネジ、インデックスキー)が必要であり、高価であり、回転振動数を正確に調整するためには比較的長い設定時間を必要とする。設定ネジによってテンプの慣性を調整することからなる他の解決策は、機械加工操作及びヒゲゼンマイ組立体の回転振動数の設定時間の点でさらに高価である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、時計ムーブメントのヒゲゼンマイのスタッドへのピン止め及びその有効長の設定の両方のための、より簡単かつより経済的な装置を提供することによって、上述の欠点及びその他を改善することである。
【0011】
この目的のために、本発明は、時計ムーブメント用のヒゲゼンマイをスタッドにピン止めしかつその有効長を設定するための装置に関し、このヒゲゼンマイは、所定の長さの螺旋ストリップから形成され、この装置は、このヒゲゼンマイのストリップの長さの位置でヒゲゼンマイを機械的に保持するように配置される押しボタンを備える。
【0012】
本発明の特定の実施形態によれば、押しボタンは、ボタン及びチューブから構成され、前記ボタンは、スライド可能であり、前記ボタンは、弾性機関によって弾性的にロック位置に戻され、前記ボタンは、動作位置において、前記ボタンと前記チューブとの間に前記ヒゲゼンマイのストリップの一部を挿入することによって前記ロック位置から離れて維持され、それにより前記ヒゲゼンマイの機械的な保持が確保される。
【0013】
本発明の別の特定の実施形態によれば、ボタンは、ヘッドとフットとの間に延びており、少なくとも部分的に前記フットの周りに延びる溝が配置され、前記押しボタンが前記ヒゲゼンマイに保持トルクを伝達することが可能なように、前記ボタンの前記フットとチューブに面する端部との間で2つの異なる点に沿って把持することにより、前記ヒゲゼンマイを停止させようとする位置で、前記ヒゲゼンマイの一部に係合し、それにより、前記ヒゲゼンマイは前記時計の寿命にわたってその締結点の周りで回転又はスライドしない。
【0014】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記溝は、前記ボタンの全外周に沿って延びる。
【0015】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記弾性機関は、バネである。
【0016】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記バネは、弾性ストリップである。
【0017】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記ボタンには、溝が設けられており、前記ヒゲゼンマイのストリップの一部に係合し、その存在により前記ボタンが前記動作位置に保持される。
【0018】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記溝は、前記ボタンの全外周に沿って延びる。
【0019】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記押しボタンは、前記時計ムーブメントの受けに締結される。
【0020】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記スタッドにピン止めし、かつ前記ヒゲゼンマイの有効長を設定するための装置は、前記押しボタンを支持する押し要素支持体を備え、前記押し要素支持体は、前記時計ムーブメントのヒゲゼンマイ組立体の回転軸の周りを回転可能に配置される。
【0021】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記押し要素支持体は、支持体上に回転可能に取り付けられる。
【0022】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記支持体は、テンプ受けであるか、又は前記受けによって支持される軸受である。
【0023】
本発明の別の特定の実施形態によれば、前記軸受は、衝撃吸収軸受である。
【0024】
本発明の別の特定の実施形態によれば、各々が前記時計ムーブメントの進み又は遅れ時間量に対応する複数の目盛りを備えるスケールが、前記時計ムーブメントのプレートの受けに又は前記プレートに取り付けられる。
【0025】
本発明の別の目的によれば、本発明は、時計ムーブメント用の所定の長さの螺旋ストリップから形成されるヒゲゼンマイに関し、前記ストリップの少なくとも一部には、各々が前記時計ムーブメントの進み又は遅れ時間量に対応する複数の目盛りを備えるスケールが設けられる。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、前記スケールは、各々が0.1秒を表す目盛りを備える。
【0027】
また、本発明は、本発明による装置よって時計ムーブメントのヒゲゼンマイの有効長を設定する方法にも関し、前記ヒゲゼンマイの有効長を調整するために、押しボタンを押すことにより前記ヒゲゼンマイを一時的に解放し、次に、前記ヒゲゼンマイによってビートが与えられるテンプを所望の角度だけ回転させ、次に、前記押しボタンへの圧力を解放して前記ヒゲゼンマイを再び停止させ、前記テンプを回転させることは、ガイドマークの移動を引き起こし、これは続いて前記装置を回転させることにより再整列される。
【0028】
これらの特徴により、本発明は、時計ムーブメントのヒゲゼンマイをスタッドにピン留めすること、及びヒゲゼンマイの回転振動数を正確に調整するためにその有効長を設定することを可能にする装置を提供する。ヒゲゼンマイは、接着剤を必要とせずにスタッドにピン留めされるので、必要に応じて、例えば工場に戻されるときに、時計の寿命にわたってヒゲゼンマイの回転振動数を設定することができるように、いつでも再配置することができる。さらに、接着剤の選択に関連する考慮事項による制約が適用されないことを考慮すると、時計設計者は、ヒゲゼンマイを製造する材料の選択に関して完全な自由を享受する。
【0029】
その単純化された実施形態において、本発明による装置は、このように、ヒゲゼンマイのスタッド及びインデックスの機能を組み合わせることを有利に可能にし、これにより、必要な構成要素の数を減らすことが可能になり、小型化のために本発明による装置の時計ムーブメントへの統合を簡素化することができる。
【0030】
さらに、本発明の好ましい実施形態では、装置は押し要素支持体を備え、これにより、スタッドへのピン止め及び調整のための装置を、ヒゲゼンマイ組立体の回転軸を中心として回転可能に取り付けることができ、これにより、テンプのガイドマークを設定することが可能になる。
【0031】
このように、本発明は、非常に顕著に、一見すると互いに相容れないように見える、時計ムーブメントのヒゲゼンマイの4つの別々の機能、すなわち、スタッドへのピン止め、支持体へのスタッド支持体の取り付け、有効長の設定、及びガイドマークの設定を、単一の部品によってまとめることを可能にする装置を提供する。
【0032】
なお、先行技術において、ヒゲゼンマイの締結点は、従来はヒゲゼンマイのスタッドによって提供されていたが、カウント点の設定は、インデックスキーによって行われていた。これに対して、本発明による装置は、ヒゲゼンマイの締結点及びカウント点の両方を単一の点でまとめることを可能にする。この装置の利点の1つは、本発明の簡略化された実施形態において、その慣性を設定するための特別な手段を持たないヒゲゼンマイ組立体のテンプを使用することが可能になり、大幅な節約を可能にすることである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明の他の特定の実施形態及び利点は、本発明によるスタッドにピン留めしてヒゲゼンマイの有効長を調整するための装置の一実施形態の以下の詳細な説明を読むことによって、よりよく理解されるであろう。この例示は、説明のためにのみ提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、添付の図面を参照して提供される。
図1】本発明による時計ムーブメント用のヒゲゼンマイをスタッドにピン留めしかつその有効長を設定するための装置の上面図である。
図2図1の断面線II-IIに沿った断面図である。
図3】本発明による装置と協働するように特に適合された、ヒゲゼンマイの終端湾曲部の特定の実施形態の斜視図である。
図4】本発明による装置の押しボタンと図3のヒゲゼンマイとの間の配置を示す底面斜視図である。
図5】ネジによって時計ムーブメントの受けに締結された本発明による装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、時計ムーブメントのヒゲゼンマイ組立体のテンプの等時性ビートを提供することを意図したヒゲゼンマイに関する機能の少なくともいくつかを単一の部品にまとめることからなる一般的発明概念に由来する。この目的のために、本発明は、第1に、接着剤を使用することなくその長さの位置で時計ムーブメントのヒゲゼンマイを停止するように配置される押しボタンを備える装置を提供する。したがって、時計設計者は、ヒゲゼンマイを製造する材料の選択に関して完全な自由を享受し、さらに、ヒゲゼンマイが接着されていないことを考慮すると、本発明による装置は、いつでも、例えば、時計が工場に戻されるときに、解体することができる。したがって、本発明による装置は、第1に、スタッドにヒゲゼンマイを再配置可能にピン止めすることができる。一方、押しボタンを使用することにより、ヒゲゼンマイをその長さの任意の位置で停止することができ、これにより、このヒゲゼンマイの有効長、すなわち、このヒゲゼンマイ内の第一コイルの自由端から押しボタンによってヒゲゼンマイが停止する点までの距離を設定することが可能になる。したがって、本発明による装置は、本発明による装置を備えたヒゲゼンマイ組立体の回転振動数を自由に設定することを可能にする。最後に、好ましい実施形態では、本発明による装置は、例えば、時計ムーブメントの受けへの固定取り付け、又はこの受けに支持されたテンプ受け若しくは軸受等の支持体への回転取り付けを可能にする押し要素支持体を備えている。この実施形態では、このようにして、本発明による装置は、4つの別個の機能、すなわち、ヒゲゼンマイのスタッドへの再配置可能なピン止め、その支持体へのスタッド支持体の取り付け、前記ヒゲゼンマイの有効長の設定、及びテンプのガイドマークの設定を果たす。本発明による装置は、簡略化された代替実施形態では、チューブ、ボタン、及び弾性機関から形成された単一の部品からなるので、ヒゲゼンマイのスタッド、スタッド支持体、インデックス、インデックスキー、インデックステール、及び偏心体等の従来技術の構成要素の組立体を有利に置き換えることができ、これにより、ヒゲゼンマイを締結するために、及びヒゲゼンマイ組立体の回転振動数を設定するために必要な構成要素の数を減らすことができ、そのサイズが小さくなるため、時計ムーブメントにおける本発明による装置の取り付けが容易になる。本発明のもう1つの主要な利点は、接着剤の使用を避けることができるという事実にある。
【0035】
全体を一般的な参照番号1で示した本発明による装置は、図1に上面図として、図2図1の線II-IIに沿った断面図として示されている。
【0036】
その簡略化された実施形態では、本発明による装置1は、時計ムーブメント用のヒゲゼンマイ2のスタッドへのピン止め、及びこのヒゲゼンマイ2の有効長の設定を可能にする。
【0037】
コイル状に配置されるヒゲゼンマイ2は、内側第一コイルの自由端と外側最終コイル3の自由端との間に所定の長さを有する。単なる例として、ヒゲゼンマイ2は、互いに平行にかつ互いに距離を置いて延びる第1及び第2の面によって区切られた平坦なストリップ状に形成され得る。
【0038】
より具体的には、本発明による装置1は、以下に説明するように、ヒゲゼンマイ2をその長さの任意の位置で有利に取外し可能に停止させること、及びヒゲゼンマイ2内の第一コイルの自由端からこのヒゲゼンマイ2が停止される点4を分ける長さを設定することを可能にする。
【0039】
このために、本発明による装置1は、第1に、このヒゲゼンマイ2のストリップの長さの位置でヒゲゼンマイ2を解放可能に保持するように配置される押しボタン6を備える。
【0040】
図2に示すように、押しボタン6は、基本的にボタン8及びチューブ10を備え、ボタン8はスライド可能である。有利には、ボタン8は、バネ又は弾性ストリップ(特に図1を参照)のような弾性機関12によって弾性的にロック位置に戻される。
【0041】
また、動作位置において、ボタン8とチューブ10との間にヒゲゼンマイ2の一部を挿入することにより、ボタン8をロック位置から離して維持することができ、これによりヒゲゼンマイ2を確実に機械的に停止させることができる。
【0042】
本発明の基本的な利点の1つは、ヒゲゼンマイ2を押しボタン6との係合からいつでも解放できることであることが容易に理解される。そのためには、弾性機関12の戻り力に逆らってボタン8をチューブ10からさらに引き出すようにボタン8に圧力を加えることが必要なだけである。さらに、弾性機関12の剛性係数を適切に選択することにより、押しボタン6のボタン8とチューブ10との間でヒゲゼンマイ2が不動に維持されているときにヒゲゼンマイ2に加わる把持力を正確に制御することができる。したがって、ヒゲゼンマイ2が、特にシリコン製である場合に、破損する危険性を制限することができる。
【0043】
図2に示すように、ボタン8はヘッド14とフット16との間に延びており、少なくとも部分的にフット16の周りを通る溝18が配置されている。次に、ヒゲゼンマイ2は、ボタン8のフット16とチューブ10に面する端部との間で把持することにより、押しボタン6によって停止させようとする部分において、ボタン8のフット16の周りを通される。こうして、ヒゲゼンマイ2は、ボタン8のフット16とチューブ10に面する端部との間で2点に沿って把持され、これにより、押しボタン6は、ヒゲゼンマイ2に保持トルクを伝達することができるため、このヒゲゼンマイ2は、時計の寿命にわたって、その締結点の周りを回転又はスライドすることがなくなる。
【0044】
図5に示す本発明の簡略化された実施形態によれば、本発明による装置1及びその押しボタン6は、典型的にはネジ21によって、時計ムーブメントのプレートの受け20に単純に締結される。
【0045】
本発明の改良された実施形態によれば、ヒゲゼンマイ2をスタッドにピン止めしかつその有効長を設定するための装置1は、押しボタン6を支持する押し要素支持体22と、ヒゲゼンマイ組立体26の一部を形成するテンプ24とをさらに備える。押し要素支持体22は、時計ムーブメントのヒゲゼンマイ組立体26の回転軸Dの周りを回転可能に構成される。
【0046】
この目的において、押し要素支持体22は、その内径がヒゲゼンマイ組立体26の回転軸Dの外径に調整された開口部28を備える。このように、本発明による装置1は、ヒゲゼンマイスタッド及びスタッド支持体の両方の機能を有利に果たす。
【0047】
図1及び図2に示すように、ヒゲゼンマイ組立体26は、好ましくは、従来のように、設定部32、穴石34、受け石36及びバネ38を備える衝撃吸収軸受30内で回転される。
【0048】
本発明は、本明細書に記載した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲を離れることなく、当業者が様々な簡単な代替案及び変形を考慮することができることは言うまでもない。特に、ヒゲゼンマイ2の有効長の設定を容易にするために、このヒゲゼンマイ2を形成する螺旋ストリップの少なくとも一部に、図3及び図4に示すように、各目盛りが例えば0.1秒の変化を表すスケール40を設けることができる。ヒゲゼンマイ2の有効長を調整するには、押しボタン6のボタン8を押してヒゲゼンマイ2を一時的に解放し、その後、既知の進み又は遅れを修正するためにテンプ24を所望の角度だけ回転させるだけでよい。例えば、時計ムーブメントが1日に1秒進む場合、ヒゲゼンマイ組立体26は、0.1秒の10目盛りをインデックス42の前に移動することによって遅れを誘発するように移動される。次に、押しボタン6のボタン8への圧力が解放され、ヒゲゼンマイ2が再び停止する。また、テンプ24の回転はガイドマークの移動も引き起こし、これは次に押しボタン6と押しボタン6を支持する押し要素支持体22とから構成される装置1を回転させることによって再調整され得る。この動作は、図5に示す本発明の簡略化された実施形態の場合には不可能であることは明らかである。なお、本発明において、押しボタンとは、シリンダとその内部をシリンダがバネの弾性戻り力に抗してスライド可能なチューブとから形成される組立体をいう。同様に、ヒゲゼンマイ2の停止は、前述したように、1つが終端湾曲部上に設けられ、他方がスケールを設けることができる領域に設けられる2点に沿って行われる。
【符号の説明】
【0049】
1 装置
2 ヒゲゼンマイ
3 外側最終コイル
4 点
6 押しボタン
8 ボタン
10 チューブ
12 弾性機関
14 ヘッド
16 フット
18 溝
21 ネジ
22 押し要素支持体
24 テンプ
D 回転軸
26 ヒゲゼンマイ組立体
28 開口部
30 衝撃吸収軸受
32 設定部
34 穴石
36 受け石
38 バネ
40 スケール
42 インデックス
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】