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  • 特開-ポリオレフィンフィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109047
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ポリオレフィンフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20240805BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240805BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C08J7/00 306
C08J5/18 CES
H01G4/32 551B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216555
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2023012535
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】軽部 祐寿
(72)【発明者】
【氏名】舩冨 剛志
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
5E082
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA88
4F071AC11
4F071AE05
4F071AF04Y
4F071AF05
4F071AF11
4F071AF39
4F071AG17
4F071AH15
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F073AA12
4F073BA08
4F073BA43
4F073BB01
4F073CA21
4F073HA08
4F073HA11
5E082FG35
(57)【要約】
【課題】本発明は、蒸発させたアルミニウムやシリカなどの金属をフィルムの表面に薄膜化する蒸着工程での優れたフィルム加工性、フィルムコンデンサとして優れた耐電圧特性を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、処理ロール上で、電極により搬送フィルムにコロナ放電処理を施す工程において、前記処理ロールと前記電極との距離が1.5mm以上2.5mm以下であり、前記搬送フィルムの走行速度が200m/min以上300m/mim以下であり、かつ前記電極の放電電力値が3.5kW以上11.9kW以下であることを特徴とする、ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理ロール上で、電極により搬送フィルムにコロナ放電処理を施す工程(コロナ放電工程)を有する、ポリオレフィンフィルムの製造方法であって、前記コロナ放電工程において、前記処理ロールと前記電極との距離が1.5mm以上2.5mm以下であり、前記搬送フィルムの走行速度が200m/min以上300m/mim以下であり、かつ前記電極の放電電力値が3.5kW以上11.9kW以下であることを特徴とする、ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記コロナ放電工程において、下記式1で表される前記搬送フィルムが受ける放電量が0.0018kW・min/m以上0.0068kW・min/m以下である、請求項1に記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
式1:搬送フィルムが受ける放電量(kW・min/m)=電極の放電電力値(kW)/電極長(m)×搬送フィルムの走行速度(m/min)
【請求項3】
前記コロナ放電工程において、下記式2で表される前記搬送フィルムへ放電される放電度(kW/m)が13.6kW/m以上51.0kW/m以下である、請求項1又は2に記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
式2:搬送フィルムへ放電される放電度(kW/m)=電極の放電電力値(kW)/電極面積(m
【請求項4】
前記ポリオレフィンフィルムの耐電圧が500v/μm以上700v/μm以下であり、かつ、前記コロナ放電工程において放電を受けた面の濡れ張力が45.0mN/m以上51.0mN/m以下である、請求項1又は2に記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィンフィルムの厚みが1.0μm以上4.0μm以下ある、請求項1又は請求項2に記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサの誘電体として用いた際に、高温・高電圧環境下において高い耐電圧性を有するポリオレフィンフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンフィルムは、透明性、機械特性、及び電気特性などに優れるため、包装用途、テープ用途、及びケーブルラッピングやフィルムコンデンサをはじめとする電気用途などの様々な用途に用いられている。
【0003】
中でもフィルムコンデンサ用途においては、その優れた高耐電圧特性、低損失特性から、フィルムコンデンサの誘電体として特に好ましく用いられている。最近では、各種電気設備がインバーター化されつつあり、それに伴いフィルムコンデンサの小型化、大容量化の要求が一層強まってきている。さらに、特に自動車(ハイブリッドカーや電気自動車を含む。)や太陽光発電、風力発電等の用途では使用環境の高温化(85℃以上125℃以下を示す。)が進んでおり、フィルムコンデンサに対する耐熱化要求が高まっている。
【0004】
フィルムコンデンサの耐熱化とは高温下での耐電圧向上を意味するものであり、これと小型化を同時に実現するには、フィルムコンデンサに用いるポリオレフィンフィルムの薄膜化と耐電圧性を両立することが必要となる。これまで、このようなポリオレフィンフィルムを製造する製造方法として、フィルム製造工程におけるフィルムへの温度調整および、縦横の延伸比と延伸倍率および延伸速度を調整する方法が知られている(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-191059号公報
【特許文献2】特表2012-511446号公報
【特許文献3】特開2021-152131号公報
【特許文献4】特開2022-088132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の製造方法では、フィルムの表面に薄膜化する蒸着工程での優れたフィルム加工性、フィルムコンデンサとして優れた耐電圧特性に優れるポリオレフィンフィルムを製造することが困難であった。そこで本発明は、上記課題を解決し、蒸着工程での加工性と耐電圧特性を両立したポリオレフィンフィルムを製造することができる、ポリオレフィンフィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は以下の構成よりなる。
(1) 処理ロール上で、電極により搬送フィルムにコロナ放電処理を施す工程(コロナ放電工程)を有する、ポリオレフィンフィルムの製造方法であって、前記コロナ放電工程において、前記処理ロールと前記電極との距離が1.5mm以上2.5mm以下であり、前記搬送フィルムの走行速度が200m/min以上300m/mim以下であり、かつ前記電極の放電電力値が3.5kW以上11.9kW以下であることを特徴とする、ポリオレフィンフィルムの製造方法。
(2) 前記コロナ放電工程において、下記式1で表される前記搬送フィルムが受ける放電量が0.0018kW・min/m以上0.0068kW・min/m以下である、(1)に記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
式1:搬送フィルムが受ける放電量(kW・min/m)=電極の放電電力値(kW)/電極長(m)×搬送フィルムの走行速度(m/min)
(3) 前記コロナ放電工程において、下記式2で表される前記搬送フィルムへ放電される放電度(kW/m)が13.6kW/m以上51.0kW/m以下である、(1)又は(2)に記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
式2:搬送フィルムへ放電される放電度(kW/m)=電極の放電電力値(kW)/電極面積(m
(4) 前記ポリオレフィンフィルムの耐電圧が500v/μm以上700v/μm以下であり、かつ、前記コロナ放電工程において放電を受けた面の濡れ張力が45.0mN/m以上51.0mN/m以下である、(1)から(3)のいずれかに記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
(5) 前記ポリオレフィンフィルムの厚みが1.0μm以上4.0μm以下ある、(1)から(4)のいずれかに記載のポリオレフィンフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、蒸着工程での加工性と耐電圧特性を両立することができる、ポリオレフィンフィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法における処理ロールの一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は、処理ロール上で、電極により搬送フィルムにコロナ放電処理を施す工程(コロナ放電工程)を有する、ポリオレフィンフィルムの製造方法であって、前記コロナ放電工程において、前記処理ロールと前記電極との距離が1.5mm以上2.5mm以下であり、前記搬送フィルムの走行速度が200m/min以上300m/mim以下であり、かつ前記電極の放電電力値が3.5kW以上11.9kW以下であることを特徴とする。以下、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法について、さらに詳しく説明する。
【0011】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は、処理ロール上で、電極により搬送フィルムにコロナ放電処理を施す工程(コロナ放電工程)を有する。このようなコロナ放電工程を有することにより、表面の濡れ張力を適度に調整することができ、得られるフィルムの蒸着加工適性を高めることができる。
【0012】
ここで処理ロールとは、ポリオレフィンフィルムの製造工程中にある搬送ロールのうち、その表面で搬送フィルムに電極によるコロナ放電処理を施すことができるロールをいう。処理ロールは搬送ロールに電極を備え付けたものであってもよく、また、表面でのコロナ放電処理が可能であればロールと電極が別個に存在する態様であってもよい。また、電極とは搬送中のフィルム表面(非ドラム面)に電位を加えるための放電処理装置であり、搬送フィルムとは製造工程中を走行するフィルムをいう。
【0013】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法における処理ロールについて、その一実施態様を示す図1を用いて説明する。図1に示す処理ロール1は、搬送フィルム2にコロナ放電処理を施すための電極3を備えている。処理ロール1はフィルムを搬送する搬送ロールのとしての役割も果たしており、動力により回転するものであっても、動力を持たずに搬送フィルムの走行により受動的に回転するものであってもよい。
【0014】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法においては、コロナ放電工程で少なくとも片面に空気中、窒素中、炭酸ガス中、あるいはこれらの混合気体中でコロナ放電処理を施すが、この条件は、得られるポリオレフィンフィルムの耐電圧特性や表面の濡れ張力を好適に制御する観点から特に重要である。
【0015】
上記観点から、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法においては、処理ロールと電極との距離が1.5mm以上2.5mm以下であることが重要であり、当該距離は好ましくは1.8mm以上2.2mm以下である。同様の観点から、搬送フィルムの走行速度が200m/min以上300m/mim以下であることが重要であり、好ましくは230m/min以上270m/min以下である。さらに同様の観点から、電極の放電電力値が3.5kW以上11.9kW以下であることが重要であり、好ましくは5.8kW以上11.0kW以下であり、さらに好ましくは5.8kW以上7.8kW以下である。なお、処理ロールと電極との距離とは、処理ロールの表面と電極の表面の最短距離をいう。
【0016】
処理ロールと電極との距離、搬送フィルムの走行速度、電極の放電電力値は、いずれもコロナ放電処理において搬送フィルムに加わる電気的負荷に影響するファクターである。処理ロールと電極との距離が2.5mmを超える場合、搬送フィルムの走行速度が300m/mimを超える場合、電極の放電電力値が3.5kW未満の場合は、いずれも搬送フィルムに十分な電気的負荷を与えることができず、例えば蒸着加工に必要な水準に濡れ張力を調整することが難しくなる。一方、処理ロールと電極との距離が1.5mm未満の場合、搬送フィルムの走行速度が200m/mim未満の場合、電極の放電電力値が11.9kWを超える場合は、コロナ放電処理において搬送フィルムに係る電気的負荷が過剰となり、搬送フィルム表面に傷が生じることで、得られるポリオレフィンフィルムの耐電圧性能が低下する。また、コロナ放電処理の効果が裏面にまで及ぶ、いわゆる「裏抜け」が生じることも問題となる。
【0017】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は、コロナ放電工程において、下記式1で表される搬送フィルムが受ける放電量が0.0018kW・min/m以上0.0068kW・min/m以下であることが好ましく、0.0025kW・min/m以上0.0050kW・min/m以下であることがより好ましい。このような態様とすることにより、得られるポリオレフィンフィルムは、耐電圧と濡れ張力が好適に調整されたものとなる。なお、電極長とは電極の幅方向の長さをいい、電極長は搬送フィルム全体により均一にコロナ放電処理を施す観点から、搬送フィルムの幅方向の長さよりも大きいことが必要であり、より好ましくは搬送フィルムの幅方向の長さ×1.00倍より大きく搬送フィルムの幅方向長さ×1.02倍以下である。幅方向とは、製造工程中を搬送フィルムが走行する方向(長手方向)とフィルム面内で直交する方向をいう。
式1:搬送フィルムが受ける放電量(kW・min/m)=電極の放電電力値(kW)/放電電極長(m)× 搬送フィルムの走行速度(m/min)
搬送フィルムが受ける放電量が0.0068kW・min/m以下である場合、コロナ放電処理において搬送フィルムに係る電気的負荷が過剰とならず、搬送フィルム表面における傷の発生が軽減されるため、得られるポリオレフィンフィルムの耐電圧性能が保たれる。また、コロナ放電処理の効果が裏面にまで及ぶ、いわゆる「裏抜け」も軽減される。一方、搬送フィルムが受ける放電量が0.0018kW・min/m以上の場合、蒸着加工に必要な程度に処理面の濡れ張力を高めることができ、得られるポリオレフィンフィルムの蒸着加工性が向上する。
【0018】
搬送フィルムが受ける放電量は、電極の放電電力値(電極の出力)を高くすることや、搬送フィルムの走行速度を低くすることにより、大きくすることができる。
【0019】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は、コロナ放電工程において、下記式2で表される搬送フィルムへ放電される放電度(kW/m)が13.6kW/m以上51.0kW/m以下であることが好ましく、より好ましくは15.1kW/m以上46.0kW/m以下であり、さらに好ましくは25.0kW/m以上38.0kW/m以下、特に好ましくは25.0kW/m以上35.0kW/m以下である。また、搬送フィルムに放電される放電度とは電極が発する放電力を表す数値であり、電極面積とは、電極の長手方向の長さ(図1の態様の処理ロールにおいては符号4で表す。)と幅方向の長さ(こちらは式1の電極長と同じ)の積で表す面積をいう。
式2:搬送フィルムへ放電される放電度(kW/m)=電極の放電電力値(kW)/放電電極面積(m
搬送されるフィルムへの放電度が51.0kW/m以下である場合、コロナ放電処理において搬送フィルムに係る電気的負荷が過剰とならず、搬送フィルム表面における傷の発生が軽減されるため、得られるポリオレフィンフィルムの耐電圧性能が保たれる。また、コロナ放電処理の効果が裏面にまで及ぶ、いわゆる「裏抜け」も軽減される。一方、搬送フィルムへ放電される放電度が13.6kW/m以上であることにより、蒸着加工に必要な程度に処理面の濡れ張力を高めることができ、得られるポリオレフィンフィルムの蒸着加工性が向上する。搬送フィルムへ放電される放電度は、電極の放電電力値を大きくすること、電極の長手方向長さを調整して電極面積を小さくすること等により大きくすることができる。
【0020】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は、ポリオレフィンフィルムの耐電圧が500v/μm以上700v/μm以下であり、かつ、コロナ放電工程において放電を受けた面の濡れ張力が45.0mN/m以上51.0mN/m以下であることが好ましい。ここでいうポリオレフィンフィルムとは、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法により最終的に得られるポリオレフィンフィルムのことである。ポリオレフィンフィルムの耐電圧と濡れ張力は相互関係にあり、一方の値が上記範囲を満たさないとき、もう一方の値も上記範囲を満たすことが困難となる。
【0021】
ポリオレフィンフィルムの耐電圧が500v/μm以上700v/μm以下であることは耐電圧特性が良好であることを意味し、このようなポリオレフィンフィルムはコンデンサ素子に好適なものとなる。上記観点から、耐電圧は550v/μm以上700v/μm以下がより好ましく、さらに好ましくは600v/μm以上700v/μm以下である。また、放電を受けた面の濡れ張力が45.0mN/m以上51.0mN/m以下であることにより、ポリオレフィンフィルムは、フィルムコンデンサ用のフィルムとして用いる際に必要な蒸着加工性に優れたものとなる。上記観点から、放電を受けた面の濡れ張力は、45.5mN/m以上50.5mN/m以下がより好ましく、45.5mN/m以上50.0mN/m以下がさらに好ましく、47.0mN/m以上49.0mN/m以下が特に好ましく、47.0mN/m以上48.5mN/m以下が最も好ましい。
【0022】
濡れ張力はJIS K 6768(1999)に準じて測定することができ、耐電圧は23℃、65%RH雰囲気下において、JIS C 2330(2014)に準じて行った。いずれについても詳細な測定方法は後述する。
【0023】
ポリオレフィンフィルムの耐電圧は、前述の放電量や放電電力値、搬送フィルムの速度を前出した好ましい範囲に調節すること等により、好適な範囲に制御することができる。また、ポリオレフィンフィルムの濡れ張力は、前述の放電電力値や処理ロールと電極との距離、搬送フィルムの速度を前出した好ましい範囲に調節すること等により、好適な範囲に制御することができる。なお、これらの方法は適宜組み合わせてもよい。
【0024】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は、ポリオレフィンフィルムの厚みが1.0μm以上4.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上3.0μm以下がより好ましい。ここでいうポリオレフィンフィルムとは、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法により最終的に得られるポリオレフィンフィルムのことである。厚みが1.0μm以上であることにより、ポリオレフィンフィルムの製膜性や機械強度、耐電圧特性が向上する。一方、厚みが4.0μm以下であることにより、フィルムコンデンサの誘電体として用いた際に体積当たりの容量を確保することができ、フィルムコンデンサの小型化につながる。なお、ポリオレフィンフィルムの厚みは、JIS C 2330(2014)に準じてマイクロメーター法により測定することができ、押出機からの吐出量、キャストドラムの引き取り速度、口金のスリット幅、延伸倍率等で調整することができる。
【0025】
次に、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法において、好適に用いられるポリオレフィン樹脂について説明する。
【0026】
本発明においてポリオレフィンフィルムとは、ポリオレフィン樹脂を主成分とするシート状の成形体をいい、主成分とは、全構成成分中に50質量を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。このとき、ポリオレフィン樹脂に該当する成分が複数含まれる場合においては、個々の成分が50質量%に満たなくても、これらの成分を合算して50質量%を超えるのであれば、ポリオレフィン樹脂を主成分とするものとみなす。以下、主成分については同様に解釈することができる。
【0027】
また、本発明においてポリオレフィン樹脂とは、樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、オレフィン由来の構成単位を50モル%より多く100モル%以下含む樹脂をいう。本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法においては、ポリオレフィン樹脂として、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂等を用いることができる。なお、ポリエチレン樹脂とは、50モル%より多く100モル%以下含まれる構成単位がエチレン由来の構成単位であるポリオレフィン樹脂であり、ポリプロピレン樹脂等の他のポリオレフィン樹脂についても同様に解釈することができる。
【0028】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法におけるポリオレフィンフィルムは、ポリオレフィン樹脂を主成分とする限り特に制限されないが、耐熱性や耐電圧特性に優れている観点から、ポリプロピレン樹脂を主成分とするフィルム、すなわちポリプロピレンフィルムであることが好ましく、二軸配向ポリプロピレンフィルムであることがより好ましい。二軸配向とは、フィルム面内で直交する二方向に分子配向を有するフィルムをいい、例えば、フィルムを長手方向と幅方向に延伸することで得ることができる。
【0029】
本発明のポリオレフィンフィルムが二軸配向ポリプロピレンフィルムである場合、製膜時の延伸性悪化を軽減し、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐熱性や高温での耐電圧性を高める観点から、その主成分は高立体規則性ポリプロピレン樹脂であること、より具体的には、メソペンタッド分率が0.960以上0.995以下であり、CXSが0.5質量%以上4.0質量%以下であり、MFRが0.5g/10分以上5.0g/10分以下であり、かつ溶融張力(MS)が1.5cN以下である高立体規則性ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0030】
上記観点から、高立体規則性ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率は、0.965以上0.990以下がより好ましく、さらに好ましくは0.970以上0.985以下である。同様の観点から、高立体規則性ポリプロピレン樹脂のCXSは、0.5質量%以上3.0質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。同様の観点から、高立体規則性ポリプロピレン樹脂のMFRは、1.0g/10分以上4.5g/10分以下がより好ましく、さらに好ましくは1.5g/10以上4.0g/10分以下である。同様の観点から、高立体規則性ポリプロピレン樹脂のMSは1.2cN以下がより好ましく、さらに好ましくは1.0cN以下である。
【0031】
また、本発明のポリオレフィンフィルムが二軸配向ポリプロピレンフィルムである場合、高溶融張力ポリプロピレン樹脂、より具体的にはMFRが1.0g/10分以上5.0g/10分以下、MSが1.5cNより大きく35.0cN以下である高溶融張力ポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。このような態様とすることで、二軸配向ポリプロピレンフィルム製膜時の延伸性悪化を軽減し、耐熱性や高温での耐電圧性を高めた製造が可能となる。
【0032】
なお、二軸配向ポリプロピレンフィルムが高立体規則性ポリプロピレン樹脂と高溶融張力ポリプロピレン樹脂を含む場合、両者の質量比は、高立体規則性ポリプロピレン樹脂と高溶融張力ポリプロピレン樹脂の質量比(高立体規則性ポリプロピレン樹脂:高溶融張力ポリプロピレン樹脂)が、90.0~80.0:10.0~20.0であることが好ましく、より好ましくは85.0~80.0:15.0~20.0、さらに好ましくは、83.0~80.0:17.0~20.0である。このような態様とすることで、二軸配向ポリプロピレンフィルムの製膜時の延伸性悪化を軽減し、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐熱性や高温での耐電圧性を高めることが可能となる。
【0033】
次に本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法について、二軸配向ポリプロピレンフィルムを例に挙げて以下に説明するが、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0034】
まず、ポリプロピレン樹脂を単軸の溶融押出機に供給し、200~260℃にて溶融押出を行う。このとき、ポリプロピレン樹脂としては、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐電圧の観点から溶融張力の異なる2種類のポリプロピレン樹脂をドライブレンドしたものを用いることが好ましい。また、ポリプロピレン樹脂には劣化軽減のために酸化防止剤を混合させてもよい。次に、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて、異物や変性ポリマーなどを除去する。そしてシート状に成形した溶融樹脂組成物をTダイよりキャストドラム上に吐出して冷却固化することによりキャストシートを形成し、これを冷却ロールで冷却させる。
【0035】
キャストドラムの温度は、β晶および球晶を適切に生成させる観点から80℃以上120℃以下であることが好ましく、85℃以上115℃以下であるとさらに好ましく、85℃以上110℃以下であればさらに好ましい。キャストドラム温度を80℃以上とすることで、キャストシート中に形成されるβ晶が少なくなり過ぎず、二軸延伸後に得られるフィルムの滑り性が保たれるため、製膜および加工時のフィルム搬送工程におけるシワの発生やフィルムロールの巻姿の悪化を防ぐことができる。一方、キャストドラム温度を120℃以下とすることで、キャストシート中にβ晶が過剰に形成されるのを防ぐことができ、製膜および加工時のフィルムの搬送工程における蛇行の発生やフィルムロールの巻姿の悪化が軽減される。
【0036】
溶融シートをキャストドラムへ密着させる方法としては、静電印加法、エアーナイフ法、ニップロール法、水中キャスト法などの手法を採用することができるが、厚みむら抑制、高速製膜化、フィルムの表面形状制御の観点からエアーナイフ法が好ましい。
【0037】
キャストシートは、さらに冷却ロールで冷却することが好ましく、当該冷却ロールの温度は10℃以上60℃以下であることが好ましい。冷却ロールの温度を10℃以上とすると、その後の高温熱処理工程でフィルムを所望の温度まで上昇させるのが容易となる。一方、冷却温度を60℃以下とすると、キャストシート中の結晶形成が軽減され、二軸延伸後に得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの表面形状の長手方向へのばらつきを容易に低減することができる。
【0038】
次に、縦延伸工程にてキャストシートを長手方向に延伸する。より具体的には、キャストシートを温度110℃以上150℃以下、好ましくは120℃以上150℃以下に制御した予熱ロールに通し、ロール間の周速差によって所定の延伸速度、延伸倍率で長手方向に延伸(縦延伸)する。縦延伸倍率は4.0倍以上7.0倍以下であることが好ましく、5.0倍以上7.0倍以下であるとさらに好ましい。縦延伸倍率を4.0倍以上とすることで、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの表面形状は均一となり耐電圧特性も向上する。一方、縦延伸倍率を7.0倍以下とすると、縦延伸工程や次の横延伸工程でのフィルムの破断が軽減される。続いて、縦延伸により得られた一軸配向ポリプロピレンフィルムを冷却することも好ましく、このときの温度は20℃以上30℃以下が好ましい。
【0039】
次に、縦延伸により得られた一軸配向ポリプロピレンフィルムの幅方向両端部をクリップで把持し、温度140℃以上170℃以下に制御したテンター式延伸機にて延伸倍率5.0倍以上15.0倍以下で幅方向に延伸(横延伸)する。さらに、幅方向に5~15%弛緩しつつ、温度150~170℃で熱固定する。
【0040】
次に、二軸延伸されたフィルムの少なくとも片面に空気中、窒素中、炭酸ガス中、あるいはこれらの混合気体中でコロナ放電処理を施すが、この条件については、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐電圧特性と蒸着加工性の観点から特に重要である。より具体的には、処理ロールと電極との距離は1.5mm以上2.5mm以下であり、より好ましくは1.8mm以上2.2mm以下である。二軸延伸されたフィルムの走行速度は、200m/min以上300m/mim以下であり、より好ましくは230m/min以上270m/min以下である。また、電極の放電電力値は、3.5kW以上11.9kW以下であり、好ましくは5.8kW以上11.0kW以下であり、より好ましくは5.8kW以上7.8kW以下である。このような条件でコロナ放電処理を施すことにより、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐電圧を500v/μm以上700v/μm以下とし、かつ、処理面の濡れ張力を45.0mN/m以上51.0mN/m以下とすることが容易となる。
【0041】
このような二軸配向ポリプロピレンフィルムは、耐電圧特性と蒸着加工性を兼ね備えるため、フィルムコンデンサ用途に好適に用いることができる。なお、製膜性や機械強度、耐電圧特性、フィルムコンデンサの誘電体として用いた際の体積当たりの容量の観点から、二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みは1.0μm以上4.0μm以下であり、より好ましくは2.0μm以上3.0μm以下である。なお、二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みは押出機からの吐出量、キャストの引き取り速度、口金のスリット幅、延伸倍率等で調整することができる。
【0042】
次に、クリップで把持した二軸配向ポリプロピレンフィルムの耳部をカットして除去し、端部を除去した二軸配向ポリプロピレンフィルムを巻取機でマスターロールとして巻き取る。最後に、スリッターにて、マスターロールから巻き出した二軸配向ポリプロピレンフィルムを特定の幅でスリットし、フィルムロールとしてコアに巻回し、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムロールを得る。
【0043】
本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法により得られるポリオレフィンフィルムは、フィルムコンデンサ用誘電体として好ましく用いられるが、フィルムコンデンサのタイプに限定されるものではない。具体的には、電極構成の観点では箔巻フィルムコンデンサ、金属蒸着膜フィルムコンデンサのいずれであってもよいし、絶縁油を含有させた油浸タイプのフィルムコンデンサや絶縁油を全く使用しない乾式フィルムコンデンサにも好ましく用いられる。また、形状の観点では、巻回式であっても積層式であっても構わない。本発明のポリオレフィンフィルムの特性から特に金属蒸着膜フィルムコンデンサとして好ましく用いられる。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、特性は以下の方法により測定や評価を行い、放電装置や原料としては以下のものを使用した。
【0045】
[測定、評価方法]
(1)メソペンタッド分率(mmmm)
ポリプロピレン樹脂試料を溶媒に溶解し、13C-NMRを用いてメソペンタッド分率(mmmm)を測定、算出した(参考文献:新版 高分子分析ハンドブック 社団法人日本分析化学会・高分子分析研究懇談会 編 1995年 P609~611)。測定装置及び条件は以下のとおりである。
【0046】
A.測定装置及び条件
装置:Bruker社製 DRX-500
測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
測定濃度:10質量%
溶媒:ベンゼン/重オルトジクロロベンゼン=質量比1:3混合溶液
測定温度:130℃
スピン回転数:12Hz
NMR試料管:5mm管
パルス幅:45°(4.5μs)
パルス繰り返し時間:10秒
データポイント:64K
換算回数:10,000回
測定モード:complete decoupling。
【0047】
B.解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1.0としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとし、WINFITソフト(Bruker社製)を用いて、ピーク分割を行った。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、さらに付属ソフトにより自動フィッティングを行った。その後、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmのピーク分率の合計を求めた。なお、上記測定を5回行い、その平均値を測定試料のメソペンタッド分率(mmmm)とした。
(ピーク分割)
(a)mrrm
(b)(c)rrrm(2つのピークとして分割)
(d)rrrr
(e)mrmr
(f)mrmm+rmrr
(g)mmrr
(h)rmmr
(i)mmmr
(j)mmmm。
【0048】
(2)溶融流動指数(MFR)(単位:g/10min)
JIS K 7210-1(2014)に準拠して230℃、2.16kgの条件で測定した。
【0049】
(3)溶融張力(MS)(単位:cN)
株式会社東洋精機製作所メルトテンションテスター(キャピラリー直径2.1mm、シリンダー径9.55mm)を用いて、以下の手順で測定した。まず、ポリプロピレン樹脂を230℃に加熱して溶融した。次いで、溶融ポリプロピレン樹脂を押出速度15mm/分で吐出ストランドし、このストランドを6.5m/分の速度で引き取る際の張力を測定し、得られた値をMS(cN)とした。
【0050】
(4)冷キシレン可溶部(CXS 単位:質量%)
ポリプロピレン樹脂0.5gを135℃の沸騰キシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶化させた。その後、ろ過により結晶等の固形物を除去し、ろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法で定量した。沸騰キシレン溶解前のポリプロピレン樹脂の質量をX0(g)、ろ過液に溶解しているポリプロピレン成分の質量をX(g)として、CXSを下記式(1)から求めた。
式(1): CXS(質量%)=(X/X0)×100 。
【0051】
(5)二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚み(単位:μm)
JIS C 2330(2014)に準じ、マイクロメーター法により二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みを測定した。
【0052】
(6)キャストドラム、縦延伸予熱ロール、縦延伸冷却ロールの表面温度、及びムラ
キャストドラム、及び縦延伸予熱ロール、縦延伸冷却ロールの表面温度を、サーモグラフィ(FLUKE社製、Ti29工業用/商業用サーモグラフィ、測定可能な温度範囲-20℃~600℃)で測定し、その平均値、最大値、及び最小値を読み取った。得られた平均値をキャストドラム、及び縦延伸ロールの表面温度とし、得られた最大値と最小値の差をキャストドラム、及び縦延伸ロールの表面温度ムラとした。
【0053】
(7)ECコロナ放電処理装置、搬送フィルムが受ける放電量(単位:kW・min/m)、搬送フィルムへ放電される放電度(単位:kW/m
測定装置及び仕様は以下のとおりである。
装置:春日電機社製
型式:AGI(発振器)、HT(トランス)、KHS(放電センサ)
発振器電源:3相 415V 50Hz 25kVA
電極長(電極の幅方向の長さ):7,710mm
電極の長手方向の長さ:30mm
電極面積:電極長×電極の長手方向の長さ
搬送フィルムが受ける放電量、搬送フィルムへ放電される放電度はそれぞれ下記式1、2により算出した。
式1:搬送フィルムが受ける放電量(kW・min/m)=電極の放電電力値(kW)/電極長(m)×搬送フィルムの走行速度(m/min)
式2:搬送フィルムへ放電される放電度(kW/m)=電極の放電電力値(kW)/電極面積(m)。
【0054】
(8)濡れ張力(単位:mN/m)
JIS K 6768(1999)に準じ、エチレングリコールモノエチルエーテルとホルムアミドおよびメタノール試験用混合液を用い、二軸配向ポリプロピレンフィルムのコロナ処理面の濡れ張力を測定した。
【0055】
(9)絶縁破壊電圧(BDV フィルム耐電圧性能)
幅方向の長さが7,700mmの中間製品ロールより、幅方向の両端から250mmを切り取り、200mm(長手方向)×7200mm(幅方向)の二軸配向ポリプロピレンフィルムサンプルを採取し、該サンプルを36等分して200mm×200mmの試験片を取得した。次いで得られた試験片の中心部分を測定部位として、23℃、65%RH雰囲気下でJISC2330(2014)に記載されているように準じたBDV試験を行いなお、各実施例における二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造においては、1本の中間製品ロールから複数本の最終製品ロールを取得する方法を採用しており、各最終製品ロールとも特性に差はないことが想定されるため中間製品ロールから試験片を採取して行った。
【0056】
(10)フィルムコンデンサ製造における素子加工性評価(蒸着時の加工性)
ポリオレフィンフィルムのコロナ処理を施した側の面に、株式会社ULVAC社製真空蒸着機で表面抵抗値が15Ω/sqとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。その際、長手方向に走るマージン部を有するストライプ状にアルミニウムを蒸着した(蒸着部の幅79.0mm、マージン部の幅1.0mmの繰り返し。)。次いで、各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、左右いずれかの端部に0.5mmのマージン部を有する全幅40mmのテープ状の巻取リールを作製した。得られたリールの左マージン、および右マージンのもの各1本ずつを幅方向に蒸着部分がマージン部より0.5mmはみ出すように2枚を重ね合わせて巻回し、静電容量120μFの巻回体を得た。なお、巻回には株式会社皆藤製作所社製KAW-4NHBを使用した。最後に140℃の減圧雰囲気中で巻回体を10時間熱処理した。この巻回体を目視にて観察し、外観や内部にシワや形状のゆがみのあるものを不良品とした。巻回体を同様に300個作製して同様の評価を繰り返し、下記判断基準により巻回体の加工性を評価した。
◎:不良品なし。
〇:不良品1個以下。
△:不良品2個以上3個未満。
×:不良品4個以上。
【0057】
(11)フィルムコンデンサにおける寿命評価(フィルムコンデンサ特性の評価)
(10)に記載の方法により静電容量120μFの巻回体を得た。その後、140℃の減圧雰囲気中で、不良品でない巻回体を10時間熱処理した後、幅方向の両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接してフィルムコンデンサを得た。次にフィルムコンデンサ15個について、以下の手順で寿命評価を実施した。まず、室温にて静電容量(C0)を測定した。次いで、120℃の高温下でフィルムコンデンサに325VDC/μm(厚みが2.0μmのとき、印加電圧は650V)の電圧を1000時間印加した。その後、室温にて静電容量(C)を測定し、電圧印加前後の静電容量の変化率(ΔC)を下記式(3)から算出した。なお、静電容量は日置電機株式会社製のLCRハイテスター3522-50により測定した。
式(3): ΔC=((C0-C)/C0)×100
フィルムコンデンサ15個の電圧印加前後の静電容量の変化率(ΔC)の平均値をそのサンプルの電圧印加前後の静電容量の変化率とし、下記判断基準により評価した。電圧印加前後の静電容量の変化率(ΔC)が小さいほど、高温下での静電容量の減少が抑制されていることを示しており、フィルムコンデンサの寿命評価は良好といえる。
◎:ΔCが2%未満
〇:ΔCが2%以上3%未満
△:ΔCが3%以上5%未満
×:ΔCが5%以上。
【0058】
(12)加工時の歩留まり(加工不良率)
幅820mm、フィルムロール巻長60,000mをスリットし、巻き上げたフィルムロールを評価サンプルとし、フィルムロール加工時の歩留まり(加工不良率)を次式により求めた。
加工時の歩留まり率(加工不良率)(%)=加工不良発生本数/加工総数×100
下記の内容で評価を行い、◎、○は問題なく使用できるが、△では加工時の条件次第で使用可能であるとの評価とした。
◎:95%以上
○:90%以上95%未満
△:85%以上90%未満
×:85%未満。
【0059】
[原料]
(1)樹脂
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A):
ボレアリス社製“Borclean”(商標)HC300BF メソペンタッド分率が0.980、CXSが1.2質量%、MFRが3.3g/10分、MSが1.0cNである高立体規則性ポリプロピレン樹脂
高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I):
Borealis社製“Daploy”(商標)(WB135HMS) MFRが2.5g/10分、MSが32.0cNである高溶融張力ポリプロピレン樹脂。
【0060】
(2)酸化防止剤
酸化防止剤1:BASFジャパン社製“Irganox”(登録商標)1010
酸化防止剤2:2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)。
【0061】
(実施例1)
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)および高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を80.0:20.0(質量比)で混合したポリプロピレン樹脂混合物、酸化防止剤1、および酸化防止剤2を、99.5:0.4:0.1(質量比)でドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、250℃で溶融押出を行った。その後、押し出された溶融ポリプロピレン樹脂組成物より25μmカットの焼結フィルターで異物を除去し、さらにT型スリットダイよりシート状に吐出した。さらに、シート状の溶融ポリプロピレン樹脂組成物を、エアー温度80℃のエアーナイフにより、表面温度90℃、表面温度ムラ1.0℃に保持されたキャストドラム上に密着させて固化させた後、温度30℃に保持した冷却ロール上で冷却してキャストシートを得た。このとき、キャストドラムと冷却ロールにシート状の溶融ポリプロピレン樹脂組成物が密着していた時間はそれぞれ1.5秒であった。なお、キャストドラムは、肉厚内に複数のジャケット室を有し気液二相の熱媒体を封入したキャストドラムを使用し、その表面温度はキャスト内部に通す冷却水の温度制御により、温度ムラはキャスト内部に通す冷却水の量の制御により調整した。
【0062】
続いて、縦延伸工程で、キャストシートを表面温度120℃に保たれたロールを通して予熱し、さらに表面温度145℃に保たれたロールに通して予熱した。その後、縦延伸予熱工程を通したキャストシートを表面温度140℃、表面温度ムラ1.0℃の縦延伸ロールで長手方向に延伸倍率5.5倍で延伸した。なお、縦延伸工程においても前述のキャストドラム同様、肉厚内に複数のジャケット室を有し気液二相の熱媒体を封入した縦延伸ロールを使用しており、その表面温度は縦延伸ロール内部に通すスチームの温度制御により、温度ムラは縦延伸ロール内部に通すスチームの量の制御により調整した。その後、長手方向に延伸した直後の延伸フィルムを表面温度22℃、表面温度ムラ0.3℃の冷却ロールにて0.5秒間冷却して一軸配向フィルムとした。なお、縦延伸工程の冷却ロールはヒートパイプ式であり、冷却ロールの内部は真空で作動液が封じ込められており、封じ込められた作動液はロールの回転により遠心力で外筒の内壁に張り付く。このヒートパイプ式の冷却ロールに高温の一軸延伸フィルムが接触すると当該フィルムから熱が伝わり作動液が蒸発し、蒸発した作動液が冷却水管に接触して凝縮した後、凝縮した作動液は遠心力により飛ばされて再び内壁に張り付くことでロール表面の温度を均一に保つことが可能となる。ロール表面の温度はロール内部に通す冷却水の温度により調整した。続いて、縦延伸工程で、縦に延伸されたシートの端部をクリップで把持してテンターに導き、温度160℃、延伸倍率11.0倍の条件で幅方向に延伸し、温度158℃で幅方向に12%の弛緩処理を行い、室温まで除冷した。続いて、処理ロールと電極との距離が2.0mm、搬送フィルムの走行速度が250m/minであり、かつ電極の放電電力値を6.8kWとして、処理ロール上でドラム面(キャストドラムに接していた面)側にコロナ放電処理を施した。その後、得られたポリオレフィンフィルムの端部(クリップで把持した幅方向端部)を切除し、巻取機で巻き取り、幅方向の長さが7,700mmのマスターロールを得た。続いて、スリッターにてフィルム幅0.82mとなるようにスリットして、長手方向に60,000mをコアに巻回し、厚み2.0μmのポリオレフィンフィルムロールを得た。各項目の評価結果を表1に示す。
【0063】
(実施例2~18、比較例1~9)
製造条件を表1、2に示す通りとした以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィンフィルムを得た。各項目の評価結果を表1、2に示す。なお、厚みの調整は単位時間当たりの吐出量を増減させることで調整を行った。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるフィルムコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリオレフィンフィルムを提供することができる。本発明のポリオレフィンフィルムをフィルムコンデンサの誘電体として用いることにより、蒸発させたアルミニウムやシリカなどの金属をフィルムの表面に薄膜化する蒸着工程での優れたフィルム加工性、フィルムコンデンサとして優れた耐電圧特性を可能とする。また、フィルムコンデンサとしたときに高温・高電圧環境下においても高い保安性が発揮され、その寿命も改善する。
【符号の説明】
【0067】
1:処理ロール
2:搬送フィルム
3:電極
4:電極の長手方向の長さ
図1