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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109137
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】刃先交換式切削工具、およびホルダ
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/16 20060101AFI20240806BHJP
   B23B 29/00 20060101ALI20240806BHJP
   B23B 29/03 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B23B27/16 B
B23B29/00 A
B23B29/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013734
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】元売 明瑞紗
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046EE11
3C046KK01
3C046KK02
(57)【要約】
【課題】切削インサートの突き出し量を無段階に調整可能な刃先交換式切削工具、およびホルダの提供。
【解決手段】中心軸線に沿って延び先端部に切刃が形成される軸状の切削インサートと、切削インサートが挿入される取付孔が設けられる柱状の工具本体と、切削インサートを後端部側から支持する支持部材と、を備え、工具本体には、中心軸線を中心とし工具本体の先端部で開口する取付孔と、工具本体の後端部で開口する保持孔と、中心軸線から径方向にずれた偏心軸線を中心とし取付孔と保持孔とを連通させる偏心孔と、が形成され、支持部材は、偏心孔に挿通されるとともに軸方向に延びて先端で切削インサートに軸方向から接触するピン部と、ピン部の後端に設けられ保持孔の内部に配置されるカム部と、を備え、支持部材を偏心軸線周りに回転させることで、カム部の外周面が保持孔の内周面に押し当てられる、刃先交換式切削工具。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線に沿って延び先端部に切刃が形成される軸状の切削インサートと、
前記切削インサートが挿入される取付孔が設けられる柱状の工具本体と、
前記切削インサートを後端部側から支持する支持部材と、を備え、
前記工具本体には、
前記中心軸線を中心とし前記工具本体の先端部で開口する前記取付孔と、
前記工具本体の後端部で開口する保持孔と、
前記中心軸線から径方向にずれた偏心軸線を中心とし前記取付孔と前記保持孔とを連通させる偏心孔と、が形成され、
前記支持部材は、
前記偏心孔に挿通されるとともに軸方向に延びて先端で前記切削インサートに軸方向から接触するピン部と、
前記ピン部の後端に設けられ前記保持孔の内部に配置されるカム部と、を備え、
前記カム部の外周面には、前記偏心軸線を中心とする周方向に並ぶ第1部分と第2部分とが設けられ、
前記第2部分と前記偏心軸線との距離は、前記第1部分と前記偏心軸線との距離よりも大きく、
前記支持部材を前記偏心軸線周りに回転させることで、前記第2部分が前記保持孔の内周面に押し当てられる、
刃先交換式切削工具。
【請求項2】
前記切削インサートの両端部には、前記切刃、および前記切刃に連なるすくい面がそれぞれ形成され、
前記すくい面の少なくとも一部は、軸方向を向き、
前記ピン部は、前記切削インサートの後端部側の前記すくい面に先端で接触する、
請求項1に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項3】
前記カム部は、軸方向における前記ピン部とは反対側の端面に設けられた工具挿入孔を有する、
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項4】
前記ピン部の先端は、軸方向に凸となる球面状をなしている、
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項5】
中心軸線に沿って延び先端部に切刃が形成される軸状の切削インサートを保持するホルダであって、
前記切削インサートが挿入される取付孔が設けられる柱状の工具本体と、
前記切削インサートを後端部側から支持する支持部材と、を備え、
前記工具本体には、
前記中心軸線を中心とし前記工具本体の先端部で開口する前記取付孔と、
前記工具本体の後端部で開口する保持孔と、
前記中心軸線から径方向にずれた偏心軸線を中心とし前記取付孔と前記保持孔とを連通させる偏心孔と、が形成され、
前記支持部材は、
前記偏心孔に挿通されるとともに軸方向に延びて先端で前記切削インサートに軸方向から接触するピン部と、
前記ピン部の後端に設けられ前記保持孔の内部に配置されるカム部と、を備え、
前記カム部の外周面には、前記偏心軸線を中心とする周方向に並ぶ第1部分と第2部分とが設けられ、
前記第2部分と前記偏心軸線との距離は、前記第1部分と前記偏心軸線との距離よりも大きく、
前記支持部材を前記偏心軸線周りに回転させることで、前記第2部分が前記保持孔の内周面に押し当てられる、
ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換式切削工具、およびホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用部品のさらなる小型化、および医療機器用精密部品等の需要の高まりに応じて、小径、精密部品加工向けの工具の需要が増加している。小径、精密部品加工向けの工具として、軸状の切削インサート、および切削インサートを保持する筒状の工具本体を有する刃先交換式切削工具の開発が進められている。特許文献1には、工具本体(ホルダ)の先端から長尺の取付孔(挿入孔)が形成され、この取付孔内に、切削インサートを切刃が形成された先端部とは反対側の端部から挿入できるようにしたものが記載されている。この切削インサートの後端部には傾斜面が設けられ、工具本体には取付孔の長手方向に対して垂直な方向に延在する位置決め部材が設けられており、傾斜面を位置決め部材に接触させて切削インサートを位置決めしている。工具本体には、この位置決め部材を選択的に挿入可能な複数の孔が間隔をあけて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/031457号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、切削インサートの突き出し量の調整を当該孔の間隔に応じた段階的に行うことになるため、突き出し量の微調整を行うことができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切削インサートの突き出し量を無段階に調整可能な刃先交換式切削工具、およびホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様の刃先交換式切削工具は、中心軸線に沿って延び先端部に切刃が形成される軸状の切削インサートと、前記切削インサートが挿入される取付孔が設けられる柱状の工具本体と、前記切削インサートを後端部側から支持する支持部材と、を備え、前記工具本体には、前記中心軸線を中心とし前記工具本体の先端部で開口する前記取付孔と、前記工具本体の後端部で開口する保持孔と、前記中心軸線から径方向にずれた偏心軸線を中心とし前記取付孔と前記保持孔とを連通させる偏心孔と、が形成され、前記支持部材は、前記偏心孔に挿通されるとともに軸方向に延びて先端で前記切削インサートに軸方向から接触するピン部と、前記ピン部の後端に設けられ前記保持孔の内部に配置されるカム部と、を備え、前記カム部の外周面には、前記偏心軸線を中心とする周方向に並ぶ第1部分と第2部分とが設けられ、前記第2部分と前記偏心軸線との距離は、前記第1部分と前記偏心軸線との距離よりも大きく、前記支持部材を前記偏心軸線周りに回転させることで、前記第2部分が前記保持孔の内周面に押し当てられる。
【0007】
この構成によれば、カム部は、ピン部が挿入される偏心孔の内周面をガイドとして、支持部材を偏心軸線周りに回転させられて第2部分が保持孔の内周面に押し当てられる。これにより、第1部分と保持孔の内周面との間に面圧が生じる。さらに、ピン部は、偏心孔の内部でカム部の面圧とは反対の方向に荷重を受ける。カム部に生じる面圧と、ピン部に生じる荷重とが拮抗しつつ、カム部の外周面と保持孔の内周面との間の摩擦力が生じることで、支持部材は回転した後の姿勢で工具本体に固定される。これにより、ピン部の軸方向における移動が規制され、当該ピン部の先端の軸方向における位置が決定される。また、切削インサートの後端を当該ピン部の先端に接触させることで、切削インサートの位置決めを容易に行うことができる。また、上述の構成によれば、工具本体に固定する前の支持部材は、工具本体の内部で自在に位置を変えることが可能である。このため、所望の切削インサートの突き出し量に合わせて支持部材の位置を無段階で調節することが可能となる。さらに上述の構成によれば、一度、切削インサートの突き出し量に合わせてカム部の位置を固定しておけば、切削インサートを交換して他の切削インサートを取り付ける際にも、従前の突き出し量を維持したまま、直ちに切削作業を再開することができる。これにより、切削作業の効率性をより一層向上させることが可能となる。
【0008】
上述の刃先交換式切削工具において、前記切削インサートの両端部には、前記切刃、および前記切刃に連なるすくい面がそれぞれ形成され、前記すくい面の少なくとも一部は、軸方向を向き、前記ピン部は、前記切削インサートの後端部側の前記すくい面に先端で接触していてもよい。
【0009】
この構成によれば、切削インサートの両端部に設けられるすくい面を利用して、切削インサートの位置決めを行うことができる。このため、両端部に切刃が設けられる2コーナータイプの切削インサートを安定的に支持できる。さらに、この構成によれば、すくい面の少なくとも一部が軸方向を向くため、切刃で形成される切屑をすくい面の軸方向を向く部分に当てることで切屑を切断し易くしたり、切屑を丸めたりすることができる。
【0010】
上述の刃先交換式切削工具において、前記カム部は、軸方向における前記ピン部とは反対側の端面に設けられた工具挿入孔を有してもよい。
【0011】
このような構成によれば、工具挿入孔に所定の工具を挿入することで、カム部を容易に回転させることができる。これにより、カム部の拘束状態と解放状態とを自在に切り替えることが可能となる。その結果、切削作業中における切削インサートの交換や突き出し量の調節をさらに効率的かつ容易に行うことができる。
【0012】
上述の刃先交換式切削工具において、前記ピン部の先端は、軸方向に凸となる球面状をなしていてもよい。
【0013】
このような構成によれば、ピン部の先端が球面状をなしていることによって、切削インサートにおけるピン部の接触部に対して、傷や摩耗を生じる可能性を低減することができる。また、切削インサートが中心軸線回りにわずかにズレを生じた状態で挿入されている場合であっても、先端が球面状であることから、当該切削インサートの姿勢を問わず、安定的にピン部と切削インサートとを接触させることができる。
【0014】
本発明の一実施態様のホルダは、中心軸線に沿って延び先端部に切刃が形成される軸状の切削インサートを保持するホルダであって、前記切削インサートが挿入される取付孔が設けられる柱状の工具本体と、前記切削インサートを後端部側から支持する支持部材と、を備え、前記工具本体には、前記中心軸線を中心とし前記工具本体の先端部で開口する前記取付孔と、前記工具本体の後端部で開口する保持孔と、前記中心軸線から径方向にずれた偏心軸線を中心とし前記取付孔と前記保持孔とを連通させる偏心孔と、が形成され、前記支持部材は、前記偏心孔に挿通されるとともに軸方向に延びて先端で前記切削インサートに軸方向から接触するピン部と、前記ピン部の後端に設けられ前記保持孔の内部に配置されるカム部と、を備え、前記カム部の外周面には、前記偏心軸線を中心とする周方向に並ぶ第1部分と第2部分とが設けられ、前記第2部分と前記偏心軸線との距離は、前記第1部分と前記偏心軸線との距離よりも大きく、前記支持部材を前記偏心軸線周りに回転させることで、前記第2部分が前記保持孔の内周面に押し当てられる。
【0015】
この構成によれば、上述の刃先交換式切削工具と同様の効果を得ることが可能なホルダを提供できる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように、本発明によれば、切削インサートの突き出し量を無段階に調整可能な刃先交換式切削工具、およびホルダを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る刃先交換式切削工具の構成を示す全体図である。
図2】一実施形態に係る刃先交換式切削工具の構成を示す断面図である。
図3A】一実施形態に係る支持部材の正面図である。
図3B】一実施形態に係る支持部材の側面図である。
図3C】一実施形態に係る支持部材の背面図である。
図4】一実施形態に係る支持部材が解放位置にある状態を示す図である。
図5】一実施形態に係る支持部材が拘束状態にある状態を示す図である。
図6】変形例の刃先交換式切削工具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る刃先交換式切削工具1について、図1から図5を参照して説明する。この刃先交換式切削工具1は、回転する被削材に予め形成された下孔の内周面の仕上げ加工等に使用される。
【0019】
図1又は図2に示すように、刃先交換式切削工具1は、切削インサート20と、当該切削インサートを保持するホルダ2と、を有する。また、ホルダ2は、工具本体10と、支持部材30(図2参照)と、固定ネジ17と、を備えている。
【0020】
切削インサート20は、中心軸線Xに沿って延びる軸状である。以下、本明細書において、中心軸線Xに沿う方向を単に軸方向と呼び、中心軸線Xに対する径方向を単に径方向と呼び、中心軸線Xを中心とする周方向を単に周方向と呼ぶ場合がある。さらに、刃先交換式切削工具1の各部の説明において、被削材側を向ける軸方向一方側を先端部とし、その反対側の軸方向他方側を後端部とする。また、軸方向において先端部が設けられる軸方向一方側を単に前方と呼び、軸方向において後端部が設けられる軸方向他方側を単に後方と呼ぶ場合がある。
【0021】
図1に示すように、工具本体10は、中心軸線Xを中心とする円柱状をなしている。図2に示すように、工具本体10には、軸方向に沿って延びる中空部11が設けられる。中空部11は、工具本体10の両端部で開口する。すなわち、工具本体10は、筒状である。中空部11は、軸方向に並ぶ取付孔14、偏心孔15、および保持孔13から構成される。すなわち、工具本体10には、取付孔14、偏心孔15、および保持孔13が形成される。
【0022】
工具本体10は、中空部11に設けられる隔壁部12を有する。隔壁部は、中心軸線Xに対して直交して配置される壁面である。隔壁部12は、中空部11を軸方向に区画する。中空部11の隔壁部12よりも先端部側の領域は、取付孔14を構成する。中空部11の隔壁部12よりも後端部側の領域は、保持孔13を構成する。また、隔壁部12には、取付孔14と保持孔13とを連通させる偏心孔15が設けられる。取付孔14、保持孔13、および偏心孔15は、それぞれ軸方向から見て円形である。取付孔14の内径は、保持孔13の内径よりも小さい。偏心孔15の内径は、取付孔14、および保持孔13の内径よりも小さい。
【0023】
取付孔14は、中心軸線Xを中心として軸方向に延びる。取付孔14は、工具本体10の先端部で開口する。取付孔14には、切削インサート20が先端側から挿入される。取付孔14の内径は、切削インサート20の外径よりも若干大きい。
【0024】
偏心孔15は、第1偏心軸線(偏心軸線)Yを中心として軸方向に延びる。偏心孔15は、取付孔14と平行に延びる。すなわち、第1偏心軸線Yは、中心軸線Xと平行に延びる。第1偏心軸線Yは、中心軸線Xから径方向にずれて配置される。偏心孔15には、後述する支持部材30のピン部32が挿通される。
【0025】
保持孔13は、第2偏心軸線Zを中心として軸方向に延びる。保持孔13は、工具本体10の後端部で開口する。保持孔13には、支持部材30が後端側から挿入される。また、保持孔13には、後述する支持部材30のカム部31が配置される。保持孔13は、取付孔14、および偏心孔15と平行に延びる。すなわち、第2偏心軸線Zは、中心軸線X、および第1偏心軸線Yと平行に延びる。
【0026】
図4に示すように、軸方向から見て、中心軸線X、第1偏心軸線Y、および第2偏心軸線Zは、直線状に並んで配置される。第2偏心軸線Zは、中心軸線Xと第1偏心軸線Yとの間に配置される。なお、本実施形態において、保持孔13は、取付孔14、および偏心孔15に対して若干偏心して配置されている。なお、本実施形態の中心軸線X、第1偏心軸線Y、および第2偏心軸線Zの配置は、あくまで一例であり本実施形態に限定されない。
【0027】
図2に示すように、工具本体10には、複数の固定ネジ孔18が形成される。固定ネジ孔18は、中心軸線Xの径方向に沿って延びる。固定ネジ孔18は、取付孔14と外部空間とを連通させる。したがって、複数の固定ネジ孔18は、工具本体10の外周面のうち先端側に偏って配置される。複数の固定ネジ孔18は、軸方向に沿って並ぶ。固定ネジ孔18の内周面には雌ネジが形成されている。固定ネジ孔18には、固定ネジ17が挿入される。固定ネジ17は、イモネジである。固定ネジ孔18の先端は、取付孔14内に配置される切削インサート20に接触する。固定ネジ孔18を締め込むことで、切削インサート20は、取付孔14の内周面に押し付けられて工具本体10に固定される。なお、固定ネジ孔18の数や径寸法は設計や仕様に応じて適宜変更することが可能である。
【0028】
切削インサート20は、取付孔14に挿入されている。切削インサート20は、工具本体10よりも硬質な超硬合金等の材料によって概略円柱形に形成されている。切削インサート20の両端部(先端部、および後端部)には、切刃21、すくい面22、および逃げ面23が形成されている。
【0029】
図1に示すように、すくい面22は、切削インサート20の先端部(又は後端部)の上面を切り欠いて形成されている。逃げ面は、切削インサート20の軸方向一方側を向く先端面(又は、軸方向他方側を向く後端面)に形成されている。切刃21は、すくい面22と逃げ面23との交差稜線に形成されている。すなわち、すくい面22、および逃げ面23は、切刃に連なって形成される。
【0030】
すくい面22は、軸方向と平行に延びる平坦部22bと、平坦部22bの後方に連なる傾斜部22aと、を有する。平坦部22bは、切刃21から後方に延びる。傾斜部22aは、平坦部22bの後端から後方に向かうに従い中心軸線Xの径方向外側に傾斜する。傾斜部22aの平坦部22bに対する傾斜角度は、後方に向かう従い徐々に大きくなる。すくい面22は、傾斜部22aにおいて軸方向を向く。すなわち、すくい面22の少なくとも一部は、軸方向を向く。
【0031】
図3A図3B、および図3Cに示すように、支持部材30は、カム部31と、ピン部32と、を有する。カム部31とピン部32とは、一体に設けられている。支持部材30は、後述するカム部31の機能により、工具本体10に固定される。また、支持部材30は、切削インサート20の後端部側から支持する。これにより、支持部材30は、切削インサート20の軸方向における位置決めをする。
【0032】
ピン部32は、円柱状である。ピン部32は、偏心孔15に挿入される。ピン部32の外径は、偏心孔15の内径よりも若干小さい。このため、ピン部の32は、偏心孔15内で第1偏心軸線Yを中心として軸方向に沿って延び、第1偏心軸線Yを中心として回転可能である。ピン部32の先端は、軸方向に凸となる球面状をなしている。図2に示すように、ピン部32は、切削インサート20の後端部側のすくい面22に球面状の先端で接触する。
【0033】
カム部31は、ピン部32の後端に設けられる。カム部31は、保持孔13の内部に配置される。カム部31は、軸方向の全域に亘って一様な断面形状を有する柱状である。図3Aに示すように、本実施形態のカム部31は、軸方向から見て、中心軸線Xと第1偏心軸線Yとを結ぶ第1方向D1を長手方向とし、第1方向D1に直交する第2方向D2を短手方向とする長円形状をなしている。カム部31の第1方向D1における長手方向の寸法は、保持孔13の直径よりも大きい。カム部31は、保持孔13内でわずかに回動することができるとともに、軸方向に移動自在である。なお、カム部31の外周面の形状や寸法は、設計や仕様に応じて適宜決定されてよい。
【0034】
カム部31の外周面のうち、第2方向D2を向く領域を第1部分31aとし、第1方向D1を向く二領域のうち第1偏心軸線Yから最も離れる一方の領域を第2部分31bとする。すなわち、カム部31の外周面には、第1偏心軸線Yを中心とする周方向に並ぶ第1部分31aと第2部分31bとが設けられる。第1部分31aと第2部分31bとは、径方向の外側を凸とする湾曲面で滑らかに繋がる。本実施形態において、第1部分31aと第2部分31bとを繋ぐ湾曲面は、一定の曲率半径で湾曲する。第2部分31bと第1偏心軸線Yとの距離k2は、第1部分31aと第1偏心軸線Yとの距離k1よりも大きい。
【0035】
図4に示すように、カム部31の後端面には、工具挿入孔33が形成されている。本実施形態の工具挿入孔33は、六角レンチを挿入可能な六角形状をなす凹部である。工具挿入孔33の中心は、第1偏心軸線Yである。作業者は、工具挿入孔33に六角レンチを挿入することで、支持部材30を第1偏心軸線Y周りに回転させることができる。また、支持部材30のピン部32は、第1偏心軸線Yを中心とする偏心孔15に挿入される。支持部材30は、ピン部32の外周面で偏心孔15の内周面を第1偏心軸線Y周りに摺動することで、偏心孔15に第1偏心軸線Y周りの回転をガイドされる。支持部材30は、作業者によって第1偏心軸線Y周りに回転させられることで、図4に示す「解放状態」と、図5に示す「拘束状態」との間で工具本体10に対する姿勢が切り替えられる。
【0036】
図4に示す解放状態では、カム部31の長手方向が上述の第1方向D1に一致する。また、解放状態において、カム部31の第2部分31bは、保持孔13の内周面と僅かな隙間を介して対向するか、又は摺動可能な程度に接触する。支持部材30の初期位置は、解放状態であり、作業者は、支持部材30を解放状態の位置に合わせて工具本体10の中空部11に挿入する。
【0037】
図5に示す拘束状態は、支持部材30を解放状態から第1偏心軸線Y回りに一方側又は他方側に回動させた状態である。拘束状態では、カム部31の長手方向が、第1方向D1からずれる。拘束状態において、カム部31の第2部分31bは、保持孔13の内周面に押し当てられる。拘束状態では、第2部分31bと保持孔13の内周面との間で面圧が生じるとともに、両者の間に生じる摩擦力によって、カム部31のそれ以上の回動や軸方向への移動が規制される。つまり、ピン部32の先端部の軸方向における位置が定まった状態となる。切削インサート20の後端は、ピン部32の先端に接触する。これにより、切削インサート20の軸方向の位置決めがなされ、当該切削インサート20の突き出し量が決定されている。
【0038】
次に、上述の刃先交換式切削工具1の取り扱い方法の一例について説明する。刃先交換式切削工具1を使用するに当たっては、まず、予め定められた所望の突き出し量に合わせて切削インサート20を取付孔14に挿入する。さらに、切削インサート20の突き出し量を維持したまま、切削インサート20の後端側のすくい面22に支持部材30のピン部32の先端を接触させる。次いで、この状態で、作業者は、支持部材30のカム部31を六角レンチ等の工具で回動させ、支持部材30を解放状態から拘束状態に遷移させる。これにより、上述のように支持部材30の位置と姿勢が決定され、切削インサート20の軸方向における位置が一義的に決定される。なお、支持部材30の回転は、第1偏心軸線Y周りの回転である。このため、支持部材30が、解放状態から拘束状態に遷移しても、第1偏心軸線Yを中心とするピン部32の位置は変わらない。その後、固定ネジ孔18に固定ネジ17を挿入することで、切削インサート20を取付孔14から脱落不能に固定する。以上により、刃先交換式切削工具1における切削インサート20の取付作業が完了する。なお、切削インサート20を交換する際には、固定ネジ17のみを取り外して、新たな切削インサート20を後端がピン部32に接触するまで挿入することで、従前の突き出し量を維持したまま、新たな切削インサート20による切削作業を再開する。
【0039】
(作用効果)
本実施形態によれば、カム部31は、ピン部32が挿入される偏心孔15の内周面をガイドとして、支持部材30を第1偏心軸線Y周りに回転させられて、第2部分31bが保持孔13の内周面に押し当てられる。これにより、第2部分31bと保持孔13の内周面との間に面圧が生じる。さらに、ピン部32は、偏心孔15の内部でカム部31の面圧とは反対の方向に荷重を受ける。カム部31に生じる面圧と、ピン部32に生じる荷重とは、互いに拮抗しつつ、カム部31の外周面と保持孔13の内周面との間の摩擦力が生じることで、支持部材30は回転した後の姿勢で工具本体10に固定される。これにより、ピン部32の軸方向における移動が規制され、当該ピン部32の先端の軸方向における位置が決定される。また、切削インサート20の後端を当該ピン部32の先端に接触させることで、切削インサート20の位置決めを行うことができる。
【0040】
本実施形態によれば、支持部材30は、工具本体10に対する固定位置が軸方向に無段階で調整可能である。このため、所望の切削インサートの突き出し量に合わせて支持部材の位置を無段階で調節することが可能となる。
【0041】
本実施形態によれば、一度、切削インサートの突き出し量に合わせてカム部の位置を固定しておけば、切削インサートを交換して他の切削インサートを取り付ける際にも、従前の突き出し量を維持したまま、直ちに切削作業を再開することができる。これにより、切削作業の効率性をより一層向上させることが可能となる。
【0042】
本実施形態のカム部31は、軸方向から見て、第2部分31bと第1偏心軸線Yとの距離k2が、第1部分31aと第1偏心軸線Yとの距離k1よりも大きい。これにより、支持部材30を第1偏心軸線Y回りに回転させることで、第2部分31bを保持孔13の内周面に押し当てることができる。
【0043】
本実施形態によれば、支持部材30を1つ設けることのみによって、切削インサート20の位置決めを行うことができる。これにより、部品点数が削減されるため、メンテナンスコストや製造コストを大きく削減することも可能となる。
【0044】
本実施形態によれば、ピン部32が切削インサート20に軸方向から接触することによって当該切削インサート20の位置決めがなされる。つまり、切削インサート20にかかる切削荷重に対して、ピン部32による軸方向からの支持力によって安定的に抗することができる。このため、切削作業中に切削インサート20の軸方向位置がずれる可能性を大きく低減することができる。したがって、切削作業をさらに効率的かつ正確に進めることが可能となる。
【0045】
また、本実施形態のピン部32は、切削インサート20の後端部側のすくい面22に先端で接触する。本実施形態によれば、切削インサート20の両端部に設けられるすくい面22を利用して、切削インサート20の位置決めを行うことができる。このため、ホルダ2は、両端部に切刃21が設けられる2コーナータイプの切削インサート20を安定的に支持できる。さらに、この構成によれば、すくい面22の少なくとも一部(傾斜部22a)が軸方向を向くため、切刃21で形成される切屑を傾斜部22aに当てることで切屑を切断し易くしたり、切屑を丸めたりすることができる。
【0046】
本実施形態によれば、支持部材30の工具挿入孔33に所定の工具を挿入することで、カム部31を容易に回転させることができ、支持部材30を容易に拘束状態と解放状態との間で切り替えることができる。その結果、切削作業中における切削インサート20の交換や突き出し量の調節をさらに効率的かつ容易に行うことができる。
【0047】
本実施形態によれば、ピン部32の先端が球面状をなしていることによって、切削インサート20におけるピン部32の接触部に対して、傷や摩耗を生じる可能性を低減することができる。また、切削インサート20が中心軸線X回りにわずかにズレを生じた状態で挿入されている場合であっても、先端が球面状であることから、当該切削インサート20の姿勢を問わず、安定的にピン部32と切削インサート20とを接触させることができる。
【0048】
本実施形態のピン部32は、中心軸線Xから径方向にずれた第1偏心軸線Yに沿って軸方向に延びている。この構成によれば、ピン部32の先端をすくい面22の傾斜部22aの中央部に接触させやすい。本実施形態によれば、切削インサート20に切削負荷がかかった際にも、当該切削インサート20にズレを生じることなく、安定的に保持することが可能となる。
【0049】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0050】
例えば、図6に示す変形例の刃先交換式切削工具101においては、中心軸線Xと第1偏心軸線Yと第2偏心軸線Zとは、軸方向から見て直線状に並んでいない。軸方向から見て、中心軸線Xと第2偏心軸線Zと通過する直線D3に対し、第1偏心軸線Yは第2方向D2にずれて配置されている。このような第1偏心軸線Yを中心とする偏心孔115を有する変形例においても、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
カム部31の外周面と取付孔14の内周面の少なくとも一方に、摩擦係数を高めるための塗膜やシートを設けることも可能である。これにより、カム部31の拘束状態をさらに安定的に維持することができる。
【0052】
上述の実施形態では、切削インサート20が先端部と後端部の両方に切刃21が形成された2コーナータイプである場合について説明した。しかしながら、切削インサート20は、後端部側で支持されていれば、必ずしも後端部に切刃21が設けられていなくてもよい。また、上述の実施形態では、ピン部32の先端が、すくい面22に接触する場合について説明したが、ピン部32は、切削インサート20を後方から支持するものであれば、切削インサート20の何れの位置に接触していてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1,101…刃先交換式切削工具、2…ホルダ、10…工具本体、13…保持孔、14…取付孔、15,115…偏心孔、20…切削インサート、21…切刃、22…すくい面、30…支持部材、31…カム部、31a…第1部分、31b…第2部分、32…ピン部、33…工具挿入孔、k1,k2…距離、X…中心軸線、Y…第1偏心軸線(偏心軸線)、Z…第2偏心軸線
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6