(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010918
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240118BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240118BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20240118BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240118BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B15/00
C22B1/02
C22B3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112516
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】劉 暢之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
(72)【発明者】
【氏名】田畑 奨太
(72)【発明者】
【氏名】西川 千尋
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA04
4K001CA11
4K001DB07
4K001DB23
4K001GA01
4K001GA07
4K001GA09
4K001GA13
5H031HH03
5H031HH08
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】高品位なコバルトおよびニッケルを高回収率で回収できるリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法の提供。
【解決手段】リチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程と、前記熱処理物を破砕して得られた破砕物を600μm以上2,400μm以下の分級点で分級することにより、粗粒産物1と細粒産物とを得る第1の分級工程と、前記細粒産物を粉砕し、粉砕物を得る粉砕工程と、前記粉砕物を、第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下の少なくとも1つの分級点で分級することにより、粗粒産物2と微粒産物1とを得る第2の分級工程と、前記第2の分級工程で得られた前記微粒産物1を磁力で選別する磁選工程と、を含むリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程と、
前記熱処理物を破砕して得られた破砕物を600μm以上2,400μm以下の分級点で分級することにより、粗粒産物1と細粒産物とを得る第1の分級工程と、
前記細粒産物を粉砕し、粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物を、第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下の少なくとも1つの分級点で分級することにより、粗粒産物2と微粒産物1とを得る第2の分級工程と、
前記第2の分級工程で得られた前記微粒産物1を磁力で選別する磁選工程と、
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項2】
前記粉砕工程における粉砕方法が、前記第2の分級工程で得られる、前記粗粒産物2と前記微粒産物1の合計質量に対する前記微粒産物1の質量比率が85質量%以上となる前記粉砕物を得る方法である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項3】
前記第2の分級工程において、前記粗粒産物2と前記微粒産物1の合計質量に対する前記微粒産物1の質量比率が85質量%未満である場合、前記粗粒産物2を前記粉砕工程に戻す、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項4】
前記粗粒産物2から銅を回収する、請求項1から2のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項5】
前記第2の分級工程において、前記粉砕物を、前記第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下の少なくとも2つの分級点で分級することにより、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2とを得ており、
前記磁選工程において、前記第2の分級工程で得られた前記微粒産物2を磁力で選別する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項6】
前記粉砕工程における粉砕方法が、前記第2の分級工程で得られる、前記粗粒産物3と前記中粒度産物と前記微粒産物2の合計質量に対する前記微粒産物2の質量比率が85質量%以上となる前記粉砕物を得る方法である、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項7】
前記第2の分級工程において、前記粗粒産物3と前記中粒度産物と前記微粒産物2の合計質量に対する前記微粒産物2の質量比率が85質量%未満である場合、前記中粒度産物を前記粉砕工程に戻す、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項8】
前記粗粒産物3から銅を回収する、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【請求項9】
前記粉砕工程、前記第2の分級工程、および前記磁選工程が、いずれも湿式で行われる、請求項1から2のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、高起電力の二次電池であり、パソコン、電気自動車、携帯機器などの二次電池として使用されている。例えば、リチウムイオン二次電池の正極には、コバルトおよびニッケルなどの有価物が、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、三元系正極材(LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1))などとして使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、今後も使用の拡大が予想されていることから、製造過程で発生した不良品や使用機器および電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池からリチウムなどの有価物を回収することが、資源リサイクルの観点から望まれている。リチウムイオン二次電池からリチウムなどの有価物を回収する際には、リチウムイオン二次電池に使用されている種々の金属又は不純物を分離して回収することが、回収物の価値を高める点から重要である。
【0004】
リチウムイオン二次電池の熱処理物の破砕物からコバルト、ニッケル、銅等の有価物を回収する方法としては、例えば、リチウムイオン二次電池を熱処理した熱処理物を破砕し、2段階で分級してから複数回の乾式磁選処理を行うリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池の熱処理物を破砕した破砕物を分級して得られた細粒産物を水に浸けて水浸出スラリーとし、前記水浸出スラリーに湿式磁選を行う有価物の回収方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-61297号公報
【特許文献2】国際公開2021/182451号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の有価物の回収方法は、細粒産物のコバルト(Co)およびニッケル(Ni)の品位が低く、非磁着物として回収される銅の品位も高めることができない。また、2段目の分級工程で得られる細粒産物には、破砕工程で細かくなったCoおよびNiが篩を通過してしまうことがあり、期待通りのCoおよびNiの回収が達成できないという課題がある。
上記特許文献2では、細粒産物に混在する銅にコバルトやニッケルが巻き込まれることがあるため、高品位なコバルトおよびニッケルを高回収率で回収できないという課題がある。
【0008】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高品位なコバルトおよびニッケルを高回収率で回収できるリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法を提供することを目的とし、特に、パック又はモジュールを対象としても、高品位なコバルトおよびニッケルを高実収率で回収できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> リチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る熱処理工程と、
前記熱処理物を破砕して得られた破砕物を600μm以上2,400μm以下の分級点で分級することにより、粗粒産物1と細粒産物とを得る第1の分級工程と、
前記細粒産物を粉砕し、粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物を、第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下の少なくとも1つの分級点で分級することにより、粗粒産物2と微粒産物1とを得る第2の分級工程と、
前記第2の分級工程で得られた前記微粒産物1を磁力で選別する磁選工程と、
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<2> 前記粉砕工程における粉砕方法が、前記第2の分級工程で得られる、前記粗粒産物2と前記微粒産物1の合計質量に対する前記微粒産物1の質量比率が85質量%以上となる前記粉砕物を得る方法である、前記<1>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<3> 前記第2の分級工程において、前記粗粒産物2と前記微粒産物1の合計質量に対する前記微粒産物1の質量比率が85質量%未満である場合、前記粗粒産物2を前記粉砕工程に戻す、前記<2>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<4> 前記粗粒産物2から銅を回収する、前記<1>から<2>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<5> 前記第2の分級工程において、前記粉砕物を、前記第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下の少なくとも2つの分級点で分級することにより、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2とを得ており、
前記磁選工程において、前記第2の分級工程で得られた前記微粒産物2を磁力で選別する、前記<1>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<6> 前記粉砕工程における粉砕方法が、前記第2の分級工程で得られる、前記粗粒産物3と前記中粒度産物と前記微粒産物2の合計質量に対する前記微粒産物2の質量比率が85質量%以上となる前記粉砕物を得る方法である、前記<5>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<7> 前記第2の分級工程において、前記粗粒産物3と前記中粒度産物と前記微粒産物2の合計質量に対する前記微粒産物2の質量比率が85質量%未満である場合、前記中粒度産物を前記粉砕工程に戻す、前記<6>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<8> 前記粗粒産物3から銅を回収する、前記<5>に記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
<9> 前記粉砕工程、前記第2の分級工程、および前記磁選工程が、いずれも湿式で行われる、前記<1>から<2>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、高品位なコバルトおよびニッケルを高回収率で回収できるリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法の処理の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法)
本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法は、熱処理工程と、第1の分級工程と、粉砕工程と、第2の分級工程と、磁選工程とを含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法は、対象物であるリチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法である。
ここで、有価物とは、廃棄せずに取引対象たりうる価値のあるものを意味し、例えば、各種金属などが挙げられる。リチウムイオン二次電池における有価物としては、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、炭素(C)などが挙げられる。
【0014】
<リチウムイオン二次電池>
対象物であるリチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0015】
リチウムイオン二次電池の形状、構造、大きさ、および材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
また、リチウムイオン二次電池の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バッテリーセル、バッテリーモジュール、バッテリーパックなどが挙げられる。ここで、バッテリーモジュールは、単位電池であるバッテリーセルを複数個接続して一つの筐体にまとめたものを意味する。バッテリーパックとは、複数のバッテリーモジュールを一つの筐体にまとめたものを意味する。また、バッテリーパックは、制御コントローラー又は冷却装置を備えたものであってもよい。
【0016】
リチウムイオン二次電池としては、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質および有機溶剤を含有する電解液と、正極、負極、セパレーター、および電解液を収容する電池ケースである外装容器と、を備えたものなどが挙げられる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極および負極などが脱落した状態であってもよい。
【0017】
-正極-
正極としては、コバルトおよびニッケルの少なくともいずれかを含む正極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0018】
--正極集電体--
正極集電体としては、その形状、構造、大きさ、および材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
正極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。
【0019】
正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムを含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。
正極活物質としては、コバルトおよびニッケルの少なくともいずれかを含むものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極活物質としては、例えば、LMO系と称されるマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、LCO系と称されるコバルト酸リチウム(LiCoO2)、3元系およびNCM系と称されるLiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)、NCA系と称されるLiNixCoyAlz(x+y+z=1)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、コバルト・ニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2O2)、チタン酸リチウム(Li2TiO3)などが挙げられる。また、正極活物質としては、これらの材料を組合せて用いてもよい。
導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体又は共重合体、スチレン-ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0020】
-負極-
負極としては、負極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0021】
--負極集電体--
負極集電体としては、その形状、構造、大きさ、および材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
負極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。
【0022】
負極活物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、チタネイト、シリコンなどが挙げられる。また、負極活物質としては、これらの材料を組合せて用いてもよい。
【0023】
なお、正極集電体と負極集電体とは積層体の構造を有しており、積層体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0024】
-外装容器-
また、リチウムイオン二次電池の外装容器(筐体)の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレススチール、樹脂(プラスチック)などが挙げられる。
【0025】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法における各工程について、詳細に説明する。
【0026】
<熱処理工程>
熱処理工程は、リチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る工程である。熱処理物(焙焼物)とは、リチウムイオン二次電池を熱処理して得られたものを意味する。
熱処理工程における熱処理を行う手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の焙焼炉により対象物を加熱することにより熱処理を行うことができる。
焙焼炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル炉等のバッチ式炉、キュポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0027】
熱処理に用いる雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。
大気雰囲気(空気雰囲気)とは、酸素が約21体積%、窒素が約78体積%の大気(空気)を用いた雰囲気を意味する。
不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を例示できる。
還元性雰囲気とは、例えば、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H2、H2S、SO2などを含む雰囲気を意味する。
低酸素雰囲気とは、酸素濃度が11体積%以下である雰囲気を意味する。
【0028】
熱処理の対象物を熱処理(加熱)する条件(熱処理条件)としては、対象物の各構成部品を、後述する破砕・分級工程において分離して破砕可能な状態とすることができる条件であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、熱処理条件としては、例えば、熱処理温度、熱処理時間などが挙げられる。
【0029】
熱処理温度とは、熱処理の対象物であるリチウムイオン二次電池の温度のことを意味する。熱処理温度は、熱処理中の対象物に、カップル、サーミスタなどの温度計を差し込むことにより、測定することができる。
【0030】
熱処理における温度(熱処理温度)としては、750℃以上が好ましく、750℃以上1,080℃以下がより好ましく、750℃以上900℃以下が特に好ましい。熱処理温度を750℃以上とすることにより、正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)O2や電解質中のLiPF6におけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化リチウム(Li2O)等のリチウムが水溶液に可溶な形態の物質にすることができ、リチウムを浸出時にフッ素以外の不純物と分離することができる。また、熱処理温度を750℃以上とすることによって、正極活物質に含まれるコバルト酸化物およびニッケル酸化物のメタルへの還元が生じる。また、これらのメタルを後段の磁選において磁着し易い粒径まで成長させることができる。この粒径成長はより高温度で熱処理するほど生じやすい。
また、リチウムイオン二次電池の外装容器には、熱処理温度より高い融点を有する材料が用いられることが好ましい。
リチウムイオン二次電池の外装容器に熱処理温度より低い融点を有する材料が用いられる場合は、酸素濃度11体積%以下の低酸素雰囲気下、又は、少なくとも焙焼中のリチウムイオン二次電池内部(特に、リチウムイオン二次電池の外装容器内に配置された正極集電体と負極集電体)において酸素濃度が11体積%以下となるように、熱処理することが好ましい。
【0031】
また、低酸素雰囲気の実現方法としては、例えば、リチウムイオン二次電池の正極又は負極を、酸素遮蔽容器に収容し熱処理してもよい。酸素遮蔽容器の材質としては、熱処理温度以上の融点である材質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理温度が800℃である場合は、この熱処理温度よりも高い融点を有する鉄、ステンレス鋼などが挙げられる。
リチウムイオン二次電池又は積層体中の電解液等の燃焼等により生じるガスのガス圧を放出するために、酸素遮蔽容器には開口部を設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して12.5%以下となるように設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して6.3%以下であることがより好ましい。開口部は、その形状、大きさ、および形成箇所などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
リチウムイオン二次電池の熱処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以上5時間以下が好ましく、1分間以上3時間以下がより好ましい。熱処理時間はコバルトおよびニッケルが金属化する所望の温度まで到達する熱処理時間であればよく、保持時間は金属化が進む時間が確保できればよい。熱処理時間が好ましい範囲内であると、熱処理にかかるコストの点で有利である。
したがって、熱処理を750℃以上1,200℃以下で1時間以上行うことが好ましい。
【0032】
<第1の分級工程(破砕処理)>
第1の分級工程(破砕処理)は、熱処理物を破砕することにより、破砕物を得る処理を含む。
破砕処理としては、熱処理物(焙焼物)を破砕して、破砕物が得られれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、破砕物とは、熱処理物を破砕したものを意味する。
破砕処理としては、例えば、熱処理物を衝撃により破砕して破砕物を得ることが好ましい。また、リチウムイオン二次電池の外装容器が熱処理中に溶融しない場合には、熱処理物に衝撃を与える前に、切断機により熱処理物を切断する予備破砕しておくことがより好ましい。
【0033】
衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転する打撃板により熱処理物を投げつけ、衝突板に叩きつけて衝撃を与える方法、回転する打撃子(ビーター)により熱処理物を叩く方法などが挙げられ、例えば、ハンマークラッシャーなどにより行うことができる。また、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、セラミックなどのボールにより熱処理物を叩く方法でもよく、この方法は、ボールミルなどにより行うことができる。また、衝撃による破砕は、例えば、圧縮による破砕を行う刃幅、刃渡りの短い二軸破砕機等を用いて行うこともできる。
さらに、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転させた2本のチェーンにより、熱処理物を叩いて衝撃を与える方法なども挙げられ、例えば、チェーンミルなどにより行うことができる。
【0034】
衝撃により熱処理物を破砕することで、正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))の破砕が促進されるが、形態が著しく変化していない負極集電体(例えば、銅(Cu))は、箔状などの形態で存在する。そのため、第1の分級工程(破砕処理)において、負極集電体は切断されるにとどまるため、後述する第1の分級工程(分級処理)において、正極集電体由来の有価物(例えば、アルミニウム)と負極集電体由来の有価物(例えば、銅(Cu))とを、効率的に分離できる状態の破砕物を得ることができる。
【0035】
破砕処理における破砕時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムイオン二次電池1kgあたりの破砕時間としては、1秒間以上30分間以下が好ましく、2秒間以上10分間以下がより好ましく、3秒間以上5分間以下が特に好ましい。
【0036】
<第1の分級工程(分級処理)>
第1の分級工程(分級処理)は、前記熱処理物を破砕して得られた破砕物を600μm以上2,400μm以下の分級点で分級することにより、粗粒産物1と細粒産物とを得る処理を含み、850μm以上1,700μmの分級点で分級することが好ましい。
第1の分級工程(分級処理)としては、破砕物を分級して粗粒産物1(篩上産物)と細粒産物(篩下産物)を得ることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
分級方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩、湿式振動テーブル、エアーテーブルなどを用いて行うことができる。分級により、銅(Cu)、鉄(Fe)等を粗粒産物中に分離でき、リチウム、コバルト、ニッケル、又は炭素を細粒産物中に濃縮できる。
分級の粒度(分級点、篩の目開き)としては、分級により、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)等を粗粒産物中に分離し、炭素(C)、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)等を細粒産物中に濃縮する点から、600μm以上2,400μm以下の分級点で行われる。
【0038】
また、分級方法として篩を用いる場合に、篩上に解砕促進物として、例えば、ステンレス球又はアルミナボールを載せて分級を行うことにより、大きな破砕物に付着している小さな破砕物を、大きな破砕物から分離させることで、大きな破砕物と小さな破砕物を、より効率的に分離することができる。こうすることにより、回収する金属の品位をさらに向上させることができる。
上記のように、第1の分級工程において分級処理と同時に破砕処理を進行させることもできる。例えば、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する破砕・分級工程(破砕・分級)として行ってもよい。
なお、第1の分級工程(分級処理)で細粒産物の比率が低い場合には、粗粒産物1は熱処理物を破砕する工程に戻すことができる。それにより、Fe、Cu以外の有価物の回収率を向上できる。
【0039】
<粉砕工程>
粉砕工程は、前記第1の分級工程(分級処理)で得られた細粒産物を粉砕し、所定のサイズの粉砕物を得る工程であり、具体的には、以下の(1)又は(2)が挙げられる。
【0040】
(1)粉砕工程における粉砕方法は、後述する(1)の第2の分級工程で得られる、粗粒産物2と微粒産物1の合計質量に対する前記微粒産物1の質量比率が85質量%以上となる粉砕物を得る方法である。これにより、粉砕物のコバルト(Co)およびニッケル(Ni)の回収率を高めることができる。
後述する(1)の第2の分級工程で得られる、粗粒産物2と微粒産物1の合計質量に対する微粒産物1の質量比率が85質量%未満である場合、粗粒産物2を粉砕工程に戻し、粗粒産物2と微粒産物1の合計質量に対する前記微粒産物1の質量比率が85質量%以上となるまで繰り返し粉砕を行うことができる。
【0041】
(2)粉砕工程における粉砕方法は、後述する(2)の第2の分級工程で得られる、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2の合計質量に対する微粒産物2の質量比率が85質量%以上となる粉砕物を得る方法である。これにより、粉砕物のコバルト(Co)およびニッケル(Ni)の回収率を高めることができる。
後述する(2)の第2の分級工程で得られる、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2の合計質量に対する微粒産物2の質量比率が85質量%未満である場合、中粒度産物を粉砕工程に戻し、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2の合計質量に対する微粒産物2の質量比率が85質量%以上となるまで繰り返し粉砕を行うことができる。
【0042】
粉砕工程は、粉砕物を前記サイズまで粉砕することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄球等の媒体を用いた媒体攪拌型粉砕機(アトライター、ビーズミル、タワーミル)、ローラーミル、ジェットミル、高速回転粉砕機(ハンマーミル,ピンミル)、容器駆動型ミル(回転ミル、振動ミル、遊星ミル)などを用いて行うことができる。
【0043】
粉砕工程は、湿式、乾式のいずれでもよく、目的に応じて適宜選択することができるが、湿式で行うことが好ましい(湿式粉砕工程)。湿式で行うことにより、各工程での発塵によるCoとNiの実収率の低下を抑制でき、周囲大気への粉塵飛散を防止する手段が不要になる。湿式粉砕を行う場合には、第1の分級工程の後に得られた細粒産物を水に浸けることにより、スラリー状の液体(細粒産物スラリー)を得るスラリー化工程を行うことが好ましい。
スラリー化工程としては、破砕・分級工程において回収した細粒産物を水に浸ける(浸す、水に入れる)ことにより、水に細粒産物を分散させてスラリー(懸濁液)を得ることができる工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
細粒産物をスラリー化する分散媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業用水、水道水、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。
【0045】
ここで、水浸出工程における浸出手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単に細粒産物を水に投入しておく手法、細粒産物を水に投入して攪拌する手法、細粒産物を水に投入して、超音波を当てながら緩やかに攪拌する手法、細粒産物に水を添加する方法などが挙げられる。浸出手法としては、例えば、細粒産物を水に投入して攪拌する手法が好ましく、細粒産物を水に投入して超音波を当てながら緩やかに攪拌する手法がより好ましい。
【0046】
水浸出工程における固液比(水に対する細粒産物の質量比率)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1%以上40%以下が好ましく、5%以上20%以下が特に好ましい。固液比が1%未満であると、本来磁着物として回収されるコバルトおよびニッケルが磁選機で回収されず非磁着物へロスしてしまい、コバルト・ニッケルの回収率が低下する可能性が高い。固液比が40%を超えると、磁着物に巻き込まれる不純物が増え、コバルトおよびニッケルの品位が低下する場合がある。
水浸出工程における水の攪拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、200rpmとすることができる。
水浸出工程における浸出時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1時間とすることができる。
【0047】
<第2の分級工程>
第2の分級工程は、前記粉砕工程で得られた粉砕物を少なくとも1つの分級点で分級する工程であり、具体的には、以下の(1)又は(2)が挙げられる。
【0048】
(1)第2の分級工程は、前記(1)の粉砕工程で得られた粉砕物を、第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下の分級点で分級することにより、粗粒産物2と微粒産物1を得る工程である。
前記(1)の第2の分級工程で得られる、粗粒産物2と微粒産物1の合計質量に対する微粒産物1の質量比率が85質量%未満である場合には、粗粒産物2を前記粉砕工程に戻し、粗粒産物2と微粒産物1の合計質量に対する前記微粒産物1の質量比率が85質量%以上となるまで繰り返し粉砕を行うことができる。
例えば、前記(1)の粉砕工程で得られた粉砕物を分級点が500μmのJIS Z8801の標準篩を用いて第2の分級工程を行う場合、前記分級点が500μmの標準篩の篩上産物が粗粒産物2であり、篩下産物が微粒産物1である。なお、粗粒産物2から銅を濃縮して回収することができる。
【0049】
(2)第2の分級工程は、前記(2)の粉砕工程で得られた粉砕物を、第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下の少なくとも2つの分級点で分級することにより、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2とを得る工程である。
前記(2)の第2の分級工程で得られる、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2の合計質量に対する微粒産物2の質量の比率が85質量%未満である場合には、中粒度産物を前記粉砕工程に戻し、粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2の合計質量に対する微粒産物2の質量比率が85質量%以上となるまで繰り返し粉砕を行うことができる。
【0050】
前記(2)の第2の分級工程は、少なくとも2つの分級点で行う。
例えば、粉砕物を300μm以上1,200μm未満の第1の分級点と、この分級点より小さく、且つ75μm以上600μm未満の第2の分級点とで同時に分級をすることができる。これにより、第1の分級点より大きい粗粒産物3と、第1の分級点より小さいものであり且つ第2の分級点より大きい中粒度産物と、第2の分級点より小さい微粒産物2とが得られる。
また、例えば、前記(2)の粉砕工程で得られた粉砕物を分級点が500μmと250μmのJIS Z8801の2つの標準篩を用いて第2の分級工程を2回に分けて行ってもよく、その場合は、前記粉砕物を前記分級点が500μmの標準篩にかけることで、500μmより大きい篩上産物として粗粒産物3、篩下産物として中間産物(中粒度産物と微粒産物2が含まれる)が得られる。続いて、この中間産物を前記分級点が250μmの標準篩に掛けることで、250μmより大きい篩上産物として中粒度産物が得られ、250μm以下の篩下産物として微粒産物2が得られる。
なお、粗粒産物3から銅を濃縮して回収することができる。
【0051】
第2の分級工程で用いる分級点としては、第1の分級工程の分級点より小さく、且つ75μm以上1,200μm以下であり、106μm以上850μm以下が好ましく、150μm以上600μm以下が特に好ましい。分級点が1,200μmを超えると、微粒産物1又は微粒産物2中への銅の混入が増加し、コバルトおよびニッケルの品位を低下することがあり、75μmを下回ると、コバルトおよびニッケルを微粒産物1又は微粒産物2に回収するための粉砕エネルギーが過大となる場合がある。
【0052】
第2の分級工程は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩、湿式振動テーブル、エアーテーブルなどが挙げられる。
前記第2の分級工程は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、湿式で行うことが好ましい。湿式分級を行う場合には、湿式粉砕工程で得られた粉砕物スラリーをそのまま供給してもよく、粉砕物スラリーに水を加えて希釈し固液比を調整してもよい。
【0053】
<磁選工程>
磁選工程は、第2の分級工程で得られた微粒産物1又は微粒産物2を磁力で選別する工程であり、乾式磁選および湿式磁選のいずれでもよいが、以下の点から湿式磁選が好ましい。
【0054】
第2の分級工程で得られた微粒産物1又は微粒産物2を磁選する際に、例えば、乾式で磁選した場合、粒子間の付着水分により粒子の凝集が生じ、負極集電体由来金属粒子および微粒産物1又は微粒産物2に10%以上含まれる負極活物質微粒子とコバルトおよびニッケル粒子を十分に分離できない場合がある。このため、本発明では、湿式磁選を行い、負極活物質由来の物質と負極集電体由来金属を非磁着物スラリーに分離し、コバルトおよびニッケルを磁着物として回収することが好ましい。
【0055】
本発明においては、磁着物のコバルトおよびニッケルの品位が高く、また、不純物品位が低いため、そのままコバルトおよびニッケルの製錬原料として利用できる。また、二次電池の製造材料を得るための原料(例えば、硫酸コバルト、硫酸ニッケルなど)として利用するための精製するコストを低減することができる。
【0056】
磁選工程は、第2の分級工程で得られた微粒産物1又は微粒産物2を磁着物と非磁着物とに選別する工程である。
ここで、磁着物とは、磁力(磁界)を発生させる磁力源(例えば、磁石、電磁石など)が発生させた磁力により、当該磁力源との間で引力を生じて、当該磁力源側に吸着可能なものを意味する。磁着物としては、例えば、強磁性体の金属などが挙げられる。強磁性体の金属としては、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などが挙げられる。
非磁着物とは、上記磁力源が発生させた磁力では、当該磁力源側に吸着されないものを意味する。非磁着物としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができる。また、金属の非磁着物としては、例えば、常磁性体又は半磁性体の金属などが挙げられる。常磁性体又は半磁性体の金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などが挙げられる。
【0057】
磁選工程は、特に制限はなく、公知の磁力選別機(磁選機)などを用いて行うことができ、例えば、ドラム型磁選機、高勾配磁選機などが挙げられる。
【0058】
磁選機の磁場強度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000G以上40,000G以下が好ましく、3,000G以上30,000G以下がより好ましく、6,000G以上20,000G以下が特に好ましい。磁場強度が1,000G未満であると、コバルトおよびニッケルの微粒子を磁着しにくく、コバルトおよびニッケルの磁着物への回収率が低下し易くなる。磁場強度が40,000Gを超えると、コバルトおよびニッケル以外の不純物の磁着物への回収率が増加し、磁着物中のコバルトおよびニッケル品位が低下する。
【0059】
磁選工程は複数回(多段)の磁選を行ってもよい。例えば、1段目の磁選工程で回収された磁着物に対し2段目の磁選(精選)を行うことによって、1段目の磁選工程でコバルトおよびニッケル粒子に巻き込まれた不純物を再度分離することで、磁着物のコバルト(Co)およびニッケル品位の向上を図れる。
また、1段目の磁選工程で回収された非磁着物に対し、2段目の磁選(清掃選)を行うことによって、非磁着物へロスしたコバルトおよびニッケルを磁着物として回収し、全体としてのコバルトおよびニッケルの実収率を高めることができる。コバルトおよびニッケル粒子は主要な不純物であるカーボンと比べて粒径が大きいため、あらかじめ1段目の磁選で比較的粗粒のコバルトおよびニッケル粒子を回収することで、1段目の磁選で回収されない比較的微粒なコバルトおよびニッケルと不純物であるカーボンの粒径が近似し、2段目の磁選でコバルトおよびニッケル粒子を回収する際に不純物の巻き込みを低減することができ、より良い磁選分離成績を得ることができる。
【0060】
湿式磁選では、湿式の第2の分級工程で得られた篩下産物スラリーをそのまま供給してもよく、篩下産物スラリーを沈降分離等の固液分離により濃縮もしくは希釈し固液比を調整してもよい。また、篩下産物スラリーに水を加えて希釈し固液比を調整してもよい。
湿式磁選に供給するスラリーの固液比(微粒産物1又は微粒産物2の水に対する質量比率)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5%以上67%以下が好ましく、10%以上40%以下がより好ましい。固液比が5%未満であると、湿式磁選機内でのコバルトおよびニッケルの磁着物として回収率が低下することがある。固液比が67%を超えると、スラリー供給時のポンプの閉塞などの問題が生じやすく、またコバルトおよびニッケル(磁着物)とカーボン等の非磁着物の分離成績が低下することがある。
【0061】
スラリーの供給方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、タンク内のスラリーを攪拌しながらポンプで供給してもよい。
【0062】
湿式磁選で回収した磁着物には水分が含まれるため、これを濾紙、フィルタープレス、又は遠心分離機などを用いて固液分離すること、風乾することや、乾燥機での加熱乾燥により水分を除去してもよい。
【0063】
非磁着物スラリー中には、アルミン酸リチウム(LiAlO2)、炭素、銅(粗粒産物に回収できなかったもの)およびリチウム(水溶)が含まれる。
非磁着物スラリーに酸を添加し非磁着物に含まれるアルミン酸リチウム中のリチウムを酸浸出(酸浸出工程)した後、固液分離することにより、濾液(酸浸出液)と濾過残渣(炭素濃縮物)とに固液分離してもよい。
【0064】
酸浸出液に水酸化カルシウム(Ca(OH)2;消石灰)を添加し、中和(中和工程)して、フィルタープレスによる濾過で固液分離し、リチウムを含む液とフッ素又はアルミニウム等の不純物を含む固化物に分離してもよい。中和後液に対し炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加して、フィルタープレスによる濾過で固液分離し、中和後液中に溶存していたカルシウムを炭酸カルシウムとして固化物に分離してもよい。リチウムを含む液を加熱して、溶液を蒸発濃縮し、リチウムを炭酸リチウム(Li2CO3)として回収することができる。
【0065】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、浄液工程、乾燥工程、精製工程などが挙げられる。
【0066】
<実施形態の一例>
ここで、図面を参照して、本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法における実施形態の一例について説明する。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法の実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
【0067】
まず、リチウムイオン二次電池(LIB;Lithium Ion Battery)に対して熱処理(熱処理工程)を行い、熱処理物を得る。
次に、熱処理物を破砕して得られた破砕物を1,200μmの分級点で分級し、粗粒産物と細粒産物とを得る。ここで、粗粒産物から、銅(Cu)、鉄(Fe)などを分離することができる。
【0068】
続いて、細粒産物を水に浸けることにより、細粒産物スラリーを得る。このとき、リチウム(酸化リチウム又は炭酸リチウム)を水に浸出すると共に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣が、細粒産物スラリー中に形成される。
【0069】
次に、得られた細粒産物スラリーを湿式粉砕し、粉砕物スラリーを得る。
次に、得られた粉砕物スラリーを75μm以上1,200μm以下の分級点で湿式分級することにより、粗粒産物スラリーと微粒産物スラリーを得る。得られた粗粒産物スラリーは粉砕工程に戻し、粉砕物スラリーの85質量%以上が微粒産物スラリーに分配するまで粉砕工程を繰り返す。
【0070】
次に、得られた微粒産物スラリーを湿式磁選することにより、磁着物と非磁着物スラリーとに選別する。磁着物中にはニッケル(Ni)およびコバルト(Co)が含まれる。
非磁着物スラリー中には、アルミン酸リチウム(LiAlO2)、炭素、銅(粗粒産物に回収できなかったもの)およびリチウム(水溶)が含まれる。
次に、非磁着物スラリーに酸を添加し非磁着物に含まれるアルミン酸リチウム中のリチウムを酸浸出(酸浸出工程)し、その後、固液分離することにより、濾液(酸浸出液)と濾過残渣(炭素濃縮物)とに固液分離する。
【実施例0071】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
-熱処理工程-
被処理対象であるリチウムイオン二次電池のバッテリーパック(約300kg)へ、熱処理装置としてエコシステム秋田株式会社のバッチ式バーナー炉を用い、熱処理温度800℃(20℃から15分間かけて800℃に昇温後、2時間保持)、大気雰囲気下の条件で、熱処理を行うことにより熱処理物を得た。
【0073】
-破砕工程-
次いで、破砕装置として、チェーンミル(クロスフローシュレッダーS-1000、佐藤鉄工株式会社製)を用い、50Hz(チェーン先端速度約60m/秒間)、滞留時間が50秒の条件で、熱処理を行ったリチウムイオン二次電池を破砕し、リチウムイオン二次電池の破砕物を得た。
続いて、篩目の目開きが1.2mmの篩(直径200mm、東京スクリーン株式会社製)を用いて、リチウムイオン二次電池の破砕物を篩分けした。篩分け後の1.2mmの篩上産物(粗粒産物)と篩下産物(細粒産物)をそれぞれ採取した。
【0074】
-スラリー化工程-
得られた細粒産物62.5kgを250Lの水に浸けて、固液比25%、攪拌速度400rpm、浸出時間1時間の条件で、水にリチウムを浸出させて、細粒産物スラリーを得た。
【0075】
-湿式粉砕工程-
得られた細粒産物スラリーと10kgの粉砕媒体(鉄球)を媒体攪拌型粉砕機(タワーミル NE008、日本アインリッヒ株式会社製)を用い、前記細粒産物スラリーを20回に分けて供給し、1回あたり回転数716rpm(周速3m/sec)で30分間湿式粉砕を行った。
【0076】
-湿式分級工程-
次に、得られた細粒産物スラリーを篩目の分級点(目開き)が500μmと250μmのJIS Z8801の2つの標準篩を用い、湿式分級を行った。
分級点が500μmの篩上産物が粗粒産物3、分級点が250μmの篩上産物が中粒度産物、分級点が250μmの篩下産物が微粒産物2である。
粗粒産物3と中粒度産物と微粒産物2の合計質量に対する微粒産物2の質量比率が85質量%以上となるように、中粒度産物を粉砕工程に戻して、粉砕を繰り返した。最終的な質量比率は、粗粒産物3が8%、中粒度産物が4%、微粒産物2が88%であった。
【0077】
-湿式磁選工程-
次に、微粒産物2を含むスラリーを、ドラム型磁選機(品名:REX WD Φ15×12、エリーズマグネチックス株式会社製)を用いて、磁束密度:6,000Gで湿式磁選を行い、磁着物(含水)と非磁着物スラリーを回収した。
次に、得られた磁着物(含水)を、濾布(品名:PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力で加圧濾過して磁着物(脱水)を得た。得られた磁着物(脱水)を乾燥機(品名:DRM620DD、アドバンテック東洋株式会社製)により、105℃で24時間乾燥し、磁着物を得た。
【0078】
<品位および回収率の測定>
得られた磁着物の質量を105℃で1時間乾燥後に電磁式はかり(品名:GX-8K、エー・アンド・デイ株式会社製)を用いて測定した後、前記磁着物を王水に加熱溶解させ、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SPECTROGREEN FMX46、株式会社日立ハイテクサイエンス製)により分析を行い、コバルトおよびニッケルの品位、コバルトおよびニッケルの回収率を求めた。
また、湿式分級工程で得られた分級点が500μmの篩上産物(粗粒産物3)を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SPECTROGREEN FMX46、株式会社日立ハイテクサイエンス製)により分析を行い、得られた粗粒産物3の銅の品位を求めた。
【0079】
<結果>
実施例1では、コバルト品位が22%、ニッケル品位が21%の磁着物が得られ、コバルトの回収率が91%、ニッケルの回収率が88%であった。また、湿式分級工程における粗粒産物3(分級点が500μmの篩上産物)の銅の品位は43%であった。
【0080】
(比較例1)
実施例1において、1.2mmの篩下の細粒産物を湿式粉砕することなく、分級点が500μmと250μmの標準篩を有する湿式振動篩で分級し、分級点が250μmの篩下産物を湿式磁選処理した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の磁着物を得た。
【0081】
<結果>
得られた磁着物および湿式分級工程における分級点が500μmの篩上産物を実施例1と同様にして測定した結果、コバルト品位が16%、ニッケルの品位が17%の磁着物が得られ、コバルトの回収率が42%、ニッケルの回収率が44%であった。また、湿式分級工程における分級点が500μmの篩上産物の銅の品位は13%であった。
【0082】
(比較例2)
実施例1に記載した方法で回収した細粒産物を特開2020-61297号公報の実施例1に示される1段目の分級工程の篩下産物として用い、その後の工程を再現して、比較例2の磁着物を得た。
<結果>
得られた磁着物を実施例1と同様にして測定した結果、コバルト品位が10%、ニッケル品位が9%の磁着物が得られ、コバルトの回収率が32%、ニッケルの回収率が%31%であった。特開2020-61297号公報における細粒産物(目開き0.3mmの篩下産物)にコバルトが17%、ニッケルが18%ロスした。これは、バッテリーパックサイズのリチウムイオン二次電池を熱処理したため、パック内に熱処理温度のばらつきが生じ、一部十分な粒子成長が生じないコバルトおよびニッケルが存在したためと考えられる。
また、中間産物を2段で磁選したが、1段目の磁選および2段目の磁選の非磁着物にコバルトが33%、ニッケルが35%ロスし、コバルトおよびニッケルを十分に磁着物に回収できなかった。これは、前記粒子成長が不十分なコバルトおよびニッケルが1500Gの磁力のハンドマグネットに磁着しなかったためと考えられる。