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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109364
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】負荷制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/18 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
H02J3/18 114
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014115
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】久保 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】黒田 和宏
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066DA04
(57)【要約】
【課題】フリッカの低減と負荷装置の効率的な運用とを両立する。
【解決手段】負荷制御装置(1)は、電力系統(SYS)における受電点(Pr)よりも下流側に位置する負荷装置(91)を制御する。負荷制御装置(1)は、電力系統(SYS)における受電点(Pr)よりも上流側のインピーダンスである上位系統インピーダンス(ZS)を導出する。負荷制御装置(1)は、上記上流側から受電点(Pr)を通じて負荷装置(91)に流れる負荷電流(IL)を、導出した上位系統インピーダンス(ZS)に基づいて制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統における受電点よりも下流側に位置する負荷装置を制御する負荷制御装置であって、
上記負荷制御装置は、
上記電力系統における上記受電点よりも上流側のインピーダンスである上位系統インピーダンスを導出し、
上記上流側から上記受電点を通じて上記負荷装置に流れる負荷電流を、導出した上記上位系統インピーダンスに基づいて制御する、負荷制御装置。
【請求項2】
上記電力系統では、(i)上記上位系統インピーダンスの公称値である第1公称値と、(ii)上記第1公称値に対応する上記負荷電流の公称値である第2公称値と、が予め設定されており、
上記負荷制御装置は、導出した上記上位系統インピーダンスが上記第1公称値よりも小さい場合には、上記負荷電流が上記第2公称値を越えることを許容するように上記負荷電流を制御する、請求項1に記載の負荷制御装置。
【請求項3】
上記負荷制御装置は、導出した上記上位系統インピーダンスが上記第1公称値よりも小さい場合には、許容される上記負荷電流の最大値を、上記上位系統インピーダンスに負の相関を有する値として設定する、請求項2に記載の負荷制御装置。
【請求項4】
上記負荷制御装置は、
上記負荷電流の実効値である負荷電流実効値を導出し、
上記負荷電流実効値の時間変化率をさらに導出し、
上記時間変化率にさらに基づいて上記負荷電流を制御する、請求項1から3のいずれか1項に記載の負荷制御装置。
【請求項5】
上記負荷制御装置は、上記時間変化率に基づいて、許容される上記負荷電流の実効値の最大値を設定する、請求項4に記載の負荷制御装置。
【請求項6】
上記負荷制御装置は、上記負荷電流に基づいて上記上位系統インピーダンスを導出する、請求項1に記載の負荷制御装置。
【請求項7】
上記負荷制御装置は、次数間高調波注入方式によって上記上位系統インピーダンスを導出する、請求項1に記載の負荷制御装置。
【請求項8】
上記負荷装置は、インバータを含んでいる、請求項1に記載の負荷制御装置。
【請求項9】
電力系統における受電点よりも下流側に位置する負荷装置を制御する制御方法であって、
上記電力系統における上記受電点よりも上流側のインピーダンスである上位系統インピーダンスを導出するインピーダンス導出工程と、
上記上流側から上記受電点を通じて上記負荷装置に流れる負荷電流を、上記インピーダンス導出工程において導出した上記上位系統インピーダンスに基づいて制御する負荷電流制御工程と、を含んでいる、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、負荷制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統内における負荷装置の動作に伴って生じる電圧フリッカ(以下、単に「フリッカ」と称する)に関する様々な技術が提案されている。例えば、下記の特許文献1には、高周波インバータの制御装置の応答速度を高速化させたことに伴って生じるフリッカを、簡易に低減するための手法が開示されている。
【0003】
また、下記の特許文献2には、変電所内外の同一母線から電力供給される複数のフィーダに同時に発生するフリッカのΔV10値(フリッカの表示尺度の1つ)を、フィーダ別に測定するための手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-61441号公報
【特許文献2】特開平6-284579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様の目的は、フリッカの低減と負荷装置の効率的な運用とを両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る負荷制御装置は、電力系統における受電点よりも下流側に位置する負荷装置を制御する負荷制御装置であって、上記負荷制御装置は、上記電力系統における上記受電点よりも上流側のインピーダンスである上位系統インピーダンスを導出し、上記上流側から上記受電点を通じて上記負荷装置に流れる負荷電流を、導出した上記上位系統インピーダンスに基づいて制御する。
【0007】
また、本発明の一態様に係る制御方法は、電力系統における受電点よりも下流側に位置する負荷装置を制御する制御方法であって、上記電力系統における上記受電点よりも上流側のインピーダンスである上位系統インピーダンスを導出するインピーダンス導出工程と、上記上流側から上記受電点を通じて上記負荷装置に流れる負荷電流を、上記インピーダンス導出工程において導出した上記上位系統インピーダンスに基づいて制御する負荷電流制御工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、フリッカの低減と負荷装置の効率的な運用とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1の負荷制御装置の一構成例について説明するための図である。
図2】実施形態2の負荷制御装置の一構成例について説明するための図である。
図3】dILrms/dt制御について説明するための図である。
図4】dILrms/dt制御について説明するための別の図である。
図5】dILrms/dt制御について説明するためのさらに別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
実施形態1の負荷制御装置1について以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明したコンポーネント(構成要素)と同じ機能を有するコンポーネントについては、以降の各実施形態では同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知の技術事項についても説明を適宜省略する。本明細書において述べる各コンポーネントおよび各数値はいずれも、特に矛盾のない限り単なる例示である。それゆえ、例えば、特に矛盾のない限り、各コンポーネントの位置関係および接続関係は各図の例に限定されない。また、各図は必ずしもスケール通りに図示されていない。
【0011】
(負荷制御装置1の構成例)
図1は、実施形態1の負荷制御装置1の一構成例について説明するための図である。図1では、負荷制御装置1およびその周囲の構成が概略的に示されている。負荷制御装置1は、電力系統SYSにおける受電点Prよりも下流側(以下、単に「下流側」と称する)に位置する負荷装置91を制御する。
【0012】
本明細書では、下流側に位置するユーザ(例:負荷装置91のユーザである需要家)の設備を、ユーザ設備と称する。図1に示す通り、負荷装置91は、ユーザ設備内に位置していてよい。負荷制御装置1も、ユーザ設備内に位置していてよい。図1に示す通り、負荷制御装置1は、インピーダンス導出部11と負荷電流制御部12とを有していてよい。
【0013】
図1の例では、負荷装置91は、受電点Prに直接的に接続されている。ただし、当業者であれば明らかである通り、負荷装置91は、何らかの電気的コンポーネントを介して、受電点Prに間接的に接続されていてもよい。
【0014】
負荷装置91は、フリッカの発生源となりうる任意の装置であってよい。したがって、例えば、負荷装置91は、インバータを含んでいてよい。実施形態1では、負荷装置91が電気アーク炉である場合を例示する。電気アーク炉は、フリッカの発生源の典型例である。
【0015】
図1の例における電力系統SYSでは、受電点Prよりも上流側(以下、単に「上流側」と称する)に、電源PSが位置している。図1では、電源PSとして交流電源が例示されている。電源PSは、背後交流電源と称されてもよい。
【0016】
そして、図1の例では、背後系統インピーダンスZUおよび配線インピーダンスZLも上流側に位置している。本明細書では、上流側のインピーダンスを、上位系統インピーダンスZSと称する。図1の例におけるZSは、ZUとZLとの合成インピーダンスとして近似的に表すことができる。本明細書では、あるインピーダンスのインピーダンス値についても、同じ符号を用いて表記する。したがって、ZSのインピーダンス値についても、ZSと表記する。
【0017】
本明細書では、受電点Prにおける電圧をVとして表す。多くの場合、電力系統SYSの管理者(例:電力会社)によって、Vのフリッカについての規制値(フリッカ規制値)が予め設定されている。このことから、受電点Prは、フリッカ規制点とも称される。フリッカ規制値は、ΔV10値によって表されていてよい(上述の特許文献2を参照)。
【0018】
図1に示す通り、負荷電流ILは、上流側から受電点Prを通じて負荷装置91に流れる。当業者であれば明らかである通り、Vは、ZSとILとに応じて変化する。したがって、例えば、VとILとを用いてZSを表すことができる。
【0019】
一例として、ZSが変化しないと考えられる短い時間間隔において、VおよびIのそれぞれが2回測定される場合を考える。本明細書では、1回目の測定において得られたVおよびIのそれぞれの値をV1およびI1と表記する。また、2回目の測定において得られたVおよびIのそれぞれの値をV2およびI2と表記する。この場合、例えば、下記の式(1)、
|ZS|=|(V2-V1)/(IL1-IL2)| …(1)
によってZSの大きさ(絶対値)を表すことができる。本明細書における以降の説明では、特に矛盾のない限り、|ZS|をZSと略記する。この略記は、VおよびILについても当てはまる。
【0020】
式(1)から理解できる通り、ILの増加に伴ってフリッカが増加する。具体的には、フリッカの大きさは、ILとZSとの積に概ね比例する。そこで、図1に示す通り、電力系統SYSでは、ILを検出する電流センサ92が設けられていてよい。また、Vを検出する電圧センサ93がさらに設けられてよい。図1の例では、電流センサ92および電圧センサ93は、ユーザ設備内に位置している。
【0021】
(負荷制御装置1の処理の例)
インピーダンス導出部11は、ZSを導出する。一例として、インピーダンス導出部11は、ILに基づいてZSを導出してよい。例えば、インピーダンス導出部11は、所定の時間周期ごとに、電流センサ92からILの検出値(例:ILの瞬時値)としてIL1およびIL2を取得するとともに、電圧センサ93からVの検出値(例:Vの瞬時値)としてV1およびV2を取得してよい。そして、インピーダンス導出部11は、上述の式(1)に従って、IL1、IL2、V1、およびV2を用いて、当該所定の時間周期ごとにZSを導出してよい。ただし、後述の通り、インピーダンス導出部11におけるZSの導出手法は、上記の例に限定されない。インピーダンス導出部11は、任意の手法によってZSを導出してよい。
【0022】
本明細書では、説明の便宜上、インピーダンス導出部11によって導出されたZSを、ZSaとも称する。ZSaは、インピーダンス導出値と称されてもよい。負荷電流制御部12は、インピーダンス導出部11からZSaを取得してよい。そして、負荷電流制御部12は、ZSaに基づいてILを制御してよい。「ZSaに基づくILの制御」は、「ZSa制御」と称されてもよい。
【0023】
負荷電流制御部12は、例えば、負荷装置91に流すことが許容されるILの最大値(上限値)を設定するリミタ機能を有していてよい。本明細書では、負荷装置91に流すことが許容されるILの最大値を、IL_upperと表記する。一例として、負荷電流制御部12は、IL_upperをZSaに基づいて設定してよい。
【0024】
実施形態1では、電力系統SYSにおけるZSの公称値である第1公称値が予め設定されているものとする。第1公称値は、電力系統SYSの管理者によって予め設定された値であってよい。一例として、第1公称値は、電力系統SYSの設計時に想定されるZSの最大値であってよい。したがって、第1公称値は、例えば電力系統SYSの短絡容量に対応する上位系統インピーダンスであってよい。本明細書では、電力系統SYSの短絡容量に対応する上位系統インピーダンスをZSmaxと表記する。実施形態1では、第1公称値がZSmaxである場合を例示する。
【0025】
さらに、実施形態1では、電力系統SYSにおいて、第1公称値に対応するILの公称値である第2公称値が予め設定されているものとする。第2公称値も、電力系統SYSの管理者によって予め設定された値であってよい。一例として、第2公称値は、ZSがZSmaxに等しい場合に、フリッカ規制値を越えるフリッカが生じないように設定されたILの最大値であってよい。本明細書では、フリッカ規制値を越えるフリッカが生じないように設定されたILの最大値をIL_limと表記する。実施形態1では、IL_limとZSmaxとの積は、フリッカ規制値に対応するインピーダンス値を越えない。実施形態1では、第2公称値がIL_limである場合を例示する。
【0026】
負荷電流制御部12は、ZSaが第1公称値よりも小さい場合には、ILが第2公称値を越えることを許容するようにILを制御してよい。したがって、例えば、負荷電流制御部12は、ZSaがZSmaxよりも小さい場合には、IL_upperをIL_limよりも大きい値に設定してよい。
【0027】
負荷電流制御部12は、ZSaが第1公称値よりも小さい場合には、IIL_limを、ZSaに負の相関を有する値として設定してよい。したがって、例えば、負荷電流制御部12は、ZSaがZSmaxよりも小さい場合には、IL_upperがZSaの単調減少関数となるように、IL_upperを設定してよい。
【0028】
一例として、負荷電流制御部12は、ZSaがZSmaxよりも小さい場合には、IL_upperをZSaに反比例させるように、IL_upperを設定してよい。この場合、ZSaとIL_upperとの積は一定値に維持される。
【0029】
別の例として、負荷電流制御部12は、ZSaがZSmaxよりも小さい場合には、ZSaの増加に伴ってIL_upperを線形的に減少させるように、IL_upperを設定してもよい。
【0030】
(負荷制御装置1の効果)
従来の制御手法(例:特許文献1のフリッカ低減手法)では、電力系統SYSの管理者から予め提供された定数である第1公称値(例:ZSmax)を用いた制御が行われることが一般的であった。
【0031】
ただし、当業者であれば明らかである通り、実際のZSは、必ずしも一定ではない。例えば、ZSは、電力系統SYS内の他の需要家の負荷装置の運用状況に応じて変化しうる。あるいは、ZSは、電力系統SYS内の調相設備の運用状況に応じても変化しうる。その一方、上述の通り、第1公称値は、ある程度大きい一定値に設定されることが一般的である。例えば、第1公称値は、電力系統SYSの運用において一般的に想定されるZSの最大値として設定される。このことから、電力系統SYSでは、実際のZSが第1公称値よりも小さい場合が比較的多いと期待される。それゆえ、従来の制御手法では、フリッカに対する安全率がやや過剰に見積もられていると言える。
【0032】
この点を踏まえ、本願の発明者らは、「第1公称値に替えて、ZSa(すなわち、実際のZS)に基づいてILを制御する」という新たな着想を見出した。負荷制御装置1は、当該着想に基づき創作されている。負荷制御装置1によれば、ZSaに基づいてILを制御することにより、第2公称値(例:IL_lim)よりも大きいILを許容できる。言い換えれば、負荷制御装置1によれば、従来の制御手法に比べてフリッカに対する安全率を低下させた上で、ILを制御できる。
【0033】
負荷制御装置1によれば、フリッカ規制値を越えるフリッカを生じさせないことを保証しつつ、第2公称値よりも大きいILを負荷装置に供給できる。その結果、当該負荷装置の負荷率を増加させることができる。以上の通り、負荷制御装置1によれば、フリッカの低減と負荷装置の効率的な運用とを両立できる。
【0034】
例えば、負荷電流制御部12は、負荷装置91内のインバータのデューティ比を増加させることにより、第2公称値よりも大きいILを許容してよい。あるいは、負荷電流制御部12は、負荷装置91への印加電圧を増加させることにより、第2公称値よりも大きいILを許容してもよい。
【0035】
〔変形例〕
インピーダンス導出部11は、次数間高調波注入方式によってZSを導出してもよい。次数間高調波注入方式は、分散型電源の単独運転を検出するために使用されている手法の例である。
【0036】
一例として、電力系統SYS内には、分散型電源の単独運転を検出するために、次数間高調波注入方式によるインピーダンス導出機能を有する単独運転検出装置が設けられていてよい。この場合、インピーダンス導出部11は、単独運転検出装置を駆動することにより、当該単独運転検出装置を通じてZSを取得してよい。
【0037】
別の例として、本発明の一態様に係る負荷制御装置では、単独運転検出装置自体をインピーダンス導出部11として用いることもできる。この場合、負荷電流制御部12は、当該単独運転検出装置と通信可能に接続されていればよい。このように、インピーダンス導出部11と負荷電流制御部12とが、個別の装置によって具現化されてもよい。
【0038】
〔実施形態2〕
図2は、実施形態2の負荷制御装置2の一構成例について説明するための図である。負荷制御装置2における負荷電流制御部を、負荷電流制御部22と称する。負荷制御装置2は、実効値導出部23と時間変化率導出部24とをさらに有していてよい。
【0039】
実効値導出部23は、ILの実効値(負荷電流実効値)を導出してよい。実効値は、RMS(Root Mean Square)値とも称される。このことから、本明細書では、負荷電流実効値をILrmsと表記する。実効値導出部23は、任意の手法によってILrmsを導出してよい。
【0040】
一例として、実効値導出部23は、所定の積分期間(例:基本波の1周期)に亘りILを積分することにおり、ILrmsを導出してよい。基本波の周波数は、50Hzまたは60Hzであってよい。したがって、例えば、実効値導出部23は、基本波の1周期ごとに、積分演算に基づいてILrmsを導出してよい。
【0041】
別の例として、実効値導出部23は、積分演算に依らずにILrmsを導出してもよい。例えば、実効値導出部23は、基本波の1周期におけるILの平均値を導出してよい。そして、実効値導出部23は、当該平均値と所定の波形率との積を、近似的なILrmsとして導出してよい。このような近似的なRMS値の導出手法は、例えばアナログメータにおいて利用されている。
【0042】
時間変化率導出部24は、実効値導出部23からILrmsを取得してよい。時間変化率導出部24は、ILrmsの時間変化率(例:ILrmsの時間微分)を導出してよい。本明細書では、ILrmsの時間変化率を、dILrms/dtと表記する。時間変化率導出部24は、任意の数値微分アルゴリズムを用いて、dILrms/dtを導出してよい。
【0043】
負荷電流制御部22は、負荷電流制御部12と同様に、ZSa制御を行うことができる。加えて、負荷電流制御部22は、dILrms/dtにさらに基づいて、ILを制御することもできる。したがって、例えば、負荷電流制御部22は、dILrms/dtに基づいてILrmsを制御してよい。「dILrms/dtにさらに基づくILの制御」は、「dILrms/dt制御」と称されてもよい。
【0044】
図3図5は、dILrms/dt制御について説明するための図である。図3図5における符号310~510はそれぞれ、ILrmsの時間変化の様子を例示するグラフである。当該グラフにおける横軸は時刻tであり、縦軸はILrmsである。本明細書における時刻は、時点の例である。上述の通り、ILrmsは、実効値導出部23によって得られる。
【0045】
図3図5における符号320~520はそれぞれ、dILrms/dtの時間変化の様子を例示するグラフである。当該グラフにおける縦軸は、dILrms/dtである。上述の通り、ILrms/dtは、時間変化率導出部24によって得られる。符号310~510のグラフはそれぞれ、符号320~520のグラフに対応している。
【0046】
図3では、dILrms/dtが小さい場合が例示されている。図3におけるILrms_limは、実施形態1において述べたIL_lim(第2公称値)のRMS値である。したがって、dILrms/dt制御では、フリッカ低減のために、望ましくは全期間に亘りILrmsがILrms_limを越えないように、ILrmsが制御される。
【0047】
図3におけるILrms_maxは、ILrmsの裕度付上限値の一例である。ILrms_maxは、dILrms/dt制御において許容されるILrmsの最大値の一例である。ILrms_maxは、ILrms_limよりも小さく設定されている。dILrms/dt制御では、短期間であれば、ILrmsがILrms_maxを越えることは許容される。
【0048】
図3における時刻t1は、ILrmsがILrms_maxに達した時刻である。図3の例において、負荷電流制御部22は、ILrmsがILrms_maxに達したことを契機として、ILrmsを低下させるように負荷装置91を制御する。図3の例では、負荷電流制御部22は、ILrmsを低下させる電流制限指令を、時刻t1において負荷装置91に供給する。
【0049】
ただし、時刻t1において発せられた電流制限指令が負荷装置91の動作に反映されるまでには、若干の遅延(タイムラグ)がある。図3の例における時刻t2は、電流制限指令が負荷装置91の動作に反映され始める時刻である。図3におけるτ=t2-t1は、遅延時間を表す。図3におけるt1、t2、およびτについての説明は、図4および図5の例についても当てはまる。
【0050】
図3に示す通り、t1≦t≦t2の期間では、概ねdILrms/dt>0である。したがって、当該期間では、ILrmsは概ね増加傾向にある。そして、時刻t2の直後において、ILrmsの減少が生じ始める。図3の例では、dILrms/dtの最大値が小さいので、当該期間におけるILrmsの増加は緩やかである。したがって、当該期間の全体に亘り、ILrmsはILrms_limを下回っている。このような場合には、特段の問題は生じない。
【0051】
図4は、図3と対になる図である。図4では、図3とは異なり、dILrms/dtが大きい場合が例示されている。図4の例では、図3の例に比べて、dILrms/dtの最大値が大きいので、t1≦t≦t2の期間におけるILrmsの増加は急激である。このため、図4の領域OCに示す通り、一部の期間において、ILrmsがILrms_limを越える場合がある。ILrmsがILrms_limを越えた場合、フリッカ規制値を越えたフリッカが生じるおそれがあるので望ましくない。
【0052】
図4の例において、全期間に亘りILrmsがILrms_limを越えないようにするためには、例えば、ILrms_maxをより小さく設定することが考えられる。一例として、全期間に亘り、ILrms_maxを以下に述べるILrms_max2(図5を参照)に設定することが考えられる。
【0053】
ただし、全期間に亘りILrms_maxを小さい値に設定した場合には、負荷装置91の負荷率が低下する。その結果、負荷装置91の運用効率が低下する。そこで、負荷装置91の運用効率をなるべく低下させないようにしつつ、全期間に亘りILrmsがILrms_limを越えないようにILを制御することが望まれる。
【0054】
図5は、図4と対になる図である。図5では、図4とは同様に、dILrms/dtが大きい場合が例示されている。ただし、図5の例では、図4の例とは異なり、ILrms_maxに加えて、ILrms_max2がさらに設定されている。ILrms_max2は、ILrmsの裕度付上限値の別の例である。ILrms_maxは、dILrms/dt制御において許容されるILrmsの最大値の別の例である。ILrms_max2は、ILrms_maxよりも小さく設定されている。
【0055】
図5の例では、負荷電流制御部22は、「dILrms/dtが所定の値以上となり、かつ、ILrmsがILrms_max2に達した」という条件が満たされている場合には、許容されるILrmsの最大値をILrms_max2に設定してよい。その一方、負荷電流制御部22は、上記条件が満たされていない場合には、許容されるILrmsの最大値をLrms_maxに設定してよい。
【0056】
以上の通り、負荷電流制御部22は、dILrms/dtに基づいて、許容されるILrmsの最大値を設定してよい。例えば、上記の通り、負荷電流制御部22は、dILrms/dtに基づいて、許容されるILrmsの最大値を変更してよい。このように許容されるILrmsの最大値を変更することにより、図5に示す通り、dILrms/dtの最大値が大きい場合であっても、全期間に亘りILrmsがILrms_limを越えないようにILを制御できる。加えて、全期間に亘りILrms_maxがILrms_max2に固定されていないので、図4の例に比べて負荷装置91の運用効率を向上させることもできる。
【0057】
(負荷制御装置2の効果)
一般的に、負荷装置がインバータを含んでいる場合には、ILにおける振幅に顕著な変化が生じうる。ただし、ILの波形は、概ね正弦波であることが一般的である。このため、dIL/dtの波形は、概ね余弦波となる。より具体的には、dIL/dtの波形は、当該正弦波の位相を概ね90°進めた波形となる。このため、dIL/dtに注目するのみでは、ILにおける振幅の変化を的確に把握することは困難であると考えられる。
【0058】
この点を踏まえ、本願の発明者らは、「dILrms/dtを利用して、ILを制御する」という新たな着想を見出した。負荷制御装置2は、当該着想に基づき創作されている。ILrmsは、ILとは異なり、位相に関する情報を含んでいない。このため、dILrms/dtを利用することにより、dILrms/dtに比べて、ILにおける振幅の変化をより的確に把握することが可能となる。
【0059】
dILrms/dt制御によれば、実施形態1の例に比べて、ILの振幅の時間変化の様子をより的確に反映した上で、ILを制御することが可能となる。それゆえ、フリッカをより効果的に低減できる。また、負荷装置の運用効率をより一層高めることもできる。
【0060】
〔変形例〕
当業者であれば明らかである通り、負荷装置における消費電力は、ILrmsと関連している。そこで、例えば、本発明の一態様に係る負荷制御装置は、負荷装置における消費電力にさらに基づいてILを制御してもよい。したがって、例えば、消費電力を検出するための電力計が、ユーザ設備内に設けられていてもよい。
【0061】
〔ソフトウェアによる実現例〕
負荷制御装置1~2(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0062】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0063】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0064】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0065】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0066】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る負荷制御装置は、電力系統における受電点よりも下流側に位置する負荷装置を制御する負荷制御装置であって、上記負荷制御装置は、上記電力系統における上記受電点よりも上流側のインピーダンスである上位系統インピーダンスを導出し、上記上流側から上記受電点を通じて上記負荷装置に流れる負荷電流を、導出した上記上位系統インピーダンスに基づいて制御する。
【0067】
本発明の態様2に係る負荷制御装置では、上記態様1において、上記電力系統では、(i)上記上位系統インピーダンスの公称値である第1公称値と、(ii)上記第1公称値に対応する上記負荷電流の公称値である第2公称値と、が予め設定されていてよく、上記負荷制御装置は、導出した上記上位系統インピーダンスが上記第1公称値よりも小さい場合には、上記負荷電流が上記第2公称値を越えることを許容するように上記負荷電流を制御してよい。
【0068】
本発明の態様3に係る負荷制御装置では、上記態様2において、上記負荷制御装置は、導出した上記上位系統インピーダンスが上記第1公称値よりも小さい場合には、許容される上記負荷電流の最大値を、上記上位系統インピーダンスに負の相関を有する値として設定してよい。
【0069】
本発明の態様4に係る負荷制御装置では、上記態様1から3のいずれか1つにおいて、上記負荷制御装置は、上記負荷電流の実効値である負荷電流実効値を導出してよく、上記負荷電流実効値の時間変化率をさらに導出してよく、上記時間変化率にさらに基づいて上記負荷電流を制御してよい。
【0070】
本発明の態様5に係る負荷制御装置では、上記態様4において、上記負荷制御装置は、上記時間変化率に基づいて、許容される上記負荷電流の実効値の最大値を設定してよい。
【0071】
本発明の態様6に係る負荷制御装置は、上記態様1から5のいずれか1つにおいて、上記負荷電流に基づいて上記上位系統インピーダンスを導出してよい。
【0072】
本発明の態様7に係る負荷制御装置は、上記態様1から5のいずれか1つにおいて、次数間高調波注入方式によって上記上位系統インピーダンスを導出してよい。
【0073】
本発明の態様8に係る負荷制御装置では、上記態様1から7のいずれか1つにおいて、上記負荷装置は、インバータを含んでいてよい。
【0074】
本発明の態様9に係る制御方法は、電力系統における受電点よりも下流側に位置する負荷装置を制御する制御方法であって、上記電力系統における上記受電点よりも上流側のインピーダンスである上位系統インピーダンスを導出するインピーダンス導出工程と、上記上流側から上記受電点を通じて上記負荷装置に流れる負荷電流を、上記インピーダンス導出工程において導出した上記上位系統インピーダンスに基づいて制御する負荷電流制御工程と、を含んでいる。
【0075】
〔付記事項〕
本発明の一態様は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1、2 負荷制御装置
11 インピーダンス導出部
12、22 負荷電流制御部
23 実効値導出部
24 時間変化率導出部
91 負荷装置
SYS 電力系統
Pr 受電点
ZS 上位系統インピーダンス
IL 負荷電流
ILrms 負荷電流実効値
dILrms/dt 負荷電流実効値の時間変化率
図1
図2
図3
図4
図5