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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109194
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20240806BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20240806BHJP
   B23C 5/28 20060101ALI20240806BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20240806BHJP
   B23B 27/10 20060101ALI20240806BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B23Q11/00 A
B23C9/00 Z
B23C5/28
B23B27/00 C
B23B27/10
B23Q11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013856
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和典
(72)【発明者】
【氏名】佐治 龍一
(72)【発明者】
【氏名】浜岡 義光
【テーマコード(参考)】
3C011
3C022
3C046
【Fターム(参考)】
3C011AA04
3C011AA05
3C011EE06
3C022QQ03
3C046BB02
3C046BB07
(57)【要約】
【課題】粘性流体の温度による影響を抑え、加工時に生じる振動を効果的に低減させて加工精度を向上させることが可能な切削工具を提供する。
【解決手段】被加工物を加工する切れ刃1を先端に有する切削工具100であって、中空部21と、中空部21に収容された錘部22と、を有する工具本体11を備え、錘部22は、工具本体11に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成され、工具本体11の中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27には、粘性流体28が封入され、工具本体11には、切れ刃1へクーラントCLを供給するクーラント流路31が、隙間27の外周側を覆うように隙間27に沿って形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を加工する切れ刃を先端に有する切削工具であって、
中空部と、前記中空部に収容された錘部と、を有する工具本体を備え、
前記錘部は、前記工具本体に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成され、
前記工具本体の前記中空部の内壁面と前記錘部の外周面との隙間には、粘性流体が封入され、
前記工具本体には、前記切れ刃へクーラントを供給するクーラント流路が、前記隙間の外周側を覆うように前記隙間に沿って形成されている、
切削工具。
【請求項2】
前記クーラント流路は、前記工具本体の軸方向に直交する断面形状が横長形状である、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記クーラント流路は、少なくとも一部が前記隙間の外周において全周にわたって形成されている、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
前記工具本体は、その先端における前記切れ刃の近傍位置に、前記クーラント流路の端部で開口する開口部からなるクーラント吐出口を有し、前記クーラント吐出口はその延長線上に前記切れ刃が位置するような向きに開口する、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項5】
前記クーラント流路は、前記工具本体の先端側において、前記クーラント吐出口へ向かって捻られて次第に向きが変えられている、
請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記クーラント流路は、前記工具本体の先端へ向かって次第に断面積が小さくされている、
請求項1に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
穴ぐりバイト等の切削工具では、加工精度を向上させるために、切削時のびびり振動などの振動を抑えることが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、加工ツールの振動を減衰させる減衰装置として、ツールボディの内部空間内にダンパマスボディが配置され、このダンパマスボディの貫通ボアに、加工ツールへ供給するクーラントが流される中央チューブが貫通して設けられ、この中央チューブの両端がツールボディに固定された構造が示されている。この減衰装置では、ツールボディのケーシングの内壁から半径方向に分離する環状のキャビティ内に、オイルなどの減衰液が封入されている。この減衰装置によれば、ダンパマスボディが、ツールボディの内部空間内を揺れ動くことで加工ツールの振動を減衰させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-535981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、減衰液として用いられるシリコンオイルなど粘性流体は、温度により粘度が変化する特性があるため、振動や切削によって生じる熱による粘性流体の温度変化の抑制が必要とされる。
【0006】
上記の特許文献1に記載の減衰装置では、中央チューブ内をクーラントが流されるが、このクーラントの流路と粘性流体が封入されているキャビティとの間の距離が大きいため、クーラントによる粘性流体の冷却は難しい。この場合、ダンパマスボディにおける外周側近傍にクーラントの流路を形成してキャビティに近接させればクーラントによる粘性流体の冷却効果が得られるが、クーラントの流路の形状が複雑となり、機械加工によって形成することが困難である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、粘性流体の温度による影響を抑え、加工時に生じる振動を効果的に低減させて加工精度を向上させることが可能な切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の切削工具は、
被加工物を加工する切れ刃を先端に有する切削工具であって、
中空部と、前記中空部に収容された錘部と、を有する工具本体を備え、
前記錘部は、前記工具本体に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成され、
前記工具本体の前記中空部の内壁面と前記錘部の外周面との隙間には、粘性流体が封入され、
前記工具本体には、前記切れ刃へクーラントを供給するクーラント流路が、前記隙間の外周側を覆うように前記隙間に沿って形成されている。
【0009】
この構成の切削工具によれば、工具本体の中空部に収容された錘部が、切削加工時の工具本体の振動方向と逆方向に動くことで制振力が生じ、工具本体の振動を減衰させ、加工精度を向上させることができる。この工具本体の振動を減衰させる錘部は、工具本体の中空部において、工具本体に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状としたものであるので、部品点数の削減及び構造の簡素化を図り、これにより組み立ての簡素化、場合によっては組み立てを不要にし、製造コストを抑えることができる。
また、中空部の内壁面と錘部の外周面との隙間に封入された粘性流体によって錘部の振動を素早く減衰させ、工具本体の防振効果を得ることができる。
しかも、工具本体には、切れ刃へクーラントを供給するクーラント流路が、中空部の内壁面と錘部の外周面との隙間の外周側を覆うように隙間に沿って形成されている。したがって、隙間に封入された粘性流体を、クーラント流路を流れるクーラントによって効果的に冷却することができ、粘性流体の粘度変化を抑え、安定した防振性能を得ることができる。
【0010】
また、本発明の切削工具は、
前記クーラント流路は、前記工具本体の軸方向に直交する断面形状が横長形状である。
【0011】
この構成の切削工具によれば、隙間に封入された粘性流体を広い面積で効果的に冷却することができる。
【0012】
また、本発明の切削工具は、
前記クーラント流路は、少なくとも一部が前記隙間の外周において全周にわたって形成されている。
【0013】
この構成の切削工具によれば、隙間に封入された粘性流体を、より広い面積で効果的に冷却することができ、粘性流体の粘度変化をより良好に抑え、安定した防振性能を得ることができる。
【0014】
また、本発明の切削工具は、
前記工具本体は、その先端における前記切れ刃の近傍位置に、前記クーラント流路の端部で開口する開口部からなるクーラント吐出口を有し、前記クーラント吐出口はその延長線上に前記切れ刃が位置するような向きに開口する。
【0015】
この構成の切削工具によれば、切れ刃に対してクーラントを的確に吐出して冷却させることができる。したがって、切れ刃の温度上昇を抑え、切削熱による粘性流体の温度上昇を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の切削工具は、
前記クーラント流路は、前記工具本体の先端側において、前記クーラント吐出口へ向かって捻られて次第に向きが変えられている。
【0017】
この構成の切削工具によれば、クーラント流路を流れるクーラントは、工具本体の先端側において、クーラント吐出口へ向かって流れの向きが緩やかに変更されて導かれる。これにより、クーラント流路を流れるクーラントの圧力損失を抑えることができる。
【0018】
また、本発明の切削工具は、
前記クーラント流路は、前記工具本体の先端へ向かって次第に断面積が小さくされている。
【0019】
この構成の切削工具によれば、クーラント流路が、工具本体の先端へ向かって次第に断面積が小さくされている。これにより、切れ刃へ供給するクーラントの流速を速め、切れ刃へクーラントを良好に噴き付けることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の切削工具によれば、粘性流体の温度による影響を抑え、加工時に生じる振動を効果的に低減させて加工精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る切削工具の軸方向に沿う断面図である。
図2】切削工具の先端部分の斜視図である。
図3A図1におけるA-A断面図である。
図3B図1におけるB-B断面図である。
図3C図1におけるC-C断面図である。
図3D図1におけるD-D断面図である。
図3E図1におけるE-E断面図である。
図4】工具本体に形成されたクーラント流路の他の例を説明する図1におけるD-D断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る切削工具の軸方向に沿う断面図である。図2は、切削工具の先端部分の斜視図である。
【0023】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る切削工具100は、被加工物を加工する切れ刃1を有する切削インサート10と、切削インサート10が固定される工具本体11とを備えている。この切削工具100は、例えば、フライス盤やマシニングセンタなどの工作機械に装着され、回転しながら先端の切れ刃1によって被加工物を切削するエンドミル等の転削工具である。なお、本発明は、転削工具に限らず、回転する被加工物に対して先端の切れ刃1によって切削するバイト等の旋削工具にも適用可能である。以下、転削工具を例示して説明する。
【0024】
工具本体11は、ヘッド部11aの後端部にシャンク部11bが組み立てられてなるヘッド交換式とされている。ヘッド部11aは、円柱状に形成されており、例えば、金属粉末を用いて造形物を3次元造形する金属粉末焼結3Dプリンターによって造形される。金属粉末焼結3Dプリンターによる造形方法としては、例えば、粉末床溶融結合(Powder bed fusion)、電子ビームを用いて粉末を溶融させる電子ビーム溶融法(EBM:Electron Beam Melting)、あるいはレーザ光を用いて粉末を溶融させるレーザ溶融法(SLM:Selective Laser Melting)などが挙げられる。
【0025】
この工具本体11は、鋼材等の金属材料から形成されている。この工具本体11の材質としては、例えば、弾性を有しかつ塑性変形しづらい合金工具鋼鋼材(SKS5)、ダイス鋼(SKD61)、マルエージング鋼などが好ましい。
【0026】
工具本体11の先端には、軸方向に沿う着座面12を有する複数(本例では4つ)の取付部13が軸回りに不等間隔に形成されており、それぞれの取付部13の着座面12に切削インサート10が固定されている。切削インサート10は、すくい面と、該すくい面とは反対側に位置して前記着座面12に着座する底面と、前記すくい面及び前記底面を繋ぐ周側面と、前記すくい面と前記周側面とが交差する稜線に形成された切れ刃1とを有する。なお、前記取付部13は工具本体11の軸回りに等間隔に形成されていてもよい。
【0027】
工具本体11は、ヘッド部11aの後端部に形成された継手部15に、切削工具100を工作機械(図示略)に装着させるためのシャンク部11bが組み立てられて構成される。シャンク部11bは、その先端にチャック(図示略)を有しており、このチャックがヘッド部11aの継手部15を把持する。このように、工具本体11をヘッド部11aとシャンク部11bとの分割構造とすれば、シャンク部11bがヘッド部11aに一体に形成されたものと比べ、シャンク部11bを積層造形以外の簡易な機械加工等によって造形してヘッド部11aの後端に組み立てることができる。これにより、金属粉末焼結3Dプリンター等を用いた積層造形による造形量を減らし、製造コストを削減できる。
【0028】
なお、シャンク部11bは、ヘッド部11aの後端にねじやろう付けなどの接合手段によって接合してもよい。この場合、シャンク部11bをヘッド部11aと異なる超硬合金などのヤング率が大きい材質で造形して接合させることにより、切削工具100の剛性を高めることができる。
【0029】
工具本体11は、中空部21と、この中空部21に収容されている錘部22と、を有している。錘部22は、工具本体11に対して一体に形成されている。錘部22は、その先端側が工具本体11に対して連設部23で連設されており、中空部21内において、後端側が自由端とされた片持ち梁状に支持されている。
【0030】
錘部22は、工具本体11に連設された連設位置Paが、工具本体11の取付部13に取り付けられる切削インサート10に形成された切れ刃1の後端位置Pbよりも工具本体11の先端側とされている。なお、後端位置Pbは、上記説明のように切れ刃1の後端位置に設定してもよいが、切削インサート10の後端位置に設定してもよい。
【0031】
この錘部22は、錘部本体25と、くびれ部26とを有している。くびれ部26は、錘部本体25と連設部23との間の部分であり、軸方向において連設部23と錘部本体25との中間部26aが縮径する形状に形成されている。このくびれ部26は、軸方向の断面視において、中間部26aが凹む湾曲形状に形成されている。具体的には、このくびれ部26は、その中間部26aが円弧状に凹む湾曲形状とされている。
【0032】
また、錘部22は、その錘本体25の後端からなる自由端が細くされている。具体的には、錘本体25の自由端は、後端へ向かって次第に縮径する先細り形状の縮径部25aとされている。これにより、錘部22の重心位置が工具本体11の先端側へ配置される。
【0033】
工具本体11の中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの間には、隙間27が設けられている。この隙間27は、錘部22の先端側から後端の自由端側へ向かって次第に広くされている。
【0034】
工具本体11には、中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27に、粘性流体28が封入されている。この粘性流体28としては、圧縮力に応じて粘性が変化する材料を用いるのが好ましく、例えば、圧縮されることにより、体積が減少して粘度が増加するシリコンオイルなどが好適である。
【0035】
また、工具本体11は、錘部22の後方位置に孔部35を有している。この孔部35には、中空部22側から順に、パッキン36及び締結部材37が設けられており、これにより、粘性流体28が封入された中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27がパッキン36及び締結部材37によって封止されている。この締結部材37は、圧力調整部とされており、孔部35への締結部材37のねじ込み量を調整することにより、隙間27に充填されている粘性流体28の圧力が調整される。
【0036】
工具本体11には、クーラントCLが流されるクーラント流路31が形成されている。このクーラント流路31は、切れ刃1へクーラントCLを供給する流路である。このクーラント流路31は、工具本体11における隙間27の外周側を覆うように、隙間27に沿って形成されている。工具本体11の後端には、その中心に、クーラント供給路32が形成されており、クーラント流路31は、クーラント供給路32に連通されている。クーラントCLは、主に冷却及び潤滑を目的として切れ刃1による被加工物の切削箇所に供給される潤滑材であり、水溶性クーラントや油性クーラントなどが使用される。
【0037】
工具本体11は、その先端における切れ刃1の近傍位置に、クーラント流路31の端部で開口する開口部からなるクーラント吐出口33を有している。クーラント吐出口33は、取付部13の着座面12と反対側の側面13aに形成されており、クーラント吐出口33はその延長線上に切れ刃1が位置するような向きに開口している(図2参照)。
【0038】
クーラントCLは、シャンク部11b側からクーラント供給路32に供給される。そして、このクーラントCLは、クーラント供給路32からクーラント流路31へ送り込まれ、工具本体11の先端に形成されたクーラント吐出口33から吐出され、クーラント吐出口33の延長線上に位置する切れ刃1へ噴き付けられる。
【0039】
図3A図3Eは、それぞれ工具本体の軸方向に直交する断面図である。
図3Aに示すように、クーラント供給路32は、工具本体11の中心に形成された1つの流路であり、クーラントCLは、シャンク2側からクーラント供給路32に供給される。
【0040】
図3Bに示すように、クーラント流路31は、クーラント供給路32の端部から、切れ刃1の数に対応するように、複数(本例では4つ)に分岐するように形成されている。そして、クーラント供給路32に供給されるクーラントCLは、このクーラント供給路32からクーラント流路31へ分岐して送り込まれる。
【0041】
図3C及び図3Dに示すように、クーラント供給路32から分岐するように形成された複数のクーラント流路31は、粘性流体28が封入された隙間27の外周側を覆うように、周方向に等間隔で配置されている。これらのクーラント流路31は、それぞれ隙間27の近傍において、隙間27に沿って形成されている。これにより、隙間27に封入された粘性流体28が、クーラント流路31を流れるクーラントCLによって冷却される。
【0042】
図3Eに示すように、クーラント流路31は、工具本体11の先端側において、クーラント吐出口33へ向かって捻られて次第に向きが変えられている。これにより、クーラント流路31を流れるクーラントCLは、工具本体11の先端側において、切れ刃1を有する切削インサート10が取り付けられた取付部13の着座面12と反対側の側面13aで開口するクーラント吐出口33へ向かって流れの向きが緩やかに変更されて導かれる。これにより、クーラント流路31を流れるクーラントCLの圧力損失が抑えられる。
【0043】
このように、隙間27の外周側を覆うように形成された複数のクーラント流路31は、それぞれ工具本体11の軸方向に直交する断面形状が横長形状とされている(図3B図3E参照)。これにより、隙間27に封入された粘性流体28がクーラント流路31を流れるクーラントCLによって広い面積で効果的に冷却される。
【0044】
つまり、クーラント流路31の断面形状の縦横比(縦:工具本体11の径方向、横:工具本体11の周方向)が横長であればある程、隙間27の外周側を覆う面積が増加するため、冷却効果は高まる。また、クーラント流路31の断面形状の縦横比が横長であればある程、縦幅を広げずにクーラントCLの流量を増加させることができることに加えて、工具本体11の中空部21の内壁面21aから工具本体11の外周面までの肉厚を確保して切削工具100の剛性低下を抑制することも可能である。
【0045】
一方、クーラント流路31の断面形状の横幅を広げすぎない方が圧力損失の低下を抑制するという観点では有利な場合がある。
以上から、用途やユーザーの要求に応じて、切削工具100の剛性低下抑制、クーラントCLの流量増加、及びクーラント流路31の圧力損失低下抑制のバランスを考慮しながらクーラント流路31の断面形状の縦横比を設定するようにしてもよい。
【0046】
これらのクーラント流路31は、工具本体11の後端側から先端側へ向かって次第に断面積が小さくされている。これにより、切れ刃1へクーラントCLを吐出させるクーラント吐出口33へ向かってクーラントCLの流速が速められ、クーラント吐出口33から切れ刃1へクーラントCLが良好に噴き付けられる。
【0047】
上記構造の切削工具100は、フライス盤やマシニングセンタ等の工作機械によって軸回りに回転されながら被加工物に先端が当てられ、これにより、先端に位置する切れ刃1によって被加工物が切削加工される。このとき、切れ刃1は、クーラント吐出口33から吐出されるクーラントCLによって冷却される。
【0048】
この加工時において、切削工具100の切れ刃1が位置する先端に振動が生じると、工具本体11の先端の振動に対して、工具本体11の内部の錘部22が逆方向に動いて制振力を生じさせる。これにより、工具本体11の先端に生じる振動が減衰される。
【0049】
以上、説明したように、本実施形態に係る切削工具100によれば、工具本体11の中空部21に収容させた錘部22が、切削加工時の工具本体11の振動方向と逆方向に動くことで制振力が生じ、工具本体11の振動を減衰させ、加工精度を向上させることができる。この工具本体11の振動を減衰させる錘部22は、工具本体11の中空部21において、工具本体11に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成されたものであるので、部品点数の削減及び構造の簡素化を図り、これにより組み立ての簡素化、場合によっては組み立てを不要にし、製造コストを抑えることができる。
【0050】
また、中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27に封入された粘性流体28によって錘部22の振動を素早く減衰させ、工具本体11の防振効果を得ることができる。
【0051】
しかも、工具本体11には、切れ刃1へクーラントCLを供給するクーラント流路31が、中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27の外周側を覆うように隙間27に沿って形成されている。したがって、隙間27に封入された粘性流体28を、クーラント流路31を流れるクーラントCLによって効果的に冷却することができる。これにより、粘性流体28の粘度変化を抑え、安定した防振性能を得ることができる。
【0052】
また、クーラント流路31の工具本体11の軸方向に直交する断面形状が横長形状とされているので、隙間27に封入された粘性流体28を広い面積で効果的に冷却することができる。
【0053】
さらに、クーラント流路31の端部で開口する開口部からなるクーラント吐出口33の延長線上に切れ刃1が取り付けられるので、切れ刃1に対してクーラントCLを的確に吐出して冷却させることができる。したがって、切れ刃1の温度上昇を抑え、切削熱による粘性流体28の温度上昇を抑制することができる。
【0054】
しかも、クーラント流路31は、工具本体11の先端側において、クーラント吐出口33へ向かって捻られて次第に向きが変えられている。したがって、クーラント流路31を流れるクーラントCLは、工具本体11の先端側において、クーラント吐出口33へ向かって流れの向きが緩やかに変更されて導かれる。これにより、クーラント流路31を流れるクーラントCLの圧力損失を抑えることができる。
【0055】
また、クーラント流路31は、工具本体11の先端へ向かって次第に断面積が小さくされている。これにより、切れ刃1へ供給するクーラントCLの流速を速め、切れ刃1へクーラントCLを良好に噴き付けることができる。
【0056】
なお、上記実施形態では、切れ刃1に対応する数のクーラント流路31を設けた場合を例示したが、切れ刃1の数と異なる数のクーラント流路31を設けてもよい。例えば、切れ刃1よりも少ない数のクーラント流路31を設け、クーラント流路31を工具本体11の先端側で分岐させて各切れ刃1へクーラントCLを吐出させてもよい。また、切れ刃1よりも多い数のクーラント流路31を設け、これらのクーラント流路31を工具本体11の先端側で合流させて各切れ刃1へクーラントCLを吐出させてもよい。
【0057】
図4は、上記実施形態の変形例を示す図であり、1つのクーラント流路31を備えた工具本体11の軸方向に直交する断面図である。この工具本体11では、粘性流体28が封入される隙間27の外周において全周にわたってクーラント流路31が形成されている。そして、この構造の場合、工具本体11の先端側で1つのクーラント流路31を分岐させて各切れ刃1へクーラントCLを吐出させる。
【0058】
このようなクーラント流路31を設けることにより、上記実施形態のように工具本体11の周方向に間隔をおいて複数のクーラント流路31が設けられた場合と比較して、隙間27に封入された粘性流体28を、より広い面積で効果的に冷却することができる。より具体的には、隙間27内の粘性流体28の冷却に資する面積を最大化することができるので、粘性流体28の粘度変化をより良好に抑え、より安定した防振性能を得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 切れ刃
10 切削インサート
11 工具本体
11a ヘッド部
11b シャンク部
21 中空部
21a 内壁面
22 錘部
22a 外周面
27 隙間
28 粘性流体
31 クーラント流路
33 クーラント吐出口
100 切削工具
CL クーラント
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4