(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109074
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】積層体、包装材、及び梱包体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240805BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240805BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240805BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B32B27/32 102
B32B9/00 A
B32B15/08 Z
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009211
(22)【出願日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2023012528
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青野 春樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BB05
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3E086DA02
4F100AA17C
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4F100AH06D
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4F100GB15
4F100JA04
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4F100JD04
4F100JK07
4F100JK08
4F100JK16
4F100YY00
(57)【要約】
【課題】 本発明は、ロール状態で長期保管した後も優れたバリア性を維持し、かつ、熱がかかる加工工程でのバリア性悪化も抑制できる積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリプロピレン系樹脂フィルムの片面に金属又は金属酸化物の層(M層)を有する積層体であって、前記M層表面の突出山部高さ(Spk1)が10nm以上100nm以下であり、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)が80N/m以上400N/m以下であり、かつ異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsが0.20以上0.80以下であることを特徴とする、積層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂フィルムの片面に金属又は金属酸化物の層(M層)を有する積層体であって、前記M層表面の突出山部高さ(Spk1)が10nm以上100nm以下であり、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)が80N/m以上400N/m以下であり、かつ異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsが0.20以上0.80以下であることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度が90℃以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記M層と反対側の表面の突出山部高さ(Spk2)が10nm以上150nm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記M層表面の最大高さをSz(nm)、前記M層の厚みをd(nm)とした際に、d-Sz/50≧5を満たす、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記M層とポリプロピレン系樹脂フィルムの剥離力が0.5N/15mm以上8.0N/15mm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
前記M層を剥離した際の剥離モードが凝集破壊である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項7】
示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで昇温した際に、1st Runで165℃以上に融解ピークを有し、かつ、1st Runと2nd Runの融解ピークの温度差が5℃以上10℃以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項8】
前記M層の金属がアルミニウムである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項9】
前記ポリプロピレン系樹脂フィルムが、ポリプロピレン系樹脂層であるA層、B層の少なくとも2層を有し、前記A層が前記M層から最も近い場所に位置し、かつ、前記B層が前記M層から最も遠い場所に位置する、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項10】
前記A層の全構成成分を100質量%としたときに、分子量1500以上10000以下の成分量が0.1質量%以上3.5質量%以下である、請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
前記B層がポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂を含み、かつ、前記A層におけるポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂の含有量が、前記B層におけるポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂の含有量よりも少ないことを特徴とする、請求項9に記載の積層体。
【請求項12】
前記M層の上にトップコート層を有する、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項13】
温度23℃、相対湿度90%で測定される酸素透過率が0.50cc/m2/day以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項14】
主配向軸方向の厚み偏差が2.5%以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項15】
請求項1または2に記載の積層体を有する、包装材。
【請求項16】
請求項15に記載の包装材により内容物が梱包されている、梱包体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に包装用途に適して用いられる積層体、及びこれを用いた包装材、梱包体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気絶縁用途等の様々な用途に用いられている。この中でも包装用途においては、ポリプロピレンフィルムの上にアルミニウム(以降、「Al」と称することがある。)の薄膜を蒸着した積層フィルムが広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
Al蒸着層を有するポリプロピレンフィルムは、高い水蒸気バリア性や酸素バリア性が必要な用途、遮光性が必要な用途等に好適である。また、近年は包装用プラスチックをリサイクルする動きが活発化しており、リサイクル性をより優れたものとする目的で、蒸着層を酸化アルミニウム(以降、AlOxと称することがある。)や酸化ケイ素(以降、SiOxと略すことがある。)とする設計も用いられるようになってきている(例えば、特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-105893号公報
【特許文献2】特開2021-020391号公報
【特許文献3】国際公開第2017/221781号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や2の積層ポリプロピレンフィルムは、表面に粗大突起を有するため、バリアコート(以下、トップコートと称することがある。)層の塗工や印刷等、熱と張力が同時にかかる後加工を施した際に、該粗大突起を起点として微細なクラック等の欠陥が発生して水蒸気バリア性が損なわれやすいという課題があった。また、特許文献3の積層ポリプロピレンフィルムは高温環境下における強度が不足しているため、蒸着層の上に酸素バリア性向上や蒸着層保護等を目的として別途トップコート層の塗工や印刷等、熱と張力が同時にかかる後加工を施した際に、従来保有していた水蒸気バリア性が損なわれやすいという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途に好適に用いることができる積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ね、以下の本発明に至った。すなわち本発明は、ポリプロピレン系樹脂フィルムの片面に金属又は金属酸化物の層(M層)を有する積層体であって、前記M層表面の突出山部高さ(Spk1)が10nm以上100nm以下であり、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)が80N/m以上400N/m以下であり、かつ異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsが0.20以上0.80以下であることを特徴とする、積層体である。
【0008】
また、本発明の積層体は以下の態様とすることや、包装材や梱包体とすることができる。
(1) ポリプロピレン系樹脂フィルムの片面に金属又は金属酸化物の層(M層)を有する積層体であって、前記M層表面の突出山部高さ(Spk1)が10nm以上100nm以下であり、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)が80N/m以上400N/m以下であり、かつ異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsが0.20以上0.80以下であることを特徴とする、積層体。
(2) 熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度が90℃以上である、(1)に記載の積層体。
(3) 前記M層と反対側の表面の突出山部高さ(Spk2)が10nm以上150nm以下である、(1)または(2)に記載の積層体。
(4) 前記M層表面の最大高さをSz(nm)、前記M層の厚みをd(nm)とした際に、d-Sz/50≧5を満たす、(1)~(3)のいずれかに記載の積層体。
(5) 前記M層とポリプロピレン系樹脂フィルムの剥離力が0.5N/15mm以上8.0N/15mm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の積層体。
(6) 前記M層を剥離した際の剥離モードが凝集破壊である、(1)~(5)のいずれかに記載の積層体。
(7) 示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで昇温した際に、1st Runで165℃以上に融解ピークを有し、かつ、1st Runと2nd Runの融解ピークの温度差が5℃以上10℃以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の積層体。
(8) 前記M層の金属がアルミニウムである、(1)~(7)のいずれかに記載の積層体。
(9) 前記ポリプロピレン系樹脂フィルムが、ポリプロピレン系樹脂層であるA層、B層の少なくとも2層を有し、前記A層が前記M層から最も近い場所に位置し、かつ、前記B層が前記M層から最も遠い場所に位置する、(1)~(8)のいずれかに記載の積層体。
(10) 前記A層の全構成成分を100質量%としたときに、分子量1500以上10000以下の成分量が0.1質量%以上3.5質量%以下である、(9)に記載の積層体。
(11) 前記B層がポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂を含み、かつ、前記A層におけるポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂の含有量が、前記B層におけるポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂の含有量よりも少ないことを特徴とする、(9)または(10)に記載の積層体。
(12) 前記M層の上にトップコート層を有する、(1)~(11)のいずれかに記載の積層体。
(13) 温度23℃、相対湿度90%で測定される酸素透過率が0.50cc/m2/day以下である、(1)~(12)のいずれかに記載の積層体。
(14) 主配向軸方向の厚み偏差が2.5%以下である、(1)~(12)のいずれかに記載の積層体。
(15) (1)~(14)のいずれかに記載の積層体を有する、包装材。
(16) (15)に記載の包装材により内容物が梱包されている、梱包体。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ロール状態で長期保管した後も優れたバリア性を維持し、かつ、熱がかかる加工工程でのバリア性悪化も抑制されることで、例えば包装材料用に好適な積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施態様に係る積層体を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係る積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム(単層構成のもの)の概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施態様に係る積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの概略断面図(2層構成のもの)である。
【
図4】本発明の一実施態様に係る積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの概略断面図(3層構成のもの)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層体について詳細に説明する。本発明の積層体は、ポリプロピレン系樹脂フィルムの片面に金属又は金属酸化物の層(M層)を有する積層体であって、前記M層表面の突出山部高さ(Spk1)が10nm以上100nm以下であり、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)が80N/m以上400N/m以下であり、かつ異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsが0.20以上0.80以下であることを特徴とする。
【0012】
まず、本発明の一実施態様に係る積層体を示す概略断面図である
図1を用いて、本発明の積層体について説明する。本発明の積層体1は、ポリプロピレン系樹脂フィルム3の片面に、金属又は金属酸化物の層(M層)2を有するシート状の成形体である。本発明の積層体1を構成する要素のうち「ポリプロピレン系樹脂フィルム」とは、全構成成分を100質量%としたときに、ポリプロピレン系樹脂を80質量%以上100質量%以下含む、シート状の成形体をいう。
【0013】
ポリプロピレン系樹脂フィルムの具体例としては、ポリプロピレン系樹脂を80質量%以上100質量%以下含む単層若しくは複数層からなるフィルムが挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂とは、樹脂を構成する全構成単位を100mol%としたときに、その90mol%以上100mol%以下がプロピレン単位である樹脂をいい(ただし、樹脂を構成する全構成単位を100mol%としたときに、環状オレフィンモノマー由来の構成単位が合計で20モル%を超えるものは除く。)、以下他の系統の樹脂についても同様に解釈することができる。なお、ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、その構成単位の一部又は全部がバイオマス由来のいわゆるバイオPPや、ケミカルリサイクル又はマテリアルリサイクルにより製造されるいわゆるリサイクルPPも好適に用いられる。
【0014】
また、本発明の積層体を構成する要素のうち「金属又は金属酸化物の層(M層)」とは、周期表の2族から14族(ただし炭素を除く。)より選ばれる1種以上の元素あるいはその酸化物を含み、X線光電子分光法(XPS)により検出される元素全体を100atomic%としたときに、炭素元素が15atomic%以下である層である。なお、ホウ素及び珪素は非金属元素であるが、本明細書中においては前述した2族から14族の元素の中から除外しないものとする。
【0015】
このM層は、主に積層体の水蒸気バリア性を高める役割を担う。周期表の2族から14族(ただし炭素を除く。)より選ばれる元素の中でも加工コストや水蒸気バリア性の観点から、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、及びケイ素より選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましく、アルミニウム元素、ケイ素元素より選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、アルミニウム元素を含むことがさらに好ましく、アルミニウム元素からなる層であることが特に好ましい。M層を金属酸化物の層とする場合、X線光電子分光法(XPS)により測定されるM層中の酸素元素の割合は、1atomic%以上80atomic%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の積層体は、M層表面の突出山部高さ(Spk1)が10nm以上100nm以下であることが重要である。突出山部高さ(Spk)とは、サンプル表面の平均的な傾斜と比較して、顕著に大きい傾斜をもった凸領域に着目した際に、該領域が基準面とどれくらいの高低差を有するかの指標であり、その測定方法は後述する。Spk1を10nm以上とすることで、積層体に適度な滑り性を付与することができる。また、Spk1が100nm以下であることは、積層体のM層表面に急峻な傾斜をもった領域が少ないことを意味する。従って、M層表面のSpk1を100nm以下とすることにより、後述するトップコート層の塗工や印刷といったM層に直接接する層を設ける加工であり、かつ熱(場合によってはさらに張力)がかかるような後加工を施す際、該領域を中心にM層に微細なクラック等の欠陥が生じることを抑制し、積層体は優れた水蒸気バリア性を維持しやすくなる。上記観点からSpk1は、好ましくは80nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは45nm以下、特に好ましくは30nm以下である。
【0017】
Spk1を100nm以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムにおいて、M層を積層する側の表層(後述のA層)の主成分を、ビカット軟化温度145℃以上160℃以下、かつ加重たわみ温度85℃以上105℃以下(好ましくはビカット軟化温度145℃以上158℃以下、かつ加重たわみ温度85℃以上100℃以下)のポリプロピレン系樹脂とする方法が挙げられる。なお、当該層が上記のポリプロピレン樹脂を主成分とするか否かは、成分ごとに単離して各成分の含有量を求めることにより判断することができるが、各成分の単離が難しい場合は、JIS K7191-2:2015の方法で測定した当該層のビカット軟化温度やJIS K7206:2016の方法で測定した当該層の加重たわみ温度が、上記範囲にあれば(これらの温度を示すピークが複数ある場合は最も大きなピークが上記範囲内にあれば)当該層が上記のポリプロピレン樹脂を主成分とするとみなすことができる。
【0018】
表層が上記特性を備えるポリプロピレン系樹脂を主成分とすることで、積層体の製造に用いるポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜工程における縦延伸時や横延伸時に、表層が適度な流動性を維持した状態とすることができるため、その表層の凹凸形状をなだらかなものとすることができる。なお、縦延伸とは長手方向への延伸をいい、横延伸とは幅方向への延伸をいう。主成分とは、対象の層を構成する全成分を100質量%としたときに50質量%を超えて含まれる成分をいい、以下、主成分については特に断りがない限り、対象の層が他のもの(層やフィルム)に変わっても同様に解釈することができる。
【0019】
また、当該表層に粒径200nm以上のアルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子を当該層の樹脂全体100質量%に対し0.1質量%以上添加せず、代わりに当該層に「非相溶樹脂」(ポリプロピレン系樹脂とは非相溶である熱可塑性樹脂、詳細は後述する。)を0.1質量%以上10質量%以下添加する方法も挙げられる。かかる原料組成とすることで、表層の凹凸形状をなだらかなものとし、急峻な傾斜をもった箇所を少なくすることができる。
【0020】
さらに製膜プロセスに着目すると、Spk1を100nm以下又は上記の好ましい範囲とする方法として、第1のキャスティングドラム(口金から吐出された溶融ポリマーが最初に触れるキャスティングドラム)の表面温度を10℃以上30℃以下、より好ましくは10℃以上27℃以下、さらに好ましくは10℃以上24℃以下とする方法も挙げられる。第1のキャスティングドラム温度をかかる範囲とすることで、溶融ポリマーを速やかに冷却し、未延伸フィルムの段階で粗大球晶の生成を抑制することができる。
【0021】
また、縦延伸の予熱温度を表層の主成分であるポリプロピレン系樹脂のビカット軟化温度-20℃~±0℃の範囲、より好ましくは-14℃~±0℃の範囲、さらに好ましくは-8℃~±0℃の範囲とする方法も挙げられる。主成分であるポリプロピレン系樹脂のビカット軟化温度をかかる範囲とすることで、予熱により表層の樹脂を溶融させることなく、適度に高い流動性を持たせた状態で一軸配向フィルムを得ることができる。そのため、その後二軸配向フィルムを得る過程においても表層のなだらかな形状を維持しやすくなる。他には、横延伸の熱処理工程において後述するような多段熱処理を行う方法等も用いることができる。なお、原料組成や製膜プロセスに関するこれらの方法はいずれも必須要件というわけではなく、また適宜組み合わせることもできる。
【0022】
また、本発明の積層体は、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)が80N/m以上400N/m以下であることが重要である。強度Xを80N/m以上とすることで、積層体にトップコート積層、印刷等の熱と張力が同時にかかる後加工を施す際、積層体が変形することを抑制し、積層体が優れたバリア性を維持しやすくなる。上記観点から強度Xの下限は、好ましくは90N/m、より好ましくは100N/m、さらに好ましくは110N/mである。また、強度Xを400N/m以下とすることで、積層体は適度な柔軟性を備えるため、加熱処理後の水蒸気バリア性を維持しやすくできる他、ラミネートや製袋加工等の加工工程において加工が容易となる。上記観点から強度Xの上限はより好ましくは360N/m、さらに好ましくは320N/mである。
【0023】
積層体の主配向軸は、以下の手順により決定することができる。まず、積層体を準備し、任意の方向を上に向けて、長さ50mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプル<1>とし、矩形のサンプル<1>の長辺が向く方向を0°と定義する。次に、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取する。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、同様にサンプル<3>~<12>を採取する。次に、各矩形のサンプルを引張試験機に、長辺方向が引っ張り方向となるように初期チャック間距離20mmでセットし、23℃65%RHの雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行い、サンプルが破断するまでの最大荷重を読み取る。その後、当該最大荷重を引張試験前の試料の断面積(厚み×幅(10mm))で除した値を最大点強度の応力として算出する。当該応力値が最大となるサンプルの長辺方向を積層体の主配向軸とし、これにフィルム面内で直交する方向を積層体の主配向軸と直交する方向とする。なお、主配向軸の特定に用いる測定装置や方法の詳細は後述する。
【0024】
また、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値の測定、算出は以下の手順で行うことができる。まず、サンプルとして、主配向軸とフィルム面内で直交する方向を長辺方向として切り出した長方形の積層体(幅(短辺)10mm×長さ(長辺)150mm)を得る。次にサンプルを初期チャック間距離20mmで引張試験機にセットし、100℃の雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行い、サンプルの伸びが5%時にフィルムにかかっていた荷重を読み取る。その後、当該荷重を試験前の試料の断面積(厚み×幅(10mm))で除した値を、伸度5%時の応力(F5値、単位:MPa)として算出する。なお、測定装置や方法の詳細は後述する。
【0025】
主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)は、上記の方法で測定した主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に、後述する方法で測定した積層体の厚みの積として求めることができる。
【0026】
強度Xを80N/m以上400N/m以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムに、後述するようにメルトフローレイト(MFR)が1.0g/min以上4.0g/min以下のポリプロピレン系樹脂及びMFRが4.2g/min以上10.0g/min以下のポリプロピレン系樹脂を用いる方法を用いることができる。また、縦延伸の延伸倍率を4.1倍以上、より好ましくは4.3倍以上、さらに好ましくは4.5倍以上、特に好ましくは4.8倍以上とする方法や、横延伸の熱処理工程において後述の多段熱処理を採択する方法、ワインダーの表面処理ロールのドローを98.0%以上100.5%以下、好ましくは98.0%以上100.0%以下とする方法等が挙げられる。なお、これらの方法はいずれも必須要件というわけではなく、また適宜組み合わせることもできる。
【0027】
また、本発明の積層体は、異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsが0.20以上0.80以下であることが重要である(以下、異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsを、単にμsということがある。)。μsを0.20以上とすることで、積層体をロールとして巻き取る際に面同士が滑りすぎることを抑制し、巻き姿を良好にすることができるとともに、その後の輸送時や長期保管時においても巻きズレを抑制することができる。また、μsを0.80以下とすることで、本発明の積層体をロールとして巻き取る工程、あるいは後述するトップコート層の積層や印刷、ラミネート、製袋加工といった各種加工を施す工程においてハンドリング性を良好にし、面同士の強いこすれ等による水蒸気バリア性の悪化を軽減することができる。上記観点からμsの上限は、好ましくは0.70、より好ましくは0.60である。なお、μsはJIS K 7125(1999)に準じて、25℃、65%RHにて測定するものとし、その測定方法の詳細は後述する。
【0028】
μsを0.20以上0.80以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの表層(後述するA層やB層)に後述する非相溶樹脂を添加する方法等が挙げられる。
【0029】
本発明の積層体は、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度(以下、単に応力発生開始温度)ということがある。)が90℃以上であることが好ましい。応力発生開始温度をかかる範囲とすることで、本発明の積層体に酸素バリア性向上やM層保護等を目的として更にトップコート層を積層する際、乾燥や硬化の熱によって積層体に生じる収縮応力を抑え、M層中にピンホールやクラック等の欠陥の発生を軽減できる。そのため、トップコート積層前の積層体の水蒸気バリア性を維持することが容易になる。また、このような態様とすることで、トップコート層の乾燥や硬化に際し、より高温での加熱が可能になるため、トップコート層をより緻密に架橋することができるようになる。その結果、得られる積層体の高湿度下の酸素バリア性が良好となる。
【0030】
上記観点から、応力発生開始温度の下限は、より好ましくは100℃、さらに好ましくは110℃、特に好ましくは115℃、最も好ましくは125℃である。応力発生開始温度の上限は特に限定されず、高ければ高いほど好ましいが、ポリプロピレン樹脂の融点を考えると現実的には165℃である。なお、応力発生開始温度の測定方法や条件の詳細は後述する。
【0031】
熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度を90℃以上とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの樹脂組成や延伸条件を調節する方法が挙げられる。より具体的には、ポリプロピレン系樹脂フィルムの内層(後述のC層)が、MFR1.0g/10min以上4.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂を50質量%以上90質量%以下含み、かつ、MFR4.2g/10min以上10.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂を5質量%以上50質量%以下含むようにする方法、縦延伸工程でフィルム長手方向に4.0%以上、好ましくは5.5%以上の加熱弛緩処理を施す方法、横延伸工程の熱処理を3段階で行い、第1熱処理温度を150℃以上170℃以下、第2熱処理温度を115℃以上135℃以下、第3熱処理温度を150℃以上170℃以下とする方法、ワインダーの表面処理ロールのドローを98.0%以上100.5%以下、好ましくは98.0%以上100.0%以下、より好ましくは98.0%以上98.4%以下とする方法等が挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることが可能であるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。なお、ここで長手方向とは製造工程中をフィルムが走行する方向(ロール状に巻き取られている状態であれば巻方向)をいい、これにフィルム面内で直交する方向が幅方向である。
【0032】
本発明の積層体は、M層と反対側の表面の突出山部高さ(Spk2)が10nm以上150nm以下であることが好ましい。Spk2を10nm以上とすることで、積層体に適度な滑り性を付与し、本発明の積層体の異なる面同士を擦過する際の静止摩擦係数μsを0.80以下に制御しやすくなり、結果、異なる面同士の擦過による水蒸気バリア性の低下が軽減される。上記観点からSpk2の下限は、好ましくは20nm、より好ましくは30nmである。また、Spk2を150nm以下とすることで、M層と反対側の表面が急峻な粗大突起を有さないものとなり、積層体をロールとして巻き取って長期保管する際に、M層が相対する面との接触によってナノオーダーの微細な擦過等の物理的ダメージを受けることが軽減されるため、優れた水蒸気バリア性を維持しやすくなる。上記観点からSpk2の上限は、好ましくは120nm、より好ましくは100nm、さらに好ましくは85nm、さらに好ましくは70nm、特に好ましくは65nm、最も好ましくは60nmである。
【0033】
Spk2を10nm以上150nm以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製造時に、積層体のM層と反対側の層(ポリプロピレン系樹脂フィルムが複数層からなる場合は後述のB層、単層からなる場合は後述のA層)に主成分として融点150℃以上のポリプロピレン系樹脂を用いる方法や、当該層に粒径200nm以上のアルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子を当該層の樹脂全体100質量%に対し0.1質量%以上添加しない方法や、後述する非相溶樹脂を0.1質量%以上1.0質量%以下添加する方法が挙げられる。また、第1のキャスティングドラムを通過後、引き続き第2のキャスティングドラムと未延伸フィルムの反対面(第1のキャスティングドラムと接したのとは反対側の表面)を接触させ、冷却する方法も挙げられる。その際、第2のキャスティングドラムの温度は、第1のキャスティングドラムよりも2℃以上低くすることが好ましく、4℃以上低くすることがより好ましい。このような冷却方式を採ることで、未延伸フィルムの時点で、第1のキャスティングドラムと接していなかった側の表面についても十分かつ速やかに冷却し、粗面化の原因となる粗大球晶の生成を抑えることができる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0034】
本発明の積層体は、M層表面の最大高さをSz(nm)、前記M層の厚みをd(nm)とした際に、d-Sz/50≧5を満たすことが好ましい。d-Sz/50≧5であることは、積層体表面の突起高さのスケールに対し、水蒸気バリア性を担うM層の厚みが十分大きいことを意味する。そのため、このような態様とすることにより、本発明の積層体にトップコート塗工や印刷等の熱がかかる後加工を施した際に水蒸気バリア性が損なわれにくくなる。上記観点からd-Sz/50は好ましくは8以上である。なお、M層の厚みは透過型電子顕微鏡(TEM)での断面観察により測定することができ、M層表面の最大高さをSzは三次元非接触表面形状の測定器である走査型白色干渉顕微鏡により測定することができる(それぞれ詳細は後述する。)。
【0035】
d-Sz/50を5以上もしくは上記の好ましい範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、Szを低減するべく第1のキャスティングドラムの表面温度を10℃以上30℃以下、より好ましくは10℃以上27℃以下、さらに好ましくは10℃以上24℃以下とする方法、縦延伸の予熱温度を135℃以上、より好ましくは140℃以上、さらに好ましくは145℃以上とする方法、またM層の厚みdを大きくするべく蒸着レートを大きくしたり蒸着機内の滞在時間を長くしたりする方法の他、M層の材料として、厚みを大きくした際もクラックを生じにくい材料(例えば、金属アルミニウム等)を用いる方法等が挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0036】
また、本発明の積層体は、M層とポリプロピレン系樹脂フィルムの剥離力が0.5N/15mm以上8.0N/15mm以下であることが好ましい。M層とポリプロピレン系樹脂フィルムの剥離力を0.5N/15mm以上とすることで、積層体の後加工工程中でM層が自然剥離し、水蒸気バリア性や酸素バリア性が損なわれるのを軽減することができる。上記観点から剥離力の下限はより好ましくは1.0N/15mm、さらに好ましくは1.5N/15mm、特に好ましくは2.0N/15mm、最も好ましくは2.2N/15mmである。また、剥離力は大きければ大きいほど好ましいが、表面処理の操業性を良好に保ちつつコストの上昇を抑える観点から、上限は8.0N/15mmとすることが好ましい。
【0037】
なお、剥離力は、積層体のM層あるいはM層とトップコート層を積層した側の面に形成したエステル系有機溶剤型の接着剤層上に二軸延伸ポリプロピレンフィルムをラミネートし、40℃で48時間エージングした後に、公知の万能材料試験機を用いて当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを引っ張って剥離させることにより測定することができる(詳細な測定方法は後述する。)。
【0038】
M層の剥離力を0.5N/15mm以上又は上記の好ましい範囲とする上では、ポリプロピレン系樹脂フィルムのM層を積層する表面に極性基を多く導入することや、ポリプロピレン系樹脂フィルムに表面処理を施す際の分子鎖切断を抑制することが有効であり、具体的な方法として、例えばポリプロピレン系樹脂フィルムのM層を積層する面(A層表面)の表面自由エネルギーを39mN/m以上60mN/m以下、より好ましくは41mN/m以上60mN/m以下、さらに好ましくは43mN/m以上60mN/m以下とする方法、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面処理時に酸素濃度を500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは38ppm以下に制御する方法等が挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0039】
本発明の積層体は、M層を剥離した際の剥離モードが凝集破壊であることが好ましい。ここで、M層を剥離した際の剥離モード(以下、単に剥離モードということがある。)とは、積層体からM層を剥離した際の界面の状態をいい、凝集破壊と界面剥離の2種類に大別される(本発明における剥離モードの判定方法は後述する。)。剥離モードが凝集破壊であることは、M層とポリプロピレン系樹脂フィルムの表面が強固な化学結合を形成していることを意味する。そのため、積層体の後加工工程中でM層が自然剥離し、水蒸気バリア性や酸素バリア性が損なわれるのを軽減することができる。
【0040】
なお、M層の剥離モードを凝集破壊とする方法は、特に限定されないが、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面処理時に酸素濃度を好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは38ppm以下に制御する方法が挙げられる。かかる方法を用いることで、表面処理強度を小さくしても極性基を効率よく導入できるようになる結果、表面処理時の分子鎖切断が抑制され、M層の剥離モードを凝集破壊とすることが容易になる。また、雰囲気ガスとして窒素ガスと炭酸ガスを混合し、かつ炭酸ガスの比率を20体積%以上、より好ましくは30体積%以上とする方法も挙げられる。かかる雰囲気ガスとすることで、分子鎖切断を抑えつつ、ポリプロピレン系樹脂フィルムの最表層のみに選択的に官能基を導入しやすくなり、M層の剥離モードを凝集破壊とすることが容易になる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0041】
本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムは、M層を積層する面(A層表面)の表面自由エネルギーが39mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。表面自由エネルギーは、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種類の溶液の接触角を用いて、畑らによって提案された「固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γS
d)、極性力成分(γS
p)、および水素結合力成分(γS
h)の3成分に分離し、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により測定することができ、測定方法の詳細は後述する。
【0042】
当該面の表面自由エネルギーが39mN/m以上であることは、当該面が高い親水性を有することを意味する。そのため、当該面にM層を形成した際に両者の密着が強固になり、M層の剥離力を0.5N/15mm以上に制御することが容易になる。また、一般的なポリプロピレン系樹脂フィルムにおいては、表面処理が施されていたとしても、表面自由エネルギーが39mN/mより小さく(すなわち、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムよりも疎水的であり)、表面に蒸着等によって金属又は金属酸化物の層(M層)を形成する際、金属粒子が濡れ広がりにくいため、蒸着層が不均一な核形成ならびに核成長を伴って形成されていく傾向にあった。そのため、M層積層前(すなわち、ポリプロピレン系樹脂フィルムだけの状態)においてはSpkが小さかったとしても、M層の積層によってSpkが増大し、結果的にSpk1が100nmより大きくなる傾向にあった。
【0043】
しかしながら、表面自由エネルギーを上記範囲に制御することで、蒸着等によってM層を形成する際、金属や金属酸化物の粒子が均一に濡れ広がりやすくなる。その結果、M層を形成する前後での粗面化を抑制することができ、積層体のM層表面の突出山部高さ(Spk1)を10nm以上100nm以下に制御することが容易になる。上記観点から表面自由エネルギーの下限はより好ましくは41mN/m、さらに好ましくは43mN/mである。また、上記観点においては表面自由エネルギーを高くすればするほど好ましいものの、表面自由エネルギーを一定以上高くしようとすると表面処理の強度を極端に強くしなければならず、それに伴い後述する脆弱層形成が加速することがある。このようなメカニズムによる脆弱層の形成を抑制する観点から、当該面の表面自由エネルギーは60mN/m以下とすることが好ましい。
【0044】
ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面自由エネルギーは、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の溶液のそれぞれの接触角を用いて、畑らによって提案された「固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γS
d)、極性力成分(γS
p)、および水素結合力成分(γS
h)の3成分に分離し、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により算出することができる(詳細は後述)。
【0045】
ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面自由エネルギーを39mN/m以上又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜工程内で(すなわちインラインで)表面処理を行う方法が挙げられる。また、窒素雰囲気下、好ましくは窒素及び炭酸ガスの存在下で表面処理を行う方法も効果的である。かかる雰囲気下で表面処理することで、効率よく官能基を導入することが可能となる。なお、窒素及び炭酸ガスの存在下で表面処理を行う場合、窒素を主成分とした上で炭酸ガスの比率を高めることで当該面の表面自由エネルギーを高めることができる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0046】
本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムは、M層を積層する面(A層表面)のGCIB-XPSにより測定されるO元素とN元素の比率の合計が最表層で5.0atomic%以上15.0atomic%以下、かつ深さ5nmで0.1atomic%以上3.0atomic%以下であることが好ましい。GCIB-XPSとは、ガスクラスターイオンビーム-X線光電子分光法の略称であり、当該測定方法を用いることによりエッチング時の試料へのダメージを最小限に抑えつつ、深さ方向の官能基分布に関する情報を得ることができる。
【0047】
M層を積層する面のGCIB-XPSにより測定されるO元素とN元素の比率の合計が最表層で5.0atomic%以上であることは、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの表層に-COO、-C=O、-C-O、-C-N等の親水性の官能基が多く存在することを意味する。そのため、このような態様においてはM層の剥離力を0.5N/15mm以上に制御することや、M層の剥離モードを凝集破壊とすることが容易になる。上記観点からO元素とN元素の最表層における比率の合計の下限はより好ましくは6.0atomic%、さらに好ましくは7.0atomic%である。また、O元素とN元素の比率の合計は大きくすればするほどM層の剥離力を高めやすくなるが、後述する深さ5nmにおけるO元素とN元素の比率の合計を3.0atomic%以下に制御しやすくする観点、表面処理の操業性を良好に保ちつつコストの上昇を抑える観点から、15.0atomic%以下とすることが好ましく、より好ましくは12.0atomic%以下である。なお、GCIB-XPSによる測定の詳細は後述する。
【0048】
また、O元素とN元素の比率の合計が深さ5nmで3.0atomic%以下であることは、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムが事実上、表面付近のみ改質された態様となっており、フィルムの内部(特に表面から5nm以上深い位置)に低分子量化したポリプロピレン系樹脂が堆積した脆弱層を含まないことを意味する。従って、M層の剥離力を0.5N/15mm以上に制御しやすくなる上、ブリードアウトが懸念される低分子量成分量を抑えることができるという点で、M層の剥離力や水蒸気バリア性の長期安定性、食品衛生試験の評価等の点で優位となる。上記観点からO元素とN元素の比率の深さ5nmにおける合計の上限は、より好ましくは2.0atomic%である。また、深さ5nmにおけるO元素とN元素の比率の合計は小さければ小さいほど好ましいが、0.1atomic%未満としようとすると表面処理の強度を極端に小さくしなければならず、O元素とN元素の比率の合計が最表層で5.0atomic%以上となるように制御することが困難となる場合がある。従って、深さ5nmにおけるO元素とN元素の比率の合計は0.1atomic%以上であることが好ましい。
【0049】
O元素とN元素の比率の合計を前記範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムのA層の主成分として、ビカット軟化温度が158℃以下のポリプロピレン樹脂を用いる方法が挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜工程内で(すなわちインラインで)、E値が10W・分/m2以上30W・分/m2以下である条件での表面処理を行う方法が挙げられる。E値の上限はより好ましくは24W・分/m2、さらに好ましくは20W・分/m2、特に好ましくは18W・分/m2である。インラインでの表面処理とすることで、処理強度を小さくしても本来狙いとしている官能基導入を優勢にすることができるため好ましい。また、表面処理時の酸素濃度を500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、特に好ましくは50ppm以下とする方法も挙げられる。ポリプロピレン系樹脂を酸素の存在下で表面処理すると、官能基を効率良く導入できる反面、分子鎖切断も非常に活発に起こり、低分子量化したポリプロピレン系樹脂による脆弱層が形成されるが、酸素濃度を前述したきわめて小さい範囲に制御することで、分子鎖切断を抑制し、脆弱化を抑制することが可能となる。上記以外では、表面処理を炭酸ガス20体積%以上、より好ましくは炭酸ガス30体積%以上の雰囲気で行う方法も挙げられる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて使用することができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0050】
本発明の積層体は、示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで昇温した際に、1st Runで165℃以上に融解ピークを有し、1st Runと2nd Runの融解ピークの温度差が5℃以上10℃以下であることが好ましい。かかる数値範囲を満たすことは、本発明の積層体に含まれるポリプロピレン系樹脂フィルムが高融点のポリプロピレン系樹脂を含み、かつ、フィルムとしての高い配向度を具備することを意味する。従って、このような態様の積層体とすることにより、100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)を80N/m以上400N/m以下に制御することが容易になる。上記観点から、1st Runの融解ピーク温度の下限はより好ましくは166℃、さらに好ましくは167℃、特に好ましくは168℃であり、1st Runと2nd Runの融解ピークの温度差は、より好ましくは6℃以上9℃以下である。なお、DSCによる融解ピークの測定方法の詳細は後述する。
【0051】
示差走査熱量計DSCで測定される1st Run、2nd Runの融解ピーク温度が上記の好ましい範囲を満たすように制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの主成分として融点が159℃以上、好ましくは161℃以上、さらに好ましくは163℃以上であるポリプロピレン系樹脂を用いた上で、縦延伸の倍率を4.1倍以上、好ましくは4.3倍以上、さらに好ましくは4.5倍以上、最も好ましくは4.8倍以上とする方法、横延伸の倍率を7.5倍以上、好ましくは8.5倍以上、さらに好ましくは9.5倍以上とする方法等が挙げられる。なお、これらの方法は適宜併用することができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0052】
本発明の積層体は、包装用途に好適なものとする観点から、厚みが8μm以上60μm以下であることが好ましい。厚みを8μm以上とすることで、積層体に剛性を持たせ、製袋加工時や搬送時のたるみを抑え、かつ張力に対して破れにくくすることができる。上記観点から厚みの下限は、10μmがより好ましく、12μmがさらに好ましい。一方、厚みを60μm以下とすることで、ハンドリング性を良好にできる他、単位面積当たりの製造コストを抑えることもできる。上記観点から厚みの上限値は、50μmがより好ましく、40μmがさらに好ましく、30μmが特に好ましい。なお、積層体の厚みは、積層体の任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で接触式のマイクロメータで測定し、得られた全測定値の算術平均値を求めることにより決定することができる(測定方法の詳細は後述する。)。
【0053】
積層体の厚みを8μm以上60μm以下又は上記の好ましい範囲とする方法は、特に制限されず、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時に、ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融押出の吐出量を調整する方法や、溶融シートの冷却固化の際にキャストドラムの回転速度を調整する方法、溶融シートを吐出する口金のリップ間隙を調整する方法、長手方向の延伸倍率を調整する方法、幅方向の延伸倍率を調整する方法等を用いることができる。より具体的には、吐出量を下げること、キャストドラムの回転速度を上げること、口金のリップ間隙を小さくすること、長手方向や幅方向の延伸倍率を上げることで、厚みを小さくすることができる。なお、これらの方法は適宜併用することができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない。
【0054】
本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムは、全体に占めるポリプロピレン系樹脂の含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。かかる範囲とすることで、積層体が実質的に単一の素材で構成されている材料、すなわちモノマテリアル材料であると見なすことができ、リサイクル性を良好なものとすることができる。上記観点及び実現可能性の観点から、積層体全体に占めるポリプロピレン系樹脂の含有量の上限は100質量%となる。
【0055】
本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの層構成は、層を構成する全成分中にポリプロピレン系樹脂を80質量%以上100質量%含む層(以下、このような層をポリプロピレン系樹脂層ということがある。)を一つ有する構成とすることも、複数有する構成とすることもできる。以下、ポリプロピレン系樹脂フィルムの層構成について、本発明の一実施態様に係る積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの概略断面図を示す
図2~4を用いて具体的に説明する。ここで、ポリプロピレン系樹脂層のうちM層に最も近い層(
図2に示すように、ポリプロピレン系樹脂層が一つの場合は当該層)をA層、A層から最も遠い層(
図3に示すように、2層構成の場合はA層でない層)をB層とし、A層とB層の間に位置するポリプロピレン系樹脂層がある場合は、これらの層をA層に近いものから順にC層、D層とアルファベット順に定義する(例として3層構成の場合を
図4に示している。)。なお、ポリプロピレン系樹脂層を3つ以上有する場合、A層とB層は同一組成とすることも可能である。本発明の積層体においては、ポリプロピレン系樹脂フィルムが、ポリプロピレン系樹脂層であるA層、B層の少なくとも2層を有し、A層がM層から最も近い場所に位置し、かつ、B層がM層から最も遠い場所に位置することが好ましい。
【0056】
本発明の積層体の好ましい層構成は、M層/ポリプロピレン系樹脂フィルム、あるいはトップコート層(後述)/M層/ポリプロピレン系樹脂フィルムである。具体例としては、M層/A層、M層/A層/B層、M層/A層/C層/B層、トップコート層/M層/A層、トップコート層/M層/A層/B層、トップコート層/M層/A層/C層/B層等の態様が挙げられる。以下、ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成する各層の好ましい態様について説明する。
【0057】
A層は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とし、かつ、粗大突起の原因となる平均粒径200nm以上のアルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子の含有量が、A層の全成分100質量%に対し、1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。最も好ましくは、A層がポリプロピレン系樹脂を主成分とし、かつ、これらの粒子を含有しないことである。A層をかかる態様とすることで、積層体の突出山部高さ(Spk1)を10nm以上100nm以下に制御しやすくなる。また、A層を構成するポリプロピレン系樹脂は、ビカット軟化温度145℃以上160℃以下、かつ加重たわみ温度85℃以上105℃以下とすることが好ましく、ビカット軟化温度145℃以上158℃以下、かつ加重たわみ温度85℃以上100℃以下とすることがさらに好ましい。かかる態様とすることで、積層体のSpk1を10nm以上100nm以下に制御しやすくなるとともに、積層体のM層の剥離力を0.5N/15mm以上に制御しやすくなる。
【0058】
A層の主成分として使用するポリプロピレン系樹脂は、前記した好ましい条件を満たせば特に限定されないが、例えば、(株)プライムポリマー製のポリプロピレン系樹脂である、E-200GP、F-300SP、F113G、サンアロマー(株)製のポリプロピレン系樹脂である、PC412A、PL500A、日本ポリプロ(株)製のポリプロピレン系樹脂である、FL203D、FY6、住友化学(株)製のポリプロピレン系樹脂である、FS2011DG3、FS2011C等が好ましい。
【0059】
本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムにおいては、A層の全構成成分を100質量%としたときに、分子量1500以上10000以下の成分量が0.1質量%以上3.5質量%以下であることが好ましい。A層における分子量1500以上10000以下の成分量を0.1質量%以上とすることで、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムを製膜する際に、延伸助剤としての作用を確保することができる。その結果、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時に均一延伸性を高め、A層の厚みムラを抑制することができる。また、A層における分子量1500以上10000以下の成分量を3.5質量%以下とした場合、特にM層のような、極性基をあまり持たない被着体との密着を妨げる成分が少ないことなる。その結果、A層はこのような被着体とのDry剥離力だけでなく、Wet剥離力にも優れるようになるため、得られる積層体が液体内容物の梱包にもより好適に適用することができるものとなる。上記観点から、A層における分子量1500以上10000以下の成分量は、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.7質量%以下である。
【0060】
ポリプロピレン系樹脂フィルムにおける分子量1500以上10000以下の成分量は、溶融した試料をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析することにより測定することができ、その測定方法の詳細は後述する。
【0061】
本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムのA層において、分子量1500以上10000以下の成分量を0.1質量%以上3.5質量%以下又は上記の好ましい範囲とする方法は特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムのA層を構成する成分(特に、主成分となるポリプロピレン系樹脂)として、分子量1500以上10000以下の成分量が少ないものを使用したり、その比率を高くしたりする方法が挙げられる。なお、ここで主成分とは、ポリプロピレン系樹脂フィルムの全構成成分を100質量%としたときに、50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいい、以下、主成分については同様に解釈することができる。
【0062】
また、ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成する成分を上記の通りとすることの他、表面処理において窒素ガス及び/又は炭酸ガスの雰囲気下で処理強度24W・分/m2以下、より好ましくは20W・分/m2以下、さらに好ましくは18W・分/m2以下でのコロナ放電処理を行う方法も効果的であり、特に、ポリプロピレン系樹脂フィルムのA層を構成する成分として、分子量1500以上10000以下の成分量が3.5質量%に近い場合に顕著である。
なお、これらの方法は適宜併用することができるが、全ての方法を組み合わせることは必須ではない(この点は、特に断りがなくとも後述の各項目においても同様である。)。
【0063】
B層は、ポリプロピレン系樹脂とは非相溶である熱可塑性樹脂を少量含むことが好ましい。以下、「ポリプロピレン系樹脂とは非相溶である熱可塑性樹脂」について、単に「非相溶樹脂」ということがある。一般に、蒸着加工や製袋加工においては適度な搬送性が求められるため、従来はフィルム表層(例えばA層やB層)に平均粒径200nm以上のアルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子や、有機滑剤を添加するなどしてフィルム表面に凹凸を形成し、易滑性を付与する方法が採択されてきた。しかしながら、このような粒子により形成される突起は硬質であり、ポリプロピレン系樹脂フィルムから製造される積層体を巻き取りロール状の製品として移送する際、相対するM層に削れ、ピンホール、クラック等の欠陥を生じる原因となる。そのため、このような粒子を用いると積層体の水蒸気バリア性が損なわれやすい。また、有機粒子はポリプロピレン系樹脂フィルムを巻き取りロール状の製品として移送する際に相対する表層(例えばA層)に転写されやすく、ポリプロピレン系樹脂フィルムにM層を積層した際に、M層の剥離力を低下させる。B層が非相溶樹脂を少量含むことで、B層表面に、そのドメイン構造を利用した軟質な表面凹凸を付与することができる。そのため、適度な滑り性を損なわずに、積層体の水蒸気バリア性、M層の剥離力をいずれも良好なものとすることができる。
【0064】
なお、B層が前述した粒子、非相溶樹脂の少なくとも一方を含む場合、静止摩擦係数μsの過度な上昇が抑えられ、加工適性を良好とすることができる。さらに、このような態様とすることにより、積層体の巻取時や巻出時にM層が相対する面と強く擦れることに伴うM層のピンホールやクラック等の欠陥の発生を軽減するできるため、積層体の水蒸気バリア性の低下も軽減できる。
【0065】
非相溶樹脂としては、例えば、ポリメチルペンテン系樹脂等を好ましく用いることができる。B層がポリプロピレン系樹脂と非相溶樹脂とを含むと、キャストフィルム(未延伸ポリプロピレンフィルム)のα晶系球晶サイズを微小にすること、またはポリプロピレン系樹脂成分の全てあるいは一部をメゾ相として形成することで、延伸に伴う非相溶樹脂ドメインとポリプロピレン系樹脂との界面剥離を抑制することができる。界面剥離を抑えることでポリプロピレン系樹脂フィルムを白化させずに表面突起を形成できるため、蒸着加工のシワによる蒸着ムラや製袋加工時の搬送シワの発生を抑えつつ、良好な加工適性を得ることができる。
【0066】
このような非相溶樹脂としては、例えば三井化学(株)より“TPX”(登録商標)シリーズとして販売されている“TPX”(登録商標)MXシリーズ、“TPX”(登録商標)DXシリーズ、“TPX”(登録商標)RTシリーズなどを好ましく用いることができる。具体的には“TPX”(登録商標)MX002、MX004、DX310、DX845、RT31がポリプロピレン系樹脂と比較的親和性が高く、ドメインサイズを小さくできる観点で好ましい。
【0067】
B層中の非相溶樹脂の含有量は、層全体100質量%中、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。非相溶樹脂の含有量が0.1質量%以上であることにより、B層表面に効率よく表面突起が形成されるため、B層表面の滑り性が良好となり、蒸着加工や製袋加工におけるシワの発生が軽減される。一方で、B層における非相溶樹脂の含有量が10質量%以下であることにより、B層内における過剰なドメイン形成が抑えられ、延伸時に樹脂同士の界面で生じるボイドの過剰発生による透明性低下や水蒸気バリア性の低下が軽減される。上記観点から、B層中の非相溶樹脂の含有量の下限はより好ましくは0.5質量%、さらに好ましくは1.0質量%、特に好ましくは1.5質量%である。また、B層中の非相溶樹脂の含有量の上限はより好ましくは6.0質量%、さらに好ましくは4.0質量%、特に好ましくは3.0質量%である。
【0068】
なお、B層だけでなく、前述のA層も非相溶樹脂を含有する態様も好ましく採択される。かかる態様とすることで、A層の表面に、そのドメイン構造を利用した微細、かつ軟質な表面凹凸を付与することができる。そのため、粒子や滑剤を含有することなく適度な滑り性を付与することができ、M層を積層した後の積層体について、水蒸気バリア性や酸素バリア性を損なうことなく、μsを0.20以上0.80以下に制御することが容易になる。上記観点から、A層が非相溶樹脂を含有する場合の含有量は、B層の場合と同様、層全体100質量%中、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上6.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上4.0質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以上3.0質量%以下である。
【0069】
但し、M層とポリプロピレン系樹脂フィルムの剥離力を高める観点から、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムにおいては、B層がポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂を含み、かつ、A層におけるポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂の含有量が、B層におけるポリプロピレン系樹脂と非相溶である樹脂の含有量よりも少ないことがより好ましい。かかる態様とすることで、積層体に適度な滑り性を付与しつつ、M層とポリプロピレン系樹脂フィルムのDry剥離力やWet剥離力を高めることが容易となる。その結果、本発明の積層体を包装材料用として用いる際、液体内容物の梱包にも好適に用いることができるようになる。
【0070】
また、B層にはヒートシール層としての役割を担わせることもできる。ヒートシールとは、内容物を充填・包装し袋としての形態をとるにあたり、加熱処理を通じてフィルム同士が溶融して圧着した状態(若しくは圧着させる工程)のことであり、ヒートシール性とは、加熱により溶融・圧着するフィルム側の性質のことである。また、ヒートシール層とは、層全体100質量%中に、融点が150℃未満のポリプロピレン系樹脂を50質量%より多く100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下含む層をいう。このような態様とすることで、加熱により袋としての形態をとることが容易となる。
【0071】
B層にヒートシール層としての役割を担わせる場合は、低温・高速ヒートシール性を付与する観点から、低結晶性かつ融点の低いポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましく、このような樹脂としては、例えば、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体等を好ましく用いることができる。B層に使用する低結晶性かつ融点の低いポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、日本ポリプロ(株)製のポリプロピレン系樹脂原料である、WFX4M、WFX4TA、WFW4M等を使用することが好ましい。
【0072】
また、B層にヒートシール層としての役割を担わせる場合、B層の融点は、低温・高速シール性を付与する観点から100℃以上150℃未満であることが好ましく、より好ましくは110℃以上148℃以下、さらに好ましくは120℃以上145℃以下である。なお、B層の融点は、積層体のB層を示差走査熱量分析(DSC)で分析した際の融解による吸熱ピークのうち、最も低温側のピーク温度として読み取ることができる(詳細な測定方法は後述)。
【0073】
なお、B層は、ポリプロピレン系樹脂とは非相溶である樹脂を含むことが粒子や滑材を添加せずに適度な滑り性を付与する観点から重要であるが、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、塩素捕捉剤、帯電防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤等を含むこともできる。なお、これらの成分は適宜組み合わせて用いてもよい。
【0074】
B層を積層する方法は特に限定されないが、製膜時の溶融共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式の他、押出ラミネートやドライラミネート等が挙げられる。生産効率及びコストの観点からは、溶融共押出による積層方法が好ましい。ポリプロピレン系樹脂フィルムにおけるB層の厚みは特に制限されるものではないが、ポリプロピレン系樹脂フィルム全体厚み100%に対して、下限は0.5%が好ましく、より好ましくは1.0%である。他方、上限は80%が好ましく、より好ましくは60%、さらに好ましくは40%、特に好ましくは10%である。
【0075】
ポリプロピレン系樹脂フィルムがC層を有する場合、C層は単一のポリプロピレン系樹脂で構成されていてもよいが、メルトフローレイト(MFR)が1.0g/10min以上4.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂原料を50質量%以上95質量%以上含有し、かつ、MFRが4.2g/10min以上10.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂原料を5質量%以上50質量%以下含有することがより好ましい。なお、ここでMFRとはJIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した値をいう。
【0076】
C層が、メルトフローレイト(MFR)が1.0g/10min以上4.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂原料のみを構成原料としている場合、製膜性は良好となるものの、特に高温域において主配向軸とフィルム面内で直交する方向の熱収縮応力が高くなる。そのため、得られる積層体は高温における熱寸法安定性ならびに機械強度を保つことが難しくなる。
【0077】
しかしながら、C層が、MFRが4.2g/10min以上10.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂原料を5質量%以上50質量%以下の割合で併用することで、良好な製膜性を維持したまま、積層体の高温域における主配向軸とフィルム面内で直交する方向の熱収縮応力を低減することができる。その結果として、主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値に厚みを掛けた値(強度X)を80N/m以上400N/m以下に制御しやすくなる。
【0078】
ポリプロピレン系樹脂のMFRを上記の値とするためには、原料となるポリプロピレン系樹脂の平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。より具体的には、重合時の水素ガス濃度を調整する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行い、ポリプロピレン樹脂の分子量や分子量分布を制御する方法、過酸化物処理を施す方法等が好ましく採用される。高分子量成分を低減することでMFRは高くなる。
【0079】
C層に使用するポリプロピレン系樹脂のうち、メルトフローレイト(MFR)が1.0g/10min以上4.0g/10min以下のものとしては、特に限定されないが、例えば、住友化学(株)製のポリプロピレン樹脂である、FS2011DG3、(株)プライムポリマー製のポリプロピレン系樹脂原料である、E-200GP、F133A等を使用することが好ましい。また、C層に使用するポリプロピレン系樹脂のうち、メルトフローレイト(MFR)が4.2g/10min以上10.0g/10min以下のものとしては、特に限定されないが、例えば、(株)プライムポリマー製のポリプロピレン系樹脂原料である、F-704NP、F-704NT、住友化学(株)製のポリプロピレン樹脂である、WF836DG3、W101、FLX80H5、FLX80E4等を使用することが好ましい。
【0080】
また、C層はポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂の具体例としては、例えば、環状オレフィン系樹脂、α-オレフィン系ホモポリマーやコポリマー(エラストマーを含む)、石油樹脂等が挙げられる。なお、これらの成分は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
本発明において環状オレフィン系樹脂とは、樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、環状オレフィンモノマー由来の構成単位が合計で20モル%を超えて100モル%以下である樹脂をいう。このような樹脂としては、例えば環状オレフィンモノマーのみを重合させた樹脂(以下、COPということがある。)や、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂(以下、COCということがある。)等が挙げられ、これらは適宜混合させてもよい。
【0082】
COPの製造方法としては、環状オレフィンモノマーの付加重合、あるいは開環重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロデセン、およびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させる方法、ノルボルネンおよびその誘導体を付加重合させる方法、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンを1,2-、1,4-付加重合させた後に水素化させる方法などが挙げられる。これらの中でも、生産性、成型性の観点から、ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロデセン、およびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させる方法がより好ましい。
【0083】
COCの場合、共重合させるのに好ましい鎖状オレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-へキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらの中でも、生産性、コストの観点から、エチレンが特に好ましく用いることができる。また、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂の製造方法としては、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーの付加重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネンおよびその誘導体とエチレンを付加重合させる方法などが挙げられる。中でも、生産性、成型性の観点から、ノルボルネンとエチレンを共重合させることがより好ましい。
【0084】
本発明においてポリプロピレン系樹脂以外のα-オレフィン系ホモポリマーとは、プロピレンを除く1種類のα-オレフィンをモノマーとする重合体のことを指す。α-オレフィンとしてはエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン等が挙げられる。
【0085】
また、本発明においてα-オレフィン系コポリマーとは、ポリオレフィンを主鎖とし、主鎖を構成するα-オレフィンの構成単位とは異なるα-オレフィンをコモノマーとする共重合体のことを指し、その中でもα-オレフィン系エラストマーとは、前記共重合体のうちゴム弾性を有するものを指す。コモノマーとなるα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン等が挙げられる。α-オレフィン系コポリマーの具体例としては、例えば、エチレン-α-オレフィン系コポリマー、プロピレン-α-オレフィン系コポリマー等が挙げられる。α-オレフィン系エラストマーの具体例としては、エチレン-α-オレフィン系エラストマー、プロピレン-α-オレフィン系エラストマー等が挙げられるが、生産性、成型性の観点から、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムにおいては、エチレン-αオレフィン系エラストマーが好ましく採択される。
【0086】
また、本発明において石油樹脂とは、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホン基またはそれらの変成体等からなる極性基を有さない石油樹脂であり、具体的には石油系不飽和炭化水素を原料とするシクロペンタジエン系、あるいは高級オレフィン系炭化水素を主原料とする樹脂である。上記以外では、製造工程中で生じるポリプロピレン系樹脂フィルム、もしくはM層が積層された積層体の自己回収原料を含んでいてもよい。
【0087】
本発明の積層体は、熱や張力が掛かる加工工程後も優れた水蒸気バリア性を維持しやすく、金属又は金属酸化物の層(M層)の密着性も高いことから、包装材に好適に用いることができる。本発明の積層体の包装対象物は特に制限されないが、水蒸気により変質しやすいもの、例えば食品や医薬品、化粧品、生花等が挙げられる。
【0088】
本発明の積層体は、金属又は金属酸化物の層(M層)の上に、トップコート層を有してもよい。トップコート層とは、M層のポリプロピレン系樹脂フィルムとは反対側の表面に積層された有機化合物または有機無機混合物を含む層であり、前述のM層の要件を満たさない層のことである。積層体がトップコート層を有することで、M層を保護することや、M層が最表面に位置する場合よりも酸素バリア性を向上させる効果が期待できる。
【0089】
有機無機混合物を含むトップコート層の好ましい一例として、例えば金属又はケイ素原子を含むアルコキシドおよび/またはその重縮合物と、水溶性高分子の混合物等を用いたコート層が挙げられる。トップコートに用いられる金属又はケイ素原子を含むアルコキシドは、一般式「M(OR)n」で表される。当該一般式中nは価数を表す自然数、Mは金属原子(例えば、Ti、Alなど)またはケイ素原子(Si)、Rはアルキル基(特に炭素数1~4の低級アルキル基が好ましい。)を表す。金属又はケイ素原子を含むアルコキシドは、反応性と安定性、コストの観点から例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランを好適に用いることができ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。金属又はケイ素原子を含むアルコキシドは、ネットワークを形成するために加水分解したり、重縮合したりしていてもよい。
【0090】
トップコートに用いられる水溶性高分子は、ビニルアルコール系樹脂や、ポリビニルピロリドン、デンプン、セルロース系樹脂などが挙げられるが、中でも酸素バリア性に優れるビニルアルコール系樹脂が好ましい。ビニルアルコール系樹脂には、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等があり、これらの樹脂は単独で用いても、2種類以上の混合物であってもよい。ビニルアルコール系樹脂は、一般に、ポリ酢酸ビニルやその共重合体などをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高いものがより好ましい。
【0091】
トップコート層の水溶性高分子に対する金属又はケイ素原子を含むアルコキシドの混合比率は、金属又はケイ素原子を含むアルコキシドをSiO2換算した質量比で、水溶性高分子/金属アルコキシド=15/85~85/15が好ましい。なお、SiO2換算した質量比とは、金属アルコキシドに含まれるケイ素原子のモル数からSiO2質量に換算したものであり、水溶性高分子/金属又はケイ素原子を含むアルコキシド(質量比)で表される。
【0092】
トップコート層の厚みは、積層体の酸素バリア性の観点から、200nm以上600nm以下が好ましく、350nm以上500nm以下がより好ましい。トップコート層の厚みが200nm以上の場合、M層のピンホールやクラックを十分に埋めることができ、優れた酸素バリア機能が発現する。一方、トップコート層の厚みが600nm以下であることにより、厚みが大きいことによるクラックや、硬化不足による酸素バリア性の低下を軽減できる。
【0093】
本発明の積層体は、温度23℃、相対湿度90%で測定される酸素透過率が0.50cc/m2/day以下であることが好ましい。このような態様とすることで、積層体を例えば食品包装用に用いる際、酸化劣化の軽減により内容物の長期保存が可能となる。上記観点から、酸素透過率は0.30cc/m2/day以下であることがより好ましい。酸素透過率は小さければ小さいほど好ましく、その下限は特に限定されないが、実質的には0.01cc/m2/day程度である。なお、酸素透過率はJIS K 7126-2(2006)の等圧法により測定することができ、その詳細な条件等は実施例に示す。
【0094】
酸素透過率を0.50cc/m2/day以下もしくは上記の好ましい範囲内に制御する上では、トップコート層を形成することや、その架橋密度を大きくすることが特に効果的である。その具体的な方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、トップコート層の材料設計として前述した好ましいものを採択した上で、トップコートの乾燥温度を115℃以上、より好ましくは125℃以上とする方法が挙げられる。
【0095】
また、本発明の積層体は、主配向軸方向の厚み偏差が2.5%以下であることが好ましい。かかる態様とすることで、本発明の積層体の物性や外観がより均一かつ良好なものとなるため、例えば包装材料用として用いる際、最終製品の収率を高くすることが容易となる。上記観点から、主配向軸方向の厚み偏差は、より好ましくは2.2%以下、さらに好ましくは1.9%以下である。主配向軸方向の厚み偏差は、上記観点からは小さいほど好ましく特に下限は制限されないが、実現可能性の観点から0.2%が下限となる。
【0096】
従来のポリプロピレン系樹脂フィルムは耐熱性が十分でなく、前述したように酸素バリア性向上のためにトップコートを形成する際の乾燥温度を高くすると、厚み偏差が2.5%より大きくなってしまう傾向にあった。それに対し主配向軸方向の厚み偏差を2.5%以下に調整する上では、トップコート乾燥時の熱によるポリプロピレン系樹脂フィルムの収縮を抑制できるような設計とすることが特に効果的である。その具体的な方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの樹脂組成や延伸条件を調節する方法が挙げられる。
【0097】
より具体的には、ポリプロピレン系樹脂フィルムの内層(後述のC層)が、MFR1.0g/10min以上4.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂を50質量%以上90質量%以下含み、かつ、MFR4.2g/10min以上10.0g/10min以下のポリプロピレン系樹脂を5質量%以上50質量%以下含むようにする方法、縦延伸工程でフィルム長手方向に5.5%以上の加熱弛緩処理を施す方法、横延伸工程の熱処理を3段階で行い、第1熱処理温度を150℃以上170℃以下、第2熱処理温度を115℃以上135℃以下、第3熱処理温度を150℃以上170℃以下とする方法、ワインダーの表面処理ロールのドローを98.0%以上100.0%以下、より好ましくは98.0%以上98.4%以下とする方法等が挙げられる。また、積層体にトップコート層を設ける場合は、その乾燥温度を、主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度に対し、+10℃以下とする方法も挙げられる。なお、これらの方法は全て必須ということではなく、適宜組み合わせて用いることができる。
【0098】
以下、具体例を挙げて本発明の積層体の製造方法について説明するが、本発明の積層体は当該製造方法によるものに限定されない。
【0099】
まず、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製造方法を示す。まず、溶融したポリプロピレン系樹脂もしくはポリプロピレン系樹脂組成物を支持体上に溶融押出して未延伸ポリプロピレンフィルムとする。次いで、この未延伸ポリプロピレンフィルムを長手方向に延伸し、次いで幅方向に延伸して、逐次二軸延伸せしめる。その後、熱処理及び弛緩処理を施して二軸配向ポリプロピレンフィルムを製造する。以下、より具体的に説明するが、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム及びその製造方法は、必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
【0100】
まず、ポリプロピレン系樹脂フィルムを単層構成とする場合は、原料となるポリプロピレン系樹脂(単一もしくは混合物)を、押出温度220℃~280℃、好ましくは230℃~270℃に設定した単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルターを通過させて異物等を取り除く。続いてこの溶融樹脂200℃~260℃、より好ましくは210℃~240℃の温度でスリット状口金から押し出す。
【0101】
一方、ポリプロピレン系樹脂フィルムを2層以上の積層構成とする場合は、各層の原料となるポリプロピレン系樹脂(それぞれ、単一もしくは混合物)を、押出温度220℃~280℃、好ましくは230℃~270℃に設定した別々の単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルターを通過させて異物等を取り除いた後、これらの溶融樹脂を、所望の層構成(例えば3層の場合、未延伸のA層をA、未延伸のB層をB、未延伸のC層をCとすると、A/C/B)となるように、フィードブロック等で合流させる。続いて、200℃~260℃、より好ましくは210℃~240℃の温度でスリット状口金から押し出す。
【0102】
次に、スリット状口金から押し出された溶融樹脂シートを、表面温度が10℃~40℃に制御されたキャスティングドラム(冷却ドラム)上で冷却固化させ、未延伸ポリプロピレンフィルムを得る。溶融樹脂シートのキャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法、エアーチャンバー法等のうちいずれの手法を用いてもよく、また複数の方法を組み合わせてもよいが、フィルムの平面性を良好にでき、かつ表面粗さを制御することが可能なエアーナイフ法が好ましい。また、エアーナイフ法を用いる場合、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
【0103】
キャスティングドラムの表面温度は、積層体のSpk1を10nm以上100nm以下に制御する観点から、好ましくは10℃~30℃、より好ましくは10℃~27℃、さらに好ましくは10℃~24℃である。かかる温度範囲とすることで、未延伸ポリプロピレンフィルムの特にドラム面側(M層を形成する側)の表層部分のメゾ相分率を高め、該未延伸ポリプロピレンフィルムがメゾ相構造を有するようにすることができる。
【0104】
メゾ相とは、結晶と非晶の中間相であり、溶融状態から非常に速い冷却速度で固化させた際に特異的に生成する相である。一般的にポリプロピレン系樹脂を冷却固化させると、結晶化して球晶が成長することが知られているが、このように球晶が生じた未延伸ポリプロピレンフィルムを延伸すると、球晶内部や球晶間の結晶と非晶の間などで延伸応力に差が生じ、局所的な延伸斑が発生して厚み斑や構造斑に繋がると考えられる。一方、メゾ相は球晶形態をとらないため、延伸斑を生じさせない。そのため、メゾ相構造が形成されると延伸均一性が高くなり、フィルムとしたときの厚みをより均一に制御し、かつ表面粗さをより小さくかつ均一に制御することができる。また、未延伸フィルムが球晶構造を有さない場合、長手方向への延伸(縦延伸)を行う際の温度を、球晶を有する未延伸プロピレンフィルムよりも低くすることができる。
【0105】
また、積層体のSpk2を好適に制御する観点から、キャスティングドラムでの冷却を2段階で行うことも好ましい(この場合、前述のキャスティングドラムを第1のキャスティングドラムとする。)。キャスティングドラムでの冷却を2段階で行う場合、第1のキャスティングドラムでの冷却後、積層体のSpk2を10nm以上150nm以下に制御する観点から、更に30℃以下かつ第1のキャスティングドラムよりも2℃以上、より好ましくは4℃以上低い温度に保った第2のキャスティングドラムに、未延伸シートの反対面(第1のキャスティングドラムと接していたのとは反対側の表面)を接触させて冷却する工程も好ましく採択される。なお、第2のキャスティングドラムにおいても、第1のキャスティングドラムにおいて用いることができる方法から適宜選択して未延伸フィルムをキャスティングドラムに密着させることができるが、フィルムが溶融状態ではないことから、いずれの方法も用いない態様であってもよい。
【0106】
次に、未延伸ポリプロピレンフィルムを二軸延伸し、二軸配向せしめる。まず、未延伸ポリプロピレンフィルムを、下限が好ましくは135℃、より好ましくは140℃、さらに好ましくは145℃、上限が好ましくは160℃、より好ましくは157℃、さらに好ましくは154℃に保たれたロール間に通して予熱する。引き続き該未延伸ポリプロピレンフィルムを、下限が好ましくは100℃、より好ましくは110℃、上限が好ましくは145℃の温度範囲に保ち、長手方向に4.1倍以上8.0倍以下、好ましくは4.3倍以上7.0倍以下、より好ましくは4.5倍以上6.0倍以下、さらに好ましくは4.8倍以上5.5倍以下の延伸倍率で縦延伸する。
【0107】
続いて、得られたフィルムを、下限が好ましくは50℃、より好ましくは60℃、上限が好ましくは90℃、より好ましくは80℃に保たれたロール間に通して冷却する。その後、下限が好ましくは70℃、より好ましくは80℃、上限が好ましくは140℃、より好ましくは130℃に保たれたロール間にフィルムを通し、ロールの周速差を利用してフィルムに下限が好ましくは4.0%、より好ましくは5.5%、さらに好ましくは5.8%、特に好ましくは6.1%であり、上限が好ましくは15%、より好ましくは13%、さらに好ましくは12%、特に好ましくは10%である加熱弛緩処理を施した後、室温まで冷却して一軸配向フィルムを得る。前記したような高い比率の加熱弛緩処理を施すことで、縦延伸で長手方向に強く配向した分子鎖を残しつつ、一部の拘束力が弱い分子鎖の歪みのみを効率良く取り除くことができる。その結果、本発明の積層体の熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度を90℃以上に制御しやすくなる。
【0108】
次いで一軸配向フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、フィルムの幅方向両端部をクリップで把持したまま幅方向へ延伸(横延伸)する。その際の温度(幅方向の延伸温度)は155~175℃、好ましくは162~172℃である。また、幅方向の延伸倍率は7.5倍以上20.0倍以下とするのが好ましく、より好ましくは8.5倍以上16.0倍以下、さらに好ましくは9.5倍以上12.0倍以下である。幅方向の延伸倍率を8.0倍以上とすることで、長手方向の高い配向状態を保ったまま幅方向にも高い配向を付与し、面内の分子鎖緊張を高めることができる。その結果、耐熱性を高めることができる。また、幅方向の延伸倍率を20.0倍以下とすることで、製膜時のフィルム破れを防ぎ、生産性を良好なものとすることができる。
【0109】
横延伸後は、熱処理及び幅方向への弛緩処理を施すことが好ましい。本発明においては、テンターのクリップで幅方向両端部を緊張把持したまま多段熱処理を行い、その中の第2段階において幅方向への弛緩処理を施すことが好ましい。具体的には、第1熱処理として弛緩を与えずに150℃以上170℃以下の熱処理を施した後、第2熱処理として幅方向に5.0%以上20%以下の弛緩を与えながら115℃以上135℃以下(好ましくは115℃以上130℃以下)の熱処理を施し、更に第3熱処理として弛緩を与えずに150℃以上170℃以下の熱処理を施すことが好ましい。
【0110】
かかる熱処理及び弛緩処理を施すことで、フィルム長手方向、幅方向ともに、高温環境下において高い強度を実現するために必要な高い分子鎖配向を維持したまま、熱収縮の原因となるような余分な残存歪みのみを効率よく低減することができる。そのため、このような熱処理、弛緩処理を行って得られたポリプロピレン系樹脂フィルムを用いることにより、TMAにより測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度が90℃以上である積層体とすることが容易になる上、主配向軸方向の厚みムラを小さくすることもできる。
【0111】
弛緩処理においては、フィルムの熱に対する構造安定性を高める観点から、弛緩率の下限を5%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、10%とすることがさらに好ましい。また、上限を20%とすることが好ましく、18%とすることがより好ましく、17%とすることがさらに好ましく、15%とすることが特に好ましい。上記熱処理条件のもと、弛緩率を5%以上とすることで、フィルムの幅方向だけでなく長手方向の熱収縮応力も効率よく抑制することができ、積層体としたときに、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa収縮応力発生開始温度を90℃以上とすることが容易になる。一方、弛緩率を20%以下とすることにより、テンター内部でのフィルムの弛みが抑えられる結果、製膜後のフィルムにシワが発生しにくくなり、さらに機械特性の低下や蒸着時のムラも軽減される。
【0112】
熱処理、弛緩処理後、クリップで幅方向両端部を引き続き緊張把持したまま、100℃~145℃の冷却工程を経てテンターの外側へ導き、幅方向両端部のクリップを解放する。かかる冷却工程を経ることで、熱処理では除去しきれなかったフィルム中の歪みを除去し、高温環境下での熱収縮をより一層抑制することができる。
【0113】
上記の冷却工程を経た後は、ワインダー工程にてフィルム幅方向両側のエッジ部をスリットする。その後、M層を積層する面(通常はキャストドラムと接していた側の表面、キャストドラムが複数ある場合は溶融ポリマーが最初に触れるキャストドラムと接していた側の表面)に対し、M層の剥離力を高くすることを目的として、インラインでの表面改質処理を施すことが好ましい。インラインでの表面改質処理としては、例えば、大気中、もしくは酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、シランガスあるいはこれらの混合物の雰囲気ガス中でのコロナ放電処理、もしくはプラズマ処理、イオンビーム処理等が挙げられる。
【0114】
表面処理に伴う樹脂の劣化を軽減する観点から、表面処理は酸素濃度を抑えた環境下で行うことが好ましく、具体的には酸素濃度を500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは38ppmに厳格に制御して行うことが好ましい。雰囲気ガスとしては、特に窒素ガス、炭酸ガスあるいはこれらの混合物を採択することが効果的である。両者を混合する場合は炭酸ガスの比率を20体積%以上、より好ましくは30体積%以上とすると、表面処理強度を小さくしても極性基を効率よく導入できるようになる結果、表面処理時の分子鎖切断が抑制され、M層の剥離モードを凝集破壊とすることが容易になるため好ましい。
【0115】
また、ワインダー内の表面処理を行うロールにおいては、長手方向のドローを98.0%以上100.5%以下とすることが好ましく、より好ましくは98.0%以上100.0%以下、さらに好ましくは98.0%以上98.4%以下である。かかるドロー設定とすることで、官能基導入効率が大きく向上し、前述したような分子鎖切断抑制に有利な低強度の表面処理としつつも、官能基を効率よく付与することが容易になる。更に、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度が90℃以上又は上記の好ましい範囲の積層体とすることも容易になる。
【0116】
こうして得られたフィルムをロール状に巻き取って、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムを得ることができる。
【0117】
続いて、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に、M層を積層して積層体とする方法を説明する。
【0118】
本発明の積層体を構成するM層は、気相成膜法で製造することができる。M層の成膜には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などの公知の方法を用いることができるが、特に、生産性よく高速で成膜できる点から、真空蒸着法を用いることが好ましい。真空蒸着法により金属原料を蒸発させる方法としては、電子線(EB)蒸着法、抵抗加熱法、誘導加熱法などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0119】
M層を金属酸化物の層とする場合、製造方法としては、酸化物を直接蒸発させる方法の他、前記方法で金属の蒸発量を調整した上で、蒸発ガス中に酸素を導入して酸素量や膜質を制御した金属酸化物層を得る方法が挙げられる。導入するガスとしては、酸素を含んでいれば、膜質制御のために他のガスとして不活性ガス等を含んでいても構わない。例として、酸化アルミニウム層を得る場合には、アルミニウムを蒸発させて、酸素を導入する方法が挙げられる。酸素を含むガスを導入して金属酸化物層を形成する場合、蒸発源直上より酸素を導入することが好ましい。蒸発源直上とは蒸発源とメインドラム中心を結んだ直線上に酸素ガス導入管があることをいう。前記位置からメインドラム方向に向かって酸素を拡散させながら導入すると、金属蒸気と酸素が均一に混合しやすく、安定して酸化膜を得ることができる。そのため、金属酸化物層全域が膜質良好となり、得られる積層体の水蒸気バリア性、酸素バリア性が向上する。蒸着のメインロールは、フィルムの熱負けを防止するために冷却することが好ましく、その温度は、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下である。
【0120】
ポリプロピレン系樹脂フィルムにM層を積層した後、さらにトップコート層を形成することができる。トップコート層をM層上に塗工する方法(方式)としては、ダイレクトグラビア方式や、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。トップコート層が有機無機混合物を含む場合、該層に含まれる金属アルコキシドは、熱によって重縮合反応が進行し、強固な膜となってバリア性を向上させることができる。従って、有機無機混合物層の反応をより進行させるために、得られた積層体をさらに熱処理することもできる。
【実施例0121】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下に示す態様に限定されない。なお、各項目の評価は以下の方法により行った。
【0122】
[特性値の測定方法、効果の評価方法]
本発明における特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次の通りである。
【0123】
(1)突出山部高さSpk1、Spk2、及び最大高さSz
積層体のM層表面の突出山部高さSpk1、Spk2、及び最大高さSzの測定は、三次元非接触表面形状の測定器である、(株)日立ハイテクサイエンスの走査型白色干渉顕微鏡VS1540を使用して行った。また、解析においては付属の解析ソフトにより、撮影画面を多項式4次近似面補正にてうねり成分を除去し、次いでメジアン(3×3)フィルターにて処理後、補間処理(高さデータの取得ができなかった画素に対し周囲の画素より算出した高さデータで補う処理)を行った。測定装置、ソフトウェア、測定条件は下記の通りとした。
<測定装置>
走査型白色干渉顕微鏡VS1540(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
<解析ソフトウェア>
ソフトウェア:VS-Measure Version10.0.4.0
解析ソフトフェア:VS-Viewer Version10.0.3.0
<測定条件>
対物レンズ 10×
鏡筒 1×
ズームレンズ 1×
波長フィルター 530nm white
測定モード:Wave
測定面積:0.561×0.561mm2。
【0124】
(2)主配向軸とフィルム面内で直交する方向の100℃のF5値
<積層体の主配向軸を定める方法>
まず、積層体の主配向軸を定める方法を示す。積層体を準備し、任意の方向を上に向けて、長さ50mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプル<1>とした。この際、矩形のサンプル<1>の長辺が向く方向を0°と定義した。次に、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取した。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、同様にサンプル<3>~<12>を採取した。次に、各矩形のサンプルを引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)に、長辺方向が引っ張り方向となるように初期チャック間距離20mmでセットし、23℃65%RHの雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行い、サンプルが破断するまでの最大荷重を読み取った。その後、得られた最大荷重値を試験前の試料の断面積(厚み×幅(10mm))で除した値を最大点強度の応力として算出した。各サンプルについて同様の測定を5回ずつ行って最大点強度の応力の平均値を求め、当該平均値が最大であったサンプルの長辺方向を積層体の主配向軸とし、これにフィルム面内で直交する方向を積層体の主配向軸と直交する方向とした。
【0125】
<主配向軸とフィルム面内で直交する方向における100℃のF5値の測定、算出方法>
サンプルとして、前述のように定めた主配向軸とフィルム面内で直交する方向を長辺方向として切り出した長方形の積層体(幅(短辺)10mm×長さ(長辺)150mm)を用いた。次に、サンプル引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)に、初期チャック間距離20mmでセットし、100℃の雰囲気下で引張速度を300mm/分としてフィルムの引張試験を行った。この際、試料の中心がチャック間の中央近傍に来るように試料の長辺方向の位置を調整した。また、サンプル伸び5%時にフィルムにかかっていた荷重を読み取り、試験前のサンプルの断面積(厚み×幅(10mm))で除した値を、伸度5%時の応力(F5値、単位:MPa)として算出した。測定は5回行い、その算術平均値として、主配向軸と直交する方向における100℃のF5値を求めた。
【0126】
(3)積層体の厚み
本発明の積層体(ポリプロピレン系樹脂フィルムにM層、あるいはM層とトップコート層が設けられた積層体)について、任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で、接触式のアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。その10箇所の厚みの算術平均値を積層体の厚み(単位:μm)とした。なお、本測定法により得られる厚みの精度(単位:μm)は小数第1位までであり、算術平均に当たっては小数第1位を四捨五入した。
【0127】
(4)積層体の強度X
(3)で測定した積層体の厚み(単位:μm)に、(2)で測定した積層体の主配向軸とフィルム面内で直交する方向のF5値(単位:MPa)を掛けることにより、積層体の強度X(単位:N/m)を算出した。
【0128】
(5)静止摩擦係数μs
積層体を幅6.5cm、長さ12cmに切り出し、東洋精機(株)製スリップテスターを用いて、JIS K 7125(1999)に準じて、25℃、65%RHにて測定した。なお、測定は主配向とフィルム面内で直交する方向同士で、かつ、異なる面同士(積層体のM層表面と、M層と相対する面同士)を重ねて、すなわち、一方のフィルムの表面と他方のフィルムの裏面とが接するように重ねて行った。同じ測定を一つのサンプルにつき5回行い、得られた値の平均値を算出し、当該サンプルの静止摩擦係数(μs)とした。
【0129】
(6)M層の厚みd
本発明の積層体を構成するM層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)により断面観察を行うことで測定した。断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB-2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)作製した。続いて、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H-9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、任意の10箇所についてM層の厚みを確認した。それらの算術平均値をM層の厚みd(単位:nm)とした。
【0130】
(7)M層とポリプロピレン系樹脂フィルムの剥離力(M層の剥離力)
DICグラフィックス株式会社製接着剤ディックドライLX-500(接着剤の主剤)、KW-75(硬化剤)、及び酢酸エチル溶剤を10:1:30(質量比)で室温にて攪拌しながら混合し、塗液を得た。その後、積層体のM層、あるいはM層とトップコート層を積層した側の面に、得られた塗液をバーコーターで厚さ2μmになるように塗布した。次いで、85℃に設定した熱風オーブンで塗液を乾燥させ、厚さ20μmのポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製 二軸延伸ポリプロピレンフィルムFOR)をラミネートした。得られたラミネート体を40℃で48時間エージングした後、幅15mmにカットしてサンプルを取得し、以下の測定装置及び条件で剥離力を測定した。なお、測定は、両面テープ(日東電工株式会社製両面テープNo.532 テープ厚0.08mm)により、サンプルの蒸着基材側を厚さ1.5mmのSUS板に貼り合わせてエアチャックで固定し、貼り合わせたポリプロピレンフィルムをもう一方のエアチャックで固定して、ポリプロピレンフィルム側を引っ張ることにより行った。なお、剥離においてはM層の表面にポリプロピレン系樹脂フィルムの表層が付着する場合があるが、その場合もM層が剥離したものと見なして、得られた測定値をM層の剥離力として扱った。
<測定装置>
株式会社エー・アンド・デイ製“テンシロン”(登録商標)万能材料試験機RTG-1210
<測定条件>
ロードセル:50N
剥離角度:180°
剥離速度:50mm/min
測定環境:室温23℃湿度50%。
【0131】
(8)M層とポリプロピレン系樹脂フィルムのWet剥離力(M層のWet剥離力)
剥離力の測定時に、測定部位に水を染みこませた綿棒を接触させ、湿潤状態で測定した以外は、(7)と同様の方法によりM層のWet剥離力を測定した。
【0132】
(9)M層を剥離した際の剥離モード
(7)に記載の方法で積層体のM層を剥離後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察倍率140倍でM層側の表面を観察し、撮像した。その後、公知の方法を用いて画像の2値化処理を行い、M層に含まれる金属元素以外の元素を主成分とする付着物の面積率を算出した。当該面積率が画像全体の10%以上であれば剥離モードは凝集破壊、10%未満であれば剥離モードは界面剥離と判定した。なお、元素分析にあたっては、エネルギー分散型X線分析(EDX)等の公知の方法を用いた。
【0133】
(10)ポリプロピレン系樹脂フィルムのM層を積層する面の表面自由エネルギー
まず、ポリプロピレン系樹脂フィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後した。その後、同雰囲気下で、M層を積層する面(A層表面)に対して、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の溶液のそれぞれの接触角を、接触角計CA-D型(協和界面科学(株)社製)により、それぞれ5点測定した。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値をそれぞれの溶液の接触角とした。
【0134】
次に、得られた4種類の溶液の接触角を用いて、畑らによって提案された「固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γS
d)、極性力成分(γS
p)、および水素結合力成分(γS
h)の3成分に分離し、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により、本発明の分散力、極性力、及び分散力と極性力の和である表面自由エネルギーを算出した。
【0135】
以下に具体的な算出方法を示す。各記号の意味について下記する。γS
Lは固体と液体の界面での張力である場合、数式(1)が成立する。
γS
L : 樹脂層と表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γS : 樹脂層の表面自由エネルギー
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γS
d : 樹脂層の表面自由エネルギーの分散力成分
γS
p : 樹脂層の表面自由エネルギーの極性力成分
γS
h : 樹脂層の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γL
d : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの分散力成分
γL
p : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの極性力成分
γL
h : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γS
L=γS+γL-2(γS
d・γL
d)1/2-2(γS
p・γL
p)1/2-2(γS
h・γL
h)1/2 ・・・ 数式(1)。
【0136】
【0137】
(11)A層における分子量1500以上10000以下の成分量
本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムのA層部分からミクロトームで100mgの試料片を切り出したのち、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒として165℃で30分間攪拌し、試料片を溶解させた。続いて、孔径0.5μmの焼結フィルタを用いて加熱濾過し、ろ液中に含まれる試料成分の分子量分布を下記の装置及び条件により測定した。なお、分子量の検量線は下記の標準試料を用いて作成した。その後、得られた分子量分布のデータから、全構成成分を100質量%とした際、分子量1500以上10000以下の成分が占める割合(質量%)を算出した。
・装置:Agilent社製高温GPC装置PL-GPC220
・検出器:Agilent社製示差屈折率検出器(RI検出器)
・カラム:Agilent製PL1110-6200(20μm MIXED-A)×2本
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:140℃
・注入量:0.300mL
・試料濃度:1mg/mL
・標準試料:東ソー製単分散ポリスチレン、東京化成製ジベンジル。
【0138】
(12)融解ピーク温度
試料として、本発明の積層体もしくはポリプロピレン系樹脂原料を用いた。示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgの試料を30℃から260℃まで、昇温速度20℃/分で昇温することで1st Runのカーブを得た。次いで、260℃で5分間保持した後、20℃/分の条件で30℃まで降温した。さらに、30℃で5分間保持した後、30℃から260℃まで20℃/分の条件で再昇温することで2nd Runのカーブを得た。試料として積層体を用いた場合は、1st Runの吸熱カーブの融解ピーク温度、及び1st Runと2nd Runそれぞれの吸熱カーブの融解ピーク温度差を読み取った。試料としてポリプロピレン系樹脂原料を用いた場合は、2nd Runの吸熱カーブの融解ピーク温度を読み取り、それを当該原料の融点とした。なお複数のピーク温度が観測できる場合には最も高温の温度を読み取った。
【0139】
(13)ポリプロピレン系樹脂フィルムのM層を積層する面のO元素とN元素の比率の合計
ポリプロピレン系樹脂フィルムのM層を積層する面(A層表面)について、X線光電子分光法(XPS)により最表層及び深さ5nmにおける元素組成を分析した。XPSの測定条件ならびにデータ処理方法は以下に示す通りとした。
<測定装置>
ESCALAB220iXL(VG Scientific社製)
<測定条件>
励起X線:monochromaticAL Kα1,2線(1486.6eV)
X線径:1mm
光電子脱出角度:90℃(試料表面に対する検出器の傾き)
イオンエッチング条件:Arガスクラスターイオン(Ar-GCIB) 10kV
イオンエッチング速度:1.8mm/min(PET換算)、3.5mm/min(LDPE換算)
<データ処理方法>
スムージング:11-point smoothing
横軸補正:C1sメインピーク(CHx, C-C)を284.6eVとした。
【0140】
(14)主配向軸とフィルム面内で直交する方向の0.1MPa応力発生開始温度
積層体を、前述のように定めた「主配向軸」方向を長辺として幅4mm、長さ50mmの長方形の試料に切り出し、試長20mmとなるよう金属製チャックに挟み込んだ。その後に下記の熱機械分析装置にセットし、下記温度条件、荷重条件にて試長を一定保持した積層体における主配向軸方向の熱収縮応力曲線を得た。熱収縮応力曲線において25℃に最も近い温度における収縮応力値をゼロ点として補正した上で、熱収縮応力が0.1MPaを超える最小の温度を読み取った。
<熱機械分析装置>
TMA/SS6000(セイコーインスツルメント(株)製)
<温度条件>
温度範囲:23~200℃
昇温速度:10℃/分
保持:10分
サンプリング時間:10秒/回
窒素冷却:なし
<荷重条件>
制御モード :L
待機中上限変位 :0μm
スタート変位 :0μm
荷重レート :0.1μm/分
保持 :600分
測定雰囲気 :窒素中
測定厚み :上記(4)の積層体厚みを用いた。
【0141】
(15)水蒸気透過率
本発明の積層体について、JIS K 7129-2(2019)のB法に従い、MOCON/Modern Controls社製の水蒸気透過率測定装置“PERMATRAN-W”(登録商標)3/31を用いて、積層体の金属又は金属酸化物の層(M層)を積層していない面から水蒸気を透過させるように設定し、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、得られた4つの測定値の平均値を算出し、該サンプルの水蒸気透過率とした(単位:g/m2/day)。
【0142】
(16)加熱処理後の水蒸気バリア性維持
本発明の積層体からA4サイズのカットシートを切り出したものを測定試料とし、(15)に記載の方法により測定される初期の水蒸気透過率をW0(g/m2/day)、熱風オーブンでカットシートがフリーの状態(すなわち、荷重をかけたり金枠に固定したりしていない状態)で130℃×1分の加熱処理を施した後の水蒸気透過率をW1(g/m2/day)として、以下の評価基準により、加熱処理後の水蒸気バリア性維持の優劣を判定した。○以上を良好、△は実用上問題ないレベルと判定した。なお、本評価法は積層体にトップコートを塗工した後の水蒸気バリア性維持の程度につき、簡易的に評価するためのものである。
<評価基準>
◎:W1/W0≦1.2
○:1.2<W1/W0≦1.5
△:1.5<W1/W0≦2.0
×:2.0<W1/W0。
【0143】
(17)プレス処理後の水蒸気バリア性維持
本発明の積層体からA4サイズのカットシートを切り出したものを測定試料とし、(15)に記載の方法により測定される初期の水蒸気透過率をW0(g/m2/day)とした。また、前記カットシートをM層側がすべて上を向くように30枚重ね合わせ、10kgf/cm2の圧力で10秒間プレス処理した後、上から15枚目のカットシートを取り出し水蒸気透過率を測定した際の値をW2(g/m2/day)とした。以下の評価基準により、プレス処理後の水蒸気バリア性維持の優劣を判定した。○以上を良好、△は実用上問題ないレベルと判定した。なお、本評価法は積層体をロール状態で長期保管した際の水蒸気バリア性維持の程度につき、簡易的に評価するためのものである。
◎:W2/W0≦1.2
○:1.2<W2/W0≦1.5
△:1.5<W2/W0≦2.0
×:2.0<W2/W0。
【0144】
(18)酸素透過率
本発明の積層体について、JIS K 7126-2(2006)の等圧法に従い、MOCON/Modern Controls社製の酸素透過率測定装置“OXTRAN”(登録商標)2/20を用いて、積層体の無機酸化物を積層していない面から酸素を透過させるように設定し、温度23℃、湿度90%RHの条件で酸素透過率を測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、得られた4つの測定値の平均値を算出し、該サンプルの酸素透過率とした(単位:cc/m2/day)。
【0145】
(19)主配向軸方向の厚み偏差
本発明の積層体(ポリプロピレン系樹脂フィルムにM層、あるいはM層とトップコート層が設けられた積層体)から、長手方向50mm、幅方向1000mmの短冊状のサンプルを切り出し、(株)山文電気製の卓上型オフライン接触式厚み計測装置「TOF-4R05」を用いて幅方向(全幅)の厚みを連続的に測定した。得られた厚みプロファイルの中で最も厚みの大きい点を最大厚み(TMAX)、最も厚みの小さい点を最小厚み(TMIN)、全体の相加平均を全平均厚み(TAVERAGE)とし、下記式により厚み偏差を算出した。
厚み偏差=(TMAX-TMIN)/TAVERAGE×100。
【0146】
[各実施例、各比較例のポリプロピレンフィルムの製造に用いた成分]
各実施例、各比較例の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製造には、以下の成分を使用した。
【0147】
(A層用ポリプロピレン系樹脂)
A1:ホモポリプロピレン系樹脂(荷重たわみ温度:91℃、ビカット軟化温度:152℃、融点:155℃、MFR=3.0g/10min、分子量1500以上10000以下の成分量:3.1%)
A2:ホモポリプロピレン系樹脂(荷重たわみ温度:97℃、ビカット軟化温度:156℃、融点:158℃、MFR=3.0g/10min、分子量1500以上10000以下の成分量:2.8%)
A3:ホモポリプロピレン系樹脂(荷重たわみ温度:101℃、ビカット軟化温度:160℃、融点:163℃、MFR=3.5g/10min、分子量1500以上10000以下の成分量:3.6%)
A4:エチレン-プロピレン共重合体(荷重たわみ温度:94℃、ビカット軟化温度:154℃、エチレン含有量1.0%、融点:158℃、MFR=3.0g/min、分子量1500以上10000以下の成分量:2.7%)
A5:ホモポリプロピレン系樹脂(荷重たわみ温度:96℃、ビカット軟化温度:155℃、融点:158℃、MFR=3.0g/10min、分子量1500以上10000以下の成分量:2.2%)。
なお、ここでいう荷重たわみ温度はJIS K7191-2:2015により、ビカット軟化温度はJIS K7206:2016により測定した値とする。
【0148】
(A層用マスターバッチ、及びポリプロピレン系樹脂以外の樹脂)
ポリメチルペンテン系樹脂1:三井化学(株)製“TPX”(登録商標)(RT31、融点:235℃、MFR:21g/10min@260℃)
AM1:A1(90質量部)、ポリメチルペンテン系樹脂1(10質量部)、酸化防止剤(0.1質量部)を260℃に設定した押出機で混練押出した後、ストランドを水冷後チップ化することにより作製したマスターバッチ。
【0149】
(B層用ポリプロピレン系樹脂)
B1:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:160℃、MFR=3.0g/10min)
B2:エチレン-プロピレンランダム共重合体(融点:130℃、MFR=3.0g/min)。
【0150】
(B層用マスターバッチ、及びポリプロピレン系樹脂以外の樹脂)
ポリメチルペンテン系樹脂2:三井化学(株)製“TPX”(登録商標)(DX845、融点:232℃、MFR:9g/10min@260℃)
BM1:B1(90質量部)、ポリメチルペンテン系樹脂2(10質量部)、酸化防止剤(0.1質量部)を260℃に設定した押出機で混練押出した後、ストランドを水冷後チップ化することにより作製したマスターバッチ。
【0151】
(C層用ポリプロピレン系樹脂)
C1:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:164℃、MFR=3.0g/10min)
C2:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:162℃、MFR=4.5g/10min)
C3:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:163℃、MFR=7.5g/10min)
C4:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:158℃、MFR=3.0g/10min)
【0152】
(石油樹脂、及びマスターバッチ)
石油樹脂1:T-REZ HA125(ENEOS製、軟化点125℃)
CM1:C1(70質量部)、石油樹脂1(30質量部)、酸化防止剤(0.1質量部)を240℃に設定した押出機で混練押出した後、ストランドを水冷後チップ化することにより作製したマスターバッチ。
【0153】
(粒子、添加剤等)
P1:シリカ粒子(電気化学工業製「SFP-20MHE」、平均粒径300nm)。
【0154】
(実施例1)
A層用のポリプロピレン系樹脂原料として、A1、AM1を質量比が70:30となるように混合したものを用いた。また、B層用の原料として、B1、BM1を質量比が75:25となるように混合したものを用いた。さらに、C層用の原料として、C1、C2を質量比が67:33となるように混合したものを用いた。各層の原料を別々の単軸押出機である押出機(A)、押出機(B)、押出機(C)にそれぞれ供給して260℃で溶融押出を行い、80μmカットの焼結フィルターで異物を除去した後、250℃に設定した配管を通過させた。その後、フィードブロックを用いてa/c/bの3層積層(未延伸のA層がa、未延伸のC層がc、未延伸のB層がb)で積層比が1/10/1となるよう押出量を調節し、その溶融積層ポリマーを240℃に設定したT型スリットダイより吐出させた。その後、吐出させた溶融シートを23℃に保持された第1のキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させて冷却固化し、引き続き第1のキャスティングドラムと接していたのとは反対側の面を19℃に保持された第2のキャスティングドラムに接触させて冷却して、未延伸シートを得た。
【0155】
次に、該未延伸シートを複数のロール群にて段階的に145℃まで予熱した後、周速差を設けたロール間に通し、140℃で長手方向に倍率4.8倍で延伸した。続いて、延伸後のフィルムを70℃に保たれたロール間に通して冷却した後、再度、90℃に保たれたロール間に通し、ロール周速差を利用して長手方向に6.5%の弛緩処理を施した後、室温まで冷却して一軸配向フィルムを得た。
【0156】
さらに、得られた一軸配向フィルムをテンターに導き、その幅方向両端部をクリップで把持したまま165℃で幅方向に9.5倍延伸した後、第1熱処理として弛緩を与えずに162℃、第2熱処理として幅方向に12%の弛緩を与えながら122℃、第3熱処理として弛緩を与えずに153℃でそれぞれ熱処理を行った。その後、クリップで幅方向両端部を引き続き緊張把持したまま、100℃の冷却工程を経てフィルムをテンターの外側へ導き、フィルム幅方向両端部のクリップを解放した。
【0157】
次いでフィルム表面(第1のキャスティングドラム接触面側)に18W・分/m2の処理強度で、窒素ガスと炭酸ガスを67:33の体積比で混合し、かつ酸素を厳格に遮断した雰囲気下でコロナ放電処理を行った。処理中の酸素濃度の測定値は35ppmであった。また表面処理ロールのドローは98.5%とした。このようにして得られた厚み12μmのポリプロピレン系樹脂フィルムをロールとして巻き取った。
【0158】
続いて、フィルム走行装置を具備した真空蒸着装置内に上記のポリプロピレン系樹脂フィルムのロールをセットし、1.00×10-2Paの高減圧状態にした後に、20℃の冷却金属ドラムを介して巻き出したポリプロピレン系樹脂フィルムを走行させ、アルミニウム金属を加熱蒸発させてA層(第1のキャスティングドラム接触面側)の上に蒸着薄膜層を形成した。その際、蒸着膜が44nmになるよう制御した。蒸着後、真空蒸着装置内を常圧に戻して、巻取ったフィルムを巻き返し、40℃の温度で2日間エージングして、ポリプロピレン系樹脂フィルムにAl(アルミニウム)の蒸着層が積層された積層体を得た。
【0159】
得られた積層体の特性を表2-1に示す。
【0160】
(実施例2~6、8~11、比較例1~3)
ポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件、表面処理条件を表2-1、2-2、2-3に示す通りに変更した他は、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表2-1、2-2、2-3に示す。
【0161】
(実施例7)
ポリプロピレン系樹脂フィルムを製造し、ロールとして巻き取るところまでは、ポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件、表面処理条件を表2-1に示す通りに変更した以外、実施例1と同様に行った。その後、フィルム走行装置を具備した真空蒸着装置内にフィルムロールをセットして、1.00×10-2Paの高減圧状態にした後に、20℃の冷却金属ドラムを介して巻き出したポリプロピレン系樹脂フィルムを走行させ、酸素ガスを導入しながらAlOxを反応蒸発させてM層の上に蒸着層を形成した。その際、蒸着層が15nmになるよう制御した。蒸着後、真空蒸着装置内を常圧に戻して、巻取ったフィルムを巻き返し、40℃の温度で2日間エージングして、ポリプロピレン系樹脂フィルムにAlOx(酸化アルミニウム)の蒸着層が積層された積層体を得た。得られた積層体の特性を表2-1に示す。
【0162】
(実施例12)
まず、ポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件、表面処理条件を表2-2に示す通りに変更した他は、実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂フィルムにAl(アルミニウム)の蒸着層を積層した。続いて、以下のようにトップコート層を積層した。トップコート層は、以下の手順で調製した塗工液を以下に述べる方法で厚さ350nmになるように塗工した。ポリビニルアルコール(以下、PVAと略す。重合度1,700、けん化度98.5%)を、質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱攪拌して固形分10質量%のPVA溶液を得た。また、テトラエトキシシラン8.4gとメタノール3.3gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液13.3gを攪拌しながら液滴することでテトラエトキシシラン溶液を得た。さらに、コルコート(株)製エチルシリケート48を8.0gとメタノール12.0gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液を5.0g攪拌しながら液滴して、エチルシリケート溶液を得た。テトラエトキシシラン溶液とエチルシリケート溶液を、SiO2換算固形分重量が60/40になるように混合し、無機成分溶液を得た。その後、PVAの固形分と、無機成分溶液のSiO2換算固形分重量比が65/35になるように、PVA溶液と、無機成分溶液を混合・攪拌し、水で希釈して固形分12%の塗工液を得た。得られた塗工液をAl(アルミニウム)の蒸着層の上に塗工し、130℃で乾燥して、積層体を得た。得られた積層体の特性を表2-2に示す。
【0163】
(実施例13、14)
ポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件、表面処理条件ならびにトップコートの乾燥温度を表2-2に示す通りに変更した他は、実施例12と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表2-2に示す。
【0164】
(比較例4~8)
ポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件、表面処理条件を表2-3に示す通りに変更した他は、実施例7と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表2-3に示す。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
表中、各層の原料について1種類の原料のみが記載されている箇所は、当該層が記載された原料のみからなることを意味する。各層の原料はいずれも酸化防止剤を含むが、その量は微量であり、製造過程で一部が消失するため、組成については酸化防止剤の量は考慮せずに記載した。表面処理の雰囲気ガスについて「大気中」とある場合は表面処理時に周囲のガス組成の調整を行なかっとことを意味する。酸素透過率の評価は実施例8~14のみ実施した。
本発明の積層体は、ロール状態で長期保管した後も優れたバリア性を維持し、かつ、熱がかかる加工工程でのバリア性悪化も抑制されるため、例えば食品の包装材料用に好適に用いることができる。