(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109298
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】シール材用ゴム組成物およびシール材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20240806BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20240806BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240806BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20240806BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20240806BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09K3/10 C
C08L23/16
C08K3/04
C08K5/053
C08K5/16
F16J15/10 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014011
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 紗也佳
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲
【テーマコード(参考)】
3J040
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
3J040EA16
3J040EA19
3J040FA06
3J040FA11
3J040HA15
4H017AA03
4H017AB07
4H017AC01
4H017AD01
4H017AE05
4J002BB15W
4J002BB15X
4J002DA036
4J002EC047
4J002EU058
4J002EU118
4J002FD016
4J002FD038
4J002FD317
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】ゴム成分がエチレンプロピレン共重合体を含み、及び優れた耐久耐熱性を発揮することができるシール材用ゴム組成物であって、低応力特性およびクリーン性に優れるシール材の製造が可能となるシール材用ゴム組成物を提供すること、さらに上記シール材用ゴム組成物から形成されるシール材及びそのシール材を含む燃料電池用ガスケットを提供すること。
【解決手段】ゴム成分と、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴムとを含み、前記ゴム成分は、エチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を含む共重合体を含み、前記液状エチレン-プロピレン-ジエンゴムの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し40質量部超、160質量部未満である、シール材用ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴムとを含み、
前記ゴム成分は、エチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を含む共重合体を含み、
前記液状エチレン-プロピレン-ジエンゴムの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し40質量部超、160質量部未満である、シール材用ゴム組成物。
【請求項2】
カーボンブラックをさらに含む、請求項1に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項3】
可塑剤を含まない、請求項1に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項4】
老化防止剤および分散剤をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項5】
前記老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し0.6質量部以上1.0質量部未満である、請求項4に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項6】
前記老化防止剤は、アミン系化合物を含む、請求項5に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項7】
前記分散剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し1質量部以上10質量部以下である、請求項4に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項8】
前記分散剤は、多価アルコールを含む、請求項7に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項9】
酸化亜鉛を含まない、請求項4に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のシール材用ゴム組成物の硬化物を含むシール材。
【請求項11】
請求項10に記載のシール材と、セパレータとを含む、燃料電池用ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材用ゴム組成物およびシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用ガスケットとして、基材上に発泡ゴム層を備える多層構造ガスケットが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料電池用ガスケットでは、発泡ゴム層の耐熱性が極めて低いため、十分な耐久耐熱性が得られなかった。一方、エチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を含む共重合体(以下、エチレンプロピレン共重合体ともいう)をゴム成分として含むシール材は耐熱性に優れるものの、高圧縮時に反発力が著しく増大するため、相手部材を変形させてしまい、シール性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、ゴム成分がエチレンプロピレン共重合体を含み、及び優れた耐久耐熱性を発揮することができるシール材用ゴム組成物であって、低応力特性およびクリーン性に優れるシール材の製造が可能となるシール材用ゴム組成物を提供すること、さらに上記シール材用ゴム組成物から形成されるシール材及びそのシール材を含む燃料電池用ガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のシール材用ゴム組成物、シール材および燃料電池用ガスケットを提供する。
[1] ゴム成分と、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴムとを含み、
前記ゴム成分は、エチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を含む共重合体を含み、
前記液状エチレン-プロピレン-ジエンゴムの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し40質量部超、160質量部未満である、シール材用ゴム組成物。
[2] カーボンブラックをさらに含む、[1]に記載のシール材用ゴム組成物。
[3] 可塑剤を含まない、[1]または[2]に記載のシール材用ゴム組成物。
[4] 老化防止剤および分散剤をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
[5] 前記老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し0.6質量部以上1.0質量部未満である、[4]に記載のシール材用ゴム組成物。
[6] 前記老化防止剤は、アミン系化合物を含む、[4]または[5]に記載のシール材用ゴム組成物。
[7] 前記分散剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し1質量部以上10質量部以下である、[4]~[6]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
[8] 前記分散剤は、多価アルコールを含む、[4]~[7]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
[9] 酸化亜鉛を含まない、[4]~[8]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物の硬化物を含むシール材。
[11] [10]に記載のシール材と、セパレータとを含む、燃料電池用ガスケット。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゴム成分がエチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を含む共重合体を含み、及び優れた耐久耐熱性を発揮することができるシール材用ゴム組成物であって、低応力特性およびクリーン性に優れるシール材の製造が可能となるシール材用ゴム組成物を提供すること、さらに上記シール材用ゴム組成物から形成されるシール材及びそのシール材を含む燃料電池用ガスケットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<シール材用ゴム組成物>
本発明のシール材用ゴム組成物は、ゴム成分と、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴム(以下、液状EPDMともいう)とを含み、ゴム成分がエチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を含む共重合体(以下、エチレンプロピレン共重合体ともいう)を含み、液状EPDMの含有量は、ゴム成分100質量部に対し40質量部超、160質量部未満である。
【0009】
ゴム成分がエチレンプロピレン共重合体を含むシール材用ゴム組成物を低応力特性とするために可塑剤を添加する場合がある。しかしながら、可塑剤は揮発性有機化合物のガス(VOC)を発生するため、クリーン性の観点からシール材用ゴム組成物に使用し難い傾向にある。しかしながら、本発明のシール材用ゴム組成物は、ゴム成分に対し液状EPDMを上記含有量で含むことにより、低応力特性と優れた耐熱性とを発揮することが可能となる。シール材用ゴム組成物は、クリーン性の観点から好ましくは可塑剤を含まない。
【0010】
(ゴム成分)
ゴム成分はエチレンプロピレン共重合体を含む。エチレンプロピレン共重合体としては、例えばエチレン-プロピレンゴム(以下、EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。EPMは、エチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位からなる共重合体である。EPDMは、エチレン由来の構成単位、プロピレン由来の構成単位及びジエンモノマー由来の構成単位からなる三元共重合体である。エチレンプロピレン共重合体においては、エチレン由来の構成単位とプロピレン由来の構成単位との含有比を調整することによってゴム特性を制御することができる。例えば、エチレン由来の構成単位の比率を高めると、ゴムの耐薬品性及び結晶化度(従って機械的強度)は高まる傾向にある。一方、エチレン由来の構成単位の比率を高めると、エチレンプロピレン共重合体の成形加工性及び流動性は低下する傾向にある。
【0011】
エチレンプロピレン共重合体の成形加工性を高め、かつ、より高品質のシール材を製造するために、エチレンプロピレン共重合体におけるエチレン由来の構成単位の含有量は、65質量%以下とすることが好ましく、60質量%以下とすることがより好ましい。エチレン由来の構成単位の含有量が65質量%以下であれば、エチレンプロピレン共重合体に良好な流動性を与えることができるとともに、シール材に良好な耐熱性及びシール性を付与することができる。一方、エチレン由来の構成単位の含有量が過度に低すぎると、得られるシール材の引張強度が不足する。従って、エチレン由来の構成単位の含有量は、45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0012】
EPDMを構成するジエンモノマーの具体例は、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4-ヘキサジエン(1,4-HD)、メチルテトラヒドロインデン、5-メチレン-2-ノルボルネン、シクロオクタジエン、ジシクロオクタジエン等の非共役ジエンモノマーを含む。これらの中でも、EPDMが良好な架橋速度(加硫速度)を示し、また、得られるシール材の耐熱性にも優れることから、ENB、1,4-HDを用いることが好ましく、とりわけ架橋速度に優れることから、ENBを用いることがより好ましい。ジエンモノマーは1種のみを単独で用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
EPDMにおけるジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、架橋速度及びゴム組成物の成形加工性を高める観点から、1質量%以上とすることが好ましく、3質量%以上とすることがより好ましい。また、架橋後に二重結合が多量に残存することによるシール材の劣化のしやすさを考慮して、ジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、12質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることがより好ましい。
【0014】
EPDMの市販品の具体例としては、三井化学(株)製の「EPT」、住友化学(株)製の「エスプレン」、JSR(株)製の「EP」「KEP」、ARLANXEOの「KELTAN」等が挙げられる。
【0015】
ゴム成分は、シール材用ゴム組成物100質量%を基準としたときにゴム成分と液状EPDMとの合計含有量が例えば60質量%以上となるように配合することができる。ゴム成分は、シール材用ゴム組成物中のゴム成分と液状EPDMとの合計含有量が好ましくは70質量%以上、より好ましくは80%以上となるように配合され、例えば99質量%以下または95質量%以下または90質量%以下となるように配合される。
【0016】
(液状EPDM)
液状EPDMは、エチレンとプロピレンとの共重合体であるエチレン-プロピレンゴムに第3成分を導入し、主鎖中に二重結合をもたせたものである。第3成分の具体例として、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、エチレン、プロピレン、5-ビニル-2-ノルボルネン等が挙げられる。本発明においては、第3成分として、ジシクロペンタジエンおよび5-エチリデン-2-ノルボルネンが好ましい。
【0017】
液状EPDMは、エチレンとプロピレンとの比率(エチレン/プロピレン)が例えば30/70~70/30であってよく、好ましくは40/60~60/40、より好ましくは45/55~55/45であり、特に好ましくは50/50である。上記第3成分の含有量は、例えば5質量%以上20質量%以下であってよく、好ましくは7質量%以上15質量以下、より好ましくは9質量%以上12質量%以下である。
【0018】
液状EPDMの含有量の上限は、ゴム成分100質量部に対し、40質量部超えである。40質量部以下であると、低応力特性が得られにくくなる傾向にある。液状EPDMの含有量の上限は、ゴム成分100質量部に対し、低応力特性の観点から好ましくは60質量部以上であり、さらに好ましくは80質量部以上であり、特に好ましくは100質量部以上である。液状EPDMの含有量の下限は、ゴム成分100質量部に対し、160質量部未満である。160質量部を超えると混練りしにくくなる傾向にある。液状EPDMの含有量の下限は、ゴム成分100質量部に対し、混練り特性の観点から好ましくは150質量部以下、より好ましくは140質量部以下である。
【0019】
液状EPDMの数平均分子量は例えば1000以上2万以下であってよく、好ましくは2000以上1.5万以下、より好ましくは3000以上1万以下である。
【0020】
液状EPDMは常温(24℃)で液体状であるため、加工性が向上し易い傾向にある。液状EPDMは、24℃における粘度が例えば6000Pa・s以上12000Pa・s以下であってよく、加工性の観点から好ましくは7000Pa・s以上11000Pa・s以下、さらに好ましくは8000Pa・s以上10000Pa・s以下である。
【0021】
(シール材用ゴム組成物の粘度)
シール材用ゴム組成物の成形加工性を高める観点から、シール材用ゴム組成物の粘度は、JIS K6300-1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕で30以下であることが好ましい。
【0022】
(老化防止剤および分散剤)
シール材用ゴム組成物は、老化防止剤および分散剤をさらに含むことができる。シール材用ゴム組成物は、架橋促進および耐熱性向上を目的として酸化亜鉛を含有する場合があるものの、酸化亜鉛はシール材から溶出するおそれがある。本発明のシール材用ゴム組成物が老化防止剤および分散剤を含む場合、酸化亜鉛を含むことなく、クリーン性および耐熱性を向上させ易くすることができる。本発明のシール材用ゴム組成物は、クリーン性の観点から好ましくは酸化亜鉛を含まない。
【0023】
シール材用ゴム組成物が老化防止剤を含む場合、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、耐熱性およびクリーン性の観点から好ましくは0.6質量部以上1.0質量部未満、より好ましくは0.65質量部以上0.95質量部以下、さらに好ましくは0.7質量部以上0.9質量部以下である。
【0024】
シール材用ゴム組成物が分散剤を含む場合、分散剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、クリーン性の観点から好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上であり、例えば10質量部以下または5質量部以下であってよい。
【0025】
老化防止剤としては、例えばアミン系化合物を含むことができる。アミン系化合物の例としては、例えば芳香族アミン系、アミン-ケトン系、ベンズイミダゾール系等が挙げられる。中でもアミン-ケトン縮合物、ベンズイミダゾール誘導体が好ましい。老化防止剤は、2種以上のアミン系化合物を含むことが好ましく、アミン-ケトン縮合物とベンズイミダゾール誘導体とを含むことがより好ましい。老化防止剤がアミン-ケトン縮合物とベンズイミダゾール誘導体とを含む場合、アミン-ケトン縮合物とベンズイミダゾール誘導体との質量比(アミン-ケトン縮合物/ベンズイミダゾール誘導体)は例えば1/5~1であってよく、好ましくは1/3~1/1.5、さらに好ましくは1/2である。アミン系化合物以外の老化防止剤を用いることも可能であるが、アミン系化合物以外の老化防止剤を用いる場合、耐久耐熱性が低下する場合がある。本発明に用いるアミン系化合物の種類は、アミン系化合物が検出されない程度の少量で用いる場合であっても本発明の効果が発揮されるように選定される。アミン系化合物を老化防止剤として用いるときの通常の使用量で用いる場合、クリーン性が損なわれ易い傾向がある。
【0026】
老化防止剤の市販品の例としては、例えば大内新興化学工業株式会社製の「ノクラック224S」(アミン-ケトン縮合物)、「ノクラックMBZ」(ベンズイミダゾール誘導体)等が挙げられる。
【0027】
分散剤としては、例えば多価アルコールを含むことができる。多価アルコールとしては、例えばジエチレングリコールを含むことができる。
【0028】
(カーボンブラック)
シール材用ゴム組成物はカーボンブラックをさらに含むことができる。カーボンブラックを含有することで、シール材の強度を向上させ易くなる傾向にある。
【0029】
カーボンブラックの含有量は、EPDM100質量部に対して例えば5質量部以上60質量部以下であってよく、好ましくは10質量部以上50質量部以下、より好ましくは15質量部以上40質量部以下である。
【0030】
カーボンブラックは、導電性でも非導電性でもよく、その製法によりファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等が挙げられる。カーボンブラックは、単体でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、ISAF-HF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF、HAF-HS、HAF-LS、MAF、FEF、FEF-LS、GPF、GPF-HS、GPF-LS、SRF、SRF-HS、SRF-LM、FT、MT等のタイプを用いることができる。粒径の異なる2種以上のカーボンブラックを用いてもよい。
【0032】
カーボンブラックの平均粒径は、各製造会社によって異なる場合があるものの、例えば、SAFは19nm、ISAFは23nm、HAFは28nm、MAFは38nm、FEFは43nm、GPFは62nm、SRFは66nm、FTは122nm、MTは250nm~480nmである。
【0033】
(架橋剤)
シール材用ゴム組成物は、架橋剤をさらに含むことができる。架橋剤としては、有機過酸化物等が用いられる。有機過酸化物として、EPDMに採用されているものとして、例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチル-パーオキシヘキサン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチル-パーオキシヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、4,4-ジ-t-ブチルパーオキシ-ブチルバレレート、2,2-ジ-t-ブチルパーオキシ-ブタン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-ベンゾイルパーオキサイド、ビス(o-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(p-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンジラート等が例示される。
【0034】
シール材用ゴム組成物における架橋剤の含有量は、EPDM100質量部に対して、通常0.1質量部以上20質量部以下であり、好ましくは0.2質量部以上10質量部以下である。この範囲内であれば、架橋反応を十分に進行させることができるので、硬度や機械的強度、耐圧縮永久歪性等に優れるとともに、耐衝撃性に優れた緩衝材を得ることが可能である。
【0035】
(共架橋剤)
シール材用ゴム組成物は、さらに共架橋剤を含むことが好ましい。共架橋剤としては、例えばキノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2-ポリブタジエン、メタクリル酸金属塩、アクリル酸金属塩等が挙げられる。共架橋剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
シール材用ゴム組成物における共架橋剤の含有量は、機械強度の観点から好ましくはEPDM100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上10質量部以下である。
【0037】
(他の成分)
シール材用ゴム組成物は、必要に応じて、上述の成分以外の他の成分を含有することができる。他の含有成分としては、例えば加硫促進剤、内部離型剤、加硫助剤等を挙げることができる。シール材用ゴム組成物が他の成分を含有する場合、その含有量は当該分野において通常用いられる量であってよい。
【0038】
内部離型剤としては、例えば高級脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、炭化水素樹脂等が挙げられる。シール材用ゴム組成物が内部離型剤を含む場合、その含有量はEPDM100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは1.0質量部以上2.5質量部以下である。
【0039】
[シール材の製造方法]
シール材用ゴム組成物は、上述の含有成分を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えば、ミキシングロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)等の従来公知のものを用いることができる。この際、各配合成分のうち、架橋反応に寄与する成分(加硫促進剤等)を除く成分を先に均一に混練しておき、その後、架橋反応に寄与する成分を混練するようにしてもよい。混練り温度は、例えば常温付近である。
【0040】
<シール材>
シール材は、上述のシール材用ゴム組成物の架橋物からなるものである。シール材は、シール材用ゴム組成物を架橋(加硫)・成形することにより作製することができる。架橋・成形方法は、インジェクション成形、圧縮成形、移送成形等の従来公知の方法を採用することができる。
【0041】
成形時における加熱温度(架橋温度)は、例えば100~200℃程度であり、加熱時間(架橋時間)は、例えば0.5~120分程度である。
【0042】
本発明のシール材は、ショアA硬度が例えば43以下であり、好ましくは39以下である。本発明のシール材は、100%モジュラスが例えば0.8MPa以下であり、好ましくは0.7MPa以下である。ショアA硬度および100%モジュラスは後述の実施例の欄において説明する方法に従って測定される。
【0043】
本発明のシール材は、温度120℃、336時間の耐久耐熱試験後の硬度(ショアA硬度)変化率の絶対値が例えば5%以下であってよく、好ましくは3%以下である。本発明のシール材は、上記耐久耐熱試験後の引張強さの変化率の絶対値が例えば30%以下であってよく、好ましくは27%以下である。本発明のシール材は、上記耐久耐熱試験後の切断時伸びの変化率の絶対値が例えば20%以下であってよく、好ましくは15%以下である。
【0044】
本発明のシール材は、JIS S 3200-7:2010水道用器具―浸出性能試験方法:附属書23(規定)アミン類の分析方法に準拠して吸光光度法により測定したときのアミン濃度が10ppm以下であってよく、好ましくは7ppm以下である。
【0045】
本発明のシール材は、40cm2に打ち抜いて作製した試料について溶出試験を行ったときに、(1)純水100mlへ浸漬したときの塩化物イオン(Cl-)、硫酸イオン(SO4
2-)、アミン類の溶出量が検出限界以下であるか、または(2)硫酸水溶液(pH=2)100mlへ浸漬したときのAl、Ca、Zn、Cu、Mg、Fe、Si、Kの溶出量が検出限界以下であることができる。
【0046】
シール材は、パッキンやガスケット等であることができる。本発明のシール材は、耐熱性およびクリーン性に優れるため燃料電池用ガスケットに好適である。燃料電池用ガスケットは、上述のシール材と、セパレータとを含むことができる。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[シール材の物性評価]
JIS K6250:2006に従い、2mmの厚さに作製したシート状の物性評価用試料から、JIS K6251:2017に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強さ、切断時伸び、100%モジュラスをショッパー式引張試験機を用いて測定した。また、JIS K6253:2012に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状の物性評価用試料の硬度を測定した。これらの試験はすべて温度25℃で行った。結果を表1に示す。
【0049】
[耐久耐熱性試験]
120℃の環境下で72時間、168時間、336時間保管後、上記物性評価を行い、耐久耐熱性試験前の物性についての硬度変化(shoreA)、強度変化率、および伸び変化率を求めた。結果を表2に示す。
【0050】
[ムーニー粘度]
シール材用ゴム組成物のムーニー粘度は、JIS K6300-1に準拠して100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[アミン検出試験]
実施例4~10のシール材について、JIS S 3200-7:2010水道用器具-浸出性能試験方法:附属書23(規定)アミン類の分析方法に準拠して吸光光度法によりアミン濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例1~10、比較例1~3>
表1に記載された各成分を8インチロールにて混合し、175℃±5℃にて一次加硫した後、温度160℃で1時間二次加硫を行うことにより実施例1~10および比較例1~3のシール材を作製した。シール材を作製した。結果を表1に示す。実施例4~10のシール材については耐久耐熱性試験を行った。結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
〔1〕EPDM:EPT3045H(三井化学株式会社製、EPDM:エチレンの構成単位の含有量が56質量%、ジエンの構成単位の含有量が4.7質量%であり、ASTMD1646に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が40である。)
〔2〕液状EPDM:トリレン(Trilene65、10.5 DCPD、分子量 7,000)
〔3〕加硫助剤:堺20(堺化学工業株式会社製、活性亜鉛華)
〔4〕内部離型剤:ルナックS50V(花王株式会社製、ステアリン酸)
〔5〕老化防止剤1:ノクラック224S(大内新興化学工業株式会社製、2,2,4トリメチル1,2ジヒドロキノリン共重合体)
〔6〕老化防止剤2:ノクラックMBZ(大内新興化学工業株式会社製、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩)
〔7〕カーボンブラック1:MT(THERMAX FLOFORM N-990、Cancard Limited)
〔8〕カーボンブラック2:GS(カ-ボンブラックシースト GS、東海カ-ボン株式会社)
〔9〕分散剤:ジエチレングリコール(株式会社日本触媒製)
〔10〕架橋剤:パークミルD(日油株式会社製、ジクミルパーオキサイド)
〔11〕共架橋剤:ハイクロスM(精工化学株式会社製、トリメチロールプロパントリメタクリレート)
【0055】
【0056】
〇:硬度変化が±3以下、また強度及び伸び変化率がいずれも-10以上
△:硬度変化が±3~±10、また強度及び伸び変化率のいずれかが-10~-30
×:硬度変化が±10以上、また強度及び伸び変化率のいずれかが-30以下
【0057】
表1に示されるとおり、本発明に従う実施例1~10のシール材は、EPDMを含むにもかかわらず、ショアA硬度および100%モジュラスが低く、優れた低応力特性が得られた。また、表2に示されるとおり、本発明のシール材はEPDMを含むことにより優れた耐久耐熱性を有している。さらに実施例7では、耐久耐熱性、低応力特性に優れるだけでなく、亜鉛溶出の無い優れたクリーン性が得られた。一方、比較例1~3では、十分な低応力特性が得られなかった。