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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109077
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】流電陽極材および防食方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/10 20060101AFI20240805BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20240805BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C23F13/10 A
C23F13/02 L
C23F13/02 A
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009557
(22)【出願日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2023012738
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517068704
【氏名又は名称】遠州スプリング有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 彬
(72)【発明者】
【氏名】粟屋 紘介
【テーマコード(参考)】
2E176
4K060
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB03
4K060AA02
4K060BA03
4K060BA13
4K060BA41
4K060BA43
4K060BA45
4K060EA08
4K060EB01
(57)【要約】
【課題】軸部材への装着が容易であり、軸部材に強固に固定できる流電陽極材を提供する。
【解決手段】軸部材に装着される流電陽極材100であって、軸部材の軸方向からみて第1端部T1と第2端部T2とを含み、軸部材の周方向に沿う弧状の締付部を有する装着部10Aを具備し、装着部10Aは、軸部材よりもイオン化傾向が大きい金属で形成され、第1端部T1と第2端部T2との間隔Oは、軸部材の外径より小さく、装着部10Aは、当該間隔から軸部材の外周面に装着される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材に装着される流電陽極材であって、
前記軸部材の軸方向からみて第1端部と第2端部とを含み、前記軸部材の周方向に沿う弧状の締付部を有する装着部を具備し、
前記第1端部と前記第2端部との間隔は、前記軸部材の外径より小さく、
前記装着部は、前記間隔から前記軸部材の外周面に装着される
流電陽極材。
【請求項2】
前記装着部は、
N(Nは2以上の整数)個の前記締付部と、
前記N個の締付部において相互に隣接する2個の締付部を接続するための(N-1)個の接続部とを有する
請求項1の流電陽極材。
【請求項3】
前記装着部は、
N(Nは3以上の奇数)個の前記締付部と、
((N-1)/2)個の第1接続部と、
((N-1)/2)個の第2接続部とを有し、
前記N個の締付部は、所定の間隔で前記軸方向に沿って配列し、
前記各第1接続部は、前記軸方向の一方側からk(kは奇数)番目に位置する締付部の第1端部と(k+1)番目に位置する締付部の第1端部とを接続し、
前記各第2接続部は、前記軸方向の一方側から(k+1)番目に位置する締付部の第2端部と(k+2)番目に位置する締付部の第2端部とを接続する
請求項1の流電陽極材。
【請求項4】
前記装着部は、
N(Nは2以上の偶数)個の前記締付部と、
(N/2)個の第1接続部と、
(N/2-1)個の第2接続部とを有し、
前記N個の締付部は、所定の間隔で前記軸方向に沿って配列し、
前記各第1接続部は、前記軸方向の一方側からk(kは奇数)番目に位置する締付部の第1端部と(k+1)番目に位置する締付部の第1端部とを接続し、
前記各第2接続部は、前記軸方向の一方側から(k+1)番目に位置する締付部の第2端部と(k+2)番目に位置する締付部の第2端部とを接続する
請求項1の流電陽極材。
【請求項5】
前記装着部は、一連の線材からなる
請求項1から請求項4の流電陽極材。
【請求項6】
前記装着部により前記軸部材に取り付けられる補助部材を含む
請求項1の流電陽極材。
【請求項7】
前記補助部材は、前記軸部材と前記締付部との間に取り付けられる
請求項6の流電陽極材。
【請求項8】
前記締付部は、前記軸部材とは反対側に突出し、前記補助部材の形状に応じた凸部を有する
請求項7の流電陽極材。
【請求項9】
請求項1の流電陽極材を軸状の軸部材に装着することで、当該軸部材を防食する防食方法。
【請求項10】
前記軸部材のうち流電陽極材を装着する部分の表面を研磨した上で、当該部分に当該流電陽極材を装着する
請求項9の防食方法。
【請求項11】
前記軸部材に装着した前記流電陽極材を、強アルカリ性を示す被覆材で被覆する
請求項9の防食方法。
【請求項12】
前記被覆材は、導電性を有する
請求項11の防食方法。
【請求項13】
前記軸部材が損傷している場合には、導電性を有する補修材で補修した上で、前記流電陽極材を装着する
請求項9の防食方法。
【請求項14】
請求項1の流電陽極材を装着した軸部材を防食対象である対象部材の周囲に埋設することで、当該対象部材を防食する防食方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流電陽極材の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネルにおけるNATM(New Austrian Tunneling Method)工法や斜面安定化工法においては、地盤を補強するために地盤に埋設される補強部材(例えばロックボルト等の鉄筋)が用いられている。我が国には火山が多く、為に地盤が酸性土壌である場合が多く、これら補強部材の早期腐食が懸念される。また、コンクリート構造物(例えば橋梁)に用いられる鉄筋については、海岸線に近いコンクリート構造物では、海からの飛来塩分、不完全な除塩の海砂を使用したことによる内在塩分、硬化促進剤に含まれる塩化化合物などによって、内陸部のコンクリート構造物では冬季に凍結防止剤に用いられる塩化カルシウムに起因する早期腐食が報告されている。
【0003】
従来から、新設のコンクリート構造物における補強部材の腐食対策として、例えばエポキシ塗装鉄筋やステンレス鉄筋の使用や、亜鉛メッキ処理が行われているが、これら工法は補修には適用できない。
【0004】
前述のような既設のコンクリート構造物における補強部材の腐食に対する補修方法は、塩分が含まれた部分のコンクリートをはつり出して、鉄筋を露出させ、ショットブラスト等によって錆を除去した後、防錆剤を塗布後して、コンクリートの断面を新しいセメント系モルタル等で断面修復し、周辺のコンクリート表面を複数層の塗膜で覆う防食工法が長く行われてきた。しかし、研究が進むにつれ、こうした部分的対処方法では、補強部材のマクロセル腐食はふせぎ得ず、比較的短期間に再劣化が起きることが判明してきた。
【0005】
そこで、前期欠点を補う補強部材の腐食対策としては、電気防食工法がある。電気防食工法は、補強部材における腐食している部分と健全な部分との間における電位差による腐食電流の発生を阻害することで、腐食の進行を防止する工法である。電気防食工法には、外部電源法と流電陽極法とがある。
【0006】
外部電源法は、対象とするコンクリートの全表面に金属溶射による塗膜を形成、チタンで構成されたメッシュの取付け、あるいはコンクリート表面に所定間隔で並行に溝を設けて白金線を埋設、これらを陽極とし、補強部材を陰極として、その間をコンクリート中の含有水分(電解液化)を介して直流電流を流し、防食電流を供給する方法である。しかし、外部電源法は、長期間にわたり安定して使用はできるものの、その間の電気代の費用、直流電源装置の設置や制御が必要であるという問題があった。
【0007】
一方で、流電陽極法は、補強部材よりもイオン化傾向が大きい金属からなる流電陽極材を補強部材に接続して、流電陽極材と補強部材との電位差を利用して補強部材に直流電流を供給する方法である。直流電流は流電陽極材から防食対象物(例えば補強部材)へ、例えばコンクリート中の水分を介して供給され、補強部材と流電陽極材を電線で接続することで電気回路が形成され、直流電流が防食対象物へ供給され続ける。流電陽極法は、外部電源法と比較して、外部電源の必要がないことから導入が容易であるという利点がある。流電陽極法では、例えば、円筒状あるいは箱型の流電陽極材(すなわち厚みのある流電陽極材)を電線を用いて補強部材の外周面へ取り付け、直流電流を供給する方法が一般的であるが、周囲のコンクリート欠損部に流電陽極材を導電性材料によって設置固定し、コンクリート中の水分を介して直流電流を供給する方法もある(例えば特許文献1)。
【0008】
なお、流電陽極材は、新設のコンクリート構造物の打設前に補強部材に取り付ける場合や、既設コンクリート構造物の断面修復工法においては既設の埋設された補強部材に後付けする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-98596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、電線を用いて円筒状あるいは箱型の流電陽極材を補強部材に取り付ける技術、または、導電性材料でコンクリート欠損部に固定する技術では、流電陽極材を補強部材に取り付けにくく、かつ、強固な固定ができないという問題あった。以上の事情を考慮して、本発明では、軸部材への装着が容易であり、軸部材に強固に固定できる流電陽極材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]軸部材に装着される流電陽極材であって、前記軸部材の軸方向からみて第1端部と第2端部とを含み、前記軸部材の周方向に沿う弧状の締付部を有する装着部を具備し、前記第1端部と前記第2端部との間隔は、前記軸部材の外径より小さく、前記装着部は、前記間隔から前記軸部材の外周面に装着される。
【0012】
[2]前記装着部は、N(Nは2以上の整数)個の前記締付部と、前記N個の締付部において相互に隣接する2個の締付部を接続するための(N-1)個の接続部とを有する[1]の流電陽極材。
【0013】
[3]前記装着部は、N(Nは3以上の奇数)個の前記締付部と、((N-1)/2)個の第1接続部と、((N-1)/2)個の第2接続部とを有し、前記N個の締付部は、所定の間隔で前記軸方向に沿って配列し、前記各第1接続部は、前記軸方向の一方側からk(kは奇数)番目に位置する締付部の第1端部と(k+1)番目に位置する締付部の第1端部とを接続し、前記各第2接続部は、前記軸方向の一方側から(k+1)番目に位置する締付部の第2端部と(k+2)番目に位置する締付部の第2端部とを接続する[1]の流電陽極材。
【0014】
[4]前記装着部は、N(Nは2以上の偶数)個の前記締付部と、(N/2)個の第1接続部と、(N/2-1)個の第2接続部とを有し、前記N個の締付部は、所定の間隔で前記軸方向に沿って配列し、前記各第1接続部は、前記軸方向の一方側からk(kは奇数)番目に位置する締付部の第1端部と(k+1)番目に位置する締付部の第1端部とを接続し、前記各第2接続部は、前記軸方向の一方側から(k+1)番目に位置する締付部の第2端部と(k+2)番目に位置する締付部の第2端部とを接続する[1]の流電陽極材。
【0015】
[5]前記装着部は、一連の線材からなる[1]から[4]の流電陽極材。
【0016】
[6]前記装着部により前記軸部材に取り付けられる補助部材を含む[1]から[5]の流電陽極材。
【0017】
[7]前記補助部材は、前記軸部材と前記締付部との間に取り付けられる[6]の流電陽極材。
【0018】
[8]前記締付部は、前記軸部材とは反対側に突出し、前記補助部材の形状に応じた凸部を有する[7]の流電陽極材。
【0019】
[9][1]から[8]の流電陽極材を軸部材に装着することで、当該軸部材を防食する防食方法。
【0020】
[10]前記軸部材のうち流電陽極材を装着する部分の表面を研磨した上で、当該部分に当該流電陽極材を装着する[9]の防食方法。
【0021】
[11]前記軸部材に装着した前記流電陽極材を、強アルカリ性を示す被覆材で被覆する[9]または[10]の防食方法。
【0022】
[12]前記被覆材は、導電性を有する[11]の防食方法。
【0023】
[13]前記軸部材が損傷している場合には、導電性を有する補修材で補修した上で、前記流電陽極材を装着する[9]から[12]の防食方法。
【0024】
[14][1]から[8]の流電陽極材を装着した軸部材を防食対象である対象部材の周囲に埋設することで、当該対象部材を防食する防食方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の流電陽極材によれば、軸部材への装着が容易であり、軸部材に強固に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係る流電陽極材の斜視図である。
図2】第1実施形態の一例に係る流電陽極材の写真である。
図3図2の流電陽極材が対象部材に装着された状態の写真である。
図4】第1実施形態に係る装着部における1個の締付部に着目した正面図である。
図5】第2実施形態に係る流電陽極材の斜視図である。
図6】第2実施系形態の一例に係る流電陽極材の正面図である。
図7】第2実施形態の一例に係る流電陽極材(図6の流電陽極材)の斜視図である。
図8】第2実施形態の他の態様に係る装着部の正面図である。
図9】第2実施形態の他の態様に係る流電陽極材(図8の流電陽極材)の斜視図である。
図10】第2実施形態の他の態様に係る装着部の斜視図である。
図11】第3実施形態に係る流電陽極材の斜視図である。
図12】第3実施形態に係る装着部の斜視図である。
図13】変形例に係る防食方法を説明する図である。
図14】変形例に係る防食方法を説明する図である。
図15】変形例に係る防食方法を説明する図である。
図16】変形例に係る防食方法を説明する図である。
図17】変形例に係る防食方法を説明する図である。
図18】変形例に係る防食方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る流電陽極材100は、例えば地盤やコンクリート構造物に埋設される対象部材K(「軸部材」の例示)の腐食を防ぐ(防食)するための部材であり、対象部材Kに装着される。すなわち、対象部材Kは、防食の対象となる部材である。第1実施形態の対象部材Kは、軸状の部材(鋼材)である。具体的には、対象部材Kは、鉄筋であり、例えば、アンカーボルト、ロックボルトやPC鋼棒等の補強部材である。ただし、対象部材は、補強部材には限定されず、防食対象となり得る各種の鋼材が想定される。流電陽極材100により防食電流が対象部材Kに供給される。
【0028】
図1から図3は、第1実施形態に係る流電陽極材100を示す図である。
【0029】
図1は、第1実施形態の流電陽極材100の斜視図であり、図2は、第1実施形態の一例に係る流電陽極材100の写真である。図3は、図2の流電陽極材100が対象部材Kに装着された状態の写真である。なお、第1実施形態では、周方向に沿った節と、軸方向に沿ったリブとが外周面に形成された異形棒鋼を対象部材Kとして例示する。ただし、対象部材Kは、異形棒鋼には限定されず、全ねじ鋼棒や丸鋼であってもよい。
【0030】
以下の説明では、対象部材Kの軸方向をX方向と表記し、X方向に直交する方向をY方向と表記し、X方向およびY方向の双方に直交する方向をZ方向と表記する。
【0031】
第1実施形態の流電陽極材100は、一連の線材からなる装着部10Aで構成される。具体的には、装着部10Aは、N(Nは3以上の奇数)個の締付部11と、((N-1)/2)個の第1接続部と、((N-1)/2)個の第2接続部15とを具備する。図1では、Nが5あり、N個の締付部11の各々が同一の形状をしている場合を例示する。第1実施形態では、装着部10Aを各要素(締付部11,第1接続部13,第2接続部15)は、切れ目なく連続的に形成される。
【0032】
第1実施形態では、各締付部11が同じ形状であり、各第1接続部13が同じ形状であり、各第2接続部15が同じ形状である場合を例示する。ただし、各締付部11が異なる形状であり、各第1接続部13が異なる形状であり、各第2接続部15が異なる形状である構成も第1実施形態には含まれる。
【0033】
図4は、装着部10Aにおける1個の締付部11に着目した図である。締付部11は、装着部10Aのうち対象部材Kの周方向に沿う弧状の部分であり、X方向(「対象部材Kの軸方向」の例示)からみて第1端部T1と第2端部T2とを含む。締付部11は、対象部材Kの外周面に沿うように装着される。
【0034】
図4に例示される通り、締付部11は、X方向からみたときに円弧状をなすように形成される。なお、締付部11は、完全な円弧状になる必要はなく、対象部材Kの外周面に沿うように弧状になっていればよい。
【0035】
以下の説明では、N個の締付部11において、X方向の一方側(例えばX方向の負側)から奇数番目に位置する各締付部11をk(kは奇数)番目に位置する締付部11と表記する。図1の例示では、k番目の締付部11は、X方向の負側から、1番目と3番目と5番目とに位置する締付部11である。すなわち、kは、1以上N以下の全ての奇数である。
【0036】
図1に例示される通り、各第1接続部13は、X方向において相互に隣り合う2つの締付部11の第1端部T1同士を接続する要素である。具体的には、第1接続部13は、X方向の負側からk番目に位置する締付部11の第1端部T1と、(k+1)番目に位置する締付部11の第1端部T1とを接続する。図1の場合には、装着部10Aは、2(=(5-1)/2)個の第1接続部13を有する。具体的には、X方向の負側から、1番目の締付部11と2番目の締付部11とを接続するための第1接続部13と、3番目の締付部11と4番目の締付部11とを接続するための第1接続部13とを装着部10Aが有する。
【0037】
第1接続部13は、k番目に位置する締付部11の第1端部T1から(k+1)番目に位置する締付部11の第1端部T1にかけて延在する部分である。第1接続部13の形状は、k番目に位置する締付部11の第1端部T1と、(k+1)番目に位置する締付部11の第1端部T1とを接続可能であれば任意である。第1実施形態の第1接続部13は、曲線状に形成される。第1接続部13は、k番目に位置する締付部11の第1端部T1から(k+1)番目に位置する締付部11の第1端部T1に向かって連続的に曲線を描くように形成される。
【0038】
図1に例示される通り、各第2接続部15は、X方向において相互に隣り合う2つの締付部11の第2端部T2同士を接続する要素である。具体的には、第2接続部15は、X方向の負側から(k+1)番目に位置する締付部11の第2端部T2と、(k+2)番目に位置する締付部11の第2端部T2とを接続する。図1の場合には、装着部10Aは、2(=(5-1)/2)個の第2接続部15を有する。具体的には、X方向の負側から、2番目の締付部11と3番目の締付部11とを接続するための第2接続部15と、4番目の締付部11と5番目の締付部11とを接続するための第2接続部15とを装着部10Aが有する。
【0039】
第2接続部15は、(k+1)番目に位置する締付部11の第2端部T2から(k+2)番目に位置する締付部11の第2端部T2にかけて延在する部分である。第2接続部15の形状は、(k+1)番目に位置する締付部11の第2端部T2と、(k+2)番目に位置する締付部11の第2端部T2とを接続可能であれば任意である。第1実施形態の第2接続部15は、曲線状に形成される。第2接続部15は、(k+1)番目に位置する締付部11の第2端部T2から(k+2)番目に位置する締付部11の第2端部T2の第2端部T2に向かって連続的に曲線を描くように形成される。
【0040】
図1に例示される通り、N個の締付部11は、所定の間隔DでX方向に沿って配列する。相互に隣り合う2個の締付部11の間の距離が間隔Dである。図1では、間隔Dが2個の締付部11の全ての組み合わせにおいて同じである構成を例示するが、間隔Dは2個の締付部11の組み合せ毎に相違してもよい。
【0041】
間隔Dは、例えば2~10mmであり、好ましくは4~6mmであり、流電陽極材100が取り付けられる対象となる対象部材Kの種類に応じて適宜に変更し得る。図1では、間隔Dは、周方向にわたり一定である構成を例示するが、周方向に沿って相違してもよい。図3に例示される通り、各締付部11は、X方向からみたときに重なるように配置される。
【0042】
図4に例示される通り、締付部11における第1端部T1と第2端部T2との間隔Oは、対象部材Kの外径より小さい。間隔Oが対象部材Kの外径より小さいことで、装着部10Aをより強固に対象部材Kに装着させることができる。間隔Oは、例えば、対象部材Kの外径を基準とすると当該外径の0.5~0.75倍であり、仮想円Sの直径を基準とすると当該直径の0.6~0.9倍が想定される。具体的には、間隔Oは、対象部材Kの外径に応じて、例えば2.5~40mmの範囲内で設定される。なお、本発明において対象部材Kの外径とは、対象部材Kが異形棒鋼の場合には、対象部材Kの公称直径(節とリブとを含めない部分の直径)である。対象部材が全ねじ鋼棒である場合には、雄ねじ外径を対象部材Kの外径とする。
【0043】
図4には、X方向からみたときに装着部10Aの内側で画定される仮想的な円(以下「仮想円S」という)が図示されている。仮想円Sは、X方向からみたときに、締付部11の内側(内周側)において、円周の少なくとも一部が締付部11の内周に接触し、かつ、円周の全体が締付部11の内側に位置する状態で、直径が最大となる円である。締付部11が完全な円弧状でない場合についても同様である。
【0044】
仮想円Sの直径は、装着対象となる対象部材Kの直径に応じて適宜に変更し得る。装着部10Aを強固に対象部材Kに装着する観点からは、対象部材Kの外径より小さい構成が好適である。例えば、仮想円Sの直径が対象部材Kの外径の0.75~1.0倍になるように、締付部11が形成される。なお、Z方向は、締付部11における第1端部T1と第2端部T2とを通る線分の中点を通り、当該線分に直交する方向であるとも換言できる。
【0045】
装着部10A(すなわち線材)は、典型的には対象部材Kよりもイオン化傾向が大きい金属(すなわち流電陽極としての機能を発揮する金属)で形成される。対象部材Kは、例えば鉄を主成分とする鋼材などの金属材料(導電材料)で形成される。対象部材Kよりもイオン化傾向が大きい金属は、装着部10Aの形状に加工が可能であれば任意であるが、例えば、ガリウム、クロム、亜鉛、マンガン、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、ハフニウム、ウラン、ベリリウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、カリウム、および、リチウムである。以上に例示した金属の中でも特に亜鉛およびアルミニウムの少なくとも一方を含む金属が好ましい。例えば、亜鉛アルミ合金(例えば亜鉛:アルミニウム=70:30~90:10)が装着部10Aとして用いられる。
【0046】
装着部10A(線材)の線径は、例えば直径1.0~8.0mmであり、線材の加工性に応じて適宜に変更し得る。装着部10Aの長さ(X方向における長さ)は、任意であるが、例えば15~30mmである。装着部10Aの長さは、X方向の負側の端部に位置する締付部11からX方向の正側の端部に位置する締付部11までの距離である。
【0047】
装着部10Aは、締付部11における間隔Oから対象部材Kの外周面に装着される。上述した通り、第1端部T1と第2端部T2との間隔Oは、対象部材Kの外径より小さい。そして、間隔Oは、装着部10Aに外力が加わることで変化する。具体的には、装着部10Aを間隔Oから対象部材Kの外周面に押し当てることで間隔Oが広がり、図3のように対象部材Kの外周面に装着することが可能になる。なお、間隔Oは、典型的には、弾性変形により可変である。したがって、装着部10Aを強固に対象部材Kに装着することができる。ただし、間隔Oが弾性変形により可変であることは必須ではなく、装着部10Aを対象部材Kに固定することが可能であれば、間隔Oが塑性変形により可変であってもよい。
【0048】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態では、対象部材Kの周方向に沿う弧状の締付部11における間隔Oが対象部材Kの外径より小さく、装着部10Aが当該間隔Oから対象部材Kの外周面に装着される。したがって、例えば、ワイヤーを用いて対象部材Kに取り付けられる円筒状や箱型の流電陽極材(以下「比較例」という)と比較して、対象部材Kへの装着が容易であり、かつ、対象部材Kに強固に固定できるという利点がある。
【0049】
また、比較例では、例えば対象部材に対するコンクリートのかぶり厚が不足する箇所には適用しにくいという問題があった。それに対して、第1実施形態の流電陽極材100によれば、対象部材Kの外周面に直接的に装着できるから、かぶり厚が不足している箇所にも適用しやすいという利点がある。
【0050】
第1実施形態では、さらに、N(Nは3以上の奇数)個の締付部11と、((N-1)/2)個の第1接続部13と、((N-1)/2)個の第2接続部15とを装着部10Aが有するから、例えば締付部11が1個の構成と比較して、装着部10Aを対象部材Kに強固に装着でき、かつ、流電陽極材100の機能を十分に確保することができる。なお、流電陽極材100の機能を十分に確保するという観点からは、Nは5以上が好ましい。一方で、対象部材Kへの装着の容易性を踏まえると、Nは7以下が好ましい。
【0051】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各形態において作用または機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0052】
図5は、第2実施形態に係る流電陽極材100が対象部材Kに取り付けられている状態を示す斜視図である。第2実施形態では、流電陽極材100が装着部10Aに加えて補助部材10Bを具備する構成を例示する。図5以降の図面では、対象部材Kのリブや節の図示は省略する。
【0053】
具体的には、補助部材10Bは、装着部10Aにより対象部材Kに取り付けられる。補助部材10Bは、装着部10Aと同様に、対象部材Kよりもイオン化傾向が大きい金属(すなわち流電陽極としての機能を発揮する金属)で形成される。補助部材10Bに用いられる具体的な金属は、第1実施形態で装着部10Aについて上述したのと同様である。亜鉛やアルミニウムで補助部材10Bが形成されることが好ましい。
【0054】
図5に例示される通り、装着部10Aにより対象部材Kの外周面に対向するように固定される。第2実施形態では補助部材10Bは、X方向に沿った長尺であり、板状の場合を例示する。
【0055】
図6に例示される通り、補助部材10Bは、対象部材Kとの密着性を向上させる観点からは、対象部材Kの外周面に沿うような形状が好ましい。具体的には、補助部材10Bは、X方向からみたときに、対象部材Kの外径と同じ曲率で湾曲する。
【0056】
補助部材10Bの厚さは、例えば1.0~5.0mmである。補助部材10Bの幅R(図6)は、例えば5.0~50mmである。補助部材10Bの幅Rは、補助部材10Bの短手方向の長さであり、X方向からみたときに対象部材Kの周方向に沿う方向の長さである。補助部材10Bの幅Rは、補助部材10Bの厚さ方向の中点を通る仮想円U(節外径の1/2倍に補助部材10Bの厚さの1/2倍を加算した直径となる円)を想定した場合に、当該仮想円Uにおいて中心角が80~100°となる弧長にすることが好ましい。補助部材10Bの長さ(X方向における長さ)は、例えば10~1000mmである。
【0057】
以下、第2実施形態において採用される装着部10Aの構成を例示する。ただし、装着部10Aの形状は、補助部材10Bを対象部材Kの外周面に対向するように固定をすることが可能であれば、特に限定されない。なお、補助部材10Bを固定するための締付部11の個数は任意であり、補助部材10Bの大きさに応じて適宜に変更し得る。
【0058】
<構成1>
図6は、対象部材Kに取り付けられている状態における構成1に係る流電陽極材100をX方向からみたときの正面図であり、図7は、対象部材Kに取り付けられている状態における構成1に係る流電陽極材100の斜視図である。
【0059】
構成1に係る装着部10Aは、1個の締付部11を具備する。第1実施形態と同様に、締付部11は、X方向からみて第1端部T1と第2端部T2とを含み、対象部材Kの周方向に沿う弧状であり、第1端部T1と第2端部T2との間隔Oが対象部材Kの外径より小さい。構成1に係る締付部11は、対象部材Kとは反対側に突出し、補助部材10Bの形状に応じた凸部Gを有する。凸部Gは、例えば、X方向からみたときに補助部材10Bが内側に位置するような形状にする。
【0060】
構成1では、例えば、対象部材Kの外周面に補助部材10Bを設置した後に、当該補助部材10Bの上面(対象部材Kとは反対側の表面)から装着部10Aを対象部材Kに装着することで、対象部材Kに流電陽極材100(装着部10Aおよび補助部材10B)を取り付けることができる。
【0061】
<構成2>
図8は、対象部材Kに取り付けられている状態における構成2に係る流電陽極材100をX方向からみたときの正面図であり、図9は、対象部材Kに取り付けられている状態における構成2に係る流電陽極材100の斜視図である。図10は、構成2に係る装着部10Aの斜視図である。
【0062】
構成2に係る装着部10Aは、2個の締付部11と1個の接続部17とを具備する。2個の締付部11(11A,11B)は、X方向に沿って配列する。第1実施形態と同様に、各締付部11は、X方向からみて第1端部T1と第2端部T2とを含み、対象部材Kの周方向に沿う弧状であり、第1端部T1と第2端部T2との間隔Oが対象部材Kの外径より小さい。
【0063】
一方の締付部11Aと他方の締付部11Bとは、形状が相違する。締付部11Bは、補助部材10Bの形状に応じた凸部Gを有する。なお、凸部Gは、構成Aで説明したのと同様である。一方で、締付部11Aは、凸部Gを有さない。
【0064】
さらに、締付部11Bは、締付部11Aよりも径が大きい。具体的には、締付部11Bの内側で画定される仮想円の直径が、締付部11Aの内側で画定される仮想円の直径よりも大きい。締付部11Bの長さ(線材の長さ)が締付部11Aの長さよりも長いとも換言できる。締付部11Aの内側で画定される仮想円の直径は、例えば、第1実施形態の仮想円Sについて上述したのと同様である。一方で、締付部11Bの仮想円の直径は、例えば締付部11Aの仮想円の直径の1.1~1.5倍である。なお、仮想円の図示は、便宜的に省略する。ただし、締付部11Aと締付部11Bとの径が同じ構成も採用される。
【0065】
接続部17は、締付部11Aの第1端部T1と締付部11Bの第1端部T1とを接続する要素である。接続部17については、第1実施形態で説明した第1接続部13と同様である。
【0066】
構成2では、図8および図9に例示される通り、締付部11Aと締付部11Bとの間に位置するように補助部材10Bが固定される。なお、補助部材10Bを取り付ける方法は任意である。例えば、装着部10Aを対象部材Kに装着した後に、締付部11Aと締付部11Bとの間に補助部材10Bが設置される。
【0067】
以上の説明から理解される通り、第2実施形態における補助部材10Bは、対象部材Kと締付部11との間に取り付けられる。構成2においては、対象部材Kと締付部11Bとの間に補助部材10Bが取り付けられる。
【0068】
第2実施形態では、流電陽極材100が補助部材10Bを有するから、装着部10Aのみを流電陽極材100が含む構成と比較して、流電陽極としての機能がさらに確保できる。また、装着部10Aを使用して簡単に補助部材10Bを取り付けられるという利点がある。すなわち、装着部10Aは、そのものが流電陽極としても機能し、かつ、補助部材10Bを取り付けるための要素としても機能する。
【0069】
特に、第2実施形態では、補助部材10Bが対象部材Kと締付部11との間に取り付けられるから、例えば補助部材10Bを取り付けるための要素を装着部10Aに設ける必要がないという利点がある。ただし、補助部材10Bを装着部10Aにより対象部材Kに取り付けることが可能であれば、対象部材Kと締付部11Bとの間に補助部材10Bを取り付けることは必須ではない。すなわち、装着部10Aが補助部材10Bを取り付けるための要素を締付部11とは別個に設けてもよい。
【0070】
第2実施形態において装着部10Aの形状は、以上の例示には限定されない。例えば、締付部11が凸部Gを有さない構成や、締付部11が3個以上ある構成も採用される。なお、図5は、凸部Gを有さない2つの締付部11の径(仮想円の直径)が同じである構成である。また、補助部材10Bの個数は、任意である。例えば、対象部材Kの周方向に沿って複数の補助部材10Bを流電陽極材100が具備してもよい。
【0071】
<第3実施形態>
図11は、第3実施形態に係る流電陽極材100が対象部材Kに取り付けられている状態を示す斜視図である。図12は、第3実施形態に係る装着部10Aの斜視図である。
【0072】
第2実施形態の対象部材Kが板状であるのに対して、第3実施形態の対象部材Kは、X方向に沿った軸状の部材である。例えば、断面形状が円形の対象部材Kである。ただし、断面形状が多角形(例えば四角形)の対象部材Kでもよい。第3実施形態に係る補助部材10Bも第2実施形態と同様に、対象部材Kよりもイオン化傾向が大きい金属で形成される。
【0073】
補助部材10Bの幅は、例えば1.0~10mmである。補助部材10Bの幅は、断面形状が円形である場合には断面の直径であり、断面形状が多角形である場合には最大となる幅とする。補助部材10Bの長さ(X方向における長さ)は、例えば10~1000mmである。
【0074】
補助部材10Bは、対象部材Kがリブを有する異形棒鋼である場合には、当該リブに沿って当該リブに接触するように設けることが好ましい。以上の場合には、補助部材10Bの幅は、リブの幅に応じて設定する。例えば、対象部材Kの幅をリブと同じ幅にすることが好ましい。
【0075】
第3実施形態に係る装着部10Aは、2個の締付部11と1個の接続部17とを具備する。2個の締付部11(11A,11B)は、X方向に沿って配列する。第1実施形態と同様に、各締付部11は、X方向からみて第1端部T1と第2端部T2とを含み、対象部材Kの周方向に沿う弧状であり、第1端部T1と第2端部T2との間隔Oが対象部材Kの外径より小さい。
【0076】
締付部11Bは、締付部11Aよりも径が大きい。具体的には、締付部11Bの内側で画定される仮想円の直径が、締付部11Aの内側で画定される仮想円の直径よりも大きい。締付部11Bの長さ(線材の長さ)が締付部11Aの長さよりも長いとも換言できる。締付部11Aの内側で画定される仮想円の直径は、例えば、第1実施形態の仮想円Sについて上述したのと同様である。一方で、締付部11Bの仮想円の直径は、例えば締付部11Aの仮想円の直径の1.1~1.5倍である。なお、仮想円の図示は、便宜的に省略する。ただし、締付部11Aと締付部11Bとの径が同じ構成も採用される。
【0077】
接続部17は、締付部11Aの第1端部T1と締付部11Bの第2端部T2とを接続する要素である。接続部17については、第1実施形態で説明した第1接続部13と同様である。
【0078】
構成2では、図11に例示される通り、締付部11Aと締付部11Bとの間に位置するように補助部材10Bが固定される。なお、補助部材10Bを取り付ける方法は任意である。例えば、装着部10Aを対象部材Kに装着した後に、締付部11Aと締付部11Bとの間に補助部材10Bが設置される。
【0079】
以上の説明から理解される通り、第3実施形態における補助部材10Bも第2実施形態と同様に、対象部材Kと締付部11との間に取り付けられる。構成2においては、対象部材Kと締付部11Bとの間に補助部材10Bが取り付けられる。
【0080】
第3実施形態においても第2実施形態と同様の効果が実現される。第3実施形態において装着部10Aの形状は、以上の例示には限定されない。例えば、2個の締付部11の径が同じである構成、締付部11が1個または3個以上である構成、または、締付部11が補助部材10Bの形状に応じた凸部を有する構成も採用される。また、補助部材10Bの個数は、任意である。例えば、流電陽極としての機能を十分に確保する観点からは、複数(例えば対象部材Kの周方向に沿って2個)の補助部材10Bを流電陽極材100が具備することが好ましい。
【0081】
<変形例>
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0082】
(1)本発明の適用の対象となる対象部材Kは、軸状の部材であって、締付部11の間隔Oが変化することで取り付けることが可能であれば、ロックボルト、PC棒鋼およびアンカーボルトには限定されない。例えば、液体が内部を流れる管状の部材を対象部材Kとしてもよい。以上の説明から理解される通り、対象部材Kは、断面形状が略円形をなすような柱状(管状も含む)の部材であれば任意である。
【0083】
(2)流電陽極材100が具備する締付部11の個数は、任意であり、N個であっても1個でもよい。流電陽極材100が1個の締付部11を具備する場合には、第1接続部13、第2接続部15および接続部17は省略される。
【0084】
(3)締付部11がN個ある場合において接続部(13,15,17)が省略される場合もある。例えば、相互に隣接する2個の締付部11において第1端部T1同士が直接接続され、第2端部T2同士が直接接続される場合には、接続部(13,15,17)が省略される。さらに。装着部10Aが締付部11と接続部(13,15,17)とは異なる部分を含む構成も採用される。
【0085】
(4)装着部10Aは、以下の構成Aおよび構成Bも採用され得る。
<構成A>
装着部10Aは、N(Nは2以上の偶数)個の締付部11と、(N/2)個の第1接続部13と、(N/2-1)個の第2接続部15とを有し、N個の締付部11は、所定の間隔で対象部材Kの軸方向に沿って配列し、各第1接続部13は、当該軸方向の一方からみてk(kは奇数)番目に位置する締付部11の第1端部T1と(k+1)番目に位置する締付部11の第1端部T1とを接続し、各第2接続部15は、当該軸方向の一方からみて(k+1)番目に位置する締付部11の第2端部T2と(k+2)番目に位置する締付部11の第2端部T2とを接続する。なお、第2実施形態(構成2)および第3実施形態の装着部10Aは、構成Aの一例である。
【0086】
<構成B>
装着部10Aは、N(Nは2以上の整数)の締付部11と、相互に隣接する2個の締付部11を接続するための(N-1)個の接続部と有する。第1実施形態、第2実施形態(構成2)、第3実施形態および構成Aに係る装着部10Aは、構成Bに係る装着部10Aの一例であるとも換言できる。なお、構成Bにおいて、相互に隣接する2個の締付部11を接続するための接続部は、1個には限定されず、例えば2個以上あってもよい。すなわち、少なくとも(N-1)個の接続部を具備すればよい。
【0087】
(5)締付部11が線材で構成されることは必須ではない。例えば、薄板状の締付部11も採用され得る。第1端部T1と第2端部T2との間隔から対象部材Kに装着部10Aを装着することが可能であれば、締付部11の形状は任意である。同様に、第1接続部13と第2接続部15とは、線材には限定されない。ただし、締付部11と第1接続部13と第2接続部15とを線材で形成する構成によれば、例えば薄板状で締付部11と第1接続部13と第2接続部15と形成する構成と比較して、例えば異形棒鋼のように表面に凹凸がある対象部材Kに装着する場合に、凹凸の影響を受けずに装着できるという利点がある。
【0088】
(6)装着部10Aが一連の線材で構成されることは必須ではない。例えば、複数の線材を接合して装着部10Aを構成してもよい。ただし、装着部10Aが一連の線材でなる構成によれば、複数の部材を接合してなる装着部10Aと比較して、製造が容易であるという利点もある。
【0089】
(7)第2実施形態および第3実施形態において、補助部材10Bが装着部10Aにより対象部材Kに取り付けられていれば、補助部材10Bの表面(対象部材Kに対向する側の表
面)は、対象部材Kに接触していてもしていなくてもよい。
【0090】
(8)第1接続部13および第2接続部15は、曲線状に形成することは必須ではない。例えば、第1接続部13および第2接続部15を直線状に形成してもよい。
【0091】
(9)間隔Dは、周方向に沿って一定であってもよいし、変化してもよい。図1の例示では、間隔Dが周方向に沿って一定であるとは、Z方向の正側からみたときに、相互に隣り合う2個の締付部11が平行に配列されている場合である。一方で・BR>A間隔Dが周方向に沿って変化する場合とは、例えば、Z方向の正側からみたときに、相互に隣り合う2個の締付部11の一方が他方に対して傾いて配列されている場合である。
【0092】
(10)本発明に係る流電陽極材は、地盤に対象部材を埋設する際や新規のコンクリート構造物の打設時に対象部材に取り付ける場合、または既設のコンクリート構造物に既に埋設された対象部材に後付けで取り付けられる。なお、比較例に係る流電陽極材は、基本的にコンクリート中の鉄筋に対する防食工法に用いられ、山岳トンネルにおけるNATM(New Austrian Tunneling Method)工法や斜面安定化工法の補強部材に対する防食工法としては新設、補修工事共に適用できない。それに対して、本発明の流電陽極材は、既設コンクリートの補修、山岳トンネルにおけるNATM(New Austrian Tunneling Method)工法や斜面安定化工法での補強部材の新設、補修工事共に適用することができる。
【0093】
(11)例えばNATM工法および斜面安定化工法などで使用される対象部材(例えばロックボルト)は、従来、亜鉛を用いたメッキ処理による腐食対策が行われていた。しかし、メッキ処理には費用が掛かるとともに、亜鉛が消耗すると防食効果は失われてしまう。さらに、メッキ槽の制限から最長で6mの対象部材までしか対応できない。
【0094】
それに対して、本発明に係る流電陽極材によれば、対象部材に装着することで防食効果を発揮する。したがって、対象となる対象部材の長さに制限がなく、また、流電陽極材の個数や取り付け方によって防食機能が発揮される年数を設定することも可能である。
【0095】
(12)コンクリート構造物において塩害などでコンクリート内部の対象部材に錆ができ、コンクリートにひび割れや剥離が生じる問題がある。この問題に対して、従来から、塩分を含んだコンクリートをはつり、対象部材の錆を除去したのち、対象部材に防食処理を行い、コンクリートを修復するといった断面修復工法が行われている。このような断面修復工法において、本発明に係る流電陽極材を用いることで、工期の短縮および工事費の削減が可能となる。具体的には、従来の断面修復工事では、ひび割れなどが生じたコンクリート部分をはつり、原因となる塩分を除去する。その後、対象部材に生じた錆を取り除き、錆を取り除いた対象部材に対し、錆の発生を防止するための防錆剤を塗布する。その後、はつったコンクリート部分を新たなコンクリートで埋め直し、最後にトップコートを塗布し、断面修復が完了となる。対象部材に生じた錆は通常サンダーを用いて行われるが、完全な錆の除去は難しく、また、錆を除去するためにサンダーで削りすぎると、対象部材を細らせてしまう危険もある。そのため、対象部材の錆の除去はブラスト処理による除去が望ましいが、作業効率がいいとはいえず、また、費用もかかる。さらに、対象部材裏側に下錆が生じていた場合、対象部材の背面へ防錆材を塗布するためには、対象部材の背面のコンクリートまではつり、対象部材の全周を露出させる必要がある。特に天井面の断面修復工事では作業性も悪いため労力と時間を要することとなり、結果、工程と工事費が増大してしまう。
【0096】
それに対して、本発明に係る流電陽極材を用いれば、対象部材の錆の除去は浮き錆のみの除去で済み、錆の除去に係る作業時間が短くなる。また、流電陽極材を取り付けるだけで防錆処理が行えるため、従来の防錆剤の塗布に比べ作業時間を大幅に短縮できる。その結果、工事全体の工期の短縮が図れ、作業に係る工事費の削減も可能となる。
【0097】
(13)塩害環境下にある構造物に断面修復工法を適用する場合、未対策部に残存する塩分がマクロセル腐食を誘発して対象部材の再劣化の原因になる。そのため、マクロセル腐食対策には、部材内の塩化物イオン量とその分布状況、さらに対象部材の錆の発生状態を調査、把握したうえで該当する断面修復範囲を設定する必要がある。その結果、調査によっては広範囲においての断面修復工事が必要となるなどの可能性もあり、工期と工事費の増大につながる。
【0098】
それに対して、本発明の流電陽極材は、対象部材に取り付けることで、防食効果を発揮するため、断面修復後のマクロセル腐食による対象部材の再劣化が起こる可能性を低減できる。
【0099】
(14)本発明は、流電陽極材を軸状の対象部材に装着することで、当該対象部材を防食する防食方法としても観念できる。本発明に係る防食方法においては、流電陽極材は、地盤に対象部材を埋設する際や新規のコンクリート構造物の打設時に対象部材に取り付ける場合、または既設のコンクリート構造物において既に埋設された対象部材に後付けで取り付けられる場合がある。本発明の防食方法によれば、対象部材への装着が容易な流電陽極材を用いて防食が可能になる。ひいては、防食方法にかかる手間および費用を削減することができる。
【0100】
(15)ここで、対象部材を表面が黒錆(酸化鉄)で被覆されている場合、当該対象部材は不動態化していて導電性がない(すなわち通電しない)。そこで、本発明の防食方法においては、対象部材のうち流電陽極材を装着する部分(以下「対象部分」という)の表面を研磨した上で、当該対象部分に流電陽極材100を装着することが好ましい。対象部材の表面を研磨する方法は、任意であり、例えばサンドブラスト処理やサンダー処理が用いられる。対象部材の表面を研磨して黒錆を除去した上で当該対象部材と流電陽極材を接触(すなわち通電)させる。したがって、対象部材の表面を研磨せずに流電陽極材を装着する場合と比較して、流電陽極材の機能(すなわち防食効果)がさらに高くなるという利点がある。なお、対象部分における全体が研磨されている必要はなく、対象部分における少なくとも一部が研磨されていて、当該研磨されている部分が流電陽極材と接触すればよい。
【0101】
(16)ここで、流電陽極材100は、pH6以上12.5未満の環境下では不動態となり、防食電流の供給ができない場合がある。そこで、本発明の防食方法は、図13に例示される通り、対象部材Kに装着した流電陽極材100を、強アルカリ性(pH12.5以上)を示す被覆材40(パテ材)で被覆することが好ましい。流電陽極材100を被覆材40で被覆することで、強アルカリ環境を確保することができる。すなわち、流電陽極材100が不動態化することを防ぐことができる。被覆材40としては、パテ材として使用できれば特に限定されないが、例えば、パテ状のポリマーセメントモルタルや高分子(例えば樹脂)モルタルなどの無機系モルタルが用いられる。なお、pH6未満の被覆材40で流電陽極材100を被覆してしまうと対象部材Kが錆びてしまうため、上述した通り、pH12.5以上の強アルカリ性を示す被覆材40を用いることが好ましい。
【0102】
さらに、被覆材40は、導電性を有することが好ましい。例えば、鋼繊維、炭素繊維、炭素粉、アルミ、亜鉛、鉄等の金属粉を含む無機系モルタルが導電性を有する被覆材40として用いられる。被覆材40に導電性をもたせることで、流電陽極材100と対象部材Kとの通電がより確実になる。
【0103】
例えば、NATM工法および斜面安定化工法などで新たに埋設する対象部材Kを埋設する場合には、被覆材40が硬化した後に対象部材Kを穿孔に設置する。また、図14のように断面修復工法などで既存の対象部材Kに流電陽極材100を装着する場合には、流電陽極材100を被覆材40で被覆した後に、断面を修復するための通常のモルタルM(便宜的に網掛けで図示)を用いて対象部材Kの周囲を埋める。
【0104】
(17)ここで、断面修復工法などで既存の対象部材Kに流電陽極材100を装着する場合に、対象部材Kが損傷(腐食)している場合がある。対象部材Kが損傷している状態で、流電陽極材100を装着してしまうと、流電陽極材100を対象部材Kに強固に装着できない恐れがある。そこで、本発明の防食方法においては、図15に例示される通り、既存の対象部材Kが損傷(欠損)している場合には、補修材50で補修した上で、対象部材Kに流電陽極材100を装着することが好ましい。補修材50としては、例えばエポキシ樹脂やオレフィン樹脂等の高分子樹脂が用いられる。なお、補修材50は、導電性を有することが好ましい。例えば、鋼繊維、炭素繊維、炭素粉、アルミ、亜鉛、鉄等の金属粉を含む高分子樹脂が導電性を有する補修材50として例示される。
【0105】
(18)流電陽極法には、電線を用いて流電陽極材を対象部材に固定する方式Aと、既設コンクリート躯体に穿孔後やコンクリート欠損部に流電陽極材を挿入、設置して、流電陽極材と対象部材とを電線で接続し、周囲を強アルカリ性でかつ導電性を有するモルタル等で充填する方式Bがある(例えば特許文献1)。方式Aでは、対象部材へ十分に固定できないという問題や、流電陽極材の周囲における隙間に埋め戻し材が充填しにくいという問題があった。一方で、方式Bでは、穿孔時にドリルが躯体の対象部材に接触するなどの施工性に課題があった。それに対して、本発明に係る流電陽極材によれば、方式Aと比較して、対象部材に装着もしやすく、かつ、対象部材に密着して装着されるから埋め戻し材も充填しやすいという利点がある。本発明に係る流電陽極材は、方式Bと比較して、穿孔する必要もないから、既設コンクリートへの損傷も少ないという利点がある。また、NATM工法や斜面安定工法では、方式Aおよび方式Bは、使用できないという問題があった。方式Aにおいては、例えば、流電陽極材を装着した対象部材をモルタル等が充填された穿孔内に挿入する際に、流電陽極材が外れることやずれることで、防食機能を発揮できない恐れがある。方式Bにおいては、対象部材を設置する穿孔の付近にさらに流電陽極材を設置するための穿孔を形成することは作業性が悪く、また、穿孔に設置される対象部材と流電陽極材とを電線で接続した状態で挿入することが困難である。それに対して、本発明では、NATM工法や斜面安定工法においても使用できるという利点がある。
【0106】
(19)以下の構成1~3では、流電陽極材100を装着せずに埋設された既設の対象部材Kを防食する防食方法を想定する。概略的には、構成1~3は、流電陽極材100を装着した軸部材Lを既設の対象部材Kの周囲に埋設し、軸部材Lと対象部材Kを電線で電気的に接続することで、当該対象部材Kを防食する防食方法である。なお、構成1~3では、便宜的に対象部材Kがグラウンドアンカーであり、頭部が地表から露出している場合を例示する。ただし、対象部材Kの種類と当該対象部材Kが埋設されている場所は任意(典型的には地盤やコンクリート中)である。構成1~3では、流電陽極材100を装着した軸部材Lを既設の対象部材Kの付近に埋設することで、当該対象部材Kを防食することが可能になる。
【0107】
[構成1]
図16は、構成1に係る防食方法を説明する説明図である。構成1では、軸部材Lを地盤に直接挿入できる場合を想定する。軸部材Lは、例えば鉄筋(異形棒鋼)である。まず、軸部材Lに流電陽極材100を装着した後に、図13と同様に被覆材40(パテ材)で被覆する。軸部材Lに装着する流電陽極材100の個数は、任意であるが、当該軸部材Lの全長にわたり可能な範囲で設けられることが好ましい。そして、流電陽極材100および被覆材40が設けられた軸部材Lを、対象部材Kの付近に埋設する。なお、軸部材Lを埋設する位置は、防食前の対象部材Kの自然電位を照合電極を用いて測定し、軸部材Lと対象部材Kを電線で電気的に接続した際に、対象部材Kの電位変化量がマイナス方向に100mV以上変化する位置が好ましい。
【0108】
ここで、例えばグラウンドアンカー等の補強部材の破断は、頭部付近の腐食による破断が全体の60%を占めているという事情がある。補強部材は亜鉛メッキにより防食対策が行われていることが多いが、亜鉛メッキによる防食効果は十分でない場合がある。以上の事情を踏まえて、対象部材Kのうち少なくとも頭部付近の防食を有効に行うためには、軸部材Lの長さは、例えば地表から0~50cmの深さに先端が位置する程度あればよい。ただし、対象部材Kの全長にわたる長さの軸部材Lを埋設してもよい。軸部材Lと対象部材Kとは、電線で電気的に接続される。
【0109】
[構成2]
図17は、構成2に係る防食方法を説明する説明図である。構成2では、軸部材Lを地盤に直接挿入できない場合に用いられる。流電陽極材100および被覆材40が設けられた軸部材L100を用いることは、構成1と同様である。具体的には、地盤に軸部材Lを埋設するための設置孔を形成し、モルタルM(網掛けで図示)を充填した当該設置孔内に軸部材Lを挿入する。設置孔内に軸部材Lを挿入すること以外は、構成1と同様である。構成2においては、流電陽極材100は、軸部材Lを防食しつつ、周囲にある対象部材Kの防食も行う。
【0110】
[構成3]
図18は、構成3に係る防食方法を説明する説明図である。構成3では、構成2と同様に、設置孔内に軸部材Lが挿入される。構成3においては、流電陽極として機能する金属(例えば亜鉛)で形成された軸部材Lに流電陽極材100を装着する。なお、埋設する前に流電陽極材100を被覆材40で被覆しなくてもよい。そして、流電陽極材100および軸部材Lが不動態化することを防ぐために強アルカリのモルタルMで充填された設置孔内に、流電陽極材100が装着された流電陽極材100を挿入する。なお、強アルカリのモルタルM(pH12.5以上)としては、例えば、被覆材40で説明したのと同様のモルタル(例えば導電性を有したポリマーセメントモルタルや高分子モルタル)が用いられる。
【0111】
構成3では、流電陽極材100に加えて軸部材Lそのものも流電陽極材としても機能するから、より長期間の防食性能を確保することができる。
【0112】
以上の説明から理解される通り、本発明の流電陽極材100は、防食対象(軸部材L)そのものに装着されてもよいし、当該防食対象の付近に埋設される軸部材Lに装着されてもよい。なお、防食対象の付近に設置される軸部材Lに流電陽極材100が装着される場合には、対象部材Kが軸状である必要はない。
【0113】
(20)本発明において「一定である」「一致する」「同じ(同等)である」「重なる」と記載する場合には、厳密に「一定である」「一致する」「同じ(同等)である」「重なる」場合はもちろんのこと、製造上の誤差の範囲内で「一定である」「一致する」「同等(同じ)である」「重なる」場合も包含される。
【符号の説明】
【0114】
10A :装着部
10B :補助部材
11 :締付部
13 :第1接続部
15 :第2接続部
17 :接続部
40 :被覆材
50 :補修材
100 :流電陽極材
G :凸部
K :対象部材
L :軸部材
O :開口
T1 :第1端部
T2 :第2端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18