(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109243
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】クラッド鋼溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20240806BHJP
B23K 33/00 20060101ALI20240806BHJP
B23K 37/06 20060101ALI20240806BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20240806BHJP
B23H 5/00 20060101ALI20240806BHJP
B24B 9/04 20060101ALI20240806BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240806BHJP
C23G 1/08 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B23K9/23 K
B23K33/00 Z
B23K37/06 B
B23K9/16 J
B23H5/00 A
B24B9/04 C
B24B37/00 Z
C23G1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013945
(22)【出願日】2023-02-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集 会 名:北陸自動車道 手取川橋の更新事業に関する検討会(第5回) 開催場所 :Web会議(中日本高速道路株式会社が主催。) 開催日:2022年2月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】北川 尚男
(72)【発明者】
【氏名】岩川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】片瀬 慶嗣
(72)【発明者】
【氏名】深谷 道夫
【テーマコード(参考)】
3C049
3C059
3C158
4E001
4K053
【Fターム(参考)】
3C049AA02
3C049AA05
3C049CA01
3C059AA03
3C158AA02
3C158AA05
3C158CA01
3C158DA02
3C158DA12
4E001AA03
4E001BB07
4E001BB09
4E001CA01
4E001CA03
4E001CC01
4E001DB03
4E001DD02
4E001DD04
4E001DF02
4E001DF05
4E001DG05
4K053PA02
4K053PA13
4K053QA01
4K053RA15
4K053RA16
4K053RA17
4K053RA18
4K053RA19
4K053SA03
(57)【要約】
【課題】母材溶接後に耐食金属溶接材料の希釈を抑制してクラッド鋼を溶接する。
【解決手段】二相ステンレス鋼を合せ材14とし、炭素鋼又は低合金鋼を母材12としたクラッド鋼10の溶接方法であって、合せ材14のカットバックを行って母材12の露出面12Aを形成する開先加工を施す工程と、母材12同士の間のルート間隔Gが3mm以上となるように、前記開先加工を施したクラッド鋼10同士を突合せる工程と、その後、裏当て材26を母材12の露出面12Aに配置する工程と、その後、母材12側から母材12側の突合せの開先溶接を行う工程と、その後、裏当て材26を取り外す工程と、その後、合せ材14側から合せ材14の突合せの開先溶接を行う合せ材溶接工程と、を有し、合せ材溶接工程では、初層溶接に309系ステンレス鋼の溶接材料を用い、最外層の溶接に二相ステンレス鋼又はニッケル合金の溶接材料を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相ステンレス鋼を合せ材とし、炭素鋼または低合金鋼を母材としたクラッド鋼の溶接方法であって、
前記クラッド鋼の溶接を行う部位において前記合せ材を取り除くカットバックを行って、前記母材の露出面を形成する開先加工を施す開先加工工程と、
前記母材同士の間のルート間隔が3mm以上となるように、前記開先加工を施した前記クラッド鋼同士を突き合わせる突き合わせ工程と、
前記突き合わせ工程の後、裏当て材を前記母材の前記露出面に配置する裏当て材配置工程と、
前記裏当て材配置工程の後、前記母材側から前記母材側の突き合わせの開先溶接を行う母材溶接工程と、
前記母材溶接工程の後、前記裏当て材を取り外す裏当て材取り外し工程と、
前記裏当て材取り外し工程の後、前記合せ材側から前記合せ材の突き合わせの開先溶接を行う合せ材溶接工程と、
を有し、
前記合せ材溶接工程では、初層の溶接に309系ステンレス鋼の溶接材料を用い、最外層の溶接に二相ステンレス鋼またはニッケル合金の溶接材料を用いることを特徴とするクラッド鋼溶接方法。
【請求項2】
前記合せ材溶接工程では、最外層以外の溶接に309系ステンレス鋼の溶接材料を用いることを特徴とする請求項1に記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項3】
前記裏当て材はセラミック製であることを特徴とする請求項1に記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項4】
前記突き合わせ工程において、前記露出面が含まれる前記合せ材側の溝底の平行部長さが15mm以上となるように、前記開先加工を施した前記クラッド鋼同士を突き合わせることを特徴とする請求項1に記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項5】
前記合せ材溶接工程では、耐食性金属の溶接材料を有するフラックスコアードワイヤを用いて前記合せ材側からアーク溶接をすることを特徴とする請求項1に記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項6】
前記裏当て材は、裏ビードを形成するための凹みのない裏当て材であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項7】
前記開先加工工程では、前記合せ材を取り除くカットバックを行って、前記露出面とのなす角度が130°以上となる溝壁を形成することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項8】
前記母材溶接工程を行った後、前記クラッド鋼を反転させることなく前記合せ材溶接工程を行うことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項9】
前記合せ材溶接工程では、CO2とアルゴンの混合ガスをシールドガスとして用い、前記混合ガスのCO2の含有割合を0mol%以上100mol%以下とし、前記アーク溶接を施す際の入熱量を5kJ/cm以上40kJ/cm以下とすることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項10】
前記合せ材溶接工程の後、鉄を含まない、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、コランダム、ガーネットのうちの少なくとも1つであって、JIS R6001(1998)で規定されるF80の粒度と同等またはそれよりも細かい粒度の研磨材を用いた機械的研磨、電解研磨又は不動態化処理のうちの少なくとも1つを実施して、前記合せ材溶接工程で溶接した箇所の表面の処理をすることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項11】
前記合せ材溶接工程で溶接した箇所の表面に対して前記機械的研磨を実施した後、当該表面に対してさらに電解研磨又は不動態化処理のいずれかを実施することを特徴とする請求項10に記載のクラッド鋼溶接方法。
【請求項12】
前記クラッド鋼は、クラッド鋼板又はクラッド鋼管であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のクラッド鋼溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド鋼溶接方法に関し、詳細には、母材溶接後に耐食性金属である溶接材料の希釈が生じることを抑制したクラッド鋼溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッド鋼は、母材(炭素鋼または低合金鋼)の表面に、耐食性等の機能に優れた合せ材(ステンレス鋼など)を冶金的に接合した複合鋼材であり、構造部材として必要な強度をもつと同時に、耐食性などの機能も兼ね備え、かつ、母材部分まで合せ材と同一の材質で製造した場合と比較して安価である、という優れた特長をもっており、腐食環境等に配置される構造物や部材等に数多く用いられている。
【0003】
しかしながら、クラッド鋼は複合鋼材であるため、溶接を行う際には、炭素鋼同士を溶接する場合と比べて工夫を要する。従来のクラッド鋼の溶接方法では、母材側から下向き溶接で溶接するが、初層は融合不良、ブローホール、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥が発生しやすいため、母材溶接後に反転させてガウジングやグラインダーで裏はつりをして溶接欠陥を除去し、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接やフラックスコアードワイヤを用いたアーク溶接で合せ材側から下向き溶接で溶接していた。
【0004】
これに対して、特許文献1において、クラッド鋼の溶接に関し、母材溶接後に裏ビードのはつり作業を行うことなく、パイプの内側から全姿勢での溶接を行うことができ、かつ、非耐食鋼側において非耐食鋼の強度と同等以上となる溶接材料による溶接を可能にして、クラッド鋼管の耐食性と高強度とを両立できるとするクラッド鋼の突合せ溶接方法が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、突き合わせ溶接を行うクラッド鋼100の端部を、
図11に示されるような形状の開先120(母材側開先122の形状は特に限定されない。)に加工した後、非耐食鋼(母材102)側の母材側開先122に初層溶接を行い、
図12に示されるような所定の形状(H
bx/W
bx<1、ここで、H
bx:裏ビード高さ[mm]、W
bx:裏ビード幅[mm])の裏ビード132を高耐食材(合せ材104)側の合せ材側開先124内に形成させた後、耐食性が当該クラッド鋼100の高耐食材(合せ材104)と同等以上の溶接材料を用い、前記裏ビード132のはつり作業を行うことなく、高耐食材(合せ材104)側の合せ材側開先124を溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、非耐食鋼である裏ビード132を高耐食材(合せ材104)側の合せ材側開先124内に形成させた後、当該裏ビード132のはつり作業を行うことなく、高耐食材(合せ材104)側の合せ材側開先124を溶接するが、合せ材側開先124内に形成させる裏ビード132の幅Wbxに対する高さHbxの比(Hbx/Wbx)を小さくする工夫がなされていないため、当該裏ビード132の近傍部分において高耐食材である溶接材料の希釈が生じるおそれがあると本発明者は考察した。そのため、具体的には次の(1)及び(2)のような不具合が発生するおそれがあると本発明者は考察した。
【0008】
(1)二相ステンレス鋼でクロムやモリブデンを多く含む2209系、329J4L系、2553系の溶接材料は、希釈率が小さくてもマルテンサイト組織になりやすく、炭素鋼の上に直接溶接することが難しいが、希釈率が大きくなると、よりマルテンサイト組織になりやすくなる。
【0009】
(2)合せ材側開先124を溶接する際に309系溶接材料を用いた場合は、希釈が大きくなると局部的に耐食性が低下するとともに溶接金属がマルテンサイト組織となる。マルテンサイト組織はきわめて硬く、延性に乏しい組織となり割れの原因となる。また、マルテンサイト組織になると拡散性水素により遅れ割れを起こすことがある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、母材溶接後に耐食性金属である溶接材料の希釈が生じることを抑制したクラッド鋼溶接方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下のようなクラッド鋼溶接方法である。
【0012】
即ち、本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第1の態様は、二相ステンレス鋼を合せ材とし、炭素鋼または低合金鋼を母材としたクラッド鋼の溶接方法であって、前記クラッド鋼の溶接を行う部位において前記合せ材を取り除くカットバックを行って、前記母材の露出面を形成する開先加工を施す開先加工工程と、前記母材同士の間のルート間隔が3mm以上となるように、前記開先加工を施した前記クラッド鋼同士を突き合わせる突き合わせ工程と、前記突き合わせ工程の後、裏当て材を前記母材の前記露出面に配置する裏当て材配置工程と、前記裏当て材配置工程の後、前記母材側から前記母材側の突き合わせの開先溶接を行う母材溶接工程と、前記母材溶接工程の後、前記裏当て材を取り外す裏当て材取り外し工程と、前記裏当て材取り外し工程の後、前記合せ材側から前記合せ材の突き合わせの開先溶接を行う合せ材溶接工程と、を有し、前記合せ材溶接工程では、初層の溶接に309系ステンレス鋼の溶接材料を用い、最外層の溶接に二相ステンレス鋼またはニッケル合金の溶接材料を用いることを特徴とするクラッド鋼溶接方法である。
【0013】
ここで、本願において、炭素鋼とは、鉄と炭素の合金である鋼の一種で、炭素含有率が、通常0.02~約2%の範囲の鋼であり、少量のけい素、マンガン、りん、硫黄などを含む。低合金鋼とは、所定の合金元素の合計量が5質量%以下の鋼のことである。
【0014】
また、本願において、カットバックとは、合せ材を当該合せ材が広がる方向と略平行に取り除いて母材を露出させることである。
【0015】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第2の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1の態様において、前記合せ材溶接工程では、最外層以外の溶接に309系ステンレス鋼の溶接材料を用いる、ように構成されている態様である。
【0016】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第3の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1の態様または前記第2の態様において、前記裏当て材がセラミック製であるように構成されている態様である。
【0017】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第4の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第3の態様のいずれかの態様において、前記突き合わせ工程において、前記露出面が含まれる前記合せ材側の溝底の平行部長さが15mm以上となるように、前記開先加工を施した前記クラッド鋼同士を突き合わせる、ように構成されている態様である。
【0018】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第5の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第4の態様のいずれかの態様において、前記合せ材溶接工程では、耐食性金属の溶接材料を有するフラックスコアードワイヤを用いて前記合せ材側からアーク溶接をする、ように構成されている態様である。
【0019】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第6の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第5の態様のいずれかの態様において、前記裏当て材は、裏ビードを形成するための凹みのない裏当て材である、ように構成されている態様である。
【0020】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第7の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第6の態様のいずれかの態様において、前記開先加工工程では、前記合せ材を取り除くカットバックを行って、前記露出面とのなす角度が130°以上となる溝壁を形成する、ように構成されている態様である。
【0021】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第8の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第7の態様のいずれかの態様において、前記母材溶接工程を行った後、前記クラッド鋼を反転させることなく前記合せ材溶接工程を行う、ように構成されている態様である。
【0022】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第9の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第8の態様のいずれかの態様において、前記合せ材溶接工程では、CO2とアルゴンの混合ガスをシールドガスとして用い、前記混合ガスのCO2の含有割合を0mol%以上100mol%以下とし、前記アーク溶接を施す際の入熱量を5kJ/cm以上40kJ/cm以下とする、ように構成されている態様である。
【0023】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第10の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第9の態様のいずれかの態様において、前記合せ材溶接工程の後、鉄を含まない、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、コランダム、ガーネットのうちの少なくとも1つであって、JIS R6001(1998)で規定されるF80の粒度と同等またはそれよりも細かい粒度の研磨材を用いた機械的研磨、電解研磨又は不動態化処理のうちの少なくとも1つを実施して、前記合せ材溶接工程で溶接した箇所の表面の処理をする、ように構成されている態様である。
【0024】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第11の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第10の態様において、前記合せ材溶接工程で溶接した箇所の表面に対して前記機械的研磨を実施した後、当該表面に対してさらに電解研磨又は不動態化処理のいずれかを実施する、ように構成されている態様である。
【0025】
本発明に係るクラッド鋼溶接方法の第12の態様は、クラッド鋼溶接方法の前記第1~前記第11の態様のいずれかの態様において、前記クラッド鋼は、クラッド鋼板又はクラッド鋼管である、ように構成されている態様である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、母材溶接後に耐食性金属である溶接材料の希釈が生じることを抑制したクラッド鋼溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、開先加工工程および突き合わせ工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図
【
図2】本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、裏当て材配置工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図
【
図3】本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、母材溶接工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図
【
図4】本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、裏当て材取り外し工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図
【
図5】本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、合せ材溶接工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図
【
図6】本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において使用可能な裏当て材の具体例の断面図((A)は凹みあり、(B)は凹みなし。)
【
図7】裏ビードの形状について説明するための図((A)は裏当て材を設けて形成した裏ビード32の形状を模式的に示し、(B)は裏当て材を設けずに形成した裏ビード33の形状を模式的に示す。)
【
図8】合せ材側開先24の第1変形例である合せ材側開先24Aを模式的に示す概略図
【
図9】合せ材側開先24の第2変形例である合せ材側開先24Bを模式的に示す概略図
【
図10】本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において使用可能な裏当て材の他の具体例(裏当て材29)を模式的に示す図((A)は裏当て材29の断面図、(B)は裏当て材29を合せ材側開先24に取り付けた状態を模式的に示す概略図。)
【
図11】特許文献1に記載の技術を説明するための図(突き合わせ溶接を行うクラッド鋼100の開先形状を示す断面図)
【
図12】特許文献1に記載の技術を説明するための図(非耐食鋼(母材102)側の初層溶接により形成される裏ビード132の形状の断面図)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0029】
図1~
図5は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法の代表的な工程の場面を模式的に示す断面図であり、
図1は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、開先加工工程および突き合わせ工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図であり、
図2は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、裏当て材配置工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図であり、
図3は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、母材溶接工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図であり、
図4は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、裏当て材取り外し工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図であり、
図5は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法に関し、合せ材溶接工程を実施した際のクラッド鋼10の要部を模式的に示す概略図である。
図6は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において使用可能な裏当て材の具体例の断面図((A)は凹みあり、(B)は凹みなし。)であり、
図7は裏ビードの形状について説明するための図((A)は裏当て材を設けて形成した裏ビード32の形状を模式的に示し、(B)は裏当て材を設けずに形成した裏ビード33の形状を模式的に示す。)であり、
図8は合せ材側開先24の第1変形例である合せ材側開先24Aを模式的に示す概略図であり、
図9は合せ材側開先24の第2変形例である合せ材側開先24Bを模式的に示す概略図であり、
図10は本発明の実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において使用可能な裏当て材の他の具体例(裏当て材29)を模式的に示す図((A)は裏当て材29の断面図、(B)は裏当て材29を合せ材側開先24に取り付けた状態を模式的に示す概略図。)である。
【0030】
以下の実施形態の説明では、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法を適用するクラッド鋼10の形状が板状であるものとして説明を行うが、本発明の適用対象となるクラッド鋼の形状は板状に限定されるわけではなく、本発明に係るクラッド鋼溶接方法を実施可能な形状であればよく、本発明に係るクラッド鋼溶接方法は、例えば、板状や管状等のクラッド鋼やその他の形状のクラッド鋼に広く適用可能である。また、以下の実施形態の説明では、各材料等を具体的に記載しているが、それらは具体例に過ぎず、記載した具体例に本発明が限定されるわけではない。
【0031】
本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法の適用対象となるクラッド鋼10は、
図1に示すように、母材12と、合せ材14と、を有してなり、母材12は炭素鋼または低合金鋼であり、合せ材14は二相ステンレス鋼であり、合せ材14は耐食性金属である。前述したように、本願において低合金鋼とは、所定の合金元素の合計量が5質量%以下の鋼のことである。
【0032】
本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法の適用対象となるクラッド鋼10の合せ材14は、前述したように二相ステンレス鋼であり、具体的には例えば、SUS329J1L、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS327L1、UNS S32900、UNS S31803、UNS S32205、UNS S31260、UNS S32506、UNS S32750、UNS S82122、UNS S32304、UNS S39274等を用いることができる。
【0033】
本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、次のような手順(ステップ1~ステップ6)でクラッド鋼10の溶接を行う。
【0034】
<ステップ1(開先加工工程および突き合わせ工程)>
溶接を行うクラッド鋼10の溶接箇所である端部に所定の開先加工を行い、そして、その所定の開先加工を施したクラッド鋼10の端部同士を突き合わせて、
図1に示すように、開先20、母材側開先22、合せ材側開先24を設ける。ここで、母材側開先22は母材12側に設けた開先であり、合せ材側開先24は合せ材14側に設けた開先であり、母材側開先22と合せ材側開先24とを合わせて、開先20と称している。
【0035】
母材12の溶接を行う母材側開先22は、母材12の端部同士を突き合わせてなる母材側開先22が、
図1に示すようにV形となるように加工を施し、また、母材側開先22のルート間隔Gが3mm以上10mm以下となるように突き合わせて形成する。適切なルート間隔を設けることで、溶着金属と母材12同士の一体化(完全溶け込み)が容易になる。本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、所定のルート間隔を設けるため、溶着金属が漏洩しないように裏当て材26(
図2参照)を設置し、母材12と裏当て材26との重なりを適切な距離だけ設けて溶着金属が漏洩しないようにする。母材側開先22のルート間隔Gを3mm未満にすると、溶着金属がルート間隔Gの中に入り込みにくくなり、完全溶け込み溶接を行いにくくなる。また、母材側開先22のルート間隔Gを3mm未満にすると、裏当て材26を使用した場合でも、溶融不良、ブローホール、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥が発生しやすい。一方、ルート間隔Gが10mmを上回ると、溶接のパス数が多くなって溶接作業の効率が悪くなる。また、溶着金属の量が多くなって材料費の面でのコストアップにもつながる。
【0036】
また、合せ材14の溶接を行う合せ材側開先24は、溶接を行うクラッド鋼10の溶接箇所である端部において合せ材14を取り除くカットバックを行って母材12を露出させて形成する。この開先加工によって、母材12が一定の範囲で露出してなる母材露出面12Aが形成される。本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、母材露出面12Aを、合せ材14の表面が広がる方向と略同一の方向に広がる平面となるように設けている。合せ材側開先24は、母材露出面12Aを溝底、合せ材14の合せ材端面14Aを溝壁とする長方形状の開先(
図1参照)であり、合せ材端面(溝壁)14Aは母材露出面(溝底)12Aと略直交している。
【0037】
開先20において、母材側開先22は前述したようにルート間隔Gが3mm以上10mm以下となるように設定するが、合せ材側開先24の合せ材側の溝底の平行部長さWは15mm以上になるように設定する。
【0038】
合せ材側開先24の合せ材側の溝底の平行部長さWを15mm以上に設定する理由は、次のステップ2(裏当て材配置工程)で、裏当て材26を母材露出面12Aに十分な距離だけ密着させて、溶着金属が裏当て材26と母材露出面12Aとの間から漏洩することを防ぐためである。溶着金属が裏当て材26と母材露出面12Aとの間から漏洩することを防ぐためには、裏当て材26と母材露出面12Aとの密着距離d(
図2参照)を片側で6mm以上確保することが必要であり、7mm以上確保することが好ましい。例えば、母材側開先22のルート間隔Gが3mmの場合に密着距離dを片側で6mmずつ確保するようにすると、合せ材側開先24の合せ材側の溝底の平行部長さWは、3mm+6mm+6mm=15mmとなり、密着距離dを片側で7mmずつ確保するようにすると、合せ材側開先24の合せ材側の溝底の平行部長さWは、3mm+7mm+7mm=17mmとなる。したがって、合せ材側開先24の合せ材側の溝底の平行部長さWは、15mm以上確保することが必要であり、17mm以上確保することが好ましい。
【0039】
なお、合せ材側開先24の合せ材側の溝底の平行部長さWが長くなりすぎると、合せ材側開先24の溶接に用いる耐食金属の溶接材料の溶接のパス数が多くなって溶接作業の効率が悪くなるとともに、耐食金属の溶着金属の量が多くなって材料費の面でのコストアップにもつながるため、溝の間隔は40mm以下が好ましく、32mm以下がより好ましい。
【0040】
よって、合せ材側開先24の合せ材側の溝底の平行部長さWは、好ましくは15mm以上40mm以下であり、より好ましくは17mm以上32mm以下である。
【0041】
<ステップ2(裏当て材配置工程)>
ステップ1(開先加工工程および突き合わせ工程)で
図1に示す開先20を形成した後、
図2に示すように、本ステップ2(裏当て材配置工程)において、裏当て材26を母材露出面12Aに密着させて配置する。裏当て材26を母材露出面12Aに密着させて配置する際には、例えばアルミテープを用いることができる。裏当て材26の長さは溶接を行う状況に応じて適宜の長さにすればよく、長さの短い裏当て材を使用する場合には、一列状に並べて配置する。長さの短い裏当て材は溶接対象物の形状に沿わせて配置しやすい。
【0042】
本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、後のステップ4(裏当て材取り外し工程)で裏当て材26を取り外すので、裏当て材26は、ステップ3(母材溶接工程)で母材側開先22を母材溶接金属30で溶接した後に取り外しできる裏当て材であることが必要である。例えば、セラミック製の裏当て材はステップ3(母材溶接工程)後に取り外すことができるので、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法で使用する裏当て材26として用いることができる。また、セラミックは融点が高く、溶融金属と接触してもセラミックはほとんど溶融せず、溶接金属への影響が少ないので、裏当て材26としては、セラミック製の裏当て材を用いることが好ましい。セラミック製の裏当て材は、具体的には例えば、SiO2、Al2O3、MgO、カオリン、タルクのうちの少なくとも1つ以上の混合物を所定の形状に成型して作製することができる。
【0043】
また、銅製の裏当て材やフラックス製の裏当て材などもステップ3(母材溶接工程)後に取り外すことができるので、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法で使用する裏当て材26として用いることができる。
【0044】
本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法においては、本ステップ2(裏当て材配置工程)において、裏当て材26を母材露出面12Aに密着させて配置するので、次のステップ3(母材溶接工程)の後に、裏ビードのはつり作業を行う必要はない。
【0045】
裏当て材26を配置する際には、前述したように、裏当て材26と母材露出面12Aとの密着距離dを片側で6mm以上確保することが必要であり、7mm以上確保することが好ましい。また、裏当て材26を母材露出面12Aに密着させる際には、例えば、アルミテープを用いて行うことができるが、溶着金属が裏当て材26と母材露出面12Aとの間から漏洩することをより確実に防ぐべく、母材露出面12Aの平坦性の確保に留意する。また、裏当て材26を母材露出面12Aにより強く押圧するような押圧材や治具を用いてもよい。
【0046】
一般的には、完全溶込み突合せ溶接には、裏ビードを形成するための凹みが設けられている裏当て材を用いるところ、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法においても、
図2に示すように、裏ビードを形成するための凹み26Aが設けられている裏当て材26(
図6(A)参照)を用いている。凹み26Aの幅は、ルート間隔Gと同等かそれ以上にする。
【0047】
本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において、母材12同士の溶接の際に、凹み26Aのある裏当て材26を用いた場合でも、裏ビードの高さは凹み26Aの高さに制限され、かつ、裏当て材26を用いることによりルート間隔Gを3mm以上に広くすることができるので、
図7(A)に示すように、裏ビード32の高さH
b1は幅W
b1に対して相対的に低くなり、ステップ5(合せ材溶接工程)における合せ材14同士の溶接において、耐食性金属である溶接材料の希釈は生じにくい。一方、特許文献1に記載の技術のように、裏当て材を用いずに母材12同士の溶接をした場合には、溶着金属が漏洩しないようにルート間隔Gを狭くする必要があり、かつ、裏ビードの高さの裏当て材による制限がなされないので、
図7(B)に示すように、合せ材側開先25内に生じる裏ビード33の高さH
b2は幅W
b2に対して相対的に高くなり、ステップ5(合せ材溶接工程)における合せ材14同士の溶接(合せ材側開先24の溶接)において、耐食性金属である溶接材料の希釈が裏ビード33の近傍部位において局所的に生じやすくなる。
【0048】
なお、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、溶接部位に密着させる面が平坦面28Aのみで形成されていて凹みのない裏当て材28(
図6(B)参照)を用いることもできる。一般的には、裏ビードの形成を確認することで完全溶込み突合せ溶接において完全溶け込みがなされていることを確認するので、片側からの完全溶込み突合せ溶接では、溶接側とは反対側の面に裏ビードを形成させることが必要になるが、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、後述するように、ステップ3(母材溶接工程)で母材12同士の溶接を行った後、ステップ5(合せ材溶接工程)で母材12とは反対側の合せ材14側で合せ材14同士の溶接を行うので、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、ステップ3(母材溶接工程)において、裏ビードの形成を確認することは必ずしも必要ではなく、凹みのない裏当て材28を用いることもできる。
【0049】
本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において、凹みのない裏当て材28を用いた場合、合せ材側開先24内に裏ビードが形成されないので、ステップ5(合せ材溶接工程)における合せ材14同士の溶接において、耐食性金属である溶接材料の希釈がより生じにくくなる。
【0050】
<ステップ3(母材溶接工程)>
ステップ2(裏当て材配置工程)で、
図2に示すように、裏当て材26を母材露出面12Aに密着させて配置した後、本ステップ3(母材溶接工程)において、母材12に適合した溶接材料で母材12側から母材12の突き合わせの開先溶接を行って、
図3に示すように、母材側開先22を母材溶接金属30で埋めて、母材側開先22を溶接する。
【0051】
母材側開先22における母材12(炭素鋼または低合金鋼)の溶接方法としては、具体的には例えば、ガスシールドアーク溶接(ガスメタルアーク溶接)、サブマージアーク溶接、被覆アーク溶接、セルフシールドアーク溶接、TIG溶接を用いることができる。この中で、コストと施工性の面からガスシールドアーク溶接とサブマージアーク溶接を用いることが多い。
【0052】
母材側開先22における母材12同士の溶接に用いる溶接材料は、母材の成分に近い溶接材料を用いることが原則であるが、溶接中の蒸発やスラグへの移行などの成分損失も考慮して溶接材料の組成を選定する。また、強度が母材と同等以上、すなわち同等又はオーバーマッチとなる溶接材料を用いることが好ましい。
【0053】
<ステップ4(裏当て材取り外し工程)>
ステップ3(母材溶接工程)で、
図3に示すように、母材側開先22を母材溶接金属30で溶接した後、本ステップ4(裏当て材取り外し工程)において、
図4に示すように、裏当て材26を取り外す。
図4に示すように、合せ材側開先24内に裏当て材26の凹み26Aの形状と同様の形状の裏ビード32が形成されているが、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、ステップ3(母材溶接工程)の前にステップ2(裏当て材配置工程)で裏当て材26を配置しているので、前述したように、裏ビード32の高さH
b1は幅W
b1に対して相対的に低く(
図7(A)参照)、ステップ5(合せ材溶接工程)における合せ材14の突き合わせの開先溶接において、耐食性金属である溶接材料の希釈は生じにくい。
【0054】
また、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法においては、裏当て材26を母材露出面12Aに密着させて配置してからステップ3の母材溶接工程を行うので、初層の溶接欠陥が発生しにくく、本ステップ4(裏当て材取り外し工程)の後に裏ビードのはつり作業を行う必要はない。
【0055】
<ステップ5(合せ材溶接工程)>
ステップ4(裏当て材取り外し工程)で、
図4に示すように、裏当て材26を取り外して合せ材側開先24を露出させて合せ材14側からの溶接を可能な状態にした後、本ステップ5(合せ材溶接工程)において、合せ材側開先24の溶接に用いる耐食性溶接材料で合せ材14側から合せ材14の突き合わせの開先溶接を行って、
図5に示すように、合せ材側開先24を、初層溶接の耐食性溶接金属である初層溶接金属34と、合せ材14に対応した耐食性溶接金属である合せ材対応溶接金属36で埋めて、合せ材側開先24を溶接する。
【0056】
本ステップ5(合せ材溶接工程)において、合せ材側開先24における合せ材14の突き合わせの開先溶接を行う際、初層溶接には309系ステンレス鋼の溶接材料を用いて初層溶接金属34を形成させ、最外層の溶接に二相ステンレス鋼またはニッケル合金の溶接材料を用いて合せ材対応溶接金属36を形成させる。初層溶接に309系ステンレス鋼の溶接材料を用いる理由は、309系ステンレス鋼の溶接材料によって形成される、炭素鋼と溶接金属の境界近傍の溶接金属は、マルテンサイト組織となりにくく割れの発生を抑制できるからである。一方、クロムやモリブデンを多く含む二相ステンレス鋼である2209系、329J4L系、2553系の溶接材料は、希釈率が小さくてもマルテンサイト組織になりやすく、炭素鋼の上に直接溶接することが難しい。そのため、母材12の上に直接溶接を行う初層溶接においては309系、309L系、309J系、309Mo系、309LMo系、309LNb系等の309系ステンレス鋼の溶接材料を用い、最外層の溶接においてクロムやモリブデンを多く含む二相ステンレス鋼である2209系、329J4L系、2553系の溶接材料またはクロムとモリブデンを含むNi6625系、Ni6276系、Ni6022系、Ni6059系、Ni6275系、Ni6455系、Ni6456系、Ni6686系、Ni1013系ニッケル合金の溶接材料を用いる。
【0057】
本ステップ5(合せ材溶接工程)の前に、合せ材側開先24内に裏ビード32が形成されているが、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法では、ステップ3(母材溶接工程)の前にステップ2(裏当て材配置工程)で裏当て材26を配置しているので、前述したように、裏ビード32の高さH
b1は幅W
b1に対して相対的に低く(
図7(A)参照)、本ステップ5(合せ材溶接工程)における合せ材14の突き合わせの開先溶接において、耐食性金属である溶接材料の希釈は生じにくい。ステップ3(母材溶接工程)の前に裏当て材26を配置しないと、裏ビード33の高さH
b2が幅W
b2に対して相対的に大きくなり(
図7(B)参照)、その部位が、本ステップ5(合せ材溶接工程)において即座に溶かされてしまい、局所的に溶接材料の希釈が生じるおそれがある。
【0058】
また、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法においては、ステップ2(裏当て材配置工程)において、裏当て材26を母材露出面12Aに密着させて配置するので、母材側開先22の溶接における初層の溶接欠陥が発生しにくく、ステップ3(母材溶接工程)の後に、裏ビードのはつり作業を行う必要はなく、ガウジングを行うことが不要で深い溝を設けることはない。このため、本ステップ5(合せ材溶接工程)における耐食性溶接材料での溶接においては、初層溶接金属34の後に溶接する合せ材対応溶接金属36は原則として1層設ければよい。合せ材の厚さが厚い場合、初層溶接金属34を溶接した後、最外層以外の2層目以降を初層溶接での溶接材料と同じ309系ステンレス鋼の溶接材料で溶接し、最外層に合せ材対応溶接金属36を溶接により原則として1層設ければよい。ただし、最外層だけでなく最外層以外の2層目以降を合せ材対応溶接金属36で形成して、合せ材対応溶接金属36を複数層設けるようにしてもよい。
【0059】
前述したように、合せ材14は耐食性金属である二相ステンレス鋼であり、合せ材14として、具体的には例えば、SUS329J1L、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS327L1、UNS S32900、UNS S31803、UNS S32205、UNS S31260、UNS S32506、UNS S32750、UNS S82122、UNS S32304、UNS S39274等を用いることができる。
【0060】
本ステップ5(合せ材溶接工程)における初層の溶接材料として用いるフラックス入りワイヤ(FCW)の金属成分としては、309系、309L系、309J系、309Mo系、309LMo系、309LNb系のステンレス鋼を用いることができ、具体的には例えば、TS309-FB0、TS309-FB1、TS309-FC0、TS309-FC1、TS309-FM0、TS309-MI0、TS309L-FB0、TS309L-FB1、TS309L-FC0、TS309L-FC1、TS309L-FM0、TS309L-MI0、TS309J-FB0、TS309Mo-FB0、TS309Mo-FB1、TS309Mo-FC0、TS309Mo-FC1、TS309Mo-FM0、TS309Mo-MI0、TS309LMo-FB0、TS309LMo-FB1、TS309LMo-FC0、TS309LMo-FC1、TS309LMo-MI0、TS309LMo-FM0、TS309LNb-FB0等のフラックス入りワイヤ(金属成分は309系ステンレス鋼)を用いることができる。初層の溶接材料に309系ステンレス鋼の溶接材料を用いた場合、炭素鋼と溶接金属の境界近傍の溶接金属はマルテンサイト組織となりにくく、割れの発生を抑制することができる。
【0061】
本ステップ5(合せ材溶接工程)における2層目以降の溶接材料として使用可能で少なくとも最外層に用いる耐食性溶接材料であるフラックス入りワイヤ(FCW)の金属成分としては、クロムやモリブデンを多く含む二相ステンレス鋼である2209系、329J4L系、2553系の溶接材料を用いることができ、具体的には例えば、TS2209-FB0、TS2209-FB1、TS2209-FC0、TS2209-FC1、TS2209-MIO、TS329J4L-FB0、TS329J4L-FB1、TS329J4L-FC0、TS329J4L-FC1、TS329J4L-MIO、TS2553-FB0、TS2553-FB1等のフラックス入りワイヤ(金属成分はクロムやモリブデンを多く含む二相ステンレス鋼)を用いることができる。
【0062】
もしくは、本ステップ5(合せ材溶接工程)における2層目以降の溶接材料として使用可能で少なくとも最外層に用いる耐食性溶接材料であるフラックス入りワイヤ(FCW)の金属成分としては、クロムとモリブデンを含むニッケル合金であるNi6625系、Ni6276系、Ni6022系、Ni6059系、Ni6275系、Ni6455系、Ni6456系、Ni6686系、Ni1013系ニッケル合金の溶接材料を用いることができ、具体的には例えば、TNi6625-BP1、TNi6625-BM0、TNi6625-BM1、TNi6625-PM1、TNi6276-BP1、TNi6276-BM0、TNi6276-BM1、TNi6276-PM1、TNi6022-BP1、TNi6022-BM0、TNi6022-BM1、TNi6022-PM1、TNi6059-BP1、TNi6059-BM0、TNi6059-PM1、TNi6275-BP1、TNi6275-BM0、TNi6275-PM1、TNi6455-BP1、TNi6455-BM0、TNi6455-PM1、TNi6456-BP1、TNi6456-BM0、TNi6456-PM1、TNi6686-BP1、TNi6686-BM0、TNi6686-PM1、TNi1013-BP1、TNi1013-BM0、TNi1013-PM1、AWS A5.34 ENiMo13T1-1/4等のフラックス入りワイヤ(金属成分はニッケル合金)を用いることができる。
【0063】
本ステップ5(合せ材溶接工程)における溶接方法としては、TIG溶接、手棒による溶接、フラックス入りワイヤ(FCW)を用いたMAG溶接(シールドガスに不活性ガスと炭酸ガスを混合して使うアーク溶接)等を用いることができる。フラックス入りワイヤ(FCW)を用いたMAG溶接は、他の溶接方法(TIG溶接、手棒による溶接等)と比べて溶接能率が高く、また、上向き溶接や立向き溶接であっても、他の溶接方法(TIG溶接、手棒による溶接等)と比べて溶接能率が比較的悪くならないので、作業性および施工性の観点から、本ステップ5(合せ材溶接工程)における溶接方法としては、フラックス入りワイヤ(FCW)を用いたMAG溶接を用いることが好ましい。本ステップ5(合せ材溶接工程)において、フラックス入りワイヤ(FCW)を用いたMAG溶接を用いることにより、クラッド鋼10を反転させたり、クラッド鋼10の向きを変えたりせずに、そのまま上向き溶接や立向き溶接を行って合せ材14側の溶接を行った場合でも、溶接能率が低下することを抑制することができる。したがって、本ステップ5(合せ材溶接工程)において、フラックス入りワイヤ(FCW)を用いたMAG溶接を用いることにより、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法を、橋梁等の固定構造物へのクラッド鋼の溶接に好適に用いることができる。
【0064】
本ステップ5(合せ材溶接工程)においてフラックス入りワイヤ(FCW)を用いてMAG溶接を行う際には、CO2とアルゴンの混合ガスをシールドガスとして用いる。アルゴンの割合を大きくした方がビードの仕上がりがよくなり、また、スパッタも少なくなるが、アルゴンはCO2と比べて高価であるので、当該シールドガスのCO2の含有割合を0mol%以上100mol%以下にすることが好ましい。
【0065】
また、本ステップ5(合せ材溶接工程)においてフラックス入りワイヤ(FCW)を用いたMAG溶接におけるアーク溶接を施す際の入熱量は5kJ/cm以上40kJ/cm以下とすることが好ましい。当該溶接入熱量が5kJ/cm未満であると、合せ材溶接工程において、合せ材側に形成される裏ビードの止端部や溝端部を十分に溶融するだけの熱量に達せず、融合不良を招くおそれがある。当該溶接入熱量が40kJ/cmを上回ると、合せ材溶接工程において、母材12が多く溶解することで耐食性金属溶接材料の希釈が大きくなり、溶接部の耐食性が低下するおそれがある。
【0066】
なお、本ステップ5(合せ材溶接工程)において、合せ材14の表面をシートで覆う養生を行うことまでは必ずしも必要ではないが、溶接時に飛散するスパッタの付着を防止するため、スパッタ防止剤をスプレーやハケなどによって合せ材14の表面に塗布することが好ましい。
【0067】
<ステップ6(研磨工程)>
ステップ5(合せ材溶接工程)で、合せ材14側から耐食性溶接金属で合せ材14の突き合わせの開先溶接を行って、
図5に示すように、合せ材側開先24を初層溶接金属34および合せ材対応溶接金属36で埋めて、合せ材14の端部を溶接した後、本ステップ6(研磨工程)において、合せ材14の当該溶接部の表面を研磨して仕上げる。
【0068】
溶接焼けした部位は耐食性が低下しているが、合せ材14の溶接部の表面を研磨して仕上げることにより、耐食性が低下した溶接焼けした部位を取り除いて、腐食の起点にならないようにすることができる。また、合せ材14の溶接部の表面を研磨して仕上げることにより、表面の凹凸が少なくなり、鉄粉や錆が付着しにくくなり、もらい錆を防止することができる。また、合せ材14の溶接部の表面を研磨して仕上げることにより、美観も向上する。
【0069】
合せ材14の溶接部の表面の研磨は、例えば、グラインダーやベルトサンダーを用いて行うことができる。研磨作業の前半においては、研磨作業の効率を上げるため、JIS R6001(1998)で規定されるF80の粒度よりも粗い粒度の研磨材を用いてもよいが、最終仕上げの段階では、JIS R6001(1998)で規定されるF80の粒度と同等またはそれよりも細かい粒度の研磨材を用いて研磨する。最終仕上げの段階で、細かい粒度の研磨材を用いて研磨することにより、表面の凹凸が少なくなって仕上がりの見た目がよくなり、また、鉄粉も付着しにくくなる。表面の凹凸が大きいと鉄粉が付着しやすくなり、もらい錆が発生しやすくなる。
【0070】
研磨材の材質は、鉄を含まない、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、コランダム、ガーネットのうちの少なくとも1つであることが好ましい。研磨材に鉄が含まれていると、研磨材自体のさびが研磨した部位に付着するおそれがある。
【0071】
また、合せ材14の溶接部の表面の研磨を、電解研磨により行ってもよい。電解研磨装置には可搬式のものもあり、橋梁等の固定構造物に対しても、合せ材14の溶接部に対して電解研磨を行うことは可能である。
【0072】
また、電解研磨に代えて、硫酸、塩酸、フッ酸、硝酸、リン酸、過酸化水素のうち少なくとも1つを含む溶液を合せ材14の溶接部の表面に塗布し、溶接焼けの除去や不動態化処理を行ってもよい。合せ材14の溶接部の表面に対しては、研磨材を用いた機械的研磨、電解研磨、不動態化処理のうちの少なくとも1つを実施することが好ましい。
【0073】
なお、電解研磨や不動態化処理は、合せ材であるステンレス鋼やニッケル合金の表面の不動態被膜中の鉄を優先的に溶解してクロムを濃縮させる作用があるため、耐食性を向上させることができる。
【0074】
そのため、研磨材を用いた機械的研磨と、電解研磨や不動態化処理との両方を行うことが好ましいが、その場合、処理できる研磨量の範囲の違い(研磨はミリオーダー、電解研磨や不動態化処理は数十ナノメートルオーダー)から、最初に研磨材を用いた機械的研磨による処理を行い、その後に電解研磨や不動態化処理を行うようにすることが好ましい。
【0075】
なお、母材12側の溶接部の表面は、ブラスト処理を行った後、塗装を行う。この処理は、鋼構造物における通常の表面処理と同様である。
【0076】
<補足>
前述したように、ステップ1(開先加工工程および突き合わせ工程)においては、合せ材14に対してカットバック加工を行って母材露出面12Aを形成する。
図1では合せ材14の厚さと同じ厚さだけ合せ材14を取り除くカットバック加工を行った状態を示している。このカットバック加工においては、
図8に示す合せ材側開先24A(合せ材側開先24の第1変形例)のように、合せ材14の厚さよりも厚くカットバック加工を行い、合せ材14だけでなく、母材12もわずかに切り取って母材露出面12Bを形成するようにしてもよい。合せ材側開先24内に合せ材14が残っていると、母材12側の溶接の際の溶接材料に合せ材14が溶融して、母材溶接金属30に悪影響を与えるおそれがあるので、合せ材側開先24から合せ材14を確実に取り除くためである。
【0077】
また、合せ材14に対するカットバック加工においては、
図1に示すように、合せ材側開先24が、母材露出面12Aを溝底、合せ材14の合せ材端面14Aを溝壁とする長方形状の開先となるように加工を行っており、合せ材端面(溝壁)14Aは母材露出面(溝底)12Aと略直交している。しかしながら、ニッケル合金は、溶けたときの粘度が炭素鋼よりも高く、表面張力により球状になりやすいため、ニッケル合金の溶接材料は、細かい隙間に入り込みにくく、
図1に示すような長方形状の合せ材側開先24の約90°の入隅部において、融合不良による溶接欠陥が生じることがある。そのため、ニッケル合金の溶接材料を用いる場合には、
図1に示すような長方形状の合せ材側開先24にするよりも、
図9に示すような等脚台形状の合せ材側開先24Bにする方が好ましい。具体的には、合せ材側開先24B(合せ材側開先24の第2変形例)において、母材露出面(溝底)12Aと合せ材端面(溝壁)14Bとのなす角度θが130°以上となるようにするカットバック加工を行うことが好ましい。
【0078】
また、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において使用可能な裏当て材の具体例(裏当て材26、28)の断面形状を、
図6において示したが、本実施形態に係るクラッド鋼溶接方法において使用可能な裏当て材の断面形状は、これに限定されるわけではなく、母材露出面(溝底)12Aにおける裏当て材の密着長さを所定の長さ(6mm以上必要であり、7mm以上が好ましい。)確保できるものであればよく、断面形状が正方形状や二等辺三角形状等の裏当て材を用いることも可能である。
図10(A)では、断面が二等辺三角形状の裏当て材29の断面形状を示しており、
図10(B)では、断面が二等辺三角形状の裏当て材29を合せ材側開先24に取り付けた状態を示している。
【符号の説明】
【0079】
10、100…クラッド鋼
12、102…母材
12A、12B…母材露出面(溝底)
14、104…合せ材
14A、14B…合せ材端面(溝壁)
20、120…開先
22、122…母材側開先
24、24A、24B、25、124…合せ材側開先
26、28、29…裏当て材
26A…凹み
28A…平坦面
30…母材溶接金属
32、33、132…裏ビード
34…初層溶接金属
36…合せ材対応溶接金属
G…ルート間隔
W…合せ材側の溝底の平行部長さ
d…裏当て材26と母材露出面12Aとの密着距離
Hb1、Hb2、Hbx…裏ビード高さ
Wb1、Wb2、Wbx…裏ビード幅
θ…母材露出面12Aと溝壁14Bとのなす角度