(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109202
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20240806BHJP
B23C 9/00 20060101ALI20240806BHJP
B23B 27/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B23Q11/00 A
B23C9/00 Z
B23B27/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013869
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和典
(72)【発明者】
【氏名】佐治 龍一
(72)【発明者】
【氏名】浜岡 義光
【テーマコード(参考)】
3C011
3C022
3C046
【Fターム(参考)】
3C011AA04
3C011AA05
3C011AA06
3C022QQ03
3C046BB02
(57)【要約】
【課題】コストを抑えつつ、加工時に生じる振動を効果的に低減させて加工精度を向上させることが可能な切削工具を提供する。
【解決手段】被加工物を加工する切れ刃1を先端に有する切削工具100であって、中空部21と、中空部21に収容された錘部22と、を有する工具本体11を備え、錘部22は、工具本体11に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成され、錘部22の工具本体11との連設位置Paは、切れ刃11の後端位置Pbよりも工具本体11の先端側である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を加工する切れ刃を先端に有する切削工具であって、
中空部と、前記中空部に収容された錘部と、を有する工具本体を備え、
前記錘部は、前記工具本体に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成され、
前記錘部の前記工具本体との連設位置は、前記切れ刃の後端位置よりも前記工具本体の先端側である、
切削工具。
【請求項2】
前記工具本体は、ヘッド部とシャンク部とを組み立てるヘッド交換式である、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記錘部は、収容部を有し、
前記収容部には、前記錘部よりも大きい比重の充填物が収容されている、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
前記充填物は、粉末物である、
請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記工具本体の前記中空部の内壁面と前記錘部の外周面との隙間に、液体またはゲル状の介在物が封入されている、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項6】
前記介在物は、圧縮力に応じて粘性が変化する材料からなり、
前記工具本体は、前記介在物の圧力を調整可能な圧力調整部を有する、
請求項5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記工具本体は、前記錘部の自由端である後端に設定圧力で押圧される粘弾性材料を備える、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項8】
前記錘部は、前記錘部の後端から所定長だけ前端側の部分が前記後端に向かうに従い先細りとされている、
請求項1に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
穴ぐりバイト等の切削工具では、加工精度を向上させるために、切削時のびびり振動などの振動を抑えることが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、工作機械で用いられる中ぐり棒材として、円筒形の減衰体と、この減衰体の中心に通されたチューブと、減衰体の端部とチューブに固定されたワッシャとの間に設けられたゴム等の弾性材料からなる弾性要素とを備えた減衰装置が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、工具本体に形成された中空部内に、一端が連結されたおもり部材を設けるとともに、中空部の内壁面とおもり部材との隙間に粘弾性体を充填することにより、これらのおもり部材と粘弾性体とによって動吸振器が構成された制振工具が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4230447号公報
【特許文献2】特許第3714267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の減衰装置は、部品点数が多く、構造が複雑であるため、組み立てが煩雑であり、組立コストが嵩んでしまう。また、組み立て状態によって防振効果に差が生じるといった問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の制振工具は、おもり部材の連結箇所が、切れ刃が取り付けられる工具本体の先端部から離れた位置となっている。つまり、振動の振幅が最も大きくなる工具本体の先端から離れた位置でおもり部材が連結されているため、おもり部材による制振効果を十分に発揮させるために改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、コストを抑えつつ、加工時に生じる振動を効果的に低減させて加工精度を向上させることが可能な切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の切削工具は、
被加工物を加工する切れ刃を先端に有する切削工具であって、
中空部と、前記中空部に収容された錘部と、を有する工具本体を備え、
前記錘部は、前記工具本体に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成され、
前記錘部の前記工具本体との連設位置は、前記切れ刃の後端位置よりも前記工具本体の先端側である。
【0010】
この構成の切削工具によれば、工具本体の中空部に収容された錘部が、切削加工時の工具本体の振動方向と逆方向に動くことで制振力が生じ、工具本体の振動を減衰させ、加工精度を向上させることができる。この工具本体の振動を減衰させる錘部は、工具本体の中空部において、工具本体に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成されたものであるので、部品点数の削減及び構造の簡素化を図り、これにより組み立ての簡素化、場合によっては組み立てを不要にし、製造コストを抑えることができる。
また、加工時に工具本体に生じる振動の振幅は、工具本体の先端が最も大きくなるが、錘部の工具本体との連設位置が、切れ刃の後端位置よりも工具本体の先端側とされているので、工具本体の先端で振幅が最も大きくなる振動を効果的に低減させることができる。したがって、コストを抑えつつ効率的に工具本体の振動を低減でき、例えば、より大きな切込み量とするなどの高能率な切削条件での加工が可能である。
【0011】
また、本発明の切削工具は、
前記工具本体は、ヘッド部とシャンク部とを組み立てるヘッド交換式である。
【0012】
この構成の切削工具によれば、ヘッド部とシャンク部とを分割させてシャンク部をヘッド部に組み立てて工具本体が構成される構造であるので、例えば、ヘッド部を、金属粉末焼結3Dプリンター等を用いた積層造形法によって造形する場合、シャンク部とヘッド部とが一体に形成されたものと比べ、シャンク部を積層造形以外の簡易な機械加工等によって造形してヘッド部の後端部に組み立てることができる。これにより、積層造形による造形体積を減らし、製造コストを削減できる。また、シャンク部をヘッド部とは異なる超硬合金などのヤング率が大きい材質で造形してヘッド部に組み立てることにより、剛性を高めることができる。
【0013】
また、本発明の切削工具は、
前記錘部は、収容部を有し、
前記収容部には、前記錘部よりも大きい比重の充填物が収容されている。
【0014】
この構成の切削工具によれば、錘部の収容部に錘部よりも大きい比重の充填物が収容されている。したがって、錘部としての必要な重量を維持しつつ、錘部の体積を減らせる。これにより、例えば、金属粉末焼結3Dプリンター等を用いた積層造形法によって工具本体及び錘部を造形する場合、錘部の体積を減らした分だけ積層造形による造形量を減らし、製造コストを削減できる。
【0015】
また、本発明の切削工具は、
前記充填物は、粉末物である。
【0016】
この構成の切削工具によれば、充填物が粉末物であるので、錘部の収容部へ比較的容易に粉末物からなる充填物を充填して収容することができる。
【0017】
また、本発明の切削工具は、
前記工具本体の前記中空部の内壁面と前記錘部の外周面との隙間に、液体またはゲル状の介在物が封入されている。
【0018】
この構成の切削工具によれば、中空部の内壁面と錘部の外周面との隙間に封入された液体またはゲル状の介在物によって錘部の振動を素早く減衰させ、工具本体の防振効果を高めることができる。
【0019】
また、本発明の切削工具は、
前記介在物は、圧縮力に応じて粘性が変化する材料からなり、
前記工具本体は、前記介在物の圧力を調整可能な圧力調整部を有する。
【0020】
この構成の切削工具によれば、圧縮力に応じて粘性が変化する材料を介在物として中空部の内壁面と錘部の外周面との隙間に封入し、この介在物の圧力を圧力調整部によって調整することができる。これにより、介在物を錘部の減衰に適した粘度に調整し、錘部の振動をより素早く減衰させて工具本体の防振効果を高めることができる。
【0021】
また、本発明の切削工具は、
前記工具本体は、前記錘部の自由端である後端に設定圧力で押圧される粘弾性材料を備える。
【0022】
この構成の切削工具によれば、例えば、ゴム等の粘弾性材料を錘部の自由端である後端に適切な設定圧力で押圧させることにより、錘部の振動を素早く減衰させ、工具本体におけるより大きな防振効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の切削工具によれば、コストを抑えつつ、加工時に生じる振動を効果的に低減させて加工精度を向上させることができる。
【0024】
また、本発明の切削工具は、
前記錘部は、前記錘部の後端から所定長だけ前端側の部分が前記後端に向かうに従い先細りとされている、
請求項1に記載の切削工具
【0025】
この構成の切削工具によれば、例えば、ゴム等の粘弾性材料を錘部の自由端である後端に適切な設定圧力で押圧させることにより、錘部の振動を素早く減衰させ、工具本体におけるより大きな防振効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施形態に係る切削工具の軸方向に沿う断面図である。
【
図3】変形例1に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
【
図4】変形例2に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
【
図5】変形例3に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
【
図6】変形例4に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る切削工具の軸方向に沿う断面図である。
図2は、切削工具の先端部分の斜視図である。
【0028】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る切削工具100は、被加工物を加工する切れ刃1を有する切削インサート10と、切削インサート10が固定される工具本体11とを備えている。この切削工具100は、例えば、フライス盤やマシニングセンタなどの工作機械に装着され、回転しながら先端の切れ刃1によって被加工物を切削するエンドミル等の転削工具である。なお、本発明は、転削工具に限らず、回転する被加工物に対して先端の切れ刃1によって切削するバイト等の旋削工具にも適用可能である。以下、転削工具を例示して説明する。
【0029】
工具本体11は、ヘッド部11aの後端部にシャンク部11bが組み立てられてなるヘッド交換式とされている。ヘッド部11aは、円柱状に形成されており、例えば、金属粉末を用いて造形物を3次元造形する金属粉末焼結3Dプリンターによって造形される。金属粉末焼結3Dプリンターによる造形方法としては、例えば、粉末床溶融結合(Powder bed fusion)、電子ビームを用いて粉末を溶融させる電子ビーム溶融法(EBM:Electron Beam Melting)、あるいはレーザ光を用いて粉末を溶融させるレーザ溶融法(SLM:Selective Laser Melting)などが挙げられる。
【0030】
この工具本体11のヘッド部11aは、鋼材等の金属材料から形成されている。このヘッド部11aの材質としては、例えば、弾性を有しかつ塑性変形しづらい合金工具鋼鋼材(SKS5)、ダイス鋼(SKD61)、マルエージング鋼などが好ましい。
【0031】
工具本体11の先端には、軸方向に沿う着座面12を有する複数(本例では4つ)の取付部13が軸回りに不等間隔に形成されており、それぞれの取付部13の着座面12に切削インサート10が固定されている。切削インサート10は、すくい面と、該すくい面とは反対側に位置して前記着座面12に着座する底面と、前記すくい面及び前記底面を繋ぐ周側面と、前記すくい面と前記周側面とが交差する稜線に形成された切れ刃1とを有する。なお、前記取付部13は工具本体11の軸回りに等間隔に形成されていてもよい。
【0032】
工具本体11は、ヘッド部11aの後端部に形成された継手部15に、切削工具100を工作機械(図示略)に装着させるためのシャンク部11bが組み立てられて構成される。シャンク部11bは、その先端にチャック(図示略)を有しており、このチャックがヘッド部11aの継手部15を把持する。このように、工具本体11をヘッド部11aとシャンク部11bとの分割構造とすれば、シャンク部11bがヘッド部11aに一体に形成されたものと比べ、シャンク部11bを積層造形以外の簡易な機械加工等によって造形してヘッド部11aの後端部に組み立てることができる。これにより、金属粉末焼結3Dプリンター等を用いた積層造形による造形量を減らし、製造コストを削減できる。
【0033】
なお、シャンク部11bは、ヘッド部11aの後端にねじやろう付けなどの接合手段によって接合してもよい。この場合、シャンク部11bをヘッド部11aと異なる超硬合金などのヤング率が大きい材質で造形して接合させることにより、切削工具100の剛性を高めることができる。
【0034】
工具本体11は、中空部21と、この中空部21に収容されている錘部22と、を有している。錘部22は、工具本体11に対して一体に形成されている。錘部22は、その先端側が工具本体11に対して連設部23で連設されており、中空部21内において、後端側が自由端とされた片持ち梁状に支持されている。
【0035】
錘部22は、工具本体11に連設された連設位置Paが、工具本体11の取付部13に取り付けられる切削インサート10に形成された切れ刃1の後端位置Pbよりも工具本体11の先端側とされている。なお、後端位置Pbは、上記説明のように切れ刃1の後端位置に設定してもよいが、切削インサート10の後端位置に設定してもよい。
【0036】
この錘部22は、錘部本体25と、くびれ部26とを有している。くびれ部26は、錘部本体25と連設部23との間の部分であり、軸方向において連設部23と錘部本体25との中間部26aが縮径する形状に形成されている。このくびれ部26は、軸方向の断面視において、中間部26aが凹む湾曲形状に形成されている。具体的には、このくびれ部26は、その中間部26aが円弧状に凹む湾曲形状とされている。
【0037】
また、錘部22は、その錘本体25の後端からなる自由端が細くされている。具体的には、錘本体25の自由端は、後端へ向かって次第に縮径する先細り形状の縮径部25aとされている。これにより、錘部22の重心位置が工具本体11の先端側へ配置される。
【0038】
工具本体11の中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの間には、隙間27が設けられている。この隙間27は、錘部22の先端側から後端の自由端側へ向かって次第に広くされている。
【0039】
工具本体11には、クーラントCLが流されるクーラント流路31が形成されている。このクーラント流路31は、切れ刃1へクーラントCLを供給する流路である。このクーラント流路31は、工具本体11における隙間27の外周側を覆うように、隙間27に沿って形成されている。工具本体11の後端には、その中心に、クーラント供給路32が形成されており、クーラント流路31は、クーラント供給路32に連通されている。クーラントCLは、主に冷却及び潤滑を目的として切れ刃1による被加工物の切削箇所に供給される潤滑材であり、水溶性クーラントや油性クーラントなどが使用される。
【0040】
工具本体11は、その先端における切れ刃1の近傍位置に、クーラント流路31の端部で開口する開口部からなるクーラント吐出口33を有している。クーラント吐出口33は、取付部13の着座面12と反対側の側面13aに形成されており、クーラント吐出口33はその延長線上に切れ刃1が位置するような向きに開口している(
図2参照)。
【0041】
クーラントCLは、シャンク部11b側からクーラント供給路32に供給される。そして、このクーラントCLは、クーラント供給路32からクーラント流路31へ送り込まれ、工具本体11の先端に形成されたクーラント吐出口33から吐出され、クーラント吐出口33の延長線上に位置する切れ刃1へ噴き付けられる。
【0042】
また、工具本体11は、錘部22の後方位置に孔部35を有している。この孔部35には、中空部22側から順に、パッキン36及び締結部材37が設けられており、これにより、中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27がパッキン36及び締結部材37によって封止されている。
【0043】
上記構造の切削工具100は、フライス盤やマシニングセンタ等の工作機械によって軸回りに回転されながら被加工物に先端が当てられ、これにより、先端に位置する切れ刃1によって被加工物が切削加工される。このとき、切れ刃1は、クーラント吐出口33から吐出されるクーラントCLによって冷却される。
【0044】
この加工時において、切削工具100の切れ刃1が位置する先端に振動が生じると、工具本体11の先端の振動に対して、工具本体11の内部の錘部22が逆方向に動いて制振力を生じさせる。これにより、工具本体11の先端に生じる振動が減衰される。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態に係る切削工具100によれば、工具本体11の中空部21に収容させた錘部22が、切削加工時の工具本体11の振動方向と逆方向に動くことで制振力が生じ、工具本体11の振動を減衰させ、加工精度を向上させることができる。この工具本体11の振動を減衰させる錘部22は、工具本体11の中空部21において、工具本体11に対して先端側が連設されて後端側が自由端とされた片持ち梁状に一体に形成されたものであるので、部品点数の削減及び構造の簡素化を図り、これにより組み立ての簡素化、場合によっては組み立てを不要にし、製造コストを抑えることができる。
【0046】
ところで、切削加工時に工具本体11に生じる振動の振幅は、工具本体11の先端で最も大きくなる。本実施形態に係る切削工具100では、錘部22の工具本体11との連設位置Paが、切れ刃1の後端位置Pbよりも工具本体11の先端側とされているので、工具本体11の先端で振幅が最も大きくなる振動を効果的に低減させることができる。したがって、コストを抑えつつ効率的に工具本体11の振動を低減でき、例えば、より大きな切込み量とするなどの高能率な切削条件での加工が可能である。
【0047】
ここで、振動する工具本体11に対して錘部22が逆位相で動くためには、次の式(1)及び式(2)を満たすように設計するのが望ましい。
【0048】
ω/Ω=1/(1+μ) …(1)
ω=Ω/(1+μ) …(2)
ただし、
ω:錘部の固有振動数
Ω:工具本体の固有振動数
μ:錘部の質量比(μ=m/M, 0<μ<1)
M:工具本体の等価質量
m:錘部の質量
【0049】
一般的に、振動を減衰させる錘部を備えた防振工具は、突出しを長くして使用するため、工具本体の固有振動数Ωは低くなり易い。また、式(1)を変形した式(2)により、錘部の固有振動数ωは、工具本体の固有振動数Ωよりもさらに低くする必要がある。錘部の固有振動数ωを低くする方法は、1)錘部を重くする、2)錘部の剛性を低くする、の2つの方法がある。1)の方法では、工具本体の内部の錘部を配置可能なスペースの都合上制限があるため、2)の方法により調整する方が容易である。そこで、片持ち梁状の錘部の根元側を細くすることで錘部の剛性を低くし、錘部の固有振動数ωを任意の値に調整する。しかしながら、防振機構が作用した際に錘部が振動すると、錘部の根元部分、特に工具本体との連設箇所に負荷が掛かり、破損するおそれがある。
【0050】
本実施形態に係る切削工具100によれば、錘部22における工具本体11との連設箇所の近傍に形成されたくびれ部26が、この連接箇所への応力集中を抑制できることに加えて、くびれ部26が軸方向の断面視において、中間部26aが凹む湾曲形状に形成されているので、くびれ部26にかかる負荷を分散させることができる。したがって、錘部22が破損するリスクを抑えつつ、加工時に生じる振動を効果的に低減させて加工精度を向上させることができる。
【0051】
特に、軸方向の断面視において、くびれ部26の中間部26aを円弧状に凹む湾曲形状とすることで、くびれ部26にかかる負荷をより円滑に分散させることができる。
【0052】
また、錘部22は、その錘本体25の後端である自由端から所定長だけ前端側の部分が、後端へ向かって次第に縮径する先細り形状の縮径部25aとされている。このように、錘部22の自由端付近が自由端に向けて細く形成されているので、錘部22の重心位置を、振幅が大きい工具本体11の先端側に配置させ、減衰効果を高めることができる。
【0053】
さらに、工具本体11の中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27が錘部22の自由端側で広くされている。したがって、振幅の大きい錘部22の自由端側を工具本体11の中空部21の内壁面21aと接触させることなく減衰効果を得ることができる。また、隙間27の形状を錘部22の外周面22aに沿う形状とすることで、工具本体11の剛性低下を最小限に抑えつつ、たわみや振動を低減することができる。
【0054】
次に、切削工具の変形例について説明する。
なお、上記の切削工具100と同一構成部分は、同一符号を付して説明を省略する。
【0055】
(変形例1)
図3は、変形例1に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
図3に示すように、変形例1に係る切削工具200は、錘部22が収容部41を有している。そして、この錘部22の収容部41には、充填物42が収容されている。充填物42は、錘部22よりも比重の大きい材質からなるもので、例えば、タングステンやタングステン合金等のヘビーメタルなどから形成されている。
【0056】
この変形例1に係る切削工具200によれば、錘部22の収容部41に錘部22よりも大きい比重の充填物42が収容されているので、錘部22としての必要な重量を維持しつつ、錘部22の体積を減らすことができる。これにより、金属粉末焼結3Dプリンター等を用いた積層造形によって工具本体11及び錘部22を造形する場合、錘部22の体積を減らした分だけ積層造形による造形量を減らし、製造コストを削減できる。
【0057】
(変形例2)
図4は、変形例2に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
図4に示すように、変形例2に係る切削工具300においても、錘部22が収容部41を有しており、この錘部22の収容部41に充填物42が収容されている。切削工具300では、収容部41に収容された充填物42は、錘部22よりも比重の大きい粉末物であり、例えば、タングステンやタングステン合金等のヘビーメタルの金属粉などが用いられる。金属粉からなる充填物42は、錘部22の後端の粉末充填口43から収容部41に充填される。粉末充填口43には、封止ネジ44がねじ込まれており、この封止ネジ44によって収容部41に充填された充填物42が封止されている。
【0058】
この変形例2に係る切削工具300の場合も、錘部22の収容部41に錘部22よりも大きい比重の粉末物である充填物42が収容されているので、錘部22としての必要な重量を維持しつつ、錘部22の体積を減らすことができる。これにより、金属粉末焼結3Dプリンター等を用いた積層造形によって工具本体11及び錘部22を造形する場合、錘部22の体積を減らした分だけ積層造形による造形量を減らし、製造コストを削減できる。特に、充填物42が粉末物であるので、錘部22の収容部41へ比較的容易に充填物42を充填して収容することができる。
【0059】
(変形例3)
図5は、変形例3に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
図5に示すように、変形例3に係る切削工具400では、工具本体11の中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27に、液体またはゲル状の介在物51が封入されている。この介在物51としては、圧縮力に応じて粘性が変化する材料が用いられ、例えば、圧縮されることにより、体積が減少して粘度が増加するシリコンオイルなどが好適である。切削工具400では、孔部35に締結されて介在物51が充填されている隙間27を封止する締結部材37が圧力調整部とされており、孔部35への締結部材37のねじ込み量を調整することにより、隙間27に充填されている介在物51の圧力が調整される。
【0060】
この変形例3に係る切削工具400によれば、中空部21の内壁面21aと錘部22の外周面22aとの隙間27に封入された液体またはゲル状の介在物51によって錘部22の振動を素早く減衰させ、工具本体11の防振効果を得ることができる。
【0061】
また、圧縮力に応じて粘性が変化する材料を介在物51として隙間27に封入し、この介在物51の圧力を圧力調整部である締結部材37によって調整することができる。これにより、介在物51を錘部22の減衰に適した粘度に調整し、錘部22の振動をより素早く減衰させて工具本体11の防振効果を得ることができる。
【0062】
(変形例4)
図6は、変形例4に係る切削工具における工具本体の軸方向に沿う断面図である。
図6に示すように、変形例4に係る切削工具500では、工具本体11における錘部22の自由端である後端に、粘弾性材料55を備えている。この粘弾性材料55としては、例えば、ゴム等の弾性材料が用いられる。この粘弾性材料55は、孔部35に挿入されて錘部22の自由端である後端に当接されている。また、粘弾性材料55は、孔部35に締結された締結部材37によって錘部22の自由端である後端に、設定圧力で押圧されている。
【0063】
この変形例4に係る切削工具500によれば、例えば、ゴム等の粘弾性材料55を錘部22の自由端である後端に適切な設定圧力で押圧させることにより、錘部22の振動を素早く減衰させ、工具本体11におけるより大きな防振効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 切れ刃
10 切削インサート
11 工具本体
11a ヘッド部
11b シャンク部
21 中空部
21a 内壁面
22 錘部
22a 外周面
27 隙間
37 締結部材(圧力調整部)
41 収容部
42 充填物
51 介在物
55 粘弾性材料
100,200,300,400,500 切削工具
Pa 連設位置
Pb 後端位置