(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109067
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】爪用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/29 20060101AFI20240805BHJP
A61Q 3/02 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A61K8/29
A61Q3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007641
(22)【出願日】2024-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2023013291
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523034759
【氏名又は名称】チタニストラボラトリーズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519427952
【氏名又は名称】株式会社パイロットン
(71)【出願人】
【識別番号】522080579
【氏名又は名称】インフィテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【弁理士】
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】栗田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 拓郎
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB241
4C083AB242
4C083CC28
4C083DD42
4C083EE07
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ジェルネイルの剥離を抑制できる、爪用ベースコートを提供することである。
【解決手段】本発明は、爪用コーティング剤であって、前記コーティング剤が、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを含むコロイド溶液からなり、前記コロイド溶液に含まれる、コロイド粒子の濃度が、0.4質量%以上1.5質量%以下であり、前記ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、前記過酸化チタンの質量比が、3.5以上8.0以下である、爪用コーティング剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪用コーティング剤であって、
前記コーティング剤が、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを含むコロイド溶液からなり、
前記コロイド溶液に含まれる、コロイド粒子の濃度が、0.4質量%以上1.5質量%以下であり、
前記ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、前記過酸化チタンの質量比が、3.5以上8.0以下である、
爪用コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爪用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ネイルアートは、手や足の爪に施す装飾であり、幅広い人気を有する。
ネイルアートの手法として、ジェルネイル等が挙げられる(例えば、特許文献1)。ジェルネイルは、光硬化性材料等を含み、紫外線硬化等によって爪表面に固着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方で、ジェルネイルは、硬化する際に収縮が生じ、爪から剥離しやすいという問題があり得る。そのため、ジェルネイルの剥離を防ぐために、爪にベースコート(下地)を塗布後、その上にジェルネイルを固着させる方法が知られる。
【0005】
しかし、ジェルネイルの剥離をより抑制できるベースコートに対するニーズがある。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、ジェルネイルの剥離を抑制できる、爪用ベースコートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定の要件を満たす過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを含むコロイド溶液をベースコートとして用いることで、上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 爪用コーティング剤であって、
前記コーティング剤が、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを含むコロイド溶液からなり、
前記コロイド溶液に含まれる、コロイド粒子の濃度が、0.4質量%以上1.5質量%以下であり、
前記ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、前記過酸化チタンの質量比が、3.5以上8.0以下である、
爪用コーティング剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジェルネイルの剥離を抑制できる、爪用ベースコートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0011】
<爪用コーティング剤>
本発明の爪用コーティング剤(以下、「本発明の剤」ともいう。)は、以下の要件を全て満たす。
・コーティング剤が、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを含むコロイド溶液からなる。
・コロイド溶液に含まれる、コロイド粒子の濃度が、0.4質量%以上1.5質量%以下である。
・ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、過酸化チタンの質量比が、3.5以上8.0以下である。
【0012】
本発明の剤は、爪に塗布するために用いられ、塗布後に形成された塗膜は、ジェルネイルのベースコートとして機能する。
【0013】
本発明において、「爪」とは、ヒト等の手や足の爪の全体又は一部を包含する。
【0014】
本発明において、「ジェルネイル」とは、爪用化粧料のうち、光硬化性材料等を含み、光硬化性材料の種類等に応じた特定の波長の光によって硬化し、塗膜を形成するものを包含する。
【0015】
本発明において、「ベースコート」とは、「下地」等とも称され、通常、何も付着していない爪に塗布される。
本発明においては、本発明の剤の塗布後に乾燥させ、得られた塗膜にジェルネイルが塗布される。本発明の剤から得られる塗膜は、ジェルネイルのベースコートとして機能し、ジェルネイルの爪からの剥離を良好に抑制できる。
【0016】
本発明において、「ジェルネイルの剥離」とは、ジェルネイルの塗膜が爪から剥がれることや、爪表面から浮くこと等を包含する。
【0017】
本発明は、光触媒技術を利用したものである。
本発明の剤が、ベースコートとして機能する理由は以下のように推察される。
まず、爪は撥水性であり、ジェルネイルに含まれる水分と反撥する性質がある。
他方で、過酸化チタンの結晶は、ペルオキソチタン改質アナターゼゾルの存在下で、爪に物理的に結合しやすくなる。これにより、爪表面に薄い酸化チタン塗膜が形成される。
このような塗膜が光にさらされると、光電離(光触媒機能)によって、酸素や水分をプラズマ化する。
次いで、プラズマ中のイオン及び電子が、爪表面を構成する分子と反応し、親水性官能基を形成する。その結果、撥水性の爪表面が、親水性となるため、爪表面の塗膜と接触するジェルネイルとの接着性(水素結合)が高まる。
【0018】
以下、本発明の剤について詳述する。
【0019】
(1)本発明の剤の構成
本発明の剤は、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを含むコロイド溶液からなる。
【0020】
本発明の剤におけるコロイド溶液に含まれる、ペルオキソチタン改質アナターゼゾルは、コロイド粒子として存在する。
本発明において、「コロイド粒子」の形態は特に限定されないが、粒子径が5~200nmである粒子を包含する。溶液がコロイド溶液であるかどうかは、溶液に対して光を当て、チンダル現象を確認することで特定できる。
【0021】
コロイド溶液における、コロイド粒子の濃度(つまり、ペルオキソチタン改質アナターゼゾルの量)は、0.4質量%以上1.5質量%以下である。
コロイド粒子の濃度の下限は、充分な剥離抑制効果を得られやすいという観点から、コロイド溶液に対して、0.4質量%以上、好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、さらにより好ましくは0.8質量%以上である。
コロイド粒子の濃度の上限は、塗膜の白化等を抑制しやすいという観点から、コロイド溶液に対して、1.5質量%以下、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0022】
コロイド溶液における、ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、過酸化チタンの質量比は、3.5以上8.0以下である。
ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、過酸化チタンの質量比の下限は、充分な剥離抑制効果を得られやすいという観点から、3.5以上、好ましくは4.0以上である。
ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、過酸化チタンの質量比の上限は、剥離抑制効果の低下を抑制しやすいという観点から、8.0以下、好ましくは7.0以下、より好ましくは6.0以下である。
【0023】
(1-1)過酸化チタン
過酸化チタン(Ti(O)O2)は、非光触媒物質である。
過酸化チタンは、例えば、可溶性チタン化合物(四塩化チタン等)の水溶液にアンモニア水を添加して水酸化チタンを作製し、該水酸化チタンを洗浄して過酸化水素水と反応させることで得ることができる。
【0024】
(1-2)ペルオキソチタン改質アナターゼゾル
ペルオキソチタン改質アナターゼゾル(TiO2)は、光触媒活性物質である。
ペルオキソチタン改質アナターゼゾルは、例えば、ペルオキソチタン酸溶液の製造工程中、水酸化チタンを洗浄する際の残留アンモニア濃度を200ppm以上280ppm以下に調整して得られたペルオキソチタン酸溶液を、90℃以上かつ沸点未満で加熱することで得ることができる。
【0025】
コロイド溶液に含まれる、ペルオキソチタン改質アナターゼゾルの結晶の大きさは、特に限定されないが、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下である。
ペルオキソチタン改質アナターゼゾルの結晶の大きさの下限は、通常、5nm以上である。
【0026】
ペルオキソチタン改質アナターゼゾルの結晶の大きさは、電子顕微鏡を用いて特定できる。電子顕微鏡としては、実施例に示した「Regulus8230」(株式会社日立ハイテク製)が挙げられる。
【0027】
(1-3)その他の成分
本発明の剤には、上記の成分にくわえて、溶媒(水、アルコール等)が含まれる。
さらに、本発明の剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の成分を配合してもよい。このような成分として、保存剤が挙げられる。
【0028】
本発明の好ましい態様は、本発明の剤が、過酸化チタン、ペルオキソチタン改質アナターゼゾル、及び水のみからなる態様を包含する。
【0029】
(2)本発明の剤の製造方法
本発明の剤は、各成分を、従来知られる方法で、混合及び撹拌等をすることで得られる。
ただし、本発明の剤の製造は、液剤(コーティング剤液)の急激な温度変化や、コロイド粒子の分散安定性の低減を避ける観点から、直射日光を避け、空調管理がされた条件で行うことが好ましい。
【0030】
製造された本発明の剤は、任意の容器に入れて保存することができる。
ただし、液剤(コーティング剤液)の急激な温度変化や、コロイド粒子の分散安定性の低減を避ける観点から、遮光容器に入れることが好ましい。
【0031】
(3)本発明の剤の使用方法
本発明の剤は、従来の爪用下地と同様に使用することができる。
例えば、本発明の剤を爪の全体又は一部に塗布し、乾燥後、その表面にジェルネイルを塗布することができる。
【0032】
本発明の剤を塗布後、光触媒反応を促進する観点から、塗布面を光照射することを要する。光としては特に限定されず、自然光、LED光等が挙げられる。
光照射時間としては特に限定されないが、30~60秒であり得る。
【0033】
本発明の剤から得られた塗膜は、通常、透明である。
【0034】
本発明の剤から得られた塗膜の表面に塗布するジェルネイルとしては特に限定されず、任意の市販品等を使用できる。
【実施例0035】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(1)爪用コーティング剤の調製
以下の方法で、表1に示す条件を満たす各爪用コーティング剤を調製した。
【0037】
各爪用コーティング剤は、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを含むコロイド溶液からなる。
これらのコロイド溶液は、溶媒(水)に、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルを混合及び撹拌することで得た。
本例において、過酸化チタン、及びペルオキソチタン改質アナターゼゾルはいずれも業務用品を用いた。
【0038】
ペルオキソチタン改質アナターゼゾルは、コロイド溶液中で、コロイド粒子として存在する。
表1中、「コロイド粒子の濃度」とは、コロイド溶液に含まれるペルオキソチタン改質アナターゼゾルの量に相当する。
表1中、「Ti/ゾル」は、ペルオキソチタン改質アナターゼゾルに対する、過酸化チタンの質量比を意味する。
【0039】
また、電子顕微鏡「Regulus8230」(株式会社日立ハイテク製)を用いて、「加速電圧:10.0kV」、及び「導電処理:Wをコーティング」の条件下で、各爪用コーティング剤に含まれるペルオキソチタン改質アナターゼゾル結晶の大きさを測定した。その結果を表1の「結晶の大きさ」に示す。
【0040】
(2)爪用コーティング剤の評価-1
JIS K 5600-5-7:2014「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第7節:付着性(プルオフ法)」に準じ、試験を行った。本試験は、試験体の表面に塗布した爪用コーティング剤の剥離性を評価するために行った。
【0041】
(2-1)試験条件
以下の条件で、自然光下で、試験体の表面に各爪用コーティング剤を塗布し、その表面に接着剤を塗布し、得られた塗膜の付着性を計測した。
・試験体と塗面の接着に用いた接着剤:ボンドE250、コニシ(株)製
・試験体と塗面の接着面積:314mm2(Φ20mm)
・試験体周囲を切るために使用した切込用具:ミニルーター((株)キソパワーツール製、MM50、No.28515)にダイヤモンド砥石((株)ミツトモ製作所製)を装着したもの
・試験機:オートグラフAG-100kN Xplus、島津製作所(株)製
・試験速度:クロスヘッドスピード 1mm/min
【0042】
(2-2)結果
結果を表1の「結果」の項に示す。
本発明の剤(実施例1-1)では、透明であり、かつ、剥離せず、固着性が良好だった。
他方で、比較例はいずれも剥離が認められ、固着性が劣っていた。
なお、比較例1-2では、塗面が白化し、爪用コーティング剤として機能し得ないため、試験を行わなかった。
【0043】
なお、破壊強さについて、本発明の剤(実施例1-1)の剤を塗布した場合(3MPa)と、塗布しない場合(0.1MPa)とを比較した場合、前者では後者の30倍だった。
【0044】
【0045】
(3)爪用コーティング剤の評価-2
上記のとおり、本発明の剤(実施例1-1の爪用コーティング剤)は、白化せず、膜剥離が良好に抑制されていた。したがって、本発明の剤は、ジェルネイルのベースコートとして良好に機能することが期待できる。
そこで、ジェルネイルのユーザーに対して、実施例1-1の爪用コーティング剤を提供し、以下の方法により、ジェルネイルのベースコートとしての評価を行った。
【0046】
まず、実施例1-1の爪用コーティング剤を、自然光下で、何も付着していない手爪に塗り、爪用コーティング剤の層の上に、ジェルネイルを固着した。
その後、通常どおりの生活を続け、2週間経過した後、ジェルネイルの浮きの評価をユーザー(130名)に申告させた。
ジェルネイルの浮きの評価は、実施例1-1の爪用コーティング剤を使用した場合と、使用しない場合と比較し、ジェルネイルの浮きの改善の有無という観点から行った。
【0047】
その結果、ユーザーの8割超において、ジェルネイルの浮きの改善が認められた。
特に、普段からネイルが浮きやすいユーザーにおいて、ジェルネイルの浮きの改善が顕著に認められた。
【0048】
(4)爪用コーティング剤の評価-3
上記「(1)爪用コーティング剤の調製」と同様に、表2及び3に示す条件を満たす各爪用コーティング剤を調製した。
次いで、上記「(2)爪用コーティング剤の評価-1」と同様に試験を行い、塗膜の付着性を測定し、「(1)爪用コーティング剤の調製」の「実施例1-1」を比較対象として、以下の基準で評価した。
その結果を表2及び3の「結果」の項に示す。
【0049】
[塗膜の評価基準]
○:「実施例1-1」と同等の付着性だった。(付着性:1MPa以上)
△:「実施例1-1」よりもやや劣る付着性だった。(付着性:0.7MPa以上1MPa未満)
×:「実施例1-1」よりも顕著に劣る付着性だった。(付着性:0.7MPa未満)
【0050】
表2及び3に示されるとおり、本発明の要件を満たす剤は、剥離せず、固着性が良好だった。
また、本発明の要件を満たす剤についてジェルネイルのベースコートとしての評価を行ったところ、いずれも、ジェルネイルの浮きの改善効果が認められた。
【0051】
【0052】