IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本製鋼所の特許一覧 ▶ 国立大学法人山梨大学の特許一覧

特開2024-109247弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板
<>
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図1
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図2
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図3
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図4
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図5
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図6
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図7
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図8
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図9
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図10
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図11
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図12
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図13
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図14
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図15
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図16
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図17
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図18
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図19
  • 特開-弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109247
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240806BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013950
(22)【出願日】2023-02-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年2月21日発行の「2021年度 山梨大学工学部 電気電子工学科 卒業論文発表会予稿集」にて発表 (2)令和4年2月21日開催の「2021年度 山梨大学工学部 電気電子工学科 卒業論文発表会」にて発表 (3)令和4年8月26日発行の「第83回 応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集」にて発表 (4)令和4年9月22日開催の「第83回 応用物理学会秋季学術講演会」にて発表 (5)令和4年11月8日発行の「USE2022第43回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム予稿集」にて発表 (6)令和4年11月8日開催の「USE2022第43回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム」にて発表 (7)令和4年12月6日発行の「第51回 EMシンポジウム予稿集」にて発表 (8)令和4年12月6日開催の「第51回 EMシンポジウム」にて発表 (9)令和5年1月12日掲載の「The Japan Society of Applied Physics」にて発表 (10) 令和5年1月26日発行の「圧電材料・デバイスシンポジウム 2023予稿集」にて発表 (11) 令和5年1月27日開催の「圧電材料・デバイスシンポジウム 2023」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】岸田 和人
(72)【発明者】
【氏名】小川 健吾
(72)【発明者】
【氏名】垣尾 省司
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA01
5J097AA19
5J097BB11
5J097EE05
5J097EE08
5J097EE10
5J097GG04
5J097GG06
5J097GG07
5J097HA03
5J097KK01
5J097KK03
5J097KK10
(57)【要約】
【課題】優れた弾性表面波共振子を提供すること。
【解決手段】一実施形態に係る弾性表面波共振子は、支持基板に接合された圧電体結晶基板上に形成されたIDT(Interdigital Transducer)電極を備えている。そして、支持基板における圧電体結晶基板との接合面上に、IDT電極の複数の電極指と平行に延設された複数のトレンチが、所定の間隔で並設されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板に接合された圧電体結晶基板と、
前記支持基板に接合された前記圧電体結晶基板上に形成されたIDT(Interdigital Transducer)電極と、を備え、
前記支持基板における前記圧電体結晶基板との接合面上に、前記IDT電極の複数の電極指と平行に延設された複数のトレンチが、所定の間隔で並設されている、
弾性表面波共振子。
【請求項2】
前記圧電体結晶基板が、所定のカット角及び伝搬角を有するLiNbO基板又はLiTaO基板である、
請求項1に記載の弾性表面波共振子。
【請求項3】
前記支持基板が、所定のカット角及び伝搬角を有する水晶基板である、
請求項1又は2に記載の弾性表面波共振子。
【請求項4】
前記支持基板が、前記圧電体結晶基板と同一のカット角及び伝搬角を有する同一の材料からなる、
請求項1又は2に記載の弾性表面波共振子。
【請求項5】
前記圧電体結晶基板を介して、前記複数の電極指と前記複数のトレンチとが対向配置されている、
請求項1又は2に記載の弾性表面波共振子。
【請求項6】
前記複数の電極指及び前記複数のトレンチが同一のピッチpで配置されており、
前記ピッチpに対する前記複数のトレンチのそれぞれの幅w2の比w2/pが、0.3~0.9である、
請求項5に記載の弾性表面波共振子。
【請求項7】
(a)支持基板に圧電体結晶基板を接合する工程と、
(b)前記支持基板に接合された前記圧電体結晶基板上にIDT(Interdigital Transducer)電極を形成する工程と、を備え、
工程(a)において、前記支持基板における前記圧電体結晶基板との接合面上に、前記IDT電極の複数の電極指と平行に延設されるように、複数のトレンチが所定の間隔で並設されている、
弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項8】
前記圧電体結晶基板が、所定のカット角及び伝搬角を有するLiNbO基板又はLiTaO基板である、
請求項7に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項9】
前記支持基板が、所定のカット角及び伝搬角を有する水晶基板である、
請求項7又は8に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項10】
前記支持基板が、前記圧電体結晶基板と同一のカット角及び伝搬角を有する同一の材料からなる、
請求項7又は8に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項11】
前記圧電体結晶基板を介して、前記複数の電極指と前記複数のトレンチとが対向配置されている、
請求項7又は8に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項12】
前記複数の電極指及び前記複数のトレンチが同一のピッチpで配置されており、
前記ピッチpに対する前記複数のトレンチのそれぞれの幅w2の比w2/pが、0.3~0.9である、
請求項11に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項13】
支持基板と、
前記支持基板に接合された圧電体結晶基板と、を備え、
前記支持基板における前記圧電体結晶基板との接合面上に、複数のトレンチが所定の間隔で並設されており、
前記複数のトレンチは、前記支持基板に接合された前記圧電体結晶基板上に形成されることになるIDT(Interdigital Transducer)電極の複数の電極指と平行になるように、延設されている、
接合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性表面波共振子、その製造方法、及び接合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの移動体通信機器の進化に伴い、フィルタ用の弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振子についても高周波化、広帯域化等の高性能化が要求されている。特許文献1-4に開示されているように、発明者らは、これまで水晶等からなる支持基板上に圧電体結晶基板が接合されたフィルタ用のSAW共振子を開発してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-026695号公報
【特許文献2】特開2019-004308号公報
【特許文献3】特開2019-145920号公報
【特許文献4】特開2021-118366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、支持基板上に圧電体結晶基板が接合されたフィルタ用の弾性表面波共振子について、アドミタンス比及び比帯域幅をさらに大きくすることを検討してきた。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る弾性表面波共振子では、支持基板に接合された圧電体結晶基板上に形成されたIDT(Interdigital Transducer)電極を備え、支持基板における圧電体結晶基板との接合面上に、IDT電極の複数の電極指と平行に延設された複数のトレンチが、所定の間隔で並設されている。
【発明の効果】
【0006】
前記一実施形態によれば、優れた弾性表面波共振子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係るSAW共振子を用いた無線受信回路RXの構成の一例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係るSAW共振子の構成の一例を示す斜視図である。
図3】第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析の基本モデルを示す断面図である。
図4】実施例E1の共振特性解析結果を示すグラフである。
図5】実施例E2~E5の共振特性解析結果を示すグラフである。
図6】IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比(w2/p)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。
図7】波長λによって規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。
図8】第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析のモデルであって、図3に示した基本モデルとは異なるモデルを示す断面図である。
図9】実施例E6の共振特性解析結果を示すグラフである。
図10】第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析のモデルであって、図3に示した基本モデルとは異なるモデルを示す断面図である。
図11】実施例E7の共振特性解析結果を示すグラフである。
図12】第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析のモデルであって、図3に示した基本モデルとは異なるモデルを示す断面図である。
図13】実施例E8の共振特性解析結果を示すグラフである。
図14】実施例E9の共振特性解析結果を示すグラフである。
図15】実施例E10~E12の共振特性解析結果を示すグラフである。
図16】IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比(w2/p)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。
図17】波長λによって規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。
図18】実施例E13の共振特性解析結果を示すグラフである。
図19】実施例E14の共振特性解析結果を示すグラフである。
図20】実施例E15の共振特性解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。
【0009】
(第1の実施形態)
<弾性表面波共振子を用いた無線受信回路RXの構成>
まず、図1を参照して、第1の実施形態に係る弾性表面波共振子(SAW共振子)を備えたフィルタを用いた無線受信回路RXの構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係るSAW共振子を用いた無線受信回路RXの構成の一例を示すブロック図である。図1に示した無線受信回路RXは、スーパーヘテロダイン型の無線受信回路であり、例えば携帯電話に用いられる。
【0010】
なお、図1に示した無線受信回路RXは、あくまでも本実施形態に係るSAW共振子の用途の一例であって、本実施形態に係るSAW共振子の用途は何ら限定されない。例えば、本実施形態に係るSAW共振子は、無線送信回路にも使用できる。
【0011】
まず、無線受信回路RXの概要について説明する。
図1に示すように、無線受信回路RXは、アンテナANを介して受信RF(Radio Frequency)信号を無線受信する。そして、発振回路OCから出力された周波数信号を用いて、受信RF信号から受信IQ信号を生成し、ベースバンド処理部BBPに出力する。
【0012】
ここで、ベースバンド処理部BBPは、無線受信回路RXから取得した受信IQ信号を受信データrdに復号化して受信データrdを出力する。
なお、ベースバンド処理部BBPは、取得した送信データtdを送信IQ信号に符号化し、図示しない無線送信回路に出力する。そして、無線送信回路において送信IQ信号から生成された送信RF信号が、アンテナANを介して無線送信される。
【0013】
次に、無線受信回路RXの詳細について説明する。
図1に示すように、無線受信回路RXは、RF(Radio Frequency)フィルタRFF、ローノイズアンプLNA、RF(Radio Frequency)ミキサRFM、IF(Intermediate Frequency)フィルタIFF1、IFF2、IF(Intermediate Frequency)アンプIFA、IF(Intermediate Frequency)ミキサIFM、周波数シンセサイザFS、PLL(Phase Locked Loop)回路PLLを備えている。
【0014】
以下に、受信データrdの流れについて説明する。
アンテナANによって無線受信された受信RF信号は、RFフィルタRFFを介して、ローノイズアンプLNAに入力され、ローノイズアンプLNAによって増幅される。ここで、RFフィルタRFFに、第1の実施形態に係るSAW共振子が用いられる。RFフィルタRFFが通過させる周波数帯域(通過帯域)は、例えば2~5GHz帯である。
【0015】
また、RFフィルタRFFは、所望の通過帯域幅を達成するために、例えば通過帯域が少しずつずれた複数のSAW共振子から構成される。第1の実施形態に係るSAW共振子は、単独での通過帯域幅(比帯域幅)が広いため、RFフィルタRFFを構成するSAW共振子の個数を削減でき、無線受信回路RXを小型化できる。
【0016】
さらに、第1の実施形態に係るSAW共振子は、アドミタンス比が大きい。RFフィルタRFFに用いるSAW共振子のアドミタンス比が大きいと、後段のローノイズアンプLNAを小型化できると共に、ローノイズアンプLNAの消費電力を低減できる。すなわち、無線受信回路RXを小型化できると共に、無線受信回路RXの消費電力を低減できる
【0017】
次に、増幅された受信RF信号は、RFミキサRFMにおいて、周波数シンセサイザFSから出力された周波数信号とミキシングされ、受信IF信号へダウンコンバートされる。RFミキサRFMから出力された受信IF信号は、IFフィルタIFF1を介して、IFアンプIFAに入力され、IFアンプIFAによって増幅される。
【0018】
増幅された受信IF信号は、IFミキサIFMにおいて、PLL回路PLLから出力された周波数信号とミキシングされ、受信IQ信号に復調される。そして、IFミキサIFMから出力された受信IQ信号は、IFフィルタIFF2を介して、ベースバンド処理部BBPに入力され、ベースバンド処理部BBPによって受信データrdに復号化される。
【0019】
<SAW共振子の構成>
次に、図2を参照して、第1の実施形態に係るSAW共振子の構成について説明する。上述の通り、本実施形態に係るSAW共振子は、例えば2~5GHz帯の高周波数帯域のフィルタに適している。
図2は、第1の実施形態に係るSAW共振子の構成の一例を示す斜視図である。図2に示すように、第1の実施形態に係るSAW共振子は、支持基板SS、圧電体結晶基板PS、IDT(Interdigital Transducer)電極IDT、及び反射器REF1、REF2を備えている。
【0020】
図2に示すように、圧電体結晶基板PS上にIDT電極IDT及び反射器REF1、REF2が形成されている。すなわち、図2に示したSAW共振子は、2つの反射器REF1、REF2の間に1つのIDT電極IDTが配置された1ポートSAW共振子である。
なお、2つの反射器REF1、REF2の間に2つのIDT電極が配置された2ポートSAW共振子でもよい。また、反射器REF1、REF2は必須ではない。
【0021】
図2に示すように、圧電体結晶基板PSは、支持基板である支持基板SS上に接合されている。圧電体結晶基板PSは、例えば所定の結晶面においてカットされたLiTaO(LT)やLiNbO(LN)等からなる単結晶基板である。
【0022】
より具体的には、例えばカット面が結晶X軸に対して0°かつ縦型漏洩弾性表面波(LLSAW:Longitudinal Leaky Surface Acoustic Wave)の伝搬方向が結晶Y軸に対して36°(Xカット36°Y伝搬)のLN基板である。あるいは、例えばカット面が結晶Y軸に対して27.5°かつ漏洩弾性表面波(LSAW:Leaky Surface Acoustic Wave)の伝搬方向が結晶X軸に対して0°(27.5°YカットX伝搬)のLN基板である。上記カット角及び伝搬角のずれは、例えば±10°以内であり、好ましくは±5°以内であり、さらに好ましくは±3°以内である。
なお、当然のことながら、上記カット角及び伝搬角はあくまでも例示であって、縦型漏洩弾性表面波や漏洩弾性表面波が高効率に励振可能なカット角及び伝搬角に適用できる。
【0023】
圧電体結晶基板PSの厚さhは、例えば0.05λ~0.4λであり、0.3λ以下である。厚さhは、例えば0.05~0.5μm程度である。ここで、詳細には後述するように、λは弾性表面波の波長である。圧電体結晶基板PSの厚さhを薄肉化することによって、通過帯域幅が広いSAW共振子が得られる。その結果、図1に示したRFフィルタRFFを構成するSAW共振子の個数を削減でき、無線受信回路RXを小型化できる。他方、厚さhが小さ過ぎると製造が難しくなる。
【0024】
支持基板SSは、特に限定されないが、例えば所定の結晶面においてカットされた水晶(SiO)やサファイア(Al)等の酸化物結晶からなる単結晶基板である。
より具体的には、圧電体結晶基板PSがXカット36°Y伝搬のLN基板の場合、支持基板SSは、例えばXカットかつ縦型漏洩弾性表面波の伝搬方向が結晶Y軸に対して35°(Xカット35°Y伝搬)の水晶基板である。
圧電体結晶基板PSが27.5°YカットX伝搬のLN基板の場合、例えばATカットかつ漏洩弾性表面波の伝搬方向が結晶X軸に対して90°(ATカット90°X伝搬)の水晶基板である。
上記カット角及び伝搬角のずれは、例えば±10°以内であり、好ましくは±5°以内であり、さらに好ましくは±3°以内である。
支持基板SSの厚さは、例えば5~500μmである。
【0025】
なお、支持基板SSは、詳細には後述するように、石英ガラス等からなるガラス基板、シリコン基板、圧電体結晶基板でもよい。支持基板SSに用いるシリコン基板は、例えばシリコン(100)基板である。支持基板SSに用いる圧電体結晶基は、例えば圧電体結晶基板PSと同じ材料からなり、同じカット角及び伝搬角を有する。
【0026】
圧電体結晶基板PSと支持基板SSとは、例えば表面活性化接合法等によって、直接接触するように接合される。
支持基板SSにおける弾性表面波の伝搬方向は、圧電体結晶基板PSにおける弾性表面波の伝搬方向と一致している。
【0027】
IDT電極IDTは、圧電体結晶基板PS上に形成されており、例えばアルミニウム(Al)や銅(Cu)等の金属膜から構成される。金属膜の厚さは、例えば数10~数100nmである。
図2に示すように、IDT電極IDTは、それぞれ櫛形状の電極E1、E2から構成されている。電極E1、E2の一方が入力電極であり、他方が出力電極である。
【0028】
詳細には、電極E1、E2のそれぞれは、互いに平行に並んで配置され、かつ、一端が互いに接続された複数本の電極指(櫛歯)を備えている。そして、電極E1、E2の一方の隣接する電極指間に、他方の電極指が1本ずつ挿入されるように、電極E1と電極E2とが対向配置されている。すなわち、電極E1の電極指と電極E2の電極指とが交互に平行に並んで配置されている。
【0029】
図2に示すように、電極E1、E2の電極指は、圧電体結晶基板PSの表面における弾性表面波の伝搬方向に対して垂直に延設されている。ここで、電極E1、E2の電極指の幅w1、及び電極E1の電極指と隣接する電極E2の電極指とのギャップgは、一定である。すなわち、IDT電極IDT(電極E1、E2)の電極指の配置ピッチpも一定であり、電極指の幅w1とギャップgとの和である。すなわち、p=w1+gが成立する。
【0030】
ここで、弾性表面波の波長λは、ピッチpの2倍(すなわちλ=2p)であり、幾何学的に定まる。
また、弾性表面波の基本波の中心周波数f0は、弾性表面波の位相速度vと波長λとを用いて、f0=v/λで表されるため、次式が成立する。
f0=v/λ=v/2p=v/2(w1+g)
位相速度vは、圧電体結晶基板PSのカット面及び伝搬方向等によって定まるため、ピッチpを小さくすることによって、基本波の中心周波数f0を高くできる。
【0031】
ここで、メタライゼーション比w1/pは、特に限定されないが、例えば0.1~0.9とする。また、ピッチpを一定とすると(すなわち弾性表面波の中心周波数f0を一定とすると)、メタライゼーション比w1/pが大きい程、電極指の幅w1も大きくなるため、低抵抗化できる。
【0032】
他方、メタライゼーション比w1/pが0.9を超えると、ギャップgが小さくなり、IDT電極IDTの製造が難しくなる。また、メタライゼーション比w1/pが0.1を下回ると、幅w1が小さくなり、IDT電極IDTの製造が難しくなる。
IDT電極IDT(電極E1、E2)の電極指の幅w1は、例えば0.2~1.5μmである。
【0033】
なお、図2の例では、電極E1の電極指の本数が、電極E2の電極指の本数よりも1本多いが、同じでもよい。また、電極E1及び電極E2の電極指の本数は、適宜設定される。さらに、電極E1、E2の一方の隣接する電極指間に、電極E1、E2の他方の電極指が2本以上ずつ挿入される構成であってもよい。
【0034】
反射器REF1、REF2は、IDT電極IDTと同じ金属膜から構成される。
図2に示すように、反射器REF1、REF2のそれぞれは、互いに平行に並んで配置され、かつ、両端が互いに接続された複数本のストリップから構成されている。ストリップは、電極E1、E2の電極指と同一ピッチpで、電極E1、E2の電極指と平行に設けられている。IDT電極IDTによって励振された弾性表面波が、反射器REF1、REF2によって反射されて定在波となるため、Q値が高く低損失なSAW共振子が得られる。
【0035】
図2に示すように、本実施形態に係るSAW共振子では、支持基板SSにおける圧電体結晶基板PSとの接合面上に、IDT電極IDT(すなわち電極E1、E2)の複数の電極指と平行に延設された複数のトレンチTRが、所定の間隔で並設されている。すなわち、支持基板SSは、トレンチTRが形成された部位では圧電体結晶基板PSを支持しておらず、トレンチTRが形成されていない部位において圧電体結晶基板PSを支持している。トレンチTRによって、支持基板SSと圧電体結晶基板PSと間には空隙が形成されている。このようにトレンチTRを設けることによって、アドミタンス比及び比帯域幅が共に大きいSAW共振子が得られる。
【0036】
図2に示すSAW共振子では、圧電体結晶基板PSを介して、IDT電極IDTの複数の電極指と複数のトレンチTRとが対向配置されている。
詳細には、図2に示すSAW共振子では、電極E1の4本の電極指及び電極E1の3本の電極指の直下に、7本のトレンチTRが、電極E1、E2の電極指と同一ピッチpで並設されている。
【0037】
さらに、反射器REF1、REF2の4本ずつのストリップの直下に、8本のトレンチTRが、反射器REF1、REF2のストリップと同一ピッチpで並設されている。すなわち、図2に示すSAW共振子では、合計15本のトレンチTRが、ピッチpで並設されている。
なお、当然のことながら、トレンチTRの本数は、電極E1、E2の電極指の本数及び反射器REF1、REF2のストリップの本数と共に適宜設定される。
【0038】
ここで、電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pは、特に限定されないが、例えば0.3~0.9とする。比w2/pは、0.5以上が好ましい。比w2/pが0に近付くと、トレンチTRが形成されていない場合の漏洩弾性表面波又は縦型漏洩弾性表面波の特性に近付き、比帯域幅が小さくなる。他方、比w2/pが1に近付くと、圧電体結晶基板PSを伝搬する板波(ラム波又はSH板波)の特性に近付き、比帯域幅が大きくなるが、比w2/pが0.9を超えると、トレンチTRの製造が難しくなる。
【0039】
なお、詳細には後述するように、複数のトレンチTRが、電極E1、E2の電極指と同じ配置ピッチpで電極指同士の間に配置されてもよい。また、トレンチTRの配置ピッチは、電極E1、E2の電極指の配置ピッチpと同一でなくてもよく、例えば0.5pあるいは2p等でもよい。
【0040】
<シミュレーションによる共振特性解析>
次に、図3を参照して、第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析の方法について説明する。図3は、第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析の基本モデルを示す断面図である。図3は、図2において、IDT電極IDTの複数の電極指と複数のトレンチTRとに垂直な面によって切断した断面図である。
【0041】
図3に示すように、基本モデルは、圧電体結晶基板PSと支持基板SSとの接合基板である。基本モデルでは、圧電体結晶基板PSを介して、IDT電極IDTの複数の電極指と複数のトレンチTRとが同一ピッチpで対向配置されている。
【0042】
上記基本モデルについて、ムラタソフトウェア株式会社の解析ソフト製Femtetを用い、共振特性の有限要素法(FEM:Finite Element Method)解析を行った。基本波の波長λ(=2p)を4.0μm、支持基板の厚みを10λとした。
図3に示したIDT電極IDTは、膜厚0.04λのアルミニウム(Al)膜からなり、無限周期構造を有するものと仮定した。また、IDT電極の底面に完全整合層(PML:Perfect Matched Layer)を設定した。メタライゼーション比w1/pは0.5に設定した。そして、IDT電極IDTに、±1Vの正弦波交流電圧を印加した。各材料の誘電損、機械損は考慮しなかった。
【0043】
<解析結果1>
以下に、圧電体結晶基板PSとしてXカット36°Y伝搬のLN基板を用いた場合の解析結果を解析結果1として説明する。
なお、圧電体結晶基板PSとして27.5°YカットX伝搬のLN基板を用いた場合の解析結果を解析結果2として後述する。
【0044】
(実施例E1の解析結果)
まず、図4を参照して、図3に示した基本モデルのシミュレーションによる実施例E1の共振特性解析結果を説明する。ここで、図4は、実施例E1の共振特性解析結果を示すグラフである。図4の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。位相速度vは、弾性表面波の波長λに周波数fを乗じたものである。
【0045】
図4に示すように、実施例E1は、トレンチTRが表面に形成されたXカット35°Y伝搬の水晶基板(支持基板SS)上にXカット36°Y伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)が接合された接合基板である。
図4のグラフ中に示すように、図3に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λ、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.5とした。
【0046】
図4には、実施例E1の縦型漏洩弾性表面波の解析結果が示されている。また、図4には、比較例C1として、Xカット36°Y伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)単体におけるラム波、比較例C2として、トレンチTRを備えない接合基板の縦型漏洩弾性表面波についての解析結果も併せて示されている。比較例C1は、図3において、支持基板SS全体を備えない構成であり、比較例C2は、図3において、Xカット35°Y伝搬の水晶基板からなる支持基板SSがトレンチTRを備えない構成である。
【0047】
図4に示すように、比較例C1のラム波は、アドミタンス比は120dB、比帯域幅は14.0%であり、アドミタンス比及び比帯域幅共に大きい。しかしながら、比較例C1は、LN基板(圧電体結晶基板PS)単体であるため、構造的に脆い。
比較例C2の縦型漏洩弾性表面波は、アドミタンス比は83dB、比帯域幅は7.4%であり、アドミタンス比及び比帯域幅共に比較例C1よりも小さい。他方、比較例C2は、接合基板であるため、構造的には堅牢である。
【0048】
これに対し、図4に示すように、実施例E1の縦型漏洩弾性表面波は、アドミタンス比は118dB、比帯域幅は12.0%である。すなわち、実施例E1の縦型漏洩弾性表面波は、比較例C2の縦型漏洩弾性表面波よりも著しく優れると共に、比較例C1のラム波に迫る擬似ラム波とでも呼ぶべき優れた共振特性を有している。さらに、実施例E1に係るSAW共振子は、比較例C2と同様に、接合基板であるため、構造的にも堅牢である。
【0049】
(実施例E2~E5の解析結果)
次に、図5を参照して、図3に示した基本モデルのシミュレーションによる実施例E2~E5の共振特性解析結果を説明する。ここで、図5は、実施例E2~E5の共振特性解析結果を示すグラフである。図5の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。
【0050】
図5に示す実施例E2~E5では、圧電体結晶基板PSはいずれもXカット36°Y伝搬のLN基板であるが、支持基板SSの種類が異なる。すなわち、図5は、支持基板SSの種類の違いによる共振特性の変化を示している。
【0051】
実施例E2の支持基板SSは、実施例E1の支持基板SSと同じであり、線膨張係数11.7ppm/℃のXカット35°Y伝搬の水晶基板である。
実施例E3の支持基板SSは、圧電体結晶基板PSと同じであり、線膨張係数12.7ppm/℃のXカット36°Y伝搬のLN基板である。
実施例E4の支持基板SSは、線膨張係数0.5ppm/℃の石英ガラス基板である。
実施例E5の支持基板SSは、線膨張係数2.6ppm/℃のシリコン(100)基板である。
【0052】
図5のグラフ中に示すように、実施例E2~E5については、図3に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λ、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.7とした。実施例E1と実施例E2との違いは、比w2/pのみである。
【0053】
図5に示す実施例E2~E5の共振特性は以下の通りである。
実施例E2は、アドミタンス比は97dB、比帯域幅は13.1%である。
実施例E3は、アドミタンス比は62dB、比帯域幅は12.3%である。
実施例E4は、アドミタンス比は89dB、比帯域幅は13.3%である。
実施例E5は、アドミタンス比は63dB、比帯域幅は12.6%である。
【0054】
図5に示す実施例E2~E5の共振特性結果から、支持基板SSの種類によらず、優れた比帯域幅が得られることが分かった。
他方、アドミタンス比については、実施例E4では、実施例E2よりも1割程度低下し、実施例E3、E5では、実施例E2よりも3割程度低下した。実施例E3では、支持基板SSが圧電体結晶基板PSと同じであるため、支持基板SS内部に縦型漏洩弾性表面波が漏洩し、アドミタンス比が低下するものと推察される。また、実施例E5では、共振と反共振の間に不要応答(スプリアス)が確認された。
【0055】
ここで、実施例E2では、Xカット35°Y伝搬の水晶基板(支持基板SS)とXカット36°Y伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)との線膨張係数差が小さいため、温度変化による割れ等を抑制できる。また、実施例E3では、支持基板SSが圧電体結晶基板PSと同じであるため、温度変化による割れ等をさらに抑制できる。
【0056】
(比帯域幅のパラメータ依存性)
次に、図6図7を参照して、比帯域幅のパラメータ依存性について説明する。図6は、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比(w2/p)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。図6の横軸はIDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比(w2/p)、縦軸は比帯域幅(%)を示す。図7は、波長λによって規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。図7の横軸は波長λによって規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)、縦軸は比帯域幅(%)を示す。
【0057】
なお、図6及び図7に示す各データ点は、図3に示した基本モデルのシミュレーションによる共振特性解析結果である。図5に示す実施例E3と同様に、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、Xカット36°Y伝搬のLN基板を用いた。
【0058】
図6のグラフ中に示すように、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを変化させる際、図3に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λとした。
【0059】
図7のグラフ中に示すように、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λを変化させる際、図3に示す及びトレンチTRの深さdを0.1λとし、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.7とした。図7には、比較例として、圧電体結晶基板PS単体についても、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)に対する比帯域幅の変化が白抜き三角印で示されている。
【0060】
図6に示すように、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pが小さい程、一点鎖線で示す比較例C3の縦型漏洩弾性表面波の特性に近付き、比帯域幅が小さくなる。また、図示しないが、比w2/pが0.5よりも小さくなると、不要応答が発生し易い傾向にある。ここで、図6に示すように、比較例C3は、支持基板SSとしてトレンチTRを備えないXカット36°Y伝搬のLN基板を備えた接合基板である。
【0061】
他方、比w2/pが大きくなる程、一点鎖線で示す比較例C1のラム波の特性に近付き、比帯域幅が大きくなる。但し、比w2/pが0.9を超えると、トレンチTRの製造が難しくなる。そのため、比w2/pは、例えば0.3~0.9とし、好ましくは0.5以上とする。ここで、比較例C1は、図6に示すように、Xカット36°Y伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)単体であり、図4に示す共振特性を有する。
なお、図6に示すように、比w2/pが0.7の場合は、図5に示す実施例E3に該当する。
【0062】
図7に示すように、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが大きくなると、一点鎖線で示す比較例C3の縦型漏洩弾性表面波の特性に近付き、黒丸印で示された実施例の比帯域幅が小さくなる。また、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが大きい程、黒丸印で示された実施例の比帯域幅が、白抜き三角印で示された比較例(圧電体結晶基板PS単体)の比帯域幅に近付く。図7に示す例では、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λ=0.4の場合、黒丸印で示された実施例及び白抜き三角印で示された比較例の比帯域幅のいずれもが、一点鎖線で示す比較例C3の比帯域幅に略一致している。
【0063】
ここで、図示しないが、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが、0.3を超えると、不要応答が発生し易くなり、0.4を超えると、有効な共振が得られなかった。他方、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが0.05よりも小さくなると、トレンチTRの製造が難しくなる。そのような観点から、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λは、例えば0.05~0.4とし、好ましくは0.3以下とする。
【0064】
なお、図7において黒丸印で示された実施例のうち、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが0.1の場合は、図5に示す実施例E3に該当する。他方、図7において白抜き三角印で示された比較例(圧電体結晶基板PS単体)のうち、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが0.1の場合は、図4に示す比較例C1に該当する。
【0065】
なお、図示しないが、波長λに対するトレンチTRの深さdの比d/λを0.1~1の範囲で変化させても、比帯域幅は変化しなかった。そのため、トレンチTRを製造する際に、トレンチTRの深さdを厳密に管理する必要はないと考えられる。
【0066】
(実施例E6の解析結果)
次に、図8及び図9を参照して、図3に示した基本モデルとは異なるモデルでのシミュレーションによる実施例E6の共振特性解析結果を説明する。図8は、第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析のモデルであって、図3に示した基本モデルとは異なるモデルを示す断面図である。図9は、実施例E6の共振特性解析結果を示すグラフである。図9の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。
【0067】
図8に示すモデルでは、複数のトレンチTRのそれぞれが、IDT電極IDTの複数の電極指同士の間に配置されている。図8に示すモデルでも、IDT電極IDTの複数の電極指と複数のトレンチTRとは同一ピッチpで配置されている。実施例E6におけるそれ以外の構成は、実施例E3と同様であり、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、Xカット36°Y伝搬のLN基板を用いた。
【0068】
図9のグラフ中に示すように、実施例E6でも、図8に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λ、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.7とした。図9には、実施例E6の解析結果と共に、図3に示した基本モデルの構成を有する実施例E3及びトレンチTRを備えない比較例C3の解析結果も示されている。
【0069】
図9に示すように、実施例E6は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、実施例E3よりも小さい。他方、実施例E6は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、比較例C3よりも大きい。
実施例E3と実施例E6との比較から、トレンチTRはIDT電極IDTの電極指の直下に設ける方が好ましい。
【0070】
(実施例E7の解析結果)
次に、図10及び図11を参照して、図3に示した基本モデルとは異なるモデルでのシミュレーションによる実施例E7の共振特性解析結果を説明する。図10は、第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析のモデルであって、図3に示した基本モデルとは異なるモデルを示す断面図である。図11は、実施例E7の共振特性解析結果を示すグラフである。図11の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。
【0071】
図10に示すモデルでは、IDT電極IDTの複数の電極指のそれぞれに対して、トレンチTRが2個ずつ配置されている。すなわち、図10に示すモデルでは、IDT電極IDTの複数の電極指の配置ピッチpに対して、複数のトレンチTRの配置ピッチは0.5pである。実施例E7におけるそれ以外の構成は、実施例E3と同様であり、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、Xカット36°Y伝搬のLN基板を用いた。
【0072】
図11のグラフ中に示すように、実施例E7でも、図10に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λとした。また、図10において、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対してトレンチTRが占める幅は、トレンチTRの幅w2の2倍である。そのため、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対する2個のトレンチTRの幅w2の比w2×2/p=0.7(つまり、w2/p=0.35)とした。図11には、実施例E7の解析結果と共に、図3に示した基本モデルの構成を有する実施例E3及びトレンチTRを備えない比較例C3の解析結果も示されている。
【0073】
図11に示すように、実施例E7は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、実施例E3よりも小さい。他方、実施例E7は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、比較例C3よりも大きい。また、実施例E7は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、図9に示す実施例E6よりも大きい。
実施例E3と実施例E7との比較から、トレンチTRはIDT電極IDTの電極指の直下に同一ピッチで設ける方が好ましい。
【0074】
(実施例E8の解析結果)
次に、図12及び図13を参照して、図3に示した基本モデルとは異なるモデルでのシミュレーションによる実施例E8の共振特性解析結果を説明する。図12は、第1の実施形態に係るSAW共振子のシミュレーションによる共振特性解析のモデルであって、図3に示した基本モデルとは異なるモデルを示す断面図である。図13は、実施例E8の共振特性解析結果を示すグラフである。図13の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。
【0075】
図12に示すモデルでは、1個のトレンチTRが、IDT電極IDTの2個の電極指を跨ぐように配置されている。すなわち、図12に示すモデルでは、IDT電極IDTの2個の電極指に対して1個のトレンチTRが設けられており、IDT電極IDTの複数の電極指の配置ピッチpに対して、複数のトレンチTRの配置ピッチは2pである。実施例E8におけるそれ以外の構成は、実施例E3と同様であり、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、Xカット36°Y伝搬のLN基板を用いた。
【0076】
図13のグラフ中に示すように、実施例E8でも、図12に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λとした。また、図12において、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対してトレンチTRが占める幅は、トレンチTRの幅w2の半分である。そのため、電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の半分の比w2/2/p=0.7(つまり、w2/p=1.4)とした。図13には、実施例E8の解析結果と共に、図3に示した基本モデルの構成を有する実施例E3及びトレンチTRを備えない比較例C3の解析結果も示されている。
【0077】
図13に示すように、実施例E8は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、実施例E3よりも若干小さい。他方、実施例E8は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、比較例C3よりも大きい。また、実施例E8は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、図9に示す実施例E6及び図11に示す実施例E7よりも大きい。
実施例E3と実施例E11との比較から、トレンチTRはIDT電極IDTの電極指の直下に同一ピッチで設ける方が好ましい。
【0078】
<解析結果2>
以下では、圧電体結晶基板PSとして27.5°YカットX伝搬のLN基板を用いた場合の解析結果を解析結果2として説明する。
【0079】
(実施例E9の解析結果)
まず、図14を参照して、図3に示した基本モデルのシミュレーションによる実施例E9の共振特性解析結果を説明する。ここで、図14は、実施例E9の共振特性解析結果を示すグラフである。図14の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。位相速度vは、弾性表面波の波長λに周波数fを乗じたものである。
【0080】
図14に示すように、実施例E9は、トレンチTRが表面に形成されたATカット90°X伝搬の水晶基板(支持基板SS)上に27.5°YカットX伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)が接合された接合基板である。
図14のグラフ中に示すように、図3に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λ、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.7とした。
【0081】
図14には、実施例E9の横型漏洩弾性表面波(以下、単に「漏洩弾性表面波」と呼ぶ)の解析結果が示されている。また、図14には、比較例C4として、27.5°YカットX伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)単体におけるSH板波、比較例C5として、トレンチTRを備えない接合基板の漏洩弾性表面波についての解析結果も併せて示されている。比較例C4は、図3において、支持基板SS全体を備えない構成であり、比較例C5は、図3において、ATカット90°X伝搬の水晶基板からなる支持基板SSがトレンチTRを備えない構成である。
【0082】
図14に示すように、比較例C4のSH板波は、アドミタンス比は115dB、比帯域幅は21.7%であり、アドミタンス比及び比帯域幅共に大きい。しかしながら、比較例C4は、LN基板(圧電体結晶基板PS)単体であるため、構造的に脆い。
比較例C5の漏洩弾性表面波は、アドミタンス比は108dB、比帯域幅は11.0%であり、アドミタンス比及び比帯域幅共に比較例C4よりも小さい。他方、比較例C4は、接合基板であるため、構造的には堅牢である。
【0083】
これに対し、図14に示すように、実施例E9の漏洩弾性表面波は、アドミタンス比は114dB、比帯域幅は19.5%である。すなわち、実施例E9の漏洩弾性表面波は、比較例C5の漏洩弾性表面波よりも比帯域幅が著しく優れると共に、比較例C1のSH板波に迫る擬似SH板波とでも呼ぶべき優れた共振特性を有している。さらに、実施例E9に係るSAW共振子は、比較例C5と同様に、接合基板であるため、構造的にも堅牢である。
【0084】
(実施例E10~E12の解析結果)
次に、図15を参照して、図3に示した基本モデルのシミュレーションによる実施例E10~E12の共振特性解析結果を説明する。ここで、図15は、実施例E10~E12の共振特性解析結果を示すグラフである。図15の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。ここで、図15には、図14に示した実施例E9の共振特性解析結果も併せて示されている。
【0085】
図15に示す実施例E9~E12では、圧電体結晶基板PSはいずれも27.5°YカットX伝搬のLN基板であるが、支持基板SSの種類が異なる。すなわち、図15は、支持基板SSの種類の違いによる共振特性の変化を示している。
【0086】
実施例E9の支持基板SSは、上述の通り、線膨張係数9.5ppm/℃のATカット90°X伝搬の水晶基板である。
実施例E10の支持基板SSは、圧電体結晶基板PSと同じであり、線膨張係数15.4ppm/℃の27.5°YカットX伝搬のLN基板である。
実施例E11の支持基板SSは、線膨張係数0.5ppm/℃の石英ガラス基板である。
実施例E12の支持基板SSは、線膨張係数2.6ppm/℃のシリコン(100)基板である。
【0087】
図15のグラフ中に示すように、実施例E9~E12については、図3に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λ、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.7とした。
【0088】
図15に示す実施例E9~E12の共振特性は以下の通りである。
実施例E9は、上述の通り、アドミタンス比は114dB、比帯域幅は19.5%である。
実施例E10は、アドミタンス比は109dB、比帯域幅は19.5%である。
実施例E11は、アドミタンス比は112dB、比帯域幅は20.0%である。
実施例E12は、アドミタンス比は113dB、比帯域幅は18.3%である。
【0089】
図15に示す実施例E9~E12の共振特性結果から、支持基板SSの種類によらず、優れたアドミタンス比及び比帯域幅が得られることが分かった。
ここで、実施例E9では、ATカット90°X伝搬の水晶基板(支持基板SS)と27.5°YカットX伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)との線膨張係数差が小さいため、温度変化による割れ等を抑制できる。また、実施例E10では、支持基板SSが圧電体結晶基板PSと同じであるため、温度変化による割れ等をさらに抑制できる。
【0090】
(比帯域幅のパラメータ依存性)
次に、図16図17を参照して、比帯域幅のパラメータ依存性について説明する。図16は、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比(w2/p)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。図16の横軸はIDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比(w2/p)、縦軸は比帯域幅(%)を示す。図17は、波長λによって規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)に対する比帯域幅の変化を示すグラフである。図17の横軸は波長λによって規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)、縦軸は比帯域幅(%)を示す。
【0091】
なお、図16及び図17に示す各データ点は、図3に示した基本モデルのシミュレーションによる共振特性解析結果である。図15に示す実施例E10と同様に、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、27.5°YカットX伝搬のLN基板を用いた。
【0092】
図16のグラフ中に示すように、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを変化させる際、図3に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λとした。
【0093】
図17のグラフ中に示すように、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λを変化させる際、図3に示す及びトレンチTRの深さdを0.1λとし、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.7とした。図17には、比較例として、圧電体結晶基板PS単体についても、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h(h/λ)に対する比帯域幅の変化が白抜き三角印で示されている。
【0094】
図16に示すように、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pが小さい程、一点鎖線で示す比較例C6の漏洩弾性表面波の特性に近付き、比帯域幅が小さくなる。また、図示しないが、比w2/pが0.5よりも小さくなると、不要応答が発生し易い傾向にある。ここで、図16に示すように、比較例C6は、支持基板SSとしてトレンチTRを備えない27.5°YカットX伝搬のLN基板を備えた接合基板である。
【0095】
他方、比w2/pが大きくなる程、一点鎖線で示す比較例C4のラム波の特性に近付き、比帯域幅が大きくなる。但し、比w2/pが0.9を超えると、トレンチTRの製造が難しくなる。そのため、比w2/pは、例えば0.3~0.9とし、好ましくは0.5以上とする。ここで、比較例C4は、図16に示すように、27.5°YカットX伝搬のLN基板(圧電体結晶基板PS)単体であり、図14に示す共振特性を有する。
なお、図16に示すように、比w2/pが0.7の場合は、図15に示す実施例E10に該当する。
【0096】
図17に示すように、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λ=0.1において、黒丸印で示された実施例の比帯域幅は極大値となる。規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが0.1よりも大きくなると、一点鎖線で示す比較例C6の漏洩弾性表面波の特性に近付き、黒丸印で示された実施例の比帯域幅が小さくなる。また、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが大きい程、黒丸印で示された実施例の比帯域幅が、白抜き三角印で示された比較例(圧電体結晶基板PS単体)の比帯域幅に近付く。図17に示す例では、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λ=0.5の場合、黒丸印で示された実施例及び白抜き三角印で示された比較例の比帯域幅のいずれもが、一点鎖線で示す比較例C6の比帯域幅に略一致している。
【0097】
ここで、図示しないが、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが、0.3を超えると、不要応答が発生し易くなった。他方、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが0.05よりも小さくなると、トレンチTRの製造が難しくなる。そのような観点から、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λは、例えば0.05~0.5とし、好ましくは0.3以下とする。
【0098】
なお、図17において黒丸印で示された実施例のうち、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが0.1の場合は、図15に示す実施例E10に該当する。他方、図17において白抜き三角印で示された比較例(圧電体結晶基板PS単体)のうち、規格化された圧電体結晶基板PSの板厚h/λが0.1の場合は、図14に示す比較例C4に該当する。
【0099】
なお、図示しないが、波長λに対するトレンチTRの深さdの比d/λを0.1~1の範囲で変化させても、比帯域幅は変化しなかった。そのため、トレンチTRを製造する際に、トレンチTRの深さdを厳密に管理する必要はないと考えられる。
【0100】
(実施例E13の解析結果)
次に、図18を参照して、図8に示したモデルでのシミュレーションによる実施例E13の共振特性解析結果を説明する。図18は、実施例E13の共振特性解析結果を示すグラフである。図18の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。
【0101】
図8に示すモデルでは、複数のトレンチTRのそれぞれが、IDT電極IDTの複数の電極指同士の間に配置されている。図8に示すモデルでも、IDT電極IDTの複数の電極指と複数のトレンチTRとは同一ピッチpで配置されている。実施例E13におけるそれ以外の構成は、実施例E10と同様であり、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、27.5°YカットX伝搬のLN基板を用いた。
【0102】
図18のグラフ中に示すように、実施例E13でも、図8に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λ、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の比w2/pを0.7とした。図18には、実施例E13の解析結果と共に、図3に示した基本モデルの構成を有する実施例E10及びトレンチTRを備えない比較例C6の解析結果も示されている。
【0103】
図18に示すように、実施例E13は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、実施例E10よりも小さい。他方、実施例E13は、比較例C6よりも比帯域幅についてはやや小さいものの、アドミタンス比については大きい。
実施例E10と実施例E13との比較から、圧電体結晶基板PSが27.5°YカットX伝搬のLN基板の場合にも、トレンチTRはIDT電極IDTの電極指の直下に設ける方が好ましい。
【0104】
(実施例E14の解析結果)
次に、図19を参照して、図10に示したモデルでのシミュレーションによる実施例E14の共振特性解析結果を説明する。図19は、実施例E14の共振特性解析結果を示すグラフである。図19の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。
【0105】
図10に示すモデルでは、IDT電極IDTの複数の電極指のそれぞれに対して、トレンチTRが2個ずつ配置されている。すなわち、図10に示すモデルでは、IDT電極IDTの複数の電極指の配置ピッチpに対して、複数のトレンチTRの配置ピッチは0.5pである。実施例E14におけるそれ以外の構成は、実施例E10と同様であり、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、27.5°YカットX伝搬のLN基板を用いた。
【0106】
図19のグラフ中に示すように、実施例E14でも、図10に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λとした。また、図10において、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対してトレンチTRが占める幅は、トレンチTRの幅w2の2倍である。そのため、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対する2個のトレンチTRの幅w2の比w2×2/p=0.7(つまり、w2/p=0.35)とした。図19には、実施例E14の解析結果と共に、図3に示した基本モデルの構成を有する実施例E10及びトレンチTRを備えない比較例C6の解析結果も示されている。
【0107】
図19に示すように、実施例E14は、実施例E10よりもアドミタンス比については大きいが、比帯域幅については小さい。また、実施例E14では、共振と反共振の間に不要応答が確認された。他方、実施例E14は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、比較例C6よりも大きい。また、実施例E14は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、図18に示す実施例E13よりも大きい。
実施例E10と実施例E14との比較から、圧電体結晶基板PSが27.5°YカットX伝搬のLN基板の場合にも、トレンチTRはIDT電極IDTの電極指の直下に同一ピッチで設ける方が好ましい。
【0108】
(実施例E15の解析結果)
次に、図20を参照して、図12に示したモデルでのシミュレーションによる実施例E15の共振特性解析結果を説明する。図20は、実施例E15の共振特性解析結果を示すグラフである。図20の横軸は位相速度(m/s)、縦軸はアドミタンス(S)を示す。
【0109】
図12に示すモデルでは、1個のトレンチTRが、IDT電極IDTの2個の電極指を跨ぐように配置されている。すなわち、図12に示すモデルでは、IDT電極IDTの2個の電極指に対して1個のトレンチTRが設けられており、IDT電極IDTの複数の電極指の配置ピッチpに対して、複数のトレンチTRの配置ピッチは2pである。実施例E15におけるそれ以外の構成は、実施例E10と同様であり、支持基板SSとして、圧電体結晶基板PSと同じ、27.5°YカットX伝搬のLN基板を用いた。
【0110】
図20のグラフ中に示すように、実施例E15でも、図12に示す圧電体結晶基板PSの板厚h及びトレンチTRの深さdをいずれも0.1λとした。また、図12において、IDT電極IDTの電極指の配置ピッチpに対してトレンチTRが占める幅は、トレンチTRの幅w2の半分である。そのため、電極指の配置ピッチpに対するトレンチTRの幅w2の半分の比w2/2/p=0.7(つまり、w2/p=1.4)とした。図20には、実施例E15の解析結果と共に、図3に示した基本モデルの構成を有する実施例E10及びトレンチTRを備えない比較例C6の解析結果も示されている。
【0111】
図20に示すように、実施例E15は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、実施例E10よりも若干小さい。他方、実施例E15は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、比較例C6よりも大きい。また、実施例E15は、アドミタンス比及び比帯域幅共に、図18に示す実施例E13よりも大きい。さらに、実施例E15は、実施例E14よりもアドミタンス比については小さいが、比帯域幅については大きい。
実施例E10と実施例E15との比較から、圧電体結晶基板PSが27.5°YカットX伝搬のLN基板の場合にも、トレンチTRはIDT電極IDTの電極指の直下に同一ピッチで設ける方が好ましい。
【0112】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0113】
AN アンテナ
BBP ベースバンド処理部
E1、E2 電極
FS 周波数シンセサイザ
IDT IDT電極
IFA IFアンプ
IFF1、IFF2 IFフィルタ
IFM IFミキサ
LNA ローノイズアンプ
OC 発振回路
PLL PLL回路
PS 圧電体結晶基板
REF1、REF2 反射器
RFF RFフィルタ
RFM RFミキサ
RX 無線受信回路
SS 支持基板
TR トレンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20