(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109237
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240806BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240806BHJP
C09D 127/14 20060101ALI20240806BHJP
C09D 181/06 20060101ALI20240806BHJP
C09D 175/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B32B27/30 D
C09D5/16
C09D127/14
C09D181/06
C09D175/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013938
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000148689
【氏名又は名称】株式会社村上開明堂
(71)【出願人】
【識別番号】591164794
【氏名又は名称】株式会社ピアレックス・テクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100142158
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 啓
(72)【発明者】
【氏名】中村 正俊
(72)【発明者】
【氏名】松川 輝紀
(72)【発明者】
【氏名】小森 一輝
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK18B
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AK51B
4F100AK55B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ54
4F100GB07
4F100GB41
4F100JB05B
4F100JB14B
4F100JK12B
4F100JL06
4F100YY00B
4J038CD121
4J038DG111
4J038DG121
4J038DG131
4J038DG261
4J038DK011
4J038FA281
4J038GA01
4J038GA13
4J038KA04
4J038MA09
4J038NA05
4J038NA06
4J038NA11
4J038PA06
4J038PA17
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】光学素子を保護する透明基板として使用可能な積層体であって、油汚れに対してセルフクリーニング機能を示すとともに、親水性を長期間安定して持続でき、かつ耐傷付き性能を必要とする用途への適用が可能な積層体を提供する。
【解決手段】本発明の積層体は、基材、及び前記基材上に親水性樹脂層を有する積層体であって、前記親水性樹脂層は、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂、バインダー樹脂、及びスルホン化ポリエーテルスルホンを含有し、前記バインダー樹脂は、少なくとも1種の多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、及び前記基材上に親水性樹脂層を有する積層体であって、前記親水性樹脂層は、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂、バインダー樹脂、及びスルホン化ポリエーテルスルホンを含有し、前記バインダー樹脂は、少なくとも1種の多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を含有する、積層体。
【請求項2】
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の含有量が、前記親水性樹脂の質量を基準にして75質量%以上であり、前記スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂の含有量が、前記親水性樹脂の質量を基準にして7質量%以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂/スルホン化ポリエーテルスルホンの質量比が、1/2~3/1である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂がUV硬化樹脂である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記親水性樹脂層の旧JIS K 5400に準拠した鉛筆硬度がH以上である、請求項1に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に高硬度の親水性樹脂層を有し、かつ油汚れに対するセルフクリーニング機能を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚技術の有力な方法の一つとして、付着した汚れを雨水や水洗により容易に落とせる親水性を基板に付与する方法がある。
建造物の外壁に付着した汚れを、降雨やシャワー水の噴射によって落とせる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、パーフルオロスルホン酸基を側鎖に有する高分子4フッ化エチレンの繰り返し単位からなるグラフトポリマーであるナフィオン(登録商標)からなる塗料が記載されている。該塗料を外壁に塗布することにより、塗布面は、長期にわたり超親水性を示すことが記載されている。
また、鋼板およびテント地に、光触媒機能を有する金属酸化物と上記ナフィオン(登録商標)とからなる塗料を塗布することが、特許文献2に記載されている。
【0003】
一方、近年、屋外、屋内問わず、防犯カメラや監視カメラの設置が増えている。これら防犯カメラや監視カメラ等の光学素子を保護する透明カバーである透明基板は、透明基板に付着した汚れが雨水や水洗により容易に落とせる基板となっていることが、メンテナンス軽減の観点から好ましい。特に、防犯カメラや監視カメラの設置場所によっては、メンテナンスの機会が制限されることがある。そこで、光学素子を保護する透明基板は、どのような汚れに対しても、雨水や水洗により水滴が落ちるときに付着した汚れを一緒に落としてくれる自己清浄(セルフクリーニング)機能を有していることが望ましい。特に実用上の観点から、光学素子を保護する透明基板が、油汚れに対してセルフクリーニング機能を有する透明基板であることが望ましい。
【0004】
特許文献3には、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂と、ウレタンアクリル樹脂等のバインダー樹脂とを含有する親水性樹脂層、及び基材を積層してなる積層体により油汚れに対してセルフクリーニング機能を有し、かつ親水性を長期間持続できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-45370号公報
【特許文献2】特開2006-233073号公報
【特許文献3】特開2020-142432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1及び2には、降雨やシャワー水の噴射によって落とせる汚れについて具体的な説明はなく、上記特許文献2の背景技術欄には雨筋汚れについての汚れが記載されているだけである。
上記特許文献1及び2には、油が付着した場合に、雨水や水洗により汚れを容易に落とせ親水性を回復できるか否かについては記載されていない。
油汚れを含むどのような汚れに対しても、雨水や水洗により汚れを容易に落とせるセルフクリーニング機能を示す透明基板の提供という観点からは、上記特許文献1及び2に記載の技術は、充分満足のいくものとはいえず、改善の余地があった。
また、特許文献3には、油汚れに対するセルフクリーニング機能について記載されているものの、同文献に記載の積層体は硬度が十分でなく、該積層体を車両の低い位置(路面に近い位置)に取付けた場合には、路面からの飛来物や飛び石等による傷付きが生じやすいという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、油汚れに対してセルフクリーニング機能を示すとともに、親水性を長期間安定して持続でき、かつ耐傷付き性能を必要とする用途への適用が可能な積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂と、バインダー樹脂として多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂と、スルホン化ポリエーテルスルホンとを組み合わせることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、
基材、及び前記基材上に親水性樹脂層を有する積層体であって、前記親水性樹脂層は、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂、バインダー樹脂、及びスルホン化ポリエーテルスルホンを含有し、前記バインダー樹脂は、少なくとも1種の多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を含有する、積層体が提供される。
【0010】
これにより、光学素子を保護する透明基板として使用可能な積層体であって、雨水や水洗により、油汚れを容易に落とすことができ、親水性を容易に回復できるセルフクリーニング機能を示し、さらに親水性を長期間安定して持続でき、かつ耐傷付き性能が良好な積層体を提供することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の含有量が、前記親水性樹脂の質量を基準にして75質量%以上であり、前記スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂の含有量が、前記親水性樹脂の質量を基準にして7質量%以上である、請求項1に記載の積層体が提供される。
【0012】
これにより、
4フッ化エチレン樹脂のスルホン酸基が基板表面に親水性を付与するとともに、バインダー樹脂の多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂によって基板表面の親水性樹脂層の硬度を高めることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、
前記スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂/スルホン化ポリエーテルスルホンの質量比が、1/2~3/1である、請求項1に記載の積層体が提供される。
【0014】
これにより、
スルホン化ポリエーテルスルホンが、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂とバインダー樹脂の相容性を高め、基板の透明性を高めることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂が、UV硬化樹脂である、請求項1に記載の積層体が提供される。
【0016】
これにより、親水性樹脂層の硬度をより高めることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、
前記親水性樹脂層の旧JIS K 5400に準拠した鉛筆硬度がH以上である、請求項1に記載の積層体が提供される。
【0018】
これにより、
耐傷付き性能を必要とする用途への積層体の適用を可能にすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光学素子を保護する透明基板として使用可能な積層体であって、耐傷付き性能を必要とする用途への適用が可能な積層体を提供することができる。また、本発明の構成により、雨水や水洗により、油汚れを容易に落とすことができ、親水性を容易に回復できるセルフクリーニング機能を示し、さらに親水性を長期間安定して持続できる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の積層体の層構成の一態様を示す概略断面図である。
【
図2】2官能ウレタン(メタ)アクリレートの構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の積層体について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0022】
(積層体)
本発明の積層体は、親水性樹脂層と基材とを積層してなる。
親水性樹脂層は、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂と、バインダー樹脂と、スルホン化ポリエーテルスルホンとを含有する。
本発明の積層体において、基材のヘイズ値は好ましくは0.2%以下であり、かつ本発明の積層体のヘイズ値と基材のヘイズ値との差(以下、本明細書において、「積層体のヘイズ値と基材のヘイズ値との差」を「親水性樹脂層が関与するヘイズ値」ともいう)は好ましくは1%以下である。
本発明の一態様の積層体の層構成の概略図を
図1に示す。
本発明の一態様の積層体1は、
図1に示されるように、親水性樹脂層2と基材3とを積層してなる。親水性樹脂層2は、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂4と、スルホン化ポリエーテルスルホン5と、バインダー樹脂6とを含有する。また、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂4の少なくとも一部は親水性樹脂層2の表面に配向している。
【0023】
<親水性樹脂層>
親水性樹脂層は、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂と、バインダー樹脂と、スルホン化ポリエーテルスルホンとを含有する。さらに必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0024】
<<スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂>>
スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂(以下、本明細書において、「スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂」を「スルホン化4フッ化エチレン樹脂」ともいう)としては、例えば、上記特許文献1(特開2006-45370号公報)に記載の、パーフルオロスルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂などを使用することができる。
具体的には、例えば、下記式(1)で表される、スルホン酸基を末端に有するパーフルオロスルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂が挙げられる。
【0025】
【化1】
上記式(1)中、Rfはパーフルオロアルキル基、SO
3Hはスルホン酸基で、x、yは整数である。
【0026】
Rfのパーフルオロアルキル基としては、例えば、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のパーフルオロアルキル基が挙げられる。該パーフルオロアルキル基の炭素原子の一部は、酸素原子で置換されていてもよい。
上記Rfのパーフルオロアルキル基として、例えば、下記式(2)、式(3)又は式(4)で表されるパーフルオロアルキル基が好ましく挙げられる。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
親水性樹脂層における、スルホン化4フッ化エチレン樹脂の含有量は、水洗により油汚れを容易に落とすことができる程度の親水性樹脂層を基板表面に形成できる量であればよい。例えば、親水性樹脂の質量を基準にして5質量%以上、6質量%以上、6.5質量%以上、7質量%以上、7.5質量%以上、又は8質量%以上であり、15質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下である。
【0031】
スルホン化4フッ化エチレン樹脂の質量平均分子量は、約5,000~約2,000,000、好ましくは約10,000~約1,000,000である。スルホン化4フッ化エチレン樹脂の市販品としては、ナフィオン(登録商標)が挙げられる。
【0032】
<<バインダー樹脂>>
親水性樹脂層を構成するバインダー樹脂は、主に多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂から構成される。バインダー樹脂として多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を用いることにより、親水性樹脂層の硬度を高めることができる。バインダー樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。他の樹脂としては、例えば、ウレタンアクリル樹脂、フッ化ビニリデン共重合物、アクリル樹脂、フッ素樹脂エマルション、自己架橋型ポリエステル樹脂、又はこれらの樹脂の1種以上の組み合わせが挙げられる。バインダー樹脂中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。本発明の一実施態様において、バインダー樹脂は多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂のみから構成される。
【0033】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートの平均分子量は、通常200~5,000、好ましくは400~1,000である。また、多官能ウレタン(メタ)アクリレートの粘度は、通常80~60,000(mPa・s)であり、好ましくは10,000~50,000(mPa・s)である。
【0034】
親水性樹脂中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の含有量は、親水性樹脂の質量を基準にして好ましくは65質量%以上、又は70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、又は80質量%以上であり、親水性樹脂の質量を基準にして好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。親水性樹脂中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の含有量が少ないと親水性樹脂層の硬度が低下する。
【0035】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、少なくとも1種の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを重合硬化させることにより得られる。多官能ウレタン(メタ)アクリレートを無溶媒で反応させる場合は、単官能アクリレート等のモノマーを反応希釈剤として用いてもよい。
【0036】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を構成する多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、分子内に官能基として少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有し、かつウレタン結合を有する。多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、分子内に2個以上の水酸基を有するポリオールと、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られるオリゴマーである。
【0037】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートとしては、分子内に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタン(メタ)アクリレート(「2官能ウレタン(メタ)アクリレート」という)、分子内に3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタン(メタ)アクリレート(「3官能ウレタン(メタ)アクリレート」という)、分子内に4個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタン(メタ)アクリレート(「4官能のウレタン(メタ)アクリレート」という)等が挙げられる。本発明に用いる多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、好ましくは2~9官能ウレタン(メタ)アクリレートであり、より好ましくは4~6官能ウレタン(メタ)アクリレートである。
【0038】
図2に、多官能ウレタン(メタ)アクリレートの具体例として、2官能ウレタン(メタ)アクリレートの構造の一例を模式的に示す。
【0039】
(a)ポリオール
分子内に2個以上の水酸基を有するポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、カプロラクトンジオール、ビスフェノールポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添ポリイソプレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ひまし油ポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0040】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイド、スチレンオキサイド等を組み合わせてなるポリマー、又は共重合体が挙げられる。具体例としては、ポリオキシエチレンジオール(ポリエチレングリコール:PEG)、ポリオキシプロピレンジオール(ポリプロピレングリコール:PPG)、ポリテトラメチレンエーテルポリオール(PTMEG)、ポリオキシプロピレントリオール、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(ジオール)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体(トリオール)等が挙げられる。
【0041】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジオールとジカルボン酸又はジカルボン酸クロライドとを重縮合反応したポリオール、ジオール又はジカルボン酸をエステル化してエステル交換反応したポリオール等が挙げられる。上記ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジブロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール等が挙げられる。
【0042】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、下記成分Aと成分Bを重縮合して得られる反応生成物等が挙げられる。すなわち、成分Aとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-メチルプロパンジオール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等のジオール類、又はこれらジオール類と、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、ヘキサヒドロフタル酸等のジカルボン酸との反応生成物等が挙げられる。また、成分Bとしては、特に限定されないが、ジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ジナフチルカーボネート、フェニルトルイルカーボネート、フェニルクロロフェニルカーボネート、2-トリル-4-トリルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジエチレンカーボネート、炭酸エチレン等の芳香族系カーボネート、又は脂肪族系カーボネート等が挙げられる。
【0043】
(b)ポリイソシアネート
ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0045】
芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)[例えば、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)等]、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)[例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)等]、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(ポリメリックMDI)(ジフェニルメタンジイソシアネートを高分子量化した化合物)、変性ジフェニルメタンジイソシアネート(変性MDI)[例えば、イソシアヌレート変性MDI、カルボジイミド変性MDI、ウレタン変性MDI等]等が挙げられる。
【0046】
脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(ジイソシアネートメチル)シクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられる。
【0047】
(c)(メタ)アクリレート
(メタ)アクリレートは、好ましくは分子中に少なくとも1個の水酸基を含有する。水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、水酸基を少なくとも1個、好ましくは1~5個有する(メタ)アクリレートを用いることができる。また、水酸基含有(メタ)アクリレートの炭素数は特に限定されないが、炭素数が2~20の炭化水素部位を有することが望ましい。ここで、炭化水素部位とは、直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、あるいは芳香族炭化水素基を有する有機基をいい、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよい。なお、当該炭化水素部位の一部には、エーテル結合が含まれていてもよい。
【0048】
水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-3-クロロプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシドールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記以外にも、ポリカプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の変性体を用いてもよい。
【0049】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、KUA-41(官能基数2)、KUA-61(官能基数3)、KUA-9N(官能基数3)、KUA-10H(官能基数5)、KUA-15N(官能基数5)(以上、ケーエスエム(株)製)、UA-306H(官能基数6)、UA-306T(官能基数6)、UA-306I(官能基数6)、UA-510H(官能基数6)(以上、共栄社化学(株)製)、EBECRYL230(官能基数2)、EBECRYL270(官能基数2)、EBECRYL284(官能基数2)、EBECRYL4738(官能基数3)、EBECRYL4513(官能基数3)、EBECRYL4666(官能基数4)、EBECRYL8210(官能基数4)、EBECRYL1290(官能基数6)、EBECRYL5129(官能基数6)、KRM8200(官能基数6)、KRM8200AE(官能基数6)、KRM8530(官能基数6)、KRM8904(官能基数9)、KRM8904(官能基数9)、KRM8531BA(官能基数9)、KRM8452(官能基数10)(以上、ダイセル・オルネクス(株)製)、PHOTOMER AQUA 6901(官能基数2)、PHOTOMER AQUA 6902(官能基数2)、PHOTOMER AQUA 6903(官能基数6)(以上、IGM Resins社製)等が挙げられる。
【0050】
<<スルホン化ポリエーテルスルホン>>
本発明に用いる親水性樹脂層はスルホン化ポリエーテルスルホンを含有する。スルホン化ポリエーテルスルホンは、ポリエーテルスルホンに含まれる重合単位(4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン)の一部又はすべてがスルホン化されている。スルホン化された重合単位は、スルホン化ポリエーテルスルホン中にランダムに含まれていても、ブロック単位で含まれていてもよい。スルホン化された重合単位は、好ましくはスルホン化ポリエーテルスルホン中にブロック単位で含まれる。スルホン化ポリエーテルスルホン中のスルホン化された重合単位の割合は、重合単位の総量(100%)に対し、好ましくは9~60%、より好ましくは20~40%であり、30%程度が特に好ましい。
【0051】
親水性樹脂中のスルホン化ポリエーテルスルホンの含有量は、親水性樹脂の質量を基準にして好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、又は9質量%以上であり、親水性樹脂の質量を基準にして好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0052】
本発明に用いる多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂は親水性を示さない。一方、スルホン化4フッ化エチレン樹脂は親水性が高い反面、他の樹脂又は溶剤との相容性が低く、分散性も低いため、スルホン化4フッ化エチレン樹脂と多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂とからなる親水性樹脂層は白濁した凝集膜となる。スルホン化ポリエーテルスルホンは、親水性部分(スルホン酸基を有する部分)と疎水性部分(スルホン酸基を有しない部分)を有するため、親水性部分がスルホン化4フッ化エチレン樹脂と相互作用を示し、疎水性部分が多官能ウレタン(メタ)アクリレート樹脂と相互作用を示す。したがって、親水性樹脂にスルホン化ポリエーテルスルホンを添加することにより、スルホン化4フッ化エチレン樹脂とバインダー樹脂の相容性が向上し、親水性樹脂層の透明性が向上する。
【0053】
スルホン化ポリエーテルスルホンは、スルホン化4フッ化エチレン樹脂に比べ親水性が低いため、スルホン化ポリエーテルスルホンが過剰になると親水性樹脂層の親水性を低下させる。また、スルホン化ポリエーテルスルホンが過剰になると、親水性樹脂層の表面に配向しているスルホン化4フッ化エチレン樹脂をバインダー樹脂中に引き込む傾向があり、これによっても親水性樹脂層の親水性を低下させる。このため、親水性樹脂中のスルホン化4フッ化エチレン樹脂とスルホン化ポリエーテルスルホンの含有量比(スルホン化4フッ化エチレン樹脂/スルホン化ポリエーテルスルホン)は、好ましくは1/2以上、より好ましくは1/2より大きく、例えば、1/1.8以上、1/1.5以上、又は1/1以上である。また、好ましくは3/1以下であり、より好ましくは2/1以下である。
【0054】
本発明では、親水性樹脂層に酸化チタン等の光触媒は含有させない態様がより好ましい。光触媒を含有させない方が、より透明性の高い積層体が得られ、ヘイズ値1%以下の要件を満たす積層体をより確実に作製することができるからである。
また通常、酸化チタン等の光触媒による光触媒反応を用いて、油汚れを分解し防汚効果を達成しようとする場合は、光が当たりにくい場所では、十分な防汚効果が期待できないという制限を受ける。しかし、親水性樹脂層に光触媒を含有させない態様の場合には、光源を気にすることなく、積層体の使用可能領域を広げることができるからである。
【0055】
<<親水性樹脂層の膜厚>>
親水性樹脂層の膜厚は、好ましいヘイズ値、例えば1%以下のヘイズ値を示す積層体が形成できれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、膜厚が厚いとヘイズ値が高くなるため、本発明で規定する親水性樹脂層が関与するヘイズ値を1%以下とするためには、親水性樹脂層の膜厚は薄い方が好ましい。
また、コーティング組成物の粘度によっては、塗工する際のコーティング組成物の膜厚が厚いとタレによる不具合が発生しやすい。そこで、親水性樹脂層の膜厚としては、乾燥時の膜厚で5μm以下となるように設定するのが好ましい。
一方、スルホン化4フッ化エチレン樹脂は、溶媒中でコロイド状に凝集していると思われるため、親水性樹脂層の膜厚が薄すぎると、平滑な表面が得られにくい。
また、親水性樹脂層にSiO2の粒子を含有させる場合には、SiO2の粒子も凝集により二次粒子を形成することがある。そこで、親水性樹脂層の膜厚は100nm以上であることが好ましい。
以上のことから、親水性樹脂層の膜厚としては、100nm~5μmが好ましく、2~5μmがより好ましく、3~5μmがさらに好ましい。
【0056】
<基材>
本発明の積層体を構成する基材としては、好ましくは0.2%以下のヘイズ値を示す基材を用いる。
基材としては、本発明で規定する特定のヘイズ値を示す積層体が形成できれば、基材の種類は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
親水性樹脂層の組成が樹脂であるため、密着性の観点から、基材も樹脂である方が好ましい。
通常、平滑性の低い基材を使用すると、積層体のヘイズ値も高くなる傾向がある。そのため、例えば、本発明で規定する所望のヘイズ値の積層体を得るには、基材が、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂から選択されることが好ましい。中でも、透明性およびコストの観点からは、アクリル樹脂が、強度およびコストの観点からは、ポリカーボネート樹脂が、基材としてより好ましく用いられる。
【0057】
基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、平板、シート状、フィルム状、又は3次元形状を全面に若しくは一部に有する物、全面に若しくは一部に曲率を有するもの等、目的に応じた任意の形状とすることができる。
【0058】
また、基材をフィルムとする場合、成形方法としては、例えば、押出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等が挙げられる。これらのフィルムは、単層又は多層製膜して形成したプラスチック成形体を基材として用いることもできる。
また、基材の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0059】
基材のヘイズ値は、上述のように0.2%以下であるのが好ましいが、ヘイズ値が低い積層体を確実に形成する観点からは、基材のヘイズ値は、0.15%以下であるのがより好ましく、0.13%以下であるのがさらに好ましい。
【0060】
基材の表面には、親水性樹脂層の塗工性を向上させたり、親水性樹脂層との接着性を向上させるために、各種の表面処理を行ってもよい。表面処理としては、例えば、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、シランカップリング処理などが挙げられる。
基材の種類は樹脂が好ましいが、例えば、シランカップリング剤を下地層として使用すれば、ガラス基材を使用することもできる。
【0061】
<ヘイズ値(%)>
本発明の積層体のヘイズ値と基材のヘイズ値との差(親水性樹脂層が関与するヘイズ値)は好ましくは1%以下である。
さらに、本発明の積層体のヘイズ値が1%以下であるのが好ましく、0.5%以下であるのがより好ましい。
ヘイズ値(曇りの度合い)とは、透明さの程度を表す指標であり、全透過光に対する拡散光の割合を求めた値をいう。
ヘイズ値は、C光源を用いて、JIS K7136に準拠して測定することができる。
【0062】
親水性樹脂層を構成する上記スルホン化4フッ化エチレン樹脂において、側鎖のスルホン酸(-SO3H)部分は、電気陰性度の大きいフッ素元素と結合した炭素元素に結合しているため、フッ素元素の大きな電子吸引性との相互作用により、スルホン酸も-SO3
-H+となりやすい。側鎖のスルホン酸部分は、強くイオン化されているため、極性の大きい水分子は引き込まれやすく、上記スルホン化4フッ化エチレン樹脂において、側鎖のスルホン酸部分は、親水性を示す。
一方、4フッ化エチレン樹脂自体は、疎水性を示す。このため、スルホン酸基を側鎖に有する4フッ化エチレン樹脂は、疎水性と親水性とを併せ持つ。例えば、静的な濡れ性を測定した場合には、テフロン(登録商標)骨格の影響が高く疎水性を示すが、液滴が大きい、あるいは液滴を落下させる等の動的な濡れ性を測定した場合には、部分的に存在する-SO3Hの影響で親水性を示す。
このため、一般的な親水性表面とは、異なる挙動を示す。
そこで、本発明者らは、油汚れについて研究したところ、親水性樹脂表面についた油汚れが、流水中で擦り洗いしても落ちず、親水性を回復しない場合があり、それが、ヘイズ値に影響していることを確認した。
本発明者らは、親水性樹脂層が関与するヘイズ値、ひいては積層体のヘイズ値についてさらに検討し、油汚れを除去し、親水性を回復させるには、親水性樹脂層の表面組成にかかわらず、積層体に係るヘイズ値に依存すること、そして、積層体のヘイズ値と基材のヘイズ値との差(親水性樹脂層が関与するヘイズ値)が1%以下であれば、油汚れに対し、親水性を容易に回復し維持できることを見出した。
【0063】
<親水性樹脂層の硬度>
耐傷付き性能を必要とする用途への適用を可能にするためには、積層体表面(親水性樹脂層)が十分に高い硬度を有することが必要である。親水性樹脂に配合される多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、その2以上の官能基により架橋度が高く、重合・硬化した樹脂は十分に高い硬度を示す。
本明細書では、親水性樹脂層の硬度を旧JIS K 5400に準拠した鉛筆硬度試験により評価する。本発明の積層体は表面硬度(親水性樹脂層の硬度)が好ましくはH以上、より好ましくは2H以上であり、通常3H以下である。鉛筆硬度がHB以下であると積層体表面が傷付きやすくなり、耐傷付き性能を必要とする用途へ適用することができない。耐傷付き性能を必要とする用途へ適用するためには、親水性樹脂層の硬度は望ましくはH以上、より望ましくは2H以上である。
【0064】
<親水性樹脂層の動的接触角>
積層体が雨水や水洗により、油汚れを容易に落とすことができ、親水性を容易に回復できるセルフクリーニング機能を示し、さらに親水性を長期間安定して持続できるためには、積層体表面(親水性樹脂層)が十分に高い親水性を示すことが必要である。親水性樹脂に配合されるスルホン化4フッ化エチレン樹脂の側鎖のスルホン酸部分は高い親水性を示し、これにより基板表面に十分に高い親水性を付与する。
本明細書では、親水性樹脂層の親水性を動的接触角により評価する。親水性樹脂層の動的接触角は、好ましくは30°~0°、より好ましくは15°~0°である。また、成膜直後の動的接触角と室温で1年保管後の動的接触角の差(変化量)は、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下であり、成膜直後の動的接触角と500時間の耐候性試験後の動的接触角の差(変化量)は、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下である。
【0065】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体は、樹脂基材の少なくとも片面に、スルホン化4フッ化エチレン樹脂、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルスルホン等を含むコーティング組成物を塗布し親水性樹脂層を形成する工程(塗布工程)と、該塗布面に活性エネルギー線を照射して、該組成物を硬化させる工程(硬化工程)とを含む方法により製造することができる。
【0066】
<塗布工程>
<<コーティング組成物の調製>>
スルホン化4フッ化エチレン樹脂、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及びスルホン化ポリエーテルスルホン、さらにその他の成分を含有する場合はその他の成分を混合してコーティング組成物(硬化性組成物)を調製する。
コーティング組成物は適宜溶剤を含有してもよい。
溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、有機溶剤、又は有機溶剤と水との混合物が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、2-ブトキシエタノール、メトキシプロパノール、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0067】
<<塗工層の乾燥>>
コーティング組成物を基材上に塗工し、塗工したコーティング組成物を乾燥させることにより、塗工層を形成することができる。
コーティング組成物が有機溶剤を含有する場合には、塗工層を加熱しコーティング組成物中の有機溶剤を蒸発させることにより、塗工層を乾燥させることが好ましい。
塗工方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレー塗布、ロールコート塗布、バーコート塗布などの溶液塗布法が挙げられる。
塗工層を加熱し、乾燥させる際の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。例えば、80~130℃で、5~30分間加熱し、乾燥させる条件が挙げられる。
より具体的な親水性樹脂層の形成方法としては、例えば、バーコータを用いて、スルホン化4フッ化エチレン樹脂、バインダー樹脂、及びスルホン化ポリエーテルスルホンを含有するコーティング組成物を基材上に塗工し、塗工層を100~120℃の温度で5~20分間加熱して乾燥させ、親水性樹脂層を形成するという方法が挙げられる。
【0068】
<硬化工程>
硬化工程は、基材の塗布面に活性エネルギー線を照射して、塗布されたコーティング組成物を硬化させて、硬化被膜を形成する工程である。活性エネルギー線としては、紫外線(遠紫外線、近紫外線等)、赤外線等の光線に加えて、電子線等が挙げられる。中でも、硬化速度、硬度、コスト等の面から紫外線が好ましい。
【0069】
コーティング組成物を、上記紫外線等の光線により硬化させる場合は、光重合開始剤を使用する。一方、電子線等により硬化させる場合は、通常、光重合開始剤を使用しなくてもよい。
<<光重合開始剤>>
光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系光重合開始剤;ベンジルジメチルケタール(別名、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)、ジエトキシアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1、メチルベンゾイルホルメート等のアセトフェノン系光重合開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;チオキサントン、2-クロルチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等が挙げられる。光重合開始剤は1種単独でも、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0070】
光重合開始剤の量は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートの質量を基準にして、通常0.1~8質量%、又は0.2~5質量%である。
【0071】
<<紫外線による硬化>>
紫外線で硬化させる方法としては、例えば、200~500nm波長域の光を発する高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、UV-LED等を用いて、紫外線を照射する方法等が挙げられる。紫外線の照射量は、コーティング組成物の硬化性等の観点から、適宜選択することが可能である。
【実施例0072】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0073】
[評価に用いた化合物]
(1)多官能ウレタン(メタ)アクリレート
多官能ウレタン(メタ)アクリレートとしてPHOTOMER AQUA 6903(官能基数6)(IGM Resins社製、粘度:30,000mPa・s)を用いた。
(2)スルホン化4フッ化エチレン樹脂
スルホン化4フッ化エチレン樹脂として下記構造を有するナフィオン(登録商標)(Chemours社製)を用いた。
【化5】
(3)スルホン化ポリエーテルスルホン
スルホン化ポリエーテルスルホンとして下記構造を有するスルホン化ポリエーテルスルホン(小西化学工業株式会社製)を用いた。
【化6】
(4)4官能(メタ)アクリレート
4官能(メタ)アクリレートとしてATM-35E(新中村化学工業株式会社製)を用いた。
(6)光重合開始剤
光重合開始剤としてOmnirad 184(三洋貿易株式会社製)を用いた。
(7)溶剤
溶剤としてイソプロピルアルコール(安藤パラケミー株式会社製)を用いた。
【0074】
[評価方法]
(i)ヘイズ値
C光源を用いて、JIS K7136に準拠して以下のように測定した。
各サンプルのヘイズ値は、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、HZ-VP)を用いて、ダブルビーム法にて、サンプルを設置しない状態でのヘイズ値を0としてキャリブレーションした後に測定した。
(ii)動的接触角
動的接触角を以下のように測定した。
サンプルの上方10cmの高さから0.01mlの水滴を滴下し、滴下された水滴とサンプル表面との接触角を接触角計(協和界面科学株式会社製、DM-501R)にて測定し、この値を動的接触角とした。
(iii)鉛筆硬度
旧JIS K5400に準拠して以下のように測定した。
鉛筆ひっかき硬度試験機(コーテック株式会社製)を用いて、鉛筆をサンプルに対して45±1°で保持し、500±10gの荷重にて測定した。塗膜の破れ又は切傷が5回の試験で2回以上となる硬さの一段下の濃度記号を硬度として記録した。
(iv)耐候性試験
親水性樹脂層の耐候性を以下のように試験した。
JISD0205に準拠して、耐候性試験(アメテック株式会社製、アトラスCi4000)にて500時間の試験を行い、試験前後の動的接触角を測定した。
【0075】
(実施例1)
[コーティング組成物の調製]
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(PHOTOMER AQUA 6903)85g、スルホン化4フッ化エチレン樹脂(ナフィオン(登録商標))7.5g、スルホン化ポリエーテルスルホン7.5g、光重合開始剤(Omnirad 184)5g、及び溶剤(イソプロピルアルコール)95gを混合し、コーティング組成物を調製した。
【0076】
[塗布工程]
基材として、ポリカーボネート基材(住友ベークライト社製ECW100 t=3(厚さ3mm) 10cm角)を用意した。該ポリカーボネート基材のヘイズ値は、0.13%であった。ポリカーボネート基材に調製したコーティング組成物をバーコータ#10で塗工し、100℃の温度で5分間乾燥させ、基材上に親水性樹脂層を積層した積層体を得た。
【0077】
[硬化工程]
高圧水銀ランプを用い、基材の塗布面に254nmを含む紫外線を照射(積算光量:816mJ/cm2)して、塗布されたコーティング組成物を硬化させ、硬化被膜を形成した。形成した硬化被膜の評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
コーティング組成物中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(PHOTOMER AQUA 6903)の量を80g、スルホン化4フッ化エチレン樹脂(ナフィオン(登録商標))の量を10g、及びスルホン化ポリエーテルスルホンの量を10gとした以外は実施例1と同様にして硬化被膜を形成した。形成した硬化被膜の評価結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
コーティング組成物中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(PHOTOMER AQUA 6903)の量を70g、スルホン化4フッ化エチレン樹脂(ナフィオン(登録商標))の量を10g、及びスルホン化ポリエーテルスルホンの量を20gとした以外は実施例1と同様にして硬化被膜を形成した。形成した硬化被膜の評価結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
コーティング組成物中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(PHOTOMER AQUA 6903)の量を80g、スルホン化4フッ化エチレン樹脂(ナフィオン(登録商標))の量を0g(無添加)、及びスルホン化ポリエーテルスルホンの量を20gとした以外は実施例1と同様にして硬化被膜を形成した。形成した硬化被膜の評価結果を表1に示す。
【0081】
(比較例2)
コーティング組成物中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(PHOTOMER AQUA 6903)の量を70g、スルホン化4フッ化エチレン樹脂(ナフィオン(登録商標))の量を10g、及びスルホン化ポリエーテルスルホンの代わりに4官能量(メタ)アクリレート(ATM-35E)の量を20gとした以外は実施例1と同様にして硬化被膜を形成した。形成した硬化被膜の評価結果を表1に示す。
【0082】
【0083】
実施例1及び2の親水性樹脂層は、親水性樹脂の質量を基準にして、重合単位として多官能ウレタン(メタ)アクリレートを約76~81質量%含有し、これにより鉛筆硬度は2Hと良好であった。一方、実施例3の親水性樹脂層は、親水性樹脂の質量を基準にして、重合単位として多官能ウレタン(メタ)アクリレートを約67質量%含有し、これにより鉛筆硬度はHとやや低下したが、実用的に許容できる硬度を示した。
実施例1の親水性樹脂層は、スルホン化4フッ化エチレン樹脂の含有量が、親水性樹脂の質量を基準にして、約7.1質量%であり、スルホン化4フッ化エチレン樹脂/スルホン化ポリエーテルスルホンの質量比が1/1であった。これによりヘイズ値は0.3と良好であり、また、動的接触角においても14°(成膜直後)と親水性が高く、1年後、500時間の耐候試験後においてもほとんど変化せず良好であった。
実施例2の親水性樹脂層は、スルホン化4フッ化エチレン樹脂の含有量が、親水性樹脂の質量を基準にして、約9.5質量%であり、スルホン化4フッ化エチレン樹脂/スルホン化ポリエーテルスルホンの質量比が1/1であった。これによりヘイズ値は0.3と良好であり、また、動的接触角においても13°(成膜直後)と親水性が高く、1年後においても変化せず良好であった。
また、実施例3の親水性樹脂層は、スルホン化4フッ化エチレン樹脂の含有量が、親水性樹脂の質量を基準にして、約9.5質量%であり、スルホン化4フッ化エチレン樹脂/スルホン化ポリエーテルスルホンの質量比が1/2であった。これによりヘイズ値は0.4と良好であった。動的接触角は、スルホン化ポリエーテルスルホンの比率がやや高くなっていることから、成膜直後で26°、一年後で20°と、実施例1、2に比べ親水性がやや低下したものの、実用的に許容できるレベルであった。
これに対し、比較例1の親水性樹脂層は、スルホン化4フッ化エチレン樹脂を含有せず、スルホン化ポリエーテルスルホンのみを親水性樹脂の質量を基準にして約19質量%含有する。これによりヘイズ値は0.2~0.3と良好であるものの、動的接触角は45°となり、親水性が許容範囲を超えて大幅に低下した。
比較例2の親水性樹脂層は、スルホン化4フッ化エチレン樹脂を親水性樹脂の質量を基準にして約9.5質量%含有し、スルホン化ポリエーテルスルホンの代わりに4官能(メタ)アクリレートを親水性樹脂の質量を基準にして約19質量%含有する。これにより動的接触角は12°(成膜直後)と親水性が高く良好であるものの、4官能(メタ)アクリレートによるスルホン化4フッ化エチレン樹脂の相容補助効果が足りず、ヘイズ値は1.1と大幅に上昇した。