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特開2024-109300移植片調製器具及びその器具を用いた移植片調製方法
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  • 特開-移植片調製器具及びその器具を用いた移植片調製方法 図1
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  • 特開-移植片調製器具及びその器具を用いた移植片調製方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109300
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】移植片調製器具及びその器具を用いた移植片調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/08 20060101AFI20240806BHJP
   A61B 17/82 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61F2/08
A61B17/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014014
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】517363285
【氏名又は名称】株式会社AimedicMMT
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 岳志
(72)【発明者】
【氏名】冨山 優斗
【テーマコード(参考)】
4C097
4C160
【Fターム(参考)】
4C097AA21
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC05
4C097CC14
4C097DD11
4C160LL28
4C160LL30
(57)【要約】
【課題】Krackowステッチの生成における作業者に掛かる負担を軽減する。
【解決手段】移植腱2に縫合糸20を縫合することにより移植片を調製するための移植片調製器具1であって、移植腱を載置するための載置面5及び、載置面に交差し且つ移植腱の長手方向に延在する1対の側面6を有する本体3を有する。また、移植片調製器具は、縫合針21をガイドするべく、載置面に交差する方向に延在するように側面のそれぞれに形成された少なくとも1対のガイド溝7と、本体の長手方向の一方の端部に載置面に沿って貫通形成された保持孔8と、保持孔を貫通する態様で保持孔に移動可能に保持された棒状部材4とを備える。また、移植片調製器具のガイド溝に縫合針を通過させるステップ及び移植片調製装置の棒状に縫合糸を係止するステップを繰り返すことにより、移植片が調製される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植腱に縫合糸を縫合することにより移植片を調製するための移植片調製器具であって、
前記移植腱を載置するための載置面及び、前記載置面に交差し且つ前記移植腱の長手方向に延在する1対の側面を有する本体と
縫合針をガイドするべく、前記載置面に交差する方向に延在するように前記側面のそれぞれに形成された少なくとも1対のガイド溝と、
前記本体の前記長手方向の一方の端部に前記載置面に沿って貫通形成された保持孔と、
前記保持孔を貫通する態様で前記保持孔に移動可能に保持された棒状部材と、を備える移植片調製器具。
【請求項2】
前記少なくとも1対の前記ガイド溝が前記長手方向に離間して配置された複数対の前記ガイド溝を含む、請求項1に記載の移植片調製器具。
【請求項3】
前記ガイド溝は、前記側面の側の溝外端部と、前記側面から離反する底側に位置し、前記溝外端部の幅よりも広い幅を有する溝内端部と有する、請求項2に記載の移植片調製器具。
【請求項4】
前記本体の他方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第1固定部材を更に備え、
前記第1固定部材は、前記本体と一体に形成され、前記移植片を受容するべく前記長手方向に延在する受容部を画定する本体固定部と、前記載置面に交差する方向に移動可能に前記本体固定部に設けられ、前記受容部に配置された前記移植腱を前記本体固定部に押圧する押圧部材とを有する、請求項1又は3に記載の移植片調製器具。
【請求項5】
前記本体の前記一方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第2固定部材を更に備える、請求項4に記載の移植片調製器具。
【請求項6】
請求項1に記載の移植片調製器具を用いて移植腱に縫合糸を縫合することにより移植片を調製するための移植片調製方法であって、
前記載置面が向く方向を下とした場合に、
前記移植片調製器具を、前記移植片調製器具の前記長手方向と、前記移植腱の長手方向とが互いに平行になるように、前記移植腱の上方に配置する第1ステップと、
前記第1ステップの後、前記縫合糸が前記移植腱の下方を通過するように、前記縫合糸の一端に接続した第1縫合針及び前記縫合糸の他端に接続した第2縫合針を、対応する第1の側及び第2の側の前記ガイド溝及びその下方に配置された前記移植腱に上方から下方に通過させる第2ステップと、
前記棒状部材を、前記第2の側に突出するように配置する第3ステップと、
前記第3ステップの後、前記縫合糸の前記第1縫合針に接続された側の第1部分を前記移植腱の下方を通過させて前記棒状部材の前記第2の側に係止させる第4ステップと、
前記第4ステップの後、前記第1縫合針を、前記第1の側の前記ガイド溝及びその下方に配置された前記移植腱に上方から下方へ通過させると共に、前記縫合糸の前記第1部分の前記棒状部材に対する係止を解除すべく、前記棒状部材を前記第1の側に移動させる第5ステップと、
前記棒状部材を、前記第1の側に突出するように配置する第6ステップと、
前記第6ステップの後、前記縫合糸の前記第2縫合針に接続された側の第2部分を前記移植腱の下方を通過させて前記棒状部材の前記第1の側に係止させる第7ステップと、
前記第7ステップの後、前記第2縫合針を、前記第2の側の前記ガイド溝及びその下方に配置された前記移植腱に上方から下方へ通過させると共に、前記縫合糸の前記第2部分の前記棒状部材に対する係止を解除すべく、前記棒状部材を前記第2の側に移動させる第8ステップと、を有し、
前記第3ステップ~前記第5ステップ及び前記第6ステップ~前記第8ステップは、交互に繰り返される、移植片調製方法。
【請求項7】
前記少なくとも1対の前記ガイド溝が前記長手方向に離間して配置された複数対の前記ガイド溝を含み、
前記第5ステップは、前記第1縫合針を、前記第1の側の前記ガイド溝の、前記長手方向において隣接する前記ガイド溝に上方から下方へ通過させるステップを含み、
前記第8ステップは、前記第2縫合針を、前記第2の側の前記ガイド溝の、前記長手方向において隣接する前記ガイド溝に上方から下方へ通過させるステップを含む請求項6に記載の移植片調製方法。
【請求項8】
前記ガイド溝は、前記側面の側の溝外端部と、前記側面から離反する底側に位置し、前記溝外端部の幅よりも広い幅を有する溝内端部と有し、
前記第1縫合針及び前記第2縫合針は、前記溝内端部を上方から下方に通過する請求項7に記載の移植片調製器具。
【請求項9】
前記本体の他方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第1固定部材を更に備え、
前記第1固定部材は、前記本体と一体に形成され、前記移植片を受容するべく前記長手方向に延在する受容部を画定する本体固定部と、前記載置面に交差する方向に移動可能に前記本体固定部に設けられ、前記受容部に配置された前記移植腱を前記本体固定部に押圧する押圧部材とを有し、
前記第1ステップは、前記移植腱を前記本体固定部に押圧するステップを含む請求項7又は8に記載の移植片調製器具。
【請求項10】
前記本体の前記一方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第2固定部材を更に備え、
前記第1ステップは、前記移植腱と前記第2固定部材とを挟持するステップを更に含む請求項9に記載の移植片調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膝関節等の内部に移植片を移植して再建する靭帯再建手術等において、移植片の調製を行う際に用いられるKrackowステッチを形成するための移植片の調製器具及びその調整器具を用いた移植片の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腿骨と脛骨とは前十字靭帯及び後十字靭帯等の複数の靭帯により互いに結合されており、これにより、両骨は前後左右にずれず、関節が安定に保たれる。膝関節へ強度な衝撃が加わると、これら前十字靭帯又は後十字靭帯が断裂することがある。このような場合、靭帯を再建するべく、断裂した靭帯部位に移植されるための移植片を用いた靭帯再建手術が広く行われている。
【0003】
靭帯部位に移植される移植片は、患部と異なる部位から採取した靭帯又は腱(移植腱)の両端に、大腿骨及び脛骨の所定の位置に固定するための縫合糸(人工靭帯)を、縫合針等を用いて縫合することにより調製される。縫合糸の移植腱への縫合としてKrackowステッチが周知である(非特許文献1参照)。
【0004】
Krackowステッチの構造は煩雑であるため、Krackowステッチを用いて移植片を調整するには労力及び時間がかかる。他の構造のステッチにより移植片を調整するための技術として、特許文献1には、グラフト(移植片)を調製するためのグラフト調整ホルダが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-113555号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献2】[online]、令和5年1月17日検索、インターネット(URL:https://epomedicine.com/surgical-skills/krackow-suture-technique/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のグラフト調整ホルダを用いてKrackowステッチを生成することはできない。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、Krackowステッチの生成における作業者に掛かる負担を軽減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、移植腱(2)に縫合糸(20)を縫合することにより移植片を調製するための移植片調製器具(1)であって、前記移植腱を載置するための載置面(5)及び、前記載置面に交差し且つ前記移植腱の長手方向に延在する1対の側面(6)を有する本体(3)と、縫合針(21)をガイドするべく、前記載置面に交差する方向に延在するように前記側面のそれぞれに形成された少なくとも1対のガイド溝(7)と、前記本体の前記長手方向の一方の端部に前記載置面に沿って貫通形成された保持孔(8)と、前記保持孔を貫通する態様で前記保持孔に移動可能に保持された棒状部材(4)とを備える。
【0010】
この態様によれば、移動可能な棒状部材を利用しながらKrackowステッチを簡便に生成することができる。そのため、Krackowステッチの生成における作業者に掛かる負担が軽減される。
【0011】
上記の態様において、前記少なくとも1対の前記ガイド溝が前記長手方向に離間して配置された複数対の前記ガイド溝を含むとよい。
【0012】
この態様によれば、ガイド溝を移植腱の長手方向に移動させることなく、Krackowステッチを生成することができる。
【0013】
上記の態様において、前記ガイド溝は、前記側面の側の溝外端部(7A)と、前記側面から離反する底側に位置し、前記溝外端部の幅よりも広い幅を有する溝内端部(7B)とを有するとよい。
【0014】
この態様によれば、広い幅を有する溝内端部に沿って縫合針を移動させることにより、靭帯の所定の位置に縫合針を貫通させることができる。これにより、縫合針が通過した移植腱の前後方向に並ぶ複数の部分をつなぐ線、即ち縫合糸の通りが略直線となる。したがってKrackowステッチの意匠面が保たれる。
【0015】
上記の態様において、前記本体の他方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第1固定部材(10)を更に備え、前記第1固定部材は、前記本体と一体に形成され、前記移植片を受容するべく前記長手方向に延在する受容部を画定する本体固定部(11)と、前記載置面に交差する方向に移動可能に前記本体固定部に設けられ、前記受容部に配置された前記移植腱を前記本体固定部に押圧する押圧部材(12)とを有するとよい。
【0016】
この態様によれば、押圧部材によって移植腱が本体固定部、延いては移植片調製器具の本体における他方の端部に安定して固定される。
【0017】
上記の態様において、前記本体の前記一方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第2固定部材(17)を更に備えるとよい。
【0018】
この態様によれば、移植腱が第2固定部材によって移植片調製器具の本体における一方の端部に安定して固定される。移植腱が本体の両端部に安定して固定されることにより、移植腱の移植片調製器具に対する位置ずれが防止される。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明は、上記した移植片調製器具を用いて移植腱に縫合糸を縫合することにより移植片を調製するための移植片調製方法であって、前記載置面が向く方向を下とした場合に、前記移植片調製器具を、前記移植片調製器具の前記長手方向と、前記移植腱の長手方向とが互いに平行になるように、前記移植腱の上方に配置する第1ステップ(図2)と、前記第1ステップの後、前記縫合糸が前記移植腱の下方を通過するように、前記縫合糸の一端に接続した第1縫合針(20A)及び前記縫合糸の他端に接続した第2縫合針(20B)を、対応する第1の側(右側)及び第2の側(左側)の前記ガイド溝及びその下方に配置された前記移植腱に上方から下方に通過させる第2ステップ(図3(B))と、前記棒状部材を、前記第2の側に突出するように配置する第3ステップと、前記第3ステップの後、前記縫合糸の前記第1縫合針に接続された側の第1部分(20A)を前記移植腱の下方を通過させて前記棒状部材の前記第2の側に係止させる第4ステップと、前記第4ステップの後、前記第1縫合針を、前記第1の側の前記ガイド溝及びその下方に配置された前記移植腱に上方から下方へ通過させると共に、前記縫合糸の前記第1部分の前記棒状部材に対する係止を解除すべく、前記棒状部材を前記第1の側に移動させる第5ステップと、前記棒状部材を、前記第1の側に突出するように配置する第6ステップと、前記第6ステップの後、前記縫合糸の前記第2縫合針に接続された側の第2部分(20B)を前記移植腱の下方を通過させて前記棒状部材の前記第1の側に係止させる第7ステップと、前記第7ステップの後、前記第2縫合針を、前記第2の側の前記ガイド溝及びその下方に配置された前記移植腱に上方から下方へ通過させると共に、前記縫合糸の前記第2部分の前記棒状部材に対する係止を解除すべく、前記棒状部材を前記第2の側に移動させる第8ステップと、を有し、前記第3ステップ~前記第5ステップ及び前記第6ステップ~前記第8ステップは、交互に繰り返される。
【0020】
この態様によれば、所定の手順で縫合糸及び棒状部材を操作し、両縫合針をガイド溝に通すことにより、Krackowステッチが生成される。したがって、Krackowステッチの生成が簡便になり、作業者に掛かる負担が軽減される。
【0021】
上記の態様において、前記少なくとも1対の前記ガイド溝が前記長手方向に離間して配置された複数対の前記ガイド溝を含み、前記第5ステップは、前記第1縫合針を、前記第1の側の前記ガイド溝の、前記長手方向において隣接する前記ガイド溝に上方から下方へ通過させるステップを含み、前記第8ステップは、前記第2縫合針を、前記第2の側の前記ガイド溝の、前記長手方向において隣接する前記ガイド溝に上方から下方へ通過させるステップを含むとよい。
【0022】
この態様によれば、ガイド溝を移植腱の長手方向に移動させることなく、Krackowステッチが生成される。
【0023】
上記の態様において、前記ガイド溝は、前記側面の側の溝外端部と、前記側面から離反する底側に位置し、前記溝外端部の幅よりも広い幅を有する溝内端部と有し、前記第1縫合針及び前記第2縫合針は、前記溝内端部を上方から下方に通過するとよい。
【0024】
この態様によれば、縫合針が靭帯を通過した前後方向の部分を結ぶ線は、略直線となる。したがってKrackowステッチの意匠面が保たれる。
【0025】
上記の態様において、前記本体の他方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第1固定部材を更に備え、前記第1固定部材は、前記本体と一体に形成され、前記移植片を受容するべく前記長手方向に延在する受容部を画定する本体固定部と、前記載置面に交差する方向に移動可能に前記本体固定部に設けられ、前記受容部に配置された前記移植腱を前記本体固定部に押圧する押圧部材とを有し、前記第1ステップは、前記移植腱を前記本体固定部に押圧するステップを含むとよい。
【0026】
この態様によれば、押圧部材によって移植腱が本体固定部、延いては本体に安定して固定される。
【0027】
上記の態様において、前記本体の前記一方の前記端部において前記移植腱を前記本体に固定するための第2固定部材を更に備え、前記第1ステップは、前記移植腱と前記第2固定部材とを挟持するステップを更に含むとよい。
【0028】
この態様によれば、移植腱が本体により安定して固定される。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、Krackowステッチの生成における作業者に掛かる負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る移植片調製器具を上方から見た斜視図
図2】本発明に係る移植片調製器具に移植腱を固定した状態を示す斜視図
図3】本発明に係る移植片調製器具を用いたKrackowステッチを生成するステップを示す図
図4】Krackowステッチを示す図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。移植片調製器具1は、自家腱である移植腱2(靭帯、図2参照)に縫合針21(図3)を用いて縫合糸20(図3)を縫合することにより、Krackowステッチ(図4参照)を生成し、もって移植片を調製するための器具である。以下、移植腱2の長手方向を前後方向と規定して、左右及び、上下の各方向を定めて説明する。
【0032】
図1に示すように、移植片調製器具1は、前後方向に長い板状に形成され且つ、最も大きい面積を有する面が上下方向を向くように配置された本体3と、本体3の前後方向の一方の側に保持された棒状部材4とを有する。以下、棒状部材4が配置された側を前と規定する。
【0033】
本体3の下を向く面は、移植腱2を載置するための載置面5をなす。また、本体3の左右方向を向く面は、載置面5に交差し且つ、前後方向に延在する1対の側面6をなす。本体3の1対の側面6には、左右に対をなす複数対のガイド溝7が載置面5に交差する方向、即ち上下方向に延在するように設けられている。図示例では3対のガイド溝7が設けられている。各対のガイド溝7は前後方向に互いに整合する位置に配置され、複数対のガイド溝7は載置面5に沿う方向、即ち前後方向に離間して配置されている。各ガイド溝7は、縫合針21をガイドするための溝であり上下端において開放されている。言い換えれば、各ガイド溝7は本体3を上下方向に貫通し、載置面5と相反する面から載置面5に至るように形成されている。なお、他の実施形態では、左右1対のガイド溝7が1組であってもよい。
【0034】
各ガイド溝7は、対応する側面6の側の溝外端部7Aと、側面6から離反する底側の溝内端部7Bとを有する。溝外端部7Aは、平面視で矩形状をなし、溝内端部7Bは、平面視で略円形をなす。溝内端部7Bの幅、即ち前後方向の径(直径)は、縫合針21の太さよりもやや大きく形成され、溝外端部7Aの幅、即ち前後方向の寸法は、縫合針21の太さよりもやや小さく形成されている。したがって、溝内端部7Bの径は溝外端部7Aの幅よりも大きい。
【0035】
本体3の左右の側面6の前側には、左右方向に貫通する保持孔8が形成されている。棒状部材4は、保持孔8の左右方向の長さよりも長い円柱状をなし、保持孔8を貫通する様態で本体3に保持されている一方で、左右方向に移動可能に設けられている。
【0036】
図2に併せて示すように、本体3は、移植腱2を固定するための第1固定部材10を有する。第1固定部材10は、本体3と一体に形成された本体固定部11と、移植腱2を本体固定部11に押圧する押圧部材12とを有する。具体的には本体固定部11は、本体3の後端に接続され且つ、本体3の厚さと略等しい厚さを有する板状をなす本体固定部上部11Aを有する。本体固定部上部11Aは、本体固定部上部11Aの内面(下面)と本体3の載置面5とが同一平面上に配置されように、本体3と一体に形成されている。本体固定部上部11Aの左右方向の幅は、本体3の左右方向の幅よりも広く設定されている。
【0037】
また本体固定部11は、本体固定部上部11Aの右縁から下方に延在した板状をなす本体固定部中部13と、本体固定部中部13の下縁から左方に延在した板状をなす本体固定部下部11Bとを有する。
【0038】
第1固定部材10は、本体固定部上部11A、本体固定部中部13及び、本体固定部下部11Bのそれぞれの内面によって溝形状に画定された受容部15を有する。これにより受容部15は、前後方向に貫通し且つ、左方が開かれた様態に形成されている。なお、他の実施形態では、受容部15は第1固定部材10を前後方向に貫通する孔形状に形成されてもよい。この場合、本体固定部中部13は、本体固定部上部11Aの左右の両縁から上方に延在した1対の板状であって、本体固定部下部11Bは、1対の本体固定部中部13の上縁同士を連結するように延在してよい。
【0039】
本体固定部下部11Bには、上下方向に貫通するねじ孔16が形成されている。押圧部材12は、蝶ボルトであって、その取手部分をなす基部が本体固定部下部11Bの上方に配置されるようにねじ孔16に螺合している。押圧部材12が一方の方向に回転(右回転)すると、押圧部材12の先端は本体固定部上部11Aに近づくように、即ち上方に移動する。押圧部材12が他方の方向に回転(左回転)すると、押圧部材12の先端は本体固定部上部11Aから遠ざかるように、即ち下方に移動する。
【0040】
押圧部材12の先端が本体固定部上部11Aに最も近づいたときの、押圧部材12の先端面から固定部下部の内面に至る上下方向の間隔の幅は、移植腱2の上下方向の幅よりも小さい。
【0041】
本体3は、移植腱2を固定するための第2固定部材17を更に有する。第2固定部材17は板状をなし、平面視で三角形に形成されている。第2固定部材17は、その上面が本体3の載置面5と同一平面上に配置されるように且つ、本体3の前端から前方に延在するように、本体3と一体に形成されている。第2固定部材17の幅は、本体3側の基端部において本体3の幅よりも大きく、前方に向けて漸減している。保持孔8は第2固定部材17の基端部に形成されている。
【0042】
移植片調製器具1は以上のように構成されている。次に移植片調製器具1を用いて、移植腱2にKrackowステッチを生成するための操作について説明する。以下の操作は、作業者によって行われる。
【0043】
図2に示すように、まず移植腱2を移植片調製器具1に固定する。具体的には、移植片調製器具1を、載置面5が下方を向くように配置する。その後移植腱2を、その長手方向が移植片調製器具1の載置面5の長手方向(前後方向)と平行になるように、受容部15に貫通させ、移植腱2を載置面5の下方に配置する。このとき、移植腱2の前端が、第2固定部材17の先端よりもやや前方に配置されている。
【0044】
次に第1固定部材10の押圧部材12を右回転させることにより、移植腱2の後部を本体固定部上部11Aの内面と押圧部材12の先端面とによって挟持する。また、移植腱2の前端部と第2固定部材17とを、例えば鉗子18を用いて挟持する。或いは、作業者は指で移植腱2の前端部と第2固定部材17とを挟持してもよい。
【0045】
以下、図3を用いてKrackowステッチを生成する手順を説明する。説明を簡潔にするため、図3では、紙面の左を単に左と称し、紙面の右を単に右と称する。また、図を簡略化するため、移植腱2が第1固定部材10と第2固定部材17とのそれぞれに固定されている態様を省略する。
【0046】
移植腱2にKrackowステッチを生成するため、本操作では、本発明の移植片調製器具1に加え、縫合糸20及び縫合針21を更に用いる。縫合糸20は人工靭帯であってよい。本実施形態では縫合針21は直針状をなしているが、湾曲した鉤状をなしてもよい。
【0047】
縫合針21は、縫合糸20の一端に接続された第1縫合針21Aと、縫合糸20の他端に接続された第2縫合針21Bとを有する。以下、縫合糸20の、第1縫合針21Aが接続された側の部分を第1部分20Aと称し、縫合糸20の、第2縫合針21Bが接続された側の部分は第2部分20Bと称する。
【0048】
移植腱2を移植片調製器具1に固定した後、縫合糸20が移植腱2の下方を通過するように、各縫合針21を対応するガイド溝7の溝内端部7Bに通過させる。具体的には、まず図3(A)に示すように、縫合糸20を、左右方向に延在するように、移植腱2の下方に配置する。具体的には、第1縫合針21Aを、左右の一方の側をなす第1の側の移植腱2の外方に配置する。第2縫合針21Bは、左右の他方の側をなす第2の側の移植腱2の外方に配置する。本実施形態では、第1の側が右側に対応し、第2の側が左側に対応している。
【0049】
次に図3(B)に示すように、各縫合針21を、左右の3対のガイド溝7のうち、最も後方にあるガイド溝7の対応する溝内端部7B及びその下方にある移植腱2に上方から下方へ通過させる。即ち第1縫合針21Aを、右側のガイド溝7のうち、最も後方にあるガイド溝7の溝内端部7B及びその下方にある移植腱2に上方から下方へ通過される。また第2縫合針21Bを、左側のガイド溝7のうち、最も後方にあるガイド溝7の溝内端部7B及びその下方にある移植腱2に上方から下方へ通過される。このとき、各縫合針21は、平面視で移植腱2に整合する縫合糸20の部分よりも後方を通過させる。
【0050】
なお本実施形態では説明を簡略化するため、図3(A)に示すように、各縫合針21A、21Bが移植腱2の対応する左右外方に配置する操作が含まれているが、この操作を省略してよい。この場合、第1縫合針21Aを右側のガイド溝7の溝内端部7Bを通過させた後、第2縫合針21Bを移植腱2の下方を通過させた後、左側のガイド溝7の溝内端部7Bを通過させるとよい。
【0051】
以下の操作では、Krackowステッチの右側を形成するためのKrackowステッチ右側形成ステップと、Krackowステッチの左側を形成するためのKrackowステッチ左側形成ステップとを繰り返すこととなる。そこで、重複する操作においては詳細な説明を省略する。
【0052】
Krackowステッチ右側形成ステップについて説明する。本体3に受容された棒状部材4を、左側に突出するように配置する。具体的には、右側の棒状部材4を右方から左方へ押圧することにより、棒状部材4を右方から左方へ移動させる。棒状部材4を、棒状部材4の右端の面が本体3の右側面と略同一平面上に配置される程度まで左側に突出させることが好ましいが、その限りではない。また、既に棒状部材4が左側に十分に突出するように配置されていれば、この操作を省略してもよい。
【0053】
図3(C)に示すように、棒状部材4を左側に突出させた後、縫合糸20の第1部分20Aを棒状部材4の左側に係止させる。具体的には、第1部分20Aを、棒状部材4の左側に向かって、移植腱2の下方を通過させる。その後、第1部分20Aを、棒状部材4の左側の上方を後方から前方に向けて通過させた後、棒状部材4の左側の下方を前方から後方に向けて通過させる。これにより、第1部分20Aが棒状部材4の左側の前部に引掛かることとなる。
【0054】
縫合糸20の第1部分20Aを棒状部材4の左側に係止させた後、第1縫合針21Aを、右側のガイド溝7及びその下方に配置された移植腱2に上方から下方へ通過させると共に、第1縫合針21Aの第1部分20Aの棒状部材4に対する係止を解除すべく、棒状部材4を右方に移動させる。第1縫合針21Aを通過させるべきガイド溝7は、前に第1縫合針21Aが通過したガイド溝7の前に隣接したガイド溝7である。
【0055】
第1縫合針21Aをガイド溝7及びその下方の移植腱2に通過させた後、第1部分20Aが棒状部材4の左側の部分に対して撓みなく係止されたとき、棒状部材4を右方に移動させることが好ましいが、この限りではない。また、第1部分20Aと棒状部材4の左側の部分との係止を解除すべく、係止された第1部分20Aを棒状部材4の左方に移動させてもよい。
【0056】
なお、左右1対のガイド溝7が1組である場合、第1固定部材10及び第2固定部材17のそれぞれと、移植腱2との挟持を解除した後、移植片調製器具1を前方に移動させた後更に、第1固定部材10及び第2固定部材17のそれぞれと、移植腱2とを再度挟持するとよい。これにより、ガイド溝7は、第1縫合針21Aが通過した移植腱2の部分から前方に配置される。
【0057】
Krackowステッチ左側形成ステップについて説明する。本体3に受容された棒状部材4を、上記した方法により、右側に突出するように配置する。既に棒状部材4の右側が十分に突出するように配置されている場合、この操作を省略してもよい。
【0058】
図3(D)に示すように、棒状部材4を右側に突出させた後、縫合糸20の第2部分20Bを棒状部材4の右側に係止させる。具体的には、第2部分20Bを、棒状部材4の右側に向かって、移植腱2の下方を通過させる。その後、第2部分20Bを、棒状部材4の右側の上方を後方から前方に向けて通過させた後、棒状部材4の右側の下方を前方から後方に向けて通過させる。これにより、第2部分20Bが棒状部材4の右側の前部に引掛かることとなる。
【0059】
縫合糸20の第2部分20Bを棒状部材4の右側に係止させた後、第2縫合針21Bを、左側のガイド溝7及びその下方に配置された移植腱2に上方から下方へ通過させると共に、第2縫合針21Bの第2部分20Bの棒状部材4に対する係止を解除すべく、棒状部材4を左方に移動させる。第2縫合針21Bを通過させるべきガイド溝7は、前に第2縫合針21Bが通過したガイド溝7の前に隣接したガイド溝7である。
【0060】
第2縫合針21Bをガイド溝7及びその下方の移植腱2に通過させた後、第2部分20Bが棒状部材4の右側の部分に対して撓みなく係止されたとき、棒状部材4を左方に移動させることが好ましいが、この限りではない。また、第2部分20Bと棒状部材4の左側の部分との係止を解除すべく、係止された第2部分20Bを棒状部材4の左方に移動させてもよい。
【0061】
図3(E)~図3(G)に示すように、Krackowステッチ右側生成ステップと、Krackowステッチ左側生成ステップとを繰り返すことにより、図4に示すように、Krackowステッチが形成される。
【0062】
Krackowステッチ右側形成ステップと、Krackowステッチ左側形成ステップとは、どちらか一方のステップを完了した後、他方のステップを開始してよいが、交互に繰り返されるとよい。これにより、Krackowステッチ右側(左側)形成ステップにおいて、縫合糸20の第2部分20B(第1部分20A)と棒状部材4との係止を解除する操作において、棒状部材4は、右側(左側)に突出するように配置される。したがって、Krackowステッチ左側(右側)形成ステップにおける、棒状部材4を右側(左側)に突出するように配置する操作を省略することができ、効率的にKrackowステッチを生成することができる。
【0063】
図1及び図3に示すように、移植片調製器具1は、前後方向に離間して配置された左右に対をなす3対(複数対)のガイド溝7を有する本体3と、左右方向に移動可能であって且つ、本体3の前側で保持された棒状部材4とを備える。作業者は、棒状部材4を左右方向に移動させる操作及び、ガイド溝7に縫合針21を通過させる操作を行うことにより、Krackowステッチを簡便に生成することができる。したがって作業者に掛かる負担が軽減される。また、左右1対のガイド溝7が3対(複数対)設けられていることにより、ガイド溝7を各縫合針21が通過した移植腱2の部分から前方に配置するべく、移植片調製器具1を前方に移動させる操作が不要となる。したがって作業者に掛かる負担がより軽減される。
【0064】
各ガイド溝7は、対応する側面6側の溝外端部7Aと、側面6から離反する底側に位置し、溝外端部7Aの幅よりも広い幅を有する溝内端部7Bとを有する。作業者は、各縫合針21を対応する溝内端部7Bに通過させる。縫合糸20は溝外端部7Aを通過できる一方、縫合針21の溝外端部7Aの通過が抑制される。これにより図4に示すように、縫合針21が通過した移植腱2の前後方向に並ぶ複数の部分をつなぐ線、即ち縫合糸20の通りが略直線となる。したがってKrackowステッチの意匠面が保たれる。
【0065】
図1図3に示すように、本体3の後側には、第1固定部材10が設けられている。第1固定部材10は、押圧部材12をなす押圧部材12と、本体固定部下部11Bに設けられ且つ、押圧部材12と螺合するねじ孔16とを有する。作業者は、押圧部材12を右回転させて、移植腱2の後部を本体固定部上部11Aの内面と押圧部材12の先端面とによって挟持する。これにより、移植腱2が移植片調製器具1も後部に安定して固定される。また、作業者の手で挟持する必要がないため、効率的にKrackowステッチが生成される。
【0066】
本体3の前側には、本体3の前端から前方に延在する第2固定部材17が設けられている。作業者は移植腱2の前端部と第2固定部材17とを、例えば鉗子18を用いて挟持する。第1固定部材10と、第2固定部材17とを組み合わせることにより、移植腱2の移植片調製器具1に対する位置ずれが防止される。
【0067】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、溝内端部7Bは平面視で略円状に形成されているが、平面視で矩形状に形成されてもよい。また、第2固定部材17は三角形状に形成されているが、矩形状に形成されてもよい。更に第2固定部材17は、第1固定部材10と同等の構成をなしてもよい。また、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 :移植片調製器具
2 :移植腱
3 :本体
4 :棒状部材
5 :載置面
6 :側面
7 :ガイド溝
7A :溝外端部
7B :溝内端部
8 :保持孔
10 :第1固定部材
11 :本体固定部
12 :押圧部材
17 :第2固定部材
20 :縫合糸
20A :第1部分
20B :第2部分
21 :縫合針
21A :第1縫合針
21B :第2縫合針
図1
図2
図3
図4