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特開2024-109245作業計画支援システム、作業計画支援システムサーバおよび移植機
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  • 特開-作業計画支援システム、作業計画支援システムサーバおよび移植機 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109245
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】作業計画支援システム、作業計画支援システムサーバおよび移植機
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20240806BHJP
【FI】
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013947
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康司
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC01
5L050CC01
(57)【要約】
【課題】稲作において移植時における苗取量を調整することのできる作業計画支援システムを提供する。
【解決手段】収穫機20は、作物の収穫時において収穫に関する収穫情報を計測する収穫情報計測部21と、収穫作業中における収穫機20の車両位置を計測する位置計測部22とを備え、収穫情報に車両位置を対応付けた計測データを取得する。作業計画支援システムサーバ10は、収穫機20によって取得された計測データを用いて、次年度の移植時における目標苗取量マップを生成するマップ生成部11を備える。移植機30は、目標苗取量マップを記憶する記憶部32と、移植作業中における移植機30の車両位置を計測する位置計測部33と、目標苗取量マップと位置計測部33により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中における苗取量の調整を行う苗取量調整部34とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫機、作業計画支援システムサーバ、および移植機とを含んで構成され、
前記収穫機は、作物の収穫時において収穫に関する収穫情報を計測する収穫情報計測部と、収穫作業中における当該収穫機の圃場内での車両位置を計測する第1位置計測部とを備え、前記収穫情報に前記車両位置を対応付けた計測データを取得し、
前記作業計画支援システムサーバは、前記収穫機によって取得された前記計測データを少なくとも含む情報データを用いて、次年度の移植時における目標苗取量マップを生成するマップ生成部を備え、
前記移植機は、前記目標苗取量マップを記憶する記憶部と、移植作業中における当該移植機の圃場内での車両位置を計測する第2位置計測部と、前記目標苗取量マップと前記第2位置計測部により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中における苗取量の調整を行う苗取量調整部とを備えることを特徴とする作業計画支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の作業計画支援システムであって、
前記マップ生成部は、前記目標苗取量マップの生成にあたって、前記収穫情報以外に、移植から収穫までの間における作物の状態から得られる中間情報、今年度の移植時の情報から得られる移植情報、および圃場の環境情報の何れかを使用可能であることを特徴とする作業計画支援システム。
【請求項3】
作物の収穫時において収穫に関する収穫情報を計測する収穫情報計測部と、収穫作業中における収穫機の圃場内での車両位置を計測する第1位置計測部とを備える収穫機から、前記収穫情報に前記車両位置を対応付けた計測データを受け取り可能であり、
前記収穫機によって取得された前記計測データを少なくとも含む情報データを用いて、次年度の移植時における目標苗取量マップを生成するマップ生成部を備えることを特徴とする作業計画支援システムサーバ。
【請求項4】
請求項3に記載の作業計画支援システムサーバから前記目標苗取量マップを受け取り可能であり、
前記目標苗取量マップを記憶する記憶部と、
移植作業中における移植機の圃場内での車両位置を計測する第2位置計測部と、
前記目標苗取量マップと前記第2位置計測部により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中における苗取量の調整を行う苗取量調整部とを備えることを特徴とする移植機。
【請求項5】
請求項4に記載の移植機であって、
報知を行う報知部を備え、
前記マップ生成部が前記情報データの異常値が発生した圃場内での位置を異常発生箇所として特定し、
前記異常発生箇所と前記第2位置計測部により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中に報知を行うことを特徴とする移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、稲作において用いられる作業計画支援システム、並びにこのシステムで使用される作業計画支援システムサーバおよび移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
農業において、今年度の作物の栽培管理の結果に基づいて、次年度以降の作業計画を立案することが一般に行われている。例えば、特許文献1には、収穫機で収穫した作物の束から茎数を測定し、また、作物の倒伏状態を測定し、それぞれ収穫した圃場内での位置情報と合わせて記録することで圃場内での茎数や倒伏状態のバラつきを把握して次年度の作業計画に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-135953号公報
【特許文献2】特開2019-109791号公報
【特許文献3】特開2020-113122号公報
【特許文献4】特開2017-136008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
稲作においては、収量(単位面積当たりの収穫量)は穂数に大きく影響を受け、その穂数は移植(田植え)時の苗取量(1株当たりの苗の本数に相当)に影響を受けることが分かっている。そのため、生産者には収量および穂数から次年度の苗取量を検討したい要求が存在する。さらには、同じ圃場であっても、場所によって土壌の性質にばらつきがあり、それぞれの場所において適切な苗取量は異なると考えられる。
【0005】
これに対し、現状の稲作では、移植時の苗取量は通常1筆毎の使用予定苗箱数に基づき決定されている。すなわち、苗取量は使用予定苗箱数に基づき変更されるものであり、現状、作業計画として苗取量調整を容易に行うツールは存在しない。言い換えれば、同じ圃場内では一定の苗取量で移植が行われ、圃場内で苗取量調整を行うことはなかった。
このため、稲作の作業計画においては、苗取量調整を行えるようにすることに改善の余地がある。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、稲作において移植時における苗取量を調整することのできる作業計画支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の第1の態様である作業計画支援システムは、収穫機、作業計画支援システムサーバ、および移植機とを含んで構成され、前記収穫機は、作物の収穫時において収穫に関する収穫情報を計測する収穫情報計測部と、収穫作業中における当該収穫機の圃場内での車両位置を計測する第1位置計測部とを備え、前記収穫情報に前記車両位置を対応付けた計測データを取得し、前記作業計画支援システムサーバは、前記収穫機によって取得された前記計測データを少なくとも含む情報データを用いて、次年度の移植時における目標苗取量マップを生成するマップ生成部を備え、前記移植機は、前記目標苗取量マップを記憶する記憶部と、移植作業中における当該移植機の圃場内での車両位置を計測する第2位置計測部と、前記目標苗取量マップと前記第2位置計測部により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中における苗取量の調整を行う苗取量調整部とを備えることを特徴としている。
【0008】
上記の構成によれば、目標苗取量マップに基づいて苗の移植を行うことにより、目標とする収量に対して苗取量が最適量となるような作業計画を実施することができる。
【0009】
また、上記作業計画支援システムでは、前記マップ生成部は、前記目標苗取量マップの生成にあたって、前記収穫情報以外に、移植から収穫までの間における作物の状態から得られる中間情報、今年度の移植時の情報から得られる移植情報、および圃場の環境情報の何れかを使用可能である構成とすることができる。
【0010】
上記の構成によれば、目標苗取量マップの生成に中間情報、移植情報、または環境情報を使用することで、より精密な作業計画を立てることができる。
【0011】
また、上記の課題を解決するために、本開示の第2の態様である作業計画支援システムサーバは、作物の収穫時において収穫に関する収穫情報を計測する収穫情報計測部と、収穫作業中における収穫機の圃場内での車両位置を計測する第1位置計測部とを備える収穫機から、前記収穫情報に前記車両位置を対応付けた計測データを受け取り可能であり、前記収穫機によって取得された前記計測データを少なくとも含む情報データを用いて、次年度の移植時における目標苗取量マップを生成するマップ生成部を備えることを特徴としている。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本開示の第3の態様である移植機は、上記記載の作業計画支援システムサーバから前記目標苗取量マップを受け取り可能であり、前記目標苗取量マップを記憶する記憶部と、移植作業中における移植機の圃場内での車両位置を計測する第2位置計測部と、前記目標苗取量マップと前記第2位置計測部により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中における苗取量の調整を行う苗取量調整部とを備えることを特徴としている。
【0013】
また、上記移植機は、報知を行う報知部を備え、前記マップ生成部が前記情報データの異常値が発生した圃場内での位置を異常発生箇所として特定し、前記異常発生箇所と前記第2位置計測部により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中に報知を行う構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の作業計画支援システム、作業計画支援システムサーバおよび移植機は、収穫機によって取得された計測データ等を用いて目標苗取量マップを生成し、目標苗取量マップに基づいて苗の移植を行うことにより、移植時における苗取量を調整することができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の作業計画支援システムの構成例を示すブロック図である。
図2】目標苗取量マップの生成手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係る作業計画支援システム(以下、本システム)について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本システムの構成例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、本システムは、稲作における作業計画に使用できるものであり、サーバ(作業計画支援システムサーバ)10、収穫機20(いわゆるコンバイン)および移植機30(いわゆる田植え機)を含めて構成される。
【0018】
収穫機20は、収穫情報計測部21、位置計測部(第1位置計測部)22および送信部23を備えている。収穫情報計測部21は、作物の収穫時において、収穫量または穂数(作物茎数)等の収穫に関する情報(収穫情報)を計測する。収穫機20は、作物を収穫する収穫部(図示せず)と、収穫された作物を搬送する搬送部(図示せず)を有しており、収穫情報計測部21は搬送部において搬送途中の作物の茎数または収穫量(すなわち重量)を計測するセンサとして備えることができる。このようなセンサによる収穫情報計測部21は、公知の手段であり、例えば特許文献1において開示がある。
【0019】
位置計測部22は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を用い、収穫作業中における収穫機20の車両位置を計測する。収穫作業中の収穫機20は、収穫情報計測部21により計測される収穫情報と位置計測部22により計測される車両位置とを対応付けて計測データとし、この計測データを送信部23によってサーバ10へ送信する。図1に示すシステム例では、サーバ10はクラウドサーバとされ、送信部23はインターネット等の公共通信網40を介してサーバ10へデータを送信可能とされている。但し、本開示はこれに限定されるものではなく、送信部23は専用の無線通信回線によってサーバ10へデータを送信するものであってもよい。
【0020】
サーバ10は、マップ生成部11を備えている。詳細については後述するが、マップ生成部11は、収穫機20から受信した計測データを少なくとも含む情報データを用い、次年度の移植時における目標苗取量マップを生成する。
【0021】
移植機30は、受信部31、記憶部32、位置計測部(第2位置計測部)33、苗取量調整部34、送信部35および報知部36を備えている。受信部31は、サーバ10より目標苗取量マップを受信する。記憶部32は、受信した目標苗取量マップを記憶する。位置計測部33は、GNSSを用い、移植作業中における移植機30の車両位置を計測する。苗取量調整部34は、記憶した目標苗取量マップと位置計測部33により計測される車両位置とを参照しながら、移植作業中における苗取量の調整を行う。送信部35はインターネット等の公共通信網40を介してサーバ10へデータを送信可能とされている。報知部36については後述する。
【0022】
尚、サーバ10、収穫機20および移植機30間のデータ移動は、通信ではなく、USBメモリ等の着脱可能な記録媒体を用いて行ってもよい。すなわち、収穫機20および移植機30に対してUSBメモリを装着可能としておくことで、USBメモリを用いてのデータ移動が可能となる。この場合、収穫機20および移植機30における通信機能(送信部23および受信部31)は省略することも可能である。
【0023】
続いて、マップ生成部11における目標苗取量マップの生成手順について説明する。図2は、目標苗取量マップの生成手順を示す説明図である。図2に示すように、次年度の目標苗取量マップは、今年度の情報マップ(情報データ)に基づいて得られる。下記の算出式(1)は、図2の例に対応して、目標苗取量マップの算出に使用されるものである。尚、図2および算出式(1)では、情報マップとして収穫情報マップGij、苗取量マップNij、中間情報マップRij、移植情報マップTijが例示されている。
【0024】
Gij=Nij×α+Rij×β+Tij×γ … (1)
算出式(1)は、ある年度の収穫情報が、同じ年度の苗取量、中間情報および移植情報の寄与率をもとに定義されることを概念として示した式である。尚、本システムにおいて目標苗取量マップを高精度に作成するには、図2に示すように、目標苗取量マップは、複数の情報マップが合成されたものであることが好ましい。これに応じて、算出式(1)でも、右辺において中間情報マップRijおよび移植情報マップTijを含めたものとなっている。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、目標苗取量マップは、1つの収穫情報マップGijより生成することも可能である(これに対応する算出式(1)では、β=γ=0となる)。
【0025】
情報マップは、作業計画の対象となる圃場を格子状のメッシュに細分化し、各メッシュにおける情報を数値化して示すマップである。図2の例では、各マップがi×jのメッシュに細分化された矩形形状となっているが、マップの形状は特に限定されるものではない。例えば、行毎あるいは列毎にメッシュの数が異なっていてもよい。さらには、マップにおけるメッシュサイズは特に限定されるものではなく、本システムにおいて、メッシュサイズは使用者の希望に応じて任意に設定できるものであってもよい。
【0026】
図2の例では、情報マップとして収穫情報マップGij、中間情報マップRij、移植情報マップTijが示されている。ここで、収穫情報マップGijは、今年度の収穫時の結果から得られる収穫情報のマップであり、例えば、穂数や収穫量の情報マップとすることができる。収穫情報マップGijは、上述した収穫機20の計測データによって得られる。
【0027】
中間情報マップRijは、移植から収穫までの間における作物の状態から得られる中間情報のマップであり、例えば、作物の生育量の情報マップとすることができる。作物の生育量は、例えば、圃場を撮影した衛星写真やドローン等により上空から撮影された画像等を画像解析することで得られ、得られた中間情報マップRijは任意の方法でサーバ10に入力される。
【0028】
移植情報マップTijは、今年度の移植時の情報から得られる移植情報のマップであり、例えば、移植時に圃場に施した肥料の量(実施肥量)の情報マップとすることができる。移植機30は、通常、苗の移植と同時に圃場に肥料を施す(施肥)機能を有している。また、施肥を行う場合、圃場の各部で施肥量を異ならせるように調整することができる。このため、移植機30は、圃場の各部での施肥量を数値化した実施肥量マップを記憶し、この実施肥量マップを参照しながら施肥を行う。本システムでは、実施肥量マップを移植情報マップTijとして使用することができる。実施肥量マップを作成する方法については、例えば、特許文献3において開示がある。移植情報マップTijは任意の方法でサーバ10に入力される。
【0029】
尚、本システムにおいて使用可能な情報マップの種類は特に限定されるものではなく、公知の方法で取得可能な様々なマップについて利用可能である。特許文献2には、情報マップとして使用可能な種々のマップの取得方法が開示されている。
【0030】
上述した算出式(1)では、右辺の各情報マップに係数α~γをそれぞれ乗じ、それらを加算して収穫情報マップGij(すなわち“収量”)を求めることができる。このとき使用される係数α~γは重回帰分析によって予め求められる。ここで、係数α~γの算出に重回帰分析を用いる目的は、分析によって求まる重回帰式を用いて欲しい情報を予測するといった狙いがある。例えば、欲しい情報を“収量”とした場合、“収量”に対応する収穫情報マップGijが目的変数となり、その他の情報マップが説明変数となる。重回帰分析によって“収量”の算出式の係数(例えば算出式(1)の係数α~γ)を求めるには、算出式で使用するマップの数値はすべて既知である必要がある。このため、重回帰分析によって係数を求める際には、情報マップ(収穫情報マップGij、苗取量マップNij、中間情報マップRij、移植情報マップTij)の数値は今年度の結果に基づく数値を入れればよい。
【0031】
具体的には、算出式(1)において係数α~γを変数とし、苗取量マップNij、収穫情報マップGij、中間情報マップRijおよび移植情報マップTijの全てに今年度のマップデータ(全メッシュの値が既知であるデータ)を代入して、重回帰分析を行う。これにより、算出式(1)を満足する係数α~γが求められる。
【0032】
尚、上述した算出式(1)は、右辺において定数項を含めていないため、苗取量マップNij、収穫情報マップGij、中間情報マップRijおよび移植情報マップTijの関係性を概念的につかむことはできるものの、数学的厳密性を有するものとは言えない。算出式に数学的厳密性を持たせようとすれば、上記算出式(1)の右辺に定数項θを加えた以下の算出式(1)’を用いてもよい。算出式(1)’における定数項θの値も、上述した重回帰分析の手法により係数α~γと同時に求めることが可能である。
【0033】
Gij=Nij×α+Rij×β+Tij×γ+θ … (1)’
次に、本システムでは、狙いに応じた“収量”が得られるように、目標苗取量マップNijを導出することが目的となる。この目標苗取量マップNijの導出手順は以下のようになる。
【0034】
まず、上記で得られた(係数α~γの確定した)算出式(1)の右辺において、今年度の情報マップ(苗取量マップNij、中間情報マップRij、移植情報マップTij)のデータを入力し、収穫情報マップGijの数値を求める(収穫情報マップGijを予測する)。予測された収穫情報マップGijが所望の結果でなかった場合は、所望の収穫情報マップGijが得られるように苗取量マップNijの値を調整しながら、所望の収穫情報マップGijが得られるまで繰り返し演算を行う。こうした、予測される収穫情報マップGijが所望のものとなった場合、その時に入力した苗取量マップNijのデータが、目標苗取量マップNijとなる。
【0035】
このとき、所望の収穫情報マップGijにおいては、その狙いを任意に設定することが可能である。例えば、収穫情報マップGijの各メッシュにおいて、収量の最大化を図ることを狙いとする場合は、収穫情報マップGijのメッシュ毎に収量が最大となるように目標苗取量マップNijの数値がメッシュ毎に算出される。また、収穫情報マップGijの各メッシュにおいて、収量の均一化を図ることを狙いとする場合は、収穫情報マップGijにおける各メッシュの収量が均一化されるように目標苗取量マップNijの数値がメッシュ毎に算出される。
【0036】
尚、上述した算出式(1)では、苗取量マップNijと収穫情報マップGijとは一次関数の関係にあり、この式において苗取量を増加させると収量も限界なく増加することになる。しかしながら実際には、収量は、ある程度までは苗取量が増えるに応じて増加するものの、苗取量がある程度の量を超えると、収量はそれ以上には増えずに飽和する。このため、目標苗取量マップNijの各メッシュ値は、予測される収穫情報マップGijの各メッシュ値が飽和値を超えないように制限される必要がある。このような制限を与える方法としては、例えば、以下の3つの手法が考えられる。
【0037】
第1の手法は、苗取量の設定における機械的制限である。すなわち、苗の移植を行う移植機30では、苗マットから一度にとれる苗取量に上限がある。これより、目標苗取量マップNijの各メッシュ値の上限を、移植機30における上限苗取量に制限することができる。
【0038】
第2の手法は、水稲の生理学的制限である。苗取量を増加させると1株あたりの苗本数が増加するが、一般的には3-5本/株が推奨されている。ここで、1株あたりの苗本数は、同じ苗取量設定であっても使用する苗マットにより(水稲の品種等による種籾の播種密度に依存して)ばらつきが生じる。
【0039】
逆に苗マットにおける播種密度が既知であれば、苗取量設定に対する1株の苗本数が予測できる。このため、たとえば播種密度と1株本数上限値(例えば、一般的な推奨値である5本/株)をユーザーがシステム入力しておくことで、苗取量の設定値に制限をかけることが可能となる。また水稲の品種毎に最大収量の限界が存在するため、水稲品種をシステム入力することで制限を設けるといったことも考えられる。
【0040】
第3の手法は、算出式(1)にて予測される収穫情報マップGijの“収量”値自体に対する制限である。すなわち、収穫情報マップGijの各メッシュ値の上限を、そのメッシュ内での収量の飽和値として設定することができる。収穫情報マップGijにこのような制限を設けることで、目標苗取量マップNijの各メッシュの値は、収量が飽和値を超えない範囲で苗取量を最小限とすることができる。これにより、目標とする収量に対して、必要以上の苗を準備する必要が無く、コストの低減が見込まれる。
【0041】
尚、第3の手法法における収量の飽和値は、過去の収量データから推測することができる。例えば、収量の最大化を目的として本システムを複数年(好ましくは3年以上)に亘って稼働させれば、これより得られる複数年分の収穫情報マップGijから収量の飽和値を推測できると考えられる。また、例えば、収量の最大化を目的にマップ生成した複数年の情報データがあれば苗取量設定と収量の相関関係が把握できるため、収量向上の限界苗取量が推定でき、それらをもとに苗取量に制限を設けることも可能である。
【0042】
目標苗取量マップNijにおける制限は、上記3つの手法のうちの何れか一つを単独で使用することも可能であり、複数の手法を組み合わせて用いることも可能である。
【0043】
また、目標苗取量マップNijにおいて使用される数値は、移植機30における苗取量の調整可能段階に合わせて設定することが好ましい。すなわち、移植機30における苗取量が8段階で調整可能であれば、目標苗取量マップNijにおける数値も8段階で変化するものであることが好ましい。同様に、移植機30における苗取量が10段階で調整可能であれば、目標苗取量マップNijにおける数値も10段階で変化するものであることが好ましい。
【0044】
このように、目標苗取量マップNijの使用数値を苗取量の調整可能段階に合わせて設定することで、目標苗取量マップNijに基づいて調整される苗取量が、移植機30における調整可能範囲を超えたり、移植機30における調整可能範囲を有効に使用できなかったりすることを回避できる。
【0045】
また、上述した算出式(1)では、3つの情報マップを加算して収穫情報マップGijを求めている、しかしながら、これはあくまで一例であり、実際には使用する情報マップの数は3つに限定されるものではなく、1つ、2つ、あるいは4つ以上であってもよい。例えば、上記例では、収穫情報マップGijの予測において、情報マップとして苗取量マップNij、中間情報マップRijおよび移植情報マップTijの3種類のマップを使用しているが、必須なのは苗取量マップNijのみであり、中間情報マップRijおよび移植情報マップTijについては省略することも可能である。また、同一種類の情報マップを2つ以上使用することも可能であり、例えば、収穫情報マップGijとして、穂数に関する情報マップと収穫量に関する情報マップとを同時に使用することも可能である。穂数に関する情報マップと収穫量に関する情報マップとを同時使用するように算出式(1)を変形する場合、収穫量に関する情報マップ(収穫情報マップGij)は目的変数として左辺に置かれるが、穂数に関する情報マップは説明変数として右辺に追加される。さらに、図2での図示は省略しているが、圃場の環境情報を情報マップ化して用いてもよい。ここでの環境情報とは、耕盤深さ、土壌肥沃度、枕地(収穫機20や移植機30が旋回するための場所)との距離等が想定される。
【0046】
生成された目標苗取量マップNijは、サーバ10から移植機30へ送信され、移植機30の記憶部32にて記憶される。この場合の記憶部32は、例えば、移植機30におけるECU(electric control unit)のメモリとすることができる。
【0047】
通常の移植機は、苗取量を変更することのできる調整機能を有している。しかしながら、多くの移植機における苗取量の調整機能は、移植作業前に苗取量を設定するものであり、移植作業中に苗取量を調整するものではない。これに対し、本システムにおいて、移植機30の苗取量調整部34は、移植作業中に苗取量を随時変更できるような調整機能を有する。このような調整機能は、例えば特許文献4に開示があり、公知の手段である。具体的には、苗載台上の苗マットからの苗取量を調節する方法として、苗載台の苗の縦取量を変更する方法と、苗載台の苗の横取量を変更する方法とがある。移植機30においては、縦取量および横取量の何れを変更する方法であってもよいが、一般的には縦取量の変更によって苗取量が調整される。
【0048】
また、通常の移植機では、操縦者が苗取量を手動で調整できるような手動調整手段(レバー、ボタンまたはダイヤル等)が設けられている。これに対し、本システムの苗取量調整部34は、苗取量を自動制御にて調整できる手段とされている。具体的には、苗取量調整部34は、記憶部32に記憶された目標苗取量マップNijと位置計測部33によって得られる車両位置とを参照しながらアクチュエータ(例えば、苗載台を上下動させるアクチュエータ)を駆動して苗取量を自動制御することができる。これにより、移植機30は、圃場内において目標苗取量マップNijに応じた苗取量にて移植作業を行うことができる。
【0049】
本システムでは、目標苗取量マップNijに基づいて苗の移植を行うことにより、目標とする収量(マップのメッシュ毎の収穫量)に対して苗取量が最適量となるような作業計画を実施することができる。これにより、苗取量が少なすぎて目標収量が得られなかったり、苗取量が多すぎて苗の準備コストが増大したりすることを回避できる。尚、本システムにおける目標収量は、マップにおけるメッシュ毎に収量が最大となることを目指してもよく、あるいは、全てのメッシュにおける収量を均一化することを目指してもよい。メッシュ毎に収量を最大とする場合は、圃場全体における収穫量が最大となる。また、全てのメッシュにおける収量を均一化する場合は、収穫作業時における収穫機20の負担を軽減できるといったメリットがある。
【0050】
上述した本システムでは、今年度の複数の情報マップに基づいて次年度の目標苗取量マップNijを生成しており、すなわち、次年度の稲作における調整パラメータを移植時の苗取量としている。本システムは、苗取量以外にも、株間、植付深さまたは施肥量、施薬量等を調整パラメータとして追加することも可能である。
【0051】
また、上述した目標苗取量マップNijは、サーバ10のマップ生成部11によって生成され、生成された目標苗取量マップNijが移植機30の記憶部32に記憶されるものとなっている。しかしながら、変形例として、マップ生成部11によって生成された目標苗取量マップNijに対して、使用者が任意に数値変更を行えるようにしてもよい。すなわち、移植機30では、使用者による変更が加えられた目標苗取量マップNijを記憶部32に記憶可能としてもよい。
【0052】
また、上述の移植機30では、目標苗取量マップNijに応じて苗取量の調整を行うが、さらに、移植機30の移動速度を調整するようにしてもよい。例えば、移植機30が隣接する2つのメッシュ間を移動する際、その2つのメッシュ間で苗取量が変化するものであれば、苗取量調整部34において苗取量を変更する動作が実施される。このとき、苗取量の変化量が大きければ、変化量が小さい場合に比べて苗取量の変更動作に時間を要することになる。その結果、例えば、目標苗取量マップNijにおけるメッシュサイズが小さい場合等には、移植機30の移動に対して苗取量の変更動作が間に合わず、目標苗取量マップNijに従った適切な苗取量調整が行えないといった不都合が起こりうる。このため、移植機30が隣接する2つのメッシュ間を移動する際、その2つのメッシュ間での苗取量の変化量が所定値以上であれば、移植機30の移動速度を低下させて、苗取量の変更動作に必要な時間が確保できるようにしてもよい。
【0053】
尚、本システムでは、今年度の情報マップのデータにおいて、予め設定される任意の閾値を超えるデータがあった場合には、そのデータを異常値と判定してもよい。情報マップにおける異常値の判定は、サーバ10のマップ生成部11において行えるものとする。情報マップにおける異常値の発生が検出された場合、サーバ10は、移植機30に対して送信する目標苗取量マップに加え、異常値が発生した圃場内で位置を特定するマップ(異常値発生箇所特定マップ)を送信することができる。この場合の異常値発生箇所特定マップは、目標苗取量マップと同様にメッシュ化され、異常値発生箇所のメッシュに異常発生を示すフラグ等を設けたマップとなる。
【0054】
尚、情報マップの異常値としては、例えば以下の例が挙げられる。
・収穫情報マップGijの場合:収穫量が0、または0に近い値。
・中間情報マップRijの場合:追肥作業の場合、追肥量が0の値、生育量の場合、生育量が0に近い値。
・移植情報マップTijの場合:移植量、施肥量が0、または0に近い値、施薬量が1kg/10a相当を超える場合。
【0055】
また、異常値発生箇所の判定は、単一の情報マップから判定を行ってもよく、複数の情報マップの組み合わせから判定を行ってもよい。すなわち、単一の情報マップから判定を行う場合は、何れか1つの情報マップで異常値があればその箇所を異常値発生箇所とすることができる。また、複数の情報マップの組み合わせから判定を行う場合は、複数の情報マップで同時に異常値がある場合に、その箇所を異常値発生箇所とすることができる。
【0056】
異常値発生箇所特定マップを受け取った移植機30は、移植作業時、異常値発生箇所特定マップと位置計測部33により計測される車両位置とを参照しながら、異常発生箇所およびその近傍を作業走行する際に報知(例えば、警告音などによる報知)を行うことができる。尚、移植機30が異常発生の報知を行う場合には、移植機30に報知を行うための報知部36(図1参照)が設けられる。情報データに発現する異常値は圃場状態から起因するものが多いため、移植機30が異常発生の報知を行うことで、オペレータが圃場の該当箇所に注意を向けることが可能となり、より適切な作業を実現することに繋がる。
【0057】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。
【符号の説明】
【0058】
10 サーバ(作業計画支援システムサーバ)
11 マップ生成部
20 収穫機
21 収穫情報計測部
22 位置計測部(第1位置計測部)
23 送信部
30 移植機
31 受信部
32 記憶部
33 位置計測部(第2位置計測部)
34 苗取量調整部
35 送信部
36 報知部
Nij 目標苗取量マップ
Gij 収穫情報マップ
Rij 中間情報マップ
Tij 移植情報マップ
図1
図2