(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109222
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】マルチマテリアルの点接合構造
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
B23K20/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013911
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(72)【発明者】
【氏名】野尻 誠
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AB02
4E167BF02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板との接合形態を最適化することで、生産性が高い条件で高強度と高信頼性を兼ね備えたマルチマテリアルの点接合構造を提供する。
【解決手段】鋼製の接合用エレメントの頭部と鋼板の間で非鉄金属板が機械的に締結されているとともに、鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板が摩擦圧接により接合されており、摩擦圧接の接合過程で熱伝導率の差を利用するために鋼製の接合用エレメントの材質をステンレス鋼とするとともに鋼板の材質を炭素鋼とすることで鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では鋼板と鋼製の接合用エレメントの足部との接触面から鋼製の接合用エレメントの頭部の方向に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていないことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦エレメント接合法により上板となる非鉄金属板と下板となる鋼板の重なり部分において鋼製の接合用エレメントを回転させながら上板側から押し当てることで異種金属板同士を点接合する構造であって、前記鋼製の接合用エレメントの頭部と前記鋼板の間で前記非鉄金属板が機械的に締結されているとともに、前記鋼製の接合用エレメントの足部と前記鋼板が摩擦圧接により接合されており、摩擦圧接の接合過程で熱伝導率の差を利用するために前記鋼製の接合用エレメントの材質をステンレス鋼とするとともに前記鋼板の材質を炭素鋼とすることで前記鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では前記鋼板と前記鋼製の接合用エレメントの足部との接触面から前記鋼製の接合用エレメントの頭部の方向に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていないことを特徴とするマルチマテリアルの点接合構造。
【請求項2】
前記非鉄金属板がアルミニウム合金板であることを特徴とする請求項1に記載のマルチマテリアルの点接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦エレメント接合法により上板となる非鉄金属板と下板となる鋼板の重なり部分において鋼製の接合用エレメントを回転させながら上板側から押し当てることで異種金属板同士を点接合する構造について、鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板との接合形態を最適化することに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業においては、環境問題への対応策の一つとして、車両重量の軽量化を実現するための技術開発が積極的に行われている。例えば、材料強度の異なる鋼板を組み合わせて使用する技術を開発することで、高強度化鋼板の利用による車両重量の軽量化を進めている。また、鋼板とアルミニウム合金板を組み合わせるなど異種材料を組み合わせて使用する技術を開発することで、マルチマテリアル化による車両重量の軽量化を進めている。
【0003】
自動車産業における板材同士の接合については、生産性の高い接合方法が必要となるので、板材同士の重なり部分において点接合する方法を採用することが多い。そのため、鋼板同士の接合については、スポット溶接法を主に採用している。一方で、鋼板とアルミニウム合金板の接合については、スポット溶接法で接合すると溶融凝固部に脆い金属間化合物が生成することで実用的な接合強度が得られないことから、リベットによる機械的接合法を主に採用している。しかしながら、高強度化鋼板とアルミニウム合金板の接合については、高強度化鋼板をリベットで打ち抜くには非常に大きな力が必要なので接合装置が大型化するなどの理由で、リベットによる機械的接合法を採用することができない。
【0004】
このような状況において、高強度化鋼板とアルミニウム合金板の接合に、下記の特許文献1などにより公知である接合方法であって、鋼製の接合用エレメントの頭部と下板となる鋼板の間で上板となるアルミニウム合金板が機械的接合法で接合されるとともに、鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板が摩擦圧接法と同様のプロセスで接合される締結方法として知られている摩擦エレメント接合法の採用が検討されはじめている。
【0005】
下記の非特許文献1では、市販の摩擦エレメント接合装置と接合用エレメントを用い、接合用エレメントを6,000~8,000rpmで回転させながら約5kNの力で押し込む条件でアルミニウム合金板と鋼板を摩擦エレメント接合法で接合できることが記載されている。ただし、接合過程と影響因子に不明確な部分が多いため、接合可能な材料とその組合せ、最適接合条件を明確にすることで、技術の更なる進歩が期待されることも記載されている。
【0006】
さらに、下記の非特許文献2では、市販の摩擦エレメント接合装置と接合用エレメントを用いた摩擦エレメント接合法に関する研究結果が記載されている。この文献でも、摩擦エレメント接合法については、鋼板とアルミニウム合金板の接合を対象に様々な検討がなされているものの、接合部の組織を詳細に観察した報告がないことが記載されている。また、類似の接合技術である摩擦スタッド接合法についても、高強度化鋼板を対象とした接合やその接合部の組織を詳細に観察した報告がないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】片岡時彦、EJOWELD®による新接合技術の評価、JFE-TEC News、No.51(2017)p.3
【0009】
【非特許文献2】松井翔、潮田浩作、藤井英俊、摩擦エレメント接合した鋼板継手における下板の炭素量と十字引張強さの関係、溶接学会論文集、第40巻(2022)1号、p.9-17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
摩擦エレメント接合法は、スポット溶接法やリベットによる機械的接合法では接合が難しいとされる高強度化鋼板とアルミニウム合金板の点接合が可能な接合方法であるので、技術の発展が期待される接合方法である。ただし、摩擦エレメント接合法で良好な接合結果を得るためには、「鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板が摩擦圧接法と同様のプロセスで接合される」という点で無数にある接合条件の組合せの中から最適な接合条件を探索する必要がある。しかしながら、最適接合条件を探索するに当たっては、鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板との接合形態をどのような接合形態とすれば良いのかが分かっていないことが問題となっている。
【0011】
本発明は、上述したような従来技術の課題に鑑み、摩擦エレメント接合法により上板となる非鉄金属板と下板となる鋼板の重なり部分において鋼製の接合用エレメントを回転させながら上板側から押し当てることで異種金属板同士を点接合する構造について、鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板との接合形態を最適化することで、生産性が高い条件で高強度と高信頼性を兼ね備えたマルチマテリアルの点接合構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るマルチマテリアルの点接合構造は、摩擦エレメント接合法により上板となる非鉄金属板と下板となる鋼板の重なり部分において鋼製の接合用エレメントを回転させながら上板側から押し当てることで異種金属板同士を点接合する構造であって、前記鋼製の接合用エレメントの頭部と前記鋼板の間で前記非鉄金属板が機械的に締結されているとともに、前記鋼製の接合用エレメントの足部と前記鋼板が摩擦圧接により接合されており、摩擦圧接の接合過程で熱伝導率の差を利用するために前記鋼製の接合用エレメントの材質をステンレス鋼とするとともに前記鋼板の材質を炭素鋼とすることで前記鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では前記鋼板と前記鋼製の接合用エレメントの足部との接触面から前記鋼製の接合用エレメントの頭部の方向に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていないことを特徴とする。また、前記非鉄金属板がアルミニウム合金板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るマルチマテリアルの点接合構造は、摩擦エレメント接合法により上板となる非鉄金属板と下板となる鋼板の重なり部分において鋼製の接合用エレメントを回転させながら上板側から押し当てることで異種金属板同士を点接合する構造であって、前記鋼製の接合用エレメントの頭部と前記鋼板の間で前記非鉄金属板が機械的に締結されているとともに、前記鋼製の接合用エレメントの足部と前記鋼板が摩擦圧接により接合されており、摩擦圧接の接合過程で熱伝導率の差を利用するために前記鋼製の接合用エレメントの材質をステンレス鋼とするとともに前記鋼板の材質を炭素鋼とすることで前記鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では前記鋼板と前記鋼製の接合用エレメントの足部との接触面から前記鋼製の接合用エレメントの頭部の方向に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていないことを特徴とするため、前記鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では撹拌領域と未撹拌領域との境界にできる欠陥を形成することがなく、高強度と高信頼性を兼ね備えたマルチマテリアルの点接合構造を提供することができる。また、摩擦圧接の接合過程で熱伝導率の差を利用するために前記鋼製の接合用エレメントの材質をステンレス鋼とするとともに前記鋼板の材質を炭素鋼とすることで、前記鋼製の接合用エレメントの接合時に必要な回転速度が熱伝導率の差を利用しない場合と比べて小さくすむので、摩擦エレメント接合法の生産性が高い条件でマルチマテリアルの点接合構造を提供することができる。
【0014】
さらに、本発明に係るマルチマテリアルの点接合構造は、前記非鉄金属板がアルミニウム合金板であることを特徴とするため、高強度化鋼板とアルミニウム合金板を板材の重なり部分において点接合する方法にニーズがある自動車産業でマルチマテリアルの点接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】摩擦エレメント接合法により上板となる非鉄金属板と下板となる鋼板の重なり部分において鋼製の接合用エレメントを回転させながら上板側から押し当てることで異種金属板同士を点接合する方法に関する説明図である。
【
図2】鋼製の接合用エレメントに関する断面図である。
【
図3】マルチマテリアルの点接合構造に関する模式図である。
【
図4】マルチマテリアルの点接合構造に関する引張せん断試験方法の模式図である。
【
図5】マルチマテリアルの点接合構造に関する十字引張試験方法の模式図である。
【
図6】マルチマテリアルの点接合構造に関する引張試験方法の模式図である。
【
図7】比較例1-1のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図8】比較例1-1の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【
図9】比較例1-2のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図10】比較例1-2の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【
図11】比較例1-3のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図12】比較例1-3の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【
図13】実施例1のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図14】実施例1の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【
図15】比較例2-1のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図16】比較例2-1の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【
図17】比較例2-2のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図18】比較例2-2の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【
図19】比較例2-3のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図20】比較例2-3の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【
図21】実施例2のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真である。
【
図22】実施例2の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、摩擦エレメント接合法により上板となる非鉄金属板と下板となる鋼板の重なり部分において鋼製の接合用エレメントを回転させながら上板側から押し当てることで異種金属板同士を点接合する方法に関する説明図である。本発明の実施の形態においては、鋼製の接合用エレメントの頭部と鋼板の間で非鉄金属板が機械的に締結されるとともに、鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板が摩擦圧接で接合されるように、非鉄金属板を上側に鋼板を下側に重ねて治具で金型に固定したものに、鋼製の接合用エレメントを回転速度、摩擦加熱時の推力と送り速度を制御しながら上板側から押し当てる。
【0018】
摩擦エレメント接合法による本発明の実施の形態をより詳細に説明すると、回転する鋼製の接合用エレメントの足部は、上板となる非鉄金属板を貫通した後に、下板となる鋼板と接触している間に接触部が摩擦熱で加熱される。そして、鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板の接触部近傍が目的の温度分布になったタイミングで鋼製の接合用エレメントの回転を止めるとともに推力を大きくすることで、鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板が摩擦圧接で接合されるとともに、鋼製の接合用エレメントの頭部と下板となる鋼板の間で非鉄金属板が機械的に締結される。
【0019】
鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板との接合形態を最適化するために様々な接合条件で試験を行ったところ、摩擦エレメント接合法では、鋼製の接合用エレメントと下板となる鋼板のサイズや形状が異なるために、異径の同種丸棒材料を突き合わせで摩擦圧接する際と同様に摩擦圧接の接合過程で鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板との接触部近傍でのヒートバランスが崩れやすく、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が接合時に形成されやすいことが分かった。また、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部に撹拌領域が形成された場合、撹拌領域と未撹拌領域との境界に欠陥ができてしまい、その欠陥の大きさによっては実用的な接合強度が得られないことが分かった。さらに、撹拌領域と未撹拌領域の境界の欠陥の大きさをコントロールすることが難しいため、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部において接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されないようにする必要があることが分かった。
【0020】
鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部において接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されないようにするためには、適当な摩擦加熱時の推力と送り上限速度のもと、必要な回転速度で鋼製の接合用エレメントを回転させることで、接触面から鋼製の接合用エレメントの軸の内部に回転面が移動しないようにしなければならない。必要な回転速度が不足したり、または、必要な回転速度であっても過大な推力を与えたりすると接触面から鋼製の接合用エレメントの軸の内部に回転面が移動しやすくなる。なお、必要な回転速度は、鋼製の接合用エレメントの材質や表面処理によって異なると考えられるが、接合装置には回転速度の上限があることと加減速の程度の違いで生産性が大きく左右されることから、なるべく小さい方が好ましい。
【0021】
また、鋼製の接合用エレメントと鋼板との接触部近傍が接合に好適な温度分布になったタイミングで減速を行う必要がある。減速のタイミングが悪いと、接触面から鋼製の接合用エレメントの軸の内部に回転面が移動しやすくなる。さらに、減速開始から少し時間をおいて回転が停止する直前で大きな接合時の推力を与える必要がある。減速開始からすぐに大きな接合時の推力を与えると、または、接合時の推力を与える前に鋼製の接合用エレメントの頭部が上板となる非鉄金属板に接触すると、鋼製の接合用エレメントと下板となる鋼板の間で非鉄金属板の排出がすすまないので好ましくない。
【0022】
図2は、鋼製の接合用エレメントに関する断面図である。本発明の実施形態においては、つかみ部を設けることで接合装置の把持部で鋼製の接合用エレメントをつかみやすく、また、先端を円錐状にすることで非鉄金属板に集中荷重をかけて貫通しやすい断面形状を例として挙げる。なお、鋼製の接合用エレメントの材質については、接合部が接合時の熱でマルテンサイト変態して硬化することを避けるために、炭素量の少ない鋼材を用いる方が良い。
【0023】
図3は、マルチマテリアルの点接合構造に関する模式図である。接合後の外観からは、鋼製の接合用エレメントの頭部と下板となる鋼板の間で上板となる非鉄金属板が機械的に締結されている状況を確認することができるが、鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板が摩擦圧接で接合されている状況を確認することができない。そのため、接合部の断面金属組織を観察することで、鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板との接合形態を確認する必要がある。また、点接合構造の実際の強度については、強度試験により接合部の強度を測定する必要がある。
【実施例0024】
鋼製の接合用エレメントの寸法は、鋼製の接合用エレメントのつかみ部と鋼製の接合用エレメントの頭部を一体化したものを直径が8mmで高さが50mmとするとともに、鋼製の接合用エレメントの足部を直径が3mmで高さが2.5mm(鋼製の接合用エレメントの断面形状は
図2に示すように軸部と頭部の接続部分で傘のような形となるため、2.5mmの高さのうち1mmの高さの部分は頭部の内部に形成されるようにしたもの)の円柱と同じく直径が3mmで高さが1mmの円錐部が一体化したものとした。
【0025】
下板となる鋼板の寸法は、板厚が1mmとした。また、下板となる鋼板の材質は、炭素鋼で冷間圧延鋼板であるSPFC980Y(ビッカース硬さ:290HV1)で表面処理を行っていないものを用いた。
【0026】
上板となる非鉄金属板の寸法は、板厚が1mmとした。また、上板となる非鉄金属板の材質は、アルミニウム合金板のA6061T6(ビッカース硬さ:100HV1)で表面処理を行っていないものを用いた。
【0027】
接合部の強度を測定するためには、
図4に示す引張せん断試験(幅30mm×長さ100mm×板厚1mmの板を30mmのラップ長さで重ねたもの)、
図5に示す十字引張試験(幅50mm×長さ150mm×板厚1mmの板を中心で十字に重ねたもの)が一般的であるが、鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板との接合強度が非鉄金属板で破壊する強度以上だと非鉄金属板で破壊してしまうため、鋼製の接合用エレメントの足部と下板となる鋼板との接合強度を評価することができない。そのため、
図6に示す引張試験を行った。
【0028】
また、接合部を垂直に切断した断面を研磨し、鋼製の接合用エレメントの材質が炭素鋼である場合については硝酸アルコール溶液で化学腐食、鋼製の接合用エレメントの材質がステンレス鋼である場合についてはシュウ酸水溶液で電解腐食することで、鋼製の接合用エレメントの断面金属組織観察を行った。
【0029】
比較例1-1の摩擦エレメント接合法の接合条件は、鋼製の接合用エレメントの材質を炭素鋼のSCM415(ビッカース硬さ:280HV1)で表面処理のないものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を2.00kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
【0030】
比較例1-1のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真を
図7に示す。鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていることが分かる。また、比較例1-1の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真を
図8に示す。比較例1-1の引張試験の強度は2.5kNであった。
【0031】
比較例1-2の摩擦エレメント接合法の接合条件は、鋼製の接合用エレメントの材質を炭素鋼のSCM415(ビッカース硬さ:280HV1)で表面処理のないものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を1.20kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
【0032】
比較例1-2のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真を
図9に示す。鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていることが分かる。また、比較例1-2の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真を
図10に示す。比較例1-2の引張試験の強度は6.4kNであった。この点接合構造に関しては、引張試験の結果が高強度ではあるが、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では撹拌領域と未撹拌領域との境界に欠陥が形成されており、その欠陥の大きさが不定であることから接合部強度の信頼性が低いものであると考えられた。
【0033】
比較例1-3の摩擦エレメント接合法の接合条件は、鋼製の接合用エレメントの材質を炭素鋼のSCM415(ビッカース硬さ:280HV1)で電気亜鉛メッキの表面処理を施したものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を1.50kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
【0034】
比較例1-3のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真を
図11に示す。鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていることが分かる。また、比較例1-3の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真を
図12に示す。比較例1-3の引張試験の強度は3.3kNであった。
【0035】
以上の結果から、比較例1-1、比較例1-2、比較例1-3の炭素鋼である鋼製の接合用エレメントの足部と表面処理を行っていない炭素鋼である鋼板との接合形態は、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されているので最適なものではないと考えられた。
【0036】
鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板との接合形態を最適化することを目的とした試行錯誤の結果、実施例1の摩擦エレメント接合法の接合条件は、摩擦圧接の接合過程で炭素鋼である鋼板との熱伝導率の差を利用するために鋼製の接合用エレメントの材質をステンレス鋼のSUS304(ビッカース硬さ:280HV1)で表面処理のないものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を1.25kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
【0037】
実施例1のマルチマテリアルの点接合構造に関する断面金属組織写真を
図13に示す。鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていないことが分かる。また、実施例1の引張試験後における鋼製の接合用エレメントに関する断面金属組織写真を
図14に示す。実施例1の引張試験の強度は6.8kNであった。
【0038】
以上の結果から、実施例1のステンレス鋼である鋼製の接合用エレメントの足部と表面処理を行っていない炭素鋼である鋼板との接合形態は、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていないので最適なものであると考えられた。
下板となる鋼板の寸法は、板厚が1mmとした。また、下板となる鋼板の材質は、炭素鋼で溶融亜鉛めっき鋼板であるJAC980Y(ビッカース硬さ:290HV1)を用いた。
上板となる非鉄金属板の寸法は、実施例1と同様に板厚が1mmとした。また、上板となる非鉄金属板の材質は、実施例1と同様にアルミニウム合金板のA6061T6(ビッカース硬さ:100HV1)で表面処理を行っていないものを用いた。
また、実施例1と同様に、接合部を垂直に切断した断面を研磨し、鋼製の接合用エレメントの材質が炭素鋼である場合については硝酸アルコール溶液で化学腐食、鋼製の接合用エレメントの材質がステンレス鋼である場合についてはシュウ酸水溶液で電解腐食することで、鋼製の接合用エレメントの断面金属組織観察を行った。
比較例2-1の摩擦エレメント接合法の接合条件は、鋼製の接合用エレメントの材質を炭素鋼のSCM415(ビッカース硬さ:280HV1)で表面処理のないものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を2.00kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
比較例2-2の摩擦エレメント接合法の接合条件は、鋼製の接合用エレメントの材質を炭素鋼のSCM415(ビッカース硬さ:280HV1)で表面処理のないものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を1.10kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
比較例2-3の摩擦エレメント接合法の接合条件は、鋼製の接合用エレメントの材質を炭素鋼のSCM415(ビッカース硬さ:280HV1)で電気亜鉛メッキの表面処理を施したものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を1.50kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
以上の結果から、比較例2-1、比較例2-2、比較例2-3の炭素鋼である鋼製の接合用エレメントの足部と溶融亜鉛めっき処理を行った炭素鋼である鋼板との接合形態は、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されているので最適なものではないと考えられた。
鋼製の接合用エレメントの足部と鋼板との接合形態を最適化することを目的とした試行錯誤の結果、実施例2の摩擦エレメント接合法の接合条件は、摩擦圧接の接合過程で炭素鋼である鋼板との熱伝導率の差を利用するために鋼製の接合用エレメントの材質をステンレス鋼のSUS304(ビッカース硬さ:280HV1)で表面処理のないものとし、回転数を10,000rpm、摩擦加熱時の推力を1.20kN(送り上限速度を6mm/秒に設定)、鋼製の接合用エレメントを把持した機械の変位(試運転時に鋼製の接合用エレメントを回転させずに3.20kNの推力で上板となる非鉄金属板に接触させた位置を原点としたところからの変位)が1.25mmになったときに減速を開始し、減速開始から0.1秒後に与える接合時の推力を3.20kN(送り上限速度を18mm/秒に設定)にすることとした。
以上の結果から、実施例2のステンレス鋼である鋼製の接合用エレメントの足部と溶融亜鉛めっき処理を行った炭素鋼である鋼板との接合形態は、鋼製の接合用エレメントの足部の軸内部では接合時に摩擦回転面が移動することによって生じる撹拌領域が形成されていないので最適なものであると考えられた。