(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109172
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ドリル及び被穿孔品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20240806BHJP
B23B 37/00 20060101ALI20240806BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20240806BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B23B51/00 S
B23B37/00
B23B27/20
B23B27/14 B
B23B51/00 K
B23B51/00 M
B23B51/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013817
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】中本 零
(72)【発明者】
【氏名】横野 司
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 葵
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 俊介
【テーマコード(参考)】
3C036
3C037
3C046
【Fターム(参考)】
3C036AA15
3C037BB01
3C037BB11
3C037BB13
3C037CC01
3C037CC09
3C037DD03
3C037DD06
3C037FF08
3C046FF32
3C046FF35
3C046HH04
3C046HH08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】手持ち式の工具駆動装置を用いてチタン合金の穿孔を行う場合において、作業者の安全性と穿孔品質を確保しつつ、より短時間で穿孔を完了させることが可能なドリル及び穿孔方法を提供すること。
【解決手段】実施形態に係るドリルは、切れ刃が超硬又はダイヤモンド焼結体からなり、ねじれ溝を有する2枚刃以上4枚刃以下のドリルである。このドリルにおいて、前記切れ刃にX型のシンニングを施し、前記切れ刃のすくい角θ2を30度以上40度以下とし、前記切れ刃の逃げ角θ3を0度より大きく8度以下とし、前記切れ刃にチャンファホーニングによってホーニング角θ4が-3度以上8度以下のホーニング面8を形成した。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃が超硬又はダイヤモンド焼結体からなり、ねじれ溝を有する2枚刃以上4枚刃以下のドリルにおいて、
前記切れ刃にX型のシンニングを施し、
前記切れ刃のすくい角を30度以上40度以下とし、
前記切れ刃の逃げ角を0度より大きく8度以下とし、
前記切れ刃にチャンファホーニングによってホーニング角が-3度以上8度以下のホーニング面を形成したドリル。
【請求項2】
前記切れ刃に前記逃げ角を有する2番逃げ面に隣接する3番逃げ面を形成し、
被削材に向けて切削剤を吐出する吐出口を前記3番逃げ面で開口させた請求項1記載のドリル。
【請求項3】
前記ねじれ溝の溝長として定義される前記ドリルの刃長が前記ドリルの工具径の5倍より長く、かつ
前記ねじれ溝の間に形成されるランドに2本のマージンを形成することによってダブルマージンドリルとした請求項1記載のドリル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のドリルでチタン合金からなる部品を穿孔することによって被穿孔品を製造する被穿孔品の製造方法。
【請求項5】
前記ドリルの回転数を400rpm以上700rpmとし、かつ
0.20mm以上の振幅で前記ドリルを工具軸方向に前記ドリル1回転当たり少なくとも5回往復させる振動切削を行うことによって、
前記ドリルの1刃当たりの送り量を0.05mm以上として前記部品を穿孔する請求項4記載の被穿孔品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ドリル及び被穿孔品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なドリルの切れ刃はすくい面と逃げ面を有するが、切れ刃の先端にホーニングを施したドリルが知られている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。ホーニングは、切れ刃の先端を研磨する処理であり、ホーニングによってすくい面に負の角度が形成される刃先先端の面はネガランドと呼ばれる。
【0003】
ドリルの切れ刃にホーニングを施してネガランドを形成すると、切削抵抗が増加するものの、切れ刃先端における剛性を向上させることができる。その結果、硬い被削材を穿孔する場合において、切れ刃の欠損を回避することが可能となる。また、超硬ドリルのように靭性が低い素材で製作されたドリルには、ネガランドが設けられることが多い。ホーニングには、C面取りを施すチャンファホーニングと、R面取りを施すRホーニングがあり、チャンファホーニングによって形成されるネガランドの一般的なホーニング角(ランド角)は-15度から-30度程度であり、ホーニング幅(ランド幅)は0.01mmから0.25mm程度である。
【0004】
また、ドリルの切れ刃先端における中心部分には、主にスラスト方向における切削抵抗を低減させることを目的として、必要に応じてシンニングが行われることも知られている(例えば特許文献3参照)。シンニングはドリル先端におけるウェブの厚さ、すなわち心厚を薄くすることによって切れ刃の先端まで刃を形成する処理であり、シンニングによって形成される刃はシンニング刃と呼ばれる。シンニングには種類があり、シンニング後におけるチゼルエッジの形状に応じてX型、R型及びXR型等に分類される。
【0005】
上述したすくい面のすくい角や逃げ面の逃げ角を含む種々のパラメータによって定まるドリルの切れ刃の形状は、ドリル及び被削材の材質等に合わせて選択されるが(例えば特許文献4参照)、ドリルの回転速度や1刃当たりの送り速度も切削条件としてドリル及び被削材の材質等に合わせて決定される。ドリルの駆動条件としては、ドリルを工具軸方向に振動させながら切削を行う振動切削も知られている(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-326109号公報
【特許文献2】特開2002-172506号公報
【特許文献3】特開2001-341022号公報
【特許文献4】実用新案登録第3119919号公報
【特許文献5】特開平10-080809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
航空機部品を組立てて翼構造体等の航空機構造体を製作する際には航空機部品同士をリベットやボルトで連結するために穿孔作業が必要となる。しかしながら、航空機構造体の構造は複雑であり、ロボット等による穿孔の自動化が困難となる場合が多い。そのような場合には、ドリルを取付けた手持ち式の工具回転装置を使用して作業者が穿孔作業を行わざるを得ない。近年では、ドリルを工具軸方向に送り出すことが可能な自動送り機能付きの工具駆動装置も市販されている。
【0008】
しかしながら、航空機部品の素材として使用されるチタン合金は代表的な難削材であり、チタン合金を穿孔する場合には切削抵抗が非常に大きくなる。このため、ボール盤やマシニングセンタ等の工作機械と比較してスピンドルの剛性が低い手持ち式の工具駆動装置を用いてチタン合金を穿孔しようとすると、ドリル自体の破損はもちろん、工具駆動装置が故障する場合がある。特に、工具駆動装置が故障した場合には、損傷した部品の交換等による修理に多大なコストと時間を要する。
【0009】
加えて、作業者が手持ち式の工具駆動装置を用いてチタン合金の穿孔を行う場合には、作業者の安全性を確保することが必要となる。具体的には、大きな切削抵抗を伴うチタン合金の穿孔によって、チタン合金をセットするための治具や工具駆動装置が落下したり、ドリルが破損したりしても、労働災害が発生しないように対策を講じることが必要となる。
【0010】
一方、作業者の安全性を確保しつつチタン合金に加工した孔の品質も維持することが求められる。その結果、切削抵抗が大きなチタン合金は非常に低速な穿孔条件で穿孔されている。このため、作業者の安全性の確保と穿孔品質の確保を両立するのみならず、生産性を考慮してより高速にチタン合金を穿孔することが可能なドリルの開発が求められる。
【0011】
そこで、本発明は、手持ち式の工具駆動装置を用いてチタン合金の穿孔を行う場合において、作業者の安全性と穿孔品質を確保しつつ、より短時間で穿孔を完了させることが可能なドリル及び穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係るドリルは、切れ刃が超硬又はダイヤモンド焼結体からなり、ねじれ溝を有する2枚刃以上4枚刃以下のドリルである。このドリルにおいて、前記切れ刃にX型のシンニングを施し、前記切れ刃のすくい角を30度以上40度以下とし、前記切れ刃の逃げ角を0度より大きく8度以下とし、前記切れ刃にチャンファホーニングによってホーニング角が-3度以上8度以下のホーニング面を形成した。
【0013】
また、本発明の実施形態に係る被穿孔品の製造方法は、上述したドリルでチタン合金からなる部品を穿孔することによって被穿孔品を製造するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】
図1に示すドリルの切れ刃のすくい角、逃げ角及びホーニング角を被削材とともに示す図。
【
図5】チタン合金を対象とする穿孔試験の結果を総合評価順に並べて示す図。
【
図6】
図5に示す穿孔試験の結果を切削条件別に示す図。
【
図7】
図1に示すドリルの先端部分において開口する切削剤の流路の形成例を示す部分正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係るドリル及び被穿孔品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明の実施形態に係るドリル1の正面図、
図2は
図1に示すドリル1の拡大左側面図、
図3は
図1に示すドリル1の拡大右側面図である。
【0017】
ドリル1は、複数の切れ刃2を有する2枚刃以上4枚刃以下のツイストドリルである。従って、ドリル1は、先端に切れ刃2を有するボディ3とシャンク4を有する。また、ボディ3には切れ刃2の数に等しい数の複数のねじれ溝5とランド6が形成される。
【0018】
ドリル1は、ドリル1を回転させる手持ち式の工具回転装置、特に、ドリル1を回転させるのみならず、ドリル1を工具軸方向に往復移動させることが可能な自動送り機能付きの工具駆動装置に取付けてチタン合金を穿孔する場合に適した形状を有している。このため、シャンク4の形状は、工具駆動装置に着脱するための所望の形状とすることができる。
【0019】
図示された例では、ドリル1がボディ3とシャンク4の一部を一体かつ単一の素材で製作した2枚刃のソリッドドリルとなっているが、上述したように3枚刃又は4枚刃としても良い。尚、ドリル1を4枚刃以下とするのは、チタン合金を穿孔する場合、5枚刃以上にするとねじれ溝に切粉が詰まる恐れがあるためである。
【0020】
また、ドリル1をソリッドドリルではなく、付刃ドリル(ろう付けドリル)、刃先交換式ドリル或いはヘッド交換式ドリル等としても良い。付刃ドリルはろう付けドリルとも呼ばれ、切れ刃2をボディ3にろう付けしたドリルである。刃先交換式ドリルは、インサートドリル又はスローアウェイドリルとも呼ばれ、インサート又はスローアウェイチップとも呼ばれる切れ刃2を、切れ刃2のホルダとして機能するボディ3に交換可能に取付けたドリルである。ヘッド交換式ドリルは、切れ刃2を有するヘッドをホルダとして機能するボディ3に交換可能に取付けたドリルである。
【0021】
但し、穿孔対象はチタン合金であることから、少なくとも切れ刃2については超硬合金又はダイヤモンド焼結体(PCD:Poly-crystalline Diamond)で構成することが現実的である。もちろん、切れ刃2を超硬合金で構成する場合には、超硬合金を母材としてダイヤモンドコーティング等の種々のコーティングを施しても良い。また、PCDで切れ刃2を構成する場合には、超硬合金製のボディ3の座面に切れ刃2をろう付けすることが実用的である。一方、ドリル1を刃先交換式ドリルやヘッド交換式ドリルとする場合には、切れ刃2又はヘッドを超硬合金製とし、ホルダをハイスピードスチール(高速度工具鋼)で構成しても良い。
【0022】
次に切れ刃2の詳細形状について説明する。
【0023】
図1に示す切れ刃2の先端角θ1については、切れ刃2の材質に適した角度に決定することができる。ドリル1が超硬ドリルであれば、切れ刃2の先端角θ1を130度以上150度以下の範囲で決定することができる。
【0024】
また、
図2に示すように切れ刃2にはX型のシンニングが施される。従って、切れ刃2の中心付近におけるチゼルエッジの部分には、直線的なシンニング刃7が形成される。加えて、切れ刃2の刃先には、チャンファホーニングによってホーニング面8が形成される。
【0025】
図4は
図1に示すドリル1の切れ刃2のすくい角θ2、逃げ角θ3及びホーニング角θ4を被削材Wとともに示す図である。
【0026】
図4等に示す切れ刃2のすくい面9のすくい角θ2は、30度以上40度以下(30°≦θ2≦40°)とされる。一方、切れ刃2の逃げ面10の逃げ角θ3は、0度より大きく8度以下(0°<θ3≦8°)とされる。また、切れ刃2のホーニング面8のホーニング角θ4は、-3度以上8度以下(-3°≦θ4≦8°)とされ、ホーニング面8の幅Whは、0.05mm以上0.5mm以下の範囲で決定することができる。尚、切れ刃2の外周部分におけるすくい角θ2は、
図1に示す螺旋状のねじれ溝5のねじれの度合いを表すねじれ角θ5と等しい関係にある。
【0027】
ドリルの切れ刃のホーニング角は、すくい角と同様に、
図4に示すような切れ刃の刃先の長さ方向に垂直な平面内において、工具軸の投影線を基準としてホーニング面が時計回りに傾斜する角度となる。一般にドリルの切れ刃のホーニング角が負の角度となるホーニング面はネガランドとも呼ばれ、ネガランドのホーニング角はランド角とも呼ばれる。
【0028】
図4は、切れ刃2の先端に形成したホーニング面8のホーニング角θ4が負の角度(-3°≦θ4<0°)である場合、すなわちC面取りによって切れ刃2の先端にネガランドを形成した場合を示しているが、ホーニング面8のホーニング角θ4は0°又は正の角度(0°≦θ4≦8°)であっても良い。ホーニング面8のホーニング角θ4が0°(θ4=0°)である場合には、ネガティブでもポジティブでもないランドが切れ刃2の先端に形成されることになる。また、ホーニング面8のホーニング角θ4が正の角度(0°<θ4≦8°)である場合には、ポジティブのランドが切れ刃2の先端に形成されることになる。
【0029】
ホーニング面8のホーニング角θ4が負の角度である場合には、
図4に示すように被削材Wは、切れ刃2のホーニング面8によってむしり取られるように切削されることになる。逆に、ホーニング面8のホーニング角θ4が正の角度である場合には、被削材Wは、切れ刃2のホーニング面8によってすくい上げられるように切削されることになる。
【0030】
上述した条件を満たす切れ刃2を有するドリル1を用いて適切な穿孔条件でチタン合金の穿孔を行えば、手持ち式の工具回転装置又は自動送り機能付きの工具駆動装置でチタン合金の穿孔を行う場合であっても、穿孔によってチタン合金に形成される孔の品質を良好に維持しつつ、切削抵抗を低減できることが穿孔試験によって確認された。
【0031】
図5はチタン合金を対象とする穿孔試験の結果を総合評価順に並べて示す図であり、
図6は
図5に示す穿孔試験の結果を切削条件別に示す図である。
【0032】
図5及び
図6に示すように、シンニングの形状、すくい角、逃げ角及びホーニング角を変えて複数のドリルを試作し、チタン合金からなるブロックに貫通孔を加工する穿孔試験を行った。また、穿孔試験では、工具駆動装置によるドリルの制御条件として、振動の振幅を変化させて振動切削を行った。
【0033】
評価項目としては、複数の項目を設定し、総合的に評価した。具体的には、
図5に示すように孔の品質が良好であるか否か、切削抵抗が低減されたかどうか及び切粉の排出性が良好であるか否かを評価項目とし、孔の品質については更に穿孔により発生したバリの程度、加工した孔の直径のばらつき及び加工した孔の内面における表面粗さなど複数の項目について総合評価した。尚、
図5及び
図6において、評価を表す記号×は「不良」、△は「中程度」、〇は「良好」、◎は「最も良好」を意味している。
【0034】
穿孔試験の結果、
図5及び
図6に示すようにシンニングの形状をX型とすれば、加工孔の品質及び切粉の排出性の双方を良好としつつ、切削抵抗を低減できることが確認された。これに対して、シンニングの形状をR型又はXR型にすると、切削抵抗が高くなり、切れ刃にチッピングが生じたり、加工孔の品質が不十分になったりする不具合が発生する場合があることが確認された。従って、切れ刃2に施すべきシンニングの形状は、
図6に示す判定結果に基づいて、
図2に示すようにX型とすることが適切である。
【0035】
尚、X型は、シンニング刃の稜線の形状が直線形状となるようにするシンニングの形状であり、R型は、シンニング刃の稜線の形状が曲線形状となるようにするシンニングの形状である。また、XR型は、硬度が高い反面靭性が低い超硬ドリルでしばしば採用されるシンニングの形状であり、シンニング刃と切れ刃の接点部分のみ局所的にR型とすることにより、シンニング刃と切れ刃の稜線にチッピングが起こり易いが鋭角の部分が生じないようにするシンニングの形状である。
【0036】
すくい角については、20度以下になると切削抵抗が高くなり、切れ刃にチッピングが生じたり、加工孔の品質が不十分になったりする不具合が発生する場合があることが確認された。従って、切れ刃2のすくい角θ2は、
図6に示すように、30度以上40度以下とすることが適切である。
【0037】
逃げ角については、8度を超えると切れ刃の剛性不足により、切れ刃にチッピングが生じたり、加工孔の品質が不十分になったりする不具合が発生する場合があることが確認された。また、逃げ角が小さいほど加工孔の品質が良好となった。従って、切れ刃2の逃げ角θ3は、逃げ面10が被削材Wと接触しないように、
図6に示すように、0度より大きく8度以下とすることが適切である。
【0038】
ホーニング角については、0度以上8度以下の負でない角度にすると切れ刃の刃先が鋭利となって切削抵抗が小さくなることから、切粉の排出性と加工孔の品質の双方が良好になることが確認された。逆に、ホーニング角を、-3度以上0度未満のネガティブ角にしても、
図4に網掛け表示したようにホーニング面8への切粉の溶着により構成刃先(デッドメタル)Bが形成されることから切削抵抗が小さくなり、切粉の排出性と加工孔の品質の双方が良好になることが確認された。従って、切れ刃2のホーニング角θ4は、
図6に示すように、-3度以上8度以下とすることが適切である。
【0039】
また、振動切削は、工具軸方向にドリルをドリル1回転当たり5回往復させる振動を、振幅を変えて行った。振幅は、0.15mm、0.20mm及び0.25mmに設定した。その結果、
図6に示すように振幅を0.20mm以上とすることが切粉の排出性を一層良好にするために望ましいことが判明した。振幅及び1回転当たりのドリルの往復回数を減らさなければ、切粉の排出性は劣化しないと考えられる。従って、振動切削を行う場合には、ドリル1に、0.20mm以上の振幅でドリル1を工具軸方向に1回転当たり少なくとも5回往復させる振動切削を行うことが望ましいと考えられる。
【0040】
上述した穿孔条件の他、手持ち式の工具駆動装置側で設定する他の穿孔条件としてドリル1の回転数を400rpm以上700rpmとすることにより、チタン合金を対象とする穿孔において、ドリル1の1刃当たりの送り量を0.05mm以上にできることが確認された。すなわち、十分な切込量でより高速にチタン合金を穿孔できることが確認された。
【0041】
穿孔試験に基づく他の切削条件としては、10ml/分以上の吐出量で切削剤をドリル1から吐出させながらチタン合金の穿孔を行うことが、潤滑性の維持と冷却を行う観点から望ましいと考えられる。特に、チタン合金を切削加工する場合には加工熱が上昇するため、潤滑性の確保に加えて被削材Wと切れ刃2の冷却を行うことが重要となる。切削剤の種類は、油性であっても水溶性であっても良いが、冷却性を重視する場合には、水溶性の切削剤が適していると言われている。
【0042】
切削剤をドリル1から吐出させる場合には、
図2に例示されるように、被削材Wに向けて切削剤を吐出するための吐出口11をドリル1の先端に設けることが必要となる。
図2に示す例のように切れ刃2の逃げ面10を平面逃げで形成する場合、通常、逃げ角θ3を有する切れ刃2側の逃げ面10は2番逃げ面と呼ばれ、2番逃げ面に隣接する3番逃げ面12が形成される。このため、
図2に例示されるように、被削材Wに向けて切削剤を吐出するための吐出口11を、切れ刃2に形成される3番逃げ面12で開口させることが実用的である。
【0043】
図7は
図1に示すドリル1の先端部分において開口する切削剤の流路13の形成例を示す部分正面図である。
【0044】
穿孔中に切削剤をドリル1から吐出させる場合には、ドリル1の内部に切削剤の流路13を形成することが必要となる。そして、ドリル1の先端部分に開口させた吐出口11を流路13の出口とする一方、工具駆動装置側から切削材を供給できるように、シャンク4側の適切な位置に流路13の入口を開口させることが必要となる。流路13の入口は、例えば、
図3に示すようにシャンク4の後端面において開口させることができる。もちろん、工具駆動装置の構造によっては、シャンク4の側面に流路13の入口を開口させるようにしても良い。
【0045】
流路13の出口となる吐出口11は、各切れ刃2を冷却できるように各切れ刃2の3番逃げ面12に形成することが望ましい。従って、吐出口11の数は、切れ刃2の数と同一となる。そこで、シャンク4の内部に形成される入口側の1本の流路13を所望の位置で分岐させ、
図7に示すように各ランド6の内部に切削剤の流路13を形成することができる。この場合、ドリル1の吐出口11から被削材Wに向けて吐出される切削剤の吐出量は、工具駆動装置側からドリル1内に供給される切削剤の流量となる。
【0046】
図1に例示されるドリル1のその他の好適な特徴としては、ねじれ溝5の間に形成される各ランド6にそれぞれ2本のマージン14を形成することによってダブルマージンドリルとした点が挙げられる。各マージン14は、ランド6の両側の縁に沿って工具径を有する円筒面で形成され、加工済の孔を利用するガイドとして機能する。従って、各ランド6に2本のマージン14を形成すれば、穿孔中におけるドリル1の振れの抑止効果を向上することができる。このため、チタン合金を対象として深孔加工を行う場合であっても加工孔の精度を良好に保つことができる。
【0047】
一般にねじれ溝の溝長として定義されるドリルの刃長Lが工具径Dの5倍より長いドリル、すなわちL>5Dの関係を有するドリルで行われる穿孔は深孔加工と呼ばれる場合が多い。この定義に当てはめると、
図1に示すドリル1は、ねじれ溝5の溝長として定義されるドリル1の刃長Lが工具径Dの10倍を超えており、工具径Dの5倍より長い。従って、
図1に示すドリル1は、深孔用のドリルに該当する。
【0048】
このため、
図1に例示されるように工具径Dと比較して刃長Lが長いドリル1でチタン合金の深孔加工を行う場合には、ドリル1をダブルマージンドリルとすることが加工孔の品質を確保する観点から望ましい。換言すれば、上述した形状の切れ刃2を有するドリル1をダブルマージンドリルとすることによって、刃長Lが長い場合であっても、加工孔の品質を維持しつつ、1刃当たりの送り量を0.05mm以上とするなど、1刃当たりの送り量を増加させることが可能となる。つまり、チタン合金の深孔加工においてより高速に穿孔を完了させることが可能となる。
【0049】
以上のような特徴を有するドリル1でチタン合金からなる部品を穿孔することによって被穿孔品を製造することができる。すなわち、良好な品質の孔を有するチタン合金からなる被穿孔品を製作することができる。
【0050】
(効果)
上述したドリル1及び被穿孔品の製造方法は、難削材として知られるチタン合金を対象とする作業者による手穿孔という特殊な穿孔条件下における穿孔試験の結果に基づいて、切れ刃2の形状を含む穿孔条件を決定したものである。
【0051】
このため、ドリル1及び被穿孔品の製造方法によれば、チタン合金を穿孔する場合において加工孔の品質及び作業者の安全性を維持しつつ、従来よりも穿孔時間を短縮することができる。すなわち、チタン合金の穿孔時における切削抵抗を低減できるため、1刃当たりの送り量を従来よりも増加させることができる。
【0052】
具体的には、穿孔試験の結果によれば、従来の比較対象となるドリルと比較して、切削抵抗を10%程度減少できることが確認された。その結果、従来のドリルでチタン合金を穿孔する場合と比較して、チタン合金の穿孔時間を40%以上削減できる場合があることが確認できた。
【0053】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0054】
1 ドリル
2 切れ刃
3 ボディ
4 シャンク
5 ねじれ溝
6 ランド
7 シンニング刃
8 ホーニング面
9 すくい面
10 逃げ面(2番逃げ面)
11 吐出口
12 3番逃げ面
13 流路
14 マージン
B 構成刃先(デッドメタル)
D 工具径
L 刃長
W 被削材
Wh ホーニング面の幅
θ1 先端角
θ2 すくい角
θ3 逃げ角
θ4 ホーニング角
θ5 ねじれ角