(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109214
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】塗膜構造及びその塗装方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/04 20060101AFI20240806BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20240806BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240806BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240806BHJP
C09D 1/06 20060101ALI20240806BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240806BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240806BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240806BHJP
B32B 13/02 20060101ALI20240806BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240806BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B32B9/04
B05D3/12 Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 303A
B05D5/00 Z
C09D1/06
C09D201/00
C09D7/61
C09D5/02
B32B13/02
B32B27/20 Z
B05D3/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013896
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 泰士
(72)【発明者】
【氏名】都築 和貴
(72)【発明者】
【氏名】山内 秀樹
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE03
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4J038PC04
(57)【要約】
【課題】塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面で、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示す塗膜構造及びその塗装方法を提供する。
【解決手段】結合材と充填材とを含む塗料により形成された塗膜を基材に積層した積層塗膜構造であって、その塗料により形成された塗膜の膜厚が、0.05~0.50mmの範囲であり、その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示すものであることにより、塗装部分と未塗装部分とが同一面で混在している補修面であり、その補修面が降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示すことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材と充填材とを含む塗料により形成された塗膜を基材に積層した積層塗膜構造であって、
その塗料により形成された塗膜の膜厚が、0.05~0.50mmの範囲であり、
その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示す積層塗膜構造。
【請求項2】
高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームのいずれか1又は2種以上の活性フィラーを含むフィラー成分とアルカリ刺激剤とを混合状態とした塗料により形成された塗膜を基材に積層した積層塗膜構造であって、
その塗料により形成された塗膜の膜厚が、0.05~0.50mmの範囲であり、
その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示す積層塗膜構造。
【請求項3】
高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームのいずれか1又は2種以上の活性フィラーを含むフィラー成分とアルカリ刺激剤とを混合状態とした塗料を基材に対して塗布する塗装方法であって、
その塗料により形成された塗膜が、0.05~0.50mmの範囲になるように塗装し、
その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示す塗料の塗装方法。
【請求項4】
前記基材のpHが7~14の範囲内である請求項3に記載の塗料の塗布方法。
【請求項5】
請求項3に記載の塗料の塗布方法を行った後に、更にその表面にpH7~14の範囲の塗布材を塗布する塗材の塗布方法。
【請求項6】
請求項3に記載の塗料の塗布方法を行う前に、塗布面に対して、pH7~14の範囲の塗布材を塗布する塗材の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する塗料により形成された塗膜構造であり、その塗膜構造を形成させるための塗装方法に関するもので、その利用分野は建築分野である。
【背景技術】
【0002】
従来から建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する塗材として、セメントなどの無機系の結合材を用いた塗材や合成樹脂エマルションなどの有機系の結合材を主成分とした塗料や塗材などが数多く存在している。
これら塗料や塗材により形成された塗膜は、壁面の耐久性を向上させることや意匠性向上のために用いられている。
【0003】
これらの中でも、壁面などの塗装対象の一部分の補修のために用いられることがある。塗装対象の面がコンクリートなどには、セメントと合成樹脂エマルションとを混合した塗材やセメントなどの無機系の結合材を用いたものを用いられることもある。
【0004】
このセメントなどの無機系の結合材を用いた塗材は、形成された塗膜の強度や使い勝手、入手の容易さなどにより多く用いられることがある。その中でも特開2021-1260号公報には、高炉スラグ系塗料が提案されている。
これは、高炉スラグを含有する安定化された高炉スラグ水性懸濁液を主剤の主要成分とし、該懸濁液の水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体を水硬反応誘発剤として、前記主剤と水硬反応誘発剤とを別々にパッケージしてなることを特徴とする高炉スラグ系2剤型塗料が記載されている。
【0005】
これにより、高炉スラグを用いた場合でもアルミナセメントの場合と同様の効果が得ることができるものであって、高炉スラグを主要成分とする液体懸濁液からなる液状の無機系素材と、その流体懸濁液を用いた高炉スラグ系2剤型もしくは1剤型水性塗料を得ることができるものであった。
この水性塗料により常温で硬化し強度の高いもので、耐水性や耐候性などの各種物性の優れた塗膜を得ることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、補修の場合で、対象塗装面の一部分に塗膜を形成した場合では、塗装部分と未塗装部分では、水が当たった場合の吸い込みが大きく異なるため、塗装部分と未塗装部分のとの違いが、大きいことから、その違いがハッキリ確認することができ、見た目に悪いことが多々ある。
本開示は、同一面で、その面に対して塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面であって、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示す塗膜構造及びその塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
結合材と充填材とを含む塗料により形成された塗膜を基材に積層した積層塗膜構造であって、その塗料により形成された塗膜の膜厚が、0.05~0.50mmの範囲であり、その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示すものである。
このことにより、同一面で、その面に対して塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面であって、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示すことができる。
【0009】
高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームのいずれか1又は2種以上の活性フィラーを含むフィラー成分とアルカリ刺激剤とを混合状態とした塗料により形成された塗膜を基材に積層した積層塗膜構造であって、その塗料により形成された塗膜の膜厚が、0.05~0.50mmの範囲であり、その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示すものである。
このことにより、基材との密着性が良く、特にセメントを主成分とした基材には良好で、同一面で、その面に対して塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面であって、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示すことができる。
【0010】
高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームのいずれか1又は2種以上の活性フィラーを含むフィラー成分とアルカリ刺激剤とを混合状態とした塗料を基材に対して塗布する塗装方法であって、その塗料により形成された塗膜が、0.05~0.50mmの範囲になるように塗装し、その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示すことである。
このことにより、同一面で、その面に対して塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面であっても、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示すことができる。
【0011】
前記基材のpHが7~14の範囲内であることにより、基材界面との反応硬化が進み易くなり、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
更にその表面にpH7~14の範囲の塗布材を塗布することにより、反応硬化が進み易くなり、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
【0012】
前記塗布方法を行う前に、塗布面に対して、pH7~14の範囲の塗布材を塗布することにより、基材界面との反応硬化がより進み易くなり、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態を説明する。
本開示は、結合材と充填材とを含む塗料により形成された塗膜を基材に積層した積層塗膜構造であって、その塗料により形成された塗膜の膜厚が、0.05~0.50mmの範囲であり、その塗膜の吸水性が基材の吸水性より大きく、濡れ色を示すものである。
【0014】
まず、この結合材は、塗料の主成分であり、基材へ密着させるためのもので、合成樹脂などの有機系バインダーやセメントなどの無機系バインダーなどが挙げることができる。
これらは、通常の塗料や塗材の配合に用いられるものである。又、これらを複合して用いることが多く行われている。
【0015】
有機系バインダーである合成樹脂には、アクリル樹脂,スチレン樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,フッ素樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,アルキッド樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂などの樹脂を単独又は共重合したものが挙げられる。
また、これら樹脂を有機溶媒に溶解させたもの、水に分散させた合成樹脂エマルションが用いられることが多く、他にも弱溶剤に分散させたものが挙げられる。
【0016】
なかでも合成樹脂エマルションは、入手が容易で、塗料を構成する成分との混和性が良好で、塗料の製造が容易なもので、得られた塗料の粘性を水で調整することができるなど使い易いため用いられる。
この合成樹脂エマルションは、乳化重合のような通常の重合技術で製造できる一般的なもので、前記記載の合成樹脂などより製造された合成樹脂エマルションなどがある。
【0017】
この合成樹脂エマルションは、通常の塗料や塗材の配合に用いられるものでよく、後述されるアルカリ刺激剤と良好に混和できるものであることが好ましい。
無機系バインダーには、セメントなどの水硬性結合材や漆喰などの気硬性結合材などがある。アルカリ溶液などのアルカリ性に刺激され、硬化する潜在水硬性結合材もあり、好ましい無機系バインダーとして用いられる。
【0018】
この潜在水硬性結合材は、アルカリ溶液に可溶である活性フィラーがアルカリ性の刺激剤により、活性フィラーの表面を不安定にし、そのアルカリ刺激剤の水分がなくなる等につれて、活性フィラー同士が近づきそれぞれが結合するものである。
この潜在水硬性物質は、微粉末のもので、反応性が高いため、硬化性が良好で、塗膜を形成し易く、初期の耐水性が良好なものとなる。又、色が白いため、塗膜の隠蔽性を高め、塗料の着色を行い易いものとなる。
【0019】
その組成は、CaO,SiO2,Al2O3を主成分としており、セメントに似た化学成分を有しているものである。
好ましく用いられる活性フィラーには、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームがあり、この中のいずれか1又は2種以上を含む活性フィラー成分と、アルカリ溶液を含むアルカリ性刺激剤とを混合状態として用いられるものである。
【0020】
これらの活性フィラーが2種以上を配合させることが好ましく、後述するアルカリ刺激剤との組合せにより、硬化時間と可使時間を調整することが可能なものとなる。
高炉スラグは、鉄鉱石をコークスで還元、溶融し、銑鉄を製造する溶鉱炉から銑鉄と共に約1500℃の溶融状態で取り出された後、比重差により分離された脈石分で、冷却固化の方法により、徐冷スラグと水砕スラグがある。
【0021】
フライアッシュは、石炭を燃焼する際に、発生する灰の1種で、石炭を燃料としている火力発電所などの燃焼時に多く発生しているものである。このフライアッシュは、燃焼ガスと共に吹き上げられる程度の微粒子で、球状なものである。
シリカヒュームは、フェロシリコンを製造する際に、電気炉で2000℃近くまで気化されたシリコンガスが排気ダクトで酸化したもので、それらを回収したものである。
【0022】
この活性フィラーは、比較的細かいものが好ましく、この平均粒子径が、ブレーン比で2500~25000cm2/gの範囲のものが好ましく、この範囲内であれば、後述されるアルカリ刺激剤により、十分な結合ができ、塗膜の強度を得ることができる。
この活性フィラー成分のブレーン比を3000~9000cm2/gの範囲に調整すること好ましく、この範囲内であれば、可使時間と硬化時間の調整がより行い易く、使い易いものとなる。
【0023】
活性フィラーを用いた場合の塗料の粘度は、B型粘度計で20rpm、23℃ で測定した際に150~15000mPa・sの範囲内が好ましく、この塗料粘度が150mPa・sより低い場合では、比較的比重のある活性フィラーが塗膜中で分離することがあり、それを抑えられないことがある。
15000mPa・sより高い場合では、比較的薄く均一な塗膜を形成させることができず、この範囲外では、良好な塗膜を形成させることが難しいことがある。
【0024】
このような活性フィラーを用いることで、基材との密着性が良く、特にセメントを主成分とした基材には良好で、同一面で、その面に対して塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面であっても、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示すものである。
また、有機系バインダーと無機系バインダーとの両方を用いることも可能であり、形成された塗膜の吸水量などの調整を容易に行うことができ、更に、下地である基材への密着性が良好なので、塗膜に適度な柔らかさを与えることができ、塗膜表面の割れをより少なくすることができるものとなる。
【0025】
次に、アルカリ刺激剤は、前記活性フィラー成分が可溶で、その表面を不安定にすることができるものであれば良く、水など揮発成分に溶けているものであれば良い。
このアルカリ刺激剤は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,メタケイ酸ナトリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことで得られるものである。
【0026】
また、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでアルカリ性を示す分散液や水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどの溶液や分散液であっても良く、好ましく用いられる。
これら水溶液や分散液を用いることで、塗材により形成される塗膜に強度を持たせ、下地との密着性が良好なものとなる。これらのアルカリ刺激剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0027】
コロイダルシリカは、非晶質であるシリカの微細粒子が水などの溶媒にコロイド状に分散された状態のものであり、水ガラスは、ケイ酸ナトリウムの濃い水溶液で、ケイ酸ナトリウムを水に溶かして加熱することで得られる高い粘性を持つものである。
リチウムシリケートは、アルカリ珪酸塩の一種で、有機系バインダーと比べて耐熱性に優れたもので、アルミナゾルは、水を分散媒とした、アルミナ水和物のコロイド溶液である。
【0028】
これらの水溶液や分散液の中でも、コロイダルシリカは、取り扱いの容易さや、塗膜に含まれた状態の場合、塗膜と水との馴染みが良好になり、塗膜の吸水性が比較的早く、良好な親水性の塗膜を形成することから好ましく用いられる。
このシリカ溶液中に分散されるシリカなどの微粒子の平均粒子径は、好ましくは4~100nmであり、より好ましくは6~50nmであり、最も好ましくは10~20nmである。
【0029】
この範囲にあるとき、親水性を調整することが容易であり、シリカ微粒子間の結合力が最適になる。
シリカ微粒子の平均粒子径が4nm未満の場合には、シリカ微粒子間の結合力が強すぎて、シリカ微粒子膜に収縮クラックが発生するおそれがある。逆に、100nmを超える場合には、シリカ微粒子間の結合力が弱く、塗膜の強度が弱い場合がある。
【0030】
前記シリカ微粒子の粒子形状としては球状、パールネックレス状、針状、棒状などがあり、球状であることが好ましく用いられ、これは、シリカ微粒子が乾燥して乾燥ゲルとなったときに、粒子同士が最密充填構造をとることができるため、塗材による塗膜の強度を向上させることができる。
上記記載のように、有機系バインダーの場合であれば、結合材と充填材とが混合することにより、塗材を得ることができ、無機系のバインダーであれば、セメントと水や活性フィラー成分とアルカリ刺激剤を結合材として、充填材とが混合することにより、塗材を得ることができる。
【0031】
この充填材には、炭酸カルシウム,珪藻土,ベントナイト,ホワイトカーボン,ガラスビーズ,プラスチックビーズ,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウムや珪砂などがある。
これらは、塗膜の乾燥硬化の過程に発生する応力を緩和させ、乾燥収縮を低減させ、それにより生じるクラックを低減させることができ、塗膜の強度も向上させることができる。
【0032】
この充填材の粒子径は1~100μmの範囲が好ましく、この範囲内であれば十分にクラックの発生などを低減させることができる。この中でも、水に馴染みが良く、塗料化し易いため、珪砂や炭酸カルシウムが好ましく用いられる。
この塗料には、塗膜のひび割れ低減のための繊維類を好ましく加えることがある。この繊維を加えることで、塗料を塗布した後の急激な乾燥を緩和させることができ、塗膜の硬化乾燥をゆっくり進行させることができることで、より塗膜強度が向上するものである。
【0033】
また、塗膜の収縮を抑えることができ、塗膜の割れを低減させることもできる。この繊維には、パルプや綿など天然繊維やガラス繊維、鉱物繊維などがある。
また、その他の成分として、消泡剤,分散剤,湿潤剤などとして用いられる界面活性剤、造膜助剤,防凍剤などとして用いられる高沸点溶剤、粘度,粘性調整のための増粘剤やレベリング剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0034】
さらに、親水化剤、光触媒、紫外線防止剤などのように塗膜の性能を付与させる添加剤を加えることも可能であり、好ましく使用されることがある。
他には、着色成分である酸化チタン,亜鉛華などの白色顔料を含有させることができ、塗膜の耐久性を向上させることができる。又、着色顔料を添加させることも可能である。
【0035】
この着色顔料としては、無機,有機系顔料及びその両方を用いられ、酸化チタン,カーボンブラック,オキサイドイエロー,弁柄,シアニンブルー,シアニングリーンなど一般的な塗料や塗材の着色に使用することができるものである。
上記のような結合材と充填材とを主成分とし、塗料が構成される。この塗料は、基材に対して、塗布され、乾燥硬化した後に塗膜を形成するものである。
【0036】
この塗布方法は、スプレー,塗装用ローラーや刷毛など一般的に塗装工事で用いられる塗装器具により塗装することができる。
また、塗装済み外壁板など板材に前もって工場などで塗装機械を用いて行うライン塗装の場合では、レシプロタイプのスプレー,ロールコーターやカーテンフローコータなどにより塗装を行うこともできる。
【0037】
塗布対象物である基材には、 建築物の壁面を構成するコンクリート,モルタル,PC板,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,石膏ボード,スレート,セラミック,プラスチック,木材,石材,タイル等の種々の対象物に塗布することが可能である。
このように塗膜は形成され、その膜厚が0.05~0.50mmの範囲であり、その塗膜の吸水量が基材の吸水量より大きく、濡れ色を示すものである。
【0038】
この塗膜の厚みは、0.05~0.50mmの範囲であり、0.05mmより薄い場合では、塗膜が薄すぎて下地を覆い隠すことができないことがある。0.50mmより厚い場合では、基材に凸部を作ることになり、塗装部分が目立ってしまうことがある。又、その部分に汚れが付き易いこともある。
次に、この塗膜や基材の吸水性は、一定量の水を塗膜や基材の表面に滴下し、滴下された水がその表面に水膜が無い状態で表され、それぞれの吸水性を比較することで判断することができる。
【0039】
例えば、基材表面に塗膜を形成させた部分と基材表面が露出した部分の境界に水を滴下し、吸水された面積を比較することで、その吸水性を比べることができる。又、それぞれの表面に一定量の水を滴下し、水膜が無くなるまでの時間でも判断することも可能である。
この塗膜は、濡れ色になるものであり、この濡れ色は、塗膜の吸水により、吸水前の状態に比べ濃い色となることである。これは、塗膜の空隙に水が入り、その影響で塗膜の光の屈折が変化し、吸水する前の塗膜と色が異なって見えることである。
【0040】
本開示では、建築物の雨掛のある部分で使用され、吸水することで、その表面の色が濡れた状態の色になる基材に用いられた場合に、その効果を十分に発揮するため、コンクリート,モルタル,PC板,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,スレート,石材などが、その対象となることが多い。
このような基材に対して、塗料を塗布し、基材に積層した塗膜構造を得ることにより、その効果を十分に発揮するものである。
【0041】
例えば、補修のためにコンクリート面に吸水性の少ない上塗り塗料をコンクリート面の色と同色に調色し、同一面に塗った部分と塗らなかった部分と混在させた場合、通常では、色ムラが無く、違和感のない状態を確認することができる。
しかし、その面に対して、降雨などのように散水し、全面又は部分的に濡らした場合では、塗料を塗らなかったコンクリート面などは、吸水し、吸水前の状態に比べ濃い色となることが確認できる。
【0042】
これは、吸水性の少ない上塗り塗料では、それによる塗膜の吸水性が殆どなく、色の変化がない状態となり、その塗膜によりコンクリート面を保護した部分と保護していない部分との色の差が出てしまい、コンクリート面全体が降雨などの散水により色ムラがあるように見えてしまうためである。
このような場合、濡れた壁面が自然な状態とは異なり、違和感を生じ、補修を行った部分と行わなかった部分が明確にわかることになる。
【0043】
本開示では、塗膜の吸水性が基材より多くすることで、基材に部分的に塗膜がある場合に、その塗膜と基材の境目辺りに付いた水が塗膜側に吸水し易くなり、基材と塗膜の濡れ色が同時に起きたようにすることができる。
そのため、基材に補修などを行った場合、その全体が濡れた自然な状態となり、補修を行った部分と行わなかった部分が分り難いものとなる。
【0044】
また、塗膜の吸水が基材より多いことから、塗膜表面に付いた水が、吸い易い塗膜で吸水が進み、濡れ色となり、余剰な水が基材に吸水され、補修された基材全体に広がっていくため、より補修を行った部分と行わなかった部分が分り難いものとなる。
このことにより、同一面に対して塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面で、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示すことで、塗装部分と未塗装部分の区別が付き難い補修面を得ることができる。
【0045】
特に、基材が吸水性の大きい、コンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,石膏ボード,スレートなどの場合、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒュームの活性フィラーを含むフィラー成分とアルカリ刺激剤とを混合状態とした塗料を用いることが好ましい。
これにより、同一面で、その面に対して塗装部分と未塗装部分とが混在している補修面で、その補修面に降雨など水に濡れた場合であっても、塗装部分と未塗装部分が同様な濡れ色を示すことができ、密着性が良いものとなる。
【0046】
また、この塗料は、アルカリ雰囲気下でより、硬化が促進されるものであるため、セメントを主成分とした基材であることで、その密着性が良好なものであり、その基材のpHが7~14の範囲内であることが好ましいものであり、好ましくは、pHが8以上である。
これにより、基材界面との反応硬化が進み易く、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
【0047】
さらに、塗布前の基材に対して、pH7~14の範囲の塗布材を塗布することも可能である。これにより、基材界面との反応硬化をより進み易くし、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。又、基材がアルカリ性を示さないものであっても、その効果を得ることができるものとなる。
このpH7~14の範囲の塗布材には、上記記載のアルカリ刺激剤と同様なものを用いることができる。
【0048】
この塗布材は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,メタケイ酸ナトリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことで得られるものや、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでもアルカリ性を示す分散液や水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどの溶液や分散液がある。
これらの塗布材を塗装前の基材に対して、上記記載の塗料の塗布方法と同様に、スプレー,塗装用ローラーや刷毛など一般的に塗装工事で用いられる塗装器具により塗布することができる。
【0049】
また、これらの塗布材は、合成樹脂エマルションなどの有機系バインダーと混合して、プライマーと兼ねることも可能である。
この形成された塗膜の表面に、更に、pH7~14の範囲の塗布材を塗布することが好ましく行われる。このpH7~14の範囲の塗布材は、前記記載のものと同じであり、一般的に塗装工事で用いられる塗装器具により塗布することができる。
【0050】
このように塗膜にpH7~14の範囲の塗布材を塗布することで、塗膜の乾燥を緩やかにし、反応硬化が進み易く、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
そのため塗膜表面が緻密になり、強度や硬度も上がることになる。そのため塗膜表面の耐摩耗性も向上することになり、耐久性の優れたものとなる。
【0051】
また、pH7~14の範囲の塗布材が非晶質であるシリカの微細粒子が水などの溶媒にコロイド状に分散されたコロイダルシリカの場合では、塗膜表面にコロイダルシリカの粒子が点在することになる。
そのため塗膜表面が親水性の状態となり、塗膜表面に汚れが付き難いものとなり、付着した汚れも落とし易いものとなる。
【0052】
また、これらの塗布材は、合成樹脂エマルションなどの有機系バインダーと混合して、トップコートと兼ねることも可能である。
上記のように構成される本開示を、より具体的な実施形態を用いて説明する。
【0053】
表1に示す原材料を、均一に撹拌して塗料Aを作製した。活性フィラーとして、粒子径が5μmの高炉スラグと粒子径が9μmのフライアッシュを使用した。充填材として粒子径が10μmの炭酸カルシウムを使用した。なお、粒子径はレーザー回折法で測定した体積基準の粒度分布から算出されるD50値である。
アルカリ刺激剤として、pHが11のコロイダルシリカを使用した。その他添加剤として、増粘剤と消泡剤を添加した。
【0054】
【0055】
作製した塗料を、スレート板に以下の方法で膜厚を変えて塗り付け、それぞれの状態を目視で確認した。
(1)スプレーガンで吹付けし、50μm厚で作製
(2)アプリケーターで、150μm厚で作製
(3)型枠に塗料を流し込み、1mm厚で作製
【0056】
(1)の塗膜は、基材であるスレートを十分に覆うことができなかった。(2)の塗膜は、スレート表面を覆うことができ、スレート表面の塗膜部分も目立つこと無ない良好な塗膜となった。(3)の塗膜は、その表面が凹凸状になり、スレート表面に凸部を作り、塗装部分が目立つものであった。
次に、塗膜の吸水性を確認した。スレート板の一部にアプリケーターで150μm厚の塗膜を作製し、試験体とした。
【0057】
試験に用いた塗膜を作製した塗料は、塗料A,塗料Aにアクリル樹脂エマルションを1%添加した塗料,塗料Aにアクリル樹脂エマルションを5%添加した塗料,塗料Aにアクリル樹脂エマルションを10%添加した塗料と上塗塗料であるアクリル樹脂塗料を使用した。
この試験では、塗膜がある部分とないスレート部分の境界に水を滴下してどちらのほうが濡れ色の範囲が大きくなるかを確認した。塗膜がある部分の方が濡れ色の面積が大きい場合に、塗膜の吸水性が基材より大きいと判断した。その確認結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
塗料Aに樹脂を添加していくと、塗膜の濡れ色の範囲が狭くなっていき、10%添加したもの、アクリル樹脂塗料より形成された塗膜は基材より濡れ色の面積が小さかった。
次に、塗膜の強度を確認した。基材として、スレート板,厚紙を使用し、塗料A,アクリル樹脂塗料をアプリケーターで塗布して150μm厚の塗膜を作製し試験体とした。
【0060】
また、塗料Aを塗布する前にpH11のコロイダルシリカを塗布した試験体、塗膜の上にpH11のコロイダルシリカを塗布した試験体も作製した。
塗膜の強度は、JIS K5600-5-4 引っかき硬度(鉛筆法)に準拠して鉛筆硬度を測定し、吸水性も上記の方法で確認した。その結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
厚紙に塗料Aを塗布した試験2の試験体は、スレート板に塗料Aを塗布した試験1の試験体より強度が低かった。これは、スレート板に塗料Aを塗布した試験1の塗膜は、スレート板がアルカリ性を示す基材であるため、塗料Aの硬化が進み、中性を示す厚紙に塗布した塗膜よりも強度が上がったためである。
また、pH11のコロイダルシリカを塗布してから塗料Aを塗布した試験3の試験体は、コロイダルシリカによって反応硬化が促進したためか基材が厚紙でも塗膜強度が強かった。
【0063】
塗膜の表面にpH11のコロイダルシリカを塗布した試験4の試験体は、コロイダルシリカを塗布することで、塗膜Aの反応硬化が進み易くなり、塗膜表面が緻密となって塗膜強度がより強くなったと考えられる。