(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109234
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】インクジェット印刷機、クリーニング方法、および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
B41J2/165 401
B41J2/165 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013933
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴨田 雄二
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EA21
2C056EC03
2C056EC08
2C056EC32
2C056EC53
2C056FA13
2C056FA14
2C056JB05
2C056JB15
(57)【要約】
【課題】ノズル面に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させる。
【解決手段】インクジェット印刷機1は、ヘッドのノズルの表面であるノズル面に洗浄液を供給する供給部と、ノズル面を払拭する払拭部と、ノズル内の負圧を制御する制御部10とを備える。制御部10は、供給部によるノズル面への洗浄液の供給時には、印刷時よりもノズル内の負圧を大きくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドのノズルの表面であるノズル面に洗浄液を供給する供給部と、
前記ノズル面を払拭する払拭部と、
前記ノズル内の負圧を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記供給部による前記ノズル面への前記洗浄液の供給時には、印刷時よりも前記ノズル内の負圧を大きくする、インクジェット印刷機。
【請求項2】
前記制御部は、前記供給時における前記洗浄液の供給量が多いほど、前記供給時における前記ノズル内の負圧を大きくする、請求項1に記載のインクジェット印刷機。
【請求項3】
前記制御部は、前記供給時における前記洗浄液の供給時間が長いほど、前記供給時における前記ノズル内の負圧を大きくする、請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項4】
前記供給時における前記ヘッドと前記供給部との相対速度と、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ヘッドと前記払拭部との相対速度とのいずれよりも、前記供給部による前記洗浄液の供給が終了してから前記払拭部による払拭が開始されるまでの移行期間における前記ヘッドと前記払拭部との相対速度の方が大きい、請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項5】
前記制御部は、前記供給部による前記洗浄液の供給が終了してから前記払拭部による払拭が開始されるまでの移行期間が長いほど、前記供給時における前記ノズル内の負圧を大きくする、請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項6】
前記制御部は、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時には前記供給時よりも前記ノズル内の負圧を小さくする、請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項7】
前記制御部は、前記払拭時には前記印刷時よりも前記ノズル内の負圧を小さくする、請求項6に記載のインクジェット印刷機。
【請求項8】
前記制御部は、前記供給時における前記洗浄液の供給量が多いほど、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ノズル内の負圧を小さくする、請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項9】
前記払拭部は、前記ノズル面に接触して前記ノズル面を払拭する払拭部材を含み、
前記制御部は、前記払拭部材を前記ノズル面に押し当てる押圧力が大きいほど、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ノズル内の負圧を大きくする、請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項10】
前記制御部は、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ヘッドと前記払拭部との相対速度が大きいほど、前記払拭時における前記ノズル内の負圧を小さくする、請求項1または2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項11】
ヘッドのノズルの表面であるノズル面に洗浄液を供給する供給部と、前記ノズル面を払拭する払拭部とを備えるインクジェット印刷機における当該ノズル面のクリーニング方法であって、
前記供給部による前記ノズル面への前記洗浄液の供給時には、印刷時よりも前記ノズル内の負圧を大きくすることを含む、クリーニング方法。
【請求項12】
請求項11に記載のクリーニング方法をコンピューターに実行させる、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェット印刷機、当該インクジェット印刷機におけるヘッドのノズル面のクリーニング方法、および当該クリーニング方法をコンピューターに実行させる制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷機のインクヘッド(以下、「ヘッド」と称する)のノズル面には、印刷時のサテライト等によりインクが付着する。サテライトは、ヘッドのノズルから射出されたインクの主滴から分離してできる小液滴である。ノズル面に付着したインクは時間の経過に伴って固着するため、当該インクはノズル面に強固に付着する。ノズル面に固着したインクを払拭するためには、インク払拭時の押圧力を大幅に増加させなければならない。しかしながら、押圧力の大幅な増加はノズル面の摩耗を進め、ヘッドの寿命を著しく縮めてしまう。
【0003】
そこで、インクの払拭に先立って、インクの付着力を低下させるためにノズル面に洗浄液を供給することが有効となる。洗浄液の供給方法としては、「浸漬」と「小液滴供給」とがある。「浸漬」よりも「小液滴供給」の方が、洗浄液がノズル面に固着したインクとノズル面との間の界面へ侵入しやすい。また、「浸漬」よりも「小液滴供給」の方が、洗浄液がノズル面に均一に残留しやすい。なぜなら、「浸漬」では、ノズル面が洗浄液溜まりから離れるときに、洗浄液がノズル面の撥水性により弾かれてノズル面上にほとんど残らないためである。したがって、ノズル面に付着した付着物の払拭性という観点では、「浸漬」よりも「小液滴供給」の方が有効である。また、ノズル面に付着した付着物の払拭性という観点では、「小液滴供給」における小液滴の粒径は小さい方がより有利となるため、いわゆるミストと呼ばれる状態でノズル面に洗浄液を供給することが望ましい。
【0004】
例えば、特開2008-254200号公報および特開2019-59100号公報には、洗浄液の供給方法として「小液滴供給」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-254200号公報
【特許文献2】特開2019-59100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、洗浄液の供給方法として「小液滴供給」を採用する場合に、洗浄液がノズル内のインクを引き出しながら凝集する結果、ノズル面に局所的で多量のインク溜まり(インクと洗浄液との少なくとも一方を含む)が発生し、ヘッドの寿命を縮めるという課題に着目した。インク溜まりによりヘッドの寿命が縮まる理由は、インク溜まりの払拭時に、インク中に存在する顔料等の固形成分が研磨剤として作用し、ノズル面の摩耗が進むためである。これに対し、上記の特許文献1および2はいずれも、洗浄液の供給方法として「小液滴供給」を採用した場合に、洗浄液によるインクの引き出し性に起因するヘッドの耐久性低下について考慮されていない。
【0007】
本開示は、ノズル面に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面に従うインクジェット印刷機は、ヘッドのノズルの表面であるノズル面に洗浄液を供給する供給部と、ノズル面を払拭する払拭部と、ノズル内の負圧を制御する制御部とを備える。制御部は、供給部によるノズル面への洗浄液の供給時には、印刷時よりもノズル内の負圧を大きくする。
【0009】
好ましくは、制御部は、供給時における洗浄液の供給量が多いほど、供給時におけるノズル内の負圧を大きくする。
【0010】
好ましくは、制御部は、供給時における洗浄液の供給時間が長いほど、供給時におけるノズル内の負圧を大きくする。
【0011】
好ましくは、供給時におけるヘッドと供給部との相対速度と、払拭部によるノズル面の払拭時におけるヘッドと払拭部との相対速度とのいずれよりも、供給部による洗浄液の供給が終了してから払拭部による払拭が開始されるまでの移行期間におけるヘッドと払拭部との相対速度の方が大きい。
【0012】
好ましくは、制御部は、供給部による洗浄液の供給が終了してから払拭部による払拭が開始されるまでの移行期間が長いほど、供給時におけるノズル内の負圧を大きくする。
【0013】
好ましくは、制御部は、払拭部によるノズル面の払拭時には供給時よりもノズル内の負圧を小さくする。
【0014】
好ましくは、制御部は、払拭時には印刷時よりもノズル内の負圧を小さくする。
【0015】
好ましくは、制御部は、供給時における洗浄液の供給量が多いほど、払拭部によるノズル面の払拭時におけるノズル内の負圧を小さくする。
【0016】
好ましくは、払拭部は、ノズル面に接触してノズル面を払拭する払拭部材を含む。制御部は、払拭部材をノズル面に押し当てる押圧力が大きいほど、払拭部によるノズル面の払拭時におけるノズル内の負圧を大きくする。
【0017】
好ましくは、制御部は、払拭部によるノズル面の払拭時におけるヘッドと払拭部との相対速度が大きいほど、払拭時におけるノズル内の負圧を小さくする。
【0018】
本開示の他の局面に従うクリーニング方法は、ヘッドのノズルの表面であるノズル面に洗浄液を供給する供給部と、ノズル面を払拭する払拭部とを備えるインクジェット印刷機における当該ノズル面のクリーニング方法である。当該クリーニング方法は、供給部によるノズル面への洗浄液の供給時には、印刷時よりもノズル内の負圧を大きくすることを含む。
【0019】
本開示の他の局面に従う制御プログラムは、上述のクリーニング方法をコンピューターに実行させる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、ノズル面に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施の形態におけるインクジェット印刷機の一例を示す図である。
【
図2】本実施の形態におけるインクジェット印刷機のハードウエア構成の一例を示す図である。
【
図3】本実施の形態における、洗浄液の供給開始位置とノズル面への洗浄液の供給方法とを示す図である。
【
図4】本実施の形態における、洗浄液の供給終了位置とノズル面への洗浄液の供給方法とを示す図である。
【
図5】本実施の形態における、ノズル面の払拭方法を示す図である。
【
図6】本実施の形態における供給部の詳細な構成を示す図である。
【
図7】
図6に示す矢印AR6の方向から見たときの振動子65の平面図である。
【
図8】
図7に示すI-I線に沿った振動子65の断面図である。
【
図9】洗浄液をヘッドのノズル面に供給した場合の当該ノズル面の第1の状態を示す図である。
【
図10】洗浄液をヘッドのノズル面に供給した場合の当該ノズル面の第2の状態を示す図である。
【
図11】洗浄液をヘッドのノズル面に供給した場合の当該ノズル面の第3の状態を示す図である。
【
図12】本実施の形態における印刷時におけるノズル内の負圧の大きさを示す図である。
【
図13】本実施の形態における供給時におけるノズル内の負圧の大きさを示す図である。
【
図14】本実施の形態における払拭時におけるノズル内の負圧の大きさを示す図である。
【
図15】本実施の形態におけるクリーニング処理の手順の一部を示すフローチャートである。
【
図16】本実施の形態におけるクリーニング処理の手順の残りの部分を示すフローチャートである。
【
図17】ヘッドのノズル周辺の摩耗を示す図である。
【
図18】比較例および実施例1~3の評価結果を示す図である。
【
図19】変形例1における印刷時と供給時とにおけるノズル内の負圧の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本開示に従う実施の形態および変形例について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される実施の形態および変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0023】
[実施の形態]
<A.インクジェット印刷機の構成>
図1および
図2を参照して、本実施の形態におけるインクジェット印刷機の構成について説明する。
図1は、本実施の形態におけるインクジェット印刷機の一例を示す図である。
図2は、本実施の形態におけるインクジェット印刷機のハードウエア構成の一例を示す図である。
【0024】
図1および
図2を参照して、インクジェット印刷機1は、インクを用いてシートPに画像を印刷する。インクは、水系でもよいし、UV(ultraviolet)硬化樹脂系でもよい。シートは、例えば、用紙である。
【0025】
インクジェット印刷機1は、制御部10と、給紙部20と、印刷部30と、定着部40と、排紙部50と、クリーニング部80と、操作パネル90と、通信インターフェイス95とを備える。制御部10と、給紙部20と、印刷部30と、定着部40と、排紙部50と、クリーニング部80と、操作パネル90と、通信インターフェイス95とは、バス99で接続される。
【0026】
制御部10は、プロセッサー11、メモリー12、およびストレージ13を含む。プロセッサー11は、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)などで構成される。メモリー12は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)などの揮発性記憶装置で構成される。ストレージ13は、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはフラッシュメモリーなどの不揮発性記憶装置で構成される。
【0027】
ストレージ13は、プログラム131を記憶する。プログラム131は、インクジェット印刷機1を制御するためのコンピューター読取可能な命令を含む。プログラム131は、本開示における「制御プログラム」を含む。プロセッサー11はプログラム131を実行することで、インクジェット印刷機1の各部を制御し、本実施の形態に従う各種処理を実現する。
【0028】
プログラム131は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、任意のプログラムと協働して本実施の形態に従う処理が実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従うインクジェット印刷機1の趣旨を逸脱するものではない。また、プログラム131によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウエアによって実現されてもよい。
【0029】
給紙部20は、シートPを1枚ずつ印刷部30へ供給する。印刷部30は、搬送されてきたシートPに画像データに基づく画像をインクを用いて形成(印刷)する。印刷部30は、ヘッド31Y、ヘッド31M、ヘッド31C、ヘッド31K、および搬送ドラム32を含む。
【0030】
ヘッド31Yは、イエローのインクを吐出する。ヘッド31Mは、マゼンタのインクを吐出する。ヘッド31Cは、シアンのインクを吐出する。ヘッド31Kは、ブラックのインクを吐出する。以下の説明において、ヘッド31Y、ヘッド31M、ヘッド31C、およびヘッド31Kを区別しない場合には、「ヘッド31」と称する。ヘッド31は、複数のノズルを保持するノズルプレートを含む。ノズルは、制御部10の指示に従って、インクを吐出する。
【0031】
搬送ドラム32は、シートPを搬送する部材である。搬送ドラム32は、円柱状である。搬送ドラム32は、その外周面である搬送面32a上にシートPを保持した状態で、矢印AR1の方向に回転することによりシートPを搬送する。搬送ドラム32は、搬送ドラム32を回転させるためのモーターに接続されており、当該モーターの回転量に比例した角度だけ回転する。
【0032】
定着部40は、シートPに紫外線等を照射して、インクをシートPに定着させる。排紙部50は、印刷部30から搬送されてきた印刷後のシートPが載置される排紙トレイ51を含む。
【0033】
クリーニング部80は、供給部60と、払拭部70とを含む。供給部60は、ヘッド31のノズルの表面であるノズル面に洗浄液を小液滴(以下、「ミスト」とも称する)の状態で供給する。すなわち、本実施の形態におけるインクジェット印刷機1では、洗浄液の供給方法として「小液滴供給」を採用する。洗浄液は、インクとある程度の相溶性を持つ洗浄効果のある液体であればよい。洗浄液は、純水でもよいし、純水でなくてもよい。小液滴の平均直径は、例えば、20μm以下である。払拭部70は、ヘッド31のノズル面を払拭する。
【0034】
操作パネル90は、入力部91と表示部92とを含む。入力部91は、ユーザーの操作を受け付け、当該操作を操作信号に変換してプロセッサー11に出力する。入力部91は、例えばタッチパッドである。表示部92は、インクジェット印刷機1の動作ステータスや処理結果等の各種情報を表示する。表示部92は、例えば、液晶ディスプレイである。操作パネル90では、入力部91が表示部92に重ねられて配置されている。
【0035】
通信インターフェイス95は、外部装置500と情報の送受信を行う。一例として、プロセッサー11は、通信インターフェイス95を介して、外部装置500から画像データを受信する。
【0036】
<B.クリーニング部>
図3~
図5を参照して、クリーニング部80によるヘッド31のノズル面のクリーニング動作について説明する。クリーニング動作は、供給部60によるヘッド31のノズル面への洗浄液の供給と、払拭部70によるヘッド31のノズル面の払拭とを含む。以下の説明において、供給部60によるヘッド31のノズル面への洗浄液の供給時を単に「供給時」とも称し、払拭部70によるヘッド31のノズル面の払拭時を単に「払拭時」とも称する。
【0037】
図3は、本実施の形態における、洗浄液の供給開始位置とノズル面への洗浄液の供給方法とを示す図である。
図4は、本実施の形態における、洗浄液の供給終了位置とノズル面への洗浄液の供給方法とを示す図である。
図5は、本実施の形態における、ノズル面の払拭方法を示す図である。
【0038】
図3および
図4を参照して、供給部60によるヘッド31のノズル面33への洗浄液の供給について説明する。ヘッド31は、駆動部D1の駆動によって移動する。駆動部D1は、制御部10の指示に従って駆動する。供給部60は、制御部10の指示に従って洗浄液のミストを発生させる。洗浄液のミストは、供給部60から噴霧される。
【0039】
クリーニング動作の開始条件が成立した場合には、ヘッド31は洗浄液の供給開始位置に移動する。洗浄液の供給開始位置は、ヘッド31のノズル面33のうち供給時におけるヘッド31の進行方向の先端部34と供給部60とが対向する位置である。本実施の形態においては、供給時におけるヘッド31の進行方向は、矢印AR2の方向である。
図3において、ヘッド31は洗浄液の供給開始位置に位置している。
【0040】
洗浄液の供給開始条件が成立した場合には、供給部60から洗浄液のミストが噴霧されるとともに、ヘッド31の移動が開始される。ヘッド31は、洗浄液の供給開始位置から洗浄液の供給終了位置まで移動する。洗浄液の供給終了位置は、ヘッド31のノズル面33のうち供給時におけるヘッド31の進行方向の後端部35と供給部60とが対向する位置である。
図4において、ヘッド31は洗浄液の供給終了位置に位置している。
【0041】
洗浄液のミストが噴霧されている間にヘッド31が供給開始位置から供給終了位置まで移動することにより、ヘッド31のノズル面33の全面に洗浄液が供給される。
【0042】
図5を参照して、払拭部70によるヘッド31のノズル面33の払拭について説明する。払拭部70は、ウェブ71、バックアップローラー72、ローラー73、および駆動部D2を含む。ウェブ71は、本開示における「払拭部材」の一例である。ウェブ71は、ノズル面33に接触してノズル面33を払拭する。ウェブ71は、ロール状に巻かれており、引き出されて使用される。以下の説明において、ウェブ71が引き出されることを、「ウェブ71の搬送」とも称する。ウェブ71の材質は、インクおよび洗浄液を吸収しやすい材質である。ウェブ71の材質は、例えば、ポリエチレンの織物である。ウェブ71は、バックアップローラー72に掛け渡されている。
【0043】
バックアップローラー72は、ウェブ71をヘッド31のノズル面33に押し当てる。これにより、ノズル面33に付着している付着物がウェブ71によって吸収される。以下の説明において、ノズル面33に付着している付着物を単に「付着物」とも称する。付着物は、インクと洗浄液との少なくとも一方を含む。バックアップローラー72の材質は、例えば、シリコンのスポンジである。バックアップローラー72は、ウェブ71が吸収しきれなかった付着物を吸収する。
【0044】
ローラー73は、駆動部D2の駆動によって矢印AR3の方向に回転する。駆動部D2は、制御部10の指示に従って駆動する。ローラー73の回転に伴ってウェブ71が矢印AR4の方向に搬送され、ノズル面33に付着している付着物が拭き取られる。
【0045】
供給部60によるヘッド31のノズル面33への洗浄液の供給が終了すると、ヘッド31は、払拭開始位置へ移動する。払拭開始位置は、ヘッド31のノズル面33のうち払拭時におけるヘッド31の進行方向の先端部34と、バックアップローラー72に掛け渡されているウェブ71とが接する位置である。本実施の形態においては、払拭時におけるヘッド31の進行方向は、矢印AR2の方向である。
【0046】
ノズル面33の払拭開始条件が成立した場合には、ローラー73が回転してウェブ71の搬送が開始されるとともに、ヘッド31の移動が開始される。ヘッド31は、払拭開始位置から払拭終了位置まで移動する。払拭終了位置は、ヘッド31のノズル面33のうち払拭時におけるヘッド31の進行方向の後端部35と、バックアップローラー72に掛け渡されているウェブ71とが接する位置である。
【0047】
払拭時において、ヘッド31の進行方向は矢印AR2の方向であり、ウェブ71の搬送方向は矢印AR4の方向である。すなわち、払拭時において、ノズル面33とウェブ71とが接する位置では、ヘッド31の移動方向とウェブ71の搬送方向とは逆になる。ウェブ71が搬送されている間にヘッド31が払拭開始位置から払拭終了位置まで移動することにより、ヘッド31のノズル面33の全面が払拭され、ノズル面33の付着物が拭き取られる。
【0048】
図6~
図8を参照して、供給部60の構成について説明する。
図6は、本実施の形態における供給部の詳細な構成を示す図である。供給部60には、洗浄液タンク61から供給された洗浄液62が貯留されている。供給部60は、ポンプ63を介して洗浄液タンク61と接続されている。洗浄液タンク61には、洗浄液62が貯留されている。供給部60内の液面が所定値以上に維持されるように、ポンプ63が作動して、洗浄液62が洗浄液タンク61から供給部60へ供給される。
【0049】
供給部60では、洗浄液62に多孔質体64が浸漬されている。多孔質体64に含浸された洗浄液62は、多孔質体64の上部に搭載された振動子65が高周波で振動することによりミスト状で噴霧される。
図6における矢印AR5は、洗浄液62のミストが噴霧される方向を示す。
【0050】
図7は、
図6に示す矢印AR6の方向から見たときの振動子65の平面図である。
図8は、
図7に示すI-I線に沿った振動子65の断面図である。振動子65は、振動板65aと、圧電素子65bとを含む。圧電素子65bは、中空円柱状である。振動板65aは、金属製の薄い円板で中央部に複数の貫通孔を有する。当該複数の貫通孔を介して、洗浄液62のミストが噴霧される。
図8における矢印AR5は、洗浄液62のミストが噴霧される方向を示す。
【0051】
<C.小液滴供給の課題>
図9~
図11を参照して、本実施の形態におけるインクジェット印刷機1で洗浄液の供給方法として採用されている「小液滴供給」の課題について説明する。
図9は、洗浄液をヘッドのノズル面に供給した場合の当該ノズル面の第1の状態を示す図である。
図10は、洗浄液をヘッドのノズル面に供給した場合の当該ノズル面の第2の状態を示す図である。
図11は、洗浄液をヘッドのノズル面に供給した場合の当該ノズル面の第3の状態を示す図である。
図9~
図11に示す矢印AR7は、洗浄液の供給方向を示す。
【0052】
ヘッド31は、ノズルプレート36を含み、ノズルプレート36は、複数のノズル37を保持する。ノズル37は、制御部10の指示に従って、インクを吐出する。洗浄液をミストの状態でノズル面33に供給した場合、洗浄液のミスト5aは最初、ノズル面33に均一に付着する(
図9参照)。しかしながら、ノズル面33は撥水性を有しているため、洗浄液のミスト5aは次第に凝集していく。洗浄液にはインクとある程度の相溶性を持たせているため、洗浄液のミスト5aはノズル37内のインクを引き出しながら凝集していく(
図10参照)。
【0053】
その結果、ノズル面33には、局所的で多量のインク溜まり5bが生じる(
図10および
図11参照)。インク溜まり5bは、インクと洗浄液との少なくとも一方を含む。払拭時において、インク中に存在する顔料等の固形成分は研磨剤として作用する。そのため、払拭部70によるノズル面33の払拭時に、インク溜まり5bが原因でヘッド31(より具体的には、ノズル面33)の摩耗が進む。払拭時において、ウェブ71とノズル面33との間に形成されるニップ中に存在するインクが多いほど、ノズル面33の摩耗が進む。すなわち、「小液滴供給」には、洗浄液によるインクの引き出し性に起因してヘッドの耐久性が低下するという課題がある。
【0054】
また、ノズル37の内部にも洗浄液のミストが供給されるため、洗浄液のミストが凝集する過程でノズル37の内部に気泡が生じる可能性がある。ノズル37内に残留している洗浄液および気泡はインクの射出性に影響を及ぼす。そのため、印刷時に不具合が生じる可能性が高い。すなわち、「小液滴供給」には、ノズル37内に残留している洗浄液および気泡の少なくとも一方に起因して印刷時のインクの射出性が低下するという課題がある。
【0055】
上述の通り、ノズル面に付着した付着物の払拭性という観点では、洗浄液の供給方法のうち「浸漬」よりも「小液滴供給」の方が有効である。しかしながら、「小液滴供給」には、上記2つの課題がある。「小液滴供給」における上記2つの課題を解決する方法が求められている。
【0056】
<D.インクジェット印刷機のクリーニング処理>
図12~
図14を参照して、インクジェット印刷機1におけるノズル内の負圧制御について説明する。
図12は、本実施の形態における印刷時におけるノズル内の負圧の大きさを示す図である。
図13は、本実施の形態における供給時におけるノズル内の負圧の大きさを示す図である。
図14は、本実施の形態における払拭時におけるノズル内の負圧の大きさを示す図である。
【0057】
制御部10は、ヘッド31のノズル37内の負圧を制御する。制御部10は、印刷時におけるノズル37内の負圧をノズル37の開口部38からのインク6の射出性に対して最適なメニスカス(
図12参照)が形成されるような大きさに設定する。以下の説明において、負圧の大きさを大気圧からのマイナス幅(-nkPa(nは数値))で表す。
【0058】
制御部10は、供給時には印刷時よりもノズル37内の負圧を大きくする。これにより、供給時には、インク6がノズル37の奥側の方(開口部38とは反対の方)まで後退する(
図13参照)。負圧を大きくするということは、大気圧からのマイナス幅を大きくするということであり、マイナス幅におけるnの値を大きくするということである。例えば、負圧を大きくするということは、負圧を-1kPaから-2kPaに変更するということである。
【0059】
供給時には印刷時よりもノズル37内の負圧が大きくなるため、供給時における洗浄液によるノズル37からのインク6の引き出しが抑制される。そのため、ノズル面33に局所的で多量のインク溜まりが発生することが抑制される。インク溜まりの発生が抑制されるということは、払拭時に研磨剤として作用する固形成分が少ないということであるため、ヘッドの耐久性が向上する。
【0060】
制御部10は、払拭時には供給時よりもノズル37内の負圧を小さくする。より好ましくは、制御部10は、払拭時には印刷時よりもノズル37内の負圧を小さくする。これにより、払拭時には、インク6がノズル37の開口部38近くまで存在する(
図14参照)。以下の説明において、負圧を小さくするということは、大気圧からのマイナス幅を小さくするということであり、マイナス幅におけるnの値を小さくするということである。例えば、負圧を小さくするということは、負圧を-2kPaから-1kPaに変更するということである。
【0061】
払拭時には供給時よりもノズル37内の負圧が小さくなるため、ノズル37内に残留している洗浄液および気泡の引き出しが促進される。そのため、洗浄液および気泡はノズル37から引き出され、ノズル面33に付着している付着物と共に払拭される。ノズル37内の洗浄液および気泡の除去性が向上することから、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0062】
図15および
図16を参照して、本実施の形態におけるインクジェット印刷機1のクリーニング処理の手順について説明する。クリーニング処理は、クリーニング動作の制御と、ノズル37内の負圧制御とを含む。
図15は、本実施の形態におけるクリーニング処理の手順の一部を示すフローチャートである。
図16は、本実施の形態におけるクリーニング処理の手順の残りの部分を示すフローチャートである。
図15および
図16においては、印刷時におけるノズル37内の負圧は-1kPaであり、供給時におけるノズル37内の負圧は-3kPaであり、払拭時におけるノズル37内の負圧は-0.3kPaであるものとする。
【0063】
ステップS1において、プロセッサー11は、ヘッド31が洗浄液の供給開始位置へ移動するように駆動部D1に指示を出す。
【0064】
ステップS2において、プロセッサー11は、ノズル37内の負圧を供給時の大きさに変更する。供給時におけるノズル37内の負圧は、印刷時におけるノズル37内の負圧よりも大きい。より具体的には、プロセッサー11は、ノズル37内の負圧を-3kPaに変更する。
【0065】
ステップS3において、プロセッサー11は、供給部60に洗浄液の供給開始を指示する。これにより、供給部60から洗浄液のミストが噴霧される。
【0066】
ステップS4において、プロセッサー11は、駆動部D1にヘッド31の移動開始を指示する。これにより、ヘッド31の移動が開始される。
【0067】
ステップS5において、プロセッサー11は、所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間は、ヘッド31が洗浄液の供給開始位置から洗浄液の供給終了位置まで移動するために必要な時間を基に予め定められている。プロセッサー11は、所定時間が経過するまでステップS5の処理を繰り返す。所定時間が経過した場合には(ステップS5においてYES)、プロセッサー11は、ステップS6へ処理を進める。
【0068】
ステップS6において、プロセッサー11は、供給部60に洗浄液の供給停止を指示する。これにより、洗浄液のミストの噴霧が停止する。
【0069】
ステップS7において、プロセッサー11は、駆動部D1にヘッド31の移動停止を指示する。これにより、ヘッド31の移動が停止する。ステップS7の時点で、洗浄液の供給開始位置から洗浄液の供給終了位置までのヘッド31の移動が完了しており、ヘッド31のノズル面33の全面に洗浄液が供給されている。
【0070】
ステップS8において、プロセッサー11は、ヘッド31が払拭開始位置へ移動するように駆動部D1に指示を出す。
【0071】
ステップS9において、プロセッサー11は、ノズル37内の負圧を払拭時の大きさに変更する。払拭時におけるノズル37内の負圧は、供給時におけるノズル37内の負圧よりも小さい。より具体的には、プロセッサー11は、ノズル37内の負圧を-0.3kPaに変更する。
【0072】
ステップS10において、プロセッサー11は、駆動部D2にウェブ71の搬送開始を指示する。これにより、ローラー73が回転してウェブ71が矢印AR4の方向に搬送される(
図5参照)。
【0073】
ステップS11において、プロセッサー11は、駆動部D1にヘッド31の移動開始を指示する。これにより、ヘッド31の移動が開始される。
【0074】
ステップS12において、プロセッサー11は、所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間は、ヘッド31が払拭開始位置から払拭終了位置まで移動するために必要な時間を基に予め定められている。プロセッサー11は、所定時間が経過するまでステップS12の処理を繰り返す。所定時間が経過した場合には(ステップS12においてYES)、プロセッサー11は、ステップS13へ処理を進める。なお、ステップS5における所定時間と、ステップS12における所定時間とは同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0075】
ステップS13において、プロセッサー11は、駆動部D2にウェブ71の搬送停止を指示する。これにより、ウェブ71の搬送が停止する。
【0076】
ステップS14において、プロセッサー11は、駆動部D1にヘッド31の移動停止を指示する。これにより、ヘッド31の移動が停止する。ステップS14の時点で、払拭開始位置から払拭終了位置までのヘッド31の移動が完了しており、ヘッド31のノズル面33の全面が払拭され、ノズル面33の付着物が拭き取られている。
【0077】
ステップS15において、プロセッサー11は、ノズル37内の負圧を印刷時の大きさに変更する。より具体的には、プロセッサー11は、ノズル37内の負圧を-1kPaに変更する。ステップS15の後、クリーニング処理が終了する。
【0078】
<E.ヘッドの耐久性の検証>
本発明者は、
図3~
図5を参照して説明したクリーニング動作によるヘッド31の耐久性を検証するため以下に示す耐久試験を行った。本発明者は、耐久試験として、比較例および実施例1~3を行った。比較例および実施例1~3における、共通の条件および個別の条件は、以下の通りである。
【0079】
(E1 共通の条件)
インクジェット印刷機1のインクには、水系のインクを使用した。洗浄液として、純水を使用した。洗浄液のミストの供給量は25g/m2であった。供給時におけるヘッド31の移動速度は5mm/sであった。ウェブ71には、ポリエチレンの織物を使用した。バックアップローラー72には、シリコンのスポンジを使用した。払拭時において、ウェブ71をヘッド31のノズル面33に押し当てる力は5kPaであった。払拭時におけるヘッド31の移動速度は10mm/sであった。払拭時におけるウェブ71の搬送速度は5mm/sであった。印刷時におけるノズル37内の負圧は-1kPaであった。移行期間におけるヘッド31の移動速度は50mm/sであった。以下の説明において、移行期間は、供給部60による洗浄液の供給が終了してから払拭部70による払拭が開始されるまでの期間である。
【0080】
(E2 個別の条件)
(比較例)
供給時と払拭時とのいずれにおいても、ノズル37内の負圧を-1kPaとした。すなわち、比較例では、供給時と印刷時と払拭時とで、ノズル37内の負圧を同等にした。
【0081】
(実施例1)
供給時と払拭時とのいずれにおいても、ノズル37内の負圧を-3kPaとした。すなわち、実施例1では、供給時と払拭時とにおけるノズル37内の負圧を印刷時におけるノズル37内の負圧よりも大きくした。
【0082】
(実施例2)
供給時におけるノズル37内の負圧を-3kPaとした。払拭時におけるノズル37内の負圧を-1kPaとした。すなわち、実施例2では、供給時におけるノズル37内の負圧を印刷時におけるノズル37内の負圧よりも大きくし、払拭時におけるノズル37内の負圧を印刷時におけるノズル37内の負圧と同等にした。
【0083】
(実施例3)
供給時におけるノズル37内の負圧を-3kPaとした。払拭時におけるノズル37内の負圧を-0.3kPaとした。すなわち、実施例3では、供給時におけるノズル37内の負圧を印刷時におけるノズル37内の負圧よりも大きくし、払拭時におけるノズル37内の負圧を印刷時におけるノズル37内の負圧よりも小さくした。
【0084】
(E3 評価方法)
図17は、ヘッドのノズル周辺の摩耗を示す図である。
図17を参照して、払拭時には、払拭部材(例えば、ウェブ71等)との擦過によりノズル37の開口部38の周辺におけるノズル面33の摩耗が進行する。
図17におけるハッチング箇所39は、ノズル面33の摩耗箇所を示している。矢印AR2は、払拭時におけるヘッド31の進行方向を示している。ノズル37の周辺のノズル面33の摩耗が進行するとインクの射出性が低下するため画質が悪化する。また、洗浄液、および、洗浄液のミストの供給により生じた気泡のうち少なくとも一方がノズル37内に残留している場合にもインクの射出性が低下することから画質が悪化する。ノズル37の周辺のノズル面33が摩耗していることと、洗浄液および気泡の少なくとも一方がノズル37内に残留していることとにより、各々単独の場合よりも画質の悪化は顕著となる。耐久試験では、クリーニング動作を100回実施する毎に印刷を行って画質を評価するとともに、ノズル面33を観察してノズル37の周辺の摩耗状態を確認した。
【0085】
(E4 検証結果)
図18は、比較例および実施例1~3の評価結果を示す図である。比較例では、クリーニング動作が400回行われた時点で、画質が不良(bad)となった。比較例におけるクリーニング動作が400回行われた時点において、ノズル37の周辺のノズル面33には局所的かつ大きい摩耗が散見された。
【0086】
実施例1では、クリーニング動作が700回行われた時点で、画質が不良(bad)となった。実施例1は、比較例よりもヘッド31の寿命を2倍に延ばすことができた。実施例1においてクリーニング動作が700回行われた時点におけるノズル37の周辺のノズル面33は、比較例においてクリーニング動作が400回行われた時点におけるノズル37の周辺のノズル面33よりも大幅に良好であった。そのため、実施例1における画質不良の要因は、ノズル37の周辺のノズル面33の摩耗単体ではなく、洗浄液および気泡の少なくとも一方がノズル37内に残留していることとの組み合わせであることが推測できる。
【0087】
実施例2では、クリーニング動作が1000回行われた時点で、画質が不良(bad)となった。実施例2は、比較例よりもヘッド31の寿命を3倍に延ばすことができた。実施例2においてクリーニング動作が1000回行われた時点におけるノズル37の周辺のノズル面33は、実施例1においてクリーニング動作が700回行われた時点におけるノズル37の周辺のノズル面33よりも悪化しているが、比較例においてクリーニング動作が400回行われた時点におけるノズル37の周辺のノズル面33よりは良好である。そのため、実施例2における画質不良の要因は、実施例1における画質不良の要因と同様であると推測できる。すなわち、実施例2における画質不良の要因は、ノズル37の周辺のノズル面33の摩耗単体ではなく、洗浄液および気泡の少なくとも一方がノズル37内に残留していることとの組み合わせであることが推測できる。
【0088】
実施例3では、クリーニング動作が1100回行われた時点で、画質が不良(bad)となった。実施例3では、比較例よりもヘッド31の寿命を3.3倍に延ばすことができた。実施例3においてクリーニング動作が1100回行われた時点におけるノズル37の周辺のノズル面33は、比較例においてクリーニング動作が400回行われた時点におけるノズル37の周辺のノズル面33とほぼ同等であった。そのため、実施例3における画質不良の主な要因は、ノズル37の周辺のノズル面33の摩耗であると推測できる。
【0089】
このように、本実施の形態におけるインクジェット印刷機1では、洗浄液の供給方法として、ノズル面33に付着した付着物の払拭性という観点で有効な「小液滴供給」を採用する。加えて、本実施の形態におけるインクジェット印刷機1では、供給時には印刷時よりもノズル37内の負圧を大きくする。そのため、供給時における洗浄液によるノズル37からのインク6の引き出しが抑制される。そのため、ノズル面33に局所的で多量のインク溜まりが発生することが抑制される。インク溜まりの発生が抑制されるということは、払拭時に研磨剤として作用する固形成分が少ないということであるため、ヘッド31の耐久性が向上する。したがって、本実施の形態におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッド31の耐久性を向上させることができる。
【0090】
なお、本実施の形態では、制御部10は、払拭時には供給時と印刷時とのいずれよりもノズル37内の負圧を小さくしたが、払拭時におけるノズル37内の負圧の大きさはいかように設定されてもよい。しかしながら、本実施の形態のように、払拭時におけるノズル37内の負圧を供給時におけるノズル37内の負圧よりも小さくすることにより、ノズル37内に残留している洗浄液および気泡の引き出しが促進される。そのため、洗浄液および気泡はノズル37から引き出され、ノズル面33に付着している付着物と共に払拭される。ノズル37内の洗浄液および気泡の除去性が向上することから、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0091】
また、本実施の形態では、供給時においてヘッド31を移動させたが、これに限られない。洗浄液がヘッド31のノズル面33の全面に供給されればよいので、例えば、供給時においてヘッド31を移動させずに供給部60を移動させてもよいし、ヘッド31と供給部60との両方を移動させてもよい。供給部60を移動させる場合には、制御部10により供給部60の移動が制御される。
【0092】
また、本実施の形態では、払拭時においてヘッド31を移動させたが、これに限られない。ヘッド31のノズル面33の全面が払拭されればよいので、例えば、払拭時においてヘッド31を移動させずに払拭部70を移動させてもよいし、ヘッド31と払拭部70との両方を移動させてもよい。払拭部70を移動させる場合には、制御部10により払拭部70の移動が制御される。
【0093】
また、本実施の形態では、移行期間においてヘッド31を移動させたが、これに限られない。ヘッド31と払拭部70との位置関係が払拭部70がノズル面33の払拭を開始できるような位置関係となればよいので、例えば、移行期間においてヘッド31を移動させずに払拭部70を移動させてもよいし、ヘッド31と払拭部70との両方を移動させてもよい。払拭部70を移動させる場合には、制御部10により払拭部70の移動が制御される。
【0094】
また、本実施の形態では、払拭部材はウェブ71であったが、これに限られない。払拭部材はパッド、ブレード、またはローラーでもよい。
【0095】
また、本実施の形態では、クリーニング処理は制御部10のプロセッサー11により行われたが、クリーニング部80のプロセッサーにより行われてもよい。
【0096】
[変形例1]
上記実施の形態で説明したインクジェット印刷機1は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御に加え、供給時における洗浄液の供給量を制御することと、洗浄液の供給量に基づいて供給時におけるノズル37内の負圧を制御することとをさらに行ってもよい。
【0097】
より具体的には、変形例1における制御部10は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御を行う。さらに、変形例1における制御部10は、環境、出力画像履歴(印字率、カバレッジ等)、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、供給時における洗浄液の供給量を制御する。さらに、変形例1における制御部10は、供給時における洗浄液の供給量に基づいて、供給時におけるノズル37内の負圧を制御する。
【0098】
環境は、インクジェット印刷機1が設置されている部屋の温度および湿度のうち少なくとも一方を含む。インクジェット印刷機1が設置されている部屋の温度が高い場合には、より乾燥するため、インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される。インクジェット印刷機1が設置されている部屋の湿度が低い場合には、より乾燥するため、インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される。印字率が高い場合には、ノズル面33に固着しているインクの量が多いことが想定される。前回のクリーニング動作からの経過時間が長い場合には、インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される。
【0099】
環境、出力画像履歴、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、インクがノズル面33に強固に固着していることと、ノズル面33に固着しているインクの量が多いこととのうち少なくとも一方が想定される場合には、制御部10は、供給部60による洗浄液の供給量を増加させる。これにより、ノズル面33に固着したインクの払拭性が確保される。
【0100】
さらに、制御部10は、供給時における洗浄液の供給量に応じて、供給時におけるノズル37内の負圧を制御する。より具体的には、制御部10は、供給時における洗浄液の供給量が多いほど、供給時におけるノズル37内の負圧を大きくする。
【0101】
図19は、変形例1における印刷時と供給時とにおけるノズル内の負圧の一例を示す図である。一例として、制御部10は、印刷時におけるノズル37内の負圧を-1kPaに設定する。
【0102】
また、制御部10は、供給時における洗浄液の供給量が多いほど、供給時におけるノズル37内の負圧を大きくする。一例として、洗浄液の供給量が10g/m2未満の場合には、制御部10は供給時におけるノズル37内の負圧を-1.5kPaに設定する。洗浄液の供給量が10g/m2以上20g/m2未満の場合には、制御部10は供給時におけるノズル37内の負圧を-2kPaに設定する。洗浄液の供給量が20g/m2以上30g/m2未満の場合には、制御部10は供給時におけるノズル37内の負圧を-3kPaに設定する。洗浄液の供給量が30g/m2以上の場合には、制御部10は供給時におけるノズル37内の負圧を-4kPaに設定する。
【0103】
供給時における洗浄液の供給量を増加させた場合、ノズル面33に固着したインクの払拭性は確保されるが、ノズル面33上に生じるインク溜まりが増加する。そのため、払拭時に研磨剤として作用する固形成分もまた増加するため、ヘッド31の耐久性を損ねる可能性がある。しかしながら、変形例1では、制御部10は、供給時における洗浄液の供給量が多いほど、供給時におけるノズル37内の負圧を大きくする。そのため、ノズル37からのインクの引き出しおよびインク溜まりの発生を抑制することができる。そのため、払拭時に研磨剤として作用する固形成分の量を抑えることができる。したがって、変形例1におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッド31の耐久性を向上させることができる。
【0104】
なお、
図19に示す例では、供給時におけるノズル37内の負圧は洗浄液の供給量に応じて予め定められていたが、供給時におけるノズル37内の負圧を洗浄液の供給量に基づいて算出するための計算式を予め用意しておいてもよい。計算式が用意されている場合には、制御部10は、当該計算式を用いて供給時におけるノズル37内の負圧を算出してもよい。以下の式1は、上記計算式の一例である。
【0105】
供給時におけるノズル内の負圧[kPa]=-0.075×洗浄液の供給量[g/m2]-0.6667・・・(式1)
【0106】
[変形例2]
上記実施の形態で説明したインクジェット印刷機1は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御に加え、供給時における洗浄液の供給時間を制御することと、洗浄液の供給時間に基づいて供給時におけるノズル37内の負圧を制御することとをさらに行ってもよい。
【0107】
より具体的には、変形例2における制御部10は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御を行う。さらに、変形例2における制御部10は、出力画像履歴(印字率、カバレッジ等)と、環境および/または前回のクリーニング動作からの経過時間とに基づいて、供給時における洗浄液の供給時間を制御する。さらに、変形例2における制御部10は、洗浄液の供給時間に基づいて、供給時におけるノズル37内の負圧制御を行う。なお、環境は、インクジェット印刷機1が設置されている部屋の温度および湿度のうち少なくとも一方を含む。
【0108】
ノズル面33に固着したインクの払拭性は、ノズル面33に発生するインク溜まりの発生メカニズムから、単位時間あたりの洗浄液の供給量よりも、洗浄液の供給時間への依存が高い。
【0109】
出力画像履歴と、環境および/または前回のクリーニング動作からの経過時間とによっては、洗浄液の供給量としては同等であっても、単位時間あたりの洗浄液の供給量を多くして洗浄液の供給時間を短くするよりも、単位時間あたりの洗浄液の供給量を少なくして洗浄液の供給時間を長くする方が、ノズル面33に固着したインクの払拭性が向上する場合がある。
【0110】
単位時間あたりの洗浄液の供給量を多くして洗浄液の供給時間を短くするよりも、単位時間あたりの洗浄液の供給量を少なくして洗浄液の供給時間を長くする方がノズル面33に固着したインクの払拭性が向上する場合とは、例えば、ノズル面33に付着しているインクの量は少ないが、インクがノズル面33に強固に固着している場合である。ノズル面33に付着しているインクの量は少ないが、インクがノズル面33に強固に固着している場合とは、印字率は低いが、インクジェット印刷機1が設置されている部屋が高温低湿である場合、印字率は低いが、前回のクリーニング動作からの経過時間が長い場合、または、印字率は低いが、インクジェット印刷機1が設置されている部屋が高温低湿であり、前回のクリーニング動作からの経過時間が長い場合である。
【0111】
出力画像履歴と、環境および/または前回のクリーニング動作からの経過時間とに基づいて、ノズル面33に付着しているインクの量は少ないが、インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される場合には、制御部10は、単位時間あたりの洗浄液の供給量を少なくして、供給時における洗浄液の供給時間を長くする。これにより、ノズル面33に固着したインクの払拭性が確保される。
【0112】
さらに、制御部10は、供給時における洗浄液の供給時間が長いほど、供給時におけるノズル37内の負圧を大きくする。洗浄液の供給時間を長くした場合、ノズル面33に固着したインクの払拭性は確保されるが、ノズル37からのインクの引き出しが促進される。そのため、ノズル面33上に生じるインク溜まりが増加する。そのため、払拭時に研磨剤として作用する固形成分もまた増加するため、ヘッド31の耐久性を損ねる可能性がある。しかしながら、変形例2では、制御部10は、供給時における洗浄液の供給時間が長いほど、供給時におけるノズル37内の負圧を大きくする。そのため、ノズル37からのインクの引き出しおよびインク溜まりの発生を抑制することができる。そのため、払拭時に研磨剤として作用する固形成分の量を抑えることができる。したがって、変形例2におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることができる。
【0113】
[変形例3]
上記実施の形態で説明したインクジェット印刷機1は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御に加え、供給部60、払拭部70、およびヘッド31の速度制御をさらに行ってもよい。
【0114】
より具体的には、変形例3では、供給時におけるヘッド31と供給部60との相対速度と、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度とのいずれよりも、移行期間におけるヘッド31と払拭部70との相対速度の方が大きい。供給部60、払拭部70、およびヘッド31の速度制御は、制御部10により行われる。上述の通り、移行期間は、供給部60による洗浄液の供給が終了してから払拭部70による払拭が開始されるまでの期間である。
【0115】
移行期間が長いほど、ノズル37からのインクの引き出しが促進される。そのため、ノズル面33上に生じるインク溜まりが増加する。そのため、払拭時に研磨剤として作用する固形成分もまた増加するため、ヘッド31の耐久性を損ねる可能性がある。しかしながら、変形例3では、供給時におけるヘッド31と供給部60との相対速度と、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度とのいずれよりも、移行期間におけるヘッド31と払拭部70との相対速度の方が大きい。そのため、移行期間を極力短くすることができ、ノズル37からのインクの引き出しおよびインク溜まりの発生を抑制することができる。これにより、払拭時に研磨剤として作用する固形成分の量を抑えることができる。したがって、変形例3におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることができる。
【0116】
[変形例4]
上記実施の形態で説明したインクジェット印刷機1は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御に加え、移行期間の長さを制御することと、当該移行期間の長さに基づいて供給時におけるノズル37内の負圧を制御することとをさらに行ってもよい。上述の通り、移行期間は、供給部60による洗浄液の供給が終了してから払拭部70による払拭が開始されるまでの期間である。
【0117】
より具体的には、変形例4における制御部10は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御を行う。さらに、変形例4における制御部10は、環境、出力画像履歴(印字率、カバレッジ等)、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、移行期間の長さを制御する。さらに、変形例4における制御部10は、移行期間の長さに基づいて、供給時におけるノズル37内の負圧制御を行う。なお、環境は、インクジェット印刷機1が設置されている部屋の温度および湿度のうち少なくとも一方を含む。
【0118】
移行期間が長いほど、ノズル37からのインクの引き出しが促進される。そのため、ノズル面33上に生じるインク溜まりが増加する。インク溜まりを抑制するためには、洗浄液の供給終了位置から払拭開始位置までのヘッド31の相対移動は可能な限り速やかに行うべきである。一方で、移行期間が長い方がノズル面33に固着したインクの払拭性は確保される。
【0119】
変形例4では、環境、出力画像履歴、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される場合には、制御部10は、移行期間を長くする。より具体的には、制御部10は、移行期間を長くするために、移行期間におけるヘッド31と払拭部70との相対速度を小さくする。インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される場合とは、変形例1で説明した通りである。これにより、ノズル面33に固着したインクの払拭性が確保される。
【0120】
さらに、制御部10は、移行期間が長いほど供給時におけるノズル37内の負圧を大きくする。移行期間を長くした場合、ノズル面33に固着したインクの払拭性は確保されるが、ノズル37からのインクの引き出しが促進される。そのため、ノズル面33上に生じるインク溜まりが増加する。そのため、払拭時に研磨剤として作用する固形成分もまた増加するため、ヘッド31の耐久性を損ねる可能性がある。しかしながら、変形例4では、制御部10は、移行期間が長いほど、供給時におけるノズル37内の負圧を大きくする。そのため、ノズル37からのインクの引き出しおよびインク溜まりの発生を抑制することができる。そのため、払拭時に研磨剤として作用する固形成分の量を抑えることができる。したがって、変形例4におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることができる。
【0121】
なお、移行期間に上限を設けてもよい。その場合には、供給時におけるヘッド31と供給部60との相対速度と、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度とのいずれよりも、移行期間におけるヘッド31と払拭部70との相対速度の方が大きくなる範囲内で移行期間の上限が定められる。
【0122】
[変形例5]
上記実施の形態で説明したインクジェット印刷機1は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御に加え、供給時における洗浄液の供給量を制御することと、洗浄液の供給量に基づいて払拭時におけるノズル37内の負圧を制御することとをさらに行ってもよい。
【0123】
より具体的には、変形例5における制御部10は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御を行う。さらに、変形例5における制御部10は、環境、出力画像履歴(印字率、カバレッジ等)、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、供給時における洗浄液の供給量を制御する。さらに、変形例5における制御部10は、供給時における洗浄液の供給量に基づいて、払拭時におけるノズル37内の負圧を制御する。
【0124】
環境は、インクジェット印刷機1が設置されている部屋の温度および湿度のうち少なくとも一方を含む。環境、出力画像履歴、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、インクがノズル面33に強固に固着していることと、ノズル面33に固着しているインクの量が多いこととのうち少なくとも一方が想定される場合には、制御部10は、供給部60による洗浄液の供給量を増加させる。インクがノズル面33に強固に固着していることと、ノズル面33に固着しているインクの量が多いこととのうち少なくとも一方が想定される場合とは、変形例1で説明した通りである。これにより、ノズル面33に固着したインクの払拭性が確保される。
【0125】
さらに、制御部10は、供給時における洗浄液の供給量が多いほど、払拭時におけるノズル37内の負圧を小さくする。供給時における洗浄液の供給量を増加させた場合、ノズル面33に固着したインクの払拭性は確保されるが、ノズル37内に残留する洗浄液および気泡の量が増加する。そのため、印刷時のインクの射出性が低下する可能性がある。しかしながら、変形例5では、制御部10は、供給時における洗浄液の供給量が多いほど、払拭時におけるノズル37内の負圧を小さくする。そのため、ノズル37内に残留している洗浄液および気泡の引き出しが促進される。そのため、洗浄液および気泡はノズル37から引き出され、ノズル面33に付着している付着物と共に払拭される。そのため、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0126】
したがって、変形例5におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることができる。また、変形例5におけるインクジェット印刷機1は、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0127】
[変形例6]
上記実施の形態で説明したインクジェット印刷機1は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御に加え、払拭時における払拭部材(例えば、ウェブ71)をノズル面33に押し当てる押圧力を制御することと、当該押圧力に基づいて払拭時におけるノズル37内の負圧を制御することとをさらに行ってもよい。
【0128】
より具体的には、変形例6における制御部10は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御を行う。さらに、変形例6における制御部10は、環境、出力画像履歴(印字率、カバレッジ等)、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、払拭時において払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力を制御する。さらに、変形例6における制御部10は、払拭時における払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力に基づいて、払拭時におけるノズル37内の負圧を制御する。
【0129】
環境は、インクジェット印刷機1が設置されている部屋の温度および湿度のうち少なくとも一方を含む。環境、出力画像履歴、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される場合には、制御部10は、払拭時において払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力を大きくする。インクがノズル面33に強固に固着していることが想定される場合とは、変形例1で説明した通りである。これにより、ノズル面33に固着したインクの払拭性が確保される。
【0130】
さらに、制御部10は、払拭時における払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力が大きいほど、払拭時におけるノズル37内の負圧を大きくする。払拭時における払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力が大きいほど、インクの払拭性が向上する。一方で、払拭時における払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力が大きいほど、払拭部材が変形してノズル37内に進入しやすくなるため、ノズル37からのインクの引き出しが促進される。ノズル37からインクが過剰に引き出された場合、ノズル37内のメニスカスを印刷時に適した状態に戻すまでに時間が掛かってしまう。しかしながら、変形例6では、制御部10は、払拭時における払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力が大きいほど、払拭時におけるノズル37内の負圧を大きくする。これにより、ノズル37からのインクの引き出しが抑制される。
【0131】
払拭時におけるノズル37内の負圧を大きくした場合、ノズル37からの洗浄液および気泡の引き出しもまた抑制される。しかしながら、払拭時における払拭部材をノズル面33に押し当てる押圧力が大きいため、払拭部材が変形してノズル37内に進入する。そのため、洗浄液および気泡がノズル37から引き出され、ノズル面33の付着物と共に払拭される。そのため、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0132】
したがって、変形例6におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることができる。また、変形例6におけるインクジェット印刷機1は、ノズル37からインクが過剰に引き出されることを抑制することができる。また、変形例6におけるインクジェット印刷機1は、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0133】
[変形例7]
上記実施の形態で説明したインクジェット印刷機1は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御に加え、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度を制御することと、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度に基づいて払拭時におけるノズル37内の負圧を制御することとをさらに行ってもよい。
【0134】
より具体的には、変形例7における制御部10は、上記実施の形態で説明したノズル37内の負圧制御を行う。さらに、変形例7における制御部10は、環境、出力画像履歴(印字率、カバレッジ等)、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度を制御する。さらに、変形例7における制御部10は、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度に基づいて、払拭時におけるノズル37内の負圧を制御する。
【0135】
環境は、インクジェット印刷機1が設置されている部屋の温度および湿度のうち少なくとも一方を含む。インクジェット印刷機1が設置されている部屋の湿度が高い場合には、インクがノズル面33に強固に固着していないことが想定される。印字率が低い場合には、ノズル面33に固着しているインクの量が少ないことが想定される。前回のクリーニング動作からの経過時間が短い場合には、インクがノズル面33に強固に固着していないことが想定される。環境、出力画像履歴、および前回のクリーニング動作からの経過時間のうち少なくとも1つに基づいて、インクがノズル面33に強固に固着していないことと、ノズル面33に付着しているインクの量が少ないこととのうち少なくとも一方が想定される場合には、制御部10は、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度を大きくする。これにより、払拭に要する時間を短縮することができる。
【0136】
さらに、制御部10は、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度が大きいほど、払拭時におけるノズル37内の負圧を小さくする。払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度が大きいほど、払拭部材(例えば、ウェブ71)とノズル面33とが接触する時間が短いため、ノズル37から洗浄液および気泡を引き出しにくくなる。そのため、印刷時のインクの射出性が低下する可能性がある。しかしながら、変形例7では、制御部10は、払拭時におけるヘッド31と払拭部70との相対速度が大きいほど、払拭時におけるノズル37内の負圧を小さくする。そのため、ノズル37内に残留している洗浄液および気泡の引き出しが促進される。そのため、洗浄液および気泡はノズル37から引き出され、ノズル面33に付着している付着物と共に払拭される。そのため、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0137】
したがって、変形例7におけるインクジェット印刷機1は、ノズル面33に付着した付着物の払拭性を損なうことなく、ヘッドの耐久性を向上させることができる。また、変形例7におけるインクジェット印刷機1は、印刷時のインクの射出性が低下することを抑制することができる。
【0138】
[変形例8]
上記変形例1~7は任意に組み合わせることができる。
【0139】
[付記]
上述した実施の形態および変形例は、以下のような技術思想を含む。
【0140】
[構成1]
ヘッドのノズルの表面であるノズル面に洗浄液を供給する供給部と、
前記ノズル面を払拭する払拭部と、
前記ノズル内の負圧を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記供給部による前記ノズル面への前記洗浄液の供給時には、印刷時よりも前記ノズル内の負圧を大きくする、インクジェット印刷機。
【0141】
[構成2]
前記制御部は、前記供給時における前記洗浄液の供給量が多いほど、前記供給時における前記ノズル内の負圧を大きくする、構成1に記載のインクジェット印刷機。
【0142】
[構成3]
前記制御部は、前記供給時における前記洗浄液の供給時間が長いほど、前記供給時における前記ノズル内の負圧を大きくする、構成1または2に記載のインクジェット印刷機。
【0143】
[構成4]
前記供給時における前記ヘッドと前記供給部との相対速度と、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ヘッドと前記払拭部との相対速度とのいずれよりも、前記供給部による前記洗浄液の供給が終了してから前記払拭部による払拭が開始されるまでの移行期間における前記ヘッドと前記払拭部との相対速度の方が大きい、構成1~3のいずれか1つに記載のインクジェット印刷機。
【0144】
[構成5]
前記制御部は、前記供給部による前記洗浄液の供給が終了してから前記払拭部による払拭が開始されるまでの移行期間が長いほど、前記供給時における前記ノズル内の負圧を大きくする、構成1~4のいずれか1つに記載のインクジェット印刷機。
【0145】
[構成6]
前記制御部は、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時には前記供給時よりも前記ノズル内の負圧を小さくする、構成1~5のいずれか1つに記載のインクジェット印刷機。
【0146】
[構成7]
前記制御部は、前記払拭時には前記印刷時よりも前記ノズル内の負圧を小さくする、構成6に記載のインクジェット印刷機。
【0147】
[構成8]
前記制御部は、前記供給時における前記洗浄液の供給量が多いほど、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ノズル内の負圧を小さくする、構成1~7のいずれか1つに記載のインクジェット印刷機。
【0148】
[構成9]
前記払拭部は、前記ノズル面に接触して前記ノズル面を払拭する払拭部材を含み、
前記制御部は、前記払拭部材を前記ノズル面に押し当てる押圧力が大きいほど、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ノズル内の負圧を大きくする、構成1~8のいずれか1つに記載のインクジェット印刷機。
【0149】
[構成10]
前記制御部は、前記払拭部による前記ノズル面の払拭時における前記ヘッドと前記払拭部との相対速度が大きいほど、前記払拭時における前記ノズル内の負圧を小さくする、構成1~9のいずれか1つに記載のインクジェット印刷機。
【0150】
[構成11]
ヘッドのノズルの表面であるノズル面に洗浄液を供給する供給部と、前記ノズル面を払拭する払拭部とを備えるインクジェット印刷機における当該ノズル面のクリーニング方法であって、
前記供給部による前記ノズル面への前記洗浄液の供給時には、印刷時よりも前記ノズル内の負圧を大きくすることを含む、クリーニング方法。
【0151】
[構成12]
構成11に記載のクリーニング方法をコンピューターに実行させる、制御プログラム。
【0152】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0153】
1 インクジェット印刷機、5a ミスト、5b インク溜まり、6 インク、10 制御部、11 プロセッサー、12 メモリー、13 ストレージ、20 給紙部、30 印刷部、31,31C,31K,31M,31Y ヘッド、32 搬送ドラム、32a 搬送面、33 ノズル面、34 先端部、35 後端部、36 ノズルプレート、37 ノズル、38 開口部、39 ハッチング箇所、40 定着部、50 排紙部、51 排紙トレイ、60 供給部、61 洗浄液タンク、62 洗浄液、63 ポンプ、64 多孔質体、65 振動子、65a 振動板、65b 圧電素子、70 払拭部、71 ウェブ、72 バックアップローラー、73 ローラー、80 クリーニング部、90 操作パネル、91 入力部、92 表示部、95 通信インターフェイス、99 バス、131 プログラム、500 外部装置、AR1,AR2,AR3,AR4,AR5,AR6,AR7 矢印、D1,D2 駆動部、P シート。