(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109126
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】自動航行一軸二舵船の避航操船システム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/02 20060101AFI20240806BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20240806BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20240806BHJP
B63H 25/38 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G08G3/02 A
B63B79/40
B63H25/04 D
B63H25/38 B
B63H25/38 101
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013692
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】593140440
【氏名又は名称】日本操舵システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 和志
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB04
5H181BB20
5H181CC02
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF13
5H181FF25
5H181FF33
5H181FF35
5H181LL01
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】船舶に衝突のリスクが生じた場合に、自船の周辺海域において拡張された警戒海域において自船の衝突リスクを判断し、自船の安全航行を確保する。
【解決手段】衝突リスク判定部301が衝突すると判断した場合に、警報装置302が陸上操船支援センターBへ警報を発報し、緊急操船部303が緊急停止操船後にホバリング操船を行い、陸上操船支援センターBが航行安全判定部408において、レーダ画像の水平的な情報と、衛星画像の上方からの情報との二元的な情報に基づいて、他船による本船妨害ゾーンと本船安全ゾーンを判断することで、迅速に本船を本船安全ゾーンに導く。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動航行一軸二舵船と本船の安全航行を監視サポートする陸上操船支援センターからなり、
本船は、船尾に配置した一基の推進プロペラと、推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する一対のロータリーベーン舵取機と、2枚の高揚力舵の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御する制御装置と、制御装置から独立して2枚の高揚力舵の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御する緊急制御装置と、船舶レーダ装置と送受信アンテナ装置を備え、
制御装置は、自律的に自動操船する自動制御装置と、遠隔操作により操船する船上遠隔制御装置と、自動制御装置と船上遠隔制御装置の切り替えを制御する船上操船切替装置を有し、
緊急制御装置は、衝突リスク判定部と緊急操船部と警報装置を有し、
衝突リスク判定部は、船舶レーダ装置から得る自船情報と他船情報に基づいて自船が他船に衝突するか否かを判断し、衝突すると判断した場合に緊急指令を緊急操船部に指令し、
警報装置は、衝突リスク判定部が衝突すると判断した場合に、陸上操船支援センターへ警報を発報するとともに、船舶自動識別装置により本船が異常操船状態である情報を発信し、
緊急操船部は、緊急指令を受けて緊急停止操船を行って後に、船体をその場に留まらせるホバリング操船を行い、
陸上操船支援センターは、通信装置と、陸上操船装置を有し、
陸上操船装置は、通信装置により本船から警報を受信すると船舶レーダ装置のレーダ範囲を超える本船の現在船位付近の広域の設定警戒海域の衛星画像をセンターディスプレイ装置に表示する衛星画像受信装置と、通信装置により本船の制御装置の船上操船切替装置に自動制御装置と船上遠隔制御装置との操舵権の切り替えを指示する陸上操船切替装置と、本船の船上遠隔制御装置を介して本船を遠隔操船する陸上遠隔制御装置を有することを特徴とする自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【請求項2】
陸上操船装置は、本船の船舶レーダ装置のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて、本船が発信した警報が正しいか否かを判断する警報検証装置を有することを特徴とする請求項1に記載の自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【請求項3】
陸上操船装置は、本船の船舶レーダ装置のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて他船による本船妨害ゾーンと本船安全ゾーンを判断する航行安全判定部を有することを特徴とする請求項1に記載の自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【請求項4】
陸上操船装置は、陸上操船切替装置により操舵権を船上遠隔制御装置に切り替え、陸上遠隔制御装置を介して本船を遠隔操船し、航行安全判定部が示す本船安全ゾーンを本船に航行させることを特徴とする請求項3に記載の自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【請求項5】
陸上操船装置は、航行安全判定部が示す本船安全ゾーンを本船に指示し、陸上操船切替装置により操舵権を本船の自動制御部に戻し、本船の自動制御部により操船し、航行安全判定部が示す本船安全ゾーンを本船に自動航行させることを特徴とする請求項3に記載の自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【請求項6】
航行安全判定部は、人口知能を備えたコンピュータからなることを特徴とする請求項3に記載の自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【請求項7】
設定警戒海域の衛星画像は、遠赤外線画像であることを特徴とする請求項1に記載の自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【請求項8】
警報装置は、船舶自動識別装置により本船が異常操船状態である情報を発信するとともに、注意喚起信号装置により海上衝突予防法第36条に規定する注意喚起信号を発することを特徴とする請求項1に記載の自動航行一軸二舵船の避航操船システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緊急制御機能を備えた自動航行一軸二舵船の避航操船システムに関し、緊急時に衝突を防止するとともに、航行の安全を速やかに確認できる技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の操縦装置としては、例えば特許文献1に記載するものがある。これは、一基の推進プロペラの後方に一対の舵を推進プロペラ軸心に対して対称の位置に設けた二枚舵システム、あるいは、二基の推進プロペラの後方にそれぞれ一枚の舵を設けた二枚舵システムを有する船舶の自動制御装置である。
【0003】
この自動制御装置は、操舵命令系統がオートパイロット装置とジョイスティック・パネルとから構成され、オートパイロット装置は針路設定装置とジャイロコンパスとからなり、ジョイスティック・パネルはジョイスティックレバーと舵角設定装置と緊急停止押釦とからなり、制御装置系統が自動演算装置とジョイスティック・ユニットと舵角設定器と緊急停止制御ユニットとから構成される。
【0004】
また、特許文献2には、自動航行を行う機能を有する船舶が異常操船状態となったときに、船舶の本来の操船者から指令を与えることで異常操船状態から脱することができる緊急制御機能を備えた自動航行一軸二舵船が記載されており、緊急指令を受けて自動制御装置への給電を停止する緊急電源遮断部と、緊急指令を受けて船体をその場に留まらせるホバリング操船を行う緊急操船部を有している。
【0005】
また、近年では無人で自律的に自動航行する機能を備えた船舶の研究において、安全航行に向けた衝突リスクを判断する方法の研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5213729
【特許文献2】特開2021-91307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の無人で自律的に自動航行する機能を備えた船舶において、異常操船状態となり、船舶の本来の操船者から指令を与える場合に、周辺海域における他船の航行状況を速やかに取得して自船の衝突リスクを判断することが、自船の安全航行にとって重要である。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するものであり、自動航行を行う機能を有する船舶に衝突のリスクが生じた場合に、船舶をその場に留めて衝突を回避するとともに、自船の周辺海域の拡張された警戒海域において自船の衝突リスクを判断し、自船の安全航行を確保することができる自動航行一軸二舵船の避航操船システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明の自動航行一軸二舵船の避航操船システムは、自動航行一軸二舵船と本船の安全航行を監視サポートする陸上操船支援センターからなり、本船は、船尾に配置した一基の推進プロペラと、推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する一対のロータリーベーン舵取機と、2枚の高揚力舵の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御する制御装置と、制御装置から独立して2枚の高揚力舵の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御する緊急制御装置と、船舶レーダ装置と送受信アンテナ装置を備え、制御装置は、自律的に自動操船する自動制御装置と、遠隔操作により操船する船上遠隔制御装置と、自動制御装置と船上遠隔制御装置の切り替えを制御する船上操船切替装置を有し、緊急制御装置は、衝突リスク判定部と緊急操船部と警報装置を有し、衝突リスク判定部は、船舶レーダ装置から得る自船情報と他船情報に基づいて自船が他船に衝突するか否かを判断し、衝突すると判断した場合に緊急指令を緊急操船部に指令し、警報装置は、衝突リスク判定部が衝突すると判断した場合に、陸上操船支援センターへ警報を発報するとともに、船舶自動識別装置により本船が異常操船状態である情報を発信し、緊急操船部は、緊急指令を受けて緊急停止操船を行って後に、船体をその場に留まらせるホバリング操船を行い、陸上操船支援センターは、通信装置と、陸上操船装置を有し、陸上操船装置は、通信装置により本船から警報を受信すると船舶レーダ装置のレーダ範囲を超える本船の現在船位付近の広域の設定警戒海域の衛星画像をセンターディスプレイ装置に表示する衛星画像受信装置と、通信装置により本船の制御装置の船上操船切替装置に自動制御装置と船上遠隔制御装置との操舵権の切り替えを指示する陸上操船切替装置と、本船の船上遠隔制御装置を介して本船を遠隔操船する陸上遠隔制御装置を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の自動航行一軸二舵船の避航操船システムにおいて、陸上操船装置は、本船の船舶レーダ装置のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて、本船が発信した警報が正しいか否かを判断する警報検証装置を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の自動航行一軸二舵船の避航操船システムにおいて、陸上操船装置は、本船の船舶レーダ装置のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて他船による本船妨害ゾーンと本船安全ゾーンを判断する航行安全判定部を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の自動航行一軸二舵船の避航操船システムにおいて、陸上操船装置は、陸上操船切替装置により操舵権を船上遠隔制御装置に切り替え、陸上遠隔制御装置を介して本船を遠隔操船し、航行安全判定部が示す本船安全ゾーンを本船に航行させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の自動航行一軸二舵船の避航操船システムにおいて、陸上操船装置は、航行安全判定部が示す本船安全ゾーンを本船に指示し、陸上操船切替装置により操舵権を本船の自動制御部に戻し、本船の自動制御部により操船し、航行安全判定部が示す本船安全ゾーンを本船に自動航行させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の自動航行一軸二舵船の避航操船システムにおいて、航行安全判定部は、人口知能を備えたコンピュータからなることを特徴とする。
【0015】
また、設定警戒海域の衛星画像は、遠赤外線画像であることを特徴とする。
【0016】
また、警報装置は、船舶自動識別装置により本船が異常操船状態である情報を発信するとともに、注意喚起信号装置により海上衝突予防法第36条に規定する注意喚起信号を発することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記の構成により、自動航行を行う機能を有する船舶が本来航行すべき航路から逸脱したり、船速が異常に速まったりした異常操船状態において、あるいは操船装置の誤作動により異常操船状態となった状態において、あるいは相手船の誤操船が原因で異常接近する状態において、衝突のリスクが生じた場合に、船舶をその場に留めることで衝突を回避できる。
【0018】
そして、陸上操船装置において、船舶レーダ装置のレーダ範囲を超える本船の現在船位付近の広域の設定警戒海域の衛星画像をセンターディスプレイ装置に表示することで、レーダ画像の水平的な情報と、それとは異なる衛星画像の上方からの情報との二元的な情報に基づいて、衝突リスク判定部が衝突すると判断した事象を確認し、判断の正当性を判定できる。
【0019】
衝突の判断が正しい場合には、陸上操船切替装置により船上操船切替装置に自動制御装置と船上遠隔制御装置との操舵権の切り替えを指示し、陸上遠隔制御装置により船上遠隔制御装置を介して本船を操船し、本船を本船安全ゾーンにまで航行させた後に、本船を自動制御装置による操船に復帰させる。
【0020】
また、衝突の判断が誤りである場合には、判断の誤りの原因を特定し、衝突リスク判定部に現事象は安全であるとの情報を送って本船を自動制御装置による操船に復帰させる。
【0021】
また、本発明の自動航行一軸二舵船の避航操船システムにおいて、陸上操船装置の警報検証装置が、本船の船舶レーダ装置のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて、本船が発信した警報が正しいか否かを判断することで、衝突リスク判定部が衝突すると判断した事象の判断の正当性を迅速に判定することができ、警報検証事象を蓄積することで、結果として衝突リスク判定部の判定精度を高めることができる。
【0022】
また、設定警戒海域の衛星画像が遠赤外線画像であるで、現場海域の昼夜、天候等の環境の影響を受けることなく、現況確認を行うことができる。
【0023】
また、陸上操船装置の航行安全判定部において、レーダ画像の水平的な情報と、それとは異なる衛星画像の上方からの情報との二元的な情報に基づいて、他船による本船妨害ゾーンと本船安全ゾーンを判断することで、迅速に本船を本船安全ゾーンに導くことができる。
【0024】
また、航行安全判定部が人口知能を備えたコンピュータからなることで、衝突リスク判定部が衝突すると判断した事象や警報検証事象を学習し、蓄積して、より迅速に、より確実な本船安全ゾーンを導き出すことができる。
【0025】
また、警報装置が注意喚起信号装置により海上衝突予防法第36条に規定する注意喚起信号を発するので、現場海域の他の船舶に十分な注意喚起を行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態における緊急制御機能を備えた自動航行一軸二舵船の推力システムおよび自動制御装置を示す模式図
【
図2】同実施の形態における緊急制御機能を備えた自動航行一軸二舵船の操船スタンドを示す模式図
【
図3】同実施の形態における操船スタンドの構成を示す模式図
【
図4】同実施の形態における緊急制御装置を示す模式図
【
図5】同実施の形態における陸上操船支援センターを示す模式図
【
図6】同実施の形態における高揚力舵の可動範囲を示す平面図
【
図7】同実施の形態における推進器および高揚力舵を示し、推力システム100の船尾部の構成を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明に係る自動航行一軸二舵船の避航操船システムは、自動航行一軸二舵船Aと本船の安全航行を監視サポートする陸上操船支援センターBからなる。
【0028】
自動航行一軸二舵船Aは、
図1から
図8に示すように、推力システム100と推力システム100を制御する操船システム200を備えている。
【0029】
図7に示すように、推力システム100は、船体110の船尾に配置した1基1軸のプロペラからなるプロペラ推進器101と、プロペラの後方に配置した2枚の高揚力舵102、103を配したものである。
【0030】
図6に示すように、高揚力舵102、103は、プロペラの軸心方向に沿った断面形状が高揚力の断面輪郭の舵ブレードを有する舵である。高揚力の舵ブレードには種々の形状のものがあるが、本実施の形態の高揚力舵102、103の舵ブレードは以下の形状をなす。すなわち、水平断面の輪郭において前方へ半円形状に突出させた前縁部102a、103aと、前縁部102a、103aに連続して流線型に幅を増大させた後に最小幅部102b、103bに向けて徐々に幅を減少させた中間部102c、103cと、中間部102c、103cに連続して所定幅の後方端102d、103dに向けて徐々に幅を増大させた魚尾後縁部102e、103eからなる形状を有している。
【0031】
各高揚力舵102、103は、それぞれ、アウトボード(外、舷側)へ105°、インボード(内舷側)へ35°転舵可能に構成されている。そして、1基1軸の推進器(プロペラ)をプロペラ前進回転のままで、1対2枚の高揚力舵102、103をそれぞれ独立して種々の角度に作動させ、両舷の高揚力舵102、103を舵角の組合せを変えることによって、プロペラ後流を目的とする望ましい方向に分配し、それぞれの方向の推力を自在に変えることができる。従って、それぞれの方向の推力の合成推力を自在に変えることができ、プロペラ後流を制御して船尾回りの推力を360°全方向にわたって制御することで、船の前後進、停止、前進旋回、後進旋回等の操船を行わせ、船の運動を自由に制御することができる。
【0032】
図1に示すように、推力システム100は、高揚力舵102、103を駆動するロータリーベーン舵取機104、105と、ロータリーベーン舵取機104、105を制御する舵制御装置(サーボアンプ)106、107と、船体110の船首側に配置した船首スラスター108および船首スラスター108を制御するスラスター制御装置109を有している。
【0033】
また、ロータリーベーン舵取機104、105のそれぞれには、ポンプユニット151、152と舵角発信器153、154とフィードバックユニット155、156が接続しており、フィードバックユニット155、156が舵制御装置106、107に接続している。
【0034】
図3に示すように、操船システム200は、制御装置206として、2枚の高揚力舵102、103の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御し、無人で自律的に自動操船する場合(モード)の自動制御装置201、有人で2枚の高揚力舵102、103の舵角を組み合わせて操船する場合(モード)の有人制御装置202、遠隔操作により操船する船上遠隔制御装置204、自動制御装置201と船上遠隔制御装置204の切り替えを制御する船上操船切替装置205を備えている。また、制御装置206の自動制御装置201から独立して2枚の高揚力舵102、103の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御する場合(モード)の緊急制御装置203を有し、さらには、船舶レーダ装置271および送受信アンテナ装置272が接続されている。
【0035】
自動制御装置201は、操船スタンド250に格納されており、ジャイロコンパス251、GPSコンパス(図示省略)を用いたオートパイロットで操縦するものであり、送受信アンテナ装置272を介して交信する無線通信により遠隔地から目的地、航路、船速等々の航行に必要な情報を操船指令として受け取り、船舶レーダ装置271で周囲の船舶や障害物を検知しつつ自律的に自動操船する自動航行操船部253と、無線通信による操船指令を受け取る操船指令受信部265を有している。
【0036】
有人制御装置202は、ジャイロコンパス251のジャイロ方位を表示するジャイロ方位表示部252と、ジョイスティックレバー254により操船するジョイスティック操船部255と、モード切替スイッチ260により自動制御装置201と有人制御装置202の切替を行うモード切替部261と、画面にタッチパネルを配した本船ディスプレイ装置262と、本船ディスプレイ装置262に映す画像を制御する画像制御部263を有している。
【0037】
画像制御部263は、ジャイロ方位を映すジャイロ方位表示画像267と、ジャイロ方位表示部252をモニター画面上でタッチ操作するための方位表示部操作画像268と、自動航行操船部253をモニター画面上でタッチ操作するためのオート操船操作画像269を選択的に表示し、あるいは同時に表示する。
【0038】
ジョイスティック操作部255は、ジョイスティックレバー254がX-Y方向の何れの方向へも操作可能に構成されており、ジョイスティックレバー254の傾倒方向で船体の指令運動方向を制御し、傾倒方向における傾倒角度で船首尾方向指令速度および船体横方向指令速度を制御するものである。
【0039】
ジョイスティック操船部255は、両舷の高揚力舵102、103の舵角をそれぞれジョイスティックレバー254の傾倒方向に応じて設定した舵角に制御し、かつ両舷の高揚力舵102、103の舵角を組合せることで、プロペラ後流の推力を目的方向に向けて変向し、双方のロータリーベーン舵取機104、105により両舷の高揚力舵102、103のそれぞれの舵角を外舷側へ105°、内舷側へ35°の範囲で制御する。詳細は後述する。
【0040】
自動航行操船部253は、ジャイロコンパス251、GPSコンパス、電子海図システムにより自船の現在位置情報、誘導経路情報、停船保持位置情報に基づいて、自船を無線通信による操船指令で受けた設定針路に誘導制御するものである。
【0041】
図4に示すように、緊急制御装置203は、衝突リスク判定部301と警報装置302と緊急操船部303と現在位置情報発信部304を有している。
【0042】
衝突リスク判定部301は、ジャイロコンパス251、GPSコンパス、船舶レーダ装置271から得る自船情報と他船情報に基づいて自船が他船に衝突するか否かを判断し、衝突すると判断した場合に緊急指令を緊急操船部303に指令する。
【0043】
警報装置302は、衝突リスク判定部301が衝突すると判断した場合に、陸上操船支援センターBへ警報を発報するとともに、現在位置情報発信部304により船舶自動識別装置を通して本船が異常操船状態である情報を発信する。さらに、警報装置302は、注意喚起信号装置305により海上衝突予防法第36条に規定する注意喚起信号、例えば発光信号、音響信号等を発する。
【0044】
緊急操船部303は、緊急指令を受けて緊急停止操船を行って後に、船体をその場に留まらせるホバリング操船を行う。
【0045】
船上遠隔制御装置204は、陸上操船支援センターBから遠隔操船指令を受け取る遠隔操船指令受信部221と、遠隔操船指令受信部221で受信した遠隔操船指令を実行する遠隔操船部222を有している。
【0046】
船上操船切替装置205は、陸上操船支援センターBから切替指令を受け取る切替指令受信部223と、切替指令受信部223で受信した切替指令を実行する切替操作部224を有している。
【0047】
陸上操船支援センターBは、通信装置401と、陸上操船装置402を有している。陸上操船装置402は、通信装置401により本船から警報を受信すると船舶レーダ装置271のレーダ範囲を超える本船の現在船位付近の広域の設定警戒海域の衛星画像をセンターディスプレイ装置403に表示する衛星画像受信装置404と、通信装置401により本船の操船システム200の船上操船切替装置205に自動制御装置201と船上遠隔制御装置204との操舵権の切り替えを指示する陸上操船切替装置405と、本船の船上遠隔制御装置204を介して本船を遠隔操船する陸上遠隔制御装置406と、本船の船舶レーダ装置271のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて、本船が発信した警報が正しいか否かを判断する警報検証装置407と、本船の船舶レーダ装置271のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて他船による本船妨害ゾーンと本船安全ゾーンを判断する航行安全判定部408を有する。ここでは、航行安全判定部408は、人口知能いわゆるAIを備えたコンピュータからなる。
【0048】
設定警戒海域の衛星画像は遠赤外線画像であり、現場海域の昼夜、天候等の環境の影響を受けることなく、現況確認を行うことができる。
【0049】
陸上操船装置402は、陸上操船切替装置405により操舵権を船上遠隔制御装置204に切り替え、陸上遠隔制御装置406を介して本船を遠隔操船し、航行安全判定部408が示す本船安全ゾーンを本船に航行させる。
【0050】
または、陸上操船装置402は、航行安全判定部408が示す本船安全ゾーンを本船に指示し、陸上操船切替装置405により操舵権を本船の自動制御部201に戻し、本船の自動制御部201により操船し、航行安全判定部408が示す本船安全ゾーンを本船に自動航行させる。
【0051】
高揚力舵102、103の基本的な舵角の組合せ、およびジョイスティックレバー254の状態と、その呼称及びプロペラ後流線と運動方向を、
図8において説明する。
【0052】
図8中で、舵は水平断面で示してあり、その横あるいは下方に各々の舵の舵角を示している。舵角は右に取るのが正(+)、左に取るのが負(-)として表示し、これらの舵角の組み合わせに対する呼称を掲げている。プロペラ後流は、細い矢印線で、又、それによる船の推進方向を太い中抜き矢印線で画いている。
【0053】
ちなみに、「TURN TO PORT」(前進左旋回)は左舷舵-35°、右舷舵-35°であり、「ROTATE TO PORT」(船首左回頭)は左舷舵-70°、右舷舵-35°であり、「STERN TO PORT」(船尾左旋回)は左舷舵-105°、右舷舵+45°から+75°であり、「ASTERN TO PORT」(後進左旋回)は左舷舵-105°、右舷舵+75°から+105°であり、「AHEAD」(前進)は左舷舵0°、右舷舵0°であり、「HOVERING」(その場停止)は左舷舵-75°、右舷舵+75°であり、「ASTERN」(後進)は左舷舵-105°、右舷舵+105°であり、「TURN TO STARD」(前進右旋回)は左舷舵+35°、右舷舵+35°であり、「ROTATE TO STARD」(船首右回頭)は左舷舵+35°、右舷舵+70°であり、「STERN TO STARD」(船尾右旋回)は左舷舵-45°から-75°、右舷舵+105°であり、「ASTERN TO STARD」(後進右旋回)は左舷舵-75°から-105°、右舷舵+105°である。
【0054】
以下、上記構成における作用を説明する。
1.有人制御装置202による操縦モード
モード切替スイッチ260を操作して有人制御装置202のジョイスティックによる操縦モードを選択する。ジョイスティック操船部255は、ジョイスティックレバー254によって船体の指令運動方向、船首尾方向指令推力、船体横方向指令推力を指令する。
【0055】
この操船においては、プロペラ推進器101をプロペラ前進回転のままで、それぞれの高揚力舵、103をそれぞれ独立に種々の角度に作動させてプロペラ後流を制御し、船尾回りの推力を360゜全方向にわたって制御する。この制御によって船の前後進、停止、前進旋回、後進旋回等を行わせることにより操船における機動性を向上させることができる。
【0056】
すなわち、両舷の舵の舵角の組合せを変えることによって、プロペラ後流を目的とする望ましい方向に向けてその方向に推力を変えることができる。ここに挙げた舵角の組み合わせは一例であり、目的とする推進方向及び推力を得るように、舵角の組み合わせを任意に変えることができる。
【0057】
このように、操船においては推進器推力の反転(プロペラ逆転)が不要であり、主機関は常に前進回転のままであらゆる操船制御が行え、主機関の回転数を加減せずとも、両舵の舵角を加減して、そのときのプロペラ回転数に対応した前進最大速度から後進最大速度まで無段階にきめ細かく船速を制御することができる。
2.自動制御装置201による操縦モード
モード切替スイッチ260を操作して自動制御装置201による操縦モードを選択する。
【0058】
自動制御装置201は、無人で自律的に自動操船する。すなわち、自動制御装置201は、無線通信により遠隔地から目的地、航路、船速等の航行に必要な情報を操船指令として操船指令受信部265で受け取り、受け取った指令に基づいてGPSコンパスを用いたオートパイロットで操縦し、GPSコンパス、電子海図システムにより自船の現在位置情報、誘導経路情報、停船保持位置情報に基づいて、自船を無線通信による操船指令で受けた設定針路に誘導制御する。
【0059】
この自動制御装置201による操船においても、有人制御装置202による操船と同様に、船体の指令運動方向、船首尾方向指令推力、船体横方向指令推力を指令する。
【0060】
すなわち、プロペラ推進器101をプロペラ前進回転のままで、それぞれの高揚力舵102、103をそれぞれ独立に種々の角度に作動させてプロペラ後流を制御し、船尾回りの推力を360゜全方向にわたって制御する。この制御によって船の前後進、停止、前進旋回、後進旋回等を行わせる。
3.緊急制御装置203による操縦モード
緊急制御装置203は、自動制御装置201の誤作動により異常操船状態となったときに、あるいは相手船の誤操船が原因で異常接近するときにおいて、衝突リスクを判定する。
【0061】
すなわち、衝突リスク判定部301は、船舶レーダ装置271から得る自船情報と他船情報に基づいて自船が他船に衝突するか否かを判断する。自船情報は、自船の船位、自船の船速、自船の方位を含み、他船情報は、他船の船位、他船の船速、他船の方位を含む情報である。
【0062】
衝突リスク判定部301が衝突すると判断した場合に、警報装置302は発報して操船者(乗船している場合に)に警報を発し、陸上操船支援センターBへ警報を発報するとともに、現在位置情報発信部304により船舶自動識別装置を通して本船が異常操船状態である情報を発信し、緊急指令を緊急操船部303に指令する。また、警報装置302が注意喚起信号装置305により海上衝突予防法第36条に規定する注意喚起信号を発するので、現場海域の他の船舶に十分な注意喚起を行える。
【0063】
緊急操船部303は、緊急指令を受けて船体をその場に留まらせるホバリング操船を行う。この際に、緊急操船部303は、ホバリング操船に先立って船舶の緊急停止操船を行う。このため、左舷舵の高揚力舵103を取舵方向(上から見て時計回りの方向)に、右舷舵の高揚力舵102を面舵方向(上から見て反時計回りの方向)に、それぞれハードオーバー(舵いっぱい)まで転舵させ、船に制動力を与えて停止させる。この両舵により非常に大きな制動力と後進力を発生させるので、プロペラ逆転による操船よりもはるかに短い時間、短い距離で船体を停止させることができる。
【0064】
次に、緊急操船部303は、船体をその場に留まらせるホバリング操船を行う。このため、左舷舵の高揚力舵103を取舵方向(上から見て時計回りの方向)に-75°、右舷舵の高揚力舵102を面舵方向(上から見て反時計回りの方向)に+75°に転舵させて、
図7に示す「HOVERING」(その場停止)を行う。
【0065】
このように、緊急制御装置203が、緊急操船部303によって船体をその場に留まらせるホバリング操船を行うことで、衝突を回避できる。
【0066】
陸上操船支援センターBの陸上操船装置402は、通信装置401により本船から警報を受信するとセンターディスプレイ装置403に船舶レーダ装置271のレーダ範囲を超える本船の現在船位付近の広域の設定警戒海域の衛星画像を表示する。この設定警戒海域の衛星画像が遠赤外線画像であるで、現場海域の昼夜、天候等の環境の影響を受けることなく、現況確認を行うことができる。
【0067】
陸上操船切替装置405が通信装置401により本船の操船システム200の船上操船切替装置205に自動制御装置201と船上遠隔制御装置204との操舵権の切り替えを指示する。
【0068】
そして、陸上操船装置402による遠隔操船に先立って、警報検証装置407が本船の船舶レーダ装置271のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて、本船が発信した警報が正しいか否かを判断し、衝突の判断が正しい場合には、遠隔操船する。
【0069】
AIを備えたコンピュータの航行安全判定部408が、本船の船舶レーダ装置271のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて他船による本船妨害ゾーンと本船安全ゾーンを判断する。
【0070】
そして、陸上操船装置402は、陸上操船切替装置405により船上操船切替装置に自動制御装置201と船上遠隔制御装置204との操舵権の切り替えを指示し、陸上遠隔制御装置406により船上遠隔制御装置204を介して本船を操船し、本船を航行安全判定部408が示す本船安全ゾーンにまで航行させた後に、本船を自動制御装置201による操船に復帰させる。
【0071】
または、陸上操船装置402は、航行安全判定部408が示す本船安全ゾーンを本船に指示し、陸上操船切替装置405により操舵権を本船の自動制御部201に戻し、本船の自動制御部201により操船し、航行安全判定部408が示す本船安全ゾーンを本船に自動航行させる。
【0072】
また、衝突の判断が誤りである場合には、判断の誤りの原因を特定し、衝突リスク判定部に現事象は安全であるとの情報を送って本船を自動制御装置201による操船に復帰させる。
【0073】
上記の構成により、自動航行を行う機能を有する船舶が本来航行すべき航路から逸脱したり、船速が異常に速まったりした異常操船状態において、あるいは操船装置の誤作動により異常操船状態となった状態において、あるいは相手船の誤操船が原因で異常接近する状態において、衝突のリスクが生じた場合に、船舶をその場に留めることで衝突を回避できる。
【0074】
そして、陸上操船装置402において、船舶レーダ装置271のレーダ範囲を超える本船の現在船位付近の広域の設定警戒海域の衛星画像をセンターディスプレイ装置403に表示することで、レーダ画像の水平的な情報と、それとは異なる衛星画像の上方からの情報との二元的な情報に基づいて、衝突リスク判定部301が衝突すると判断した事象を確認し、判断の正当性を判定できる。
【0075】
また、陸上操船装置402の警報検証装置407が、本船の船舶レーダ装置271のレーダ情報と設定警戒海域の衛星画像とに基づいて、本船が発信した警報が正しいか否かを判断することで、衝突リスク判定部301が衝突すると判断した事象の判断の正当性を迅速に判定することができ、警報検証事象を蓄積することで、結果として衝突リスク判定部301の判定精度を高めることができる。
【0076】
また、陸上操船装置402の航行安全判定部408において、レーダ画像の水平的な情報と、それとは異なる衛星画像の上方からの情報との二元的な情報に基づいて、他船による本船妨害ゾーンと本船安全ゾーンを判断することで、迅速に本船を本船安全ゾーンに導くことができる。
【0077】
また、航行安全判定部408が人口知能を備えたコンピュータからなることで、衝突リスク判定部301が衝突すると判断した事象や警報検証事象を学習し、蓄積して、より迅速に、より確実な本船安全ゾーンを導き出すことができる。
【符号の説明】
【0078】
100 推力システム
110 船体
101 プロペラ推進器
102、103 高揚力舵
104、105 ロータリーベーン舵取機
106、107 舵制御装置
108 船首スラスター
109 スラスター制御装置
151、152 ポンプユニット
153、154 舵角発信器
155、156 フィードバックユニット
200 操船システム
201 自動制御装置
202 有人制御装置
203 緊急制御装置
204 船上遠隔制御装置
205 船上操船切替装置
206 制御装置
221 遠隔操船指令受信部
222 遠隔操船部
223 切替指令受信部
224 切替操作部
250 操船スタンド
251 ジャイロコンパス
252 ジャイロ方位表示部
253 自動航行操船部
254 ジョイスティックレバー
255 ジョイスティック操船部
260 モード切替スイッチ
261 モード切替部
262 本船ディスプレイ装置
263 画像制御部
271 船舶レーダ装置
272 送受信アンテナ装置
301 衝突リスク判定部
302 警報装置
303 緊急操船部
304 現在位置情報発信部
305 注意喚起信号装置
401 通信装置
402 陸上操船装置
403 センターディスプレイ装置
404 衛星画像受信装置
405 陸上操船切替装置
406 陸上遠隔制御装置
407 警報検証装置
408 航行安全判定部
A 自動航行一軸二舵船
B 陸上操船支援センター