(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109249
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物、ミリ波レーダーカバー、ミリ波レーダー装置、車両、及びミリ波レーダーカバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 12/08 20060101AFI20240806BHJP
C08F 279/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08F12/08
C08F279/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013954
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 岳史
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 和也
【テーマコード(参考)】
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4J026AA06
4J026AA67
4J026AA68
4J026AA69
4J026AA71
4J026BA05
4J026BA27
4J026BB01
4J026BB03
4J026DB02
4J026DB13
4J026DB23
4J026EA02
4J026GA10
4J100AB02P
4J100AJ02Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA57
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100FA34
4J100FA47
4J100GB05
4J100JA44
(57)【要約】
【課題】低誘電特性に優れるミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、ミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物であって、スチレン由来の繰り返し単位を85質量%以上含むスチレン系重合体を含有し、前記スチレン系樹脂組成物を成形した成形体は、測定周波数70~80GHzにおける比誘電率が2.700以下であり、測定周波数70~80GHzにおける誘電正接が0.0050以下である、スチレン系樹脂組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物であって、
スチレン由来の繰り返し単位を85質量%以上含むスチレン系重合体を含有し、
前記スチレン系樹脂組成物を成形した成形体は、
測定周波数70~80GHzにおける比誘電率が2.700以下であり、
測定周波数70~80GHzにおける誘電正接が0.0050以下である、
スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系重合体は、スチレン由来の繰り返し単位を85~100質量%、(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位を0~15質量%含む、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系重合体は、ゴム状重合体にスチレンを含む原料単量体がグラフト重合したゴム変性スチレン系樹脂である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、前記スチレン系重合体を80質量%以上含有する、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂組成物を成形した成形体は、温度60℃、湿度90%の環境で96時間静置した後の寸法変化率が0.30%未満である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1つに記載のスチレン系樹脂組成物を含む、ミリ波レーダーカバー。
【請求項7】
請求項6に記載のミリ波レーダーカバーを備える、ミリ波レーダー装置。
【請求項8】
請求項7に記載のミリ波レーダー装置を備える、車両。
【請求項9】
請求項6に記載のミリ波レーダーカバーの製造方法であって、
前記スチレン系樹脂組成物を成形する工程を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物、ミリ波レーダーカバー、ミリ波レーダー装置、車両、及びミリ波レーダーカバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波レーダー装置を搭載した自動車等の車両が開発され、安全運転支援等が試みられている。
【0003】
ミリ波レーダー装置は、ミリ波を送信・受信するアンテナ等を含むが、ミリ波の送信・受信が必要な方向に用いられる筐体には、ミリ波透過性に優れる樹脂成形体のミリ波用レーダーカバー(レドーム等)が取り付けられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ミリ波用レーダーカバーに用いる材料として、高周波数帯域の伝送損失低減のために低誘電特性に優れる樹脂組成物がさらに求められている。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、低誘電特性に優れるミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物であって、スチレン由来の繰り返し単位を85質量%以上含むスチレン系重合体を含有し、前記スチレン系樹脂組成物を成形した成形体は、測定周波数70~80GHzにおける比誘電率が2.700以下であり、測定周波数70~80GHzにおける誘電正接が0.0050以下である、スチレン系樹脂組成物。
[2]前記スチレン系重合体は、スチレン由来の繰り返し単位を85~100質量%、(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位を0~15質量%含む、[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[3]前記スチレン系重合体は、ゴム状重合体にスチレンを含む原料単量体がグラフト重合したゴム変性スチレン系樹脂である、[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[4]前記スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、前記スチレン系重合体を80質量%以上含有する、[1]~[3]の何れか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
[5]前記スチレン系樹脂組成物を成形した成形体は、温度60℃、湿度90%の環境で96時間静置した後の寸法変化率が0.30%未満である、[1]~[4]の何れか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
[6][1]~[5]の何れか1つに記載のスチレン系樹脂組成物を含む、ミリ波レーダーカバー。
[7][6]に記載のミリ波レーダーカバーを備える、ミリ波レーダー装置。
[8][7]に記載のミリ波レーダー装置を備える、車両。
[9][6]に記載のミリ波レーダーカバーの製造方法であって、前記スチレン系樹脂組成物を成形する工程を備える、製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0009】
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0010】
1.スチレン系樹脂組成物
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、ミリ波レーダーカバーを構成する成形体として用いられるミリ波レーダーカバー用スチレン系樹脂組成物(以下、スチレン系樹脂組成物)である。
【0011】
スチレン系樹脂組成物を成形した成形体は、測定周波数70~80GHzにおける比誘電率が2.700以下であり、好ましくは2.540以下であり、より好ましくは2.520以下であり、さらに好ましくは2.520以下である。このような範囲にある場合に、高周波数帯域(特に70~80GHz)での伝送損失の抑制が期待できる。当該比誘電率は、下限は特に制限しなくともよいが、例えば、1.000以上であり、2.000以上であってもよい。当該比誘電率は、具体的には例えば、0.500,1.000,1.500,2.000,2.100,2.200,2.300,2.400,2.410,2.420,2.430,2.440,2.450,2.460,2.470,2.480,2.490,2.500,2.510,2.520,2.530,2.540,2.550,2.560,2.570,2.580,2.590,2.600,2.610,2.620,2.630,2.640,2.650,2.660,2.670,2.680,2.690,2.700であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0012】
スチレン系樹脂組成物を成形した成形体は、測定周波数70~80GHzにおける誘電正接が0.0050以下であり、好ましくは0.0040以下であり、より好ましくは0.0030以下であり、さらに好ましくは0.0020以下である。このような範囲にある場合に、高周波数帯域(特に70~80GHz)での伝送損失の抑制が期待できる。当該誘電正接は、下限は特に制限しなくともよいが、例えば、0.0001以上であり、0.0010以上である。当該誘電正接は、0.0001,0.0010,0.0020,0.0030,0.0040,0.0050であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0013】
なお、比誘電率と誘電正接の測定方法については後述する。
【0014】
スチレン系樹脂組成物を成形した成形体(試験片)は、温度60℃、湿度90%の環境で96時間静置した後の寸法変化率が、好ましくは0.30%未満であり、より好ましくは0.15%未満である。当該寸法変化率は、特に下限は制限されないが、例えば0.01%以上である。寸法変化率の測定方法については後述するが、当該寸法変化率の範囲は、試験片の縦(短辺)と横(長辺)の寸法の平均である。好ましくは、試験片の短辺の寸法変化率及び長辺の寸法変化率がそれぞれ当該範囲を満たすことが好ましい。すなわち、試験片の短辺の寸法変化率が、好ましくは0.30%未満であり、より好ましくは0.15%未満である。また、試験片の長辺の寸法変化率が、好ましくは0.30%未満であり、より好ましくは0.15%未満である。当該寸法変化率(短辺、長辺、短辺と長辺の平均)は、具体的には例えば、0.01,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.10,0.11,0.12,0.13,0.14,0.15,0.16,0.17,0.18,0.19,0.20,0.21,0.22,0.23,0.24,0.25,0.26,0.27,0.28,0.29%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0015】
スチレン系樹脂組成物は、スチレン由来の繰り返し単位(スチレン単位)を85質量%以上含むスチレン系重合体を含有する。スチレン系重合体は、スチレンを含む原料単量体を用いて重合させることにより得られる重合体である。スチレン系重合体は、例えば、スチレン系重合体100質量%に対して、スチレン単位を85~100質量%含み、好ましくは90~100質量%含み、より好ましくは91~100質量%含み、さらに好ましくは95~100質量%含む。このような範囲にある場合に、低誘電特性及び寸法安定性に優れる。スチレン単位の含有量は、具体的には例えば、85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0016】
スチレン系重合体は、スチレンと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位(他の単量体単位)を有していてもよい。スチレンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、置換スチレン系単量体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸(MAA)である。(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルであって、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル(MMA)等である。置換スチレン系単量体は、スチレンの何れかの水素が置換されている単量体であって、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、p-クロロスチレン等のハロゲン化スチレン、p-メトキシスチレン等のアルコキシ化スチレン等である。スチレン系重合体は、これらの単量体の1種以上に由来する単位をスチレン単位と共に含んでいてよい。
【0017】
スチレン系重合体は、スチレン系重合体100質量%に対して、他の単量体単位を、例えば0~15質量%含んでいてもよい。他の単量体単量体単位の含有量は、スチレン系重合体100質量%に対して、具体的には例えば、0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0018】
一態様において、スチレン系重合体は、スチレン単独重合体であってもよい。また、そのようなスチレン単独重合体は、アタクチック構造、アイソタクチック構造、及びシンジオタクチック構造等の構造を有していてもよく、好ましくはアタクチック構造を有している。
【0019】
一態様において、スチレン系重合体は、スチレン系重合体100質量%に対して、(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位((メタ)アクリル酸単位)を0~15質量%含んでいてよい。スチレン系重合体は、スチレン系重合体100質量%に対して、(メタ)アクリル酸単位を好ましくは1~11質量%含み、より好ましくは2~9質量%含み、さらに好ましくは3~6質量%含む。このような範囲にある場合に、低誘電特性及び寸法安定性に優れるとともに、耐熱性にも優れる。(メタ)アクリル酸単位の含有量は、スチレン系重合体100質量%に対して、具体的には例えば、0,0.1,0.5,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。スチレン-(メタ)アクリル酸系重合体は、特にメタクリル酸に由来する繰り返し単位を上記含有量含むことが好ましい。
【0020】
一態様において、スチレン系重合体は、ゴム状重合体にスチレンを含む原料単量体がグラフト重合したゴム変性スチレン系樹脂であってよい。ゴム状重合体は、例えば、ポリブタジエン(1,3-ブタジエンの単独重合体)、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン-イソプレンブロック共重合ゴム等の共役ジエン系ゴム等である。一例において、ゴム変性スチレン系樹脂は、ポリブタジエンにスチレンを含む原料単量体がグラフト重合したゴム変性スチレン系樹脂であってよい。ゴム変性スチレン系樹脂は、ゴム状重合体にスチレンを含む原料単量体をグラフト重合させることによって得られる。ゴム変性スチレン系樹脂は、ゴム状重合体に対しグラフトしている重合体(グラフト鎖)が原料単量体の単独重合体(例えば、スチレン単独重合体)であってもよく、スチレンと他の単量体との共重合体であってもよい。原料単量体は、上述のスチレンと共重合可能な他の単量体を含んでいてよい。グラフト鎖は、好ましくはスチレン単独重合体である。
【0021】
スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、スチレン系重合体を好ましくは80質量%以上含有し、より好ましくは90質量%以上含有する。このような範囲にある場合に、低誘電特性及び寸法安定性に優れる。スチレン系重合体の含有量は、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、具体的には例えば、80,81,82,83,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0022】
スチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記スチレン系重合体以外の他の重合体を含有していてもよい。他の重合体は、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂等である。
【0023】
スチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有していてもよい。添加剤は、例えば、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、老化防止剤、耐衝撃性改良剤、離型剤、紫外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、相溶化剤、可塑剤、分散剤、防菌剤、充填材等であり、スチレン系樹脂組成物において一般的な添加剤を配合することができる。
【0024】
<スチレン系樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂組成物の製造方法は、スチレンを含む原料単量体を重合しスチレン系重合体を生成する重合工程を備える。重合工程は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知のスチレン重合方法によって行うことができる。品質面や生産性の面では、塊状重合法、溶液重合法が好ましく、連続重合であることが好ましい。溶媒として例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。
【0025】
原料単量体は、スチレンを85~100質量%含み、好ましくは90~100質量%含み、より好ましくは91~100質量%含み、さらに好ましくは95~100質量%含む。重合条件は既知の重合条件を採用することができる。
【0026】
スチレン系重合体の重合時に、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤、架橋剤などの重合助剤、その他の重合助剤を使用することができる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、公知慣用の例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t-アミルパーオキシイソノナノエート等のアルキルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のパーオキシカーボネート類、N,N′-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N′-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N′-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン等の脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸等のチオカルボン酸類、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール水酸基をチオグリコール酸、またはメルカプトプロピオン酸でエステル化した多官能メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー及びテルピノーレン等が挙げられる。中でも、分子量調整が容易な点から、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、チオカルボン酸類、多官能メルカプタンが好ましい。
【0027】
連続重合の場合、スチレン系樹脂組成物の製造方法は、重合工程と、脱揮工程と、造粒工程とを備えていてもよい。
【0028】
重合工程においては、公知の完全混合槽型攪拌槽や塔型反応器等を用い、目標の分子量、分子量分布、反応転化率となるよう、重合温度調整等により重合反応が制御されうる。
【0029】
重合工程を出た重合体を含む重合溶液は、脱揮工程に移送され、未反応の単量体及び重合溶媒が除去される。脱揮工程は加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機などで構成される。脱揮工程を出た溶融状態の重合体は造粒工程へ移送される。造粒工程では、多孔ダイよりストランド状に溶融樹脂を押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状に加工される。
【0030】
スチレン系樹脂組成物の製造方法は、上記添加剤を、スチレン系重合体の重合前に原料溶液中に添加してもよいし、スチレン系重合体を重合後、造粒前に設置された押出機、若しくは静的混合装置で添加剤を混合してもよい。また、スチレン系重合体を造粒後のペレットと添加剤をドライブレンドし、溶融混練して製造してもよい。また、添加剤を予め少量のスチレン系重合体と共に溶融混練して得たペレット状のマスターバッチを作成し、スチレン系重合体と該マスターバッチをドライブレンド後、溶融混練し、調整してもよい。
【0031】
ゴム変性スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂組成物の製造方法は、重合工程において、ゴム状重合体の存在下スチレンを含む原料単量体をグラフト重合させることによって行われる。
【0032】
2.ミリ波レーダーカバー及びミリ波レーダー装置
本発明の一実施形態に係るミリ波レーダーカバーは、上記スチレン系樹脂組成物を含む。また、本発明の一実施形態に係るミリ波レーダー装置は、当該ミリ波レーダーカバーを備える。
【0033】
ミリ波レーダー装置は、例えば、ミリ波を送信・受信するアンテナ、ミリ波の信号を処理するRF回路、受信信号をデジタル化して演算処理する処理回路、それらを収める筐体等を備える。筐体は、ミリ波の送信・受信が必要な方向に用いる部材、すなわちミリ波透過性部材(フロントカバー、或いはレドームとも称される部材を含む)及びミリ波の送信・受信が必要な方向とは逆方向に用いる部材(バックカバー)を備える。ミリ波透過性部材は、上記スチレン系樹脂組成物を含むミリ波レーダーカバーであって、好ましくは上記スチレン系樹脂組成物によって構成されている。
【0034】
本発明の一実施形態に係るミリ波レーダーカバーの製造方法は、上記スチレン系樹脂組成物を成形する成形工程を備える。成形方法は、特に制限されるものではなく、例えば、射出成形法、押出成形法、加圧成形法等の公知の成形手段を用いて、ミリ波レーダーカバーの形状に成形する方法が挙げられる。
【0035】
3.車両
本発明の一実施形態に係る車両は、上記ミリ波レーダー装置を備える。ミリ波レーダー装置は、例えば、車両の前方に取り付けられており、車両の運転制御システムに接続されている。
【実施例0036】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。また、これらはいずれも例示的なものであって、本発明の内容を限定するものではない。
【0037】
[スチレン系樹脂組成物の調製]
スチレン系樹脂組成物として、樹脂組成物P-1~樹脂組成物P-6を調製した。
【0038】
<<樹脂組成物P-1~P-3の製造に用いた反応器の構成>>
下記第1~第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。
第1反応器:容積39Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第2反応器:容積39Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第3反応器:容積16Lの静止型混合器付プラグフロー反応器
【0039】
<樹脂組成物P-1>
スチレン単量体94.0質量部、エチルベンゼン6.0質量部からなる原料溶液を、20L/hrの供給速度にて第1反応器に連続的に供給し、第1反応器の温度を150℃、第2反応器の温度を155℃、第3反応器の温度は155~160℃で重合を行った。得られた重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出しして冷却した後、切断してペレット(P-1)とした。なお、1段目の脱揮槽内の樹脂温度は160℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は65kPaとし、2段目の脱揮層内の樹脂温度は230℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.7kPaとした。
【0040】
<樹脂組成物P-2>
スチレン単量体80.1質量部、メタクリル酸単量体2.8質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1-オクタノール2.0質量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製エマルゲン109P)0.060質量部、1,1ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油株式会社製パーヘキサC)0.020質量部からなる原料溶液を、14L/hrの供給速度にて第1反応器に連続的に供給し、第1反応器の温度を125℃、第2反応器の温度を132℃、第3反応器の温度は132~136℃で重合を行った。得られた重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン、メタクリル酸及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出しして冷却した後、切断してペレット(P-2)とした。なお、1段目の脱揮槽内の樹脂温度は160℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は65kPaとし、2段目の脱揮層内の樹脂温度は230℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.7kPaとした。スチレン系重合体のメタクリル酸の含有量は3.9質量%であった。
【0041】
<樹脂組成物P-3>
スチレン単量体75.4質量部、メタクリル酸単量体6.9質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1-オクタノール2.5質量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製エマルゲン109P)0.14質量部、1,1ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油株式会社製パーヘキサC)0.020質量部からなる原料溶液を、14L/hrの供給速度にて第1反応器に連続的に供給し、第1反応器の温度を125℃、第2反応器の温度を132℃、第3反応器の温度は132~136℃で重合を行った。得られた重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン、メタクリル酸及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出しして冷却した後、切断してペレット(P-3)とした。なお、1段目の脱揮槽内の樹脂温度は160℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は65kPaとし、2段目の脱揮層内の樹脂温度は230℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.7kPaとした。スチレン系重合体のメタクリル酸の含有量は9.7質量%であった。
【0042】
<<樹脂組成物P-4の製造に用いた反応器の構成>>
下記第1~第4反応器を直列に接続して重合工程を構成した。
第1反応器:容積25Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第2反応器:容積40Lの攪拌翼付プラグフロー型反応器
第3反応器:容積50Lの攪拌翼付プラグフロー型反応器
第4反応器:容積50Lの静止型混合器付プラグフロー反応器
【0043】
<樹脂組成物P-4>
スチレン単量体78.5質量%、エチルベンゼン13.8質量%、ポリブタジエン(宇部興産製BR-15HB)7.7質量%を溶解させた原料液を、20kg/h供給速度で反応器に連続的に供給し、第1反応器の温度を125℃、撹拌数を100rpm、第2反応器の温度を128~130℃、撹拌数を80rpmで重合を行った後、第2反応器の出口からの重合液に対し、t-ブチルクミルパーオキサイド(日油株式会社製パーブチルC)を0.03質量%、t-ドデシルメルカプタンを0.030質量%添加し、第3反応器の温度を128℃、撹拌数を30rpm、第4反応器の温度を流れ方向に140~165℃の温度勾配がつくように調整し重合を行った。得られた重合液を、直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出しして冷却した後、切断してペレット(P-4)とした。なお、1段目の脱揮槽内の樹脂温度は190℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は65kPaとし、2段目の脱揮槽内の樹脂温度は230℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.7kPaとした。
【0044】
<<樹脂組成物P-5の製造に用いた反応器の構成>>
下記第1~第2反応器を直列に接続して重合工程を構成した。
第1反応器:容積39Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第2反応器:容積16Lの静止型混合器付プラグフロー反応器
【0045】
<樹脂組成物P-5>
スチレン単量体16.4質量部、メタクリル酸メチル単量体63.6質量部、エチルベンゼン20.0質量部、t-ブチルクミルパーオキサイド(日油株式会社製パーブチルC)0.024質量部、t-ドデシルメルカプタン0.20質量部からなる原料溶液を、15L/hrの供給速度にて第1反応器に連続的に供給し、第1反応器の温度を150℃、第2反応器の温度を150℃で重合を行った。得られた重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン、メタクリル酸メチル及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出しして冷却した後、切断してペレット(P-5)とした。なお、1段目の脱揮槽内の樹脂温度は160℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は65kPaとし、2段目の脱揮層内の樹脂温度は230℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.7kPaとした。スチレン系重合体のメタクリル酸メチルの含有量は75.1質量%であった。
【0046】
<樹脂組成物P-6>
P-6は、「三菱ケミカル株式会社製、メタクリル樹脂、アクリペットVH5」を用いた。
【0047】
[実施例1~4及び比較例1~2]
表1に示すように、樹脂組成物P-1~樹脂組成物P-6を用いてそれぞれについて誘電特性及び寸法変化率を測定した。
【0048】
<誘電特性>
スチレン系樹脂組成物のミリ波透過性の指標として、比誘電率と誘電正接を以下の方法で測定した。温度80℃で2時間乾燥した各樹脂組成物のペレットを、熱プレス機を使用して、温度250℃、圧力15MPaの条件で成形し、厚さ0.3mmの試験片を作製した。得られた試験片を、温度25℃、湿度50%の条件下で24時間静置した後、ネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、N5227B)、共振器(SUMTEC社製、SUM-CYLINDER)及び高周波エクステンダー(Virginia Diodes社製、WR12SAX-M)を用いて75GHzでの比誘電率、誘電正接を測定した。比誘電率及び誘電正接について下記の基準で評価した。比誘電率及び誘電正接、それらに基づく評価を表1に示す。
◎:比誘電率が2.600未満であり、且つ、誘電正接が0.0030未満である
〇:下記(i)及び(ii)を満たす
(i)「比誘電率が2.700以下であり、且つ、誘電正接が0.0050以下である」
(ii)「比誘電率が2.600以上であるか、誘電正接が0.0030以上である」
×:比誘電率が2.700超であるか、誘電正接が0.0050超である
【0049】
<寸法変化率>
温度80℃で2時間乾燥した各樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝社製、IS130FII-3A)を使用して、シリンダー温度230℃、金型温度50℃の条件で成形し、縦80mm、横115mm、厚さ3mmの試験片を作製した。得られた試験片を80℃で24時間乾燥し、シリカゲルを入れたデシケータ内で2時間静置した後、ノギスを使用して試験片の縦と横の寸法を測定した。その後、試験片を温度60℃、湿度90%の恒温恒湿機に96時間静置し、取り出し5分後に、ノギスを使用し試験片の縦(短辺)と横(長辺)の寸法を測定した。恒温恒湿機に静置した前後の寸法から、寸法変化率を算出した。短辺及び長辺の寸法変化率を下記の基準で評価した。寸法変化率及び評価を表1に示す。
◎:短辺及び長辺の何れもが0.15%未満である
○:短辺及び長辺の何れもが0.30%未満であり、短辺及び長辺の少なくとも一方が0.15%以上である
×:短辺及び長辺の少なくとも一方が0.30%以上である
【0050】