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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109186
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】液晶デバイス、位相変調装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20240806BHJP
   G01N 21/3586 20140101ALI20240806BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/13 500
G01N21/3586
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013839
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】伊東 良太
(72)【発明者】
【氏名】能勢 敏明
(72)【発明者】
【氏名】本間 道則
【テーマコード(参考)】
2G059
2H088
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB16
2G059EE01
2G059HH05
2G059JJ18
2H088EA47
2H088GA02
2H088HA18
2H088HA28
2H088JA30
2H088MA10
(57)【要約】
【課題】液晶を用いてテラヘルツ波の制御を高速で行う。
【解決手段】基板10の表面には、基板10よりも薄い透明電極(電極)11、配向膜12が順次形成される。このような積層構造が形成された2枚の基板10が絶縁性のスペーサ13を挟んで対向して一定の間隔で設けられ、その間に液晶分子15Aが溶媒中に分散された液晶層15が設けられる。本発明の実施の形態に係る液晶デバイスにおいては、液晶層15に対する電界Eのオン・オフを制御することに加えて、磁界Hの印加のオン・オフもこれに同期させて交互に行う。この場合の磁界Hの方向は電界Eと垂直な方向とされる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶分子の配向が制御される液晶デバイスであって、
2つの電極の間に前記液晶分子を含む液晶層が挟まれて形成された積層構造の液晶セルと、
2つの前記電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記液晶層に対して前記液晶層の面内方向に沿って磁場を印加する磁場印加手段と、
を具備し、
テラヘルツ波を前記電極の法線方向に沿って前記液晶セルを透過させた後の前記テラヘルツ波の偏光状態が、前記電圧及び前記磁場によって制御されることを特徴とする液晶デバイス。
【請求項2】
前記電圧のオン・オフ及び前記磁場のオン・オフが交互に繰り返し制御されることを特徴とする請求項1に記載の液晶デバイス。
【請求項3】
前記液晶分子は、水素結合を有し、分子末端基にアルキル鎖のみを有するネマティック液晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶デバイス。
【請求項4】
請求項1または2に記載の液晶デバイスを用い、前記電圧及び前記磁場を制御することによって前記テラヘルツ波の偏光方向毎の位相差を変調することを特徴とする位相変調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶の配向が制御されることによって光学的な制御を行う液晶デバイスに関する。また、この液晶デバイスを用いてテラヘルツ波の位相を変調する位相変調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶分子には誘電率(屈折率)の異方性があり、更に、液晶分子の配向は印加された電界等によって制御が可能である。このため、光の位相や偏光方向の制御を、液晶材料を透過させることによって行うことが可能である。これにより、光学信号を変調する技術が知られ、ディスプレイ等においては可視光を変調するために用いられている。
【0003】
一方、可視光とは波長(周波数)が大きく異なる周波数が1012Hz程度のテラヘルツ波は、透過性が可視光とは全く異なり、例えばプラスチック材料や半導体材料の透過性が非常に高い。このため、テラヘルツ波を用いて、様々な工業製品の非破壊検査を行うことができる。この場合においても、例えばテラヘルツ波の位相等を同様に制御する技術が必要となる。
【0004】
このため、液晶の配向を制御することによってテラヘルツ波の制御を行う技術が、例えば特許文献1、2に記載されている。これらの技術においては、電極間に設けられた液晶の配向が電極間の電圧(電界)によって制御され、これによってこれを透過したテラヘルツ波の位相が制御される。この場合には電極としてテラヘルツ波に対して透明なものが用いられ、テラヘルツ波は一方の電極側から入射し、他方の電極側から出射し、このテラヘルツ波の位相が電圧によって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009-534974号公報
【特許文献2】特開2021-196262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テラヘルツ波の光学特性を制御するためには、可視光と比べてより厚い液晶層が必要となる。一般的には、この制御の際の応答時間は厚さの2乗に比例するため、これに伴って応答時間が長くなり、高速の動作ができず、これを用いた計測の時間が長くなるという問題があった。このため、液晶を用いてテラヘルツ波の制御を高速で行うことができる液晶デバイスが望まれた。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の液晶デバイスは、液晶分子の配向が制御される液晶デバイスであって、2つの電極の間に前記液晶分子を含む液晶層が挟まれて形成された積層構造の液晶セルと、2つの前記電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記液晶層に対して前記液晶層の面内方向に沿って磁場を印加する磁場印加手段と、を具備し、テラヘルツ波を前記電極の法線方向に沿って前記液晶セルを透過させた後の前記テラヘルツ波の偏光状態が、前記電圧及び前記磁場によって制御されることを特徴とする。
本発明の液晶デバイスは、前記電圧のオン・オフ及び前記磁場のオン・オフが交互に繰り返し制御されることを特徴とする。
本発明の液晶デバイスにおいて、前記液晶分子は、水素結合を有し、分子末端基にアルキル鎖のみを有するネマティック液晶であることを特徴とする。
本発明の位相変調装置は、前記液晶デバイスを用い、前記電圧及び前記磁場を制御することによって前記テラヘルツ波の偏光方向毎の位相差を変調することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は以上のように構成されているので、液晶を用いてテラヘルツ波の制御を高速で行うことができる液晶デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来の液晶デバイスの構造を示す断面図である。
図2】実施の形態に係る液晶デバイスにおいて用いられる液晶の分子構造を示す図である。
図3】液晶デバイスの動作原理を模式的に説明する図である。
図4】発明の実施の形態に係る液晶デバイスの構造を示す断面図である。
図5】液晶デバイスの動作を測定するために用いられた測定系の構成を示す図である。
図6】磁場を全く印加しない場合における、液晶デバイスを含む系の透過率の電圧依存性を測定した結果である。
図7】磁場を全く印加しない場合において、電圧をオフにした直後からの液晶デバイスを含む系の透過率の時間経過を測定した結果である。
図8】電界のオン・オフと磁場のオン・オフを交互に行った際の、液晶デバイスを含む系の透過率の時間経過を測定した結果である。
図9】液晶デバイスを用いて試料の複屈折の測定を行う際の測定系の構成を示す図である。
図10】電界のオン・オフと磁場のオン・オフを交互に行った際の、液晶デバイスと試料を含む系の透過率の時間経過を測定した結果である。
図11】液晶分子の配向角度と透過率の関係を、試料がない場合(a)、ある場合(b)について計算した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る液晶デバイスについて説明する。ここでは、まず、従来の液晶デバイスの構造について説明する。図1は、この液晶デバイス9の構造を示す断面図であり、これは特許文献2に記載された液晶デバイスと同様である。この液晶デバイス9においては、2枚の透明な基板10が設けられる。基板10の表面には、基板10よりも薄い透明電極(電極)11、配向膜12が順次形成される。ここで、透明とは、制御の対象となるテラヘルツ波の透過率が充分に高いことを意味する。基板10の材料としては、例えば水晶が用いられ、透明電極11としては、例えば有機導電性薄膜となるPEDOT/PSS(ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン))が用いられる。
【0012】
このような積層構造が形成された2枚の基板10が絶縁性のスペーサ13を挟んで対向して一定の間隔で設けられ、その間に液晶分子15Aが溶媒中に分散された液晶層15が設けられる。周知のように、ラビング処理によって、液晶分子15Aの配向は制御され、図1においては液晶分子15Aの長軸方向が図中水平方向(透明電極11の面内方向)に制御される。配向膜12は、例えば塗布によって透明電極11上に形成され、配向膜12の材料は、この配向性を高めるために適宜設定される。
【0013】
また、2つの透明電極11には、電圧印加手段22が接続され、これらの間の電界が制御される。
【0014】
図2は、ここで用いられる液晶分子15Aの分子構造を示す図である。この液晶分子15Aも、特許文献2に記載されたものと同様であり、水素結合を有すると共に、分子末端基にアルキル鎖のみを有するネマティック結晶である。この液晶分子15Aにおいてはテラヘルツ波の誘電率(屈折率)の異方性は大きい一方で、テラヘルツ波の吸収の異方性は小さい。位相を制御する場合には、制御に伴って位相のみが変化し、この際の吸収の変化は小さいことが好ましいため、液晶分子15Aの配向によって特にテラヘルツ波の位相を制御する場合には、この材料は特に有効である。液晶層15の厚さは透明電極11間の間隔となり、例えば800μmとされる。この厚さは、同様に可視光を変調する液晶デバイスと比べて大きい。
【0015】
図3は、この液晶デバイス9の動作を図1の構造において模式的に示す図である。ここで、配向膜12、スペーサ13等の記載は省略されている。図3において、位相が制御されるテラヘルツ波Wは図中上下方向でこの液晶デバイス9を透過する。この際、前記のようにテラヘルツ波Wの透過率が充分高くテラヘルツ波に対する光学異方性が小さな材料で基板10等を構成すれば、テラヘルツ波Wの透過後の偏光状態あるいは位相は液晶分子15Aの配向で調整される。液晶分子15Aの配向の状態は、透明電極11間の電界(電圧)によって制御される。
【0016】
図3(a)においては、電界がない場合の状態が示され、図3(b)においては、電界E(≠0)が印加された場合の構成が模式的に示されている。電界が印加されない図3(a)の場合には液晶分子15Aの配向状態はラビング処理直後の状態(図1)と同様(長軸方向が図中水平方向)であるのに対し、電界Eが印加された図3(b)の場合には液晶分子15Aの配向状態はこれと垂直(長軸方向が図中上下方向)となる。これにより、透過後のテラヘルツ波Wの位相は図3(a)の状態と図3(b)の状態では異なる。すなわち、電界のオン・オフによって液晶分子15Aの配向を制御し、テラヘルツ波Wの偏光状態あるいは位相が制御される。
【0017】
上記の内容は、特許文献2に記載の技術と同様である。これに対して、本発明の実施の形態に係る液晶デバイスにおいては、液晶層15に対する電界Eのオン・オフを制御することに加えて、磁界Hの印加のオン・オフもこれに同期させて交互に行う。この場合の磁界Hの方向は電界Eと垂直な(交差する)方向とされる。図4は、この液晶デバイス1の構成を図1に対応させて示す図である。ここで用いられる液晶セル20は図1の液晶デバイス9と同一であり、基板10、透明電極11、配向膜12、スペーサ13、液晶層15(液晶分子15A)についても同様である。この液晶セル20における電圧Eの印加方向(図中上下方向)と垂直な、液晶層15の面内方向(図中左右方向)の磁場Hが、ともにコイルで構成された磁場印加手段(N極)21A、磁場印加手段(S極)21Bによって印加可能とされる。
【0018】
この液晶デバイス1の動作について説明する。ここでは、図5は、この場合において用いられた測定系を模式的に示す図である。ここで、テラヘルツ波Wの光源としては、COレーザー発振器である励起光光源31と、これによって発せられたCOレーザー光Cを励起光としてレーザー光となるテラヘルツ波Wを連続的に発振するガスレーザー発振器32が組み合わされた光源30が用いられる。ここで発振されるテラヘルツ波Wの周波数は例えば2.5THzである。このテラヘルツ波Wはワイヤーグリッド偏光子である偏光子41を透過することによって特定の方向の偏光成分のみが取り出された直線偏光とされて、前記の液晶デバイス1に入射する。
【0019】
前記のように、透明電極11間の電圧(電界E)を印加(制御)する電圧印加手段22が設けられる。また、磁場印加手段(N極)21A、磁場印加手段(S極)21Bには、コイルの電流によって磁場Hを制御する磁場制御部(図示せず)が接続される。
【0020】
液晶デバイス1を透過したテラヘルツ波Wは、偏光子41と垂直な方向の偏光成分のみを透過させる偏光子42を透過した後に、焦電型の検出器でありテラヘルツ波Wの強度を検出する検出器43で検出される。この場合、テラヘルツ波Wには、液晶デバイス1によって偏光方向に応じた位相差が付与され、この位相差が前記の配向状態によって変化し、この位相差に応じて検出器43の検出強度が変化する。このため、この検出強度は、液晶デバイス1における液晶分子15Aの配向状態によって変化する。この点についても、特許文献2に記載の技術と同様である。
【0021】
まず、液晶デバイス1における磁場Hを常時オフとした場合における動作について説明する。この動作は特許文献2に記載の液晶デバイスの動作に対応する。図6は、透明電極11間の電圧を0~100Vの範囲で走査した場合における、テラヘルツ波Wの透過率Tの電圧依存性を示す。ここで、透過率Tは、図5の構成において、液晶デバイス1がない場合の検出強度に対する、液晶デバイス1がある場合の検出強度の比であり、液晶デバイス1による偏光状態の変化に応じて透過率Tは変化する。この場合において、例えば図3(a)の状態における透過率Tの値は偏光子41、42の設定に依存し、配向の変化による透過率Tの変化が検出できるように、この設定は適宜行われる。
【0022】
ここで、液晶分子15Aの配向状態は、始状態においては図3(a)の状態(長軸が水平方向)であり、終状態においては図3(b)の状態(長軸が垂直方向)となるため、図6の上側においては、対応する配向状態が図3に対応して模式的に示されている。また、透過率Tは始状態、終状態においてはそれぞれ一定値になるため、図6に示されるように、初期状態(0V)から30V程度までは図3(a)の状態であり、80V以降は図3(b)の状態であると考えられる。この場合、30V~80Vまでの間に要した時間は2min程度であった。また、図3(a)の状態と図3(b)の間の中間的な状態(30V~80Vの範囲)は図6中に示されるように、液晶分子15Aの配向が図3(a)と図3(b)の中間的な状態となる。この間においては、透過率Tは大きく変動し、特に一時的に大きくなってから減少する。この点についても特許文献2に記載されたとおりである。図6において、「5π/2」、「2π」、「3π/2」、「π」、「π/2」、「0」は、それぞれが、グラフ中の矢印で示された箇所において液晶層15によってテラヘルツ波に対して付与される位相差を示す。すなわち、0~80Vの電圧範囲内で0~5π/2の位相差をテラヘルツ波に対して付与することができる。
【0023】
一方、図7は、電圧を、図6の場合よりも大きく、200V印加してからこれを瞬時にオフした直後からの検出強度の時間経過を示す。この場合においては、始状態は図3(b)の状態(長軸方向が垂直方向)であり、終状態は図3(a)の状態(長軸方向が水平方向)となる。この場合においては、始状態から終状態になるまでの期間は25min程度となる。この測定においてはオンの時点で検出強度が零となるように設定されており、図7において、横軸の原点(経過時間0)はオフとなった時点と一致していないが、その後における検出強度の時間経過は、図6の場合と同様に液晶分子15Aの配向の時間経過を反映する。ここで示されるように、配向が垂直方向から水平方向(初期状態)に戻る際には、初めのうちは配向は速い速度で変動し、その後では緩やかに変動することによって、最終的に初期状態に戻る。
【0024】
なお、図6、7において上側に示された液晶分子15Aの配向(長軸が水平方向、垂直方向)について、ここではこの配向が図6の始状態、図7の終状態においては水平方向、図6の終状態、図7の始状態においては垂直方向となるように記載されている。しかしながら、実際にはこの配向は厳密に水平方向、垂直方向になるとは限らず、そのばらつきに応じて各配向状態に対応した透過率(検出強度)はばらつく。ただし、これらの各状態の間で配向が時間的に変化する間の変化の状況(透過率が増減する状況)は同様である。
【0025】
すなわち、従来の液晶デバイスにおいては、電圧によって液晶分子15Aの配向状態を制御することができるものの、その変化に要する時間は、図6の場合で2min、図7の場合で25minと長い。
【0026】
これに対して、上記の液晶デバイス1において、電界Eと磁場Hを併用し、電界Eのオフ時に磁場Hを印加することによって、この液晶分子15Aの配向状態の変化に要する時間を大幅に短縮することができる。図8は、図7と比べてより短時間で電界Eのオン・オフ(200Vの電圧のオン・オフ)と磁場H(500mT)のオン・オフを交互に繰り返した場合における透過率Tの測定結果を示す。ここで、電界Eのオン・オフ、磁場Bのオン・オフのタイミング、及び各時点における液晶分子15Aの配向の状態が、図中に示されている。また、図6と同様に、液晶層15によってテラヘルツ波に対して付与される位相差が示されている。図6の場合とは異なり、ここではこの位相差は0~2πの間で変動している。また、特にオフ時における配向は、水平方向からやや外れていると推定される。
【0027】
この場合において、配向の変化に要した時間は、電界Eをオフからオンにした場合には3.1sec、磁場Hをオフからオンにした場合には9.1secであった。すなわち、電界Eのオン・オフだけでなく、このように電界Eと垂直な磁場Hのオン・オフも併用した場合には、液晶分子15Aの配向の変化に要する時間が短くなる。このため、この液晶デバイス1を用いてテラヘルツ波Wの位相の制御を高速で行うことができる。これは、このように大電圧、高強度の磁場の短時間での印加を用いることにより、図7においてオフ直後に急激に配向が変化する部分が特に速くなったためと考えられる。この際、配向の変化の応答速度以外の点については、この液晶デバイス1の機能は、特許文献2に記載されたものと同様である。このため、この液晶デバイス1を用いて特許文献2に記載された測定と同様の測定を、より短時間で測定することができる。
【0028】
例えば、この液晶デバイス1を用いて、特許文献2に記載されたものと同様に、テラヘルツ波Wの位相を制御し、試料の屈折率を測定することができる。特許文献2に記載されるように、この際、液晶分子15Aとしてテラヘルツ波の吸収異方性が小さい図2の材料を用いることは有効である。
【0029】
図9は、テラヘルツ波Wの位相を変調することによって試料100の屈折率を測定する場合の装置構成を示す図である。この構成は、図5の構成において液晶デバイス1の直後に試料100を挿入した場合に相当し、テラヘルツ波Wに対して、液晶デバイス1と試料100によって位相差が付与され、前者による位相差が可変とされる。すなわち、上記の液晶デバイス1は、ここでは位相変調装置として機能する。この構成は、液晶デバイス1が用いられたこと以外については、特許文献2に記載の位相検査装置と同様である。
【0030】
ここで、図2の材料の複屈折(長軸方向と短軸方向における屈折率の差)Δnは0.17であり、液晶層15の厚さdを800μmとした場合には、これに対応するリタデーション(光路差長)は136μmとなる。テラヘルツ波Wの周波数が2.5THzである場合には、このリタデーションに対応する位相差は415°となり、上記の測定において要求される位相差である360°よりも大きい。
【0031】
このため、この条件で、例えばテラヘルツ波Wに付与する位相差を、特許文献2に記載されたように、4種類(π/2、π、3π/2、2π°)変化させ、これによって試料100において生じた位相差を算出し、複屈折Δnの値を算出することができる。
【0032】
ここで、図3の液晶デバイスにおける液晶分子15Aの長軸方向の水平方向(図9においては上下方向)に対する角度をθLCとしたとき、電圧印加がない場合にはθLCは0°、電圧が印加されて充分に配向が変化した場合にはθLCは90°となる。偏光子41を透過する偏光角度θを45°、偏光子42を透過する偏光角度θはこれに直交した-45°とし、試料100としてXカット水晶基板が用いられ、その光学軸は、θ、θと同様の基準で90°とされた。特許文献2と同様の手法により、この条件で測定されたこの試料の複屈折Δnの値は、0.05であった。
【0033】
図10は、実際にこの測定を行った際の透過率Tの時間経過を、図8に対応させて示す。図8図9において試料100がない場合、図10は試料100がある場合の結果となる。図10の場合においても、配向状態の変化に要する時間が短くなっていることが確認できる。すなわち、配向の変化に要した時間は、電界Eをオフからオンにした場合には3.4sec、磁場Hをオフからオンにした場合には11.8secであった。これらの値は、前記の磁場を用いない場合と比べて1/10以下となっている。すなわち、上記の測定を高速で行うことができる。
【0034】
また、図11は、図9における透過率Tの液晶分子15Aの配向角度θLC依存性をジョーンズマトリクス法によって計算した結果であり、図11(a)は試料100がない場合(図8に対応)、図11(b)は試料100がある場合(図10に対応)の結果である。この変化の形状は、図8図10において液晶分子15Aの配向が水平方向から垂直方向に変化するまでの形状と概ね一致する。このため、上記に記載された液晶分子15Aの配向の変化、あるいは上記の測定結果は妥当であると推定される。なお、図10において、電界Eのオンからオフ時だけでなく、磁場Hのオンからオフ時においても定性的に同様の結果となっているため、磁場Hのオン・オフによってもこの配向が制御される。
【0035】
以上のように、電界Eと磁場Hのオン・オフを併用することによって、液晶分子の配向の制御を、電界Eだけを用いた場合と比べて、高速で行うことができる。上記の例では、液晶によってヘラヘルツ波の偏光状態あるいは位相差を制御したが、テラヘルツ波における液晶分子の配向によって制御することの可能な特性であれば、同様の制御が可能であり、上記の構成によって、この制御を高速で行うことができる。
【0036】
また、上記の例では図2に示された液晶分子が用いられたが、同様の特性をもつ他の液晶分子を用いた場合においても、上記の構成が有効であることは明らかである。基板や透明電極(電極)の材料についても、要求される特性等に応じて、適宜設定が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1、9 液晶デバイス
10 基板
11 透明電極(電極)
12 配向膜
13 スペーサ
15 液晶層
15A 液晶分子
20 液晶セル
21A、21B 磁場印加手段
22 電圧印加手段
30 光源
31 励起光光源
32 ガスレーザー発振器
41、42 偏光子
43 検出器
100 試料
C COレーザー光
E 電界
H 磁場
W テラヘルツ波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11