(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109315
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】水分計測システム及び水分計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/09 20180101AFI20240806BHJP
【FI】
G01N23/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014040
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】松本 聡碩
(72)【発明者】
【氏名】岡本 道孝
(72)【発明者】
【氏名】福島 陽
(72)【発明者】
【氏名】岡本 遥河
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA04
2G001BA14
2G001CA04
2G001JA09
2G001KA01
2G001NA01
(57)【要約】
【課題】体積含水率を効率よく且つ高精度に計測できる水分計測システム及び水分計測方法を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る水分計測システムは、盛土に対向した状態で盛土の体積含水率を計測する散乱型RI水分計50を備えた水分計測システムである。散乱型RI水分計50は、盛土に速中性子線を放出する線源51と、速中性子線の放出に伴って盛土の水素原子から反射する熱中性子線を検出する複数の検出管52とを備える。線源51は、複数の検出管52と盛土との間に配置され、複数の検出管52は、直接対向した状態で互いに近接している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛土に対向した状態で前記盛土の体積含水率を計測する散乱型RI水分計を備えた水分計測システムであって、
前記散乱型RI水分計は、
前記盛土に速中性子線を放出する線源と、
前記速中性子線の放出に伴って前記盛土の水素原子から反射する熱中性子線を検出する複数の検出管とを備え、
前記線源は、複数の前記検出管と前記盛土との間に配置され、
複数の前記検出管は、直接対向した状態で互いに近接している、
水分計測システム。
【請求項2】
前記線源が配置された底面に固定されており、前記検出管を前記底面から離隔させた状態で前記検出管を保持する保持具を備える、
請求項1に記載の水分計測システム。
【請求項3】
平面視において、複数の前記検出管のそれぞれを保持する前記保持具は、前記検出管よりも複数の前記検出管の並び方向に突出しており、
複数の前記検出管は、前記並び方向に沿って並ぶ第1検出管及び第2検出管を含み、
平面視における前記第1検出管の前記保持具の下端の位置は、平面視における前記第2検出管の前記保持具の上端の位置以下である、
請求項2に記載の水分計測システム。
【請求項4】
各前記検出管の長さが第1長さである第1の前記散乱型RI水分計と、
各前記検出管の長さが前記第1長さよりも長い第2長さである第2の前記散乱型RI水分計とを備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水分計測システム。
【請求項5】
前記盛土の盛立面に対する各前記検出管の中心の高さが50mm以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水分計測システム。
【請求項6】
複数の前記検出管の並び方向に沿って互いに隣接する複数の前記散乱型RI水分計を備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水分計測システム。
【請求項7】
前記盛土に対向した状態で前記盛土の比抵抗を計測する比抵抗計測装置を更に備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水分計測システム。
【請求項8】
盛土に対向した状態で前記盛土の体積含水率を計測する複数の散乱型RI水分計を用いた水分計測方法であって、
前記散乱型RI水分計の検出管の長さが第1長さである第1の前記散乱型RI水分計、及び前記散乱型RI水分計の検出管の長さが第1長さよりも長い第2長さである第2の前記散乱型RI水分計のいずれかを選択する工程と、
選択した前記散乱型RI水分計の線源が前記盛土に速中性子線を放出する工程と、
前記速中性子線の放出に伴って前記盛土の水素原子から反射する熱中性子線を選択した前記散乱型RI水分計の検出管が検出する工程と、
を備える、
水分計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体積含水率を計測する水分計測システム及び水分計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、放射線源となる中性子線源から放射された中性子を用いたコンクリート構造物の品質検査方法が記載されている。この品質検査方法では、放射性同位体を用いた中性子線源と、中性子線源に隣接して配置される検出管とを備えた装置が用いられる。検出管は、熱中性子を検出する。中性子線源は、一対の検出管の間に配置されている。
【0003】
品質検査方法では、中性子線源と検出管を被検出体であるコンクリート片の表面に押し当てる。中性子線源から放射された速中性子がコンクリート片の内部に存在する水素原子に衝突してエネルギーを減じ、それに伴って当該水素原子から反射した熱中性子を検出管が検出する。この装置では、検出管が検出した熱中性子の数をカウントし、カウントされた数をデータロガーが集計してコンクリート片内の空隙を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、盛土の締固めの品質を把握するために盛土の体積含水率を計測する散乱型RI水分計が用いられることがある。散乱型RI水分計を用いる場合には、従来の透過型RI水分計のように線源棒を盛土に挿入する必要がないので、盛土の盛立面に散乱型RI水分計を置くことによって容易に体積含水率を計測することができる。
【0006】
しかしながら、散乱型RI水分計は、盛立面上に静置した状態で計測を行う仕様とされており、一地点における体積含水率の計測に数十秒から1分程度を要することもある。よって、盛土の体積含水率の計測を効率よく行うことができないという問題がある。一方、散乱型RI水分計を移動させながら体積含水率の計測を行う場合、体積含水率の計測の精度が低下するという問題が生じうる。従って、体積含水率の計測を効率よく且つ高精度に行えないという問題がある。
【0007】
本開示は、体積含水率を効率よく且つ高精度に計測できる水分計測システム及び水分計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る水分計測システムは、(1)盛土に対向した状態で盛土の体積含水率を計測する散乱型RI水分計を備えた水分計測システムである。散乱型RI水分計は、盛土に速中性子線を放出する線源と、速中性子線の放出に伴って盛土の水素原子から反射する熱中性子線を検出する複数の検出管とを備える。線源は、複数の検出管と盛土との間に配置され、複数の検出管は、直接対向した状態で互いに近接している。
【0009】
この水分計測システムは散乱型RI水分計を備え、散乱型RI水分計は線源と複数の検出管とを備える。線源は盛土に速中性子線を放出し、速中性子線の放出に伴って盛土の水素原子から反射する熱中性子線が複数の検出管によって検出される。このように複数の検出管が熱中性子線を検出することにより、散乱型RI水分計を移動させながら計測を行う場合であっても、体積含水率の計測の精度の低下を抑制できる。この水分計測システムの散乱型RI水分計では、複数の検出管が直接対向した状態で互いに近接している。すなわち、2つの検出管が互いに直接対向しており、2つの検出管の間に物がなく、更に、2つの検出管が互いに近接している。従って、散乱型RI水分計を移動させながら計測を行っても体積含水率の計測をより効率的に且つ高精度に行うことができる。
【0010】
(2)上記(1)において、水分計測システムは、線源が配置された底面に固定されており、検出管を底面から離隔させた状態で検出管を保持する保持具を備えてもよい。この場合、検出管は底面から離隔した状態で保持具によって保持されるので、検出管を安定して配置できる。
【0011】
(3)上記(2)では、平面視において、複数の検出管のそれぞれを保持する保持具は、検出管よりも複数の検出管の並び方向に突出していてもよい。複数の検出管は、並び方向に沿って並ぶ第1検出管及び第2検出管を含み、平面視における第1検出管の保持具の下端の位置は、平面視における第2検出管の保持具の上端の位置以下であってもよい。この場合、第1検出管を第2検出管により接近させることができるので、更なる計測精度の向上に寄与する。
【0012】
(4)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、水分計測システムは、各検出管の長さが第1長さである第1の散乱型RI水分計と、各検出管の長さが第1長さよりも長い第2長さである第2の散乱型RI水分計とを備えてもよい。ところで、検出管は、その長さが長い方が体積含水率の計測精度が高い。よって、上記のように第1長さの検出管を有する第1の散乱型RI水分計と、第1長さより長い第2長さの検出管を有する第2の散乱型水分計とを備えることにより、盛土の形状又は性状に応じて散乱型RI水分計を使い分けることができる。
【0013】
(5)上記(1)~(4)のいずれかにおいて、盛土の盛立面に対する各検出管の中心の高さが50mm以下であってもよい。この場合、盛立面に各検出管を接近させることができるので、体積含水率の計測を一層高精度に行うことができる。
【0014】
(6)上記(1)~(5)のいずれかにおいて、水分計測システムは、複数の検出管の並び方向に沿って互いに隣接する複数の散乱型RI水分計を備えてもよい。この場合、複数の散乱型RI水分計の複数の検出管のそれぞれが熱中性子線を検出するので、体積含水率の計測精度を更に向上させることができる。
【0015】
(7)上記(1)~(6)のいずれかにおいて、水分計測システムは、盛土に対向した状態で盛土の比抵抗を計測する比抵抗計測装置を更に備えてもよい。この場合、比抵抗と散乱型RI水分計による計測結果を組み合わせることにより、盛土の乾燥密度、及び盛土の含水比の少なくともいずれかを算出することができる。このように、比抵抗と散乱型RI水分計による計測結果から乾燥密度及び含水比の少なくともいずれかを算出することにより、盛土の乾燥密度及び含水比を取得できる。
【0016】
本開示に係る水分計測方法は、(8)盛土に対向した状態で盛土の体積含水率を計測する複数の散乱型RI水分計を用いた水分計測方法である。水分計測方法は、散乱型RI水分計の検出管の長さが第1長さである第1の散乱型RI水分計、及び散乱型RI水分計の検出管の長さが第1長さよりも長い第2長さである第2の散乱型RI水分計のいずれかを選択する工程と、選択した散乱型RI水分計の線源が盛土に速中性子線を放出する工程と、速中性子線の放出に伴って盛土の水素原子から反射する熱中性子線を選択した散乱型RI水分計の検出管が検出する工程と、を備える。
【0017】
この水分計測方法では、散乱型RI水分計が用いられ、散乱型RI水分計は線源と複数の検出管とを備える。線源は盛土に速中性子線を放出し、速中性子線の放出に伴って盛土の水素原子から反射する熱中性子線が検出管によって検出される。この水分計測方法では、検出管の長さが第1長さである第1の散乱型RI水分計と、検出管の長さが第1長さよりも長い第2長さである第2の散乱型RI水分計のいずれかが選択される。第1長さの検出管を有する第1の散乱型RI水分計と、第1長さより長い第2長さの検出管を有する第2の散乱型水分計のいずれかが選択されることにより、盛土の形状又は性状に応じて散乱型RI水分計を使い分けることができるので、体積含水率を効率よく且つ高精度に計測することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、体積含水率を効率よく且つ高精度に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る水分計測システムの具体例を示す斜視図である。
【
図2】
図1の水分計測システムの比抵抗計測装置を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図2の比抵抗計測装置の電極の構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図2の比抵抗計測装置の電極、電極保持部及びバネ機構を示す斜視図である。
【
図5】
図1の水分計測システムの散乱型RI水分計を模式的に示す縦断面図である。
【
図6】実施形態に係る水分計測方法の工程の例を示すフローチャートである。
【
図7】(a)は、実施形態に係る水分計測システムの散乱型RI水分計の平面図である。(b)は、
図7(a)のA-A線断面図である。
【
図8】
図7(a)の散乱型RI水分計の検出管及び保持具を示す平面図である。
【
図9】(a)は、
図8の検出管及び保持具を模式的に示す平面図である。(b)は、検出管及び保持具の配置の変形例を模式的に示す平面図である。
【
図10】検出管の本数と壊変揺動誤差との関係の例を示すグラフである。
【
図11】(a)は、検出管の数が1本である場合における計測位置と体積含水率の計測結果との関係の例を示すグラフである。(b)は、検出管の数が2本である場合における計測位置と体積含水率の計測結果との関係の例を示すグラフである。
【
図12】(a)は、変形例に係る水分計測システムの散乱型RI水分計を示す断面図である。(b)は、
図12(a)の散乱型RI水分計の各検出管が熱中性子線を検出している状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る水分計測システム及び水分計測方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載にものに限定されない。
【0021】
本実施形態に係る水分計測システム1は、例えば、ダムが構築される現場Aにおいて用いられる。現場Aでは、一例として、ダンプトラックによって土砂が搬送され、ブルドーザーによって搬送された土砂が敷き均され、敷き均された土砂が振動ローラによって締め固められる。振動ローラは、現場Aにおいて複数回往復しながら土砂の締固めを行い、現場Aにおける盛土Bの転圧を行う。
【0022】
水分計測システム1は、振動ローラ等の締固め機械によって締め固められた後の転圧面である盛立面Sを移動しながら現場Aの盛土B(土)の評価を行う盛土評価システムである。盛土評価システムは、空気間隙率評価システム、及び水分評価システムの総称である。盛土評価システムは、盛土Bの空気間隙率と体積含水率とから乾燥密度、及び盛土Bの含水比を算出する盛土評価項目算出部を備えるシステムである。盛土評価システムは、比抵抗から算出される空気間隙率と、散乱型RI水分計から得られる体積含水率とが組み合わされることによって求められる乾燥密度及び含水比から盛土Bを評価する。上記の空気間隙率評価システムは、盛土Bの比抵抗を計測する比抵抗計測装置と、盛土Bの比抵抗から盛土Bの空気間隙率を算出する空気間隙率算出部とを備えるシステムである。上記の水分評価システムは、盛土Bの体積含水率を計測する体積含水率計測装置を備えるシステムである。
【0023】
盛立面Sは、締固めによって形成された施工面である。本実施形態において、例えば、水分計測システム1は、盛土Bの乾燥密度、及び盛土Bの含水比の少なくともいずれかを盛土Bの評価項目として算出する。例えば、水分計測システム1は、盛土Bの乾燥密度、及び盛土Bの含水比を計測することによって盛土Bを評価し、例えば、締固め機械による締固めの効果を計測する。盛土Bは、例えば、CSG、RCD又は放射性処分事業の覆土によって構成されたものであってもよい。
【0024】
例えば、水分計測システム1は、盛土Bの比抵抗を計測する比抵抗計測装置10と、盛土Bの体積含水率を計測する体積含水率計測装置15とを備える。更に、水分計測システム1は、盛土Bの比抵抗から盛土Bの空気間隙率を算出する空気間隙率算出部31と、盛土Bの乾燥密度、及び盛土Bの含水比を算出する盛土評価項目算出部32とを備える。
【0025】
例えば、水分計測システム1は、比抵抗計測装置10及び体積含水率計測装置15を互いに接続する第1線状体2と、比抵抗計測装置10から延び出す第2線状体3とを備える。一例として、第1線状体2及び第2線状体3のそれぞれは紐状体である。例えば、水分計測システム1は、比抵抗計測装置10から見て体積含水率計測装置15とは反対側に設けられる牽引部30を備える。
【0026】
牽引部30は、例えば、複数の車輪30bと、複数の車輪30bの上部同士を連結する台部30cと、台部30cから上方に延びる取手部30dとを有する。台部30cは比抵抗計測装置10に連結されており、複数の車輪30bが盛立面Sに載せられた状態で取手部30dを手で持って盛立面Sで複数の車輪30bを転動させることにより、牽引部30、比抵抗計測装置10及び体積含水率計測装置15を盛立面S上で移動させることができる。一例として、空気間隙率算出部31及び盛土評価項目算出部32は、台部30cに設けられる。しかしながら、空気間隙率算出部31及び盛土評価項目算出部32の場所は特に限定されない。
【0027】
図2は、比抵抗計測装置10を示す平面図である。比抵抗計測装置10は、例えば、可搬式の電気抵抗計測装置である。すなわち、比抵抗計測装置10は、持ち運びが可能な装置である。比抵抗計測装置10は、締固め機械によって締め固められた後の盛立面Sを移動しながら現場Aの盛土Bの比抵抗を計測する。
【0028】
比抵抗計測装置10はキャパシタ電極である4つの電極20を備える。例えば、比抵抗計測装置10における電極20の配置は、ダイポール・ダイポール法に準拠している。4つの電極20は、一対の電位電極21、及び一対の電流電極22である。比抵抗計測装置10は、4電極法を用いて盛土Bの比抵抗を計測する。電位電極21及び電流電極22のそれぞれは、盛立面Sに近接するように配置される。
【0029】
一対の電位電極21、及び一対の電流電極22は、比抵抗計測装置10の移動方向である第1方向D1に沿って並ぶように配置されている。一例として、比抵抗計測装置10の移動方向の前側に一対の電位電極21が配置されると共に当該移動方向の後側に一対の電流電極22が配置される。例えば、一対の電位電極21、及び一対の電流電極22は、ダイポール・ダイポール配置とされている。しかしながら、一対の電位電極21、及び一対の電流電極22の配置は、ダイポール・ダイポール配置以外の配置とされていてもよく、特に限定されない。
【0030】
図3は、比抵抗計測装置10における電極20の構成の模式図である。
図3に示されるように、電位電極21及び電流電極22は、例えば、盛立面Sの上に引き摺られる。電位電極21及び電流電極22のそれぞれは、盛立面Sに対向する誘電体23と、誘電体23に電気的に接続された導電体24を有する。誘電体23は、例えば、合成樹脂によって構成された板状部材である。
【0031】
誘電体23は、盛立面Sに接触しつつ盛立面Sの上で引き摺られるため、盛立面Sへの当接に耐えられる素材で構成されることが好ましい。誘電体23は、例えば、高密度ポリエチレン、硬質ポリウレタン、及びABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂の少なくともいずれかを含む。
【0032】
導電体24は、導電性を有する金属を含む平板である。比抵抗計測装置10は、更に、交流電源25及び電位計26を有する。交流電源25は、各電流電極22の導電体24に電気的に接続されている。電位計26は、各電位電極21の導電体24に電気的に接続されている。
【0033】
交流電源25は、一対の電流電極22の間に交流電圧を印加する。これにより、盛土Bに交流電流が流れる。例えば、盛立面Sに接触していない一対の電流電極22の導電体24に電圧が印加されると、導電体24と盛土Bとの間に電荷が溜まり電流電極22はキャパシタとなる。キャパシタとなった電流電極22が充電又は放電しきる前に、交流電源25が電圧の極性を切り替えれば、抵抗値を有する盛土Bに連続的に交流電流が流れる。電位計26は、電流電極22と同様にキャパシタとなった一対の電位電極21の間の電位を計測する。
【0034】
図4は、比抵抗計測装置10の一部を拡大した斜視図である。
図2及び
図4に示されるように、比抵抗計測装置10は、前述した電極20と、第1方向D1、及び盛立面Sに沿った方向であって且つ第1方向D1に交差する第2方向D2に延在する保持体41と、保持体41を盛立面Sから離隔させた状態で保持体41を走行可能に支持する複数のキャスタ42とを有する。第2方向D2は、例えば、第1方向D1に直交する方向である。
【0035】
電極20は、保持体41の下方に位置する。保持体41は、第1方向D1及び第2方向D2に延在する板状を呈する。この場合、保持体41は、第1方向D1及び第2方向D2の双方に交差する第3方向D3に厚みを有する。例えば、第3方向D3は鉛直方向である。一例として、保持体41は、矩形板状を呈する。キャスタ42は、例えば、平面視における保持体41の四隅のそれぞれに設けられている。比抵抗計測装置10は、例えば、保持体41を持ち上げるときに把持される取手部44を備える。
【0036】
取手部44は、例えば、保持体41の上面41bに固定されている。各取手部44は第1方向D1に延在している。保持体41は、例えば、2つの取手部44を有し、2つの取手部44は第2方向D2に並んでいる。よって、盛土Bの品質計測の作業を行う作業者は、両手で取手部44を持つことによって保持体41を容易に持ち上げることができる。
【0037】
例えば、複数の電極20のそれぞれは平面視において第1方向D1に沿って並ぶように配置されている。比抵抗計測装置10は、例えば、2台の保持体41と、2台の保持体41の間で第1方向D1に延びる線状体48とを有する。線状体48は、例えば、保持体41に対して着脱可能とされている。この線状体48を備える場合、2台の保持体41の一方(例えば電位電極21を保持する保持体41)を第1方向D1に牽引するときに、2台の保持体41の一方及び他方を第1方向D1に移動させることができる。また、互いに長さが異なる複数種類の線状体48を用意しておき、複数種類の線状体48から選択した線状体48を取り付けることにより、電位電極21と電流電極22との距離Xを変更することができる。距離Xは、電位電極21の中心から電流電極22の中心までの距離(中心間距離)を示している。
【0038】
比抵抗計測装置10は、一対の電位電極21、及び一対の電流電極22の間隔を変更する可変機構45を備える。比抵抗計測装置10は、例えば、複数の可変機構45を有する。複数の可変機構45のそれぞれは、電位電極21と電流電極22の距離X、及び一対の電位電極21(又は一対の電流電極22)の間隔Yを変更する。間隔Yは、一方の電位電極21(又は一方の電流電極22)の中心から他方の電位電極21(又は他方の電流電極22)の中心までの距離(中心間距離)を示している。
【0039】
可変機構45は、例えば、保持体41を貫通するスリット45bと、スリット45bに挿通されると共にスリット45bに沿って移動可能とされた棒状部45cと、スリット45bの上部で棒状部45cを止める止め部45dとを有する。複数のスリット45bのそれぞれは、例えば、第1方向D1に延在している。電位電極21及び電流電極22のそれぞれは棒状部45cの下方に設けられている。よって、スリット45bに沿って棒状部45cを移動させることによって距離X及び間隔Yを変更することが可能である。なお、可変機構の構成は、上記の可変機構45に限られない。
【0040】
以上、比抵抗計測装置10では、電位電極21と電流電極22との距離X、及び一対の電位電極21間(一対の電流電極22間)の間隔Yを変更可能とされている。一対の電位電極21、及び一対の電流電極22によって比抵抗が計測されるときには、盛土Bにおける計測深度が距離X及び間隔Yに依存する。従って、距離X及び間隔Yが可変とされていることによって、盛土Bにおける比抵抗の計測の深度を可変とすることが可能となる。よって、比抵抗の計測の深度を容易に変更できるので、盛土Bの品質評価を一層効率よく且つ高精度に行うことができる。
【0041】
保持体41は、一対の電位電極21、及び一対の電流電極22のそれぞれを盛土Bに向けた状態で保持する複数の電極保持部43を備える。例えば、電極保持部43は、棒状部45cの下端に接続された板状部43cと、板状部43cに第3方向D3に挿通された棒状部43dと、棒状部43dの下端に接続された電極取付部43fとを有する。板状部43cは、複数の棒状部45cの下端において第1方向D1及び第2方向D2に延在する。電極保持部43は、複数の棒状部43dを有する。複数の棒状部43dのそれぞれは板状部43cに形成された複数の孔43gのそれぞれにおいて第3方向D3に移動可能とされている。
【0042】
電極取付部43fは、複数の棒状部43dの下端が接続されており、各棒状部43dの第3方向D3への移動に伴って第3方向D3に移動する。電極取付部43fは、例えば、第1方向D1及び第2方向D2に延在する枠状とされており、電極取付部43fの枠状の部分に電極20が取り付けられている。例えば、電極20の上面20b及び下面は電極取付部43fから露出している。
【0043】
例えば、電極取付部43fは、第1方向D1及び第2方向D2に延びる矩形状を呈する。電極保持部43は、例えば、盛立面Sの凸部を乗り越える乗り越え部43hを有する。乗り越え部43hは、電極取付部43fの第1方向D1の一端において第2方向D2に延在する三角柱状を呈する。乗り越え部43hが設けられることにより、第1方向D1に盛立面Sの凸部が存在したとしても保持体41が当該凸部を乗り越えることができる。
【0044】
比抵抗計測装置10は、複数の電極保持部43に対応して設けられ、各電極保持部43を盛土B側(下方)に付勢する複数のバネ機構46を有する。バネ機構46は、例えば、前述した孔43gと、孔43gに挿通された棒状部43dと、棒状部43dを囲繞するバネ47とを有する。
【0045】
バネ47の一端(上端)は板状部43cに当接し、バネ47の他端(下端)は電極取付部43fに当接する。バネ47は、電極取付部43fを盛土Bに向けて付勢する。保持体41が走行して盛立面Sに不陸があった場合には、乗り越え部43hが不陸を乗り越え、電極取付部43f及び電極20が当該不陸に接触すると共に、電極取付部43f及び棒状部43dが板状部43cに対して第3方向D3に移動する。このとき、バネ47が電極取付部43f及び電極20を盛土Bに向けて付勢するので、盛立面Sに不陸があっても当該不陸を乗り越えると共に電極取付部43f及び電極20を当該不陸に追従させることが可能となる。
【0046】
図1に示されるように、例えば、体積含水率計測装置15は、散乱型RI水分計50と、走行体17と、走行体17の下面に取り付けられた状態で散乱型RI水分計50を保持する保持部18とを有する。走行体17は、複数の車輪17bと、複数の車輪17bの上部に設けられた台部17cとを有する。
【0047】
例えば、保持部18は、内部に散乱型RI水分計50を保持した状態で台部17cの下面に取り付けられている。保持部18は、例えば、金属製である。保持部18は、散乱型RI水分計50が収容される凹部を有し、当該凹部の下面部が盛立面Sに接触する。散乱型RI水分計50は当該下面部を介して盛立面Sに接触した状態で盛土Bの体積含水率を計測する。
【0048】
図5は、散乱型RI水分計50及び盛土Bを模式的に示す縦断面図である。
図1及び
図5に示されるように、散乱型RI水分計50は、盛土Bに対向した状態で盛土Bの体積含水率を計測する。散乱型RI水分計50は、前述した比抵抗計測装置10の移動と同時に、又は比抵抗計測装置10の移動後に続けて盛立面S上で移動して体積含水率を計測する。
【0049】
散乱型RI水分計50は、中性子線源である線源51と、熱中性子線検出部である検出管52と、線源51及び検出管52を収容する筐体53とを有する。一例として、線源51は検出管52よりも下方に位置する。線源51は、盛土Bに速中性子線Z1を放出する。盛土Bに放出された速中性子線Z1は散乱する。散乱した速中性子線Z1のうちの一部は盛土Bの水素原子B1と衝突する。水素原子B1と衝突した速中性子線Z1は、その速度を失い熱中性子線Z2となる。検出管52は、盛土Bにおいて生じた熱中性子線Z2を検出する。散乱型RI水分計50の詳細については後述する。
【0050】
水分計測システム1を用いた盛土評価方法の概要について
図6のフローチャートを参照しながら説明する。この盛土評価方法は、例えば
図1に示される水分計測システム1を用いて行われる。まず、比抵抗計測装置10及び体積含水率計測装置15を盛土Bの盛立面Sに載せる。例えば、牽引部30を押すことによって第1方向D1に沿って比抵抗計測装置10及び体積含水率計測装置15を盛立面S上で牽引する。
【0051】
このとき、比抵抗計測装置10が盛土Bの比抵抗ρを計測する(比抵抗を計測する工程、ステップS1)。具体的には、盛土Bに対向した一対の電位電極21、及び一対の電流電極22が盛土Bの比抵抗ρを計測する。そして、比抵抗計測装置10によって計測された盛土Bの比抵抗ρから空気間隙率算出部31が盛土Bの空気間隙率Vaを算出する(空気間隙率を算出する工程、ステップS2)。空気間隙率算出部31は、例えば、予め取得されている検量線を用いて比抵抗計測装置10によって計測された比抵抗ρから空気間隙率Vaを算出する。
【0052】
また、体積含水率計測装置15が盛土Bの体積含水率θを計測する(体積含水率を計測する工程、ステップS3)。このとき、盛土Bに対向した散乱型RI水分計50が盛土Bの体積含水率θを計測する。なお、体積含水率計測装置15による体積含水率θの計測は、例えば、比抵抗計測装置10による比抵抗ρの計測と同時に行われる。例えば、比抵抗計測装置10及び体積含水率計測装置15のそれぞれが盛土Bの上を走行しながら比抵抗ρ及び体積含水率θのそれぞれを計測してもよい。
【0053】
続いて、盛土評価項目算出部32が空気間隙率Va及び体積含水率θから盛土Bの乾燥密度ρdを算出する(算出する工程、ステップS4)。例えば、盛土評価項目算出部32は、式(1)を用いて、体積含水率θ、空気間隙率Va及び土粒子密度ρsから乾燥密度ρdを算出する。
θ+Va+(ρd/ρs)=1 ・・・(1)
【0054】
そして、盛土評価項目算出部32は含水比wを算出する(算出する工程、ステップS5)。例えば、盛土評価項目算出部32は、式(2)を用いて、体積含水率θ、乾燥密度ρd、及び水の単位体積あたりの重量ρwから含水比wを算出する。なお、ρwは水の単位体積あたりの重量(通常は1)である。
θ=(ρd/ρw)×(w/100) ・・・(2)
【0055】
例えば、盛土評価項目算出部32による乾燥密度ρdの算出、及び盛土評価項目算出部32による含水比wの算出は、水分計測システム1(比抵抗計測装置10及び体積含水率計測装置15)が盛土Bの上を走行している間に連続して行われる。この場合、盛土Bに対して面的に乾燥密度ρd及び含水比wの算出を行うことが可能となる。
【0056】
例えば、水分計測システム1(一例として牽引部30)は、GNSSアンテナを備えていてもよく、GNSSアンテナによって計測された盛土Bの位置情報と紐付けて乾燥密度ρd及び含水比wの算出を行ってもよい。水分計測システム1は、盛土Bにおける乾燥密度ρd及び含水比wのマッピングデータを生成及び表示してもよい。
【0057】
この場合、盛土Bの全体にわたって乾燥密度ρd及び含水比wのデータを得られるので、盛土Bの締固めの精度を全体的に評価することができる。更に、水分計測システム1は、盛土Bのカメラ画像と共に乾燥密度ρd及び含水比wのマッピングデータをAR表示してもよい。この場合も盛土Bの全体の品質に関する情報を一目で把握することが可能となる。以上のように、乾燥密度ρd及び含水比wの算出が行われた後に一連の工程が完了する。
【0058】
次に、
図5に示される散乱型RI水分計50についてより詳細に説明する。例えば、線源51はカリホルニウムによって構成されている。線源51では、線源51を構成する元素が放射性同位体に変わるときに速中性子線Z1を放射する。線源51を構成する元素が放射性同位体に変わることは壊変と称される。速中性子線Z1は、盛土B中の水分を構成する水素原子B1に衝突すると運動エネルギーを失って熱中性子線Z2となる。
【0059】
散乱型RI水分計50では、検出管52が熱中性子線Z2を検出し、検出管52によって検出された熱中性子線Z2の数が計測される。検出管52に入射する熱中性子線Z2の数と体積含水率とは二次関数の関係があることから、散乱型RI水分計50では熱中性子線Z2の数から盛土Bの体積含水率を算出することが可能とされている。
【0060】
しかしながら、検出管52が1つしかない散乱型RI水分計50を用いて体積含水率の計測を行う場合、散乱型RI水分計50を静置した状態でなければ体積含水率を高精度に計測できないという問題があった。すなわち、散乱型RI水分計50を移動させながら体積含水率の計測を行う場合、特に散乱型RI水分計50の移動速度が速い場合に、体積含水率を高精度に計測できないという問題があった。
【0061】
上記の問題に対し、本実施形態に係る散乱型RI水分計50は、
図7に示されるように、複数の検出管52を備え、複数の検出管52のそれぞれによって熱中性子線Z2が検出される。例えば、線源51は、25mm四方の正方形状を呈する。線源51は、複数の検出管52と盛土Bとの間に配置される。盛土Bの盛立面Sに対する検出管52の中心の高さは、例えば、50mm以下である。複数の検出管52は、直接対向した状態で互いに近接している。
【0062】
「直接対向した状態で互いに近接している」とは、2つの物(検出管)の間に何もない状態で当該2つの物が互いに対面していることを示している。但し、「直接対向した状態で互いに近接している」ことは、2つの物の間に計測に影響がない微小な物等が存在する場合も含んでいる。
【0063】
例えば、検出管52の長手方向に直交する平面で検出管52を切断したときの断面は円形状である。例えば、複数の検出管52は、互いに対向する第1検出管52A及び第2検出管52Bを含む。第1検出管52Aの中心から第2検出管52Bの中心までの中心間距離は、例えば、30mm以上且つ45mm以下である。第1検出管52Aの長さ、及び第2検出管52Bの長さは、例えば、互いに同一である。第1検出管52Aの長さ、及び第2検出管52Bの長さは、例えば、160mmよりも長い。この場合、散乱型RI水分計50による体積含水率の計測を散乱型RI水分計50を移動させながら高精度に行うことができる。一例として、第1検出管52Aの長さ、及び第2検出管52Bの長さは、240mmである。しかしながら、第1検出管52Aの長さ、及び第2検出管52Bの長さは、上記の例に限られず適宜変更可能である。
【0064】
散乱型RI水分計50は、第1検出管52Aによって検出された熱中性子線Z2の数を算出する第1CPU55Aと、第2検出管52Bによって検出された熱中性子線Z2の数を算出する第2CPU55Bとを有する。散乱型RI水分計50は、第1CPU55Aから延び出す第1ケーブル56Aと、第2CPU55Bから延び出す第2ケーブル56Bとを有する。第1CPU55A及び第2CPU55Bのそれぞれによって処理された各データは、第1ケーブル56A及び第2ケーブル56Bのそれぞれを介して散乱型RI水分計50の外部に出力される。
【0065】
例えば、第1CPU55Aは第1検出管52Aの上方に設けられており、第2CPU55Bは第2検出管52Bの上方に設けられている。この場合、平面視における散乱型RI水分計50の面積をコンパクトにでき、盛立面Sと散乱型RI水分計50との間に形成される隙間を低減できるので、体積含水率を高精度に取得できる。
【0066】
図8は、線源51が配置された散乱型RI水分計50の底面58に固定されると共に検出管52(第1検出管52A及び第2検出管52Bのそれぞれ)を保持する保持具57A.57Bを示す斜視図である。
図8に示されるように、散乱型RI水分計50は、検出管52を底面58から離隔させた状態で検出管52を保持する保持具57A,57Bを有する。例えば、保持具57A,57Bのそれぞれは矩形板状を呈する。
【0067】
保持具57Aは検出管52の長手方向の一端に設けられており、保持具57Bは検出管52の長手方向の他端に設けられている。保持具57A,57Bのそれぞれは、検出管52の長手方向の端部が挿入される穴部57dを有する。検出管52の長手方向の一端が保持具57Aの穴部57dに挿入された状態で保持具57Aに締め付けられると共に、検出管52の長手方向の他端が保持具57Bの穴部57dに挿入された状態で保持具57Bに締め付けられる。その結果、保持具57A、57Bに検出管52が保持される。
【0068】
図9(a)は、平面視における第1検出管52A及び第2検出管52Bの配置を示す平面図である。
図9(a)に示されるように、平面視において、第1検出管52A及び52Bは並び方向A2に沿って並んでいる。平面視において、保持具57A,57Bのそれぞれは、第1検出管52A及び第2検出管52Bのそれぞれに対して並び方向A2に突出している。
【0069】
より具体的には、第1検出管52Aを保持する保持具57A,57Bのそれぞれは、第1検出管52Aに対して並び方向A2の両側に突出している。同様に、第2検出管52Bを保持する保持具57A、57Bのそれぞれは、第2検出管52Bに対して並び方向A2の両側に突出している。
【0070】
例えば、平面視における第1検出管52Aの保持具57A,57Bの下端57bの位置は、平面視における第2検出管52Bの保持具57A,57Bの上端57cの位置以下である。
図9(a)の例では、平面視における第1検出管52Aの保持具57A,57Bの下端57bの位置が、平面視における第2検出管52Bの保持具57A,57Bの上端57cの位置と一致している。すなわち、下端57b及び上端57cは互いに接触している。
【0071】
しかしながら、
図9(b)の変形例のように、平面視における第1検出管52Aの保持具57A,57Bの下端57bの位置が、平面視における第2検出管52Bの保持具57A,57Bの上端57cの位置より下であってもよい。この場合、第1検出管52Aの長手方向A1の位置と、第2検出管52Bの長手方向A1の位置とが互いにずれており、
図9(a)の場合よりも第1検出管52Aを第2検出管52Bに接近させることができる。
【0072】
以上のように構成された散乱型RI水分計50の各部を変更し、散乱型RI水分計50によって得られるデータの精度を検証する実験を行った。以下では、この実験について説明する。本実験では、壊変揺動誤差という指標を用いた。散乱型RI水分計50による計測を行う場合、体積含水率が一定の盛土Bであったとしても、単位時間あたりに放出される速中性子線Z1の数がばらつくことがあり、これに伴って検出される熱中性子線Z2にもばらつきが生じることにより、計測結果も変動することがある。これを壊変揺動誤差と称する。壊変揺動誤差は、散乱型RI水分計50によって計測された体積含水率の標準偏差に略等しい。
【0073】
本実験では、2種類の散乱型RI水分計50を用いた。例えば、2種類の散乱型RI水分計50のうち、比較例1に係る第1の散乱型RI水分計50は、長さが160mmの1本の検出管52を搭載している。これに対し、実施例に係る第2の散乱型RI水分計50は、長さが240mmの1本の検出管52を搭載している。そして、第1の散乱型RI水分計50、及び第2の散乱型RI水分計50のそれぞれを盛土B上に静置して体積含水率の計測を行った。
【0074】
図10は、上記の計測の結果を示すグラフである。長さが160mmである1本の検出管52を備える比較例1の第1の散乱型RI水分計50では、壊変揺動誤差が0.161であった。これに対し、長さが240mmである1本の検出管52を備える実施例の第2の散乱型RI水分計50では、壊変揺動誤差が0.113であった。このように、検出管52の長さが240mmである第2の散乱型RI水分計50では、壊変揺動誤差を7割程度に抑えることができ、体積含水率の計測精度を高められることが分かった。
【0075】
更に、
図10に示されるように、長さが240mmである2本の検出管52を備える散乱型RI水分計50を用いた場合には、壊変揺動誤差を1本の場合の75%程度まで下げることができ、長さが160mmである1本の検出管52を備える場合の50%程度まで下げられることが分かった。具体的には、長さが240mmである2本の検出管52を備える散乱型RI水分計50を用いた場合における壊変揺動誤差は0.088であった。このとき、2本の検出管52の中心間距離を約45mmとした。
【0076】
なお、長さが240mmである3本の検出管52を備える散乱型RI水分計50を用いた場合には、検出管52が2本のときとそれほど変わらず改変揺動誤差は0.086であった。検出管52の数が3本以上となっても、平面視において線源51を挟む2本の検出管52以外の検出管52はあまり熱中性子線Z2を検出できないため、それほど効果が出なかったものと考えられる。以上より、検出管52の数は2本であることがより望ましい。
【0077】
また、2本の検出管52の中心間距離を変える実験を行った。上記よりも2本の検出管52の中心間距離を近づけて当該中心間距離を約30mmとした場合、壊変揺動誤差は0.080であった。一方、2本の検出管52の中心間距離をパラメータとしてシミュレーション解析を行い、検出管52の各配置における壊変揺動誤差を求めた。その結果、体積含水率が60%程度と高い場合には、当該中心間距離が40mmであるときの壊変揺動誤差は0.024、当該中心間距離が70mmであるときの壊変揺動誤差は0.029、当該中心間距離が100mmであるときの壊変揺動誤差は0.039であった。以上より、2本の検出管52を可能な限り近づけた状態として2本の検出管52を配置することにより、計測の精度を高められることが分かった。
【0078】
次に、散乱型RI水分計50を移動させた場合における計測の実験結果について
図11(a)及び
図11(b)を参照しながら説明する。この実験では、長さが20mである盛土B上で、1本の検出管52を取り付けた散乱型RI水分計50と、2本の検出管52を取り付けた散乱型RI水分計50とのそれぞれを1km/h、2km/h及び5km/hのそれぞれの速度で移動させたときの体積含水率のデータを示している。この実験において、検出管52の長さは240mmとし、2本の検出管52の中心間距離は45mmとした。
【0079】
図11(a)及び
図11(b)の比較例2は、透過型RI水分計によって計測された体積含水率のデータを示している。
図11(a)は散乱型RI水分計50の検出管52の本数を1本とした場合における体積含水率の計測データを示しており、
図11(b)は散乱型RI水分計50の検出管52の本数を2本とした場合における体積含水率の計測データを示している。
【0080】
図11(a)に示されるように、検出管52の本数が1本である場合、散乱型RI水分計50の移動速度が1km/hである場合には、比較例2と同様のデータを得られたが、散乱型RI水分計50の移動速度が5km/hと速い場合には、比較例2のデータから乖離することが分かった。これに対し、
図11(b)に示されるように、検出管52の本数が2本である場合、散乱型RI水分計50の移動速度が1km/h、2km/h及び5km/hのいずれであってもデータの乖離を抑えられることが分かった。このことからも検出管52の本数は2本であることが望ましいことが分かる。
【0081】
更に、
図12(a)及び
図12(b)に示されるように、2台の散乱型RI水分計50を用いて壊変揺動誤差を算出する実験を行った。この実験では、構成が互いに同一の第1の散乱型RI水分計50A及び第2の散乱型RI水分計50Bを用いた。その結果、第1の散乱型RI水分計50A及び第2の散乱型RI水分計50Bのそれぞれの検出管52の本数が1本の場合における壊変揺動誤差は0.076、2本の場合における壊変揺動誤差は0.046、3本の場合における壊変揺動誤差は0.059となった。このように、散乱型RI水分計50の数を2台にし、2台の散乱型RI水分計50を直列に並べた場合には、更に壊変揺動誤差を低減できることが分かった。これは、第1の散乱型RI水分計50A及び第2の散乱型RI水分計50Bのうちの一方からの速中性子線Z1の放射によって反射された熱中性子線Z2を他方の検出管52が検出し、他方からの速中性子線Z1の放射によって反射された熱中性子線Z2を一方の検出管52が検出することによって、より多くの熱中性子線Z2を検出できたためであると考えられる。
【0082】
次に、本実施形態に係る水分計測方法の例について説明する。この水分計測方法では、長さが第1長さである第1検出管52Aを有する第1の散乱型RI水分計50A、及び第1長さより長い第2長さである第2検出管52Bを有する第2の散乱型RI水分計50Bを用いる。例えば、第1長さは160mmであり、第2長さは240mmである。
【0083】
まず、第1の散乱型RI水分計50A及び第2の散乱型RI水分計50Bのいずれかを選択する(選択する工程)。このとき、盛土Bの条件、盛土Bの形状、又は想定される盛土Bの水分量に基づいて第1の散乱型RI水分計50A及び第2の散乱型RI水分計50Bのいずれかを選択する。例えば、盛土Bの含水率が高いと見込まれる場合には、検出管52の長さがより長い第2の散乱型RI水分計50Bを選択する。
【0084】
次に、
図5に示されるように、選択した散乱型RI水分計50の線源51が盛土Bに速中性子線Z1を放出し(速中性子線を放出する工程)、速中性子線Z1の放出に伴って盛土Bの水素原子B1から反射する熱中性子線Z2を検出管52が検出する(検出する工程)。散乱型RI水分計50は検出された熱中性子線Z2の数から盛土Bの体積含水率を算出し、その後、一連の工程が完了する。
【0085】
続いて、本実施形態に係る水分計測システム1及び水分計測方法から得られる作用効果について詳細に説明する。
図12に示されるように、水分計測システム1は散乱型RI水分計50を備え、散乱型RI水分計50は線源51と複数の検出管52とを備える。線源51は盛土Bに速中性子線Z1を放出し、速中性子線Z1の放出に伴って盛土Bの水素原子B1から反射する熱中性子線Z2が複数の検出管52によって検出される。このように複数の検出管52が熱中性子線Z2を検出することにより、散乱型RI水分計50を移動させながら計測を行う場合であっても、体積含水率の計測の精度の低下を抑制できる。
【0086】
水分計測システム1の散乱型RI水分計50では、複数の検出管52が直接対向した状態で互いに近接している。すなわち、2つの検出管52が互いに直接対向しており、2つの検出管52の間に物がなく、更に、2つの検出管52が互いに近接している。従って、散乱型RI水分計50を移動させながら計測を行っても体積含水率の計測をより効率よく且つ高精度に行うことができる。
【0087】
本実施形態において、水分計測システム1は、
図8、
図9(a)及び
図9(b)に示されるように、線源51が配置された底面58に固定されており、検出管52を底面58から離隔させた状態で検出管52を保持する保持具57A,57Bを備える。従って、検出管52は底面58から離隔した状態で保持具57A,57Bによって保持されるので、検出管52を安定して配置できる。
【0088】
本実施形態では、平面視において、複数の検出管52のそれぞれを保持する保持具57A,57Bは、検出管52よりも複数の検出管52の並び方向A2に突出している。複数の検出管52は、並び方向A2に沿って並ぶ第1検出管52A及び第2検出管52Bを含み、平面視における第1検出管52Aの保持具57A、57Bの下端57bの位置は、平面視における第2検出管52Bの保持具57A,57Bの上端57cの位置以下である。よって、第1検出管52Aを第2検出管52Bにより接近させることができるので、更なる計測精度の向上に寄与する。
【0089】
水分計測システム1は、検出管52の長さが第1長さである第1の散乱型RI水分計50Aと、検出管52の長さが第1長さよりも長い第2長さである第2の散乱型RI水分計50Bとを備えてもよい。前述したように、検出管52は、その長さが長い方が体積含水率の計測精度が高い。よって、上記のように第1長さの検出管52を有する第1の散乱型RI水分計50と、第1長さより長い第2長さの検出管52を有する第2の散乱型RI水分計50とを備えることにより、盛土Bの形状又は性状に応じて散乱型RI水分計50を使い分けることができる。
【0090】
本実施形態において、盛土Bの盛立面Sに対する各検出管52の中心の高さは50mm以下である。よって、盛立面Sに各検出管52を接近させることができるので、体積含水率の計測を一層高精度に行うことができる。
【0091】
本実施形態において、水分計測システム1は、
図12(a)及び
図12(b)に示されるように、複数の検出管52の並び方向に沿って互いに隣接する第1の散乱型RI水分計50A及び第2の散乱型RI水分計50Bを備えてもよい。この場合、第1の散乱型RI水分計50A及び第2の散乱型RI水分計50Bの第1検出管52A及び第2検出管52Bのそれぞれが熱中性子線Z2を検出するので、体積含水率の計測精度を更に向上させることができる。
【0092】
本実施形態において、水分計測システム1は、盛土Bに対向した状態で盛土Bの比抵抗を計測する比抵抗計測装置10を更に備える。従って、比抵抗と散乱型RI水分計50による計測結果を組み合わせることにより、盛土Bの乾燥密度、及び盛土Bの含水比の少なくともいずれかを算出することができる。このように、比抵抗と散乱型RI水分計50による計測結果から乾燥密度及び含水比の少なくともいずれかを算出することにより、盛土Bの乾燥密度及び含水比を取得できる。
【0093】
本実施形態に係る水分計測方法では、検出管52の長さが第1長さである第1の散乱型RI水分計50Aと、検出管52の長さが第1長さよりも長い第2長さである第2の散乱型RI水分計50Bのいずれかが選択される。第1長さの検出管52を有する第1の散乱型RI水分計50Aと、第1長さより長い第2長さの検出管52を有する第2の散乱型RI水分計50Bのいずれかが選択されることにより、盛土Bの形状又は性状に応じて散乱型RI水分計を使い分けることができるので、体積含水率を効率よく且つ高精度に計測することができる。
【0094】
以上、本開示に係る水分計測システム及び水分計測方法の実施形態及び種々の例について説明した。しかしながら、本開示に係る水分計測システム及び水分計測方法は、前述した実施形態又は種々の例に限られず、特許請求の範囲に記載した要旨の範囲内において適宜変更可能である。すなわち、水分計測システムの各部の構成、形状、大きさ、数、材料及び配置態様、並びに、水分計測方法の工程の内容及び順序は、前述した実施形態又は種々の例に限られず適宜変更可能である。
【0095】
例えば、前述の実施形態では、検出管52の長手方向に直交する平面で検出管52を切断したときの断面が円形状である例について説明した。しかしながら、検出管の断面形状は、円形状以外であってもよく、例えば、多角形状であってもよい。前述の実施形態では、比抵抗計測装置10及び体積含水率計測装置15を備える水分計測システム1について説明した。しかしながら、比抵抗計測装置10を有しない水分計測システムであってもよい。このように、本開示に係る水分計測システム及び水分計測方法は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0096】
1…水分計測システム、2…第1線状体、3…第2線状体、10…比抵抗計測装置、15…体積含水率計測装置、17…走行体、17b…車輪、17c…台部、18…保持部、20…電極、20b…上面、21…電位電極、22…電流電極、23…誘電体、24…導電体、25…交流電源、26…電位計、30…牽引部、30b…車輪、30c…台部、30d…取手部、31…空気間隙率算出部、32…盛土評価項目算出部、41…保持体、41b…上面、42…キャスタ、43…電極保持部、43c…板状部、43d…棒状部、43f…電極取付部、43g…孔、43h…乗り越え部、44…取手部、45…可変機構、45b…スリット、45c…棒状部、45d…止め部、46…バネ機構、47…バネ、48…線状体、50…散乱型RI水分計、50A…第1の散乱型RI水分計、50B…第2の散乱型RI水分計、51…線源、52…検出管、52A…第1検出管、52B…第2検出管、53…筐体、56A…第1ケーブル、56B…第2ケーブル、57A.57B…保持具、57b…下端、57c…上端、57d…穴部、58…底面、A…現場、A1…長手方向、A2…並び方向、B…盛土、B1…水素原子、D1…第1方向、D2…第2方向、D3…第3方向、S…盛立面、Va…空気間隙率、w…含水比、X…距離、Y…間隔、Z1…速中性子線、Z2…熱中性子線、θ…体積含水率、ρ…比抵抗、ρd…乾燥密度、ρs…土粒子密度。