(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109155
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】アルカリ現像性ポリマー及びアルカリ現像性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 8/14 20060101AFI20240806BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20240806BHJP
C08F 290/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08F8/14
C08F293/00
C08F290/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013769
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【テーマコード(参考)】
4J026
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4J026HA11
4J026HA32
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4J026HE01
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4J127FA41
(57)【要約】
【課題】高精細なパターニングが可能であるとともに、硬化特性及び現像性が良好であり、かつ、硬度及び耐熱性に優れた硬化物を形成可能な、低濃度のアルカリ現像剤を用いた場合であっても容易に現像することができるアルカリ現像性ポリマーを提供する。
【解決手段】数平均分子量が6,000~18,000であり、分子量分布が1.1~1.7であり、酸価が70~130mgKOH/gであるA’B’ブロックコポリマーに、エポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物であり、数平均分子量が7,000~20,000であり、分子量分布が1.2~1.8であり、酸価が40~100mg/KOHであり、不飽和基当量が900~3,000g/molである、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むアルカリ現像性ポリマーである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)~(3)を満たすA’B’ブロックコポリマーに、エポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物であり、
数平均分子量が7,000~20,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2~1.8であり、酸価が40~100mg/KOHであり、不飽和基当量が900~3,000g/molである、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むABブロックコポリマーであるアルカリ現像性ポリマー。
[要件(1)]
数平均分子量が6,000~18,000であり、分子量分布が1.1~1.7であり、酸価が70~130mgKOH/gである、ポリマー鎖A’及びポリマー鎖B’を含むブロックコポリマーである。
[要件(2)]
前記ポリマー鎖A’が、
メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(i-a)15~55質量%、シクロヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(ii-a)15~60質量%、水酸基を有するメタクリレートに由来する構成単位(iii-a)5~30質量%、並びにこはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位(iv-a)5~30質量%を含むとともに、
前記構成単位(i-a)~(iv-a)の合計含有量が90質量%以上であり、
数平均分子量が4,000~10,000であり、分子量分布が1.1~1.6であるポリマーブロックである。
[要件(3)]
前記ポリマー鎖B’が、
メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(i-b)10~60質量%、並びにこはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位(ii-b)40~90質量%を含むとともに、
前記構成単位(i-b)及び(ii-b)の合計含有量が90質量%以上であり、
数平均分子量が2,000~8,000であるポリマーブロックである。
【請求項2】
前記エポキシ基含有(メタ)アクリレートが、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレートである請求項1に記載のアルカリ現像性ポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルカリ現像性ポリマーと、有機溶剤と、を含有し、
前記有機溶剤が、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及びメトキシシクロペンタンからなる群より選択される少なくとも一種を50質量%以上含有するアルカリ現像性ポリマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ現像性ポリマー及びアルカリ現像性ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板、半導体パッケージ、絶縁膜、印刷製版、液晶セル用スペーサー、カラーフィルター、及びブラックマトリックス等を製造する際のフォトレジスト等のパターニング材料として、アルカリ現像性ポリマーが用いられている。アルカリ現像性ポリマーは、紫外線照射した露光部分は硬化し、紫外線を照射しない未露光部分をアルカリで溶解させて現像するために用いるポリマーである。
【0003】
このようなアルカリ現像性ポリマーとして、現像性、耐熱性、及びパターニング性等の諸特性を向上させた様々なポリマーが開発されている(特許文献1~3)。例えば、マレイミド系モノマー、アクリル酸、及びアクリル酸エステルを含むが、メタクリル酸及びそのエステルを含まないモノマー配合物で合成したポリマーにラジカル重合性の二重結合を導入した硬化性ポリマーが提案されている(特許文献1)。また、エポキシ樹脂、不飽和モノカルボン酸、不飽和モノカルボン酸無水物、及びジカルボン酸無水物を用いて得られるアルカリ現像性樹脂が提案されている(特許文献2)。さらに、フェノール樹脂の水酸基に、水酸基及びエポキシ基を有する化合物を反応させて得た生成物の水酸基に、多塩基酸無水物をさらに反応させて得られるアルカリ現像型樹脂が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5671369号公報
【特許文献2】特許第6721858号公報
【特許文献3】国際公開第2014/010204号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、パターニングのさらなる高精細化が要求されているとともに、パターニングによって得られる硬化物の耐久性及び耐熱性のさらなる向上が要求されている。また、生産性を向上すべく、より速やかに現像しうる樹脂が求められている。さらに、コスト及び環境負荷等の観点から、低濃度のアルカリ現像剤であっても容易に現像可能な樹脂が要求されている。そして、このような現像性の樹脂を含有する、樹脂の硬化前後で発生するアウトガスの量を可能な限り抑制した組成物が求められている。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高精細なパターニングが可能であるとともに、硬化特性及び現像性が良好であり、かつ、硬度及び耐熱性に優れた硬化物を形成可能な、低濃度のアルカリ現像剤を用いた場合であっても容易に現像することができるアルカリ現像性ポリマーを提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、このアルカリ現像性ポリマーを含有する、アウトガスの発生を抑制したアルカリ現像性ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示すアルカリ現像性ポリマーが提供される。
[1]下記要件(1)~(3)を満たすA’B’ブロックコポリマーに、エポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物であり、数平均分子量が7,000~20,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2~1.8であり、酸価が40~100mg/KOHであり、不飽和基当量が900~3,000g/molである、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むABブロックコポリマーであるアルカリ現像性ポリマー。
[要件(1)]
数平均分子量が6,000~18,000であり、分子量分布が1.1~1.7であり、酸価が70~130mgKOH/gである、ポリマー鎖A’及びポリマー鎖B’を含むブロックコポリマーである。
[要件(2)]
前記ポリマー鎖A’が、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(i-a)15~55質量%、シクロヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(ii-a)15~60質量%、水酸基を有するメタクリレートに由来する構成単位(iii-a)5~30質量%、並びにこはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位(iv-a)5~30質量%を含むとともに、前記構成単位(i-a)~(iv-a)の合計含有量が90質量%以上であり、数平均分子量が4,000~10,000であり、分子量分布が1.1~1.6であるポリマーブロックである。
[要件(3)]
前記ポリマー鎖B’が、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(i-b)10~60質量%、並びにこはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位(ii-b)40~90質量%を含むとともに、前記構成単位(i-b)及び(ii-b)の合計含有量が90質量%以上であり、数平均分子量が2,000~8,000であるポリマーブロックである。
[2]前記エポキシ基含有(メタ)アクリレートが、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレートである前記[1]に記載のアルカリ現像性ポリマー。
【0008】
また、本発明によれば、以下に示すアルカリ現像性ポリマー組成物が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載のアルカリ現像性ポリマーと、有機溶剤と、を含有し、前記有機溶剤が、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及びメトキシシクロペンタンからなる群より選択される少なくとも一種を50質量%以上含有するアルカリ現像性ポリマー組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高精細なパターニングが可能であるとともに、硬化特性及び現像性が良好であり、かつ、硬度及び耐熱性に優れた硬化物を形成可能な、低濃度のアルカリ現像剤を用いた場合であっても容易に現像することができるアルカリ現像性ポリマーを提供することができる。さらに、本発明によれば、このアルカリ現像性ポリマーを含有する、アウトガスの発生を抑制したアルカリ現像性ポリマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<アルカリ現像性ポリマー>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のアルカリ現像性ポリマーの一実施形態は、特定のA’B’ブロックコポリマーに、エポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物である。そして、本実施形態のアルカリ現像性ポリマーは、数平均分子量が7,000~20,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2~1.8であり、酸価が40~100mg/KOHであり、不飽和基当量が900~3,000g/molである、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含むABブロックコポリマーである。以下、本実施形態のアルカリ現像性ポリマーの詳細について説明する。
【0011】
(A’B’ブロックコポリマー)
A’B’ブロックコポリマーは、本実施形態のアルカリ現像性ポリマーであるABブロックコポリマーの前駆体である。A’B’ブロックコポリマーは、以下で詳細に説明する要件(1)~(3)を満たすブロックコポリマーである。
【0012】
[要件(1)]
A’B’ブロックコポリマーは、数平均分子量が6,000~18,000であり、分子量分布が1.1~1.7であり、酸価が70~130mgKOH/gである、ポリマー鎖A’及びポリマー鎖B’を含むブロックコポリマーである。
【0013】
A’B’ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は、6,000~18,000、好ましくは7,000~16,000である。A’B’ブロックコポリマーのMnが6,000未満であると、分子量が小さすぎるため、このA’B’ブロックコポリマーを用いて得たABブロックコポリマー(アルカリ現像性ポリマー)の硬化物の耐久性が不足する。一方、A’B’ブロックコポリマーのMnが18,000超であると、分子量が大きすぎるため、このA’B’ブロックコポリマーを用いて得たアルカリ現像性ポリマーをアルカリ現像剤(アルカリ現像液)で溶解させるのに時間がかかる場合がある。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0014】
A’B’ブロックコポリマーの分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.1~1.7、好ましくは1.2~1.6である。すなわち、A’B’ブロックコポリマーは、分子量が比較的揃ったポリマーである。このように分子量が揃っていることで、分子鎖の性質が均一であり、このA’B’ブロックコポリマーを用いて得たABブロックコポリマー(アルカリ現像性ポリマー)現像性を向上させることができる。また、均一に溶解しやすいため、画素の形状が良好になるとともに、溶解させても脱膜状態になりにくい。
【0015】
ABブロックコポリマーは、アルカリ現像しうる十分な酸価を有する必要がある。このため、ABブロックコポリマーの前駆体となるA’B’ブロックコポリマーも、十分な酸価を有する必要がある。すなわち、A’B’ブロックコポリマーの酸価は、70~130mgKOH/g、好ましくは80~120mgKOH/gである。A’B’ブロックコポリマーの酸価が70mgKOH/g未満であると、エポキシ基含有(メタ)アクリレートとの反応後に残存するカルボキシ基の量が少なくなり、アルカリ現像性が低下する場合がある。一方、A’B’ブロックコポリマーの酸価が130mgKOH/g超であると、エポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させたとしても、カルボキシ基が多く残りすぎてしまう。このため、現像性が向上する可能性がある一方で、形成される硬化物の耐水性が低下する場合がある。
【0016】
[要件(2)]
ポリマー鎖A’(以下、「A’鎖」とも記す)は、構成単位(i-a)15~55質量%、構成単位(ii-a)15~60質量%、構成単位(iii-a)5~30質量%、及び構成単位(iv-a)5~30質量%を含むポリマーブロックである(但し、構成単位(i-a)~(iv-a)の合計を100質量%とする)。構成単位(i-a)は、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位である。構成単位(ii-a)は、シクロヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位である。構成単位(iii-a)は、水酸基を有するメタクリレートに由来する構成単位である。構成単位(iv-a)は、こはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位である。また、A’鎖中、構成単位(i-a)~(iv-a)の合計含有量は、90質量%以上である。そして、A’鎖の数平均分子量は4,000~10,000であり、分子量分布は1.1~1.6である。
【0017】
A’鎖は、こはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位(iv-a)を含む。この構成単位(iv-a)中のカルボキシ基と、エポキシ基含有(メタ)アクリレートのエポキシ基とが反応することで、ABブロックコポリマーを構成するポリマー鎖Aが形成される。このようにして形成されるポリマー鎖Aは、不飽和結合を有するとともに、カルボキシ基がほとんど残存しない、又は残存していても僅かであるため、水溶解性に乏しい。このため、このポリマー鎖Aを含むABブロックコポリマーを用いることで、耐水性を有する硬化膜を形成することができる。
【0018】
A’鎖中、構成単位(iv-a)の含有量は5~30質量%、好ましくは10~25質量%である。A’鎖中の構成単位(iv-a)の含有量が5質量%未満であると、ABブロックコポリマーに導入される不飽和基の量が少なくなり、硬化性が不足する。一方、A’鎖中の構成単位(iv-a)の含有量が30質量%超であると、エポキシ基含有(メタ)アクリレートと反応させてもカルボキシ基が多く残存してしまい、形成される硬化膜の耐水性が低下する。
【0019】
こはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)は、エステル残基が長い。さらに、構成単位(iv-a)中のカルボキシ基にエポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させると、エステル残基がさらに長くなるため、ポリマー鎖Aのガラス転移温度(Tg)が低くなり、形成される硬化膜が軟質になりやすい。このため、A’鎖は、シクロヘキシルメタクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(ii-a)を含む。このようなシクロアルキル基を有する構成単位(ii-a)を含むことで、形成されるポリマー鎖Aのガラス転移温度(Tg)を高め、硬質な硬化膜を形成することができる。
【0020】
A’鎖中、構成単位(ii-a)の含有量は15~60質量%、好ましくは20~55質量%である。A’鎖中の構成単位(ii-a)の含有量が15質量%未満であると、形成される硬化膜の硬度を高めることが困難になる。一方、A’鎖中の構成単位(ii-a)の含有量が60質量%超であると、シクロアルキル基の疎水性が強いため、現像しにくくなる場合がある。
【0021】
A’鎖は、さらに、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(i-a)を含む。構成単位(i-a)は、分子量が小さいモノマー又は芳香環を有するモノマーに由来する、水不溶性又は水難溶性の構成単位である。このような構成単位(i-a)を含むことで、現像性及び硬度が両立した硬化膜を形成可能なABブロックコポリマーとすることができる。なお、メチルメタクリレートよりも炭素数が多いと、疎水性が高くなりすぎてしまうため、アルカリ現像しにくくなるとともに、形成される硬化膜が軟質になる場合がある。
【0022】
A’鎖中、構成単位(i-a)の含有量は15~55質量%、好ましくは20~50質量%である。A’鎖中の構成単位(i-a)の含有量が15質量%未満であると、現像性が低下する場合がある。一方、A’鎖中の構成単位(i-a)の含有量が55質量%超であると、ポリマー鎖Aが軟質になる場合がある。
【0023】
A’鎖は、さらに、水酸基を有するメタクリレートに由来する構成単位(iii-a)を含む。親水性の水酸基を有する構成単位(iii-a)を含むことで、ABブロックコポリマーのアルカリ現像性を向上させることができる。水酸基を有するメタクリレートとしては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシプロピルメタクリレート等を挙げることができる。なかでも、2-ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0024】
A’鎖中、構成単位(iii-a)の含有量は5~30質量%、好ましくは7.5~25質量%である。A’鎖中の構成単位(iii-a)の含有量が5質量%未満であると、アルカリ現像性が低下する。一方、A’鎖中の構成単位(iii-a)の含有量が30質量%超であると、親水性が高くなりすぎてしまい、形成される硬化膜の耐水性が低下する。また、硬化膜が水で膨潤したり、硬化膜にべたつきが生じたりする場合がある。
【0025】
A’鎖中、構成単位(i-a)~(iv-a)の合計含有量は90質量%以上、好ましくは95質量%以上である。なお、A’鎖中、構成単位(i-a)~(iv-a)の合計含有量は100質量%であること、すなわち、A’鎖は構成単位(i-a)~(iv-a)のみで実質的に構成されていることが特に好ましい。
【0026】
A’鎖は、構成単位(i-a)~(iv-a)以外のその他の構成単位をさらに含んでいてもよい。その他の構成単位を形成するモノマーとしては、メタクリル酸及びメタクリレート等を挙げることができる。メタクリレートとしては、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びラウリルメタクリレート等のアルキル基やアルケニル基を有するメタクリレート;2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有メタクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、及び(ポリ)プロピレングリコ-ルモノメチルエーテルメタクリレート等のグリコールエーテル系メタクリレート;ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、及びt-ブチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有メタクリレート;等を挙げることができる。
【0027】
A’鎖の数平均分子量(Mn)は、4,000~10,000、好ましくは4,500~9,500である。A’鎖のMnが4,000未満であると、硬化膜の耐久性及び耐水性が不足する。一方、A’鎖のMnが10,000超であると、現像性が低下する。
【0028】
A’鎖の分子量分布(PDI)は、1.1~1.6、好ましくは1.2~1.5である。すなわち、A’鎖は、分子量が比較的揃ったポリマーブロックである。このように分子量が揃っていることで、このA’鎖を含むA’B’ブロックコポリマーを用いて得たABブロックコポリマー(アルカリ現像性ポリマー)現像性を向上させることができる。また、均一に溶解しやすいため、画素の形状が良好になるとともに、溶解させても脱膜状態になりにくい。
【0029】
[要件(3)]
ポリマー鎖B’(以下、「B’鎖」とも記す)は、構成単位(i-b)10~60質量%、及び構成単位(ii-b)40~90質量%を含むポリマーブロックである(但し、構成単位(i-b)及び(ii-b)の合計を100質量%とする)。構成単位(i-b)は、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位である。構成単位(ii-b)は、こはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位である。また、B’鎖中、構成単位(i-b)及び(ii-b)の合計含有量は、90質量%以上である。そして、B’鎖の数平均分子量は2,000~8,000である。
【0030】
B’鎖は、こはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)に由来する構成単位(ii-b)を含む。この構成単位(ii-b)を多く導入することで、B’鎖にカルボキシ基を多く導入することができる。B’鎖に所定量のカルボキシ基を導入することで、エポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させても、多くのカルボキシ基を残存させることができる。そして、残存したカルボキシ基がアルカリ現像液中のアルカリで中和されて水に溶解するので、アルカリ現像性を向上させることができる。また、ポリメタクリレートで構成される主鎖から離れた位置にカルボキシ基が存在することになる。これにより、アルカリ現像液中のアルカリと接触しやすく、中和反応しやすくなるので、溶解時間を短縮することができ、アルカリ現像性を向上させることができる。さらに、エポキシ基含有(メタ)アクリレートと反応させることで不飽和結合が密に導入されるので、架橋密度を高めることができ、硬度が高く、耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。
【0031】
B’鎖中、構成単位(ii-b)の含有量は40~90質量%、好ましくは45~85質量%である。B’鎖中の構成単位(ii-b)の含有量が40質量%未満であると、エポキシ基含有(メタ)アクリレートと反応させた際に残存するカルボキシ基の量が少なくなってしまい、現像性が低下する。一方、B’鎖中、構成単位(ii-b)の含有量を90質量%超にしようとすると、モノマーの分子量が大きいために重合率が低下し、モノマーが残存しやすくなる。
【0032】
B’鎖は、さらに、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位(i-b)を含む。このような構成単位(i-b)を含むことで、現像性及び硬度が両立した硬化膜を形成可能なABブロックコポリマーとすることができるとともに、形成されるポリマー鎖Bのガラス転移温度(Tg)を高め、硬質な硬化膜を形成することができる。さらに、このような構成単位(i-b)を含むことで、分子量が大きく、重合性を高めにくいこはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)が残存するのを抑制することができる。
【0033】
B’鎖中、構成単位(i-b)の含有量は10~60質量%、好ましくは5~50質量%である。B’鎖中の構成単位(i-b)の含有量が10質量%未満であると、こはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)の共重合性が不足し、こはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)が残存する場合がある。一方、B’鎖中、構成単位(i-b)の含有量が60質量%超であると、構成単位(ii-b)の含有量が相対的に減少するので、現像性が低下する。
【0034】
構成単位(i-b)は、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートの少なくともいずれかのモノマーと、シクロヘキシルメタクリレート及びジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ-トの少なくともいずれかのモノマーと、で形成される構成単位であることが好ましい。これにより、B’鎖のガラス転移温度(Tg)や、形成する硬化膜の硬度及びべたつきを調整することができる。
【0035】
B’鎖中、構成単位(i-b)及び(ii-b)の合計含有量は90質量%以上、好ましくは95質量%以上である。なお、B’鎖中、構成単位(i-b)及び(ii-b)の合計含有量は100質量%であること、すなわち、B’鎖は構成単位(i-b)~(ii-b)のみで実質的に構成されていることが特に好ましい。
【0036】
B’鎖は、構成単位(i-b)及び(ii-b)以外のその他の構成単位をさらに含んでいてもよい。その他の構成単位を形成するモノマーとしては、メタクリル酸及び前述のメタクリレート等を挙げることができる。
【0037】
B’鎖の数平均分子量(Mn)は、数平均分子量は2,000~8,000、好ましくは3,000~7,000である。なお、B’鎖のMnは、A’B’ブロックコポリマーのMnからA’鎖のMnを引いた値である。B’鎖のMnが2,000未満であると、水溶解するポリマーブロックが小さくなり、アルカリ現像性が低下する。一方、B’鎖のMnが8,000超であると、水不溶性又は難溶性のA’鎖を含みながらも、硬化膜の耐水性が低下する。
【0038】
(A’B’ブロックコポリマーの製造方法)
A’B’ブロックコポリマーは特殊な構造を有するので、通常のラジカル重合によって製造することが困難である。このため、A’B’ブロックコポリマーは、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、及びリビングラジカル重合法等のリビング性を有する重合法によって製造することが好ましい。なかでも、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合法によって製造することが好ましい。さらに、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を重合開始化合物として用いるRTCP法及びRCMP法が好ましい。これらの方法は、比較的安全な市販の化合物を使用し、重金属や特殊な化合物を使用せず、コスト及び精製の面で有利である。さらに、成長末端を第3級のヨウ素とすることで、精度のよいブロック構造を一般的な設備で容易に形成することができる。
【0039】
A’鎖とB’鎖のいずれのポリマーブロックを先に重合してもよい。A’鎖を重合した後にB’鎖を重合することが好ましい。先にB鎖を重合すると、重合系にこはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)が残存した場合に、その後に重合するA’鎖に構成単位(iv-a)が多く導入されてしまうことがある。
【0040】
A’B’ブロックコポリマーは、溶液重合によって製造することが好ましい。溶液重合の際に用いる有機溶剤としては、後述するアルカリ現像性ポリマー組成物に用いる有機溶剤を用いることもできる。また、有機溶剤中で重合した後、貧溶剤に加えてポリマーを析出させて得た固体を有機溶剤に溶解させてもよい。
【0041】
(ABブロックコポリマー)
本実施形態のアルカリ現像性ポリマーは、上述のA’B’ブロックコポリマーにエポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物である、ポリマー鎖A(以下、単に「A鎖」とも記す)及びポリマー鎖B(以下、単に「B鎖」とも記す)を含むABブロックコポリマーである。本実施形態のアルカリ現像性ポリマー(ABブロックコポリマー)は、その構成モノマーのすべてがメタクリル酸エステル等のメタクリレート系モノマーである。すなわち、本実施形態のアルカリ現像性ポリマー中の構成単位を形成するモノマーは、好ましくは、メタクリル酸エステル等のメタクリレート系モノマーのみで実質的に構成されている。
【0042】
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレート及び(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。なかでも、入手容易性及びポリマーの硬質性を向上させる等の観点から、シクロアルキル環を有する(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレートが好ましい。
【0043】
ABブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は、7,000~20,000、好ましくは8,000~18,000である。ABブロックコポリマーのMnが7,000未満であると、分子量が小さすぎるため、硬化膜の耐久性不足する。一方、ABブロックコポリマーのMnが20,000超であると、分子量が大きすぎるため、アルカリ現像性が低下する。
【0044】
ABブロックコポリマーの分子量分布(PDI)は、1.2~1.8、好ましくは1.2~1.7である。すなわち、ABブロックコポリマーは、分子量が比較的揃ったポリマーである。このように分子量が揃っていることで、分子鎖の性質が均一であり、現像性を向上させることができる。また、均一に溶解しやすいため、画素の形状が良好になるとともに、溶解させても脱膜状態になりにくい。
【0045】
ABブロックコポリマーは、A’B’ブロックコポリマーにエポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物であることから、ABブロックコポリマーの酸価の値は、A’B’ブロックコポリマーの酸価の値よりも小さい。すなわち、ABブロックコポリマーの酸価は、40~100mg/KOH、好ましくは45~90mgKOH/gである。ABブロックコポリマーの酸価が40mgKOH/g未満であると、現像できない又は現像速度(溶解速度)が遅くなる。一方、ABブロックコポリマーの酸価が100mgKOH/g超であると、残存するカルボキシ基の量が多すぎてしまい、硬化膜の耐水性が低下する。ABブロックコポリマーの酸価は、A’B’ブロックコポリマーの酸価や、A’B’ブロックコポリマーと反応させるエポキシ基含有(メタ)アクリレートのモル数を調整することで制御することができる。
【0046】
ABブロックコポリマーの不飽和基当量は、900~3,000g/mol、好ましくは1,000~2,800g/molである。ABブロックコポリマーの不飽和基当量が900g/mol未満であると、形成される硬化膜の架橋密度を高めることが困難になり、硬化膜の強度が不足する。一方、ABブロックコポリマーの不飽和基当量が3,000g/mol超であると、アルカリ現像性が低下する。
【0047】
A’B’ブロックコポリマーとエポキシ基含有(メタ)アクリレートは、従来公知の方法にしたがって反応させることができる。例えば、トリフェニルホスフィン等のリン化合物や、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等の触媒の存在下、120℃以下の温度条件下で反応させればよい。なお、エポキシ基含有(メタ)アクリレートの不飽和結合が反応したり、重合したりするのを防止すべく、ヒドロキノン等の重合禁止剤を添加したり、空気を送り込んだりしてもよい。反応の終点は、赤外分光光度計でIRを測定し、エポキシ基に由来する吸収の消滅を確認する;エポキシ当量を測定してエポキシ当量がゼロになるのを確認する;酸価を測定して所定の値になるのを確認する;等の方法で確認することができる。
【0048】
<アルカリ現像性ポリマー組成物>
本発明のアルカリ現像性ポリマー組成物の一実施形態は、前述のアルカリ現像性ポリマーと、有機溶剤と、を含有する。そして、有機溶剤が、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及びメトキシシクロペンタンからなる群より選択される少なくとも一種である。以下、本実施形態のアルカリ現像性ポリマー組成物(以下、「レジストインク組成物」とも記す)の詳細について説明する。
【0049】
一般的に、高沸点の有機溶剤を含有するアルカリ現像性のレジスト組成物を使用すると、プリベイクやポストベイクの工程で有機溶剤が残存するとともに、残存した有機溶剤がアウトガスとなって機械装置等を汚染しやすくなる。これに対して、本実施形態のアルカリ現像性ポリマー組成物(レジストインク組成物)では、アルカリ現像性ポリマーを溶解しうる、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及びメトキシシクロペンタンからなる群より選択される少なくとも一種の、沸点が比較的低い有機溶剤を用いる。常圧条件下における、酢酸プロピルの沸点は102℃であり、酢酸ブチルの沸点は126℃であり、メトキシシクロペンタンの沸点は106℃である。これらの有機溶剤は、蒸気圧も高く、揮発しやすく、ベイクしても残存しにくい。
【0050】
アルカリ現像性ポリマー組成物に含まれる有機溶剤中、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及びメトキシシクロペンタンからなる群より選択される少なくとも一種の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上である。なお、有機溶剤中、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及びメトキシシクロペンタンからなる群より選択される少なくとも一種の含有量は100質量%であること、すなわち、有機溶剤は、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及びメトキシシクロペンタンからなる群より選択される少なくとも一種のみで実質的に構成されていることが特に好ましい。
【0051】
アルカリ現像性ポリマー組成物中の有機溶剤は、上記の有機溶剤以外のその他の有機溶剤をさらに含んでいてもよい。その他の有機溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N-メチルピロリドン、及びγ-ブチロラクトン等を挙げることができる。
【0052】
アルカリ現像性ポリマー組成物中のアルカリ現像性ポリマー(ABブロックコポリマー)の含有量や、アルカリ現像性ポリマー組成物の粘度等については特に限定されず、用途等に応じて適宜設定すればよい。アルカリ現像性ポリマー組成物は、例えば、有機溶剤中で重合して形成したA’B’ブロックコポリマーにエポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた後、所望とするABブロックコポリマーの含有量となるように有機溶剤を添加して希釈することによって製造することができる。
【0053】
アルカリ現像性ポリマー組成物には、添加剤を含有させることができる。添加剤としては、光重合性モノマー、光重合性オリゴマー、紫外線吸収剤、光安定剤、光重合開始剤、光増感剤、酸塩基発生剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、及び顔料等の着色剤を挙げることができる。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0055】
<アルカリ現像性ポリマーの製造>
(合成例1)
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)239.1部、ヨウ素4.0部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70)(商品名「V-70」、富士フイルム和光純薬社製)14.8部、ジフェルニメタン(DPM)0.7部、ベンジルメタクリレート(BzMA)58.2部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)58.2部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)32.5部、及びこはく酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)(SA)(商品名「SA」、新中村化学工業社製、Mw230.21)27.2部を反応容器に入れた。窒素を流しながら45℃に加温して撹拌し、4時間重合してA’鎖(ポリマー)を形成した。一部をサンプリングし、水分計を使用して測定した固形分は39.7%であり、固形分から算出した重合転化率は88.2%であった。テトラヒドロフランを展開溶媒とする、示差屈折率検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は4,700であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.28であり、ピークトップ分子量(PT)は6,200であった。また、A’鎖の理論酸価は37.5mgKOH/gであった。理論酸価は、以下のようにして算出した。
・A’鎖1g中のSAの量(g)
=27.2/(58.2+58.2+32.5+27.2)=0.154
・酸価(mgKOH/g)
=(0.154/230.21)×56.11×1,000=37.5
【0056】
V-70 10.6部を添加した後、BzMA74.5部、SA138.1部、及びPGMAc272.8部を含有するモノマー溶液をさらに添加した。45℃に加温して撹拌し、4時間重合してB’鎖を形成してポリマーを得た。一部をサンプリングして固形分を測定し、目的物がほぼ定量的に得られたことを確認した。得られたポリマーのMnは10,100であり、PDIは1.55であり、PTは15,200であった。MnがA’鎖よりも大きくなっていることから、得られたポリマーはA’B’ブロックコポリマーであると考えられる。A’B’ブロックコポリマーのMnからA’鎖のMnを引いて算出したB’鎖のMnは5,400であった。
【0057】
4-メトキシフェノール(MEHQ)0.8部、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)3.9部、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレート(M100)(商品名「サイクロマーM100」、ダイセル社製、Mw196.2)58.9部を添加した。90℃に加温して3時間反応させて、ABブロックコポリマーを含有する溶液(アルカリ現像性ポリマーEP-1の溶液)を得た。一部をサンプリングし、赤外分光光度計を使用してIRを測定し、エポキシ基に由来する吸収ピークの消失を確認することで、反応の完結を確認した。固形分は47.5%であった。トルエン及びエタノールで希釈した後、フェノールフタレイン溶液を指示薬とし、0.1%エタノール性水酸化カリウム溶液を用いた酸塩基滴定によって測定した酸価(実測酸価)は、53.5mgKOH/gであった。
【0058】
(合成例2~5)
表1-1及び1-2に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、アルカリ現像性ポリマーEP-2~5の溶液を得た。得られたアルカリ現像性ポリマーの物性等を表1-1及び1-2に示す。なお、表1-1及び1-2中の略号の意味を以下に示す。
・MMA:メチルメタクリレート
・TMCHMA:3,3,5-トリメチルシクロヘキシルメタクリレート
・TBCHMA:4-t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート
・FA513M:ジシクロペンタニルメタクリレート(商品名「ファンクリルFA513M」昭和電工マテリアルズ社製)
・FA512M:ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(商品名「ファンクリルFA512M」、昭和電工マテリアルズ社製)
・GMA:グリシジルメタクリレート
・SA・M100:SAとM100の付加物(Mw426.41)
・SA・GMA:SAとGMAの付加物(Mw372.36)
【0059】
なお、表1-1及び1-2中の「不飽和基当量」は以下のようにして算出した。例えば、合成例1の場合、ポリマー1g中にSA・M100が0.286g含まれているので、ポリマー1g中のSA・M100の量(mol)は、「0.286/426.41=0.0006707mol」である。このため、合成例1で得たアルカリ現像性ポリマーEP-1の不飽和基当量は、「1/0.0006707=1,491g/mol」と算出することができる。
【0060】
【0061】
【0062】
(合成例6)
PGMAc119.5部、酢酸プロピル119.6部、ヨウ素4.0部、V-70 14.8部、DPM0.7部、BzMA33.2部、CHMA99.5部、HEMA16.2部、及びSA27.2部を反応容器に入れた。窒素を流しながら45℃に加温して撹拌し、4時間重合してA’鎖(ポリマー)を形成した。固形分は41.5%であり、固形分から算出した重合転化率は92.2%であった。GPCにより測定したMnは5,100であり、PDIは1.36であり、PTは6,900であった。また、A’鎖の理論酸価は37.5mgKOH/gであった。
【0063】
V-70 7.1部を添加した後、BzMA12.4部、CHMA37.2部、SA92.1部、PGMAc90.9部、及び酢酸プロピル91.0部を含有するモノマー溶液をさらに添加した。45℃に加温して撹拌し、4時間重合してB’鎖を形成してポリマーを得た。一部をサンプリングして固形分を測定し、目的物がほぼ定量的に得られたことを確認した。得られたポリマーのMnは8,000であり、PDIは1.45であり、PTは11,700であった。MnがA’鎖よりも大きくなっていることから、得られたポリマーはA’B’ブロックコポリマーであると考えられる。A’B’ブロックコポリマーのMnからA’鎖のMnを引いて算出したB’鎖のMnは2,900であった。
【0064】
MEHQ0.5部、TBAB2.6部、及びM100 39.3部を添加した。90℃に加温して3時間反応させて、ABブロックコポリマーを含有する溶液(アルカリ現像性ポリマーEP-6の溶液)を得た。一部をサンプリングし、赤外分光光度計を使用してIRを測定し、エポキシ基に由来する吸収ピークの消失を確認することで、反応の完結を確認した。固形分は47.8%であった。実測酸価は52.2mgKOH/gであった。
【0065】
(合成例7及び8)
表2に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の合成例6と同様にして、アルカリ現像性ポリマーEP-7及び8の溶液を得た。得られたアルカリ現像性ポリマーの物性等を表2に示す。
【0066】
【0067】
(比較合成例1)
PGMAc239.0部、ヨウ素4.0部、V-70 14.8部、DPM0.7部、BzMA58.2部、CHMA58.2部、HEMA32.5部、及びメタクリル酸(MAA)27.2部を反応容器に入れた。窒素を流しながら42℃に加温して撹拌し、4.5時間重合してA’鎖(ポリマー)を形成した。固形分は38.4%であり、固形分から算出した重合転化率は85.3%であった。GPCにより測定したMnは5,000であり、PDIは1.26であり、PTは6,400であった。また、A’鎖の理論酸価は100.4mgKOH/gであった。
【0068】
V-70 10.5部を添加した後、BzMA141.0部、MAA68.9部、及びPGMAc731.7部を含有するモノマー溶液をさらに添加した。42℃に加温して撹拌し、4時間重合してB’鎖を形成してポリマーを得た。一部をサンプリングして固形分を測定し、目的物がほぼ定量的に得られたことを確認した。得られたポリマーのMnは9,400であり、PDIは1.49であり、PTは14,200であった。MnがA’鎖よりも大きくなっていることから、得られたポリマーはA’B’ブロックコポリマーであると考えられる。A’B’ブロックコポリマーのMnからA’鎖のMnを引いて算出したB’鎖のMnは4,400であった。
【0069】
MEHQ0.3部、TBAB5.2部、及びM100 78.5部を添加した。90℃に加温して3時間反応させて、ABブロックコポリマーを含有する溶液(アルカリ現像性ポリマーHEP-1の溶液)を得た。一部をサンプリングし、赤外分光光度計を使用してIRを測定し、エポキシ基に由来する吸収ピークの消失を確認することで、反応の完結を確認した。固形分は47.3%であった。実測酸価は87.2mgKOH/gであった。
【0070】
(比較合成例2~4)
表3-1及び3-2に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の比較合成例1と同様にして、アルカリ現像性ポリマーHEP-2~4の溶液を得た。得られたアルカリ現像性ポリマーの物性等を表3-1及び3-2に示す。なお、表3-1及び3-2中の「MAA・M100」は、MAAとM100の付加物(Mw282.29)を意味する。
【0071】
【0072】
【0073】
(比較合成例5)
PGMAc583.1部を反応容器に入れて70℃に加温した。2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65)(商品名「V-65」、富士フイルム和光純薬社製)12.0部、BzMA132.7部、CHMA58.2部、HEMA32.5部、及びSA165.3部を含有するモノマー溶液を1.5時間かけて滴下した。滴下後、70℃で6時間重合してポリマーを形成し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は41.5%であった。ポリマーのMnは16,700であり、PTは36,500であり、PDIは2.15であった。
【0074】
MEHQ0.8部、TBAB3.9部、及びM100 58.9部を添加した。90℃に加温して3時間反応させて、ランダムコポリマーを含有する溶液(アルカリ現像性ポリマーHEP-5の溶液)を得た。一部をサンプリングし、赤外分光光度計を使用してIRを測定し、エポキシ基に由来する吸収ピークの消失を確認することで、反応の完結を確認した。固形分は43.8%であった。実測酸価は54.1mgKOH/gであった。
【0075】
<レジストインク組成物(アルカリ現像性ポリマー組成物)の製造>
(実施例1)
アルカリ現像性ポリマーEP-1の溶液26.3部、PGMAc52.7部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)(商品名「SR899NS」、アルケマ社製)20.0部、及び1-[6-(2-メチルベンゾイル)-9-エチル-9H-カルバゾール-3-イル]エタノンO-アセチルオキシム(OXE-02)(商品名「イルガキュアOXE-02」、BASF社製)1.0部を配合し、混合機を使用して十分に混合して、レジストインク組成物-1を得た。
【0076】
(実施例2~8、比較例1~5)
表4に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、レジストインク組成物-2~13を得た。
【0077】
【0078】
<樹脂塗布ガラス基板の製造>
(応用例1)
十分に洗浄したガラス基板上にレジストインク組成物-1を最終膜厚が2.0μmになるようにスピンコートした。90℃で2分間プリベイクした後、1cm×3cmのパターンを形成するためのフォトマスクを使用し、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2の光量で露光した。次いで、230℃で30分間ポストベイクして、樹脂塗布ガラス基板-1を得た。
【0079】
(応用例2~8、比較応用例1~5)
表5に示すレジストインク組成物をそれぞれ用いたこと以外は、前述の応用例1と同様にして、樹脂塗布ガラス基板-2~13を製造した。
【0080】
<評価>
5%テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を用いて、製造した樹脂塗布ガラス基板の未露光部をアルカリ現像した。そして、未露光部が完全に溶解するまでの時間(溶解時間(秒))を測定するとともに、現像挙動、溶解残渣の有無、及び塗膜のべたつきの有無を確認した。結果を表5に示す。
【0081】
【0082】
応用例1~8で得た樹脂塗布ガラス基板-1~8における、溶解せずに残存した露光部の端部(エッジ)を顕微鏡で観察したところ、いずれもシャープであることを確認することができた。これにより、レジストインク組成物-1~8のいずれもアルカリ現像性に優れていることがわかった。
【0083】
また、応用例1~8で得た樹脂塗布ガラス基板-1~8は、いずれも優れた光透過性を有していることがわかった。なお、応用例6~8で得た樹脂塗布ガラス基板-6~8は、PGMAcに比して沸点が低い特定の有機溶剤(酢酸プロピル、酢酸ブチル、メトキシシクロペンタン)を併用して重合したアルカリ現像性ポリマーを用いて製造したものである。さらに、これらの樹脂塗布ガラス基板-6~8を製造する際に用いたレジストインク組成物は、上記特定の有機溶剤を含有するものであったことから、樹脂塗布ガラス基板-6~8ではアウトガスがほとんど発生していないことがわかった。
本発明のアルカリ現像性ポリマー及びそれを用いた組成物(レジストインク組成物)は、例えば、プリント配線基板、半導体パッケージ、絶縁膜、印刷製版、液晶セル用スペーサー、カラーフィルター、及びブラックマトリックス等の製造時に用いるパターニング材料として有用である。