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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109322
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】紡績機及び紡績方法
(51)【国際特許分類】
   D01H 5/32 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
D01H5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014051
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】澤田 晴稔
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA04
4L056BC01
4L056EB10
(57)【要約】
【課題】糸出し紡績の際に発生する屑糸の量の低減を図ることができる紡績機及び紡績方法を提供する。
【解決手段】紡績機1は、ドラフト装置6と、空気紡績装置7と、ユニットコントローラ10と、を備える。ドラフト装置6において、ミドルローラ対16に対するフロントローラ対17のドラフト比はMDR、サードローラ対15に対するミドルローラ対16のドラフト比はIDR、及び、バックローラ対14に対するサードローラ対15のドラフト比は第BDRである。ユニットコントローラ10は、糸出し紡績時において、IDR及びBDRが通常紡績時と同じ比率になるように、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの回転駆動を制御する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束をドラフトするドラフト装置と、
前記ドラフトされた前記繊維束に旋回空気流によって撚りを与えて糸を生成する空気紡績装置と、
前記ドラフト装置の動作を制御する制御装置と、を備え、
前記ドラフト装置は、
前記繊維束の走行方向における最も下流側に配置された第一ローラ対と、
前記第一ローラ対に対して前記走行方向における上流側に配置された第二ローラ対と、
前記第二ローラ対に対して前記走行方向における上流側に配置された第三ローラ対と、
前記第三ローラ対に対して前記走行方向における上流側に配置された第四ローラ対と、を有し、
前記ドラフト装置において、前記第二ローラ対に対する前記第一ローラ対のドラフト比は第一比率、前記第三ローラ対に対する前記第二ローラ対のドラフト比は第二比率、及び、前記第四ローラ対に対する前記第三ローラ対のドラフト比は第三比率であり、
前記制御装置は、前記空気紡績装置において通常紡績を開始するための糸出し紡績時において、前記第二比率及び前記第三比率が前記通常紡績時と同じ比率になるように、前記第一ローラ対、前記第二ローラ対、前記第三ローラ対及び前記第四ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御する、紡績機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第一比率が前記糸出し紡績時と前記通常紡績時で異なる比率になるように、前記第一ローラ対及び前記第二ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御する、請求項1に記載の紡績機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第一ローラ対の周速度が前記糸出し紡績時に前記通常紡績時よりも低くなるように、前記第一ローラ対の回転駆動を制御する、請求項1又は2に記載の紡績機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第二ローラ対、前記第三ローラ対及び前記第四ローラ対のそれぞれの周速度が前記糸出し紡績時に前記通常紡績時よりも低くなるように、前記第二ローラ対、前記第三ローラ対及び前記第四ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御する、請求項3に記載の紡績機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記糸出し紡績の後、前記第二ローラ対、前記第三ローラ対及び前記第四ローラ対を、前記通常紡績時の周速度まで同期して加速させる、請求項4に記載の紡績機。
【請求項6】
前記第二ローラ対と前記第三ローラ対との間の前記繊維束の幅を第一幅、前記第三ローラ対と前記第四ローラ対との間の前記繊維束の幅を第二幅とした場合、前記糸出し紡績時における前記第一幅及び前記第二幅は、前記通常紡績時における前記第一幅及び前記第二幅と同等である、請求項1~5のいずれか一項に記載の紡績機。
【請求項7】
前記糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、
前記空気紡績装置からの第一糸と、前記巻取装置の前記パッケージからの第二糸と、の糸継ぎを行う糸継装置と、
前記第一糸を前記糸継装置に案内する第一捕捉装置と、
前記第二糸を前記糸継装置に案内する第二捕捉装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記糸出し紡績の後、前記第一ローラ対、前記第二ローラ対、前記第三ローラ対及び前記第四ローラ対のそれぞれを前記通常紡績時の周速度まで加速させ、
前記第一ローラ対において前記通常紡績時の周速度までの加速が完了すると、前記糸継装置に糸継ぎを行わせる、請求項4に記載の紡績機。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第一捕捉装置及び前記第二捕捉装置によって前記糸が前記糸継装置に案内され、前記通常紡績時の前記第一ローラ対の周速度に基づいて設定される所定時間が経過した後に、前記糸継装置に糸継ぎを開始させる、請求項7に記載の紡績機。
【請求項9】
繊維束をドラフトするドラフト装置と、前記ドラフトされた前記繊維束に旋回空気流によって撚りを与えて糸を生成する空気紡績装置と、を備える紡績機における紡績方法であって、
前記ドラフト装置は、
前記繊維束の走行方向における最も下流側に配置された第一ローラ対と、
前記第一ローラ対に対して前記走行方向における上流側に配置された第二ローラ対と、
前記第二ローラ対に対して前記走行方向における上流側に配置された第三ローラ対と、
前記第三ローラ対に対して前記走行方向における上流側に配置された第四ローラ対と、を有し、
前記ドラフト装置において、前記第二ローラ対に対する前記第一ローラ対のドラフト比は第一比率、前記第三ローラ対に対する前記第二ローラ対のドラフト比は第二比率、及び、前記第四ローラ対に対する前記第三ローラ対のドラフト比は第三比率であり、
前記空気紡績装置において通常紡績を開始するための糸出し紡績時において、前記第二比率及び前記第三比率が前記通常紡績時と同じ比率になるように、前記第一ローラ対、前記第二ローラ対、前記第三ローラ対及び前記第四ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御する、紡績方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機及び紡績方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績機は、繊維束をドラフトするドラフト装置と、ドラフトされた繊維束に旋回空気流によって撚りを与えて糸を生成する空気紡績装置とを備えている。ドラフト装置は、繊維束の走行方向における最も下流側に配置された第一ローラ対と、第一ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第二ローラ対と、第二ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第三ローラ対と、第三ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第四ローラ対と、を有している。特許文献1に記載の紡績機では、糸出し紡績時における第一ローラ対の周速度を、糸出し紡績後に行う通常紡績時における第一ローラ対の周速度よりも低くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-23391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紡績機では、空気紡績装置において通常紡績を開始するための糸出し紡績において、空気紡績装置による繊維束の捕捉の成功率を高めるために、上記のように、糸出し紡績時における第一ローラ対の周速度を、通常紡績時における第一ローラ対の周速度よりも低くしている。また、紡績機では、糸出し紡績において、空気紡績装置による繊維束の捕捉の成功率を高めるために、糸の番手を変更する(太番手化又は細番手化する)方法がある。この方法では、糸出し紡績時において変更した番手を有するように生成された糸(屑糸)を全て除去してから通常紡績を開始する必要がある。
【0005】
本発明の一側面は、糸出し紡績の際に発生する屑糸の量の低減を図ることができる紡績機及び紡績方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る紡績機は、繊維束をドラフトするドラフト装置と、ドラフトされた繊維束に旋回空気流によって撚りを与えて糸を生成する空気紡績装置と、ドラフト装置の動作を制御する制御装置と、を備え、ドラフト装置は、繊維束の走行方向における最も下流側に配置された第一ローラ対と、第一ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第二ローラ対と、第二ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第三ローラ対と、第三ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第四ローラ対と、を有し、ドラフト装置において、第二ローラ対に対する第一ローラ対のドラフト比は第一比率、第三ローラ対に対する第二ローラ対のドラフト比は第二比率、及び、第四ローラ対に対する第三ローラ対のドラフト比は第三比率であり、制御装置は、空気紡績装置において通常紡績を開始するための糸出し紡績時において、第二比率及び第三比率が通常紡績時と同じ比率になるように、第一ローラ対、第二ローラ対、第三ローラ対及び第四ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御する。
【0007】
本発明の一側面に係る紡績機では、糸出し紡績時と通常紡績時とで、第二ローラ対から第四ローラ対の間においては繊維束の番手は維持される。これにより、紡績機では、糸出し紡績時に第二ローラ対から第四ローラ対の間に存在していた繊維束も用いて糸を生成することができる。そのため、紡績機では、糸出し紡績の際に発生する屑糸の量の低減を図ることができる。
【0008】
一実施形態においては、制御装置は、第一比率が糸出し紡績時と通常紡績時で異なる比率になるように、第一ローラ対及び第二ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御してもよい。この構成では、通常紡績を開始する前に第一ローラ対と第二ローラ対との間に存在していた繊維束から生成された糸のみを除去すればよい。そのため、紡績機では、糸出し紡績の際に発生する屑糸の量の低減を図ることができる。
【0009】
一実施形態においては、制御装置は、第一ローラ対の周速度が糸出し紡績時に通常紡績時よりも低くなるように、第一ローラ対の回転駆動を制御してもよい。この構成では、簡単な制御により糸出し紡績時における糸の番手を太くすることができるため、糸出し紡績時における空気紡績装置による繊維束の捕捉の成功率をより一層高めることができる。
【0010】
一実施形態においては、制御装置は、第二ローラ対、第三ローラ対及び第四ローラ対のそれぞれの周速度が糸出し紡績時に通常紡績時よりも低くなるように、第二ローラ対、第三ローラ対及び第四ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御してもよい。この構成では、消費される繊維束の量を低減することができる。
【0011】
一実施形態においては、制御装置は、糸出し紡績の後、第二ローラ対、第三ローラ対及び第四ローラ対を、通常紡績時の周速度まで同期して加速させてもよい。この構成では、第二ローラ対、第三ローラ対及び第四ローラ対を同期して加速させるため、糸出し紡績から通常紡績に移行するときに、第二比率及び第三比率が変化しない。すなわち、紡績機では、糸出し紡績中、加速中、通常紡績中の全ての期間にわたって、第二比率及び第三比率を一定に維持することができる。そのため、糸出し紡績中及び加速中に第二ローラ対から第四ローラ対の間にある繊維束の番手を変更することなく、当該繊維束を用いて糸を生成することができる。したがって、屑糸の量の低減を図ることができる。
【0012】
一実施形態においては、第二ローラ対と第三ローラ対との間の繊維束の幅を第一幅、第三ローラ対と第四ローラ対との間の繊維束の幅を第二幅とした場合、糸出し紡績時における第一幅及び第二幅は、通常紡績時における第一幅及び第二幅と同等であってもよい。この構成では、糸出し紡績時と通常紡績時とにおいて、第一幅及び第二幅が変化しないので、この領域での繊維束の挙動を安定させることができる。その結果、例えば、この領域に配置される規制部(コンデンサ)に繊維束が詰まることを回避できる。
【0013】
一実施形態においては、紡績機は、糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、空気紡績装置からの第一糸と、巻取装置のパッケージからの第二糸と、の糸継ぎを行う糸継装置と、第一糸を糸継装置に案内する第一捕捉装置と、第二糸を糸継装置に案内する第二捕捉装置と、を備え、制御装置は、糸出し紡績の後、第一ローラ対、第二ローラ対、第三ローラ対及び第四ローラ対のそれぞれを通常紡績時の周速度まで加速させ、第一ローラ対において通常紡績時の周速度までの加速が完了すると、糸継装置に糸継ぎを行わせてもよい。紡績機では、第一ローラ対と第二ローラ対との間において繊維束の番手を変更するため、第一ローラ対が通常紡績時の周速度まで加速した時点で、糸継装置が糸継ぎを行うことができる。したがって、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0014】
一実施形態においては、制御装置は、第一捕捉装置及び第二捕捉装置によって糸が糸継装置に案内され、通常紡績時の第一ローラ対の周速度に基づいて設定される所定時間が経過した後に、糸継装置に糸継ぎを開始させてもよい。所定時間は、糸出し紡績時において通常紡績時とは異なる番手を有するように生成された糸を、第一捕捉装置によって除去(吸引)するために要する時間である。所定時間は、例えば、ドラフト装置から送り出される繊維束の速度が600m/分である場合には、1秒未満である。すなわち、ドラフト装置から送り出される繊維束の速度が600m/分である場合には、第一捕捉装置が糸を糸継装置に案内してから1秒未満で、糸継装置は、糸継ぎを開始する。したがって、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0015】
本発明の一側面に係る紡績方法は、繊維束をドラフトするドラフト装置と、ドラフトされた繊維束に旋回空気流によって撚りを与えて糸を生成する空気紡績装置と、を備える紡績機における紡績方法であって、ドラフト装置は、繊維束の走行方向における最も下流側に配置された第一ローラ対と、第一ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第二ローラ対と、第二ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第三ローラ対と、第三ローラ対に対して走行方向における上流側に配置された第四ローラ対と、を有し、ドラフト装置において、第二ローラ対に対する第一ローラ対のドラフト比は第一比率、第三ローラ対に対する第二ローラ対のドラフト比は第二比率、及び、第四ローラ対に対する第三ローラ対のドラフト比は第三比率であり、空気紡績装置において通常紡績を開始するための糸出し紡績時において、第二比率及び第三比率が通常紡績時と同じ比率になるように、第一ローラ対、第二ローラ対、第三ローラ対及び第四ローラ対のそれぞれの回転駆動を制御する。
【0016】
本発明の一側面に係る紡績方法では、糸出し紡績時と紡績動作時とで、第二ローラ対から第四ローラ対の間においては繊維束の番手は維持される。これにより、糸出し紡績時に第二ローラ対と第四ローラ対の間に存在していた繊維束も用いて糸を生成することができる。そのため、紡績方法では、糸出し紡績の際に発生する屑糸の量の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一側面によれば、糸出し紡績の際に発生する屑糸の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、一実施形態に係る紡績機を示す正面図である。
図2図2は、図1の紡績ユニットを示す側面図である。
図3図3は、ドラフト装置を示す側面図である。
図4図4は、ドラフト比を説明するための図である。
図5図5は、空気紡績装置の内部の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1に示されるように、紡績機1は、複数の紡績ユニット2と、糸継台車3と、玉揚台車(図示省略)と、第1エンドフレーム4と、第2エンドフレーム5と、を備えている。複数の紡績ユニット2は、一列に配列されている。各紡績ユニット2は、糸Yを生成してパッケージPに巻き取る。糸継台車3は、ある紡績ユニット2において糸Yが切断されたり、何らかの理由により糸Yが切れたりした場合、当該紡績ユニット2において糸継動作を行う。玉揚台車は、ある紡績ユニット2においてパッケージPが満巻になった場合、パッケージPを玉揚げし、新しいボビンBを当該紡績ユニット2に供給する。
【0021】
第1エンドフレーム4には、紡績ユニット2において発生した繊維屑及び屑糸等を回収する回収装置等が収容されている。第2エンドフレーム5には、紡績機1に供給される圧縮空気(空気)の空気圧を調整して紡績機1の各部に空気を供給する空気供給部、及び紡績ユニット2の各部に動力を供給するための駆動モータ等が収容されている。第2エンドフレーム5には、機台制御装置5Aと、表示画面5Bと、入力キー5Cと、が設けられている。機台制御装置5Aは、紡績機1の各部を集中的に管理及び制御する。表示画面5Bは、紡績ユニット2の設定内容及び状態に関する情報等を表示することができる。オペレータが入力キー5Cを用いて適宜の操作を行うことにより、紡績ユニット2の設定作業を行うことができる。
【0022】
図1及び図2に示されるように、各紡績ユニット2は、糸Yの走行方向において上流側から順に、ドラフト装置6と、空気紡績装置7と、糸監視装置8と、テンションセンサ9と、糸貯留装置11と、ワキシング装置12と、巻取装置13と、を備えている。ユニットコントローラ(制御装置)10は、所定数の紡績ユニット2ごとに設けられており、紡績ユニット2の動作を制御する。
【0023】
ドラフト装置6は、繊維束(スライバ)Sをドラフトする。ドラフト装置6は、繊維束Sの走行方向において上流側から順に、バックローラ対(第四ローラ対)14と、サードローラ対(第三ローラ対)15と、ミドルローラ対(第二ローラ対)16と、フロントローラ対(第一ローラ対)17と、を有している。言い換えれば、ドラフト装置6では、繊維束Sのドラフト経路において下流側から上流側に向かって、フロントローラ対17、ミドルローラ対16、サードローラ対15及びバックローラ対14がこの順番で配置されている。バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17は、ケンス(図示省略)から供給されて繊維束ガイド36(図3参照)によって案内された繊維束Sをドラフトしつつ上流側から下流側に送る。
【0024】
図3に示されるように、バックローラ対14は、トップローラ14aと、ボトムローラ14bと、を有している。サードローラ対15は、トップローラ15aと、ボトムローラ15bと、を有している。ミドルローラ対16は、トップローラ16aと、ボトムローラ16bと、を有している。フロントローラ対17は、トップローラ17aと、ボトムローラ17bと、を有している。ミドルローラ対16のトップローラ16aに対しては、エプロンベルト18aが設けられている。ミドルローラ対16のボトムローラ16bに対しては、エプロンベルト18bが設けられている。本実施形態では、トップローラ14a,15a,16a,17aは、従動ローラである。ボトムローラ14b,15b,16b,17bは、駆動ローラである。
【0025】
ドラフト装置6は、第一モータ32と、第二モータ33と、第三モータ34と、第四モータ35と、を有している。第一モータ32は、ベルトB1を介して、バックローラ対14のボトムローラ14bを回転駆動する。第二モータ33は、ベルトB2を介して、サードローラ対15のボトムローラ15bを回転駆動する。第三モータ34は、ベルトB3を介して、ミドルローラ対16のボトムローラ16bを回転駆動する。第四モータ35は、ベルトB4を介して、フロントローラ対17のボトムローラ17bを回転駆動する。第一モータ32、第二モータ33、第三モータ34及び第四モータ35の動作は、ユニットコントローラ10によって制御される。
【0026】
トップローラ14aは、ボトムローラ14bによって従動回転するように設けられている。トップローラ15aは、ボトムローラ15bによって従動回転するように設けられている。トップローラ16aは、ボトムローラ16bによって従動回転するように設けられている。トップローラ17aは、ボトムローラ17bによって従動回転するように設けられている。
【0027】
ドラフト装置6には、規制部37が設けられている。規制部37は、例えばガイド又はコンデンサと称される。規制部37は、サードローラ対15とミドルローラ対16との間に配置されている。規制部37は、繊維束Sが走行する経路(例えば、ミドルローラ対16の回転軸方向における繊維束Sの幅)を規制する。
【0028】
ドラフト装置6は、所定のドラフト比により繊維束Sをドラフトして、空気紡績装置7に繊維束Sを送出する。図4は、ドラフト比を説明するための図である。ドラフト比とは、ドラフト装置6において、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17によって処理される前後における繊維束Sの繊維量又は繊維の本数の比率である。ドラフト装置6では、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17の周速度を変更することによってドラフト比を変更することができる。
【0029】
ドラフト比には、BDR(Brake Draft Ratio:第三比率)、IDR(Intermediate Draft Ratio:第二比率)、MDR(Main Draft Ratio:第一比率)がある。
【0030】
BDRは、バックローラ対14に対するサードローラ対15のドラフト比である。BDRは、バックローラ対14の周速度に対するサードローラ対15の周速度の比率とも言える。BDRは、バックローラ対14に導入される前の繊維束Sの繊維量又は繊維の本数に対するサードローラ対15によって処理された後の繊維束Sの繊維量又は繊維の本数の比率である。ドラフト装置6では、バックローラ対14及びサードローラ対15のうち、少なくとも一つの周速度を変更することによって、BDRを変更することができる。
【0031】
IDRは、サードローラ対15に対するミドルローラ対16のドラフト比である。IDRは、サードローラ対15の周速度に対するミドルローラ対16の周速度の比率とも言える。IDRは、サードローラ対15に導入される前の繊維束Sの繊維量又は繊維の本数に対するミドルローラ対16によって処理された後の繊維束Sの繊維量又は繊維の本数の比率である。ドラフト装置6では、サードローラ対15及びミドルローラ対16のうち、少なくとも一つの周速度を変更することによって、IDRを変更することができる。
【0032】
MDRは、ミドルローラ対16に対するフロントローラ対17のドラフト比である。MDRは、ミドルローラ対16の周速度に対するフロントローラ対17の周速度の比率とも言える。MDRは、ミドルローラ対16に導入される前の繊維束Sの繊維量又は繊維の本数に対するフロントローラ対17によって処理された後の繊維束Sの繊維量又は繊維の本数の比率である。ドラフト装置6では、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のうち、少なくとも一つの周速度を変更することによって、MDRを変更することができる。
【0033】
本実施形態では、BDRは、例えば、1.5倍以上4.0倍以下とすることができる。IDRは、例えば、1.2倍以上3.0倍以下とすることができる。MDRは、例えば、15倍以上60倍以下とすることができる。ドラフト装置6の設定(ドラフト比、周速度等)は、機台制御装置5Aの表示画面5Bに表示される設定画面において、入力キー5Cを操作することによって設定することができる。
【0034】
図2に示されるように、空気紡績装置7は、ドラフト装置6によりドラフトされた繊維束(繊維)Fに旋回空気流によって撚りを与えて糸Yを生成する。図5に示されるように、空気紡績装置7は、ノズルブロック40と、中空ガイド軸体41と、を有している。ノズルブロック40は、ファイバーガイド42と、紡績室43と、第一ノズル44と、を有している。中空ガイド軸体41は、糸通路45と、第二ノズル46と、を有している。
【0035】
ファイバーガイド42は、ドラフト装置6によりドラフトされた繊維束Sを空気紡績装置7の内部に向けて案内する。ファイバーガイド42には、繊維導入口42aと、針状部材42bと、が設けられている。ドラフト装置6によりドラフトされた繊維束Sは、繊維導入口42aから導入され、針状部材42bに巻きかかるようにして紡績室43内に案内される。第一ノズル44から紡績室43内に空気が噴射されることにより、紡績室43内に旋回空気流が発生する。これにより、紡績室43内の繊維束Sに旋回空気流が作用する。
【0036】
中空ガイド軸体41は、円筒状の部材であり、内部に糸通路45が形成されている。第二ノズル46から糸通路45内に空気が噴射されることによって、糸通路45内に旋回空気流が発生する。第二ノズル46から噴射される空気により発生する旋回空気流の方向は、第一ノズル44から噴射される空気により発生する旋回空気流とは逆方向である。
【0037】
空気紡績装置7は、紡績を新たに開始する場合、又は、糸切れ等により紡績を一時的に中断して再開する場合、すなわち空気紡績装置7から糸Yを新たに送出する必要がある場合には、糸出し紡績を行う。糸出し紡績とは、空気紡績装置7が通常紡績を開始するときに行う動作のことであり、通常紡績とは異なる紡績である。
【0038】
糸出し紡績を行うときは、第一ノズル44及び第二ノズル46の両方から空気を噴射して、旋回空気流を発生させる。ドラフト装置6によりドラフトされた繊維束Sは、ファイバーガイド42によって空気紡績装置7の内部に案内される。第一ノズル44から噴射される空気は旋回しながら繊維束Sの送り方向へ流れる。これにより、繊維束Sは、緩い仮撚り状態で中空ガイド軸体41へ送られる。
【0039】
糸通路45は、上流側の断面積よりも下流側の断面積が大きくなるように形成されているため、糸通路45内では、旋回空気流は下流側に向かって流れる。これにより、繊維束Sを糸通路45の下流側へ送出することができる。糸通路45内に発生した旋回空気流の方向は紡績室43内の旋回空気流とは逆方向であるので、公知の紡績方法により、繊維束Sは、結束繊維状に紡績されながら中空ガイド軸体41から排出される。
【0040】
通常紡績を行うときは、第一ノズル44のみから空気が噴射されることにより、紡績室43内に旋回空気流が発生する。すなわち、糸出し紡績から通常紡績に移行するとき(移行時)は、第二ノズル46から空気は噴射されているが、通常紡績を行うときには、第二ノズル46からは空気は噴射されない。ドラフト装置6から供給される繊維束Sの繊維の後端は、紡績室43内に発生した旋回空気流によって中空ガイド軸体41の先端の周囲を振り回される。これにより、繊維束Sに撚りが加えられて糸Yが生成される。糸Yは、中空ガイド軸体41の糸通路45を通って下流側の糸出口(図示省略)から空気紡績装置7の外部へ送出される。
【0041】
図2に示されるように、糸監視装置8は、空気紡績装置7と糸貯留装置11との間において、走行する糸Yの情報を監視して、監視した情報に基づいて糸欠陥の有無を検出する。糸監視装置8は、糸欠陥を検出した場合、糸欠陥検出信号をユニットコントローラ10に送信する。糸監視装置8は、糸欠陥として、例えば、糸Yの太さ異常及び/又は糸Yに含有されている異物等を検出する。
【0042】
テンションセンサ9は、空気紡績装置7と巻取装置13との間のうち、空気紡績装置7と糸貯留装置11との間において、走行する糸Yのテンションを測定し、テンション測定信号をユニットコントローラ10に送信する。糸監視装置8及びテンションセンサ9の検出結果に基づきユニットコントローラ10が異常有りと判断した場合、紡績ユニット2において、糸Yが切断される。具体的には、空気紡績装置7への空気の供給が停止されて、糸Yの生成が中断されることにより、糸Yが切断される。あるいは、別途設けられたカッタにより糸Yが切断されるようにしてもよい。このとき、ドラフト装置6によるドラフトも停止される。
【0043】
ワキシング装置12は、糸貯留装置11と巻取装置13との間において、糸Yにワックスを付与する。
【0044】
糸貯留装置11は、空気紡績装置7と巻取装置13との間において、糸Yの弛みを取る。糸貯留装置11は、空気紡績装置7から糸Yを安定して引き出す機能、糸継台車3による糸継動作時等に空気紡績装置7から送り出される糸Yを滞留させて糸Yが弛むのを防止する機能、及び糸貯留装置11よりも下流側における糸Yのテンションの変動が空気紡績装置7に伝わるのを防止する機能を有している。
【0045】
巻取装置13は、生成した糸YをボビンBに巻き取ってパッケージPを形成する。巻取装置13は、クレードルアーム21と、巻取ドラム22と、トラバースガイド23と、を有している。クレードルアーム21は、ボビンBを回転可能に支持する。クレードルアーム21は、支軸24によって揺動可能に支持されており、ボビンBの表面又はパッケージPの表面を巻取ドラム22の表面に適切な圧力で接触させる。第2エンドフレーム5に設けられた駆動モータ(図示省略)が、複数の紡績ユニット2の巻取ドラム22を一斉に駆動する。これにより、各紡績ユニット2において、ボビンB又はパッケージPが巻取方向に回転させられる。各紡績ユニット2のトラバースガイド23は、複数の紡績ユニット2により共有されるシャフト25に設けられている。第2エンドフレーム5の駆動モータがシャフト25を巻取ドラム22の回転軸方向に往復駆動することによって、回転するボビンB又はパッケージPに対してトラバースガイド23が糸Yを所定幅でトラバースする。なお、各巻取ドラム22を駆動するモータ、各トラバースガイド23を駆動するモータが各巻取装置13に設けられていてもよい。この場合、第2エンドフレーム5の駆動モータは省略してもよい。
【0046】
糸継台車3は、ある紡績ユニット2において糸Yが切断されたり、何らかの理由によって糸Yが切れたりした場合、当該紡績ユニット2まで走行して、糸継動作を行う。糸継台車3は、糸継装置26と、サクションパイプ(第一捕捉装置)27と、サクションマウス(第二捕捉装置)28と、を有している。
【0047】
サクションパイプ27は、支軸27Aによって回動可能に支持されており、空気紡績装置7からの糸Y(第一糸)を捕捉して糸継装置26に案内する。サクションパイプ27は、糸Yを捕捉する捕捉位置と、糸Yを糸継装置26に案内する案内位置(待機位置)と、に移動可能に設けられている。
【0048】
サクションマウス28は、支軸28Aによって回動可能に支持されており、巻取装置13からの糸Y(第二糸)を捕捉して糸継装置26に案内する。サクションマウス28は、糸Yを捕捉する捕捉位置と、糸Yを糸継装置26に案内する案内位置(待機位置)と、に移動可能に設けられている。サクションマウス28の代わりに、あるいはサクションマウス28に加えて、各紡績ユニット2は糸貯留装置11よりも下流に固定的な配置された捕捉装置(第二捕捉装置)を備えてもよい。当該補足装置は、糸切れ等が発生した場合、パッケージP側の糸Yを捕捉し、糸Yを糸継装置26に案内された状態にする。
【0049】
糸継装置26は、案内された糸Y同士の糸継ぎを行う。糸継装置26は、圧縮空気を用いるスプライサ、又は糸Yを機械的に継ぐノッター等である。
【0050】
続いて、空気紡績装置7において糸出し紡績を行うときの、紡績機1の動作について説明する。
【0051】
ユニットコントローラ10は、空気紡績装置7における糸出し紡績時において、IDR及びBDRが通常紡績時と同じ比率になるようにすると共に、MDRが通常紡績時とは異なる比率になるように、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの回転駆動を制御する。すなわち、ユニットコントローラ10は、糸出し紡績時においては、MDRのみで糸Yの番手の変更を行うように、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの回転駆動を制御する。番手の変更は、太番手化又は細番手化である。糸出し紡績時とは、糸出し紡績の動作を開始してから終了するまでの期間のことであり、糸出し紡績中のことである。
【0052】
具体的には、ユニットコントローラ10は、糸出し紡績時において、例えば、糸Yの番手が細番手(例えば、「Ne20」から「Ne30」)になるように、MDRを変更(設定)する。この場合、ユニットコントローラ10は、例えば、通常紡績時におけるMDRが「30」である場合、糸出し紡績時にはMDRが「45」となるように、フロントローラ対17の回転駆動を制御する。糸出し紡績時における糸Yの番手は、機台制御装置5Aにおいて予め設定されている。
【0053】
ユニットコントローラ10は、糸出し紡績時のバックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの周速度が通常紡績時の周速度よりも低くなるように、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの回転駆動を制御する。より具体的には、ユニットコントローラ10は、第一モータ32と、第二モータ33と、第三モータ34と、第四モータ35の回転駆動を制御する。ユニットコントローラ10は、例えば、通常紡績時においてドラフト装置6から送り出される繊維束Sの速度が600m/分である場合、糸出し紡績時においてドラフト装置6から送り出される繊維束Sの速度が300m/分になるように、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの回転駆動を制御する。
【0054】
ユニットコントローラ10は、糸出し紡績の後、糸Yの番手が通常紡績時の番手になるように、MDRを変更する。また、ユニットコントローラ10は、糸出し紡績の後、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの周速度を通常紡績時の周速度まで加速させる。すなわち、ユニットコントローラ10は、ドラフト装置6から送り出される繊維束Sの速度が600m/分となるように、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17の回転駆動を制御する。ユニットコントローラ10は、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれを同期させて加速させる。すなわち、ユニットコントローラ10は、IDR及びBDRに変更が生じないように、バックローラ対14、サードローラ対15及びミドルローラ対16を同期して加速させる。
【0055】
ドラフト装置6では、ミドルローラ対16とサードローラ対15との間の繊維束Sの幅(第一幅)は、糸出し紡績時と通常紡績時とで同等である。すなわち、ドラフト装置6では、糸出し紡績時及び通常紡績時において、ミドルローラ対16とサードローラ対15との間の繊維束Sの幅は変化しない。繊維束Sの幅は、サードローラ対15及びミドルローラ対16の回転軸方向における寸法であり、繊維束Sの繊維の本数に相当する。繊維束Sの幅は、オペレータの目視によっても確認することができる。
【0056】
ドラフト装置6では、サードローラ対15とバックローラ対14との間の繊維束Sの幅(第二幅)は、糸出し紡績時と通常紡績時とで同等である。すなわち、ドラフト装置6では、糸出し紡績時及び通常紡績時において、サードローラ対15とバックローラ対14との間の繊維束Sの幅は変化しない。なお、本実施形態において「同等」とは、等しいことに加えて、予め設定した範囲での微差等を含んだ値を同等としてもよい。
【0057】
空気紡績装置7が糸出し紡績により生成した糸Yは、サクションパイプ27によって糸継装置26に案内される。フロントローラ対17が糸出し紡績時の周速度から通常紡績時の周速度まで加速が完了すると、糸継装置26は糸継ぎを行う。より詳細には、サクションパイプ27が案内位置に位置し(到達し)、異番手除去動作時間(所定時間)の経過後、糸継装置26は糸継ぎを開始する。異番手除去動作時間は、糸出し紡績時において通常紡績時とは異なる番手を有するように生成された糸Yを、サクションパイプ27によって除去(吸引)するために要する時間である。異番手除去動作時間は、ドラフト装置6から送り出される繊維束Sの速度に基づいて設定される。異番手除去動作時間は、例えば、ドラフト装置6から送り出される繊維束S速度が600m/分である場合には、1秒未満である。すなわち、ドラフト装置6から送り出される繊維束Sの速度が600m/分である場合には、サクションパイプ27が案内位置に位置してから1秒未満で、糸継装置26は糸継ぎを開始する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る紡績機1では、糸出し紡績時において、IDR及びBDRが通常紡績時と同じ比率になるようにすると共に、MDRが通常紡績時とは異なる比率になるように制御する。すなわち、フロントローラ対17とミドルローラ対16との間において繊維束Sの番手を変更する。糸出し紡績時と通常紡績時とで、ミドルローラ対16からバックローラ対14の間においては繊維束Sの番手は維持される。これにより、紡績機1では、通常紡績を開始する前に、フロントローラ対17とミドルローラ対16との間に存在していた繊維束Sから生成された糸Yのみを除去すればよい。そのため、紡績機1では、糸出し紡績の際に発生する屑糸の量の低減を図ることができる。
【0059】
また、紡績機1では、屑糸の量を低減できるため、サクションパイプ27が糸Yを除去する時間の短縮が図れる。そのため、サクションパイプ27が糸Yを捕捉した後、糸継装置26が糸継ぎを直ぐに開始することができる。したがって、紡績機1では、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0060】
紡績機1では、IDRを1.2倍以上3.0倍以下とし、MDRを15倍以上60倍以下としている。このように、MDRはIDRに対して15倍程度の倍率を有しているため、糸出し紡績時においてMDRを変更したとしても、IDRが1.0倍に近づくことを回避できる。IDRが1.0倍に近づくと、繊維において波打つ現象が発生するおそれがある。紡績機1では、このような現象が発生することを回避できる。
【0061】
本実施形態に係る紡績機1では、ユニットコントローラ10は、糸出し紡績時のフロントローラ対17、ミドルローラ対16、サードローラ対15及びバックローラ対14の周速度が通常紡績時の周速度よりも低くなるように、フロントローラ対17、ミドルローラ対16、サードローラ対15及びバックローラ対14の回転駆動を制御する。この構成では、消費される繊維束Sの量を低減することができる。
【0062】
本実施形態に係る紡績機1では、ユニットコントローラ10は、糸出し紡績の後、ミドルローラ対16、サードローラ対15及びバックローラ対14を、通常紡績時の周速度まで同期して加速させる。この構成では、ミドルローラ対16、サードローラ対15及びバックローラ対14を同期して加速させるため、糸出し紡績から通常紡績に移行するときに、IDR及びBDRが変化しない。すなわち、紡績機1では、糸出し紡績中、加速中、通常紡績中の全ての期間にわたって、IDR及びBDRを一定に維持することができる。そのため、糸出し紡績中及び加速中にミドルローラ対16からバックローラ対14の間にある繊維束Sを破棄することなく、当該繊維束Sを用いて糸Yを生成することができる。したがって、屑糸の量の低減を図ることができる。
【0063】
本実施形態に係る紡績機1では、ミドルローラ対16とサードローラ対15との間の繊維束Sの幅を第一幅、サードローラ対15とバックローラ対14との間の繊維束Sの幅を第二幅と定義した場合、第一幅と第二幅とは、糸出し紡績時と通常紡績時とで同等である。紡績機1では、糸出し紡績時におけるIDR及びBDRが通常紡績時と同じ比率であるため、繊維束Sの第一幅と第二幅とは、糸出し紡績時と通常紡績時とにおいて、同等となる。このように、紡績機1では、繊維束Sの第一幅が変化しないため、規制部37の幅を狭くしたとしても、繊維が規制部37に詰まることを回避できる。規制部37の幅が狭い場合、糸Yの均整度が良くなる。
【0064】
本実施形態に係る紡績機1では、ユニットコントローラ10は、糸出し紡績の後、フロントローラ対17、ミドルローラ対16、サードローラ対15及びバックローラ対14のそれぞれを通常紡績時の周速度まで加速させる。フロントローラ対17において通常紡績時の周速度までの加速が完了すると、糸継装置26は糸継ぎを行う。紡績機1では、糸出し紡績時と紡績動作時とで、フロントローラ対17とミドルローラ対16との間において番手を変更するが、ミドルローラ対16からバックローラ対14の間においては繊維束Sの番手は維持される。このため、フロントローラ対17が通常紡績時の周速度まで加速した時点で、糸継装置26が糸継ぎを行うことができる。したがって、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0065】
本実施形態に係る紡績機1では、サクションパイプ27が案内位置に位置すると、異番手除去動作時間の経過後、糸継装置26は糸継ぎを開始する。異番手除去動作時間は、例えば、ドラフト装置6から送り出される繊維束Sの速度が600m/分である場合には、1秒未満である。すなわち、ドラフト装置6から送り出される繊維束Sの速度が600m/分である場合には、サクションパイプ27が案内位置に位置してから(糸継装置26へ糸Yを案内してから)1秒未満で、糸継装置26は糸継ぎを開始する。したがって、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0067】
上記実施形態では、一つのモータにより一つのドラフトローラを回転駆動する形態を一例に説明した。しかし、一つのモータにより複数のドラフトローラを回転駆動させてもよい。例えば、バックローラ対14とサードローラ対15とを、一つのモータにより回転駆動させてもよい。
【0068】
上記実施形態では、ユニットコントローラ10が、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの周速度が糸出し紡績時に通常紡績時よりも低くなるように、バックローラ対14、サードローラ対15、ミドルローラ対16及びフロントローラ対17のそれぞれの回転駆動を制御する形態を一例に説明した。しかし、糸出し紡績時において、周速度を低下させなくてもよい。すなわち、糸出し紡績時には、MDRのみを変更すればよい。
【0069】
上記実施形態では、ユニットコントローラ10がドラフト装置6の動作を制御する形態を一例に説明した。しかし、ドラフト装置6は、機台制御装置5Aによって動作が制御されてもよい。
【0070】
上記実施形態では、紡績ユニット2では、糸貯留装置11が空気紡績装置7から糸Yを引き出す機能を有していたが、デリベリローラとニップローラとにより空気紡績装置7から糸Yが引き出されてもよい。デリベリローラとニップローラとにより空気紡績装置7から糸Yを引き出す場合、糸貯留装置11の代わりに、あるいは糸貯留装置11に加えて、吸引空気流により糸Yの弛みを吸収するスラックチューブ及び/又は機械的なコンペンセータ等を設けてもよい。
【0071】
上記実施形態の紡績機1では、機台高さ方向において、上側から供給された糸Yが下側で巻き取られるように各装置が配置されていた。しかし、下側から供給された糸Yが上側で巻き取られるように各装置が配置されていてもよい。
【0072】
上記実施形態では、糸継動作に関連する装置(糸継装置26、サクションパイプ27、サクションマウス28)が糸継台車3に設けられている形態を一例に説明した。しかし、糸継動作に関連する装置の少なくとも1つが、糸継台車3ではなく、各紡績ユニット2に設けられていてもよい。
【0073】
上記実施形態では、糸Yの走行方向において、テンションセンサ9が糸監視装置8よりも上流側に配置されてもよい。ユニットコントローラ10は、紡績ユニット2ごとに設けられてもよい。紡績ユニット2において、ワキシング装置12、テンションセンサ9及び糸監視装置8は、省略されてもよい。
【0074】
上記実施形態では、紡績機1は、チーズ形状のパッケージPを巻き取るように図示(図1参照)されているが、コーン形状のパッケージPを巻き取ることも可能である。コーン形状のパッケージPの場合、糸Yのトラバースにより糸Yの弛みが発生するが、当該弛みは、糸貯留装置11により吸収することができる。
【0075】
各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。上記の各数値は、設計上、製造上及び計測上等の少なくとも何れかの誤差を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…紡績機、6…ドラフト装置、7…空気紡績装置、10…ユニットコントローラ(制御装置)、13…巻取装置、14…バックローラ対(第四ローラ対)、15…サードローラ対(第三ローラ対)、16…ミドルローラ対(第二ローラ対)、17…フロントローラ対(第一ローラ対)、26…糸継装置、27…サクションパイプ(第一捕捉装置)、28…サクションマウス(第二捕捉装置)、S…繊維束、Y…糸(第一糸、第二糸)。
図1
図2
図3
図4
図5