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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109071
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】溶射膜
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20240805BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20240805BHJP
【FI】
C04B41/87 K
C23C4/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008498
(22)【出願日】2024-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2023013044
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】平松 真一
(72)【発明者】
【氏名】下田 健二
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 忍
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】野呂 貴志
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA06
4K031AB02
4K031AB08
4K031CB31
4K031CB32
4K031CB42
4K031DA04
(57)【要約】
【課題】通電加熱式触媒装置用電極において所望の物性を満たすことができる溶射膜の提供。
【解決手段】以下の(i)~(ii)のうちの少なくとも1つを満たし、かつ、以下の(iii)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする溶射膜:(i)金属率は、20~60%である;(ii)ベントナイト率は、40~80%である;(iii)金属酸化率は、7%以下である;(iv)ベントナイト粒径は、40μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)~(ii)のうちの少なくとも1つを満たし、かつ、以下の(iii)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする溶射膜:
(i)金属率は、20~60%である;
(ii)ベントナイト率は、40~80%である;
(iii)金属酸化率は、7%以下である;
(iv)ベントナイト粒径は、40μm以下である。
【請求項2】
前記金属率が、30~60%である、請求項1に記載の溶射膜。
【請求項3】
前記ベントナイト率が、50~80%である、請求項1に記載の溶射膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶射膜に関する。
【背景技術】
【0002】
被施工物上に形成される溶射膜は、様々な用途に用いられており、例えば、線膨張係数差の大きい複数種の材料(例えば、金属材料とセラミックス材料)の接合を目的として使用することもできる。
【0003】
特許文献1には、触媒が担持されたセラミックスからなる基材(担体)上に、特定の金属からなるマトリックス中にベントナイトなどの酸化物鉱物が分散された溶射膜が配された通電加熱式触媒装置用電極が開示されている。当該文献では、電極断面における前記酸化物鉱物で形成される分散相の占める面積率を40~80%とすることで、熱サイクルが負荷された後も、電気抵抗値の上昇を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/038449号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶射膜では、金属をベースとしたスポンジのような組織とすることでヤング率を調整している。ここで、特許文献1に示す溶射膜では、ベントナイトなどの酸化物鉱物が、スポンジの孔(穴)の役割をしており、当該酸化物鉱物は溶けていない状態または表面のみ少し溶けた状態で、(例えば、真円に近い形状で)溶射膜中に存在している。
【0006】
しかし、特許文献1のようにベントナイトなどの酸化物鉱物の割合を規定した場合であっても、溶射温度が高いなどの特定の条件下では、酸化物鉱物がよく溶け、潰れて扁平になることがあり、その場合、スポンジの役割を果たせず、ヤング率が著しく上昇してしまうことがあった。
【0007】
このように、電極断面における前記酸化物鉱物で形成される分散相の占める面積率を特定の範囲内にするだけでは、溶射膜の所望の物性を得られないことがあった。
【0008】
本開示は、このような課題を鑑みてなされたものであり、上記通電加熱式触媒装置用電極において製品の機能要件(熱サイクル負荷後に溶射層の剥れや電気抵抗の上昇が無いこと)を満たすために必要な溶射皮膜の状態を付加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための一態様は、以下の(i)~(ii)のうちの少なくとも1つを満たし、かつ、以下の(iii)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする溶射膜である。
(i)金属率は、20~60%である;
(ii)ベントナイト率は、40~80%である;
(iii)金属酸化率は、7%以下である;
(iv)ベントナイト粒径は、40μm以下である。
また、上記溶射膜において、前記金属率は30~60%であってもよい。さらに、上記いずれかの溶射膜において、前記ベントナイト率は50~80%であってもよい。
【0010】
本開示に係る溶射膜は、上述した条件を満たすことによって、通電加熱式触媒装置用電極としてヤング率、電気抵抗率、線膨張率などの溶射膜に求められる所望の物性を満たすことができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、通電加熱式触媒において、その機能要件を満たす溶射膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る溶射膜の電子顕微鏡写真例である。
図2】本実施形態に用いることができるプラズマ溶射法の一例を説明するための概略図である。
図3】本実施形態に係る溶射膜の電子顕微鏡データの二値化後のピークの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述したように、特許文献1では、溶射膜の断面組織の構成割合、具体的には、酸化物鉱物(例えば、ベントナイト率)の割合(面積率)を規定することで、電気抵抗値の上昇を抑制した通電加熱式触媒装置用電極を開示している。
しかしながら、溶射温度が高い場合には、ヤング率が著しく上昇してしまう場合があるなど、特定の条件下では、溶射膜の要求特性を全て満たすことが難しい場合があることが判明した。よって、溶射膜の構成には検討の余地が残されていた。
【0014】
本実施形態に係る溶射膜(以降、本溶射膜と記す)では、溶射膜の断面組織の構成割合(面積率)だけでなく、その形状や状態にも着目し、所望の溶射膜物性を得られる要件を明らかにした。具体的には、本溶射膜では、特定の金属率およびベントナイト率の少なくとも1つと、特定の金属酸化率およびベントナイト粒径のうちの少なくとも1つとの要件を満たす。これにより、本溶射膜は、通電加熱式触媒においてヤング率、電気抵抗率、線膨張率などの溶射膜に求められる所望の物性を満たすことができ、さらには、曲げ強度に関しても好適な物性を満たすことができる。
【0015】
本溶射膜は、特許文献1に記載されたように、通電加熱式触媒(EHC:Electrically Heated Catalyst)に適用できる。ここで、EHCは、自動車等のエンジンから排出される排気ガスを浄化する排気浄化装置であり、将来の排気ガス規制に対応するアイテムとして注目されている。より具体的には、触媒を通電加熱することで従来の排気ガスでの加熱よりも早く触媒を温められることで始動(低温)時の排気ガスからの有害物質量を少なくできる。また、本溶射膜は、金属とセラミックスを接合する技術全般、例えば、自動車、航空機、設備およびこれらの部品に対してそれぞれ適用できる。
【0016】
以下、具体的な本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本開示が以下の実施形態に限定される訳ではない。
【0017】
本溶射膜は、所望の膜物性を得る観点から以下の(i)~(ii)のうちの少なくとも1つを満たし、かつ、以下の(iii)~(iv)のうちの少なくとも1つを満たすことが必要である。
(i)金属率は、20~60%である。
(ii)ベントナイト率は、40~80%である。
(iii)金属酸化率は、7%以下である。
(iv)ベントナイト粒径は、40μm以下である。
【0018】
なお、本溶射膜は、金属、金属酸化物およびベントナイトを含むことができ、さらに、本溶射膜中には気孔が存在できる。また、本溶射膜は、セラミックスなどで構成される基材(担体)上に形成することができる。
【0019】
本溶射膜が含有する金属は特に限定されず、使用用途や基材材料に応じて適宜選択できる。金属としては、例えば、Ni-Cr合金(例えば、Cr含有量は20~60質量%である)、MCrAlY合金(Mは、金属元素であり、例えば、Fe、Co、Niである)などの合金を用いることができる。
【0020】
本溶射膜が含有する金属酸化物(Ni―Cr合金の場合は主にCrなど)は、溶射膜を形成する過程、すなわち、材料粉末がプラズマフレームにより加熱され、基材まで飛行する間に形成されるものを含む。また、金属酸化物は、材料の調製過程において生成されるものも含むことができる。
【0021】
上述したように、本溶射膜は、条件(i):金属率が20~60%である、および条件(ii):ベントナイト率が40~80%である、のいずれか一方または両方を満たす。
ここで、溶射膜の金属率が20%以上であれば、体積抵抗率をより低くできる。また、金属率が60%以下であれば、ヤング率を低く抑えることができる。この観点から、溶射膜の金属率は、30~60%であることがより好ましい。
また、溶射膜のベントナイト率が40%以上であれば、ヤング率を低く抑えることができ、また、ベントナイト率が80%以下であれば、体積抵抗率を低く抑えることができる。この観点から、溶射膜のベントナイト率は50~80%であることがより好ましい。
【0022】
なお、金属率とは、図1に示すように、電子顕微鏡を用いて、基材上に形成された溶射膜を撮影したデータより得られる金属の存在割合(面積率)を表す。また、ベントナイト率とは、電子顕微鏡を用いて、基材上に形成された溶射膜を撮影したデータより得られるベントナイトの存在割合(面積率)を表す。さらに、後述する気孔率とは、電子顕微鏡を用いて、基材上に形成された溶射膜を撮影したデータより得られる気孔の存在割合(面積率)を表す。本溶射膜において、気孔率は特に限定されず、本開示の効果が得られる範囲で適宜設定できる。なお、図1中、符号1は、ベントナイトを表し、符号2は、金属を表す。
【0023】
また、本溶射膜は、条件(iii):金属酸化率が7%以下である、条件(iv):ベントナイト粒径が40μm以下である、のうちの少なくとも1つを満たす。
ここで、金属酸化率が7%以下であれば、体積抵抗率を低く抑えることができる。これより、溶射膜中の金属酸化率は5%以下がより好ましい。
また、ベントナイト粒径が40μm以下であれば、体積抵抗率をより低く抑えることができる。これより、溶射膜中のベントナイト粒径は、20μm以下であることがより好ましい。
【0024】
なお、金属酸化率とは、電子顕微鏡を用いて、基材上に形成された溶射膜を撮影したデータより、以下の式に基づき得られる金属酸化物率を表す。
金属酸化率(%)=金属酸化物の存在割合(面積率)÷(金属および金属酸化物の合計存在割合(面積率))×100
また、ベントナイト粒径は、ベントナイト円相当径の平均値を意味する。
また、本溶射膜では、これらの条件の他にもベントナイト分散度を参考にすることもできる。
【0025】
なお、本溶射膜の体積抵抗率は、0.012Ω・cm以下であることが好ましく、0.007Ω・cm以下であることがより好ましい。また、本溶射膜の線膨張率(×10-6/℃)は、11以下であることが好ましい。さらに、本溶射膜のヤング率は60GPa以下であることが好ましく、40GPa以下であることがより好ましい。これらを満たす溶射膜を用いた通電加熱式触媒装置用電極は、所望の機能要件(熱サイクル負荷後に溶射膜の剥がれや電気抵抗の上昇がないこと)を容易に満たすことができる。なお、4点曲げ強度と上記ヤング率は相関関係があり、ヤング率が所望の物性を有する場合に、4点曲げ強度も好ましい物性を示す。なお、4点曲げ強度は、例えば、以下の測定方法により特定できる。
【0026】
[4点曲げ強度]
試料:溶射材(溶射膜)
使用機器:Mitutoyo マイクロメーター、インストロン万能試験機 4507型(ロードセル1kN)
試験条件:
雰囲気:大気中、温度:室温、550℃、750℃、850℃、昇温速度:15℃/min、均熱時間:10min、試験速度:0.5mm/min、支点間距離:L=30mm、l=10mm、治具材質:SiC
試験及び計算方法:
試験片を一定距離(30mm)に配置された2支点上に置き、支点間の中央から左右に等しい距離(10mm)にある2点に分けて荷重を加えて、折れたときの最大荷重より曲げ強度を求める。また、曲げ強度は次式より求める。
【数1】

ここで、σb4:4点曲げ強度(MPa)、P:試験片が破壊したときの最大荷重(N)、L:下部支点間距離(mm)、l:上部支点間距離(mm)、w:試験片の幅(mm)、t:試験片の厚さ(mm)を表す。
【0027】
さらに、溶射膜の各種物性等の測定は、例えば、以下の工程を経て行うことができる。
・切断前埋込工程
樹脂種類:ペトロポキシ
・切断工程 ファインカット
・切断後埋込工程
樹脂種類:フェノール
・研磨工程
♯180→♯500→♯800→♯1000
・琢磨工程
Dia3μm→Dia1/4μm→OP-A
・コーティング工程
金蒸着 条件100Å×1回
・撮影工程
設備I:SEM(走査電子顕微鏡)(商品名:JSMS7100F、日本電子株式会社製)
倍率:×400倍、測定視野数:3
撮影条件:二値化後のベントナイトピークが125±3、金属ピークが240±3になるように、SEMの明るさとコントラストの調整を繰り返して撮影を行う。なお、図3は、本溶射膜の電子顕微鏡データの二値化後のピークの一例を示すものであり、符号9はベントナイトピークを示し、符号10は金属ピークを示す。
・二値化工程
設備I:画像解析ソフト(商品名:WinRoof、三谷商事株式会社製)
二値化条件:
閾値:気孔:0-105、ベントナイト:106-174、金属酸化物:175-220、金属:221-255
ノイズを消すために下記サイズ以下のものは削除する(全て円相当径換算したもの)
ベントナイト率:0.5μm以下、気孔率:0.5μm以下、金属酸化率:0.5μm以下、ベントナイトサイズ:5μm以下、気孔:4μm以下、ベントナイト+気孔:5μm以下。
【0028】
なお、本溶射膜の各種物性は、以下の設備IIを用いても測定できる。
設備II:簡易SEM(走査電子顕微鏡)(日立ハイテクフィールディング製、機番:GIPA-8175)、
設備II:画像解析ソフト(三谷商事株式会社製、Winroof2018、機番:GIW-1804)。
なお、溶射膜の物性値(例えば、金属率、気孔率、金属酸化率)は測定設備によって値が変化することがあり、上記設備Iと設備IIにおける対応関係は以下の通りである。
・金属率
設備Iによる金属率=((1.0821×設備IIによる金属率)-1.3577)×0.982)+8.47
・気孔率
設備Iによる気孔率=((0.9367×設備IIによる気孔率)-1.5752)×0.891)-0.17
・金属酸化率
設備Iによる金属酸化率=1.233×設備IIによる金属酸化率-5.616。
なお、上述した本溶射膜の(i)~(iv)の条件は、いずれも上記設備Iを用いて設定されたものである。
【0029】
本溶射膜は、例えば、プラズマ溶射法を用いて作製できる。ここで、図2に、本実施形態に用いることができるプラズマ溶射法の一例を説明するための概略図を示す。溶射膜原料(粉末試料5)としては、金属およびベントナイトを含むことができる。前記溶射膜原料中の金属およびベントナイトの配合割合は、溶射膜とした際に、上述した(i)~(iv)の条件を満たすことができるのであれば、適宜設定でき特に限定されない。
より具体的には、例えば、以下の手順により溶射膜を形成できる。まず、ガスアトマイズ法などにより、使用する金属から構成される金属粒子を製造する。その際、金属粒子の平均粒径は、本開示の効果が得られる範囲で適宜調整できる。一方ベントナイトは、水分を吸収し、膨張する性質を有していることから、水素雰囲気下で温度1000~1100℃において焼結し、粒子中の水分を除去することが必要である。
ついで、スプレードライ法などにより、ベントナイトから構成される粒子を造粒する。その際、ベントナイト粒子の平均粒径は上述した条件を満たし、かつ本開示の効果が得られる範囲で適宜調整できる。
次に、金属粒子とベントナイト粒子とを例えば高分子系の接着剤を媒体にして、練り込み造粒法により複合化する。また、その後更に水素雰囲気下で温度1000~1100℃において焼結して、溶射用粒子7を製造しても良い。
続いて、粉末供給部6より供給された溶射用粒子7を例えばSiCからなるワーク3(担体)の表面に、プラズマ溶射し、溶射膜100を形成する。ここで、プラズマ溶射は、大気雰囲気で行ってもよいし、非酸化雰囲気で行ってもよい。
なお、図2において、符号4はプラズマを示し、符号8は溶射ガン移動方向を示す。
【実施例0030】
金属:Ni-Cr合金(Cr含有量:50質量%)50質量%、ベントナイト50質量%を含有する粉末試料を用いて、以下の条件にて、プラズマ溶射法により溶射膜を作製した。得られた溶射膜は、金属率が40.2%、金属酸化率が2.6%、ベントナイト粒径が23μmであり、所望の膜物性を満たしていた。
・粉末供給条件
キャリアガス流量:2L/分、試料供給量:10g/分
・プラズマ溶射条件
電流:180A、Ar:5L/分、H:8L/分
・ワーク距離:100mm
・酸化抑制
Ar:2Bar
【0031】
また、以下の表1の例1~例8に示す溶射膜をプラズマ溶射法によりそれぞれ作製した。表1に、各溶射膜における金属率、金属酸化率、ベントナイト率、気孔率、ベントナイト平均粒径と、体積抵抗率、ヤング率、線膨張率(30~850℃における)との関係を示す。また、表1に示す各例では、プラズマ溶射を、キャリアガス流量:2L/分、試料供給量:10g/分、電流:180~320A、Ar:50L/分、H:8L/分、ワーク距離:100~150mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト32.5~50質量%(残りはNi-Cr合金、以下同じ)、材料(試料):未焼成粉または焼成粉の条件から適宜選択して行った。具体的には、以下のようにした。
例1:電流:240A、ワーク距離:150mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト32.5質量%、材料:未焼成粉。
例2:電流:180A、ワーク距離:150mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト32.5質量%、材料:焼成粉。
例3:電流:220A、ワーク距離:100mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト40質量%、材料:未焼成粉。
例4:電流:180A、ワーク距離:120mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト50質量%、材料:未焼成粉。
例5:電流:180A、ワーク距離:100mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト50質量%、材料:未焼成粉。
例6:電流:240A、ワーク距離:150mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト50質量%、材料:未焼成粉。
例7:電流:240A、ワーク距離:100mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト32.5質量%、材料:未焼成粉。
例8:電流:300A、ワーク距離:150mm、粉末試料中の成分割合:ベントナイト50質量%、材料:未焼成粉。
【0032】
なお、溶射膜の体積抵抗率、ヤング率、線膨張率は、以下の方法により測定を行った。また、表1に記載の各例のうち、その一部は、気孔率、ベントナイト平均扁平度、線膨張率の測定を行わなかった。
【0033】
[体積抵抗率]
試験方法:直流4端子法
使用装置:導電率測定装置(株式会社西山製作所製)、計測器:2601 SYSTEM Source Meter(商品名、KEITHLEY製)、卓上小型電気炉(商品名:NHK-170、日陶科学株式会社製)
測定条件:
・温度:(1)室温、(2)室温、300℃、550℃、(3)室温、450℃、850℃
・昇温速度:300℃/h(降温も同条件)
・雰囲気:窒素(純度99.9995体積%以上)、流量200cc/min
測定方法:
(1)電極形成
マスキングテープ(幅10mm)を用いて試験片(溶射膜)の中央部(電圧端子間10mm)をマスクし、電圧端子線(銀線φ(直径)0.20mm)を巻き付け、銀ペースト(商品名:ドータイトD-550、藤倉化成製)を塗布した。次いで、130℃で一昼夜乾燥して、電流、電圧端子を形成した。なお、試料の寸法は、デジタルマイクロメータ(商品名:MDE-25MJ、ミツトヨ製)により測定した。
(2)測定
試料の外側端子間に電流(I)を流し、内側端子間の電圧(V)を測定して、下記式により体積抵抗率(ρv)を算出した。
【数2】

ここでρv:体積抵抗率(Ωcn)、V:端子間電圧(V)、I:電流(A)、L:電圧端子間距離(cm)、S:試料の断面積(cm)であり、S=w×t(cm)で算出される。また、w:試料の幅(cm)、t:試料の厚み(cm)である。
【0034】
[ヤング率]
試料:溶射層(溶射膜)
使用機器:Mitutoyo マイクロメーター、インストロン万能試験機 4507型(ロードセル1kN)
試験条件:
雰囲気:大気中、温度:室温、550℃、750℃、800℃、850℃、昇温速度:15℃/min、均熱時間:10min、試験速度:0.5mm/min、支点間距離:L=30mm、支持棒直径:5mm、治具材質:SiC、熱処理:850℃まで昇温(10℃/min)→保持(1h)→室温まで降温(10℃/min)
試験及び計算方法:
3点曲げにより試験片へ負荷を加え破断までの荷重及びたわみを測定した。得られた荷重及びたわみ量より、以下の2つの式を用いてヤング率を求めた。
【数3】
【0035】
[線膨張率]
試料:試験片(溶射膜)
使用機器:NETZSCH製 TD5020SE(商品名)
試験条件:
試験方法:熱機械分析法(JIS R 1618に準拠)、測定温度:室温~850℃~室温、昇温速度:10K/min、雰囲気:大気中、標準試料:サファイア、温度計測用熱電対種:R熱電対
測定方法:基準温度(30℃)から測定温度t(℃)までの線膨張(%)及び平均線膨張率αを次式より求めた。
【数4】

ここで、L:室温での試料の長さ、ΔL:30℃からt(℃)における試料の膨張量を表す。なお、測定に使用した装置は、示差熱膨張方式で、試料と膨張率既知の標準試料との膨張の差を支持具等も含めた測定系全体として検出する形となっていた。
さらに、ΔL=ΔL-ΔL+ΔLにより、ΔLを求めた。ここで、ΔLは、試料測定で得られた測定系全体の30℃からt(℃)までの膨張量を示す。また、ΔLは、ブランクテストで得られた膨張量(支持具等の膨張量に相当)を示す。さらに、ΔLは、30℃からt(℃)における標準試料の膨張量を示す。なお、ブランクテストは同じ長さの標準試料を2本用い、試料測定と同じ昇温速度で測定を行った。また、試料と装置接触部との整合性を向上させるために、100℃まで昇温した後で測定を行った。
【0036】
【表1】
【0037】
上記表1に示すように、上述した条件(i)~(iv)を満たす溶射膜は、所望の膜物性全てを特に優れて満たしていることが分かる。
なお、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 ベントナイト
2 金属
3 ワーク
4 プラズマ
5 粉末試料
6 粉末供給部
7 溶射用粒子
8 溶射ガン移動方向
9 ベントナイトピーク
10 金属ピーク
100 溶射膜
図1
図2
図3