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特開2024-109361アレイアンテナ装置及びアレイアンテナ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109361
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】アレイアンテナ装置及びアレイアンテナ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/26 20060101AFI20240806BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01Q3/26 Z
G01S7/02 216
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014112
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】勝本 達也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 俊紀
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA06
5J021AA11
5J021DB02
5J021DB03
5J021EA02
5J021FA06
5J021FA12
5J021FA13
5J021GA02
5J021GA03
5J070AD08
5J070AK08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有するときであっても、鋭いピーク状のサイドローブを低減する複数のチャネルを配列するアレイアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アレイアンテナ装置Aは、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生する前段において、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる前段信号変動部FS1~FS(4N)と、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生した後段において、前段信号変動部FS1~FS(4N)が変動させた位相及び振幅の少なくともいずれかと比べて同一幅だけかつ逆方向に、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる後段信号変動部BS1~BS(4N)と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャネルを配列するアレイアンテナ装置であって、
各々のチャネルの間の信号結合は、前記複数のチャネルの配列方向に周期性を有し、
各々のチャネルの信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生する前段において、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる前段信号変動部と、
各々のチャネルの信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生した後段において、前記前段信号変動部が変動させた位相及び振幅の少なくともいずれかと比べて同一幅だけかつ逆方向に、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる後段信号変動部と、
を備えることを特徴とするアレイアンテナ装置。
【請求項2】
各々のチャネルの間の信号結合が前記複数のチャネルの配列方向に周期性を有することによるサイドローブレベルは、前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部が各々のチャネルの信号に対して位相及び振幅のいずれも変動させないときと比べて抑圧される
ことを特徴とする、請求項1に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項3】
前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部が各々のチャネルの信号に対して変動させる位相及び振幅の少なくともいずれかは、前記複数のチャネルの配列方向に非周期性を有するように、乱数発生により設定される又は所定規則により設定される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項4】
前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部が各々のチャネルの信号に対して変動させる位相及び振幅の少なくともいずれかは、前記複数のチャネルの配列方向に各々のチャネルの間の信号結合が有する周期性と異なる周期性を有するように設定される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項5】
前記複数のチャネルは、互いに遮蔽される複数のサブアレイを用いて構成される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数のチャネルは、単一の基板に形成される単一のアレイを用いて構成される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のアレイアンテナ装置が備える前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部を、コンピュータに制御させるためのアレイアンテナ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のチャネルを配列するアレイアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アレイアンテナ装置は、アンテナ素子数の増加により、全体のサイズが大型化するため、1つのユニットの構成が困難になる。そこで、アレイアンテナ装置は、複数のサブアレイの配列により、各々のサブアレイが小型であっても、全体のサイズの大型化が実現される。また、アレイアンテナ装置は、サブアレイの個数を柔軟に変更し、全体のサイズを変更することで、所望の性能を有するアンテナを構成しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平03-038548号公報
【特許文献2】特公平04-010994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術のサブアレイの構成を図1に示す。従来技術のアレイアンテナ装置の構成を図2に示す。図1、2では、受信時を想定しているが、送信時も適用することができる。
【0005】
図1では、サブアレイSA1は、チャネルCH1、CH2、CH3、CH4をシールドケース内に収容する。チャネルCH1、CH2、CH3、CH4において、所望信号x、x、x、xは、隣接結合L12、L23、L34、1飛び越し結合L13、L24及び2飛び越し結合L14により、非所望信号x’、x’、x’、x’に変形される(数1を参照)。
【数1】
【0006】
サブアレイSA1において、所望信号ベクトルxSA1、非所望信号ベクトルxSA1’及びサブアレイ内結合行列MSA1を用いて、数1は数2の第4式のように書き換えられる。
【数2】
【0007】
図2では、アレイアンテナ装置Aは、サブアレイSA1、・・・、SANを配列し、チャネルCH1、CH2、CH3、CH4、・・・、CH(4N-3)、CH(4N-2)、CH(4N-1)、CH(4N)を配列する。サブアレイSA1、・・・、SANは、シールドケース内に収容され、サブアレイ内結合を生じるが、サブアレイ間結合をほぼ生じない。
【0008】
アレイアンテナ装置Aにおいて、サブアレイ内結合のみが生じることを考えて、所望信号ベクトルxSA1、・・・、xSAN、非所望信号ベクトルxSA1’、・・・、xSAN’及びサブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANを用いて、数2は数3のように拡張される。
【数3】
【0009】
アレイアンテナ装置Aにおいて、所望信号ベクトルx、非所望信号ベクトルx’及び全サブアレイ結合行列Mを用いて、数3は数4の第4式のように書き換えられる。
【数4】
【0010】
ここで、サブアレイSA1、・・・、SANは、ほぼ同様なサブアレイである。よって、サブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANは、ほぼ類似の結合行列である。そして、チャネルCH1、CH2、CH3、CH4、・・・、CH(4N-3)、CH(4N-2)、CH(4N-1)、CH(4N)の間の信号結合は、これらのチャネルの配列方向に周期性(図1、2では、4チャネル分の周期、つまり、使用波長と比べて長い周期)を有する。
【0011】
従来技術のアレイアンテナ装置の放射パターンを図3に示す。各角度における放射パターンyは、ビーム方向及びサイドローブレベルを制御する重み付けベクトルwと、非所望信号ベクトルx’と、の内積を用いて、数5のように表される。数5の第2辺は、実際の放射パターンであり、数5の第4辺の第1項は、理想の放射パターンであり、数5の第4辺の第2項は、実際の及び理想の放射パターンの間の誤差成分である。
【数5】
【0012】
図3では、サブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANは、同一の結合行列であり、数6のように表される。理想の放射パターンでは、角度-10degにおいて、メインローブが形成され、角度-10deg以外の角度において、適切なレベルのサイドローブが形成される。実際の放射パターンでは、角度-40deg、15deg、50degにおいて、鋭いピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。
【数6】
【0013】
これは、チャネルCH1、・・・、CH(4N)の間の信号結合が、これらのチャネルの配列方向に周期性(使用波長と比べて長い周期)を有するためである。そして、サブアレイSA1、・・・、SANを配列したうえで、アレイアンテナ装置Aを製造してしまうと、これらのチャネルの間の信号結合の配列方向の周期性を制御することは困難である。
【0014】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、複数のチャネルを配列するアレイアンテナ装置において、各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有するときであっても、鋭いピーク状のサイドローブを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、各々のチャネルの信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生する前段において、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させることとした。そして、各々のチャネルの信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生した後段において、他のチャネルとの間の信号結合が発生する前段と比べて、同一幅だけかつ逆方向に、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させることとした。
【0016】
具体的には、本開示は、複数のチャネルを配列するアレイアンテナ装置であって、各々のチャネルの間の信号結合は、前記複数のチャネルの配列方向に周期性を有し、各々のチャネルの信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生する前段において、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる前段信号変動部と、各々のチャネルの信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生した後段において、前記前段信号変動部が変動させた位相及び振幅の少なくともいずれかと比べて同一幅だけかつ逆方向に、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる後段信号変動部と、を備えることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0017】
この構成によれば、各々のチャネルの所望信号に対しては、影響を及ぼすことなく、各々のチャネルの誤差信号に対してのみ、意図的に影響を及ぼすことができる。
【0018】
また、本開示は、各々のチャネルの間の信号結合が前記複数のチャネルの配列方向に周期性を有することによるサイドローブレベルは、前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部が各々のチャネルの信号に対して位相及び振幅のいずれも変動させないときと比べて抑圧されることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0019】
この構成によれば、各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有するときであっても、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0020】
また、本開示は、前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部が各々のチャネルの信号に対して変動させる位相及び振幅の少なくともいずれかは、前記複数のチャネルの配列方向に非周期性を有するように、乱数発生により設定される又は所定規則により設定されることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0021】
この構成によれば、各々のチャネルの間の信号結合の配列方向の周期性と、各々のチャネルの位相変動及び/又は振幅変動の配列方向の非周期性とは、共通する周期性を有さないため、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0022】
また、本開示は、前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部が各々のチャネルの信号に対して変動させる位相及び振幅の少なくともいずれかは、前記複数のチャネルの配列方向に各々のチャネルの間の信号結合が有する周期性と異なる周期性を有するように設定されることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0023】
この構成によれば、各々のチャネルの間の信号結合の配列方向の周期性は、各々のチャネルの位相変動及び/又は振幅変動の配列方向の周期性により崩されるため、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0024】
また、本開示は、前記複数のチャネルは、互いに遮蔽される複数のサブアレイを用いて構成されることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0025】
この構成によれば、複数のチャネルが互いに遮蔽される複数のサブアレイを用いて構成されることにより、各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有するときであっても、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0026】
また、本開示は、前記複数のチャネルは、単一の基板に形成される単一のアレイを用いて構成されることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0027】
この構成によれば、複数のチャネルが単一の基板に形成される単一のアレイを用いて構成されるときであっても、各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有することがあるが、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0028】
また、本開示は、以上に記載のアレイアンテナ装置が備える前記前段信号変動部及び前記後段信号変動部を、コンピュータに制御させるためのアレイアンテナ制御プログラムである。
【0029】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0030】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0031】
このように、本開示は、複数のチャネルを配列するアレイアンテナ装置において、各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有するときであっても、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】従来技術のサブアレイの構成を示す図である。
図2】従来技術のアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
図3】従来技術のアレイアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
図4】本開示のサブアレイの構成を示す図である。
図5】本開示のアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
図6】第1実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを示す図である。
図7】第1実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
図8】第2実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを示す図である。
図9】第2実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
図10】第3実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを示す図である。
図11】第3実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
図12】第4実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを示す図である。
図13】第4実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
図14】変形例のアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
図15】変形例のサブアレイの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0034】
(本開示のアレイアンテナ装置の構成)
本開示のサブアレイの構成を図4に示す。本開示のアレイアンテナ装置の構成を図5に示す。図4、5では、受信時を想定しているが、送信時も適用することができる。
【0035】
図4では、サブアレイSA1は、チャネルCH1、CH2、CH3、CH4をシールドケース内に収容する。そして、サブアレイSA1は、各々のチャネルCH1、CH2、CH3、CH4の信号に対して、前段信号変動部FS1、FS2、FS3、FS4及び後段信号変動部BS1、BS2、BS3、BS4を備える。ここで、前段信号変動部FS1、FS2、FS3、FS4は、アナログ回路の可変移相器及び/又は可変減衰器等である。一方で、後段信号変動部BS1、BS2、BS3、BS4は、アナログ回路の可変移相器及び/又は可変減衰器等でもよく、デジタル回路の乗算器等でもよい。
【0036】
アレイアンテナ制御装置Cは、前段信号変動部FS1、FS2、FS3、FS4及び後段信号変動部BS1、BS2、BS3、BS4を制御するために、アレイアンテナ制御プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0037】
前段信号変動部FS1、FS2、FS3、FS4は、各々のチャネルCH1、CH2、CH3、CH4の信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生する前段において、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる。具体的には、前段信号変動部FS1、FS2、FS3、FS4は、各々のチャネルCH1、CH2、CH3、CH4の信号に対して、変動係数A、A、A、A(A=振幅×exp(j×位相))を乗算する。
【0038】
後段信号変動部BS1、BS2、BS3、BS4は、各々のチャネルCH1、CH2、CH3、CH4の信号に対して、他のチャネルとの間の信号結合が発生した後段において、前段信号変動部FS1、FS2、FS3、FS4が変動させた位相及び振幅の少なくともいずれかと比べて同一幅だけかつ逆方向に、位相及び振幅の少なくともいずれかを変動させる。具体的には、後段信号変動部BS1、BS2、BS3、BS4は、各々のチャネルCH1、CH2、CH3、CH4の信号に対して、変動係数A、A、A、Aの逆特性として、逆変動係数1/A、1/A、1/A、1/Aを乗算する。
【0039】
チャネルCH1、CH2、CH3、CH4において、所望信号x、x、x、xは、変動係数A、A、A、A、隣接結合L12、L23、L34、1飛び越し結合L13、L24、2飛び越し結合L14及び逆変動係数1/A、1/A、1/A、1/Aにより、非所望信号x’、x’、x’、x’に変形される(数7を参照)。ここで、変動係数A、A、A、A及び逆変動係数1/A、1/A、1/A、1/Aが乗算されるときに、通常の行列演算は適用されず、アダマール積(同一の行列成分同士の積)が適用される。
【数7】
【0040】
サブアレイSA1において、所望信号ベクトルxSA1、非所望信号ベクトルxSA1’、サブアレイ内結合行列MSA1、変動係数ベクトルASA1及び逆変動係数ベクトルASA1invを用いて(数8を参照)、数7は数9の第1式のように書き換えられる。
【数8】
【数9】
【0041】
ここで、数9の第2式のサブアレイ内結合行列MASA1は、数8の第3式のサブアレイ内結合行列MSA1と異なり、変動係数ベクトルASA1及び逆変動係数ベクトルASA1invの影響を受ける。よって、数9の第1式の第3辺のMASA1SA1は、変動係数ベクトルASA1及び逆変動係数ベクトルASA1invの影響を受ける。一方で、数9の第1式の第3辺のIxSA1は、変動係数ベクトルASA1及び逆変動係数ベクトルASA1invの影響を受けない。
【0042】
図5では、アレイアンテナ装置Aは、サブアレイSA1、・・・、SANを配列し、チャネルCH1、CH2、CH3、CH4、・・・、CH(4N-3)、CH(4N-2)、CH(4N-1)、CH(4N)を配列する。サブアレイSA1、・・・、SANは、シールドケース内に収容され、サブアレイ内結合を生じるが、サブアレイ間結合をほぼ生じない。
【0043】
サブアレイSANは、各々のチャネルCH(4N-3)、CH(4N-2)、CH(4N-1)、CH(4N)の信号に対して、前段信号変動部FS(4N-3)、FS(4N-2)、FS(4N-1)、FS(4N)及び後段信号変動部BS(4N-3)、BS(4N-2)、BS(4N-1)、BS(4N)を備える。アレイアンテナ制御装置Cは、前段信号変動部FS(4N-3)、FS(4N-2)、FS(4N-1)、FS(4N)及び後段信号変動部BS(4N-3)、BS(4N-2)、BS(4N-1)、BS(4N)を制御する。
【0044】
アレイアンテナ装置Aにおいて、サブアレイ内結合のみが生じることを考えて、所望信号ベクトルxSA1、・・・、xSAN、非所望信号ベクトルxSA1’、・・・、xSAN’及びサブアレイ内結合行列MASA1、・・・、MASANを用いて、数9は数10のように拡張される。
【数10】
【0045】
アレイアンテナ装置Aにおいて、所望信号ベクトルx、非所望信号ベクトルx’及び全サブアレイ結合行列MAFを用いて、数10は数11の第4式のように書き換えられる。
【数11】
【0046】
ここで、サブアレイSA1、・・・、SANは、ほぼ同様なサブアレイである。よって、サブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANは、ほぼ類似の結合行列である。そして、チャネルCH1、CH2、CH3、CH4、・・・、CH(4N-3)、CH(4N-2)、CH(4N-1)、CH(4N)の間の信号結合は、これらのチャネルの配列方向に周期性(図4、5では、4チャネル分の周期、つまり、使用波長と比べて長い周期)を有する。
【0047】
しかし、数11の第3式の全サブアレイ結合行列MAFは、数4の第3式の全サブアレイ結合行列Mと異なり、変動係数ベクトルASA1、・・・、ASAN及び逆変動係数ベクトルASA1inv、・・・、ASANinvの影響を受ける。よって、数11の第4式のMAFは、変動係数ベクトルASA1、・・・、ASAN及び逆変動係数ベクトルASA1inv、・・・、ASANinvの影響を受ける。一方で、数11の第4式のIxは、変動係数ベクトルASA1、・・・、ASAN及び逆変動係数ベクトルASA1inv、・・・、ASANinvの影響を受けない。
【0048】
本開示のアレイアンテナ装置の放射パターンを説明する。各角度における放射パターンyは、ビーム方向及びサイドローブレベルを制御する重み付けベクトルwと、非所望信号ベクトルx’と、の内積を用いて、数12のように表される。数12の第2辺は、実際の放射パターンであり、数12の第4辺の第1項は、理想の放射パターンであり、数12の第4辺の第2項は、実際の及び理想の放射パターンの間の誤差成分である。
【数12】
【0049】
しかし、数12の第4辺の第2項の全サブアレイ結合行列MAFは、数5の第4辺の第2項の全サブアレイ結合行列Mと異なり、変動係数ベクトルASA1、・・・、ASAN及び逆変動係数ベクトルASA1inv、・・・、ASANinvの影響を受ける。よって、数12の第4辺の第2項のwAF(誤差成分)は、変動係数ベクトルASA1、・・・、ASAN及び逆変動係数ベクトルASA1inv、・・・、ASANinvの影響を受ける。一方で、数12の第4辺の第1項のw(理想の放射パターン)は、変動係数ベクトルASA1、・・・、ASAN及び逆変動係数ベクトルASA1inv、・・・、ASANinvの影響を受けない。
【0050】
このように、各々のチャネルの所望信号に対しては、影響を及ぼすことなく、各々のチャネルの誤差信号に対してのみ、意図的に影響を及ぼすことができる。ただし、各々のチャネルの位相変動及び/又は振幅変動を適切に設定する方法を必要とする。
【0051】
(様々な実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターン)
各々のチャネルCH1~CH(4N)の間の信号結合がこれらのチャネルの配列方向に周期性を有することによるサイドローブレベルは、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)が各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して位相及び振幅のいずれも変動させないときと比べて抑圧される。
【0052】
このように、各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有するときであっても、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。以下に、各々のチャネルの位相変動及び/又は振幅変動を適切に設定する方法を説明する。
【0053】
第1実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを図6に示す。第1実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを図7に示す。第1実施形態では、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)が、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して変動させる位相(振幅は変動させない)は、これらのチャネルの配列方向に「非周期性」を有するように、「乱数発生」により設定される。
【0054】
図6、7では、サブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANは、同一の結合行列であり、数13の第1式のように表される。そして、各々のチャネルCH1~CH(4N)について、変動係数A、・・・、A4Nは、数13の第2式のように設定され、逆変動係数1/A、・・・、1/A4Nは、変動係数A、・・・、A4Nに応じて設定される。
【数13】
【0055】
理想の放射パターンでは、角度-10degにおいて、メインローブが形成され、角度-10deg以外の角度において、適切なレベルのサイドローブが形成される。従来技術の実際の放射パターンでは、角度-40deg、15deg、50degにおいて、鋭いピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。第1実施形態の実際の放射パターンでは、角度-10deg以外の角度において、ほぼ一様に分布するサイドローブが誤差成分として形成される。つまり、鋭いピーク状のサイドローブが、ほぼ一様に分布するサイドローブに拡散される。しかし、ノイズフロアが全体的に浮いてしまう。
【0056】
このように、各々のチャネルの間の信号結合の配列方向の周期性と、各々のチャネルの位相変動(及び/又は振幅変動)の配列方向の「非周期性」とは、共通する周期性を有さないため、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0057】
第2実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを図8に示す。第2実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを図9に示す。第2実施形態では、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)が、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して変動させる位相(振幅は変動させない)は、これらのチャネルの配列方向に「非周期性」を有するように、「所定規則」により設定される。
【0058】
図8、9では、サブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANは、同一の結合行列であり、数14の第1式のように表される。そして、各々のチャネルCH1~CH(4N)について、変動係数A、・・・、A4Nは、数14の第2、3式のように設定され、逆変動係数1/A、・・・、1/A4Nは、変動係数A、・・・、A4Nに応じて設定される。
【数14】
【0059】
理想の放射パターンでは、角度-10degにおいて、メインローブが形成され、角度-10deg以外の角度において、適切なレベルのサイドローブが形成される。従来技術の実際の放射パターンでは、角度-40deg、15deg、50degにおいて、鋭いピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。第2実施形態の実際の放射パターンでは、角度-40deg、15deg、50degにおいて、太くなった分だけ低くなったピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。つまり、サブアレイSA1によるサイドローブから、サブアレイSANによるサイドローブへと、サイドローブのピーク角度が徐々にずれる。そして、ノイズフロアが全体的に浮くことはない。
【0060】
このように、各々のチャネルの間の信号結合の配列方向の周期性と、各々のチャネルの位相変動(及び/又は振幅変動)の配列方向の「非周期性」とは、共通する周期性を有さないため、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0061】
第3実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを図10に示す。第3実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを図11に示す。第3実施形態では、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)が、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して変動させる位相(振幅は変動させない)は、これらのチャネルの配列方向に、これらのチャネルの間の信号結合が有する周期性と「異なる周期性」を有するように設定される。ここで、図4、5では、各々のチャネルCH1~CH(4N)の間の信号結合は、4チャネル分の周期性を有する。一方で、図10、11では、各々のチャネルCH1~CH(4N)の位相変動は、3チャネル分の周期性を有する。
【0062】
図10、11では、サブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANは、同一の結合行列であり、数15の第1式のように表される。そして、各々のチャネルCH1~CH(4N)について、変動係数A、・・・、A4Nは、数15の第2式のように設定され、逆変動係数1/A、・・・、1/A4Nは、変動係数A、・・・、A4Nに応じて設定される。
【数15】
【0063】
理想の放射パターンでは、角度-10degにおいて、メインローブが形成され、角度-10deg以外の角度において、適切なレベルのサイドローブが形成される。従来技術の実際の放射パターンでは、角度-40deg、15deg、50degにおいて、鋭いピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。第3実施形態の実際の放射パターンでは、角度-40degのみにおいて、低くなったピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。そして、ノイズフロアが全体的に浮くことはない。
【0064】
このように、各々のチャネルの間の信号結合の配列方向の周期性は、各々のチャネルの位相変動(及び/又は振幅変動)の配列方向の周期性により「崩される」ため、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0065】
第4実施形態のアレイアンテナ装置の位相変動パターンを図12に示す。第4実施形態のアレイアンテナ装置の放射パターンを図13に示す。第4実施形態では、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)が、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して変動させる位相(振幅は変動させない)は、これらのチャネルの配列方向に、これらのチャネルの間の信号結合が有する周期性と「異なる周期性」を有するように設定される。ここで、図4、5では、各々のチャネルCH1~CH(4N)の間の信号結合は、4チャネル分の周期性を有する。一方で、図12、13では、各々のチャネルCH1~CH(4N)の位相変動は、3チャネル分の周期性を有する。
【0066】
図12、13では、サブアレイ内結合行列MSA1、・・・、MSANは、同一の結合行列であり、数16の第1式のように表される。そして、各々のチャネルCH1~CH(4N)について、変動係数A、・・・、A4Nは、数16の第2式のように設定され、逆変動係数1/A、・・・、1/A4Nは、変動係数A、・・・、A4Nに応じて設定される。
【数16】
【0067】
理想の放射パターンでは、角度-10degにおいて、メインローブが形成され、角度-10deg以外の角度において、適切なレベルのサイドローブが形成される。従来技術の実際の放射パターンでは、角度-40deg、15deg、50degにおいて、鋭いピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。第4実施形態の実際の放射パターンでは、角度-40deg、15deg、50degにおいて、低くなったピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。ただし、角度-40deg、15deg、50deg以外の角度において、新たに低く生じたピーク状のサイドローブが誤差成分として形成される。しかし、ノイズフロアが全体的に浮くことはない。
【0068】
このように、各々のチャネルの間の信号結合の配列方向の周期性は、各々のチャネルの位相変動(及び/又は振幅変動)の配列方向の周期性により「崩される」ため、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【0069】
(変形例のアレイアンテナ装置の構成)
第1~4実施形態では、図6~13に示したように、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)は、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して、「位相」を変動させている。変形例として、図4、5に示したように、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)は、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して、「振幅」を変動させてもよい。
【0070】
ただし、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)が、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して、「振幅のみ」を変動させるときに、サブアレイSA1、・・・、SANによるサイドローブは、重ね合わされたときに打ち消されにくい。一方で、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)が、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して、「位相のみ」を変動させるときに、サブアレイSA1、・・・、SANによるサイドローブは、重ね合わされたときに打ち消されやすい。そこで、前段信号変動部FS1~FS(4N)及び後段信号変動部BS1~BS(4N)は、各々のチャネルCH1~CH(4N)の信号に対して、「位相のみ」又は「位相及び振幅の両方」を変動させることが望ましい。
【0071】
変形例のアレイアンテナ装置の構成を図14に示す。第1~4実施形態では、複数のチャネルCH1~CH(4N)は、互いに遮蔽される複数のサブアレイSA1、・・・、SAN(サブアレイ単体でアレイアンテナの機能を有する)を用いて構成されている。変形例として、複数のチャネルCH1~CH(4N)は、単一の基板Bに形成される単一のアレイ(アレイ全体でアレイアンテナの機能を有する)を用いて構成されてもよい。
【0072】
具体的には、複数の小基板SB1、・・・、SBNが、単一の基板Bに形成されることにより、各々のチャネルCH1~CH(4N)の間の信号結合が、これらのチャネルの配列方向に周期性を有してもよい。あるいは、複数のシールドSH1~SHNが、複数の小基板SB1、・・・、SBNの間に形成されることにより、各々のチャネルCH1~CH(4N)の間の信号結合が、これらのチャネルの配列方向に周期性を有してもよい。
【0073】
変形例のサブアレイの構成を図15に示す。第1~4実施形態では、図4、5に示したように、各々のチャネルCH1~CH(4N)は、単一のアンテナ素子及び単一の前段信号変動部FS1~FS(4N)を備えている。第1の変形例として、図15の左欄に示したように、各々のチャネルCH1~CH(4N)は、複数のアンテナ素子及び単一の前段信号変動部FS1~FS(4N)を備えてもよい。第2の変形例として、図15の右欄に示したように、各々のチャネルCH1~CH(4N)は、複数のアンテナ素子及び同数の前段信号変動部FS1~FS(4N)を備えてもよい。第1、2の変形例では、図15に示したように、所望信号x、x、x、xは、ベクトルとして表される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示のアレイアンテナ装置及びアレイアンテナ制御プログラムは、複数のチャネルを配列するにあたり、各々のチャネルの間の信号結合が複数のチャネルの配列方向に周期性を有するときであっても、鋭いピーク状のサイドローブを低減することができる。
【符号の説明】
【0075】
A:アレイアンテナ装置
C:アレイアンテナ制御装置
B:単一の基板
SA1、SAN:サブアレイ
SB1、SBN:小基板
SH1、SHN:シールド
CH1、CH2、CH3、CH4、CH(4N-3)、CH(4N-2)、CH(4N-1)、CH(4N):チャネル
FS1、FS2、FS3、FS4、FS(4N-3)、FS(4N-2)、FS(4N-1)、FS(4N):前段信号変動部
BS1、BS2、BS3、BS4、BS(4N-3)、BS(4N-2)、BS(4N-1)、BS(4N):後段信号変動部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15