(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010936
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】極低温システムおよび極低温システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
F25B 9/14 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
F25B9/14 530Z
F25B9/14 510B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112546
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴士
(57)【要約】
【課題】極低温システムを効率的に冷却する。
【解決手段】極低温システム100は、極低温冷凍機10およびコントローラ60を備える。極低温冷凍機10は、第1シリンダ16aと、軸方向中間部に熱源と熱的に接続される吸熱部46を備える第2シリンダ16bと、第2シリンダ16bの一方の軸方向端部で温度を測定する第1温度センサ51と、第2シリンダ16bの他方の軸方向端部で温度を測定する第2温度センサ52と、吸熱部46で温度を測定する第3温度センサ53とを備える。コントローラ60は、第1温度センサ51から第1測定温度を、第2温度センサ52から第2測定温度を、および第3温度センサ53から第3測定温度を取得し、第1測定温度、第2測定温度、および吸熱部46の軸方向位置に基づいて、吸熱部46の上限温度を設定し、第3測定温度が吸熱部46の上限温度以下となるように熱源を制御するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シリンダと、
軸方向に前記第1シリンダと直列に設けられる第2シリンダであって、その軸方向中間部に熱源と熱的に接続される吸熱部を備える第2シリンダと、
前記第1シリンダに近い前記第2シリンダの一方の軸方向端部で第1測定温度を測定する第1温度センサと、
前記第1シリンダから遠い前記第2シリンダの他方の軸方向端部で第2測定温度を測定する第2温度センサと、
前記吸熱部で第3測定温度を測定する第3温度センサと、を備える極低温冷凍機と、
前記第1温度センサから前記第1測定温度を、前記第2温度センサから前記第2測定温度を、および前記第3温度センサから前記第3測定温度を取得し、
前記第1測定温度、前記第2測定温度、および前記吸熱部の軸方向位置に基づいて、前記吸熱部の上限温度を設定し、
前記第3測定温度が前記吸熱部の上限温度以下となるように前記熱源を制御するように構成されるコントローラと、を備えることを特徴とする極低温システム。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記第2シリンダの前記一方の軸方向端部で前記第1測定温度を有しかつ前記第2シリンダの前記他方の軸方向端部で前記第2測定温度を有するとともに、前記第2シリンダにおける軸方向位置に依存して直線的に変化する前記第2シリンダの基準温度分布を決定し、
前記基準温度分布および前記吸熱部の軸方向位置に基づいて、前記吸熱部の上限温度を設定するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の極低温システム。
【請求項3】
前記第2シリンダの前記一方の軸方向端部は、前記熱源の第1部分と熱的に接続され、
前記第2シリンダの前記他方の軸方向端部は、前記熱源の第2部分と熱的に接続され、
前記吸熱部は、前記第1部分と前記第2部分を接続する前記熱源の第3部分と熱的に接続されることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温システム。
【請求項4】
前記熱源は、前記第1部分、前記第3部分、および前記第2部分をこの記載の順に経由する冷媒ガスラインを備え、
前記コントローラは、前記第3測定温度が前記上限温度以下となるように前記冷媒ガスラインの冷媒ガス流量を制御するように構成されることを特徴とする請求項3に記載の極低温システム。
【請求項5】
前記熱源は、前記第1部分、前記第3部分、および前記第2部分をこの記載の順に経由する電流リードを備え、
前記コントローラは、前記第3測定温度が前記上限温度以下となるように前記電流リードの電流を制御するように構成されることを特徴とする請求項3に記載の極低温システム。
【請求項6】
極低温システムの制御方法であって、前記極低温システムは、軸方向に直列に設けられた第1シリンダおよび第2シリンダを備える極低温冷凍機を備え、前記第2シリンダは、その軸方向中間部に熱源と熱的に接続される吸熱部を備えており、前記方法は、
前記第1シリンダに近い前記第2シリンダの一方の軸方向端部で第1測定温度を測定することと、
前記第1シリンダから遠い前記第2シリンダの他方の軸方向端部で第2測定温度を測定することと、
前記吸熱部で第3測定温度を測定することと、
前記第1測定温度、前記第2測定温度、および前記吸熱部の軸方向位置に基づいて、前記吸熱部の上限温度を設定することと、
前記第3測定温度が前記吸熱部の上限温度以下となるように前記熱源を制御することと、を備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温システムおよび極低温システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機に代表される極低温冷凍機が知られている。極低温冷凍機は、さまざまな極低温システムの冷却に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温システムを効率的に冷却することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様によると、極低温システムは、極低温冷凍機およびコントローラを備える。極低温冷凍機は、第1シリンダと、軸方向に第1シリンダと直列に設けられる第2シリンダであって、その軸方向中間部に熱源と熱的に接続される吸熱部を備える第2シリンダと、第1シリンダに近い第2シリンダの一方の軸方向端部で第1測定温度を測定する第1温度センサと、第1シリンダから遠い第2シリンダの他方の軸方向端部で第2測定温度を測定する第2温度センサと、吸熱部で第3測定温度を測定する第3温度センサと、を備える。コントローラは、第1温度センサから第1測定温度を、第2温度センサから第2測定温度を、および第3温度センサから第3測定温度を取得し、第1測定温度、第2測定温度、および吸熱部の軸方向位置に基づいて、吸熱部の上限温度を設定し、第3測定温度が吸熱部の上限温度以下となるように熱源を制御するように構成される。
【0006】
本発明のある態様によると、極低温システムの制御方法が提供される。極低温システムは、軸方向に直列に設けられた第1シリンダおよび第2シリンダを備える極低温冷凍機を備え、第2シリンダは、その軸方向中間部に熱源と熱的に接続される吸熱部を備える。方法は、第1シリンダに近い第2シリンダの一方の軸方向端部で第1測定温度を測定することと、第1シリンダから遠い第2シリンダの他方の軸方向端部で第2測定温度を測定することと、吸熱部で第3測定温度を測定することと、第1測定温度、第2測定温度、および吸熱部の軸方向位置に基づいて、吸熱部の上限温度を設定することと、第3測定温度が吸熱部の上限温度以下となるように熱源を制御することと、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極低温システムを効率的に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る極低温システムを概略的に示す図である。
【
図2】
図1に示される極低温システムに適用しうる極低温冷凍機を概略的に示す図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、実施の形態に係り、本発明者による実験結果を示すグラフである。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、実施の形態に係り、本発明者による実験結果を示すグラフである。
【
図5】実施の形態に係る極低温システムの制御方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図5に示される冷媒ガスラインの制御処理(S30)の一例を示すフローチャートである。
【
図7】他の実施の形態に係る極低温システムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る極低温システム100を概略的に示す図である。
図2は、
図1に示される極低温システム100に適用しうる極低温冷凍機10を概略的に示す図である。極低温冷凍機10の外観が
図1に示され、極低温冷凍機10の内部構造が
図2に示されている。極低温冷凍機10は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。
【0012】
この実施の形態では、極低温システム100は、極低温液体貯蔵装置として利用されうる。そこで、極低温冷凍機10に加えて、極低温システム100は、例えば液体ヘリウムまたはそのほかの極低温液体102を貯蔵するための真空容器110を備える。極低温冷凍機10によって、貯蔵される極低温液体102がその液化温度(液体ヘリウムの場合、約4K)以下の極低温に冷却される。
【0013】
真空容器110は、外槽112および内槽114を備える。外槽112と内槽114との間には真空断熱層116が形成され、外槽112は、極低温システム100の周囲環境(例えば、室温大気圧環境)から真空断熱層116を隔てるように構成される。真空断熱層116には、例えば多層断熱材(multilayer insulation(MLI))などの断熱構造が設けられてもよい。また、内槽114は、その内部に極低温液体102を収容するとともに、極低温液体102を真空断熱層116から隔てるように構成される。外槽112および内槽114は、内外の圧力差に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。
【0014】
極低温冷凍機10は、圧縮機12と、膨張機14とを備える。圧縮機12は、極低温冷凍機10の作動ガスを膨張機14から回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスを膨張機14に供給するよう構成されている。作動ガスは、冷媒ガスとも称され、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。
【0015】
膨張機14は、冷凍機シリンダ16と、ディスプレーサ組立体18と、冷凍機ハウジング20とを備える。冷凍機ハウジング20は、冷凍機シリンダ16と結合され、それにより、ディスプレーサ組立体18を収容する気密容器が構成される。冷凍機シリンダ16および冷凍機ハウジング20は、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。
【0016】
膨張機14は、冷凍機シリンダ16が真空容器110の内槽114に挿入され冷凍機ハウジング20が真空容器110の外側に取り付けられた状態で真空容器110に設置されている。一例として、膨張機14は、その中心軸を鉛直方向に一致させるようにして真空容器110の上部に設置される。しかし、膨張機14の取付場所および取付姿勢はこれに限られない。例えば、膨張機14は、真空容器110の下部に設置されてもよい。また、膨張機14は、所望される姿勢で設置可能であり、中心軸を斜め方向または水平方向に一致させるようにして真空容器110に設置されてもよい。
【0017】
冷凍機シリンダ16は、軸方向(
図1および
図2においては上下方向)に延在する第1シリンダ16aおよび第2シリンダ16bを有する。第2シリンダ16bは、軸方向に第1シリンダ16aと直列に設けられている。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ16bが第1シリンダ16aよりも小径である。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは同軸に配置され、第1シリンダ16aの下端が第2シリンダ16bの上端に剛に連結されている。
【0018】
ディスプレーサ組立体18は、第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bとを有する。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2ディスプレーサ18bが第1ディスプレーサ18aよりも小径である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは同軸に配置されている。
【0019】
第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに収容され、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに収容されている。第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに沿って軸方向に往復移動可能であり、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに沿って軸方向に往復移動可能である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは互いに連結され、一体に移動する。
【0020】
本書では、極低温冷凍機10の構成要素間の位置関係を説明するために、便宜上、ディスプレーサの軸方向往復動の上死点に近い側を「上」、下死点に近い側を「下」と表記することとする。上死点は膨張空間の容積が最大となるディスプレーサの位置であり、下死点は膨張空間の容積が最小となるディスプレーサの位置である。極低温冷凍機10の運転時には軸方向上方から下方へと温度が下がる温度勾配が生じるので、上側を高温側、下側を低温側と呼ぶこともできる。
【0021】
第1ディスプレーサ18aは、第1蓄冷器26を収容する。第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの筒状の本体部の中に、例えば銅などの金網またはその他適宜の第1蓄冷材を充填することによって形成されている。第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は第1ディスプレーサ18aの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第1蓄冷材が第1ディスプレーサ18aに収容されてもよい。
【0022】
同様に、第2ディスプレーサ18bは、第2蓄冷器28を収容する。第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの筒状の本体部の中に、例えばビスマスなどの非磁性蓄冷材、HoCu2などの磁性蓄冷材、またはその他適宜の第2蓄冷材を充填することによって形成されている。第2蓄冷材は粒状に成形されていてもよい。第2ディスプレーサ18bの上蓋部および下蓋部は第2ディスプレーサ18bの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第2ディスプレーサ18bの上蓋部の下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第2蓄冷材が第2ディスプレーサ18bに収容されてもよい。
【0023】
ディスプレーサ組立体18は、上部室30、第1膨張室32、第2膨張室34を冷凍機シリンダ16の内部に形成する。極低温冷凍機10によって冷却すべき所望の物体または媒体との熱交換のために、膨張機14は、第1冷却ステージ33と第2冷却ステージ35を備える。上部室30は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部と第1シリンダ16aの上部との間に形成される。第1膨張室32は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部と第1冷却ステージ33との間に形成される。第2膨張室34は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部と第2冷却ステージ35との間に形成される。第1冷却ステージ33は、第1膨張室32を取り囲むように第1シリンダ16aの下部に固着され、第2冷却ステージ35は、第2膨張室34を取り囲むように第2シリンダ16bの下部に固着されている。第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35は、例えば純銅(例えば、無酸素銅、タフピッチ銅など)、または他の高熱伝導金属で形成される。
【0024】
第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に形成された作動ガス流路36aを通じて上部室30に接続され、第1ディスプレーサ18aの下蓋部に形成された作動ガス流路36bを通じて第1膨張室32に接続されている。第2蓄冷器28は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部から第2ディスプレーサ18bの上蓋部へと形成された作動ガス流路36cを通じて第1蓄冷器26に接続されている。また、第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部に形成された作動ガス流路36dを通じて第2膨張室34に接続されている。
【0025】
第1膨張室32、第2膨張室34と上部室30との間の作動ガス流れが、冷凍機シリンダ16とディスプレーサ組立体18との間のクリアランスではなく、第1蓄冷器26、第2蓄冷器28に導かれるようにするために、第1シール38a、第2シール38bが設けられていてもよい。第1シール38aは、第1ディスプレーサ18aと第1シリンダ16aとの間に配置されるように第1ディスプレーサ18aの上蓋部に装着されてもよい。第2シール38bは、第2ディスプレーサ18bと第2シリンダ16bとの間に配置されるように第2ディスプレーサ18bの上蓋部に装着されてもよい。
【0026】
また、膨張機14は、圧力切替バルブ40と、駆動モータ42とを備える。圧力切替バルブ40は、冷凍機ハウジング20に収容され、駆動モータ42は、冷凍機ハウジング20に取り付けられている。
【0027】
図2に示されるように、圧力切替バルブ40は、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bを備え、冷凍機シリンダ16内に周期的圧力変動を発生させるように構成されている。圧縮機12の作動ガス吐出口が高圧バルブ40aを介して上部室30に接続され、圧縮機12の作動ガス吸入口が低圧バルブ40bを介して上部室30に接続されている。高圧バルブ40aと低圧バルブ40bは、選択的かつ交互に開閉するように(すなわち、一方が開いているとき他方が閉じるように)構成されている。高圧(例えば2~3MPa)の作動ガスが圧縮機12から高圧バルブ40aを通じて膨張機14に供給され、低圧(例えば0.5~1.5MPa)の作動ガスが膨張機14から低圧バルブ40bを通じて圧縮機12に回収される。理解のために、作動ガスの流れる方向を
図2に矢印で示す。
【0028】
駆動モータ42は、ディスプレーサ組立体18の往復動を駆動するために設けられている。駆動モータ42は、たとえばスコッチヨーク機構などの運動変換機構43を介してディスプレーサ駆動軸44に連結されている。運動変換機構43は、圧力切替バルブ40と同様に、冷凍機ハウジング20に収容されている。ディスプレーサ駆動軸44は、運動変換機構43から冷凍機ハウジング20を貫通して上部室30の中へと延び、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に固定されている。上部室30から冷凍機ハウジング20(上述のように低圧に維持されている場合がある)への作動ガスのリークを防ぐために、第3シール38cが設けられている。第3シール38cは、冷凍機ハウジング20とディスプレーサ駆動軸44との間に配置されるように冷凍機ハウジング20に装着されてもよい。
【0029】
駆動モータ42が駆動されるとき、駆動モータ42の回転出力は運動変換機構43によってディスプレーサ駆動軸44の軸方向往復動に変換され、ディスプレーサ組立体18は冷凍機シリンダ16内を軸方向に往復する。また、駆動モータ42は、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bを選択的かつ交互に開閉するようにこれらバルブに連結されている。
【0030】
極低温冷凍機10は、圧縮機12および駆動モータ42が運転されるとき、第1膨張室32および第2膨張室34において周期的な容積変動とこれに同期した作動ガスの圧力変動を発生させ、それにより冷凍サイクルが構成され、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35が所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ33は、例えば約20K~約40Kの範囲にある第1冷却温度に冷却されることができる。第2冷却ステージ35は、第1冷却温度より低い第2冷却温度(例えば、約1K~約4K)に冷却されることができる。
【0031】
ところで、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35に加えて、膨張機14は、冷凍機シリンダ16上、例えば第2シリンダ16bの軸方向中間部でも吸熱できることが知られている。このような吸熱部46は、冷凍機シリンダ16、例えば第2シリンダ16b上の軸方向温度分布および吸熱部46の軸方向位置に基づく冷却温度に冷却され、この冷却温度でいくらかの冷凍能力を提供することができる。吸熱部46の冷却温度は、第1冷却ステージ33の第1冷却温度と第2冷却ステージ35の第2冷却温度の間の温度となる。吸熱部46は、第2シリンダ16b上の規格化軸方向位置(つまり、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35それぞれの位置を0、1とする無次元の軸方向位置)で、例えば1/4から3/4の範囲にあってもよい。
【0032】
極低温冷凍機10の一般的な利用シーンでは、被冷却物は望まれる冷却温度に応じて第1冷却ステージ33または第2冷却ステージ35のいずれかに熱的に接続されて冷却される。第2シリンダ16b上の吸熱部46には何も接続されず、吸熱部46の冷凍能力は利用されていない。
【0033】
もし、2つの冷却ステージに加えて吸熱部46の冷凍能力も利用することができれば、これは極低温システム100のより効率的な冷却につながりうる。しかし、吸熱部46への入熱は、冷却ステージ、例えば第2冷却ステージ35の冷却温度に影響を与えうる(吸熱部46への大きな入熱は、第2冷却ステージ35の昇温をもたらしうる。)。通例、極低温システム100では、被冷却物を所望冷却温度に維持するうえで、冷却ステージ温度が予め定めた限界の温度を超えないように極低温冷凍機10を動作させることが要請される。吸熱部46を利用した冷却がこれまで利用されていないのは、吸熱部46への入熱に伴う冷却ステージの昇温のリスクが懸念されるためである。
【0034】
本発明者は、詳しくは以下に述べるように、吸熱部46の温度をある上限温度以下に保つことによって、第2冷却ステージ35の昇温を防止し又は最小限にとどめることができることを見出した。このような観点から、この実施の形態では、極低温システム100は、熱源(つまり被冷却物)から吸熱部46への入熱を最適化するように熱源を制御するように構成される。入熱の最適化は、吸熱部46の温度を上限温度以下に保つことによって実現される。
【0035】
図3(a)および
図3(b)は、実施の形態に係り、本発明者による実験結果を示すグラフである。この実験では、吸熱部46への入熱を模擬するためのヒーターが吸熱部46に設置される。ヒーターの位置、言い換えれば吸熱部46の位置は、軸方向中央よりもわずかに低温側、具体的には第2シリンダ16b上の規格化軸方向位置(上述のように第1冷却ステージ33を0、第2冷却ステージ35を1とする)で約0.54にある。また、第2冷却ステージ35にも熱負荷(例えば1.5Wの定格熱負荷)を与えるためにヒーターが設置される。極低温冷凍機10は、第2冷却ステージ35に定格熱負荷を与えながら第1冷却ステージ33を一定の温度(例えば43K)に維持するように運転される。
【0036】
図3(a)には、吸熱部46への入熱を表す規格化ヒーター出力と第2冷却ステージ35の温度上昇との関係が示される。第2冷却ステージ35の温度上昇は、第2冷却ステージ35の目標冷却温度(例えば4K)に対する温度上昇を表す。
図3(b)には、第2シリンダ16b上の規格化軸方向位置と温度の関係、すなわち第2シリンダ16b上の軸方向温度分布が規格化ヒーター出力に応じてどのように変化するかが示される。
図3(a)および
図3(b)では、規格化ヒーター出力がゼロ(つまり、吸熱部46への入熱が無い)場合の温度測定結果が丸記号で示され、さらに、規格化ヒーター出力が0.085、0.31、0.45の場合の温度測定結果がそれぞれ、四角、三角、菱形の記号で示されている。
【0037】
図3(a)を参照すると、規格化ヒーター出力がゼロのとき第2冷却ステージ35の温度上昇は0Kであり(丸記号)、規格化ヒーター出力が0.085、0.31、0.45と増えるにつれて第2冷却ステージ35の温度上昇も大きくなることがわかる(四角、三角、菱形の記号)。具体的には、規格化ヒーター出力が0.085で温度上昇は約0.04K(四角記号)、規格化ヒーター出力が0.31で温度上昇は約0.09K(三角記号)、規格化ヒーター出力が0.45で温度上昇は約0.17K(菱形記号)である。
【0038】
本発明者の知識および経験に基づけば、第2冷却ステージ35の目標冷却温度が約4Kとされる例えば液体ヘリウム冷却など極低温冷凍機10のいくつかの用途では、多くの場合、第2冷却ステージ35の温度上昇の許容値は、約0.1Kまでとすることが望ましく、最大でも約0.2Kまでとすることが求められる。
【0039】
図3(a)において破線で示される規格化ヒーター出力しきい値Th1がひとつの重要な境界を表していることが、
図3(a)から理解される。吸熱部46への入熱がこのしきい値Th1を下回れば、第2冷却ステージ35の温度上昇は、約0.1K以内の比較的小さな値に抑えられる。一方、吸熱部46への入熱がこのしきい値Th1を超えると、第2冷却ステージ35の温度上昇は、様相が変わり、規格化ヒーター出力の増加に連動して比例的に大きくなり、容易に0.2Kを超えてしまう。
【0040】
図3(b)を参照すると、規格化ヒーター出力と吸熱部46の温度(約0.54の規格化軸方向位置での温度)との関係を把握することができる。規格化ヒーター出力がゼロのとき吸熱部46の温度は約8Kであり(丸記号)、規格化ヒーター出力が0.085、0.31、0.45と増えるにつれて吸熱部46の温度も高まることがわかる(四角、三角、菱形の記号)。より具体的には、規格化ヒーター出力が0.085で吸熱部46の温度は約13K(四角記号)、規格化ヒーター出力が0.31で吸熱部46の温度は約20K(三角記号)、規格化ヒーター出力が0.45で吸熱部46の温度は約24K(菱形記号)である。
【0041】
図3(b)に示される破線L1は、第1冷却ステージ33の測定温度と第2冷却ステージ35の測定温度を結ぶ直線を表す。
図3(a)および
図3(b)から、重要なことに、規格化ヒーター出力しきい値Th1での吸熱部46の温度は、この直線L1上またはその近傍(
図3(b)で四角記号と三角記号の間)に位置することがわかる。
【0042】
このことから、吸熱部46への入熱が大きく(つまりしきい値Th1を超え)、その結果吸熱部46の温度がこの直線L1またはその近傍の上限温度を超える場合には、吸熱部46への入熱に起因して第2冷却ステージ35に顕著な温度上昇が起こりうることになる。また、吸熱部46への入熱が、吸熱部46の温度がこの上限温度を超えないような大きさである場合には、吸熱部46への入熱に起因する第2冷却ステージ35の温度上昇は、実質的に起こらないか、許容範囲内(例えば、0.2K以内、または好ましくは0.1K以内)に収まりうる。
【0043】
図4(a)および
図4(b)は、実施の形態に係り、本発明者による実験結果を示すグラフである。
図4(a)および
図4(b)に示される実験結果は、
図3(a)および
図3(b)の実験結果とは吸熱部46の軸方向位置を変えて取得したものであり、そのほかの実験条件は共通である。
図4(a)および
図4(b)では、吸熱部46の位置は、
図3(a)および
図3(b)に比べて高温側、具体的には第2シリンダ16b上の規格化軸方向位置で約0.35にある。
【0044】
図4(a)には、
図3(a)と同様に、吸熱部46への入熱を表す規格化ヒーター出力と第2冷却ステージ35の温度上昇との関係が示される。
図4(b)には、
図3(b)と同様に、第2シリンダ16b上の規格化軸方向位置と温度の関係が示される。
図4(a)および
図4(b)では、規格化ヒーター出力がゼロ(つまり、吸熱部46への入熱が無い)場合の温度測定結果が丸記号で示され、さらに、規格化ヒーター出力が0.31、0.55、0.72の場合の温度測定結果がそれぞれ、四角、三角、菱形の記号で示されている。
【0045】
図4(a)を参照すると、規格化ヒーター出力がゼロのとき第2冷却ステージ35の温度上昇は無く(丸記号)、規格化ヒーター出力が増えるにつれて第2冷却ステージ35の温度上昇も大きくなることがわかる。具体的には、規格化ヒーター出力が0.31で温度上昇は約0.02K(四角記号)、規格化ヒーター出力が0.55で温度上昇は約0.07K(三角記号)、規格化ヒーター出力が0.72で温度上昇は約0.09K(菱形記号)である。
図4(a)では、
図3(a)に比べて吸熱部46が高温側にあるため、吸熱部46への入熱増加による第2冷却ステージ35の温度上昇は弱まる。
【0046】
図4(a)においても、破線で示される規格化ヒーター出力しきい値Th2が重要な境界となっている。吸熱部46への入熱がこのしきい値Th2を下回れば、第2冷却ステージ35の温度上昇は、約0.02K以内のごく小さな値に抑えられる。一方、吸熱部46への入熱がこのしきい値Th2を超えると、第2冷却ステージ35の温度上昇は、様相が変わり、規格化ヒーター出力に応じて比例的に大きくなる。
【0047】
図4(b)を参照すると、規格化ヒーター出力と吸熱部46の温度(約0.35の規格化軸方向位置での温度)との関係を把握できる。規格化ヒーター出力がゼロのとき吸熱部46の温度は約16Kであり(丸記号)、規格化ヒーター出力が増えるにつれて吸熱部46の温度も高まる。具体的には、規格化ヒーター出力が0.31で吸熱部46の温度は約27K(四角記号)、規格化ヒーター出力が0.55で吸熱部46の温度は約33K(三角記号)、規格化ヒーター出力が0.72で吸熱部46の温度は約38K(菱形記号)である。
【0048】
図4(b)に示される破線L2は、第1冷却ステージ33の測定温度と第2冷却ステージ35の測定温度を結ぶ直線を表す。
図4(a)および
図4(b)から、規格化ヒーター出力しきい値Th2での吸熱部46の温度は、この直線L2上またはその近傍(
図4(b)で四角記号と三角記号の間)に位置すると考えられる。
【0049】
よって、吸熱部46への入熱が大きく(つまりしきい値Th2を超え)、その結果吸熱部46の温度がこの直線L2またはその近傍の上限温度を超える場合には、吸熱部46への入熱に起因して第2冷却ステージ35に顕著な温度上昇が起こりうる。また、吸熱部46への入熱が、吸熱部46の温度がこの上限温度を超えないような大きさである場合には、吸熱部46への入熱に起因する第2冷却ステージ35の温度上昇は、実質的に起こらないか、許容範囲内に収まりうると考えられる。
【0050】
図3(a)から
図4(b)に示される実験結果に加えて、本発明者は、同じ実験を、吸熱部46の軸方向位置および第1冷却ステージ33の温度をさまざまに変更して行っている。その結果、本発明者は、吸熱部46への入熱と第2冷却ステージ35の温度上昇との関係、および第2シリンダ16b上の規格化軸方向位置と温度の関係の両方について、上述の結果と同様の振る舞いが観察されることを確認している。
【0051】
したがって、吸熱部46への入熱に起因する第2冷却ステージ35の昇温を防止し又は最小限にとどめるための吸熱部46の上限温度は、第2シリンダ16bの両端での測定温度、および吸熱部46の軸方向位置に基づいて設定することができる。
【0052】
ひとつの例示的な方法では、吸熱部46の上限温度は、第2シリンダ16bの基準温度分布および吸熱部46の軸方向位置に基づいて設定されてもよい。ここで、第2シリンダ16bの基準温度分布は、第2シリンダ16bの一方の軸方向端部(例えば第1冷却ステージ33)で第1測定温度を有しかつ第2シリンダ16bの他方の軸方向端部(例えば第2冷却ステージ35)で第2測定温度を有するとともに、第2シリンダ16bにおける軸方向位置に依存して直線的に変化する温度分布であってもよい。
【0053】
このような吸熱部46への入熱の最適化のための例示的な構成を以下に説明する。
図1を再び参照すると、極低温冷凍機10は、第1温度センサ51、第2温度センサ52、第3温度センサ53、およびコントローラ60を備える。
【0054】
第1温度センサ51は、第1シリンダ16aに近い第2シリンダ16bの一方の軸方向端部で第1測定温度T1を測定する。第1温度センサ51は、第1冷却ステージ33に設けられてもよく、第1冷却ステージ33で第1測定温度T1を測定してもよい。第2温度センサ52は、第1シリンダ16aから遠い第2シリンダ16bの他方の軸方向端部で第2測定温度T2を測定する。第2温度センサ52は、第2冷却ステージ35に設けられてもよく、第2冷却ステージ35で第2測定温度T2を測定してもよい。第3温度センサ53は、吸熱部46に設けられ、吸熱部46で第3測定温度T3を測定する。
【0055】
コントローラ60は、第1温度センサ51、第2温度センサ52、第3温度センサ53からそれぞれ、第1測定温度T1、第2測定温度T2、第3測定温度T3を受信するように、これら温度センサと通信可能に接続される。
【0056】
コントローラ60の内部構成は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPU(Central Processing Unit)やメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0057】
極低温システム100は、極低温冷凍機10によって冷却される冷媒ガスライン118を備える。冷媒ガスライン118の冷媒ガスが冷却により凝縮され、極低温液体102が生成される。冷媒ガスライン118は、真空容器110の内槽114に極低温液体102を供給する供給ライン120と、内槽114において気化した極低温液体102(つまり冷媒ガス)の戻りライン122とを備える。供給ライン120および戻りライン122はそれぞれ、冷媒ガスが流れるリジッドまたはフレキシブルな配管であってもよい。
【0058】
供給ライン120は、第1熱交換器124、第2熱交換器126、および再凝縮部128を備え、供給ライン120において冷媒ガスは、第1熱交換器124、第2熱交換器126、および再凝縮部128をこの記載の順に流れる。
【0059】
第1熱交換器124は、内槽114内で第1冷却ステージ33の外側に設けられ、第1冷却ステージ33と冷媒ガスとの熱交換により冷媒ガスを第1冷却温度に予冷するように構成される。第2熱交換器126は、内槽114内で第2シリンダ16bの外側に設けられ、第2シリンダ16bの吸熱部46と冷媒ガスとの熱交換により冷媒ガスを吸熱部46の冷却温度へとさらに予冷するように構成される。
【0060】
再凝縮部128は、内槽114への供給ライン120の出口となる。再凝縮部128は、内槽114内で第2冷却ステージ35の外側に設けられ、第2冷却ステージ35と冷媒ガスとの熱交換により冷媒ガスを第2冷却温度に冷却し、冷媒ガスを極低温液体102へと再凝縮するように構成される。再凝縮された極低温液体102は、上述のように内槽114に貯蔵される。再凝縮部128は、図示されるように、第2冷却ステージ35と一体であってもよく、冷媒ガス又は極低温液体102と接触する表面積を増やすためにフィン状の突起または凹凸を有してもよい。再凝縮部128は、第2冷却ステージ35と同様に、例えば純銅(例えば、無酸素銅、タフピッチ銅など)、または他の高熱伝導金属で形成される。
【0061】
また、冷媒ガスライン118は、冷媒ガスライン118の冷媒ガス流量を調節するように構成される流量レギュレータ130を備える。図示される例では、流量レギュレータ130は、戻りライン122を供給ライン120に接続するように冷媒ガスライン118上に設けられる。流量レギュレータ130は、戻りライン122から冷媒ガスを受け、冷媒ガス流量を調整し、調整された流量で供給ライン120に冷媒ガスを送出する。流量レギュレータ130は、例えばポンプ、圧縮機などの循環流れ生成器、または例えば流量調整バルブ、可変オリフィスなどガス流量を調節する機構であってもよい。
【0062】
流量レギュレータ130は、図示されるように、真空容器110の外に配置されてもよいし、あるいは、真空容器110内に配置されてもよい。また、流量レギュレータ130は、冷媒ガスライン118上の任意の場所に設けられてもよく、供給ライン120上に設けられてもよく、または、戻りライン122上に設けられてもよい。
【0063】
後述のように、コントローラ60による制御のもとで、流量レギュレータ130は、冷媒ガスライン118を循環する冷媒ガスの流量を調節することができる。この流量調節によって、冷媒ガスライン118から吸熱部46への入熱が制御される。
【0064】
冷媒ガスライン118は、極低温冷凍機10に対する熱源として働く。この熱源は、第1部分(例えば第1熱交換器124)、第2部分(例えば再凝縮部128)、および、第1部分と第2部分を接続する熱源の第3部分(例えば第2熱交換器126)を備える。第2シリンダ16bの一方の軸方向端部(例えば第1冷却ステージ33)は、熱源の第1部分と熱的に接続され、第2シリンダ16bの他方の軸方向端部(例えば第2冷却ステージ35)は、熱源の第2部分と熱的に接続される。吸熱部46は、熱源の第3部分と熱的に接続される。冷媒ガスライン118は、熱源の第1部分、第3部分、および第2部分をこの記載の順に経由する。
【0065】
図5は、実施の形態に係る極低温システム100の制御方法を示すフローチャートである。本方法は、第1温度センサ51から第1測定温度T1を、第2温度センサ52から第2測定温度T2を、および第3温度センサ53から第3測定温度T3を取得することと(S10)、第1測定温度T1、第2測定温度T2、および吸熱部46の軸方向位置に基づいて、吸熱部46の上限温度を設定することと(S20)、第3測定温度T3が吸熱部46の上限温度以下となるように熱源すなわち冷媒ガスライン118を制御することと(S30)、を備える。
【0066】
S10では、第1測定温度T1が第1シリンダ16aに近い第2シリンダ16bの一方の軸方向端部(例えば第1冷却ステージ33)で第1温度センサ51によって測定される。第1測定温度T1を示す信号が第1温度センサ51からコントローラ60に入力される。また、第2測定温度T2が第1シリンダ16aから遠い第2シリンダ16bの他方の軸方向端部で第2温度センサ52によって測定される。第2測定温度T2を示す信号が第2温度センサ52からコントローラ60に入力される。第3測定温度T3が吸熱部46で第3温度センサ53によって測定される。第3測定温度T3を示す信号が第3温度センサ53からコントローラ60に入力される。
【0067】
S20では、コントローラ60は、まず、第1測定温度T1および第2測定温度T2に基づいて、第2シリンダ16bの基準温度分布を決定する。この基準温度分布は、第2シリンダ16bの一方の軸方向端部で第1測定温度T1を有しかつ第2シリンダ16bの他方の軸方向端部で第2測定温度T2を有するとともに、第2シリンダ16bにおける軸方向位置に依存して直線的に変化する温度分布である。基準温度分布は、第2シリンダ16b上の規格化軸方向位置をX軸、温度をY軸とするXY平面上で、点(0,T1)と点(1,T2)の二点を通る直線(Y=(T2-T1)X+T1)となる。
【0068】
コントローラ60は、基準温度分布および吸熱部46の軸方向位置に基づいて、吸熱部46の上限温度を設定する。基準温度分布を表す上式に吸熱部46の軸方向規格化位置を代入することによって、吸熱部46の上限温度の候補値が求まる。コントローラ60は、この候補値を上限温度として採用してもよい。
【0069】
あるいは、吸熱部46への入熱に起因する第2冷却ステージ35の昇温を確実に防ぐことを重視する場合には、コントローラ60は、この候補値よりもいくらか小さい値(例えば、候補値の70~100%、または80~100%、または90~100%の範囲から選択される値)を吸熱部46の上限温度として採用してもよい。
【0070】
あるいは、吸熱部46への入熱に起因する第2冷却ステージ35の昇温が多少は許される場合であれば、コントローラ60は、この候補値よりもいくらか大きい値(例えば、候補値の100~130%、または100~120%、または100~110%の範囲から選択される値)を吸熱部46の上限温度として採用してもよい。
【0071】
S30では、コントローラ60は、第3測定温度T3が吸熱部46の上限温度以下となるように冷媒ガスライン118の冷媒ガス流量を制御する。この制御の一例は、
図6を参照して後述する。
【0072】
コントローラ60は、
図5に示される処理を定期的に繰り返すことによって、第1測定温度T1および第2測定温度T2に応じて吸熱部46の上限温度を更新してもよい。また、第1冷却ステージ33(及び/または第2冷却ステージ35)の冷却温度をある目標温度に維持するように極低温冷凍機10が運転される場合には、目標温度が変更されない限り、基準温度分布も概ね不変となる。この場合、一度設定された吸熱部46の上限温度は、その後継続して使用されてもよい。
【0073】
図6は、
図5に示される冷媒ガスライン118の制御処理(S30)の一例を示すフローチャートである。本処理においては、コントローラ60は、第3測定温度T3と吸熱部46の上限温度との比較に基づいて冷媒ガスライン118の流量レギュレータ130を制御し、それにより冷媒ガスライン118の冷媒ガス流量を制御する。本処理は、極低温冷凍機10の運転中にコントローラ60によって所定の周期で繰り返し実行される。
【0074】
そこで、
図6に示されるように、コントローラ60はまず、第3測定温度T3を吸熱部46の上限温度T
limと比較する(S31)。第3測定温度T3は、上述のように第3温度センサ53によって測定される(
図5のS10)。吸熱部46の上限温度は、第2シリンダ16bの両端での測定温度および吸熱部46の軸方向位置に基づいて設定される(
図5のS20)。
【0075】
コントローラ60は、第3測定温度T3を吸熱部46の上限温度Tlimと比較し、比較結果として両者の大小関係を出力する。すなわち、コントローラ60による比較結果は、次の3つの状態、(i)第3測定温度T3が上限温度Tlimより高い、(ii)第3測定温度T3が上限温度Tlimより低い、(iii)第3測定温度T3が上限温度Tlimと等しい、のうちいずれかを表す。
【0076】
コントローラ60は、比較結果に基づいて流量レギュレータ130を制御する。具体的には、(i)第3測定温度T3が上限温度Tlimより高い場合には、コントローラ60は、冷媒ガス流量を低下させるように流量レギュレータ130を制御する(S32)。これにより、第2熱交換器126から吸熱部46への入熱を少なくすることができ、第3測定温度T3を下げることができる。(ii)第3測定温度T3が上限温度Tlimより低い場合には、コントローラ60は、冷媒ガス流量を増加させるように流量レギュレータ130を制御する(S33)。これにより、第2熱交換器126から吸熱部46への入熱を増加させ、冷媒ガスライン118をより効率的に冷却することができる。(iii)第3測定温度T3が上限温度Tlimと等しい場合には、冷媒ガス流量を増減させる必要が無いので、コントローラ60は、現在の冷媒ガス流量を維持するように流量レギュレータ130を制御する。なお、(iii)の場合を(i)または(ii)のいずれかに含めてもよい。
【0077】
以上説明したように、実施の形態によれば、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35に加えて、第2シリンダ16b上の吸熱部46が持つ冷凍能力も利用して、冷媒ガスライン118を冷却することができる。吸熱部46を利用しない典型的な冷却構成に比べて、極低温システム100をより効率的に冷却することができる。
【0078】
また、実施の形態では、第1測定温度T1、第2測定温度T2、および吸熱部46の軸方向位置に基づいて吸熱部46の上限温度Tlimが設定され、第3測定温度T3がこの上限温度Tlim以下となるように極低温システム100における極低温冷凍機10に対する熱源(例えば冷媒ガスライン118)が制御される。このように、吸熱部46の温度を上限温度Tlim以下に保つことによって、第2冷却ステージ35の昇温を防止し又は最小限にとどめることができる。
【0079】
さらに、実施の形態では、上限温度Tlimは、上述の直線的な基準温度分布および吸熱部46の軸方向位置に基づく。このようにすれば、極低温冷凍機10のさまざまな運転状態に応じて第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35の温度が変化したとしても、また吸熱部46がさまざまな軸方向位置に設けられたとしても、上限温度Tlimを明確かつ容易に定めることができる。
【0080】
図7は、他の実施の形態に係る極低温システム100を概略的に示す図である。
図7に示される極低温システム100は、被冷却物に関して
図1に示される極低温システム100と相違し、その余については概ね共通する。以下では、相違する構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0081】
上述の実施の形態は、極低温システム100が極低温液体102の貯蔵装置である場合を例として説明しているが、他の構成も可能である。例えば、極低温システム100は、超伝導機器に適用されてもよく、極低温冷凍機10は、真空容器110内に配置された超伝導コイル150および超伝導コイル150への電源供給のための電流リード152を冷却するために用いられてもよい。超伝導コイル150は第2冷却ステージ35により冷却され、電流リード152は、第1冷却ステージ33、吸熱部46、および第2冷却ステージ35により冷却される。
【0082】
電流リード152は、真空容器110の外に配置される電源154を超伝導コイル150に電気的に接続し、電源154から超伝導コイル150への電流経路となる。したがって、電流リード152は、通電時に発熱しうるから、極低温冷凍機10に対する熱源として働く。電流リード152は、第1部分152a、第2部分152b、第1部分152aと第2部分152bを接続する第3部分152cを有する。
【0083】
第2シリンダ16bの一方の軸方向端部(例えば第1冷却ステージ33)は、電流リード152の第1部分152aと熱的に接続され、第2シリンダ16bの他方の軸方向端部(例えば第2冷却ステージ35)は、電流リード152の第2部分152bと熱的に接続される。吸熱部46は、電流リード152の第3部分152cと熱的に接続される。
【0084】
熱接続の一例として、第1冷却ステージ33は、第1伝熱部材156により電流リード152の第1部分152aと接続され、第2冷却ステージ35は、第2伝熱部材158により電流リード152の第2部分152bと接続されてもよい。また、第2冷却ステージ35は、第2伝熱部材158により超伝導コイル150と接続されてもよい。第2シリンダ16bの吸熱部46は、ヒートブリッジ160により電流リード152の第3部分152cと接続されてもよい。
【0085】
コントローラ60は、第3測定温度T3が上限温度以下となるように電流リード152の電流を制御するように構成される。コントローラ60は、第3測定温度T3と吸熱部46の上限温度との比較に基づいて電源154を制御し、それにより電流リード152の電流を制御してもよい。
【0086】
一例として、(i)第3測定温度T3が上限温度Tlimより高い場合には、コントローラ60は、電流リード152の電流を低下させるように電源154を制御する。これにより、第2熱交換器126から吸熱部46への入熱を少なくすることができ、第3測定温度T3を下げることができる。(ii)第3測定温度T3が上限温度Tlimより低い場合には、コントローラ60は、電流リード152の電流を増加させるように電源154を制御する。これにより、第2熱交換器126から吸熱部46への入熱を増加させ、電流リード152をより効率的に冷却することができる。(iii)第3測定温度T3が上限温度Tlimと等しい場合には、電流リード152の電流を増減させる必要が無いので、コントローラ60は、現在の電流を維持するように電源154を制御する。
【0087】
このようにすれば、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35に加えて、第2シリンダ16b上の吸熱部46が持つ冷凍能力も利用して、電流リード152を冷却することができる。吸熱部46を利用しない典型的な冷却構成に比べて、極低温システム100をより効率的に冷却することができる。吸熱部46の温度を上限温度Tlim以下に保つことによって、第2冷却ステージ35の昇温を防止し又は最小限にとどめることができる。
【0088】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0089】
上述の実施の形態では、吸熱部46の温度を測定するために、一つの温度センサ(第3温度センサ53)が設けられているが、他の構成も可能である。ある実施の形態では、吸熱部46の温度は、複数の温度測定位置で測定されてもよい。そこで、複数の温度センサ(例えば、2つの第3温度センサ53)が吸熱部46に設けられてもよい。これら温度センサは、第2シリンダ16b上で軸方向に異なる位置に設けられる。例として、一方の第3温度センサ53が他方の第3温度センサ53に対して高温側に配置される。
【0090】
この場合、コントローラ60は、温度測定位置(温度センサ)ごとに、第2シリンダ16bの両端での測定温度、および当該温度測定位置に基づいて、上限温度を設定してもよい。コントローラ60は、複数の測定温度のうちどの測定温度も対応する上限温度以下となるように、熱源を制御してもよい。
【0091】
上述の実施の形態では、極低温冷凍機10が二段式のGM冷凍機を例として説明しているが、他の構成も可能である。例えば、極低温冷凍機10は、単段式のGM冷凍機であってもよい。あるいは、極低温冷凍機10は、例えば、ソルベイ冷凍機、スターリング冷凍機、パルス管冷凍機など、他の形式の極低温冷凍機であってもよい。
【0092】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0093】
10 極低温冷凍機、 16a 第1シリンダ、 16b 第2シリンダ、 46 吸熱部、 51 第1温度センサ、 52 第2温度センサ、 53 第3温度センサ、 60 コントローラ、 100 極低温システム、 118 冷媒ガスライン、 152 電流リード。