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特開2024-109174インクジェットインク組成物、インクセット、および記録方法
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  • 特開-インクジェットインク組成物、インクセット、および記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109174
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物、インクセット、および記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240806BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20240806BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240806BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/40
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013820
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴子
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慶吾
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA10
2H186FA07
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB50
2H186FB55
2H186FB56
4J039AB12
4J039AD09
4J039AE04
4J039BC09
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA18
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA43
4J039EA44
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】分散安定性、目詰まり回復性、印刷物の乾燥性および変形抑制の諸性能を向上させる白色インクジェットインク組成物、インクセット、記録方法を提供すること。
【解決手段】インクジェットインク組成物は、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体である記録媒体への印刷用途に適用される白色のインクジェットインク組成物であって、水と、白色顔料と、有機溶剤と、樹脂粒子と、アルカノールアミンと、無機アルカリと、を含有する水系インクであり、有機溶剤は、ジオール系有機溶剤を含み、ジオール系有機溶剤は、標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤を含み、ジオール系有機溶剤の総質量に対して、標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤の含有量が、60質量%以上であり、樹脂粒子は、ガラス転移点が75℃以下の樹脂からなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体である記録媒体への印刷用途に適用される白色のインクジェットインク組成物であって、
水と、白色顔料と、有機溶剤と、樹脂粒子と、アルカノールアミンと、無機アルカリと、を含有する水系インクであり、
前記有機溶剤は、ジオール系有機溶剤を含み、
前記ジオール系有機溶剤は、標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤を含み、
前記ジオール系有機溶剤の総質量に対して、前記標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤の含有量が、60質量%以上であり、
前記樹脂粒子は、ガラス転移点が75℃以下の樹脂からなるインクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記インクジェットインク組成物の総質量に対して、
前記アルカノールアミンの含有量が1.0質量%以下であり、
前記無機アルカリの含有量が0.3質量%以下である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記インクジェットインク組成物の総質量に対して、前記有機溶剤の含有量が10質量%以上25質量%以下である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記樹脂は、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂のうちの何れか1種以上である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記ジオール系有機溶剤は、標準沸点が230℃を超えるジオール系有機溶剤を、前記ジオール系有機溶剤の総質量に対して、2質量%を超えて含有しない、請求項1に記載の
インクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記有機溶剤は、前記ジオール系有機溶剤以外の有機溶剤を、前記インクジェットインク組成物の総質量に対して、5質量%を超えて含有しない、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記白色顔料を分散させる樹脂分散剤を含み、
前記樹脂分散剤は酸性基を有する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
前記記録媒体は、前記非吸収性記録媒体である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
シリコーン系界面活性剤を含む、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れか1項に記載のインクジェットインク組成物と、
水と、非白色顔料と、有機溶剤と、樹脂粒子と、を含有する水系インクである非白色インクジェットインク組成物と、を有するインクセット。
【請求項11】
前記非白色インクジェットインク組成物は、
前記有機溶剤として、前記標準沸点が230℃以下のジオール系有機溶剤を含み、
前記有機溶剤の含有量は、前記非白色インクジェットインク組成物の総質量に対して、10質量%以上25質量%以下である、請求項10に記載のインクセット。
【請求項12】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のインクジェットインク組成物を用いる記録方法であって、
前記インクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して、前記記録媒体に付着させる白色インク付着工程を含む記録方法。
【請求項13】
水と、非白色顔料と、有機溶剤と、樹脂粒子と、を含有する水系インクである非白色インクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して、前記記録媒体に付着させる非白色インク付着工程をさらに含む、請求項12に記載の記録方法。
【請求項14】
前記非白色インク付着工程の後に、前記白色インク付着工程が実施され、
前記インクジェットインク組成物は、前記記録媒体に付着した前記非白色インクジェットインク組成物に重ねられて付着される、請求項13に記載の記録方法。
【請求項15】
前記非白色インク付着工程、および前記白色インク付着工程の後に、前記記録媒体を60℃以上90℃以下の温度に加熱する乾燥工程をさらに含む、請求項13に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、インクセット、および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白色顔料および樹脂粒子を含む水系の白色インクジェットインク組成物が知られていた。例えば、特許文献1には、酸化チタンおよびウレタン樹脂などを含む白色インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-17005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、白色インク組成物では、インクの保存安定性が十分ではなかった。また、記録媒体に塗布された後の乾燥性を確保することが難しくなる場合があった。さらに、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への印刷用途に適用すると、印刷物にカールなどの変形が生じる可能性があった。すなわち、上記諸性能をバランスよく向上させる白色のインクジェットインク組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
インクジェットインク組成物は、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体である記録媒体への印刷用途に適用される白色のインクジェットインク組成物であって、水と、白色顔料と、有機溶剤と、樹脂粒子と、アルカノールアミンと、無機アルカリと、を含有する水系インクであり、前記有機溶剤は、ジオール系有機溶剤を含み、前記ジオール系有機溶剤は、標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤を含み、前記ジオール系有機溶剤の総質量に対して、前記標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤の含有量が、60質量%以上であり、前記樹脂粒子は、ガラス転移点が75℃以下の樹脂からなる。
【0006】
インクセットは、上記のインクジェットインク組成物と、水と、非白色顔料と、有機溶剤と、樹脂粒子と、を含有する水系インクである非白色インクジェットインク組成物と、を有する。
【0007】
記録方法は、上記のインクジェットインク組成物を用い、前記インクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して、前記記録媒体に付着させる白色インク付着工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例に係る白色インクの組成を示す表。
図2】比較例に係る白色インク、および実施例に係る非白色インクの組成を示す表。
図3】実施例に係るインクセットの内容、および評価結果などを示す表。
図4】比較例に係るインクセットの内容、および評価結果などを示す表。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態のインクジェットインク組成物、非白色インクジェットインク組成物、インクセット、および記録方法について説明する。本発明は以下の実施形態によって限定されるものではない。
【0010】
白色インク組成物では、保存安定性、印刷物の乾燥性および変形抑制の諸性能を、バランスよく向上させることが難しいという課題があった。
【0011】
詳しくは、白色インク組成物では、顔料の分散安定性が得にくいなどにより、保存安定性が劣る傾向があった。また、遮蔽性を確保するために顔料濃度が比較的に高く設定される。そのため、分散安定性や、インクジェットヘッドにおける目詰まり回復性を向上させることが難しかった。
【0012】
また、比較的に標準沸点が高いジオール系有機溶剤を主な有機溶剤として用いる組成では、記録媒体に塗布された後の乾燥性を確保することが難しくなる場合があった。該乾燥性を向上させると、上記目詰まり回復性が悪化し易くなることがあった。さらに、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への印刷用途に適用すると、印刷物にカールなどの変形が生じる可能性があった。すなわち、上記諸性能をバランスよく向上させる白色のインクジェットインク組成物が求められていた。
【0013】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体である記録媒体への印刷用途に適用される白色のインクジェットインク組成物である。また、インクジェットインク組成物および非白色インクジェットインク組成物を有する本実施形態のインクセットも、上記記録媒体への印刷用途に適用される。
【0014】
以降の説明では、本実施形態のインクジェットインク組成物を単に白色インクともいい、白色インクと共にインクセットを構成する非白色インクジェットインク組成物を単に非白色インクともいう。また、白色インクと非白色インクとを総称して単にインクということもある。白色インクおよび非白色インクは水系インクである。ここでいう水系インクとは、主要な溶媒として少なくとも水を含むインクである。
【0015】
白色インクは、水、白色顔料、有機溶剤、樹脂粒子、アルカノールアミン、および無機アルカリを含有する。白色インクは、透明な記録媒体において、例えば非白色インクの背景を形成するために用いられる。つまり、白色インクの塗膜を背景とすることにより、非白色インクが形成する画像などが際立って表示される。
【0016】
1.1.成分
1.1.1.水
水は、白色インクが記録媒体に付着された後に、乾燥によって蒸発する成分である。水としては、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水、および超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものが適用される。また、紫外線照射や過酸化水素の添加などによって滅菌した水を使用すると、処理液を長期間保存する場合に、カビやバクテリアの発生が抑制される。白色インクは、水に加え、さらに有機溶剤などの水以外の溶媒を主な溶媒とするものであってもよい。
【0017】
白色インクにおける水の含有量は、記録媒体の種類や白インクの用途に応じて適宜設定される。白インクの水の含有量は、特に限定されないが、白色インクの総質量に対して、30質量%以上が好ましい。さらには、30質量%以上95質量%以下が好ましく、30質量%以上85質量%以下がより好ましい。さらには、35質量%以上80質量%以下が好ましく、40質量%以上75質量%以下がより好ましい。これによれば、白色インクにおける粘度などの物性や、記録媒体に付着された際の乾燥性などの調節が容易になる。
【0018】
1.1.2.白色顔料
白色顔料は、白色インクが記録媒体に付着されると記録媒体に残存して、白色を呈する色材である。白色顔料としては、例えば無機化合物粒子が挙げられる。無機酸化物粒子としては、例えば、無機酸化物、無機硫化物、無機炭酸塩、無機ケイ酸化物などがあげられる。
【0019】
白色顔料としては、具体的には、例えばC.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントホワイト 1(塩基性炭酸鉛)、4(酸化亜鉛)、5(硫化亜鉛と硫酸バリウムとの混合物)、6(二酸化チタン)、6:1(他の金属酸化物を含有する二酸化チタン)、7(硫化亜鉛)、18(炭酸カルシウム)、19(クレー)、20(雲母チタン)、21(硫酸バリウム)、22(石膏)、26(酸化マグネシウム・二酸化ケイ素)、27(二酸化ケイ素)、28(無水ケイ酸カルシウム)、三酸化アンチモン、および二酸化ジルコニウムなどが挙げられる。これらの中でも、記録媒体に形成される塗膜の遮蔽性向上の観点から、C.I.ピグメントホワイト6(二酸化チタン)を用いることが好ましい。
【0020】
白色顔料として、中空構造を有する粒子を用いてもよい。中空構造を有する粒子は、無機粒子および有機粒子のいずれであってもよい。以下の説明では、中空構造を有する粒子を中空粒子ともいう。
【0021】
中空構造とは、少なくとも屈折率が異なる物質が内包される構造をいう。中空粒子とは、具体的には、コア・シェル構造のような空間がシェルに囲まれた構造を有する粒子を指す。中空粒子のコアの材質は、液体および気体のいずれであってもよい。中空粒子には、公知のものが適用可能である。
【0022】
白色インクにおける白色顔料の含有量は、特に限定されないが、白色インクの総質量に対して、5.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、7.5質量%以上18.0質量%以下がより好ましい。さらには、9.0質量%以上17.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上17.0質量%以下がより好ましい。これによれば、白色インクにおける粘度などの増大やインクジェットヘッドでの吐出安定性の低下を抑えて、塗膜の遮蔽性を向上させることができる。
【0023】
白色顔料の平均粒子径は、特に限定されないが、塗膜の遮蔽性および分散安定性などの観点から、100nm以上400nm以下が好ましい。ここでいう平均粒子径とは、動的光散乱法により測定される体積基準粒度分布(50%)である。
【0024】
1.1.3.有機溶剤
白色インクは有機溶剤を含む。有機溶剤の含有量は、白色インクの総質量に対して、5質量%以上30質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がさらに好ましく、15質量%以上23質量%以下がより好ましい。これによれば、白色インクの粘度や乾燥性などの諸物性を好適に調整することができる。
【0025】
1.1.3.1.ジオール系有機溶剤
有機溶剤はジオール系有機溶剤を含む。ジオール系有機溶剤のなかでも、標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤を含む。標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤は、記録媒体に付着された白色インクの乾燥性を向上させる機能を有する。
【0026】
ジオール系有機溶剤としては、アルカンの2個の水素原子が水酸基に置換された化合物があげられる。該アルカンは、炭素数が2から8が好ましく、炭素数が3から6がより好ましい。具体的には、ジオール系有機溶剤として1,2-アルカンジオールが好ましい。
【0027】
さらにジオール系有機溶剤としては、上記のアルカンにおいて、2個の水素原子を水酸基にて置換された化合物が、上記2個の水酸基が分子間で縮合した縮合物も挙げられる。該縮合物の縮合数は2から4が好ましい。このうち、アルカンの2個の水素原子が水酸基に置換された化合物が好ましい。
【0028】
標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤としては、例えば、1,2-オクタンジオール(131℃)、2,3-ブタンジオール(177℃)、1,2-プロパンジオール(188℃)、1,2-ブタンジオール(193℃)、1,2-エタンジオール(197℃)、1,3-ブタンジオール(207℃)、1,3-ペンタンジオール(209℃)、1,2-ペンタンジオール(210℃)、1,3-プロパンジオール(213℃)、および3-メチル-1,3-ブタンジオール(204℃)などが挙げられる。なお、上記化合物名に続く括弧内の数値は、各々の標準沸点である。
【0029】
標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤の含有量は、ジオール系有機溶剤の総質量に対して、60質量%以上であり、70質量%以上90質量%以下が好ましく、75質量%以上80質量%以下がさらに好ましい。これによれば、記録媒体に付着された白色インクの乾燥性がさらに向上する。なお、白色インクの乾燥性が向上すると、インクジェットヘッドのノズルなどにおける目詰まり回復性が低下し易くなるが、本実施形態では後述するアルカノールアミンと無機アルカリの作用により目詰まり回復性の低下が抑制される。
【0030】
また、標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤の、インクの総質量に対する含有量は、5質量%以上30質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がさらに好ましく、15質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0031】
ジオール系有機溶剤は、ジオール系有機溶剤の総質量に対して、標準沸点が230℃を超えるジオール系有機溶剤を、2質量%を超えて含有しないことが好ましく、含有しないことがより好ましい。つまり、これを含んでも良いが、含むまたは含まない場合において、2質量%を超えては含有しないことが好ましい。これによれば、記録媒体に付着された白色インクの乾燥性がさらに向上する。
【0032】
標準沸点が230℃を超えるジオール系有機溶剤としては、例えば、1,5-ペンタンジオール(239℃)、および1,6-ヘキサンジオール(249℃)などが挙げられる。なお、ジオール系有機溶剤は、標準沸点が220℃超230℃以下であるジオール系有機溶剤を含んでもよい。標準沸点が220℃超230℃以下であるジオール系有機溶剤としては、例えば、1,2-ヘキサンジオール(223℃)などがあげられる。上記化合物名に続く括弧内の数値は、各々の標準沸点である。
【0033】
ここで、標準沸点とは、1気圧の外圧下での沸点を指し、例えば、公知の沸点測定装置を用いて1気圧下の沸点を測定することにより求められる。
【0034】
1.1.3.2.その他の有機溶剤
白色インクは、ジオール系有機溶剤以外のその他の有機溶剤を含んでも良いが、含むまたは含まない場合において、白色インクの総質量に対して、5質量%を超えて含有しないことが好ましく、含有しないことがより好ましい。これによれば、記録媒体に付着された白色インクの乾燥性がさらに向上する。
【0035】
その他の有機溶剤としては、例えば、グリセリン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドンなどのアミド系溶剤、アルキレングリコールモノエーテルやアルキレングリコールジエーテルなどのグリコールエーテル類、トリオール以上のポリオール類、モノアルコール類、などが挙げられる。
【0036】
上記その他の有機溶剤は、白色インクや印刷物の諸特性、白色インクが記録媒体に付着された際の挙動などに応じて適宜選択される。
【0037】
1.1.4.樹脂粒子
樹脂粒子は、白色インクが記録媒体に形成する塗膜の物性を担う。上記物性とは、例えば、記録媒体との密着性、表面硬度、および機械特性などである。樹脂粒子として、水分散性を有する樹脂粒子が適用される。水分散性を有する樹脂粒子としては、自己乳化型が好ましい。
【0038】
樹脂粒子は、ガラス転移点が75℃以下の樹脂からなる。特に白色インクを軟包装用フィルムの印刷に用いる場合には、樹脂粒子はガラス転移点が30℃以下の樹脂からなることがより好ましい。樹脂のガラス転移点は、示差走査熱量測定などの公知の方法にて測定することが可能である。
【0039】
商業印刷や産業印刷では、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体が用いられる場合がある。これらの中でも、軟包装用の記録媒体として厚さが薄く変形し易いフィルムなどが適用されることもある。このような記録媒体を用いると、白色インクが乾燥して塗膜となる際に、白色インク中の樹脂粒子に起因して記録媒体にカールやゆがみなどの変形が発生する場合があった。これに対して、樹脂のガラス転移点が上記の範囲であることにより、塗膜の柔軟性が向上して記録媒体の変形が抑制される。また、印刷物をラミネート加工する場合にラミネート強度も向上する。
【0040】
一方、ガラス転移点が75℃以下の樹脂からなる樹脂粒子では、樹脂粒子同士が寄り集まり異物化し易く、寄り集まった異物の再分散性も劣る傾向がある。特に、白色顔料の分散安定性が劣り、白色顔料が凝集して異物化する際に、樹脂粒子が巻き込まれて白色顔料と樹脂粒子との複合異物が生成し、目詰まり回復性、再分散性が特に劣る傾向がある、本実施形態の白色インクによれば、白色顔料の分散安定性が優れるため、白色顔料と樹脂粒子との複合異物が生成し難く、好ましい。
【0041】
白色インクにおける樹脂粒子の含有量は、特に限定されないが、白色インクの総質量に対して、1.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上12.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以上10.0質量%以下が特に好ましい。これによれば、ラミネート強度、耐擦性、および耐ブロッキング性が向上する。
【0042】
白色インクにおける樹脂粒子の平均粒子径は、10nm以上300nm以下が好ましく、20nm以上200nm以下がより好ましい。これによれば、樹脂粒子の分散安定性や、インクジェットヘッドにおける白色インクの吐出安定性などが向上する。
【0043】
樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などがあげられる。これらのうち、樹脂は、ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂のうちの何れか1種以上であることが好ましい。ウレタン系樹脂を用いると、塗膜の強度が向上するため、印刷物をラミネート加工する場合に好適である。アクリル系樹脂を用いると、白色インクの分散安定性や目詰まり回復性がさらに向上する。なお、ここでいうアクリル系樹脂には、スチレン-アクリル樹脂のようなアクリル化合物以外の原料モノマーとの共重合体も含まれる。ウレタン系樹脂およびアクリル系樹脂として、公知の樹脂エマルションなどが適用可能である。
【0044】
ウレタン系樹脂は、分子中にウレタン結合を有する樹脂であれば特に限定されない。具体的には、ウレタン系樹脂として、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン系樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン系樹脂、および主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0045】
ウレタン系樹脂として市販のエマルションを適用してもよい。ウレタン系樹脂エマルションの市販品としては、例えば、日本ルーブリゾール社のサンキュアー(登録商標) 2710(商品名)、三洋化成工業社のパーマリン(登録商標) UA-150(商品名)、第一工業製薬社のスーパーフレックス(登録商標) 460、470、610、700、820(以上商品名)、楠本化成社のNeoRez(登録商標) R-9660、R-9637、R-940(以上商品名)、アデカ社のアデカボンタイター(登録商標) HUX-380、290K(以上商品名)、三井化学社のタケラック(登録商標) W-605、W-635、W-6020,W-6061、WS-6021(以上商品名)、DIC社のハイドラン(登録商標) WLS-201(商品名)などが挙げられる。これらのウレタン系樹脂エマルションの1種以上が適用可能である。
【0046】
アクリル系樹脂としては、具体的には、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、および(メタ)アクリル-ウレタン樹脂などが挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルおよびそれに対応するメタクリルのうちのいずれかを指す。
【0047】
アクリル系樹脂として市販のエマルションを適用してもよい。アクリル系樹脂エマルションの市販品としては、例えば、日本合成化学社のモビニール(登録商標) 966A(商品名、新中村化学社のNKバインダー R-5HN(商品名)、BASF社のジョンクリル(登録商標) 7100(以上商品名)、星光PMC社のQE-1042、X-436、PE-1126、JE-1113、KE-1148(以上商品名)等が挙げられる。これらのアクリル系樹脂エマルションの1種以上が適用可能である。
【0048】
1.1.5.アルカノールアミン
アルカノールアミンは、白色インクのpHを調節して、白色顔料や樹脂粒子の分散安定性を維持するpH調整剤であってもよい。後述する無機アミンもpH調整剤であってもよい。従来、アルカノールアミンまたは無機アミンを単独で用いても、分散安定性を向上させることが難しい場合があった。そして経時的に分散安定性が低下すると、保存安定性や目詰まり回復性が悪化する可能性があった。そのため、白色顔料では、平均粒子径や比重に由来して、沈降やハードケーキ化が起きる場合があった。
【0049】
これに対して、白色インクでは、有機アルカリであるアルカノールアミンと無機アルカリとを併用することにより、分散安定性および目詰まり回復性が向上する。特に、アルカノールアミンは、固化しかけた白色インクの再分散性を改善させる効果を有し、目詰まり回復性の向上に寄与する。
【0050】
白色インクにおけるアルカノールアミンの含有量は、白色インクの総質量に対して、1.0質量%以下が好ましい。これによれば、白色インクにおける白色顔料の分散安定性、および白色インクの目詰まり回復性をさらに向上させることができる。また、ガラス転移点が比較的に低い樹脂は、白色インクの保管時に白色顔料のハードケーキ化と共に凝集し易かった。これに対して、アルカノールアミンを含むことにより樹脂の凝集が抑制される。
【0051】
アルカノールアミンの含有量は、白色インクの総質量に対して、0.05質量%以上0.70質量%以下がより好ましく、0.10質量%以上0.50質量%以下がさらに好ましい。
【0052】
アルカノールアミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどが挙げられる。これらのアルカノールアミンは、塩の形態にて白色インクに添加されてもよい。
【0053】
1.1.6.無機アルカリ
無機アルカリは、白色インクにおいて、アルカノールアミンと同様にpH調整剤として機能するものであってもよい。
【0054】
白色インクにおける無機アルカリの含有量は、白色インクの総質量に対して、0.50質量%以下が好ましい。これによれば、白色顔料の分散安定性および白色インクの目詰まり回復性をさらに向上させることができる。
【0055】
上記の含有量は、さらには0.30質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.20質量%以下がより好ましく、0.03質量%以上0.20質量%以下がより好ましい。
【0056】
無機アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機塩、緩衝作用のある炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウムなどが挙げられる。無機アルカリとして、これらのうちの1種以上を用いる。
【0057】
1.1.7.樹脂分散剤
白色インクは白色顔料を分散させる樹脂分散剤を含んでもよい。該樹脂分散剤は酸性基を有することが好ましい。樹脂分散剤は、分子構造における疎水部が白色顔料の粒子表面に吸着し、酸性基が溶媒側に配向する作用を有する。これにより、白色インクにおける白色顔料の分散安定性、および白色インクの目詰まり回復性をさらに向上させることができる。なお、樹脂分散剤による分散には、転相乳化やカプセル化などの手法を適用してもよい。
【0058】
樹脂分散剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体などのアクリル系単量体を少なくとも用いて共重合させたアクリル系樹脂、マレイン酸やその誘導体を少なくとも用いて共重合させたマレイン酸系樹脂、アミン構造を有するアミン系樹脂、などが挙げられ好ましい。
【0059】
具体的には、樹脂分散剤として、例えば、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリル酸塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合物、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合物などが挙げられる。樹脂分散剤に備わる酸性基としては、例えばカルボキシ基、スルホ基、リン含有基などが挙げられる。酸性基は塩の形態であってもよい。
【0060】
樹脂分散剤は、親水性の構造部分と疎水性の構造部分とを有する。樹脂分散剤が酸性基を有する場合において、酸性基は親水性の構造部分である。一方、樹脂分散剤が酸性基を有しない場合は、樹脂分散剤は、酸性基以外の親水性の構造部分を有することが必要である。樹脂分散剤が酸性基を有する場合、顔料の分散安定性がより優れ、さらに記録物の乾燥性、乾燥性、ラミネート強度などがより優れ好ましい。
【0061】
また、樹脂分散剤が酸性基を有し、白色インクが無機アルカリを含有する場合、無機アルカリの金属イオンが、樹脂分散剤の酸性基に作用し、白色顔料の分散安定性がより優れ、白色インクの保存安定、目詰まり回復性などがより優れると推測する。
【0062】
白色インクにおける樹脂分散剤の含有量は、白色顔料の総質量に対して、1質量%以上200質量%以下が好ましく、5質量%以上150質量%以下がより好ましい。さらには7質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましい。これにより、白色顔料の分散安定性がさらに向上する。
【0063】
1.1.8.界面活性剤
白色インクは界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、およびフッ素系界面活性剤などが挙げられる。白色インクは、これらの界面活性剤のうちシリコーン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0064】
シリコーン系界面活性剤は、白色インクの表面張力を低下させて、記録媒体に対する濡れ性を向上させる。特に、アルカノールアミンおよび無機アルカリにより白色インクのpHが好適に維持されることから、シリコーン系界面活性剤の分解が起き難くなる。そのため、シリコーン系界面活性剤の作用が安定的に発現する。
【0065】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサンなどのポリシロキサン系化合物が挙げられる。シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品を適用してもよい。
【0066】
上記市販品としては、例えば、ビックケミー・ジャパン社のBYK(登録商標)-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名)、信越化学工業のKF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名)などが挙げられる。
【0067】
アセチレングリコール系界面活性剤として市販品を用いてもよい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社のサーフィノール(登録商標)104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上商品名)、日信化学工業社のオルフィン(登録商標)B、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上商品名)、川研ファインケミカル社のアセチレノール(登録商標)E00、E00P、E40、E100(以上商品名)などが挙げられる。
【0068】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましい。フッ素変性ポリマーとして市販品を用いてもよい。フッ素変性ポリマーの市販品としては、例えば、ビックケミー・ジャパン社のBYK-340(以上商品名)などが挙げられる。
【0069】
白色インクにおける界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、白色インクの総質量に対して0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下より好ましい。
【0070】
1.1.9.添加剤
白色インクは添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防かび剤、腐食防止剤、消泡剤、ワックス添加剤、およびキレート化剤などが挙げられる。これらの添加剤には市販品を適用してもよい。
【0071】
1.2.調製方法
白色インクの調製では、まず上記の各成分を任意の順序で混合する。その後、必要に応じてろ過などを実施して、不純物や異物などを除去する。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネティックスターラーなどの撹拌装置を備えた容器に、各成分を順次添加して撹拌、混合する方法が用いられる。ろ過方法としては、遠心ろ過、フィルターろ過などの公知の方法が採用可能である。
【0072】
1.3.物性
白色インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上、40mN/m以下が好ましく、20mN/m以上、40mN/m以下がより好ましい。これにより、インクジェットヘッドからの白色インクの吐出安定性が向上する。また、記録媒体に形成される画像などを高精細なものとすることができる。白色インクの表面張力は、協和界面科学社の自動表面張力計CBVP-Zを用いて測定することが可能である。
【0073】
白色インクの20℃における粘度は、表面張力と同様な観点から、2mPa・s(ミリパスカル秒)以上15mPa・s以下が好ましく、2mPa・s以上5mPa・s以下がより好ましい。白色インクの粘度は、Pysica社の粘弾性試験機MCR-300を用いて測定することが可能である。具体的には、白色インクの20℃の粘度は、白色インクの温度を20℃に調整して、Shear Rateを10から1000に上げ、Shear Rateが200のときの粘度を読み取ることで求められる。
【0074】
2.非白色インクジェットインク組成物
非白色インクは、水、非白色顔料、有機溶剤、および樹脂粒子を含有する。
【0075】
2.1.成分
2.1.1.非白色顔料
非白色顔料は、非白色インクが記録媒体に付着されると記録媒体に残存して、非白色の固有の色を呈する色材である。非白色顔料には、公知の有機顔料および公知の無機顔料が適用される。
【0076】
有機顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料などの多環式顔料、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキなどの染料レーキ顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料などが挙げられる。
【0077】
無機顔料としては、例えば、酸化クロムなどの金属酸化物顔料、カーボンブラック、パール顔料やメタリック顔料などの光輝顔料が挙げられる。
【0078】
非白色顔料には、黒色顔料、イエロー色顔料、マゼンタ色顔料、シアン色顔料などが含まれる。黒色顔料として、例えば、C.I.ピグメントブラック 1、7、11などが挙げられる。
【0079】
イエロー色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180が挙げられる。
【0080】
マゼンタ色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、またはC.I.ピグメントバイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0081】
シアン色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0082】
上記以外の非白色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63などが挙げられる。
【0083】
非白色インクにおける非白色顔料の含有量は、非白色インクの総質量に対して、0.5質量%以上20.0質量%以下が好ましい。さらには、1.0質量%以上6.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。これによれば、記録媒体に形成される画像などの発色性が向上すると共に、インクジェットヘッドにおける目詰まりなどの発生が抑制される。
【0084】
2.1.2.有機溶剤
非白色インクは、有機溶剤を含む。有機溶剤として、ジオール系有機溶剤が好ましく、標準沸点が230℃以下のジオール系有機溶剤を含むことが好ましい。標準沸点が230℃以下のジオール系有機溶剤には、上述したものが適用可能である。有機溶剤の含有量は、非白色インクの総質量に対して、10質量%以上25質量%以下であることが好ましく、13~20質量%であることがより好ましい。これによれば、非白色インクの粘度や乾燥性などの諸物性を好適に調整することができる。
【0085】
標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤の含有量は、ジオール系有機溶剤の総質量に対して、60質量%以上が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましく、80質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。
【0086】
非白色インクの標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤のジオール系有機溶剤の総質量に対する含有量は、白色インクの標準沸点が220℃以下のジオール系有機溶剤のジオール系有機溶剤の総質量に対する含有量よりも、高いことが好ましく、2質量%から30質量%高いことがより好ましく、5質量%から20質量%高いことがさらに好ましく10質量%から15質量%高いこがより好ましい。
【0087】
非白色インクの有機溶剤には、標準沸点が230℃以下のジオール系有機溶剤の他に、白色インクと同様な有機溶剤が適用可能である。
【0088】
2.1.3.その他の成分
非白色インクにおいて、非白色顔料以外の、その他の成分に関して、上述した白色インクと同様な成分が適用可能である。有機溶剤に関しても上記以外に、上述した白色インクと同様な成分が適用可能である。
【0089】
なお、非白色インクは、白色インクと比べて、分散安定性および目詰まり回復性などが低下し難いため、pH調整剤としてアルカノールアミンおよび無機アルカリの少なくとも何れかが含まれるものにすることができ、好ましい。
【0090】
2.2.調製方法
非白色インクには、白色インクと同様な上記の調整方法が採用可能である。
【0091】
2.3.物性
非白色インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上、40mN/m以下が好ましく、20mN/m以上、40mN/m以下がより好ましい。これにより、インクジェットヘッドからの非白色インクの吐出安定性が向上する。また、記録媒体に形成される画像などを高精細なものとすることができる。非白色インクの表面張力は、白色インクと同様にして、上述した方法で測定可能である。
【0092】
非白色インクの20℃における粘度は、表面張力と同様な観点から、2mPa・s以上15mPa・s以下が好ましく、2mPa・s以上5mPa・s以下がより好ましい。非白色インクの粘度は、白色インクと同様にして、上述した方法で測定可能である。
【0093】
3.インクセット
本実施形態に係るインクセットは、白色インクと非白色インクとを有する。これによれば、分散安定性、目詰まり回復性、乾燥性、および印刷物の変形抑制の諸性能が向上した白色インクを含むインクセットとすることができる。また、透明フィルムなどの透光性を有する記録媒体に対して、白色インクを用いた裏刷りが可能となる。これにより、非白色インクの画質や見栄えを向上させることができる。インクセットは、インクセットが有する2個以上のインクを組で用いて記録が行なわれるインクの組である。
【0094】
インクセットは、異なる色を呈する複数の非白色インクを有してもよい。これにより、記録媒体にカラー画像などを印刷することが可能となる。
【0095】
4.インクジェット記録装置
本実施形態の記録方法に用いるインクジェットヘッドを備える記録装置について説明する。記録装置としては、インクジェットプリンターなどの公知の装置が適用可能である。公知の装置としては、具体的には、オンキャリッジ型またはオフキャリッジ型のシリアルプリンター、およびラインヘッドプリンターが挙げられる。
【0096】
インクジェットヘッドは、インクの液滴を吐出して記録媒体に付着させる。インクジェットヘッドは駆動手段であるアクチュエーターを有する。アクチュエーターとしては、圧電体の変形を利用する圧電素子、静電吸着による振動板の変位を利用する電気機械変換素子、および加熱によって生じる気泡を利用する電気熱変換素子などが挙げられる。本実施形態では、圧電素子を備えたインクジェットヘッドを有する記録装置を適用する。
【0097】
インクジェットヘッドは、インクの液滴を吐出する複数のノズルを有する。複数のノズルの各々では、インクとインクジェットヘッドの雰囲気との間に気液界面が存在する。インクジェットヘッドを長期間使用しない状況では、上記気液界面やその近傍にてインクが固化してノズルの目詰まりが発生する場合がある。この場合には、インクジェットヘッドのクリーニングを実施して固化したインクを排除する。この固化したインクの排除のし易さが、インクジェットヘッドの目詰まり回復性である。
【0098】
一般に、インク中の色材や樹脂などの固形分濃度が高い程、目詰まり回復性は悪化し易い。本実施形態の白色インクおよび非白色インクでは、上述した組成によって目詰まり回復性が向上している。そのため、インクジェットヘッドのメンテナンスなどの手間や回数を省くことができる。
【0099】
5.記録方法
本実施形態に係る記録方法は、白色インクおよび非白色インクを用いる。記録方法は、白色インク付着工程、および非白色インク付着工程を含む。本実施形態では、非白色インク付着工程、白色インク付着工程の順に実施される記録方法について説明するが、本発明の記録方法はこの順に限定されない。
【0100】
5.1.非白色インク付着工程
非白色インク付着工程では、非白色インクをインクジェット記録装置のインクジェットヘッドから吐出して、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体である記録媒体に付着させる。この場合には、透明な記録媒体または透光性を有する記録媒体が適用され、該記録媒体を介して非白色インクにて形成される画像などが視認される。この手法が所謂裏刷りである。
【0101】
非白色インクは、上述した組成によって乾燥性が向上するため、乾燥に要する時間が短縮されて次工程へ速やかに移行することができる。なお、非白色インク付着工程の前に後述する白色インク付着工程が実施されてもよい。この場合には、非白色インクの片方の塗膜が印刷物の表面に露出するが、上述した組成によって非白色インクにおいても塗膜の耐擦性やラミネート強度が確保される。
【0102】
記録媒体には、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体が適用される。特に、白色インクおよび非白色インクは乾燥性に優れるため、上記記録媒体の中でも非吸収性記録媒体に好適である。
【0103】
非吸収性記録媒体としては、プラスチックからなるフィルムまたはプレート、ガラスまたは金属などからなるプレートなどが挙げられ、プラスチックからなるフィルムが好ましい。プラスチックからなるフィルムを用いて、サイン印刷、ラベル印刷、軟包装印刷などを行ってもよい。
【0104】
プラスチックからなるフィルムは、例えば、軟包装印刷用の軟包装用フィルムなどであってもよい。
【0105】
白色インクは、塗膜の固化に伴う記録媒体の変形が抑制されるため、非吸収性記録媒体がプラスチックからなるフィルムである場合に、特に好適である。さらに、白色インクは、軟包装用フィルムに対して特に好適である。
【0106】
プラスチックからなるフィルムの材質としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、およびナイロンなどのプラスチックなどが挙げられる。
【0107】
本明細書において、低吸収性記録媒体とはインクをほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を指し、非吸収性記録媒体とはインクを全く吸収しない性質を有する記録媒体を指す。具体的には、低吸収性記録媒体とは、Bristow法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が0mL/m2超10mL/m2以下である記録媒体をいう。非吸収性記録媒体とは、Bristow法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が0mL/m2である記録媒体をいう。
【0108】
低吸収性記録媒体としては、インク吸収性の小さいコート層を記録面に備える記録媒体があげられる。
【0109】
低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体としては、インク吸収性を有するインク受容層を印刷面に備えない記録媒体が挙げられる。
【0110】
なお、本発明のインクセットは、軟包装用以外の非吸収性記録媒体に適用されてもよい。そのような記録媒体としては、例えばサイネージ用のフィルムがあげられる、例えば塩ビシート、PETフィルムなどが挙げられる。サイネージなどの用途に印刷物を供する場合には、ラミネートフィルムにてラミネート加工を施してもよい。また、ラベル印刷用のプラスチックフィルムも挙げられる。
【0111】
5.2.白色インク付着工程
白色インク付着工程、非白色インク付着工程は、順番は問わないが、これらの一方を先に、他方を後に行うことが好ましい。こうすることで、白色インクの塗膜と非白色インクの塗膜とを、何れか一方を上にして、他方を下にして、記録媒体上で重ねて付着させ積層にすることができる。
【0112】
特に、白色インク付着工程は、非白色インク付着工程の後に実施されることが好ましい。白色インク付着工程では、白色インクをインクジェットヘッドから吐出して、記録媒体に付着させる。詳しくは、白色インクは、記録媒体に付着した非白色インクの塗膜に重ねられて付着される。このとき、白色インクは、非白色インクが形成する塗膜のみに重ねられてもよく、非白色インクの塗膜以外の領域にも付着されてよい。なお、非白色インクが吐出されるインクジェットヘッドと、白色インクが吐出されるインクジェットヘッドとは、同一であってもよく、別個であってもよい。
【0113】
裏刷りでは、非白色インクの塗膜が記録媒体および白色インクの塗膜によって覆われるのに対して、白色インクの塗膜は片面が露出する。そのため、白色インクでは、乾燥性や耐擦性、およびラミネート加工する場合のラミネート強度などの特性が重要となる。白色インクは、上述した組成によってこれら特性が向上している。
【0114】
特に、白色インクは乾燥性が向上することから、完全に乾燥した白色インクの塗膜が備える耐擦性が比較的早期に発現する。これにより、白色インクでは印刷後の取り扱いによる擦り傷の発生が低減される。すなわち、白色インクは乾燥性と共に耐擦性も向上する。また、白色インクの乾燥に要する時間が短縮される。
【0115】
記録媒体として軟包装用フィルムを用いる場合には、白色インクに含まれる樹脂粒子によって軟包装用フィルムの変形が抑えられる。擦り傷や変形の発生が抑えられることから、印刷物の品質を向上させることができる。
【0116】
5.3.乾燥工程
記録方法は、非白色インク付着工程、および白色インク付着工程の後に、乾燥工程をさらに含んでもよい。乾燥工程では、非白インクおよび白色インクが付着された記録媒体を60℃以上90℃以下の温度に加熱することが好ましい。これによれば、記録媒体に付着されたインクの乾燥を促進させることができる。
【0117】
乾燥工程における加熱手段は特に限定されず、公知の加熱装置が適用可能である。加熱装置としては、例えば、赤外線ヒーターおよび送風機構を備える温風装置などが挙げられる。これらの加熱装置は、インクジェット記録装置に備わる物であってもよく、インクジェット記録装置とは別体であってもよい。
【0118】
なお、インクジェット記録装置は、プラテンを面で加熱するプラテンヒーターなどを別途備えてもよく、プラテンヒーターによって記録媒体を加熱してから、あるいは加熱しながらインクを付着させてもよい。該加熱は、インク付着工程における加熱である。インク付着工程における記録媒体の表面温度は、20℃から50℃が好ましく、30℃から45℃がより好ましく、35℃から38℃がさらに好ましい。
【0119】
以上の工程を経て印刷物が製造される。
【0120】
5.4.二次加工
印刷物を軟包装用途に用いる場合には、乾燥工程の後に、印刷物をロール状に巻き取ってもよく、包装用途に二次加工を施してもよい。また、印刷物をサイネージ用途などに用いる場合に、二次加工としてラミネート加工を施して耐擦性を向上させてもよい。
【0121】
ラミネート加工では、印刷物とラミネートフィルムとを接着剤を介して接着してもよい。これにより、印刷物とラミネートフィルムとが比較的に強固に接着されるため、印刷物とラミネートフィルムとの剥離が発生し難く、過酷な環境下でも印刷物を使用可能となる。
【0122】
本実施形態の印刷物では、白インクの塗膜の表面とラミネート材とが接する。白インクは、塗膜のラミネート強度が向上するため、ラミネート加工に好適である。また、印刷物には、用途に応じて適宜、トリミング加工、製本加工、ハトメ加工などが施されてもよい。
【0123】
本実施形態によれば、以下の効果が得られる。白色顔料の分散安定性、インクジェットヘッドにおける白色インクの目詰まり回復性、印刷物の乾燥性および変形抑制の諸性能を、バランスよく向上させることができる。すなわち、上記諸性能が向上する白色インク、インクセット、および記録方法を提供することができる。
【0124】
6.実施例および比較例
以下、実施例および比較例を示して、図1から図4を参照しながら本発明の効果をより具体的に説明する。図1に示した白色インクのW1からW14は、上記実施形態の白色インクの実施例である。図2に示した白色インクのW15からW22は、比較例の白色インクである。図2に示した非白色インクのC1からC4は、上記実施形態の非白色インクの実施例である。図3に示した実施例1から実施例21は、上記実施形態のインクセットの実施例である。図4に示した比較例1から比較例8は、比較例のインクセットである。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されない。
【0125】
図1および図2の組成の欄では、数値の単位は質量%であり、数値の記載がなく、-表記の欄は含有しないことを意味する。図1および図2において、白色顔料、非白色顔料、樹脂粒子、ワックス添加剤、および消泡剤は、固形分としての配合量で示している。図1および図2に示した原材料の詳細は、以下の通りである。なお、白色顔料および非白色顔料は、後述する方法で作製した顔料分散体として配合している。
【0126】
白色顔料
・PW6:C.I.ピグメントホワイト6(二酸化チタン)。
非白色顔料
・PB15:3:C.I.ピグメントブルー15:3。
樹脂粒子
・タケラック(登録商標)W-6061:商品名。ウレタン系樹脂エマルション、樹脂のガラス転移点25℃、三井化学社。
・ハイドラン(登録商標)WLS-201:商品名。ウレタン系樹脂エマルション、DIC社。
・スーパーフレックス(登録商標)820:商品名。ウレタン系樹脂エマルション、第一工業製薬社。
・QE-1042:商品名。アクリル系樹脂エマルション、星光PMC社。
・タケラックW-6020:商品名。ウレタン系樹脂エマルション、樹脂のガラス転移点90℃、三井化学社。
ワックス添加剤
・AQUACER539:商品名。水溶性ワックスエマルション、ビックケミー・ジャパン社。
界面活性剤
・BYK(登録商標)333:商品名。シリコーン系界面活性剤、ビックケミー・ジャパン社。
・オルフィン(登録商標)PD-002W:商品名。アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社。
消泡剤
・DF110D:サーフィノール(登録商標)DF110D(商品名)。日信化学工業社。
【0127】
6.1.インクの調製
白色インク用の白色顔料分散体に用いる樹脂分散剤を作製した。具体的には、撹拌機、冷却管を備えた三口フラスコにジプロピレングリコールを後述するモノマーの全質量と同質量を加え、窒素雰囲気下で85℃に加熱した。また、ステアリルメタクリレート9.1モル当量、ベンジルメタクリレート34.0モル当量、ヒドロキシエチルメタクリレート31.9モル当量、メタクリル酸25.0モル当量、および、2-メルカプトプロピオン酸0.8モル当量を混合した溶液Aを作製した。さらに、モノマーの全質量に対し1質量%のt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油社パーブチルO)を、モノマーの全質量に対し20質量%のジプロピレングリコールに溶解させた溶液Bを作製した。
【0128】
上記三口フラスコに溶液Aを4時間、溶液Bを5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間反応させた後、95℃に昇温し、3時間加熱撹拌して未反応モノマーをすべて反応させた。モノマーの消失は核磁気共鳴(1H-NMR)法で確認した。得られた反応溶液を70℃に加熱し、アミン化合物としてジメチルアミノエタノール(ジメチルエタノールアミン)を20.0モル当量添加した後、プロピレングリコールを加えて撹拌し、樹脂分散剤である分散樹脂Pの30質量%分散体を得た。分散樹脂Pの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法にて確認した結果、22000であった。
【0129】
次に、アイメックス社のレディーミル・モデルLSG-4U-08を使用して、白色インク用の白色顔料分散体を作製した。具体的には、ジルコニア製容器に、白色顔料としての石原産業社のPF-690(商品名。二酸化チタン、平均一次粒子径210nm)45質量部、分散樹脂Pの30質量%分散体15質量部、および超純水40質量部を加えた。さらに、TORAY社のトレセラム(登録商標)ジルコニアビーズ(0.5mmφ)40質量部を加えて、スパチュラで軽く混合した。混合物を上記装置に入れ、毎分1000回転の回転数にて5時間分散した。上記操作後、ろ布によるろ過を実施してビーズを取り除き、二酸化チタンの固形分濃度が45質量%の白色顔料分散体を作製した。
【0130】
非白色インク用のシアン顔料分散体は、上述した白色顔料分散体の作製方法において、白色顔料に代えてトーヨーカラー社のC.I.ピグメントブルー15:3を用いた他は、同様にして作製した。
【0131】
次に、図1および図2の組成にしたがって、水準毎に各成分を配合、撹拌し、各成分を均一に混合した後、ポアサイズ1μmのメンブレンフィルターでろ過して実施例および比較例のインクを調製した。
【0132】
6.2.印刷物の製造
インクジェット記録装置として、プリンターであるセイコーエプソン社のSC-S80650の改造機を用いた。該改造機は、加熱装置を備える。プリンターのインクジェットヘッドは、各ノズル列のノズル密度が360dpiであり、360個のノズルを有するものとした。
【0133】
プリンターのプリヒーターおよびプラテンヒーターの設定により、インク付着時の記録媒体の表面温度が図3および図4の数値になるように調節した。また、インクが付着された記録媒体の搬送方向の下流に、乾燥工程を行うための加熱装置を配置した。加熱装置は熱源および送風ファンを備える。記録媒体の印刷面の温度が、図3および図4の乾燥工程の加熱温度となるように、加熱装置およびプリンターのアフターヒーターの温度を設定した。
【0134】
非吸収性記録媒体として、フタムラ化学社のプラスチックフィルム FOS-AQ50(商品名。厚さ50μm)を用いた。
【0135】
図3および図4のインクセットの組み合わせにて、各インクを充填したカートリッジをプリンターに取り付けた。詳しくは、記録媒体が印刷時に搬送される方向において、上流側となるインクジェットヘッドに対応させて非白色インクのカートリッジを装着し、下流側となるインクジェットヘッドに対応させて白色インクのカートリッジを装着した。
【0136】
そして、プリンターを稼働させ、記録中に、インクを吐出し記録媒体に付着させる主走査と、記録媒体を搬送する副走査と、を交互に行い、記録が進むに従い、上記の記録媒体に対してまず非白色インクをベタ状に印刷し、その後に非白色インクに重ねて白色インクをベタ状に印刷した。このとき、非白色インクおよび白色インクの記録解像度を720dpi(dots per inch)×720dpiとし、非白色インクの付着量を6mg/平方インチ、白色インクの付着量を12mg/平方インチとした。その後、各加熱温度で乾燥工程を実施して印刷物を製造した。
【0137】
6.3.インクの評価
6.3.1.分散安定性
インクの分散安定性の指標として保存安定性を評価した。具体的には、各インクについて、上述した粘度の測定方法にてインク調製直後の20℃の粘度を測定した。次いで、各インクを100mlガラス瓶に入れて密封し、70℃で6日間放置した。その後、各インクについて、放置後の20℃の粘度を上記と同様にして測定した。初期の20℃の粘度に対する放置後の20℃の粘度の変化率を下記評価基準にしたがって、保存安定性を評価した。
評価基準
A:変化率が2%未満である。
B:変化率が2%以上5%未満である。
C:変化率が5%以上7%未満である。
D:変化率が7%以上である。
【0138】
6.3.2.目詰まり回復性
インクジェットヘッドのノズルの目詰まり回復性を評価した。具体的には、印刷物を製造した後、インクジェットヘッドからの各インクの吐出を止めた状態にて、2時間稼働状態を維持した。すなわち、記録媒体の搬送、各ヒーターおよび加熱装置の加熱を行う模擬印刷を続けた。その後、インクジェットヘッドの吸引クリーニングを実施した。該吸引クリーニングにおける各インクのインク排出量を1mlとした。吸引クリーニング後に、各ノズルの吐出状態を確認するためのテスト印刷を行って、各インクに対応する全ノズルの吐出状態を確認した。全ノズルが正常に吐出していない場合には上記操作を繰り返し実施した。各インクの全ノズル正常吐出に要した吸引クリーニングの回数について、下記評価基準にしたがって目詰まり回復性を評価した。
評価基準
A:吸引クリーニング1回で全ノズルが正常吐出した。
B:吸引クリーニング2回または3回で全ノズルが正常吐出した。
C:吸引クリーニング4回から6回で全ノズルが正常吐出した。
D:吸引クリーニング6回でも全ノズルが正常吐出しなかった。
【0139】
6.4.印刷物の評価
6.4.1.印刷物の変形
印刷物の変形について評価した。具体的には、印刷物の製造後、各印刷物を25℃の温度環境に24時間放置した。その後、各印刷物の外観を目視で観察し、以下の評価基準にしたがって変形を評価した。
評価基準
A:伸縮やカールなどの変形がない。
B:伸縮やカールなどの変形がわずかにある。
C:伸縮やカールなどの変形が明らかにある。
【0140】
6.4.2.インクの乾燥性
インクの乾燥性の指標として以下の試験を行った。詳しくは、製造直後の印刷物について、旭化成社のベンコット(登録商標)を印刷領域の表面に当接させて10回摺動させた。その後、印刷物の摺動させた領域について、目視で観察すると共に指で触れてタックを確認し、以下の評価基準にしたがって乾燥性を評価した。なお、当評価は印刷物の耐擦性の試験でもある。
評価基準
A:インクの塗膜の剥がれがなく、べたつきがない。
B:インクの塗膜の剥がれがないが、わずかにべたつきがある。
C:インクの塗膜の剥がれがあり、剥がれた面積は全領域の10%未満である。
D:インクの塗膜の剥がれがあり、剥がれた面積は全領域の10%以上である。
【0141】
6.4.3.印刷物の画質
印刷物の画質の指標として濃淡のムラを評価した。具体的には、印刷物の印刷面の裏側から、記録媒体を通して目視にて濃淡のムラを観察し、以下の評価基準にしたがって画質を評価した。
評価基準
A:濃淡のムラが見られない。
B:細かな濃淡のムラがわずかに見られる。
C:細かな濃淡のムラが顕著に見られる。
D:大きな濃淡のムラが見られる。
【0142】
6.4.4.ラミネート強度
印刷物にラミネート加工を施してから、ラミネート強度の指標として剥離強度を評価した。具体的には、各印刷物の印刷面に対して、三井化学社の2液硬化型ポリウレタン系接着剤であるタケラック(登録商標)A969Vおよびタケネート(登録商標)A5、シーラントフィルムとして東洋紡社のCPPシーラント FHK-2 50(厚さ50μm)を用いて、ラミネート加工を施した。
【0143】
次にラミネート加工後、40℃の雰囲気に24時間放置した。次いで、ラミネート加工を施した印刷物を、200mm×15mmの試験片に裁断した。各水準の試験片について、エー・アンド・デイ社の万能材料試験機 TENSILON(登録商標)RTG1250を用いて、JIS Z0237に準じて剥離強度測定を実施した。
【0144】
具体的には、試験片を180°に折り返し、試験片の長手方向の一端から長さ25mm分を剥離させた。次に、剥離した部分の印刷物側と、ラミネート材側とを上記試験機の上下のチャックに別々に固定した。そして上記試験機を稼働させて、端部から50mmまでの剥離強度を測定した。このとき、事前に剥離させた領域は無視して、剥離されていない領域の剥離強度のみを有効値とした。上記測定を各水準について3回実施して、剥離強度の平均値を算出した。各水準の剥離強度の平均値を以下の評価基準にしたがって、ラミネート強度として評価した。
評価基準
A:1.5N/15mm以上である。
B:1.0N/15mm以上1.5N/15mm未満である。
C:0.5N/15mm以上1.0N/15mm未満である。
D:0.5N/15mm未満である。
【0145】
6.5.評価結果のまとめ
図3に示すように、実施例の白色インクおよび非白色インクについてのインクの評価では、全ての実施例がC評価以上となった。実施例の印刷物の評価でも、全ての実施例がC評価以上となった。これにより、実施例では、白色顔料および非白色顔料の分散安定性、インクジェットヘッドにおける目詰まり回復性、印刷物の乾燥性および変形抑制、画質の諸性能がバランスよく向上することが示された。
【0146】
一方、図4に示すように、比較例の白色インクについてのインクの評価では、比較例3,4,5でD評価となった。また、比較例の印刷物の評価では、比較例2,5,7,8でD評価となった。これにより、比較例では、上記諸性能の均衡した向上が難いことが分かった。
【0147】
なお、表中には記載しなかったが、別途、比較例3および比較例4において、白色インクW17、W18の樹脂分散剤として、日本触媒社のポリビニルピロリドン K-30を用いたこと以外は、W17、W18と同様にして2種の白色インクを調製した。このインクを用いて、比較例3および比較例4と同様にして評価を行ったところ、保存安定性が共にCであり、インクの乾燥性が共にDであった。このことから、白色インクは、樹脂分散剤が酸性基を有し、アルカノールアミンと無機アルカリを含有する場合に、保存安定性が優れ、乾燥性が優れることがわかった。
図1
図2
図3
図4