(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109146
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】正極板および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240806BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013749
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 早騎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB08
5H050DA02
5H050FA05
5H050FA08
5H050FA17
5H050FA19
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】サイクル特性及び出力抵抗が良好な正極板及び電池を提供すること。
【解決手段】活物質層12と、芯体11とを含む正極板10であって、前記活物質層は活物質粒子を含み、前記活物質粒子は大粒子23と小粒子24とを含み、前記大粒子23は、前記活物質層12において前記芯体11とは反対側の表面付近に比べ前記芯体側の表面付近に多く存在する、正極板10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質層と、芯体とを含む正極板であって、
前記活物質層は活物質粒子を含み、
前記活物質粒子は大粒子と小粒子とを含み、
前記大粒子は、前記活物質層において前記芯体とは反対側の表面付近に比べ前記芯体側の表面付近に多く存在する、正極板。
【請求項2】
前記活物質層の断面において、前記芯体側の表面付近に存在する前記大粒子の合計面積に対する前記芯体側とは反対側の表面付近に存在する前記大粒子の合計面積の比は、0.2以上1.0未満である、請求項1に記載の正極板。
【請求項3】
前記小粒子は、単結晶粒子又は多結晶粒子を含む、請求項1に記載の正極板。
【請求項4】
前記大粒子は粒界を有する、請求項1に記載の正極板。
【請求項5】
前記大粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子を含む、請求項1に記載の正極板。
【請求項6】
前記活物質層の粒子充填密度は3.0~3.8g/cm3である、請求項1に記載の正極板。
【請求項7】
前記活物質層は、前記芯体側に配置される深層と、前記深層の前記芯体側とは反対側に配置される表層とを有する、請求項1に記載の正極板。
【請求項8】
前記表層及び前記深層中の前記大粒子の質量比(表層/深層)は1/9超え、1未満である、請求項1に記載の正極板。
【請求項9】
請求項1に記載の正極板を含む非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板及びこれを含む非水電解質二次電池(以下、電池ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2019/069459号(特許文献1)には、粒子径が異なった粒子をそれぞれ含む合剤層と被覆層とが積層された極板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の極板は、サイクル特性及び出力抵抗が十分ではなかった。本発明の目的は、サイクル特性及び出力抵抗が良好な正極板及び電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の正極板及び電池を提供する。
[1] 活物質層と、芯体とを含む正極板であって、前記活物質層は活物質粒子を含み、前記活物質粒子は大粒子と小粒子とを含み、前記大粒子は、前記活物質層において前記芯体とは反対側の表面付近に比べ前記芯体側の表面付近に多く存在する、正極板。
[2] 前記活物質層の断面において、前記芯体側の表面付近に存在する前記大粒子の合計面積に対する前記芯体側とは反対側の表面付近に存在する前記大粒子の合計面積の比は、0.2以上1.0未満である、[1]に記載の正極板。
[3] 前記小粒子は、単結晶粒子又は多結晶粒子を含む、[1]又は[2]に記載の正極板。
[4] 前記大粒子は粒界を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の正極板。
[5] 前記大粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の正極板。
[6] 前記活物質層の粒子充填密度は3.0~3.8g/cm3である、[1]~[5]のいずれかに記載の正極板。
[7] 前記活物質層は、前記芯体側に配置される深層と、前記深層の前記芯体側とは反対側に配置される表層とを有する、[1]~[6]のいずれかに記載の正極板。
[8] 前記表層及び前記深層中の前記大粒子の質量比(表層/深層)は1/9超1未満である、[1]~[7]のいずれかに記載の正極板。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の正極板を含む非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、サイクル特性及び出力抵抗が良好な正極板及び電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本実施形態における正極の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における正極の構成の別の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、正極の製造方法を示す概略フローチャートである。
【
図4】
図4は、本実施形態における電池の構成の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本実施形態における電極体の構成の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、実施例1の活物質層の断面像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の全ての図面においては、各構成要素を理解し易くするために縮尺を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の縮尺とは必ずしも一致しない。
【0009】
図1は、本実施形態における正極板の構成の一例を示す概略図である。正極板10は、芯体11と活物質層12とを含む。芯体11は導電性シートである。芯体11は、例えばアルミニウム合金箔等であってもよい。芯体11は、例えば10μmから30μmの厚さを有していてもよい。芯体11の厚さは、定圧厚さ測定器(厚さゲージ)により測定され得る。活物質層12は、芯体11の表面に配置され得る。活物質層12は、例えば芯体11の片面又は表裏両面に配置され得る。活物質層12は、例えば10μmから200μmの厚さを有していてもよい。活物質層12の厚さは、活物質層12の断面SEM画像において測定される。観察面は、活物質層12の厚さ方向と平行であり得る。活物質層12の厚さは、それぞれ5箇所以上で測定される。活物質層12の厚さは、当該5箇所以上の厚さの算術平均として定義される。活物質層12の粒子充填密度は、例えば3.0~3.8g/cm
3以上であることができる。
【0010】
活物質層12は、活物質粒子を含む。活物質粒子は、第1粒子群及び第2粒子群を含む。第1粒子群は大粒子23から構成される。第2粒子群は小粒子24から構成され得る。大粒子23は、活物質層12において芯体11とは反対側の表面付近に比べ芯体11側の表面付近に多く存在する。本発明者によって、サイクル特性の低下は、サイクル試験中にリチウム(Li)の挿入及び脱挿入によって活物質粒子に割れが生じるためであること、及び小粒子は割れが比較的生じにくい傾向にあり、大粒子は割れが比較的生じ易い傾向にあることが分かった。また、出力特性は活物質粒子の充填密度が高い方が良化傾向にあること、及び小粒子は充填密度を比較的向上させにくい傾向にあり、大粒子は充填密度を比較的向上させ易い傾向にあることが分かった。そこで、Liの挿入及び脱挿入が多く起こる芯体11とは反対側(表層側)に割れが生じにくい小粒子を多く配置し、大粒子を芯体11側(深層側)に多く配置することにより、良好なサイクル特性及び出力抵抗の両立を達成することに成功した。
【0011】
活物質層12の断面において、芯体11側の表面付近に存在する大粒子23の合計面積に対する芯体11側とは反対側の表面付近に存在する大粒子23の合計面積の比は例えば0.2以上1.0未満であってよく、好ましくは0.25以上0.9以下、より好ましくは0.3以上0.8以下である。活物質層12の断面における大粒子23の合計面積は後述の実施例の欄において説明する方法に従って測定される。
【0012】
活物質層12の芯体11とは反対側の表面付近は、活物質層12の芯体11とは反対側の表面を含む領域であり、活物質層12の厚さ方向において、活物質層12の芯体11とは反対側の表面から活物質層12の厚さの1/5、2/5、1/2、3/5又は4/5までに存在する領域であってよい。活物質層12の芯体11側の表面付近は、活物質層12の芯体11側の表面を含む領域であり、上述の活物質層12の芯体11とは反対側の表面付近以外の領域であることができる。
【0013】
大粒子は一次粒子が凝集した二次粒子(凝集粒子)であってよい。大粒子は粒界を有していてよい。小粒子は単粒子であってよい。小粒子は、単結晶粒子又は多結晶粒子を含むことが好ましい。単結晶粒子又は多結晶粒子は、粒界が少ない(又は粒界を有しない)ため、Liの挿入及び脱挿入によって割れが生じにくい傾向にある。単結晶粒子又は多結晶粒子は、抵抗が高くなる傾向にあるので大粒子として用い難い傾向にある。Liの挿入及び脱挿入が多く起こる芯体側とは反対側(表層側)に割れが生じにくい粒界が少ない単結晶粒子又は多結晶粒子である小粒子を多く配置し、粒界を有する大粒子を深層側に多く配置することにより、Liの挿入及び脱挿入による粒子の割れを抑制してサイクル特性を向上させ、及び極板抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【0014】
第1粒子群(大粒子)の平均粒子径(D50)は例えば10μm以上20μm以下であってよく、好ましくは14μm以上18μm以下である。平均一次粒子径は、例えば0.1μm以上3μm以下であってよく、好ましくは0.5μm以上2.5μm以下である。第2粒子群(小粒子)の平均粒子径(D50)は例えば2μm以上6μm以下であってよく、好ましくは3μm以上6μm以下である。本明細書において平均粒子径(D50)は、体積基準の粒度分布において小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積の50%になる粒子径(以下、D50ともいう)を表す。平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法により測定され得る。平均一次粒子径は、SEM画像上において無作為に抽出された10個の一次粒子の輪郭線上の最も離れた2点間の距離の平均である。活物質粒子のBET比表面積は例えば0.5m2/gから1.5m2/gであってよい。
【0015】
活物質粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する粒子であってよい。リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうち、少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、具体的には、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。活物質粒子がニッケルを含む場合、活物質粒子中のリチウムを除く金属元素に対するニッケル含有比率が例えば60mol%以下であってよい。活物質粒子は表面被覆粒子であってもよい。
【0016】
活物質粒子は、例えば層状金属酸化物を含んでいてもよい。層状金属酸化物は、式: Li1-a1Nix1Me1
1-x1O2によって表される。式(1)中、「a1」は、「-0.3≦a1≦0.3」の関係を満たす。「x1」は、0.1≦x1≦0.95の関係を満たす。「Me1」は、Co、Mn、Al、Zr、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ge、Nb、及びWからなる群より選択される少なくとも1種を示す。
【0017】
活物質層12中の活物質粒子の含有量は、活物質層12の全固形分量100wt%を基準として例えば70wt%以上であってよく、好ましくは80~99wt%であり、より好ましくは90~99wt%以下である。活物質層12の芯体11側の表面付近(又は後述の深層中)に存在する大粒子に対する活物質層12の芯体11とは反対側の表面付近(又は後述の表層中)に存在する大粒子の質量比(表層/深層)は例えば1/9超1未満であり、好ましくは1/4以上2/3以下、より好ましくは3/7である。活物質層12の芯体11側の表面付近(又は後述の深層中)の大粒子に対する小粒子の質量比(小粒子/大粒子)は例えば1/9超1未満であってよく、好ましくは1/4以上2/3以下、より好ましくは3/7である。活物質層12の芯体11とは反対側の表面付近(又は後述の表層中)の大粒子に対する小粒子の質量比(小粒子/大粒子)は例えば1以上9以下であってよく、好ましくは1.5以上4以下、より好ましくは7/3である。
【0018】
活物質層12は、結着材及び導電助剤を含むことができる。結着材としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。活物質層12中の結着材の含有量は、活物質層12の全固形分量100wt%を基準として例えば0.5~10wt%であってよく、好ましくは1.0~5wt%である。
【0019】
導電助剤は、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料、カーボンナノチューブ等を含むことができる。活物質層12中の導電助剤の含有量は、活物質層12の全固形分量100wt%を基準として例えば0.05~2.0wt%であってよく、好ましくは0.10~1.0wt%である。
【0020】
図2に示すように、活物質層12は、芯体11側に配置される深層31と、深層の芯体11側とは反対側に配置される表層32とを備えることができる。活物質層12は深層及び表層からなる二層構造を有していてよい。深層31及び表層32は同一の厚みであってよく、異なった厚みであってもよい。深層31及び表層32の厚さの比(深層/表層)は、好ましくは4/5~5/4である。
【0021】
正極板10の製造方法は、
図3に示すように正極スラリーの調製(A1)、塗布(B1)、乾燥(C1)及び圧縮(D1)を含む。正極スラリーの調製(A1)において、活物質粒子及びCNTを含む正極スラリーを任意の攪拌装置を用いて調製する。正極スラリーは、活物質粒子が分散媒(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)及びジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒)中に分散されることにより調製される。正極スラリーは例えば40%から80%の固形分濃度を有し得る。
【0022】
塗工(B1)において、正極スラリーを基材の表面に任意の塗工装置により塗工して塗膜を形成し得る。活物質層が深層及び表層を備える場合、深層の第一塗膜と表層の第二塗膜とは順次形成されてよく、実質的に同時に形成されてもよい。例えば深層用スラリーを芯体の一方の面に塗工し、第一塗膜を形成した後、その上に重ねて表層用スラリーを塗工し、第二塗膜を形成することができる。本明細書において、第一塗膜及び第二塗膜の両方を指すときは塗膜ということがある。乾燥(C1)は、例えば熱風乾燥機等により塗膜を加熱して乾燥させ、乾燥塗膜を形成することを含み得る。圧縮(D1)において乾燥塗膜を、任意の圧縮装置を用いて圧縮して活物質層12を形成し、正極板10を得ることを含み得る。正極板10は、電池の仕様に応じて、所定の平面サイズに切断され得る。正極板10は、例えば帯状の平面形状を有するように切断されてもよい。正極板10は、例えば矩形状の平面形状を有するように切断されてもよい。
【0023】
電池はリチウムイオン電池であり得る。
図4は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の一例を示す概略図である。
図4に示す電池200は、例えば電動車両の主電源又は動力アシスト用電源等のリチウムイオン電池であり得る。電池200は、外装体90に電極体50及び非水電解質(不図示)を収納する。電極体50は、正極集電部材81によって正極端子91に接続される。電極体50は、負極集電部材82によって負極端子92に接続されている。
図5は、本実施形態における電極体の一例を示す概略図である。電極体50は巻回型である。電極体50は、正極板10、セパレータ70及び負極板60を含む。すなわち電池200は正極板10を含む。正極板10は、活物質層12と芯体11とを含む。負極板60は、負極活物質層62と負極基材61とを含む。
【実施例0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記のない限り、質量%及び質量部である。
【0025】
<第1及び第2リチウム複合酸化物粒子の平均粒子径(D50)測定>
市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、第1及び第2リチウム複合酸化物粒子の体積基準の粒度分布を測定し、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径を、第1及び第2リチウム複合酸化物粒子の平均粒子径(D50)として求めた。
【0026】
<極板断面より求めた第1及び第2リチウム複合酸化物粒子の混合比率の測定>
クロスセクションポリッシャー加工によって正極シートの断面観察用試料を作製した。SEMを用いてこの試料のSEM画像を取得した。画像加工ソフトウェア「GIMP」を用いて、上記SEM画像において、第1及び第2リチウム複合酸化物粒子の塗り分けを行うことにより面積を求め、第1及び第2リチウム複合酸化物粒子の面積比率を測定した。
図6に、実施例1の活物質層の断面SEM画像及び塗り分け後の画像を示す。
【0027】
<第1及び第2リチウム複合酸化物粒子のBET比表面積測定>
市販の比表面積測定装置(「Macsorb Model-1208」(マウンテック社製)を用い、窒素吸着法によって、第1及び第2リチウム複合酸化物粒子のBET比表面積を測定した。BET計算値は、活物質層の芯体側とは反対側の表面付近(表層)に存在する活物質の合計BET比表面積を第1及び第2リチウム複合酸化物粒子の質量比から求めた。
【0028】
<負極板の作製>
負極活物質としての黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比で、イオン交換水中で混合し、負極活物質層形成用スラリーを調製した。この負極活物質層形成用スラリーを、銅箔上に塗布し、乾燥を行い、負極活物質層を形成した。圧延ローラーにより負極活物質層を、所定の密度となるようにロールプレスした後、所定の寸法に裁断して負極シートを作製した。
【0029】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
セパレータとして多孔性ポリオレフィンシートを用意した。実施例及び比較例で作製した正極板と上で作製した負極板とをセパレータが介在するようにしつつ重ね合わせ、積層型電極体を作製した。積層型電極体に電極端子を取り付け、これをアルミラミネートシートで構成される電池ケースに挿入し、非水電解質を注液した。非水電解質にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:EMC:DMC=30:70の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させ、ビニレンカーボネートを0.3質量%となるように添加したものを用いた。その後、電池ケースを封止することによって、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0030】
<出力抵抗(内部抵抗比測定)及びサイクル特性評価>
初期充電として、各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の温度環境下で、0.2mA/cm2の電流密度で4.25Vまで定電流充電し、その後、電流密度が0.04mA/cm2になるまで4.25Vの電圧で定電圧充電した。各評価用リチウムイオン二次電池を、10分休止後、0.2mA/cm2の電流密度で3.0Vまで定電流放電した。各評価用リチウムイオン二次電池をSOC50%、80%にそれぞれ調整し、内部抵抗比を測定した。各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の温度環境下に置き、0.2mA/cm2の電流密度で4.18Vまで定電流充電し、その後、電流密度が0.04mA/cm2になるまで定電圧充電した。その後、0.2mA/cm2の電流密度で3.48Vまで定電流放電した。このときの放電容量を求めた。この充放電を1サイクルとし、各評価用リチウムイオン二次電池に、400サイクルの充放電を繰り返した。400サイクル目の放電容量を求めた。式:(充放電400サイクル目の放電容量/充放電1サイクル目の放電容量)×100に従い、サイクル特性の指標として容量維持率(%)を求めた。
【0031】
<実施例1>
第1リチウム複合酸化物粒子(小粒子)として、平均平均径(D50)が3.9μm、BET比表面積が0.60m2/gの単粒子状のLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2を用意した。第2リチウム複合酸化物粒子(大粒子)として平均一次粒子径1.8μm、平均粒子径(D50)が16.5μm、BET比表面積が0.20m2/gの二次粒子状のLiNi0.55Co0.20Mn0.25O2を用意した。
第1リチウム複合酸化物粒子と第2リチウム複合酸化物粒子とを30:70の質量比で混合することにより、活物質粒子1を用意した。活物質粒子1と、導電材としてのカーボンブラック(CNT)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、活物質粒子:CNT:PVDF=97.5:1.5:1.0の質量比で混合し、得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極活物質層形成用スラリーAを調製した。
第1リチウム複合酸化物粒子と第2リチウム複合酸化物粒子とを70:30の質量比で混合した活物質粒子2を用意した。活物質粒子2と、導電材としてのABと、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、活物質粒子2:AB:PVDF=97.5:1.5:1.0の質量比で混合し、得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極活物質層形成用スラリーBを調製した。
アルミニウム箔製の芯体の両面に、正極活物質層形成用スラリーAを塗布し、乾燥して深層乾燥塗膜を形成した。そののち、深層乾燥塗膜と同等の重量となるように深層乾燥塗膜上に正極活物質層形成用スラリーBを塗布し、乾燥して表層乾燥塗膜を形成した。圧延ローラーにより二層構造を有する活物質層をロールプレスした後、所定の寸法に裁断して深層及び表層を備える活物質層を有する正極板を作製した。結果を表1に示す。
【0032】
<比較例1~3>
正極活物質層形成用スラリーAに使用した活物質粒子1における第1リチウム複合酸化物粒子(小粒子)と第2リチウム複合酸化物粒子(大粒子)との質量比を70:30、50:50、10:90とし、正極活物質層形成用スラリーBに使用した活物質粒子2における第1リチウム複合酸化物粒子(小粒子)と第2リチウム複合酸化物粒子(大粒子)との質量比を30:70、50:50、90:10としたこと以外は実施例1と同様の方法でそれぞれ、比較例1~3の正極板を作製した。結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
表1に示されるとおり、実施例1では向上したサイクル特性が得られた。これは、活物質層の芯体側とは反対側の表面付近の単粒子(第1リチウム複合酸化物粒子)が多いほど経サイクルによる割れが少なくなったためと推定される。また、実施例1では出力抵抗が良化傾向にあった。これは、物質層の芯体側とは反対側の表面付近に存在する活物質のBET比表面積が大きくなったためと推定される。比較例3では向上したサイクル特性が得られなかったが、活物質層の芯体側とは反対側の表面付近に存在する活物質のBET比表面積が増え、充放電に伴う膨張収縮によりABが足りなくなったためと推定される。
10 正極板、11 芯体、12 活物質層、23 大粒子、24 小粒子、50 電極体、60 負極板、61 負極基材、62 負極活物質層、70 セパレータ、81 正極集電部材、82 負極集電部材、90 外装体、91 正極端子、92 負極端子、200 電池。