(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109046
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20240805BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240805BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240805BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C09D163/00
B05D7/14 P
B05D7/24 302U
B05D7/24 303E
B05D7/24 303A
B05D7/24 303J
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216424
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2023012866
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 真人
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075BB60Z
4D075CA03
4D075CA13
4D075CA33
4D075CB04
4D075DA06
4D075DB02
4D075DC01
4D075DC02
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4D075DC15
4D075EA05
4D075EA27
4D075EB33
4D075EB56
4D075EC01
4D075EC02
4D075EC07
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4D075EC13
4D075EC23
4D075EC30
4D075EC31
4D075EC33
4D075EC35
4D075EC53
4D075EC54
4J038DB061
4J038DJ012
4J038KA08
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】
上塗材との付着性に優れ、形成被膜の光沢度を高めることができる被膜形成方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、金属基材に対し、下塗材を塗付した後、上塗材を塗付する被膜形成方法であって、上記下塗材が、エポキシ樹脂(A)、ポリアミン化合物(B)、着色顔料(C)、及び体質顔料(D)を含み、上記体質顔料(D)として扁平状体質顔料(d)を含み、上記扁平状体質顔料(d)中に、粒子径が10μm以下の扁平状体質顔料(d1)及び粒子径が10μm超の扁平状体質顔料(d2)を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材に対し、下塗材を塗付した後、上塗材を塗付する被膜形成方法であって、
上記下塗材が、エポキシ樹脂(A)、ポリアミン化合物(B)、着色顔料(C)、及び体質顔料(D)を含み、
上記体質顔料(D)として扁平状体質顔料(d)を含み、
上記扁平状体質顔料(d)中に、粒子径が10μm以下の扁平状体質顔料(d1)及び粒子径が10μm超の扁平状体質顔料(d2)を含むことを特徴とする被膜形成方法。
【請求項2】
上記体質顔料(D)中に、扁平状体質顔料(d)を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の被膜形成方法。
【請求項3】
上記下塗材の顔料体積濃度は20~75%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構造物等に使用される金属基材においては、その防食性や美観性等を高める目的で各種の塗装が施されている。このような塗装においては、下塗材及び上塗材を用いる場合が多く、このうち下塗材としては、金属基材への付着性と防食性に優れるエポキシ樹脂系塗料が多く採用されている。
【0003】
しかし、エポキシ樹脂塗材は、上塗材を塗装するまでの塗装間隔が規定されており、その上限期間を過ぎると、上塗材との付着性が著しく低下することが知られている。このような問題に対し、例えば、特許文献1では、ダイマー酸とビスフェノール型エポキシ樹脂とを反応させて得られるエポキシエステル樹脂をバインダー樹脂として採用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上塗材として採用される塗料の種類は多岐にわたっており、上塗材の種類によっては十分な付着性を確保することが難しい場合があり、改善の余地があった。また、上塗材を塗装した場合、形成被膜の光沢度が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、上塗材との付着性に優れ、形成被膜の光沢度を高めることができる被膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討の結果、エポキシ樹脂(A)、ポリアミン化合物(B)、着色顔料(C)、及び特定の体質顔料(D)を含む下塗材を使用する被膜形成方法に想到し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.金属基材に対し、下塗材を塗付した後、上塗材を塗付する被膜形成方法であって、
上記下塗材が、エポキシ樹脂(A)、ポリアミン化合物(B)、着色顔料(C)、及び体質顔料(D)を含み、
上記体質顔料(D)として扁平状体質顔料(d)を含み、
上記扁平状体質顔料(d)中に、粒子径が10μm以下の扁平状体質顔料(d1)及び粒子径が10μm超の扁平状体質顔料(d2)を含むことを特徴とする被膜形成方法。
2.上記体質顔料(D)中に、扁平状体質顔料(d)を20質量%以上含むことを特徴とする1.に記載の被膜形成方法。
3.上記下塗材の顔料体積濃度は20~75%であることを特徴とする1.または2.に記載の被膜形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被膜形成方法によれば、上塗材との付着性に優れ、形成被膜の光沢度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
[金属基材]
本発明の塗装対象物としては、例えば、壁材、屋根材、梁、柱、手摺、エアコン室外機、扉、柵、架台、ガードレール、橋梁、鉄塔等が挙げられる。本発明は、これらを構成する金属基材に適用できる。金属基材としては、例えば、鉄、冷延鋼、アルミニウム鋼、ステンレス鋼、銅鋼、溶融亜鉛メッキ鋼、溶融亜鉛・アルミニウム合金メッキ鋼、電気亜鉛メッキ鋼、電気合金メッキ鋼、合金メッキ鋼、銅メッキ鋼、錫メッキ鋼等の金属基材、あるいはこれらの金属基材にリン酸塩系やクロム酸塩系等の表面処理を施した金属基材等が挙げられる。また、これら金属基材は、アルキッド樹脂系、塩化ゴム系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の各種既存被膜を有するものであってもよい。
【0012】
[下塗材]
本発明では、上記金属基材に対し、まず下塗材を塗付する。すなわち、下塗材は、上記金属基材用の材料である。本発明の下塗材は、エポキシ樹脂(A)、ポリアミン化合物(B)、着色顔料(C)、及び体質顔料(D)を含むものである。好ましくは、エポキシ樹脂(A)、着色顔料(C)、及び体質顔料(D)を含む主剤と、ポリアミン化合物(B)を含む硬化剤からなる2液型下塗材である。
【0013】
・主剤
エポキシ樹脂(A)としては、1分子中に2以上のエポキシ基を有するものが使用でき、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型ビスフェノールAエポキシ樹脂、フェノールノボラック型ビスフェノールFエポキシ樹脂等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂との共重合型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、モノ(ジ)ヒドロキシナフタレンノボラックのポリグリシジルエーテル、フェノール-ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA-ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル、モノ(ジ)ヒドロキシナフタレン-ジビニルベンゼン架橋型フェノール樹脂のポリグリシジルエーテル等、あるいはこれらの変性物等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0014】
エポキシ樹脂のエポキシ当量(固形分当たり)は、好ましくは300~2000g/eq、より好ましくは350~1800g/eqである。なお、エポキシ当量とは、エポキシ樹脂の分子量をエポキシ基の数で除した値である。
【0015】
着色顔料(C)としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、コバルトブラック、銅クロムブラック、銅マンガン鉄ブラック、酸化第二鉄(べんがら)、モリブデートオレンジ、黄色酸化鉄、チタンイエロー、群青、紺青、コバルトブルー、コバルトグリーン、鉄クロム複合酸化物、マンガンビスマス複合酸化物、マンガンイットリウム複合酸化物、マンガン鉄コバルト複合酸化物等の無機系着色顔料、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンツイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機系着色顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、メタリック顔料等の機能性顔料、等が挙げられる。これら着色顔料の1種または2種以上を適宜使用することにより、被膜の色調を調整することができる。
【0016】
着色顔料の平均粒子径は、好ましくは2μm以下(より好ましくは0.01~1μm)である。なお、着色顔料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される値である。
【0017】
着色顔料(C)の比率は、上記エポキシ樹脂の固形分100質量部に対し100~500質量部、好ましくは30~200質量部、より好ましくは50~150質量部である。
【0018】
本発明では、体質顔料(D)として、扁平状体質顔料(d)を含み、扁平状体質顔料(d)中に、粒子径が10μm以下の扁平状体質顔料(d1)及び粒子径が10μm超の扁平状体質顔料(d2)を含むことを特徴とする。このような扁平状体質顔料(d1)と扁平状体質顔料(d2)を併用して含むことにより上塗材との付着性に優れ、形成被膜の光沢度を高めることができる。
さらに、上記扁平状体質顔料(d1)の粒子径の下限値は、好ましくは0.1μm以上(より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上)である。一方、上記扁平状体質顔料(d2)の粒子径の上限値は、好ましくは50μm以下(より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下)である。
【0019】
なお、本発明における扁平状体質顔料(d)とは、アスペクト比[粒子径/厚さ]が好ましくは2~100(より好ましくは3~80)である体質顔料である。
なお、扁平状体質顔料(d)の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される値である。また、厚さは、走査型電子顕微鏡にて50個の厚みを測定したときの、これらの厚みの平均値をいう。
【0020】
このような扁平状体質顔料(d)としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。本発明では、扁平状体質顔料(d)として、タルクを含むことが好ましく、特に、扁平状体質顔料(d1)及び扁平状体質顔料(d2)がタルクであることが好適である。このような場合、上記効果をよりいっそう高めることができる。
【0021】
本発明では、扁平状体質顔料(d)中に、上記扁平状体質顔料(d1)を30~90%(より好ましくは40~80%、さらに好ましくは55~70%)含み、上記扁平状体質顔料(d2)を10~70%(より好ましくは20~60%、さらに好ましくは30~45%)を含むことが好適である。このような場合、上塗材との付着性がよりいっそう高まるとともに、形成被膜の光沢度をよりいっそう高めることができる。なお、扁平状体質顔料の割合は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定(体積基準で測定)される積算分布により求められる値である。
また、扁平状体質顔料(d)の配合方法としては、例えば、予め扁平状体質顔料(d)を粒子径が10μm以下の扁平状体質顔料(d1)と粒子径が10μm超の扁平状体質顔料(d2)に分級(湿式分級、乾式分級など)したものを混合する方法、あるいは平均粒子径の異なる2種以上の扁平状体質顔料を上記条件を満たすように混合する方法等が挙げられる。ここでいう平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される平均値である。
【0022】
本発明では、体質顔料(D)として、上記扁平状体質顔料(d)を除くその他の体質顔料(d’)を含むことができる。このような体質顔料(d’)としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、含水微粉珪酸、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0023】
本発明の体質顔料(d’)は、粒子径が10μm以下(より好ましくは0.05μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上3μm以下、特に好ましくは0.2μm以上1μm以下)であることが好ましい。このような場合、本願発明の効果を十分に発揮することができる。
また、上記体質顔料(d’)の粒子径は、上記扁平状体質顔料(d2)よりも小さいことが好適であり、さらには上記扁平状体質顔料(d1)よりも小さいことが好適である。このような場合、本願発明の効果をよりいっそう高めることができる。
なお、体質顔料の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される値である。
【0024】
体質顔料(D)の比率は、上記エポキシ樹脂の固形分100質量部に対し100~500質量部、好ましくは130~400質量部、より好ましくは150~300質量部である。このような場合、金属基材及び上塗材との付着性を高め、防食性等において優れた性能を得ることができる。
また、体質顔料(D)中に、扁平状体質顔料(d)を20質量%以上(より好ましくは30~80質量%)含むことが好ましい。このような範囲の場合、上記効果をよりいっそう高めることができる。
【0025】
本発明では、上記着色顔料(C)及び上記体質顔料(D)の他に、防錆顔料を含むこともできる。防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等のリン酸化合物;亜リン酸亜鉛、亜リン酸鉄、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム等の亜リン酸化合物;ポリリン酸亜鉛、ポリリン酸鉄、ポリリン酸アルミニウム等のポリリン酸化合物;モリブデン酸亜鉛、モリンブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸バリウム、リンモリブデン酸アルミニウム等のモリブデン酸化合物;酸化バナジウム等のバナジウム化合物;ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ホウ酸カルシウム等のホウ酸化合物;シアナミド亜鉛、シアナミド亜鉛カルシウム等のシアナミド化合物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。なお、防錆顔料は、平均粒子径が10μm以下(より好ましくは0.05μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上3μm以下)であることが好ましい。
【0026】
主剤には、上述の成分の他、本発明の効果に影響しない程度に各種成分を混合することも可能である。このような成分としては、例えば、溶剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、防錆剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、皮張り防止剤、脱水剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、シランカップリング剤、等が挙げられる。主剤は、以上のような各成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。
【0027】
・硬化剤
本発明の下塗材における硬化剤は、ポリアミン化合物(B)を含むものであり、上記エポキシ樹脂(A)と反応することによって架橋被膜を形成する成分である。
上記ポリアミン化合物(B)としては、ポリアミン類、ポリアミドアミン類(ポリアミノアミド類、ポリアミド樹脂ともいう)等が挙げられる。
【0028】
ポリアミン類としては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、脂環式ポリアミン、及びこの変性ポリアミン等が挙げられる。
脂肪族ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
芳香族ポリアミンとしては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
脂環式ポリアミンとしては、例えば、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0029】
変性ポリアミンとしては、例えば、上記ポリアミン類とエポキシ化合物との反応物であるエポキシアダクト変性物、上記ポリアミン類とアクリル化合物との反応物であるミカエル変性物、アミン類とフェノール化合物とアルデヒド類と反応物であるマンニッヒ変性物、上記ポリアミン類とケトンの反応物であるケチミン(ケトイミン)、上記ポリアミン類と尿素またはチオ尿素との反応物等が挙げられる。
【0030】
ポリアミドアミン類は、例えば、上記ポリアミンと、ダイマー酸(不飽和脂肪酸の重合物)またはその他のポリカルボン酸類との反応物、及びこの変性ポリアミドアミン等が挙げられる。
変性ポリアミドアミンとしては、上記ポリアミドアミン類とエポキシ樹脂との反応物であるエポキシアダクト変性物、上記ポリアミドアミン類とアクリル化合物との反応物であるミカエル変性物、上記ポリアミドアミン類とフェノール化合物とアルデヒド類と反応物であるマンニッヒ変性物、上記ポリアミドアミン類とケトンの反応物であるケチミン(ケトイミン)、上記ポリアミドアミン類と尿素またはチオ尿素との反応物等が挙げられる。
【0031】
本発明では、上記ポリアミン化合物(B)として、エポキシアダクト変性物(b1)を含むことが好適である。
本発明のような金属基材に対する被膜形成においては、例えば、夏場の塗装環境においては、金属基材の温度が高温になり、その結果、形成被膜の養生条件が高温となる場合がある。このような高温環境下で下塗材及び上塗材を塗付して被膜を形成した場合、十分な付着性を確保することが難しい場合がある。これに対して、上記ポリアミン化合物(B)として、エポキシアダクト変性物(b1)を含む下塗材を使用することにより、高温環境下であっても、金属基材及び上塗材との優れた付着性を確保することができる。
【0032】
本発明では、エポキシアダクト変性物(b1)は、ポリアミン化合物(B)の全量に対して、50質量%以上、より好ましくは60~100質量%であることが好ましい。ポリアミン化合物(B)としてエポキシアダクト変性物のみを使用することもできる。
【0033】
具体的には、エポキシアダクト変性物(b1)は、ポリアミン類、及び/またはポリアミドアミン類をエポキシ樹脂で変性することにより得られる化合物である。変性の方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、エポキシ樹脂を、上記ポリアミン類、または上記ポリアミド類と反応させ、カルボン酸等の酸基を有する多官能飽和脂肪酸で重合させること等によって得ることができる。
【0034】
なお、エポキシアダクト変性物における上記エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、上記(A)エポキシ樹脂として例示したもののうち、エポキシ基を2個有するものを使用することが好ましく、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用することが好適である。
【0035】
このようなエポキシアダクト変性物(b1)としては、例えば、エチレンジアミンポリアミンアダクト樹脂、ジエチレントリアミンポリアミドアミン樹脂、トリエチレンテトラアミンポリアミドアミン樹脂、メタキシレンジアミンポリアミドアダクト樹脂、ジエチレントリアミンポリアミドアダクト樹脂等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0036】
具体的に、上記ポリアミン化合物(B)は、固形分あたりの活性水素当量が30g/eq以上300g/eq以下(より好ましくは40g/eq以上250g/eq以下)である。このような範囲の活性水素当量を有するポリアミンを含むことにより、形成被膜の架橋密度が高まり形成被膜の耐久性、防食性を高めることができる。
【0037】
硬化剤には、上述の成分の他、本発明の効果に影響しない程度に各種成分を混合することも可能である。このような成分としては、例えば、溶剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、防錆剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、皮張り防止剤、脱水剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、シランカップリング剤等が挙げられる。硬化剤は、以上のような各成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。
【0038】
本発明の下塗材は、流通時には上記主剤と上記硬化剤からなる2液型の形態としておき、これらを塗装時に混合して使用するものが好適である。上記主剤と上記硬化剤の混合比率は、特に限定されないが、当量比[(活性水素当量)/(エポキシ当量)]が、好ましくは0.1~2、より好ましくは0.2~1、さらに好ましくは0.3~0.9となる範囲内で設定すればよい。このような範囲の場合、本発明の効果をよりいっそう高めることができる。なお、本発明における当量比[(活性水素当量)/(エポキシ当量)]は、[(ポリアミン化合物の配合量/ポリアミン化合物の活性水素当量)]/[(エポキシ樹脂の配合量/エポキシ樹脂のエポキシ当量)]で求められる値である。
【0039】
また、本発明の下塗材は、顔料体積濃度(PVC)が、好ましくは20~75%(より好ましくは25~70%)である。このような場合、優れた防食性を有するとともに、上塗材の付着性をよりいっそう高めることができる。
なお、本発明における顔料体積濃度は、乾燥被膜中に含まれる顔料の体積百分率であり、被覆材を構成する樹脂成分[エポキシ樹脂(A)及びポリアミン化合物(B)]及び顔料[着色顔料(C)、体質顔料(D)、必要に応じて防錆顔料]の配合量から、計算により求められる値である。
【0040】
下塗材の塗装方法としては、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装、ロールコーター、フローコーター等、種々の方法を用いることができる。塗装時の塗付け量は、好ましくは30~500g/m 2、より好ましくは50~300g/m 2である。また、乾燥膜厚は、好ましくは10~100μm、より好ましくは20~80μmである。下塗材の塗回数は、金属基材の表面状態等によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。
【0041】
下塗材の乾燥時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上とすることが好適であるが、下塗材を塗付後、上塗材を塗装するまでの塗装間隔が30日間経過後であっても十分な付着性を確保することが可能である。また乾燥温度は、好ましくは-10~50℃、より好ましくは-5~40℃である。本発明では、乾燥温度が比較的低い場合(例えば-10~15℃)であっても、優れた性能を発揮することができる。
【0042】
[上塗材]
本発明では、下塗材の塗付・乾燥後に、上塗材を塗付することを特徴とする。上塗材としては、例えば、樹脂成分、及び着色顔料を含むもの等が挙げられる。このような上塗材は、防食性、耐候性等の向上化、各種色彩による美観性付与等の点で好適である。
【0043】
上塗材における樹脂成分としては、各種樹脂が使用できる。樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合樹脂等が挙げられる。この中でも、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等から選ばれる1種または2種以上が好適である。また、このような樹脂成分の形態としては、水溶性樹脂、水分散性樹脂(樹脂エマルション)、溶剤可溶形樹脂、無溶剤形樹脂、非水分散形樹脂、粉末樹脂等が挙げられ、この中でも、水溶性樹脂、水分散性樹脂、溶剤可溶形樹脂、非水分散形樹脂から選ばれる1種以上が好適である。このうち溶剤可溶性樹脂及び/または非水分散性樹脂としては、脂肪族炭化水素溶剤を含む弱溶剤形樹脂が好適である。また、これら樹脂成分は架橋反応性を有するものであってもよい。架橋反応性を有する樹脂成分を使用した場合は、被膜の耐久性、耐水性、耐候性、耐薬品性、付着性等を向上させることができる。
【0044】
着色顔料としては、公知の着色顔料が使用でき、例えば、上記下塗材で例示したもの等が使用できる。これら着色顔料の1種または2種以上を適宜使用することにより、下塗材を所望の色相に設定することができる。上塗材における着色顔料の混合比率は、上記樹脂成分の固形分100質量部に対し、好ましくは1~500質量部、より好ましくは5~200質量部、さらに好ましくは10~100質量部である。
【0045】
このような上塗材は、本発明の効果が著しく損われない範囲内であれば、上記成分以外の各種成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、体質顔料、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、繊維、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、低汚染化剤、撥水剤、触媒、シランカップリング剤、溶剤、水等が挙げられる。本発明の上塗材は、上記樹脂成分、着色顔料、及び必要に応じ上述の各種成分を常法によって均一に混合することで製造できる。
【0046】
上塗材の塗装においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を使用することができる。上塗材の塗付け量は、好ましくは50~500g/m 2、より好ましくは80~400g/m 2である。塗装時には、必要に応じ適宜希釈することもできる。上塗材の塗回数は、好ましくは1~2回である。
【実施例0047】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。
【0048】
○下塗材
(A)エポキシ樹脂
・エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂溶液、固形分70質量%、エポキシ当量(固形分)470g/eq
(B)ポリアミン化合物
・ポリアミン1:エポキシアダクト変性物(ポリアミンアダクト変性物、固形分50質量%、活性水素当量(固形分)190g/eq
・ポリアミン2:ポリアミドアミン(固形分60質量%、活性水素当量(固形分)390g/eq)
(C)着色顔料
・着色顔料1:酸化チタン(平均粒子径0.3μm、比重4.2)
(D)体質顔料
(d)扁平状体質顔料
・扁平状体質顔料1:タルク(粒子径1μm以上10μm以下のタルクの割合50%、粒子径10μm超40μm以下のタルクの割合50%、比重2.7)
・扁平状体質顔料2:タルク(粒子径1μm以上10μm以下のタルクの割合56%、粒子径10μm超40μm以下のタルクの割合44%、比重2.7)
・扁平状体質顔料3:タルク(粒子径1μm以上10μm以下のタルクの割合62%、粒子径10μm超40μm以下のタルクの割合38%、比重2.7)
・扁平状体質顔料4:タルク(粒子径1μm以上10μm以下のタルクの割合70%、粒子径10μm超40μm以下のタルクの割合30%、比重2.7)
・扁平状体質顔料5:タルク(粒子径1μm以上10μm以下のタルクの割合79%、粒子径10μm超40μm以下のタルクの割合21%、比重2.7)
・扁平状体質顔料6:タルク(粒子径10μm超40μm以下のタルクの割合100%、比重2.7)
・扁平状体質顔料7:タルク(粒子径1μm以上10μm以下のタルクの割合100%、比重2.7)
なお、上記扁平状体質顔料1~5は、平均粒子径5μmのタルクと平均粒子径12μmのタルクを混合することにより調製したものである。また、上記扁平状体質顔料6、7は、分級により調製したものである。
(d’)その他の体質顔料
・体質顔料1:沈降性硫酸バリウム(粒子径0.3μm以上0.9μm以下、比重4.5)
(その他)
・添加剤:増粘剤、分散剤、消泡剤等
・溶剤:芳香族系炭化水素溶剤、アルコール系溶剤等
【0049】
(実施例1~8、比較例1~2)
表1に示す配合に従って、主剤、及び硬化剤を調製したのち、これらを混合して下塗材1~9を作製した。
【0050】
【0051】
<付着性>
鋼板(150mm×70mm×3.2mm)に対し、下塗材を乾燥膜厚が60μmとなるようにスプレーで塗付し、(I)24時間乾燥後、(II)7日間乾燥後、(III)30日乾燥後、上塗材(アクリル樹脂塗料、酸化チタン含有)を乾燥膜厚30μmとなるようにスプレーで塗付し、96時間乾燥させることにより試験片を作製した。なお、塗装及び乾燥は標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で行った。
また、下塗材を乾燥膜厚が60μmとなるようにスプレーで塗付し、(IV)50℃下で30日乾燥後、上塗材(溶剤形一液アクリル樹脂塗料、酸化チタン含有)を乾燥膜厚30μmとなるようにスプレーで塗付し、96時間乾燥させることにより試験片を作製した。
得られた試験片について、JIS K 5600-5-6:1999に準じて付着性(クロスカット法)試験を行い、付着性を評価した。評価基準は、剥離が認められなったものを「a」、全面に剥離が認められたものを「d」とする4段階(a>b>c>d)とした。
【0052】
<上塗光沢性>
透明なガラス板(150mm×120mm×3mm)に対し、下塗材をWET膜厚が125μmとなるようにアプリケーター引きし、24時間乾燥後、上塗材(弱溶剤形二液ウレタン樹脂塗料、酸化チタン含有)をWET膜厚が125μmとなるようにアプリケーター引きし、24時間乾燥させることにより試験片を作製した。なお、塗装及び乾燥は標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で行った。
得られた試験片について、JIS K 5600-4-7:1999 鏡面光沢度に準じ、20度の角度での光沢度を測定した。評価基準は以下の通りである。また、結果は表2に示す。
a:光沢度65以上
b:光沢度60以上65未満
c:光沢度55以上60未満
d:光沢度55未満
【0053】
<防食性>
鋼板(150mm×70mm×3.2mm)に対し、下塗材を乾燥膜厚が60μmとなるようにスプレーで塗付、7日乾燥して得た試験片について、JIS K5551 7.17:2018に準じてサイクル腐食性試験を行い、異常(錆、膨れ、割れ、及びはがれ)の発生状態を確認した。評価基準は、異常が認められなったものを「a」、明らかに異常が認められたものを「d」とする4段階(a>b>c>d)とした。
【0054】