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特開2024-109093アセトバニロン変換酵素遺伝子及びそれを用いた有用物質生産
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109093
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】アセトバニロン変換酵素遺伝子及びそれを用いた有用物質生産
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/52 20060101AFI20240805BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240805BHJP
   C12P 7/42 20060101ALI20240805BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240805BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
C12N15/52 Z ZNA
C12N1/21
C12P7/42
C12N1/20 A
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011624
(22)【出願日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2023012450
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第68回リグニン討論会リグニン学会第5回年次大会、2023年11月10日、発表資料 第68回リグニン討論会リグニン学会第5回年次大会講演集(オンライン)、表紙、目次、抄録、奥付、2023年11月6日公開
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「リグニンからの芳香族ポリマー原料の選択的生産」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄大
(72)【発明者】
【氏名】園木 和典
(72)【発明者】
【氏名】政井 英司
(72)【発明者】
【氏名】上村 直史
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD30
4B064AD31
4B064AD42
4B064AD43
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA41X
4B065AA41Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA05
4B065CA10
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、スフィンゴビウム・スピーシーズSYK-6株が保有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群と比べて、より少ない遺伝子から構成され、かつ高効率でアセトバニロンからバニリン酸へ変換することができる遺伝子群及び該遺伝子群を保有する微生物、並びにこれらを利用したバニリン酸の製造方法を提供することにある。
【解決手段】上記目的はアセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpA遺伝子及びacpB遺伝子並びにα-ヒドロキシアセトバニロンをバニリン酸へ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpC遺伝子、これらの遺伝子を保有する微生物及び形質転換微生物、並びにそれらを利用した製造方法などにより解決される。
【選択図】図13B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
acpA遺伝子及びacpB遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物。
【請求項2】
前記形質転換微生物は、宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)である、請求項1に記載の形質転換微生物。
【請求項3】
アセトバニロンを、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は請求項1若しくは2に記載の形質転換微生物に作用させることにより、α-ヒドロキシアセトバニロンを得る工程
を含む、α-ヒドロキシアセトバニロンの製造方法。
【請求項4】
acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物。
【請求項5】
前記形質転換微生物は、宿主微生物が染色体上にあるバニレート -デメチラーゼ遺伝子を欠失しているシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)の形質転換微生物である、請求項4に記載の形質転換微生物。
【請求項6】
アセトバニロンを、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は請求項4若しくは5に記載の形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程
を含む、バニリン酸の製造方法。
【請求項7】
前記形質転換微生物は、宿主微生物が染色体上にあるpobA遺伝子を欠失しているシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)の形質転換微生物である、請求項4に記載の形質転換微生物。
【請求項8】
4’-ヒドロキシアセトフェノンを、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は請求項7に記載の形質転換微生物に作用させることにより、4-ヒドロキシ安息香酸を得る工程
を含む、4-ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【請求項9】
下記(1)~(4)のいずれかのヌクレオチド配列であって、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する、及び/又は4’-ヒドロキシアセトフェノンを2,4’-ジヒドロキシアセトフェノンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpA遺伝子。
(1)配列表の配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ該配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列において、塩基数100個からなる一単位あたり、1個~10個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有するヌクレオチド配列
(2)配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列からなる遺伝子と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列
(3)配列番号50に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
(4)配列番号50に記載のアミノ酸配列において、アミノ酸数100個からなる一単位あたり、1個~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
【請求項10】
下記(1)~(4)のいずれかのヌクレオチド配列であって、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する、及び/又は4’-ヒドロキシアセトフェノンを2,4’-ジヒドロキシアセトフェノンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpB遺伝子。
(1)配列表の配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ該配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列において、塩基数100個からなる一単位あたり、1個~10個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有するヌクレオチド配列
(2)配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列からなる遺伝子と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列
(3)配列番号51に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
(4)配列番号51に記載のアミノ酸配列において、アミノ酸数100個からなる一単位あたり、1個~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
【請求項11】
シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)。
【請求項12】
宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)であり、及び
染色体上にある、バニレート -デメチラーゼ遺伝子が欠失している、
形質転換微生物。
【請求項13】
前記バニレート -デメチラーゼ遺伝子は、vanA3遺伝子(配列番号23)及びvanB3遺伝子(配列番号24)からなる群から選ばれる少なくとも1種のバニレート -デメチラーゼ遺伝子である、請求項12に記載の形質転換微生物。
【請求項14】
アセトバニロンを、請求項12又は13に記載の形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程
を含む、バニリン酸の製造方法。
【請求項15】
宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)であり、及び
染色体上にある、4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子が欠失している、
形質転換微生物。
【請求項16】
前記4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子は、PobA1遺伝子(配列番号61)及びpobA2遺伝子(配列番号62)からなる群から選ばれる少なくとも1種の4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子である、請求項15に記載の形質転換微生物。
【請求項17】
4’-ヒドロキシアセトフェノンを、請求項15又は16に記載の形質転換微生物に作用させることにより、4-ヒドロキシ安息香酸を得る工程
を含む、4-ヒドロキシ安息香酸の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトバニロンからバニリン酸中間体を経てバニリン酸へ変換する反応を触媒するアセトバニロン変換酵素及びそれを用いたバニリン酸等の有用物質の生産系に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラル社会の実現から、石油原料に代えて非可食バイオマスから機能性材料を製造することが求められている。その中で、非可食バイオマスを原料とした、セルロース誘導体及び脂肪族ポリマー原料の開発が進められている。しかし、これまでに、剛性、耐熱性などが満足できるポリマーはほとんど知られていない。
【0003】
非可食バイオマスの一種にリグニンがある。リグニンは植物の維管束細胞壁成分として存在する無定形高分子物質であって、フェニルプロパン系の構成単位が複雑に縮合したものであり、メトキシ基を含有することが化学構造上の大きな特徴になっている。リグニンは木質化した植物細胞を相互に膠着し、組織を強化する働きをしており、木材中に約18%~36%、草本中には約15%~25%存在する。そこで、木材を有効利用するために、リグニンを分解し、有用化合物を得ようとする試みがなされている。木材などのバイオマスに由来するリグニンには、-ヒドロキシフェニルリグニン(H型リグニン)、グアイアシルリグニン(G型リグニン)及びシリンギルリグニン(S型リグニン)の3種があることが知られている。
【0004】
リグニンを分解して得られる化合物の中には、分子内に芳香環を有するモノマーとして使用できるものがある。このような芳香族モノマーを原料とするポリマーは、剛性、耐熱性などの機能性が優れたものになり得る。
【0005】
リグニン由来の芳香族モノマーの候補物質の一つとして、バニリン酸がある。バニリン酸を重合してなるポリマーは融点が非常に高いという特徴がある。例えば、バニリン酸を修飾等して得たモノマーを原料として得られる高機能性ポリマーは、融点が高く、機能性が高いことが知られている。しかし、リグニンを分解してもバニリン酸をほとんど得ることができない。
【0006】
リグニンを分解して得られる化合物の中に、アセトバニロンがある。アセトバニロンはリグニンの酸化分解によって生成する主要な芳香族単量体である。針葉樹、広葉樹、草本によらずに、いずれの植物系バイオマスからもアセトバニロンは生成する。例えば、工業レベルで行われている木材パルプ製造工程であるクラフト蒸解などの廃液(黒液)にもアセトバニロンは含まれている。そこで、アセトバニロンをバニリン酸へ変換することができれば、リグニンからのバニリン酸生産においてバニリン酸収率の向上や目的生産物の純度向上に繋がる。
【0007】
例えば、アセトバニロンを資化する能力を有する微生物又はその酵素を用いれば、微生物学的又は生化学的にアセトバニロンをバニリン酸へ変換できる可能性がある。これまでに知られているアセトバニロン資化性の微生物としては、スフィンゴビウム・スピーシーズ(Sphingobium sp.) SYK-6株(例えば、非特許文献1及び2)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous) GD01株(例えば、非特許文献3)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous) GD02株(例えば、非特許文献3及び4)及びアルスロバクター・スピーシーズ(Arthrobacter sp.) TGJ4株(例えば、非特許文献5)がある。しかし、アセトバニロンの変換に関わる酵素メカニズムの詳細が明らかにされているのはスフィンゴビウム・スピーシーズ SYK-6株(以下、SYK-6株ともよぶ。)とロドコッカス・ロドクラウス GD02株(以下、GD02株ともよぶ。)のみである。
【0008】
SYK-6株は、acvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子及びacvF遺伝子の6遺伝子によりコードされる酵素システムにより、アセトバニロン及びアセトシリンゴンをそれぞれvanilloyl acetic acid及び3-(4-hydroxy-3,5-dimethoxyphenyl)-3-oxopropanoic acidへカルボキシル化することが知られている(例えば、非特許文献1)。また、SYK-6株は、vceA遺伝子及びvceB遺伝子の2遺伝子によりコードされる酵素システムにより、vanilloyl acetic acid及び3-(4-hydroxy-3,5-dimethoxyphenyl)-3-oxopropanoic acidをそれぞれバニリン酸及びシリンガ酸へ変換することができる(例えば、非特許文献2)。したがって、SYK-6株は、上記の合計8遺伝子からなるアセトバニロン変換酵素遺伝子群によりコードされる酵素システムにより、アセトバニロンからバニリン酸を生産できる。
【0009】
SYK-6株の上記8遺伝子を他の宿主微生物へ導入することにより、SYK-6株以外の微生物でアセトバニロンからバニリン酸を合成し得る。そのような宿主微生物として、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(寄託番号:NITE BP-03043;以下、NGC7株ともよぶ。)が挙げられる(例えば、特許文献1)。NGC7株は、リグニン由来の芳香族化合物である-ヒドロキシ安息香酸及びシリンガ酸を分解することができる。また、NGC7株は、バニレート -デメチラーゼ遺伝子を保有することにより、バニリン酸を分解することができる。したがって、NGC7株を用いてバニリン酸を生産するには、染色体上にあるバニレート -デメチラーゼ遺伝子を不活化する必要がある。
【0010】
そこで、本発明者らは、染色体上にあるバニレート -デメチラーゼ遺伝子を不活化したNGC7株にSYK-6株の上記8遺伝子を導入し、得られた形質転換微生物によりアセトバニロンからバニリン酸を生産することを試みた(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2020/080467号
【特許文献2】国際公開第2022/210236号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Higuchi et al., 08 Aug 2022, Applied and Environmental Microbiology, Vol. 88, No. 16, e0072422.
【非特許文献2】Higuchi et al., Sep 2019, Metabolic Engineering, Vol. 55, 258-267.
【非特許文献3】Navas et al., 10 Sep 2021, Frontiers in Microbiology, Vol. 12, 735000.
【非特許文献4】Dexter et al., 18 Oct 2022, Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 119, No.43, e2213450119
【非特許文献5】Tanihata et al., 23 Apr 2012, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Vol. 76, No. 4, 838-840.
【非特許文献6】Abe et al., 15 Mar 2005, Journal of Bacteriology, Vol. 187, No. 6, 2030-2037.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、本発明者らが調べたところによれば、SYK-6株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を用いたアセトバニロンからのバニリン酸への変換反応は非常に遅いという問題がある。また、SYK-6株由来のバニリン酸蓄積株である非特許文献6に記載のSYK-6ΔligMΔdesA株は、バニリン酸を分解しないものの、バニリン酸のアナログであるシリンガ酸の分解能も失っており、メチオニン非存在下ではH型リグニン由来の芳香族化合物を炭素源として増殖できない。したがって、SYK-6株を用いてバニリン酸を製造しようとする場合、S型リグニンを多く含む広葉樹などを利用できず、使用できるバイオマスの種類が限られるという問題がある。
【0014】
特許文献2に記載のバニレート -デメチラーゼ遺伝子を不活化し、かつSYK-6株のアセトバニロン酵素遺伝子群を導入してなる形質転換NGC7株は、アセトバニロンからバニリン酸を生産することができる。得られた形質転換NGC7株は、NGC7株の資化性を継続し、シリンガ酸を分解することができ、H型リグニン由来の芳香族化合物を炭素源として増殖できる。
【0015】
しかし、上記形質転換NGC7株は、SYK-6株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群がコードする酵素の活性が低いために、アセトバニロンからのバニリン酸への変換反応は依然として遅い。さらに、SYK-6株のアセトバニロン酵素遺伝子群は8遺伝子という多くの遺伝子からなり、該アセトバニロン酵素遺伝子群を用いて他の微生物を形質転換することは、手間がかかり、複雑であるという問題がある。
【0016】
また、これまでに、SYK-6株が保有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群と比べて、より少ない遺伝子数により、高効率でアセトバニロンからバニリン酸へ変換することができる遺伝子群及び該遺伝子群を保有する微生物は知られていない。
【0017】
そこで、本発明は、スフィンゴビウム・スピーシーズ SYK-6株が保有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群と比べて、より少ない遺伝子から構成され、かつ高効率でアセトバニロンからバニリン酸へ変換することができる遺伝子群及び該遺伝子群を保有する微生物、並びにこれらを利用したアセトバニロンからのバニリン酸の製造方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題の解決を試みるために、日本全国の土壌を採取して、アセトバニロンを資化する可能性がある微生物を単離することについて鋭意検討した。その結果、アセトバニロンを単一炭素源として増殖することができるシュードモナス属微生物の数株を得て、このうち増殖性の良かった株を選択及び単離することに成功した。
【0019】
単離したシュードモナス属微生物について、SYK-6株と同様のアセトバニロン変換酵素遺伝子群の存在を確認したところ、驚くべきことに、アセトバニロン変換酵素遺伝子群の各遺伝子と高い配列同一性を有する遺伝子の存在は認められなかった。すなわち、単離したシュードモナス属微生物は、SYK-6株とは異なる酵素システムによってアセトバニロンを代謝することが推定された。
【0020】
そこで、さらに試行錯誤を繰り返した結果、本発明者らは遂に、単離したシュードモナス属微生物において、アセトバニロン変換酵素遺伝子群の存在を見出すことに成功した。驚くべきことに、このアセトバニロン変換酵素遺伝子群は、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素をコードする遺伝子が2種類と、α-ヒドロキシアセトバニロンをバニリン酸へ変換する反応を触媒する活性を有する酵素をコードする遺伝子が1種類との合計3種類の遺伝子からなるものであった。
【0021】
そして、このアセトバニロン変換酵素遺伝子群をバニレート -デメチラーゼ遺伝子を不活化した形質転換NGC7株に導入したところ、驚くべきことに、特許文献2に記載の形質転換NGC7株を用いる場合と比べて、高効率でアセトバニロンからバニリン酸を生産することができた。
【0022】
さらに、単離したシュードモナス属微生物はバニリン酸を資化する性質を有していた。そこで、本発明者らは試行錯誤を繰り返すことにより、単離したシュードモナス属微生物におけるバニレート -デメチラーゼ遺伝子の存在を見出し、このバニレート -デメチラーゼ遺伝子を不活化したところ、アセトバニロンからバニリン酸を生産することができた。
【0023】
上記した知見及び成功例を基にして、本発明者らは、遂に、本発明の課題を解決するものとして、高効率でアセトバニロンからバニリン酸へ変換することができ、かつ関連する遺伝子数が少ない遺伝子群及び該遺伝子群を保有する微生物、並びにこれらを利用したアセトバニロンからのバニリン酸の製造方法を創作することに成功した。本発明は、これらの本発明者らによって初めて得られた知見及び成功例に基づき完成された発明である。
【0024】
したがって、本発明の一側面によれば、以下の各一態様が提供される。
[1]acpA遺伝子及びacpB遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物。
[2]前記形質転換微生物は、宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)である、[1]に記載の形質転換微生物。
[3]アセトバニロンを、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は[1]若しくは[2]に記載の形質転換微生物に作用させることにより、α-ヒドロキシアセトバニロンを得る工程
を含む、α-ヒドロキシアセトバニロンの製造方法。
[4]acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物。
[5]前記形質転換微生物は、宿主微生物が染色体上にあるバニレート -デメチラーゼ遺伝子を欠失しているシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)の形質転換微生物である、[4]に記載の形質転換微生物。
[6]アセトバニロンを、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は[4]若しくは[5]に記載の形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程
を含む、バニリン酸の製造方法。
[7]前記形質転換微生物は、宿主微生物が染色体上にあるpobA遺伝子を欠失しているシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)の形質転換微生物である、[4]又は[5]に記載の形質転換微生物。
[8]4’-ヒドロキシアセトフェノンを、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は[7]に記載の形質転換微生物に作用させることにより、4-ヒドロキシ安息香酸を得る工程
を含む、4-ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
[9]下記(1)~(4)のいずれかのヌクレオチド配列であって、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する、及び/又は4’-ヒドロキシアセトフェノンを2,4’-ジヒドロキシアセトフェノンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpA遺伝子。
(1)配列表の配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ該配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列において、塩基数100個からなる一単位あたり、1個~10個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有するヌクレオチド配列
(2)配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列からなる遺伝子と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列
(3)配列番号50に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
(4)配列番号50に記載のアミノ酸配列において、アミノ酸数100個からなる一単位あたり、1個~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
[10]下記(1)~(4)のいずれかのヌクレオチド配列であって、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する、及び/又は4’-ヒドロキシアセトフェノンを2,4’-ジヒドロキシアセトフェノンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpB遺伝子。
(1)配列表の配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ該配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列において、塩基数100個からなる一単位あたり、1個~10個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有するヌクレオチド配列
(2)配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列からなる遺伝子と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列
(3)配列番号51に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
(4)配列番号51に記載のアミノ酸配列において、アミノ酸数100個からなる一単位あたり、1個~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
[11]シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)。
[12]宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)であり、及び
染色体上にある、バニレート -デメチラーゼ遺伝子が欠失している、
形質転換微生物。
[13]前記バニレート -デメチラーゼ遺伝子は、vanA3遺伝子(配列番号23)及びvanB3遺伝子(配列番号24)からなる群から選ばれる少なくとも1種のバニレート -デメチラーゼ遺伝子である、[12]に記載の形質転換微生物。
[14]アセトバニロンを、[12]又は[13]に記載の形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程
を含む、バニリン酸の製造方法。
[15]宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)であり、及び
染色体上にある、4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子が欠失している、
形質転換微生物。
[16]前記4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子は、PobA1遺伝子(配列番号61)及びpobA2遺伝子(配列番号62)からなる群から選ばれる少なくとも1種の4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子である、[15]に記載の形質転換微生物。
[17]4’-ヒドロキシアセトフェノンを、請求項15又は16に記載の形質転換微生物に作用させることにより、4-ヒドロキシ安息香酸を得る工程
を含む、4-ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【0025】
また、本発明の別の一側面によれば、以下の各一態様が提供される。
[1]下記(1)~(4)のいずれかのヌクレオチド配列であって、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpA遺伝子。
(1)配列表の配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ該配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列において、塩基数100個からなる一単位あたり、1個~10個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有するヌクレオチド配列
(2)配列番号1又は4に記載のヌクレオチド配列からなる遺伝子と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列
(3)配列番号50に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
(4)配列番号50に記載のアミノ酸配列において、アミノ酸数100個からなる一単位あたり、1個~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
[2]下記(1)~(4)のいずれかのヌクレオチド配列であって、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpB遺伝子。
(1)配列表の配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ該配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列において、塩基数100個からなる一単位あたり、1個~10個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有するヌクレオチド配列
(2)配列番号2又は5に記載のヌクレオチド配列からなる遺伝子と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列
(3)配列番号51に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
(4)配列番号51に記載のアミノ酸配列において、アミノ酸数100個からなる一単位あたり、1個~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
[3][1]~[2]に記載のacpA遺伝子及びacpB遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物。
[4]前記形質転換微生物は、宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)である、[3]に記載の形質転換微生物。
[5]アセトバニロンを、[1]及び[2]に記載のacpA遺伝子及びacpB遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は[3]に記載の形質転換微生物に作用させることにより、α-ヒドロキシアセトバニロンを得る工程
を含む、α-ヒドロキシアセトバニロンの製造方法。
[6]さらに下記(1)~(4)のいずれかのヌクレオチド配列であって、α-ヒドロキシアセトバニロンをバニリン酸へ変換する反応を触媒する活性を有する酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、acpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、[3]に記載の形質転換微生物。
(1)配列表の配列番号3又は6に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ該配列番号3又は6に記載のヌクレオチド配列において、塩基数100個からなる一単位あたり、1個~10個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有するヌクレオチド配列
(2)配列番号3又は6に記載のヌクレオチド配列からなる遺伝子と80%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列
(3)配列番号52に記載のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
(4)配列番号52に記載のアミノ酸配列において、アミノ酸数100個からなる一単位あたり、1個~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
[7]前記形質転換微生物は、宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)である、[6]に記載の形質転換微生物。
[8]前記形質転換微生物は、宿主微生物が染色体上にあるバニレート -デメチラーゼ遺伝子を欠失しているシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)である、[6]に記載の形質転換微生物。
[9]アセトバニロンを、[1]及び[2]並びに[6]に記載のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の発現産物に作用させることにより、又は[6]に記載の形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程
を含む、バニリン酸の製造方法。
[10]シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)。
[11]宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)であり、及び
染色体上にある、バニレート -デメチラーゼ遺伝子が欠失している、
形質転換微生物。
[12]前記バニレート -デメチラーゼ遺伝子は、vanA3遺伝子(配列番号23)及びvanB3遺伝子(配列番号24)からなる群から選ばれる少なくとも1種のバニレート -デメチラーゼ遺伝子である、[11]に記載の形質転換微生物。
[13]アセトバニロンを、[10]又は[11]に記載の形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程
を含む、バニリン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、スフィンゴビウム・スピーシーズ SYK-6株が保有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合と比べて、高効率でアセトバニロンからバニリン酸へ変換することができる。また、本発明によれば、SYK-6株が保有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群よりも少ない遺伝子を利用することから、簡便にアセトバニロンからバニリン酸へ変換することができる。
【0027】
アセトバニロンは、現在の工業レベルで行われている木材パルプ製造工程におけるリグニン分解方法であるクラフト蒸解及びソーダ蒸解後の廃液(黒液)に含まれる主要な芳香族化合物である。しかし、木材パルプ製造過程で発生する黒液は濃縮後に回収ボイラ一で焼却され、熱源として利用されるに留まっている。本発明によれば、これまで工業副産物とされていたアセトバニロンを、有用物質であるバニリン酸への変換を通じて、資源化することが期待される。また、本発明によれば、工業的規模で得られるアセトバニロンから簡便かつ高効率でバニリン酸を生産することができることから、工業的規模でバニリン酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A図1Aは、受託番号NITE P-03794(シュードモナス・スピーシーズ MHK4株)の受託証の写しである。
図1B図1Bは、受託番号NITE P-03794(シュードモナス・スピーシーズ MHK4株)の生存に関する証明書の写しである。
図2図2は、後述する実施例に記載するとおり、NGC7Δaph(pSEVAacpAB)株(OD600が10.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのα-ヒドロキシアセトバニロンへの変換結果を示した図である。(A)反応開始直後のHPLCクロマトグラムを示す。(B)反応開始8時間後のHPLCクロマトグラムを示す。(C)反応開始8時間後に生成したα-ヒドロキシアセトバニロンのHPLC-MS(ESI-MS)分析結果を示す。
図3図3は、後述する実施例に記載するとおり、アセトバニロン(AV)とNGC7Δaph[pSEVAacpCAB]株(OD600が10.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸への変換結果を示した図である。(A)反応開始直後のHPLCクロマトグラムを示す。(B)反応開始2時間後のHPLCクロマトグラムを示す。
図4図4は、後述する実施例に記載するとおり、AcpA粗酵素溶液及びアセトバニロン(AV)を用いた反応結果を示した図である。(A)反応開始直後のHPLCクロマトグラムを示す。(B)反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを示す。
図5図5は、後述する実施例に記載するとおり、AcpB粗酵素溶液及びアセトバニロン(AV)を用いた反応結果を示した図である。(A)反応開始直後のHPLCクロマトグラムを示す。(B)反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを示す。
図6図6は、後述する実施例に記載するとおり、AcpA粗酵素溶液、AcpB粗酵素溶液及びアセトバニロン(AV)を用いた反応結果を示した図である。(A)反応開始直後のHPLCクロマトグラムを示す。(B)反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを示す。
図7図7は、後述する実施例に記載するとおり、AcpA粗酵素溶液、AcpB粗酵素溶液、AcpC粗酵素溶液及びアセトバニロン(AV)を用いた反応結果を示した図である。(A)反応開始直後のHPLCクロマトグラムを示す。(B)反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを示す。
図8A図8Aは、後述する実施例に記載するとおり、NGC7Δaph[pSEVAacv+pTS093vce]株を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図8B図8Bは、後述する実施例に記載するとおり、NGC7Δaph[pSEVAacpCAB opt]株を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図9図9は、後述する実施例に記載するとおり、NGC7Δaph[pSEVAacv+pTS093vce]株及びNGC7Δaph[pSEVAacpCAB opt]株をアセトバニロンを炭素源とした培地で培養した寒天培地の撮影写真である。
図10A図10Aは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729[pSEVAacpCAB opt]株(OD600が5.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図10B図10Bは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729::P tac acpCAB opt株(OD600が5.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図11A図11Aは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729[pSEVAacpCAB opt]株(OD600が1.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図11B図11Bは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729::P tac acpCAB opt株(OD600が1.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図12A図12Aは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株(OD600が5.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図12B図12Bは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729[pSEVAacv opt+pTS093vce opt]株(OD600が5.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図13A図13Aは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株によるリグニン分解物の分解性を評価し、アセトバニロン(AV)濃度、バニリン(VN)濃度、バニリン酸(VA)濃度及びグルコース濃度並びにOD600を経時的に測定した結果を示した図である。
図13B図13Bは、後述する実施例に記載するとおり、NGC729::P tac acpCAB opt株によるリグニン分解物の分解性を評価し、アセトバニロン(AV)濃度、バニリン(VN)濃度、バニリン酸(VA)濃度及びグルコース濃度並びにOD600を経時的に測定した結果を示した図である。
図14図14は、後述する実施例に記載するとおり、MHK4株及びMHK4ΔvanA3B3株(OD600が5.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたバニリン酸(VA)の分解性の結果を示した図である。
図15図15は、後述する実施例に記載するとおり、MHK4ΔvanA3B3株(OD600が5.0になるように調製した細胞懸濁液)を用いたアセトバニロン(AV)からのバニリン酸(VA)への変換結果を示した図である。
図16図16は、後述する実施例に記載するとおり、MHK4株及びSYK-6株を用いたアセトバニロン(AV)の分解性の結果を示した図である。
図17ABCDEFGH図17ABCDEFGHは、後述する実施例に記載するとおり、アセトバニロン(AV)、Acetophenone、4’-ヒドロキシアセトフェノン(HAP)、3’,5’-dimethoxy-4’-hydroxyacetophenone、3’,4’-dihydroxyacetophenone、3’,4’-dimethoxyacetophenone、3’-hydroxy-4’-methoxyacetophenone及び3’-methoxyacetophenoneを基質として、AcpAB酵素による酵素反応に供した結果を示した図である。
図17IJKLMNOP図17IJKLMNOPは、後述する実施例に記載するとおり、3’-hydroxyacetophenone、3’,4’,5’-trimethoxyacetophenone、4’-hydroxypropiophenone、4’-hydroxybutyrophenone、2-methoxy-4-methylphenol、2-methoxy-4-ethylphenol、バニリン酸(VA)及び4’-ヒドロキシ安息香酸(HBA)を基質として、AcpAB酵素による酵素反応に供した結果を示した図である。
図18図18は、後述する実施例に記載するとおり、α-ヒドロキシアセトバニロンを基質として、AcpC粗酵素溶液による酵素反応に供した結果を示した図である。図18Aは、反応開始直後の結果、図18Bは反応開始1時間後の結果を示した図である。
図19図19は、後述する実施例に記載するとおり、2,4’-dihydroxyacetophenoneを基質として、AcpC粗酵素溶液による酵素反応に供した結果を示した図である。図19Aは、反応開始直後の結果、図19Bは反応開始1時間後の結果を示した図である。
図20図20は、後述する実施例に記載するとおり、後述する実施例に記載するとおり、α-ヒドロキシアセトシリンゴンを基質として、AcpC粗酵素溶液による酵素反応に供した結果を示した図である。図20Aは、反応開始直後の結果、図20Bは反応開始1時間後の結果を示した図である。
図21図21は、後述する実施例に記載するとおり、NGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株を用いた4’-ヒドロキシアセトフェノン(HAP)から4-ヒドロキシ安息香酸(HBA)への変換反応の結果を示した図である。
図22図22は、後述する実施例に記載するとおり、NGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株を用いた4’-ヒドロキシアセトフェノン(HAP)及びアセトバニロン(AV)の混合物から4’-ヒドロキシ安息香酸(HBA)への変換反応の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0030】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、微生物学分野などの技術分野の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0031】
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーター等の制限事項等が挙げられる。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0032】
「遺伝子の欠失」は、遺伝子が正常に転写されないこと、遺伝子の発現によって産生されるべき酵素(タンパク質)が正常に翻訳されないことなどのように、遺伝子が正常に機能せずに遺伝子の発現が妨げられていることを意味する。遺伝子の欠失は、例えば、遺伝子の全部又は一部が破壊、欠損、置換、導入などにより遺伝子の構造が変化することによって生じ得る。ただし、遺伝子の欠失は、遺伝子の構造に変化が生じずに、例えば、遺伝子の制御領域をブロックするなどの手段によって遺伝子の発現が抑えられることによっても生じ得る。
「遺伝子の発現」は、転写や翻訳などを介して、遺伝子のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有する酵素(遺伝子によってコードされる酵素)が本来の構造及び活性を備えるように生産されることを意味する。「遺伝子の発現産物」は、遺伝子に対応して生産される酵素を意味する。
「遺伝子の過剰発現」は、遺伝子が導入されたことにより、宿主微生物が本来発現する量を超えて、該遺伝子によってコードされる酵素が生産されることを意味する。
「野生型微生物」は、天然に存在する、人為的に遺伝子組換えされていない微生物を意味する。「野生型遺伝子」は、野生型微生物のゲノムDNA上に本来的に存在する遺伝子を意味する。「野生型酵素」は、野生型遺伝子によってコードされる酵素を意味する。なお、本明細書において、ゲノム及び染色体は同義語である。
「外来遺伝子」は、導入される該微生物がそのゲノムDNA上に本来的に有していない遺伝子を意味し、異種遺伝子ともよぶ。
「高効率」での変換とは、ある物質が別の物質に迅速に変換すること、及び/又はある物質が別の物質に実質的に完全に変換することを意味する。
【0033】
(アセトバニロン変換酵素遺伝子群の特徴)
本発明者らは、新たなアセトバニロン変換酵素遺伝子群を有する微生物として、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)(以下、MHK4株ともよぶ。)を単離した。また、本発明者らは、MHK4株が有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群は、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の3遺伝子からなることを解明した。
【0034】
MHK4株が保有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群は、アセトバニロンからバニリン酸を生産する上で、スフィンゴビウム・スピーシーズ(Sphingobium sp.)SYK-6株(以下、SYK-6株ともよぶ。)に由来するacvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子及びacvF遺伝子並びにvceA遺伝子及びvceB遺伝子からなるアセトバニロン変換酵素遺伝子群に対して、以下の特徴がある。
【0035】
SYK-6株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、(1)アセトバニロンのリン酸化、(2)リン酸化産物の脱リン酸化、(3)脱リン酸化産物のカルボキシル化、(4)カルボキシル化産物へのCoA付加を伴ったCα-Cβ開裂及び(5)CoAチオエステルの加水分解反応という少なくとも五段階の反応を経てアセトバニロンをバニリン酸へ変換する。それに対して、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、(1)アセトバニロンのアセチル基の水酸化及び(2)α-ヒドロキシアセトバニロンのヒドロキシメチル基の酸化的開裂というわずか二段階の反応でアセトバニロンをバニリン酸へ変換することが可能である。したがって、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用すると、より迅速にアセトバニロンをバニリン酸へ変換することが期待できる。
【0036】
SYK-6株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、アセトバニロンのバニリン酸への変換には合計2分子のATPを要求する。それに対して、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、アセトバニロンのバニリン酸への変換にはATPを要求しない。したがって、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用すると、微生物は細胞内ATPの消費を低減しながらアセトバニロンを代謝及び分解することが期待できる。
【0037】
SYK-6株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、合計8種の酵素遺伝子を宿主微生物に導入して形質転換微生物を作製する。それに対して、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、合計3種の酵素遺伝子を導入して形質転換微生物を作製する。したがって、アセトバニロン変換酵素遺伝子群を組み込んだプラスミドを宿主微生物に導入する場合、SYK-6株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群はその全てを1種のプラスミドに組み込むことができないのに対して、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群はその全てを1種のプラスミドに組み込むことが可能である。
【0038】
以上のようなSYK-6株とMHK4株との間のアセトバニロン変換酵素遺伝子群の作用メカニズムの違いにより、アセトバニロン変換酵素遺伝子群を組み込んだプラスミドを宿主微生物としてシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)に導入した形質転換微生物によりアセトバニロンからバニリン酸を変換する場合、SYK-6株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群に対して、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群は、簡便かつ高効率でアセトバニロンからバニリン酸を生産することができる。
【0039】
工業レベルでのリグニンの酸化分解によって生成するアセトバニロンについて、微生物による代謝系が明らかにされていたのはSYK-6株及びSYK-6株と類似のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を有するGD02株のみであった。SYK-6株等のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、遺伝子数が多くて複雑であり、かつアセトバニロンの変換速度が遅いことから、アセトバニロンからの有用物質生産に貢献できていないのが実情である。しかし、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を利用する場合、SYK-6株等のアセトバニロン変換酵素遺伝子群と比べて、より少ない遺伝子で、速やかにアセトバニロンをバニリン酸へ変換できることから、簡便かつ高効率でアセトバニロンからの有用物質生産を行うことが期待される。
【0040】
acpA遺伝子及びacpB遺伝子)
MHK4株が保有するアセトバニロン変換酵素遺伝子群によるアセトバニロンからバニリン酸への変換は、以下のスキーム(I)に示されるとおりになされると推定される。
【0041】
【化1】
スキーム(I)
【0042】
まず、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の遺伝子産物であるAcpA酵素及びAcpB酵素により、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する。次いで、acpC遺伝子の遺伝子産物であるAcpC酵素により、α-ヒドロキシアセトバニロンをバニリン酸へ変換する。また、AcpA酵素及びAcpB酵素により、4’-ヒドロキシアセトフェノン(4’-hydroxyacetophenone;HAP)を2,4’-ジヒドロキシアセトフェノン(2,4’-dihydroxyacetophenone;DHAP)へ変換する。次いで、AcpC酵素により、DHAPを4-ヒドロキシ安息香酸(4-hydroxybenzoic acid;HBA)へ変換する。
【0043】
AcpA酵素及びAcpB酵素は、それぞれ単独で機能するのではなく、それぞれサブコンポーネントとして複合体化して、一つの酵素(AcpAB酵素)として機能する可能性が高い。本明細書では、便宜上、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の遺伝子産物をそれぞれAcpA酵素及びAcpB酵素とよぶが、実際にはこれらが複合体化したAcpAB酵素である可能性があり、該可能性は妨げられない。
【0044】
本発明の一態様のacpA遺伝子は、AcpA酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子である。本発明の一態様のacpB遺伝子は、AcpB酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子である。
【0045】
AcpA酵素及びAcpB酵素は、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換する反応を触媒する活性を有する酵素である。また、AcpA酵素及びAcpB酵素は、HAP、3’,4’-dihydroxyacetophenone、4’-hydroxypropiophenone及び4’-hydroxybutyrophenoneに対して分解活性を有する。例えば、AcpA酵素及びAcpB酵素は、HAPをDHAPへ変換する反応を触媒する活性を有する。AcpA酵素及びAcpB酵素は該活性を有するものである限り、それぞれのアミノ酸配列は特に限定されない。
【0046】
MHK4株のacpA遺伝子によってコードされるAcpA酵素のアミノ酸配列は、配列番号50に記載のアミノ酸配列である。MHK4株のacpB遺伝子によってコードされるAcpB酵素のアミノ酸配列は、配列番号51に記載のアミノ酸配列である。
【0047】
AcpA酵素及びAcpB酵素のアミノ酸配列は、野生型酵素のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などを有するアミノ酸配列であってもよい。ここで、アミノ酸配列の「1から数個のアミノ酸の欠失、置換、付加」における「1から数個」の範囲は特に限定されないが、例えば、アミノ酸配列におけるアミノ酸数100個を一単位とすれば、該一単位あたり、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20個であり、より好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個であり、さらに好ましくは1、2、3、4又は5個である。また、「アミノ酸の欠失」とは配列中のアミノ酸残基の欠落又は消失を意味し、「アミノ酸の置換」は配列中のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換えられていることを意味し、「アミノ酸の付加」とは配列中に新たなアミノ酸残基が挿入するように付け加えられていることを意味する。
【0048】
「1から数個のアミノ酸の欠失、置換、付加」の具体的な態様としては、1から数個のアミノ酸が別の化学的に類似したアミノ酸で置き換えられた態様がある。例えば、ある疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸に置換する場合、ある極性アミノ酸を同じ電荷を有する別の極性アミノ酸に置換する場合などを挙げることができる。このような化学的に類似したアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において知られている。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ塩基性アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0049】
野生型酵素が有するアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などを有するアミノ酸配列としては、野生型酵素が有するアミノ酸配列と一定以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が挙げられ、例えば、野生型酵素が有するアミノ酸配列と配列同一性が50%以上であり、好ましくは60%以上又は65%以上であり、より好ましくは70%以上又は75%以上であり、さらに好ましくは80%以上又は85%以上であり、なおさらに好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上であるアミノ酸配列などが挙げられる。該配列同一性の上限は特に限定されず、典型的には100%である。
【0050】
後述する実施例に記載したとおり、MHK4株が有するAcpA酵素及びAcpB酵素をそれぞれコードするacpA遺伝子及びacpB遺伝子は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440株由来の酸素添加型バニレート -デメチラーゼのオキシゲナーゼコンポーネント(VanA)をコードする遺伝子及びオキシドレダクターゼコンポーネント(VanB)をコードする遺伝子とそれぞれ33.6%及び44.1%の配列同一性を示した。これらのことから、MHK4株が有するAcpA酵素及びAcpB酵素は、モノオキシゲナーゼ、具体的にはAcpA酵素がオキシゲナーゼコンポーネントであり、AcpB酵素がオキシドレダクターゼコンポーネントであると推定される。したがって、MHK4株が有するAcpA酵素のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノオキシゲナーゼのオキシゲナーゼコンポーネントであると推定される酵素は、AcpA酵素として利用し;MHK4株が有するAcpB酵素のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつモノオキシゲナーゼのオキシドレダクターゼコンポーネントであると推定される酵素は、AcpB酵素として利用してもよい。
【0051】
AcpA酵素及びAcpB酵素を入手する方法は特に限定されないが、例えば、AcpA酵素及びAcpB酵素の発現が認められるMHK4株などの野生型微生物又はAcpA酵素及びAcpB酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子を導入した形質転換微生物を培養し、次いで培養上清として、若しくは培養後の微生物の破砕物として、又はこれらから精製して、AcpA酵素及びAcpB酵素を回収することを含む方法などが挙げられる。例えば、AcpA酵素及びAcpB酵素が培養上清に存在する場合、培養上清から、硫安沈殿などの手段によりAcpA酵素及びAcpB酵素を含む酵素濃縮液を得て、次いでゲルろ過クロマトグラフィー、SDS-PAGEなどの手段により分子量を指標としてAcpA酵素及びAcpB酵素を分離することができる。なお、配列番号50及び51に示すアミノ酸配列を有するAcpA酵素及びAcpB酵素の構成元素から算出される理論分子量は、それぞれ約39,000及び約35,000である。
【0052】
本発明の一態様のacpA遺伝子及びacpB遺伝子は、それぞれAcpA酵素及びAcpB酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むものであれば特に限定されない。acpA遺伝子及びacpB遺伝子が生物体内で発現することによりAcpA酵素及びAcpB酵素が生産される。
【0053】
acpA遺伝子及びacpB遺伝子は、野生型遺伝子であってもよく、野生型遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する遺伝子であってもよい。
【0054】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列」は、野生型遺伝子のヌクレオチド配列を有するDNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAのヌクレオチド配列を意味する。
【0055】
「ストリンジェントな条件」は、特異的なハイブリッドのシグナルが非特異的なハイブリッドのシグナルと明確に識別される条件であり、使用するハイブリダイゼーションの系と、プローブの種類、配列及び長さによって異なる。そのような条件は、ハイブリダイゼーションの温度を変えること、洗浄の温度及び塩濃度を変えることにより決定可能である。例えば、非特異的なハイブリッドのシグナルまで強く検出されてしまう場合には、ハイブリダイゼーション及び洗浄の温度を上げるとともに、必要により洗浄の塩濃度を下げることにより特異性を上げることができる。また、特異的なハイブリッドのシグナルも検出されない場合には、ハイブリダイゼーション及び洗浄の温度を下げるとともに、必要により洗浄の塩濃度を上げることにより、ハイブリッドを安定化させることができる。
【0056】
ストリンジェントな条件の具体例としては、例えば、プローブとしてDNAプローブを用い、ハイブリダイゼーションは、5×SSC、1.0%(w/v) 核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬(ロシュ・ダイアグノスティクス社)、0.1%(w/v) N-ラウロイルサルコシン、0.02%(w/v) SDSを用い、一晩(8時間~16時間程度)で行う。洗浄は、0.1~0.5×SSC、0.1%(w/v) SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%(w/v) SDSを用い、15分間、2回行う。ハイブリダイゼーション及び洗浄を行う温度は65℃以上、好ましくは68℃以上である。
【0057】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する遺伝子としては、例えば、コロニー若しくはプラーク由来の野生型遺伝子のヌクレオチド配列を有するDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることによって得られるDNAや0.5M~2.0MのNaCl存在下にて、40℃~75℃でハイブリダイゼーションを実施した後、好ましくは0.7M~1.0MのNaCl存在下にて、65℃でハイブリダイゼーションを実施した後、0.1~1×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAなどを挙げることができる。プローブの調製やハイブリダイゼーションの方法は、Molecular Cloning:A laboratory Manual,2nd-Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.,1989、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1-38,John Wiley&Sons,1987-1997(以下、これらの文献を参考技術文献とよぶ場合がある。)などに記載されている方法に準じて実施することができる。なお、当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度や温度などの条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブ長さ、反応時間などの諸条件を加味して、野生型遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する遺伝子を得るための条件を適宜設定することができる。
【0058】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む遺伝子としては、プローブとして使用する野生型遺伝子のヌクレオチド配列を有する遺伝子のヌクレオチド配列と一定以上の配列同一性を有する遺伝子が挙げられ、例えば、野生型遺伝子のヌクレオチド配列と配列同一性が50%以上であり、好ましくは60%以上又は65%以上であり、より好ましくは70%以上又は75%以上であり、さらに好ましくは80%以上又は85%以上であり、なおさらに好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上であるヌクレオチド配列を有する遺伝子が挙げられる。該配列同一性の上限は特に限定されず、典型的には100%である。
【0059】
野生型遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列としては、例えば、ヌクレオチド配列におけるヌクレオチド数100個を一単位とすれば、野生型遺伝子のヌクレオチド配列において、該一単位あたり、1から数個、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20個、より好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個、さらに好ましくは1、2、3、4又は5個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などを有するヌクレオチド配列を含む。ここで、「ヌクレオチドの欠失」とは配列中のヌクレオチドに欠落又は消失があることを意味し、「ヌクレオチドの置換」は配列中のヌクレオチドが別のヌクレオチドに置き換えられていることを意味し、「ヌクレオチドの付加」とは新たなヌクレオチドが挿入するように付け加えられていることを意味する。
【0060】
野生型遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する遺伝子によってコードされる酵素は、野生型遺伝子のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などを有するアミノ酸配列を有する酵素である蓋然性があるが、野生型遺伝子のヌクレオチド配列によってコードされる酵素と同じ活性を有するものである。
【0061】
acpA遺伝子及びacpB遺伝子の具体的態様は、配列番号1及び2に記載のヌクレオチド配列を有する、MHK4株由来のacpA遺伝子及びacpB遺伝子である。
【0062】
acpA遺伝子及びacpB遺伝子は、1つのアミノ酸に対応するコドンが数種類あることを利用して、野生型遺伝子のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列であって、野生型遺伝子と異なるヌクレオチド配列、例えば、コドン、二次構造、GC含量などを最適化したヌクレオチド配列を含むものであってもよい。例えば、MHK4株由来のacpA遺伝子及びacpB遺伝子のヌクレオチド配列に対してコドン改変が施されたヌクレオチド配列としては、例えば、配列番号4及び5に記載のヌクレオチド配列などが挙げられる。コドン改変が施されたヌクレオチド配列は、例えば、宿主微生物において発現し易いようにコドン改変が施されたヌクレオチド配列であることが好ましい。
【0063】
ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の配列同一性を求める方法は特に限定されないが、例えば、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の配列同一性は、通常知られる方法を利用して、野生型遺伝子のヌクレオチド配列及び野生型遺伝子が発現する野生型酵素のアミノ酸配列と対象となるヌクレオチド配列及びアミノ酸配列とをアラインメントし、両者の配列の一致率を算出するためのプログラムを用いることにより求められる。具体的には、特許文献2の項目(配列同一性を算出するための手段)を参照して求めることができる。
【0064】
acpC遺伝子)
acpC遺伝子は、AcpC酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子である。
【0065】
AcpC酵素は、α-ヒドロキシアセトバニロンをバニリン酸へ変換する反応を触媒する活性を有する酵素である。また、AcpC酵素は、DHAPをHBAへ変換する反応を触媒する活性を有する。AcpC酵素は該活性を有するものである限り、アミノ酸配列は特に限定されない。
【0066】
MHK4株のacpC遺伝子によってコードされるAcpC酵素のアミノ酸配列は、配列番号52に記載のアミノ酸配列である。
【0067】
AcpC酵素のアミノ酸配列は、野生型酵素のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などを有するアミノ酸配列であってもよい。
【0068】
後述する実施例に記載したとおり、MHK4株が有するAcpC酵素をコードするacpC遺伝子は、バークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)AZ11株及びアルカリジェネス・スピーシーズ(Alcaligenes sp.)4HAP株の2,4’-ジヒドロキシアセトフェノン・ジオキシゲナーゼ(DAD)とそれぞれ81%及び99%のアミノ酸配列同一性を示した。このことから、MHK4株が有するAcpC酵素は、2,4’-ジヒドロキシアセトフェノン・ジオキシゲナーゼであると推定される。したがって、MHK4株が有するAcpC酵素のアミノ酸配列と50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ2,4’-ジヒドロキシアセトフェノン・ジオキシゲナーゼであると推定される酵素は、AcpC酵素として利用してもよい。
【0069】
AcpC酵素は、AcpA酵素及びAcpB酵素と同様に入手することができる。なお、配列番号52に示すアミノ酸配列を有するAcpC酵素の構成元素から算出される理論分子量は、約20,000である。
【0070】
acpC遺伝子は、AcpC酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むものであれば特に限定されない。acpC遺伝子が生物体内で発現することによりAcpC酵素が生産される。
【0071】
acpC遺伝子は、野生型遺伝子であってもよく、野生型遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する遺伝子であってもよい。
【0072】
acpC遺伝子の具体的態様は、配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有する、MHK4株由来のacpC遺伝子である。
【0073】
acpC遺伝子は、野生型遺伝子のヌクレオチド配列に対してコドン、二次構造、GC含量などが最適化されたヌクレオチド配列を含むものであってもよい。例えば、MHK4株由来のacpC遺伝子のヌクレオチド配列に対してコドン改変が施されたヌクレオチド配列としては、配列番号6に記載のヌクレオチド配列などが挙げられる。
【0074】
(遺伝子の由来)
acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子は、例えば、アセトバニロンの分解能を有する微生物及びこれらの酵素の発現が見られる微生物などに由来する。acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の由来微生物としては、例えば、MHK4株を含むシュードモナス(Pseudomonas)属微生物、バークホルデリア(Burkholderia)属微生物、アルカリジェネス(Alcaligenes)属微生物、スフィンゴビウム(Sphingobium)属微生物、ロドコッカス(Rhodococcus)属微生物、アルスロバクター(Arthrobacter)属微生物などが挙げられ、MHK4株及びその近縁種が好ましい。MHK4株の近縁種は、MHK4株と16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列の同一性が99.0%~99.9%であるシュードモナス属微生物をいう。
【0075】
また、MHK4株のacpA遺伝子及びacpB遺伝子のヌクレオチド配列は、シュードモナス・プチダが保有する遺伝子のヌクレオチド配列と一定の配列同一性を有することから、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の由来微生物はシュードモナス属微生物が好ましい。
【0076】
MHK4株のacpC遺伝子のヌクレオチド配列は、バークホルデリア・スピーシーズ AZ11株及びアルカリジェネス・スピーシーズ 4HAP株が保有する遺伝子のヌクレオチド配列と一定の配列同一性を有することから、acpC遺伝子の由来微生物はバークホルデリア属微生物及びアルカリジェネス属微生物が好ましい。なお、acpC遺伝子として、バークホルデリア・スピーシーズ AZ11株及びアルカリジェネス・スピーシーズ 4HAP株が有する2,4’-ジヒドロキシアセトフェノン・ジオキシゲナーゼ遺伝子を使用することができる。
【0077】
acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の由来微生物は、上記に列挙したものを含めて特に限定されないが、これらの遺伝子を導入した形質転換微生物において発現されるAcpA酵素、AcpB酵素及びAcpC酵素が宿主微生物の生育条件によって不活化せず、活性を示すことが好ましいことから、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を導入することによって形質転換すべき宿主微生物と生育条件が近似する微生物であることが好ましい。
【0078】
(形質転換微生物)
本発明の別の一態様は、アセトバニロン変換酵素遺伝子群を外来遺伝子として導入した形質転換微生物である。本発明の第一の態様の形質転換微生物は、acpA遺伝子及びacpB遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物である。本発明の第二の態様の形質転換微生物は、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物である。以下では、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の組み合わせ、並びにacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の組み合わせを、「アセトバニロン変換酵素遺伝子群」と総称する。
【0079】
形質転換微生物は、宿主微生物に、アセトバニロン変換酵素遺伝子群を外来遺伝子として導入することにより作製する。
【0080】
宿主微生物は、アセトバニロン変換酵素遺伝子群を外来遺伝子として導入することができ、かつ導入したアセトバニロン変換酵素遺伝子群を発現することができる微生物であれば特に限定されない。宿主微生物としては、例えば、シュードモナス属微生物、バークホルデリア属微生物、アルカリジェネス属微生物、スフィンゴビウム属微生物、ロドコッカス属微生物、アルスロバクター属微生物、エシェリヒア属微生物、コリネバクテリウム属微生物などが挙げられるが、アセトバニロン分解性の株が属するシュードモナス属微生物、バークホルデリア属微生物、アルカリジェネス属微生物、スフィンゴビウム属微生物、ロドコッカス属微生物及びアルスロバクター属微生物が好ましく、MHK4株のアセトバニロン変換酵素遺伝子群を導入かつ発現できることからシュードモナス属微生物がより好ましい。
【0081】
シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) NGC7株(受託番号:NITE BP-03043)は、H型リグニン由来芳香族化合物、S型リグニン由来芳香族化合物及びG型リグニン由来芳香族化合物に対して資化性を有し、リグニンからの有用物質生産に優れている。そこで、宿主微生物は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株であることが好ましい。
【0082】
宿主微生物は、野生型微生物であっても、野生型微生物を遺伝子組換えして得られる形質転換微生物であっても、いずれでもよい。例えば、宿主微生物がバニリン酸を分解する反応を触媒する活性を有する酵素の遺伝子(例えば、バニレート -デメチラーゼ遺伝子)を有する場合、該宿主微生物にアセトバニロン変換酵素遺伝子群を導入して得られる形質転換微生物は、バニリン酸を生産しても、分解もするので、バニリン酸を蓄積することが困難である。また、形質転換株の選抜のために薬剤選択を利用する場合は、使用する予定の薬剤に対して耐性を示すように機能する薬剤耐性遺伝子は薬剤選択を困難にする。そこで、宿主微生物は、バニリン酸分解酵素の遺伝子を欠失した微生物及び/又は薬剤耐性遺伝子を欠失した微生物であることが好ましい。ただし、野生型微生物にアセトバニロン変換酵素遺伝子群を導入した後に、バニリン酸分解酵素の遺伝子などを欠失して形質転換微生物を得てもよい。
【0083】
バニレート -デメチラーゼは、原則、バニレート -デメチラーゼ オキシゲナーゼコンポーネント(vanillate -demethylase oxygenase component)及びバニレート -デメチラーゼ オキシドレダクターゼコンポーネント(vanillate -demethylase oxidoreductase component)からなる。バニレート -デメチラーゼ オキシゲナーゼコンポーネントをコードする遺伝子はvanA遺伝子とよばれ、バニレート -デメチラーゼ オキシドレダクターゼコンポーネントをコードする遺伝子はvanB遺伝子とよばれる。
【0084】
vanA遺伝子が発現するバニレート -デメチラーゼ オキシゲナーゼコンポーネント(EC 1.14.13.82;以下、VanA酵素ともよぶ。)は、Oxidoreductase componentを介して供給されるNADH又はNADPH由来の電子と、分子状酸素から供給される酸素原子とを利用して、バニリン酸のメチルエーテル結合を開裂し、プロトカテク酸、ホルムアルデヒド及び水を生成する。
【0085】
バニレート -デメチラーゼ オキシゲナーゼコンポーネントは、そのアミノ酸配列中にRieske[2Fe-2S]iron-sulfur domain(W7-V107,PROSITE entry no.PS51296)を有し、該ドメイン中のC及びH(C47、H49、C66、H69)がFe-Sの結合に関わる。
【0086】
vanB遺伝子が発現するバニレート -デメチラーゼ オキシドレダクターゼコンポーネント(EC 1.14.13.82;以下、VanB酵素ともよぶ。)は、NADH又はNADPHから電子を抜き取り、酸素添加酵素(オキシゲナーゼ)へと伝達する酸化還元酵素の一つとして知られている。バニレート -デメチラーゼ オキシドレダクターゼコンポーネントは、バニレート -デメチラーゼ オキシゲナーゼコンポーネントであるVanA酵素にNADH又はNADPH由来の電子を伝達する。
【0087】
バニレート -デメチラーゼ オキシドレダクターゼコンポーネントは、そのアミノ酸配列中に、2Fe-2S Ferredoxin type iron-sulfer binding domain(G229-I316、PROSITE entry no.PS51085)を有し、該アミノ酸配列中のC(C265、C270、C273、C303)がFe-Sの結合に関わる。また、バニレート -デメチラーゼ オキシドレダクターゼコンポーネントは、そのアミノ酸配列中に、NAD-binding domain(L109-D201,Pfam entry no.PF00175)及びFerredoxin reductase type FAD-binding domain(M1-A101、PROSITE entory no.PS51384)を有する。
【0088】
vanA遺伝子の発現産物(VanA酵素)及びvanB遺伝子の発現産物(VanB酵素)が共同して機能することでバニレート -デメチラーゼ(VanAB酵素)を構成する。VanAB酵素は、バニリン酸の脱メチル化を担うが、シリンガ酸を3--メチルガリック酸へ、3--メチルガリック酸をガリック酸へそれぞれ変換することができるので、シリンガ酸 -デメチラーゼ、3--メチルガリック酸 デメチラーゼとしても機能することができる。なお、SYK-6株はシリンガ酸 -デメチラーゼをコードする遺伝子としてdesA遺伝子を有し、バニリン酸/3-O-メチルガリック酸 -デメチラーゼをコードする遺伝子としてligM遺伝子を有する。
【0089】
SYK-6株が有するdesA遺伝子及びligM遺伝子がコードする酵素は、テトラヒドロ葉酸へのメチル転移反応を触媒し、その反応の進行にはテトラヒドロ葉酸を要求する。テトラヒドロ葉酸の再生にはメチオニン、チミジン、プリン生合成などに要求されるC1化合物を供給するC1代謝が必要であることから、これらの酵素はC1代謝と共役して機能させなければならない。これに対し、NGC7株及びMHK4株が発現するバニレート -デメチラーゼは、酸素添加型であり、オキシゲナーゼコンポーネントとオキシドレダクターゼコンポーネントとからなることにより、C1代謝との共役などを要せず、複雑さが低減されている。
【0090】
以上のとおり、vanA遺伝子及びvanB遺伝子は1組の遺伝子セットとして機能すると考えられる。特許文献2に記載があるとおり、NGC7株は、vanA遺伝子及びvanB遺伝子のセットとして、vanA1遺伝子及びvanB1遺伝子の遺伝子セット、vanA2遺伝子及びvanB2遺伝子の遺伝子セット、vanA3遺伝子及びvanB3遺伝子の遺伝子セット、並びにvanA4遺伝子及びvanB4遺伝子セットを有すると想定される。ただし、これらの遺伝子セットのうち、vanA4遺伝子及びvanB4遺伝子のセットがバニリン酸の分解に深く関与していると考えられる。
【0091】
NGC7株が有するVanAB酵素をコードする遺伝子のうち、バニリン酸に直接作用するのはオキシゲナーゼコンポーネントあるvanA4遺伝子である。そこで、宿主微生物がNGC7株である場合、アセトバニロンからバニリン酸の製造を試みる場合は、本発明の一態様の形質転換微生物は、vanA4遺伝子が欠失していることが好ましく、バニリン酸への作用を高度に低減するために、vanA4遺伝子及びvanB4遺伝子の両方が欠失していることがより好ましい。ただし、バニリン酸の収率高めること、バニリン酸の分解をより低減することなどが期待できることから、本発明の一態様の形質転換微生物は、vanA4遺伝子及びvanB4遺伝子に加えて、その他のvanA遺伝子及び/又はvanB遺伝子が欠失していることが好ましい。欠失させるその他のvanA遺伝子及びvanB遺伝子は、特許文献2を参照して、得られる形質転換微生物の資化性その他の性質を加味して適宜選択すればよい。
【0092】
一方、NGC7株が有するpobA遺伝子は、HBAをプロトカテク酸へ変換する活性を有するPobA酵素を発現する。PobA酵素は、4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ(4-hydroxybenzoate monooxygenase)(EC 1.14.13.2又はEC 1.14.13.33)の一種である。そこで、最終生産物をHBAとする場合は、本発明の一態様の形質転換微生物は、pobA遺伝子が欠失していることが好ましい。
【0093】
形質転換微生物を作製する方法、例えば、宿主微生物に遺伝子を導入する方法、宿主微生物の遺伝子を欠失する方法などの方法の詳細は、特許文献2に記載の項目(遺伝子工学的手法による遺伝子のクローニング)、項目(遺伝子を含む組換えベクターの構築)及び項目(形質転換微生物の作製方法)を参照して実施すればよい。なお、組換えベクターを利用する場合、アセトバニロン変換酵素遺伝子群を組み込んだ組換えベクターは、その他の外来遺伝子(異種遺伝子)を含んでもよい。外来遺伝子は宿主微生物に本来的に存在しない(not naturally occuring)遺伝子であれば特に限定されず、例えば、pUC118由来のDNA断片、具体的にはラクトースプロモーター領域(P lac )、薬剤耐性遺伝子、RBS配列などが挙げられる。
【0094】
アセトバニロン変換酵素遺伝子群の宿主微生物への導入方法は特に限定されず、例えば、アセトバニロン変換酵素遺伝子群を組み込んだプラスミドベクターなどのDNAコンストラクトが自律的に増殖して遺伝子を発現するように宿主微生物に導入する方法、相同組換えを利用することにより宿主微生物の染色体上にアセトバニロン変換酵素遺伝子群を組み込む方法などが挙げられるが、菌体あたりのアセトバニロンの分解量が増えることから、宿主微生物の染色体上にアセトバニロン変換酵素遺伝子群を組み込む方法が好ましい。
【0095】
(形質転換微生物の具体的な一実施態様)
形質転換微生物の具体的な一態様は、宿主微生物が大腸菌であって、acpA遺伝子、acpB遺伝子及び/又はacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物(1)である。形質転換微生物(1)を用いることにより、AcpA酵素、AcpB酵素及びAcpC酵素を得ることができる。形質転換微生物(1)の具体例は、後述する実施例に記載がある、BL21(DE3)[pE16acpA]株、BL21(DE3)[pE16acpB]株及びBL21(DE3)[pE16acpC]株である。
【0096】
形質転換微生物の具体的な一態様は、宿主微生物がNGC7株であって、acpA遺伝子及びacpB遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物(2)である。形質転換微生物(2)は、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換することができる。また、形質転換微生物(2)は、HAPをDHAPへ変換することができる。
【0097】
形質転換微生物の具体的な別の一態様は、宿主微生物がNGC7株であって、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物(3)である。形質転換微生物(3)は、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンを介してバニリン酸へ変換することができる。ただし、NGC7株はバニリン酸の資化能を有することから、形質転換微生物(3)によってはバニリン酸を蓄積することが困難である。形質転換微生物(3)の具体例は、後述する実施例に記載のNGC7Δaph[pSEVAacpCAB opt]株である。
【0098】
形質転換微生物の具体的な別の一態様は、宿主微生物がvanA遺伝子及びvanB遺伝子、好ましくはvanA4遺伝子及びvanB4遺伝子が欠失したNGC7株であって、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物(4)である。形質転換微生物(4)は、アセトバニロンをα-ヒドロキシアセトバニロンを介してバニリン酸へ変換することができる。また、形質転換微生物(4)は、4-ヒドロキシ安息香酸などのH型リグニン由来の芳香族化合物を炭素源として増殖しつつ、フェルラ酸やバニリンなどのG型リグニン由来の芳香族化合物及びアセトバニロン又はアセトバニロンを含むG型リグニン由来の芳香族化合物の混合物からバニリン酸の製造が可能である。形質転換微生物(4)の具体例は、後述する実施例に記載のNGC729[pSEVAacpCAB opt]株及びNGC729::P tac acpCAB opt株である。
【0099】
形質転換微生物の具体的な別の一態様は、宿主微生物がpobA遺伝子が欠失したNGC7株であって、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する、形質転換微生物(5)である。形質転換微生物(5)は、HAPをDHAPを介してHBAへ変換することができる。また、形質転換微生物(5)は、アセトバニロンなどのG型リグニン由来の芳香族化合物を炭素源として増殖しつつ、HAPなどのH型リグニン由来の芳香族化合物からHBAの製造が可能である。形質転換微生物(5)の具体例は、後述する実施例に記載のNGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株である。
【0100】
(製造方法)
形質転換微生物(1)により得たAcpA酵素、AcpB酵素及びAcpC酵素(以下、AcpABC酵素と総称する場合がある。)を適宜組み合わせて用いることにより、アセトバニロンからα-ヒドロキシアセトバニロンを製造でき、α-ヒドロキシアセトバニロンからバニリン酸を製造でき、及びアセトバニロンからα-ヒドロキシアセトバニロンを経由してバニリン酸を製造できる。本発明の一態様の製造方法は、アセトバニロンを、acpA遺伝子の発現産物であるAcpA酵素及びacpB遺伝子の発現産物であるAcpB酵素に作用させることにより、α-ヒドロキシアセトバニロンを得る工程を含む、α-ヒドロキシアセトバニロンの製造方法である。本発明の別の一態様の製造方法は、アセトバニロンを、acpA遺伝子の発現産物であるAcpA酵素、acpB遺伝子の発現産物であるAcpB酵素及びacpC遺伝子の発現産物であるAcpC酵素に作用させることにより、バニリン酸を得る工程を含む、バニリン酸の製造方法である。なお、AcpA酵素、AcpB酵素及びAcpC酵素は、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を利用して、無細胞タンパク質合成系を利用して合成してもよい。
【0101】
形質転換微生物(2)を用いることにより、アセトバニロンからα-ヒドロキシアセトバニロンを製造することができる。本発明の別の一態様の製造方法は、アセトバニロンを、acpA遺伝子及びacpB遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する形質転換微生物に作用させることにより、α-ヒドロキシアセトバニロンを得る工程を含む、α-ヒドロキシアセトバニロンの製造方法である。
【0102】
形質転換微生物(3)及び形質転換微生物(4)を用いることにより、アセトバニロンからバニリン酸を製造することができる。本発明の別の一態様の製造方法は、アセトバニロンを、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現する形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程を含む、バニリン酸の製造方法である。本発明の別の一態様の製造方法は、アセトバニロンを、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現し、さらに染色体上にあるバニレート -デメチラーゼ遺伝子を欠失している形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程を含む、バニリン酸の製造方法である。
【0103】
形質転換微生物(5)を用いることにより、HAPからHBAを製造することができる。本発明の別の一態様の製造方法は、HAPを、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子が外来遺伝子として導入されており、かつ該導入された遺伝子を発現し、さらに染色体上にあるpobA遺伝子を欠失している形質転換微生物に作用させることにより、HBAを得る工程を含む、HBAの製造方法である。
【0104】
アセトバニロンは、クラフト蒸解、ソーダ蒸解といったリグニンのアルカリ酸化分解によって得られる分解物に含まれることから、アセトバニロンの供給源は主にG型リグニンから成る針葉樹リグニンのアルカリ酸化分解物などの芳香族化合物の混合物であってもよい。
【0105】
アセトバニロンをAcpABC酵素に作用させる方法は、アセトバニロンとAcpABC酵素とが接触して、AcpABC酵素によってα-ヒドロキシアセトバニロン及び/又はバニリン酸(以下、目的生産物と総称する場合もある。)が生産及び/又は蓄積できる方法であれば特に限定されず、例えば、pHが6.5~8.5、好ましくは7.0~8.0であり、温度が20℃~40℃、好ましくは25℃~35℃であり、時間が数分間~数時間、好ましくは10分間~60分間である条件で、アセトバニロンをAcpABC酵素に作用させる方法が挙げられる。
【0106】
アセトバニロンを形質転換微生物に作用させる方法は、アセトバニロンと形質転換微生物とが接触して、形質転換微生物が有するAcpABC酵素によって目的生産物が生産及び/又は蓄積できる方法であれば特に限定されないが、例えば、アセトバニロンを含有し、かつ、形質転換微生物の生育に適した培地を用いて、形質転換微生物に適した各種培養条件下で形質転換微生物を培養することによって、目的生産物を製造する方法などが挙げられる。培養方法は特に限定されず、例えば、通気条件下で行う固体培養法や液体培養法などが挙げられる。
【0107】
宿主微生物がNGC7株である場合の培養方法は、特許文献2の項目(製造方法)を参照して実施することができる。以下、一部を抜粋して記載する。
【0108】
培地は、シュードモナス属微生物を培養する通常の培地、すなわち、炭素源、窒素源、無機物、その他の栄養素を適切な割合で含有するものであれば、合成培地及び天然培地のいずれでも使用でき、例えば、後述する実施例に記載があるようなMMx-3培地、Wx最少培地などを利用することができるが、特に限定されない。炭素源は、アセトバニロンのみ、又はアセトバニロンと他のリグニン由来芳香族化合物、糖、有機酸などのその他の炭素源の組み合わせを用いることができる。培地成分には、細胞の増殖や酵素の活性化に必要な成分、例えば、Mg2+、Fe2+などが含まれることが好ましい。鉄イオン、マグネシウムイオンなどを化合物として培地に添加することができるが、ミネラル含有物として添加してもよい。
【0109】
培養条件は、当業者により通常知られるシュードモナス属微生物の培養条件を採用すればよく、例えば、培地の初発pHは5~10に調整し、培養温度は20℃~40℃、培養時間は数時間~数日間、好ましくは1日間~7日間、より好ましくは2日間~5日間など、適宜設定することができる。培養手段は特に限定されず、通気撹拌深部培養、振盪培養、静置培養などを採用することができるが、通気をするなどして溶存酸素濃度が十分になるような条件で培養することが好ましい。また、アセトバニロンなどの炭素源の減少、目的生産物の増加などに応じて、アセトバニロン、その他の炭素源などを追加する流加培養を採用してもよい。
【0110】
例えば、培地及び培養条件の一例として、炭素源がアセトバニロンのみ、又はアセトバニロン及びグルコースを含むMMx-3培地又はWx培地であり、温度が25℃~35℃であり、振盪速度(撹拌速度)が100rpm~2,000rpmであり、時間が1時間~5日間である振盪培養及び撹拌培養などが挙げられる。培地及び培養条件の別の一例として、アセトバニロンを含むLB培地を用いて、溶存酸素濃度が5%~20%になるようにした振盪培養及び撹拌培養などが挙げられる。
【0111】
培養終了後に培養物から目的生産物を取得する方法は特に限定されない。目的生産物であるα-ヒドロキシアセトバニロン及びバニリン酸は培養液中に蓄積することから、培養物からろ過、遠心分離などの通常の固液分離操作により菌体と培養上清とを分離し、回収した培養上清からカラムを用いた固相抽出や目的生産物が可溶性のある溶媒を用いた溶媒抽出などにより目的生産物を抽出する。
【0112】
抽出溶媒は目的生産物が溶解するものであれば特に限定されず、例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0113】
目的生産物は沈殿、抽出、蒸留、再結晶、吸着剤など公知の方法や該方法を一部変更した方法などで培養液から分離精製することができる。精製方法の具体的一態様としては、例えば、培養上清に塩酸を加え、pHを2~5に調整した後、ジエチルエーテルを添加して混合する。ジエチルエーテル層をエバポレーターで減圧乾固して、得られた析出物はイオン交換水で洗浄した後、吸引濾過により回収し、減圧乾燥する。乾燥した固体を氷酢酸に溶解して再結晶して、精製バニリン酸を得る。また、Gomesらの文献に記載の方法(Separation and Purification Technology、vol.216、p92-101、2019)など合成吸着剤を用いた方法、特開2017―171591号公報に記載の減圧蒸留による方法などでも精製バニリン酸を得ることはできる。
【0114】
目的生産物の定性的又は定量的分析は、後述する実施例に記載されているHPLCにより実施すればよい。
【0115】
本発明の一態様の形質転換微生物を用いれば、目的生産物を分解することなく、選択的に得ることが可能である。
例えば、形質転換微生物(4)を用いれば、宿主微生物がNGC7株であり、かつ初発OD600が5.0である場合、1.0mM アセトバニロンを、1時間以内に、アセトバニロンが検出下限になるように、アセトバニロンをバニリン酸へ変換することができる。
また、形質転換微生物(4)を用いれば、宿主微生物がNGC7株であり、かつ初発OD600が0.1である場合、5.7mM バニリン、1.6mM アセトバニロン及び2.7mM バニリン酸を、35時間以内に、アセトバニロンが検出下限になるように、アセトバニロンをバニリン酸へ変換することができる。
【0116】
本発明の製造方法では、本発明の目的を達成し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。また、上記した方法と同様にして、アセトバニロンに代えてHAPを基質として用いることにより、HAPからHBAを製造することができる。
【0117】
(シュードモナス・スピーシーズ MHK4株)
本発明の別の一態様は、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)である。MHK4株は、配列番号1~3に記載のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を有し、アセトバニロンを、α-ヒドロキシアセトバニロンを経由して、バニリン酸へ変換することができる。また、HAPを、DHAPを介して、HBAへ変換することができる。
【0118】
一方、MHK4株は、バニレート -デメチラーゼ遺伝子である、配列番号23及び24に記載のvanA3遺伝子及びvanB3遺伝子をも有することから、バニリン酸を資化する。そこで、MHK4株を利用して、アセトバニロンからバニリン酸を製造する場合は、MHK4株のvanA3遺伝子及び/又はvanB3遺伝子を欠失させることが好ましい。
【0119】
本発明の別の一態様は、宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)であり、及び染色体上にある、バニレート -デメチラーゼ遺伝子、好ましくはvanA3遺伝子(配列番号23)及びvanB3遺伝子(配列番号24)からなる群から選ばれる少なくとも1種のバニレート -デメチラーゼ遺伝子を欠失している形質転換微生物である。本発明の別の一態様は、アセトバニロンを、このような形質転換微生物に作用させることにより、バニリン酸を得る工程を含む、バニリン酸の製造方法である。
【0120】
さらに、MHK4株は、4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子である、配列番号61及び62に記載のpobA1遺伝子及びpobA2遺伝子をも有することから、HBAを資化する。そこで、MHK4株を利用して、HAPからHBAを製造する場合は、MHK4株のpobA1遺伝子及び/又はpobA2遺伝子を欠失させることが好ましい。
【0121】
本発明の別の一態様は、宿主微生物がシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(受託番号:NITE P-03794)であり、及び染色体上にある、4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子、好ましくはpobA1遺伝子(配列番号61)及びpobA2遺伝子(配列番号62)からなる群から選ばれる少なくとも1種の4-ヒドロキシ安息香酸・モノオキシゲナーゼ遺伝子を欠失している形質転換微生物である。本発明の別の一態様は、HAPを、このような形質転換微生物に作用させることにより、HBAを得る工程を含む、HBAの製造方法である。
【0122】
(バニリン酸の用途)
本発明の一態様の遺伝子、微生物、形質転換微生物及び製造方法を利用して得られるバニリン酸及びHBAは、種々の産業上有用な化合物に変換することができる。バニリン酸は、重合体に耐熱性及び剛性を付与する芳香環構造を有し、液晶ポリエステルなどの機能性ポリマー合成への利用が期待される。バニリン酸及びバニリン酸を修飾して得られるバニリン酸誘導体は、例えば、それ自体で、又は他の成分と共に使用して、耐熱性プラスチック、耐トラッキングプラスチック、液晶性共重合ポリエステル樹脂などとしての利用が期待される。本発明の一態様の形質転換微生物及び製造方法を利用して得られるα-ヒドロキシアセトバニロンは、バニリン酸の基質として、バニリン酸を製造するために利用できる。なお、HBA及びDHAPもまた、バニリン酸及びα-ヒドロキシアセトバニロンと同様に利用することができる。
【0123】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0124】
[1.Pseudomonas sp.MHK4株の単離]
北海道、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、新潟県、長野県、滋賀県を含む日本国内の278の地点の土壌をサンプリングした。土壌のサンプリングは、土壌表面から5cm~10cm程度掘り起こした部分を採取することにより実施した。サンプリングした各土壌をWx buffer[9.8g/L NaHPO・12HO、1.7g/L KHPO、1.0g/L(NHSO]に加えて懸濁して得たスラリー状懸濁液 10mg~30mgを、5mM アセトバニロン(以下、「AV」ともよぶ。)を含む0.5mLのWx液体培地[9.8g/L NaHPO・12HO、1.7g/L KHPO、1.0g/L (NHSO、100mg/L MgSO・7HO、9.5mg/L FeSO・7HO、10.75mg/L MgO、2mg/L CaCO、1.44mg/L ZnSO・7HO、1.12mg/L MnSO・4HO、0.25mg/L CuSO・5HO、0.28mg/L CoSO・7HO、0.06mg/L HBO、51.3μL 12N HCl]に添加して、25℃で72時間にて振盪培養した。続いて、得られた培養液 5μLを、0.5mLのWx液体培地に添加して、25℃で48時間にて振盪培養した。目視により培養液の濁りを確認することにより、微生物の増殖が確認できたサンプルの培養液 0.1mLを、5mM AVを含む5mLのWx液体培地に接種し、25℃で48~96時間にて振盪培養した。次いで、同様にして微生物の増殖が確認されたサンプルの培養液 0.1mLを、10mM AVを含む5mLのWx液体培地に接種し、25℃で48~96時間にて振盪培養した。次いで、同様にして微生物の増殖が確認されたサンプルの培養液を、10mM AVを含むWx寒天培地に塗抹し、静置培養した。培養後、寒天培地上に形成されたコロニーを単離し、唯一の炭素源として5mM AVを含むWx液体培地で培養して、良好に生育した株と認められたものをMHK4株として選抜した。
【0125】
[2.Pseudomonas sp. MHK4株の生物学的分類]
シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) MHK4株(以下、単にMHK4株ともよぶ。)は、微生物の識別の表示を「MHK4」とし、かつ、受託番号を「受託番号:NITE P-03794」として、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2022年12月9日付けの受託日により寄託されている。MHK4について、受託証の写しを図1Aに示し、生存に関する証明書を図1Bに示す。
【0126】
MHK4株の性状を調べた試験結果を表1~表3に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
16S rRNA遺伝子配列の系統解析から、MHK4株の16S rRNA遺伝子の部分配列はPseudomonas vancouverensis DhA-51株、Pseudomonas umsongensis Ps 3-10株、Pseudomonas mohnii IpA-2株及びPseudomonas moorei RW10株の16SrRNA配列と97.6%~99.6%の相同性を示した。
【0131】
MHK4株について、テクノスルガ・ラボ社に細菌第一・第二試験を委託し、生理・生化学的性状試験を行った。その結果、MHK4株は運動性を有するグラム陰性桿菌であること、カタラーゼ反応及びオキシダーゼ反応は陽性を示すこと、グルコースを酸化することがわかった(表1、表2)。これらの結果から、MHK4株は、Pseudomonas属微生物の性状と一致した[Barrow et al.(1993).“Cowan and Steel’s Manual for the identification of medical bacteria.3rd edition.” Cambridge: University Press.]。
【0132】
MHK4株について、API20NEキット(bioMerieux Japan社)を用いた細菌第二段階試験を実施した。その結果、MHK4株は、硝酸塩を還元すること、アルギニンジヒドロラーゼ活性を示さないこと、エスクリンを加水分解することがわかった。また、MHK4株は、L-アラビノース、D-マンノース及びD-マンニトールを資化し、N-アセチル-D-グルコサミンを資化しなかった。また追加試験から、King’s寒天培地上で蛍光色素を産生する一方、レバン形成、Tween80の加水分解、5% NaCl存在下での生育及びレシチナーゼ活性はいずれも陰性を示した(表3)。MHK4株が有するこれらの性状は、系統的に近縁である上記4種の菌株とはいずれも相違が認められた[Camara et al. (2007). “Pseudomonas reinekei sp. nov., Pseudomonas moorei sp. nov. and Pseudomonas mohnii sp. nov., novel species capable of degrading chlorosalicylates or isopimaric acid” International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 57:923-931;Mohn et al. (1999). “Physiological and phylogenetic diversity of bacteria growing on resin acids” Systematic and Applied Microbiology 22:68-78.]。
【0133】
特に、MHK4株は、蛍光色素を産生し、硝酸塩を還元し、及びアルギニンジヒドロラーゼ活性を示さない点は、P.moorei及びP.mohniiの性状と異なり;L-アラビノースを資化し、及びN-アセチル-D-グルコサミンを資化しない点において、P.vancouverensisの性状と異なり;及び、アルギニンジヒドロラーゼ活性を示さず、及びD-マンニトールを資化する点において、P.umsongensisの性状と異なった。
【0134】
以上の生理・生化学性状試験の結果から、MHK4株は、これまでに単離されていないPseudomonas sp.の一種と推定し、Pseudomonas sp.MHK4株と名付けた。
【0135】
[3.PSMH_1607(acpC)、PSMH_1608(acpA)及びPSMH_1609(acpB)を導入したPseudomonas sp.NGC7株のカナマイシン耐性遺伝子(aph)欠損株を用いたAV変換]
常法によりMHK4株のゲノムDNAを調製し、全ヌクレオチド配列を解析した。Sphingobium sp.SYK-6株のAV変換酵素遺伝子群とアミノ酸配列同一性を示す遺伝子をMHK4株のゲノム配列から検索した。表4に、Sphingobium sp.SYK-6株由来のAV変換酵素遺伝子群がコードする酵素とのアミノ酸配列同一性を示したPseudomonas sp.MHK4株由来の遺伝子を示す。
【0136】
【表4】
【0137】
表4に示すとおり、MHK4株のゲノムDNAにはSYK-6株のacvD遺伝子と50%の同一性を示す遺伝子(PSMH_5054)及びvceA遺伝子と38%の同一性を示す遺伝子(PSMH_2308)がそれぞれ存在した。しかし、SYK-6株のacvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvE遺伝子、acvF遺伝子及びvceB遺伝子と30%以上の同一性を示す遺伝子は存在しなかった。以上のことから、MHK4株は、SYK-6株とは異なる酵素システムによってAVを代謝することが推定された。
【0138】
MHK4株がSYK-6株とは異なる酵素システムによってAVを代謝することが推定されたことから、MHK4株を20mM glucoseを含む10mLのWx液体培地で培養した場合と比較して、5mM AV及び20mM glucoseを含むWx液体培地で培養したときに発現誘導される遺伝子をRNA-Seq解析によって調べた。表5に5mM AV及び20mM glucoseを含むWx液体培地で培養した際に発現誘導されていた上位10遺伝子を示す。
【0139】
【表5】
【0140】
表5に記載の遺伝子のうち、PSMH_1607(acpC)、PSMH_1608(acpA)及びPSMH_1609(acpB)からなる遺伝子クラスターが最も高く誘導されていた。acpA遺伝子及びacpB遺伝子は、Pseudomonas putida KT2440株由来の酸素添加型バニレート -デメチラーゼのオキシゲナーゼコンポーネント(VanA)をコードする遺伝子及びオキシドレダクターゼコンポーネント(VanB)をコードする遺伝子とそれぞれ33.6%及び44.1%の配列同一性を示したことから、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の遺伝子産物がモノオキシゲナーゼとして機能することが推定された。
【0141】
acpC遺伝子は、Burkholderia sp.AZ11株由来の2,4’-dihydroxyacetophenone dioxygenase(DAD)(GenBankアクセッション番号:AB636681.1(バージョン:AB636681.1))及びAlcaligenes sp.4HAP株由来のDAD(GenBankアクセッション番号:AJ133820(バージョン:AJ133820.1))とそれぞれ81%及び99%のアミノ酸配列同一性を示した。AZ11株及び4HAP株のDADは、2,4’-dihydroxyacetophenoneのヒドロキシメチル基を酸化的に開裂してそれぞれ4-hydroxybenzoic acid及びformic acidへ変換する反応を触媒する。acpC遺伝子がコードする酵素がAZ11株及び4HAP株のDADと高いアミノ酸配列同一性を示すことから、2,4’-dihydroxyacetophenoneと構造が類似するα-hydroxyacetovanilloneをVA及びformic acidへ変換する可能性が考えられた。
【0142】
以上のことから、MHK4株において、AVはacpA遺伝子及びacpB遺伝子の遺伝子産物によって水酸化されてα-hydroxyacetovanilloneに変換された後、acpC遺伝子の遺伝子産物によってバニリン酸(以下、VAともよぶ。)及びformic acidへ変換されて代謝されると予想した。
【0143】
acpA/acpB遺伝子セットの発現プラスミドを以下の手順により作製した。
Pseudomonas sp.MHK4株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号25及び26のプライマー1及び2からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、acpAacpB遺伝子セットを含む約2.1kbpのDNA断片を増幅した。
【0144】
得られた断片をあらかじめEcoRI及びBamHIで消化したpSEVA241_P lac (Applied and Environmental Microbiology、Vol.88、e0072422、2022を参照;カナマイシン耐性遺伝子を保有)とNEBuilder HiFi DNAアッセンブリー(New England Biolabs)とを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、acpAacpB遺伝子セットの発現用プラスミドpSEVAacpABを作製した。
【0145】
以下のようにして、作製したプラスミドpSEVAacpABを、エレクトロポレーション法によりPseudomonas sp.NGC7株(受託番号:NITE BP-03043;独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター)のカナマイシン耐性遺伝子(aph)欠損株(以下、NGC7Δaph株ともよぶ。)に導入した。なお、NGC7Δaph株は、国際公開番号WO2022/210236の例10を参照して作製した。
【0146】
LB液体培地10mLで振盪培養して得たNGC7Δaph株を、5mLの0.5M グルコース水溶液で洗浄した後、0.2mLの0.5M グルコース水溶液に懸濁した。菌体懸濁液とプラスミドpSEVAacpABとを混合し、Micro Pulser(Bio-Rad Laboratories)を用いて、10kVの条件で印加した。印加後ただちに1mLのSOC液体培地(20g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、5g/L NaCl、2.5mM KCl、10mM MgCl・6HO、10mM MgSO・7HO、20mM グルコース)を加えて、30℃で1時間振盪培養し、25mg/Lのカナマイシン(Km)を含むLB寒天培地(10g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、5g/L NaCl、15g/L 寒天)上で生育可能な株を選抜した。
【0147】
得られたNGC7Δaph(pSEVAacpAB)株を25mg/LのKmを含む10mLのLBに接種し、30℃で一晩振盪培養した。得られた培養液0.1mLを、新しい25mg/L Kmを含む10mLのLBに接種し、30℃で16時間振盪培養した。得られた培養液由来の細胞をMMx-3 buffer[34.2g/L NaHPO・12HO、6.0g/L KHPO、2.5g/L(NHSO、1.0g/L NaCl]を用いて洗浄した後、再度MMx-3 bufferに懸濁し、OD600=10の細胞懸濁液を1mL調製した。細胞懸濁液にAVを終濃度が0.2mMになるように添加し、得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによりAV変換反応に供した。反応開始8時間後に、反応液の一部を遠心分離して得た上清について、HPLC分析又はHPLC-MS分析に供した。
【0148】
HPLC分析は、高速液体クロマトグラフ(「Agilent1200シリーズ」、アジレントテクノロジー社)を用いて測定した。カラムはZORBAX Eclipse Plus C18 column(径 4.6mm、長さ 150mm、粒径 0.5μm)を使用し、40℃で保温した。勾配(グラジエント)溶離モード(溶媒A:5%(v/v)CHOH、1%(v/v)CHCOOH、溶媒B:50%(v/v)CHOH、1%(v/v)CHCOOH)を使用し、溶媒Aで平衡化した後、分析開始から8分かけて溶媒Bの割合を20%まで上昇させ、その後5分かけて溶媒Bの割合を100%まで上昇させた。移動相の流速は1.0mL/minとし、測定波長は280nmを用いた。
【0149】
HPLC-MS分析には、高速液体クロマトグラフ(Acquity ultraperformance liquid chromatography system、日本ウォーターズ社)とタンデム四重極型質量分析計(ACQUITY TQ detector、日本ウォーターズ社)を用いた。カラムはTSKgel ODS-140HTP column(径 2.1mm、長さ 100mm、粒径 2.3μm、東ソー社)を使用し、30℃で保温した。移動相は、90% 溶媒A[99.9%(v/v)HO、0.1%(v/v)HCOOH]、10%溶媒B[99.9%(v/v)CHCN、0.1%(v/v)HCOOH)]のアイソクラティック溶離とした。移動相の流速は0.5mL/minとし、測定波長は280nmとした。エレクトロスプレーイオン化法マススペクトロメトリー(ESI-MS)の検出はネガティブイオンモードで行った。検出条件は、capillary voltage,3.0kv;cone voltage,10-40V,source temperature,120℃;desolvation temperature,350℃;desolvation gas flow rate,650liters/h;cone gas flow rate,50liters/hとした。
【0150】
結果を図2に示す。反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図2(A)に示し、反応開始8時間後のHPLCクロマトグラムを図2(B)に示す。
【0151】
図2(A)及び図2(B)が示すように、HPLC分析の結果、反応8時間において、保持時間11.3分に変換産物のピークが検出された。図2(C)にHPLC-MS(ESI-MS)分析によって変換産物を解析した結果を示す。図2(C)が示すように、α-ヒドロキシアセトバニロン(分子量182)の[M-H]と一致する 181のピークが観察されたことから、acpAB遺伝子の遺伝子産物によって、AVがα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換されたことが示された。
【0152】
acpAacpB遺伝子セットに加えてacpC遺伝子を発現させるためのプラスミドを以下の手順により作製した。
【0153】
MHK4株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号27及び26のプライマー3及び2からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、acpC遺伝子、acpA遺伝子及びacpB遺伝子を含む約2.6kbpのDNA断片を増幅した。
【0154】
得られた断片をあらかじめEcoRI及びBamHIで消化したpSEVA241_P lac とNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーとを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、acpC遺伝子、acpA遺伝子及びacpB遺伝子の発現用プラスミドpSEVAacpCABを作製した。
【0155】
作製したプラスミドpSEVAacpCABを、前記記載の方法の通り、エレクトロポレーション法によりNGC7Δaph株へ導入した。
【0156】
得られたNGC7Δaph[pSEVAacpCAB]株を25mg/LのKmを含む10mLのLBに接種し、30℃で一晩振盪培養した。得られた培養液0.1mLを新しい25mg/L Kmを含む10mLのLBに接種し、30℃で16時間振盪培養した。得られた培養液由来の細胞をMMx-3 bufferを用いて洗浄した後、再度MMx-3 bufferに懸濁し、OD600=10の細胞懸濁液を1mL調製した。細胞懸濁液にAVを終濃度が0.2mMになるように添加し、得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによりAV変換反応に供した。反応開始2時間後に、反応液の一部を遠心分離して得た上清について、上記と同様にHPLC分析に供した。
【0157】
結果を図3に示す。反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図3(A)に示し、反応開始2時間後のHPLCクロマトグラムを図3(B)に示す。
【0158】
図3(A)及び図3(B)が示すように、反応2時間において保持時間12.8分に変換産物としてVAのピークが検出されたことから、acpC遺伝子の遺伝子産物によって、acpAB遺伝子の遺伝子産物によりAVから生成したα-ヒドロキシアセトバニロンがVAへ変換されたことがわかった。以上のことから、MHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を組み合わせることで、AVをVAへ変換できることが示された。
【0159】
[4.AcpA酵素、AcpB酵素及びAcpC酵素を用いたAV変換]
acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子それぞれを大腸菌で発現させるためのプラスミドを以下の手順により作製した。
【0160】
MHK4株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号28及び29のプライマー4及び5からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、acpA遺伝子を含む約1.1kbpのDNA断片を増幅した。
【0161】
MHK4株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号30及び31のプライマー6及び7からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、acpB遺伝子を含む約1.0kbpのDNA断片を増幅した。
【0162】
MHK4株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号32及び33のプライマー8及び9からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、acpC遺伝子を含む約0.6kbpのDNA断片を増幅した。
【0163】
得られた各断片をあらかじめNdeI及びBamHIで消化したpET-16bプラスミド(Merck Millipore社)とNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーとを用いたシームレスクローニング法によりそれぞれ連結させることにより、acpA遺伝子発現用プラスミドpE16acpAacpB遺伝子発現用プラスミドpE16acpB及びacpC遺伝子発現用プラスミドpE16acpCをそれぞれ作製した。
【0164】
作製したプラスミドpE16acpA、pE16acpB及びpE16acpCを、それぞれEscherichia coli BL21(DE3)株に導入した。
【0165】
得られたBL21(DE3)[pE16acpA]株、BL21(DE3)[pE16acpB]株及びBL21(DE3)[pE16acpC]株を、100mg/Lのアンピシリン(Amp)を含む10mLのLBに接種し、37℃で一晩振盪培養した。得られた培養液0.1mLを新しい100mg/LのAmpを含む10mLのLBに接種し、30℃でOD600が0.5になるまで振盪培養した。OD600が0.5になったら、isopropyl β-D-thiogalactopyranosideを終濃度が0.5mMになるように添加した。またBL21(DE3)[pE16acpA]株及びBL21(DE3)[pE16acpB]株には、FeSOを終濃度が0.1mMになるようにさらに添加した。添加後、各菌株を15℃で20時間の振盪培養に供した。
【0166】
得られた各培養液由来の細胞を、50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)を用いて洗浄した後、再度、0.5mLの上記bufferに懸濁した。超音波ホモジナイザーを用いて細胞懸濁液中の細胞を破砕し、破砕後の細胞懸濁液を遠心分離に供して得た上清を、それぞれAcpA粗酵素溶液、AcpB粗酵素溶液及びAcpC粗酵素溶液とした。各粗酵素溶液のタンパク質濃度をBradford法によって測定した。
【0167】
各粗酵素溶液の終濃度が0.5mg/mLになり、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の終濃度が0.4mMになり、及びAVの終濃度が0.2mMになるように50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)中で混合し、30℃で、30分間反応させた。反応後、反応液の一部を分取し、等量のアセトニトリルと混合して反応を停止した。得られた反応溶液を遠心分離に供して得た上清に含まれるAV及び反応産物について、上記と同様にHPLC分析に供した。
【0168】
結果を図4図7に示す。AcpA粗酵素溶液及びAVを用いた反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図4(A)に示し、反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを図4(B)に示す。AcpB粗酵素溶液及びAVを用いた反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図5(A)に示し、反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを図5(B)に示す。AcpA粗酵素溶液、AcpB粗酵素溶液及びAVを用いた反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図6(A)に示し、反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを図6(B)に示す。AcpA粗酵素溶液、AcpB粗酵素溶液、AcpC粗酵素溶液及びAVを用いた反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図7(A)に示し、反応開始30分後のHPLCクロマトグラムを図7(B)に示す。
【0169】
図4~6が示すように、AcpA粗酵素溶液及びAcpB粗酵素溶液のいずれか一方を用いた場合と異なり、AcpA粗酵素溶液及びAcpB粗酵素溶液の両方を用いた場合は、反応後30分において保持時間10.4分に変換産物としα-ヒドロキシアセトバニロンのピークが検出されたことから、AcpA酵素及びAcpB酵素によって、AVがα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換されたことが示された。
【0170】
図7が示すように、AcpA粗酵素溶液、AcpB粗酵素溶液及びAcpC粗酵素溶液を用いた場合は、反応30分において保持時間12.2分にVAのピークが検出されたことから、AcpA酵素及びAcpB酵素によって、AVがα-ヒドロキシアセトバニロンに変換された後、AcpC酵素によってα-ヒドロキシアセトバニロンがVAに変換されたことが示された。以上のことから、AcpA酵素、AcpB酵素及びAcpC酵素を組み合わせることで、AVをVAへ変換できることがわかった。
【0171】
[5.コドンを最適化したacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子並びに最適なRibosome binding site(RBS)を付加したDNA配列のNGC7Δaph株への導入及びAV変換]
acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子のコドンを解析したところ、NGC7株と近縁種であるPseudomonas putidaゲノム中での使用頻度が全体の10%以下であったコドンの割合は、それぞれacpA遺伝子では11.4%、acpB遺伝子では13.5%、acpC遺伝子では5.6%と、高い割合で存在した。そこでGENEiusソフトウェア(Eurofins Genomics LLC)を用いてPseudomonas putidaゲノム中でのコドン使用頻度と同等になるようにacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の塩基配列を改変した。またRBS Calculator(https://salislab.net/software/predict_rbs_calculator)を用いて、Pseudomonas putidaでの翻訳効率が最大になるようにacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子のそれぞれの開始コドン上流にシャイン・ダルガノ配列を含むRibosome binding site(RBS)配列をそれぞれ設計した。設計したDNA塩基配列の合成をTwist Bioscience社に委託した。
【0172】
合成されたDNA塩基配列が挿入されたプラスミドをEcoRI消化することで、acpC opt遺伝子、acpA opt遺伝子及びacpB opt遺伝子を含む約2.7kbpのDNA断片を得た。
【0173】
得られた断片をあらかじめEcoRIで消化したpSEVA241_P lac にライゲーション反応によって連結させることにより、acpC opt遺伝子、acpA opt遺伝子及びacpB opt遺伝子の発現用プラスミドpSEVAacpCAB optを作製した。
【0174】
作製したプラスミドpSEVAacpCAB optを前記記載の方法の通り、エレクトロポレーション法によりNGC7Δaph株に導入した。
【0175】
Sphingobium sp.SYK-6株由来のAV変換酵素遺伝子群のうち、acvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子及びacvF遺伝子を発現するプラスミドpSEVAacv(Applied and Environmental Microbiology、Vol.88、e0072422、2022を参照)と、vceA遺伝子及びvceB遺伝子を発現するプラスミドpTS093vce(Applied and Environmental Microbiology、Vol.88、e0072422、2022を参照)を前記の方法の通り、エレクトロポレーション法によりNGC7Δaph株に導入した。
【0176】
得られたNGC7Δaph[pSEVAacpCAB opt]株及びNGC7Δaph[pSEVAacv+pTS093vce]株をそれぞれ25mg/L Km又は25mg/L Km+15mg/L テトラサイクリン(Tc)を含む10mLのLBに接種し、30℃で一晩振盪培養した。得られたそれぞれの培養液0.1mLを25mg/L Km又は25mg/L Km+15mg/L Tcを含む新しい10mLのLBに接種し、30℃で16時間振盪培養した。得られたそれぞれの培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体をMMx-3 bufferに懸濁し、OD600が5.0になるように細胞懸濁液1.2mLを調製した。得られたそれぞれの細胞懸濁液に、終濃度が1.0mMになるようにAVを添加し、得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによりAV変換反応に供した。
【0177】
反応開始後、一定時間毎にサンプリングし、反応液を遠心分離して得た上清について、AV及びVAの濃度を上記と同様にHPLC分析により測定した。
【0178】
NGC7Δaph[pSEVAacv+pTS093vce]株の結果を図8Aに示し、NGC7Δaph[pSEVAacpCAB opt]株の結果を図8Bに示す。
【0179】
図8A及び図8Bが示すとおり、NGC7Δaph[pSEVAacv+pTS093vce]株を用いた場合は、24時間の反応でAVは約20%しか変換されなかったのに対して、NGC7Δaph(pSEVAacpCAB opt)株を用いた場合は、反応4時間でAVがほぼ完全にVAへ変換された。以上のことから、MHK4株のAV変換酵素遺伝子群を用いることで、既知のSYK-6株由来のAV変換酵素遺伝子群を用いる場合より、AVを速やかにVAへ変換できることが示された。
【0180】
[6.acpCAB optを導入したPseudomonas sp.NGC7Δaph株のAVでの生育能]
NGC7Δaph[pSEVAacpCAB opt]株及びNGC7Δaph[pSEVAacv+pTS093vce]株をそれぞれ25mg/L Km又は25mg/L Km+15mg/L Tcを含む10mLのLBに接種し、30℃で一晩の振盪培養に供した。得られた培養液のそれぞれ0.1mLを新しい10mLのLB(25mg/L Km又は25mg/L Km+15mg/L Tcを含む)に接種し、30℃で16時間の振盪培養に供した。得られた培養液由来の細胞を0.9%(w/v)NaClに懸濁することにより、OD600=20.0の細胞懸濁液を0.1mL調製した。5mM AV及び25mg/L Km又は25mg/L Km+15mg/L Tcを含むMMx-3寒天培地[34.2g/L NaHPO・12HO、6.0g/L KHPO、1.0g/L NaCl、2.5g/L(NHSO、49.3mg/L MgSO・7HO、15mg/L CaCl・2HO、5mg/L FeSO・7HO、15g/L 寒天]に、得られた細胞懸濁液 20μLを塗り拡げ、30℃で72時間培養した。培養後の培地の様子を図9に示す。
【0181】
図9に示すように、NGC7Δaph[pSEVAacv+pTS093vce]株はほとんど生育が確認されなかったのに対して、NGC7Δaph[pSEVAacpCAB opt]株は顕著に生育が確認された。以上のことから、MHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を用いることで、宿主微生物株にAVを炭素源として用いて生育できる生育能を付与することができることがわかった。
【0182】
[7.NGC7ΔvanA1B1ΔvanA4B4ΔaphΔvanA2B2ΔvanA3B3ΔareA株を用いたAVからのVA蓄積性の評価]
プラスミドpSEVAacpCAB optを用いて、NGC7株のVA生産宿主であるNGC7ΔvanA1B1ΔvanA4B4ΔaphΔvanA2B2ΔvanA3B3ΔareA株(以下、NGC729株ともよぶ。)を形質転換して、NGC729[pSEVAacpCAB opt]株を得た。
【0183】
NGC7ΔvanA1B1ΔvanA4B4ΔaphΔvanA2B2ΔvanA3B3株は、国際公開番号WO2022/210236の例10に記載のものを用いた。
【0184】
一方、NGC7株のゲノムにはシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440株由来のバニリンレダクターゼ遺伝子(PP_2426)と96.9%の配列同一性を示したアミノ酸配列をコードする遺伝子であるPSN_2384(areA遺伝子;配列番号53)が存在することを確認した。areA遺伝子の機能によりリグニンの化学分解物に含まれるバニリンが還元されてバニリルアルコールに変換されるため、リグニンの化学分解物からバニリン酸を生産しようとした場合、分解物に含まれるバニリンがバニリルアルコールに変換されてバニリン酸の生産量が低下することが想定される。そこで、バニリンレダクターゼとして機能すると推定されるareA遺伝子を破壊した変異株を作製した。
【0185】
NGC7株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号54及び55のプライマー26及び27からなるプライマーセットと、配列番号56及び57のプライマー28及び29からなるプライマーセットとをそれぞれ用いたPCR法によって、areA遺伝子の5’末端上流及びareA遺伝子の3’末端下流の約1.2kbpのDNA断片をそれぞれ増幅した。それぞれの断片をあらかじめHindIII及びBamHIで消化したpK18mobsacBとNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、areA遺伝子領域欠失株作製用プラスミドpK18ΔareAを作製した。
【0186】
プラスミドpK18ΔareAをNGC7ΔvanA1B1ΔvanA4B4ΔaphΔvanA2B2ΔvanA3B3株に導入し、ゲノムDNA上のareA遺伝子の内部領域を欠失したNGC7ΔvanA1B1ΔvanA4B4ΔaphΔvanA2B2ΔvanA3B3ΔareA株(NGC729株)を作製した。
【0187】
acpC optacpA optacpB opt遺伝子セットをNGC729株のゲノム中に挿入するためのプラスミドを以下の手順により作製した。
【0188】
Pseudomonas sp. NGC7株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号34及び35のプライマー10及び11からなるプライマーセットと、配列番号36及び37のプライマー12及び13からなるプライマーセットをそれぞれ用いたPCR法によって、NGC7株のvanA4遺伝子の5’末端上流及びvanB4遺伝子の3’末端下流の約1.2kbpのDNA断片をそれぞれ増幅した。
【0189】
同様に、プラスミドpSEVAacpCAB optを鋳型として、配列番号38及び39のプライマー14及び15からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、tacプロモーターの下流にacpC optacpA optacpB opt遺伝子セットが連結された約2.7kbpのDNA断片を増幅した。それぞれの増幅断片を、あらかじめHindIII及びBamHIで消化したpK18mobsacB(Gene、Vol.145、p69-73、1994を参照)とNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーとを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、acpC optacpA optacpB opt遺伝子セットをNGC729株のゲノム中に挿入するためのプラスミド(pK18ΔvanA4B4::P tac acpCAB opt)を作製した。
【0190】
常法に従って、作製したプラスミドpK18ΔvanA4B4::P tac acpCAB optを、エレクトロポレーション法によりNGC729株に導入し、25mg/LのKmを含むLB寒天培地上で生育可能である株を選抜した。
【0191】
得られたKm耐性株を、25%のスクロースを含むLB液体培地(10g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、5g/L NaCl)に接種し、30℃で24時間の振盪培養に供した。得られた培養液を、25%のスクロースを含むLB寒天培地上に塗抹し、30℃で静置培養した。コロニーダイレクトPCRにより、ゲノムDNA上にacpC optacpA optacpB opt遺伝子セットが挿入されたことが確認できた形質転換体を、NGC729::P tac acpCAB opt株とした。
【0192】
得られたNGC729[pSEVAacpCAB opt]株及びNGC729::P tac acpCAB opt株のそれぞれを、25mg/LのKmを含む、又は含まない10mLのLBに接種し、30℃で一晩の振盪培養に供した。得られた培養液0.1mLを新しい25mg/L Kmを含む、又は含まない10mLのLBに接種し、30℃で16時間の振盪培養に供した。得られた培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体をMMx-3 bufferに懸濁して、OD600が5.0になるように細胞懸濁液1.2mLを調製した。得られた細胞懸濁液にAVを終濃度が1.0mMになるようにAVを添加し、得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによりAV変換反応に供した。
【0193】
反応開始後、一定時間毎にサンプリングし、反応液を遠心分離して得た反応上清について、AV及びVAの濃度を上記と同様にHPLC分析により測定した。
【0194】
NGC729[pSEVAacpCAB opt]株を用いた反応結果を図10Aに示し、NGC729::P tac acpCAB opt株を用いた反応結果を図10Bに示す。図10A及び図10Bが示すとおり、NGC729[pSEVAacpCAB opt]株及びNGC729::P tac acpCAB opt株を用いた反応では、両方ともに、1時間の反応でAVが完全にVAへ変換された。以上のことから、プラスミドでの遺伝子導入及びゲノムDNAへの直接導入によらず、acpC optacpA optacpB opt遺伝子セットをNGC7株のVA生産宿主であるNGC729株に導入することで、AVからのVA生産が可能であることがわかった。
【0195】
また、上記AV変換反応を、NGC729[pSEVAacpCAB opt]株及びNGC729::P tac acpCAB opt株のそれぞれについて、OD600が1.0になるように調製した細胞懸濁液1.2mLを用いて行った。
【0196】
NGC729[pSEVAacpCAB opt]株の結果を図11Aに示し、NGC729::P tac acpCAB opt株の結果を図11Bに示す。
【0197】
図11A及び図11Bが示すとおり、NGC729[pSEVAacpCAB opt]株を用いた場合と比較して、NGC729::P tac acpCAB opt株を用いた場合の方がAVからのVAの生成速度が速かった。以上のことから、遺伝子をゲノムDNAへ直接導入したNGC729::P tac acpCAB opt株を用いた方が、AVからのVA生産に適していることがわかった。
【0198】
[8.コドンを最適化したacvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子、acvF遺伝子、vceA遺伝子及びvceB遺伝子並びに最適なRBSを付加したDNA配列のNGC729株への導入とAV変換]
GENEiusソフトウェアを用いて、acvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子、acvF遺伝子、vceA遺伝子及びvceB遺伝子のコドンが、Pseudomonas putidaゲノム中でのコドン使用頻度と同等になるように塩基配列を設計した。またRBS Calculatorを用いて、Pseudomonas putidaでの翻訳効率が最大になるように、acvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子、acvF遺伝子、vceA遺伝子及びvceB遺伝子それぞれの開始コドン上流にシャイン・ダルガノ配列を含むRBS配列をそれぞれ設計した。設計したDNA塩基配列の合成をTwist Bioscience社に委託した。
【0199】
合成されたDNA塩基配列が挿入されたプラスミドを鋳型として、配列番号40及び41のプライマー16及び17からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、acvA opt遺伝子及びacvB opt遺伝子が連結された約3.0kbpのDNA断片を増幅した。
【0200】
得られた断片をあらかじめEcoRI及びKpnIで消化したpSEVA241_P lac とNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーとを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、pSEVAacvAB optを得た。
【0201】
同様に、合成されたDNA塩基配列が挿入されたプラスミドを鋳型として、配列番号42及び43のプライマー18及び19からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、大腸菌由来ラクトースプロモーターの下流にacvC opt遺伝子、acvD opt遺伝子、acvE opt遺伝子及びacvF opt遺伝子が連結された約4.5kbpのDNA断片を増幅した。
【0202】
得られた断片をあらかじめHindIII及びBamHIで消化したpSEVAacvAB optとNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーとを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、pSEVAacv optを得た。
【0203】
同様に、合成遺伝子が挿入されたプラスミドを鋳型として、配列番号44及び45のプライマー20及び21からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、vceA opt遺伝子及びvceB opt遺伝子が連結された約1.5kbpのDNA断片を増幅した。
【0204】
得られた断片をあらかじめBamHI及びEcoRIで消化したpTS093とNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーとを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、pTS093vce optを得た。
【0205】
得られたプラスミドpSEVAacv opt及びpTS093vce optを用いて、NGC729株を形質転換して、NGC729[pSEVAacv opt+pTS093vce opt]株を得た。
【0206】
また同様に、プラスミドpSEVAacv及びpTS093vceを用いて、NGC729株を形質転換して、NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株を得た。
【0207】
得られたNGC729[pSEVAacv opt+pTS093vce opt]株及びNGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株のそれぞれを、25mg/L Km+15mg/L Tcを含むLB液体培地10mLに接種し、30℃、一晩の振盪培養(180rpm)に供した。得られたそれぞれの培養液0.1mLを新しい25mg/L Km+15mg/L Tcを含む10mLのLBに接種し、30℃で16時間の振盪培養に供した。得られたそれぞれの培養液由来の細胞をMMx-3 bufferを用いて洗浄した後、再度MMx-3 bufferに懸濁し、OD600が5.0になるように細胞懸濁液1.2mLを調製した。得られた細胞懸濁液に、終濃度が1.0mMになるようにAVを添加し、次いで得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによりAV変換反応に供した。
【0208】
反応開始後、一定時間毎にサンプリングし、反応液を遠心分離して得た反応上清について、AV及びVAの濃度を上記と同様にHPLC分析により測定した。
【0209】
NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株を用いた反応結果を図12Aに示し、NGC729[pSEVAacv opt+pTS093vce opt]株を用いた反応結果を図12Bに示す。
【0210】
図12A及び図12Bが示すとおり、NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株を用いた場合と比較して、NGC729[pSEVAacv opt+pTS093vce opt]株を用いた場合の方がAVからのVA生成速度が遅く、acvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子、acvF遺伝子、vceA遺伝子及びvceB遺伝子のコドンの最適化及び最適なRBSを付加した効果は得られなかった。
【0211】
[9.NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株及びNGC729::P tac acpCAB opt株を用いた針葉樹サルファイトリグニン分解物モデルからのVA生産性の評価]
NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株及びNGC729::P tac acpCAB opt株を、25mg/L Km+15mg/L Tcを含む、又は含まないLB液体培地10mLに接種し、30℃、一晩の振盪培養(180rpm)に供した。得られた培養液0.1mLを新しい25mg/L Km+15mg/L Tcを含む、又は含まないLB液体培地10mLに接種し、30℃、16時間の振盪培養に供した。得られた培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体を、MMx-3培地を用いて洗浄し、次いで再度MMx-3培地に懸濁して、OD600が10になるように細胞懸濁液 1mLを調製した。
【0212】
200g/L Glucose溶液0.75mL及び針葉樹サルファイトリグニン分解物モデル[292mM バニリン(以下、VNともよぶ。)、81.5mM AV、126.5mM VA)]0.2mLを含むMMx-3液体培地[34.2g/L NaHPO・12HO、6.0g/L KHPO、1.0g/L NaCl、2.5g/L(NHSO、49.3mg/L MgSO・7HO、15mg/L CaCl・2HO、5mg/L FeSO・7HO](25mg/L Km及び15mg/L Tcを含む、又は含まない)10mLに、初期OD600が0.1になるように細胞懸濁液を添加した。得られた細胞を含む培地を、30℃の振盪培養に供した。
【0213】
培養開始後、一定時間毎にサンプリングし、培養液のOD600を測定し、さらに培養液を遠心分離して得た培養上清について、AV、VN、VA及びグルコースの濃度を測定した。OD600は分光光度計(「BIOmaster XB-10」、TOMY SEIKO社)を用いて測定した。AV、VN及びVAの濃度は、上記のHPLC分析を用いて測定した。グルコース濃度は、「バイオセンサー BF-5」(王子計測機器社)を用いて測定した。
【0214】
NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株を用いた培養結果を図13Aに示し、NGC729::P tac acpCAB opt株を用いた培養結果を図13Bに示す。
【0215】
図13A及び図13Bに示すとおり、NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株を用いた反応では、培養68時間においてもAVが残存したのに対し、NGC729::P tac acpCAB opt株を用いた場合は、培養30時間でAVが完全にVAへ変換された。
【0216】
以上の結果より、リグニン分解物モデルを用いた培養においても、MHK4株のAV変換酵素遺伝子群を用いると、SYK-6株由来のAV変換酵素遺伝子群を用いる場合と比べて、AVを速やかにVAへ変換できることが示された。
【0217】
また培養68時間時点でのVA収率は、NGC729[pSEVAacv+pTS093vce]株を用いた場合は95.7%であり、NGC729::P tac acpCAB opt株を用いた場合は99.4%であった。VAの収率は、[68時間培養後のVA量(mol)]/[培養開始時点のAV量(mol)+VN量(mol)+VA量(mol)]×100(%)から算出した。
【0218】
[10.MHK4ΔvanA3B3株の作製]
以下の手順により、MHK4株からバニレート -デメチラーゼ遺伝子(vanAB)を破壊した変異株である、MHK4ΔvanA3B3株を作製した。
【0219】
酸素添加型のバニレート -デメチラーゼは、オキシゲナーゼコンポーネント(VanA)とオキシドレダクターゼコンポーネント(VanB)とから構成される。P.putida KT2440株由来のバニレート -デメチラーゼ オキシゲナーゼコンポーネント(VanA)及びバニレート -デメチラーゼ オキシドレダクターゼコンポーネント(VanB)の推定アミノ酸配列と配列同一性が高いアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしている遺伝子をMHK4株のゲノム配列から検索した。検索の結果、MHK4株のゲノムDNAには、VanAと87.9%の配列同一性を示したアミノ酸配列をコードしている遺伝子vanA3(PSMH_1445)、VanBと74.7%の配列同一性を示したアミノ酸配列をコードしている遺伝子vanB3(PSMH_1446)があることを確認した。
【0220】
vanA3遺伝子及びvanB3遺伝子のそれぞれの遺伝子セットを欠失させたMHK4ΔvanA3B3株を以下の手順により作製した。遺伝子の欠失は、遺伝子の全領域を欠失させることにより行った。
【0221】
MHK4株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号46及び47のプライマー22及び23からなるプライマーセットと、配列番号48及び49のプライマー24及び25からなるプライマーセットとをそれぞれ用いたPCR法によって、vanA3遺伝子の5’末端上流及びvanB3遺伝子の3’末端下流の約1.2kbpのDNA断片をそれぞれ増幅した。それぞれの断片をあらかじめHindIII及びBamHIで消化したpK18mobsacBとNEBuilder HiFi DNAアッセンブリーとを用いたシームレスクローニング法により連結させることにより、vanA3遺伝子及びvanB3遺伝子の遺伝子領域欠失株作製用プラスミドpK18ΔvanA3B3を作製した。
【0222】
作製したプラスミドpK18ΔvanA3B3を、前記記載の方法のとおり、エレクトロポレーション法によりMHK4株に導入し、25mg/L Kmを含むLB寒天培地上で生育可能である株を選抜した。
【0223】
得られたKm耐性株を、10%のスクロースを含むLB液体培地に接種し、30℃で16~24時間の振盪培養に供した。得られた培養液を同培地に再度接種し、培養する操作を3回繰り返した。培養後の培養液を、LB寒天培地上に塗抹し、30℃で静置培養した。コロニーダイレクトPCRにより、ゲノムDNA上のvanA3B3遺伝子の内部領域が欠失したことが確認できた形質転換体を、MHK4ΔvanA3B3株とした。
【0224】
[11.MHK4ΔvanA3B3株が有するVAの分解性の評価]
MHK4株及びMHK4ΔvanA3B3株を、それぞれLB液体培地10mLに接種し、30℃、24時間の振盪培養に供した。得られた培養液0.1mLを新しいLB液体培地10mLに接種し、30℃、16時間の振盪培養に供した。
【0225】
得られた培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体をWx bufferに懸濁し、OD600が5.0になるように細胞懸濁液1.2mLを調製した。得られた細胞懸濁液に、終濃度が1.0mMになるようにVAを添加し、次いで得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによるVA変換反応に供した。
【0226】
反応開始後、一定時間毎にサンプリングし、反応液を遠心分離して得た上清について、VAの濃度を上記と同様にHPLC分析により測定した。図14に測定結果を示す。
【0227】
図14に示すとおり、MHK4株は添加したVAを全て分解したが、MHK4ΔvanA3B3株はVAを分解しなかった。以上の結果より、vanA3遺伝子及びvanB3遺伝子にコードされるバニレート -デメチラーゼが、MHK4株のVA分解に関わる酸素添加型のバニレート -デメチラーゼであることがわかった。
【0228】
[12.MHK4ΔvanA3B3株を用いたAVからのVA蓄積性の評価]
MHK4ΔvanA3B3株を、LB液体培地10mLに接種し、30℃、24時間の振盪培養に供した。得られた培養液0.1mLを新しいLB液体培地10mLに接種し、30℃、16時間の振盪培養に供した。
【0229】
得られた培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体をWx bufferに懸濁し、OD600が5.0になるように細胞懸濁液1.2mLを調製した。得られた細胞懸濁液に、終濃度が1.0mMになるようにAVを添加し、次いで得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによるAV変換反応に供した。
【0230】
反応開始後、一定時間毎にサンプリングし、反応液を遠心分離して得た上清について、AV及びVAの濃度を上記と同様にHPLC分析により測定した。図15に測定結果を示す。
【0231】
図15が示すとおり、2時間の反応でAVが完全にVAへ変換され、VAが蓄積した。以上のことから、MHK4ΔvanA3B3株を用いることで、AVからのVA生産が可能であることがわかった。
【0232】
[13.MHK4株とSYK-6株のAVの分解性の評価]
MHK4株及びSYK-6株を、LB液体培地10mLに接種し、30℃、16時間又は24時間の振盪培養に供した。得られた培養液0.1mLを新しいLB液体培地10mLに接種し、30℃、16時間又は24時間の振盪培養に供した。
【0233】
得られた培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体をWx bufferに懸濁し、OD600が5.0になるように細胞懸濁液1.4mLを調製した。得られた細胞懸濁液に、終濃度が1.0mMになるようにAVを添加し、次いで得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによるAV変換反応に供した。
【0234】
反応開始後、一定時間毎にサンプリングし、反応液を遠心分離して得た上清について、AVの濃度を測定した。AVの濃度は、上記と同様にHPLC分析により測定した。図16に測定結果を示す。
【0235】
図16が示すとおり、MHK4株は、SYK-6株に比べて、より迅速にAVを分解することがわかった。
【0236】
[14.AcpA酵素及びAcpB酵素の基質範囲]
プラスミドpE16acpAEscherichia coli Lemo21(DE3)株に導入し、プラスミドpE16acpB及びシャペロンプラスミドpKJE7をEscherichia coli BL21(DE3)株に導入した。
【0237】
得られたLemo21(DE3)[pE16acpA]株及びBL21(DE3)[pE16acpB+pKJE7]を、100mg/LのAmpを含む10mLのLBに接種し、37℃で一晩振盪培養した。得られた培養液0.1mLを、新しい100mg/LのAmpを含む10mLのLBに接種し、30℃でOD600が0.5になるまで振盪培養した。OD600が0.5になったら、isopropyl β-D-thiogalactopyranosideを終濃度が0.5mMになるように添加し、さらにFeSOを終濃度が0.1mMになるように添加した。添加後、各菌株を15℃で20時間の振盪培養に供した。
【0238】
Lemo21(DE3)[pE16acpA]株の培養液由来の細胞を、50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)+3mM dithiothreitol溶液を用いて洗浄した後、再度30mLの同溶液に懸濁した。BL21(DE3)[pE16acpB+pKJE7]株の培養液由来の細胞は50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)を用いて洗浄した後、再度210mLの同bufferに懸濁した。超音波ホモジナイザーを用いてそれぞれの細胞懸濁液中の細胞を破砕し、破砕後の細胞懸濁液を遠心分離に供して上清を得た。
【0239】
得られたLemo21(DE3)[pE16acpA]株の細胞破砕後の上清を、HisTrap HPカラム1mLに送液することにより、His×10融合AcpAをカラム担体に結合させた。50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)+500mM NaCl+3mM dithiothreitol+100mM imidazole溶液を上記カラムに送液して夾雑タンパク質を溶出させた後、50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)+500mM NaCl+3mM dithiothreitol+500mM imidazole溶液を送液してHis×10融合AcpAを含む溶出画分を得た。得られた溶出画分を、HiTrap Desaltingカラムに通して脱塩処理を行った後、His×10融合AcpAを含む画分を回収した。回収した画分を、Amicon Ultra-0.5mL Centrifugal Filter 30kDa cutoffに通し、溶液量が約0.3mLになるまで濃縮をして、得られた濃縮液を精製AcpA溶液とした。
【0240】
同様に得られたBL21(DE3)[pE16acpB+pKJE7]株の細胞破砕後の上清を、HiTrap TALON crudeカラムに送液することにより、His×10融合AcpBをカラム担体に結合させた。50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)+500mM NaCl+100mM imidazole溶液を送液して夾雑タンパク質を溶出させた後、50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)+500mM NaCl+500mM imidazole溶液を送液してHis×10融合AcpBを含む溶出画分を得た。得られた溶出画分を、HiTrap Desaltingカラムに通して脱塩処理を行った後、His×10融合AcpBを含む画分を回収した。回収した画分に3mMとなるようにdithiothreitolを加えた後、Amicon Ultra-0.5mL Centrifugal Filter 30kDa cutoffに通し、溶液量が約0.3mLになるまで濃縮をして、得られた濃縮液を精製AcpB溶液とした。得られた各精製タンパク質溶液のタンパク質濃度をBradford法によって測定した。
【0241】
精製AcpA溶液の終濃度が50μg/mLになり、精製AcpB溶液の終濃度が134.3μg/mLになり、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の終濃度が0.4mMになり、及び各基質の終濃度が0.2mMになるように50mM GTA buffer(pH7.0)中で混合し、得られた混合液を30℃で、1時間反応させた。基質にはそれぞれAV、acetophenone、HAP、3’,5’-dimethoxy-4’-hydroxyacetophenone、3’,4’-dihydroxyacetophenone、3’,4’-dimethoxyacetophenone、3’-hydroxy-4’-methoxyacetophenone、3’-methoxyacetophenone、3’-hydroxyacetophenone、3’,4’,5’-trimethoxyacetophenone、4’-hydroxypropiophenone、4’-hydroxybutyrophenone、2-methoxy-4-methylphenol、2-methoxy-4-ethylphenol、VA及びHBAをそれぞれ用いた。反応後、反応液の一部を分取し、等量のアセトニトリルと混合して反応を停止した。得られた反応溶液を遠心分離に供して得た上清に含まれる各基質及び反応産物について、HPLC分析に供した。
【0242】
上記のようにして、各基質を、AcpAB酵素による酵素反応に供した結果を、図17ABCDEFGH及び図17IJKLMNOPに示す。なお、図17ABCDEFGHには図17A~Hが含まれ、図17IJKLMNOPには図17I~Pが含まれる。具体的には、AVを基質として酵素溶液を含まない条件での反応開始直後及び反応開始1時間後、酵素溶液を含む条件での反応開始1時間後のHPLCクロマトグラムを図17Aに示す。同様に、Acetophenone、HAP、3’,5’-dimethoxy-4’-hydroxyacetophenone、3’,4’-dihydroxyacetophenone、3’,4’-dimethoxyacetophenone、3’-hydroxy-4’-methoxyacetophenone、3’-methoxyacetophenone、3’-hydroxyacetophenone、3’,4’,5’-trimethoxyacetophenone、4’-hydroxypropiophenone、4’-hydroxybutyrophenone、2-methoxy-4-methylphenol、2-methoxy-4-ethylphenol、VA及びHBAを基質とした場合のHPLCクロマトグラムをそれぞれ図17B~Pに示す。
【0243】
図17A図17C図17E図17K及び図17Lが示すように、精製AcpA溶液及び精製AcpB溶液からなる酵素溶液を用いた場合は、反応1時間においてそれぞれ保持時間10.6分、7.9分、5.5分、12.2分及び14.7分に変換産物のピークが検出された。このことから、AcpA酵素及びAcpB酵素は、AV、HAP、3’,4’-dihydroxyacetophenone、4’-hydroxypropiophenone及び4’-hydroxybutyrophenoneの分解能(変換能)を有することがわかった。
【0244】
一方、図17B図17D図17F図17G図17H図17I図17J図17M図17N図17O及び図17Pが示すように、acetophenone、3’,5’-dimethoxy-4’-hydroxyacetophenone、3’,4’-dimethoxyacetophenone、3’-hydroxy-4’-methoxyacetophenone、3’-methoxyacetophenone、3’-hydroxyacetophenone、3’,4’,5’-trimethoxyacetophenone、2-methoxy-4-methylphenol、2-methoxy-4-ethylphenol、VA及びHBAを基質とした場合は、変換産物のピークが検出されなかったことから、AcpA酵素及びAcpB酵素はこれらの基質の変換能を有さないことがわかった。
【0245】
[15.AcpC酵素の基質範囲]
AcpC粗酵素溶液の終濃度が50μg/mLになり、基質として用いたα-ヒドロキシアセトバニロン、2,4’-dihydroxyacetophenone又はα-ヒドロキシアセトシリンゴンの終濃度が0.2mMになるように50mM Tris-HCl buffer(pH7.5)中で混合し、得られた混合液を30℃で、1時間反応させた。反応後、反応液の一部を分取し、等量のアセトニトリルと混合して反応を停止した。得られた反応溶液を遠心分離に供して得た上清に含まれる各基質及び反応産物について、上記と同様にHPLC分析に供した。
【0246】
上記のようにして、各基質を、AcpC酵素による酵素反応に供した結果を図18図20に示す。具体的には、AcpC粗酵素溶液及びα-ヒドロキシアセトバニロンを用いた反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図18Aに示し、反応開始1時間後のHPLCクロマトグラムを図18Bに示す。AcpC粗酵素溶液及び2,4’-dihydroxyacetophenoneを用いた反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図19Aに示し、反応開始1時間後のHPLCクロマトグラムを図19Bに示す。AcpC粗酵素溶液及びα-ヒドロキシアセトシリンゴンを用いた反応開始直後のHPLCクロマトグラムを図20Aに示し、反応開始1時間後のHPLCクロマトグラムを図20Bに示す。
【0247】
図18及び図19が示すように、α-ヒドロキシアセトバニロン及び2,4’-dihydroxyacetophenoneを基質として用いた場合は、それぞれ反応1時間において保持時間8.2分及び7.1分にVA及びHBAのピークが検出された。このことから、AcpC酵素がα-ヒドロキシアセトバニロンをVAへ、2,4’-dihydroxyacetophenoneをHBAへ変換することがわかった。
【0248】
一方、図20が示すように、α-ヒドロキシアセトシリンゴンを基質とした場合は、変換産物のピークが検出されなかった。このことから、AcpC酵素はα-ヒドロキシアセトシリンゴンの変換能を有さないことがわかった。
【0249】
[16.acpCAB optを導入したPseudomonas sp.NGC7ΔpobA株を用いたHAPからのHBA蓄積性の評価]
NGC7株のゲノムにはシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440株由来のHBA・モノオキシゲナーゼ遺伝子(PP_3537)と94.4%の配列同一性を示すアミノ酸配列をコードする遺伝子であるPSN_3542(pobA遺伝子;配列番号58)が存在することを確認した。そこで、HBAの分解能を欠失させるためにpobA遺伝子を破壊した変異株を作製した。
【0250】
NGC7株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号59及び60のプライマー30及び31からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、pobA遺伝子及びその開始コドンから5’末端側に約0.5kbp、そして終始コドンから3’末端側に約0.5kbpを含む約1.8kbpのDNA断片を増幅した。得られたDNA断片をEcoRI及びHindIIIで消化し、同じくEcoRI及びHindIIIで消化したpUC118にライゲーション反応により連結させることでpUC118+pobAを作製した。
【0251】
次いで、pUC118+pobAをSacIで切断することにより、pobAの内部領域を約0.3kbp欠失させたのちにセルフライゲーションすることでpUC118+ΔpobAを作製した。pUC118+ΔpobAをEcoRI及びHindIIIで消化して得られた約1.5kbpのDNA断片を、同じくEcoRI及びHindIIIで消化したpK19mobsacBにライゲーション反応により連結させ、pobA遺伝子領域欠失株作製用プラスミドpTS220を作製した。
【0252】
常法に従って、作製したプラスミドpTS220を、エレクトロポレーション法によりNGC7株に導入し、25mg/LのKmを含むLB寒天培地上で生育可能である株を選抜した。
【0253】
得られたKm耐性株を、10%のスクロースを含む10mLのLB液体培地(10g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、5g/L NaCl)に接種し、30℃で16時間の振盪培養に供した。得られた培養液0.1mLをさらに同培地に接種し、30℃で16時間の振盪培養に供する操作を2回繰り返した。得られた培養液をLB寒天培地上に塗抹し、30℃で静置培養した。コロニーダイレクトPCRにより、ゲノムDNA上のpobA遺伝子領域の欠失が確認できた形質転換体を、NGC7ΔpobA株とした。
【0254】
プラスミドpSEVAacpCAB optを用いて、得られたNGC7ΔpobAを形質転換して、NGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株を得た。
【0255】
得られたNGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株を、25mg/LのKmを含む10mLのLBに接種し、30℃で一晩の振盪培養に供した。得られた培養液0.1mLを新しい25mg/L Kmを含む10mLのLBに接種し、30℃で16時間の振盪培養に供した。得られた培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体をMMx-3 bufferに懸濁して、OD600が2.0になるように細胞懸濁液1.2mLを調製した。得られた細胞懸濁液に終濃度が1.0mMになるようにHAPを添加し、得られた混合液を30℃、1,500rpmで振盪することによりHAP変換反応に供した。
【0256】
反応開始後、一定時間毎にサンプリングし、反応液を遠心分離して得た反応上清について、HAP及びHBAの濃度を上記と同様にHPLC分析により測定した。
【0257】
NGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株を用いたHAPからHBAへの変換反応の結果を図21に示す。図21が示すとおり、NGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株は、24時間の反応で約84%のHAPをHBAへ変換した。以上のことから、acpC optacpA optacpB opt遺伝子セットをNGC7株のHBA生産宿主であるNGC7ΔpobA株に導入することで、HAPからのHBA生産が可能であることがわかった。
【0258】
[17.acpCAB optを導入したPseudomonas sp.NGC7ΔpobA株を用いたHAP及びAVの混合物からのHBA生産性の評価]
NGC7ΔpobA[pSEVAacpCAB opt]株を、25mg/L Kmを含むLB液体培地10mLに接種し、30℃、一晩の振盪培養(180rpm)に供した。得られた培養液0.1mLを新しい25mg/L Kmを含むLB液体培地10mLに接種し、30℃、16時間の振盪培養に供した。得られた培養液を遠心分離に供して菌体を回収し、得られた菌体を、MMx-3培地を用いて洗浄し、次いで再度MMx-3培地に懸濁して、OD600が10になるように細胞懸濁液 1mLを調製した。
【0259】
200g/L Glucose溶液0.75mL、100mM HAP溶液 0.1mL、100mM AV溶液 0.1mLを含むMMx-3液体培地[34.2g/L NaHPO・12HO、6.0g/L KHPO、1.0g/L NaCl、2.5g/L(NHSO、49.3mg/L MgSO・7HO、15mg/L CaCl・2HO、5mg/L FeSO・7HO](25mg/L Km及び15mg/L Tcを含む)10mLに、初期OD600が0.1になるように細胞懸濁液を添加した。得られた細胞を含む培地を、30℃の振盪培養に供した。
【0260】
培養開始後、一定時間毎にサンプリングし、培養液のOD600を測定し、さらに培養液を遠心分離して得た培養上清について、HAP、AV、HBA、VA及びグルコースの濃度を測定した。OD600は分光光度計(「BioSpec-mini、SHIMADZU CO.Ltd.)を用いて測定した。HAP、AV、HBA及びVAの濃度は、上記のHPLC分析を用いて測定した。グルコース濃度は、上記のバイオセンサー BF-5を用いて測定した。
【0261】
HAP及びAVの混合物からのHBA生産試験の培養結果を図22に示す。図22に示すとおり、培養72時間においてHAP及びAVが完全に消費され、HBAのみが蓄積した。これにより、NGC7株のHBA生産宿主であるNGC7ΔpobA株に導入することで、HAP及びAVの混合物から、HBAのみを蓄積できることが示された。
【0262】
なお、培養72時間時点でのHBA収率は、102%であった。HBAの収率は、72時間培養後のHBA量(mol)/培養開始時点のHAP量(mol)×100(%)から算出した。
【0263】
[18.まとめ]
上記例1~例17を通じて、以下の事項が確認された。
日本各地からサンプリングした土壌から、AVを資化する新しい菌株であるPseudomonas sp.MHK4株を単離した。
MHK4株は、Sphingobium sp.SYK-6株が有するAV変換酵素遺伝子群(acvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvD遺伝子、acvE遺伝子及びacvF遺伝子並びにvceA遺伝子及びvceB遺伝子)のうち、acvA遺伝子、acvB遺伝子、acvC遺伝子、acvE遺伝子及びacvF遺伝子並びにvceB遺伝子と配列同一性が30%以上ある遺伝子を有していなかった。
MHK4株は、acpA遺伝子及びacpB遺伝子を保有することにより、AVをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換した。
MHK4株は、acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を保有することにより、AVをVAへ変換した。
acpA遺伝子及びacpB遺伝子の遺伝子産物であるAcpA酵素及びAcpB酵素によって、AVをα-ヒドロキシアセトバニロンへ変換した。
acpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の遺伝子産物であるAcpA酵素、AcpB酵素及びAcpC酵素によって、AVをVAへ変換した。
Pseudomonas sp. NGC7株にSYK-6株が有するAV変換酵素遺伝子群を導入した形質転換体はAVのVAへの変換効率は低かったのに対して、NGC7株にMHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を導入した形質転換体はAVのVAへの変換効率は非常に高かった。
NGC7株にSYK-6株が有するAV変換酵素遺伝子群を導入した形質転換体はAVを炭素源として増殖しなかったのに対して、NGC7株にMHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を導入した形質転換体はAVを炭素源として増殖した。
vanAB遺伝子を欠失したNGC7株へのMHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子の導入により、プラスミド導入及びゲノム導入のいずれの導入形式であっても、AVからVAへの変換が可能であった。
1.6mM AVを含む針葉樹サルファイトリグニン分解物モデルを用いた場合、NGC7株にSYK-6株が有するAV変換酵素遺伝子群を導入した形質転換体はAVをほとんど消費しなかったのに対して、NGC7株にMHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を導入した形質転換体はAVを完全に消費した。また、この場合のVAの収率は、NGC7株にMHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を導入した形質転換体の方が大きかった。
MHK4株は、vanA3遺伝子及びvanB3遺伝子が発現することにより、VAを資化した。
MHK4株のvanA3遺伝子及びvanB3遺伝子を欠失した形質転換体は、AVからVAを生産した。
MHK4株は、SKY-6株に比べて、より迅速にAVを分解した。
AcpAB酵素は、AV、HAP、3’,4’-dihydroxyacetophenone、4’-hydroxypropiophenone及び4’-hydroxybutyrophenoneに対して分解活性を有した。
AcpC酵素は、α-ヒドロキシアセトバニロン及び2,4’-dihydroxyacetophenoneをそれぞれVA及びHBAへ変換した。
pobA遺伝子を欠失したNGC7株にMHK4株のacpA遺伝子、acpB遺伝子及びacpC遺伝子を導入した形質転換体は、HAP単独又はHAP及びAVの混合物からHBAを生産した。
AcpAB酵素及びAcpC酵素並びにこれらを発現する微生物を用いれば、リグニンのアルカリ酸化分解により得られるH核由来アセトフェノン類(例えば、HAPなど)及びG核由来アセトフェノン類(例えば、AVなど)から、分子内にカルボキシル基及びヒドロキシ基を有することからモノマーとして利用可能な有用物質を生産できることがわかった。
【0264】
[19.配列表]
配列表に記載の配列は以下の表6A~表6Dに示すとおりである。
【0265】
【表6A】
【0266】
【表6B】
【0267】
【表6C】
【0268】
【表6D】
【産業上の利用可能性】
【0269】
本発明の一態様の遺伝子、微生物、形質転換微生物及び製造方法を利用することによって、リグニン由来の芳香族化合物であるアセトバニロンを含むバイオマスから、バニリン酸が得られる。バニリン酸は、種々の産業上有用な化合物に変換することができ、例えば、耐熱性及び剛性のあるプラスチック、コーティング剤などの用途があるバニリン酸誘導体の原料として利用することができる。同様に、本発明は、リグニン由来の芳香族化合物であるHAPからDHAPを介してHBAを得るために利用することができる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17ABCDEFGH
図17IJKLMNOP
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
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